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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126546
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】走行位置決定装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240912BHJP
   G06V 10/70 20220101ALI20240912BHJP
   G08G 1/123 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G06T7/00 650B
G06V10/70
G08G1/123
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034961
(22)【出願日】2023-03-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年11月17日に、第3回AI・データサイエンスシンポジウムにおいて発表した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年11月12日に、AI・データサイエンス論文集3巻J2号に掲載した。
(71)【出願人】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(71)【出願人】
【識別番号】505413255
【氏名又は名称】阪神高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092956
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100101018
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 正
(72)【発明者】
【氏名】今井 龍一
(72)【発明者】
【氏名】山口 樹
(72)【発明者】
【氏名】向井 梨紗
(72)【発明者】
【氏名】河本 一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】中村 健二
(72)【発明者】
【氏名】井上 晴可
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄平
(72)【発明者】
【氏名】塚田 義典
【テーマコード(参考)】
5H181
5L096
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181BB13
5H181BB20
5H181CC27
5H181EE02
5H181FF04
5H181FF13
5H181FF27
5H181FF32
5L096BA04
5L096FA69
5L096HA03
5L096JA11
5L096KA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】GNSS位置情報に基づいて精度よく走行車線を判定する走行位置決定装置を提供する。
【解決手段】走行位置決定装置において、車線推定手段2は、与えられた時系列のGNSS車両位置に基づいて、走行車線位置を推定し出力する。車線変更推定手段4は、与えられた時系列の速度、横方向加速度に基づいて、車線変更の有無を推定し出力する。確定手段6は、車線推定手段2によって推定された走行車線位置と、車線変更推定手段4によって推定された車線変更の有無とに基づいて、走行車線位置を確定する。
【効果】精度の低いGNSS位置データに基づく車線推定結果と、車線変更の有無の推定結果とに基づいて、走行車線位置を確定させることで、GNSS位置データのような精度の低いデータに基づく場合であっても、精度良く走行車線の推定を行うことができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行車線位置を推定するよう学習した学習済モデルに、時系列の車両位置を与えて、当該車両の走行車線位置を推定する走行車線推定手段と、
車両の車線変更の有無を推定するように学習した学習済モデルに、時系列の車両の速度または時系列の車両の横方向への加速度を与えて、当該車両の車線変更の有無を推定する車線変更推定手段と、
前記走行車線推定手段によって推定された走行車線位置と、前記車線変更推定手段によって推定された車線変更の有無とに基づいて、走行車線位置を確定する確定手段と、
を備えた走行位置決定装置。
