(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126561
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】空調システムおよびその運転方法
(51)【国際特許分類】
F24F 11/63 20180101AFI20240912BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240912BHJP
【FI】
F24F11/63
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034981
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本郷 佑直
(72)【発明者】
【氏名】田代 博一
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 隆広
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大介
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260BA75
3L260CA12
3L260CA32
3L260CA33
3L260CA34
3L260CB69
3L260CB78
3L260EA04
3L260EA22
(57)【要約】
【課題】機械学習モデルの更新を自動で好適に実行し得る空調システムおよびその運転方法を提供する。
【解決手段】空調の運転に用いる値を推定する機械学習モデルとして、期に応じた複数の型の機械学習モデルを保持し、空調の運転において使用する機械学習モデルの型を、期に応じて切り替える。同じ期内における更新の際は、同じ型の機械学習モデルに再学習を施して新しい機械学習モデルを作成し、期を跨ぐ更新の際は、後の期に応じた型の機械学習モデルに再学習を施して新しい機械学習モデルを作成し、該新しい機械学習モデルに切り替える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調の運転に用いる値を推定する機械学習モデルとして、期に応じた複数の型の機械学習モデルを保持し、
空調の運転において使用する前記機械学習モデルの型を、期に応じて切り替えるよう構成されていること
を特徴とする空調システム。
【請求項2】
同じ期内においては、同じ型の機械学習モデルを定期的に自動で更新し、使用するよう構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
同じ期内における更新の際は、同じ型の機械学習モデルに再学習を施して新しい機械学習モデルを作成し、
期を跨ぐ更新の際は、後の期に応じた型の機械学習モデルに再学習を施して新しい機械学習モデルを作成し、該新しい機械学習モデルに切り替えるよう構成されていること
を特徴とする請求項2に記載の空調システム。
【請求項4】
前記機械学習モデルは、空調の運転に用いる値として空調負荷を推定するよう構成された負荷推定モデルであること
を特徴とする請求項1に記載の空調システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の空調システムにおいて、機械学習モデルの型を切り替えるタイミングを決定するにあたり、
期の境目を含む期間において、前の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度と、後の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度とを比較し、
後の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度が、前の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度未満である期間の後、後の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度が、前の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度以上である期間があった場合に、両期間の間を、前記機械学習モデルの型を切り替える好適なタイミングとして特定すること
を特徴とする空調システムの運転方法。
【請求項6】
前記機械学習モデルの型を切り替える好適なタイミングを特定した後、
別の年度の運用においては、
前記機械学習モデルの型の切替を実行するタイミングとしての複数の候補から、前記好適なタイミングと最も近い時点を選択し、これを前記機械学習モデルの型の切替を実行するタイミングとすること
を特徴とする請求項5に記載の空調システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システム、および該空調システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工知能による機械学習を用いて生成したモデルによって各種の値を推定する技術が様々な分野で開発され、実用化されている。空調の分野も例に漏れず、例えば下記特許文献1には、センサの設置されていない位置における空気の温度(床近傍温度)を機械学習モデルにより推定する技術が開示されている。また、下記特許文献2には、空調負荷に関し、現在までに取得された実績値に基づいて予測値を出力する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-76348号公報
【特許文献2】特開2020-165622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したような技術において用いられるモデルは、目的とする値の推定精度が運用時間の経過と共に下がっていくことが多い。そこで、推定精度を高く保ちながら運用を続けるために、例えばモデルの推定精度を定期的にチェックし、精度が十分でない場合にはモデルを更新することが行われてきた。
