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特開2024-126638非水系電解液及び該非水系電解液を含む非水系電解液電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126638
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】非水系電解液及び該非水系電解液を含む非水系電解液電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240912BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/36 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035165
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深水 浩二
(72)【発明者】
【氏名】川上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 泰樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非水系電解液電池における過充電状態となった際の安全性を保ちつつ、通常使用状態での電流遮断弁等の保護素子の誤作動を抑制し、放電電力容量の低下を改善することができる非水系電解液、及び該非水系電解液を用いた非水系電解液電池を提供する。
【解決手段】電解質と、一般式(A)で表される化合物と、非水系溶媒とを含有する非水系電解液電池用の非水系電解液。

(一般式(A)中、Anは2以上5以下の整数を表す。RAXはヒドロキシ基若しくはアルコキシ基であり、RAYは水素原子若しくはアルキル基であり、又はRAXとRAYは単結合により環状構造を形成する。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、一般式(A)で表される化合物と、非水系溶媒とを含有する非水系電解液電池用の非水系電解液。
【化1】

(一般式(A)中、Anは2以上5以下の整数を表す。RAXはヒドロキシ基若しくはアルコキシ基であり、RAYは水素原子若しくはアルキル基であり、又はRAXとRAYは単結合により環状構造を形成する。)
【請求項2】
更に一般式(1)で表される環状硫酸エステル及び一般式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する、請求項1に記載の非水系電解液。
【化2】

(一般式(1)中、Rは以下の部分構造(1-1)及び部分構造(1-2)からなる群から選ばれる少なくとも一種を示す。)
【化3】

(部分構造(1-1)及び部分構造(1-2)中、nはそれぞれ独立して0以上10以下の整数である。*は結合手を示し、一般式(1)中のRに隣接するO又は他の*と結合する。)
【化4】

(一般式(2)中、R21~R26はそれぞれ独立して、H又はOPFを示し、R21~R26の少なくとも1つはOPFである。mは1以上10以下の整数である。mが2以上10以下の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。)
【請求項3】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を有する正極、負極、及び請求項1又は2に記載の非水系電解液を備えた非水系電解液電池。
【請求項4】
前記負極が、負極活物質として、Liと合金化可能な金属元素及び/又はLiと合金化可能な半金属元素を含有する材料と、炭素系材料とを含有する、請求項3に記載の非水系電解液電池。
【請求項5】
前記負極が、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子と黒鉛粒子との混合物を含有し、前記Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子と前記黒鉛粒子との合計に対する、前記Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子の割合が、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項4に記載の非水系電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及び該非水系電解液を含む非水系電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の電源から自動車用等の駆動用車載電源まで広範な用途に、リチウム二次電池等の非水系電解液電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の非水系電解液電池に対する高性能化の要求はますます高くなっており、特に、高容量、低温使用特性、高温保存特性、サイクル特性、過充電時安全性等の種々の電池特性の改善が要望されている。
これまで、非水系電解液二次電池の低温使用特性やサイクル特性を改善するための手段として、正極や負極の活物質や、非水系電解液を始めとする様々な電池の構成要素について、数多くの技術が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)を含有する非水系電解液が開示されている。しかしながら、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)は、過充電状態となった際の安全性と放電電力容量が不十分という問題があった。
また、特許文献2には、1,2-ビス((ジフルオロホスファニル)-オキシ)エタンを含有する非水系電解液が開示されている。しかしながら、1,2-ビス((ジフルオロホスファニル)-オキシ)エタンは、過充電状態となった際の安全性と放電電力容量が不十分という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020―173998号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0379086号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電池に対する高性能化への要求は、ますます高くなっており、電池容量を高い次元で達成することが求められている。
非水系電解液電池を高容量化する方法として、限られた電池体積の中にできるだけ多くの電極活物質を詰めることが検討されている。例えば、電極の活物質層を加圧して高密度化する方法や、電池内部の活物質以外の占める体積(例えば電解液量)を極力少なくする設計等が行われている。しかし、高容量化によって電池内部の空隙が減少することにより、電解液の分解で少量でもガスが発生した場合、電池内圧が顕著に上昇するという問題も発生する。
特に、非水系電解液二次電池において、停電時のバックアップ電源や、ポータブル機器の電源として用いる場合の殆どは、電池の自己放電を補うために常に微弱電流を供給して、絶えず充電状態にしている。こうした連続充電状態では、電極活物質の活性が常に高い状態であるため、機器の発熱により、電池の容量低下が促進され、電解液が分解してガスが発生しやすくなる。一般的な電池では、過充電等の異常により内圧が異常に上昇した場合、これを感知して電流遮断弁を作動させるが、連続充電状態で多量のガスが発生すると、本来過充電等の異常時に作動すべき電流遮断弁が誤作動し、電池が使用できなくなることがある。過充電状態となった際の安全性を保ちつつ、電流遮断弁の誤作動を少なくするには、過充電等の異常時に上昇する内圧と、連続充電状態の際に上昇する内圧の圧力差を広げることが必要である。
また、電池を高容量化するとリチウムイオンの流れる正・負極の隙間が狭くなるため、抵抗が高くなり、放電電力容量が低下するという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、非水系電解液電池における過充電状態となった際の安全性を保ちつつ、通常使用状態での電流遮断弁等の保護素子の誤作動を抑制し、放電電力容量の低下を改善することができる非水系電解液、及び該非水系電解液を用いた非水系電解液電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、一般式(A)で表される化合物を含有することにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、以下の[1]~[5]に存する。
[1] 電解質と、一般式(A)で表される化合物と、非水系溶媒とを含有する非水系電解液電池用の非水系電解液。
【化1】

(一般式(A)中、Anは2以上5以下の整数を表す。RAXはヒドロキシ基若しくはアルコキシ基であり、RAYは水素原子若しくはアルキル基であり、又はRAXとRAYは単結合により環状構造を形成する。)
[2] 更に一般式(1)で表される環状硫酸エステル及び一般式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有する、[1]に記載の非水系電解液。
【化2】

(一般式(1)中、Rは以下の部分構造(1-1)及び部分構造(1-2)からなる群から選ばれる少なくとも一種を示す。)
【化3】

(部分構造(1-1)及び部分構造(1-2)中、nはそれぞれ独立して0以上10以下の整数である。*は結合手を示し、一般式(1)中のRに隣接するO又は他の*と結合する。)
【化4】

(一般式(2)中、R21~R26はそれぞれ独立して、H又はOPFを示し、R21~R26の少なくとも1つはOPFである。mは1以上10以下の整数である。mが2以上10以下の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。)
