(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126654
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】車両用エアバッグ
(51)【国際特許分類】
B60R 21/235 20060101AFI20240912BHJP
D03D 1/02 20060101ALI20240912BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240912BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20240912BHJP
D02G 3/46 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B60R21/235
D03D1/02
D03D15/283
D01F6/60 351A
D01F6/60 311C
D02G3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035196
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 和輝
(72)【発明者】
【氏名】南井 一志
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 悠太
(72)【発明者】
【氏名】本村 洋樹
【テーマコード(参考)】
3D054
4L035
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
3D054CC26
3D054CC34
3D054FF18
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD20
4L035EE09
4L035FF01
4L035HH01
4L036MA06
4L036MA33
4L036UA07
4L048AA24
4L048AA34
4L048AA48
4L048AA49
4L048AA50
4L048AB07
4L048AB11
4L048AC09
4L048AC10
4L048AC11
4L048BD00
4L048BD07
4L048CA00
4L048CA01
4L048CA02
4L048CA15
4L048DA25
4L048EA01
4L048EB00
4L048EB05
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、従来技術では得られなかった高強度、熱時の寸法安定性および優れたストレッチ性を備えた縫製糸と、この縫製糸に適切なエアバッグ本体基布とを組み合わせることで、展開時においてもエアバッグ縫製部が優れる低通気性を有する車両用エアバッグを提供することである。
【解決手段】基布からなる本体部と、ポリアミドマルチフィラメントからなる縫製糸で前記基布本体部を袋状に縫製することにより形成された縫製部とを含む車両用エアバッグであって、前記縫製部における100N/cm負荷前後の差圧50kPaにおける動的通気度の変化率が40%以下であることを特徴とする車両用エアバッグ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布からなる本体部と、ポリアミドマルチフィラメントからなる縫製糸で前記基布本体部を袋状に縫製することにより形成された縫製部とを含む車両用エアバッグであって、前記縫製部における100N/cm負荷前後の差圧50kPaにおける動的通気度の変化率が40%以下であることを特徴とする車両用エアバッグ。
【請求項2】
下記(1)~(3)の特徴を有する請求項1に記載の車両用エアバッグ。
(1)本体部に用いる基布の総繊度が200~1000dtex、かつ単繊維繊度が2.5~7.5dtex。
(2)本体部に用いる基布のカバーファクターが1800~2400。
(3)縫製糸の総繊度が300~2300dtex、かつ単繊維繊度2~20dtex。
【請求項3】
前記基布を、前記縫製糸を用いて4.0回/cmで本縫いした縫製部の25℃環境下における破断伸度と、同縫製部の180℃環境下における破断伸度との変化率が10%以下であることを特徴とする、請求項2に記載の車両用エアバッグ。
【請求項4】
下記(A)~(C)の特徴を有する縫製糸により縫合されていることを特徴とする、請求項2に記載の車両用エアバッグ。
(A)強度6.0~9.0cN/dtex、伸度15~30%。
(B)100℃環境下にて10回引張を行った後の伸び率をE10(100℃)としたとき、E10(100℃)<1.0である。
(C)室温下での2cN/dtex荷重時の伸度をM(R.T.)、100℃環境下での2cN/dtex荷重時の伸度をM(100℃)としたときに、M(100℃)-M(R.T.)<0.5である。
【請求項5】
下記(D)~(E)の特徴を有する縫製糸により縫合されていることを特徴とする、請求項2に記載の車両用エアバッグ。
(D)常温環境下にて10回引張を行ったあとの伸び率をE10(R.T.)、120℃24時間の熱処理後に常温環境下にて10回引張を行ったあとの伸び率をE10’(R.T.)としたときに、E10’(R.T.)-E10(R.T.)≦0である。
(E)室温下での2cN/dtex荷重時の伸度をM(R.T.)、120℃24時間の熱処理後に室温下での2cN/dtex荷重時の伸度をM’(R.T.)としたときに、M’(R.T.)-M(R.T.)≦0である。
【請求項6】
硫酸相対粘度ηrが3.0<ηr<4.5である縫製糸により縫合されていることを特徴とする、請求項3~5のいずれかに記載の車両用エアバッグ。
【請求項7】
ポリアミド46マルチフィラメントを使用した縫製糸により縫合されていることを特徴とする、請求項6に記載の車両用エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突事故時に乗員を保護する車両用エアバッグに関するものであり、さらに詳しくは、エアバッグ展開時において、その縫製部が低通気性に優れるエアバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両が衝突したときの衝撃から乗員を保護する乗員保護用の安全装置として、エアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両の衝突時に瞬時に膨張することによって乗員を保護する装置で、車両の衝突などの衝撃を受けたときの急激な減速を検知するセンサー、センサーからの信号を受けて膨出用の高圧ガスを発生するインフレーター、インフレーターからの膨出用の高圧ガスにより、膨出展開して乗員の衝撃を緩和するエアバッグ袋体(車両用エアバッグ)、および、エアバッグシステムが正常に機能しているか否かを判断する診断回路を、通常備えている。
【0003】
このような車両用エアバッグに用いられる袋体は、通常、複数の本体基布(パネル)が縫製糸によって縫合されて形成されている。衝突時には、この袋体内部に高圧ガスが瞬間的に流入するため、本体基布および前記縫製部に非常に大きな力や熱がかかることになる。この作用上、本体基布および前記縫製部には通気量が小さいこと(低通気性)が求められている。また、特に縫製部においては、エアバッグ展開時に力や熱が集中するため、縫製糸が破断したり、縫製部が目開きしたりすると、これにより袋体が十分に膨張できなかったり、該部分を起点に破袋する問題があった。特に昨今はエアバッグ軽量化・コンパクト化の要求が高まっており、これに伴ってインフレーターがコンパクト化され、その発生ガスが高温化、高出力化する傾向にあるため、高温高圧下でも縫製部が低通気性である必要性が増大している。
【0004】
従来、エアバッグ袋体の縫製部の通気性を小さくする手段として、本体基布および縫製糸のそれぞれについて、様々な検討がなされている(特許文献1~4)。
【0005】
特許文献1では、本体基布の高圧通気性や縫製部の通気性を抑制するため、織物の示差走査熱量計による溶融挙動をより高温にする技術が開示されている。特許文献2では、低繊度の織糸から構成される織物であっても、高強力織物であって目開きしにくい織物が検討されている。
【0006】
また、別の手段として、特許文献3では、一般的に縫製糸に用いられるポリアミド66に対し、高融点で高い耐熱性を保持するポリアミド46を使用し、さらに熱時の寸法安定性を高める技術を開示している。しかしながら、エアバッグ縫製糸には高い強度、高い熱寸法性に加え、優れたストレッチ性も必須である。特許文献4では、ポリアミドマルチフィラメントにストレッチ性を与しする手法として、例えば、鞘糸に半延伸糸のポリアミドマルチフィラメントを使用し、芯糸のポリアミドマルチフィラメントとタスラン加工する方法が開示されている。しかし、このような従来のストレッチ性発現技術では、強度を損なう原糸設計となってしまい、高強度が必要とされる産業用途への適用が困難である。すなわち、特許文献4の技術では、高強度、高い熱寸法安定性および優れたストレッチ性のすべて備えたエアバッグ縫製糸に好適なポリアミドマルチフィラメントは得られない。
