(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126581
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ノイズ変動特性取得方法
(51)【国際特許分類】
G01R 29/26 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01R29/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035027
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 登
(72)【発明者】
【氏名】福永 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼須賀 直一
(72)【発明者】
【氏名】三輪 圭史
(57)【要約】
【課題】標準正規分布とは異なる分布のノイズが発生する場合、また、負荷が変化した場合でもノイズの模擬精度を向上させることができるノイズ変動特性取得方法を得る。
【解決手段】ノイズ変動特性取得方法は、ノイズ源から当該ノイズ源に接続される電線を見たインピーダンスを変更するたびごとにノイズ源から発生する電磁ノイズの周波数成分を複数回記録する記録ステップと、複数回記録した周波数成分の大きさの系列または周波数成分の対数の系列に基づき周波数成分に当てはまる一般化極値分布のパラメータを推定する推定ステップと、パラメータを変動特性として取得する取得ステップと、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズ源から発生する電磁ノイズの周波数成分を複数回記録する記録ステップと、
複数回記録した前記周波数成分の大きさの系列または前記周波数成分の対数の系列に基づき前記周波数成分に当てはまる一般化極値分布のパラメータを推定する推定ステップと、
前記パラメータを変動特性として取得する取得ステップと、
を含むノイズ変動特性取得方法。
【請求項2】
前記記録ステップは、
前記ノイズ源から当該ノイズ源に接続される電線を見たインピーダンスを変更しつつ、インピーダンス変更のたびごとにノイズ源から発生する電磁ノイズの周波数成分を複数回記録するステップよりなり、
前記取得ステップは、
前記インピーダンスと前記一般化極値分布の位置パラメータとが対応付けられたテーブルに、線形回帰を適用することにより、前記周波数成分における前記ノイズ源の等価回路モデルの素子値を推定するステップを含む、請求項1に記載のノイズ変動特性取得方法。
【請求項3】
前記取得ステップは、
前記電磁ノイズの周波数成分と前記インピーダンスの逆数と前記一般化極値分布の位置パラメータとが対応付けられたテーブルに、サポートベクターマシンを適用することにより非線形回帰モデルを生成するステップを含む、請求項2に記載のノイズ変動特性取得方法。
【請求項4】
前記電磁ノイズは、前記電線に流れる電流を検出する電流検出部で検出される、請求項2に記載のノイズ変動特性取得方法。
【請求項5】
前記電磁ノイズは、前記電線に発生する電磁界を受信するアンテナで検出される、請求項2に記載のノイズ変動特性取得方法。
【請求項6】
前記記録ステップは、前記電線に設けられているフェライトコアの位置及び数の何れか変えることで前記インピーダンスを変更させるステップを含む、請求項2に記載のノイズ変動特性取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ変動特性取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シミュレータを利用した実機の模擬試験方法が開示されている。実機は、センサで検出された状態量(ロール角、ピッチ角、ヨー角など)に応じて動作を制御する制御機器である。特許文献1の従来の模擬試験方法は、実機のセンサに現れるノイズを計測し、ノイズ発生傾向を示す統計値を求め、統計値に応じた模擬ノイズを生成し、当該模擬ノイズに模擬状態量を付加する。模擬ノイズは、標準正規分布を示す乱数を統計値で加工することで生成されている。これにより、制御系モジュールが生成する制御指令が実機に近いものとなるため厳密な模擬試験を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の模擬試験方法では、標準正規分布を示す乱数を統計値で加工することで模擬ノイズが生成される。このため、標準正規分布とは異なる分布のノイズが発生した場合には当該ノイズの模擬精度が低下し得る。