【0005】
モデルの更新は、例えばモデルによる推定精度を示す指標であるRMSE値(この値が小さいほど、推定精度が高いとされる)をシステム側で基準値と比較し、これが基準値を上回った場合にはその旨を運用者に通知し、これを受けてデータサイエンティストが運用中のモデルを修正し、あるいは作り直す、といった手順により行われる。
【0006】
このようなモデルの更新作業は無論、データ科学に関する知識や技術を要し、手間のかかるものである。システムの運用者にとっては、データサイエンティストのような専門の技術者に更新作業を依頼する必要があり、更新の都度、高額の人件費が生じる。また、データサイエンティストの作成したモデルを実際の運用環境に適用する作業にも、別途費用と時間が生じてしまう。
【0007】
そこで、モデルの更新をシステムにおいて自動的に行う技術も提案されている。例えば、新しく取得したデータを用いた再学習を定期的に行ってモデルを作成し、その精度を検証し、精度が基準値あるいは運用中のモデルの精度より高い場合に、新しいモデルを以降の運用に採用するのである。
【0008】
ただし、例えば暖房運転から冷房運転への切替え時のように空調の運転に関する状況が大きく変化するようなタイミングでは、上述のように運用中のモデルに手を加える形で自動更新を行っても、さほど精度を維持あるいは向上させる効果が得られない場合がある。そうした場合、結局、データサイエンティスト等による更新作業が必要となり、コストが嵩んでしまう。
【0009】
また、推定精度の低下が観測されてから新たなモデルを作成することにもなるため、精度が低下してから精度の良い新しいモデルでの運用が開始されるまでの間にタイムラグがあり、推定精度が低い期間が生じてしまっていた。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、機械学習モデルの更新を自動で好適に実行し得る空調システムおよび空調システムの運転方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、空調の運転に用いる値を推定する機械学習モデルとして、期に応じた複数の型の機械学習モデルを保持し、空調の運転において使用する前記機械学習モデルの型を、期に応じて切り替えるよう構成されていることを特徴とする空調システムにかかるものである。
【0012】
本発明の空調システムは、同じ期内においては、同じ型の機械学習モデルを定期的に自動で更新し、使用するよう構成することができる。
【0013】
本発明の空調システムは、同じ期内における更新の際は、同じ型の機械学習モデルに再学習を施して新しい機械学習モデルを作成し、期を跨ぐ更新の際は、後の期に応じた型の機械学習モデルに再学習を施して新しい機械学習モデルを作成し、該新しい機械学習モデルに切り替えるよう構成することができる。
【0014】
本発明の空調システムにおいて、前記機械学習モデルは、空調の運転に用いる値として空調負荷を推定するよう構成された負荷推定モデルとすることができる。
【0015】
また、本発明は、上述の空調システムにおいて、機械学習モデルの型を切り替えるタイミングを決定するにあたり、期の境目を含む期間において、前の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度と、後の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度とを比較し、後の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度が、前の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度未満である期間の後、後の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度が、前の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度以上である期間があった場合に、両期間の間を、前記機械学習モデルの型を切り替える好適なタイミングとして特定することを特徴とする空調システムの運転方法にかかるものである。
【0016】
本発明の空調システムの運転方法においては、前記機械学習モデルの型を切り替える好適なタイミングを特定した後、別の年度の運用においては、前記機械学習モデルの型の切替を実行するタイミングとしての複数の候補から、前記好適なタイミングと最も近い時点を選択し、これを前記機械学習モデルの型の切替を実行するタイミングとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空調システムおよびその運転方法によれば、機械学習モデルの更新を自動で好適に実行するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を適用した空調システムにおける情報系の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】機械学習モデルの更新に係るスケジュールの一例を示すタイムチャートである。
【
図3】機械学習モデルの更新に係る手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】機械学習モデルの切替時期の決定に係るスケジュールの一例を示すタイムチャートである。
【
図5】機械学習モデルの切替時期の決定に際し、モデル間で時期毎に精度を比較したグラフの一例である。
【
