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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126468
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】細胞培養治具
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240912BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C12M3/00
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034853
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029BB12
4B029BB13
4B029GA08
4B029GB10
(57)【要約】
【課題】細胞培養バッグを細胞培養治具に保持して押圧しながら細胞培養を行うにあたり、容易に細胞培養バッグを押圧する圧力を一時的に解放することができる細胞培養治具を提供する。
【解決手段】細胞培養治具は、細胞培養バッグを保持する細胞培養治具であって、細胞培養バッグを載置する第一の部材と、第一の部材に載置された細胞培養バッグを、第一の部材と挟み込むようにして押圧する第二の部材と、第一の部材と第二の部材を互いに近づける方向に付勢する付勢手段と、前記細胞培養バッグを前記第一の部材と前記第二の部材との間に保持した状態で、前記第一の部材と前記第二の部材とのいずれか一方を互いに離間する方向に移動させ、前記細胞培養バッグに対する押圧を解放する押圧解放部材と
を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養バッグを保持する細胞培養治具であって、
前記細胞培養バッグを載置する第一の部材と、
前記第一の部材に載置された前記細胞培養バッグを、前記第一の部材と挟み込むようにして押圧する第二の部材と、
前記第一の部材と前記第二の部材とのいずれか一方を互いに近づける方向に付勢する付勢手段と、
前記細胞培養バッグを前記第一の部材と前記第二の部材との間に保持した状態で、前記第一の部材と前記第二の部材とのいずれか一方を互いに離間する方向に移動させ、前記細胞培養バッグに対する押圧を解放する押圧解放部材と
を備えた細胞培養治具。
【請求項2】
前記押圧解放部材は、所定の長さを有する係止部を含み、前記係止部の前記所定の長さで前記第一の部材と前記第二の部材とを離間させて留め置くように構成された、請求項1に記載の細胞培養治具。
【請求項3】
前記押圧解放部材は、前記第二の部材の側面に回転可能に設けられ、回転により前記係止部の先端が前記第一の部材に接触するように構成された、請求項2に記載の細胞培養治具。
【請求項4】
前記押圧解放部材は、前記第二の部材に設けられている、請求項1~3のいずれかに記載の細胞培養治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法などの分野において、細胞(組織、微生物、ウイルスなどを含む)を人工的な環境下で効率良く大量に培養・分化誘導することが求められている。そのような細胞培養においては、コンタミネーションのリスクを回避するため、閉鎖系の細胞培養バッグが使用されることがある。細胞培養バッグは、例えば、周辺部をシールしたプラスチックフィルムで構成されたバッグ本体と、バッグ本体に取り付けられたポートとから構成されている。
【0003】
このような細胞培養バッグのバッグ本体は、可撓性材料からなるため変形しやすく、形状が安定しない。バッグ本体が変形すると内容液が流動してしまい、その結果、細胞のスフェロイド(クラスター)が壊れたり、細胞にダメージを与えてしまったりして、培養に支障をきたすことがある。
【0004】