従って、厳密な模擬試験を行う上で改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、標準正規分布とは異なる分布のノイズが発生する場合でもノイズの模擬精度を向上させることができるノイズ変動特性取得方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法は、前記ノイズ源から発生する電磁ノイズの周波数成分を複数回記録する記録ステップと、複数回記録した前記周波数成分の大きさの系列または前記周波数成分の対数の系列に基づき前記周波数成分に当てはまる一般化極値分布のパラメータを推定する推定ステップと、前記パラメータを変動特性として取得する取得ステップと、を含む。
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法によれば、一般化極値分布のパラメータを変動特性として取得でき、一般化極値分布はノイズ変動特性においてよく表れる統計分布であり、かつ3つのパラメータを持っており分布形状に柔軟性があるため、ノイズの模擬精度が向上し、ノイズの変動特性を精度良く推定することができる。
【0008】
請求項2に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法の前記記録ステップは、前記ノイズ源から当該ノイズ源に接続される電線を見たインピーダンスを変更するたびごとに前記ノイズ源から発生する電磁ノイズの周波数成分を複数回記録し、前記取得ステップは、前記インピーダンスと前記一般化極値分布の位置パラメータとが対応付けられたテーブルに、線形回帰を適用することにより、前記周波数成分における前記ノイズ源の等価回路モデルの素子値を推定するステップを含む。
【0009】
請求項2に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法によれば、ノイズ源を負荷の変化に対して線形と仮定した等価回路モデルを利用できるため、線形計算によりノイズの変動特性を容易に推定することができる。
【0010】
請求項3に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法の前記取得ステップは、前記電磁ノイズの周波数成分と前記インピーダンスの逆数と前記一般化極値分布の位置パラメータとが対応付けられたテーブルに、サポートベクターマシンを適用することにより非線形回帰モデルを生成するステップを含む。
【0011】
請求項3に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法によれば、ノイズ源が負荷の変化に対して非線形特性を有する場合でもノイズの変動特性を容易に推定することができる。
【0012】
請求項4に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法では、前記電磁ノイズは、前記電線に流れる電流を検出する電流検出部で検出される。
【0013】
請求項4に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法によれば、車両に搭載される既存の電流検出部を利用して電流に含まれるノイズを検出することができる。
【0014】
請求項5に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法では、前記ノイズは、前記電線に発生する電磁界を受信するアンテナで検出される。
【0015】
請求項5に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法によれば、車両近傍電磁界に含まれるノイズを検出することができる。
【0016】
請求項6に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法の前記記録ステップは、前記電線に設けられているフェライトコアの位置及び数の何れか変えることで前記インピーダンスを変更させるステップを含む。
【0017】
請求項6に記載の本発明に係るノイズ変動特性取得方法によれば、電線に接続される負荷を複数準備することなくインピーダンス(負荷インピーダンス)を容易に変更することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係るノイズ変動特性取得方法では、標準正規分布とは異なる分布のノイズが発生する場合、および負荷が変化した場合でもノイズの模擬精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、測定器のハードウェア構成を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5A】