【請求項2】
走行位置決定装置をコンピュータによって実現するための走行位置決定プログラムであって、コンピュータを、
車両の走行車線位置を推定するよう学習した学習済モデルに、時系列の車両位置を与えて、当該車両の走行車線位置を推定する走行車線推定手段と、
車両の車線変更の有無を推定するように学習した学習済モデルに、時系列の車両の速度または時系列の車両の横方向への加速度を与えて、当該車両の車線変更の有無を推定する車線変更推定手段と、
前記走行車線推定手段によって推定された走行車線位置と、前記車線変更推定手段によって推定された車線変更の有無とに基づいて、走行車線位置を確定する確定手段として機能させるための走行位置決定プログラム。
【請求項3】
請求項1の装置または請求項2のプログラムにおいて、
前記時系列の車両位置は、GNSSに基づいて得られたものであることを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項4】
請求項1の装置または請求項2のプログラムにおいて、
前記確定手段は、車線変更推定手段の推定結果に基づいて、車線を変更している車線変更区間と車線を維持している車線維持区間を特定することを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項5】
請求項4の装置またはプログラムにおいて、
前記確定手段は、車線維持区間において、前記走行車線推定手段によって推定された複数の走行車線位置のうち、最も多い走行車線位置に確定する装置またはプログラム。
【請求項6】
請求項4の装置またはプログラムにおいて、
前記確定手段は、前記車線変更区間を挟んで連続する2つの車線維持区間において、既に走行車線位置が確定している一方の車線維持区間の走行車線位置に隣接する2つの走行車線位置のいずれかを、他方の車線維持区間の走行車線位置に確定することを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項7】
請求項4の装置またはプログラムにおいて、
前記確定手段は、時系列順に車線維持区間の走行車線位置を確定した結果と、時系列逆順に車線維持区間の走行車線位置を確定した結果とに基づいて、車線維持区間の走行車線位置を最終的に確定することを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項8】
請求項1の装置または請求項2のプログラムにおいて、
前記走行車線推定手段は、時系列の車両の速度も推定のために用いることを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項9】
請求項1の装置または請求項2のプログラムにおいて、
前記車線変更推定手段は、時系列の車両の前後方向または上下方向またはその双方の加速度も推定のために用いることを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項10】
時系列の車両の速度または時系列の車両の横方向への加速度に基づいて車両の車線変更の有無を推定するように学習された学習済モデル。
【請求項11】
コンピュータによって学習済モデルを実現するための学習済モデルプログラムであって、コンピュータを、
時系列の車両の速度または時系列の車両の横方向への加速度に基づいて車両の車線変更の有無を推定するように学習された学習済モデルとして機能させるための学習済モデルプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の走行位置情報に基づいて走行車線を推定する装置に関し、特にその精度向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路や一般道路において、車線設計に役立てたり、交通状況を把握したりするために、各車線を通行する車両の状況を把握することが行われている。たとえば、該当箇所をカメラにて動画撮像し、これを人が見て各車両の走行車線を判断していた。しかし、この作業は繁雑であり、人的リソースの削減のためにこれを自動化したいというニーズがあった。
【0003】
走行車両の走行車線の判断を自動化するシステムが、特許文献1に開示されている。精度の高い位置取得器を基準自動車に搭載して、走行車線を検知する方法が記載されており、さらに、このような精度の高い位置取得器を搭載していない自動車であっても、基準自動車との速度変化の類似性に基づいて、走行車線を推定するシステムが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ウインカ操作信号とカメラ画像による白線検知信号とに基づいて、走行車線や車線変更を判定するシステムが開示されている。