そこで、細胞培養バッグ内を安定した状態に維持するために、細胞培養バッグをトレイの床面と押さえ板との間に挟んで圧迫する培養用トレイが、特許文献1に記載されている。これにより、細胞培養バッグの変形による内容液の流動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-325437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、細胞培養を行うにあたっては、培地の交換が必要である。また、状況に応じて細胞培養バッグ内に薬品等を注入する必要が生じることもある。しかしながら、細胞培養バッグが二つの部材に挟まれて押圧されている状態で、細胞培養バッグ内へ培地等を流入させるときには、細胞培養バッグ内の内容物が逆流しないように追加の操作を行うことになり、手間がかかる。また、細胞培養バッグが押圧された状態では、細胞培養バッグ内の内容物を撹拌したり、細胞培養バッグを傾けて内容物を排出することを容易に行うことができない。一方、前述のような細胞培養バッグを内部に保持した細胞培養治具を、いくつか重ねて置いておくこともあり、細胞培養バッグを押圧した状態と押圧を解放した状態とを変化させるのに手間がかかるのは好ましくない。
【0007】
そこで、本発明者らは、細胞培養バッグを細胞培養治具に保持して押圧しながら細胞培養を行うにあたり、容易に細胞培養バッグを押圧する圧力を一時的に解放することができる細胞培養治具について鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る細胞培養治具は、細胞培養バッグを保持する細胞培養治具であって、前記細胞培養バッグを載置する第一の部材と、前記第一の部材に載置された前記細胞培養バッグを、前記第一の部材と挟み込むようにして押圧する第二の部材と、前記第一の部材と前記第二の部材とのいずれか一方を互いに近づける方向に付勢する付勢手段と、前記細胞培養バッグを前記第一の部材と前記第二の部材との間に保持した状態で、前記第一の部材と前記第二の部材とのいずれか一方を互いに離間する方向に移動させ、前記細胞培養バッグに対する押圧を解放する押圧解放部材とを備えた構成としてある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞培養バッグを細胞培養治具に保持して押圧しながら細胞培養を行うにあたり、容易に細胞培養バッグを押圧する圧力を一時的に解放することができる細胞培養治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の一例に係る細胞培養治具の概略を示す説明図である。
図2】本実施形態の他の例に係る細胞培養治具の概略を示す説明図である。
図3】本実施形態の他の例に係る細胞培養治具の概略を示す説明図である。
図4】本実施形態の他の例に係る細胞培養治具の概略を示す説明図である。
図5】本実施形態の他の例に係る細胞培養治具の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る細胞培養治具1の概略を示す説明図であり、細胞培養バッグ10を内部に保持した状態の細胞培養治具1を側面視した状態を模式的に示している。図1(a)は、細胞培養バッグ10が押圧されている状態を示す図であり、図1(b)は、細胞培養バッグ10に対する押圧が解放された状態を示す図である。なお、図1においては、以下に説明する細胞培養バッグ10、第一の部材2、第二の部材3、押圧解放部材4、蓋体5、支持機構51の関係性を示すため、その他の部材については適宜省略して示している。
【0013】
本実施形態の細胞培養治具1は、培養の対象となる細胞(培養細胞)と培地とが供給された細胞培養バッグ10を内部に保持して、細胞培養を行うために使用される。
【0014】
ここで、本実施形態の細胞培養治具1の説明に先立ち、本実施形態で使用する細胞培養バッグ10について簡単に説明する。
本実施形態で使用する細胞培養バッグ10は、バッグ本体11と、このバッグ本体11に取り付けられたポート12とを備えている。細胞培養バッグ10のバッグ本体11の平面形状は、略長方形、正方形状、六角形等の多角形状、楕円形状、又は円形状のような種々の形状とすることができる。バッグ本体11の大きさは特に限定されないが、例えば、縦50~500mm、横50~500mmとすることができる。
【0015】
バッグ本体11は、プラスチックフィルムを重ね合わせて周辺部をヒートシールして形成することができ、上面11a及び下面11bを含む。
バッグ本体11は、ガス透過性を有するプラスチックフィルムで形成されることが好ましい。プラスチックフィルムのガス透過性は、JIS K 7126のガス透過度試験方法に準拠して、試験温度37℃で測定した酸素の透過度が、5000mL/(m・day・atm)以上であるのが好ましい。
バッグ本体11を形成するプラスチックフィルムに用いる材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは単層で用いても、同種又は異種の材料を積層して用いてもよいが、周辺部をヒートシールする際の熱融着性を考慮すると、シーラント層として機能する層を有しているのが好ましい。
