IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-ガスセンサ 図1
  • 特開-ガスセンサ 図2
  • 特開-ガスセンサ 図3
  • 特開-ガスセンサ 図4
  • 特開-ガスセンサ 図5
  • 特開-ガスセンサ 図6
  • 特開-ガスセンサ 図7
  • 特開-ガスセンサ 図8
  • 特開-ガスセンサ 図9
  • 特開-ガスセンサ 図10
  • 特開-ガスセンサ 図11
  • 特開-ガスセンサ 図12
  • 特開-ガスセンサ 図13
  • 特開-ガスセンサ 図14
  • 特開-ガスセンサ 図15
  • 特開-ガスセンサ 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126507
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034913
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 和真
(72)【発明者】
【氏名】今田 駿
(72)【発明者】
【氏名】村山 勇樹
(57)【要約】
【課題】構造の簡素化を図りつつ、センサセルにおける電源との短絡を検出することができるガスセンサを提供すること。
【解決手段】ガスセンサ1において、センサセル3は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体2、及び固体電解質体2上に設けられた一対の電極21,22を有する。参照セル4は、センサセル3の一部を構成する固体電解質体2と同一の固体電解質体2、及び固体電解質体2上に設けられた一対の電極を有する。センサ電流検出部51は、センサ電流Isを検出する。参照電流検出部52は、参照電流を検出する。判定部6は、センサ電流Is及び参照電流の双方の大きさが、予め定めた閾値以上であるか否かを判定する。ガスセンサ1は、センサ電流Isに基づいて、被測定ガス室10に導入された被測定ガスのNOxの濃度を測定するよう構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスのNOxの濃度を測定するガスセンサ(1)であって、
上記被測定ガスが導入される被測定ガス室(10)と、
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体(2)、及び該固体電解質体上に設けられた一対の電極(21,22)を有するセンサセル(3)と、
該センサセルの一部を構成する上記固体電解質体と同一の固体電解質体、及び該固体電解質体上に設けられた一対の電極を有する参照セル(4)と、
上記センサセルに流れる電流であるセンサ電流(Is)を検出するセンサ電流検出部(51)と、
上記参照セルに流れる電流である参照電流を検出する参照電流検出部(52)と、
上記センサ電流及び上記参照電流の双方の大きさが、予め定めた閾値以上であるか否かを判定する判定部(6)と、を有し、
上記センサ電流に基づいて、上記被測定ガス室に導入された上記被測定ガスのNOxの濃度を測定するよう構成されている、ガスセンサ。
【請求項2】
上記被測定ガス室に導入された上記被測定ガスの酸素の濃度を調整するポンプセル(71)を有し、該ポンプセルは、上記参照セルである、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
上記被測定ガス室に導入された上記被測定ガスの酸素の濃度を調整するポンプセル(71)と、該ポンプセルによって酸素濃度を調整された上記被測定ガスの酸素の濃度をさらに調整するサブポンプセル(72)と、を有し、上記ポンプセル及び上記サブポンプセルのうち、少なくとも一方が、上記参照セルである、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
上記被測定ガス室に導入された上記被測定ガスの酸素の濃度を調整するポンプセル(71)と、該ポンプセルによって酸素濃度を調整された上記被測定ガスの残留酸素の濃度を測定するモニタセル(73)と、を有し、上記ポンプセル及び上記モニタセルのうち、少なくとも一方が、上記参照セルである、請求項1~3のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されているように、測定室内の酸素濃度に応じて電圧を発生する酸素濃度検知セルと、測定室内の酸素をポンピングする酸素ポンプセルと、所定ガスの濃度を測定する測定手段とを備えるガス濃度測定装置が知られている。このガス濃度測定装置は、酸素濃度検知セルに接続された配線等における電源との短絡によって、酸素濃度検知セル等の各セルと測定手段との各接続点のうち何れかの接続点の電圧が異常電圧値になると、測定手段と各接続点とを電気的に遮断するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-047278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のガス濃度測定装置は、酸素濃度検知セルに接続された配線等における電源との短絡を検出するため、酸素濃度検知セル等と測定手段との接続点の電圧が異常電圧値となったことを検出する異常検出回路を備える。それゆえ、ガス濃度測定装置の構造が複雑となりやすく、ガス濃度測定装置の大型化を招きやすい。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、構造の簡素化を図りつつ、センサセルにおける電源との短絡を検出することができるガスセンサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、被測定ガスのNOxの濃度を測定するガスセンサ(1)であって、
上記被測定ガスが導入される被測定ガス室(10)と、
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体(2)、及び該固体電解質体上に設けられた一対の電極(21,22)を有するセンサセル(3)と、
