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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126583
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】土中の腐食モニタリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20240912BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20240912BHJP
   G01N 17/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01N27/04 Z
G01N27/00 L
G01N17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035029
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】高島 佑弥
【テーマコード(参考)】
2G050
2G060
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA06
2G050EB02
2G060AA10
2G060AD04
2G060AE28
2G060AF03
2G060AF07
2G060AG04
2G060AG10
2G060EA08
2G060HA02
2G060HC02
2G060HC10
2G060HC14
(57)【要約】
【課題】土中に埋設される金属片の腐食量を長期間に亘って高精度にモニタリング可能な、土中の腐食モニタリング装置を提供する。
【解決手段】土中の腐食モニタリング装置100は、土中に埋設される金属片11と、金属片11に通電することで、金属片11の電気抵抗値を計測する電気抵抗計測手段20と、電気抵抗計測手段20によって計測された金属片11の電気抵抗値に基づき、金属片の腐食量を算出する演算手段30と、を備え、金属片の厚みが、1.5mm以上である。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土中に埋設される金属片と、
前記金属片に通電することで、前記金属片の電気抵抗値を計測する電気抵抗計測手段と、
前記電気抵抗計測手段によって計測された前記金属片の電気抵抗値に基づき、前記金属片の腐食量を算出する演算手段と、を備え、
前記金属片の厚みが、1.5mm以上である、
土中の腐食モニタリング装置。
【請求項2】
前記金属片の幅が、20mm以下である、
請求項1に記載の土中の腐食モニタリング装置。
【請求項3】
前記金属片の温度を計測する温度計測手段を更に備え、
前記演算手段は、前記電気抵抗計測手段によって計測された前記金属片の電気抵抗値と、前記温度計測手段によって計測された前記金属片の温度とに基づき、前記金属片の腐食量を算出する、
請求項1又は2に記載の土中の腐食モニタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土中に埋設される金属片の腐食量を長期間に亘って高精度にモニタリング可能な、土中の腐食モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
土中環境で使用される金属製品(例えば、土中環境で使用される土木建材製品である鋼矢板や鋼管杭等)の寿命予測や維持管理、或いは、耐食性に優れた製品を開発する上で、土中に埋設される金属片の腐食量を高精度にモニタリングできる装置が望まれている。
【0003】
金属片の腐食量をモニタリング可能な手段の一つとして、特許文献1~3に記載のような電気抵抗式の腐食センサが挙げられる。電気抵抗式の腐食センサは、腐食センサを構成する金属片の腐食減肉に伴う電気抵抗値の増加に基づき、金属片の腐食量(腐食減肉量)を測定するものである。この腐食センサは、原理的に、金属片全体の平均的な電気抵抗値、ひいては金属片全体の平均的な腐食量を測定していることになる。
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に記載の腐食センサは、大気環境での腐食量を測定することを想定しており、土中環境での腐食量を測定することは考慮されていない。本発明者らがこの腐食センサを土中環境で使用することを検討したところ、長期間に亘って精度良く測定できない場合のあることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-3376号公報
【特許文献2】特開2016-197102号公報