[3] リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を有する正極、負極、及び[1]又は[2]に記載の非水系電解液を備えた非水系電解液電池。
[4] 前記負極が、負極活物質として、Liと合金化可能な金属元素及び/又はLiと合金化可能な半金属元素を含有する材料と、炭素系材料とを含有する、[3]に記載の非水系電解液電池。
[5] 前記負極が、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子と黒鉛粒子との混合物を含有し、前記Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子と前記黒鉛粒子との合計に対する、前記Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子の割合が、0.1質量%以上10質量%以下である、[4]に記載の非水系電解液電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非水系電解液電池における過充電状態となった際の安全性を保ちつつ、通常使用状態での電流遮断弁等の保護素子の誤作動を抑制し、放電電力容量の低下を改善することができる。また、当該非水系電解液を備えた非水系電解液電池を提供できる。
【0010】
本発明の構成を有する非水系電解液が、このような優れた効果を奏する理由について、本発明者は以下のように推測する。即ち、一般式(A)で表される化合物は電池電圧として4.2V~4.4V付近では酸化分解されないため、通常使用状態では酸化分解に由来するガス発生量は多くない。一方、過充電状態となった際には一般式(A)で表される化合物は正極において酸化分解され硫酸を発生させる。生じた硫酸は触媒的にカーボネート等電解液成分を分解し、COを生じる。その結果、過充電状態となった際のガス発生量が増加することで電流遮断弁等の保護素子を作動すると考えられる。一方、本発明の構成を有する非水系電解液は、通常使用状態でのガス発生量は多くないため、過充電等の異常時に上昇する内圧と、連続充電状態の際に上昇する内圧の圧力差を広げることができ、過充電状態となった際の安全性を保ちつつ、通常使用状態での電流遮断弁等の保護素子の誤作動を抑制すると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明は本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0012】
[1.非水系電解液]
本発明の非水系電解液は、電解質と、一般式(A)で表される化合物と、非水系溶媒とを含有する非水系電解液電池用の非水系電解液である。
【0013】
[1-1.一般式(A)で表される化合物]
以下に一般式(A)で表される化合物について説明する。
【0014】
【化5】
【0015】
一般式(A)中、Anは2以上5以下の整数を表す。RAXはヒドロキシ基若しくはアルコキシ基であり、RAYは水素原子若しくはアルキル基であるか、又はRAXとRAYは単結合により環状構造を形成する。
正極界面抵抗及び負極界面抵抗の上昇を抑えやすくする観点から、好ましくはAnは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2である。
AXで表されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基及びエトキシ基が挙げられる。また、RAYで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基及びエチル基が挙げられる。
非水系電解液電池が過充電状態となった際に、一般式(A)で表される化合物による過充電ガスを増加させる観点から、一般式(A)で表される化合物は、RAXとRAYは単結合により環状構造を形成することが好ましい。
【0016】
一般式(A)で表される化合物として具体的には以下の式(A-1)~(A-10)で表される化合物が挙げられる。
【0017】
【化6】
【0018】
中でも、正極界面抵抗及び負極界面抵抗の上昇を抑える観点から下記式(A-9)で表される化合物が好ましい。
【化7】
【0019】
また、本発明の非水系電解液に対する一般式(A)で表される化合物の含有量に制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、一般式(A)で表される化合物を添加剤として使用する場合は本発明の非水系電解液に対して、通常0.0001質量%以上、好ましくは0.0002質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上、また、通常3質量%未満、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下の濃度で含有させることが好ましい。含有量を上記範囲内とすることにより、一般式(A)で表される化合物による正極界面抵抗及び負極界面抵抗の上昇が抑えられやすくなる。
非水系電解液中の上記一般式(A)で表される化合物の同定、及び含有量の測定方法は核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて行う。
【0020】
本発明の非水系電解液は、電解質と、一般式(A)で表される化合物と、非水系溶媒に加えて、更に一般式(1)で表される環状硫酸エステル及び一般式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有してもよい。
【0021】
[1-1-2.一般式(1)で表される環状硫酸エステル]
以下に一般式(1)で表される環状硫酸エステルについて説明する。
【0022】
【化8】
【0023】
一般式(1)中、Rは以下の部分構造(1-1)及び部分構造(1-2)からなる群から選ばれる少なくとも一種を示す。
【0024】
【化9】
【0025】
部分構造(1-1)及び部分構造(1-2)中、nはそれぞれ独立して0以上10以下の整数である。*は結合手を示し、一般式(1)中のRに隣接するO又は他の*と結合する。部分構造(1-1)及び部分構造(1-2)はそれぞれ同一のものを複数用いてもよい。
【0026】
一般式(1)で表される環状硫酸エステルとして具体的には以下の式(1-1-1)で表される環状硫酸エステル及び式(1-2-1)~(1-2-5)のいずれかで表される環状硫酸エステルが挙げられる。
【0027】
【化10】
【0028】
中でも、正極界面抵抗及び負極界面抵抗の上昇を抑える観点から下記式(1-1-1)で表される環状硫酸エステル、式(1-2-4)で表される環状硫酸エステル、及び式(1-2-5)で表される環状硫酸エステルが好ましい。
【0029】
【化11】
【0030】
一般式(1)で表される環状硫酸エステルは本発明の非水系電解液中、いずれか一種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0031】
また、本発明の非水系電解液に対する一般式(1)で表される環状硫酸エステルの含有量に制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、一般式(1)で表される環状硫酸エステルを添加剤として使用する場合は本発明の非水系電解液に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、また、通常10質量%未満、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下の濃度で含有させることが好ましい。含有量を上記範囲内とすることにより、一般式(1)で表される環状硫酸エステルによる抵抗低減効果が一層発現しやすくなる。
非水系電解液中の上記一般式(1)で表される環状硫酸エステルの同定、及び含有量の測定方法は核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて行う。
【0032】
[1-1-3.一般式(2)で表される化合物]
以下に一般式(2)で表される化合物について説明する。
【化12】
【0033】
一般式(2)中、R21~R26はそれぞれ独立して、H又はOPFを示し、R21~R26の少なくとも1つはOPFである。mは1以上10以下の整数である。mが2以上10以下の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。
【0034】
正極界面抵抗及び負極界面抵抗の上昇を抑えやすくする観点から、好ましくはmは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下、一層好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。R21は一般式(2)で表される化合物による過充電ガスを増加させる観点からOPF2が好ましい。
【0035】
一般式(2)で表される化合物として下記式(2-1)~(2-6)で表される化合物が挙げられる。
CHCHCHOPF (2-1)
CHCHCHCHOPF (2-2)
CHCHCHCHCHOPF (2-3)
POCHCHOPF (2-4)
POCHCHCHOPF (2-5)
POCHCHCHCHCHOPF (2-6)
中でも、正極界面抵抗及び負極界面抵抗の上昇を抑えつつ、過充電ガスを増加させる観点から以下の式(2-4)で表される化合物及び式(2-5)で表される化合物が好ましい。
POCHCHOPF (2-4)
POCHCHCHOPF (2-5)
【0036】
一般式(2)で表される化合物は本発明の非水系電解液中、いずれか一種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0037】
