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特開2024-126667音響システム、信号処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126667
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】音響システム、信号処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 5/027 20060101AFI20240912BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20240912BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20240912BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H04R5/027 A
H04R1/00 317
H04R1/10 104A
H04R3/00 320
H04R1/10 101A
H04R1/00 318Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035220
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】520090756
【氏名又は名称】クレプシードラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 夏子
(74)【代理人】
【識別番号】100198845
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 善喬
(72)【発明者】
【氏名】今 誉
(72)【発明者】
【氏名】前野 悠
【テーマコード(参考)】
5D005
5D011
5D017
5D220
【Fターム(参考)】
5D005BE01
5D011AB11
5D011AB12
5D017AB11
5D017AC16
5D220BA08
5D220BB04
5D220DD03
(57)【要約】
【課題】バイノーラル録音の質をより向上させることが可能な仕組みを提供する。
【解決手段】ユーザに装着可能な音出力部と、前記ユーザの一方の外耳道の内側に配置可能な第1収音部と、前記ユーザの他方の外耳道の内側に配置可能な第2収音部と、前記第1収音部により取得された第1音響信号及び前記第2収音部により取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記音出力部から放出される音である第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする信号処理部と、を備える音響システム。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに装着可能な音出力部と、
前記ユーザの一方の外耳道の内側に配置可能な第1収音部と、
前記ユーザの他方の外耳道の内側に配置可能な第2収音部と、
前記第1収音部により取得された第1音響信号及び前記第2収音部により取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記音出力部から放出される音である第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする信号処理部と、
を備える音響システム。
【請求項2】
前記音出力部は、第3音響信号を再生することで前記第1非目的音声を放出し、
前記信号処理部は、前記第3音響信号に基づいて、前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする、
請求項1に記載の音響システム。
【請求項3】
前記信号処理部は、事前に計測された前記音出力部から前記第1収音部又は前記第2収音部の少なくともいずれか一方への伝達特性に基づいて、前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする、
請求項2に記載の音響システム。
【請求項4】
前記第1収音部は、前記音出力部の位置から近い方の耳に配置され、
前記第2収音部は、前記音出力部の位置から遠い方の耳に配置され、
前記信号処理部は、前記第1音響信号から前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする、
請求項1に記載の音響システム。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記第2音響信号に基づいて、前記第1音響信号から前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする、
請求項4に記載の音響システム。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記第1音響信号と前記第2音響信号との類似度に基づいて、前記第1音響信号から前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする、
請求項5に記載の音響システム。
【請求項7】
前記音響システムは、前記第1収音部及び前記第2収音部よりも前記ユーザの口元に近い位置に配置される第3収音部をさらに備え、
前記信号処理部は、前記第3収音部により取得された第4音響信号に基づいて、前記第1音響信号及び前記第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記第4音響信号に対応する音である第2非目的音声に対応する成分をキャンセルする、
請求項1に記載の音響システム。
【請求項8】
前記第1収音部及び前記第2収音部は、前記第1収音部及び前記第2収音部の少なくともいずれか一方の振動部位の振動方向が前記外耳道の内壁を向く角度に配置される、
請求項1に記載の音響システム。
【請求項9】
前記音出力部は、骨伝導式のスピーカである、
請求項1に記載の音響システム。
【請求項10】
前記音響システムは、
前記ユーザの耳介に掛けられた状態で前記ユーザに装着され、前記第1収音部又は前記第2収音部に接続される第1耳介フレームと、
前記ユーザの耳介に掛けられた状態で前記ユーザに装着され、前記音出力部に接続される第2耳介フレームと、
をさらに備え、
前記第1耳介フレームと前記第2耳介フレームとは、前記ユーザの同一の前記耳介に掛けられる、
請求項1に記載の音響システム。
【請求項11】
前記第1耳介フレーム及び前記第2耳介フレームが前記耳介に掛けられた状態において、前記第1耳介フレームは、前記第2耳介フレームよりも前記耳介から遠い側を通過して前記耳介に掛けられる、
請求項10に記載の音響システム。
【請求項12】
前記音響システムは、前記音出力部と前記第1収音部又は前記第2収音部とを接続する第3耳介フレームをさらに備える、
請求項1に記載の音響システム。
【請求項13】
コンピュータにより実行される信号処理方法であって、
ユーザの一方の外耳道の内側に配置可能な第1収音部により取得された第1音響信号、及び前記ユーザの他方の外耳道の内側に配置可能な第2収音部により取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記ユーザに装着可能な音出力部から放出される音である第1非目的音声に対応する成分をキャンセルすること、
を含む信号処理方法。
【請求項14】
コンピュータを、
ユーザの一方の外耳道の内側に配置可能な第1収音部により取得された第1音響信号、及び前記ユーザの他方の外耳道の内側に配置可能な第2収音部により取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記ユーザに装着可能な音出力部から放出される音である第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする信号処理部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響システム、信号処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイノーラル録音が注目されている。バイノーラル録音とは、人の両耳の鼓膜に伝わる音を録音する技術である。バイノーラル録音には、鼓膜付近に配置されたマイクロホン(以下、単にマイクとも称する)が使用される。バイノーラル録音された音を、イヤホン又はヘッドホン等により再生することで、あたかもその場に居合わせたかのような臨場感のある音を再現することができる。