該センサセルの一部を構成する上記固体電解質体と同一の固体電解質体、及び該固体電解質体上に設けられた一対の電極を有する参照セル(4)と、
上記センサセルに流れる電流であるセンサ電流(Is)を検出するセンサ電流検出部(51)と、
上記参照セルに流れる電流である参照電流を検出する参照電流検出部(52)と、
上記センサ電流及び上記参照電流の双方の大きさが、予め定めた閾値以上であるか否かを判定する判定部(6)と、を有し、
上記センサ電流に基づいて、上記被測定ガス室に導入された上記被測定ガスのNOxの濃度を測定するよう構成されている、ガスセンサにある。
【発明の効果】
【0007】
上記ガスセンサは、センサ電流に基づいて、被測定ガス室に導入された被測定ガスのNOxの濃度を測定するよう構成されている。また、上記ガスセンサは、センサ電流及び参照電流の双方の大きさが、予め定めた閾値以上であるか否かを判定する。これにより、センサセルにおける電源との短絡を検出することができる。それゆえ、センサセルにおける電源との短絡を検出するためのみに用いられる回路等を設けることなく、参照電流の大きさ及びNOxの濃度を測定するためのセンサ電流の大きさに基づいて、センサセルにおける電源との短絡を検出することができる。その結果、構造の簡素化を図りつつ、センサセルにおける電源との短絡を検出することができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、構造の簡素化を図りつつ、センサセルにおける電源との短絡を検出することができるガスセンサを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1における、ガスセンサのブロック図。
図2】実施形態1における、センサ素子の先端部の断面図。
図3】実施形態1における、NOx測定時の電流の方向を示す図。
図4】実施形態1における、VBショート時の電流の方向を示す図。
図5】実施形態1における、VBショート時の、センサ電流とポンプ電流とモニタ電流との値を示すグラフ。
図6】実施形態1における、センサ電流とポンプ電流とに基づいたVBショート判定の流れを示すフローチャート。
図7】実施形態1における、NOx過大時のセンサ電流と、VBショート時のセンサ電流とを示すグラフ。
図8】実施形態1における、NOx過大時のポンプ電流と、VBショート時のポンプ電流とを示すグラフ。
図9】実験例1における、VBショート時の、ポンプセルの温度と、センサ電流、ポンプ電流、モニタ電流の関係を示すグラフ。
図10】実験例1における、VBショート時の、センサセル及びモニタセルの温度と、センサ電流、ポンプ電流、モニタ電流の関係を示すグラフ。
図11】実施形態2における、ガスセンサの構成を示す図。
図12】実施形態3における、センサ素子の先端部の断面図。
図13】実施形態4における、センサ素子の先端部の断面図。
図14】比較形態1における、センサ素子の先端部の断面図。
図15】実験例2における、実施形態4のガスセンサの、VBショート時のセンサ電流とポンプ電流の値を示すグラフ。
図16】実験例2における、比較形態1のガスセンサの、VBショート時のセンサ電流とポンプ電流の値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
ガスセンサに係る実施形態について、図1図8を参照して説明する。
本形態のガスセンサ1は、被測定ガスのNOxの濃度を測定する。ガスセンサ1は、図1図2に示すごとく、被測定ガスが導入される被測定ガス室10と、センサセル3と、参照セル4と、センサ電流検出部51と、参照電流検出部52と、判定部6と、を有する。センサセル3は、図2に示すごとく、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体2、及び固体電解質体2上に設けられた一対の電極21,22を有する。参照セル4は、センサセル3の一部を構成する固体電解質体2と同一の固体電解質体2、及び固体電解質体2上に設けられた一対の電極を有する。図3に示すごとく、センサ電流検出部51は、センサセル3に流れる電流であるセンサ電流Isを検出する。参照電流検出部52は、参照セル4に流れる電流である参照電流を検出する。判定部6は、センサ電流Is及び参照電流の双方の大きさが、予め定めた閾値以上であるか否かを判定する。また、ガスセンサ1は、センサ電流Isに基づいて、被測定ガス室10に導入された被測定ガスのNOxの濃度を測定するよう構成されている。
【0011】
本形態のガスセンサ1は、例えば、車両に搭載され、排ガスに含まれるNOx(すなわち、窒素酸化物)の濃度を測定する手段として用いることができる。ガスセンサ1は、例えば、車両の内燃機関に接続された排ガス管(図示略)に取り付けられることにより、排ガスに含まれるNOxの濃度を測定することができる。
【0012】
ガスセンサ1は、固体電解質体2と、センサセル3と、参照セル4とを備えると共に、長尺形状に形成されたセンサ素子11を有する。図2に示すごとく、センサ素子11の長手方向Zにおける一方の端部に、センサセル3等の各セル及び被測定ガス室10等が設けられている。センサ素子11におけるセンサセル3等が設けられた側の端部は、素子カバー(図示略)に覆われた状態にて、排ガス管内に配置され、被測定ガスである排ガスに晒される。また、センサ素子11における排ガス管内に配置された側とは反対側の端部(図示略)は、後述する基準ガスとなる大気に晒される。本形態において、センサ素子11は、限界電流式センサ素子である。また、本明細書において、センサ素子11の長手方向Zを、適宜、Z方向という。また、Z方向において、センサ素子11における排ガス管内に配置される側を先端側Z1とし、その反対側を基端側Z2という。また、センサセル3における一対の電極21,22及び固体電解質体2の積層方向Yを、適宜、Y方向という。また、Y方向において、固体電解質体2に対し、被測定ガス室10がある側を上側Y1とし、その反対側を下側Y2という。
【0013】