また、本発明の非水系電解液に対する一般式(2)で表される化合物の含有量に制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、一般式(2)で表される化合物を添加剤として使用する場合は本発明の非水系電解液に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、また、通常3質量%未満、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下の濃度で含有させることが好ましい。含有量を上記範囲内とすることにより、一般式(2)で表される化合物による正極界面抵抗及び負極界面抵抗の上昇が抑えられやすくなる。
非水系電解液中の上記一般式(2)で表される化合物の同定、及び含有量の測定方法は核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて行う。
【0038】
一般式(1)で表される環状硫酸エステル及び一般式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含む場合、非水系電解液において、一般式(1)で表される環状硫酸エステル及び一般式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物に対する一般式(A)で表される化合物含有量の質量比(一般式(A)で表される化合物含有量[g]/一般式(1)で表される環状硫酸エステル及び一般式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物の含有量[g])は、非水系電解液電池の過充電安全性を向上させる観点から、0.0001以上であり、好ましくは0.0005以上、より好ましくは0.001以上であり、また、10以下であり、好ましくは5以下、より好ましくは1以下である。
【0039】
[1-2.電解質]
<リチウム塩>
非水系電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いられることが知られているものであれば特に制限がなく、任意の電解質を用いることができ、具体的には以下の電解質が挙げられる。
例えば、フルオロホウ酸リチウム塩、フルオロリン酸リチウム塩、タングステン酸リチウム塩、カルボン酸リチウム塩、スルホン酸リチウム塩、リチウムイミド塩、リチウムメチド塩、リチウムオキサラート塩、及び含フッ素有機リチウム塩等が挙げられる。
中でも、フルオロホウ酸リチウム塩としてLiBF;フルオロリン酸リチウム塩としてLiPF、LiPOF、LiPO;スルホン酸リチウム塩としてLiFSO、CHSOLi;リチウムイミド塩としてLiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド;リチウムメチド塩として、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO;リチウムオキサラート塩として、リチウムジフルオロオキサラートボレート、リチウムビス(オキサラート)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラートホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラート)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラート)ホスフェート等が、低温出力特性やハイレート充放電特性、インピーダンス特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点からより好ましい。更に好ましくは、LiPF、LiN(FSO、リチウムビス(オキサラート)ボレート及びLiFSOであり、特に好ましくはLiPFである。また、上記電解質塩は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
2種以上の電解質塩の組み合わせとして、特段の制限はないが、LiPF及びLiN(FSO;LiPF及びLiBF;LiPF及びLiN(CFSO;LiBF及びLiN(FSO;LiBF及びLiPF及びLiN(FSOが挙げられる。中でも、LiPF及びLiN(FSO;LiPF及びLiBF;LiBF、LiPF及びLiN(FSOが好ましい。
【0041】
非水系電解液中の電解質の含有量(2種以上の場合は合計含有量)は、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の含有量が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。
【0042】
[1-3.非水系溶媒]
発明の一実施形態に係る非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水系溶媒を含有する。用いられる非水系溶媒は上述した電解質を溶解すれば特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
2種以上の有機溶媒の組み合わせとして、特段の制限はないが、飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネート、飽和環状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル又は鎖状カーボネート、並びに飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。中でも、飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネート、並びに飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルが好ましい。
【0044】
[1-3-1.飽和環状カーボネート]
飽和環状カーボネートとしては、例えば、炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。
【0045】
飽和環状カーボネートとしては、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが好ましく、酸化・還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0046】
飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、一方、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。飽和環状カーボネートの含有量をこの範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなり、非水系電解液の酸化・還元耐性が向上し、負極に対する安定性、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0047】
[1-3-2.鎖状カーボネート]
鎖状カーボネートとしては、例えば、炭素数3~7の鎖状カーボネートが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネートが好ましく用いられる。
【0048】
鎖状カーボネートとしては、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが挙げられる。特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート又はエチルメチルカーボネートである。
【0049】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、当該複数のフッ素原子は同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0050】
鎖状カーボネートの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
【0051】
更に、特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を向上させることができる。
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは25体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0052】
[1-3-3.鎖状カルボン酸エステル]
鎖状カルボン酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、及びピバル酸メチルが挙げられる。中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル又は酢酸ブチルが電池特性向上の点から好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した鎖状カルボン酸エステル(例えば、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル等)も好適に使える。
【0053】
鎖状カルボン酸エステルの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの含有量は、通常70体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0054】
[1-3-4.環状カルボン酸エステル]
環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンが挙げられる。これらの中でも、γ-ブチロラクトンがより好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した環状カルボン酸エステルも好適に使える。