図6】機械学習モデルの切替時期の決定に係る手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明を適用した空調システムの形態の一例を示している。本実施例では、推定する値として、空調システムを備えた建物全体における空調負荷(二次負荷熱量)を想定している。機械学習によって作成されたモデルを用い、目的の時点の二次負荷熱量(例えば、当日から翌日にかけての三時間おきの二次負荷熱量)を予測し、これにより、対象の建物における空調の運転を支援することができる。算出された二次負荷熱量の予測値は、これを参照しつつ、その熱量を賄えるような熱源機の運転スケジュールを、建物の運転管理員が予め作成するといった形の利用が可能である。
【0021】
本実施例の空調システムは、空調におけるエネルギーの管理を行う管理部10と、機械学習モデルである負荷推定モデルMの再学習を行い、これによって新しい負荷推定モデルMを作成するモデル管理部20と、該モデル管理部20で作成された負荷推定モデルMを用いて空調負荷値の推定を行う推定部30と、該推定部30における空調負荷の推定結果や実測データ等の各種情報を表示する表示部40とを備えている。
【0022】
管理部10は、建物における各種の機器の運転状況やエネルギー消費に関するデータを収集し、管理・分析を行うエネルギー管理システム(EMS)である。
【0023】
モデル管理部20は、学習データ管理部21と、モデル生成部22を備えている。
【0024】
学習データ管理部21は、外部から各種のデータを取得し、これらを格納するようになっている。具体的には、例えば、管理部10から空調負荷の実績値等のデータを取得し、また、外部から気象に関する予報データや過去のデータ等を取得し、そのうち必要なデータを適当な形式で格納する。さらに、学習データ管理部21は、これらのデータに基づき、機械学習モデルの学習に用いる学習データを作成するようにもなっている。
【0025】
モデル生成部22は、学習データに基づく機械学習により、ニューラルネットワーク形式の負荷推定モデルMを作成する機能を備えている。負荷推定モデルMとしては、ニューラルネットワークのほか、線形回帰、リッジ回帰、勾配ブースティング、ランダムフォレスト等、各種の形式のモデルを採用することができる。
【0026】
また、モデル生成部22は、負荷推定モデルMとして、それぞれ期に応じた複数の型を保持しており、学習データにより再学習を施すことによって、それぞれの型の負荷推定モデルMを新たに作成できるようになっている。負荷推定モデルMは、ある時点(例えば現在、あるいは、現在から近い未来の時点)における対象の建物の空調負荷を推定する機械学習モデルである。
【0027】
推定部30は、モデル生成部22で作成された負荷推定モデルMを格納し、これを実行して空調負荷の推定を行う。負荷推定モデルMは、空調負荷に関連する各種のパラメータを入力値とし、目的の時点における空調負荷の推定値を出力する機能を有するモデルである。これにより、推定部30は、例えば1時間~36時間先の空調負荷の推定値を3時間毎に算出する(尚、推定を行う対象の時点や頻度は一例であり、本発明を実施するにあたって適宜設定し得る)。
【0028】
表示部40は、例えばサーバレスのサービス(SaaS:Software as a Service)を利用して構築されており、推定部30における空調負荷の推定結果や、その他の空調の運転に関するデータ、例えば空調負荷の実測データ等を、表やグラフ等での表示に適した形式に変換し、表示する機能を備えている。具体的には、表示部40では例えば、空調負荷の推定値や、負荷推定モデルMの作成に用いた学習データ等を読み込み、推定結果と実績値を重ね合わせた分析データを作成することができる。このデータは、インターネット等のネットワークに配信され、ネットワークに接続されたPCやスマートフォン等の端末装置41で適宜閲覧できる。
【0029】
管理部10、モデル管理部20、推定部30、表示部40は、例えばクラウド上に設定された仮想マシンとしてもよいが、これらのうち一部または全部を、例えば1台もしくは複数台のPC等の物理的なハードウェアとして構成してもよい。また、学習データ管理部21やモデル生成部22といった機能単位、あるいはさらにそれらの機能の一部を、それぞれ一個の仮想マシンやハードウェアとして構成してもよい。以下に説明するような機械学習モデルを用いた値の推定を実行し得る限り、システムを構成する各部の具体的な仕様は適宜決定してよい。
【0030】
負荷推定モデルMの作成について説明する。負荷推定モデルMの作成に用いる学習データは、空調システムを実際に運転した際の、様々な時点における空調負荷に関連する各種のパラメータと、空調負荷の実績値とを記録したデータセットである。モデル生成部22は、この学習データを用いて機械学習を行い、各種のパラメータに基づき、対象の建物における空調負荷の値を推定する負荷推定モデルMを生成する。
【0031】
空調負荷を推定するために負荷推定モデルMに入力する説明変数としては、空調負荷に関連する各種のパラメータを用いることができる。空調負荷に関連するパラメータの例を以下に列挙する。
・室内温度の測定値
・室内温度の設定値
・室内外の温度差
・外気温度
・湿度(絶対湿度または相対湿度)
・日射量
・カレンダデータ(月次、日付、曜日(日月火水木金土、または、休日か平日か)など)
・時刻
・空調負荷の実績値
・空調機の稼働台数
・空調機の給気温度
・天候
・予想気温
【0032】
室内温度は、空調負荷の値に直接関連するパラメータである。外気温度、湿度および日射量は、空調対象の空間への熱の出入りを左右し、空調負荷に影響する。カレンダデータのうち、月次や日付は、時季による外気温度の変動、あるいは対象空間内に生じる熱量の変動(例えば、特定の時季にのみ稼働する機器が対象空間にある場合などが想定される)に対応するので、空調負荷と関連する。曜日は、対象空間内における人の活動や機器の稼働のスケジュールに対応するので、空調負荷と関連する(例えば、オフィス等であれば休日は人が少なく、機器もあまり稼働しないため、休日にあたる曜日は空調負荷が小さくなることが想定される)。時刻は、外気温度や日射量による入熱の変動、対象空間内に生じる熱量の変動に影響するので、空調負荷と関連する。また、目的の時点の直近の数日間、あるいは1年前における空調負荷の実績値、空調機の稼働台数、給気温度などは、目的の時点における空調負荷の値に関連するパラメータであり、推定に利用することができる。目的の時点における天候や予想気温も、空調負荷に影響する。
