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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126517
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
   B65H 57/02 20060101AFI20240912BHJP
   B65H 57/26 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B65H57/02
B65H57/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034926
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】田中 竣也
(72)【発明者】
【氏名】松井 崇倫
【テーマコード(参考)】
3F110
【Fターム(参考)】
3F110AA02
3F110DA06
3F110DB08
3F110DB11
(57)【要約】
【課題】糸掛けの際に支点ガイドが糸から大きな力を受けることを抑制する。
【解決手段】糸巻取機10は、円筒形状の支点ガイド16と、サクションガン60によって糸Yを吸引保持させた状態で支点ガイド16に糸掛けをする際に、支点ガイド16に掛けられる糸Yが支点ガイド16と接触しないように預けられる糸預けガイド31と、を有する第2ガイドユニット15bを含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンホルダに装着された複数の前記ボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、
糸を綾振りしながら前記ボビンに巻き取る際の支点となる円筒形状の支点ガイドと、
糸を吸引保持する吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態で前記支点ガイドに糸掛けをする際に、前記支点ガイドに掛けられる糸が前記支点ガイドと接触しつつ預けられる糸預けガイドと、
を有するガイドユニットを備え、
前記糸預けガイドは、下記式(1)を満たすように配置されていることを特徴とする糸巻取機。
θ1<θ2・・・(1)
θ1:
前記支点ガイドへの糸掛けの際に糸が前記糸預けガイドに預けられたときにおいて、
前記支点ガイドの軸方向から見たときの、
前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの糸走行方向の上流側の接触点を終点とする第1ベクトルと、
前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の下流側の接触点を終点とする第2ベクトルと、
のなす屈曲角度
θ2:
前記支点ガイドへの糸掛けの際に糸が前記糸預けガイドに預けられることなく前記支点ガイドに直接掛けられると仮定した場合において、
前記支点ガイドの軸方向から見たときの、
前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の上流側の接触点を終点とする仮想第1ベクトルと、
前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の下流側の接触点を終点とする仮想第2ベクトルと、のなす仮想屈曲角度
【請求項2】
ボビンホルダに装着された複数の前記ボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、
糸を綾振りしながら前記ボビンに巻き取る際の支点となる円筒形状の支点ガイドと、
糸を吸引保持する吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態で前記支点ガイドに糸掛けをする際に、前記支点ガイドに掛けられる糸が前記支点ガイドと接触しないように預けられる糸預けガイドと、
を有するガイドユニットを備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項3】
前記支点ガイドよりも下側の位置且つ前記支点ガイドに糸掛けをする際に前記吸引保持部材と前記糸預けガイドとの間となる位置に配置され、前記糸預けガイドに預けられた糸が前記支点ガイドに接触することを阻害する阻害部を備えることを特徴とする請求項2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記支点ガイドは、中心軸周りに回転可能であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記支点ガイドは、固定配置されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記糸預けガイドは、前記糸巻取機のうちの前記支点ガイドよりも前記糸走行方向の下流側の構成部分への糸掛けに伴って糸が外れ、前記支点ガイドに掛けられるように構成されていることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項7】
前記糸預けガイドは、前記ボビンの周面に形成された溝に糸が掛けられるのに伴って糸が外れるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の糸巻取機。
【請求項8】
糸走行方向において前記支点ガイドの下流側には、糸が掛けられた状態で移動可能な下流側部材が配置されており、
前記糸預けガイドは、前記下流側部材が移動するのに伴って糸が外れるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の糸巻取機。
【請求項9】
前記糸預けガイドは、前記支点ガイドの軸方向に延び、糸が預けられる糸預け部を有することを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項10】
前記糸預け部は、前記軸方向において前記支点ガイドの途中まで延びていることを特徴とする請求項9に記載の糸巻取機。
【請求項11】
前記糸預けガイドは、前記軸方向と交差する交差方向に延び、前記糸預け部から糸が脱落することを防止する脱落紡糸部を有することを特徴とする請求項9又は10に記載の糸巻取機。
【請求項12】
前記ガイドユニットが、前記ボビンホルダの巻取軸方向に複数並んでいることを特徴とする請求項1~11の何れか1項に記載の糸巻取機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を綾振りしながらボビンに巻き取る際の支点となる支点ガイドを有するガイドユニットを備える糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸装置から紡出された糸を綾振りしながらボビンに巻き取る糸巻取機が知られている。このような糸巻取機には、糸を綾振りする際の支点となる複数の支点ガイドが設けられている。例えば、特許文献1、2では、円筒形状の支点ガイド(特許文献2では案内ローラ)が設けられており、支点ガイドの外周面に糸が掛けられる。