環状カルボン酸エステルの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの含有量は、通常70体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0055】
[1-3-5.エーテル系化合物]
エーテル系化合物としては、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数3~10の鎖状エーテル、及びテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。なお、上述のエーテル系化合物の一部の水素がフッ素にて置換されていてもよい。
中でも、炭素数3~10の鎖状エーテルとしては、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させ、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンが好ましく、炭素数3~6の環状エーテルとしては、高いイオン伝導度を与えることから、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等が好ましい。
【0056】
エーテル系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。エーテル系化合物の含有量が上記の範囲内であれば、エーテル系化合物によるリチウムイオン解離度の向上と非水系電解液の粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすい。また、負極活物質が炭素系材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入される現象を抑制できることから、入出力特性や充放電レート特性を適正な範囲とすることができる。
【0057】
[1-3-6.スルホン系化合物]
スルホン系化合物としては、特に制限されず、環状スルホンであってもよく、鎖状スルホンであってもよい。環状スルホンの場合、炭素数が通常3~6、好ましくは3~5であり、鎖状スルホンの場合、炭素数が通常2~6、好ましくは2~5である。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。
【0058】
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類等;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。中でも、誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0059】
スルホラン類としては、スルホラン及びスルホラン誘導体が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子、アルキル基又はフッ素置換アルキル基で置換されたものが好ましい。
中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン又は3-トリフルオロメチルスルホラン等が、イオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0060】
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン等が挙げられる。中でも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン又はモノフルオロメチルメチルスルホンが電解液の高温保存安定性が向上する点で好ましい。
【0061】
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物の含有量が上記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0062】
[1-4.助剤]
本発明の非水系電解液には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の助剤を含有していてもよい。助剤としては、従来公知の助剤を任意に用いることができる。なお、助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0063】
非水系電解液に含有していてもよい助剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネート、イソシアネート基を有する化合物、イソシアヌル酸骨格を有する有機化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、エーテル結合を有する環状化合物、カルボン酸無水物、ホウ酸アニオン含有化合物、P=O結合及びP-F結合を有するリン酸アニオン含有化合物、S=O結合を有するアニオン含有化合物、及びオキサラート錯体アニオン含有化合物等が例示できる。例えば、国際公開公報第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。
これらの中でも、P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物、S=O結合を有するアニオン含有化合物、及びオキサラート錯体アニオン含有化合物から選ばれる少なくとも1種のアニオン含有化合物(以下、「特定のアニオン含有化合物」ともいう)、及び/又は炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネートから選ばれる少なくとも1種のカーボネート化合物(以下、「特定のカーボネート化合物」ともいう)が好ましい。
【0064】
助剤の含有量は特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、特に好ましくは1質量%未満である。
【0065】
エーテル結合を有する環状化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、「1-3.非水系溶媒」で示したとおり非水系溶媒としても用いることができるものも含まれる。エーテル結合を有する環状化合物を助剤として用いる場合は、4質量%未満の量で用いる。ホウ酸アニオン含有化合物、オキサラート錯体アニオン含有化合物、モノフルオロリン酸アニオン含有化合物、及びジフルオロリン酸アニオン含有化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、「1-2.電解質」で示したとおり電解質として用いることができるものも含まれる。これら化合物を助剤として用いる場合は、3質量%以下で用いる。
【0066】
[1-4-1.特定のアニオン含有化合物]
前記特定のアニオン含有化合物は、通常、酸又は塩である。前記特定のアニオン含有化合物は、塩であることが好ましく、カウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属カチオンが好ましく、リチウムカチオンがより好ましい。
P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物、S=O結合を有するアニオン含有化合物及びオキサラート錯体アニオン含有化合物から選ばれる少なくとも1種のアニオン含有化合物は、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、高温保存後のガス発生量を抑制する観点から、P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物が好ましい。
【0067】
[1-4-1-1.P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物]
F-P結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物としては、例えば、PO2-等のモノフルオロリン酸アニオン、PO 等のジフルオロリン酸アニオンを含有する化合物が挙げられる。
これらの中では、電池の出力特性と電極界面保護のバランスの観点から、ジフルオロリン酸アニオンを含有する化合物が好ましい。
【0068】
[1-4-1-2.S=O結合を有するアニオン含有化合物]
S=O結合を有するアニオン含有化合物としては、例えば、FSO 、等のフルオロスルホン酸アニオン;(FSO、(FSO)(CFSO)N、等のフルオロスルホニルイミドアニオン;(FSO等のフルオロスルホニルメチドアニオンを含有する化合物;CHSO 等のアルキル硫酸アニオン等を含有する化合物が挙げられる。
これらの中では、電池の出力特性と電極界面保護のバランスの観点から、フルオロスルホン酸アニオン又はフルオロスルホニルイミドアニオンを含有する化合物が好ましく、フルオロスルホン酸アニオンを含有する化合物がより好ましい。
【0069】
[1-4-1-3.オキサラート錯体アニオン含有化合物]
オキサラート錯体アニオン含有化合物は、分子内にオキサラート錯体を有するアニオンを含有する化合物であれば特に制限されない。オキサラート錯体アニオン含有化合物とは、中心原子にシュウ酸が配位又は結合することにより錯体を形成している酸のアニオンを含有する化合物であり、例えば、ホウ素原子にシュウ酸が配位又は結合したホウ素オキサラート錯体アニオン、リン原子にシュウ酸が配位又は結合したリンオキサラート錯体アニオンを含有する化合物が挙げられる。
ホウ素オキサラート錯体アニオンとしては、ビス(オキサラート)ボレートアニオン、ジフルオロオキサラートボレートアニオン等が挙げられ、リンオキサラート錯体アニオンとしては、テトラフルオロオキサラートホスフェートアニオン、ジフルオロビス(オキサラート)ホスフェートアニオン、トリス(オキサラート)ホスフェートアニオン等が挙げられる。
