IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧

<>
  • 特開-空力音低減構造 図1
  • 特開-空力音低減構造 図2
  • 特開-空力音低減構造 図3
  • 特開-空力音低減構造 図4
  • 特開-空力音低減構造 図5
  • 特開-空力音低減構造 図6
  • 特開-空力音低減構造 図7
  • 特開-空力音低減構造 図8
  • 特開-空力音低減構造 図9
  • 特開-空力音低減構造 図10
  • 特開-空力音低減構造 図11
  • 特開-空力音低減構造 図12
  • 特開-空力音低減構造 図13
  • 特開-空力音低減構造 図14
  • 特開-空力音低減構造 図15
  • 特開-空力音低減構造 図16
  • 特開-空力音低減構造 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126532
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】空力音低減構造
(51)【国際特許分類】
   B61D 49/00 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
B61D49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034942
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 真理子
(72)【発明者】
【氏名】宇田 東樹
(57)【要約】
【課題】台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させる、新規な空力音低減構造を提供する。
【解決手段】台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造であって、前記車体の前記底部の空間を覆う前後のふさぎ板のうち少なくとも前側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する凸部材を備え、前記凸部材は、下面が前記車体の前記格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記格納空間に対して凸面である曲面に含まれることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造であって、
前記車体の前記底部の空間を覆う前後のふさぎ板のうち少なくとも前側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する凸部材を備え、
前記凸部材は、下面が前記車体の前記格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記格納空間に対して凸面である曲面に含まれることを特徴とする、空力音低減構造。
【請求項2】
台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造であって、
前記車体の前記底部の空間を覆う前後のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する凸部材を備え、
前記凸部材は、下面が前記車体の格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記格納空間に突出しないように収納可能に構成される、空力音低減構造。
【請求項3】
前記凸部材は、平面視矩形の形状を有し、前記突出端が直線の領域である、請求項2に記載の空力音低減構造。
【請求項4】
前記凸部材は、平面視波形状の波状突出部を備え、前記波状突出部は複数の前記突出端を備える、請求項2に記載の空力音低減構造。
【請求項5】
前記凸部材は、複数の可撓性部材を備え、前記可撓性部材は複数の前記突出端を備えるとともに前記突出端に衝突する風の流れにより変形し得る、請求項2に記載の空力音低減構造。
【請求項6】
第1の鉄道車両及び第2の鉄道車両における隣接二台車において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造であって、
前記隣接二台車は、前記第1の鉄道車両及び第2の鉄道車両との間における車間と、
前記第1の鉄道車両における前記車間に隣接する第1の台車及び第1の格納空間と、前記第2の鉄道車両における前記車間に隣接する第2の台車及び第2の格納空間と、を備え、
前記第1の格納空間における前側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する第1の凸部材と、前記第2の格納空間における後側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する第2の凸部材とを備え、
前記第1の凸部材は、下面が前記第1の鉄道車両の車体の前記第1の格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、
突出端が前記第1の格納空間に対して凸面である曲面に含まれ、
前記第2の凸部材は、下面が前記第2の鉄道車両の車体の前記第2の格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、
突出端が前記第2の格納空間に対して凸面である曲面に含まれることを特徴とする、空力音低減構造。
【請求項7】
前記第1の格納空間における後側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する第3の凸部材と、前記第2の格納空間における前側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する第4の凸部材とをさらに備え、
前記第3の凸部材は、下面が前記第1の鉄道車両における前記底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記第1の格納空間に突出しないように収納可能に構成され、