【特許文献3】国際公開第2021/235475号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、土中に埋設される金属片の腐食量を長期間に亘って高精度にモニタリング可能な、土中の腐食モニタリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは、土中に埋設された金属片の腐食状況を鋭意調査した。図1は、土中に埋設された金属片の腐食状況を調査した結果の一例を示す図である。図1の丸で囲った部分が腐食した部分であり、図1に示す数値は、腐食の深さを示す。なお、図1は、腐食性の厳しい実土壌中に、金属片として鋼管(材質:SS400相当、外径:200mm)を埋設し、1年以上経過後の腐食状況を確認した結果(金属片を部分的に撮像した画像)である。
図1に示すように、土中に埋設された金属片の場合、金属片全体が均等に腐食するのではなく、局部的に腐食する状況になることが分かった。そして、その局部腐食の大きさは5mm×5mm程度であり、深さは最大で1mm程度であることが分かった。
【0008】
本発明者らは、後述の数値解析によって、腐食センサを土中環境で使用した場合に腐食量の測定精度が悪化する原因が局部腐食にあることを見出した。そして、腐食センサが備える金属片の厚み(腐食が生じる前の初期の厚み)を1.5mm以上にすることで、局部腐食が生じる土中環境であっても、測定精度を長期間に亘って一定以上に維持できることを、数値解析及び実際の試験によって見出した。
【0009】
本発明は、本発明者らの上記の知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、土中に埋設される金属片と、前記金属片に通電することで、前記金属片の電気抵抗値を計測する電気抵抗計測手段と、前記電気抵抗計測手段によって計測された前記金属片の電気抵抗値に基づき、前記金属片の腐食量を算出する演算手段と、を備え、前記金属片の厚みが、1.5mm以上である、土中の腐食モニタリング装置を提供する。
【0010】
本発明によれば、金属片の厚みが1.5mm以上であるため、本発明者らが知見したように、局部腐食が生じる土中に埋設される金属片であっても、その腐食量を長期間に亘って高精度にモニタリング可能である。
なお、上記の「金属片の厚み」は腐食が生じる前の初期の厚み(土中に埋設した直後の厚み)を意味する。金属片の厚みは、2mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、4mm以上であることが更に好ましく、6mm以上であることが最も好ましい。
【0011】
本発明において、金属片の厚み及び幅の双方を過度に大きくする(すなわち、金属片の断面積を過度に大きくする)と、金属片の電気抵抗値が小さくなり過ぎて、電気抵抗値の計測誤差が大きくなるおそれがある。この結果、金属片の腐食量の測定精度が悪化するおそれがある。
上記のような金属片の腐食量の測定精度の悪化を防止するには、本発明において、前記金属片の幅が、20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。
なお、金属片の幅は、金属片の通電方向及び金属片の厚み方向に直交する方向の寸法を意味する。上記の好ましい構成において、金属片の幅は必ずしも一定である必要はなく、20mm以下である限りにおいて、通電方向に沿って幅が異なる金属片とすることも可能である。
【0012】
金属片の電気抵抗値は、温度依存性を有する。しかしながら、土中環境では、大気環境に比べて直射日光が当たらないので、温度変化が少ない。このため、本発明では、電気抵抗値の温度依存性を必ずしも考慮する必要はない。
しかしながら、金属片の腐食量をより一層精度良く測定するには、電気抵抗値の温度依存性を考慮することが好ましい。
電気抵抗値の温度依存性を考慮する方法としては、特許文献1~3と同様の考え方に基づき、腐食量を測定するための金属片とは別に、腐食が生じないように土壌環境から遮断される参照部を設け、金属片の電気抵抗値と参照部の電気抵抗値とに基づき、金属片の腐食量を測定することも考えられる。具体的には、この方法は、参照部の電気抵抗値の変化が、腐食ではなく温度変化に起因したものであると考え、金属片の電気抵抗値の変化のうち、この温度変化に起因した電気抵抗値の変化を除いたものを腐食に起因した電気抵抗値の変化として算出する方法である。このため、この方法では、金属片の温度と参照部の温度とが同一であることを前提としている。
しかしながら、参照部に腐食が生じないようにするため、例えば、腐食量を測定するための金属片と同一の金属片を防食性塗料等で被覆して参照部を作製すると、この被覆によって、参照部と金属片との温度差が大きくなり、電気抵抗値の温度依存性の影響を十分に低減できない場合も考えられる。