これらの中では、電極の表面に安定な複合被膜を形成させる観点から、ホウ素オキサラート錯体アニオンを含有する化合物が好ましく、ビス(オキサラート)ボレートアニオンを含有する化合物がより好ましい。
【0070】
(特定のアニオン含有化合物の含有量)
非水系電解液が、特定のアニオン含有化合物を含有する場合、非水系電解液全量中の、特定のアニオン含有化合物の含有量(2種以上の場合は合計量)は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
特定のアニオン含有化合物の含有量が上記範囲内であれば、電池特性、特に高温保存後の直流抵抗(DCR)維持率を向上し、高温保存後のガス発生量を抑制することができる。この理由は定かではないが、特定のアニオン含有化合物の含有量が上記質量比の範囲内で、電極表面上での非水系電解液の成分の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
特定のアニオン含有化合物の同定及び含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0071】
(電解質に対する特定のアニオン含有化合物の質量比)
非水系電解液が特定のアニオン含有化合物を含有する場合において、電解質の含有量に対する特定のアニオン含有化合物(2種以上の場合は合計量)の含有量の質量比(特定のアニオン含有化合物の含有量[g]/電解質の含有量[g])は、通常0.00005以上、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.025以上であり、また、通常0.5以下、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.35以下である。
前記質量比が上記範囲内であれば、電池特性、特に高温保存後のDCR維持率を向上し、高温保存後のガス発生量を抑制することができる。この理由は定かではないが、上記質量比の範囲内で、特定のアニオン含有化合物及び電解質を含有することで、電池系内での電解質の副反応が最小限に抑えられるためと考えられる。
【0072】
[1-4-2.特定のカーボネート化合物]
非水系電解液は、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート及びフッ素原子を有する環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種のカーボネート化合物を含むことが好ましい。これらの中でも、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートを含むことが好ましく、ビニレンカーボネートを含むことがより好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができ、不飽和環状カーボネート及びフッ素化環状カーボネートを組み合わせることが好ましく、ビニレンカーボネート及びフッ素化環状カーボネートを組み合わせること並びに不飽和環状カーボネート及びモノフルオロエチレンカーボネートを組み合わせることがより好ましく、ビニレンカーボネート及びモノフルオロエチレンカーボネートを組み合わせることが更に好ましい。
【0073】
(特定のカーボネート化合物の含有量)
非水系電解液全量中の、特定のカーボネート化合物の含有量(2種以上の場合は合計量)は通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
特定のカーボネート化合物の含有量が上記範囲内であれば、電池特性、特に耐久性を向上させることができる。この理由は定かではないが、この比率でカーボネート化合物を含有することで、電極上で被膜を形成し、非水系電解液の成分の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
特定のカーボネート化合物の同定及び含有量測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0074】
(電解質に対する特定のカーボネート化合物の質量比)
非水系電解液において、電解質の含有量に対する特定のカーボネート化合物(2種以上の場合は合計量)の含有量の質量比(特定のカーボネート化合物の含有量[g]/電解質の含有量[g])は、通常0.00005以上、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.025以上であり、また、通常0.5以下、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.35以下である。前記質量比が上記範囲内であれば、電池特性、特に耐久性を向上させることができる。この理由は定かではないが、上記質量比の範囲内で、カーボネート化合物及び電解質を含有することで、電極上に被膜を形成し、電池系内での電解質の副反応が最小限に抑えられるためと考えられる。
【0075】
[1-4-2-1.炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート]
炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」ともいう)としては、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はない。芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類、芳香環、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。これらの中でも、ビニレンカーボネート類、芳香環又は炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類が好ましい。
ビニレンカーボネート類としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート等が挙げられる。
芳香環又は炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類としては、ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-ビニル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-エチニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5-ジフェニルエチレンカーボネート、4-フェニル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-メチル-5-アリルエチレンカーボネート等が挙げられる。
これらの中でも、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネートは更に安定な複合被膜を電極上に形成するので好ましく、ビニレンカーボネート及びビニルエチレンカーボネートから選ばれる1種以上がより好ましく、ビニレンカーボネートが更に好ましい。
不飽和環状カーボネートは、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0076】
[1-4-2-2.フッ素原子を有する環状カーボネート]
フッ素原子を有する環状カーボネートは、環状のカーボネート構造を有し、かつフッ素原子を含有するものであれば特に制限されない。
フッ素原子を有する環状カーボネートとしては、炭素数2以上6以下のアルキレン基を有する環状カーボネートのフッ素化物、及びその誘導体が挙げられ、例えばエチレンカーボネートのフッ素化物(フルオロエチレンカーボネート)及びその誘導体、並びに含フッ素基を有するエチレンカーボネートが挙げられる。エチレンカーボネートのフッ素化物の誘導体としては、アルキル基(例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基)で置換されたエチレンカーボネートのフッ素化物が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子数1以上8以下のフルオロエチレンカーボネート、及びその誘導体が好ましい。
フッ素原子数1以上8以下のフルオロエチレンカーボネート及びその誘導体、並びに含フッ素基を有するエチレンカーボネートとしては、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(ジフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-4-フルオロエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-5-フルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5,5-ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
これらの中でも、電解液に高イオン伝導性を与え、かつ安定な界面保護被膜を形成し易くする観点から、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネートから選ばれる1種以上が好ましい。
フッ素原子を有する環状カーボネートは、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0077】
[2.非水系電解液二次電池]
本発明の一実施態様である非水系電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、非水系電解液を備える。
【0078】