本形態において、センサセル3は、図2に示すごとく、センサ電極21と基準電極22とを有する。センサ電極21と基準電極22とは、固体電解質体2のY方向における両側に、互いに対向配置されるように、設けられている。センサ電極21は、固体電解質体2における被測定ガス室10側の面に設置されている。基準電極22は、固体電解質体2における、後述する基準ガス室100側の面に設置されている。本形態において、センサ電極21は、Pt(すなわち、白金)及びRh(すなわち、ロジウム)を含有する多孔質サーメット電極からなり、NOxに対して強い還元性を有している。また、本形態において、基準電極22は、Pt等の貴金属を含む多孔質サーメット電極からなる。
【0014】
また、ガスセンサ1は、被測定ガス室10に導入された被測定ガスの酸素の濃度を調整するポンプセル71を有する。本形態において、ポンプセル71は、参照セル4である。
【0015】
本形態において、ポンプセル71の一部は、センサセル3の一部を構成する固体電解質体2と同一の固体電解質体2によって構成されている。また、ポンプセル71は、ポンプ電極23と基準電極22とを有する。ポンプ電極23は、固体電解質体2における被測定ガス室10側の面に設置されている。ポンプ電極23は、センサ電極21よりも先端側Z1に位置しており、センサ電極21よりも、被測定ガス室10に導入される被測定ガスの上流側に位置している。本形態において、ポンプ電極23は、Au(すなわち、金)及びPtを含有する多孔質サーメット電極からなる。Z方向から見たとき、ポンプ電極23の面積は、センサ電極21及び後述するモニタ電極24の面積よりも大きい。
【0016】
また、本形態のガスセンサ1は、モニタセル73を有する。モニタセル73は、ポンプセル71によって酸素濃度を調整された被測定ガスの残留酸素の濃度を測定する。ポンプセル71及びモニタセル73のうち、少なくとも一方が、参照セル4である。本形態においては、ポンプセル71及びモニタセル73の双方が参照セル4となっている。
【0017】
本形態において、モニタセル73の一部は、センサセル3の一部及びポンプセル71の一部を構成する固体電解質体2と同一の固体電解質体2によって構成されている。また、モニタセル73は、モニタ電極24と基準電極22とを有する。モニタ電極24は、固体電解質体2における被測定ガス室10側の面に設置されている。また、モニタ電極24は、ポンプ電極23よりも基端側Z2に設けられている。本形態において、モニタ電極24は、Au及びPtを含有する多孔質サーメット電極からなる。また、本形態においては、モニタセル73の基準電極22と、ポンプセル71の基準電極22と、センサセル3の基準電極22とが一体化して、一つの共通電極となっている。
【0018】
固体電解質体2は、酸素イオン伝導性を備えた固体電解質材料からなる板状の部材である。固体電解質体2は、後述するヒータ17によって加熱されることにより、活性化される。つまり、固体電解質体2は、所定の活性温度において、酸素イオンの伝導性を有するよう構成されている。本形態において、固体電解質体2は、イットリア安定化ジルコニアからなる。固体電解質体2は、センサセル3、ポンプセル71、モニタセル73のそれぞれのセルにおいて、共通となっている。
【0019】
Y方向において、固体電解質体2の上側Y1には、被測定ガス室10が形成されており、固体電解質体2の下側Y2には、基準ガス室100が形成されている。基準ガス室100には、基準ガスが導入される。基準ガスは、酸素濃度の基準になるガスである。本形態において、基準ガスは大気である。基準ガス室100は、開口部(図示略)を介して、大気が導入されるように構成されている。
【0020】
固体電解質体2の上側Y1には、拡散抵抗体13を含む絶縁層130を介して、遮蔽層121が積層されている。絶縁層130の先端側Z1には、被測定ガス室10を形成する矩形の切り欠き部が形成されている。絶縁層130は、アルミナ等の絶縁性セラミックスからなるシート状の部材である。絶縁層130は、被測定ガス室10の先端側Z1の室壁となる部分の一部を拡散抵抗体13としている。拡散抵抗体13は、ガス透過性を有する多孔質セラミックスによって構成されている。また、遮蔽層121は、絶縁性セラミックスからなるシート状の部材であり、被測定ガス室10の上側Y1を覆い、ガス透過を制限している。
【0021】
固体電解質体2の下側Y2には、ヒータ17の一部を構成するヒータ基材層122が積層されている。ヒータ17は、絶縁性セラミックスからなるヒータ基材層122と、ヒータ基材層122の内部に埋設されるヒータ電極170とを有する。ヒータ17は、基準ガス室100を介して固体電解質体2とY方向に対向するように配置されている。また、ヒータ基材層122には凹部が設けられており、この凹部が、基準ガス室100を形成している。
【0022】
ヒータ電極170は、通電により発熱するよう構成されている。ヒータ17は、センサセル3、ポンプセル71、モニタセル73が、検出動作に適した温度になるよう、それぞれのセルを加熱する。本形態において、ヒータ17は、ポンプセル71の温度が、500℃以上となるように加熱する。また、ヒータ17は、センサセル3及びモニタセル73の温度が、350℃以上となるように加熱する。そして、ガスセンサ1は、ポンプセル71の温度が500℃以上、かつセンサセル3及びモニタセル73の温度が350℃以上になった状態にて、センサセル3における電源16との短絡(以下、VBショートという。)を判定するよう構成されている。本形態において、ヒータ17は、ポンプセル71の温度が、700℃~900℃の範囲となるように加熱し、センサセル3及びモニタセル73の温度が、500℃~700℃の範囲となるように加熱する。
【0023】
また、センサ素子11の先端部の外表面には、多孔質の保護層14が設けられている。保護層14は、互いに結合された多数のセラミック粒子によって構成されている。被測定ガスは、保護層14及び拡散抵抗体13を通過して、被測定ガス室10に導入される。
【0024】
次に、ガスセンサ1による被測定ガスのNOx濃度の測定について説明する。