【0033】
目的の時点における空調負荷を推定したい場合、その推定に説明変数として用いるパラメータの取得される時点または期間は、適宜選択することができる。例えば、現在から15分後の時点における空調負荷を推定したい場合に、直近1週間の複数の時点における室内温度、外気温度、日射量を説明変数として用いてもよいし、あるいは、1年前の同じ日時における各パラメータを説明変数として用いてもよいし、現在の時点における各パラメータを説明変数として用いてもよい。尚、上記パラメータのうち、室内温度、外気温度、日射量、空調負荷の実績値、空調機の稼働台数、給気温度、予想気温は質的変数として、日付、時刻、曜日、天候はダミー変数として、それぞれ設定される。
【0034】
空調負荷の推定に際しては、上に挙げたパラメータから選択される一部または全部のパラメータを説明変数として用いることができるが、空調負荷を推定する上で特に有用なパラメータとしては、外気温度、湿度、日射量、カレンダデータおよび時刻が挙げられる。これらのパラメータは、空調負荷に関連するパラメータの中でも取得が容易である。カレンダデータと時刻についてはダミー変数を設定すればよいし、外気温度や湿度、日射量を説明変数とする場合は、過去の実測値や、図示しないセンサにより取得した現在の実測値、あるいは天気予報による現在の予報値等を用いれば済む。このため、例えば気象情報提供APIサービスなどを利用して気象の詳細な予報データを購入することなく空調負荷の推定を行うことが可能であり、簡便であると共に費用を抑えることができる。また、上のパラメータに代えて、あるいは加えて、空調負荷に関連する何らかの別のパラメータを適宜用いても良い。
【0035】
前記学習データには、複数の時点における上記各パラメータと共に、その時の空調負荷の実績値が記録される。学習データは、例えば、負荷推定モデルMの構築に十分な期間、空調システムを運転し、その間、上述の各パラメータを採集することで作成できる。
【0036】
また、モデル生成部22は、負荷推定モデルMを定期的に自動で更新する機能を備えている。さらに更新の際、特定のタイミングで、それまで運用してきた負荷推定モデルMの型を切り替えるようにもなっている。これにより、空調負荷に関し精度を高く保ちながら運用を継続できるようになっている。
【0037】
ここで、負荷推定モデルMの「型」とは、機械学習モデルである負荷推定モデルMの種類やハイパーパラメータ、説明変数として用いるパラメータの種類、レイヤー数やノード数といった「構造」を指す。そして、本実施例では、空調の運用に関して「期」を設定し、その期ごとに負荷推定モデルMの型を設定し、期に応じて負荷推定モデルMの型を使い分ける。ここでいう「期」とは、空調の運転に関して便宜上定める時期的な区分、例えば夏期、冬期、中間期(春期および秋期)といった区分を指す。例えば一年を、主に冷房運転を行う夏期、主に暖房運転を行う冬期、冷房運転および暖房運転をあまり行わない中間期、および年末年始、といった4通りの期に分け、夏期は夏期用の型の負荷推定モデルMを使用し、冬期は冬期用の型の負荷推定モデルMを使用し、中間期は中間期用の型の負荷推定モデルMを使用し、年末年始は年末年始用の型の負荷推定モデルMを使用するのである。すなわち、同じ期内においては同じ型のモデルを使用し、同じ期内の更新の際には同じ型のモデルを自動で更新し、使用するが、期を跨ぐ更新の際には、後の期に応じた型のモデルに切り替える。
【0038】
各期のモデルにおいて使用するパラメータは、例えば次のように設定する。
・中間期:外気温度、相対湿度、日射量、カレンダデータ(月次、平日か休日か)、時刻
・夏期:外気温度、相対湿度、日射量、カレンダデータ(月次、平日か休日か)、時刻
・冬期:外気温度、カレンダデータ(月次、平日か休日か)、時刻
・年末年始:外気温度、カレンダデータ(平日か休日か)、時刻
【0039】
冬期は、中間期や夏期に比べ、湿度と日射量の値が小さく、変動幅も狭いので、パラメータとして使用しない。さらに年末年始においては、期間が限られるため月次も不要である。このように、用いるパラメータは期に応じて取捨選択することができる。勿論、ここに挙げた例は一例であって、期の設定の仕方や(例えば、中間期・夏期・冬期・年末年始の他に梅雨期や大型連休などを設定してもよい)、各期におけるパラメータの選択は、本発明を実施するにあたって上に挙げた以外にも適宜設定してよい。勿論、入力するパラメータ以外の要素、例えば用いるモデルの種類や構成などを期に応じて使い分けるようにしてもよい。
【0040】
尚、以下に説明する例では、更新に供するべく新しいモデルを作成したものの、結果的に採用されず、既存のモデルを使用し続けることもあり得るが、本明細書では説明の便宜のため、そういった場合も「更新」と称することとする。すなわち、本明細書でいう「更新」とは、運用中のモデルをバージョンアップすることのみを指すのではなく、バージョンアップを前提とした一連の作業を指すものとする。
【0041】
また、モデルの「切替」とは、「更新」の一種であり、上述の通り、それまで運用してきたモデルの型を、期に応じて次の型のモデルに変更することを指す。例えば、冬期から中間期への移行時に、冬期用の型の負荷推定モデルMによる運用から、中間期用の型の負荷推定モデルMによる運用に変更することを「切替」と称する。尚、本願発明を実施するにあたり、負荷推定モデルMとして、例えば中間期用のモデルと、夏期用のモデルと、冬期用のモデルを用意したが、それらのうち少なくとも一部の型が結果的に共通する、といった場合もあり得るが、本明細書では、ある期用(例えば、冬期用)の型のモデルでの運用から、それと型が共通する次の期用(例えば、中間期用)の型のモデルでの運用に変更する場合も「切替」と称することとする。すなわち、本明細書でいう「切替」は、期ごとに作成されたモデルの型を期ごとに使い分けることであって、異なる構造のモデルに切り替えることを必ずしも意味しない。