前記第4の凸部材は、下面が前記第2の鉄道車両における前記底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記第1の格納空間に突出しないように収納可能に構成されることを特徴とする、請求項6に記載の空力音低減構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行に伴って、空力音が発生することが知られている。空力音のうち高周波数帯(例えば、100Hz~1.6kHz)の空力音は、台車を収容するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間に空気が流入し、格納空間に設けた台車などの構成要素と空気が衝突することにより発生することが知られている。高周波数帯の空力音は可聴域に含まれる騒音であり、可能な限り低減することが望まれている。また、空力音のうち低周波数帯(例えば、100Hz未満)の空力音は、車両の周りの気流が乱れ、当該気流が台車の格納空間に流入して格納空間の圧力が変動することで発生することが知られている。低周波数帯の空力音は、5~20Hzの成分が鉄道沿線家屋の建具等を振動させる原因となり得ることで、沿線家屋住民等の苦情がある場合がある。このような低周波数帯の空力音は、線路に沿って設置された既設の防音壁では減衰しにくいことが分かっている。
【0003】
かかる周波数帯の空力音の低減手段としては、種々の構造が提案されており、例えば特許文献1又は特許文献2に記載された鉄道車両空力音の低減構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-229492号公報
【特許文献2】特開2022-065742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の一実施形態にかかる鉄道車両は、台車のキャビティにおいて台車底面を覆う底面カバーを有する台車囲い部を備え、キャビティに入る空気流の量を低減することで空力音の低減を図っている。底面カバーは台車底面におけるキャビティの全面を覆っており、車輪穴及び冷却空気流を通すための空気穴が設けられている。このように、台車底面におけるキャビティの全面を覆う底面カバーによれば、空気流の方向(車両の進行方向)にかかわらず、キャビティに入る空気流の量を低減して騒音の低減を図ることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2に開示の一実施形態にかかる鉄道車両用低騒音装置は、台車に腕部を介して取り付けられた低騒音部材を備え、台車に当たる流れを下向きに偏向し、台車に速い流れが当たらないようにして空力音の低減を図ることが開示されている。
【0007】
特許文献1について、本発明者らが鋭意検討した結果、部材の材料、加工並びに取り付けのコスト、台車のメンテナンス性などの観点から、台車底面におけるキャビティの全面ではなく一部のみを覆う部材を取り付けることにより空力音の低減を図ることを着想した。
【0008】
また特許文献2について、本発明者らが鋭意検討した結果、以下の新規な知見が得られた。すなわち、台車に当たる流れを下向きに偏向した場合は、当該流れが格納空間下方の地上流速に影響を与える。さらに、地上流速が変化すると、バラストなどの軌道上の地上設備に当たる気流速度が上がり、バラストの飛散等の原因となり得る。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、地上流速への影響を抑制しながら、台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、一実施形態にかかる本発明は、台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造であって、前記車体の前記底部の空間を覆う前後のふさぎ板のうち少なくとも前側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する凸部材を備え、前記凸部材は、下面が前記車体の前記格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記格納空間に対して凸面である曲面に含まれることを特徴としている。
【0011】
また、一実施形態にかかる本発明は、台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造であって、前記車体の前記底部の空間を覆う前後のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する凸部材を備え、前記凸部材は、下面が前記車体の格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記格納空間に突出しないように収納可能に構成されることを特徴としている。
【0012】
前記凸部材は、平面視矩形の形状を有し、前記突出端が直線の領域であってもよい。
【0013】
前記凸部材は、平面視波形状の波状突出部を備え、前記波状突出部は複数の前記突出端を備えていてもよい。
【0014】
前記凸部材は、複数の可撓性部材を備え、前記可撓性部材は複数の前記突出端を備えるとともに前記突出端に衝突する風の流れにより変形し得るように構成されていてもよい。
【0015】
また、一実施形態にかかる本発明は、第1の鉄道車両及び第2の鉄道車両における隣接二台車において発生する空力音を低減させる、空力音低減構造であって、前記隣接二台車は、前記第1の鉄道車両及び第2の鉄道車両との間における車間と、前記第1の鉄道車両における前記車間に隣接する第1の台車及び第1の格納空間と、前記第2の鉄道車両における前記車間に隣接する第2の台車及び第2の格納空間と、を備え、前記第1の格納空間における前側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する第1の凸部材と、前記第2の格納空間における後側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する第2の凸部材とを備え、前記第1の凸部材は、下面が前記第1の鉄道車両の車体の前記第1の格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記第1の格納空間に対して凸面である曲面に含まれ、前記第2の凸部材は、下面が前記第2の鉄道車両の車体の前記第2の格納空間以外の空間を下方から塞ぐように覆う底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記第2の格納空間に対して凸面である曲面に含まれることを特徴としている。