【0016】
ポート12は、培地や細胞などが流通可能な管状の部材からなり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEPなどの熱可塑性樹脂で成形することができる。
【0017】
このような細胞培養バッグ10を、細胞培養治具1内部に保持し、上下から圧迫することによって、細胞培養バッグ10の変形による内容液の流動を抑制することが可能となる。
【0018】
本実施形態の細胞培養治具1は、細胞培養バッグ10が載置される第一の部材2と、第一の部材2に載置された細胞培養バッグ10を上方から押圧する第二の部材3と、押圧解放部材4とを備えている。
【0019】
第一の部材2は、細胞培養バッグ10の下面11bの面積より大きい略長方形の平面形状を有する板状部材であり、細胞培養バッグ10が水平に載置される載置面2aを有している。細胞培養バッグ10が第一の部材2に載置されると、細胞培養バッグ10の下面11bがこの載置面2aと接した状態となる。図示する載置面2aの形状は平面状であるが、細胞培養バッグ10が水平に載置できるものであれば、細胞培養バッグ10の下面11bの形状に応じて適宜変更してもよく、特に限定されない。
第一の部材2は、細胞培養バッグ10の内部の状態などを確認できるように、一部又は全部が透明性を有していてもよく、その場合、当該部分は、例えば、ポリカーボネートなどの透明度の高い合成樹脂やガラスで形成することができる。
【0020】
第二の部材3は、板状部材であり、第一の部材2の載置面2aと実質的に平行となるとともに、細胞培養バッグ10の上面11aの面積に合わせた略長方形の平面形状を有する平坦な押圧面3aを有している。この押圧面3aが、第一の部材2に載置された細胞培養バッグ10の上面11aと接して、細胞培養バッグ10を上方から押圧する。
【0021】
第二の部材3は、細胞培養バッグ10内部の状態などが視認できるように、一部又は全部が透明性又は透光性を有しているのが好ましく、当該部分は、例えば、後述する蓋体5の開閉を考慮して、軽量かつ透明度の高いポリカーボネートで形成することができる。
【0022】
図示する例では、第二の部材3は、支持機構51によって蓋体5に支持されている。
蓋体5は、第一の部材2から垂直方向に延伸するように設けられた支持フレーム52によって、第一の部材2の載置面2aに対して実質的に平行となるよう、所定の高さに位置決めされている。また、蓋体5は、細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3との間に載置できるように第一の部材2に対して上下動可能に又は開閉可能に設けられている。ただし、蓋体5は図示する例に限定されない。例えば、蓋体5は、一方の支持フレーム52に設けられた図示しないヒンジなどによって第一の部材2に対して開閉自在に取り付けられ、第一の部材2に対してほぼ90°に開くことができ、また、第一の部材2と実質的に平行となるように閉じて、図示しないラッチなどにより固定される構造としてもよい。
また、蓋体5は、細胞培養バッグ10内部の状態などを確認できるように、蓋体5の中央部が広く開口して、開口部から第二の部材3の一部が露出するように、または、蓋体5の一部が透明性を有するなどして構成されることが好ましいが、蓋体5の具体的な態様は限定されるものではない。
【0023】
支持機構51は、第二の部材3の四隅から蓋体5側へ延びて蓋体5を貫通しているガイドピンと、第二の部材3を蓋体5から遠ざかる方向へ付勢する付勢手段とから構成され、第二の部材3が蓋体5と実質的に並行となる状態で第二の部材3を支持している。ここでは、付勢手段として、蓋体5と第二の部材3との間にばね部材を備えているが、付勢手段として、ばね部材の他にも、例えば磁石の斥力を利用してもよい。本実施形態では、このようにして、第二の部材3が、蓋体5と実質的に並行な状態を維持しながら蓋体5との間隔を変動可能に設けられ、かつ、ばね部材の反発力や磁石の斥力を利用して第二の部材3を蓋体5から遠ざかる方向へ(すなわち、蓋体5と第一の部材2とが実質的に平行となった状態で、第二の部材3が第一の部材2へ近づく方向へ)付勢するように構成している。これにより、細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3で挟み込むように押圧する。このような態様によれば、例えば培地等の流出入などにより細胞培養バッグ10の厚みにばらつきが存在しても、細胞培養バッグ10の厚みに応じて第二の部材3が第一の部材2との間隔を変動させながら、細胞培養バッグ10を押圧した状態を維持することができる。