【0042】
尚、例えば年末年始のように短い期を設定する場合などは、同じ期内でモデルの更新を行わずとも、期を通じて十分な精度を保つことができる場合も考えられる。そういった場合、同じ期内における更新はせず、期の初めに作成したモデルを、その期の終わりまで使用し続けるようにしてもよい。
【0043】
機械学習モデルである負荷推定モデルの更新および切替について、
図2のタイムチャートを参照しながら説明する。ここでは、中間期(春期)にあたる5月から、夏期にあたる6月にかけての空調システムの運転を想定して説明する。
【0044】
本実施例の場合、負荷推定モデルとして、モデル生成部22(
図1参照)が定期的に(例えば週に1度)新しいモデルを作成する。ここで、同じ期におけるモデルの作成は、型の切替を伴わないが、期が替わる際には、新しい期に応じた型によりモデルを作成し、該新しいモデルへの切替を行う。
【0045】
図2において最上段に表示しているモデルAは、中間期用のモデルとして生成された既存のモデルをベースに、これに再学習を施すことで作成された中間期用のモデルである。
【0046】
ここで、ある型のモデルに対し再学習を行って同じ型のモデルを作成する場合、再学習の内容は、具体的には重みづけとバイアスの変更によるモデルの修正であり、層数やノード数、活性化関数などのハイパーパラメータ調整までは行わない。再学習の具体的な方法としては、例えば誤差逆伝播法や、2層のニューラルネットワークであれば最小二乗法といった手法を用いることができる。
【0047】
ここに示した例では、このモデルAを用いた空調負荷の推定によるシステムの運用を、2022年5月15日まで行い、その後、新たな中間期用のモデルBを作成し、モデルの更新を行う。モデルBは、5月15日の更新に供するため、例えば5月8日の時点で作成し、その後の一週間(5月9日~15日)は、作成したモデルBと、運用中のモデルAとの精度の比較検証を行う。
【0048】
モデルBは、次のようにして作成される。学習データ管理部21は、管理部10に蓄積された空調負荷の実績データを読み出すと共に、外部から気象に関するデータを取得し、これをモデル生成部22に入力する(
図1参照)。モデル生成部22は、入力されたデータを、負荷推定モデルMの学習データとして適当な形式に変換する。
【0049】
学習データは、モデルBの作成に適当な期間(例えば、システムの運用を開始した時点(ここでは2020年1月1日としている)から2022年5月8日までの全期間)に取得された空調の運転に関連するデータである。モデル生成部22は、この学習データをさらに学習用と検証用に分割し、負荷推定モデルMの再学習を行う。2020年1月1日から2022年5月8日までの学習データのうち、例えば最も新しい1週間分(2022年5月2日~8日分)をテストデータに、それより前(2022年5月1日以前)のデータを訓練データに当て、これを中間期用の型の機械学習モデルに再学習させて新しいモデルBを作成する(ホールドアウト法)。
【0050】
一週間前以前(2022年5月1日以前)の訓練データにより、既存のモデルに再学習を施して作成したモデルについて、直近一週間(5月2日~8日)分のテストデータを用いて推定誤差のテストを行う。テストロスを算出する操作を繰り返し実行し、エポック毎の誤差を示す学習曲線を作成する。学習曲線における誤差が最小となるモデルを、モデルBとして採用する。このとき、訓練データをさらに分割し、ミニバッチ学習によってモデルBの候補となるモデルを複数、作成する。また、ある一定のエポック数を通して誤差が増え続けた場合に学習を打ち切るアーリーストッピングを採用してもよい。
【0051】
テストデータによるテストの際には、K-分割交差検証ではなく、常に過去のデータから作成したモデルを使ってそれより後の空調負荷を推定し、精度を確認する。すなわち、上述のように、データの採集開始から一週間前までの訓練データから抜き出したデータに基づいてモデルを作成し、その後の最近一週間分のテストデータで精度を確認する。
【0052】
こうして、一週間前までの過去の訓練データを用いて作成した複数のモデルの精度を、最近一週間分のテストデータを用いて検証し、最も精度の高いモデルをモデルBとする。尚、ここで説明したスケジューリングや、ホールドアウト法における訓練データとテストデータの分け方は一例であって、適宜変更することができる。例えば、上では学習データの採集期間を採集の開始時から直近の時点までとし、そのうち最も新しい一週間分をテストデータとする場合を説明したが、過去における一定の期間(例えば、直近の時点から90日前まで)のデータを学習データとして使用し、そのうち一定の割合を訓練データとテストデータに振り分けるようにしてもよい。例えば、オフィスビル等の空調システムの運用において年末年始用のモデルを作成する場合、対象の期間は建物に人が少なく、空調負荷の値やその変動が小さいことが想定される。このため、直近の一定期間分のデータのみを学習データとして使用しても、十分な精度での予測が可能である。よって、例えば夏期、冬期および中間期のモデルについては上述のように測定の開始日から特定の日付までの全期間のデータを学習データとして使用し、年末年始のモデルについては直近の時点から90日前までのデータを学習データとする、といった運用も可能である。モデルの検証に関しても、ここに説明した例に限定されず、データの性質やシステムの運転条件等に応じ、その都度適した手法を採用し得る。
【0053】