【0016】
前記第1の格納空間における後側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する第3の凸部材と、前記第2の格納空間における前側のふさぎ板の下端から前記格納空間の内側に突出する第4の凸部材とをさらに備え、前記第3の凸部材は、下面が記第1の鉄道車両における前記底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記第1の格納空間に突出しないように収納可能に構成され、前記第4の凸部材は、下面が前記第2の鉄道車両における前記底カバーのなす平面よりも下方に突出せず、突出端が前記第1の格納空間に突出しないように収納可能に構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、地上流速への影響を抑制しながら、台車を格納するために鉄道車両の車体の底部に設けられた格納空間において発生する空力音を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態にかかる空力音低減構造を備える鉄道車両の構成例の概略を示す側面図である。
図2】第1実施形態にかかる台車格納空間の構成例の概略を示す側面図である。
図3】第1実施形態にかかる台車格納空間の構成例の概略を示す平面図である。
図4】第1実施形態にかかる台車格納空間の構成例の概略を示す部分斜視図である。
図5】第1の凸部材を設けたことによる空力音低減効果を調べるために風洞を用いて行った確認試験1の低周波数帯の結果を示す図である。
図6】第1の凸部材を設けたことによる空力音低減効果を調べるために風洞を用いて行った確認試験1の高周波数帯の結果を示す図である。
図7】第2実施形態にかかる空力音低減構造を備える鉄道車両における台車格納空間の構成例の概略を示す側面図である。
図8】第2実施形態にかかる台車格納空間の状態の一例を示す側面図である。
図9】第2実施形態にかかる凸部材の構成例の概略を示す平面図である。
図10】第2実施形態にかかる凸部材の一変形例の概略を示す平面図である。
図11】第2実施形態にかかる凸部材の一変形例の概略を示す平面図である。
図12】第2の凸部材を設けたことによる空力音低減効果を調べるために風洞を用いて行った確認試験2の結果を示す図である。
図13】第3の凸部材を設けたことによる空力音低減効果を調べるために風洞を用いて行った確認試験3の結果を示す図である。
図14】第4の凸部材を設けたことによる空力音低減効果を調べるために風洞を用いて行った確認試験4の結果を示す図である。
図15】第3実施形態にかかる空力音低減構造を備える鉄道車両の構成例の概略を示す側面図である。
図16】第3実施形態にかかる隣接二台車における台車格納空間の構成例の概略を示す側面図である。
図17】第3実施形態にかかる隣接二台車における台車格納空間の変形例の概略を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図中に付した座標軸に関してX軸は車両長さ方向(レール方向)、Y軸は車両幅方向(枕木方向)、Z軸は車両高さ方向を指す。また、明細書中において、X軸正方向側を「前」、X軸負方向側を「後」、Y軸正方向側を「右」、Y軸負方向側を「左」、Z軸正方向側を「上」、Z軸負方向側を「下」とそれぞれ称することがある。
【0020】
(第1実施形態)
<鉄道車両>
図1は、本発明の第1実施形態にかかる空力音低減構造を備える鉄道車両の構成例の概略を示す側面図である。図2は、図1の部分拡大図である。
【0021】
図1で、鉄道車両1は、例えば、レール(図示せず)上を高速で走行する新幹線車両等の高速鉄道車両である。この鉄道車両1は台車10と車体20とを備える。
【0022】
台車10は、図2、3に示すように、一対の輪軸11を有する。一対の輪軸11は、鉄道車両1の長さ方向に互いに離間し且つ略平行になるように設けられている。輪軸11はそれぞれ、図3に示すように、車軸12と一対の車輪13とを有する。車軸12は、柱状に形成され、一対の車輪13が、車軸12の軸線方向すなわち鉄道車両1の幅方向に互いに離間するように設けられている。車輪13それぞれは、レール(図示せず)上を回転しながら走行する。また、台車10は台車枠14を有する。台車枠14に対しては、上記輪軸11が設けられるほか、台車の駆動に関する所望の構成(図示せず)が設けられる。
【0023】
車体20は、図1図4に示すように、台車10を格納する格納空間Sが底部に設けられている。また、車体20はカバー21を底部に有する。カバー21は、車体20の底部の空間(具体的には床下の空間)の少なくとも側方を覆う。
【0024】
カバー21は、例えば、一対の側カバー22、底カバー23、及び前後一対のふさぎ板24a、24bを有する。一対の側カバー22は、車幅方向に互いに対向するように設けられている。側カバー22はそれぞれ、車体20の床下の空間のうち、少なくとも、格納空間S以外の空間を側方から塞ぐように覆う。そのため、車体20において、床下の空間に収容された床下機器25の側方が側カバー22により覆われる。また、図1、3の例において、側カバー22は格納空間Sも側方から塞ぐように覆う。すなわち、図の例において、側カバー22は、車体20の車両長手方向全体に亘って形成されている。ただし、図2においては台車10の構成例の説明の便宜上、格納空間Sの側方における側カバー22の図示を省略する。
【0025】
底カバー23は、車体20の床下の空間における格納空間S以外の空間を下方から塞ぐように覆う。そのため、車体20において、床下機器25の下方が底カバー23により覆われる。
【0026】
前側のふさぎ板24a及び後側のふさぎ板24bは、車体20の床下の空間における格納空間Sの前後を塞ぐように覆う。ふさぎ板24a、24bの上端は格納空間Sの上面を構成する車体20に接続され、下端は底カバー23に接続される。ふさぎ板24a、24bは、上端から下端に向かって格納空間Sが広がるように、傾斜して設けられる。第1の実施形態にかかる鉄道車両1において、ふさぎ板24a、24bにはそれぞれ第1の凸部材30a、30bが設けられる。なお、ふさぎ板24a、24bの構成はこれに限定されず、底カバー23に対して傾斜せず直交するように設けられていてもよい。