【0007】
このように、エアバッグ袋体の縫製部の通気性を小さくする手段として、本体基布および縫製糸のそれぞれの検討はされているが、縫製部は本体基布と縫製糸の両方からなるため、そのどちらかのみでは真に解決できるとは言い難い。
【0008】
特許文献5では、本体基布および縫製糸の両方において、それぞれの伸度を特定の範囲に設定することで、バッグ展開時膨張基布への縫製糸追従性向上により、縫製部通気量が抑制されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO15/022981
【特許文献2】特開2012-52280
【特許文献3】特開昭59-76914号公報
【特許文献4】特開2002-249943号公報
【特許文献5】特開2012-188006公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献5の技術では、バッグ展開時の高温熱時の寸法安定性については検討されておらず、縫製糸のストレッチ性についても考慮されていない。
【0011】
本発明の目的は、従来技術では得られなかった高強度、熱時の寸法安定性および優れたストレッチ性を備えた縫製糸と、この縫製糸に適切なエアバッグ本体基布とを組み合わせることで、展開時においてもエアバッグ縫製部が優れる低通気性を有する車両用エアバッグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねたものであり、主として下記の構成からなる。
【0013】
(1)基布からなる本体部と、ポリアミドマルチフィラメントからなる縫製糸で前記基布本体部を袋状に縫製することにより形成された縫製部とを含む車両用エアバッグであって、前記縫製部における100N/cm負荷前後の差圧50kPaにおける動的通気度の変化率が40%以下であることを特徴とする車両用エアバッグ。
【0014】
(2)下記特徴を有する前記(1)に記載の車両用エアバッグ。
本体部に用いる基布の総繊度が200~1000dtexかつ単繊維繊度が2.5~7.5dtex、本体部に用いる基布のカバーファクターが1800~2400、縫製糸の総繊度が300~2300dtexかつ単繊維繊度2~20dtex。
【0015】
(3)前記縫製糸を用いて4.0回/cmで本縫いした縫製部の25℃環境下における破断伸度と、同縫製部の180℃環境下における破断伸度との差が10%以下であることを特徴とする、前記(2)に記載の車両用エアバッグ。
【0016】
(4)下記特徴を有する縫製糸により縫合されていることを特徴とする、前記(2)に記載のエアバッグ。
強度6.0~9.0cN/dtex、伸度15~30%、100℃環境下にて10回引張を行った後の伸び率をE10(100℃)としたとき、E10(100℃)<1.0、室温下での2cN/dtex荷重時の伸度をM(R.T.)、100℃環境下での2cN/dtex荷重時の伸度をM(100℃)としたときに、M(100℃)-M(R.T.)<0.5。
【0017】
(5)下記特徴を有する縫製糸により縫合されていることを特徴とする、前記(2)に記載のエアバッグ。
常温環境下にて10回引張を行ったあとの伸び率をE10(R.T.)、120℃24時間の熱処理後に常温環境下にて10回引張を行ったあとの伸び率をE10’(R.T.)としたときに、E10’(R.T.)-E10(R.T.)≦0、室温下での2cN/dtex荷重時の伸度をM(R.T.)、120℃24時間の熱処理後に室温下での2cN/dtex荷重時の伸度をM’(R.T.)としたときに、M’(R.T.)-M(R.T.)≦0。
【0018】
(6)硫酸相対粘度ηrが3.0<ηr<4.5である縫製糸により縫合されていることを特徴とする、前記(3)~(5)いずれかに記載の車両用エアバッグ。
【0019】
(7)ポリアミド46マルチフィラメントを使用した縫製糸により縫合されていることを特徴とする、前記(6)に記載の車両用エアバッグ。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る車両用エアバッグは、高強度かつ熱時の寸法安定性および優れたストレッチ性を備えた縫製糸と、この縫製糸に適切なエアバッグ本体基布とを組み合わることで、エアバッグ展開時において、エアバッグ本体基布同士を縫製している縫製部が低通気性に優れるため、展開時に力や熱が集中した場合でも、縫製糸が破断したり、縫製部が目開きしにくく、これにより袋体が十分に膨張できなかったり、該部分を起点に破袋する問題が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に用いるポリアミドマルチフィラメントの製造工程(溶融工程は省略)の一態様の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の車両用エアバッグは、基布からなる本体部と、ポリアミドマルチフィラメントからなる縫製糸で前記基布本体部を袋状に縫製することにより形成された縫製部とを含む車両用エアバッグであって、前記縫製部における100N/cm負荷前後の差圧50kPaにおける動的通気度の変化率が40%以下であることを特徴とする。
【0023】
<縫製糸>
まず、本発明の車両用エアバッグの縫製糸について具体的に説明する。
【0024】
本発明の縫製糸はポリアミドマルチフィラメントからなる。ポリアミドマルチフィラメントはポリアミド樹脂からなり、ポリアミド樹脂としてはポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12等がある。これらの中でも主成分がポリアミド46であるポリアミド樹脂が好ましい。全質量から後述する添加剤を除いた質量の内、98質量%以上がポリアミド46からなるポリアミド樹脂を用いることがより好ましく、さらに好ましくはポリアミド46のみで構成されていることである。ポリアミド46と他のポリアミドを共重合して使用することも可能であり、共重合に使用するポリアミドにはポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612を用いることができる。また、ポリアミド46と他のポリアミドとの混合物であってもよい。融点の高いポリアミド46を主成分として使用することで、耐熱性の高いマルチフィラメントを製造できる。
【0025】
前記ポリアミドマルチフィラメントのポリアミド樹脂は、必要に応じて、モノカルボン酸等の末端封鎖剤、酸化チタン等の艶消し剤、リン化合物等の重合触媒や耐熱剤、銅化合物およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物等の酸化防止剤や耐熱剤といった添加剤がポリアミド以外の成分として含まれていても良いが、ポリアミド樹脂に含まれるポリアミドの含有割合が95重量%以上であることが好ましく、97重量%以上であることがより好ましい。ポリアミドの含有割合が95重量%未満の場合には、マルチフィラメントの強度が低下する。また、上記に挙げた添加剤の中でも、特にポリマーの熱劣化抑制の働きのある耐熱剤については250~7000ppm、好ましくは500~5000ppm添加することが好ましい。これらは単体でも、複数の併用であってもかまわない。これら耐熱剤が250ppm未満ではポリマーの熱劣化の抑制が限定的となり、高温エージング後にフィラメントの強伸度および本発明で規定するストレッチ性、寸法安定性を損ねてしまう。一方、7000ppmを超える耐熱剤を加えると繊維の強伸度が低下する。
【0026】
前記ポリアミドマルチフィラメントの原料となるポリアミドチップの硫酸相対粘度は、3.3~5.0が好ましく、より好ましくは3.5~4.5である。上記範囲以上の硫酸相対粘度であれば曵糸性の悪化に寄与し、延伸時の糸切れ及び毛羽発生を多発させてしまう。また、3.3以下の硫酸相対粘度の場合には、後述する所定の硫酸相対粘度を有するポリアミドマルチフィラメントを得ることが困難となる。硫酸相対粘度は、実施例の欄に記載された方法で測定した値をいう。
【0027】
前記ポリアミドマルチフィラメントの硫酸相対粘度ηrは、3.0<ηr<4.5が好ましく、より好ましくは3.3<ηr<4.2、さらに好ましくは3.5<ηr<4.0である。マルチフィラメントの硫酸相対粘度が3.0以下の場合には、十分な結晶配向性が得られず、かかるマルチフィラメントの強度が低下するだけでなく、縫製糸に必要とされるストレッチ性が発現し得なくなる。4.5以上の場合には、製糸性が悪化する。