モデルBは、例えば、外気温度、湿度、日射量、カレンダデータおよび時刻を入力値として、目的の時点における空調負荷の推定値を出力する負荷推定モデルである。ここで、管理部10から取得される空調負荷の実績データは、空調負荷の正解値として学習データに用いる。また、気象データは、気温や湿度、天候等が日付や時刻に紐付けた形で整理されているので、外気温度、湿度、日射量、カレンダデータおよび時刻をパラメータとする学習データに利用すると便利である。
【0054】
続いて、運用中のモデルAと、新しいモデルBとの精度を比較検証し、どちらをその後の運用に用いるかを決定する。この新旧モデルの精度の検証期間は、ここでは一週間である。2020年1月1日~2022年5月8日の間のデータを学習データとして作成した新しいモデルBで、続く5月9日~15日の一週間、空調負荷の推定を行う(この間、上述の通りモデルAでも空調負荷の推定を行っている)。そして、この間における空調負荷の推定精度を、モデルAとモデルBとの間で比較する。推定精度の比較は、空調負荷の実績値を算出し、その値を推定値と比較してRMSE値を算出すれば、該RMSE値の大小によって判定できる。より精度の高かった方のモデルを、続く5月16日からの運用に採用する。
【0055】
モデルA,Bの比較検証と並行して採集されたデータを、さらに新たなモデルCのための学習データとして使用する。モデルCは、2020年1月1日から2022年5月15日までの間に採集した学習データを用い、中間期用の既存のモデル(例えばモデルA、あるいはモデルB)を修正して作成される。作成された新しいモデルCで、続く5月16日~22日の一週間、空調負荷の推定を行う。その間、モデルA,Bのうち採用されたモデルにより、並行して空調負荷の推定が行われているので、この運用中のモデルと、新しいモデルCによる一週間の推定の精度を改めて比較する。より精度の高いモデルをシステムに紐付け、5月23日から29日までの運用に用いる。こうして、モデルを更新しながら空調負荷の推定を行う。
【0056】
5月30日からは、期が替わって夏期となるので、この時のモデルの更新は、型の切替を伴う。次のモデルDは、夏期用のモデルとして生成された既存のモデルをベースに、これに再学習を施すことで作成できる。2020年1月1日から2022年5月22日までの間に採集した学習データを、夏期用の型の機械学習モデルに再学習させ、モデルDを作成する。例えばモデルBやモデルCを作成した際と同様の手順で、学習データのうち最も新しい一週間分(5月16日~5月22日分)を訓練データに、それ以前(5月15日以前)のデータをテストデータに当て、新しいモデルDを作成する。
【0057】
作成したモデルDで、5月23日から29日までの間、空調負荷の推定を行い、その精度を検証する。ただし、この後、モデルの型を中間期用から夏期用に切り替えるので、モデルDの精度を現行のモデル(同期間において空調負荷の推定に用いている中間期用のモデル)と比較する必要はない。
【0058】
こうして新しく作成したモデルDを、5月30日からの空調負荷の推定に使用する。このとき、期が替わる前まで(5月29日まで)運用していたモデル(モデルA~Cのいずれか)と、新しいモデルDとの比較は行わず、新しい期(夏期)用の型によって作成された新しいモデルDを、期が替わってから(30日から)の負荷予測に使用する。平行して、5月29日までのデータを学習データとし、これをモデルDに再学習させて新しいモデルEを作成し、これとモデルDの精度を比較検証し(5月30日~6月5日)、精度の高い方のモデルを6月6日からの運用に採用する。
【0059】
こうして、新しいモデルを一週間毎に作成し、その都度、より精度の高いモデルを採用することを繰り返し、さらに期に応じてモデルの型を切り替えながら、空調システムの運用を行っていく。一個のモデルで運用を続けると、原則として精度は時間経過と共に低下していくが、システムが自動で新しいモデルを作成し、より精度の高いモデルを選択し更新していくので、精度を実用上十分に高い範囲に保ちながら運用を続けることができる。
【0060】
空調システムの運転状況は、季節や天気、日射量といった外部環境や、対象の建物内における人の活動、機器類の稼働、さらに空調システム自体の運転モードの切替(暖房運転、冷房運転など)といった要因により、期に応じて大きく変わる。このため、空調負荷を予測するにあたり、例えば一週間ごとに新しいデータを用いてモデルの再学習を行い、精度を維持しようとしても、期が替わると精度が下がってしまうことがあった。そこで本願発明のように、期ごとにそれに応じたモデルの型を設定し、これを期に応じて使い分けるようにすれば、期が替わっても空調に関する値の推定精度を維持することができる。また、予め期に応じた型のモデルを用意しておき、期が替わる際にはその期の型のモデルに再学習を施して切替を行うようにすれば、モデルの切替の度にデータサイエンティスト等の人員が手作業で更新を行うといった手間は必要ないので、切替にかかる手間や費用を大幅に節減することができる。
【0061】
尚、ここに説明したスケジューリングはあくまで一例である。モデルの更新を適用する期間や、更新するサイクルの長さ、期の設定、学習データの採集や検証といった各工程の長さ等については、システムの構成や求める推定データの性質等に合わせて適宜変更し得る。
【0062】
上述の如きスケジュールにおけるモデルの更新に係る手順は、例えば
図3に示すようなフローチャートにまとめることができる。モデル生成部22(
図1参照)は、スケジューラによって設定された日時に、負荷推定モデルMの更新プログラムを起動する(ステップS1)。続いて、その回の更新に用いる期間のデータを学習データとして読み込む(ステップS2)。さらに、更新の日付により、該当する期を決定し、その期に対応する型の負荷推定モデルMを選択する(ステップS3)。選択したモデルに対し、ステップS2で読み込んだ学習データにより再学習を実行し、新しいモデルを作成する(ステップS4)。新しいモデルにより、目的とする数値(空調負荷)の推定を開始する(ステップS5)。また、新しいモデルによる推定精度も算出する。並行して、運用中のモデルによる空調負荷の推定を続ける。