【0003】
支点ガイドには、例えば、特許文献1のように、糸巻き取り時に中心軸周りに回転しないように構成された固定式の支点ガイドがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-23787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような支点ガイドへの糸掛けは、例えば、オペレータが、糸を吸引保持させた吸引保持部材(例えばサクションガン)を操作することで行われる。吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態では、糸の巻き取り中と比べて糸の張力が大きくなる。ところで、糸巻取機に設けられる複数の支点ガイドに糸掛けをする際に、オペレータが吸引保持部材を操作する場所から離れた位置に配置される支点ガイドには、糸が大きく屈曲した状態で掛けられる。吸引保持部材に吸引保持されることで張力が大きくなっている糸を支点ガイドに掛ける際に、糸が大きく屈曲した状態で支点ガイドに接触すると、糸が支点ガイドに強く押し当てられて、支点ガイドは糸から大きな力を受ける。そうすると、次のような問題が生じる。
【0006】
例えば、上述の特許文献1のような固定式の支点ガイドの場合、糸が支点ガイドに強く押し当てられた状態で走行することで支点ガイドが摩耗しやすくなる。
【0007】
以上の課題に鑑みて、本発明では、糸掛けの際に支点ガイドが糸から大きな力を受けることを抑制できる糸巻取機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の糸巻取機は、ボビンホルダに装着された複数の前記ボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、糸を綾振りしながら前記ボビンに巻き取る際の支点となる円筒形状の支点ガイドと、糸を吸引保持する吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態で前記支点ガイドに糸掛けをする際に、前記支点ガイドに掛けられる糸が前記支点ガイドと接触しつつ預けられる糸預けガイドと、を有するガイドユニットを備え、前記糸預けガイドは、下記式(1)を満たすように配置されていることを特徴とするものである。
θ1<θ2・・・(1)
θ1:前記支点ガイドへの糸掛けの際に糸が前記糸預けガイドに預けられたときにおいて、前記支点ガイドの軸方向から見たときの、前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの糸走行方向の上流側の接触点を終点とする第1ベクトルと、前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の下流側の接触点を終点とする第2ベクトルと、のなす屈曲角度
θ2:前記支点ガイドへの糸掛けの際に糸が前記糸預けガイドに預けられることなく前記支点ガイドに直接掛けられると仮定した場合において、前記支点ガイドの軸方向から見たときの、前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の上流側の接触点を終点とする仮想第1ベクトルと、前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の下流側の接触点を終点とする仮想第2ベクトルと、のなす仮想屈曲角度
【0009】
支点ガイドに糸掛けを行うために吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態では、糸の巻き取り中と比べて糸の張力は大きくなる。このように張力が大きくなっている糸を支点ガイドに掛ける際に、糸が大きく屈曲した状態で支点ガイドに接触すると、糸が支点ガイドに強く押し当てられて、支点ガイドは糸から大きな力を受ける。本発明によれば、糸掛けの際に、糸が糸預けガイドに預けられたときの糸の支点ガイドに対する屈曲角度θ1を、糸が支点ガイドに直接掛けられたときの糸の支点ガイドに対する仮想屈曲角度θ2よりも小さくできる。すなわち、糸掛けの際に糸を糸預けガイドに預けることによって、糸が大きく屈曲した状態で支点ガイドに接触することを抑制できる。これにより、糸掛けの際に支点ガイドが糸から大きな力を受けることを抑制できる。
【0010】
または、本発明の糸巻取機は、ボビンホルダに装着された複数の前記ボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、糸を綾振りしながら前記ボビンに巻き取る際の支点となる円筒形状の支点ガイドと、糸を吸引保持する吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態で前記支点ガイドに糸掛けをする際に、前記支点ガイドに掛けられる糸が前記支点ガイドと接触しないように預けられる糸預けガイドと、を有するガイドユニットを備えることを特徴とするものである。
【0011】
支点ガイドに糸掛けを行うために吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態では、糸の巻き取り中と比べて糸の張力は大きくなる。このように張力が大きくなっている糸を支点ガイドに掛ける際に、糸が大きく屈曲した状態で支点ガイドに接触すると、糸が支点ガイドに強く押し当てられて、支点ガイドは糸から大きな力を受ける。本発明によれば、糸掛けの際に糸を糸預けガイドに預けることによって、支点ガイドと糸とが接触しないようにすることができる。これにより、糸掛けの際に支点ガイドが糸から大きな力を受けることを抑制できる。
【0012】
本発明の糸巻取機において、前記支点ガイドよりも下側の位置且つ前記支点ガイドに糸掛けをする際に前記吸引保持部材と前記糸預けガイドとの間となる位置に配置され、前記糸預けガイドに預けられた糸が前記支点ガイドに接触することを阻害する阻害部を備えることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、糸預けガイドに糸を預けた後、吸引保持部材が糸預けガイドよりも上側に移動したとしても、吸引保持部材と糸預けガイドの間を走行する糸は阻害部に下側から接触し、阻害部よりも上側に移動することが規制される。これにより、糸掛けの際に、より確実に支点ガイドに糸が接触しないようにすることができる。
【0014】
本発明の糸巻取機において、前記支点ガイドは、中心軸周りに回転可能であることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、糸掛けの際に、回転式の支点ガイドが糸から大きな力を受けることを抑制できる。したがって、糸掛けの際に支点ガイドが糸から大きいトルクを受けて高速回転してしまうことを抑制でき、支点ガイドの軸受構造の劣化が進行することを効果的に抑制できる。