したがって、電気抵抗値の温度依存性を考慮して金属片の腐食量をより一層精度良く測定するには、参照部を設ける代わりに、金属片の温度を直接計測することが好ましい。
【0013】
すなわち、本発明において、前記金属片の温度を計測する温度計測手段を更に備え、前記演算手段は、前記電気抵抗計測手段によって計測された前記金属片の電気抵抗値と、前記温度計測手段によって計測された前記金属片の温度とに基づき、前記金属片の腐食量を算出することが好ましい。
【0014】
上記の好ましい構成によれば、電気抵抗計測手段によって計測された金属片の電気抵抗値に加えて、温度計測手段によって計測された金属片の温度を用いて、金属片の腐食量を算出するため、電気抵抗値の温度依存性を考慮しない(土中に埋設された金属片の温度変化を考慮しない)場合に比べて、金属片の腐食量をより一層精度良く測定可能である。また、特許文献1~3に記載のような参照部を設ける場合に比べても、金属片の腐食量をより一層精度良く測定可能であると共に、参照部を設ける手間やコストを削減可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、土中に埋設される金属片の腐食量を長期間に亘って高精度にモニタリング可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】土中に埋設された金属片の腐食状況を調査した結果の一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る土中の腐食モニタリング装置の概略構成を模式的に示す図である。
図3】数値解析に用いた金属片11の解析モデルの例を模式的に示す図である。
図4】数値解析例1の結果と、数値解析例2の結果(金属片11の幅W=6mmの場合)とを示す図である。
図5】数値解析例2の結果(金属片11の幅W=8、10mmの場合)を示す図である。
図6】試験において比較例として用いた金属片の外形を示す図である。
図7】試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る土中の腐食モニタリング装置の概略構成を模式的に示す図である。図2(a)は全体構成を示す図であり、図2(b)及び図2(c)は図2(a)に示す金属片の他の例を示す図である。
図2(a)に示すように、本実施形態に係るモニタリング装置100は、土中に埋設される腐食センサ10と、腐食センサ10が具備する金属片11に通電することで、金属片11の電気抵抗値を計測する電気抵抗計測手段20と、金属片11の腐食量を算出する演算手段30と、を備える。また、本実施形態に係るモニタリング装置100が備える腐食センサ10は、金属片11の温度を計測する温度計測手段40を具備する。以下、モニタリング装置100を構成する腐食センサ10、電気抵抗計測手段20及び演算手段30について、順に説明する。
【0018】
<腐食センサ10>
腐食センサ10は、金属片11と、金属片11が上面に配置される基板12と、温度計測手段40と、を具備する。
金属片11は、評価対象とする金属製品(例えば、鋼矢板や鋼管杭等)と同種の金属から形成されている。図2(a)に示す例では、金属片11の形状は平面視矩形であるが、これに限るものではない。例えば、図2(b)に示すように、平面視コ字状の金属片11Aであってもよいし、図2(c)に示すように、平面視蛇行状の金属片11Bであってもよい。また、図2に示すもの以外の形状を有する金属片であってもよい。金属片11は、その長手方向の端部111、112がそれぞれ電気抵抗計測手段20に電気的に接続されている。金属片11の端部111、112と電気抵抗計測手段20とを電気的に接続する配線211、221は、腐食によって断線しないように、所定の被覆部材13で被覆しておくことが好ましい。金属片11A、11Bを用いる場合も同様である。
【0019】
金属片11は、土中に暴露される面を有している。すなわち、金属片11の少なくとも一部は、被覆されずに露出している。図2に示す例では、金属片11の上面及び側面(正確には、側面のうち被覆部材13と接する部分以外の部分)が土中に露出している。ただし、本発明はこれ限るものではなく、金属片11の側面を樹脂等で被覆し、上面のみを露出させる構成を採用することも可能である。金属片11A、11Bを用いる場合も同様である。
【0020】
基板12としては、例えば、絶縁体であるプラスチック基板が用いられる。ただし、これに限るものではなく、基板12として金属等の導体から形成された基板を用いてもよく、この場合には、基板12と金属片11との間に絶縁体を配置すればよい。金属片11A、11Bを用いる場合も同様である。
【0021】