【0003】
例えば、下記特許文献1においては、イヤーピースを外耳道に挿入することで耳に保持されるイヤホンの外側に設けられた、ノイズキャンセル用のマイクを使用したバイノーラル録音装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-49947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイノーラル録音の現場では、バイノーラル録音の対象外の音が発生する場合がある。しかしながら、上記特許文献1等に記載の技術では、バイノーラル録音の対象外の音への対処が十分とは言えず、バイノーラル録音の質には向上の余地があった。
【0006】
そこで、本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、バイノーラル録音の質をより向上させることが可能な仕組みを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、ユーザに装着可能な音出力部と、前記ユーザの一方の外耳道の内側に配置可能な第1収音部と、前記ユーザの他方の外耳道の内側に配置可能な第2収音部と、前記第1収音部により取得された第1音響信号及び前記第2収音部により取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記音出力部から放出される音である第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする信号処理部と、を備える音響システムが提供される。
【0008】
前記音出力部は、第3音響信号を再生することで前記第1非目的音声を放出し、前記信号処理部は、前記第3音響信号に基づいて、前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。
【0009】
前記信号処理部は、事前に計測された前記音出力部から前記第1収音部又は前記第2収音部の少なくともいずれか一方への伝達特性に基づいて、前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。
【0010】
前記第1収音部は、前記音出力部の位置から近い方の耳に配置され、前記第2収音部は、前記音出力部の位置から遠い方の耳に配置され、前記信号処理部は、前記第1音響信号から前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。
【0011】
前記信号処理部は、前記第2音響信号に基づいて、前記第1音響信号から前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。
【0012】
前記信号処理部は、前記第1音響信号と前記第2音響信号との類似度に基づいて、前記第1音響信号から前記第1非目的音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。
【0013】
前記音響システムは、前記第1収音部及び前記第2収音部よりも前記ユーザの口元に近い位置に配置される第3収音部をさらに備え、前記信号処理部は、前記第3収音部により取得された第4音響信号に基づいて、前記第1音響信号及び前記第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記第4音響信号に対応する音である第2非目的音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。
【0014】
前記第1収音部及び前記第2収音部は、前記第1収音部及び前記第2収音部の少なくともいずれか一方の振動部位の振動方向が前記外耳道の内壁を向く角度に配置されてもよい。
【0015】
前記音出力部は、骨伝導式のスピーカであってもよい。
【0016】
前記音響システムは、前記ユーザの耳介に掛けられた状態で前記ユーザに装着され、前記第1収音部又は前記第2収音部に接続される第1耳介フレームと、前記ユーザの耳介に掛けられた状態で前記ユーザに装着され、前記音出力部に接続される第2耳介フレームと、をさらに備え、前記第1耳介フレームと前記第2耳介フレームとは、前記ユーザの同一の前記耳介に掛けられてもよい。
【0017】
前記第1耳介フレーム及び前記第2耳介フレームが前記耳介に掛けられた状態において、前記第1耳介フレームは、前記第2耳介フレームよりも前記耳介から遠い側を通過して前記耳介に掛けられてもよい。
【0018】
前記音響システムは、前記音出力部と前記第1収音部又は前記第2収音部とを接続する第3耳介フレームをさらに備えてもよい。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、コンピュータにより実行される信号処理方法であって、ユーザの一方の外耳道の内側に配置可能な第1収音部により取得された第1音響信号、及び前記ユーザの他方の外耳道の内側に配置可能な第2収音部により取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記ユーザに装着可能な音出力部から放出される音である第1非目的音声に対応する成分をキャンセルすること、を含む信号処理方法が提供される。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、コンピュータを、ユーザの一方の外耳道の内側に配置可能な第1収音部により取得された第1音響信号、及び前記ユーザの他方の外耳道の内側に配置可能な第2収音部により取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、前記ユーザに装着可能な音出力部から放出される音である第1非目的音声に対応する成分をキャンセルする信号処理部、として機能させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本開示によれば、バイノーラル録音の質をより向上させることが可能な仕組みが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の一実施形態に係る音響装置がユーザの左耳に装着された様子を左耳正面から見た図である。
図2】同実施形態に係る音響装置の斜視図である。
図3】同実施形態に係る音響装置の正面図である。
図4】同実施形態に係る音響装置の底面図である。
図5図3に示す矢視9-9における音響装置の断面を示す斜視図である。
図6】同実施形態に係る音響装置が有する収音部の配置を模式的に示す図である。
図7】同実施形態に係る音響システムの構成の一例を示す図である。
図8】同実施形態に係る音響システムにより実行される信号処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図9】同実施形態に係る音響システムの他の構成の一例を示す図である。
図10】同実施形態に係る音響システムの物理構成の一例を説明するための図である。
図11】同実施形態に係る音響システムの物理構成の他の一例を説明するための図である。
図12】同実施形態に係る音響システムの物理構成の他の一例を説明するための図である。
図13】同実施形態に係る音響システムの物理構成の他の一例を説明するための図である。
図14】ダミーヘッドを搭載したカメラを左から見た側面図である。
図15】ダミーヘッドを搭載したカメラを上から見た上面図である。
図16】簡易ダミーヘッドの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
<1.音響装置の構成例態>
以下、図1図6を参照しながら、本開示の一実施形態に係る音響装置1の構成の一例を説明する。図1は、本実施形態に係る音響装置1がユーザの左耳に装着された様子を左耳正面から見た図である。図2は、本実施形態に係る音響装置1の斜視図である。図3は、本実施形態に係る音響装置1の正面図である。図4は、本実施形態に係る音響装置1の底面図である。図5は、図3に示す矢視9-9における音響装置1の断面を示す斜視図である。図6は、本実施形態に係る音響装置1が有する収音部50の配置を模式的に示す図である。