【0016】
本発明の糸巻取機において、前記支点ガイドは、固定配置されていることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、糸掛けの際に、固定式の支点ガイドが糸から大きな力を受けることを抑制できる。したがって、糸掛けの際に糸が支点ガイドに強く押し当てられることを抑制でき、支点ガイドが激しく摩耗することを効果的に抑制できる。
【0018】
本発明の糸巻取機において、前記糸預けガイドは、前記糸巻取機のうちの前記支点ガイドよりも前記糸走行方向の下流側の構成部分への糸掛けに伴って糸が外れ、前記支点ガイドに掛けられるように構成されていることが好ましい。
【0019】
本発明では、支点ガイドよりも下流側の構成部分への糸掛けに伴って糸預けガイドから糸が外れる。このため、糸預けガイドから糸を外すための動作が不要となり、糸預けガイドから支点ガイドへの糸の受け渡しを容易に行うことができる。
【0020】
本発明の糸巻取機において、前記糸預けガイドは、前記ボビンの周面に形成された溝に糸が掛けられるのに伴って糸が外れるように構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、ボビンの周面に形成された溝に糸が掛けられるのに伴って糸預けガイドから糸が外れる。このため、糸預けガイドから糸を外すための動作が不要となり、糸預けガイドから支点ガイドへの糸の受け渡しを容易に行うことができる。
【0022】
本発明の糸巻取機において、糸走行方向において前記支点ガイドの下流側には、糸が掛けられた状態で移動可能な下流側部材が配置されており、前記糸預けガイドは、前記下流側部材が移動するのに伴って糸が外れるように構成されていることが好ましい。
【0023】
本発明によれば、下流側部材が移動するのに伴って糸預けガイドから糸が外れる。このため、糸預けガイドから糸を外すための動作が不要となり、糸預けガイドから支点ガイドへの糸の受け渡しを容易に行うことができる。
【0024】
本発明の糸巻取機において、前記糸預けガイドは、前記支点ガイドの軸方向に延び、糸が預けられる糸預け部を有することが好ましい。
【0025】
本発明によれば、軸方向に延びる糸預け部に糸を沿わせながら預ければよく、糸預けガイドに糸を預けることが容易となる。
【0026】
本発明の糸巻取機において、前記糸預け部は、前記軸方向において前記支点ガイドの途中まで延びていることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、糸預け部の端部から外れた糸は、軸方向において支点ガイドの途中に位置する。このため、糸預けガイドから外れた糸を軸方向に移動させることなく支点ガイドに受け渡すことができる。したがって、糸預けガイドから外れた糸を支点ガイドに受け渡すことが容易となる。
【0028】
本発明の糸巻取機において、前記糸預けガイドは、前記軸方向と交差する交差方向に延び、前記糸預け部から糸が脱落することを防止する脱落紡糸部を有することが好ましい。
【0029】
本発明によれば、脱落防止部によって糸預けガイドから糸が意図せずに外れてしまうことを抑制することができる。
【0030】
本発明の糸巻取機において、前記ガイドユニットが、前記ボビンホルダの巻取軸方向に複数並んでいることが好ましい。
【0031】
このような糸巻取機によれば、糸掛けの際に糸が強く押し当てられる複数の支点ガイドについて、糸から大きな力を受けることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本実施形態に係る紡糸引取装置の側面図である。
図2】前後方向に並べられた複数のガイドユニットを示す側面図である。
図3】第2ガイドユニットの側面図である。
図4】糸掛けの際の支点ガイドに糸が直接掛けられると仮定した場合の第2ガイドユニットの側面図である。
図5図3をV方向から見た図である。
図6】(a)糸巻き取り中における支点ガイドの側面図であり、(b)糸巻き取り中において支点ガイドに掛けられる糸の屈曲角度と支点ガイドの回転数との関係を示す表である。
図7】第2変形例に係る第2ガイドユニットの側面図である。
図8】第3変形例に係る第2ガイドユニットの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るガイドユニットを有する糸巻取機を紡糸引取装置に適用した実施形態について説明する。
【0034】
(紡糸引取装置)
図1は、本実施形態に係る紡糸引取装置1の側面図である。本明細書では、図1に示す前後左右上下の各方向を、紡糸引取装置1の前後左右上下と定義する。
【0035】
紡糸引取装置1は、紡糸装置2から紡出される複数(本実施形態では16本)の糸Yを引き取る装置であり、ゴデットローラ3、4及び糸巻取機10を備えている。紡糸装置2は、紡糸引取装置1の上方に配置されており、合成樹脂からなる複数の糸Yを紡出する。ゴデットローラ3、4は、紡糸装置2の下方に配置されており、不図示のモータによって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、ゴデットローラ3、4を経由して、糸巻取機10へ送られる。
【0036】
糸巻取機10は、ゴデットローラ3、4の下方に配置されている。糸巻取機10は、機台11に内蔵されたターレット12によって片持ち支持された2本のボビンホルダ13を有する。ボビンホルダ13は前後方向に延びている。すなわち、ボビンホルダ13の巻取軸方向は前後方向となっている。ボビンホルダ13の後端部は、ターレット12によって支持されている。ボビンホルダ13には、前後方向に複数のボビンBを装着することができる。ボビンホルダ13に装着される各ボビンBの周面には溝50が形成されている(図1参照)。より詳細には、各ボビンBの周面の端部近傍の位置には、糸が掛けられる溝50が形成されている。紡糸装置2から紡出された糸Yは、まずボビンBに形成された溝50に掛けられ、その後トラバース装置17(後述)によって糸Yが綾振られることでボビンBの周面全体に巻き取られる。ボビンホルダ13は、不図示のモータによって軸周りに回転駆動される。
【0037】
ターレット12は、前後方向に平行な回転軸を有する円板状の部材であり、周方向に180度異なる上位置と下位置とのそれぞれにボビンホルダ13が取り付けられている。ターレット12を回転させることによって、2本のボビンホルダ13が上位置と下位置との間で移動する。上位置のボビンホルダ13では、複数の糸Yを複数のボビンBに巻き取って、複数のパッケージPを形成する。一方、下位置のボビンホルダ13では、複数のパッケージPの回収、及び、新しい複数のボビンBの装着が行われる。
【0038】