本実施形態では、温度計測手段40として、金属片11の温度を計測する熱電対41を用いている。熱電対41が腐食によって断線しないように、熱電対41を所定の被覆部材42で被覆しておくことが好ましい。図2(a)に示す例では、熱電対41の先端は、絶縁テープ43によって金属片11の下面に固定されている。熱電対41の固定方法は任意であり、例えば、スポット溶接や半田溶接によって固定したり、磁石によって固定したり、ねじによって固定する方法を採用することも可能である。また、熱電対41の固定位置(温度計測位置)は任意である。熱電対41を複数用いて、金属片11の複数の位置の温度を計測し、その平均値を後述の演算手段30で用いる金属片11の温度としてもよい。金属片11A、11Bを用いる場合も同様である。
【0022】
なお、温度計測手段40は、熱電対41に限るものではなく、土中に埋設された金属片11の温度を計測できる限りにおいて、電気抵抗式の温度センサなど、任意の構成を採用可能である。また、土中においては直射日光が当たらないため、土中の温度を測定してその値を金属片11の温度とすることも可能である。さらに、温度計測手段40による温度計測は、連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。金属片11A、11Bを用いる場合も同様である。
【0023】
<電気抵抗計測手段20>
電気抵抗計測手段20は、金属片11の電気抵抗値を計測するために、定電流電源21と、電圧計22と、電気抵抗値算出手段23と、を具備する。
定電流電源21は、配線211によって、金属片11の端部111、112と電気的に接続されており、金属片11の端部111から端部112に向けて、一定電流を通電する。
電圧計22は、配線221によって、金属片11の端部111、112と電気的に接続されており、金属片11の端部111と端部112との間の電圧を計測する。
電気抵抗値算出手段23は、電圧計22で計測された電圧を、定電流電源21から通電する電流で除算することにより、金属片11の電気抵抗値を算出する。
電気抵抗計測手段20による金属片11の電気抵抗値の計測は、連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。ただし、電気抵抗計測手段20による金属片11の電気抵抗値の計測タイミングと、温度計測手段40による金属片11の温度の計測タイミングとは、同期されている必要がある。
金属片11A、11Bを用いる場合も同様である。
【0024】
なお、金属片11の電気抵抗値を正確に計測するために、金属片11の端部111と配線211、221との接続部分と、金属片11の端部112と配線211、221との接続部分との温度差による熱起電力に起因した計測ノイズを除去する対策を施すことが好ましい。ノイズ除去対策としては、例えば、(1)定電流電源21から通電する電流を大きくすることで、電圧計22で計測される電圧を高める、(2)定電流電源21から通電する電流を止めたときに電圧計22で計測される電圧を、定電流電源21から通電したときに電圧計22で計測される電圧から減算した値を、電気抵抗値を算出する際の電圧として用いる、(3)定電流電源21から通電する電流の極性を反転させ、各極性の電流を通電したときに計測される電圧の絶対値の平均値を、電気抵抗値を算出する際の電圧として用いる、(4)金属片11に通電する電流を交流電流(表皮効果を考慮し、100kHz以下の低周波域とすることが好ましい)にする、等が考えられる。
さらに、配線211、221として、同軸ケーブル又は撚線ケーブルを用いることが好ましい。これにより、配線211、221によって生じる外部電磁場の影響が低減し、誘導起電力による計測ノイズを低減可能である。
【0025】
電気抵抗計測手段20としては、以上に説明した構成に限るものではない。例えば、金属片11の端部111と端部112との間に一定電圧を印加し、金属片11の端部111から端部112に向けて通電する電流を計測することで、金属片11の電気抵抗値を計測する構成を採用することも可能である。
【0026】
<演算手段30>
演算手段30は、電気抵抗値算出手段23によって計測された金属片11の電気抵抗値と、温度計測手段40によって計測された金属片11の温度とに基づき、金属片の腐食量を算出する。
具体的には、演算手段30には、金属片11の初期の電気抵抗値Rと温度Tとの関係である温度依存関数R(T)が予め記憶されている。金属片11の初期の電気抵抗値Rとは、金属片11に腐食が生じる前の時点における電気抵抗値であり、換言すれば、金属片11の全体に腐食が生じる前の初期の厚み(後述のtini)を有している時点での電気抵抗値である。
【0027】
温度依存関数R(T)は、金属片11を構成する金属の種類によって異なる。このため、腐食量の測定対象とする金属の種類毎に温度依存関数R(T)を求める必要がある。温度依存関数R(T)は、腐食量を測定する毎に、温度を変更した試験を行って実測して求めてもよいし、過去の測定から得られたものや、データベースに記録されたものを用いてもよい。また、金属の化学組成や組織から理論的に求めたものを用いてもよい。
