(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126655
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】塑性締結方法及び塑性締結構造
(51)【国際特許分類】
B21D 39/00 20060101AFI20240912BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20240912BHJP
B21D 39/06 20060101ALI20240912BHJP
B21J 5/06 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B21D39/00 B
F16D1/06 210
B21D39/06 A
B21J5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035197
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 庸一
(72)【発明者】
【氏名】木村 喬志
(72)【発明者】
【氏名】野津 健太郎
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA10
4E087CA17
4E087CA27
4E087CA33
4E087CA52
4E087CC01
4E087HA01
4E087HA17
4E087HA31
4E087HA82
4E087HB02
(57)【要約】
【課題】回転部材と軸部材との塑性締結による嵌合固定において回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止する。
【解決手段】中空又は中実の軸部材を回転部材に形成された孔に圧入し、軸部材の外周面又は回転部材の孔の内周面の一方に形成された歯部へ軸部材の外周面又は回転部材の孔の内周面の他方を構成する材料の一部を流入させることにより、軸部材と回転部材とを回転方向において相互に固定する塑性締結方法において、上記圧入により、軸部材の軸方向における歯部とは異なる位置において、軸部材の外周面又は回転部材の孔の内周面の他方を構成する材料の一部を、軸部材の外周面又は回転部材の孔の内周面の一方に形成された凹部に流入させることにより、軸部材と回転部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部を一体的に形成する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入し、前記回転部材の前記孔の内周面又は前記軸部材の外周面の一方に形成された歯部へ前記回転部材の前記孔の前記内周面又は前記軸部材の前記外周面の他方を構成する材料の一部を流入させることにより、前記回転部材と前記軸部材とを回転方向において相互に固定する塑性締結方法であって、
前記圧入により、前記軸部材の軸方向における前記歯部とは異なる位置において、前記回転部材の前記孔の前記内周面又は前記軸部材の前記外周面の前記他方を構成する材料の一部を、前記回転部材の前記孔の前記内周面又は前記軸部材の前記外周面の前記一方に形成された凹部に流入させることにより、前記回転部材と前記軸部材とを前記軸部材の前記軸方向において相互に固定する部分である係止部を一体的に形成する、
ことを特徴とする、塑性締結方法。
【請求項2】
請求項1に記載された塑性締結方法であって、
前記軸部材の硬度が前記回転部材の硬度よりも高く、
前記軸部材は、先端部に形成され且つ所定の外径である第1外径を有する部分である小径部と、基端側に形成され且つ前記第1外径よりも大きい所定の外径である第2外径を有する部分である大径部と、前記小径部と前記大径部との間に形成され且つ前記第1外径以下の所定の外径である第3外径を有し且つ前記軸部材の径方向における内側に向かって広がる空隙である第2空隙が前記凹部として形成された部分である括れ部と、を有し、
前記軸部材の前記小径部の外周面に前記歯部が形成されており、
前記圧入の過程において、前記軸部材の前記大径部の先端側の端面によって前記回転部材の前記孔の前記周縁部が押圧されることにより前記回転部材の前記孔の前記内周面を構成する材料の一部が前記第1空隙へ塑性流動して前記係止部が形成される、
ことを特徴とする、塑性締結方法。
【請求項3】
請求項2に記載された塑性締結方法であって、
前記軸部材の前記大径部の前記先端側の前記端面の少なくとも一部の法線ベクトルが前記軸部材の軸を含む直線に近付く成分を有する、
ことを特徴とする、塑性締結方法。
【請求項4】
請求項1に記載された塑性締結方法であって、
前記回転部材の硬度が前記軸部材の硬度よりも高く、
前記回転部材の前記孔が、貫通しておらず底面を有する有底孔として形成されており、
前記回転部材の前記有底孔の前記内周面に前記歯部が形成されており、
前記回転部材の前記有底孔の前記底面に隣接する内周面には前記軸部材の径方向における外側に向かって広がる空隙である第2空隙が前記凹部として形成されており、
前記圧入の過程において、前記軸部材の先端部が前記有底孔の前記底面に当接して前記有底孔の前記底面に押し付けられることにより前記軸部材の前記先端部を構成する材料が前記第2空隙へ塑性流動して前記係止部が形成される、
ことを特徴とする、塑性締結方法。
【請求項5】
請求項4に記載された塑性締結方法であって、
前記回転部材の前記有底孔の前記底面の少なくとも一部の法線ベクトルが前記軸部材の軸を含む直線から遠ざかる成分を有する、
ことを特徴とする、塑性締結方法。
【請求項6】
回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材が圧入されており、前記回転部材の前記孔の内周面又は前記軸部材の外周面の一方に形成された歯部へ前記回転部材の前記孔の前記内周面又は前記軸部材の前記外周面の他方を構成する材料の一部が流入することにより、前記回転部材と前記軸部材とが回転方向において相互に固定されている塑性締結構造であって、
前記軸部材の軸方向における前記歯部とは異なる位置において、前記回転部材の前記孔の前記内周面又は前記軸部材の前記外周面の前記一方に形成された凹部に充填された前記回転部材の前記孔の前記内周面又は前記軸部材の前記外周面の前記他方を構成する材料の一部によって、前記回転部材と前記軸部材とを前記軸部材の前記軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成されている、
ことを特徴とする、塑性締結構造。
【請求項7】
請求項6に記載された塑性締結構造であって、
前記軸部材の硬度が前記回転部材の硬度よりも高く、
前記軸部材は、先端部に形成され且つ所定の外径である第1外径を有する部分である小径部と、基端側に形成され且つ前記第1外径よりも大きい所定の外径である第2外径を有する部分である大径部と、前記小径部と前記大径部との間に形成され且つ前記第1外径以下の所定の外径である第3外径を有し且つ前記軸部材の径方向における内側に向かって広がる空隙である第1空隙が前記凹部として形成された部分である括れ部と、を有し、
前記軸部材の前記小径部の外周面に前記歯部が形成されており、
前記第1空隙に充填された前記回転部材の前記孔の内周面を構成する材料の一部によって前記係止部が形成されている、
ことを特徴とする、塑性締結構造。
【請求項8】
請求項7に記載された塑性締結構造であって、
前記軸部材の前記大径部の先端側の端面の少なくとも一部の法線ベクトルが前記軸部材の軸を含む直線に近付く成分を有する、
ことを特徴とする、塑性締結構造。
【請求項9】
請求項6に記載された塑性締結構造であって、
前記回転部材の硬度が前記軸部材の硬度よりも高く、
前記回転部材の前記孔が、貫通しておらず底面を有する有底孔として形成されており、
前記回転部材の前記有底孔の前記内周面に前記歯部が形成されており、
前記回転部材の前記有底孔の前記底面に隣接する内周面には前記軸部材の径方向における外側に向かって広がる空隙である第2空隙が前記凹部として形成されており、
前記軸部材の先端部を構成する材料によって前記第2空隙が充填されることにより前記係止部が形成されている、
ことを特徴とする、塑性締結構造。
【請求項10】
請求項9に記載された塑性締結構造であって、
前記回転部材の前記有底孔の前記底面の少なくとも一部の法線ベクトルが前記軸部材の軸を含む直線から遠ざかる成分を有する、
