(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126599
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】表面処理めっき鋼板及びハットジョイナー
(51)【国際特許分類】
C09D 123/00 20060101AFI20240912BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240912BHJP
C09D 123/08 20060101ALI20240912BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09D123/00
C09D5/02
C09D123/08
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035086
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】松野 雅典
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 靖人
(72)【発明者】
【氏名】武部 直宏
(72)【発明者】
【氏名】原 真純
(72)【発明者】
【氏名】小池 柔大
【テーマコード(参考)】
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4J038CB001
4J038CB062
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA10
4J038PC02
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA11
4K044BA19
4K044BA20
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC00
4K044BC01
4K044BC05
4K044CA11
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】連続ラインにおいて製造可能であり、且つ、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性に優れる表面処理めっき鋼板と、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性に優れるハットジョイナーを提供する。
【解決手段】鋼板111、及び鋼板111の少なくとも一方の表面に設けられためっき層112を有する、めっき鋼板11と、融点が50~85℃であるポリオレフィン(A)及びアイオノマー(B)を、(A)/(B)で表される質量比を0.3~1.0として溶媒に配合した、水系表面処理剤であって、水系表面処理剤の総質量に対するフッ素樹脂の含有量が0.1質量%未満である水系表面処理剤をめっき層112の表面の少なくとも一部に塗布し、めっき鋼板の到達温度を100℃以上にして乾燥してなる皮膜12とを備える、表面処理めっき鋼板10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面にめっき層を有するめっき鋼板と、
融点が50~85℃であるポリオレフィン(A)及びアイオノマー(B)を、前記ポリオレフィン(A)/前記アイオノマー(B)で表される質量比を0.3~1.0として溶媒に配合した、水系表面処理剤であって、前記水系表面処理剤の総質量に対するフッ素樹脂の含有量が0.1質量%未満である前記水系表面処理剤を前記めっき層の表面の少なくとも一部に塗布し、前記めっき鋼板の到達温度を100℃以上にして乾燥してなる皮膜と、
を備える、表面処理めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき鋼板は、Zn-Alめっき鋼板、Zn-Al-Mgめっき鋼板、又はAlめっき鋼板である、請求項1に記載の表面処理めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面処理めっき鋼板を有し、凸条を備えたハットジョイナーであって、
前記皮膜が少なくとも前記凸条の突端面に位置する、ハットジョイナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理めっき鋼板及びハットジョイナーに関する。
【背景技術】
【0002】
ジョイナーは、建物外装における外壁ボード間の目地部に用いられ、外壁ボードを一定間隔に保持する機能を有する。外壁ボード間の目地部には、防水性及び気密性を担保することを目的としてコーキング材が充填される。このとき、目地部に充填されたコーキング材が2枚の外壁ボード間の側端面とジョイナーとに三面接着していると、コーキング材が伸縮しにくくなる。そのため、外壁ボードは外部環境の変化に応じて伸縮したときに、コーキング材が外壁ボードの伸縮に追従することができず、外壁ボードの伸縮による応力がコーキング材に集中し、コーキング材が破断しやすくなる。
【0003】
そのため、コーキング材が隣り合う外壁ボードの側端面とは接着しつつも、ジョイナーとは接着しないようにする、すなわち、二面接着となるようにコーキング施工することが一般的である。
二面接着とする方法として、ジョイナーのコーキング材と接する面に、コーキング材に対して接着性の低い、すなわち、非接着性の皮膜を形成する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、ジョイナーのコーキング材と接する面に、コーキング材との剥離力が所定の範囲に調整された粘着テープを設けたジョイナーが開示されている。特許文献2には、基材上に、特定のフッ素樹脂を含み、コーキング材に対して非接着性の塗膜を設けた塗装板と、この塗装板を加工したジョイナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-188064号公報