このようにして、細胞培養バッグ10を押圧した状態を維持することで、細胞培養時のバッグ本体11の変形による内容液の不用意な流動に起因した細胞培養への影響を減少させることができる。また、細胞培養時に培地の液厚を均一とした状態を維持することができる。また、細胞培養バッグ10へ培地等を流入させた際に、気泡が混入してしまうことがあるが、バッグ本体11が押圧された状態であると、バッグ本体11の上面11aが撓むこともなく形状が安定しているため気泡の除去も容易に行うことができる。
【0024】
ここで、細胞培養を行うにあたっては、培地の交換が必要である。また、状況に応じて細胞培養バッグ10内に薬品等を注入する必要も生じる。しかしながら、このようにして細胞培養バッグ10を二つの部材で挟んで押圧した状態では、細胞培養バッグ10内の内容物がポート12を介して外部へ流出するための圧力を常に受けていることになる。そのため、細胞培養バッグ10内へ培地等を流入させるときに、細胞培養バッグ10内の内容物が不用意に細胞培養バッグ10外へ流出すること、さらには、流入前の培地等に細胞培養バッグ10内の内容物が混入すること、すなわち細胞培養バッグ10内の内容物が逆流することがないように、別途追加の動作が必要になる。例えば、シリンジを用いて細胞培養バッグ10内へ液体を注入する際には、クリップ等を用いて一時的にポートやポートに接続されたチューブ等を抑えた状態でシリンジを装着し、シリンジの押し子が押し戻されないように抑えたままクリップ等を外した上で、シリンジの押し子を押してシリンジ内の液体を細胞培養バッグ10内に注入し、シリンジの押し子を抑えた状態でクリップ等を再度装着し、その後シリンジをポート等から脱着するなど、限られた空間で複雑な操作を行う必要があり、手間がかかっていた。
また、細胞培養バッグ10内の内容物を撹拌するにあたり、細胞培養バッグ10が押圧された状態では細胞培養バッグ10内の内容物が動きにくいため、細胞培養バッグ10に対する押圧を解放する必要がある。
また、細胞培養バッグ10内の内容物を排出するときには、内容物がバッグ本体11内に残らないようにするために、最終的に細胞培養バッグ10を傾けるなどして、内容物をポート12側へ寄せることが好ましいが、細胞培養バッグ10が押圧された状態であると、圧力がバッグ本体11の上面11aと下面11bに均等にかかるため、内容物をポート12側へ寄せることが簡単にはできない。
【0025】
そこで、本実施形態における細胞培養治具1は、細胞培養バッグ10第一の部材2と第二の部材3との間に保持した状態で、第二の部材3を第一の部材から離間する方向に移動させ、細胞培養バッグ10に対する第二の部材3の押圧を解放する押圧解放部材4を備えている。
より具体的には、本実施形態の押圧解放部材4は、所定の長さを有する係止部41と操作部42とからなるL字型のレバー形状をしており、第二の部材3の側面(押圧面3aに対する垂直面)に、押圧面3aに対して平行に設けられた軸の軸回りに回転可能に設けられている。
【0026】
このような押圧解放部材4は、第二の部材3が第一の部材2に載置された細胞培養バッグ10を押圧している状態のときには、係止部41が第一の部材2と接触しない位置に置かれる(図1(a))。
細胞培養バッグ10に対する第二の部材3の押圧を解放する際には、押圧解放部材4の操作部42を手指でつまむなどして、係止部41が、第一の部材2に対して略垂直の状態で第一の部材2に向かって延在するように回転させる。これにより、係止部41が第二の部材3と第一の部材2との間をつっぱるようにして、第一の部材2と第二の部材3とを、係止部41の長さ分、互いに離間させて留め置く(図1(b))。
【0027】
なお、押圧解放部材4が細胞培養バッグ10に接触しないように、第一の部材2及び第二の部材3の大きさや形状を適宜調整し得るのはいうまでもない。
また、押圧解放部材4は、第二の部材3の対向する側面に少なくとも一対設けて、第二の部材3が第一の部材2に対して傾かないように留め置くことが好ましいが、押圧面3aの四隅を支持するように4つ設けるようにしてもよく、押圧解放部材4を設ける位置や個数は細胞培養バッグ10の形状や大きさに応じて適宜設定でき、限定されない。