ことを特徴とする、塑性締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性締結方法及び塑性締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば歯車、プーリ及びパイプ等の回転部材に形成された孔に中空又は中実のシャフト等の軸部材を嵌合させて固定する際に回転部材又は軸部材の何れか一方の嵌合面に例えばスプライン等の凹凸部を設けた上で他方と嵌合させることが知られている。これによれば、回転部材に形成された孔に軸部材を嵌合させる際に凹凸部が設けられていない他方側の材料が塑性流動を生じて凹凸部を充たすことにより、回転部材と軸部材とが強固に固定される。このような締結は「塑性締結」又は「塑性結合」等と称される。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平11-320274号公報)には、セレーション状の結合溝が外周面に形成された第2の金属管を第1の金属管の内部に圧入することにより嵌合面において押圧された第1の金属管の材料を結合溝の方向に塑性流動させて両者を塑性結合することが開示されている。これによれば、金属管同士或いは金属管と金属棒とを高い同軸精度にて結合することができるとされている。
【0004】
また、特許文献2(特開2007-301627号公報)には、縮径円筒面と拡径円筒面とが嵌合面に連続的に形成された第1歯車と、拡径円筒面に摺接する円筒面と縮径円筒面に食い込むスプライン歯とが連続的に嵌合面に形成された第2歯車とを、拡径円筒面と円筒面とを圧入時のガイド面として利用して、スプライン歯を縮径円筒面に食込ませながら第1歯車と第2歯車とを圧入して嵌合させることが開示されている。これによれば、十分な接合強度と優れた同軸度とを有する塑性締結部品を得ることができるとされている。
【0005】
更に、特許文献3(特開2008-157273号公報)には、ベルト式無段変速機(CVT)を構成するプーリ軸を固定シーブに圧入する際に固定シーブの内部空間部(中心孔)の内周面に設けられた規制部(凸部)によってプーリ軸の外周面に設けられた塑性変形部(空間部に隣接する凸部)を塑性変形させる塑性締結方法が開示されている。これによれば、プーリ軸と固定シーブとの接触面積を増大させること無く両者の間におけるトルク伝達を向上させることができるとされている。
【0006】
以上のように、回転部材同士及び/又は回転部材と軸部材との嵌合固定において、塑性流動を利用した固定、即ち、塑性締結が多用されている。しかしながら、これらの従来技術においては、回転方向における保持力は高いものの、軸方向における嵌合部の抜けに対する配慮がなされていないため、条件によっては軸方向における嵌合部の抜けが懸念される。軸方向における嵌合部の抜けを防止するための方策としては、回転部材同士及び/又は回転部材と軸部材とを、例えば溶接又はボルト等の締結部材によって相互に固定すること等を挙げることができる。しかしながら、このような方策は、工数及び/又は部品点数の増大を招くのみならず、軸周りにおける質量分布が不均一となるので、回転体としての用途には相応しくない。
【0007】
尚、特許文献3(特開2008-157273号公報)に開示された塑性締結方法によってプーリ軸に嵌合固定された固定シーブは、規制部と塑性変形部との当接及び相互のテーパ部同士の当接により、挿入方向(特許文献3の
図1における矢印Eの方向)への抜けは防止されている。しかしながら、挿入方向とは反対の方向への抜けに対する配慮はなされていない。
【0008】
以上のように、当該技術分野においては、回転部材同士及び/又は回転部材と軸部材との塑性締結による嵌合固定において回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することが可能な技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-320274号公報
【特許文献2】特開2007-301627号公報
【特許文献3】特開2008-157273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、当該技術分野においては、回転部材同士及び/又は回転部材と軸部材との塑性締結による嵌合固定において回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することが可能な技術が望まれている。尚、以下の説明においては、特に断りの無い限り、回転部材同士を塑性締結する場合であっても、一方の回転部材に形成された孔に圧入される他方の回転部材についても「軸部材」と称呼するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明者は、鋭意研究の結果、歯部が形成された嵌合部への圧入により回転部材と軸部材とを相互に固定する塑性締結方法において、回転部材又は軸部材の何れか一方を構成する材料を他方に形成された凹部に流入させることにより、回転部材と軸部材とを回転方向のみならず軸方向においても相互に固定することができることを見出した。
【0012】
具体的には、本発明に係る塑性締結方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入し、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の一方に形成された歯部へ回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の他方を構成する材料の一部を流入させることにより、回転部材と軸部材とを回転方向において相互に固定する塑性締結方法である。
【0013】
更に、本発明方法においては、上記圧入により、軸部材の軸方向における歯部とは異なる位置において、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の上記他方を構成する材料の一部を、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の上記一方に形成された凹部に流入させる。これにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部を一体的に形成する。
【0014】
また、本発明に係る塑性締結構造(以降、「本発明構造」と称呼される場合がある。)は、上述した本発明方法によって形成される回転部材と軸部材との塑性締結構造である。具体的には、本発明構造は、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材が圧入され、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の一方に形成された歯部へ回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の他方を構成する材料の一部が流入することにより、回転部材と軸部材とが回転方向において相互に固定されている塑性締結構造である。
【0015】
更に、本発明構造においては、軸部材の軸方向における歯部とは異なる位置において、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の上記他方を構成する材料の一部が、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の上記一方に形成された凹部を充たしている。これにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、上述したように、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入して塑性締結を行う際に、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の他方を構成する材料の一部を回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の一方に形成された凹部に流入させる。これにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部を一体的に形成することができる。
【0017】
