(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126508
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20240912BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20240912BHJP
B68G 7/052 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B60N2/58
B60N2/64
B68G7/052 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034914
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多賀 博亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恭平
(72)【発明者】
【氏名】杉沼 広基
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DE03
(57)【要約】
【課題】コストの上昇を抑制しつつ、シート表皮に対する吊り込み力を向上させることが可能な車両用シートを得る。
【解決手段】シートバックパッド16には、縦溝30、横溝26及び交差溝32が形成され、交差溝32は縦溝30及び横溝26に対して交差している。トリムワイヤ52は直線状に形成され、横溝26内でインサートワイヤと対向可能に配置され、トリムワイヤ52の端末部52Aは横溝26内から交差溝32内へ向かって張り出しシートバックパッド16に突き当たるように設定される。トリムワイヤ52が設けられた部位では、ホグリングを介してトリムワイヤ52及びインサートワイヤでシートバック表皮18を吊り込み可能となるため、その分、インサートワイヤ34側の剛性が高くなり、シートバック表皮18の吊り込み力を向上させることができる。また、トリムワイヤ52に対して曲げ加工を行う必要もないため、コストの削減を図ることが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座乗員を弾性的に支持するパッドと、
前記パッドの意匠面を被覆するシート表皮と、
前記パッドの意匠面に凹設され、シート上下方向又はシート前後方向に沿って形成された縦溝と、前記縦溝と交差しシート幅方向に沿って形成された横溝と、前記縦溝と前記横溝の間に形成され当該縦溝及び当該横溝に対して交差する交差溝と、を含んで構成された溝部が形成され、前記溝部に対応して当該パッド内に埋設され、ホグリングを介して前記シート表皮を吊り込み可能とするインサートワイヤと、
前記横溝内において前記インサートワイヤと対向可能に配置されて前記ホグリングを介して当該インサートワイヤに係合され、端末部が当該横溝内から前記交差溝内へ向かって直線状に張り出し前記パッドに突き当たるトリムワイヤと、
を備えた車両用シート。
【請求項2】
前記パッドには、前記トリムワイヤの端末部が嵌合される嵌合部が形成されている請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記溝部は、奥壁部と、前記奥壁部とそれぞれ繋がり互いに対向して形成された一対の側壁部と、を含んで構成され、
前記嵌合部は、前記溝部と、前記一対の側壁部の一方から前記奥壁部と対向して張り出し、先端と前記一対の側壁部の他方との間に前記トリムワイヤが通過可能な隙間を設け、前記隙間を通じて前記奥壁部との間に前記トリムワイヤの端末部を配置可能とする張出片と、を含んで構成される請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記トリムワイヤは、前記端末部を除き直線状に形成されている請求項1に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記パッドは、着座乗員の上体を支持するシートバックパッドとされ、
前記シート表皮は、前記シートバックパッドの意匠面を被覆するシートバック表皮とされている請求項1に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載された車両用シートでは、シートバックの内部にインサートワイヤが設けられている。表皮側に設けられたワイヤとインサートワイヤとがホグリングによって連結されている。これにより、表皮がインサートワイヤによって吊り込まれた状態で支持されるようになっている。