内燃機関の排ガス管を流れる被測定ガスは、保護層14及び拡散抵抗体13を通過して、被測定ガス室10に導入される。そして、ポンプセル71は、被測定ガス室10から基準ガス室100に酸素を排出し、被測定ガスの酸素濃度を調整する。具体的には、ポンプ電極23と基準電極22との間に所定の電圧が印加されると、被測定ガス室10内の被測定ガスに含まれる酸素は、ポンプ電極23によって還元分解されて酸素イオンとなる。この酸素イオンは、基準電極22に向かって固体電解質体2内を流れ、基準電極22において酸素が生成され、基準ガス室100から大気中に排出される。また、このとき、被測定ガス室10への被測定ガスの流入は、拡散抵抗体13によって制限されるため、ポンプセル71を流れるポンプ電流Ipは、被測定ガス中の酸素の濃度に依存した限界電流特性を示す。そこで、酸素の限界電流域となるように印加電圧を設定することにより、基準ガス室100に導入される大気を基準として、ポンプセル71を流れるポンプ電流Ipから、被測定ガスの酸素濃度及び空燃比A/Fを知ることができる。
【0025】
次に、ポンプセル71によって酸素が排出された被測定ガスは、ポンプ電極23よりも基端側Z2に配置されているセンサ電極21に到達する。そして、センサ電極21と基準電極22との間に電圧が印加されると、被測定ガス中のNOxは、センサ電極21においてOイオンに分解され、固体電解質体2を通って基準ガス室100に排出される。本形態においては、このとき流れた電流(すなわち、センサ電流Is)を測定し、その測定値を用いて、NOxの濃度を算出している。
【0026】
また、モニタセル73は、ポンプセル71によって酸素が排出された被測定ガス中に残留する酸素の濃度を検出するよう構成されている。モニタ電極24と基準電極22との間に電圧が印加されると、被測定ガス中に残留する酸素は、モニタ電極24においてイオン化し、固体電解質体2を通って基準ガス室100に排出される。また、このとき、モニタセル73に流れる電流であるモニタ電流Imが流れる。そして、このモニタ電流Imに基づいて、被測定ガス中の残留酸素濃度を算出することができる。
【0027】
ここで、センサ電極21は、NOxと酸素の両方に対して活性を有する。そのため、まずポンプセル71を用いて酸素を排出し、被測定ガスの酸素濃度を低減させてから、NOxの濃度を測定している。しかしながら、ポンプセル71によって酸素を完全に排出できず、僅かに酸素が残留することがある。そのため、センサ電流Isは、NOxがイオン化されることにより流れた電流だけでなく、NOxと酸素の合計濃度に応じた電流となる場合がある。一方、モニタ電極24は、酸素に対してのみ活性を有するため、モニタ電極24には、残留酸素濃度に応じたモニタ電流Imが流れる。そこで、本形態では、モニタ電流Imに基づいて、センサ電流Isにおける残留酸素の影響を取り除くことによって、被測定ガス中のNOxの濃度を求めるよう構成されている。これにより、ポンプセル71によって酸素を完全に排出できない場合でも、NOxの濃度を正確に算出することができる。
【0028】
次に、センサ素子11の作動を制御するセンサ制御部15について説明する。
ガスセンサ1は、図1に示すごとく、センサ制御部15を有する。センサ制御部15は、センサ素子11と電気的に接続しており、センサ素子11の作動を制御する。センサ制御部15は、電流検出部5と、マイコン151と、ヒータ制御部171と、電源回路161と、電圧検出部152と、CAN通信部153と、を有する。また、センサ制御部15は、プロセッサとメモリとを備えており、被測定ガスにおけるNOx濃度及び酸素濃度の算出とVBショートの判定を行う。
【0029】
電流検出部5は、センサ電流Is、ポンプ電流Ip、モニタ電流Imを検出するよう構成されている。つまり、電流検出部5は、センサ電流検出部51と参照電流検出部52とを備える。電流検出部5は、センサ電流Is、ポンプ電流Ip、モニタ電流Imの大きさに応じた検出信号をマイコン151に出力する。
【0030】
また、電流検出部5は、センサセル3、ポンプセル71、モニタセル73のそれぞれと電気的に接続している。図3に示すごとく、電流検出部5とセンサ電極21、電流検出部5とポンプ電極23、電流検出部5とモニタ電極24は、それぞれ、配線L1、L2、L3によって、互いに電気的に接続している。また、基準電極22とセンサ制御部15は、配線L5によって、互いに電気的に接続している。配線L5には、NOx測定時において、基準電極22に向かって流れる基準電流Icomが流れる。
【0031】
マイコン151は、電流検出部5が検出したセンサ電流Is及びモニタセル電流Imに基いて、被測定ガスのNOx濃度を算出する。具体的には、マイコン151は、センサ電流Isの値からモニタ電流Imの値を減算することにより、センサセル3が検出した被測定ガス中の残留酸素による電流値を除き、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。また、マイコン151は、ポンプ電流Ipに基づいて、被測定ガスの酸素濃度を算出する。
【0032】
また、マイコン151は、センサ電流Isと参照電流とに基いて、VBショートを検出する。つまり、マイコン151は、判定部6でもある。判定部6は、ポンプ電流Ip及びモニタ電流Imのうち、少なくともいずれか一方と、センサ電流Isと、により、VBショートを判定できるよう構成されている。本形態において、参照電流は、ポンプ電流Ip及びモニタ電流Imである。
【0033】
ガスセンサ1は、判定部6が、VBショートの発生の有無を判定するにあたり、センサ電流Isと参照電流とのそれぞれの大きさに対し、閾値を設けている。VBショートを判定するための閾値は、たとえば、センサ電流Isの閾値を30000nA、ポンプ電流Ipの閾値を5000μA、モニタ電流Imの閾値を30000nAとすることができる。
【0034】
また、本形態において、ポンプ電流Ip及びモニタ電流Imの閾値は、通常のガス濃度測定時において検出される電流の大きさよりも、大きい値としている。つまり、ポンプ電流Ip及びモニタ電流Imの閾値は、判定部6が、VBショートであることを確実に判定できるように、通常のガス濃度測定時に検出される電流の大きさよりも、大幅に大きい値となっている。
【0035】