糸巻取機10は、機台11に片持ち支持された支持フレーム14を有する。支持フレーム14は、その後端部が機台11によって支持されている。支持フレーム14の上方には、複数のガイドユニット15が配置されている。複数のガイドユニット15は、糸Yの本数と同じ数が、前後方向に並んで設けられている。すなわち、本実施形態では、16個のガイドユニット15が前後方向に並んで設けられている。なお、図2(a)では、16個のガイドユニット15のうちの一部のガイドユニット15の記載は省略している。各ガイドユニット15は、支点ガイド16を有する。支持フレーム14には、糸Yの本数と同じ数のトラバース装置17が前後方向に並んで設けられている。トラバース装置17は、対応するガイドユニット15の支点ガイド16を支点として糸Yを前後方向に綾振りさせる。
【0039】
支持フレーム14の下方には、支持フレーム14によって回転可能に支持されたコンタクトローラ18が配置されている。コンタクトローラ18は、上位置のボビンホルダ13に保持されている複数のパッケージPの外周面に接触する。糸巻き取り時に、コンタクトローラ18がパッケージPに所定の接圧を付与しながら回転することで、パッケージPの形状を整えることができる。
【0040】
(ガイドユニット)
ガイドユニット15の構成について図2図5を参照しつつ説明する。図2は、前後方向に並べられた複数のガイドユニット15の側面図である。図2のa図は、複数のガイドユニット15が離間位置に位置する状態を示し、図2のb図は、複数のガイドユニット15が近接位置に位置する状態を示す。離間位置とは、複数のボビンBに複数の糸Yを巻き取るときの複数のガイドユニット15の位置である。近接位置とは、複数のガイドユニット15に複数の糸Yを掛けるときの複数のガイドユニット15の位置である。近接位置にある複数のガイドユニット15は、互いに近接している。離間位置にある複数のガイドユニット15は、近接位置にあるときと比べて互いに離間している。複数のガイドユニット15は、離間位置と近接位置との間で移動可能に構成されている。また、近接位置にある複数のガイドユニット15は、離間位置にあるときと比べて、全体として前後方向の前側に寄せられている。本実施形態では、複数のガイドユニット15への糸掛け作業は、糸巻取機10の前側から行われる。
【0041】
複数のガイドユニット15は、第1ガイドユニット15aと第2ガイドユニット15bとに分けられる。第1ガイドユニット15aは、16個のガイドユニット15のうちの前側の12個のガイドユニット15である。第2ガイドユニット15bは、16個のガイドユニット15のうちの後側の4個のガイドユニット15である。以下、単にガイドユニット15と言う場合、第1ガイドユニット15aと第2ガイドユニット15bの両方を指すものとする。まず、第1ガイドユニット15a及び第2ガイドユニット15bに共通する構成について説明する。
【0042】
(第1ガイドユニット及び第2ガイドユニットに共通する構成)
図2に示すように、各ガイドユニット15は、支点ガイド16と、スライダ21とを有する。支点ガイド16は、トラバース装置17によって糸Yを綾振りしながらボビンBに巻き取る際の支点となるガイドである。支点ガイド16は円筒形状を有する。支点ガイド16は左右方向を軸方向とする。支点ガイド16は、中心軸周りに回転可能に構成されている。また、支点ガイド16には、所定の大きさの回転抵抗が付与されている。糸Yは、支点ガイド16の外周面に掛けられ、糸巻き取り時には支点ガイド16の外周面に接触した状態で走行する。
【0043】
スライダ21は、支点ガイド16を支持する部材である。スライダ21は、前後方向に延びる案内レール22に摺動可能に取り付けられている。より詳細には、案内レール22には、複数のスライダ21が前後方向に並んだ状態で摺動可能に取り付けられている。互いに隣り合うスライダ21同士は、不図示のベルトによって連結されている。案内レール22は、不図示のブラケットを介して支持フレーム14に固定されている。各スライダ21は、エアシリンダ23によって、案内レール22に沿った前後方向への移動が駆動される。これにより、各ガイドユニット15は、離間位置と近接位置との間で移動する。エアシリンダ23は、最も後側のスライダ21よりも後側に配置されている。例えば、エアシリンダ23のロッド23aが、最も後側のスライダ21に連結されている。なお、複数のスライダ21を移動させる駆動装置は、エアシリンダ23に限定されず、モータ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0044】
ここで、支点ガイド16への糸掛けは、例えば、オペレータが、糸Yを吸引保持させたサクションガン60(吸引保持部材、図3等参照)を操作することで行われる。サクションガン60によって糸Yを吸引保持させた状態では、糸Yの巻き取り中と比べて糸Yの張力が大きくなる。ところで、糸巻取機10に設けられる複数の支点ガイド16に糸掛けをする際に、オペレータがサクションガン60を操作する場所(すなわち糸巻取機10の前側)から離れた位置に配置される支点ガイド16には、糸Yが大きく屈曲した状態で掛けられる。本実施形態を例にとると、例えば、16個のガイドユニット15のうちの後側の4個のガイドユニット15に設けられた各支点ガイド16には、糸Yが大きく屈曲した状態で掛けられる。サクションガン60に吸引保持されることで張力が大きくなっている糸Yを支点ガイド16に掛ける際に、糸Yが大きく屈曲した状態で支点ガイド16に接触すると、糸Yが支点ガイド16に強く押し当てられて、支点ガイド16は糸Yから大きな力を受ける。そうすると、次のような問題が生じる。
【0045】
本実施形態のように中心軸周りに回転可能に構成された回転式の支点ガイド16の場合、支点ガイド16が糸Yから大きな力を受けて、支点ガイド16が高速回転することがある。そうすると支点ガイド16の軸受構造が高速回転に耐えられず、破損してしまうおそれがある。
【0046】
例えば、糸巻き取り中において、16個のガイドユニット15のうちの後側の4個のガイドユニット15に設けられた各支点ガイド16に掛けられる糸Yの支点ガイド16に対する屈曲角度θ(度)と、支点ガイド16の回転数(rpm)とを測定した結果を図6(b)に示す。図6(b)中のエンドとは、各支点ガイド16を前後方向の前側から順に1、2、3、・・・と数えたときの支点ガイド16の番号である。すなわち、図6(b)に記載の13~16エンドとは、後側4つの支点ガイド16を指す。屈曲角度θとは、左右方向(支点ガイド16の軸方向)から見たときの、ベクトルXQとベクトルXRとのなす屈曲角度である(図6(a)参照)。Xは、支点ガイド16の中心である。Qは、糸巻き取り中における、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の上流側の接触点である。Rは、糸Yが糸預けガイド31に預けられたときにおける、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の下流側の接触点である。ベクトルXQは、Xを始点としてQを終点とするベクトルである。ベクトルXRは、Xを始点としてRを終点とするベクトルである。図6(b)に示すように、糸巻き取り中において、後側に配置された支点ガイド16ほど屈曲角度θは大きくなり、支点ガイド16の回転数は加速度的に大きくなる。ここで、上述したように、複数のガイドユニット15への糸掛け作業は、糸巻取機10の前側から行われる。すなわち、支点ガイド16への糸掛け時においては、糸Yは、支点ガイド16に掛けられた後、大きく前方に引っ張られることとなる。したがって、支点ガイド16への糸掛け時には、支点ガイド16に掛けられる糸Yの屈曲角度θは、糸巻き取り中より大きくなることは明らかである。そして、糸掛け時における屈曲角度θの増加の度合いは、後側のガイドユニット15ほど顕著である。さらに図6(b)の結果から、屈曲角度θが大きいほど支点ガイド16の回転数が大きくなることが示されている。以上から、糸掛け時に屈曲角度θがさらに大きくなった場合は、支点ガイド16が糸Yから大きな力を受けて、支点ガイド16が高速回転し、支点ガイド16の軸受構造が高速回転に耐えられず、破損してしまうおそれがあると言える。