【0028】
前記ポリアミドマルチフィラメントは、総繊度が300~2300dtexであることが好ましく、より好ましくは400~1700dtexである。総繊度が300dtex未満では、総繊度が細過ぎるため溶融紡糸後のマルチフィラメントの熱延伸の際に毛羽が発生する可能性が高くなる。さらには、ポリマーの溶融時間が長くなることからポリマーの分解を抑制することが困難となり、本発明で規定する所定の粘度を有するポリアミドマルチフィラメントを得ることが困難となる。また、総繊度が2300dtexを超える場合には、紡糸時の均一冷却性が悪化することにより原糸品質の低下を招き、縫製糸としての耐久性が低下してしまう。
【0029】
前記ポリアミドマルチフィラメントの単繊維の本数は30~350本であることが好ましく、さらに好ましくは50~250本である。この本数範囲より本数が少ないと単繊維繊度が太くなり、溶融紡糸時の冷却効率が低くなってしまうとともに、マルチフィラメントの柔軟性が失われてしまう。また、該本数範囲より本数が多いことで単繊維繊度が細くなり、毛羽が生成し易い状況となる。
【0030】
また、単繊維の断面形状は特に限定されるものではない。丸形断面をはじめとし、偏平、多角、Y型、X型等の異形、中空等、多様な形状の断面を採用することができる。複数の断面形状の混繊であってもかまわない。
【0031】
前記ポリアミドマルチフィラメントの強度は、6.0~9.0cN/dtexであることが好ましく、より好ましくは7.0~9.0cN/dtexである。この強度範囲はエアバッグ縫製糸用ポリアミドマルチフィラメントに要求される特性であり、さらにはポリアミドの結晶配向性に起因して、かかる強度範囲はストレッチ性を有するポリアミドマルチフィラメントを得るために重要な範囲であることを究明したものである。強度6.0cN/dtex未満では、エアバッグ縫製糸としての耐久性には不十分であるばかりか、結晶配向性が低下するため本発明で規定するストレッチ性を有するポリアミドマルチフィラメントが得られにくい。強度9.0cN/dtexを超えるポリアミドマルチフィラメントを得ようとする場合、高倍率での機械的延伸となりエアバッグ縫製糸として十分な伸度が得られにくい。
【0032】
また、伸度(破断伸度)は、15~30%であることが好ましく、より好ましくは18~28%である。伸度がかかる範囲であると、エアバッグ縫製糸に好適なポリアミドマルチフィラメントとなる。さらにはポリアミドの非晶配向性に起因して、かかる伸度範囲は高温熱時の寸法安定性を得るために重要な範囲であることを究明したものである。伸度15%未満では、エアバッグ縫製部に負荷が掛かった際、伸縮による衝撃吸収が不十分となり、縫製糸としての耐久性を維持することができない。さらには非晶部配向が過大となることで、本発明で規定する高温熱時の寸法安定性を有するポリアミドマルチフィラメントが得られにくい。伸度30%を超えるポリアミドマルチフィラメントを得ようとする場合、エアバッグ縫製糸としての十分な強度が得られにくい。
【0033】
前記ポリアミドマルチフィラメントは、100℃環境下での10回引張後伸び率E10(100℃)が1.0%未満であることが重要である。より好ましくは0.8%未満である。かかる範囲とすることで、エアバッグ展開時圧力による伸長後の戻りが良く、膨張基布への縫製糸追従性が良好となり、内圧保持性能は向上する。E10(100℃)が1.0%以上である場合、縫製部からの空気漏れ低減を狙ったポリアミドマルチフィラメントとしては不十分である。
【0034】
また、室温下での2cN/dtex荷重時伸度M(R.T.)と100℃環境下での2cN/dtex荷重時伸度M(100℃)の差(M(100℃)-M(R.T.))が0.5%未満であることが重要である。特に好ましくは、0.3%未満であり、さらに好ましくは0.1%未満である。かかる範囲とすることで、エアバッグ展開時の高温雰囲気下であっても、縫製糸としての寸法安定性が損なわれることが無いため、目止め効果を発現し得る。該数値が0.5%以上の場合、バッグ展開の受熱により縫製糸が伸び易いことを意味し、縫製部の目ずれを引き起こし、空気漏れ低減には不十分である。
【0035】
前記ポリアミドマルチフィラメントは、常温環境下での10回引張後伸び率E10(R.T.)と、120℃で24時間熱処理した後の繊維を常温環境下にて10回引張を行ったあとの伸び率E10’(R.T.)の差(E10’(R.T.)-E10(R.T.))が0以下であることが好ましい。かかる範囲であれば、縫い糸および縫製加工、エアバッグ収納環境下でのエージングによるストレッチ特性損失を抑制可能である。
【0036】
また、室温下での2cN/dtex荷重時伸度M(R.T.)と120℃で24時間熱処理した後の繊維の室温下での2cN/dtex荷重時伸度M’(R.T.)の差(M’(R.T.)-M(R.T.))が0以下であることが好ましい。かかる範囲であれば、縫い糸および縫製加工、エアバッグ収納環境下でのエージングによる寸法安定性低下を抑制可能である。
【0037】
図1は本発明で好ましく用いられるポリアミドマルチフィラメントを製造するための直接紡糸延伸装置の一例の概略図である。
【0038】
以下、
図1を例にとり、本発明で用いるポリアミドマルチフィラメントの製造方法の一態様について記す。
【0039】
本発明で用いるポリアミドマルチフィラメントは溶融紡糸によって製造することが好ましく、上述のとおり、溶融紡糸に用いるポリアミドチップの硫酸相対粘度は3.3~5.0が好ましく、より好ましくは3.5~4.5である。かかる範囲であれば、高強度のポリアミドマルチフィラメントを曵糸性が良好な状態で安定して得ることができる。
【0040】
また、ポリアミドチップの水分率は1300ppm以下であることが好ましく、よりこのましくは800ppm以下である。かかるチップ水分率に調整することで、本発明で規定するポリアミドマルチフィラメントの硫酸相対粘度の範囲に収めることが可能であり、エアバッグ縫製糸に必要とされる原糸強度レベルを達成することができる。1300ppmをこえる場合には、ポリマー溶融中に加水分解が促進され、結晶配向不足により高強度が得られない。かかるポリアミドマルチフィラメントのストレッチ性は失われ、本発明で規定するE10(100℃)を達成し得ない結果となる。
【0041】
上記のポリアミドチップをエクストルーダー型紡糸機で溶融・混錬し紡出するが、溶融は真空環境下で行われることが好ましい。真空環境下としては、エクストルーダーのチップ供給口における圧力は5kPa未満であることが好ましく、さらに好ましくは3kPa未満である(以下、5kPa未満を真空下と定義する)。溶融時に増粘し、高分子量体を生成する他の脂肪族ポリアミドと異なり、ポリアミドは溶融時に分解し低分子量体を生成する性質を有している。分解機構は熱分解と酸化分解、加水分解に大別でき、真空下で溶融することで水や空気中の酸素を排除し、分解機構が熱分解のみに制限されるため、ポリマーの分解を抑制することが可能となる。溶融時の分解抑制によりマルチフィラメントを構成するポリマーの分子量を高く維持するこができ、高結晶配向化したポリアミドマルチフィラメントを製造することができる。5kPa以上である場合には、溶融時の加水分解を抑制することができず、結晶配向不足により高強度が得られない。ひいては本発明で規定するストレッチ性E10(100℃)を達成することが困難となる。
【0042】
紡糸温度はポリマーの融点より10~50℃高温に設定し、複数の、好ましくは30~350の、より好ましくは50~250の孔を有する口金1から溶融紡糸するが、紡糸口金の直下から5~300cmの範囲を加熱筒2で囲み、溶融紡出された糸条を融点に対し-30~+30℃の高温雰囲気中に通過させることが好ましい。通過させる高温雰囲気は、より好ましくは融点-30~+15℃である。紡出糸条を直ちに冷却せず、上記加熱筒で囲まれた高温雰囲気中を通して徐冷することにより、溶融紡糸されたポリアミド分子の配向が緩和され、単繊維間の分子配向均一性を高めることができるため、ポリアミドフィラメントの高強度化が可能となる。一方、高温雰囲気中を通過させることなく直ちに冷却すると、未延伸糸の配向が高まり、かつ単繊維間の配向度バラツキが大きくなる。かかる未延伸糸は延伸性が失われ、結果として高結晶配向化した本発明のポリアミドマルチフィラメントが得られない可能性がある。
【0043】
上記工程を通過した未延伸糸条には、クロスフロー冷却装置3により10~80℃、好ましくは10~50℃の風を吹きつけて冷却固化する。冷却風が10℃未満の場合には、大型の冷却装置が必要となるため好ましくない。また、冷却風が80℃を超える場合には、風量が要され、単繊維揺れが大きくなるため、単繊維同士の衝突等が発生し、製糸性悪化の原因となる。
