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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126668
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機用コイル片
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H02K3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035222
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 隆久
(72)【発明者】
【氏名】小薮 駿介
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA03
5H604CC01
5H604CC05
5H604PB01
(57)【要約】
【課題】コイルの絶縁性を損なうことなく、コイルの放熱性を高める。
【解決手段】 導体部が絶縁被覆で覆われる複数のコイル片により形成されるコイルと、複数のティースを周方向に沿って有し、複数のティースにコイルが巻装される鉄心とを含み、コイル片の少なくとも一部において、導体部は、第1凹凸部を表面に有し、絶縁被覆は、導体部の第1凹凸部に沿う第2凹凸部を表面に有する、回転電機が開示される。コイル片は、好ましくは、周方向でティース間に形成されるスロット内に延在する第1部位と、鉄心の軸方向端面から軸方向外側に露出する第2部位とを含み、コイル片の少なくとも一部は、第1部位を含まずに、第2部位の略全体を含んでよい。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体部が絶縁被覆で覆われる複数のコイル片により形成されるコイルと、
複数のティースを周方向に沿って有し、前記複数のティースに前記コイルが巻装される鉄心とを含み、
前記コイル片の少なくとも一部において、前記導体部は、第1凹凸部を表面に有し、
前記絶縁被覆は、前記導体部の前記第1凹凸部に沿う第2凹凸部を表面に有する、回転電機。
【請求項2】
前記コイル片は、周方向で前記ティース間に形成されるスロット内に延在する第1部位と、前記鉄心の軸方向端面から軸方向外側に露出する第2部位とを含み、
前記コイル片の少なくとも一部は、前記第2部位の少なくとも一部を含む、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記コイル片は、周方向で前記ティース間に形成されるスロット内に延在する第1部位と、前記鉄心の軸方向端面から軸方向外側に露出する第2部位とを含み、
前記コイル片の少なくとも一部は、前記第1部位を含まずに、前記第2部位の略全体を含む、請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
少なくとも一部において第1凹凸部を表面に有する導体部と、
前記導体部を覆い、前記導体部の前記第1凹凸部に沿う第2凹凸部を表面に有する絶縁被覆とを備える、回転電機用コイル片。
【請求項5】
複数のティースを周方向に沿って有する鉄心に組み付け可能であり、
前記鉄心への組み付け状態において、周方向で前記ティース間に形成されるスロット内に延在する第1部位と、前記鉄心の軸方向端面から軸方向外側に露出する第2部位とを含み、
前記コイル片の少なくとも一部は、前記第2部位の少なくとも一部を含む、請求項4に記載の回転電機用コイル片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機及び回転電機用コイル片に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルの曲げ成形箇所においては屈曲により応力が発生するため、かかる応力を低減すべく、コイルの曲げ成形箇所(屈曲部)において導体部に凹凸部を形成し、導体部と絶縁被覆との間の密着性を高める技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-011097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術では、導体部と絶縁被覆との間の密着性を高める技術であり、絶縁被覆を介して導体部の熱を外部に放出する際のコイルの放熱性能を高めることが難しい。他方、コイルの放熱性能を高めるために、絶縁被覆に凹凸部を形成する場合、絶縁被覆の絶縁性能が低下するおそれがある。特に、コイルエンドにおいては、高い放熱性と高い絶縁性の、相反する特性の向上が望まれる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、コイルの絶縁性を損なうことなく、コイルの放熱性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、導体部が絶縁被覆で覆われる複数のコイル片により形成されるコイルと、
複数のティースを周方向に沿って有し、前記複数のティースに前記コイルが巻装される鉄心とを含み、
前記コイル片の少なくとも一部において、前記導体部は、第1凹凸部を表面に有し、
前記絶縁被覆は、前記導体部の前記第1凹凸部に沿う第2凹凸部を表面に有する、回転電機が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、コイルの絶縁性を損なうことなく、コイルの放熱性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ステータコアの単品状態の平面図である。