【0005】
これらによれば、人手によらずに走行車両の走行車線を判断することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2019/38987
【特許文献2】特開2006-23278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のシステムでは、基準となる車両に精度の高い位置取得器の搭載が必要であり、実現のためのコストが膨大になってしまうという問題があった。
【0008】
また、特許文献2のシステムでは、全ての車両にカメラを搭載して走行時の画像を保存する必要があり、同様に実現のためのコストが膨大になってしまうという問題があった。
【0009】
一方で、カーナビゲーションシステムやスマートフォンにて取得可能なGNSS位置情報に基づいて、走行車線を判断しようとしても、車線幅の2倍程度誤差があり、実用には耐えなかった。また、これより精度の高い位置情報を用いる場合であっても、さらに走行車線の判断精度を高めたいという要請があった。
【0010】
この発明は、上記のような問題点を解決して、低コストでありながら位置情報に基づいて精度よく走行車線を判定する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の独立して適用可能な特徴を以下に列挙する。
【0012】
(1)(2)この発明に係る走行位置決定装置は、車両の走行車線位置を推定するよう学習した学習済モデルに、時系列の車両位置を与えて、当該車両の走行車線位置を推定する走行車線推定手段と、車両の車線変更の有無を推定するように学習した学習済モデルに、時系列の車両の速度または時系列の車両の横方向への加速度を与えて、当該車両の車線変更の有無を推定する車線変更推定手段と、前記走行車線推定手段によって推定された走行車線位置と、前記車線変更推定手段によって推定された車線変更の有無とに基づいて、走行車線位置を確定する確定手段とを備えている。
【0013】
推定した走行車線位置だけでなく、推定した車線変更の有無も考慮して走行車線位置を確定するようにしているので、時系列の車両位置の位置精度が良くない場合であっても、精度良く走行車線位置を判定することができる。
【0014】
(3)この発明に係る走行位置決定装置は、時系列の車両位置が、GNSSに基づいて得られたものであることを特徴としている。
【0015】
したがって、誤差の大きいGNSSの車両位置に基づいて、精度良く走行車線位置を得ることができる。
【0016】
(4)この発明に係る走行位置決定装置は、確定手段が、車線変更推定手段の推定結果に基づいて、車線を変更している車線変更区間と車線を維持している車線維持区間を特定することを特徴としている。
【0017】
したがって、車線変更区間と車線維持区間を明確にすることができる。
【0018】
(5)この発明に係る走行位置決定装置は、確定手段が、車線維持区間において、前記走行車線推定手段によって推定された複数の走行車線位置のうち、最も多い走行車線位置に確定することを特徴としている。
【0019】
したがって、車線維持区間全体の走行車線位置を確定することができる。
【0020】
(6)この発明に係る走行位置決定装置は、確定手段が、前記車線変更区間を挟んで連続する2つの車線維持区間において、既に走行車線位置が確定している一方の車線維持区間の走行車線位置に隣接する2つの走行車線位置のいずれかを、他方の車線維持区間の走行車線位置に確定することを特徴としている。
【0021】
したがって、既に走行車線位置が確定している車線維持区間との矛盾がないように走行車線位置を確定することができる。
【0022】
(7)この発明に係る走行位置決定装置は、確定手段が、時系列順に車線維持区間の走行車線位置を確定した結果と、時系列逆順に車線維持区間の走行車線位置を確定した結果とに基づいて、車線維持区間の走行車線位置を最終的に確定することを特徴としている。
【0023】
したがって、より精度良く走行車線位置を確定することができる。
【0024】
(8)この発明に係る走行位置決定装置は、走行車線推定手段が、時系列の車両の速度も推定のために用いることを特徴としている。
【0025】
したがって、より推定精度を上げることができる。
【0026】
(9)この発明に係る走行位置決定装置は、車線変更推定手段が、時系列の車両の前後方向または上下方向またはその双方の加速度も推定のために用いることを特徴としている。
【0027】
したがって、より推定精度を上げることができる。
【0028】