【0025】
図1に示すように、音響装置1は、ユーザに装着可能である。なお、図1図6では、ユーザの左耳に装着される音響装置1の構成が示されているが、右耳用の音響装置1は、これと左右対称に構成される。図1図6に示すように、音響装置1は、挿入部10、第1フレーム20、第2フレーム30、第3フレーム40、及び収音部50を有する。
【0026】
図6に示すように、挿入部10は、音響装置1がユーザに装着された状態において、少なくとも一部が外耳道98に挿入される。挿入部10は、外耳道98が延びる方向(以下、挿入方向とも称する)に沿って、外耳道98の入口から鼓膜側へ挿入される。挿入部10のうち、鼓膜に挿入される側を先端とも称し、その反対側を末端とも称する。
【0027】
挿入部10は、シリコン樹脂等の弾性体により構成され得る。挿入部10は、外耳道98の形状に沿って変形した場合に生じる復元力により、外耳道98に挿入された状態で外耳道98内に保持される。挿入部10の少なくとも一部の外径は、外耳道98の内径と同一又はそれ以上であってもよい。この場合、挿入部10は、外周から外耳道98により圧迫され、外耳道98内により強固に保持されることとなる。なお、挿入部10の外径とは、挿入方向に直交する方向における挿入部10の長さである。
【0028】
収音部50は、周囲の音を取得する装置である。詳しくは、収音部50は、周囲の空間に鳴る音をアナログ信号に変換し、変換後のアナログ信号を出力する。収音部50は、いわゆるマイクロホン(以下、単にマイクとも称する)であってよい。収音部50は、例えばコンデンサマイクであってもよいし、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)マイクであってもよい。なお、コンデンサマイクとしては、ダイアフラムに外部から直流電圧をかける方式のマイクの他に、ダイアフラム、背極又はバックチャンバにエレクトレット素子を使用する、いわゆるエレクトレットコンデンサマイクが用いられてもよい。また、収音部50は、ムービング・コイル型等のダイナミックマイクであってもよい。以下では、収音部50とは、マイクであるものとして説明する。収音部50には、ADC(Analog Digital Converter)、アンプ、及び記録装置等が接続され得る。
【0029】
図5及び図6に示すように、収音部50は、振動部位51と音孔52とを有する。振動部位51とは、到来した音に応じて振動する部材である。振動部位51は、振動板又は振動膜であってよい。音孔52は、収音部50の筐体に開けられた孔であり、振動部位51が設けられた収音部50内の空間と外界とを接続する。収音部50に到来した音は、音孔52を通過して振動部位51に到達し、振動部位51を振動させる。振動部位51の振動が、音としての電気信号に変換される。
【0030】
図5及び図6に示すように、収音部50は、挿入部10に配置される。かかる構成によれば、音響装置1がユーザに装着された状態において、収音部50がユーザの鼓膜から近い位置に配置されるので、バイノーラル録音の質を向上させることが可能である。
【0031】
図5及び図6に示すように、挿入部10は、挿入方向に貫通する貫通孔11を有する筒状体である。そして、収音部50は、挿入部10の内面10a(即ち、貫通孔11の壁面)との間に隙間を設けた状態で、貫通孔11の内側に配置される。かかる構成によれば、外界から到来した音は、末端側開口11bから先端側開口11aにかけて貫通孔11を通過してユーザの鼓膜に到達する。従って、ユーザは、音響装置1を装着した状態で、周囲の音を鮮明に聞くことが可能となる。また、収音部50は、外界から到来し貫通孔11を通過する音を、録音することが可能となる。
【0032】
なお、図6では、挿入部10の外面10bと外耳道98の内壁98aとが接触しているが、これらの間には隙間があってもよい。即ち、挿入部10の外面10bは、外耳道98の内壁98aに接触する接触領域の他に、外耳道98の内壁98aから離隔する非接触領域を有していてもよい。かかる非接触領域は、例えば挿入方向に延在する溝として構成され、非接触領域と外耳道98の内壁98aとの間に、挿入部10の先端側の空間と末端側の空間とを連通する隙間を形成する。そして、かかる隙間を通過した音が先端側開口11aから貫通孔11内に到来し、収音部50により録音されてもよい。また、ユーザは、かかる隙間を通過した音を聴取可能となる。
【0033】
また、挿入部10は、外耳道98の入り口を密閉しない大きさに構成されてもよい。ここでの密閉とは、挿入部10の外面10bの全周が外耳道98の内壁98aに接することを指す。かかる構成によれば、挿入部10の外面10bと外耳道98の内壁98aとの間に、挿入部10の先端側の空間と末端側の空間とを連通する隙間が形成され得る。その場合、ユーザは、かかる隙間を通過した音を聴取可能となる。
【0034】
ここで、図6に示すように、収音部50は、音響装置1がユーザに装着された状態において、振動部位51の少なくとも一部がユーザの外耳道98の内側に含まれる位置、且つ振動部位51の振動方向51aが外耳道98の内壁98aを向く角度に配置される。かかる構成によれば、振動部位51がユーザの鼓膜に近い位置に配置されるので、バイノーラル録音の質を向上させることが可能となる。また、外界からの風の到来方向は、挿入方向と一致又は略一致すると考えられる。この点、振動部位51をかかる角度で配置することで、振動部位51の振動方向51aと、風の到来方向と、をずらすことができる。従って、風の到来に起因する振動部位51の振動を減らすことができるので、風雑音を軽減することが可能となる。
【0035】
なお、振動部位51の少なくとも一部が外耳道98の内側に含まれることは、音孔52の少なくとも一部が外耳道98の内側に含まれることと捉えられてもよい。同様に、振動部位51の振動方向51aが外耳道98の内壁98aを向くことは、音孔52が外耳道98の内壁98aを向くこととして捉えられてもよい。また、挿入部10との関係について言えば、収音部50は、振動部位51の振動方向51a又は音孔52が向く方向が、挿入部10の内面10aを向く角度に配置される。
【0036】
さらに言えば、図6に示すように、収音部50は、音響装置1がユーザに装着された状態において、振動部位51の振動方向51aが外耳道98の内壁98aに直交又は略直交する角度に配置されることが望ましい。より簡易には、収音部50は、振動部位51が外耳道98に平行又は略平行する角度で配置されることが望ましい。かかる構成によれば、振動部位51の振動方向51aと、風の到来方向と、を直交又は略直交させることができる。即ち、風の到来に起因する振動部位51の振動を最低限にすることができるので、風雑音をより軽減することが可能となる。
【0037】
なお、振動部位51の振動方向51aが外耳道98の内壁98aに直交又は略直交することは、音孔52が向く方向が外耳道98の内壁98aに直交又は略直交することとして捉えられてもよい。また、挿入部10との関係について言えば、収音部50は、振動部位51の振動方向51a又は音孔52が向く方向が、挿入部10の内面10aに直交又は略直交する角度に配置される。
【0038】
図6に示すように、収音部50は、音響装置1がユーザに装着された状態において、挿入部10のうちユーザの鼓膜から遠い側の位置に配置されてもよい。例えば、収音部50は、挿入部10の貫通孔11のうち末端側開口11bに近い側に配置されてもよい。かかる構成によれば、外界から到来した音を、より高い音質で録音することが可能となる。
【0039】
図1図6に示すように、第1フレーム20は、挿入部10に接続される。そして、図1に示すように、第1フレーム20は、音響装置1がユーザに装着された状態において、耳甲介腔92に配置される。かかる構成によれば、第1フレーム20と耳甲介腔92との位置関係により、挿入部10の動きを制限することができる。例えば、挿入部10が、外耳道98に過度に挿入される、外耳道98から抜ける、又は外耳道98内で回転する、といった位置ずれを防止することが可能となる。
【0040】
図1に示すように、音響装置1がユーザに装着された状態において、第1フレーム20の外側面20bは、耳甲介腔92に当接する。第1フレーム20は、シリコン樹脂等の弾性体により構成され得る。第1フレーム20は、耳甲介腔92に形状に沿って変形した場合に生じる復元力により、耳甲介腔92に当接した状態で耳甲介腔92に保持されてもよい。この場合、音響装置1の位置ずれを防止することが可能となる。