【0003】
ここで、インサートワイヤが直線状の線材によって形成されている場合、インサートワイヤが引っ張られたときに、当該インサートワイヤがパッドから抜け出てしまうおそれがある。このため、先行技術では、インサートワイヤの上端部、下端部に、それぞれ上折曲げ部、下折曲げ部が形成されている。これにより、インサートワイヤに大きな引張り力が加わった場合でも当該インサートワイヤはパッドから抜け出ることがないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記先行技術では、インサートワイヤにおいて、上端部、下端部にそれぞれ上折曲げ部、下折曲げ部を形成するため、インサートワイヤの製造工程において、曲げ工程が追加されることになる。このため、その分コストが上昇してしまう。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、コストの上昇を抑制しつつ、シート表皮に対する吊り込み力を向上させることが可能な車両用シートを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に係る車両用シートは、着座乗員を弾性的に支持するパッドと、前記パッドの意匠面を被覆するシート表皮と、前記パッドの意匠面に凹設され、シート上下方向又はシート前後方向に沿って形成された縦溝と、前記縦溝と交差しシート幅方向に沿って形成された横溝と、前記縦溝と前記横溝の間に形成され当該縦溝及び当該横溝に対して交差する交差溝と、を含んで構成された溝部が形成され、前記溝部に対応して当該パッド内に埋設され、ホグリングを介して前記シート表皮を吊り込み可能とするインサートワイヤと、前記横溝内において前記インサートワイヤと対向可能に配置されて前記ホグリングを介して当該インサートワイヤに係合され、端末部が当該横溝内から前記交差溝内へ向かって直線状に張り出し前記パッドに突き当たるトリムワイヤと、を備えている。
【0008】
第1の態様に係る車両用シートでは、パッド、シート表皮、インサートワイヤ及びトリムワイヤを備えている。着座乗員はパッドによって弾性的に支持され、パッドの意匠面はシート表皮によって被覆されている。ここで、パッドの意匠面には、溝部が凹設されている。溝部は、縦溝、横溝及び交差溝を含んで構成されており、縦溝は、シート上下方向又はシート前後方向に沿って形成されている。一方、横溝は、縦溝と交差しシート幅方向に沿って形成されている。また、交差溝は、縦溝と横溝の間に形成されており、当該縦溝及び当該横溝に対して交差している。
【0009】
ここで、インサートワイヤは、溝部に対応して当該パッド内に埋設されており、ホグリングを介してシート表皮を吊り込み可能とする。一方、トリムワイヤは、横溝内においてインサートワイヤと対向可能に配置されており、ホグリングを介して当該インサートワイヤに係合される。また、トリムワイヤの端末部は、当該横溝内から交差溝内へ向かって直線状に張り出し、パッドに突き当たるように設定されている。
【0010】
トリムワイヤが設けられている部位では、ホグリングを介してトリムワイヤ及びインサートワイヤでシート表皮が吊り込み可能とされる。このため、トリムワイヤが設けられている部位では、トリムワイヤが設けられていない部位よりもインサートワイヤ側の剛性が高くなり、その分、シート表皮を吊り込む吊り込み力を向上させることができる。
【0011】
したがって、本態様では、吊り込み力を維持する拘束力を得て、シート表皮のハリ感を向上させることが可能となる。その結果、いわゆるインバース形状等においてもシート表皮によってパッドの造形の再現性を確保することが可能となる。
【0012】
一方、横溝内に設けられたトリムワイヤの端末部が横溝内から交差溝内へ向かって直線状に張り出しパッドに突き当たる。これにより、トリムワイヤの端末部には、パッドからの反力が得られる。その結果、トリムワイヤの端末部は変形が抑制され、トリムワイヤの端末部側の剛性が向上し、横溝の端までシート表皮を吊り込むことが可能となり、意匠性が向上する。
【0013】
このように、本態様では、横溝内に設けられたトリムワイヤの端末部を横溝内から交差溝内へ向かって直線状に張り出させパッドに突き当てるだけなので、トリムワイヤに対して曲げ加工を行う必要もなく、その分、コストの削減を図ることが可能となる。
【0014】