(10)(11)この発明に係る学習済モデルは、時系列の車両の速度または時系列の車両の横方向への加速度に基づいて車両の車線変更の有無を推定するように学習されたことを特徴としている。
【0029】
したがって、車線変更の有無を精度良く推定することができる。
【0030】
この発明において、「走行車線推定手段」は、実施形態においては、図5に示すステップS3がこれに対応する。
【0031】
「車線変更推定手段」は、実施形態においては、図5に示すステップS4がこれに対応する。
【0032】
「確定手段」は、実施形態においては、図5に示すステップS5がこれに対応する。
【0033】
「装置」とは、1台のコンピュータによって構成されるものだけでなく、ネットワークなどを介して接続された複数のコンピュータによって構成されるものも含む概念である。したがって、本発明の手段(あるいは手段の一部でもよい)が複数のコンピュータに分散されている場合、これら複数のコンピュータが装置に該当する。
【0034】
「プログラム」とは、CPUにより直接実行可能なプログラムだけでなく、ソース形式のプログラム、圧縮処理がされたプログラム、暗号化されたプログラム、オペレーティングシステムと協働してその機能を発揮するプログラム等を含む概念である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】この発明の一実施形態による走行位置決定装置の機能構成図である。
図2】走行位置決定装置のハードウエア構成である。
図3】データ取得装置として用いるスマートフォンのハードウエア構成である。
図4】車線走行中の車両とGNSS位置を示す図である。
図5】走行位置決定プログラムの全体フローチャートである。
図6】測定したGNSS位置データ、速度データ、加速度データを示す図である。
図7】補間後のデータを示す図である。
図8】走行車線位置推定処理の詳細フローチャートである。
図9】走行車線位置推定のための学習データである。
図10】走行車線位置推定の結果データである。
図11】車線変更有無推定処理の詳細フローチャートである。
図12】車線変更有無推定のための学習データである。
図13】車線変更推定の結果データである。
図14】統合された推定結果データである。
図15】確定処理の詳細フローチャートである。
図16】確定処理の詳細を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
1.機能構成
図1に、この発明の一実施形態による走行位置決定装置の機能構成を示す。車線推定手段2には、GPSなどのGNSS(Global Navigation Satellite System)によって得られた時系列の車両位置が与えられる。車線推定手段2は、時系列の車両位置から走行車線位置を推定するように学習された学習済モデルである。したがって、車線推定手段2は、与えられた時系列の車両位置に基づいて、走行車線位置を推定し出力する。
【0037】
車線変更推定手段4には、車両に搭載された速度センサ、加速度センサによって得られた時系列の速度、横方向加速度が与えられる。車線変更推定手段4は、少なくとも時系列の速度、横方向加速度から車線変更があったか否かを推定するように学習された学習済モデルである。したがって、車線変更推定手段4は、少なくとも与えられた時系列の速度、横方向加速度に基づいて、車線変更の有無を推定し出力する。
【0038】
確定手段6は、車線推定手段2によって推定された走行車線位置と、車線変更推定手段4によって推定された車線変更の有無とに基づいて、走行車線位置を確定する。
【0039】
このように、位置データに基づいて推定した車線走行位置と、推定した車線変更の有無とに基づいて、走行車線位置を確定させている。したがって、GNSS位置データのような精度の低いデータに基づく場合であっても、精度良く走行車線の推定を行うことができる。
【0040】
なお、この装置は、高速道路を対象として適用することが好ましいが、通常の道路についても適用することができる。
【0041】
2.ハードウエア構成
図2に、走行位置決定装置のハードウエア構成を示す。CPU20には、メモリ22、ディスプレイ24、SSD26、DVD-ROMドライブ28、キーボード/マウス30、通信回路32が接続されている。通信回路32は、インターネットと接続するための回路である。
【0042】
SSD26には、オペレーティングシステム34、走行位置決定プログラム36が記録されている。走行位置決定プログラム36は、オペレーティングシステム34と協働してその機能を発揮するものである。これらプログラムは、DVD-ROM38に記録されていたものを、DVD-ROMドライブ28を介して、SSD26にインストールしたものである。