【0027】
<第1の凸部材>
第1の凸部材30a、30bは、車両幅方向に延在し、ふさぎ板24a、24bから格納空間Sにおける内側に突出するように設けられる。すなわち、前側のふさぎ板24aからは前側の第1の凸部材30aがX軸負方向側に突出し、後側のふさぎ板24bからは後側の第1の凸部材30bがX軸正方向側に突出する。前後の第1の凸部材30a、30bは互いにY-Z平面に対して対称に設けられる。以下、代表して前側の第1の凸部材30aについて説明する
【0028】
図4で、第1の凸部材30a(図中の太線で示す部分)は、基端面31、下面32、第1の側面33、及び、一対の第2の側面34a、34bを備える。
【0029】
基端面31は、その全面がふさぎ板24aに対して隙間なく接するように設けられる。基端面31の下端(下面32との境界を構成する辺)は、ふさぎ板24aの下端(底カバー23との境界を構成する辺)と重なる。基端面31の幅方向の長さはふさぎ板24aの幅方向の長さと略同一である。なお、基端面31の上端は特に限定されないが、基端面31の斜面に沿った高さ方向の長さ(基端面31の上端と下端との距離)がふさぎ板24aの斜面に沿った高さ方向の長さ(ふさぎ板24aの上端と下端との距離)の1/2倍以上となるように設けることとしてもよい。
【0030】
下面32は、基端面31の下端の辺から格納空間Sの内側に延びる平面である。下面32の幅方向の長さは、基端面31の幅方向の長さと同一である。下面32は底カバー23と同一平面上に設けられる。すなわち、車両長さ方向の断面における基端面31と下面32の成す角度θと、底カバー23とふさぎ板24aの成す角度θとの和は、180°である。なお、基端面31と下面32の成す角度は、下面32が底カバー23の成す平面よりも下方に突出しない角度であればよい。換言すれば、角度θと角度θの和は、180°以下であればよい。
【0031】
第1の側面33は、基端面31の上端から格納空間Sの内側に延びる面である。すなわち、第1の側面33の上端の辺は基端面31の上端の辺に重なり、第1の側面33の下端の辺は下面32の格納空間Sにおける内側の辺に重なる。第1の側面33は、凹面部40及び凸面部41を含む。
【0032】
凹面部40は、第1の側面33の上端側の一領域を構成し、格納空間Sに対して凹面である車両幅方向に延在した曲面を有する。図4において、第1の側面33の上端の辺を示す線と、一点鎖線との間に挟まれた領域が凹面部40である。一実施形態において、凹面部40における曲面の曲率半径は200mmである。凹面部40における曲面の曲率半径をこのように設けることで、第1の凸部材30a、30bは、車輪13を含む台車10の構成部材と接触せず、台車10の旋回を妨げないようにすることができる。
【0033】
凸面部41は、上記凹面部40を除く領域であって、第1の側面33の下端側の一領域を構成し、格納空間Sに対して凸面である車両幅方向に延在した曲面を形成する。図4において、第1の側面33の下端の辺を示す線と、一点鎖線との間に挟まれた領域が凸面部41である。一実施形態において、凸面部40における曲面の曲率半径は30mmである。
【0034】
また、凸面部41は、突出端42を含む。突出端42は、図3のような平面視において、ふさぎ板24aから格納空間Sの内側(図中X軸負方向側)に最も突出した部分をいい、本実施形態においては直線の領域である。突出端42は、台車10に接触したり、台車10の旋回を妨げたりしない限りにおいて、台車10に近い位置まで延びる。
【0035】
第2の側面34a、34bは、基端面31、下面32及び第1の側面33の各面の車両幅方向側の端部に、各面に直交するように設けられる平面である。一実施形態において、第2の側面34a、34bは側カバー22と同一平面上に設けられる。
【0036】
なお、第1の凸部材30a、30bの構成は上記に限定されず、以下のような変形例を採ることができる。一例として、第1の凸部材30a、30bは車両幅方向において格納空間Sの全長を占める長さとしたが、車両幅方向の一部にのみ設けることとしてもよい。また、第1の側面33において、凹面部40に当たる部分を平面とし、凹面部40を設けない構成としてもよい。
【0037】
<主な効果>
以上のように、第1の凸部材30a、30bは格納空間Sの内側に対して突出する。これにより、車両走行時に車体20の下方から格納空間Sに流れ込む空気を下面32がさえぎり、速い流れが台車10等の構成部材に衝突して高周波数帯の空力音が発生することを抑制することができる。
【0038】
また、下面32は底カバー23よりも下方に突出しないため、格納空間下方に空気の流れが偏向しにくく、地上流速が変化しにくい。このため、バラストなどの軌道上の地上設備に当たる気流速度が上がることを抑制し、バラストの飛散等を抑制することができる。
【0039】
また、本発明者らが鋭意検討した結果、台車底面付近に設ける部材は、形状や取り付ける場所によっては、空力音の低減に寄与しないか、逆に増大させるという新規な知見が得られた。かかる知見に基づき得られた第1の凸部材30a、30bにおいては、下記のように適切に空力音の低減に寄与する。
【0040】
すなわち、鉄道車両1の進行方向後方側(ふさぎ板24b側)においては、進行方向に対向する向きの空気の流れが、第1の凸部材30bにおける突出端42に衝突する。このとき、突出端42は曲面を有する凸面部41に含まれるため、衝突した空気の流れは突出端42の上下方向に分散される。その結果、高周波数帯の空力音が発生することを抑制することができる。
【0041】
また、第1の凸部材30a、30bは、凹面部40を有するため、車輪13と干渉せず、かつ、最大限に格納空間Sの容積を減少させる。その結果、格納空間Sにおいて発生する低周波数帯の圧力変動による空力音が発生することを抑制することができる。
【0042】
<確認試験1>