従って、本発明によれば、回転部材と軸部材との塑性締結による嵌合固定において回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することができる。
【0018】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第2実施態様に係る塑性締結方法(第2方法)において回転部材に形成された孔への軸部材の圧入に伴って係止部が形成される過程の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】第2方法において回転部材に形成された孔への軸部材の圧入に伴って係止部が形成される過程の一例を示す、軸部材の軸を含む平面によって切断された状態における模式的な斜視図である。
【
図3】第2方法において使用される軸部材の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図4】第2方法において使用される回転部材の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図5】本発明の第4実施態様に係る塑性締結方法(第4方法)において回転部材に形成された孔への軸部材の圧入に伴って係止部が形成される過程の一例を示す模式的な断面図である。
【
図6】第4方法において回転部材に形成された孔への軸部材の圧入に伴って係止部が形成される過程の一例を示す、軸部材の軸を含む平面によって切断された状態における模式的な斜視図である。
【
図7】第4方法において使用される回転部材の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図8】第4方法において使用される軸部材の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図9】第4方法において回転部材に形成された有底孔への圧入が完了した時点における軸部材の先端部の近傍を異なる角度から観察した場合における模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係る塑性締結方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0021】
〈構成〉
第1方法は、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入し、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の一方に形成された歯部へ回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の他方を構成する材料の一部を流入させることにより、回転部材と軸部材とを回転方向において相互に固定する塑性締結方法である。
【0022】
本明細書の冒頭において延べたように、回転部材の具体例としては、例えば歯車、プーリ、パイプ等を挙げることができる。また、軸部材の具体例としては、例えば中空又は中実のシャフト等を挙げることができる。当業者に周知であるように、上記のような回転部材と軸部材とを塑性締結によって相互に固定する場合、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の何れか一方に例えばスプライン等の凹凸部を歯部として形成しておく。そして、回転部材に形成された孔に軸部材を圧入することにより、回転部材又は軸部材のうち歯部が形成されない方(他方)を形成する材料の一部を歯部に流入させる。従って、回転部材又は軸部材のうち歯部が形成される方(一方)の硬度は回転部材又は軸部材のうち歯部が形成されない方(他方)の硬度よりも高い必要がある。これにより、回転部材と軸部材とを回転方向において相互に固定することができる。
【0023】
更に、第1方法においては、上記圧入により、軸部材の軸方向における歯部とは異なる位置において、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の上記他方を構成する材料の一部を、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の上記一方に形成された凹部に流入させる。即ち、回転部材に形成された孔に軸部材を圧入する過程において、回転部材又は軸部材のうち歯部が形成されない方(他方)を構成する材料の一部が塑性流動して、回転部材又は軸部材のうち歯部が形成される方(一方)に形成された凹部を充たす。
【0024】
上記のようにして、回転部材又は軸部材のうち歯部が形成されない方(他方)の一部が突出して回転部材又は軸部材のうち歯部が形成される方(一方)に形成された凹部に嵌合した部分(係止部)が形成される。従って、回転部材に形成された孔への軸部材の圧入が完了した時点以降は、回転部材から軸部材を抜き取ることができなくなる。即ち、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成される。
【0025】
尚、第1方法の具体的な態様については、本発明の他の実施形態に関する説明において詳しく後述する。
【0026】
〈効果〉
第1方法においては、上述したように、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入して塑性締結を行う際に、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の他方を構成する材料の一部を回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の一方に形成された凹部に流入させる。これにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部を一体的に形成することができる。
【0027】
従って、第1方法によれば、回転部材と軸部材との塑性締結による嵌合固定において回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することができる。
【0028】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係る塑性締結方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0029】
〈構成〉
第2方法は、前述した第1方法であって、軸部材の硬度が回転部材の硬度よりも高いことを特徴とする塑性締結方法である。軸部材の硬度を回転部材の硬度よりも高くするための方策は特に限定されない。例えば、素材として相対的に高い硬度を有する材料によって構成された軸部材と素材として相対的に低い硬度を有する材料によって構成された回転部材とを組み合わせてもよい。或いは、例えば同じ材料又は素材としての硬度に大きな差が無い異なる材料であっても、加工硬化及び/又は焼き入れ等の硬化処理の有無若しくは程度の違いにより硬度に差異を生じさせてもよい。この場合、相対的に高い硬度を有する方の材料によって構成された軸部材と相対的に低い硬度を有する方の材料によって構成された回転部材とを組み合わせることができる。
【0030】
また、軸部材は、小径部と大径部と括れ部とを有する。小径部は、軸部材の先端部に形成され且つ所定の外径である第1外径を有する部分である。大径部は、軸部材の基端側に形成され且つ第1外径よりも大きい所定の外径である第2外径を有する部分である。括れ部は、小径部と大径部との間に形成され且つ第1外径以下の所定の外径である第3外径を有し且つ軸部材の径方向における内側に向かって広がる空隙である第1空隙が前述した凹部として形成された部分である。更に、軸部材の小径部の外周面には前述した歯部が形成されている。
【0031】
軸部材が有する小径部、大径部及び括れ部並びに歯部及び第1空隙の具体的な形状及び大きさは、例えば軸部材と回転部材との組み合わせによって構成される構造体の用途において要求される機械的強度及び/又は寸法等に応じて適宜定められる。また、括れ部の外径である第3外径は、上記のように、小径部の外径である第1外径以下の所定の外径である。
【0032】
第3外径が第1外径に等しい場合、第1空隙は括れ部の外周面に開口し且つ所定の深さ(径方向における長さ)を有する孔として形成される。このように形成される第1空隙の具体的な構成は、回転部材の孔の内周面を構成する材料の一部が当該第1空隙へと塑性流動して前述した係止部が形成されて回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定することが可能である限り特に限定されない。