【0028】
金属片11の温度依存関数R(T)を実測して求める場合、金属片11が腐食しない乾燥した環境で測定することが好ましい。土中での温度範囲では、金属の電気抵抗値は、温度と線形に近い関係を示すのが一般的である。このため、例えば、2点以上の温度で金属片11の初期の電気抵抗値Rを計測し、その計測結果を直線近似して温度依存関数R(T)とすることが考えられる。ただし、これに限るものではなく、温度依存関数R(T)として、温度Tの2次以上の関数を用いてもよいし、初期の電気抵抗値Rと温度Tとの対応関係を記録したテーブル形式で表したものであってもよい。
【0029】
演算手段30は、以上に説明した温度依存関数R(T)と、電気抵抗値算出手段23によって計測された金属片11の電気抵抗値Rと、温度計測手段40によって計測された金属片11の温度Tとを用いて、金属片11の腐食量Δtを算出する。
具体的には、演算手段30は、温度依存関数R(T)に基づいて、計測された温度Tにおける金属片11の初期の電気抵抗値R(T)を算出する。次に、演算手段30は、算出した初期の電気抵抗値R(T)と、計測された電気抵抗値Rとの比であるR(T)/Rを算出する。次に、演算手段30は、算出した比R(T)/Rに基づき、以下の式(1)によって、計測時点での金属片11の残存厚みt’を算出する。
t’=tini×R(T)/R・・・(1)
上記の式(1)において、tiniは金属片11の初期の厚みである。
最後に、演算手段30は、以下の式(2)によって、計測時点での金属片11の腐食量Δtを算出する。
Δt=tini-t’ ・・・(2)
【0030】
なお、本実施形態では、演算手段30が、温度計測手段40によって計測された金属片11の温度Tを用いて、金属片11の腐食量Δtを算出する構成について説明したが、土中環境では、大気環境に比べて直射日光が当たらず、温度変化が少ないため、電気抵抗値の温度依存性を必ずしも考慮する必要はない。電気抵抗値の温度依存性を考慮しない場合には、上記の式(1)において、R(T)として、土中の代表的な温度で計測した初期の電気抵抗値R(固定値)を用いればよい。
また、特許文献1~3と同様の考え方に基づき、腐食量を測定するための金属片11とは別に、腐食が生じないように土壌環境から遮断される参照部を設け、金属片11の電気抵抗値と参照部の電気抵抗値とに基づき、金属片11の腐食量を測定する構成を採用することも可能である。この場合、参照部の初期の厚みをtref_ini、金属片11の初期の電気抵抗値をRini、金属片11の計測時点における電気抵抗値をR、参照部の初期の電気抵抗値をRref_ini、参照部の計測時点における電気抵抗値をRref_tとすると、以下の式(3)によって、計測時点での金属片11の腐食量Δtを算出可能である。
Δt=tref_ini×(Rref_ini/Rini-Rref_t/R) ・・・(3)
【0031】
以上に説明した構成を有するモニタリング装置100において、金属片11の初期の厚みtiniは、1.5mm以上、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは4mm以上、最も好ましくは6mm以上に設定されている。以下、このように設定した理由について説明する。なお、金属片11の初期の厚みtiniの上限は、17mmであることが好ましい。また、金属片11の幅Wは、20mm以下であることが好ましく10mm以下であることがより好ましい、金属片11の幅Wの下限は、1mmであることが好ましい。また、金属片11の長さLは、90mm~20000mmであることが好ましい。さらに、腐食のばらつきを抑制するために、金属片11の面積(幅Wと長さLとの積)は200mm以上であることが好ましく、500mm以上であることがより好ましい。
【0032】
<数値解析の内容及び結果>
図3は、数値解析に用いた金属片11の解析モデルの例を模式的に示す図である。図3(a)は局部腐食が生じている平面視矩形の金属片11の解析モデルであり、図3(b)は、図3(a)と総体積が同一である腐食が上面全体に均等に生じている平面視矩形の金属片11の解析モデルである。図3(a)に示すように、長さD×幅D’×厚みdの局部腐食LCが5個生じている場合、腐食の総体積は、5×D×D’×dとなる。一方、図3(b)に示すように、腐食量(腐食減肉量)がΔtである腐食が上面全体に均等に生じている場合、腐食の総体積は、金属片の長さL×金属片の幅W×腐食量Δtとなる。数値解析では、これらの総体積を等しく設定(すなわち、5×D×D’×d=L×W×Δtと設定)した各解析モデルを用いて数値解析を行い、図3(a)の解析モデルについて算出される電気抵抗値が、図3(b)の解析モデルについて算出される電気抵抗値に対して、どの程度の誤差が生じるかを評価した。図3(a)の解析モデルについて算出される電気抵抗値に誤差が無ければ、電気抵抗式の腐食センサ10の原理上、その値は、図3(b)の解析モデルについて算出される電気抵抗値と同一になるはずである。以下、本発明者らが行った数値解析例1、2について、順に説明する。