また、本態様では、シート幅方向に沿って形成された横溝内にインサートワイヤが配置されている。つまり、当該横溝内においてインサートワイヤ側の剛性をより高くして、シート表皮の吊り込み力を強化し、シート表皮に対して縦溝方向に沿って拘束力を向上させる。
【0015】
なお、ここでの「直線状」には、完全な直線以外に、設計上及び製造上において許容される略直線の意味も含まれ、また、意匠上の観点から直線に近い曲線も含む概念である。
【0016】
第2の態様に係る車両用シートは、第1の態様に係る車両用シートにおいて、前記パッドには、前記トリムワイヤの端末部が嵌合される嵌合部が形成されている。
【0017】
第2の態様に係る車両用シートでは、パッドには嵌合部が形成されており、当該嵌合部に対してトリムワイヤの端末部が嵌合されるように設定されている。これにより、トリムワイヤの端末部をパッドに突き当てる場合よりもトリムワイヤの端末部はさらに変形が抑制され、結果的にトリムワイヤの端末部側の剛性が向上する。
【0018】
第3の態様に係る車両用シートは、第1の態様~第3の態様の何れか1の態様に係る車両用シートにおいて、前記溝部は、奥壁部と、前記奥壁部とそれぞれ繋がり互いに対向して形成された一対の側壁部と、含んで構成され、前記嵌合部は、前記溝部と、前記一対の側壁部の一方から前記奥壁部と対向して張り出し、先端と前記一対の側壁部の他方との間に前記トリムワイヤが通過可能な隙間を設け、前記隙間を通じて前記奥壁部との間に前記トリムワイヤの端末部を配置可能とする張出片と、を含んで構成される。
【0019】
第3の態様に係る車両用シートでは、溝部は、奥壁部と一対の側壁部を含んで構成されており、一対の側壁部は奥壁部とそれぞれ繋がり互いに対向して形成されている。嵌合部は、当該溝部及び張出片を含んで構成されており、当該張出片は一対の側壁部の一方から奥壁部と対向して張り出して形成されている。張出片の先端と一対の側壁部の他方との間には、トリムワイヤが通過可能な隙間が設けられており、当該隙間を通じて奥壁部との間にトリムワイヤの端末部が配置される。この状態で、トリムワイヤの端末部が溝部及び張出片によって嵌合される。つまり、トリムワイヤの端末部は張出片によって抜け止めされる。
【0020】
第4の態様に係る車両用シートは、第1の態様~第3の態様の何れか1の態様に係る車両用シートにおいて、前記トリムワイヤは、前記端末部を除き直線状に形成されている。
【0021】
第4の態様に係る車両用シートでは、トリムワイヤは直線状に形成され、端末部については、例えば折り返しが形成されてもよい。トリムワイヤが直線状に形成されることによって、トリムワイヤを曲げる必要が無い分、コスト削減を図ることが可能となる。
【0022】
第5の態様に係る車両用シートは、第1の態様~第4の態様の何れか1の態様に係る車両用シートにおいて、前記パッドは、着座乗員の上体を支持するシートバックパッドとされ、前記シート表皮は、前記シートバックパッドの意匠面を被覆するシートバック表皮とされている。
【0023】
第5の態様に係る車両用シートでは、パッドは、着座乗員の上体を支持するシートバックパッドに適用され、シート表皮は、当該シートバックパッドの意匠面を被覆するシートバック表皮に適用される。シートバック側では、背面側において凹状に形成されるいわゆるインバース形状とされる場合があるが、本態様では、当該シートバックのシート表皮において吊り込み力が強化されるため、当該インバース形状においてシート表皮によってパッドの造形の再現性を確保することが可能となり、意匠上特に効果的である。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明に係る車両用シートでは、コストの上昇を抑制しつつ、シート表皮に対する吊り込み力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施の形態に係る車両用シートのシートバックを示す正面図である。
【
図3】
図2のA-A線に沿って切断した切断面においてシートバック表皮を吊り込んだ状態を示す断面図である。
【
図4】(A)は、本実施の形態に係る車両用シートのシートバックの変形例1を示す
図2に対応する拡大正面図であり、(B)は、
図4(A)のB-B線に沿って切断した断面図である。
【
図5】(A)は、本実施の形態に係る車両用シートのシートバックの変形例2を示す
図2に対応する拡大正面図であり、(B)は、