【0047】
そこで、本願発明者らは、後側のガイドユニット15について、糸掛けの際に支点ガイド16が糸Yから大きな力を受けることを抑制すべく、後述する糸預けガイド31を設ける構成を鋭意検討した。本実施形態では、16個のガイドユニット15のうちの後側4個のガイドユニット15を第2ガイドユニット15bとしているが、これに限られない。
【0048】
(第2ガイドユニット)
糸預けガイド31を有する第2ガイドユニット15bの構成について、図3図5を参照しつつ以下に説明する。本実施形態では4つの第2ガイドユニット15bが配置されており、各第2ガイドユニット15bは、前後方向(ボビンホルダ13の巻取軸方向)に並んでいる。糸預けガイド31を有する第2ガイドユニット15bが本発明のガイドユニットに相当する。なお、第1ガイドユニット15aと共通する第2ガイドユニット15bの構成については上述の通りである。図3は、第2ガイドユニット15bの側面図である。図4は、糸掛けの際の支点ガイドに糸が直接掛けられると仮定した場合の第2ガイドユニットの側面図である。図5は、図3をV方向から見た側面図である。
【0049】
図3に示すように、第2ガイドユニット15bは、糸預けガイド31を有する。糸預けガイド31は、サクションガン60によって糸Yを吸引保持させた状態で支点ガイド16に糸掛けする際に、支点ガイド16に掛けられる糸Yが預けられるガイドである。本実施形態では、糸掛け時に糸預けガイド31に預けられた糸Yは、糸走行方向における糸預けガイド31の下流側で支点ガイド16の周面に接触するように構成されている。より具体的には、糸預けガイド31の糸預け部32(後述)は支点ガイドの略真後ろに位置しており、糸掛け時に糸預けガイド31に預けられた糸Yは、糸預けガイド31の前方且つ下方の位置で支点ガイド16の周面に接触する。
【0050】
糸預けガイド31は、糸巻取機10のうちの支点ガイド16よりも糸走行方向の下流側の構成部分への糸掛けに伴って糸Yが外れ、支点ガイド16に掛けられるように構成されている。具体的には、糸預けガイド31は、支点ガイド16よりも糸走行方向の下流側の構成部分であるボビンBの周面に形成された溝50に糸Yが掛けられるのに伴って糸Yが外れるように構成されている。
【0051】
また、糸預けガイド31は、下記式(1)を満たすような位置に配置されている。
θ1<θ2・・・(1)
【0052】
図3に示すように、θ1は、支点ガイド16への糸掛け時に糸Yが糸預けガイド31に預けられたときにおいて、左右方向(支点ガイド16の軸方向)から見たときの、第1ベクトルXAと第2ベクトルXBとのなす屈曲角度である。Xは、支点ガイド16の中心である。Aは、糸Yが糸預けガイド31に預けられたときにおける、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の上流側の接触点である。Bは、糸Yが糸預けガイド31に預けられたときにおける、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の下流側の接触点である。第1ベクトルXAは、Xを始点としてAを終点とするベクトルである。第2ベクトルXBは、Xを始点としてBを終点とするベクトルである。なお、糸預けガイド31に預けられた糸Yと支点ガイド16とが1点で接触する場合のθ1は0度である。
【0053】
図4に示すように、θ2は、支点ガイド16への糸掛け時に糸Yが糸預けガイド31に預けられることなく支点ガイド16に直接掛けられると仮定した場合において、左右方向(支点ガイド16の軸方向)から見たときの、仮想第1ベクトルXCと仮想第2ベクトルXDとのなす仮想屈曲角度である。Cは、糸Yが糸預けガイド31に預けられることなく支点ガイド16に直接掛けられるときにおける、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の上流側の接触点である。Dは、糸Yが糸預けガイド31に預けられることなく支点ガイド16に直接掛けられるときにおける、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の下流側の接触点である。仮想第1ベクトルXCは、Xを始点としてCを終点とするベクトルである。仮想第2ベクトルXDは、Xを始点としてDを終点とするベクトルである。
【0054】
さらに、糸預けガイド31は、糸預け部32と、脱落防止部33とを有する。図5に示すように、糸預け部32は、支点ガイド16への糸掛け時に、支点ガイド16に掛けられる糸Yが預けられる部分である。糸預け部32は、左右方向(支点ガイド16の軸方向)に延びている。より詳細には、糸預け部32は、左右方向において支点ガイド16の途中まで延びている。言い換えれば、糸預け部32は、左右方向において支点ガイド16の右端部よりも左側且つ左端部よりも右側の位置まで延びている。そして、糸預け部32は、その左端部から糸Yが外れることができるように構成されている。また、糸預け部32は、左右方向から見たときに、上端が下端よりも後側となるように傾斜している(図3参照)。
【0055】
脱落防止部33は、糸Yが糸預け部32から脱落することを防止するための部分である。図3及び図5に示すように、脱落防止部33は、左右方向(支点ガイド16の軸方向)と直交する方向に延びている。具体的には、脱落防止部33は、糸預け部32の糸Yが外れる側の端部(すなわち左端部)から下方に向かって延びている。また、脱落防止部33は、上端が下端よりも前側となるように傾斜している(図3参照)。糸預け部32に預けられた糸Yは、糸預け部32の糸Yが外れる側の端部である左端部に向かって移動したとき、脱落防止部33の右側面に接触することよって、脱落が防止される。
【0056】
(支点ガイドへの糸掛け)
次に、オペレータがサクションガン60を用いて支点ガイド16に糸掛けする際の手順について、以下に説明する。なお、オペレータがサクションガン60を操作して、紡糸装置2から紡出された糸Yをゴデットローラ3及び4に掛ける手順についての説明は省略する。