【0033】
[数値解析例1]
数値解析例1では、図3(a)に示す解析モデルとして、金属片11の長さLを100mm、局部腐食LCの長さDを5mm、局部腐食LCの幅D’を金属片11の幅Wと等しい値、局部腐食LCの個数を5個に固定した条件で、金属片11の幅Wを2mm、4mm、5mmに変化させ、金属片11の初期の厚みtiniを0.1mm、0.5mm、1mm、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm、4mm、5mm、6mmに変化させ、局部腐食LCの深さdを局部腐食LCが金属片11を貫通するまでの種々の値に変化させた条件で、各条件の解析モデルの電気抵抗値Rを数値解析で算出した。電気抵抗値Rを算出する上で、金属片11の体積抵抗率ρとしては、14.2μΩ・cmを用いた。局部腐食LCの長さDを5mmに設定したのは、図1に示す実際の局部腐食の状況を模擬したためである。また、局部腐食LCの幅D’を金属片11の幅Wと等しい値に設定したのは、図1に示す実際の局部腐食の状況を模擬すると、局部腐食LCの幅D’は5mmになるが、金属片11の幅Wが5mm以下であるため、金属片11の幅Wを超える幅D’を設定できないからである。
また、図3(b)に示す解析モデルとして、図3(a)に示す各解析モデルの局部腐食LCの深さdに応じた腐食量Δtを設定した(すなわち、腐食の総体積が図3(a)に示す解析モデルと等しくなるように腐食量Δtを設定した)各解析モデルの電気抵抗値Raveを数値解析で算出した。
なお、図3(a)に示す解析モデルの電気抵抗値Rは、金属片11の長手方向について、局部腐食LCがある部位と、局部腐食LCが無い部位とに分割し、分割領域毎に電気抵抗値を算出して、これらの分割領域が直列に接続されていると考えて算出した。
【0034】
[数値解析例2]
数値解析例2では、図3(a)に示す解析モデルとして、金属片11の長さLを100mm、局部腐食LCの長さDを5mm、局部腐食LCの幅D’を5mm、局部腐食LCの個数を5個に固定した条件で、金属片11の幅Wを6mm、8mm、10mmに変化させた点を除き、数値解析例1と同じ条件で、各条件の解析モデルの電気抵抗値Rを数値解析で算出した。局部腐食LCの幅D’を5mmに設定したのは、図1に示す実際の局部腐食の状況を模擬したためである。
また、数値解析例1と同様に、図3(b)に示す解析モデルとして、図3(a)に示す各解析モデルの局部腐食LCの深さdに応じた腐食量Δtを設定した各解析モデルの電気抵抗値Raveを数値解析で算出した。
【0035】
図4は、数値解析例1の結果と、数値解析例2の結果(金属片11の幅W=6mmの場合)とを示す図である。図4(a)は数値解析例1の結果を、図4(b)は数値解析例2の金属片11の幅W=6mmの場合の結果を示す。図5は、数値解析例2の結果(金属片11の幅W=8、10mmの場合)を示す図である。図5(a)は数値解析例2の金属片11の幅W=8mmの場合の結果を、図5(b)は数値解析例2の金属片11の幅W=10mmの場合の結果を示す。
図4及び図5の横軸は、図3(a)に示す解析モデルの局部腐食LCの深さdである。また、図4及び図5の縦軸は、図3(b)に示す解析モデルの電気抵抗値Rave図3(a)に示す解析モデルの電気抵抗値Rで除算した値である。したがって、縦軸の値が1のときには、図3(a)に示すような局部腐食LCが生じる場合であっても正しく電気抵抗値Rを計測でき(図3(b)に示す解析モデルの電気抵抗値Raveと等しくなり)、その結果、局部腐食LCが生じている場合であっても、金属片11全体の平均的な腐食量を正しく測定できていることになる。
【0036】
図4(a)に示すように、金属片11の幅Wが5mm以下(W=2mm、4mm、5mm)の場合、数値解析の結果は、金属片11の幅Wに関わらず、同一の結果であった。そして、図4及び図5から分かるように、金属片11の幅Wが5mm以下、6mm、8mm、10mmの何れの場合であっても、また、金属片11の初期の厚みtiniが0.1mm、0.5mm、1mm、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm、4mm、5mm、6mmの何れの場合であっても、局部腐食LCの深さdが大きくなればなるほど、Rave/Rの値が小さくなる。しかしながら、金属片11の初期の厚みtiniが大きいと、局部腐食LCの深さdが大きくなっても、Rave/Rの値の低下が少なくなる。