【0033】
例えば、第1空隙は、括れ部の外周面に開口し且つ所定の深さを有する1つ以上の孔として構成されてもよい。但し、回転体としての用途を考慮すると、軸周りにおける質量分布が軸を中心とする回転対称となるように第1空隙を構成することが好ましい。また、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互により強固に固定する観点からは、括れ部の外周面に開口し且つ所定の深さを有し且つ括れ部の外周面の全周に亘る環状の孔として第1空隙を構成することが好ましい。
【0034】
一方、第3外径が第1外径よりも小さい場合は、括れ部の外周面を底面とし且つ小径部の基端側の端面及び大径部の先端側の端面を側面とする環状の溝を第1空隙とすることができる。更に、環状の溝の底面である括れ部の外周面に開口し且つ所定の深さを有する1つ以上の孔を設けてもよい。この場合も、回転体としての用途を考慮すると、軸周りにおける質量分布が軸を中心とする回転対称となるように当該孔を構成することが好ましい。また、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互により強固に固定する観点からは、環状の溝の底面である括れ部の外周面に開口し且つ所定の深さを有し且つ括れ部の外周面の全周に亘る環状の孔として当該孔を構成することが好ましい。
【0035】
加えて、前述した圧入の過程において、軸部材の大径部の先端側の端面によって回転部材の孔の周縁部が押圧されることにより回転部材の孔の内周面を構成する材料の一部が第1空隙へと塑性流動して前述した係止部が形成される。
【0036】
上記のように回転部材に形成された孔への軸部材の圧入の過程において軸部材の大径部の先端側の端面によって回転部材の孔の周縁部が押圧されるためには、軸部材の大径部の先端側の端面が回転部材の孔の周縁部に当接した時点以降も軸部材が圧入方向に移動可能である必要がある。斯かる要件を満足するための方策としては、例えば、回転部材に形成された孔の軸方向における長さ(深さ)を軸部材の小径部と括れ部とからなる部分の軸方向における長さよりも大きくすること等を挙げることができる。
【0037】
上記のようにして軸部材の大径部の先端側の端面によって回転部材の孔の周縁部が押圧されると、回転部材の孔の周縁部を構成する材料の塑性流動が生じ、凹部として形成された部分である第1空隙へと流れ込む。その結果、第1空隙に充填された材料によって形成された凸部と凹部である第1空隙との嵌合構造としての係止部が一体的に形成され、当該係止部により回転部材と軸部材とが軸部材の軸方向において相互に固定される。即ち、軸方向における嵌合部の抜けが防止される。
【0038】
図1及び
図2は、それぞれ、第2方法において回転部材に形成された孔への軸部材の圧入に伴って係止部が形成される過程の一例を示す模式的な断面図及び斜視図である。
図1及び
図2の(a)は、回転部材10に形成された孔11への軸部材20の圧入が開始される前の状態を例示する。
図1及び
図2の(b)は、回転部材10に形成された孔11への軸部材20の圧入が開始され、軸部材20の大径部20Lの先端側(図面に向かって下側)の端面が孔11の周縁部に当接した状態を例示する。
図1及び
図2の(c)は第2方法において回転部材10に形成された孔11への軸部材20の圧入が完了した状態を例示する。
【0039】
図1及び
図2に例示するように、第2方法は、前述した第1方法と同様に、回転部材10に形成された孔11に軸部材20を圧入し、軸部材20の外周面に形成された歯部21へ孔11の内周面を構成する材料の一部を流入させることにより、回転部材10と軸部材20とを回転方向において相互に固定する塑性締結方法である。更に、上記圧入により、軸部材20の軸AXに平行な方向における歯部21とは異なる位置において、孔11の内周面を構成する材料の一部を軸部材20の外周面に形成された凹部22に流入させることにより、回転部材10と軸部材20とを軸部材20の軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成される。
【0040】
図3は、第2方法において使用される軸部材の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
図3においては、軸部材の構成を判り易く表示することを目的として、軸を含む平面によって切断された軸部材が描かれている。
図1及び
図2の(a)並びに
図3に例示するように、軸部材20は、小径部20Sと大径部20Lと括れ部20Nとを有する。
【0041】
小径部20Sは、軸部材20の先端部に形成され且つ所定の外径である第1外径DO1を有する部分である。大径部20Lは、軸部材20の基端側に形成され且つ第1外径DO1よりも大きい所定の外径である第2外径DO2を有する部分である(DO2>DO1)。括れ部20Nは、小径部20Sと大径部20Lとの間に形成され且つ第1外径D01以下の所定の外径である第3外径DO3を有し且つ軸部材20の径方向における内側に向かって広がる環状の空隙である第1空隙22が前述した凹部として形成された部分である。更に、軸部材20の小径部20Sの外周面には、前述した歯部21が形成されている。
【0042】
図1及び
図2の(b)は、上述したように、回転部材10に形成された孔11への軸部材20の圧入が開始され、軸部材20の大径部20Lの先端側(図面に向かって下側)の端面が孔11の周縁部に当接した状態を例示する模式図である。上述したように、第2方法においては、軸部材20の硬度が回転部材10の硬度よりも高い。従って、軸部材20の孔11への圧入に伴い、軸部材20の小径部20Sの外周面に形成された歯部21へ孔11の内周面を構成する材料の一部が流入することにより、回転部材10と軸部材20とが回転方向において相互に固定されている。
【0043】
尚、
図1及び
図2の(b)に例示するように、この時点においては、軸部材20の小径部20Sの先端と孔11の底面とは当接しておらず、両者の間には空隙がある。即ち、孔11の軸AXに平行な方向における長さ(深さ)は軸部材20の小径部20Sと括れ部20Nとからなる部分の軸AXに平行な方向における長さよりも大きい。従って、
図1の(b)に例示する時点以降も、図示しない駆動装置によって軸部材20を圧入方向に移動させて、回転部材10に形成された孔11への軸部材20の圧入を完了させることが可能である。
【0044】
図1及び
図2の(c)は、上述したように、第2方法において回転部材10に形成された孔11への軸部材20の圧入が完了した状態を例示する模式図である。この状態は、軸部材20の大径部20Lの先端側の端面が回転部材10に形成された孔11の周縁部に当接した時点以降も軸部材20を圧入方向に移動させ続けた結果として、軸部材20の小径部20Sの先端と孔11の底面とが当接した状態である。
【0045】
図4は、第2方法において使用される回転部材の構成の一例を示す模式的な斜視図であり、(a)は軸部材の圧入が開始される前の時点における回転部材の形状を、(b)は軸部材の圧入が完了した時点における回転部材の形状を、それぞれ例示している。
図1及び
図2の(b)に例示した時点から
図1及び
図2の(c)に例示する時点までの期間においては、軸部材20の大径部20Lの先端側の端面によって孔11の周縁部が押圧される。これにより、
図1及び
図2の(c)に例示するように、回転部材10の孔11の内周面を構成する材料の一部が第1空隙22へと塑性流動して、当該材料によって第1空隙22が充填される(
図1の(c)に描かれた太い実線の矢印を参照)。
【0046】
上記の結果、第1空隙22に充填された当該材料によって形成された環状の凸部12(
図4の(b)を参照)と環状の凹部である第1空隙22との嵌合構造としての係止部が一体的に形成され(
図1及び
図2の(c)において太い破線によって囲まれた部分を参照)、当該係止部により回転部材10と軸部材20とが軸部材の軸AXに平行な方向において相互に固定される。即ち、軸方向における嵌合部の抜けが防止される。
【0047】
尚、
図1乃至