図3】ステータコアに組み付けられる1対のコイル片を模式的に示す図である。
図4】一のコイル片の概略正面図である。
図5図4のラインA-Aに沿った断面図である。
図6図4のラインB-Bに沿った断面図である。
図7】本実施例のステータの製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図8】電着塗装工程の概要の説明図である。
図9】電着槽内に浸漬されたワークの状態を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナーロータ型であり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0015】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板から形成される。ロータコア32の磁石孔320には、永久磁石321が挿入される。永久磁石321の数や配列等は任意である。変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0016】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0017】
ロータシャフト34は、図1に示すように、中空部34Aを有する。中空部34Aは、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。中空部34Aは、油路として機能してもよい。例えば、中空部34Aには、図1にて矢印R1で示すように、軸方向の一端側から油が供給され、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝って油が流れることで、ロータコア32を径方向内側から冷却できる。また、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝う油は、ロータシャフト34の両端部に形成される油穴341、342を通って径方向外側へと噴出され(矢印R5、R6)、コイルエンド220A、220Bの冷却に供されてもよい。
【0018】
なお、図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、溶接により接合されるステータコイル24(後述)を有する限り、任意である。従って、例えば、ロータシャフト34は、中空部34Aを有さなくてもよいし、中空部34Aよりも有意に内径の小さい中空部を有してもよい。また、図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、中空部34A内に挿入される油導入管が設けられてもよいし、モータハウジング10内の油路から径方向外側からコイルエンド220A、220Bに向けて油が滴下されてもよい。
【0019】
また、図1では、ロータ30がステータ21の内側に配されたインナーロータ型のモータ1であるが、他の形態のモータに適用されてもよい。例えば、ステータ21の外側にロータ30が同心に配されたアウターロータ型のモータや、ステータ21の外側及び内側の双方にロータ30が配されたデュアルロータ型のモータ等に適用されてもよい。
【0020】
次に、図2以降を参照して、ステータ21に関する構成を詳説する。
【0021】
図2は、ステータコア22の単品状態の平面図である。図3は、ステータコア22に組み付けられる1対のコイル片52を模式的に示す図である。図3では、ステータコア22の径方向内側を展開した状態で、1対のコイル片52とスロット220との関係が示される。また、図3では、ステータコア22が点線で示され、スロット220の一部については図示が省略されている。
【0022】
ステータ21は、ステータコア22と、ステータコイル24(図1参照)とを含む。
【0023】
ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるが、変形例では、ステータコア22は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。なお、ステータコア22は、周方向で分割される分割コアにより形成されてもよいし、周方向で分割されない形態であってもよい。ステータコア22の径方向内側には、ステータコイル24が巻回される複数のスロット220が形成される。具体的には、ステータコア22は、図2に示すように、円環状のバックヨーク22Aと、バックヨーク22Aから径方向内側に向かって延びる複数のティース22Bとを含み、周方向で複数のティース22B間にスロット220が形成される。スロット220の数は任意であるが、本実施例では、一例として、48個である。
【0024】
ステータコイル24は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイル(以下、U、V、Wを区別しない場合は「相コイル」と称する)を含む。各相コイルの基端は、入力端子(図示せず)に接続されており、各相コイルの末端は、他の相コイルの末端に接続されてモータ1の中性点を形成する。すなわち、ステータコイル24は、スター結線される。ただし、ステータコイル24の結線態様は、必要とするモータ特性等に応じて、適宜、変更してもよく、例えば、ステータコイル24は、スター結線に代えて、デルタ結線されてもよい。
【0025】