前述のように、図1に示す実際の局部腐食の状況から考えて、局部腐食LCの深さdは最大で1mm程度であるため、図4及び図5に示す局部腐食LCの深さd=1mmのときに、Rave/Rの値が一定以上の大きさであれば、局部腐食LCが生じている場合であっても、精度良く電気抵抗値Rを計測できるといえる。図4及び図5から分かるように、金属片11の初期の厚みtiniが1.5mm以上である場合には、Rave/Rの値が最も小さくなる金属片11の幅Wが5mm以下の場合(図4(a))であっても、Rave/Rの値は0.8以上となり、局部腐食LCが生じている場合であっても、精度良く電気抵抗値Rを計測できることが分かる。特に、金属片11の初期の厚みtiniが2mm以上の場合には、Rave/Rの値が0.91以上となり、金属片11の初期の厚みtiniが3mm以上の場合には、Rave/Rの値が0.97以上、金属片11の初期の厚みtiniが4mm以上の場合には、Rave/Rの値が0.98以上、金属片11の初期の厚みtiniが6mmの場合には、Rave/Rの値が0.99以上となり、十分に精度良く電気抵抗値Rを計測できることが分かる。
【0037】
以上に説明した数値解析の結果に基づき、本発明者らは、モニタリング装置100が具備する金属片11の初期の厚みtiniを1.5mm以上(好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは4mm以上、最も好ましくは6mm以上)に設定することにした。
また、実際の試験によって、数値解析の結果の妥当性を評価した。以下、この試験の概要及び結果について説明する。
【0038】
本試験では、実施例1として、前述の図2(c)に示す金属片11Bと同様に、平面視蛇行状の金属片であって、幅Wが2mmで、初期の厚みtiniが6mmで、図2(c)に示すL1=50mm、L2=50mm、S=2mmである金属片(材質:SM490A、600番研磨)を用いた。
また、実施例2として、実施例1と同様に平面視蛇行状の金属片であって、幅Wが5mmで、図2(c)に示すL1=125mmである点だけが実施例1と異なる金属片を用いた。
また、比較例として、図6に示す平面視形状を有し、初期の厚みtiniが0.2mmである金属片(材質:SM490A、600番研磨)を用いた。
さらに、重量減を測定するための試験片として、前述の図2(a)や図3に示す金属片11と同様に、平面視矩形であって、幅Wが25mmで、長さLが50mmで、初期の厚みtiniが6mmである試験片(材質:SM490A、600番研磨)を複数用いた。
本試験は、試験土壌として、山川産業株式会社製の埋設用乾燥砂「フラタリー40H」(平均粒径(D50):約0.3mm、密度ρs:2.64g/cm)を含水比20%として用い、この試験土壌中に、実施例1、2及び比較例の金属片と、複数の試験片を埋設して行った。試験土壌の温度は約40℃であった。
【0039】
そして、図2に示す腐食モニタリング装置100の金属片として、実施例1、2及び比較例の金属片をそれぞれ用い、試験日数(試験開始からの経過日数)が90日となるまで、演算手段30によって腐食量Δtを逐次算出した。
また、試験日数が39日のときに、試験土壌から一部の試験片を取り出し、初期の試験片に対する重量減を実測した。また、試験日数が90日のときに、試験土壌から残りの試験片を取り出し、初期の試験片に対する重量減を実測した。そして、実測した重量減から腐食量Δtを算出した。
【0040】
図7は、本試験の結果を示す図である。図7に示すように、初期の厚みtiniが6mmである実施例1、2の金属片を用いた場合に演算手段30によって算出された腐食量Δtと、試験片を用いて実測した重量減から算出した「〇」でプロットした腐食量Δtとは、良く近似した値になっていることが分かる。これに対し、初期の厚みtiniが0.2mmである比較例の金属片を用いた場合に演算手段30によって算出される腐食量Δtは、試験後の早期の段階で値が増大し、試験片を用いて実測した重量減から算出した腐食量Δtとは値が大きく異なってしまっていることが分かる。
以上に述べたように、実際の試験によっても、金属片の初期の厚みtiniを1.5mm以上(最も好ましくは、6mm以上)に設定することにより、土中に埋設される金属片の腐食量を長期間に亘って高精度にモニタリング可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0041】
10・・・腐食センサ
11、11A、11B・・・金属片
20・・・電気抵抗計測手段
30・・・演算手段
100・・・腐食モニタリング装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7