【0041】
図1図3に示すように、第1フレーム20は、リング状に構成される。このため、図1に示すように、音響装置1がユーザに装着された状態で、リング状に構成された第1フレーム20の内側面20aにより囲まれる中空部分21を介して、耳甲介腔92が外界に露出することとなる。従って、バイノーラル録音される音に、ユーザの耳甲介腔92の反射特性が反映されることとなるので、バイノーラル録音の質を向上させることが可能となる。また、第1フレーム20がリング状に構成されることにより、耳甲介腔92の形状に沿った第1フレーム20の変形が十分に許容される。換言すると、音響装置1をユーザに装着する前後で、耳甲介腔92の形状を維持することができる。従って、音響装置1の装着前後でのユーザの耳甲介腔92の反射特性の変化を防止して、バイノーラル録音の質を向上させることが可能となる。
【0042】
図1図5に示すように、第1フレーム20には、挿入部10、第2フレーム30、及び第3フレーム40の各々が接続される。挿入部10、第1フレーム20、第2フレーム30、及び第3フレーム40は、それぞれ同一材料により構成されていてもよい。その場合、挿入部10、第1フレーム20、第2フレーム30、及び第3フレーム40は、一体的に成形され得る。
【0043】
図2に示すように、第2フレーム30は、三日月形状に構成されてもよい。第2フレーム30は、円弧状又は略円弧状に湾曲し三日月形状の外側円弧を成す第1柱状体31と、円弧状又は略円弧状に湾曲し三日月形状の内側円弧を成す第2柱状体32と、第1柱状体31及び第2柱状体32を接続する第3柱状体33と、から成る。第1柱状体31及び第2柱状体32の一端は接続され、先端34を構成する。他方、第1柱状体31及び第2柱状体32の他端は、それぞれ第1フレーム20に接続される。
【0044】
図1に示すように、第2フレーム30は、音響装置1がユーザに装着された状態において、ユーザの耳甲介艇91に当接する。詳しくは、第1柱状体31は、耳甲介艇91のうち対耳輪94又は対耳輪脚95側に当接する。他方、第2柱状体32は、耳甲介艇91のうち耳輪脚93側に当接する。そして、第2フレーム30は、第2フレーム30の先端34が、耳甲介艇91側から耳輪脚93に引っ掛かった状態で、耳甲介艇91に係止される。かかる構成により、ユーザ動作に起因する音響装置1の位置ずれを防止することが可能となる。
【0045】
図1及び図2に示すように、第3フレーム40は、音響装置1がユーザに装着された状態において、ユーザの耳介90の前面から耳介90の背面にかけてユーザの耳輪脚93の外側を通過するように湾曲する。第3フレーム40の一端は、第1フレーム20に接続される。第3フレーム40の他端は、音響装置1がユーザに装着された状態において、耳介90の背面に位置する。音響装置1は、第3フレーム40が耳介90に掛けられた状態で、ユーザに装着される。かかる構成によれば、音響装置1の落下を防止することが可能となる。
【0046】
第1フレーム20は、厚みが不均一になるよう構成される。例えば、図1図4に示すように、第1フレーム20には、切り欠き22が設けられていてもよい。切り欠き22が設けられた部分の厚みは、それ以外の部分の厚みよりも薄い。図1に示すように、音響装置1がユーザに装着された状態において、耳甲介腔92のうち比較的浅い下方部分に当接する位置に、切り欠き22が設けられてもよい。その場合、第1フレーム20のうち厚い部分において第1フレーム20の強度を保ちつつ、音響装置1の装着性を向上させることが可能となる。また、切り欠き22のように、耳甲介腔92のうち比較的浅い部分に当接する部分を薄く構成することで、音響装置1の装着に起因する耳甲介腔92における反射特性の変化を軽減して、バイノーラル録音の質を向上させることが可能となる。
【0047】
とりわけ、第1フレーム20は、挿入部10、第2フレーム30又は第3フレーム40に接続される部分の厚みが、他の部分の厚みよりも厚くなるよう構成されることが望ましい。例えば、第1フレーム20のうち、挿入部10、第2フレーム30、又は第3フレーム40が接続される部分は厚く構成され、これらから離れた位置に切り欠き22が設けられることが望ましい。かかる構成によれば、第1フレーム20に、挿入部10、第2フレーム30、及び第3フレーム40を接続するための強度を確保しつつ、音響装置1の装着性を向上させることが可能となる。
【0048】
<2.技術的課題>
ユーザは、上記説明した音響装置1を両耳に装着することで、周囲の音を鮮明に聞きながら、質の高いバイノーラル録音を実施することができる。そのため、街歩き及びスポーツ観戦の場等の、ユーザが周囲の音を聞きながら行動することが好ましい様々な現場において、容易にバイノーラル録音を実施することが可能となる。
【0049】
例えば、スポーツ中継のために動画撮影するカメラマンの両耳に音響装置1を装着するユースケースが考えられる。この場合、動画とリンクした音声をバイノーラル録音することができるので、動画データとバイノーラル録音された音声データとを含む、臨場感のあるコンテンツを取得することが可能となる。
【0050】
ここで、典型的には、カメラマンは、撮影監督等の他者とコミュニケーションをとりながら動画を撮影する。そのため、カメラマンと撮影監督との会話のようなバイノーラル録音の対象外の音である非目的音声と、観戦会場における応援音声等のようなバイノーラル録音の対象の音である目的音声とが混ざった音が、収録音声としてバイノーラル録音されてしまっていた。その結果、コンテンツの視聴者は、収録音声に漏れ込んだ非目的音声を聴取してしまい、目的音声に没入することが困難になってしまっていた。このように、非目的音声の収録音声への漏れ込みにより、コンテンツの質が劣化するおそれがあった。
【0051】
そこで、本開示では、上記課題に鑑み、収録音声から非目的音声をキャンセルすることで、バイノーラル録音の質を向上させることが可能な仕組みを提供する。
【0052】
<3.キャンセル処理>
<3.1.指示音声のキャンセル>
(1)構成
図7は、本実施形態に係る音響システム8の構成の一例を示す図である。図7に示すように、本実施形態に係る音響システム8は、2つの音響装置1(1A及び1B)、通話機2、信号処理部220、記憶部230、及び電源部240を含む。また、音響システム8は、無線通信機3に接続される。以下では、少なくとも音響装置1、通話機2、及び無線通信機3が、カメラマンであるユーザに装着されるものとする。そして、カメラマンは、撮影監督等の他者とコミュニケーションをとりながら、動画撮影及びバイノーラル録音を実施するものとする。
【0053】
無線通信機3は、他の装置と無線により通信する装置である。例えば、無線通信機3は、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、4G又は5G等を用いて通信し得る。ユーザは、無線通信機3を装着することで、カメラを持って自由に動き回りながら撮影することが可能となる。
【0054】
無線通信機3は、撮影監督からユーザへの音声を含む音響信号(以下、第3音響信号とも称する)を受信して、通話機2及び信号処理部220に出力する。第3音響信号は、例えば、露出及び倍率等の各種カメラパラメータの調整、移動、及び撮影対象の変更等のユーザに対して各種行動を指示する音声(以下、指示音声とも称する)を含む。指示音声は、第1非目的音声の一例である。また、無線通信機3は、音響システム8によりバイノーラル録音された音響信号を、記憶部230から取得して、送信する。例えば、音響信号は、撮影監督が有する装置に送信され、撮影監督向けに再生される。
【0055】
通話機2は、ユーザに装着可能に構成される。そして、通話機2は、ユーザと撮影監督とのコミュニケーションのための音声を入力又は出力する。通話機2は、ユーザと撮影監督との必要最低限のコミュニケーションを実現すればよい関係で、両耳ではなく、片耳又は片耳付近に装着される場合が多い。例えば、通話機2は、片耳用のヘッドセットとして構成され得る。通話機2は、少なくとも音出力部210を含む。
【0056】