図5Aは、第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法を説明するための図である。
【
図5B】
図5Bは、第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法を説明するための図である。
【
図5C】
図5Cは、第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法を説明するための図である。
【
図6】
図6は、統合偏差データ集合を示す図である。
【
図7】
図7は、テブナン等価回路モデルを示す図である。
【
図8】
図8は、ノイズ電流のデータの例を示す図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は、本開示の第3実施形態にかかるノイズ変動特性取得システムの構成例を示す図である。
【
図13】
図13は、校正用負荷インピーダンスZ(i)を測定するときの構成を示す図である。
【
図14】
図14は、本開示の第4実施形態にかかるノイズ変動特性取得システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、
図1を参照して、ノイズ変動特性取得システム100について説明する。
図1は、本開示の第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得システムの構成例を示す図である。
【0021】
ノイズ変動特性取得システム100は、車両10及び測定器20を備えている。車両10は、ノイズ源1、電流プローブ2、電線束3、及び負荷回路4を備える。ノイズ源1は、車載用DC-DC(直流-直流)コンバータなどの電力変換装置である。電力変換装置では、特定の出力電圧を得るため複数のスイッチング素子をオンオフ制御するため、スイッチング素子のスイッチング周波数に起因する交流成分、いわゆるリプル電流が出力電流に重畳し得る。このためノイズ源1及びノイズ源1に接続される電線束3からは電磁ノイズが放射され得る。なおノイズ源1は、車載用DC-DCコンバータに限定されず、他の車載機器を含み得る。
【0022】
電流プローブ2は、ノイズ源1に接続される電線束3に流れるノイズ電流をノイズ源側端末において検出する電流検出部である。電線束3は、車両10内に配線されるハーネスなどの電線である。負荷回路4は、例えば、車載用DC-DCコンバータから供給される電流で駆動する回転電機である。
【0023】
測定器20は、ノイズ源1から電線束3を見たインピーダンス(コモンモードインピーダンス)を、ノイズ源1の代わりに既知のコモンモードインピーダンスを接続して測定することで、校正用負荷インピーダンスZ
(i)として予め測定する。具体的には、測定器20は、負荷回路4のインピーダンス値、電線束3の長さ、電線束3の位置、電線束3の高さなどを変えることで得られる、n種類の校正用負荷インピーダンスZ(i)を測定する。nは1以上の自然数である。第1実施形態の測定器20では、
図1に示す構成(系)を実測モデルとして、後述する処理フロー(
図4参照)が実行される。なお、以下では、校正用負荷インピーダンスZ
(i)を、単に校正用負荷、または校正用インピーダンスと称する場合がある。
【0024】
(測定器の構成例1)
測定器20は、ノイズ源1から電線を見たインピーダンスを校正用インピーダンスとして複数回変更したとき、各校正用インピーダンスについてのノイズ源1からのノイズ電流の変動特性を取得して、変動特性と校正用インピーダンスとを対応させた基準データとして予め記録する。測定器20は、新たな負荷が接続されたとき、予め記録された基準データに含まれる変動特性の一般化極値分布の3つのパラメータと、校正用インピーダンスとを対応づけたテーブルに基づき、新たな負荷に対する変動特性となる一般化極値分布の3つのパラメータを推定する。このように測定器20は、基準となる校正用インピーダンスについての変動特性を予め求めてテーブル化しておき、新たに接続された負荷に対するノイズ電流の変動特性を推定してよい。
【0025】
(測定器の構成例2)
測定器20は、前述した基準データを記録すると共に、さらに校正用インピーダンスに対して受信したノイズの各周波数成分から一般化極値分布の位置パラメータを減じたデータを、その校正用インピーダンスに対するノイズの偏差データとして蓄積する。測定器20は、全ての校正用インピーダンスの偏差データを統合して、全偏差データとして設定する。
【0026】