図5(A)のC-C線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態に係る車両用シート10について説明する。
なお、図中矢印FRはシート前後方向の前方向を示し、矢印UPはシート上下方向の上方向を示し、矢印RHはシート幅方向の右方向を示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、シート前後方向の前後、シート幅方向の左右、シート上下方向の上下を示すものとする。
【0027】
(車両用シートの構成)
まず、車両用シートの構成について説明する。
【0028】
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、図示はしないが、着座乗員の臀部をシート下方側から支持するシートクッション(図示省略)と、着座乗員の背部をシート後方側から支持するシートバック12と、着座乗員の頭部を支持するヘッドレスト14と、を備えている。
【0029】
ここで、シートバック12は、当該シートバック12の骨格部材を成し正面視で矩形枠状を成すシートバックフレーム(図示省略)と、該シートバックフレームを覆い着座乗員を弾性的に支持するシートバックパッド(パッド)16と、該シートバックパッド16を覆い意匠面を構成するシートバック表皮(シート表皮)18と、を含んで構成されている。
【0030】
シートバックパッド16は、シート幅方向の中央部を構成するセンター部20とシート幅方向の両側部を構成する一対のサイド部22、24を含んで構成されている。センター部20の上部側には、シート幅方向に沿って横溝(溝部28)26が形成されている。この横溝26を基点としてセンター部20は、センター上部20Aとセンター下部20Bに分けられている。
【0031】
また、センター部20とサイド部22、24の間には、それぞれシート上下方向に沿って縦溝(溝部28)30が形成されている。縦溝30と横溝26の間には、交差溝(溝部28)32がそれぞれ設けられている。交差溝32は、横溝26の端末からシート幅方向の外側へ向かうにつれてシート上下方向の下方側へ向かって傾斜しており、当該交差溝32によって横溝26と縦溝30がそれぞれ繋がっている。
【0032】
縦溝30は、交差溝32を基点として縦溝上部30Aと縦溝下部30Bに分けられており、縦溝上部30Aと縦溝下部30Bは同一直線状にはなく、縦溝上部30Aと縦溝下部30Bは180°未満の角度を有している。勿論、縦溝上部30Aと縦溝下部30Bが同一直線状(略180°の角度を成す)と形成されるように設定されてもよい。シートバックパッド16には、溝部28に対応してインサートワイヤ34(
図2参照)が一体発泡成形によりシートバックパッド16内に埋設されている。
【0033】
なお、溝部28(横溝26、縦溝30及び交差溝32)は、
図3に示されるように、奥壁部28Aと当該奥壁部28Aとそれぞれ繋がり互いに対向して形成された一対の側壁部28B、28Cと、含んでそれぞれ構成されている。なお、
図3は、
図2で示すA-A線に沿って切断した切断面においてシートバック表皮18を吊り込んだ状態を示す断面図である。
【0034】
図1に示される当該シートバックパッド16は、シートバック表皮18によって意匠面16Aが覆われている。前述のように、シートバックパッド16は、センター上部20A、センター下部20B及びサイド部22、24を含んで構成されている。このため、シートバック表皮18は、当該センター上部20A、センター下部20B及びサイド部22、24にそれぞれ対応して、複数の表皮片36、38、40、42を含んで構成されている。なお、シートバック表皮18の材料としては、布材、皮革、合成皮革、その他の材料が適用される。
【0035】
そして、
図3に示されるように、隣接する表皮片(ここでは表皮片36、38)同士は縫製され一体化される(縫製部44)。この縫製部44には、例えば、吊り込み袋46が共縫いされており、吊り込み袋46内にはワイヤ48が挿通されている。
【0036】
このワイヤ48が、例えば、横溝26における所定の箇所において、ホグリング50を介してインサートワイヤ34と連結固定されることによって、シートバック表皮18が吊り込まれることになる。これにより、シートバック表皮18には張力が付与され、ハリ感が得られる。なお、縦溝30側においても横溝26と同様に、ホグリング50を介してシートバック表皮18が吊り込まれる。
【0037】
ここで、本実施形態では、
図1、