[2-1.非水系電解液]
非水系電解液としては、上述の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において上述の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を混合して用いることも可能である。
【0079】
[2-2.正極]
正極は、正極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
【0080】
[2-2-1.正極活物質]
以下に正極に使用される正極活物質(リチウム遷移金属系化合物)について述べる。
【0081】
[2-2-1-1.リチウム遷移金属系化合物]
リチウム遷移金属系化合物とは、リチウムイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物、リチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。中でも、リン酸塩化合物、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、リチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。
スピネル構造を有するものは、一般的に下記組成式(1)で表される。
LiM’・・・(1)
(式(1)中、x’は1≦x’≦1.5であり、M’は少なくとも1種の遷移金属元素を含む。)
具体的にはLiMn、LiCoMnO、LiNi0.5Mn1.5、LiCoVOなどが挙げられる。
【0082】
層状構造を有するものは、一般的に下記組成式(2)で表される。
Li1+xMO・・・(2)
(式(2)中、xは-0.1≦x≦0.5であり、Mは少なくとも1種の遷移金属元素を含む。)
具体的にはLiCoO、LiNiO、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1などが挙げられる。
【0083】
中でも、電池容量を向上させる観点から、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、下記組成式(3)で示される遷移金属複合酸化物であることがより好ましい。
Lia1Nib1c1・・・(3)
(式(3)中、a1、b1、及びc1はそれぞれ、0.90≦a1≦1.10、0.30≦b1≦0.98、0.01≦c1≦0.5を満たす数値を示し、0.50≦b1+c1かつb1+c1=1を満たす。MはCo、Mn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。)
【0084】
特に、リチウム遷移金属複合酸化物の構造安定性の観点から、下記組成式(4)で示される遷移金属酸化物であることが好ましい。
Lia2Nib2Coc2d2・・・(4)
(式(4)中、a2、b2、及びc2はそれぞれ、0.90≦a2≦1.10、0.50≦b2≦0.98、0.01≦c2<0.50を満たす数値を示し、b2+c2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。)
【0085】
組成式(4)で表されるリチウム遷移金属酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、Li1.05Ni0.50Co0.20Mn0.30、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.7Co0.15Mn0.15等が挙げられる。
各組成式中、MはMn又はAlを含むことが好ましく、Mnを含むことがより好ましく、Mn又はAlであることが更に好ましい。リチウム遷移金属酸化物の構造安定性が高まり、繰り返し充放電した際の構造劣化が抑制されるためである。
【0086】
[2-2-1-2.異元素導入]
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、上述の組成式に含まれる元素以外の元素(異元素)が導入されてもよい。
【0087】
[2-2-1-3.表面被覆]
上記正極活物質の表面に、正極活物質とは異なる組成の物質(表面付着物質)が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して、好ましくは1μmol/g以上であり、また、10μmol/g以上が好ましく、通常1mmol/g以下で用いられる。
本明細書においては、正極活物質の表面に、上記表面付着物質が付着したものも「正極活物質」という。
【0088】
[2-2-1-4.ブレンド]
なお、これらの正極活物質は一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0089】
[2-2-2.正極の構成と製造方法]
以下に、正極の構成と製造方法について述べる。本実施形態において、正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を、水系溶媒又は有機系溶媒等の液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成する塗布法により正極を得ることができる。また、例えば、上述の正極活物質をロール成形してシート電極としてもよいし、圧縮成形によりペレット電極としてもよい。
以下、正極集電体に順次スラリーの塗布及び乾燥する場合について説明する。
【0090】
[2-2-2-1.活物質含有量]
正極活物質層中、正極活物質の含有量は、通常80質量%以上99.5質量%以下である。
【0091】
[2-2-2-2.導電材]
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素系材料;等が挙げられる。導電材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上50質量%以下含有するように用いられる。
【0092】
[2-2-2-3.結着剤]
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、例えば、塗布法により正極活物質層を形成する場合は、スラリー用の液体媒体に対して溶解又は分散される材料であれば、その種類は特に制限されないが、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等からポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマーなどが好ましい。
また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。なお、結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、結着剤として樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1万以上、好ましくは5万以上、特に好ましくは10万以上であり、一方、通常300万以下、好ましくは95万以下、特に好ましくは90万以下である。分子量がこの範囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上80質量%以下である。
【0093】
[2-2-2-4.集電体]
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられる。中でも、アルミニウムが好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
正極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常
1μm以上1mm以下である。
【0094】
[2-2-2-5.正極板の厚さ]
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、正極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、集電体の片面に対して通常10μm以上500μm以下である。
【0095】
[2-2-2-6.電極密度]
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。集電体上に存在している正極活物質層の密度は、通常1.5g/cm以上4.5g/cm以下である。
【0096】
[2-2-2-7.正極板の表面被覆]
また、上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよく、当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0097】
[2-3.負極]
負極は、負極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
【0098】
[2-3-1.負極活物質]
負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素系材料、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料、リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、サイクル特性及び安全性が良好で更に連続充電特性も優れている点で、炭素系材料、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料及びLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料と炭素系材料との混合物を使用するのが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0099】