また測定器20は、全偏差データに対して周波数成分ごとの大きさの系列を元にして、周波数成分ごとに、一般化極値分布パラメータを算出することで、ノイズ源1の偏差変動特性を設定する。測定器20は、新たに接続される負荷のインピーダンスに対する変動特性となる一般化極値分布の3つのパラメータを推定する際、予め記録された基準データ中の変動特性の一般化極値分布の位置パラメータと、校正用インピーダンスとを対応付けたテーブルに基づき、新たな負荷のインピーダンスに対する変動特性となる一般化極値分布の位置パラメータを推定する。
【0027】
また測定器20は、推定した位置パラメータに対して、偏差変動特性の一般化極値分布の位置パラメータを加算することで、最終的な位置パラメータを設定する。測定器20は、偏差変動特性の一般化極値分布の形状及び尺度のパラメータを、最終的な形状及び尺度のパラメータとして設定する。
【0028】
このように測定器20は、各負荷に対するノイズについて、一般化極値分布の位置パラメータμを代表の特性として、尺度パラメータσ及び形状パラメータkについては、全ての負荷について同一と仮定する。これにより、各負荷に対するノイズから位置パラメータμを減じたものを偏差分布とすれば、全ての負荷の偏差は1つの母集団からのサンプルと見なせる。このため、全ての負荷の偏差データを統合して、サンプル数が大きいサンプル集合として扱うことができる。これにより、少ないサンプル数でも尺度パラメータσ及び形状パラメータkを、安定して推定することができる。
【0029】
(測定器のハードウェア構成)
図2は、測定器のハードウェア構成を示す図である。
図2に示されるように、測定器20は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、ストレージ24、通信I/F(通信インタフェース)25及び入出力I/F(入出力インタフェース)26を備える。各構成は、バス27を介して相互に通信可能に接続されている。
【0030】
CPU21は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU21は、ROM22又はストレージ24からプログラムを読み出し、RAM23を作業領域としてプログラムを実行する。CPU21は、ROM22又はストレージ24に記録されているプログラムに従って、各種の演算処理を行う。
【0031】
ROM22は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM23は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ24は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0032】
通信I/F25は、測定器20が他の機器と通信するためのインタフェースである。通信I/F25には、CAN(Controller Area Network)、イーサネット(登録商標)、LTE(Long Term Evolution)、FDDI(Fiber Distributed Data Interface)、Wi-Fi(登録商標)などの規格が用いられる。入出力I/F26は、電流プローブ2から伸びるケーブルを介して、電流プローブ2と電気的に接続されている。
【0033】
図3は、測定器の機能構成を示す図である。測定器20は、周波数記録部20a、パラメータ推定部20b、及び変動特性取得部20cを備える。
【0034】
周波数記録部20aは、ノイズ源1から当該ノイズ源1に接続される電線(電線束3)を見たインピーダンスを変更するたびごとに、ノイズ源1から発生する電磁ノイズの周波数成分を複数回記録する。パラメータ推定部20bは、複数回記録した周波数成分(周波数スペクトル)の大きさの系列または周波数成分の対数の系列に基づき、周波数成分に当てはまる一般化極値分布のパラメータを推定する。変動特性取得部20cは、当該パラメータを変動特性として取得する。
【0035】
次に、本開示の第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法について説明する。
図4は、第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法を説明するためのフローチャートである。
【0036】
まず、i=1(iは1以上の自然数)として、1番目の校正用負荷Z(1)を電線束3に接続する(ステップS1)。
【0037】
次に、電流プローブ2及び測定器20を利用して、校正用負荷Z(1)に対して、ノイズ電流の周波数スペクトルの測定をm(mは1以上の自然数)回行う、つまりノイズ電流を反復測定することにより、周波数スペクトルのデータ集合を得る(ステップS2)。