【特許文献2】特開2009-62707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、金属板をジョイナーの形状に加工した後、金属板のコーキング材と接する面に粘着テープを貼り付けるため、ジョイナーの製造工程が煩雑となり、製造費用が増大してしまう。
特許文献2に記載の塗装板及びジョイナーは耐候性が低く、屋外等で太陽光に曝されることにより、コーキング材に対する非接着性が低下するという課題がある。
【0006】
本発明は、連続ラインにおいて製造可能であり、且つ、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性に優れる表面処理めっき鋼板と、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性に優れるハットジョイナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 少なくとも一方の表面にめっき層を有するめっき鋼板と、
融点が50~85℃であるポリオレフィン(A)及びアイオノマー(B)を、前記ポリオレフィン(A)/前記アイオノマー(B)で表される質量比を0.3~1.0として溶媒に配合した、水系表面処理剤であって、前記水系表面処理剤の総質量に対するフッ素樹脂の含有量が0.1質量%未満である前記水系表面処理剤を前記めっき層の表面の少なくとも一部に塗布し、前記めっき鋼板の到達温度を100℃以上にして乾燥してなる皮膜と、
を備える、表面処理めっき鋼板。
[2] 前記めっき鋼板は、Zn-Alめっき鋼板、Zn-Al-Mgめっき鋼板、又はAlめっき鋼板である、前記[1]の表面処理めっき鋼板。
[3] 前記[1]又は[2]の表面処理めっき鋼板を有し、凸条を備えたハットジョイナーであって、
前記皮膜が少なくとも前記凸条の突端面に位置する、ハットジョイナー。
[4] 少なくとも一方の表面にめっき層を有するめっき鋼板の前記めっき層の表面の少なくとも一部に水系表面処理剤を塗布し、塗膜を得る塗布工程と、
前記塗膜を乾燥して、前記めっき鋼板の表面に皮膜を形成する乾燥工程とを有し、
前記水系表面処理剤は、融点が50~85℃であるポリオレフィン(A)及びアイオノマー(B)を、前記ポリオレフィン(A)/前記アイオノマー(B)で表される質量比を0.3~1.0として溶媒に配合した組成物であり、前記水系表面処理剤の総質量に対するフッ素樹脂の含有量が0.1質量%未満であり、
前記乾燥工程では、前記めっき鋼板の到達温度を100℃以上にする、表面処理めっき鋼板の製造方法。
[5] 前記めっき鋼板は、Zn-Alめっき鋼板、Zn-Al-Mgめっき鋼板、又はAlめっき鋼板である、前記[4]の表面処理めっき鋼板の製造方法。
[6] 前記[4]又は[5]の表面処理めっき鋼板の製造方法により表面処理めっき鋼板を製造する製造工程と、
前記製造工程により得られた表面処理めっき鋼板を加工して、凸条を備えたハットジョイナーを得る加工工程とを有し、
前記加工工程では、前記皮膜が少なくとも前記凸条の突端面に位置するように前記表面処理めっき鋼板を加工する、ハットジョイナーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、連続ラインにおいて製造可能であり、且つ、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性に優れる表面処理めっき鋼板と、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性に優れるハットジョイナーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の表面処理めっき鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明のハットジョイナーの一実施形態例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明のハットジョイナーを施工した状態の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「表面処理めっき鋼板」
以下、本発明の表面処理めっき鋼板の一実施形態例について説明する。
図1は、本発明の表面処理めっき鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
本実施形態例の表面処理めっき鋼板10は、めっき鋼板11と、めっき鋼板11上に設けられた皮膜12とを具備して構成されている。
本明細書において、表面処理めっき鋼板10の皮膜12側の表面を「表面処理めっき鋼板10の第一の表面10a」ともいい、めっき鋼板11側の表面を「表面処理めっき鋼板10の第二の表面10b」ともいう。
なお、
図1においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
【0011】
<めっき鋼板>
図1に示すめっき鋼板11は、鋼板111と、鋼板111の第一の表面111aに設けられためっき層112とを有する。
本明細書において、鋼板111の第一の表面111aとは反対側の表面を「鋼板111の第二の表面111b」ともいう。すなわち、図示例において、鋼板111の第二の表面111bは表面処理めっき鋼板10の第二の表面10bでもある。
【0012】
鋼板111の第一の表面111aは、めっき層112が形成される前に、水洗、アルカリ脱脂、酸洗、熱処理などの処理が施されていてもよい。