図5、6は、第1の凸部材30a、30bを設けたことによる空力音低減効果を調べるために、風洞試験機を用いて行った確認試験1の結果を示す図である。確認試験1では、1/5スケールの鉄道車両1を模した模型1、模型2及び比較例の模型を用いた。模型1は、図1図4に示した前後の第1の凸部材30a、30bを設ける構成とし、模型2は、図1図4に示した前後の第1の凸部材30a、30bのうち、進行方向前方側(空気の流れの上流側)の第1の凸部材30aのみを設ける構成とした。比較例の模型は第1の凸部材30a、30bを設けない構成とした。図5及び図6の結果は、模型1又は模型2と、比較例の模型における空力音の音圧レベルの値の差((模型1又は模型2の値)-(比較例の値))を示している。図5、6で、丸(〇)のプロットは模型1の結果を、三角形(△)のプロットは模型2の結果を示す。図5は風速260km/hの風洞試験で生じる低周波数帯の空力音の音圧レベルを測定したもの、図6は風速325km/hの風洞試験で生じる高周波数帯の空力音の音圧レベルを測定したものである。なお、模型1並びに模型2及び比較例の模型におけるふさぎ板24a、24bの寸法、ふさぎ板24a、24bと底カバー23のなす角度θ、模型1又は模型2における第1の凸部材30a、30bの各部の寸法は、以下の通りとした。
【0043】
ふさぎ板:(斜面に沿った高さ)185mm×(ふさぎ板上端のY方向長さ)640mm、(ふさぎ板下端のY方向長さ)500mm
ふさぎ板と底カバーのなす角度:120°
第1の凸部材の基端面:(斜面に沿った高さ)90mm×(下面のY方向長さ)500mm
第1の凸部材の下面:(基端面から突出端までのX方向長さ)60mm×(Y方向長さ)500mm
基端面と下面の成す角度:60°
凹面部の曲率半径:40mm
凸面部の曲率半径:6mm
【0044】
図5から明らかな通り、風速260km/hの風洞試験において、模型1では、12.5~16Hz及び80~100Hzの空力音の低減が認められた。模型2では、40Hz~100Hzの空力音の低減が認められた。
【0045】
また図6から明らかな通り、風速325km/hの風洞試験において、模型1では160Hzから200Hzを除く、250Hz~2kHzの高周波数帯で空力音の低減が認められ、高周波数帯の空力音による騒音を効果的に抑制することができていることが確認できた。また、模型2では、160~200Hz及び315~800Hzの空力音の低減が認められた。
【0046】
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる空力音低減構造を備える鉄道車両1は、上述した第1実施形態にかかる第1の凸部材30a、30bに代えて、第2の凸部材50a、50bを備える。第2の凸部材50a、50b以外の構成は、第1実施形態と同様である。また、第2実施形態にかかる空力音低減構造の変形例として、第2の凸部材50a、50bに代えて、第3の凸部材60a、60b、又は、第4の凸部材70a、70bが設けられる。以下、図7図11を用いて、第2実施形態にかかる空力音低減構造を備える鉄道車両1について説明する。図7は、第2実施形態にかかる空力音低減構造を備える鉄道車両における台車格納空間の構成例の概略を示す側面図である。図8は、第2実施形態にかかる台車格納空間の状態の一例を示す側面図である。図9図11は、第2実施形態にかかる第2~第4の凸部材のいずれかの構成例の概略を示す平面図である。
【0047】
<第2の凸部材>
図7で、第2の凸部材50a、50bは、車両幅方向に延在し、ふさぎ板24a、24bの下端から格納空間Sの内側に突出するように設けられる。すなわち、前側のふさぎ板24aからは前側の第2の凸部材50aがX軸負方向側に突出し、後側のふさぎ板24bからは後側第2の凸部材50bがX軸正方向側に突出する。前後の第2の凸部材50a、50bは互いにY-Z平面に対して対称に設けられる。
【0048】
図8で、第2の凸部材50a、50bは、ふさぎ板24a、24bに接続される側の端部において図示しない回動機構を備える。かかる回動機構によると、第2の凸部材50a、50bは、上面がふさぎ板24bに接するか、又は並行となるように回動して折りたたむことで収納することができる。また、第2の凸部材50a、50bは、回動機構における展開状態において、下面が底カバー23と同一平面上に位置するように設けられる。図8に示す一状態例においては、進行方向前方側における第2の凸部材50aは展開され、進行方向後方側における第2の凸部材50bは収納されている。
【0049】
一実施形態において、第2の凸部材50a、50bは、回動機構に代えて、ふさぎ板24a、24bに対して着脱を容易とする所望の機構を備える。この場合、進行方向後方側となる何れかの第2の凸部材50a、50bを取り外される。また一実施形態において、第2の凸部材50a、50bは、回動機構に代えて、スライド機構を備える。この場合、進行方向後方側となる何れかの第2の凸部材50a、50bを底カバー23に重なるようにスライドして、格納空間Sに対して突出しない位置に収納できるように構成される。
【0050】
図9で、第2の凸部材50a、50bは、平面視において略矩形の形状を有する。第2の凸部材50a、50bは、突出端80を備える。突出端80は、図9に示す平面視において、ふさぎ板24a、24bから格納空間Sの内側に最も突出した部分をいい、本実施形態においては直線の領域である。突出端80は、台車10に接触したり、台車10の旋回を妨げたりしない限りにおいて、台車10に近い位置まで延びる。
【0051】
図10で、第2実施形態にかかる空力音低減構造の変形例である第3の凸部材60a、60bは、平面視において波形状である波状突出部81を備える。図10に示す波状突出部81における波形状はサインカーブである。波状突出部81は複数の突出端82を備える。突出端82は、台車10に接触したり、台車10の旋回を妨げたりしない限りにおいて、台車10に近い位置まで延びる。図示の例の他、波状突出部81における波形状は、三角波の形状であってもよい。なお、第3の凸部材60a、60bの側面視の形状及び他の構成は、第2の凸部材50a、50bと同様である。
【0052】
図11で、第2実施形態にかかる空力音低減構造の変形例である第4の凸部材70a、70bは、平面視において複数の可撓性部材90を備えた刷毛形状である。可撓性部材90は、それぞれが突出端91を備える。突出端91は、台車10に接触したり、台車10の旋回を妨げたりしない限りにおいて、台車10に近い位置まで延びる。また、可撓性部材90は、鉄道車両1の高速走行時において衝突する風の流れにより、風の流れに押された方向に変形し得る。一実施形態において、可撓性部材90の材質は、ゴムやナイロン、ポリプロピレンである。なお、第4の凸部材70a、70bの側面視の形状及び他の構成は、第2の凸部材50a、50bと同様である。