[2-3-1-1.炭素系材料]
炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛及び樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。中でも、天然黒鉛が好ましい。炭素系材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらの黒鉛に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性又は充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状又は楕円体状の黒鉛粒子が特に好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上100μm以下である。
【0100】
[2-3-1-2.炭素系材料の物性]
負極活物質としての炭素系材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1つを満たしていることが好ましく、複数を同時に満たすことが特に好ましい。
(1)X線回折パラメータ
炭素系材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素系材料の結晶子サイズ(Lc)は、通常1.0nm以上である。
(2)体積基準平均粒径
炭素系材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上100μm以下である。
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素系材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上1.5以下である。
また、炭素系材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上100cm-1以下である。
(4)BET比表面積
炭素系材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m・g-1以上100m・g-1以下である。
負極活物質中に性質の異なる炭素系材料が2種以上含有していてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、体積基準平均粒径、ラマンR値、ラマン半値幅及びBET比表面積を意味する。
好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素系材料を2種以上含有すること、及びX線パラメータが異なる炭素系材料を2種以上含有すること等が挙げられる。
【0101】
[2-3-1-3.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料]
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量とサイクル寿命の点から、例えば、Sb、Si、Sn、Al、As、及びZnからなる群より選ばれる、炭素で被覆されていてもよい金属及び/又は半金属元素の単体又はその化合物であることが好ましい。また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料が2種以上の元素を含有する場合、当該材料は、これらの金属の合金からなる合金材料であってもよい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素の材料としては、酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。これらは、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を2種以上含有していてもよい。
中でも、金属Si(以下、Siと記載する場合がある)又はSi含有無機化合物が高容量化の点で、好ましい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素の材料は、後述する負極の製造時で既にLiと合金化されていてもよい。
【0102】
本明細書では、Si又はSi含有無機化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、SiO(0≦x≦2)等が挙げられる。Liと合金化された金属化合物としては、具体的には、LiSi(0<y≦4.4)、LiSiO2+z(0<z≦2)等が挙げられる。Si化合物としてSi酸化物(SiOx1、0<x1≦2)が、黒鉛と比較して理論容量が大きい点で好ましく、又は非晶質Si若しくはナノサイズのSi結晶が、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能である点で好ましい。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料が粒子である場合、その平均粒子径(d50)は、サイクル寿命の観点から、通常0.01μm以上10μm以下である。
【0103】
[2-3-1-4.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子と黒鉛粒子との混合物]
負極活物質として用いられるLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子と黒鉛粒子との混合物は、前述のLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子と前述の黒鉛粒子が互いに独立した材料の粒子の状態で混合されている混合体でもよいし、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子が黒鉛粒子の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子と黒鉛粒子の合計に対するLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する材料の粒子の含有割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは、2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。また、通常10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。この範囲であると、十分な容量を得ることが可能となり、かつ、サイクル特性点で好ましい。
【0104】
[2-3-1-5.リチウム含有金属複合酸化物材料]
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンを含むリチウム含有金属複合酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が出力抵抗を大きく低減するので特に好ましい。
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム及び/又はチタンが、他の金属元素、例えば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい。
リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3、LiTi及びLi4/5Ti11/5が好ましい。また、リチウム及び/又はチタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3が好ましい。
【0105】
[2-3-2.負極の構成と製造方法]
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、負極活物質に、結着剤、水系溶媒又は有機系溶媒等の液体媒体、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層を形成することによって作製することができる。
【0106】
[2-3-2-1.活物質含有量]
負極活物質の、負極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上99.5質量%以下である。
【0107】
[2-3-2-2.電極密度]
塗布、乾燥によって得られた負極活物質層は、負極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、通常1g/cm以上2.2g/cm以下である。
【0108】
[2-3-2-3.増粘剤]
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。
【0109】
[2-3-2-4.結着剤]
負極活物質を結着する結着剤としては、非水系電解液や電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系高分子等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
負極活物質に対する結着剤の割合は、通常0.1質量%以上20質量%以下である。
特に、結着剤がSBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対する結着剤の割合は、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。また、結着剤がポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する結着剤の割合は、好ましくは1質量%以上15質量%以下である。
【0110】
[2-3-2-5.集電体]