図3に示した例においては、軸部材20の小径部20S及び小径部20Sの外周面に形成された歯部21の外径が先端に近付くにつれて増大している。しかしながら、回転部材10に形成された孔11への軸部材20の圧入時における加工荷重が過大にならない限りにおいて、軸部材20の小径部20S及び歯部21の形状は上記に限定されるものではない。例えば、軸部材20の小径部20S及び歯部21の外径は、軸方向における全長に亘って一定であってもよく、或いは先端に近付くにつれて減少してもよい。
【0048】
〈効果〉
第2方法においては、上述したように、回転部材に形成された孔に軸部材を圧入して塑性締結を行う際に、回転部材の孔の内周面を構成する材料の一部を軸部材の括れ部に形成された凹部としての第1空隙に流入させる。これにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部を一体的に形成することができる。従って、第2方法によれば、回転部材と軸部材との塑性締結による嵌合固定において回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することができる。
【0049】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第3実施形態に係る塑性締結方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0050】
図1乃至
図3に示した例においては、軸部材20の大径部20Lの先端側(図面に向かって下側)の端面の回転部材10に形成された孔11の周縁部に対向する領域が軸部材20の軸AXに近付くほど深くなるように窪んでいる。換言すれば、当該領域は軸部材20の小径部20Sに向かって凹状の形状を有している。更に換言すれば、当該領域の法線ベクトルは軸部材20の軸AXを含む直線に近付く成分を有している。
【0051】
従って、軸部材20の大径部20Lの先端側の端面によって孔11の周縁部が押圧される際には、軸部材20の大径部20Lの先端側の端面の全体が軸部材20の軸AXに対して垂直な平面である場合に比べて、孔11の周縁部を構成する材料が軸部材20の軸AXに向かってより強く押圧される。その結果、孔11の内周面を構成する材料を軸部材20の括れ部20Nに形成された凹部22へとより積極的に流入させて、回転部材10と軸部材20とを軸部材20の軸AXに平行な方向において相互に固定する部分である係止部をより確実に形成することができる。
【0052】
〈構成〉
そこで、第3方法は、前述した第2方法であって、軸部材の大径部の先端側の端面の少なくとも一部の法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線に近付く成分を有することを特徴とする塑性締結方法である。
【0053】
尚、上記「法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線に近付く成分を有する部分」の具体的な形状は、軸部材の大径部の先端側の端面の全体が軸部材の軸に対して垂直な平面である場合に比べて回転部材に形成された孔の周縁部を構成する材料を軸部材の軸に向かってより強く押圧することが可能である限り、特に限定されない。例えば、軸部材の軸を含む平面による断面において、当該部分は、軸部材の軸を含む直線を挟んで互いに対向する曲線(例えば、円弧又は放物線の一部等)であってもよく、或いは軸部材の軸を含む直線を挟んで互いに対向する直線であってもよい。後者の場合、当該部分は、
図1乃至
図3に例示したように、軸部材の軸を含む直線を中心軸とする円錐台の側面のような形状を有する部分である。
【0054】
〈効果〉
以上のように、第3方法においては、軸部材の大径部の先端側の端面の少なくとも一部の法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線に近付く成分を有する。従って、第3方法においては、軸部材の大径部の先端側の端面の全体が軸部材の軸に対して垂直な平面である場合に比べて、回転部材に形成された孔の周縁部を構成する材料を軸部材の軸に向かってより強く押圧することができる。その結果、第3方法によれば、回転部材に形成された孔の内周面を構成する材料の一部を軸部材の括れ部に形成された凹部としての第1空隙へとより積極的に流入させて、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部をより確実に形成することができる。
【0055】
《第4実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第4実施形態に係る塑性締結方法(以降、「第4方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0056】
本発明の前述した第2実施形態及び第3実施形態に係る塑性締結方法においては、軸部材の硬度が回転部材の硬度よりも高く、歯部及び凹部が軸部材に形成されており、これらの歯部及び凹部に回転部材を構成する材料が流入することにより、軸部材と回転部剤とが相互に固定される。しかしながら、硬度の高低並びに歯部及び凹部の配置が上記とは逆であっても本発明による効果を達成することができる。
【0057】
〈構成〉
即ち、第4方法は、前述した第1方法であって、回転部材の硬度が軸部材の硬度よりも高いことを特徴とする塑性締結方法である。回転部材の硬度を軸部材の硬度よりも高くするための方策もまた特に限定されない。例えば、素材として相対的に高い硬度を有する材料によって構成された回転部材と素材として相対的に低い硬度を有する材料によって構成された軸部材とを組み合わせてもよい。或いは、例えば同じ材料又は素材としての硬度に大きな差が無い異なる材料であっても、加工硬化及び/又は焼き入れ等の硬化処理の有無若しくは程度の違いにより硬度に差異を生じさせてもよい。この場合、相対的に高い硬度を有する方の材料によって構成された回転部材と相対的に低い硬度を有する方の材料によって構成された軸部材とを組み合わせることができる。
【0058】
回転部材の孔は貫通しておらず底面を有する有底孔として形成されている。また、回転部材の有底孔の内周面には前述した歯部が形成されている。更に、回転部材の有底孔の底面に隣接する内周面には軸部材の径方向における外側に向かって広がる空隙である第2空隙が前述した凹部として形成されている。
【0059】
回転部材が有する有底孔並びに歯部及び第2空隙の具体的な形状及び大きさは、例えば軸部材と回転部材との組み合わせによって構成される構造体の用途において要求される機械的強度及び/又は寸法等に応じて適宜定められる。また、第2空隙の具体的な構成は、軸部材の先端部を構成する材料が当該第2空隙へと塑性流動して前述した係止部が形成されて回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定することが可能である限り特に限定されない。
【0060】
例えば、第2空隙は、回転部材の有底孔の底面に隣接する内周面に開口し且つ所定の深さを有する1つ以上の孔として構成されてもよい。但し、回転体としての用途を考慮すると、軸周りにおける質量分布が軸を中心とする回転対称となるように第2空隙を構成することが好ましい。また、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互により強固に固定する観点からは、回転部材の有底孔の底面に隣接する内周面に開口し且つ所定の深さを有し且つ回転部材の有底孔の底面に隣接する内周面の全周に亘る環状の孔として第2空隙を構成することが好ましい。
【0061】
一方、第3外径が第1外径よりも小さい場合は、括れ部の外周面を底面とし且つ小径部の基端側の端面及び大径部の先端側の端面を側面とする環状の溝を第1空隙とすることができる。更に、環状の溝の底面である括れ部の外周面に開口し且つ所定の深さを有する1つ以上の孔を設けてもよい。この場合も、回転体としての用途を考慮すると、軸周りにおける質量分布が軸を中心とする回転対称となるように当該孔を構成することが好ましい。また、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互により強固に固定する観点からは、環状の溝の底面である括れ部の外周面に開口し且つ所定の深さを有し且つ括れ部の外周面の全周に亘る環状の孔として当該孔を構成することが好ましい。
【0062】