【0053】
<主な効果>
以上のように、第2の凸部材50a、50bは格納空間Sの内側に対して突出する。これにより、車両走行時に車体20の下方から格納空間Sに流れ込む空気をさえぎり、速い流れが台車10等の構成部材に衝突して高周波数帯の空力音が発生することを抑制することができる。変形例にかかる第3の凸部材60a、60b、又は、第4の凸部材70a、70bによると、車両走行時に車体20の下方から格納空間Sに流れ込む際に生じる渦を細分化することで、細分化された流れが台車10等の構成部材に衝突したときに発生する高周波数帯の空力音を低減することができる。
【0054】
また、第2の凸部材50a、50b、第3の凸部材60a、60b、及び、第4の凸部材70a、70bの下面は、底カバー23よりも下方に突出しないため、格納空間下方に空気の流れが偏向しにくく、地上流速が変化しにくい。このため、バラストなどの軌道上の地上設備に当たる気流速度が上がることを抑制し、バラストの飛散等を抑制することができる。
【0055】
また、進行方向後方側における第2の凸部材50a、50bは、回動機構により折りたたむことで収納することができる。これによって、進行方向に対向する向きの空気の流れが突出端80に衝突することを防ぐことができる。その結果、高周波数帯の空力音が発生することを抑制することができる。第3の凸部材60a、60bにおける波状突出部81、及び、第4の凸部材70a、70bにおける複数の突出端91についても同様である。
【0056】
また、第4の凸部材70a、70bにおける可撓性部材90は、鉄道車両1の高速走行時において衝突する風の流れにより、風の流れに押された方向に変形し得る。このため、進行方向後方側の第4の凸部材70bにおける突出端91に対して風が衝突しても、可撓性部材90の変形によって高周波数帯の空力音の発生が抑制される。
【0057】
<確認試験2>
図12は、第2の凸部材50a、50bを設けたことによる空力音の低減効果を調べるために、風洞試験機を用いて行った確認試験2の結果を示す図である。確認試験2では、1/5スケールの鉄道車両1を模した模型1、模型2と、比較例の模型を用いた。模型1は、図7図9に示した前後の第2の凸部材50a、50bを設け、かついずれも展開した構成とし、模型2は、図7図9に示した前後の第2の凸部材50a、50bのうち、進行方向前方側(空気の流れの上流側)の第2の凸部材50aのみを設け、進行方向後方側(空気の流れの下流側)の第2の凸部材50bを取り外す構成とした。比較例の模型は第2の凸部材50a、50bを設けない構成とした。確認試験2は風速325km/hの風洞試験で生じる高周波数帯の空力音の音圧レベルを測定したものである。図12の結果は、模型1又は模型2と、比較例の模型における空力音の音圧レベルの値の差((模型1又は模型2の値)-(比較例の値))を示している。図12で、丸(〇)のプロットは模型1の結果を、三角形(△)のプロットは模型2の結果を示す。なお、模型1並びに模型2及び比較例の模型におけるふさぎ板24a、24bの寸法、ふさぎ板24a、24bと底カバー23のなす角度、模型1又は模型2における第2の凸部材50a、50bの各部の寸法は、以下の通りとした。
【0058】
ふさぎ板:(斜面に沿った高さ)185mm×(Y方向長さ)640mm
ふさぎ板と底カバーの成す角度:120°
第2の凸部材の寸法(X方向×Y方向×Z方向):60mm×500mm×1mm
ふさぎ板と第2の凸部材の成す角度:60°
【0059】
図12から明らかな通り、風速325km/hの風洞試験において、模型1では160Hz~2kHzの高周波数帯で空力音の増加がみられた。一方で、模型2では、160Hz~2kHzの高周波数帯におけるほぼ全ての周波数で空力音の低減が認められた。これにより、進行方向前方側の第2の凸部材50aを設け、かつ、進行方向後方側の第2の凸部材50bを取り外す構成とすることで、高周波数帯の空力音による騒音を効果的に抑制することができていることが確認できた。
【0060】
なお、上記の確認試験2の結果については以下のように考察される。模型1及び模型2の何れにおいても進行方向前方側の第2の凸部材50aによると、上述の作用による空力音の低減効果が得られている。しかし、模型1においては進行方向後方側の第2の凸部材50bが設けられているために、かかる第2の凸部材50bの突出端80に衝突する空気の流れによって高周波の空力音が発生したと考えられる。したがって、模型2において進行方向後方側の第2の凸部材50bを取り外した構成としたのと同様に、進行方向後方側の第2の凸部材50bを回動機構により折りたたむか、あるいはスライド機構により格納空間Sに対して突出しないように収納することで、同様の結果が得られるものと期待される。
【0061】
<確認試験3>
図13は、第3の凸部材60a、60bを設けたことによる空力音の低減効果を調べるために、風洞試験機を用いて行った確認試験3の結果を示す図である。確認試験3では、1/5スケールの鉄道車両1を模した模型1、模型2と、比較例の模型を用いた。模型1は、図10に示した前後の第3の凸部材60a、60bを設け、模型2は、図10に示した前後の第3の凸部材60a、60bのうち、進行方向前方側(空気の流れの上流側)の第3の凸部材60aのみを設け、進行方向後方側(空気の流れの下流側)の第3の凸部材60bを取り外す構成とした。比較例の模型は第3の凸部材60a、60bを設けない構成とした。確認試験3は風速325km/hの風洞試験で生じる高周波数帯の空力音の音圧レベルを測定したものである。図13の結果は、模型1又は模型2と、比較例の模型における空力音の音圧レベルの値の差((模型1又は模型2の値)-(比較例の値))を示している。図13で、丸(〇)のプロットは模型1の結果を、三角形(△)のプロットは模型2の結果を示す。なお、模型1並びに模型2及び比較例の模型におけるふさぎ板24a、24bの寸法、ふさぎ板24a、24bと底カバー23のなす角度、模型1又は模型2における第3の凸部材60a、60bの各部の寸法は、以下の通りとした。
【0062】