【0038】
次に、周波数ごとに、校正用負荷Z(i)に対する位置パラメータμ(i)を得る(ステップS3)。具体的には、測定した周波数スペクトル[dBA]に基づき、周波数のそれぞれのデータ集合をm点取り出し、m点のデータ集合のそれぞれに最尤法を適用することで、一般化極値分布パラメータを推定する。これにより周波数ごとに、校正用負荷Z(i)に対する位置パラメータμ(i)を得る。
【0039】
ここで、
図5Aから
図5Cを参照して実際のデータの一例を説明する。
図5Aから
図5Cは、第1実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法を説明するための図である。
【0040】
図5Aには、特定の負荷に接続した車載用DC-DCコンバータ(ノイズ源1)からのノイズ電流のスペクトルを30回(m=30)繰り返し測定した電流データが示されている。
図5Aの縦軸は電流、
図5Aの横軸は周波数を表す。
【0041】
図5Bには、
図5Aの電流データのX部を拡大したデータが示されている。
図5Cの左側には、
図5Bの電流データのY部、つまり305.7MHz付近の電流データの30点の分布が示されている。
図5Cの右側には、電流データの30点の分布をバーグラフで表したヒストグラムが示されている。
図5Cの縦軸は電流、
図5Cの横軸は確率密度を表す。
【0042】
電流データに最尤法を適用して、一般化極値分布(Generalized Extreme Value distribution:GEV分布)の3つのパラメータを推定すると、3つのパラメータの内、形状パラメータkは-0.625、尺度パラメータσは1.10、位置パラメータuは-111.1となる。
【0043】
図5Cには、これらのパラメータによる理論曲線が、ヒストグラムに重ねて示されている。
図5Cに示すように当該理論曲線は、ヒストグラムと整合していることが分かる。また形状パラメータkの値が負であるため、これらはタイプ3の一般化極値分布である。
【0044】
このため、分布の上限は存在するが、当該上限は式「μ+σ/(-k)」により計算できる。この場合の上限は-109.3[dBA]となる。この値は、
図5Cの左側に示す電流データの30点の分布の内、最大値をやや上回っており、妥当な値となっていることを確認できる。
【0045】
図4に戻り、ステップS3の後、周波数スペクトルのμ
(i)に対するスペクトル偏差を得る(ステップS4)。具体的には、元の周波数のそれぞれのデータ集合m点から、ステップS3で得られたμ
(i)を減じることにより、周波数スペクトルのμ
(i)に対する偏差データ集合(スペクトル偏差)を得る。
【0046】
ステップS2からステップS4までの処理は、全ての校正用負荷Z(i)について実行される。具体的には、全ての校正用負荷Z(i)について、ステップS2からステップS4までの処理が完了していない場合(ステップS5:NO)、スペクトル偏差を取得していない次の校正用負荷Z(i)への接続が行われる(ステップS6)。そして、次の校正用負荷Z(i)への接続が完了すると、ステップS2以降の処理が実行される。
【0047】
全ての校正用負荷Z(i)について、ステップS2からステップS4までの処理が完了した場合(ステップS5:YES)、ステップS7の処理が実行される。
【0048】
ステップS7では、ステップS6までの処理で得られた全ての偏差データ集合を統合して、1つの大きな偏差データにまとめる。
【0049】
この統合後の偏差データ集合(スペクトル偏差データ集合)を、以下では「統合偏差データ集合」と称する場合がある。測定器20は、統合偏差データ集合に対して最尤法を適用して、一般化極値分布パラメータ(μA,σA、kA)を推定する(ステップS8)。
【0050】
ここで、測定器20は、統合偏差データを生成してそれを一括して処理する。統合偏差データに最尤法を適用して一般化極値分布パラメータを得るのは、車載用DC-DCコンバータなどでは、負荷インピーダンスが特定範囲で変化しても、各周波数での尺度パラメータσ及び位置パラメータμは、大きく変化しないという経験的知見があるためである。
【0051】
また、位置パラメータμは、サンプル数が数10程度など、比較的少ない場含でも、最尤法により安定して計算(推定)することができるのに対して、残りの2つのパラメータ(k、σ)は、100以上の多くのサンプル数が揃わないと、最尤法による計算時の誤差が大きくなり、安定した結果が得られないためである。
【0052】
このような統合偏差データの一例を
図6に示す。
図6は、統合偏差データ集合を示す図である。
図6の縦軸は確率密度、
図6の横軸はDUT端電流偏差を表す。