鋼板111の第二の表面111bについても同様に、水洗、アルカリ脱脂、酸洗、熱処理などの処理が施されていてもよい。
【0013】
なお、めっき層は、鋼板の両面に設けられてもよい。すなわち、めっき層112は鋼板111の第一の表面111aと第二の表面111bの両方に設けられてもよい。
【0014】
めっき鋼板11は、特に限定するものではなく、公知のめっき鋼板を使用できる。めっき鋼板11としては、例えば、亜鉛めっき鋼板(Znめっき鋼板)、アルミニウムめっき鋼板(Alめっき鋼板)、亜鉛-アルミニウムめっき鋼板(Zn-Alめっき鋼板)、亜鉛-アルミニウム-マグネシウムめっき鋼板(Zn-Al-Mgめっき鋼板)等を挙げることができる。めっき鋼板11は、Alめっき鋼板、Zn-Alめっき鋼板、Zn-Al-Mgめっき鋼板等の、めっき層にアルミニウムを含むAl系めっき鋼板であってよい。
【0015】
鋼板111に対するめっき層112の付着量(単位面積当たりの重量)は特に限定されないが、100~200g/m2が好ましく、110~160g/m2がより好ましい。
めっき鋼板11の厚さ(板厚)は特に限定されないが、0.2~0.6mmが好ましく、0.27~0.4mmがより好ましい。
【0016】
<皮膜>
図1に示す皮膜12は、めっき層112の表面112aに、以下に示す水系表面処理剤を塗布し、めっき鋼板11の到達温度を100℃以上にして乾燥してなる膜である。
ここで、めっき層112の表面112aとは、めっき層112の鋼板111と接していない側の面のことである。なお、めっき層112は、その表面112a側に、めっき金属素地とは異なる1又は複数の他の層を有していてよく、有していなくてもよい。めっき層112は、当該他の層を、表面112aの全部又は一部に有していてよい。当該他の層は酸化皮膜であってよく、酸化皮膜は一般的なめっき表面にしばしばみられるものである。また、当該他の層は、化成処理薬剤などの表面処理薬剤により形成される表面処理皮膜であってよい。めっき層112の表面112a側にめっき金属素地とは異なる他の層が存在する場合、皮膜12は当該他の層と接する。当該他の層が存在しない場合、表面112aにはめっき金属素地が露出し、皮膜12はめっき金属素地と接する。
また、本明細書において、皮膜12のめっき層112と接していない側の面を「皮膜12の表面12a」ともいう。すなわち、図示例において、皮膜12の表面12aは表面処理めっき鋼板10の第一の表面10aでもある。
【0017】
なお、皮膜12は、水系表面処理剤に含まれる後述のポリオレフィン(A)が溶融した後に固化し、且つ、水系表面処理剤に含まれる後述の溶媒が揮発する過程でポリオレフィン(A)とアイオノマー(B)が混ざり合い形成されるものであるが、ポリオレフィン(A)の溶融は融点以上の温度が必要であり、めっき鋼板11の到達温度に依存するため、ポリオレフィン(A)がどの程度溶融した後に固化したものであるか特定することは困難である。すなわち、皮膜12をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事情(不可能・非実際的事情)が存在する。したがって、皮膜12は「めっき層の表面の少なくとも一部に水系表面処理剤を塗布し、めっき鋼板の到達温度を100℃以上にして乾燥してなる」と規定することがより適切とされる。
【0018】
皮膜12の厚さ(膜厚)は特に限定されないが、めっき層112に対する乾燥後の皮膜12の付着量(単位面積当たりの重量)が、0.1~2.0g/m2となる量が好ましく、0.3~1.0g/m2となる量がより好ましい。
【0019】
(水系表面処理剤)
水系表面処理剤は、ポリオレフィン(A)及びアイオノマー(B)を特定の比率で溶媒に配合した組成物である。水系表面処理剤は、フッ素樹脂を実質的に含まない。
また、水系表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、ポリオレフィン(A)、アイオノマー(B)及び溶媒以外の成分(以下、「任意成分」ともいう。)を含んでいてもよい。
すなわち、皮膜12は、ポリオレフィン(A)とアイオノマー(B)が混ざり合い形成される膜であって、必要に応じて任意成分を含み、フッ素樹脂を実質的に含まない膜である。
【0020】
<<ポリオレフィン(A)>>
ポリオレフィン(A)(以下、「(A)成分」ともいう。)としては、オレフィン類の重合物、ポリオレフィンワックス、ポリオレフィンワックスを変性した変性ポリオレフィンワックスなどが挙げられる。
これら(A)成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
オレフィン類としては、例えばエチレン、プロピレン、イソプレン、α-ブテン等のアルケンなどが挙げられる。これらオレフィン類は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
オレフィン類の重合物は、オレフィン類をラジカル重合、カチオン重合等の公知の重合反応により重合することで得られる。このとき、オレフィン類と共重合可能な単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)を併用してもよい。すなわち、オレフィン類の重合物は、オレフィン類と他の単量体との共重合物であってもよい。
他の単量体としては、分子内に二重結合を有する酸無水物やカルボン酸などが挙げられる。他の単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物などが挙げられる。これら他の単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
【0022】