ふさぎ板:(斜面に沿った高さ)185mm×(Y方向長さ)640mm
ふさぎ板と底カバーの成す角度:120°
第3の凸部材の寸法(X方向×Y方向×Z方向):60mm×500mm×1mm
第3の凸部材の波状突出部のX方向長さ:40mm
第3の凸部材の突出端82のY方向間隔:40mm
ふさぎ板と第3の凸部材の成す角度:60°
【0063】
図13から明らかな通り、風速325km/hの風洞試験において、模型1では160Hz~2kHzの高周波数帯におけるほぼ全ての周波数で空力音の増加がみられた。一方で、模型2では、160Hz~2kHzの高周波数帯におけるほぼ全ての周波数で空力音の低減が認められた。これにより、進行方向前方側の第3の凸部材60aを設け、かつ、進行方向後方側の第3の凸部材60bを取り外す構成とすることで、高周波数帯の空力音による騒音を効果的に抑制することができていることが確認できた。
【0064】
上記の確認試験3の結果について、確認試験2と同様に、進行方向後方側の第3の凸部材60bを回動機構により折りたたむか、あるいはスライド機構により格納空間Sに対して突出しないように収納することで、同様の結果が得られるものと期待される。
【0065】
<確認試験4>
図14は、第4の凸部材70a、70bを設けたことによる空力音の低減効果を調べるために、風洞試験機を用いて行った確認試験4の結果を示す図である。確認試験3では、1/5スケールの鉄道車両1を模した実施例の模型1と、比較例の模型を用いた。模型1は、図11に示した前後の第4の凸部材70a、70bを設ける構成とした。比較例の模型は第4の凸部材70a、70bを設けない構成とした。確認試験4は風速325km/hの風洞試験で生じる高周波数帯の空力音の音圧レベルを測定したものである。図14の結果は、模型1と、比較例の模型における空力音の音圧レベルの値の差((模型1の値)-(比較例の値))を示している。なお、模型1及び比較例の模型におけるふさぎ板24a、24bの寸法、ふさぎ板24a、24bと底カバー23のなす角度、模型1における第4の凸部材70a、70bの各部の寸法は、以下の通りとした。また、可撓性部材90の材質は、ポリプロピレンを用い、一般的なポリプロピレン製箒と同様の硬さ及び太さ(径)であるものを用いた。
【0066】
ふさぎ板:(斜面に沿った高さ)185mm×(Y方向長さ)640mm
ふさぎ板と底カバーの成す角度:120°
第4の凸部材の寸法(X方向×Y方向×Z方向):60mm×500mm×1mm
第4の凸部材の可撓性部材のX方向長さ:40mm
第4の凸部材の可撓性部材のY方向間隔:8mm
ふさぎ板と第4の凸部材の成す角度:60°
【0067】
図14から明らかな通り、風速325km/hの風洞試験において、160Hz~2kHzの高周波数帯におけるほぼ全ての周波数で空力音の低減が認められた。これにより、前後の第4の凸部材70a、70bを設ける構成とすることで、高周波数帯の空力音による騒音を効果的に抑制することができていることが確認できた。
【0068】
上記の確認試験4の結果について、第2、第3の凸部材50a、50b、60a、60bの場合と異なり、進行方向後方側の第4の凸部材70bを設けた場合でも空力音を低減できた。これは上述のように、進行方向後方側の第4の凸部材70bにおける突出端91に対して風が衝突した際に、可撓性部材90の変形によって高周波数帯の空力音の発生が抑制されたことによるものと考えられる。
【0069】
(第3実施形態)
<鉄道車両>
図15は、本発明の第3実施形態にかかる空力音低減構造を備える鉄道車両の構成例の概略を示す側面図である。図16図17は、図15の部分拡大図である。
【0070】
図15で、第1の鉄道車両100a及び第2の鉄道車両100bは、例えば、レール(図示せず)上を高速で走行する新幹線車両等の高速鉄道車両である。この第1、第2の鉄道車両100a、100bはそれぞれ台車10と、格納空間Sを備える車体20とを備える。台車10及び車体20の構成は、第1、第2実施形態と同様である。
【0071】
第1の鉄道車両100aと第2の鉄道車両100bとの間には、車間102が設けられる。なお、図15においては第1の鉄道車両100aを先頭車両として図示しているが、これに限定されず、任意の2つの鉄道車両においても同様である。
【0072】
第1の鉄道車両100aは、車間102の近傍に第1の台車10a及び第1の格納空間Saを備える。また、第2の鉄道車両100bは、車間102の近傍に第2の台車10b及び第2の格納空間Sbを備える。以下本明細書において、車間102とその近傍の第1、第2の台車10a、10b並びに第1、第2の格納空間Sa、Sbについて、これらを合わせて隣接二台車110と称する。
【0073】
<隣接二台車>
図16で、隣接二台車110において、第1の格納空間Saにおける前方のふさぎ板24aには第1の凸部材30cが設けられ、後方のふさぎ板24bには、凸部材は設けられない。また、第2の格納空間Sbにおける後方のふさぎ板24bには第1の凸部材30dが設けられ、前方のふさぎ板24aには、凸部材は設けられない。なお、第1の凸部材30c、30dの構成は、第1実施形態における第1の凸部材30a、30bと同様である。
【0074】
上記構成による隣接二台車110においては、第1の凸部材30c、30dの配置が、車間102におけるY-Z平面に対して対称の位置となる。その結果、第1の凸部材30c、30dの配置関係が進行方向によって変化しない。具体的には、進行方向がX軸正方向である場合には、第1の格納空間Saにおける第1の凸部材30cが前方に位置し、第2の格納空間Sbにおける第1の凸部材30dが後方に位置する。逆に、進行方向がX軸負方向である場合には、第2の格納空間Sbにおける第1の凸部材30dが前方に位置し、第1の格納空間Saにおける第1の凸部材30cが後方に位置する。
【0075】
<主な効果>
進行方向がX軸正方向である場合の第1の凸部材30cと、進行方向がX軸負方向である場合の第1の凸部材30dは、いずれも第1実施形態における進行方向前方側の第1の凸部材30aと同様の作用及び効果を奏する。したがって、本実施形態にかかる隣接二台車110を備える鉄道車両100a、100bによれば、進行方向がいずれの方向であっても、格納空間Sa、Sbにおける構成を変更することなく、空力音の低減効果が得られる。
【0076】