図2に示されるように、シートバックパッド16の横溝26内には、インサートワイヤ34と対向可能に配置されたトリムワイヤ52が設けられている。なお、
図2は、
図1で示すA部を拡大した拡大図である。当該トリムワイヤ52は、直線状に形成されており、トリムワイヤ52の端末部52Aは、折り返しされた状態で2本重なったように形成されている。また、トリムワイヤ52の端末部52Aは、当該横溝26内から交差溝32内へ向かって直線状に張り出しており、交差溝32の側壁部28Bに突き当たるように設定されている。
【0038】
(車両用シートの作用及び効果)
次に、車両用シートの作用及び効果について説明する。
【0039】
図1、
図2に示されるように、車両用シート10では、シートバックパッド16、シートバック表皮18、インサートワイヤ34及びトリムワイヤ52を備えている。シートバックパッド16の意匠面16Aには、溝部28が凹設されている。溝部28は、縦溝30、横溝26及び交差溝32を含んで構成されており、縦溝30は、シート上下方向に沿って形成されている。一方、横溝26は、縦溝30と交差しシート幅方向に沿って形成されている。また、交差溝32は、縦溝30と横溝26の間に形成されており、当該縦溝30及び当該横溝26に対して交差している。
【0040】
ここで、インサートワイヤ34は、溝部28に対応して当該シートバックパッド16内に埋設されており、ホグリング50(
図3参照)を介してシートバック表皮18を吊り込み可能とする。一方、トリムワイヤ52は、横溝26内においてインサートワイヤ34と対向可能に配置され、ホグリング50を介して当該インサートワイヤ34に係合される。当該トリムワイヤ52の端末部52Aは、当該横溝26内から交差溝32内へ向かって直線状に張り出し、シートバックパッド16に突き当たるように設定されている。
【0041】
トリムワイヤ52が設けられている部位では、ホグリング50を介してトリムワイヤ52及びインサートワイヤ34でシートバック表皮18を吊り込み可能となる。このため、トリムワイヤ52が設けられている部位では、トリムワイヤ52が設けられていない部位よりもインサートワイヤ34側の剛性が高くなる。
【0042】
このように、インサートワイヤ34側の剛性が高くなった分、シートバック表皮18を吊り込む吊り込み力を強くすることができ、吊り込み力を維持する拘束力を得て、シートバック表皮18のハリ感を向上させることが可能となる。その結果、いわゆるインバース形状等においてもシートバック表皮18によってシートバックパッド16の造形の再現性を確保することが可能となる。
【0043】
ところで、シートバック12側では、背面側において凹状に形成されるいわゆるインバース形状とされる場合があるが、本態様では、当該シートバック表皮18において吊り込み力が強化されるため、当該インバース形状においてシートバック表皮18によってパッドの造形の再現性を確保することが可能となり、意匠上特に効果的である。
【0044】
また、本実施形態では、シートバックパッド16の横溝26内に設けられたトリムワイヤ52の端末部52Aが横溝26内から交差溝32内へ向かって直線状に張り出し交差溝32の側壁部28Bに突き当たるように設定されている。
【0045】
これにより、本実施形態では、トリムワイヤ52の端末部52Aにはシートバックパッド16からの反力が得られ、トリムワイヤ52の端末部52Aは変形が抑制される。言い換えると、トリムワイヤ52の端末部52A側の剛性が向上し、横溝26の端までシートバック表皮18を吊り込むことが可能となり、意匠性が向上する。
【0046】
また、本実施形態では、シート幅方向に沿って形成された横溝26内にインサートワイヤ34が配置されている。つまり、当該横溝26内においてインサートワイヤ34側の剛性をより高くして、シートバック表皮18の吊り込み力を強化し、シートバック表皮18に対して縦溝30方向に沿って拘束力を向上させる。
【0047】
図示はしないが、リクライニング動作を含め、着座乗員の着座姿勢により着座乗員が、シートクッションに対してシート前後方向に沿って移動すると共にシートバック12に対してシート上下方向に沿って移動する際、着座乗員とシートバック表皮18との間に生じる摩擦力によりシートバック表皮18には前後又は上下する。このため、シートバック表皮18に対して縦溝30方向に沿って拘束力を向上させることによって、シートバック表皮18のハリ感を維持することが可能となる。
【0048】