音出力部210は、入力された音響信号を音に変換し、周囲の空間に放出する構成である。音出力部210は、スピーカであってよい。音出力部210には、DAC(Digital Analog Converter)、アンプ、及び再生装置等が接続され得る。音出力部210は、無線通信機3により受信された音響信号を再生することで、指示音声を出力する。これにより、撮影監督からユーザへのコミュニケーションが成立することとなる。音出力部210により出力された指示音声は、ユーザにより聴取されるだけでなく、音響装置1にも到達し得る。その場合には、収録音声への非目的音声の漏れ込みが生じることとなる。
【0057】
音出力部210は、骨伝導式のスピーカであってもよい。骨伝導式のスピーカは、耳周辺の骨を振動させて、その振動を聴覚神経へと伝達させることで、音をユーザに認識させる。音響装置1の収音部50が、周囲の空間に鳴る音を取得する気道式のマイクとして構成されることを考慮すれば、かかる構成により、音出力部210から出力された指示音声が、音響装置1により取得されにくくすることができる。ここで、骨伝導式のスピーカから出力された音のうち低周波数帯域の音及び高周波数帯域の音の多くは、骨に吸収されてしまい、聴覚神経まで届かないことが実験的に判明している。即ち、骨伝導式のスピーカが十分な利得を得られる周波数帯域は狭いと言える。従って、音出力部210を、十分な利得を得られる周波数帯域が狭い骨伝導式のスピーカとすることで、低周波数帯域及び高周波数帯域の漏れ込みが減少することとなる。これらにより、バイノーラル録音の質を向上させることができる。また、低周波数帯域及び高周波数帯域の漏れ込みが減少する分、後述するキャンセル用フィルタのタップ数を少なくすることができるので、信号処理部220における処理負荷を軽減することが可能である。なお、上記低周波数帯域は、例えば100Hz以下の周波数帯域であってよい。もちろん、かかる数値はあくまで一例であり、本開示はかかる数値に限定されない。また、上記高周波数帯域は、例えば4000Hz以上の周波数帯域であってよい。もちろん、かかる数値はあくまで一例であり、本開示はかかる数値に限定されない。
【0058】
2つの音響装置1(1A及び1B)は、ユーザの両耳に装着される。2つの音響装置1は、周囲の空間に鳴る音(以下、収録音声とも称する)を音響信号に変換して取得する。ただし、音響装置1により取得される音響信号には、目的音声に対応する成分が含まれるだけでなく、非目的音声である指示音声に対応する成分が含まれ得る。
【0059】
音響装置1Aの収音部50A(第1収音部の一例)により取得された音響信号(以下、第1音響信号とも称する)は、信号処理部220に出力される。同様に、音響装置1Bの収音部50B(第2収音部の一例)により取得された音響信号(以下、第2音響信号とも称する)は、信号処理部220に出力される。
【0060】
信号処理部220は、音響装置1により取得された音響信号から非目的音声に対応する成分(以下、漏れ込み成分とも称する)をキャンセルする処理を行う構成である。詳しくは、信号処理部220は、収録音声に含まれる非目的音声の成分である漏れ込み成分を推定する。そして、信号処理部220は、音響装置1により取得された音響信号から、推定した漏れ込み成分(以下、推定漏れ込み成分とも称する)をキャンセルすることで、目的音声に対応する音響信号を生成する。信号処理部220により生成された、目的音声に対応する音響信号は、記憶部230に出力される。信号処理部220により実施される信号処理の詳細については後に詳しく説明する。
【0061】
信号処理部220は、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processor Unit)等の電子回路であってよい。さらに、信号処理部220は、使用するプログラム及び演算パラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)、及び適宜変化するパラメータ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)を含んでいてもよい。
【0062】
記憶部230は、情報を記録及び再生する構成である。記憶部230は、例えば、フラッシュメモリ等の任意の記憶媒体と、当該記憶媒体に対してデータの記録再生を行う構成とを含む。例えば、記憶部230は、信号処理部220から出力された音響信号を記憶する。そして、記憶部230は、記憶した音響信号を無線通信機3へ出力する。
【0063】
電源部240は、音響システム8に含まれる各構成要素に電力を供給する構成である。即ち、電源部240は、音響装置1、通話機2、信号処理部220、及び記憶部230の各々に、電力を供給する。電源部240は、例えば充電式のバッテリとして構成されてもよい。
【0064】
(2)信号処理
信号処理部220は、音響装置1Aにより取得された第1音響信号及び音響装置1Bにより取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、音出力部210から放出される音である指示音声に対応する成分をキャンセルする。かかる構成により、収録音声に含まれる指示音声に対応する漏れ込み成分を抑制して、バイノーラル録音の質を向上させることが可能となる。
【0065】
詳しくは、信号処理部220は、第3音響信号に基づいて、指示音声に対応する成分をキャンセルする。例えば、信号処理部220は、無線通信機3により受信された第3音響信号に対応する成分を、第1音響信号及び第2音響信号の少なくともいずれか一方から減算する。かかる構成により、収録音声に含まれる指示音声に対応する漏れ込み成分を、的確に抑制することが可能となる。
【0066】
とりわけ、信号処理部220は、事前に計測された音出力部210から収音部50A又は収音部50Bの少なくともいずれか一方への伝達特性に基づいて、指示音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。例えば、信号処理部220は、音出力部210に既知な音響信号を再生させて、収音部50A又は収音部50Bの少なくともいずれか一方により取得された音響信号と当該既知な音響信号とを比較することで、伝達特性を計測してもよい。そして、信号処理部220は、入力された音響信号に、計測した伝達特性を畳み込んで出力する、キャンセル用フィルタを構成してもよい。キャンセル用フィルタは、例えば、IIR(Infinite impulse response)フィルタ又はFIR(finite impulse response)フィルタ等のデジタルフィルタであってよい。信号処理部220は、第3音響信号をキャンセル用フィルタに入力することで、第3音響信号に計測済みの伝達特性を畳み込んだ音響信号を得ることができる。そして、信号処理部220は、第3音響信号をキャンセル用フィルタに入力して得た音響信号を、第1音響信号及び第2音響信号の少なくともいずれか一方から減算する。かかる構成によれば、収録音声に含まれる指示音声に対応する漏れ込み成分を、より的確に抑制することが可能となる。
【0067】
続いて、図8を参照しながら、音響システム8により実行される信号処理の流れの一例を説明する。
【0068】
図8は、本実施形態に係る音響システム8により実行される信号処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0069】
図8に示すように、信号処理部220は、まず、音出力部210から収音部50までの伝達特性を計測して、キャンセル用フィルタを構築する(ステップS102)。詳しくは、信号処理部220は、音出力部210から収音部50Aまでの伝達特性を計測して、第1音響信号を対象とするキャンセル用フィルタを構築する。また、信号処理部220は、音出力部210から収音部50Bまでの伝達特性を計測して、第2音響信号を対象とするキャンセル用フィルタを構築する。
【0070】
次いで、信号処理部220は、キャンセル機能をONにする(ステップS104)。
【0071】
次に、信号処理部220は、無線通信機3により受信された第3音響信号を取得する(ステップS106)。
【0072】
次いで、信号処理部220は、第3音響信号に基づいて、漏れ込み成分を推定する(ステップS108)。詳しくは、信号処理部220は、上記ステップS102において構築した第1音響信号を対象とするキャンセル用フィルタに第3音響信号を入力することで、第1音響信号における推定漏れ込み成分に対応する音響信号を生成する。また、信号処理部220は、上記ステップS102において構築した第2音響信号を対象とするキャンセル用フィルタに第3音響信号を入力することで、第2音響信号における推定漏れ込み成分に対応する音響信号を生成する。