ポリオレフィンワックスとしては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックスなどが挙げられる。これらポリオレフィンワックスは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
変性ポリオレフィンワックスとしては、例えばポリオレフィンワックスを不飽和カルボン酸又はその酸無水物等により酸変性して得られる酸変性ポリオレフィンワックス、ポリオレフィンワックスを酸化処理して得られる酸化ポリオレフィンワックスなどが挙げられる。これら変性ポリオレフィンワックスは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオレフィンワックスの酸変性に用いられる不飽和カルボン酸又はその酸無水物としては、上述した他の単量体の説明において先に例示したものが挙げられる。
【0023】
(A)成分の融点は、50~85℃である。
本発明において、「融点」とは、融点測定装置を用いて試料を1℃/minの条件で昇温し、固体が全て融解した時点での温度である。
【0024】
(A)成分は、水等の溶媒に分散させた状態で用いてもよい。(A)成分を溶媒に分散させる際には、乳化剤を用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0025】
<<アイオノマー(B)>>
アイオノマー(B)(以下、「(B)成分」ともいう。)は、エチレン-メタクリル酸共重合体やエチレン-アクリル酸共重合体などの共重合体の分子間が、ナトリウム、亜鉛等の金属イオンによりイオン架橋結合した構造を持つ樹脂である。
【0026】
(B)成分のビカット軟化点としては特に限定されないが、50~75℃が好ましく、50~60℃がより好ましい。「ビカット軟化点」とは、JIS K 6740-2:1999に準拠した値である。
(B)成分の引張破壊ひずみとしては特に限定されないが、300~460%が好ましく、360~460%がより好ましい。「引張破壊ひずみ」とは、JIS K 7161-2:2014に準拠した値である。
【0027】
(B)成分は、公知の方法で製造できる。また、(B)成分は、水等の溶媒に分散させた状態で用いてもよい。(B)成分を溶媒に分散させる際には、乳化剤を用いてもよいし、用いなくてもよい。
(B)成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
ポリオレフィン(A)及びアイオノマー(B)は、ポリオレフィン(A)/アイオノマー(B)で表される質量比(以下、「A/B比」ともいう。)を0.3~1.0として溶媒に配合される。
【0029】
水系表面処理剤の総質量に対するポリオレフィン(A)及びアイオノマー(B)の合計量(以下、「A+B量」ともいう。)は、1~40質量%が好ましく、3~25質量%がより好ましい。A+B量が上記範囲内であれば、めっき層112の表面112aに水系表面処理剤を塗布しやすく、また、皮膜12を所望の膜厚とすることが容易となる。
皮膜12の総質量に対するA+B量は、40~100質量%が好ましく、60~100質量%がより好ましく、80~100質量%がさらに好ましい。
【0030】
<<溶媒>>
溶媒としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類などが挙げられる。これら溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、(A)成分又は(B)成分として溶媒に分散した状態のものを用いる場合、(A)成分又は(B)成分を分散している溶媒も、水系表面処理剤に含まれる溶媒とみなす。
【0031】
溶媒としては、水が好ましい。
溶媒の総質量に対する水の含有量は、70~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。溶媒中の水の含有量が多いほど、環境負荷を軽減できる。
水系表面処理剤の総質量に対する溶媒の含有量は、60~99質量%が好ましく、75~97質量%がより好ましい。
【0032】
<<任意成分>>
任意成分としては、防錆性付与剤、界面活性剤、pH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ成分、有機酸、無機酸等の酸成分)、消泡剤、レベリング剤、架橋剤、可塑剤などが挙げられる。
これら任意成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
防錆性付与剤としては、Si、Zr、Hf、Ti、Snを含む化合物などが挙げられる。
Siを含む化合物(以下、「珪素化合物」ともいう。)としては特に限定されないが、例えば液相シリカ、気相シリカ、フュームドシリカ、アルミ修飾シリカ等のシリカ;水ガラスに代表される珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム等の珪酸塩;四塩化珪素;シランカップリング剤などが挙げられる。
これら珪素化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