【0063】
続いて、新旧のモデルのいずれをその後の運用に用いるかを決定する。まず、新旧のモデルの対応する期を比較する(ステップS6)。各モデルに付された期のフラグを参照し、これらが同じである場合はステップS7に移り、運用中のモデルに関して空調負荷の推定精度を算出する。これを、ステップS5で算出した新しいモデルの推定精度と比較する(ステップS8)。新しいモデルの精度が運用中のモデルの精度以上であれば、新しいモデルを運用中のシステムに紐付け(ステップS9)、その回の更新作業を終了する。新しいモデルの推定精度が運用中の既存のモデルより低ければ、該既存のモデルの運用を継続することとし、そのままその回の更新作業を終了する。
【0064】
ステップS6において、新旧のモデルに付された期のフラグが異なっていた場合には、モデルの切替が必要である。この場合、ステップS7,S8は実行せず、新しいモデルを運用中のシステムに紐付け(ステップS9)、その回の更新作業を終了する。
【0065】
図2においてモデルAを更新する場合を例に説明すると、ステップS1~S4は、新しいモデルBの再学習のためのデータが揃った5月8日のタイミングで実行され、ステップS5(新しいモデルBによる空調負荷の推定と精度の算出)は、その後の5月9日~15日の間に実行される。ステップS6以降は、比較に必要なデータが揃った5月16日に実行される。
【0066】
ところで、期に応じてモデルの切替を行うタイミングに関し、上では中間期と夏期の間の切替を5月30日とする例を挙げて説明したが、空調に関する条件は、地域や建物周辺の状況、建物の構造、その建物の使用状況等によって様々であり、モデルの切替に適したタイミングも一様ではない。適切でないタイミングでモデルの切替を行うと、その前後に推定精度の低い期間が生じてしまうことも考えられる。そこで、モデルの切替を行うにあたって好適なタイミングを特定する方法について、以下に
図4を参照しながら一例を説明する。
【0067】
期の境目に関し、その前後の期について、それぞれ対応する型のモデルを用意する。これらのモデルについて、
図4に示すように、期の境目の前後の期間、再学習によるモデルの作成と、その精度の算出を行う。ここでは、中間期(春期)と夏期の間における好適な切替のタイミングを特定する場合を想定している。
【0068】
I群のモデルIA~IEは、それぞれ中間期用の型のモデルとして作成するものである。これらを用い、中間期と夏期の境目を含む期間(ここでは、5月から6月にかけての期間と設定している)において、時期を適当な期間(ここでは、一週間)ずつずらしながら、それぞれ空調負荷の推定と、その精度の検証を行う。学習データとしては、それぞれ運用の開始(2020年1月1日)から空調負荷の推定と精度の検証を行う前までの間に採集されたデータを使用し、これを中間期用の型のモデルに再学習させて作成する。モデルIAは、例えば中間期用のモデルとして別途作成されたモデルを元にし、これに5月7日までのデータを再学習させて作成する。モデルIBは、例えばモデルIAを元にし、これに5月14日までのデータを再学習させて作成する。以降、同様にモデルIEまでを作成し、各モデルの担当する期間について、空調負荷の推定と、その精度の検証を行う。
【0069】
また、II群のモデルIIA~IIEは、それぞれ夏期用の型のモデルとして作成するものである。これらについても、上記と同じ期間、同様に時期を一週間ずつずらしながら、学習データの採集と、これを用いた再学習によるモデルの作成、その後の空調負荷の推定および検証をそれぞれ行う。
【0070】
5月8日から6月11日までの一週間毎の各期間に関し、I群のモデルによる推定結果と、II群のモデルによる推定結果が得られるので、その精度を期間毎に比較する。そうすると、例えば
図5に示すように、ある時期までは、期の境目に関して前の期用のモデルであるI群のモデルによる推定精度が、後の期用のモデルであるII群のモデルによる推定精度を上回り、その後の時期においては、II群のモデルによる推定精度がI群のモデルを上回る傾向が見られるはずである。
図5に示す例では、5月28日まではI群のモデルのRMSE値がII群に比べて低く、5月29日以降は逆転している。すなわち、5月28日あたりまでは中間期用のモデルを使用し、それ以降は夏期用のモデルを使用することが、精度の維持にとって好適であると判断できる。そこで、翌年以降、この中間期(春期)と夏期の境目に関しては、5月28日と29日の間、あるいはそれに近い適当な時点をモデルの切替のタイミングとすればよい。
【0071】
上述の如きモデルの切替のタイミングの特定に係る手順は、例えば
図6に示すフローチャートにまとめることができる。期の境目前後の各期間について、各モデルによる推定精度の算出が終わったら、まずモデル同士の比較を行う対象の期間を設定する(ステップS11)。ここでは、比較を行う全期間のうち最初の期間である5月8日~14日を設定する。次に、その期間について推定を行った複数のモデル(ここでは、モデルIA,IIA)による推定精度を互いに比較する(ステップS12)。ここで、前の期(中間期)用のモデルIAによる精度が、後の期(夏期)用のモデルIIAによる精度よりも高ければ、該当する期間(5月8日~14日)については、前の期用のモデルを使用することとする(ステップS13)。
【0072】
最初の期間について、使用するモデルが決定したら、モデルの比較を行う対象の期間を次の期間(5月15日~21日)に設定する(ステップS14)。ステップS12に戻り、対象の期間に対応するモデルIB,IIBの推定精度を互いに比較する。こうしてステップS12~S14を繰り返していくと、ある時期(ここでは、5月29日~6月4日)において、後の期用のモデル(II群)による推定精度が前の期用のモデル(I群)による推定精度を上回る。その場合、ステップS12からステップS15に移り、対象の期間以降に関しては、後の期用のモデルを使用することとする。