【0043】
図3に、車両位置、速度、加速度を取得するための装置のハードウエア構成を示す。この実施形態では、データ取得プログラム58をインストールしたスマートフォンを車両のダッシュボードなどに固定することで装置を実現するようにしている。なお、カーナビゲーション装置などからデータを取得するようにしてもよい。
【0044】
CPU40には、メモリ42、タッチディスプレイ44、GNSS受信回路46、SSD48、加速度センサ50、速度センサ52、通信回路54が接続されている(通話回路などは省略している)。加速度センサ50は、車両の加速度を計測するものである。スマートフォンを車両に固定する際に、センサの3軸方向が、車両の前後、左右、上下に合致するように取り付けられる。速度センサ52は、車両の速度を計測するものである。GNSS受信回路46は、衛星からの電波を受信して車両位置や現在時刻を取得するものである。
【0045】
SSD48には、オペレーティングシステム56、データ取得プログラム58が記録されている。データ取得プログラム58は、オペレーティングシステム56と協働してその機能を発揮するものである。
【0046】
3.走行位置決定処理
3.1全体の流れ
以下では、図4に示すような3車線(所定数の車線を対象とできる)を持つ道路において、車両がどの走行車線位置を走行したかを推定する場合について説明する。
【0047】
図5に、走行位置決定プログラム36のフローチャートを示す。CPU20は、図3の装置を搭載した車両によって、図4の道路を走行した際に取得された計測データを、通信、記録媒体などを介して、SSD26に取り込む(ステップS1)。取り込まれたデータの例を、図6に示す。時刻とともに、GNSSによる位置、速度、X加速度(車の前後方向の加速度)、Y加速度(車の横方向の加速度)、Z加速度(車の上下方向の加速度、図4における紙面に垂直な方向)が記録されている。この実施形態では、位置、速度については1秒間隔、加速度については0.1秒ごとに記録したデータを用いている。
【0048】
次に、CPU20は、位置、速度について、1秒間隔のデータを補間し、細かい間隔(この例では0.1秒間隔)のデータとする(ステップS2)。たとえば、線形補間を用いることができる。補間されたデータを図7に示す。
【0049】
続いて、CPU20は、図7のGNSS位置データに基づいて走行車線位置の推定を行う(ステップS3)。さらに、図7の速度、Y加速度データに基づいて車線変更有無の推定を行う(ステップS4)。
【0050】
CPU20は、ステップS3において推定した走行車線位置と、ステップS4において推定した車線変更の有無とに基づいて、走行車線位置を確定する(ステップS5)。
【0051】
3.2時系列の車両位置に基づく車線推定処理
図8に、ステップS3の走行車線位置の推定処理の詳細フローチャートを示す。CPU20は、走行車線位置を推定する対象である対象時刻以前の所定時間分(この例では2秒分)の補間済GNSS位置データを取得する(ステップS32)。いま、図7に示すデータDIが対象時刻のデータであるとすると、データDEまでの20個のGNSS位置データが取得されることになる。
【0052】
次に、CPU20は、この20個のGNSS位置データを、走行車線推定のための学習済モデルに与えて、走行車線位置を推定する(ステップS33)。
【0053】
ここで、走行車線推定のための学習済モデルは、同じ場所において、走行車線位置の分かっている車両のGNSS位置データ(上記と同じ補間した20個のデータ)に基づいて学習をしたものである。この実施形態では、学習モデルとしてランダムフォレストを用いている。
【0054】
学習処理は以下のとおりである。図4に示す道路において、走行する車両の時系列GNSS位置データ53を取得する。図4に示すように、GNSS位置データ53は、実際の車両位置51に対して誤差を持っている。取得した時系列GNSS位置データ53を、0.1秒間隔のGNSS位置データに補間する。これに基づいて、図9に示すような20個のGNSS位置データと走行車線が対になった学習データを生成する。なお、走行車線位置は、データ取得時に同時に撮像した映像などに基づいて人間が判断して付与しても良いし、映像中の車線区分線などを元に自動的に判断して付与するようにしてもよい。
【0055】
GNSS位置データは、走行車線位置を判断した時刻以前の2秒間のデータ(20個)である。時間的に連続した幅のあるデータを用いることで推定精度を上げるためである。図9において、GNSS位置データは、最下段が走行位置を判断した時刻のGNSS位置データであり、最上段が2秒前のデータである。
【0056】