図6に示す統合偏差データ集合は、n=15として、負荷を15種類変えつつ、m=60として車載用DC-DCコンバータからのノイズ電流のスペクトルを60回繰り返し測定したものについて作成したデータである。
【0053】
図6には、統合偏差データ集合の分布をバーグラフで表したヒストグラムが示されている。このデータに最尤法を適用して一般化極値分布の3つのパラメータを推定すると、形状パラメータkは-0.481、尺度パラメータσは1.30、位置パラメータuは-0.115となる。
図6には、これらのパラメータによる理論曲線が示されている。当該理論曲線は、ヒストグラムと整合していることが分かる。
【0054】
また形状パラメータkの値が負であるため、これらはタイプ3の一般化極値分布である。このため、分布の上限は存在するが、当該上限は式「μ+σ/(-k)」により計算できる。この場合の上限は2.60[dBA]となる。この値は、
図6に示すヒストグラムの最大値と略重なっており、妥当な値となっていることが確認できる。
【0055】
図4に戻り、ステップS9では、ステップS8で推定した一般化極値分布パラメータ(μ
A,σ
A、k
A)を用いて、Z
(i)と、μ
(i)+μ
Aとを対応付けたデータテーブルに線形回帰を適用して、各周波数におけるノイズ源1のテブナン等価回路モデルの素子値を推定する。当該データテーブルは、インピーダンスと、一般化極値分布の位置パラメータとが対応付けられたテーブルと解釈してよい。
【0056】
図7は、テブナン等価回路モデルを示す図である。Ih
(i)=μ
(i)+μ
Aとした場合、
図7に示すテブナン等価回路より、Zh
(i)Ih
(i)=-Ih
(i)Zs+Vsとなる。これにより下記(1)式が成り立つ。これを最小二乗法で解き、Zs及びVsを求めればよい。
【0057】
【0058】
このようにしてノイズ源1の変動に一般化極値分布を適用した場合、位置パラメータuについての線形等価回路モデルを構築できる。
【0059】
なお、
図7に示す回路モデルは、
図1に示す車両10の金属製ボディに搭載された回路を例にしたものであるが、当該回路モデルには、車両10の金属製ボディに代えて、地板(base plate)上で動作するように組み立てられたベンチに設けられている回路を用いてもよい。
【0060】
また統合偏差データ集合を作成して解析する理由は、データ数が少ないためであり、データ数が多い場合、統合偏差データ集合を作成して解析することなく、各校正用負荷Z
(i)における電流変動に一般化極値分布を適用したものを直接用いてよい。この場合、Ih
(i)=μ
(i)として、上記(1)式の計算を行い、
図7の等価回路モデルを導出すればよい。
【0061】
(第1実施形態にかかるノイズ源分布の推定方法)
次に、当該変動モデルを用いて、新たな負荷に対するノイズ源1の分布を推定する方法について説明する。
【0062】
図1に示す電線束3の配策が変化した場合(つまり電線束3の配線位置などが変化した場合)、或いは、負荷回路4のインピーダンスが変化した場合、ノイズ源1から電線束3を見たインピーダンス(負荷インピーダンス)が変化する。この変化後のインピーダンスをZhtとする。
【0063】
図7に示すノイズ源1のテブナン等価回路モデルに、当該インピーダンス(負荷)Zhtを接続したときの電流値を求める。これを、インピーダンスZhtに対するノイズ電流の一般化極値分布の位置パラメータμ
tとして設定する。また、先に求めた形状パラメータk
Aと、尺度パラメータσ
Aを、形状パラメータ及び尺度パラメータとして用いる。このようにして求めたノイズ電流のデータを
図8に示す。
【0064】
図8は、ノイズ電流のデータの例を示す図である。
図8に示すデータは以下のようにして得られたものである。
【0065】
まず、n=15として、負荷を15種類変えつつ、m=60として車載用DC-DCコンバータからのノイズ電流のスペクトルを各負荷に対して60回繰り返し測定したものについて作成した統合偏差データ集合(
図6に示す統合偏差データ)に対して、一般化極値分布パラメータを推定する。すなわち、新たな負荷をノイズ源1に接続した場合の各周波数でのノイズ電流の一般化極値分布パラメータを推定する。
【0066】
そして、その位置パラメータμと「μ+σ/(-k)」とにより計算した上限推定値の曲線をそれぞれプロットしたものに、その負荷に対するノイズ電流を新たに60回反復測定した値を、重ね書きする。これにより、
図8に示すデータが得られる。
【0067】