加えて、前述した圧入の過程において、軸部材の先端部が有底孔の底面に当接して有底孔の底面に押し付けられることにより軸部材の先端部を構成する材料が第2空隙へ塑性流動して係止部が形成される。
【0063】
上記のように圧入の過程において軸部材の先端部が有底孔の底面に押し付けられて軸部材の先端部を構成する材料に塑性流動を生じさせるためには、軸部材の先端部が有底孔の底面に当接した時点以降も軸部材が圧入方向に移動可能である必要がある。斯かる要件を満足するための方策としては、例えば、回転部材に形成された孔に圧入することが可能な大きさ及び形状を有する軸部材の先端部の軸方向における長さを回転部材に形成された孔の軸方向における長さ(深さ)よりも大きくすること等を挙げることができる。
【0064】
上記のようにして軸部材の先端部が有底孔の底面に当接して軸部材の先端部が有底孔の底面に押し付けられると、軸部材の先端部を構成する材料の塑性流動が生じ、凹部として形成された部分である第2空隙へと流れ込む。その結果、第2空隙に充填された材料によって形成された凸部と凹部である第2空隙との嵌合構造としての係止部が一体的に形成され、当該係止部により回転部材と軸部材とが軸部材の軸方向において相互に固定される。即ち、軸方向における嵌合部の抜けが防止される。
【0065】
図5及び
図6は、それぞれ、第4方法において回転部材に形成された孔への軸部材の圧入に伴って係止部が形成される過程の一例を示す模式的な断面図及び斜視図である。
図5及び
図6の(a)は、回転部材10に形成された有底孔である孔11(以降、「有底孔11」と称呼される場合がある。)への軸部材20の圧入が開始される前の状態を例示する。
図5及び
図6の(b)は、回転部材10に形成された有底孔11への軸部材20の圧入が開始され、軸部材20の先端部(図面に向かって下側の端部)が有底孔11の底面に当接した状態を例示している。
図5及び
図6の(c)は第4方法において回転部材10に形成された有底孔11への軸部材20の圧入が完了した状態を例示している。
【0066】
図5及び
図6に例示するように、第4方法は、前述した第1方法と同様に、回転部材10に形成された有底孔11に軸部材20を圧入し、有底孔11の内周面に形成された歯部13へ軸部材20の外周面を構成する材料の一部を流入させることにより、回転部材10と軸部材20とを回転方向において相互に固定する塑性締結方法である。更に、上記圧入により、回転部材10の有底孔11の底面に隣接する内周面形成された凹部14に軸部材20の先端部を構成する材料を流入させることにより、回転部材10と軸部材20とを軸部材20の軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成される。
【0067】
図7は、第4方法において使用される回転部材の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
図7においては、回転部材の構成を判り易く表示することを目的として、軸を含む平面によって切断された回転部材が描かれている。
図5及び
図6の(a)並びに
図7に例示するように、回転部材10に形成された孔11は貫通しておらず底面を有する有底孔として形成されている。また、回転部材10の有底孔11の内周面には前述した歯部13が形成されている。更に、回転部材10の有底孔11の底面に隣接する内周面には軸部材20の径方向における外側に向かって広がる環状の空隙である第2空隙14が前述した凹部として形成されている。
【0068】
図5及び
図6の(b)は、上述したように、回転部材10に形成された有底孔11への軸部材20の圧入が開始され、軸部材20の先端部が有底孔11の底面に当接した状態を例示する模式図である。上述したように、第4方法においては、軸部材20の硬度が回転部材10の硬度よりも高い。従って、軸部材20の有底孔11への圧入に伴い、回転部材10の有底孔11の内周面に形成された歯部13へ軸部材20の外周面を構成する材料の一部が流入することにより、回転部材10と軸部材20とが回転方向において相互に固定されている。
【0069】
但し、
図5及び
図6の(b)に例示するように、この時点においては、軸部材20の先端部が有底孔11の底面と当接しているものの、回転部材10の有底孔11の底面に隣接する内周面形成された凹部14への軸部材20の先端部を構成する材料の流入は未だ始まっていない。一方、
図8の(a)を参照しながら後述するように軸部材20は単純な円柱状の形状を有する部材であるので、軸部材20の先端部が有底孔11の底面に当接した時点以降も図示しない駆動装置によって軸部材20を圧入方向に移動させて、回転部材10に形成された有底孔11への軸部材20の圧入を完了させることが可能である。
【0070】
図5及び
図6の(c)は、上述したように、第4方法において回転部材10に形成された有底孔11への軸部材20の圧入が完了した状態を例示する模式図である。この状態は、軸部材20の先端部が有底孔11の底面に当接した時点以降も軸部材20を圧入方向に移動させ続けた結果として、回転部材10に形成された有底孔11への軸部材20の圧入が完了した状態である。
【0071】
図8及び
図9は、それぞれ、第4方法において使用される軸部材の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
図8においては、軸部材の構成を判り易く表示することを目的として、軸を含む平面によって切断された軸部材が描かれている。
図8の(a)は回転部材に形成された有底孔への圧入が開始される前の時点における軸部材の形状を、
図8の(b)は回転部材に形成された有底孔への圧入が完了した時点における軸部材の形状を、それぞれ例示している。また、
図9の(a)及び(b)は、それぞれ、回転部材に形成された有底孔への圧入が完了した時点における軸部材の先端部の近傍を異なる角度から観察した場合における斜視図である。
【0072】
図5及び
図6の(b)に例示した時点から
図5及び
図6の(c)に例示する時点までの期間においては、軸部材20の先端部が有底孔11の底面に押し付けられる。これにより、
図5及び
図6の(c)に例示するように、軸部材20の先端部を構成する材料が第2空隙14へと塑性流動して、当該材料によって第2空隙14が充填される(
図5の(c)に描かれた太い実線の矢印を参照)。その結果、
図6の(c)、
図8の(b)並びに
図9の(a)及び(b)に例示するように、第2空隙14に充填された当該材料によって環状の凸部23が形成される。このようにして形成される凸部23と凹部である第2空隙14との嵌合構造としての係止部が一体的に形成され(
図5及び
図6の(c)において太い破線によって囲まれた部分を参照)、当該係止部により回転部材10と軸部材20とが軸部材の軸AXに平行な方向において相互に固定される。即ち、軸方向における嵌合部の抜けが防止される。
【0073】
〈効果〉
第4方法においては、上述したように、回転部材に形成された孔に軸部材を圧入して塑性締結を行う際に、回転部材の有底孔の底面に隣接する内周面に形成された凹部としての第2空隙に軸部材の先端部を構成する材料を流入させる。これにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部を一体的に形成することができる。従って、第4方法によれば、回転部材と軸部材との塑性締結による嵌合固定において回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することができる。
【0074】
《第5実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第5実施形態に係る塑性締結方法(以降、「第5方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0075】
図5乃至
図7に示した例においては、回転部材10に形成された有底孔11の底面が軸部材20の軸AXに近付くほど圧入方向の上流側(図面に向かって上側)に近付くように膨らんでいる。換言すれば、回転部材10に形成された有底孔11の底面が有底孔11の開口部に向かって凸状の形状を有する。更に換言すれば、有底孔11の底面の法線ベクトルは軸部材20の軸AXを含む直線から遠ざかる成分を有している。
【0076】