ところで、上述したように、第1の格納空間Saにおける後方のふさぎ板24b、及び、第2の格納空間Sbにおける前方のふさぎ板24aには、凸部材は設けられない。進行方向がX軸正方向である場合の第2の格納空間Saにおける前側のふさぎ板24aは進行方向前方側に当たる。同様に、進行方向がX軸負方向である場合の第1の格納空間Saにおける後側のふさぎ板24bは進行方向前方側に当たる。したがって、各進行方向においては、かかる位置には凸部材を設けることが好ましいと言える。すなわち、かかる位置に凸部材を設けないことによっても空力音の低減効果が得られることは、本実施形態にかかる隣接二台車110の構成による顕著な効果であるといえる。かかる構成によって空力音の低減効果が得られる理由については、以下のように考察される。
【0077】
まず、上記確認試験の結果などから、進行方向後方側の凸部材においては、突出端に空気の流れが衝突することにより空力音が発生し得ることがわかった。第1実施形態においては突出端42を凸面部41とすることによって、第2実施形態においては後方側の凸部材を収納することによって、これを回避することが可能となった。かかる観点では、進行方向後方側の凸部材は、高周波数帯の空力音の抑制の観点では、設けない(収納することが可能である)構成とすることが考えられる。かかる観点で、進行方向がX軸正方向である場合の第1の格納空間Saにおける後方のふさぎ板24bは、進行方向後方側に当たるから、凸部材を設けないことで高周波数帯の空力音を抑制できるものと考察される。同様に、進行方向がX軸負方向である場合の第2の格納空間Saにおける前方のふさぎ板24aは、進行方向後方側に当たるから、凸部材を設けないことで高周波数帯の空力音を抑制できるものと考察される。
【0078】
次に、隣接二台車110において、進行方向後方側の格納空間は、進行方向前方側の格納空間よりも、衝突する空気の流速が低下することが知られている(非特許文献:宇田
東樹,外5名,“スラブ軌道区間における新幹線車両下部の流速分布”,日本機械学会論文集,Bulletin of the
JSME,Vol.81, No.830, 2015)。上記非特許文献の図18などによれば、進行方向がX軸正方向である場合の第1の格納空間Saにおける前側のふさぎ板24aに当たる位置の流速が0.34であり、第2の格納空間Saにおける前側のふさぎ板24aに当たる位置の流速が0.38であることが読める。この場合、流速の違いに基づく空力音の音圧レベルは、60log(0.38/0.34)=2.9[dB]と見積もられる。かかる観点では、進行方向後方側の格納空間の前側のふさぎ板24aにおいては、見積もられる空力音が前方側よりも小さいため、凸部材が設けられていないことにより空力音の低減効果は得られないとしても、全体の空力音の低減効果には大きく影響しないものと考察される。
【0079】
次に、上記非特許文献の図18などによれば、進行方向後方側の格納空間における後側のふさぎ板に当たる位置の流速は、さらに小さいことがわかる。このため、かかる位置に凸部材が設けられ、その突出端に空気の流れが衝突して空力音が発生するとしても、発生する空力音の音圧レベルは全体からみて十分に低く見積もられ、全体の空力音の低減効果には大きく影響しないものと考察される。
【0080】
<隣接二台車の変形例>
図17は、本実施形態にかかる隣接二台車110の変形例の概略を示す側面図である。図示の通り、隣接二台車110において、第1の格納空間Saにおける前方のふさぎ板24aには第1の凸部材30cが設けられ、後方のふさぎ板24bには、第2の凸部材50cが設けられる。また、第2の格納空間Sbにおける後方のふさぎ板24bには第1の凸部材30dが設けられ、前方のふさぎ板24aには、第2の凸部材50dが設けられる。なお、第1の凸部材30c、30dの構成は、第1実施形態における第1の凸部材30a、30bと同様である。また、第2の凸部材50c、50dの構成は、第2実施形態における第2の凸部材50a、50bと同様である。また、第2の凸部材50c、50dの構成は、第2実施形態の変形例にかかる第3の凸部材60a、60b、第4の凸部材70a、70bと同様の構成を備えていてもよい。なお、図17は進行方向がX軸正方向である場合の隣接二台車110の状態の一例を示す。
【0081】
<主な効果>
進行方向がX軸正方向である場合の第1の凸部材30cと、進行方向がX軸負方向である場合の第1の凸部材30dは、いずれも第1実施形態における進行方向前方側の第1の凸部材30aと同様の作用及び効果を奏する。また、進行方向がX軸負正方向である場合の第2の格納空間Sbにおける第2の凸部材50dと、進行方向がX軸負方向である場合の第1の格納空間Saにおける第2の凸部材50cは、いずれも第2実施形態における進行方向前方側の第2の凸部材50aと同様の作用及び効果を奏する。また、進行方向がX軸負正方向である場合の第1の格納空間Saにおける第2の凸部材50cと、進行方向がX軸負方向である場合の第2の格納空間Sbにおける第2の凸部材50dは、いずれも第2実施形態における進行方向後方側の第2の凸部材50bと同様に折りたたまれることで収納され、同様の作用及び効果を奏する。したがって、本実施形態の変形例にかかる隣接二台車110を備える鉄道車両100a、100bによれば、進行方向がいずれの方向であっても、空力音の低減効果が得られる。
【0082】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、鉄道車両の車体の底部に設けられた台車の格納空間において発生する空力音の抑制に有用である。
【符号の説明】
【0085】
1、100a、100b 鉄道車両
10 台車
11 輪軸
12 車軸
13 車輪
14 台車枠
20 車体
21 カバー
22 側カバー
23 底カバー
24a、24b ふさぎ板
25 床下機器
30a、30b 第1の凸部材
31 基端面
32 下面
33 第1の側面
34a、34b 第2の側面
40 凹面部
41 凸面部
42、80、82、91 突出端
50a、50b 第2の凸部材
60a、60b 第3の凸部材
70a、70b 第4の凸部材
81 波状突出部
90 可撓性部材
102 車間
110 隣接二台車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17