また、ヒータ制御部171は、ヒータ17に印加する電圧の制御を行うことにより、ヒータ17の発熱量を制御している。マイコン151は、例えば、センサ素子11の温度情報に基づいて、センサ素子11がNOx濃度の検出に適した状態となるように、ヒータ制御部171を介して、ヒータ17の作動をフィードバック制御することができる。本形態において、マイコン151は、ポンプセル71の温度の情報を検出するセル温度検出部(図示略)によって検出されたセル温度情報に基づいて、ヒータ制御部171に駆動指示を行う。
【0036】
電源回路161は、電源16から電力の供給を受けると共に、電流検出部5、マイコン151、ヒータ制御部171等の各回路に必要な電力を供給する。本形態において、電源16は、バッテリである。また、バッテリにおける電源電圧は、例えば、12Vとすることができる。
【0037】
電圧検出部152は、ポンプ電極23に印加された電圧を検出する。そして、電圧検出部152は、検出した電圧に応じた検出信号をマイコン151に出力する。
【0038】
また、CAN通信部153は、内燃機関を制御するECU(Engine Control Unit)との間でデータ通信可能に接続されており、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルに従ってデータの送受信を行う。ガスセンサ1によるNOx濃度等の検出結果は、CAN通信部153を介して、センサ制御部15からECU(図示略)へ出力され、排ガス浄化システムの制御等に用いられる。
【0039】
次に、センサ電流Isとポンプ電流Ipとに基づいてVBショートを判定するまでの流れについて、図6のフローチャートに基づき説明する。
まず、ステップS1において、ポンプセル71に断線による異常がないかを判断する。ステップS1において、ポンプ電流Ipの検出が可能であり、配線L2の断線等による異常がないと判断した場合、ステップS2へと進む。一方、ステップS1において、ポンプ電流Ipが検出できず、ポンプセル71に断線異常があると判断した場合、VBショートを判定することができないため、ステップS7へと進み、VBショート診断を未実施とする。
【0040】
ステップS2においては、センサ素子11が活性化しているか判断を行う。つまり、各セルが所定の温度以上となり、活性状態になっているか否かを判断する。ステップS2において、センサ素子11が活性状態であると判断した場合、ステップS3へと進む。一方、ステップS2において、センサ素子11が活性状態でないと判断した場合、ステップS7へと進み、VBショート診断を未実施とする。なお、ステップS2において、センサ素子11が活性状態でないと判断した場合、例えば、センサ素子11が活性状態となるまで、所定時間経過後に、ステップS2を繰り返す構成とすることもできる。
【0041】
ステップS3においては、センサ電流Isとポンプ電流Ipとの双方が閾値以上であるか否かを判断する。ステップS3において、センサ電流Isとポンプ電流Ipとの双方が閾値以上であると判断した場合、ステップS4へと進む。一方、ステップS3において、センサ電流Isのみが閾値以上であると判断した場合、又はセンサ電流Isとポンプ電流Ipとの双方が閾値未満であると判断した場合、ステップS6へと進み、センサセル3の正常判定を行う。つまり、センサセル3におけるVBショートは発生していないと判断する。また、ステップS6へと進んだ場合、例えば、所定時間が経過した後、改めてステップS1へと戻り、VBショートの判定を繰り返す構成とすることができる。
【0042】
次に、ステップS4においては、センサ電流Is及びポンプ電流Ipの双方が、所定時間以上継続して閾値を超えているか否かを判断する。本形態においては、センサ電流Is及びポンプ電流Ipの双方が、3秒以上継続して閾値を超えているか否かを判断する。ステップS4において、センサ電流Is及びポンプ電流Ipの双方が、所定時間以上継続して閾値を超えている場合、ステップS5へと進み、異常判定を行う。つまり、センサセル3にVBショートが発生していると判定する。一方、センサ電流Is及びポンプ電流Ipの閾値を超えている時間が、所定時間未満である場合、ステップS6へと進み、センサセル3の正常判定を行う。つまり、センサ電流Is及びポンプ電流Ipが一時的に閾値を超えている場合であっても、その閾値を超えている時間が所定時間未満である場合、VBショート以外の要因による一時的な電流値の上昇であると判断し、正常判定を行う。これにより、VBショート以外の要因による電流値上昇をノイズとし、確実にセンサセル3のVBショートを判定する。なお、図6のフローチャートでは、センサ電流Isとポンプ電流Ipとに基づいたVBショート判定について記載したが、センサ電流Isとモニタ電流Imとに基づいてVBショートを判定する場合も、図6のフローチャートと同様のステップを行い、VBショートを判定する。
【0043】
次に、本形態の作用効果を説明する。
上記ガスセンサ1は、センサ電流Isに基づいて、被測定ガス室10に導入された被測定ガスのNOxの濃度を測定するよう構成されている。また、ガスセンサ1は、センサ電流Is及び参照電流の双方の大きさが、予め定めた閾値以上であるか否かを判定する。これにより、センサセル3のVBショートを検出することができる。それゆえ、センサセル3におけるVBショートを検出するためのみに用いられる回路等を設けることなく、参照電流の大きさ及びセンサ電流Isの大きさに基づいて、VBショートを検出することができる。その結果、構造の簡素化を図りつつ、センサセル3のVBショートを検出することができる。
【0044】