Zrを含む化合物(以下、「ジルコニウム化合物」ともいう。)としては特に限定されないが、例えばジルコニウム原子を含む炭酸塩、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物などが挙げられる。より具体的には、塩基性炭酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH4)2[Zr(OH)2(CO3)2])、酸化ジルコニウム(IV)(ジルコニア)、炭酸ジルコニウムカリウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル(ZrO(NO3)2)、硫酸ジルコニウム(IV)、硫酸ジルコニル、オキシリン酸ジルコニウム、ピロリン酸ジルコニウム、リン酸二水素ジルコニル、フッ化ジルコニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸(H2ZrF6)、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム((NH4)2ZrF6)、ジルコニウムアセチルアセトネート(Zr[OC(CH3)CHCO(CH3)]4)、酢酸ジルコニル、塩化ジルコニウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムヘキサフルオロアセチルアセトナートなどが挙げられる。
これらジルコニウム化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
Hfを含む化合物(以下、「ハフニウム化合物」ともいう。)としては特に限定されないが、例えば酸化ハフニウム、ヘキサフルオロハフニウム水素酸などが挙げられる。
これらハフニウム化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
Tiを含む化合物(以下、「チタン化合物」ともいう。)としては特に限定されないが、例えばチタン原子を含む炭酸塩、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物などが挙げられる。より具体的には、硝酸チタン、酸化チタン(IV)(チタニア)、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、チタン酸ナトリウム、チタンエトキシド、硫酸チタニル(TiOSO4)、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、ヘキサフルオロチタン酸(H2TiF6)、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)、チタンラウレート、チタンアセチルアセトネート(Ti[OC(CH3)CHCO(CH3)]4)などが挙げられる。
これらチタン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
Snを含む化合物(以下、「スズ化合物」ともいう。)としては特に限定されないが、例えば酸化スズ(IV)、スズ酸ナトリウム(Na2SnO3)、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、硝酸スズ(II)、硝酸スズ(IV)、ヘキサフルオロスズ酸アンモニウム((NH4)2SnF6)などが挙げられる。
これらスズ化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
これら防錆性付与剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
皮膜12の総質量に対する防錆性付与剤の含有量は、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
なお、皮膜12の総質量に対する防錆性付与剤の含有量は、Si、Zr、Hf、Ti又はSn換算量である。
【0039】
<<フッ素樹脂>>
水系表面処理剤は、フッ素樹脂を実質的に含まない。
本発明において、「実質的に含まない」とは、意図せずして含有するものを除き、積極的に配合しないことを意味する。具体的には、水系表面処理剤の総質量に対するフッ素樹脂の含有量は、0.1質量%未満であり、0.01質量%未満が好ましい。
また、皮膜12は、フッ素樹脂を実質的に含まない。具体的には、皮膜12の総質量に対するフッ素樹脂の含有量は、0.1質量%未満であり、0.01質量%未満が好ましい。
フッ素樹脂としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などが挙げられる。
【0040】
<<物性等>>
水系表面処理剤の25℃におけるpHは、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に制限されるものではないが、6~11が好ましく、8~11がより好ましい。
水系表面処理剤の温度は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に制限されるものではないが、ポリオレフィン(A)の融点を超えないことが好ましい。
【0041】
<<製造方法>>
水系表面処理剤は、溶媒に特定の比率の(A)成分及び(B)成分と、必要に応じて任意成分とを添加し、撹拌することにより調製することができる。
【0042】
<表面処理めっき鋼板の製造方法>
次に、表面処理めっき鋼板10の製造方法の一例について説明する。なお、表面処理めっき鋼板10の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
本実施形態の表面処理めっき鋼板10の製造方法は、以下に示す塗布工程と、乾燥工程とを有する。また、塗布工程に先立ち、以下に示す前処理工程をさらに有していてもよい。
【0043】
(前処理工程)
前処理工程は、水系表面処理剤を塗布する前のめっき鋼板11を前処理する工程である。
めっき鋼板11の前処理としては、例えば水洗処理、アルカリ脱脂処理などが挙げられる。
これら前処理は単独で行われてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
(塗布工程)
塗布工程は、めっき鋼板11のめっき層112の表面112aに、上述した水系表面処理剤を塗布し、塗膜を得る工程である。