【0044】
冷却固化された未延伸糸は、その後に多段延伸、特に2もしくは3段延伸することが好ましい。3段延伸の場合について具体的に
図1に例示すると、まず、冷却、固化された未延伸糸には給油装置4で油剤を付与し、引取ローラ(1FR)6によって引き取る。引取ローラは通常、非加熱である。その後給糸ローラ(2FR)7、第1延伸ローラ(1DR)8、第2延伸ローラ(2DR)9、第3延伸ローラ(3DR)10、および弛緩ローラ(RR)11といった順序で糸条を捲回して熱処理及び延伸処理を行い、ワインダー12に巻き取る。2FRの表面は鏡面、1DR、2DR,3DR、RRの表面は梨地とすることが好ましい。
【0045】
2FRと1DRの間において1段目の延伸を行い、2FRの温度(ローラの表面温度)は30~50℃、1DRの温度を100~225℃とする。2段目の延伸は1DRと2DRの間で行われ、2DRの温度(ローラの表面温度)は150~230℃とする。3段目の延伸は2DRと3DRの間で行われ、3DRの温度(ローラの表面温度)は180~240℃とする。
【0046】
ここで、本発明で用いるポリアミドマルチフィラメントの製造においては、3段目の延伸工程、すなわち最終延伸工程の延伸倍率が1.00~1.10であることが重要であり、延伸倍率が1.00~1.05であることがさらに好ましい。最終延伸工程での延伸を上記範囲とすることで、非晶部の配向度が過大となることを抑制し、高温熱時の寸法安定性を発揮するマルチフィラメントを提供することができる。延伸倍率が上記範囲より大きい場合、非晶部の配向度が高くなるため、熱収縮しやすいマルチフィラメントとなる。かかるマルチフィラメントは高温熱時の寸法安定性が悪化してしまい、本発明で規定するM’(R.T.)-M(R.T.)を達成し得ない。延伸倍率が1.00倍より低い場合は張力が低下するため、糸揺れが大きく、製糸が困難となる。
【0047】
かくして本発明で用いるポリアミドマルチフィラメントを得ることができる。
【0048】
また、上記ポリアミドマルチフィラメントを用いたエアバッグ用縫製糸を製造する際には、公知の加工方法にて製造可能である。
【0049】
<本体基布>
次いで、本発明で用いる車両用エアバッグの本体基布について具体的に説明する。
【0050】
本発明で用いる車両用エアバッグの本体基布を構成する繊維としては、合成繊維が好ましい。合成繊維は特に限定されない。一例を挙げると、合成繊維は、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド46、およびポリアミド6とポリアミド66の共重合、ポリアミド6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸やアミンなどを共重合したポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのホモポリエステル、ポリエステルの繰り返し単位を構成する酸成分にイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸またはアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを共重合したポリエステル繊維、パラファニレンテレフタルアラミドおよび芳香族エーテルとの共重合に代表されるアラミド繊維、レーヨン繊維、ポリサルフォン系繊維、超高分子量ポリエチレン繊維および上記合成繊維を主体とする海島構造を有する高分子配列体繊維から構成される合成繊維等である。これらの中でも、合成繊維は、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維であることが好ましく、なかでもポリアミド66繊維は特に強度が優れており、より好ましい。
【0051】
なお、環境に対する配慮から、これらの合成繊維はその一部または全部が、リサイクルされた原材料より得られるものや、バイオマス由来の原料から得られるものが好ましい。例えば、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合物からなるポリアミド繊維では、ジカルボン酸とジアミンの少なくとも一方に、リサイクルされた原材料より得られるモノマーか、バイオマス由来のモノマーか、あるいはその両方を含有することが好ましい。リサイクルされた原材料より得られるモノマーやバイオマス由来のモノマーの比率が高まるほど石油資源依存度が減り、二酸化炭素循環の観点から環境負荷が減る。
【0052】
前記合成繊維には、紡糸・延伸工程や加工工程での生産性、あるいは特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0053】
前記合成繊維はモノフィラメントでもマルチフィラメントでも良いが、エアバッグ特性を考慮するとマルチフィラメントが好ましい。
【0054】
前記合成繊維の繊度(総繊度)は、200~1000dtexの範囲であることが好ましく、300~800dtexの範囲であることがより好ましく、450~600dtexの範囲であることがさらに好ましい。総繊度が上記範囲内であることにより、得られる車両用エアバッグは、軽量かつコンパクトであり、かつ、必要な機械的特性(引張強力や引裂強力等)が得られやすい。なお、基布の総繊度は、JIS L1013(2010) 8.3.1 A法に基づいて算出し得る。
【0055】
前記合成繊維の単繊維繊度は、2.5~7.5dtexの範囲であることが好ましく、3.0~7.0dtexの範囲であることがより好ましい。合成繊維の単繊維繊度が上記範囲内であることにより、合成繊維は、製造されやすい。また、得られる基布の柔軟性が向上し、エアバッグの収納性が向上しやすい。特に、合成繊維の単繊維繊度が上記好ましい範囲内であれば、得られる繊維層(特に織物の場合)における単繊維間に占める空隙が小さくなりやすい。そのため、経糸と緯糸の密着度を高めることができ、抗目ズレ性を高めることができる。なお、合成繊維の単繊維繊度は、総繊度をフィラメント数で除することにより算出し得る。また、フィラメント数は、JIS L1013(2010) 8.4の方法に基づいて算出し得る。
【0056】
前記合成繊維の単繊維の断面形状は、特に限定されない。一例を挙げると、単繊維の断面形状は、円形であってもよく、Y型、V型、扁平型等の各種非円形であってもよく、中空部を有するものであってもよい。これらの中でも、単繊維の断面形状は、製糸性の観点から、円形であることが好ましい。
【0057】
基布の構成は、気密性というエアバッグ特性を考慮すると、織物であることが好ましい。
【0058】
織物の組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、リップストップ織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織などの変化組織、蜂の巣織、模紗織、梨地織などの特別組織、たて二重織、よこ二重織などの片二重組織、風通織、袋織、二重ビロード、タオル、シール、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天などのよこパイル織、絽、紗、紋紗等のからみ組織などが好ましい。これらの中でも、優れた機械的強度を有する平織物が特に好ましい。
【0059】
本発明で用いる基布は、同じ化学構造の合成繊維を経糸および緯糸としていることが好ましい。さらには経糸・緯糸がともに同じ総繊度を有すること、経糸・緯糸ともに同じ単繊維繊度を有することが好ましい。同じ化学構造とは、例えばポリアミド66同士、ポリアミド46同士、ポリエチレンテレフタレート同士等、ポリマーの主たる繰り返し単位が共通することをいう。また、総繊度あるいは単繊維繊度が同じとは、総繊度あるいは単繊維繊度の差が経糸・緯糸の繊度の小さい側の繊度の5%以内であることをいう。
【0060】
また、製織は有杼織機(フライシャットル織機等)または無杼織機(レピア織機、グリッパー織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機等)等によって行われるのが好ましい。
【0061】
基布のカバーファクターは、1800~2400の範囲であることが好ましく、1850~2300の範囲であることがより好ましい。基布のカバーファクターが上記範囲内である場合、基布は、柔軟性と空気遮断性とが両立されやすい。なお、本発明において、基布のカバーファクター(CF)は、経糸または緯糸に用いられる糸の総繊度と織密度から計算される値であり、以下の式(a)によって定義される。
CF=(Dw×0.9)1/2×Nw+(Df×0.9)1/2×Nf ・・・(a)