例えば、何らかの原因により、図4に示すごとく、電源16に接続された配線L4が、センサセル3に接続された配線L1と電気的に接触することにより、VBショートが発生した場合を想定する。このとき、電源電圧は、各セルに印加される電圧よりも大幅に高いため、電流検出部5によって検出されるセンサ電流Isは、図5に示すごとく、予め設定した閾値を超えて、検出上限に達する。また、VBショートに基づく電流は、図4に示すように、配線L1からセンサ電極21へと向かう方向に流れ、導電性を備える固体電解質体2を介して、配線L2,L3にも流れる。そのため、図5に示すごとく、電流検出部5によって検出されるポンプ電流Ipおよびモニタ電流Imも閾値を超え、検出上限に達する。そこで、判定部6は、センサ電流Is及び参照電流の双方の大きさが、閾値以上であるか否かを判定し、VBショートを判定する。つまり、ガスセンサ1は、VBショートを判定するためのみに用いる回路等を改めて設けることなく、NOx及び酸素の濃度測定に必要なセンサ電流Is、ポンプ電流Ip、モニタ電流Imを検出する電流検出部5及び判定部6を用いて、VBショートを判定することができる。そのため、構造の簡素化を図ることができ、ひいてはガスセンサ1の小型化による車両への搭載自由度の向上やコストの低減を図ることができる。
【0045】
また、例えば、ガスセンサ1のセンサ素子11を、車両の排気系に設けられたSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒の上流側に位置する排ガス管に設置した場合を想定する。この場合、ガスセンサ1によって検出される被測定ガスに含まれるNOxの濃度が10000ppm以上となる場合に、NOxの濃度が過大となるおそれがある。そして、センサ電流Isは、NOxの濃度が高くなるほど大きくなるため、図7に示すごとく、NOxの濃度が過大になった場合と、VBショートが発生した場合との双方において、閾値を超えることが考えられる。そのため、センサ電流Isの大きさのみに基づいてVBショートを判定しようとすると、センサ電流Isが閾値を超えた場合に、高濃度のNOxを起因としたものなのか、VBショートを起因としたものなのか、判断しにくく、VBショートを正確に判定できなくなるおそれがある。そこで、本形態においては、センサ電流Isに加えて、参照電流に基づいて、VBショートを判定する。つまり、センサセル3がVBショートした場合、図4に示すごとく、固体電解質体2を介して、参照セル4であるポンプセル71やモニタセル73にもVBショートを起因とする電流が流れ、ポンプ電流Ip及びモニタ電流Imの大きさが閾値を超える。また、ポンプ電流Ip及びモニタ電流Imは、センサ電流Isのように、被測定ガスのNOxの濃度が高くなったことを起因として、上昇することはない。つまり、図8に示すように、NOx過大となる前後において、ポンプ電流Ipの大きさに大きな違いは見られず、NOxの濃度が過大となった場合でも、ポンプ電流Ipの大きさは閾値を超えることはない。そして、モニタ電流Imもポンプ電流Ipと同様に、NOxの濃度が過大となったことを起因として、閾値を超えることはない。そのため、判定部6によって、センサ電流Isと参照電流(すなわち、ポンプ電流Ipとモニタ電流Im。)との双方の大きさが閾値以上であるか否かを判定することにより、確実にVBショートを判定することができる。その結果、センサセル3におけるVBショートを精度高く検出することができる。
【0046】
また、一般に、限界電流式のガスセンサは、各セルに印加する電圧が所定の大きさとなるように制御する。そのため、仮に、各セルに印加された電圧の大きさに基づいてVBショートを検出する構成とした場合、固体電解質体の微小なクラックや遮蔽層の割れなどの軽微な損傷を検出しにくい。一方、本形態においては、センサ電流Isと参照電流とに基づいてVBショートを判定する構成となっている。そのため、固体電解質体2の微小なクラック等を起因としたセンサ電流Isの値の変化や参照電流の値の変化を検出することができる。そのため、VBショートの判定ができることに加え、固体電解質体2の微小なクラックや遮蔽層121の割れなどの軽微な損傷も検出することができる。
【0047】
また、ポンプセル71は、参照セル4である。それゆえ、被測定ガスの酸素濃度の測定に用いるポンプ電流Ipの値に基づいて、VBショートを検出することができる。その結果、構造の簡素化を図りつつ、VBショートを検出することができる。
【0048】
また、ポンプセル71及びモニタセル73のうち、少なくとも一方が、参照セル4である。それゆえ、ポンプ電流Ipの値、又は被測定ガスのNOx濃度を高精度に測定するために用いるモニタ電流Imの値に基づいて、VBショートを検出することができる。その結果、構造の簡素化を図りつつ、VBショートを検出することができる。
【0049】
また、ポンプセル71及びモニタセル73のうち、少なくとも一方を参照セル4としたとき、ポンプセル71における電源16との短絡が発生した場合、ポンプセル71に印加された電圧の大きさに基づいて、ポンプセル71における電源16との短絡を判断できる。ただし、センサセル3におけるVBショートが発生した場合と、モニタセル73における電源16との短絡が発生した場合とでは、同様の電流の流れ方になる。そのため、センサセル3におけるVBショートか、モニタセル73における電源16との短絡かを判断することが難しい場合がある。この場合、ヒータ17を停止して固体電解質体2の温度を低下させることにより、酸素イオンが固体電解質体2中を移動できない状態にすると共に、固体電解質体2の導電性を低下させる。これにより、センサセル3におけるVBショートが発生した場合、VBショートに基づく電流は、固体電解質体2を通ってポンプセル71及びモニタセル73に流れにくくなるため、センサセル3におけるVBショートであると判断することができる。また、モニタセル73における電源16との短絡が発生した場合、この短絡に基づく電流は、固体電解質体2を通ってポンプセル71及びセンサセル3に流れにくくなるため、モニタセル73における電源16との短絡であると判断することができる。
【0050】
本形態においては、ポンプセル71及びモニタセル73の双方が参照セル4となっている。つまり、ポンプ電流Ipの値とモニタ電流Imの値との双方をVBショートの判定に用いる。それゆえ、構造の簡素化を図りつつ、VBショートを、より精度高く検出することができる。
【0051】