水系表面処理剤の塗布方法としては特に限定されないが、例えばロールコート、カーテンフローコート、エアスプレー、エアレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどが挙げられる。
水系表面処理剤の塗布は限定されないが、めっき層112に対する乾燥後の皮膜12の付着量(単位面積当たりの重量)が、0.1~2.0g/m2となる量が好ましく、0.3~0.6g/m2となる量がより好ましい。
【0045】
(乾燥工程)
乾燥工程は、塗布工程で得られた、めっき層112の表面112a上に形成された塗膜を乾燥して、めっき層112の表面112aに皮膜12を形成する工程である。
これにより、(A)成分と(B)成分とが配合された皮膜12が、めっき層112の表面112aに設けられた表面処理めっき鋼板10が得られる。
塗膜の乾燥方法としては特に限定されないが、例えば熱風乾燥、誘導加熱などが挙げられる。
【0046】
乾燥工程では、めっき鋼板11の到達温度を100℃以上にする。すなわち、皮膜12は、めっき層112の表面112a上に形成された塗膜を乾燥してなるものであるが、このときのめっき鋼板11の到達温度が100℃以上である。
塗膜を乾燥していくと、塗膜中の(A)成分が溶融するとともに、塗膜中の溶媒が揮発する。この溶融した(A)成分が、乾燥工程後、(A)成分の融点より低い温度に冷却され固化することで成膜され、めっき層112の表面112aに接着した皮膜12が得られる。すなわち、皮膜12は、めっき層112の表面112aに溶融接着してなる膜である。
めっき鋼板11の到達温度が上記下限値以上であれば、塗膜中の(A)成分が十分に溶融した後に固化するので、皮膜が十分に成膜される。
乾燥工程におけるめっき鋼板11の到達温度の上限値は特に限定されないが、通常、めっき鋼板11の到達温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
めっき鋼板11の到達温度は本発明を実施する環境等に応じて任意の方法で測定できるが、例えば非接触の温度計や示温材(例えば、日油技研工業株式会社製、商品名「サーモラベル」等)によって測定することができる。
【0047】
<作用効果>
以上説明した本実施形態の表面処理めっき鋼板10は、めっき鋼板11のめっき層112の表面に上述した皮膜12が設けられている。皮膜12は、コーキング材に対して非接着性を有する膜であるが、耐候性にも優れることから、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性を良好に維持できる。加えて、皮膜12は耐アブレージョン性にも優れるため、摩擦によって剥離しにくい。よって、本実施形態の表面処理めっき鋼板10は、CGL(Continuous Galvanizing Line:連続溶融亜鉛めっきライン)やCCL(Color Coating Line:連続塗装ライン)などの連続ラインにおいてプレコート方式で製造可能であり、安価に製造できる。
このように、本実施形態の表面処理めっき鋼板10は、連続ラインにおいて製造可能であり、且つ、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性に優れる。
なお、本明細書において、「耐アブレージョン性」とは、製造段階や輸送段階等において、擦れにより発生し得る摩耗傷に対する耐性や、皮膜12の剥離耐性を示す。特に表面処理めっき鋼板10を連続ラインで製造する場合、表面処理めっき鋼板10がロールやガイド等と接触する機会が多い。皮膜12の耐アブレージョン性が高いほど、皮膜12がロールやガイド等と接触することで擦れても皮膜12が剥離しにくく、連続ラインでの表面処理めっき鋼板10の製造に適している。
【0048】
<他の実施形態>
本発明の表面処理めっき鋼板は、上述したものに限定されない。例えば、上述した実施形態例では、めっき鋼板11のめっき層112は鋼板111の第一の表面111aのみに設けられているが、めっき層112は鋼板111の両面に設けられていてもよい。すなわち、めっき層112は、鋼板111の第二の表面111bにも設けられていてもよい。この場合、第二の表面111bに設けられためっき層(図示略)の表面には、先に例示した皮膜が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。
また、上述した実施形態例では、皮膜12は、めっき層112の表面112aの全面に設けられているが、皮膜12は、めっき層112の表面112aの一部に設けられていてもよい。
【0049】
<用途>
本発明の表面処理めっき鋼板は、建物外装における外壁ボード間の目地部に用いられるジョイナー、特にハットジョイナーの鋼材として好適に使用される。
【0050】
「ハットジョイナー」
以下、本発明の表面処理めっき鋼板を用いたハットジョイナーの一実施形態例について説明する。
図2は、本発明のハットジョイナーの一実施形態例を模式的に示す斜視図である。
図3は、本発明のハットジョイナーを施工した状態の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
なお、
図2、3においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。また、
図2、3において、
図1と同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0051】
本実施形態例のハットジョイナー20は、上述した表面処理めっき鋼板10をハット形状に加工したものである。
ハットジョイナー20は、面方向に対して垂直方向に突出する凸条21と、凸条21の両端から水平方向に突設されたつば部22とを備える。なお、「つば部」は「固定部」ともいう。