なお、式(a)において、Dwは経糸総繊度(dtex)であり、Dfは緯糸総繊度(dtex)であり、Nwは経糸の織密度(本/2.54cm)であり、Nfは緯糸の織密度(本/2.54cm)である。
【0062】
前記本体基布は、エラストマー樹脂が塗布されていないノンコート基布であっても良く、少なくとも片面にエラストマー樹脂が塗布されたコート基布であっても良いが、耐熱性、低通気性の観点から、コート基布であることが好ましい。ここでいうコート基布とは、エラストマー樹脂が、基布の塗布面(エラストマー樹脂が塗布されている面をいう)の少なくとも一部を覆い、好ましくは基布の塗布面の90%以上を覆い、より好ましくは基布の塗布面の100%を覆うものを指す。
【0063】
前記本体基布をコートするエラストマー樹脂としては、耐熱性、耐寒性、難燃性を有するものが好ましく、例えば、シリコーン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。なかでもシリコーン樹脂が耐熱性、低通気度性の点から特に好ましい。かかるシリコーン樹脂としては、ジメチル系シリコーン樹脂、メチルビニル系シリコーン樹脂、メチルフェニル系シリコーン樹脂、フロロ系シリコーン樹脂を挙げることができる。
【0064】
また、前記本体基布をコートするエラストマー樹脂は難燃化合物を含有していてもよい。かかる難燃化合物としては、臭素、塩素などを含むハロゲン化合物、白金化合物、酸化アンチモン、酸化銅、酸化チタン、燐化合物、チオ尿素系化合物、カーボン、セリウム、酸化ケイ素などが例示される。なかでも、ハロゲン化合物、特に、ハロゲン化シクロアルカン、白金化合物、酸化銅、酸化チタン、カーボンがより好ましい。
【0065】
前記本体基布をコートするエラストマー樹脂の塗布量としては、片面に施す量として10~100g/m2が好ましい。上のほうの値としては、80g/m2以下が好ましく、より好ましくは50g/m2以下である。下のほうの値としては10g/m2以上が好ましい。塗布量をこの範囲にすることで、車両用エアバッグの耐熱性と柔軟性および収納性を両立することができる。
【0066】
エラストマー樹脂(樹脂溶液)の粘度は、基布に対して安定かつ一定量を塗布しやすいように、5~50Pa・sであることが好ましい。エラストマー樹脂は、元々このような粘度を示す無溶剤タイプであってもよく、このような粘度となるよう溶剤で適宜希釈された溶剤タイプであってもよい。なお、エラストマー樹脂の粘度は、JIS Z8803(2011)に基づいてB型粘度計を用いて、20℃の環境下で測定し得る。また、ラミネート法により樹脂層を形成する場合、ラミネート法としては、押出ラミネート法、サーマル(熱)ラミネート法、ドライラミネート法などが挙げられる。押出ラミネート法は、樹脂フィルム(樹脂層)の押出成形および樹脂フィルム(樹脂層)と基布のラミネートを同時に行うことができ、コート基布の生産効率を向上させることができる。サーマルラミネート法は、樹脂フィルムと基布とを熱圧着ローラにより熱接着によりラミネートするものであり、基布および樹脂フィルムがともにポリアミド樹脂である場合等には好ましく適用される。ドライラミネート法は、接着剤(粘着剤も含む。以下同じ。)によって基布と樹脂フィルムとを接着するが、接着剤としては二液型のウレタン系接着剤、一液型のウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等を用いることができる。
【0067】
前記本体基布の製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、基布が織物である場合、まず、経糸が整経され、織機に設置される。同様に緯糸が織機に設置される。織機は、特に限定されない。織機は、ウォータージェットルーム、エアジェットルーム、レピアルーム等が例示される。これらの中でも、高速製織が比較的容易であり、生産性を高めやすい点から、織機は、ウォータージェットルームが好ましい。経糸および緯糸は、いずれも同じ種類の合成繊維(たとえばポリアミド繊維)であることが好ましい。また、経糸および緯糸は、いずれも同じ織密度となるよう製織されることが好ましい。なお、織密度は、JIS L1096:2010 8.6.1に基づいて算出し得る。
【0068】
製織の際、織物の地部を構成する経糸1本あたりにかける張力は、0.15~0.50cN/dtexの範囲に調整されることが好ましい。経糸張力が0.15cN/dtex未満の場合、製織中における緯糸の拘束力が低く、経糸と緯糸とが同密度の織物が得られにくい。一方、経糸張力が0.50cN/dtexを超える場合、織物において、経糸と緯糸の接触面積(密着度)が大きくなりやすい。そのため、経糸が毛羽立ちやすく、製織性が劣りやすい。経糸張力を調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、経糸張力は、織機の経糸送り出し速度を調整する方法、緯糸の打ち込み速度を調整する方法等により調整し得る。なお、経糸張力が上記範囲であるかどうかは、たとえば織機稼動中に経糸ビームとバックローラーの中央部分とにおいて、経糸1本当たりに加わる張力を張力測定器で測ることにより、確認し得る。
【0069】
織物を製織する際、耳部には、耳端に絡み糸や増し糸が用いられる。さらに、耳緩みを小さくするため、増し糸と経糸の間に、耳締め糸を用いる場合もある。
「絡み糸」はレノとも呼ばれ、耳ほつれを防止するため、織物の耳部の最も外側で、複数本の糸が絡み合いながら緯糸を締め付け、耳を形成する。耳を形成する場合、一般的に遊星歯車機構を使用、さらに好ましくは遊星歯車ねじり方式が用いられる。耳を形成する方法は、その他の方法であってもよい。絡み糸の素材、種類、繊度は、地糸の種類、織密度により適宜選択される。使用本数は、両端部にそれぞれ2本ずつ以上、好ましくは2本ずつであることが好ましい。絡み糸は、一般的には、耳締めの性能の優れるモノフィラメントが用いられる。絡み糸は、マルチフィラメントが使用されてもよい。絡み糸の材質としては、地糸と同じであることが好ましい。絡み糸の繊度は、33dtex以下であることが好ましい。繊度が33dtexを超える場合、織物の耳部においてほつれが発生する場合がある。絡み糸の繊度は5~22dtexであることが好ましい。
【0070】
増し糸は絡み糸と同様に、織物の耳のほつれ防止を目的として使用され、織物の耳部において絡み糸と経糸の間に配置され、絡み糸を補助する。ただし、増し糸に対しては、遊星装置は使用されない。耳締め性に優れる平組織で用いることが好ましい。また、増し糸の素材、種類、繊度はそれぞれ、地糸の種類、織密度により適宜選択される。上記した絡み糸と同様に、増し糸は、耳締めの性能が優れるモノフィラメントが好適に用いられる。使用される場合の増し糸の本数は、たとえば両端部に各2本から12本である。増し糸の繊度は、33dtex以下であることが好ましい。繊度が33dtexを超える場合、織物の耳部においてほつれが発生する場合がある。絡み糸の繊度は5~22dtexであることが好ましい。
【0071】
耳締め糸は、絡み糸、増し糸とは別に、織物の耳緩みの防止を目的として使用される場合があり、織物の耳部において増し糸と経糸の間に配置される。増し糸と同様、遊星装置は使用されない。耳締め性に優れる平組織で用いることが好ましい。耳締め糸の素材、種類、繊度はそれぞれ、地糸の種類、織密度により適宜選択される。耳締め糸は、高い張力をかけて製織するために、地糸の総繊度に対し60%以上の総繊度を有するマルチフィラメントが好適に用いられる。総繊度が地糸の60%未満である場合、高い張力をかけて製織することができず、耳緩みの防止効果が得られなくなる。使用される場合の耳締め糸の本数は、たとえば両端部に各4本から16本である。
【0072】
製織が終わると、得られた織物は、必要に応じて、乾燥処理が行われる。乾燥温度は、通常80℃以上である。乾燥温度が80℃以上である場合、織物は、乾熱収縮率が小さく、寸法安定性が向上する。その結果、織物は、エアバッグとして好適に使用し得る。
【0073】
次に、織物は、精練、熱セット等の加工が適宜施される。精練加工における精練温度は、30℃以上であることが好ましく、45℃以上であることがより好ましい。熱を掛けることにより絡み糸と増し糸が地部糸より収縮し、耳緩みを抑制できる。また、精練温度は、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましい。これにより、精練剤が活性化され、織糸に付着した油剤やワックス等が効率的に除去され得る。精練温度が30℃以上である場合、織物は、残留した歪みが除去され、寸法安定性が向上し得る。また、精練温度が80℃以下である場合、織物の大きな収縮が抑制される。その結果、織物は、寸法安定性が向上し得る。