また、係止部41の長さは、細胞培養バッグ10の大きさや厚みなどに応じて適宜変更できる。係止部41の先端側、すなわち載置面2aと接触する側の端部の形状を、傾斜させたり円弧状にするなどして、係止部41の先端側における載置面2aとの接触部分を変えることで、第二の部材3と第一の部材2との距離を微調整できるようにしてもよい。
【0028】
このような細胞培養治具1によれば、複数の細胞培養治具1を上下に重ねていたり、細胞培養治具1の上方に他の装置が設置されているなどのスペースが限られている状況であっても、細胞培養バッグ10が第一の部材2と第二の部材3によって押圧されている状態から、細胞培養バッグ10にかけられた圧力を容易に解放することができる。特に、本実施形態の押圧解放部材4によれば、駆動機構を必要としないため、省スペース、省コストで細胞培養バッグ10に対する押圧を解放することができる。
これにより、送液ポンプなどの大掛かりな装置を使用して細胞培養バッグ10への培地等の流入出を制御しなくても、細胞培養治具1の内部に細胞培養バッグ10を保持しながら、ポート12から細胞培養バッグ10内の内容物が流出するなどの虞がなく、手間もかからず培地の交換をすることが可能である。また、細胞培養バッグ10内の培地を排出する際に細胞培養バッグ10に対する押圧を解放することで、アスピレーター等の吸引装置を細胞培養バッグ10に接続して培地を吸引することができる。
また、細胞培養バッグ10が第一の部材と第二の部材3とで押圧された状態ではバッグ本体11を傾斜させても内容液が動かず撹拌がし難いという問題に容易に対処することができる。すなわち、撹拌する際には、押圧解放部材4により一時的に細胞培養バッグ10に対する押圧を解放し、細胞培養バッグ10又は細胞培養バッグ10を保持した細胞培養治具1を揺動させればよい。
また、細胞培養バッグ10内の内容物を排出する際に、内容物がバッグ本体11内に残らないようにするために、細胞培養バッグ10を傾けるなどして内容物をポート12側へ寄せることも、押圧解放部材4によって細胞培養バッグ10に対する押圧を解放することで簡単に行うことができる。
細胞培養バッグ10を保持する細胞培養治具1に自動で制御可能な送液ポンプを備えていて、培地の交換の際に第二の部材3の押圧による細胞培養バッグ10内の内容物の逆流などの問題がなかったとしても、細胞培養バッグ10が押圧されている状態では、細胞培養バッグ10内の撹拌や、細胞培養バッグ10内の内容物を一端部へ寄せることが容易ではないため、押圧解放部材4を細胞培養治具1に備えることは、手動で細胞培養を行うときのみならず、送液ポンプを備えた状態で細胞培養を行うときにも有効である。
【0029】
なお、細胞培養バッグ10に対する第二の部材3の押圧が解放された状態で、細胞培養バッグ10を撹拌したり、細胞培養バッグ10内の内容物を排出するには、手指で細胞培養治具1を把持して細胞培養治具1ごと傾斜させてもよいし、細胞培養治具1の第一の部材2の下に、細胞培養治具1を傾けるための装置を設置するなどして、自動で傾斜させるようにしてもよい。
細胞培養治具1を自動で傾斜させるための装置としては、カム機構やシリンダなどの駆動機構によって第一の部材2の一端縁側を上下動させる態様が挙げられる。例えば、第一の部材2の一端を、第一の部材2の下部に設けられた平板状の基台の一端に回動可能に軸支して、軸支された一端とは対向する反対側の一端に前述の駆動機構を設けて、駆動機構の上下動によって細胞培養治具1が傾くように構成されてもよい。
【0030】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
図2は、本実施形態に係る細胞培養治具1の概略を示す説明図であり、細胞培養バッグ10を内部に保持した状態の細胞培養治具1を側面視した状態を模式的に示している。図2(a)は、細胞培養バッグ10が押圧されている状態を示す図であり、図2(b)は、細胞培養バッグ10に対する押圧が解放された状態を示す図である。なお、図2においては図1と同様に、細胞培養バッグ10、第一の部材2、第二の部材3、押圧解放部材4、蓋体5、支持機構51の関係性を示すため、その他の部材については適宜省略して示している。
【0031】
前述した第一実施形態にかかる細胞培養治具1は、押圧解放部材4を、係止部41を含むレバー形状とし、第二の部材3の側面に、押圧面3aに対して平行に設けられた軸の軸回りに回転可能に設ける構成とした。これに対して、本実施形態においては、押圧解放部材4を、円筒状の係止部41を含む形状とし、係止部41が、第二の部材3を押圧面3aに対して垂直に貫通するように設けられた貫通孔を通って、押圧面3aに対して垂直方向に移動する構成としている。