【0057】
オペレータはサクションガン60を操作して、ゴデットローラ4から送られた複数の糸Yを各ガイドユニット15の支点ガイド16に掛ける。このとき、オペレータはサクションガン60を操作して、第2ガイドユニット15bの支点ガイド16に掛ける糸Yを、糸預けガイド31に預ける(図3参照)。
【0058】
続いて、オペレータはサクションガン60を操作して、支点ガイド16の下流側の構成部分への糸掛けを進める。支点ガイド16の下流側の構成部分とは、例えば、トラバース装置17に設けられた複数のトラバースガイド(不図示)、セパレータ(不図示)、ボビンホルダ13に装着された各ボビンBの周面に形成された溝50等である。セパレータは、トラバースガイドに掛けられた糸Yを、ボビンホルダ13に装着された各ボビンBに巻き掛けるための位置まで案内するための部材である。セパレータについては、ここでは詳述しない。
【0059】
支点ガイド16の下流側の構成部分への糸掛けが進行し、糸Yがボビンホルダ13に装着された各ボビンBの周面に形成された溝50に掛けられると、糸預けガイド31に預けられている糸Yは左方に引っ張られる(図5の実線矢印参照)。そうすると、糸Yは脱落防止部33を超えて糸預けガイド31から外れ、支点ガイド16に直接掛けられることとなる。なお、糸預けガイド31から外れて支点ガイド16に掛けられた糸Yの糸道は図5の点線で示す。以上よって、支点ガイド16への糸掛けが完了する。
【0060】
(効果)
本実施形態の糸巻取機10は、円筒形状の支点ガイド16と、サクションガン60によって糸Yを吸引保持させた状態で支点ガイド16に糸掛けをする際に、支点ガイド16に掛けられる糸Yが預けられる糸預けガイド31と、を有する第2ガイドユニット15bを含む。糸預けガイド31は、下記式(1)を満たすように配置されている。
θ1<θ2・・・(1)
θ1:支点ガイド16への糸掛けの際に糸Yが糸預けガイド31に預けられたときにおいて、左右方向(支点ガイド16の軸方向)から見たときの、支点ガイド16の中心Xを始点として、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の上流側の接触点Aを終点とする第1ベクトルXAと、支点ガイド16の中心Xを始点として、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の下流側の接触点Bを終点とする第2ベクトルXBと、のなす屈曲角度
θ2:支点ガイド16への糸掛けの際に糸Yが糸預けガイド31に預けられることなく支点ガイド16に直接掛けられると仮定した場合において、左右方向(支点ガイド16の軸方向)から見たときの、支点ガイド16の中心Xを始点として、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の上流側の接触点Cを終点とする仮想第1ベクトルXCと、支点ガイドの中心Xを始点として、支点ガイド16の外周面のうちの糸Yと支点ガイド16との糸走行方向の下流側の接触点Dを終点とする仮想第2ベクトルXDと、のなす仮想屈曲角度
【0061】
支点ガイド16に糸掛けを行うためにサクションガン60によって糸Yを吸引保持させた状態では、糸Yの巻き取り中と比べて糸Yの張力は大きくなる。このように張力が大きくなっている糸Yを支点ガイド16に掛ける際に、糸Yが大きく屈曲した状態で支点ガイド16に接触すると、糸Yが支点ガイド16に強く押し当てられて、支点ガイド16は糸Yから大きな力を受ける。本実施形態によれば、糸掛けの際に、糸Yが糸預けガイド31に預けられたときの糸Yの支点ガイド16に対する屈曲角度θ1を、糸Yが支点ガイド16に直接掛けられたときの糸Yの支点ガイド16に対する仮想屈曲角度θ2よりも小さくできる。すなわち、糸掛けの際に糸Yを糸預けガイド31に預けることによって、糸Yが大きく屈曲した状態で支点ガイド16に接触することを抑制できる。これにより、糸掛けの際に支点ガイド16が糸Yから大きな力を受けることを抑制できる。
【0062】
また、本実施形態の糸巻取機10では、支点ガイド16は、中心軸周りに回転可能である。これによれば、糸掛けの際に、回転式の支点ガイド16が糸Yから大きな力を受けることを抑制できる。したがって、糸掛けの際に支点ガイド16が糸Yから大きいトルクを受けて高速回転してしまうことを抑制でき、支点ガイド16の軸受構造の劣化が進行することを効果的に抑制できる。
【0063】
また、本実施形態の糸巻取機10では、糸預けガイド31は、糸巻取機10のうちの支点ガイド16よりも糸走行方向の下流側の構成部分への糸掛けに伴って糸Yが外れ、支点ガイド16に掛けられるように構成されている。このため、糸預けガイド31から糸Yを外すための動作が不要となり、糸預けガイド31から支点ガイド16への糸Yの受け渡しを容易に行うことができる。
【0064】
また、本実施形態の糸巻取機10では、糸預けガイド31は、ボビンBの周面に形成された溝50に糸Yが掛けられるのに伴って糸Yが外れるように構成されている。これによれば、糸預けガイド31から糸Yを外すための動作が不要となり、糸預けガイド31から支点ガイド16への糸Yの受け渡しを容易に行うことができる。
【0065】
さらに、本実施形態の糸巻取機10では、糸預けガイド31は、左右方向(支点ガイド16の軸方向)に延び、糸Yが預けられる糸預け部32を有する。これによれば、左右方向に延びる糸預け部32に糸Yを沿わせながら預ければよく、糸預けガイド31に糸Yを預けることが容易となる。
【0066】
また、本実施形態の糸巻取機10では、糸預け部32は、左右方向(支点ガイド16の軸方向)において支点ガイド16の途中まで延びている。これによれば、糸預け部32の端部から外れた糸Yは、左右方向において支点ガイド16の途中に位置する。このため、糸預けガイド31から外れた糸Yを左右方向に移動させることなく支点ガイド16に受け渡すことができる。したがって、糸預けガイド31から外れた糸Yを支点ガイド16に受け渡すことが容易となる。
【0067】
また、本実施形態の糸巻取機10では、糸預けガイド31は、左右方向(支点ガイド16の軸方向)と直交する方向に延び、糸預け部32から糸Yが脱落することを防止する脱落防止部33を有する。これによれば、脱落防止部33によって糸預けガイド31から糸Yが意図せずに外れてしまうことを抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態の糸巻取機10では、第2ガイドユニット15bが、前後方向(ボビンホルダ13の巻取軸方向)に複数(本実施形態では4個)並んでいる。このような糸巻取機10によれば、糸掛けの際に糸Yが強く押し当てられる複数の支点ガイド16について、糸Yから大きな力を受けることを抑制できる。
【0069】
(変形例)
以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0070】
(第1変形例)