この学習データを、当該車両について各時刻ごとに生成する。さらに、多数の車について学習データを生成する。
【0057】
図9に示す20個のGNSS位置データを時刻順に並べて一斉にランダムフォレストによる学習モデルに与え、その推定結果と図9の走行車線位置とに基づいて、パラメータの学習を行う。これを、多数の学習データについて繰り返す。このようにして、生成した多数の学習データに基づいて学習を行ったものが、走行車線推定のための学習済モデルである。
【0058】
したがって、CPU20は、ステップS33において与えられた20個の時系列に並べられたGNSS位置データに基づいて、この学習済モデルにより、走行車線位置を推定する。なお、推定値は、図4に示す第1車線の中心を「1.0」、第2車線の中心を「2.0」、第3車線の中心を「3.0」とする直線上の実数値として出力される。図10に示すように、CPU20は、対象時刻DIに対応付けて、推定した走行車線位置(実数値)を四捨五入して整数化し記録する(ステップS34)。
【0059】
対象時刻DIについての処理が終了すると、CPU20は、次の対象時刻DIIについて、上記と同様にして走行車線位置の推定を行う。これを全ての対象時刻について行う(ステップS31、S35)。
【0060】
以上のようにして、時系列のGNSS位置データに基づく走行車線位置の推定が完了する。
【0061】
3.3車線変更有無推定処理
図11に、ステップS4の車線変更有無推定処理の詳細フローチャートを示す。CPU20は、車線変更有無を推定する対象である対象時刻前後の所定時間分(この例では2秒分)の補間済速度データ、X方向加速度(前後方向加速度)、Y方向加速度(横方向加速度)、Z方向加速度(上下方向加速度)を取得する(ステップS42)。いま、図7に示すデータPIが対象時刻のデータであるとすると、データDE~データDIまでの20個の補間済速度データ、X方向加速度、Y方向加速度、Z方向加速度のセットが取得されることになる。
【0062】
次に、CPU20は、この20個の補間済速度データ、X方向加速度データ、Y方向加速度データ、Z方向加速度データのセットを、車線変更有無のための学習済モデルに与えて、車線変更の有無(車線変更中であるか否か)を推定する(ステップS43)。
【0063】
ここで、車線変更有無推定のための学習済モデルは、同じ場所において、車線変更の有無が分かっている車両の補間済速度データ、X方向加速度データ、Y方向加速度データ、Z方向加速度データのセット(上記と同じ20個のセット)に基づいて学習をしたものである。この実施形態では、学習モデルとしてランダムフォレストを用いている。
【0064】
学習処理は以下のとおりである。図4に示す道路において、走行する車両の速度データ、X方向加速度データ、Y方向加速度データ、Z方向加速度データを取得する。速度データについては0.1秒間隔に補間し、加速度データと時間間隔をそろえる。これに基づいて、図12に示すような20個の速度データ、X加速度データ、Y加速度データ、Z加速度データと車線変更の有無が対になった学習データを生成する。なお、走行車線位置は、データ取得時に同時に撮像した映像などに基づいて人間が判断して付与しても良いし、映像中の車線区分線などを元に自動的に判断して付与するようにしてもよい。
【0065】
速度データ、X加速度データ、Y加速度データ、Z加速度データは、車線変更有無を判断した時刻の前後合計2秒間のデータ(20セット)としている。車線変更の際には、速度を変化させたり、加速度が生じたるすることが多いためこれらを推定のためのデータとして用いている。また、前後所定時間分の時系列データを用いることで、判定精度を向上させている。この学習データを、当該車両について各時刻ごとに生成する。さらに、多数の車について学習データを生成する。
【0066】
図12に示す20セットのデータを時刻順に並べて一斉にランダムフォレストによる学習モデルに与え、その推定結果と図12の車線変更有無とに基づいて、パラメータの学習を行う。これを、多数の学習データについて繰り返す。このようにして、生成した多数の学習データに基づいて学習を行ったものが、車線変更有無推定のための学習済モデルである。
【0067】
したがって、CPU20は、ステップS43において与えられた20セットの時系列の速度データ、X加速度データ、Y加速度データ、Z加速度データに基づいて、この学習済モデルにより、車線変更有無を推定する。図13に示すように、CPU20は、対象時刻PIに対応付けて、推定した車線変更の有無を記録する(ステップS44)。
【0068】
対象時刻PIについての処理が終了すると、CPU20は、次の対象時刻PIIについて、上記と同様にして走行車線位置の推定を行う。これを全ての対象時刻について行う(ステップS41、S45)。