【0032】
より具体的には、本実施形態の押圧解放部材4は、係止部41にネジ山を有するネジ型の形状をしている。係止部41は、蓋体5及び第二の部材3と第一の部材2とが実質的に平行となって細胞培養バッグ10を細胞培養治具1の内部に保持した状態で、第二の部材3の貫通孔を通って押圧面3aから第一の部材2の載置面2aに向かって延在し、載置面2aへ到達する所定の長さを有している。第二の部材3の貫通孔には、係止部41のネジ山と螺合するネジ山が設けられて、ネジを締める方向に回動させ又はネジを緩める方向に回動させて押圧解放部材4の係止部41が貫通孔を移動する構成となっている。
【0033】
本実施形態の押圧解放部材4の係止部41は、第二の部材3が第一の部材2に載置された細胞培養バッグ10を押圧している状態のときには、ネジを緩める方向に回動させて、係止部41先端が第一の部材2の載置面2aに接触しない位置に設置される(図2(a))。
細胞培養バッグ10が第二の部材3によって押圧されている状態を解放する際には、ネジを締める方向に回動させて、押圧解放部材4の係止部41を、押圧面3aから載置面2aに向かって所定の長さ延在させて、第一の部材2と第二の部材3とを互いに離間させて留め置く(図2(b))。
【0034】
なお、押圧解放部材4が細胞培養バッグ10に接触しないように、第一の部材2及び第二の部材3の大きさや形状を適宜調整し得るのはいうまでもない。
また、押圧解放部材4は、第二の部材3の対向する側面に少なくとも一対設けて、第二の部材3が第一の部材2に対して傾かないように留め置くことが好ましいが、押圧面3aの四隅を支持するように4つ設けるようにしてもよく、押圧解放部材4を設ける位置や個数は細胞培養バッグ10の形状や大きさに応じて適宜設定でき、限定されるものではない。
また、係止部41の長さは、細胞培養バッグ10の大きさや厚みなどに応じて適宜変更できる。
【0035】
本実施形態によれば、細胞培養バッグ10が第一の部材2と第二の部材3によって押圧されている状態から、細胞培養バッグ10にかけられた圧力を容易に解放することができる。
【0036】
本実施形態は、上記の点で第一実施形態と異なっているが、他の構成は第一実施形態と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0037】
以上、駆動機構を用いない押圧解放部材4を備える細胞培養治具1の例を挙げたが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではない。例えば、細胞培養治具1に送液ポンプを備える自動の細胞培養装置では、駆動機構を用いた押圧解放部材4を備えることも比較的容易に実現可能である。以下にその例を示す。
【0038】
[第三実施形態]
本発明の第三実施形態について説明する。
図3は、本実施形態に係る細胞培養治具1の概略を示す説明図であり、細胞培養バッグ10を内部に保持した状態の細胞培養治具1を側面視した状態を模式的に示している。図3(a)は、細胞培養バッグ10が押圧されている状態を示す図であり、図3(b)は、細胞培養バッグ10に対する押圧が解放された状態を示す図である。なお、図3においては図1と同様に、細胞培養バッグ10、第一の部材2、第二の部材3、押圧解放部材4、蓋体5、支持機構51の関係性を示すため、その他の部材については適宜省略して示している。
【0039】
前述した第一実施形態にかかる細胞培養治具1は、押圧解放部材4を、係止部41を含むレバー形状とし、第二の部材3の側面に、押圧面3aに対して平行に設けられた軸の軸回りに回転可能に設ける構成とした。これに対して、本実施形態においては、押圧解放部材4を、駆動軸から円周までの距離が一定でない形状の板カムを有するカム機構とし、板カムが第二の部材3の側面に回転可能に設けられている構成としている。
【0040】
より具体的には、本実施形態の押圧解放部材4であるカム機構は、第一の部材2がフォロワとなるように、第二の部材3の側面に、押圧面3aに対して平行となる駆動軸を備え、板カムが駆動軸回りに回転可能としている。板カムにおいて駆動軸から円周までの距離が一番長い部分を係止部41とし、板カムの回転により、第二の部材3を第一の部材2から離れる方向に押し上げ又は近づく方向へ移動させる。
【0041】
本実施形態の押圧解放部材4は、第二の部材3が第一の部材2に載置された細胞培養バッグ10を押圧している状態のときには、板カムの係止部41を含む円周面が第一の部材2の載置面2aに接触しない位置に設置される(図3(a))。