【0074】
熱セット工程では、乾燥機が使用される。乾燥機は、熱風乾燥機、サクションドラム乾燥機、ノンタッチドライヤー等が例示される。熱セット温度は、精練と同じく、製織後の織物に残留した歪みを除去することができ、織物の大きな収縮を抑制し得る温度であることが好ましい。具体的には、熱セット温度は、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。また、熱セット温度は、190℃以下であることが好ましい。熱セット温度が上記範囲内である場合、得られる基布は、寸法安定性が向上し、絡み糸と増し糸が地部糸より収縮し、耳緩みを抑制できる。
【0075】
次いで、織物はコートされる場合、少なくとも片面にエラストマー樹脂が塗布されることにより、樹脂層が設けられる。樹脂の塗布方法は、特に限定されない。一例を挙げると、樹脂は、塗布量が抑えられ、かつ、安定に塗布される点から、ナイフコーティング法により塗布されることが好ましい。また、ラミネートにより塗布されることも好ましい。ナイフコーティング法は、ナイフオーバーロール法、ナイフオーバーベルト法、フローティングナイフ法等を含む。これらの中でも、樹脂の塗布量が抑えられやすく、かつ、織物に樹脂を浸透させやすい点から、フローティングナイフ法により塗布されることがより好ましい。ナイフコーティング法において、基布張力は、500~3000N/mに調整されることが好ましい。また、ナイフとの接圧は、1~15N/cmに調整されることが好ましい。基布張力およびナイフとの接圧が上記範囲内である場合、織物は、コーティングにより糸束が変形した状態で固定され得る。その結果、得られる基布(コート基布)は、織物内への樹脂の含浸が最小限に抑えられ、柔軟性と収納性が向上し得る。ラミネートにより樹脂が塗布される場合、ラミネート法としてたとえば押出ラミネート法、サーマル(熱)ラミネート法、ドライラミネート法などが挙げられる。押出ラミネート法は樹脂フィルムの押出成形と樹脂フィルムと基布のラミネートを同時に行うことができ、生産効率を向上させることができる。また、サーマル(熱)ラミネート法は予め成形した樹脂フィルムと基布とを繰り出し、熱圧着ローラとゴム圧着ローラとの間で熱接着によりラミネートする方法であり、押出ラミネート法に比べて加工速度を大きくすることができ、加工速度の点で生産効率向上を図ることができる。ドライラミネート法は接着剤により樹脂フィルムと基布を接着する方法であり、熱接着に適さないような樹脂フィルムをラミネートすることができる。ラミネート法により樹脂が塗布されることにより、得られるコート基布は、樹脂層の厚みが均質であるという利点がある。
【0076】
<車両用エアバッグの製造方法>
前記製造方法によって得られた本体基布および縫製糸から車両用エアバッグ(エアバッグクッション)を製造する方法は特に限定されない。一例を挙げると、車両用エアバッグは、本体基布を打抜き、溶断、または裁断によって得られる1枚もしくは複数枚のパネルを用い、その周縁部を縫製して袋体が形成される。縫製部における縫製糸の縫製方法は、特に制限されるものではなく、使用する基布、エアバッグ仕様、要求される取り付け口強度などに応じて選定すればよい。例えば、本縫い、環縫い、二重環縫い、オーバーロック縫い等が挙げられる。これらの中でも、本縫い、二重環縫いが、作業性の良さ、縫製部強度の向上、縫製部からのガス漏れの低減などの点から好適に用いられる。さらに、必要に応じて、縫製部の縫い目からのガス抜けを防ぐために、シール剤などを、縫い目の上部および/または下部、縫い目の間、縫い代部などに塗布、散布または積層して目止めしてもよい。
【0077】
次いで、袋体にインフレーターを取り付ける。インフレーターとして例えばパイロ型、ハイブリッド型、コールド型などが挙げられる。インフレーターはエアバッグが適用される箇所によって異なる性能により、適宜選択すればよい。
【0078】
本発明の車両用エアバッグにおいては、その縫製部における100N/cm負荷前後の差圧50kPaにおける動的通気度の変化率が40%以下であることが必要であり、従来技術では得られなかった高強度、熱時の寸法安定性および優れたストレッチ性を備えた縫製糸と、この縫製糸に適切なエアバッグ本体基布とを組み合わせることで達成される。縫製部における100N/cm負荷前後の差圧50kPaにおける動的通気度の変化率が40%以下であれば、エアバッグの展開初期時において、縫製部の通気性が小さいため、インフレーターから出力されるガスを効率よく展開に用いることができる。
【実施例0079】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は実施例に具体的に示された態様に限定して解釈されるものではない。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0080】
<本体基布>
(総繊度)
総繊度は、JIS L1013:2010 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定することにより算出した。
【0081】
(フィラメント数)
フィラメント数は、JIS L1013(2010) 8.4の方法に基づいて算出した。
【0082】
(単繊維繊度)
単繊維繊度は、総繊度をフィラメント数で除することにより算出した。
【0083】
(織密度)
エアバッグ用コート布の経糸および緯糸のそれぞれの織密度は、JIS L1096:2010 8.6.1に基づいて算出した。具体的には、試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5箇所について、デジタル密度測定器(FX3250 TEXTEST社製)を用いて、2.54cmあたりの経糸および緯糸の本数を測定し、それぞれの平均値を織密度(本/2.54cm)として算出した。
【0084】
(カバーファクター)
基布のカバーファクター(CF)は、経糸または緯糸に用いられる糸の総繊度と織密度から計算される値であり、以下の式(a)によって定義される。
CF=(Dw×0.9)1/2×Nw+(Df×0.9)1/2×Nf ・・・(a)
(コート剤の塗布量)
エラストマー樹脂の塗布量は、樹脂をコートした部分(コート基布)と、樹脂をコートしなかった部分(未コート基布)とを作製し、コート基布の目付から未コート基布の目付を差し引いた値を塗布量(g/m2)として算出した。
【0085】
<縫製糸>
(硫酸相対粘度)
試料1gを98%硫酸100mlに溶解し、オストワルド粘度計を使用し、25℃で測定した。測定回数2回の平均値を用いた。
【0086】
(マルチフィラメントの繊度)
JIS L1090(1999)により測定した。
【0087】
(マルチフィラメントの強度、伸度)
JIS L1013(1999)の方法で測定した引張強さ及び伸び率を、強度及び伸度とした。エー・アンド・デイ社製高低温度槽付テンシロン万能試験機RTG-1250を用い、試長250mm、引張速度300mm/minの条件で測定した。各サンプルについて測定を5回行い、その平均値を求めた。
【0088】
(10回引張後伸び率)
試長250mmの繊維をエー・アンド・デイ社製高低温度槽付テンシロン万能試験機RTG-1250のチャックにて挟み、2.0cN/dtexの荷重となるまで300mm/minの速度で引っ張った後、元のチャック間隔まで300mm/minの速度で戻す動作を指定回数繰り返した。該繰り返し引張試験にて10サイクル目の戻り動作にて0.1cN/dtexの荷重が示す時の伸度を10回引張後伸び率E10とした。ここで、常温下での該測定値をE10(R.T.)、100℃環境下での該測定値をE10(100℃)、熱処理後繊維の常温下での該測定値をE10’(R.T.)で表し、熱処理は120℃環境下にて24時間実施した。該測定値はマルチフィラメントのストレッチ性を表す指標となり、E10(100℃)が小さい程、高温下での引張後の戻りが良好であり、高温下ストレッチ性に優れることを示す。また、E10’(R.T.)からE10(R.T.)を差し引いた値は、高温でのエージング後のストレッチ性変化を示す指標である。
【0089】
(2cN/dtex荷重時伸度)
上記の強度・伸度測定時のSS曲線において、2cN/dtexの荷重が掛かった際の伸度を抽出した。強度・伸度測定の5回の測定サンプルから抽出した値の平均値をMとした。ここで、常温環境下での該測定値をM(R.T.)、100℃環境下での該測定値をM(100℃)、熱処理繊維の室温下での該測定値をM’(R.T.)で表し、熱処理については120℃環境下にて24時間実施した。M(100℃)からM(R.T.)を差し引いた値は高温熱時の寸法安定性を表す指標である。また、M’(R.T.)からM(R.T.)を差し引いた値は、高温でのエージング後の寸法安定性変化を示す指標である。