図8に示すデータによれば、400MHzまでの領域では、スパイク状の異常値を除き、60回反復測定データ(実測データ)に対して、GEV位置パラメータμが、実測データの略中央値を示す。またGEV上限推定値は、実測データの最大値付近の値を示す。このように、GEV位置パラメータμ及びGEV上限推定値について、妥当な推定ができていることが分かる。
【0068】
400MHz以上の領域では、60回反復測定データ(実測データ)に対して、GEV位置パラメータμ及びGEV上限推定値が、何れも、実測データの最低値よりも低い値を示す帯域が存在するなど、パラメータの誤差が大きくなっている。このため、第1実施形態の推定方法では、400MHzまでの帯域をパラメータの推定に好適といえる。
【0069】
(作用・効果)
以上に説明したように第1実施形態によれば、一般化極値分布のパラメータを変動特性として取得できるため、負荷が変化した場合でも、ノイズの模擬精度が向上し、ノイズの変動特性を精度良く推定することができる。
【0070】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態にかかるノイズ変動特性取得方法を説明するためのフローチャートである。第1実施形態との相違点は、ステップS9Aの処理である。
【0071】
第2実施形態のノイズ変動特性取得方法は、負荷の変化に対するノイズ源1の変動モデルの構築の際、第1実施形態と同様にステップS1からステップS8までの処理が実行される。そして、ステップS9Aの処理では、ステップS8までに得られた情報に基づき、[周波数,1/Z(i),(μ(i)+μA)]から成るデータテーブルを構成する。当該データテーブルは、ノイズの周波数スペクトルと、インピーダンスの逆数と、一般化極値分布の位置パラメータとが対応付けられたテーブルと解釈してよい。
【0072】
さらに、ステップS9Aの処理では、サポートベクターマシン(SVM)非線形回帰を適用して、SVM非線形回帰モデルを構築する。
【0073】
図10は、データテーブルの一例を示す図である。
図10に示すデータテーブルは、n=15として、負荷(校正用負荷Z
(i))を15種類変えつつ、m=60として車載用DC-DCコンバータからのノイズ電流の1601点の周波数を、各負荷に対して60回繰り返し測定したものについて作成したものである。
【0074】
データテーブルの1列目には、15種類の校正用負荷Z(i)のそれぞれについて、1601点の周波数が格納されている。また、各周波数における各校正用負荷Z(i)の逆数Y(i)=1/Z(i)の内、実部がデータテーブルの2列目に格納され、虚部がデータテーブルの3列目に格納されている。データテーブルの4列目には、各周波数におけるノイズ電流の一般化極値分布の位置パラメータが格納されている。
【0075】
従って、
図10に示すデータテーブルは、1601×15=24,015行のデータテーブルとなっている。このデータテーブルをSVMに入力して、非線形回帰学習を行うことで、負荷の変化に対するノイズ源1の変動モデル、つまりSVM非線形回帰モデルを得ることができる。
【0076】
(第2実施形態にかかるノイズ源分布の推定方法)
次に、当該変動モデルを用いて、新たな負荷に対するノイズ源1の分布を推定する方法について説明する。
図1に示す電線束3の配策が変化した場合、或いは、負荷回路4のインピーダンスが変化した場合、ノイズ源1から電線束3を見たインピーダンスが変化する。この変化後のインピーダンスをZhtとする。
【0077】
ここでYht=1/Zhtとし、これに基づき、周波数1601点に対して、Yhtの実部と虚部を並べた3列1601行のデータテーブルを生成する。当該データテーブルに上記のSVMの非線形回帰学習結果を適用して、予想応答として、ノイズ電流の一般化極値分布の位置パラメータμtを推定する。また、第1実施形態と同様に、先に求めた形状パラメータkAと尺度パラメータσAを、形状パラメータ及び尺度パラメータとして用いる。
【0078】
このようにして求めたノイズ電流のデータを
図11に示す。
図11は、ノイズ電流のデータの例を示す図である。
図11には、第1実施形態(
図8参照)と同様にして得られたデータが示されている。すなわち、n=15として、負荷を15種類変えつつ、m=60として車載用DC-DCコンバータからのノイズ電流のスペクトルを各負荷に対して60回繰り返し測定したものについて作成した統合偏差データ集合(
図6に示す統合偏差データ)に対して、一般化極値分布パラメータを推定する。すなわち、新たな負荷をノイズ源1に接続した場合の各周波数でのノイズ電流の一般化極値分布パラメータを推定する。そして、その位置パラメータμと「μ+σ/(-k)」とにより計算した上限推定値の曲線をそれぞれプロットしたものに、その負荷に対するノイズ電流を新たに60回反復測定した値を、重ね書きする。これにより、