【0073】
次に、信号処理部220は、第3音響信号を音出力部210により再生させ、音出力部210から指示音声を出力させる(ステップS110)。
【0074】
次いで、信号処理部220は、収音部50により取得された、収録音声に対応する音響信号を取得する(ステップS112)。詳しくは、信号処理部220は、収音部50Aにより取得された第1音響信号、及び収音部50Bにより取得された第2音響信号を、取得する。
【0075】
次に、信号処理部220は、収録音声に対応する音響信号から推定漏れ込み成分を減算する(ステップS114)。詳しくは、信号処理部220は、上記ステップS108において推定した第1音響信号における漏れ込み成分に対応する音響信号を、第1音響信号から減算する。また、信号処理部220は、上記ステップS108において推定した第2音響信号における漏れ込み成分に対応する音響信号を、第2音響信号から減算する。
【0076】
そして、信号処理部220は、推定漏れ込み成分を減算した収録音声に対応する音響信号を、記憶部230に記憶させる(ステップS116)。詳しくは、信号処理部220は、推定漏れ込み成分を減算後の第1音響信号、及び推定漏れ込み成分を減算後の第2音響信号を、記憶部230に記憶させる。
【0077】
なお、キャンセル機能がOFFである場合、上記ステップS108及びS114に係る処理は省略される。また、信号処理部220は、上記ステップS116に係る処理の代わりに、収音部50Aにより取得された第1音響信号及び収音部50Bにより取得された第2音響信号を、そのまま記憶部230に記憶させる。
【0078】
(3)補足
上記説明したように、通話機2は、ユーザの片耳又は片耳付近に装着される場合がある。その場合、第1音響信号と第2音響信号との間で、漏れ込み成分の含有量に偏りが生じ得る。そこで、信号処理部220は、当該偏りに応じた信号処理を実施してもよい。
【0079】
以下では、一例として、収音部50Aは、音出力部210の位置から近い方の耳に装着され、収音部50Bは、音出力部210の位置から遠い方の耳に装着されるものとする。具体的には、音響装置1Aがユーザの左耳に装着され、音響装置1Bがユーザの右耳に装着されるものとする。そして、通話機2は、ユーザの左耳付近、即ち音響装置1A付近に装着されるものとする。
【0080】
このような配置においては、信号処理部220は、収音部50Aにより取得された第1音響信号から指示音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。かかる構成によれば、指示音声が確実に漏れ込むと想定される第1音響信号から、指示音声に対応する成分を的確にキャンセルすることが可能となる。他方、信号処理部220は、収音部50Bにより取得された第2音響信号に対しては、指示音声に対応する成分をキャンセルするための信号処理を省略してもよい。かかる構成によれば、指示音声が漏れ込みにくいと想定される第2音響信号において、目的音声に対応する成分が誤ってキャンセルされるような事態を防止することが可能となる。
【0081】
さらに、信号処理部220は、第2音響信号に基づいて、第1音響信号から指示音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。音響装置1A及び音響装置1Bは、互いの位置関係が固定され、同一音源から到来した音声を取得する。そのため、第1音響信号と第2音響信号との間には、漏れ込み成分の有無を除けば一定の関係が成り立つと考えられる。この点、かかる構成によれば、第1音響信号と第2音響信号との間の関係性を利用することで、収録音声に含まれる指示音声に対応する漏れ込み成分を、より的確に抑制することが可能となる。
【0082】
具体的には、信号処理部220は、第1音響信号と第2音響信号との類似度に基づいて、第1音響信号から指示音声に対応する成分をキャンセルしてもよい。類似度の一例としては、相互相関が挙げられる。一例として、信号処理部220は、第1音響信号と第2音響信号との類似度が低下した時間区間に限定して、第1音響信号から指示音声に対応する成分をキャンセルする処理を実行してもよい。かかる構成によれば、キャンセル処理の実行時間を短縮して、処理負荷及び消費電力を軽減することが可能となる。他の一例として、信号処理部220は、第1音響信号と第2音響信号との類似度が低下した時間区間においては、類似度が低下した周波数帯を減衰させてもよい。当該時間区間及び当該周波数帯に、漏れ込み成分が含まれると想定されるためである。他の一例として、信号処理部220は、第1音響信号から減算される、漏れ込み成分に対応する音響信号を、第2音響信号及び類似度に基づいて補正してもよい。かかる構成によれば、過度なキャンセルを防止することが可能となる。
【0083】
<3.2.発話音声のキャンセル>
上記では、指示音声のような通話機2からユーザに対して放出される音声を対象にキャンセル処理が実施される例を説明した。これに加え、又は代えて、信号処理部220は、ユーザから放出される音を対象にキャンセル処理を実施してもよい。以下、この点について詳しく説明する。
【0084】
図9は、本実施形態に係る音響システム8の他の構成の一例を示す図である。図9に示す音響システム8は、図7に示した音響システム8とほぼ同一の構成を有する。以下、図9に示す音響システム8と図7に示した音響システム8との相違点について主に説明し、重複する点については説明を省略する。
【0085】
図9に示した音響システム8の通話機2は、音出力部210に代えて収音部211(第3収音部の一例)を有する。収音部211は、周囲の音を取得する装置である。詳しくは、収音部211は、周囲の空間に鳴る音をアナログ信号に変換し、変換後のアナログ信号を出力する。収音部211は、いわゆるマイクロホン(以下、単にマイクとも称する)であってよい。収音部211には、ADC(Analog Digital Converter)、アンプ、及び記録装置等が接続され得る。
【0086】
収音部211は、ユーザが発話した音声(以下、発話音声とも称する)を変換して音響信号(以下、第4音響信号とも称する)を取得する。発話音声は、第2非目的音声の一例である。収音部211は、収音部50A及び収音部50Bよりもユーザの口元に近い位置に配置される。これにより、収音部211は、キャンセル対象である発話音声に対応する音響信号を的確に取得することができるので、発話音声のキャンセル精度を向上させることが可能となる。
【0087】
第4音響信号は、無線通信機3に出力され、無線通信機3により送信される。例えば、第4音響信号は、撮影監督が有する装置に送信され、撮影監督向けに再生される。これにより、ユーザから撮影監督へのコミュニケーションが成立することとなる。また、第4音響信号は、信号処理部220にも出力される。
【0088】
信号処理部220は、音響装置1Aにより取得された第1音響信号及び音響装置1Bにより取得された第2音響信号の少なくともいずれか一方から、ユーザから放出された音である発話音声に対応する成分をキャンセルする。かかる構成により、収録音声に含まれる発話音声に対応する漏れ込み成分を抑制して、バイノーラル録音の質を向上させることが可能となる。
【0089】
詳しくは、信号処理部220は、第4音響信号に基づいて、第4音響信号に対応する音である発話音声に対応する成分をキャンセルする。例えば、信号処理部220は、収音部211により取得された第4音響信号に対応する成分を、第1音響信号及び第2音響信号の少なくともいずれか一方から減算する。
【0090】
第4音響信号に基づいて発話音声に対応する成分をキャンセルする処理は、上記説明した、第3音響信号に基づいて発話音声に対応する成分をキャンセルする処理と同様にして実施され得る。例えば、信号処理部220は、事前に計測されたユーザの口又は収音部211から収音部50A又は収音部50Bの少なくともいずれか一方への伝達特性に基づいて、キャンセル用フィルタを構築してもよい。そして、信号処理部220は、構築したキャンセル用フィルタを用いて、発話音声に対応する漏れ込み成分をキャンセルしてもよい。かかる構成により、収録音声に含まれる発話音声に対応する漏れ込み成分を抑制して、バイノーラル録音の質を向上させることが可能となる。
【0091】
なお、通話機2は、音出力部210及び収音部211の双方を有していてもよく、信号処理部220は、指示音声のキャンセル処理と発話音声のキャンセル処理とを並行して実施してもよい。