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属箔及び金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
負極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上1mm以下である。
【0111】
[2-3-2-6.負極板の厚さ]
負極(「負極板」ともいう。)の厚さは用いられる正極に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、負極材の厚さから集電体厚さを差し引いた負極活物質層の厚さは通常15μm以上300μm以下である。
【0112】
[2-3-2-7.負極板の表面被覆]
また、負極板は、その表面に、負極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0113】
[2-4.セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。
【0114】
[2-5.電池設計]
[2-5-1.電極群]
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合は、通常40%以上90%以下である。
【0115】
[2-5-2.集電構造]
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減する構造も好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0116】
[2-5-3.保護素子]
保護素子として、過大電流等による発熱とともに抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する電流遮断弁(安全装置)等を使用することができ、電池内部圧力の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する保護素子が好ましい。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましい。
【0117】
[2-5-4.外装体]
非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではないが、軽量化の観点から、アルミニウム若しくはアルミニウム合金の金属又はラミネートフィルムが好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0118】
[2-5-5.形状]
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例0119】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0120】
本実施例に使用した化合物を以下に示す。
化合物1:式(A-9)で表される化合物
【0121】
【化13】

化合物2:式(1-1-1)で表される化合物
【0122】
【化14】

化合物3:式(2-4)で表される化合物
POCHCHOPF (2-4)
【0123】
<実施例1~6及び比較例1>
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートからなる混合溶媒(混合体積比30:30:40)に、電解質として十分に乾燥させたLiPFを濃度1.0mol/Lで溶解させたものを基準電解液とした。
更に、かかる基準電解液に対して、表1に記載の各化合物を記載の含有量(質量%)となるように加えて非水系電解液を調製した。
【0124】
[正極の作製]
正極活物質としてニッケル含有遷移金属酸化物(LiNi0.7Co0.15Mn0.15)90質量部と、導電材としてアセチレンブラック7.0質量部と、結着剤として分子量約28万のポリフッ化ビニリデン3.0質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で、ディスパーザーで混合してスラリー化した。これを厚さ21μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、密度が3.4g/cmとなるようプレスして正極とした。
【0125】
[負極の作製]
負極活物質として天然黒鉛粉末と酸化ケイ素(SiO)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)、及び結着剤としてスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)を用い、ディスパーザーで混合してスラリー化した。このスラリーを厚さ12μmの銅箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、密度が1.6g/cmとなるようプレスして負極とした。なお、乾燥後の負極において、天然黒鉛:酸化ケイ素:カルボキシメチルセルロースナトリウム:スチレン-ブタジエンゴム=93.1:4.9:1:1の質量比となるように作製した。
【0126】
[非水系電解液電池の製造]
上記の正極、負極、及びポリプロピレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。
この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子が突設するように挿入した後、上記で得られた非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行い、パウチ型電池を作製し、非水系電解液電池とした。
【0127】
<非水系電解液二次電池の評価>
[試験前充放電と放電電力容量]
実施例及び比較例で得られた各非水系電解液電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態で、25℃において、0.05Cに相当する定電流で4時間充電を行い、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電した。ここで、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、0.5Cとはその1/2倍の電流値を、また0.2Cとはその1/5の電流値を表す。
次に0.1Cに相当する定電流で4.1Vまで充電し、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電し、更に0.2Cで4.1Vまで定電流-定電圧充電(0.05Cカット)した後、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電した。その後、0.2Cで4.2Vまで定電流-定電圧充電(0.05Cカット)した後、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電した。その後、0.2Cで4.2Vまで定電流-定電圧充電(0.05Cカット)した後、1.0Cの定電流で2.5Vまで放電した。
この時の1.0C放電時の電力容量を放電電力容量とした。結果を表1に示す。
なお、表1には比較例1の放電電力容量を100として規格化した相対値で表す。
その後、0.2Cで4.2Vまで定電流-定電圧充電(0.05Cカット)した。
【0128】
[保護素子の誤作動抑制率]
下記の方法により過充電時発生ガス量と高温連続充電時発生ガス量を測定し、過充電時発生ガス量をα、高温連続充電時発生ガス量をβとした際の両者の差(α-β)を保護素子の誤作動抑制率とした。
この指標には次の技術的な意義がある。通常使用時(高温連続充電時)のガス量と過充電時の発生ガス量の差を広げることで保護素子の誤作動を抑えられるといえる。例えば過充電時発生ガス量より少し少ないガス量を保護素子の作動設定値とした場合、その差が小さいと高温連続充電時のガスが多いロットでは保護素子の作動設定値に到達するセルが多くなり、誤作動が多くなる。差が広ければ多少高温連続充電時のガスが多くても保護素子が作動しなくなる。結果を表1に示す。
なお、表1には比較例1の保護素子の誤作動抑制率を100として規格化した相対値で表す。
【0129】
(過充電時発生ガス量の測定)
試験前充放電が終わりガラス板を外した各非水系電解液電池の体積をアルキメデスの原理を用いて測定した。その後、再び非水系電解液電池をガラス板に挟んだ状態で45℃において0.5Cに相当する定電流で5.0Vまで充電した。その後ガラス板を外し、各非水系電解液電池の体積をアルキメデスの原理を用いて測定した。試験前後の体積変化を過充電時発生ガス量とした。
【0130】
(高温連続充電時発生ガス量の測定)
試験前充放電が終わりガラス板を外した各非水系電解液電池の体積をアルキメデスの原理を用いて測定した。その後、再び非水系電解液電池をガラス板に挟んだ状態で45℃において0.2Cで4.25Vまで定電流-定電圧充電(72時間カット)した。その後ガラス板を外し、各非水系電解液電池の体積をアルキメデスの原理を用いて測定した。試験前後の体積変化を高温連続充電時発生ガス量とした。
【0131】
【表1】
【0132】
表1から、一般式(A)で表される化合物を含有する非水系電解液を備える実施例1~6の非水系電解液電池は、一般式(A)で表される化合物を含まない非水系電解液を備える比較例1の非水系電解液電池と比較し、放電電力容量の低下を改善し、かつ保護素子の誤作動抑制率を向上させることから、非水系電解液電池としての性能に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の非水系電解液を非水系電解液電池の電解液として用いることにより、通常使用状態での電流遮断弁の誤作動を抑制し、放電電力容量の低下を改善することができる。従って、本発明の非水系電解液は、非水系電解液電池が用いられる電子機器等のあらゆる分野において好適に利用できる。