【0069】
以上のようにして、時系列の速度データ、加速度データに基づく車線変更有無の推定が完了する。
【0070】
推定した走行車線位置と推定した車線変更の有無を時刻によって統合すると、図14のような統合データを得ることができる。なお、この実施形態では、走行車線位置として整数値を用いるようにしている。
【0071】
3.4確定処理
図15に、ステップS5の確定処理の詳細フローチャートを示す。CPU20は、図14の統合データに基づいて、車線変更「有」が所定時間以上(この実施形態では1秒以上)継続している区間を、車線変更区間Cとして特定する(ステップS51)。車線変更「有」の各時刻における推定には不確実性があるので、これが所定時間継続したことで判断することにより精度の向上を図っている。このように車線変更区間Cを特定すると、CPU20は、他の区間を車線維持区間Mとして特定する(図14参照)。このようにして、図16に示すように、車線維持区間と車線変更区間を特定することができる。
【0072】
次に、CPU20は、時間順で最初の車線維持区間M1を見いだし、各時刻において推定された走行車線位置の多数のものを選択し、当該車線維持区間M1全体の走行車線位置として決定する(ステップS52)。たとえば、図16の場合であれば、車線維持区間M1においては、走行車線位置として「2」と「3」が推定されている。しかし、走行車線位置「2」が多いので、車線維持区間M1全体の走行車線位置として「2」に決定する。
【0073】
次に、CPU20は、車線維持区間M1から車線変更区間C1を挟んで隣接する次の車線維持区間M2の走行車線位置候補を決定する(ステップS54)。車線維持区間M1について確定された走行車線位置「2」を用いて、これに隣接する走行車線位置「1」「3」を、走行車線位置候補とする。これは、車線変更区間C1を挟んでいるため、隣接する走行車線位置となることが推測されるからである。
【0074】
次に、CPU20は、車線維持区間M2における各時刻での走行車線位置に基づいて、2つの走行車線位置候補のうちから1つを選択し、当該車線維持区間M2の走行車線位置に決定する(ステップS55)。図16に示すように、車線維持区間M2においては、候補である走行車線位置「1」「3」についてみると、走行車線位置「3」の方が多い。したがって、車線維持区間M2全体の走行車線位置として「3」に決定する。
【0075】
以下同様にして残りの車線維持区間M3以下について走行車線位置を決定する(ステップS53、S56)。このようにして、図16に示すように、全ての車線維持区間に対して走行車線位置を確定することができる。
【0076】
4.その他変形例
(1)上記実施形態では、学習モデルとしてランダムフォレストを用いたが、ブースティングなど他のアンサンブル学習による機械学習モデルを用いてもよい。また、アンサンブル学習を用いない機械学習モデルを用いてもよい。
【0077】
(2)上記実施形態では、データ補間を行って学習、推定の処理を行うようにしている。しかし、必要とする細かい時間間隔でデータを取得できる場合には、データ補間を行う必要はない。
【0078】
(3)上記実施形態では、走行車線位置の推定において、GNSS位置データを用いている。しかし、その他、誤差の大きい(0.5車線以上の誤差)測定位置データについても同様に適用することができる。また、精度の高い測定位置データについて適用すれば、さらに精度を向上させることができる。
【0079】
(4)上記実施形態では、走行車線位置の推定において、対象時刻の所定時間前までのGNSS位置データを用いている。しかし、対象時刻の所定時間後のGNSS位置データを用いてもよい。さらに、対象時刻の前後所定時間のGNSS位置データを用いてもよい。
【0080】
(5)上記実施形態では、走行車線位置の推定において、推定された実数値を四捨五入して整数値として以後の処理に用いるようにしている。しかし、実数値をそのまま用いるようにしてもよい。この場合、たとえば、ステップS52において、実数値において平均値を算出し、当該平均値を四捨五入して走行車線位置を確定するようにしてもよい。また、ステップS54において、前記実数値による平均値が、候補となったいずれの走行車線位置のいずれに近いかによって、走行車線位置を決定するようにしてもよい。
【0081】
(6)上記実施形態では、走行車線位置の推定において、GNSS位置データを用いている。しかし、これに加えて、速度データも用いて推定を行うようにしてもよい。走行車線によって速度が違うことが顕著な場合に有効である。
【0082】