上記実施形態では、支点ガイド16は、中心軸周りに回転可能である。しかしながら、支点ガイド16は、固定配置されていてもよい。これによれば、糸掛けの際に、固定式の支点ガイド16が糸Yから大きな力を受けることを抑制できる。したがって、糸掛けの際に糸Yが支点ガイド16に強く押し当てられることを抑制でき、支点ガイド16が激しく摩耗することを効果的に抑制できる。
【0071】
(第2変形例)
上記実施形態では、糸掛け時に糸預けガイド31に預けられた糸Yは、糸走行方向における糸預けガイド31の下流側で支点ガイド16の周面に接触するように構成されている(図3参照)。しかしながら、図7に示すように、糸掛け時に糸預けガイド31に預けられた糸Yは、糸走行方向における糸預けガイド31の上流側で支点ガイド16の周面に接触するように構成されていてもよい。具体的には、糸預けガイド31の糸預け部32は、支点ガイドの下方且つ後方に位置しており、糸掛け時に糸預けガイド31に預けられた糸Yは、糸預けガイド31の前方且つ上方の位置で支点ガイド16の周面に接触する。この場合においても、糸預けガイド31は、下記式(1)を満たすような位置に配置されている。
θ1<θ2・・・(1)
なお、θ1及びθ2は、上記実施形態における定義と同様である。
【0072】
(第3変形例)
上記実施形態や第2変形例では、糸掛け時に糸預けガイド31に預けられた糸Yは、糸走行方向における糸預けガイド31の上流側又は下流側で支点ガイド16の周面に接触するように構成されている。しかしながら、図8に示すように、糸掛け時に糸預けガイド131に預けられた糸Yは、支点ガイド16に接触しなくてもよい。詳しく説明すると、糸預けガイド131は、サクションガン60によって糸Yを吸引保持させた状態で支点ガイド16に糸掛けをする際に、支点ガイド16に掛けられる糸Yが支点ガイド16と接触しないように預けられるガイドである。第3変形例のような糸預けガイド131を設けることによって次のような効果が得られる。すなわち、糸掛けの際に糸Yを糸預けガイド131に預けることによって、支点ガイド16と糸Yとが接触しないようにすることができる。これにより、糸掛けの際に支点ガイド16が糸Yから大きな力を受けることを抑制できる。
【0073】
また、図8に示すように、第3変形例の構成では、糸預けガイド131に預けられた糸Yが支点ガイド16に接触することを阻害する阻害部35が配置されている。阻害部35は、支点ガイド16よりも下側の位置且つ前記支点ガイド16に糸掛けをする際にサクションガン60と糸預けガイド131との間となる位置に配置されている。具体的には、阻害部35は、糸預けガイド131及び支点ガイド16の前方且つ下方に配置されている(図8参照)。阻害部35を設けることによって次のような効果が得られる。糸預けガイド131に糸Yを預けた後、サクションガン60が糸預けガイド131の糸預け部(図8では不図示)よりも上側に移動したとしても、サクションガン60と糸預けガイド131の間を走行する糸Yは阻害部35に下側から接触し、阻害部35よりも上側に移動することが規制される。これにより、糸掛けの際に、より確実に支点ガイド16に糸Yが接触しないようにすることができる。
【0074】
(第4変形例)
上記実施形態では、糸預けガイド31は、ボビンBの周面に形成された溝50に糸Yが掛けられるのに伴って糸Yが外れるように構成されている。しかしながら、糸預けガイド31は、糸走行方向において支点ガイド16の下流側に配置された下流側部材が移動するのに伴って糸が外れるように構成されていてもよい。下流側部材とは、糸Yが掛けられた状態で移動可能な部材である。具体的には、下流側部材とは、トラバース装置17に設けられた複数のトラバースガイド(不図示)、セパレータ(不図示)等である。セパレータは、トラバースガイドに掛けられた糸Yを、ボビンホルダ13に装着された各ボビンBに巻き掛けるための位置まで案内するための部材である。なお、本発明の「支点ガイドよりも糸走行方向の下流側の構成部分への糸掛け」には、糸Yが掛けられた状態で上述の下流側部材が移動することが含まれる。
【0075】
(その他の変形例)
上記実施形態では、16個のガイドユニット15のうちの前側の12個のガイドユニット15が第1ガイドユニット15aであり、後側の4個のガイドユニット15が第2ガイドユニット15bである。しかしながら、これに限られない、例えば、16個のガイドユニット15のうちの前側の8個のガイドユニット15が第1ガイドユニット15aであり、後側の8個のガイドユニット15が第2ガイドユニット15bであってもよい。または、すべてのガイドユニット15が第2ガイドユニット15bでもよい。
【0076】
上記実施形態では、糸預け部32は、左右方向(支点ガイド16の軸方向)において支点ガイド16の途中まで延びている。しかしながら、糸預け部32は、左右方向において支点ガイド16の外側まで延びていてもよい。具体的には、糸預け部32は、左右方向において支点ガイド16の左端部よりもさらに左側の位置まで延びていてもよい。
【0077】
上記実施形態では、脱落防止部33は、左右方向(支点ガイド16の軸方向)と直交する方向に延びている。しかしながら、脱落防止部33は、左右方向(支点ガイド16の軸方向)と直交しない交差方向に延びていてもよい。また、脱落防止部33は設けられていなくてもよい。
【0078】
上記実施形態では、1つの第2ガイドユニット15bにつき、1つの糸預けガイド31が配置されている。しかしながら、1つの第2ガイドユニット15bにつき、2つ以上の糸預けガイド31が配置されていてもよい。
【0079】
上記実施形態では、糸預けガイド31は、糸巻取機10のうちの支点ガイド16よりも糸走行方向の下流側の構成部分であるボビンBの周面に形成された溝50に糸Yが掛けられるのに伴って糸Yが外れ、支点ガイド16に掛けられるように構成されている。しかしながら、糸預けガイド31は、このような構成に限られない。例えば、糸預けガイド31は、オペレータがサクションガン60を操作することによって、糸Yが外される構成でもよい。
【0080】
上記実施形態では、サクションガン60はオペレータが操作している。しかしながら、サクションガン60はロボットアームなどによって自動で操作されてもよい。
【0081】
上記の第3変形例では、阻害部35が設けられている。この点、阻害部35は、上記実施形態、第1変形例及び第2変形例の構成において設けられてもよい。この場合、次のような効果が得られる。糸預けガイド31に糸Yを預けた後、サクションガン60が糸預けガイド31の糸預け部32よりも上側に移動したとしても、サクションガン60と糸預けガイド31の間を走行する糸Yは阻害部35に下側から接触し、阻害部35よりも上側に移動することが規制される。これにより、糸掛けの際に、屈曲角度θ1(上述にて定義)が大きくなることを抑制でき、支点ガイド16が糸Yから大きな力を受けることをさらに抑制できる。
【0082】