ガスセンサ1は、ヒータ17によって、ポンプセル71が500℃以上に加熱された状態にて、センサセル3におけるVBショートを判定する。これにより、固体電解質体2の導電性を確実に確保することができる。それゆえ、VBショートした際に、センサ電流Is、ポンプ電流Ip、モニタ電流Imの値に基づいて、確実にVBショートを判定することができる。また、ポンプセル71の温度が500℃以上であれば、ポンプセル71の制御温度より低い温度であっても、確実にVBショートを検出することができる。そのため、ガスセンサ1を起動させてから、比較的早くVBショートを検出することができる。
【0052】
ガスセンサ1は、ヒータ17によって、センサセル3及びモニタセル73が350℃以上に加熱された状態にて、センサセル3におけるVBショートを判定する。これにより、固体電解質体2の導電性を確実に確保することができる。それゆえ、VBショートした際に、センサ電流Is、ポンプ電流Ip、モニタ電流Imの値に基づいて、確実にVBショートを判定することができる。また、センサセル3及びモニタセル73の温度が350℃以上であれば、センサセル3及びモニタセル73の制御温度より低い温度であっても、確実にVBショートを検出することができる。そのため、ガスセンサ1を起動させてから、比較的早くVBショートを検出することができる。
【0053】
以上のごとく、本形態によれば、構造の簡素化を図りつつ、センサセル3における電源16との短絡を検出することができるガスセンサ1を提供することができる。
【0054】
(実験例1)
本例では、図9図10のグラフに示すごとく、実施形態1に示すガスセンサを用いて、VBショート時の、各セルの温度と、各セルを流れる電流との関係を調べた。
【0055】
図9のグラフは、VBショート時の、ポンプセルの温度と、センサ電流、ポンプ電流、モニタ電流との関係を示すグラフである。図9のグラフに示すように、ポンプセルの温度が500℃未満のとき、VBショート時において、センサ電流の値は閾値を超えているものの、ポンプ電流及びモニタ電流の双方の値は閾値未満となっている。この結果は、固体電解質体の温度が低く、導電性を充分に備えるほど、固体電解質体が活性化されていなかったことが原因と考えられる。それゆえ、VBショート時であっても、ポンプ電流及びモニタ電流は閾値を超えなかったと考えられる。一方、ポンプセルの温度が500℃以上のとき、センサ電流、ポンプ電流、モニタ電流のすべてが閾値を超える結果となった。固体電解質体が充分に加熱され、VBショートを確実に判定できる程度に、固体電解質体が活性化されたためと考えられる。
【0056】
図10のグラフは、VBショート時の、センサセル及びモニタセルの温度と、センサ電流、ポンプ電流、モニタ電流との関係を示すグラフである。図10のグラフに示すように、センサセル及びモニタセルの温度が350℃未満のとき、センサ電流は閾値を超えているものの、ポンプ電流及びモニタ電流の双方の値は閾値未満となっている。この結果も、固体電解質体の温度が低く、固体電解質体が充分に活性化されていなかったことが原因と考えられる。そのため、VBショート時であっても、ポンプ電流及びモニタ電流は閾値を超えなかったと考えられる。一方、センサセル及びモニタセルの温度が350℃以上のとき、センサ電流、ポンプ電流、モニタ電流のすべてが閾値を超える結果となった。固体電解質体が充分に加熱され、VBショートを確実に判定できる程度に、固体電解質体が活性化されたためと考えられる。
【0057】
(実施形態2)
本形態のガスセンサ1は、図11に示すごとく、実施形態1に対し、センサ素子11に設けられたセルの種類を変更した形態である。
【0058】
本形態のガスセンサ1は、ポンプセル71と、サブポンプセル72と、を有する。サブポンプセル72は、ポンプセル71によって酸素濃度を調整された被測定ガスの酸素の濃度をさらに調整する。ポンプセル71及びサブポンプセル72のうち、少なくとも一方が、参照セル4である。本形態においては、ポンプセル71及びサブポンプセル72の双方が参照セル4となっている。
【0059】
本形態において、サブポンプセル72の一部は、センサセル3の一部及びポンプセル71の一部を構成する固体電解質体2と同一の固体電解質体2によって構成されている。また、サブポンプセル72は、サブポンプ電極28と基準電極22とを有する。サブポンプ電極28は、固体電解質体2における被測定ガス室10側の面に設置されている。また、サブポンプ電極28は、ポンプ電極23よりも基端側Z2であって、センサ電極21よりも先端側Z1に設けられている。本形態においては、サブポンプセル72の基準電極22と、ポンプセル71の基準電極22と、センサセル3の基準電極22とが一体化して、一つの共通電極となっている。
【0060】
サブポンプ電極28と基準電極22との間に電圧が印加されると、ポンプセル71によって酸素濃度を調整された被測定ガス中に残留する酸素は、サブポンプ電極28においてイオン化し、固体電解質体2を通って基準ガス室100に排出される。また、このとき、サブポンプセル72に流れる電流であるサブポンプ電流Ispが流れる。
【0061】
電流検出部5は、サブポンプセル72と電気的に接続している。電流検出部5とサブポンプ電極28とは、配線L6によって、互いに電気的に接続している。電流検出部5は、サブポンプ電流Ispを検出するよう構成されている。
【0062】
また、本形態のガスセンサ1は、モニタセルを有さない。
その他は、実施形態1と同様である。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0063】
ポンプセル71及びサブポンプセル72のうち、少なくとも一方が、参照セル4である。それゆえ、ポンプ電流Ip、又はサブポンプ電流Ispに基づいて、VBショートを検出することができる。その結果、構造の簡素化を図りつつ、VBショートを検出することができる。
【0064】
本形態においては、ポンプセル71及びサブポンプセル72の双方が参照セル4となっている。つまり、ポンプ電流Ipの値とサブポンプ電流Ispの値との双方をVBショートの判定に用いる。それゆえ、構造の簡素化を図りつつ、VBショートを、より精度高く検出することができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0065】
(実施形態3)
本形態のガスセンサ1は、図12に示すごとく、固体電解質体2を2つ有する形態である。