【0092】
<4.音響システムの物理構成>
音響システム8の物理構成は多様に考えられる。とりわけ、音響装置1と通話機2とを共にユーザに装着可能にするための構成については、様々な態様が考えられる。以下、図10図13を参照しながら、音響装置1及び通話機2の物理構成の一例を説明する。
【0093】
(1)第1の例
図10は、本実施形態に係る音響システム8の物理構成の一例を説明するための図である。図10に示すように、ユーザの左耳に、音響装置1(より正確には、音響装置1A)及び通話機2が装着されている。音響装置1の構成は、図1図6を参照しながら上記説明した通りである。
【0094】
図10に示すように、通話機2は、音出力部210とつる250とを含む。
【0095】
つる250は、通話機2がユーザに装着された状態において、ユーザの耳輪脚93より前方から耳輪96の背面を通過して耳垂97に下方に至るまで、ユーザの耳介90の背面に沿って湾曲する。つる250の、通話機2がユーザに装着された状態においてユーザの耳輪脚93より前方に位置する端部には、音出力部210が接続される。つる250は、シリコン樹脂等の弾性体により構成され、ユーザの耳介90の形状に応じて変形しながら、耳介90に係止され得る。通話機2は、つる250が耳介90に掛けられた状態で、ユーザに装着される。かかる構成によれば、通話機2の落下を防止することが可能となる。
【0096】
音出力部210は、通話機2がユーザに装着された状態において、ユーザの頭部に密着して配置される。音出力部210は、骨伝導式のスピーカとして構成されるため、ユーザの頭蓋骨を介して音をユーザに好適に伝達することが可能である。
【0097】
音響装置1の第3フレーム40は、ユーザの耳介90に掛けられた状態でユーザに装着され、収音部50に接続される第1耳介フレームの一例である。つる250は、ユーザの耳介90に掛けられた状態でユーザに装着され、音出力部210が接続される第2耳介フレームの一例である。図10に示すように、音響装置1の第3フレーム40と通話機2のつる250とは、同一の耳介90に掛けられてもよい。とりわけ、図10に示すように、第3フレーム40に上から覆いかぶさるようにして、つる250が耳介90に掛けられてもよい。
【0098】
このように、音響装置1と通話機2とを分離独立して構成することで、音出力部210から出力された音が収音部50により取得されにくくすることができる。若しくは、音出力部210と収音部50との間に振動を吸収する部材を設けるといった、音響装置1に音出力部210を搭載する場合に採用されることが好ましい工夫を、省略することが可能となる。
【0099】
なお、図10では、収音部211の図示が省略されているが、収音部211の物理構成は任意であってよい。例えば、通話機2は、収音部211をユーザの口元で支持するマイク用フレームをさらに含んでいてもよく、マイク用フレームはつる250に接続されてもよい。
【0100】
(2)第2の例
図11は、本実施形態に係る音響システム8の物理構成の他の一例を説明するための図である。図11に示すように、ユーザの左耳に、音響装置1(より正確には、音響装置1A)及び通話機2が装着されている。
【0101】
図11に示した通話機2の構成は、図10を参照しながら上記説明した通りである。図11に示した音響装置1の構成は、図1図6を参照しながら上記説明した構成と、第3フレーム40の形状に関して相違する一方で、他の点で同一である。即ち、図11に示すように、第3フレーム40及びつる250が同一の耳介90に掛けられた状態において、第3フレーム40は、つる250よりも耳介90から遠い側を通過して耳介90に掛けられている。詳しくは、第3フレーム40は、ユーザの耳介90の前面から耳介90の背面にかけてユーザの耳輪脚93の外側を通過するように、且つ、耳介90に装着されたつる250の前面と背面とを挟み込むように、湾曲する。かかる構成によれば、図11に示した音響装置1の第3フレーム40は、音響装置1と通話機2とが左耳に装着された状態において、つる250の上から覆いかぶさるようにして耳介90に掛けられることとなる。そのため、第3フレーム40がつる250を上から押さえ込むこととなり、その結果、音出力部210をより強くユーザの頭部に密着させることができる。これにより、音出力部210からユーザへの音の伝達効率を向上させることが可能となる。
【0102】
(3)第3の例
図12は、本実施形態に係る音響システム8の物理構成の他の一例を説明するための図である。図12に示すように、ユーザの左耳に、音響装置1(より正確には、音響装置1A)及び通話機2が装着されている。
【0103】
図12に示した通話機2の構成は、図10を参照しながら上記説明した通りである。図11に示した音響装置1の構成は、図1図6を参照しながら上記説明した構成と、第3フレーム40を省略した点で相違する一方で、他の点で同一である。図12に示すように、音響装置1から第3フレーム40が省略されてもよい。その場合、音響装置1と通話機2との物理的な接触が無くなるので、物理的な接触を介した振動の伝達が抑制され、それに伴い収録音声への指示音声の漏れ込みを抑制することが可能となる。
【0104】
(4)第4の例
図13は、本実施形態に係る音響システム8の物理構成の他の一例を説明するための図である。図13に示すように、ユーザの左耳に、通話機2を兼ねる音響装置1(より正確には、音響装置1A)が装着されている。
【0105】
図13に示した音響装置1は、第3フレーム40に代えて第5フレーム41を有する。また、図13に示した音響装置1は、音出力部210を有する。第5フレーム41の一端は第1フレーム20に接続され、他端に音出力部210が接続されている。第5フレーム41は、シリコン樹脂等の弾性体により構成されてもよい。音響装置1は、ユーザに装着された状態で、第5フレーム41により音出力部210をユーザの頭部に密着させながら支持する。第5フレーム41は、音出力部210と収音部50とを接続する第3耳介フレームの一例である。かかる構成によれば、音響装置1と通話機2を分離して構成せずとも済むので、音響システム8の物理構成を簡素にすることが可能である。
【0106】
<5.補足>
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0107】
(1)変形例
上記では、2つの音響装置1がユーザの両耳に装着される例を説明したが、本開示はかかる例に限定されない。2つの音響装置1は、ダミーヘッドに装着されてもよい。さらに言えば、カメラに設けられたダミーヘッドに、2つの音響装置1が装着されてもよい。かかる例について、図14及び図15を参照しながら説明する。
【0108】
図14は、ダミーヘッド400を搭載したカメラ300を左から見た側面図である。図15は、ダミーヘッド400を搭載したカメラ300を上から見た上面図である。図14及び図15に示すように、カメラ300は、レンズ310、ユーザインタフェース320、及びファン330を含む。
【0109】
レンズ310は、撮像対象の光を取り込む構成である。レンズ310により取り込まれた光は、撮像素子により画像データに変換される。
【0110】
ユーザインタフェース320は、ユーザとの間で情報の入出力を行う構成である。ユーザインタフェース320は、ボタン又はタッチパネル等の入力装置を含んでいてもよい。ユーザインタフェース320は、ディスプレイ等の出力装置を含んでいてもよい。
【0111】
ファン330は、カメラ300内部の熱を排出するための構成である。ファン330は、回転することで、カメラ300内部の空気を外に排出しつつ、外部の冷たい空気をカメラ300内部に取り込む。
【0112】
ダミーヘッド400は、人の頭部を模した構造物である。ダミーヘッド400には、耳を模した2つの疑似耳410(410A及び410B)が設けられている。そして、左耳を模した疑似耳410Aに音響装置1Aが、右耳を模した疑似耳410Bに音響装置1Bが、それぞれ装着されている。
【0113】