従って、軸部材20の先端部が有底孔11の底面に当接して有底孔11の底面に押し付けられる際には、有底孔11の底面の全体が軸部材20の軸AXに対して垂直な平面である場合に比べて、軸部材20の先端部を構成する材料が軸部材20の径方向における外側に向かってより強く押圧される。その結果、軸部材20の先端部を構成する材料を有底孔11の底面に隣接する内周面に形成された凹部としての第2空隙14へとより積極的に流入させて、回転部材10と軸部材20とを軸部材20の軸AXに平行な方向において相互に固定する部分である係止部をより確実に形成することができる。
【0077】
〈構成〉
そこで、第5方法は、前述した第4方法であって、回転部材の有底孔の底面の少なくとも一部の法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線から遠ざかる成分を有することを特徴とする塑性締結方法である。
【0078】
尚、上記「法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線から遠ざかる成分を有する部分」の具体的な形状は、有底孔の底面の全体が軸部材の軸に対して垂直な平面である場合に比べて軸部材の先端部を構成する材料を軸部材の軸を含む直線から遠ざかる方向により強く押圧することが可能である限り、特に限定されない。例えば、軸部材の軸を含む平面による断面において、有底孔の底面は、有底孔の開口部に向かって凸状の形状を有する曲線(例えば、円弧又は放物線の一部等)であってもよい。或いは、軸部材の軸を含む平面による断面において、有底孔の底面は、軸部材の軸を含む直線を挟んで互いに対向し且つ当該直線に近付くほど有底孔の開口部に近付くように傾斜した一対の直線によって構成されていてもよい。後者の場合、有底孔の底面は、
図5乃至
図7に例示したように、軸部材の軸を含む直線を中心軸とする円錐の側面のような形状を有する部分である。
【0079】
〈効果〉
以上のように、第5方法においては、回転部材の有底孔の底面の少なくとも一部の法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線から遠ざかる成分を有する。従って、第5方法においては、有底孔の底面の全体が軸部材の軸に対して垂直な平面である場合に比べて、軸部材の先端部を構成する材料を軸部材の軸を含む直線から遠ざかる方向により強く押圧することができる。その結果、第5方法によれば、軸部材の先端部を構成する材料を有底孔の底面に隣接する内周面に形成された凹部としての第2空隙へとより積極的に流入させて、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部をより確実に形成することができる。
【0080】
《第6実施形態》
本明細書の冒頭において述べたように、本発明は塑性締結方法のみならず塑性締結構造にも関する。以下、本発明の第6実施形態に係る塑性締結構造(以降、「第6構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0081】
〈構成〉
第6構造は、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材が圧入されており、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の一方に形成された歯部へ回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の他方を構成する材料の一部が流入することにより、回転部材と軸部材とが回転方向において相互に固定されている塑性締結構造である。
【0082】
更に、第6構造においては、軸部材の軸方向における歯部とは異なる位置において、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の上記他方を構成する材料の一部によって回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の上記一方に形成された凹部が充填されている。これにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成されている。
【0083】
上記のような構成を有する第6構造は、例えば、前述した本発明の第1実施形態に係る塑性締結方法(第1方法)によって形成することができる。第6構造を構成する各部材については、第1方法に関する説明において既に述べたので、ここでの説明は省略する。また、第6構造の具体的な態様については、本発明の他の実施形態に関する説明において詳しく後述する。
【0084】
〈効果〉
第6構造においては、上述したように、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材が圧入されており、回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の他方を構成する材料の一部により回転部材の孔の内周面又は軸部材の外周面の一方に形成された凹部が充填されている。これにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成されている。
【0085】
従って、第6構造によれば、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入することにより回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することが可能な、回転部材と軸部材との塑性締結構造を達成することができる。
【0086】
《第7実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第7実施形態に係る塑性締結構造(以降、「第7構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0087】
〈構成〉
第7構造は、前述した第6構造であって、軸部材の硬度が回転部材の硬度よりも高いことを特徴とする、塑性締結構造である。また、軸部材は、小径部と大径部と括れ部とを有する。小径部は、先端部に形成され且つ所定の外径である第1外径を有する部分である。大径部は、基端側に形成され且つ第1外径よりも大きい所定の外径である第2外径を有する部分である。括れ部は、小径部と大径部との間に形成され且つ第1外径以下の所定の外径である第3外径を有し且つ軸部材の径方向における内側に向かって広がる空隙である第1空隙が前述した凹部として形成された部分である。更に、軸部材の小径部の外周面には歯部が形成されている。加えて、回転部材の孔の内周面を構成する材料の一部によって第1空隙が充填されることにより、前述した係止部が形成されている。
【0088】
上記のような構成を有する第7構造は、例えば、前述した本発明の第2実施形態に係る塑性締結方法(第2方法)によって形成することができる。第7構造の具体的な構成については、第2方法に関する説明において
図1乃至
図4を参照しながら詳しく述べたので、ここでの説明は省略する。
【0089】
〈効果〉
第7構造においては、上述したように、回転部材の孔の内周面を構成する材料の一部によって第1空隙が充填されることにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成されている。従って、第7構造によれば、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入することにより回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することが可能な、回転部材と軸部材との塑性締結構造を達成することができる。
【0090】
《第8実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第8実施形態に係る塑性締結方法(以降、「第8構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0091】
前述した第3方法に関する説明において述べたように、
図1乃至