表面処理めっき鋼板10の皮膜は、少なくとも凸条21の突端面21aに位置する。
【0052】
<ハットジョイナーの製造方法>
本実施形態のハットジョイナー20の製造方法は特に限定されないが、例えば以下に示す製造工程と、加工工程とを有する。なお、ハットジョイナー20の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
製造工程は、上述した表面処理めっき鋼板10の製造方法により表面処理めっき鋼板10を製造する工程である。
製造工程は、上述した表面処理めっき鋼板10の製造方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0053】
加工工程は、製造工程により得られた表面処理めっき鋼板10を加工して、凸条21を備えたハットジョイナー20を得る工程である。
加工工程では、表面処理めっき鋼板10の皮膜が、少なくとも凸条21の突端面21aに位置するように、表面処理めっき鋼板10を加工する。具体的には、表面処理めっき鋼板10の皮膜12の表面12a、すなわち表面処理めっき鋼板10の第一の表面10aが外側になるようにして、表面処理めっき鋼板10をハット状に加工する。
ここで、「外側」とは、ハットジョイナー20の外面、すなわち外壁ボードと接する側である。
表面処理めっき鋼板10の加工方法としては特に限定されないが、例えばプレス加工などが挙げられる。
【0054】
<ハットジョイナーの施工>
本実施形態のハットジョイナー20を用いたコーキング施工方法は特に限定されないが、例えば以下に説明する方法で施工できる。なお、コーキング施工方法は以下の例に限定されるものではない。
まず、ハットジョイナー20を外壁の下地に配置し、つば部22をビスなどの固定具で下地に固定する。このとき、ハットジョイナー20を構成する表面処理めっき鋼板10の第二の表面10bが外壁の下地と接するように、ハットジョイナー20を配置する。
次いで、
図3に示すように、ハットジョイナー20の両側に外壁ボード30を配置し、外壁ボード30をつば部22にビスなどの固定具で固定する。このとき、外壁ボード30の背面30aがハットジョイナー20の外面、すなわち、表面処理めっき鋼板10の第一の表面10aに当接するように、外壁ボード30を配置する。
このようにハットジョイナー20を介して2枚の外壁ボード30を配置することで、ハットジョイナー20の凸条21の突端面21aと外壁ボード30の側端面30bとで目地部が形成される。この目地部にコーキング材40を充填することで、防水性及び気密性を担保する。
コーキング材40としては特に限定されないが、例えばウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
なお、施工前に、少なくとも凸条21の突端面21aにコーキング材用のプライマーを塗布し、乾燥させてプライマー層(図示略)を形成しておいてもよい。
【0055】
凸条21の突端面21aには、表面処理めっき鋼板10の皮膜12が位置していることから、凸条21の突端面21aはコーキング材40に対して非接着性である。よって、コーキング材40は2枚の外壁ボード30の側端面30bで接着しているが、凸条21の突端面21aとは接着しにくく、2枚の外壁ボード30間で二面接着している。
したがって、外壁ボード30が外部環境の変化に応じて伸縮したときに、外壁ボード30の伸縮に対してコーキング材40が伸縮して追従できるため、コーキング材40の破断を抑制できる。
【0056】
<作用効果>
以上説明した本実施形態のハットジョイナー20は、本発明の表面処理めっき鋼板10を加工してなるものであるため、太陽光に曝された場合であっても優れた非接着性を有する。しかも、本実施形態のハットジョイナー20を用いれば、二面接着でコーキング施工できる。
また、本実施形態のハットジョイナー20は、凸条21の突端面21aがコーキング材40に対して非接着性であるため、突端面21aにコーキング材40との剥離力が調整された粘着テープ等を貼り付ける必要がない。加えて、表面処理めっき鋼板10は連続ラインにおいて製造可能である。そのため、本発明であれば、太陽光に曝された場合であっても優れた非接着性を有するハットジョイナーを低コストで製造できる。
【0057】
<他の実施形態>
本発明のハットジョイナーは、上述したものに限定されない。例えば、上述した実施形態例のハットジョイナー20は、皮膜12がめっき層の表面の全面に設けられている表面処理めっき鋼板10を加工してなるものである。そのため、皮膜12は凸条21の突端面21aに加えて、つば部22の表面にも位置しているが、皮膜12は少なくとも凸条21の突端面21aに位置していればよく、凸条21の突端面21aのみに位置していてもよい。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
「材料」
<(A)成分又はその代替品>
(A)成分又はその代替品((A’)成分)として、以下に示す化合物を用いた。
・A-1:ポリオレフィン(融点80℃)。
・A-2:ポリオレフィン(融点53℃)。
・A-3:ポリオレフィン(融点72℃)。
・A’-4:ポリオレフィン(融点115℃)。
・A’-5:ポリオレフィン(融点123℃)。
・A’-6:ポリオレフィン(融点128℃)。
【0060】
<(B)成分又はその代替品>
(B)成分又はその代替品((B’)成分)として、以下に示す化合物を用いた。
・B-1:アイオノマーエマルション(エチレン-メタクリル酸共重合体の分子間がナトリウムイオンによりイオン架橋結合した構造を持つ樹脂のエマルション)。
・B’-2:アクリルエマルション。
・B’-3:ウレタンエマルション。
【0061】
<任意成分>
任意成分として、炭酸ジルコニウムアンモニウムを用いた。
【0062】
「測定・評価」
<非接着性の評価>