【0090】
(製糸性)
ポリアミドポリマーを溶融紡糸し、紡糸された未延伸糸を多段延伸し、少なくとも1段目の延伸工程および最終延伸工程により延伸する工程において、下記実施例、比較例の通り製造を行った際の製糸切れ、毛羽量を下記の通り評価した。
S:1時間における製糸切れが0.1回未満であり、1万mにおける毛羽が1個未満である。
A:1時間における製糸切れが0.1回以上もしくは1万mにおける毛羽が1個以上である。
B:製糸切れが頻発し、原糸採取が不可能である。
【0091】
<エアバッグ>
(縫製部動的通気度)
実施例および比較例に記載の本体基布、縫製糸から構成される車両用エアバッグの袋体から、二重環縫いで縫製された縫製部を中心として左右15cm、短辺15cmの長方形となるようにサンプルを切り出す。袋体から十分なサイズを切り出せない場合は、本体基布から縦15cm×横15cmを2枚切り出し、コート布であればコート面を互いに向かい合わせで、一辺から内側1cmの部分を実施例または比較例に記載の縫製糸にて4.0回/cmで二重環縫いにて縫製し、縫糸両端を結ぶ。このようにして得られるサンプル片を開いて、TEXTEST社製FX3350を用い、充填圧250kPa、充填容量400ccにて縫製部を中心にして動的通気度(ADAP)測定を実施し、50kPa時の動的通気度(mm/s)を算出した。また、同様にして作製した別のサンプルについて、サンプル片を開いて、縫製部を中心にした基布端のそれぞれを15cm×5cmの把持治具を用いて15cmの治具間隔で縫製部を中心にして把持し、インストロン社製引張試験機において、100mm/minの速度にて引っ張り、1500Nの荷重をかけた後すぐに、同様にして動的通気度を測定した。なお、変化率は、次式
(変化率)[%]={(引張後のADAP)―(引張前のADAP)}/(引張後のADAP)×100
に沿って算出した。
【0092】
(縫製部破断伸度)
実施例および比較例に記載の本体基布、縫製糸から構成される車両用エアバッグの袋体から、本縫いで縫製された縫製部を中心として左右15cm、短辺4cmの長方形となるようにサンプルを切り出す。袋体から十分なサイズを切り出せない場合は、本体基布から縦15cm×横4cmを2枚切り出し、コート布であればコート面を互いに向かい合わせで、短辺から内側1cmの部分を実施例または比較例に記載の縫製糸にて4.0回/cmで本縫いにて縫製し、縫糸両端を結ぶ。このようにして作製したサンプル片について、サンプル片を開いて、縫製部を中心にした基布端のそれぞれを6cm×6cmの把持治具を用いて10cmの治具間隔で縫製部を中心にして把持し、インストロン社製引張試験機において、把持治具を含む恒温槽内を25℃および180℃環境に5分維持したのち、100mm/minの速度にて引っ張り、破断時の引張距離から、破断伸度を算出した。なお、変化率は、次式
(変化率)[%]={(180℃での破断伸度)―(25℃での破断伸度)}/(25℃での破断伸度)×100
に沿って算出した。
【0093】
(エアバッグ展開試験)
本体基布および縫製糸を用いた運転席用エアバッグ、(株)ダイセル製インフレーター(EE型、出力190kPa)、固定金具を使用し、モジュールを組み立てた。得られたモジュールを所定形状に折り畳み、25℃で展開試験を行い、展開時のバーストの有無、および縫製部のダメージを観察し、下記基準で評価した。なお、ここでいう縫製部のダメージとは、溶融などによる縫製糸切れ、縫製部の目開きや目繋がりである。
【0094】
(評価基準)
A:エアバッグはバーストせず、縫製部にダメージはほとんどなかった。
B:エアバッグはバーストしなかったが、縫製部にダメージがあった。
C:エアバッグは縫製部を起点としてバーストした。
【0095】
なお、運転席用エアバッグは次のとおりに作製した。準備した本体基布から、外径φ640mmの円形の本体パネル2枚と、外径φ240mmの円形の補強布パネル3枚を採取した。該本体パネル、補強布パネルの中心に、φ76mmのインフレーター取付け口を設けた。その後、該補強布パネル3枚と本体パネル1枚の取付け口を重ね合わせ、取付け口の中心からφ85mm、φ180mm、φ196mmの位置を、4.0回/cmの本縫いにて、円形に縫製した。その後、もう1枚の本体パネルを、上記4枚を重ねたパネルに、経糸方向が45度ずれるように重ね合わせ、取付け口の中心からφ610mmの位置を、4.0回/cmの二重環縫いにて、円形に縫製した。得られたバッグに固定金具との固定に必要なボルト穴を設けた後、補強布が内側になるようバッグを反転し、運転席用エアバッグとした。
【0096】
<実施例1>
(縫製糸の製造方法)
図1に示される製造工程を使用した。
【0097】
硫酸相対粘度3.9のポリアミド46チップ(Stanyl(登録商標)、融点292℃)に耐熱剤として酢酸銅の5重量%水溶液を添加して混合し、ポリマー重量に対し、銅として70ppm添加吸着させた。次に沃化カリウムの50重量%水溶液および臭化カリウムの20重量%水溶液をポリマー重量に対し、それぞれカリウムとして1000ppmとなるよう添加吸着させ、公知の乾燥設備にて、チップ水分率700ppmとなるように調整した。該ポリアミド46チップをエクストルーダー型紡糸機にて真空下、305℃で溶融した。溶融ポリマーはギヤポンプにて総繊度が1400dtexおよび940dtexとなるように計量した後、紡糸パック中で20μの金属不織布フィルターで濾過し、136ホール丸孔の口金から紡出した。口金面より3cm下には加熱筒長15cmの加熱筒を設置し、筒内雰囲気温度が300℃となるように加熱して、紡出糸条が300℃の雰囲気下を通過するようにした。筒内雰囲気温度とは、加熱筒長の中央部で、内壁から1cm離れた部分の空気温度のことである。
【0098】
加熱筒の直下には一方向から風を吹き付けるユニフロー型チムニーを取付け、加熱筒通過後の糸条に20℃の冷風を35m/分の速度で吹き付け冷却固化した後、給油装置にて糸条に油剤を付与した。
【0099】
油剤を付与された未延伸糸条を表面速度600m/分の速度で回転する1FRに捲回して引取った後、総合延伸倍率4.70倍で延伸を行った。引取り糸条は一旦巻き取ることなく連続して引取りローラと2FRとの間で5%のストレッチをかけた後、引き続いて回転速度比3.27倍で1段目の延伸、次いで回転速度比1.30倍で2段目の延伸を行い、最後に回転速度比1.05倍で3段目の最終延伸行い、2600m/分の速度で巻き取った。1FR、2FRのローラ表面は鏡面仕上げであり、1DR、2DR、3DR、RRは梨地仕上げとし、また各ローラ温度は、1FRは非加熱、2FRは80℃、1DRは175℃、2DRは180℃、3DRは230℃とし、RRは150℃とした。かかる溶融紡糸、延伸により1400dtexおよび940dtexのポリアミド46マルチフィラメントを得た。
【0100】
(本体基布の製造工程)
経糸および緯糸として、ポリアミド66マルチフィラメントからなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が6.5dtexの繊維72フィラメントで構成され、総繊度が470dtexであり、引張強力が8.46cN/dtex、伸度が23.5%、沸水収縮率が6.2%である無撚りの合成繊維フィラメントを準備した。
【0101】
上記の糸を地部糸として経糸、緯糸に用い、リングテンプルを備えるウォータージェット織機を使用して、経糸の織密度45本/2.54cm、緯糸の織密度47本/2.54cmの平織物を製織した。
【0102】
その際、織物の両方の耳部には絡み糸、増し糸を使用した。絡み糸としては、円形の断面形状を有し、22detex、引張強力が4.80cN/dtex、伸度が47.5%、沸水収縮率10.5%のポリアミド66モノフィラメントを使用し、両方の耳部に2本ずつ、遊星装置から供給した。増し糸は、絡み糸と同様の22dtexのポリアミド66モノフィラメントを使用し、両方の耳部に4本ずつ、ボビンから供給した。
【0103】
次いで、得られた織物を、オープンソーパー型精練機にて65℃で精練し、40℃で湯洗いし、120℃で織物を乾燥させた。さらに、ピンテンター乾燥機を用いて、乾燥後の織物幅と同じ幅になるよう幅出し率を設定し、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、180℃にて60秒間、織物を熱セットした。
【0104】
次いでこの織物の片面に、フローティングナイフコーターにより、粘度50Pa・sの無溶系シリコーン樹脂25g/m2を塗布した。続いて、このコート織物をピンテンター内にて180℃で2分間乾燥を行った。このようにして得られた織物の織密度は、経糸の織密度47本/2.54cm、緯糸の織密度47本/2.54cmであった。