細胞培養バッグ10が第二の部材3によって押圧されている状態を解放する際には、板カムを回転させて、係止部41が第一の部材2に接して第二の部材3を第一の部材2から離れる方向に押し上げ、適当な位置でカム機構の回転を停止して、第一の部材2と第二の部材3とを互いに離間させて留め置く(図3(b))。
【0042】
なお、押圧解放部材4が細胞培養バッグ10に接触しないように、第一の部材2及び第二の部材3の大きさや形状を適宜調整し得るのはいうまでもない。
また、押圧解放部材4は、第二の部材3の対向する側面に少なくとも一対設けて、第二の部材3が第一の部材2に対して傾かないように留め置くことが好ましいが、押圧面3aの四隅を支持するように4つ設けるようにしてもよく、押圧解放部材4を設ける位置や個数は細胞培養バッグ10の形状や大きさに応じて適宜設定でき、限定されるものではない。
また、係止部41の長さは、細胞培養バッグ10の大きさや厚みなどに応じて適宜変更できる。
また、板カムの形状は、係止部41によって第一の部材2と第二の部材3とを所定の距離で互いに離間させて留め置くように構成されれば、図示するものに限定されるものではない。
【0043】
本実施形態によれば、細胞培養バッグ10が第一の部材2と第二の部材3によって押圧されている状態から、細胞培養バッグ10にかけられた圧力を容易に解放することができる。
また、本実施形態の細胞培養治具1を、細胞培養バッグ10内への培地等の流出入を送液ポンプで自動に行う構成を備える細胞培養装置に含む場合、送液ポンプと押圧解放部材4との動作を連動させるようにして自動で動かすことも可能である。また、本実施形態の細胞培養治具1を、細胞培養治具1を自動で傾けることができる機構を備える細胞培養装置に含む場合、細胞培養治具1の傾斜と押圧解放部材4との動作を連動させるようにして自動で細胞培養バッグ10の撹拌を行うことも可能である。このようにすれば、例えばインキュベーターから取り出すことなく、培地の入れ替えや細胞培養バッグ10の撹拌を行うことができる。
【0044】
本実施形態は、上記の点で第一実施形態と異なっているが、他の構成は第一実施形態と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0045】
このようにして、細胞培養バッグ10を内部に保持して、第一の部材と第二の部材とを互いに近づける方向に付勢する付勢手段によって、細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3で挟み込むように押圧することができる細胞培養治具1に、押圧解放部材4を備えることで、第一の部材2と第二の部材3とを互いに離間する方向に移動させ、容易に細胞培養バッグ10の押圧を一時的に解放することができる。
【0046】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【0047】
例えば、上述した第一実施形態~第三実施形態では、押圧解放部材4を第二の部材3に設ける構成としたが、第一の部材2に設ける構成としてもよい。
【0048】
また、第三実施形態では、カム機構により第一の部材2と第二の部材3とを互いに離間させて留め置くようにしているが、駆動機構を備える押圧解放部材4を組み込むことが可能な場合は、カム機構の代わりにソレノイドシリンダを備えるようにしてもよい。
【0049】
また、上述した第一実施形態~第三実施形態では、第二の部材3が支持機構51によって蓋体5に支持されている構成としたが、第一の部材2に載置された細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3との間に挟み込むようにして押圧でき、第一の部材2と第二の部材3とを互いに近づける方向に付勢されるように構成されていれば、このような態様に限定されない。
例えば、図4に示すように、第二の部材3は、第一の部材2の四隅から垂直方向に延伸するように設けられた支持フレーム52によって、第一の部材2に対して上下動可能であるとともに、押圧面3aが第一の部材2の載置面2aに対して実質的に平行となるように、支持されていてもよい。この場合、支持フレーム52は、第二の部材3に設けられた貫通孔を貫通して押圧面3aとは反対の面側まで延在するとともに、第二の部材3の押圧面3aとは反対の面側に突出した部分にばね部材が設けられるように構成され得る。これにより、第二の部材3が第一の部材2へ近づく方向へ付勢するように構成することができる。また、第二の部材3は、押圧面3aを有する第一の部分31と、支持フレーム52が貫通する貫通孔を有する第二の部分32とを備えるように構成してもよい。これにより、押圧面3aを例えば細胞培養バッグ10の上面11aの面積に合わせるなどの所望の平面形状とするとともに、支持フレーム52が細胞培養バッグ10に接しないように貫通孔を設けることができる。