作製直後の表面処理めっき鋼板と、屋外暴露後の表面処理めっき鋼板について、以下のようにして非接着性の評価を行った。
屋外曝露の条件としては、JIS Z 2381:2017に準拠して、暴露角度を35°とし、設置方向を南向きにして、30日間、屋外に暴露した。
次いで、それぞれの表面処理めっき鋼板の皮膜の表面に、コーキング材用のプライマー(ニチハ株式会社製、商品名「FCP44」)を刷毛にて塗布し、常温にて60分間乾燥させ、プライマー層を形成した。その後、プライマー層の表面に変性シリコーン系コーキング材(ニチハ株式会社製、商品名「FCT5232C」)を塗布し、40℃で1週間静置することでコーキング材を乾燥させ、試験片を作製した。
得られた試験片について、乾燥させたコーキング材を表面処理めっき鋼板から手で引き剥がし、容易に剥がれたものを「〇」、剥がれなかったものを「×」とした。
【0063】
<耐アブレージョン性の評価>
CGLやCCLなどの連続ラインで製造可否を判断する手法として、以下のようにして耐アブレージョン性の評価を行った。
熱風乾燥炉から取り出して3秒経過した後の表面処理めっき鋼板の皮膜側の表面を紙ワイパー(日本製紙クレシア株式会社製、商品名「キムタオル」)で擦り、外観に変化がなかったものを「〇」、皮膜が剥離したものを「×」とした。
【0064】
「実施例1~36、比較例1~9」
<水系表面処理剤の調製>
実施例1~30、比較例1~9では、溶媒である水に、表1~3に示すA/B比で、(A)成分又は(A’)成分と、(B)成分又は(B’)成分とを添加し、撹拌して水系表面処理剤を調製した。
なお、水系表面処理剤の総質量に対する、(A)成分又は(A’)成分と、(B)成分又は(B’)成分との合計量は、20質量%であった。
【0065】
実施例31~36では、溶媒である水に、表2に示すA/B比で、(A)成分と、(B)成分とを添加した。さらに、皮膜の総質量に対する任意成分の含有量が表2に示す値となるように任意成分を添加し、撹拌して水系表面処理剤を調製した。
なお、皮膜の総質量に対する任意成分の含有量は、Zr換算量である。
また、水系表面処理剤の総質量に対する、(A)成分と、(B)成分の合計量は、20質量%であった。
【0066】
<表面処理めっき鋼板の作製>
めっき鋼板として、鋼板の両面にZn-Al-Mgめっき層を有するZn-Al-Mgめっき鋼板(板厚0.3mm、片面当たりのめっき層の付着量60g/m2)を用いた。
アルカリ脱脂剤(日本パーカライジング株式会社製、商品名「ファインクリーナーE6408」)を濃度20g/L、温度60℃の水溶液とし、この水溶液にめっき鋼板を10秒間浸漬し、純水で水洗した後、乾燥し、めっき鋼板を前処理した。
前処理後のめっき鋼板の一方の表面(片面)、すなわちめっき層の表面に、先に調製した水系表面処理剤を25℃の室温下でバーコート法にて塗布した後、熱風乾燥炉中において、めっき鋼板に貼り付けたサーモラベル(日油技研工業株式会社製、商品名「サーモラベル」)で確認されるめっき鋼板の到達温度が表1~3に示す値になるまで乾燥することにより、めっき層の表面に皮膜が形成された表面処理めっき鋼板を得た。めっき層に対する乾燥後の皮膜の付着量は、0.5g/m2であった。
得られた表面処理めっき鋼板を用いて、非接着性及び耐アブレージョン性の評価を行った。結果を表1~3に示す。
なお、実施例1~30及び比較例1~9の場合、皮膜の総質量に対する(A)成分又は(A’)成分と(B)成分又は(B’)成分の合計量は100質量%であった。
実施例31、33、35の場合、皮膜の総質量に対する(A)成分と(B)成分の合計量は98質量%であった。
実施例32、34、36の場合、皮膜の総質量に対する(A)成分と(B)成分の合計量は90質量%であった。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表1~3中、「A/B比」は、(A)成分/(B)成分で表される質量比(配合比)である。ただし、(A)成分の代わりに(A’)成分を用いた場合は(A’)成分/(B)成分で表される質量比とし、(B)成分の代わりに(B’)成分を用いた場合は(A)成分/(B’)成分で表される質量比とする。なお、表中の空欄は、その成分が配合されていないことを意味する。
【0071】
各実施例で得られた表面処理めっき鋼板は、太陽光に曝されてもコーキング材に対する非接着性に優れていた。また、各実施例で得られた表面処理めっき鋼板は、耐アブレージョン性にも優れており、連続ラインにおいて製造可能であることが示された。
一方、A/B比が0.3未満である比較例1で得られた表面処理めっき鋼板は、コーキング材に対する非接着性に劣り、屋外暴露後の非接着性にも劣っていた。
A/B比が1.0超である比較例2で得られた表面処理めっき鋼板は、耐アブレージョン性に劣っていた。
融点が85℃を超えるポリオレフィンを用いた比較例3~5の表面処理めっき鋼板は、コーキング材に対する非接着性に劣り、屋外暴露後の非接着性にも劣っていた。
アイオノマーの代わりにアクリルエマルション又はウレタンエマルションを用いた比較例6、7の表面処理めっき鋼板は、屋外暴露後の非接着性に劣っていた。また、耐アブレージョン性にも劣っていた。
めっき鋼板の到達温度を100℃未満とした比較例8、9の表面処理めっき鋼板は、コーキング材に対する非接着性に劣り、屋外暴露後の非接着性にも劣っていた。また、耐アブレージョン性にも劣っていた。
本発明の表面処理めっき鋼板は、CGLやCCLなどの連続ラインにおいてプレコート方式で製造することが可能であるため、安価に非接着性を有する表面処理めっき鋼板を製造できる。また、得られた表面処理めっき鋼板は、太陽光に曝された場合であっても表面処理皮膜の非接着性を維持することができるため、例えば外壁ボード間の目地部に用いるジョイナーとして有用である。