かかる構成によっても、動画とリンクした音声をバイノーラル録音することが可能となる。さらに、カメラ300に搭載されたダミーヘッド400に音響装置1を装着してバイノーラル録音する場合、カメラ300を使用して撮影するカメラマンの両耳に音響装置1を装着してバイノーラル録音する場合と比較して、以下の有利な点がある。即ち、カメラマンは、次の撮影対象を探すために周囲を見まわしたり、移動の際に路面の状態を確認したり、ユーザインタフェース320を操作するためにユーザインタフェース320を見たりする場合がある。そして、これらの場合には、ユーザの頭部の動きがカメラ300の動きと相違することとなる。その結果、ユーザの両耳に音響装置1を装着してバイノーラル録音した場合、バイノーラル録音されたコンテンツの音源方向が動画における音源方向と相違することとなり、視聴者に不自然な印象を与え得る。他方、カメラ300に搭載されたダミーヘッド400に音響装置1を装着した場合、バイノーラル録音されたコンテンツの音源方向と動画における音源方向とが常に一致することとなるので、視聴者に不自然な印象を与えないようにすることが可能となる。
【0114】
なお、ダミーヘッド400は、カメラ300における音源から離れた位置に配置されることが望ましい。例えば、図14及び図15に示すように、操作音を発し得るユーザインタフェース320、及び回転音を発し得るファン330から離隔した、例えばカメラ300の前方に、ダミーヘッド400が設けられることが望ましい。かかる構成よれば、ダミーヘッド400に装着された音響装置1を、カメラ300における音源から離隔することができる。その結果、カメラ300の音から発生した音の収録音声への漏れ込みを抑制することが可能となる。
【0115】
ダミーヘッド400の代わりに、簡易的なダミーヘッドが利用されてもよい。簡易的なダミーヘッドの一例を、図16を参照しながら説明する。
【0116】
図16は、簡易ダミーヘッド401の一例を示す図である。簡易ダミーヘッド401が、ダミーヘッド400に代えて、カメラ300に搭載されてもよい。簡易ダミーヘッド401は、耳を模した2つの疑似耳410(410A及び410B)と、2つの疑似耳410を接続する筐体402と、筐体402をカメラ300に接続する接続器具403を含む。簡易ダミーヘッド401は、人間の頭部を模した形状をしていない分、ダミーヘッド400よりもバイノーラル録音の質が低下し得る。しかしながら、簡易ダミーヘッド401は、ダミーヘッド400と比較して目立たない分、街歩き及びスポーツ観戦等の撮影現場により馴染むことができる。その結果、撮影対象の人が簡易ダミーヘッド401に注目したり言及したりすることを避けることができるので、より自然なコンテンツを取得することができる。
【0117】
ここで、簡易ダミーヘッド401の構成は、図16に示した例に限定されない。
【0118】
例えば、簡易ダミーヘッド401から接続器具403が省略され、代わりに、筐体402の下面に開口(例えば、ネジ穴)が設けられていてもよい。カメラ300として利用され得る業務用カメラには、規格上、各種アタッチメントを取り付けるためのネジ穴が設けられている。そこで、例えば、カメラ300の上面に設けられたネジ穴と筐体402の下面に設けられたネジ穴とにネジが挿通されることで、カメラ300と簡易ダミーヘッド401とが接続されてもよい。これにより、カメラ300の上側に簡易ダミーヘッド401を配置することができる。同様に、筐体402の上面に開口(例えば、ネジ穴)が設けられ、カメラ300の下面に設けられたネジ穴と筐体402の上面に設けられたネジ穴とにネジが挿通されることで、カメラ300と簡易ダミーヘッド401とが接続されてもよい。これにより、カメラ300の下側に簡易ダミーヘッド401を配置することができる。また、筐体402は上下方向に薄く構成されてよい。その場合、筐体402がカメラ300の上面又は下面に沿うようにして、カメラ300と簡易ダミーヘッド401とを接続することができる。
【0119】
もちろん、カメラ300と簡易ダミーヘッド401とを接続する機構は、ネジとネジ穴との組み合わせに限定されない。例えば、筐体402は上下方向に薄い板状に構成され、上下方向に貫通する貫通孔が設けられていてもよい。そして、カメラ300のネジ穴と筐体402の貫通孔とに挿入されたボルトを、ナットにより締め込むことで、カメラ300と簡易ダミーヘッド401とが接続されてもよい。
【0120】
また、簡易ダミーヘッド401がカメラ300に接続された状態で、2つの疑似耳410は、上下方向及び前後方向において、カメラ300と重複する位置に配置されてもよい。より簡易には、カメラ300を左右両側から挟み込むようにして、2つの疑似耳410が配置されてもよい。その場合、2つの疑似耳410は、左右方向において、カメラ300から離隔して配置されることが望ましい。具体的には、筐体402の左右方向の長さが、カメラ300の左右方向の長さよりも十分に長いことが望ましい。かかる構成により、カメラ300のユーザインタフェース320と2つの疑似耳410との干渉を抑制することができる。また、筐体402は、左右方向に伸縮可能に構成されてよく、カメラ300と2つの疑似耳410との距離が調節可能であってよい。
【0121】
(2)その他
上記では、音出力部210が骨伝導式のスピーカとして構成される例を説明したが、本開示はかかる例に限定されない。音出力部210は、気道式のスピーカとして構成されてよい。気道式のスピーカは、空気を振動させて、その振動を、外耳道を介して鼓膜へと伝達させることで、音をユーザに認識させる。
【0122】
上記では、音響システム8に無線通信機3が接続される例を説明したが、本開示はかかる例に限定されない。無線通信機3に代えて、有線通信を行う有線通信機が音響システム8に接続されていてもよい。他に、音響システム8が、無線通信機3を含んでいてもよい。
【0123】
上記では、通話機2の音出力部210が左耳側に装着される例を説明したが、本開示はかかる例に限定されない。音出力部210は、右耳側に装着されてもよい。その場合、音出力部210が左耳側(即ち、音響装置1Aに近い側)に装着されることを前提として説明した第1音響信号に対して実施される処理は、第2音響信号に対して同様に実施されればよい。もちろん、音出力部210は、両耳に装着されてもよい。
【0124】
なお、本明細書において説明した各装置による一連の処理は、ソフトウェア、ハードウェア、及びソフトウェアとハードウェアとの組合せのいずれを用いて実現されてもよい。ソフトウェアを構成するプログラムは、例えば、各装置の内部又は外部に設けられる記録媒体(詳しくは、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体)に予め格納される。そして、各プログラムは、例えば、本明細書において説明した各装置を制御するコンピュータによる実行時にRAMに読み込まれ、CPUなどの処理回路により実行される。上記記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。また、上記のコンピュータは、ASICのような特定用途向け集積回路、ソフトウエアプログラムを読み込むことで機能を実行する汎用プロセッサ、又はクラウドコンピューティングに使用されるサーバ上のコンピュータ等であってよい。また、本明細書において説明した各装置による一連の処理は、単数のコンピュータにより集中して処理されてもよく、複数のコンピュータにより分散して処理されてもよい。さらに、上記各実施の形態において、一の装置に存在する2以上の通信手段は、物理的に一の媒体で実現されてもよい。
【0125】
また、本明細書においてフローチャート又はシーケンス図を用いて説明した処理は、必ずしも図示された順序で実行されなくてもよい。いくつかの処理ステップは、並列的に実行されてもよい。また、追加的な処理ステップが採用されてもよく、一部の処理ステップが省略されてもよい。
【符号の説明】
【0126】
1 音響装置
10 挿入部(10a:内面、10b:外面)
11 貫通孔(11a:先端側開口、11b:末端側開口)
20 第1フレーム(20a:内側面、20b:外側面)
21 中空部分
22 切り欠き
30 第2フレーム
31 第1柱状体
32 第2柱状体
33 第3柱状体
34 先端
40 第3フレーム
41 第5フレーム
50 収音部
51 振動部位(51a:振動方向)
52 音孔
2 通話機
210 音出力部
211 収音部
220 信号処理部
230 記憶部
240 電源部
250 つる
3 無線通信機
8 音響システム
90 耳介
91 耳甲介艇
92 耳甲介腔
93 耳輪脚
94 対耳輪
95 対耳輪脚
96 耳輪
97 耳垂
98 外耳道(98a:内壁)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16