図3に示した例においては、軸部材20の大径部20Lの先端側(図面に向かって下側)の端面の回転部材10に形成された孔11の周縁部に対向する領域の法線ベクトルが軸部材20の軸AXを含む直線に近付く成分を有している。従って、回転部材に形成された孔へ軸部材を圧入する過程において軸部材20の大径部20Lの先端側の端面によって孔11の周縁部が押圧される際には、軸部材20の大径部20Lの先端側の端面の全体が軸部材20の軸AXに対して垂直な平面である場合に比べて、孔11の周縁部を構成する材料が軸部材20の軸AXに向かってより強く押圧される。その結果、孔11の内周面を構成する材料を軸部材20の括れ部20Nに形成された凹部22へとより積極的に流入させて、回転部材10と軸部材20とを軸部材20の軸AXに平行な方向において相互に固定する部分である係止部をより確実に形成することができる。
【0092】
〈構成〉
そこで、第8構造は、前述した第7構造であって、軸部材の大径部の先端側の端面の少なくとも一部の法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線に近付く成分を有することを特徴とする、塑性締結構造である。
【0093】
上記のような構成を有する第8構造は、例えば、前述した本発明の第3実施形態に係る塑性締結方法(第3方法)によって形成することができる。上記「法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線に近付く成分を有する部分」の具体的な形状については、第3方法に関する説明において既に述べたので、ここでの説明は省略する。
【0094】
〈効果〉
以上のように、第8構造においては、軸部材の大径部の先端側の端面の少なくとも一部の法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線に近付く成分を有する。従って、第8構造においては、回転部材に形成された孔へ軸部材を圧入する過程において、軸部材の大径部の先端側の端面の全体が軸部材の軸に対して垂直な平面である場合に比べて、回転部材に形成された孔の周縁部を構成する材料を軸部材の軸に向かってより強く押圧することができる。その結果、第8構造によれば、回転部材に形成された孔の内周面を構成する材料の一部を軸部材の括れ部に形成された凹部としての第1空隙へとより積極的に流入させて回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部をより確実に形成することができる。即ち、第8構造によれば、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入することにより回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することが可能な、回転部材と軸部材との塑性締結構造をより確実に達成することができる。
【0095】
《第9実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第9実施形態に係る塑性締結方法(以降、「第9構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0096】
本発明の前述した第7実施形態及び第8実施形態に係る塑性締結構造においては、軸部材の硬度が回転部材の硬度よりも高く、歯部及び凹部が軸部材に形成されており、これらの歯部及び凹部に回転部材を構成する材料が流入することにより、軸部材と回転部剤とが相互に固定されている。しかしながら、硬度の高低並びに歯部及び凹部の配置が上記とは逆であっても本発明による効果を達成することができる。
【0097】
〈構成〉
即ち、第9構造は、前述した第6構造であって、回転部材の硬度が軸部材の硬度よりも高いことを特徴とする、塑性締結構造である。また、回転部材の孔が、貫通しておらず底面を有する有底孔として形成されており、回転部材の有底孔の内周面に歯部が形成されている。更に、回転部材の有底孔の底面に隣接する内周面には軸部材の径方向における外側に向かって広がる空隙である第2空隙が前述した凹部として形成されている。加えて、軸部材の先端部を構成する材料によって第2空隙が充填されることにより、前述した係止部が形成されている。
【0098】
上記のような構成を有する第9構造は、例えば、前述した本発明の第4実施形態に係る塑性締結方法(第4方法)によって形成することができる。第9構造の具体的な構成については、第4方法に関する説明において
図5乃至
図9を参照しながら詳しく述べたので、ここでの説明は省略する。
【0099】
〈効果〉
第9構造においては、上述したように、回転部材の有底孔の底面に隣接する内周面に形成された凹部としての第2空隙が軸部材の先端部を構成する材料によって充填されることにより、回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部が一体的に形成されている。従って、第9構造によれば、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入することにより回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することが可能な、回転部材と軸部材との塑性締結構造を達成することができる。
【0100】
《第10実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第10実施形態に係る塑性締結構造(以降、「第10構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0101】
前述した第5方法に関する説明において述べたように、
図5乃至
図7に示した例においては、回転部材10に形成された有底孔11の底面の法線ベクトルが軸部材20の軸AXを含む直線から遠ざかる成分を有している。従って、軸部材20の先端部が有底孔11の底面に当接して有底孔11の底面に押し付けられる際には、有底孔11の底面の全体が軸部材20の軸AXに対して垂直な平面である場合に比べて、軸部材20の先端部を構成する材料が軸部材20の径方向における外側に向かってより強く押圧される。その結果、軸部材20の先端部を構成する材料を有底孔11の底面に隣接する内周面に形成された凹部としての第2空隙14へとより積極的に流入させて、回転部材10と軸部材20とを軸部材20の軸AXに平行な方向において相互に固定する部分である係止部をより確実に形成することができる。
【0102】
〈構成〉
そこで、第10構造は、前述した第9構造であって、回転部材の有底孔の底面の少なくとも一部の法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線から遠ざかる成分を有する、
ことを特徴とする、塑性締結構造。
【0103】
上記のような構成を有する第10構造は、例えば、前述した本発明の第5実施形態に係る塑性締結方法(第4方法)によって形成することができる。上記「法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線から遠ざかる成分を有する部分」の具体的な形状については、第5方法に関する説明において既に述べたので、ここでの説明は省略する。
【0104】
〈効果〉
以上のように、第10構造においては、回転部材の有底孔の底面の少なくとも一部の法線ベクトルが軸部材の軸を含む直線から遠ざかる成分を有する。従って、第10構造においては、回転部材に形成された孔へ軸部材を圧入する過程において、有底孔の底面の全体が軸部材の軸に対して垂直な平面である場合に比べて、軸部材の先端部を構成する材料を軸部材の軸を含む直線から遠ざかる方向により強く押圧することができる。その結果、第10構造によれば、軸部材の先端部を構成する材料を有底孔の底面に隣接する内周面に形成された凹部としての第2空隙へとより積極的に流入させて回転部材と軸部材とを軸部材の軸方向において相互に固定する部分である係止部をより確実に形成することができる。即ち、第10構造によれば、回転部材に形成された孔に中空又は中実の軸部材を圧入することにより回転方向における保持力を確保しつつ軸方向における嵌合部の抜けを確実に防止することが可能な、回転部材と軸部材との塑性締結構造をより確実に達成することができる。
【0105】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0106】
10…回転部材
11…孔(有底孔を含む)
12…凸部
13…歯部
14…凹部(第2空隙)
20…軸部材
20S…小径部
DO1…第1外径
20L…大径部
DO2…第2外径
20N…括れ部
DO3…第3外径
21…歯部
22…凹部(第1空隙)
23…凸部
AX…軸