【0073】
このように、モデルの型を切り替えるタイミングを特定するにあたっては、期の境目を含む期間を設定し、前の期に応じた型のモデルによる推定精度と、後の期に応じた型のモデルによる推定精度をそれぞれ算出し、互いに比較する。すると、後の期に応じた型のモデルによる推定精度が、前の期に応じた型のモデルによる推定精度未満である期間の後、後の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度が、前の期に応じた型の機械学習モデルによる推定精度以上となる期間が訪れる。このような結果が得られた場合に、これらの期間の間を、前記機械学習モデルの型を切り替える好適なタイミングとして特定すればよい。尚、比較対象の期間において、推定精度の上下が複数回入れ替わる場合もあり得るが、そのような場合には、例えば推定精度の上下が入れ替わるタイミングのうち、予め想定された期の境目(例えば、春期と夏期の境目であれば、5月31日と6月1日の間など)に最も近いタイミングを、モデルの型の切替タイミングとして特定すればよい。
【0074】
また、例えばモデルの更新を一週間毎に行うような場合、ある年度において上述の手順により特定した切替の日付が、別の年度においては、モデルの更新を行う曜日や、営業上可能な日に一致しないという場合が生じる。その際には、建物の運用管理上の判断により、その年においてモデルの更新を行う日のうち、上述の手順により特定した切替のタイミングに近い適当な日付に切替を実行するようにすればよい。すなわち、その年度においてモデルの型の切替を実行するタイミングとして考えられる複数の候補(例えば、月曜の0時に切替を実行するようになっている場合には、春期から夏期にかけての月曜日の0時)の中から、上記の手順により特定された日付(切替に好適なタイミング)と最も近い時点を選択し、これを型の切替を実行するタイミングとすればよい。
【0075】
尚、ここに説明した空調システムのシステム構成や負荷推定モデルMの生成、空調負荷の推定等に係る手順はあくまで一例である。空調負荷に関連する上述の如き各種パラメータから負荷推定モデルMを生成し、これを用いて空調負荷を推定し得る限りにおいて、システム構成や各種の手順等は種々変更することができる。例えば、ここではネットワーク上にモデル管理部20や推定部30等を構築した場合を例示したが、システムを構成する各機器間の接続関係等は適宜変更し得る。また、モデルの更新や切替の手順についても、更新を好適に実行し推定の精度を高く保ち得る限りにおいて、上に述べた例を適宜変更してよい。また、ここでは空調の運転に用いる値として空調負荷を推定する場合を説明したが、本発明の如きシステムや値の推定方法は、空調負荷に限らず、空調の運転に用いる何らかの値を推定する目的で広く適用することができる。例えば、対象とする空間の特定の位置における空気の温度等を推定するモデルに関し、上記と同様の方法で更新や切替を行うことも可能である。
【0076】
以上のように、上記本実施例の空調システムは、空調の運転に用いる値を推定する機械学習モデルMとして、期に応じた複数の型の機械学習モデルMを保持し、空調の運転において使用する機械学習モデルMの型を、期に応じて切り替えるよう構成されている。このようにすれば、期ごとにそれに応じたモデルの型を設定し、これを期に応じて使い分けることにより、期が替わっても空調に関する値の推定精度を維持することができる。
【0077】
本実施例の空調システムは、同じ期内においては、同じ型の機械学習モデルMを定期的に自動で更新し、使用するよう構成されている。このようにすれば、空調の運転に用いる値に関する推定の精度を高く保ちながら、機械学習モデルMの運用を継続できる。
【0078】
本実施例の空調システムは、同じ期内における更新の際は、同じ型の機械学習モデルMに再学習を施して新しい機械学習モデルを作成し、期を跨ぐ更新の際は、後の期に応じた型の機械学習モデルMに再学習を施して新しい機械学習モデルMを作成し、該新しい機械学習モデルMに切り替えるよう構成することができる。
【0079】
本実施例の空調システムにおいて、機械学習モデルMは、空調の運転に用いる値として空調負荷を推定するよう構成された負荷推定モデルとすることができる。
【0080】
また、本実施例の空調システムの運転方法では、上述の空調システムにおいて、機械学習モデルMの型を切り替えるタイミングを決定するにあたり、期の境目を跨ぐ期間において、前の期に応じた型の機械学習モデルMによる推定精度と、後の期に応じた型の機械学習モデルMによる推定精度とを比較し、後の期に応じた型の機械学習モデルMによる推定精度が、前の期に応じた型の機械学習モデルMによる推定精度未満である期間の後、後の期に応じた型の機械学習モデルMによる推定精度が、前の期に応じた型の機械学習モデルMによる推定精度以上である期間があった場合に、両期間の間を、機械学習モデルMの型を切り替える好適なタイミングとして特定するようにしている。このようにすれば、モデルの切替を行うタイミングを適切に決定し、モデルの切替前後に推定精度の低い期間が生じることを避けることができる。
【0081】
また、本実施例の空調システムの運転方法においては、機械学習モデルMの型を切り替える好適なタイミングを特定した後、別の年度の運用においては、機械学習モデルMの型の切替を実行するタイミングとしての複数の候補から、前記好適なタイミングと最も近い時点を選択し、これを機械学習モデルMの型の切替を実行するタイミングとすることもできる。
【0082】
したがって、上記本実施例によれば、機械学習モデルの更新を自動で好適に実行し得る。
【0083】
尚、本発明の空調システムおよびその運転方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
10 管理部
20 モデル管理部
21 学習データ管理部
22 モデル生成部
30 負荷推定部
40 表示部
41 端末装置
M 機械学習モデル(負荷推定モデル)