(7)上記実施形態では、車線変更有無の推定において、速度データ、X加速度データ(前後)、Y加速度データ(左右)、Z加速度データ(上下)を用いている。
【0083】
しかし、速度データのみを用いて車線変更有無の推定を行うようにしてもよい。車線変更の際には大きな速度変更があるためである。また、X加速度データのみを用いて車線変更有無の推定を行うようにしてもよい。車線変更の際には、横方向の加速度が生じるからである。さらに、速度データと、X加速度データの双方を用いて車線変更有無の推定を行うようにしてもよい。
【0084】
(8)上記実施形態では、車線変更有無の推定において、対象時刻の前後あわせて所定時間分のデータを用いるようにしている。しかし、対象時刻の所定時間前までのデータや、対象時刻の所定時間後までのデータを用いるようにしてもよい。
【0085】
(9)上記実施形態では、車線変更有無の推定において、速度データ、X加速度データ(前後)、Y加速度データ(左右)、Z加速度データ(上下)を用いている。
【0086】
しかし、これらいずれかに代えて、あるいは加えて、少なくともジャークデータ、ハンドル操作情報、ウインカー指示情報のいずれかを用いるようにしてもよい。
【0087】
(10)上記実施形態では、確定処理において、時間順(進行方向順)に車線維持区間の走行車線位置を確定するようにしている。しかし、時間逆順(進行方向逆順)に車線維持区間の走行車線位置を確定するようにしてもよい。
【0088】
また、時間順と時間逆順の双方を行った上、いずれかを選択するようにしてもよい。この場合の選択基準は、当該車線維持区間全体に対して決定された走行車線位置と、当該車線維持区間における各時刻での推定された走行車線位置との合致性の高い方を選ぶようにすればよい。たとえば、図16における車線維持区間M1では、各時刻での推定走行車線位置が22個あり、そのうちの15個が決定された走行車線位置「2」と合致している。したがって、合致率は、68%である。このようにして全部の車線維持区間での合致率を算出し、その平均値である平均合致率を算出する。時間順の場合と時間逆順の場合の平均合致率が大きい方を選択する。なお、合致率は、各時刻での推定走行車線位置の平均値を算出して決定された走行車線位置「2」との誤差に基づいて算出するなどしてもよい。
【0089】
(11)上記実施形態では、確定処理において、時間的に最初の車線維持区間について決定した走行車線位置を基準として判断を行っている。しかし、基準となる最初の車線維持区間の走行車線位置が不確かなものであれば、全体としての走行車線位置の判定も不確かなものとなってしまう可能性がある。
【0090】
そこで、各時刻における推定走行車線位置と決定された走行車線位置との合致率が最も高い車線維持区間を選択し、これを基準となる車線維持区間としてもよい。選択した基準となる車線維持区間から時間順、時間逆順に処理を行って、全部の車線維持区間について走行車線位置を確定する。
【0091】
(12)上記実施形態では、確定処理において、車線変更区間は正しいものとして処理を行っている。しかし、車線変更区間をなくして前後の車線維持区間を接続し、一つの車線維持区間とした方が、全体としての平均合致率が上昇するようであれば、そのようにしてもよい。
【0092】
(13)上記実施形態では、スタンドアローンのコンピュータを走行位置決定装置とした場合を例として説明した。
【0093】
しかし、インターネットなどのネットワークに接続されたサーバ装置を走行位置決定装置としてもよい。このようにすれば、サーバ装置と通信可能な端末装置から、測定データを送信すれば、車線維持区間における確定した車線位置や車線変更区間などを取得することができる。
【0094】
(14)上記実施形態では、計測したデータを記録した後、これを走行位置決定装置が取り込んで処理を行うようにしている。
【0095】
しかし、計測データをリアルタイムに走行位置決定装置が取り込んで処理を行うようにしてもよい。
【0096】
(15)上記実施形態では、GPSなどの位置データ(過去の所定箇所分の位置データ)に基づいて、車線位置を推定するようにしている。しかし、位置データに代えてあるいは位置データに加えて、車線を推定したい位置の前後の所定箇所(または所定時間)における加速度および速度(加速度または速度だけでもよい)に基づいて、車線位置を推定するようにしてもよい。この場合、車線を推定したい位置の前後の所定箇所における加速度および速度と、これに対応する正しい車線位置とに基づいて、推定モデルを学習するとよい。
【0097】
(16)上記変形例は互いに任意に組み合わせて実施可能である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16