なお、ここでは付勢手段としてばね部材を備えているが、付勢手段として磁石の引力を利用してもよい。例えば、第二の部材3の押圧面3a側と第一の部材2の載置面2a側に、異極の磁極同士を対向させた少なくとも一組の磁石を取り付けることで、磁石の間に働く引力により、第二の部材3が第一の部材2へ近づくように付勢することができる。
【0050】
また、上述した第一実施形態~第三実施形態では、細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3との間に保持した状態で、第二の部材3が、第一の部材2と実質的に並行な状態を維持しながら第一の部材2との間隔を変動可能に設けられ、かつ、第一の部材2へ近づく方向へ付勢されるように構成して、細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3で挟み込むように押圧する構成としたが、細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3との間に挟み込むようにして押圧でき、第一の部材2と第二の部材3とを互いに近づける方向に付勢されるように構成されていれば、このような態様に限定されない。
例えば、図5に示すように、第一の部材2が、第二の部材3との間隔を変動可能に設けられ、かつ、第二の部材3へ近づく方向へ付勢されるようにして、細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3で挟み込むように押圧する構成としてもよい。この場合、第一の部材2には、載置面2aとは反対の面側の四隅から下方に延びる支持機構51が設けられ、支持機構51は、第一の部材2が上下動可能なように、第一の部材2の下方に配置された基台6に貫通して取り付けることができる。なお、基台6の下面側には、細胞培養治具1を載置した場合や、他の細胞培養治具等の上下に積み重ねられた場合に、支持機構51の動きが妨げられないように、第一の部材2とは反対方向に突出する支持部61が設けられている。基台6からは垂直方向に延伸するように支持フレーム52が設けられており、第二の部材3は、支持フレーム52により、基台6と実質的に並行になるように所定の高さに位置決めされている。支持機構51は、第一の部材2の四隅から基台6側へ延びて基台6を貫通しているガイドピンと、第一の部材2を基台6から遠ざかる方向へ付勢する付勢手段とから構成され、第一の部材2が基台6と実質的に並行となる状態で支持している。ここでは、付勢手段として、基台6と第一の部材2との間にばね部材を備えているが、付勢手段として、ばね部材の他にも、磁石の斥力を利用してもよい。このようにして、第一の部材2が、基台6と実質的に並行な状態を維持しながら基台6との間隔を変動可能に設けられ、かつ、ばね部材の反発力や磁石の斥力を利用して第一の部材2を基台6から遠ざかる方向へ(すなわち、基台6と第二の部材3とが実質的に平行となった状態で、第一の部材2が第二の部材3へ近づく方向へ)付勢するように構成して、細胞培養バッグ10を第一の部材2と第二の部材3で挟み込むように押圧するようにしてもよい。
この場合、押圧解放部材4は、上述した第一実施形態~第三実施形態で説明したものを、基台6に対して固定した状態で位置付けられる第二の部材3に設けるのが好ましいが、第一の部材2に設けるようにしてもよい。
【0051】
また、図示する例では、バッグ本体11の下面11bの形状は、上面11aと同様に平面状となっているが、下面11bに、各々が細胞培養部となる複数の凹部が形成されていてもよい。この場合は、第一の部材2の載置面2aに、細胞培養バッグ10の下面11bに形成された複数の凹部の各々を受け入れる形状として、開口部や凹部を形成して、下面11bの凹部を非接触で支持するようにすると、凹部の潰れ、変形が回避されて凹部内の細胞の流出が防止されるため好ましい。
【符号の説明】
【0052】
1 細胞培養治具
2 第一の部材
3 第二の部材
4 押圧解放部材
5 蓋体
10 細胞培養バッグ
図1
図2
図3
図4
図5