本発明は、紡糸引取装置1に限られず、複数の糸Yを巻き取るように構成された様々な糸巻取機に適用されることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 紡糸引取装置
10 糸巻取機
15a 第1ガイドユニット
15b 第2ガイドユニット(本発明のガイドユニット)
16 支点ガイド
17 トラバース装置
31 糸預けガイド
32 糸預け部
33 脱落防止部
35 阻害部
50 溝
60 サクションガン
B ボビン
Y 糸
θ1 屈曲角度
θ2 仮想屈曲角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-04-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
ボビンホルダに装着された複数のボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、
糸を綾振りしながら前記ボビンに巻き取る際の支点となる円筒形状の支点ガイドと、
糸を吸引保持する吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態で前記支点ガイドに糸掛けをする際に、前記支点ガイドに掛けられる糸が前記支点ガイドと接触しつつ預けられる糸預けガイドと、
を有するガイドユニットを備え、
前記糸預けガイドは、下記式(1)を満たすように配置されていることを特徴とする糸巻取機。
θ1<θ2・・・(1)
θ1:
前記支点ガイドへの糸掛けの際に糸が前記糸預けガイドに預けられたときにおいて、
前記支点ガイドの軸方向から見たときの、
前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの糸走行方向の上流側の接触点を終点とする第1ベクトルと、
前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の下流側の接触点を終点とする第2ベクトルと、
のなす屈曲角度
θ2:
前記支点ガイドへの糸掛けの際に糸が前記糸預けガイドに預けられることなく前記支点ガイドに直接掛けられると仮定した場合において、
前記支点ガイドの軸方向から見たときの、
前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の上流側の接触点を終点とする仮想第1ベクトルと、
前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の下流側の接触点を終点とする仮想第2ベクトルと、のなす仮想屈曲角度
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
ボビンホルダに装着された複数のボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、
糸を綾振りしながら前記ボビンに巻き取る際の支点となる円筒形状の支点ガイドと、
糸を吸引保持する吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態で前記支点ガイドに糸掛けをする際に、前記支点ガイドに掛けられる糸が前記支点ガイドと接触しないように預けられる糸預けガイドと、
を有するガイドユニットを備えることを特徴とする糸巻取機。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項11
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項11】
前記糸預けガイドは、前記軸方向と交差する交差方向に延び、前記糸預け部から糸が脱落することを防止する脱落防止部を有することを特徴とする請求項9又は10に記載の糸巻取機。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
従来より、紡糸装置から紡出された糸を綾振りしながらボビンに巻き取る糸巻取機が知られている。このような糸巻取機には、糸を綾振りする際の支点となる複数の支点ガイドが設けられている。例えば、特許文献1では、円筒形状の支点ガイド設けられており、支点ガイドの外周面に糸が掛けられる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の糸巻取機は、ボビンホルダに装着された複数のボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、糸を綾振りしながら前記ボビンに巻き取る際の支点となる円筒形状の支点ガイドと、糸を吸引保持する吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態で前記支点ガイドに糸掛けをする際に、前記支点ガイドに掛けられる糸が前記支点ガイドと接触しつつ預けられる糸預けガイドと、を有するガイドユニットを備え、前記糸預けガイドは、下記式(1)を満たすように配置されていることを特徴とするものである。
θ1<θ2・・・(1)
θ1:前記支点ガイドへの糸掛けの際に糸が前記糸預けガイドに預けられたときにおいて、前記支点ガイドの軸方向から見たときの、前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの糸走行方向の上流側の接触点を終点とする第1ベクトルと、前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の下流側の接触点を終点とする第2ベクトルと、のなす屈曲角度
θ2:前記支点ガイドへの糸掛けの際に糸が前記糸預けガイドに預けられることなく前記支点ガイドに直接掛けられると仮定した場合において、前記支点ガイドの軸方向から見たときの、前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の上流側の接触点を終点とする仮想第1ベクトルと、前記支点ガイドの中心を始点として、前記支点ガイドの外周面のうちの糸と前記支点ガイドとの前記糸走行方向の下流側の接触点を終点とする仮想第2ベクトルと、のなす仮想屈曲角度
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
または、本発明の糸巻取機は、ボビンホルダに装着された複数のボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、糸を綾振りしながら前記ボビンに巻き取る際の支点となる円筒形状の支点ガイドと、糸を吸引保持する吸引保持部材によって糸を吸引保持させた状態で前記支点ガイドに糸掛けをする際に、前記支点ガイドに掛けられる糸が前記支点ガイドと接触しないように預けられる糸預けガイドと、を有するガイドユニットを備えることを特徴とするものである。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
本発明の糸巻取機において、前記糸預けガイドは、前記軸方向と交差する交差方向に延び、前記糸預け部から糸が脱落することを防止する脱落防止部を有することが好ましい。