【0066】
本形態のガスセンサ1は、固体電解質体2として、第一電解質体25と第二電解質体26とを有する。本形態において、被測定ガス室10は、第一電解質体25と第二電解質体26との間に形成されている。また、第一電解質体25とヒータ基材層122との間に第一基準ガス室101が形成されており、第二電解質体26と、第二電解質体26の上側Y1に積層された遮蔽層121との間に、第二基準ガス室102が形成されている。
【0067】
第二電解質体26は、センサセル3の一部及びモニタセル73の一部を構成している。センサセル3は、センサ電極21と第二基準電極222とを有する。モニタセル73は、モニタ電極24と第二基準電極222とを有する。第二電解質体26における被測定ガス室10側の面にセンサ電極21及びモニタ電極24が設けられており、第二電解質体26における第二基準ガス室102側の面に第二基準電極222が設けられている。本形態においては、センサセル3の第二基準電極222とモニタセル73の第二基準電極222とが一体化して、一つの共通電極となっている。つまり、モニタセル73の一対の電極24,222は、センサセル3の一部を構成する固体電解質体2と同一の固体電解質体2上に設けられている。本形態において、モニタセル73は、参照セル4である。
【0068】
第一電解質体25は、ポンプセル71の一部を構成している。また、ポンプセル71は、ポンプ電極23と第一基準電極221とを有する。第一電解質体25における被測定ガス室10側の面にポンプ電極23が設けられており、第一電解質体25における第一基準ガス室101側の面に第一基準電極221が設けられている。つまり、ポンプセル71の一対の電極23,221は、センサセル3の一部を構成する第二電解質体26とは異なる固体電解質体2上に設けられている。本形態において、ポンプセル71は、参照セル4ではない。
その他は、実施形態1と同様である。
【0069】
本形態において、モニタセル73の一対の電極24,222は、センサセル3の一部を構成する固体電解質体2と同一の固体電解質体2上に設けられている。そのため、センサセル3がVBショートした場合、第二電解質体26を介して、参照セル4であるモニタセル73にもVBショートを起因とする電流が流れ、モニタ電流Imの大きさが閾値を超える。一方、ポンプセル71の一対の電極23,221は、センサセル3の一部を構成する第二電解質体26とは異なる第一電解質体25上に設けられている。それゆえ、センサセル3がVBショートした場合、ポンプセル71には閾値を超える電流は流れない。そのため、本形態においては、ポンプ電流Ipではなく、モニタ電流Imに基づいて、VBショートを検出することができる。その結果、構造の簡素化を図りつつ、VBショートを検出することができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0070】
(実施形態4)
本形態のガスセンサ1は、図13に示すごとく、実施形態1に対し、モニタセルを備えない形態である。
すなわち、本形態において、センサ素子11のセルは、センサセル3とポンプセル71とによって構成されている。そして、ポンプセル71は、参照セル4である。
その他は、実施形態1と同様である。
【0071】
本形態において、センサ素子11のセルは、センサセル3とポンプセル71とによって構成されている。それゆえ、構造の簡素化を一層図ることができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0072】
(比較形態1)
本形態のガスセンサ9は、図14に示すごとく、実施形態3に対し、モニタセルを備えない形態である。つまり、本形態においては、参照セル4を有さない。
その他は、実施形態3と同様である。
【0073】
(実験例2)
本例では、図15図16のグラフに示すごとく、実施形態4に示すガスセンサ(図13参照)、及び比較形態1に示すガスセンサ(図14参照)を用いて、センサセルをVBショートさせたときのセンサ電流の値とポンプ電流の値とを確認した。
【0074】
図16に示すごとく、参照セルを備えない比較形態1の場合、センサ電流は閾値を超えているものの、ポンプ電流は閾値を超えていない。ここで、比較形態1のガスセンサは、固体電解質体を2つ有する(図14参照)。そして、センサセルの一部を構成する固体電解質体とポンプセルの一部を構成する固体電解質体とは、互いに異なる固体電解質体である。そのため、センサセルのVBショートを起因としてポンプ電流は増加せず、ポンプ電流は閾値を超えなかったと考えられる。なお、ポンプ電流は、VBショート時において、VBショートが発生する前よりも電流値が大きくなっているが、これは、ポンプセルが、被測定ガスの酸素をポンピングしたときの電流値であり、VBショートを起因とした電流値の増加ではない。
【0075】
一方、図15に示すごとく、実施形態4の場合、センサ電流及びポンプ電流の双方が、閾値を超えている。実施形態4の場合、センサセルの一部を構成する固体電解質体と、ポンプセルの一部を構成する固体電解質体とは、互いに同じ固体電解質体である。そのため、固体電解質体が導電性を備えていることにより、センサセルがVBショートしたとき、ポンプ電流もVBショートに起因して増加し、閾値を超えたと考えられる。そのため、センサセルにVBショートが発生した場合、センサ電流とポンプ電流とに基づいて、確実にVBショートを検出することができると考えられる。
【0076】
上記実施形態1、2においては、モニタセル73及びサブポンプセル72のうち、一方のみを有する。ただし、ガスセンサは、モニタセル及びサブポンプセルの双方を備える構成とすることもできる。
【0077】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…ガスセンサ、2…固体電解質体、3…センサセル、4…参照セル、6…判定部、10…被測定ガス室、21,22…電極、51…センサ電流検出部、52…参照電流検出部、Is…センサ電流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16