ここで、比較例として、図示はしないが、トリムワイヤ52の端末部52Aを交差溝32の形状に沿って形成することで、シートバック表皮18による吊り込み力に対してトリムワイヤ52の変形を抑制することが考えられる。しかしながら、この場合、トリムワイヤ52の端末部52Aを交差溝32の形状に沿って曲げ加工する必要が生じ、トリムワイヤ52のコストが上昇してしまう。
【0049】
これに対して、本実施形態では、横溝26内に設けられたトリムワイヤ52の端末部52Aを横溝26内から交差溝32内へ向かって直線状に張り出させ交差溝32の側壁部28Bに突き当てるだけなので、トリムワイヤ52に対して曲げ加工を行う必要もなく、その分、コストの削減を図ることが可能となる。
【0050】
すなわち、本実施形態では、コストの上昇を抑制しつつ、シートバック表皮18に対する吊り込み力を向上させることができる。このように、シートバック表皮18に対する吊り込み力を向上させることによって、ホグリング50の数を削減することができ、さらにコストの削減を図ることが可能となる。
【0051】
なお、本実施形態では、トリムワイヤ52の端末部52Aがシートバックパッド16に凹設された横溝26内から交差溝32内へ向かって直線状に張り出し当該シートバックパッド16に突き当たるように設定されているが、シートバック表皮18に対する吊り込み力を向上させることができればよいため、これに限るものではない。
【0052】
例えば、変形例1として、
図4(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド16において、トリムワイヤ52の端末部52Aが嵌合される嵌合部54が形成されてもよい。変形例1では、例えば、嵌合部54が横溝26に設けられ、横溝26の側壁部28Bから奥壁部28Aと対向して張出片56が張り出している。
【0053】
張出片56は、正面視で略矩形状を成しており、張出片56の先端と側壁部28Cの間にはトリムワイヤ52が通過可能な隙間58が設けられている。この隙間58を通じて張出片56と奥壁部28Aの間にトリムワイヤ52の端末部52Aが配置される。この状態で、トリムワイヤ52の端末部52Aが溝部28及び張出片56によって嵌合される。これにより、トリムワイヤ52の端末部52Aは、張出片56によって抜け止めされる。
【0054】
このように、嵌合部54に対してトリムワイヤ52の端末部52Aが嵌合されるように設定されることで、トリムワイヤ52の端末部52Aをシートバックパッド16に突き当てる場合よりもトリムワイヤ52の端末部52Aはさらに変形を抑制することができ、結果的にトリムワイヤ52の端末部52A側の剛性が向上することになる。
【0055】
また、上記変形例1では、嵌合部54は横溝26に設けられているが、横溝26に限るものではない。
図5(A)、(B)に示されるように、変形例2として、嵌合部60が横溝26と交差溝32が交差する交差部位62を含んで横溝26から交差溝32に亘って設けられてもよい。この場合、横溝26の交差部位62側の側壁部28Bから交差溝32の交差部位62側の側壁部28Bに亘り奥壁部28Aと対向して張出片64が張り出す。
【0056】
張出片64は張出片56(
図4(A)参照)よりも面積が大きい分、張出片56よりも剛性が高くなる。このため、トリムワイヤ52の端末部52Aはより変形が抑制され、トリムワイヤ52の端末部52A側の剛性はさらに向上する。
【0057】
なお、以上の実施形態では、トリムワイヤ52の端末部52Aは折り返されて形成されているが、必ずしも折り返される必要は無い。トリムワイヤ52の端末部52Aを折り返さない場合、折り返しの加工を行う必要が無くなり、さらにコスト削減を図ることが可能となる。
【0058】
また、以上の実施形態では、シートバック12側について説明したが、シートクッション側にも適用可能である。
【0059】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
10 車両用シート
12 シートバック
16 シートバックパッド(パッド)
16A 意匠面
18 シートバック表皮(シート表皮)
26 横溝(溝部)
28 溝部
28A 奥壁部(溝部)
28B 側壁部(溝部)
28C 側壁部(溝部)
30 縦溝(溝部)
32 交差溝(溝部)
34 インサートワイヤ
50 ホグリング
52 トリムワイヤ
52A 端末部
54 嵌合部
56 張出片
58 隙間
60 嵌合部
64 張出片