【0105】
(エアバッグの製造方法)
前記本体基布から、外径640mmの円形の本体パネル2枚と、外径240mmの円形の補強布パネル3枚を採取した。本体パネルおよび補強布パネルの中心に、径76mmのインフレーター取付け口を設けた。本体パネルには、取付け口の中心から斜め上45度の線上の250mmの位置に排気孔(径20mm)を2箇所設けた。その後、補強布パネル3枚と本体パネル1枚の取付け口を重ね合わせ、取付け口の中心から径85mm、径180mm、径196mmの位置を、上糸に前記縫製糸1400dtexを、下糸に前記縫製糸940dtexを用い、ピッチ数4.0回/cmの本縫いにて、円形に縫製した。その後、もう1枚の本体パネルを、上記4枚を重ねたパネルに、経糸方向が45度ずれるように重ね合わせ、取付け口の中心から径610mmの位置を、上糸に前記縫製糸1400dtexを、下糸に前記縫製糸940dtexを用い、ピッチ数4.0回/cm、針間2.4mmの二重環縫いにて、円形に縫製した。得られたバッグに固定金具との固定に必要なボルト穴を設けた後、補強布が内側になるようバッグを反転し、運転席用エアバッグとした。
【0106】
<実施例2>
縫製糸に用いるポリアミド46マルチフィラメントについて、紡糸時の3段目延伸倍率(最終延伸倍率)を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0107】
<実施例3~4>
縫製糸に用いるポリアミド46マルチフィラメントについて、総合延伸倍率および最終延伸倍率を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0108】
<実施例5>
ポリアミド46チップの準備時において耐熱剤(酢酸銅、沃化カリウムおよび臭化カリウム)を添加しないこと以外は実施例1と同様に行った。
【0109】
<実施例6>
本体基布に用いる織物について、合成繊維のフィラメント数を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0110】
<実施例7>
本体基布に用いる織物について、バーテンプルを備えるウォータージェット織機を使用して製織し、織密度を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0111】
<実施例8>
経糸および緯糸として、ポリアミド66マルチフィラメントからなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が6.5dtexの繊維108フィラメントで構成され、総繊度が700dtexであり、引張強力が8.35cN/dtex、伸度が24.0%、沸水収縮率が7.0%である無撚りの合成繊維フィラメントを使用し、織密度を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0112】
<実施例9>
経糸および緯糸として、ポリアミド66マルチフィラメントからなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が2.6dtexの繊維136フィラメントで構成され、総繊度が350dtexであり、引張強力が8.47cN/dtex、伸度が23.5%、沸水収縮率が6.2%である無撚りの合成繊維フィラメントを使用し、織密度を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0113】
<比較例1~2>
縫製糸に用いるポリアミド46マルチフィラメントについて、紡糸時の最終延伸倍率を表2の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。なお、比較例2においては、縫製糸に用いることのできるポリアミド46マルチフィラメントを採取できなかった。
【0114】
<比較例3>
エクストルーダー型紡糸機での溶融紡糸を常圧下で実施したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0115】
<比較例4~5>
縫製糸に用いるポリアミド46マルチフィラメントについて、紡糸時の総合延伸倍率を表2の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。なお、比較例5においては、縫製糸に用いることのできるポリアミド46マルチフィラメントを採取できなかった。
【0116】
<比較例6>
縫製糸に用いるポリアミド46マルチフィラメントの総繊度を表2の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0117】
<比較例7>
経糸および緯糸として、ポリアミド66マルチフィラメントからなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が3.3dtexの繊維72フィラメントで構成され、総繊度が235dtexであり、引張強力が8.41cN/dtex、伸度が24.0%、沸水収縮率が6.2%である無撚りの合成繊維フィラメントを使用し、織密度を表2の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0118】
<比較例8>
硫酸相対粘度3.8のポリアミド66ポリマーを、エクストルーダー型紡糸機を用いて真空下、280℃で溶融紡糸したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0119】
<比較例9>
硫酸相対粘度3.8のポリアミド6ポリマーを、エクストルーダー型紡糸機を用いて真空下、260℃で溶融紡糸したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0120】
【0121】
【0122】
実施例1~9および比較例1~9において得られた縫製糸および本体基布について、前記の評価を実施した結果を表1及び2に示す。
【0123】
表1及び2に記載のとおり、実施例1~9において縫製糸として用いたポリアミド46マルチフィラメントは高強度であり、かつ熱寸法安定性が高く、優位なストレッチ性を発揮したため、縫製部が優れた低通気性を有し、高温時の破断伸度の変化率も小さく、その結果エアバッグ展開試験評価も良好であった。
【0124】
一方、比較例8、9に示される従来の脂肪族ポリアミドマルチフィラメントは高強度であるもののストレッチ性は低く、かつ熱時の寸法安定性が十分ではない。そのため、縫製部の動的通気度および破断伸度の変化率が大きく、展開試験においてバーストする結果となった。
比較例1のように、高強度のポリアミド46マルチフィラメントを製造する際には最終延伸工程での最終延伸倍率が1.10を超えると、非晶部の配向度が高くなるため、熱収縮しやすいマルチフィラメントとなる。そのため、高温熱時の寸法安定性M(100℃)-M(R.T.)が0.5
を超えることが確認された。一方、比較例2では最終延伸工程での最終延伸倍率が1.0に満たないため、糸切れが頻発し、原糸採取が困難であった。
【0125】
また、比較例3では、常圧下での溶融により加水分解が促進され、結晶配向性の低いマルチフィラメントとなる。そのため、高強度のマルチフィラメントを得ることができず、ストレッチ性についても不利となり、展開試験において縫製部にダメージを生じた。
【0126】
実施例2、3および比較例4は、ポリアミド46マルチフィラメントの結晶構造を制御した例であるが、低倍率延伸にシフトするほど結晶配向性は小さくなり、ストレッチ性に影響が確認された。しかし、比較例4では高強度のマルチフィラメントを得ることができず、ストレッチ性についても不利となり、展開試験において縫製部にダメージを生じた。実施例2、4および比較例5については同様に、高倍率延伸にシフトするほど非晶部配向性が大きくなり、高温熱時の寸法安定性に影響が確認された。比較例5については、高倍率での延伸となることで、製糸性が悪化し、原糸採取が困難であった。
【0127】
比較例6、7では縫製糸および本体基布の繊度に低繊度を使用したため、縫製部の物性が優れず、結果として展開試験でバーストした。
本発明に係る車両用エアバッグは、高強度かつ熱時の寸法安定性および優れたストレッチ性を備えた縫製糸と、この縫製糸に適切なエアバッグ本体基布とを組み合わることで、エアバッグ展開時において、エアバッグ本体基布同士を縫製している縫製部が低通気性に優れる。そのため、エアバッグ展開時に力や熱が集中した場合でも、縫製糸が破断したり、縫製部が目開きしにくく、これにより袋体が十分に膨張できなかったり、該部分を起点に破袋する問題が生じにくいエアバッグの提供が可能となる。