図11に示すデータが得られる。
【0079】
図11に示すデータによれば、800MHzまでの領域では、ノイズ電流が急峻に落ち込む周波数帯を除き、60回反復測定データ(実測データ)に対して、GEV位置パラメータμは、実測データの略中央値を示す。またGEV上限推定値は、実測データの最大値付近の値を示す。このように、GEV位置パラメータμ及びGEV上限推定値について、妥当な推定ができていることが分かる。
【0080】
ノイズ電流が急峻に落ち込む周波数帯では、GEV位置パラメータμ及びGEV上限推定値は、60回反復測定データ(実測データ)に対して大きくなっている。ただし一般に、ノイズの大きさを推定する目的は、ノイズが大きいことが予想される場合に対策をするためであり、当該周波数帯で大きめな実測データが現れることは、大きな影響を与えない。従って、第2実施形態の推定方法では、800MHzまでの帯域をパラメータの推定に好適といえる。
【0081】
(作用・効果)
以上に説明したように第2実施形態では、ステップS9Aの取得ステップにおいて、ノイズの周波数スペクトルとインピーダンスの逆数と一般化極値分布の位置パラメータとが対応付けられたデータテーブルに、サポートベクターマシンを適用することにより非線形回帰モデルを生成するステップを含む。このため、ノイズ源1が負荷の変化に対して非線形特性を有する場合でもノイズの変動特性を容易に推定することができる。
【0082】
[第3実施形態]
図12は、本開示の第3実施形態にかかるノイズ変動特性取得システムの構成例を示す図である。第3実施形態にかかるノイズ変動特性取得システム100は、第1実施形態1の構成に加え、複数のフェライトコア5を備えている。各フェライトコア5は、電線束3にクランプされている。
【0083】
第3実施形態の測定器20は、ノイズ源1から電線束3を見たインピーダンス(コモンモードインピーダンス)を、フェライトコア5のクランプ位置、フェライトコア5の数などを変えることにより、n種類の校正用負荷インピーダンスZ(i)として、予め測定している。そして、第3実施形態では、当該構成を実測モデルとして、第1実施形態及び第1実施形態2と同様の処理が実行される。
【0084】
なお、校正用負荷インピーダンスZ(i)を予め測定する場合、
図13に示すように、ノイズ源1を、測定器20(インピーダンス測定器)に置き換える。その際、電線束3を構成する電線を、ノイズ源1としてのインピーダンス測定器側で全て相互に短絡した上で、インピーダンス測定器に接続される。これによりコモンモードのインピーダンスを測定することができる。測定器20のグランドは、電線束3が敷設されている車両10の金属製ボディ、または、前述したベンチの地板に接続されている。
【0085】
(作用・効果)
以上に説明したように第3実施形態では、記録ステップ(ステップS2)において、電線束3に設けられているフェライトコア5の位置及び数の何れか変えることで負荷インピーダンスを変更させるステップを含む。これにより、電線束3に接続される負荷を複数準備することなく、フェライトコア5のクランプ位置などを変えることで、インピーダンス(負荷インピーダンス)を容易に変更することができる。従って、負荷が変化した場合のノイズの再現性が向上する。
【0086】
[第4実施形態]
図14は、本開示の第4実施形態にかかるノイズ変動特性取得システムの構成例を示す図である。第4実施形態にかかるノイズ変動特性取得システム100は、第1実施形態1の電流プローブ2に代えて、計測アンテナ6を備えている。計測アンテナ6は、電線束3などに発生する電磁界を受信するアンテナである。
【0087】
計測アンテナ6が接続された測定器20は、受信した電磁界をモデル化対象のノイズとして、第1および第2実施形態のノイズ電流に代えて一般化極値分布を適用してその強度の一般化極値分布パラメータを推定する。なお、第4実施形態では、当該構成を実測モデルとして、第1実施形態及び第1実施形態2と同様の処理が実行される。
【0088】
(作用・効果)
以上に説明したように第4実施形態では、ノイズは、電線束3に発生する電磁界を受信するアンテナで検出され、そのノイズ電磁界強度分布の一般化極値分布パラメータが推定される。
【符号の説明】
【0089】
1 ノイズ源
2 電流プローブ
3 電線束
4 負荷回路
5 フェライトコア
6 計測アンテナ
10 車両
20 測定器
20a 周波数記録部
20b パラメータ推定部
20c 変動特性取得部
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 ストレージ
25 通信I/F
26 入出力I/F
27 バス
100 ノイズ変動特性取得システム