各相コイルは、複数のコイル片52を接合して構成される。図4は、一のコイル片52の概略正面図である。コイル片52は、相コイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロット220に挿入される単位)で分割したセグメントコイルの形態である。コイル片52は、断面矩形の線状導体(平角線)60を、絶縁被膜62で被覆してなる。本実施例では、線状導体60は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体60は、鉄やアルミのような他の導体材料により形成されてもよい。また、線状導体60の断面形状は、矩形以外であってもよい。
【0026】
コイル片52は、ステータコア22に組み付ける前の段階では、一対の直進部50と、当該一対の直進部50を連結する連結部54と、を有した略U字状に成形されてよい。コイル片52をステータコア22に組み付ける際、一対の直進部50は、それぞれ、スロット220に挿入される(図3参照)。これにより、連結部54は、図3に示すように、ステータコア22の軸方向他端側において、複数のティース22B(及びそれに伴い複数のスロット220)を跨ぐように周方向に延びる。連結部54が跨ぐスロット220の数は、任意であるが、図3では3つである。また、直進部50は、スロット220に挿入された後は、図4において、二点鎖線で示すように、その途中で周方向に屈曲される。これにより、直進部50は、スロット220内において軸方向に延びるスロット挿入部56と、ステータコア22の軸方向一端側において周方向に延びる渡り部58と、になる。
【0027】
なお、図4では、一対の直進部50は、互いに離れる方向に屈曲するが、これに限られない。例えば、一対の直進部50は、互いに近づく方向に屈曲されてもよい。また、ステータコイル24は、3相の相コイルの末端同士を連結して中性点を形成するための中性点用コイル片等も有することがある。
【0028】
一つのスロット220には、図4に示すコイル片52のスロット挿入部56が複数、径方向に並んで挿入される。従って、ステータコア22の軸方向一端側には、周方向に延びる渡り部58が複数、径方向に並ぶ。図3に示すように、一つのスロット220から飛び出て周方向第1側(例えば時計回りの向き)に延びる一のコイル片52の渡り部58は、他のスロット220から飛び出て周方向第2側(例えば反時計回りの向き)に延びる他の一のコイル片52の渡り部58に、接合用部位40(図4参照)同士が接合される。
【0029】
なお、本実施例では、一例として、2つのスロット挿入部56を有するコイル片52が利用されるが、4つ以上のスロット挿入部56を有するコイル片のような他の形態のコイル片にも適用可能である。
【0030】
次に、図5以降を参照して、コイル片52を更に説明する。
【0031】
図5は、図4のラインA-Aに沿った断面図である。図6は、図4のラインB-Bに沿った断面図である。
【0032】
コイル片52は、図4に示すように、スロット挿入部56においては、線状導体60は、略平らな表面を有する。また、絶縁被膜62は、線状導体60の略平らな表面に対応して略平らな表面を有する。
【0033】
他方、本実施例では、コイル片52は、図5に示すように、渡り部58においては、線状導体60は、凹凸部600(以下、「導体凹凸部600」とも称する)を表面に有する。また、絶縁被膜62は、線状導体60の導体凹凸部600に沿う凹凸部620(以下、「被覆凹凸部620」とも称する)を表面に有する。
【0034】
導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、基本的に、同じ箇所に形成される。すなわち、導体凹凸部600が形成される箇所には、被覆凹凸部620が形成されており、被覆凹凸部620が形成されている箇所には、導体凹凸部600が形成されている。
【0035】
導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、好ましくは、渡り部58の略全体にわたって形成される。ただし、渡り部58の接合用部位40には、導体凹凸部600は形成されなくてよい。なお、接合用部位40には、絶縁被膜62が付与されない。以下では、導体凹凸部600に関する説明において、渡り部58とは、特に言及しない限り、接合用部位40を除く部分を指す。
【0036】
導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、図5に示すように、好ましくは、断面矩形の線状導体60のすべての表面(4面)に形成される。これにより、表面積を効率的に増加できる。ただし、変形例では、渡り部58において、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、断面矩形の線状導体60の4面のうちの一部だけに形成されてもよい。例えば、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、コイル片52の生産性を高める観点から、断面矩形の線状導体60の4面のうちの1面又は2面に形成されてもよい。
【0037】
また、コイル片52は、図示しないが、好ましくは、連結部54においても、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620を表面に有する。この場合も、同様に、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、好ましくは、連結部54の略全体にわたって形成される。また、連結部54においても、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、断面矩形の線状導体60のすべての表面(4面)に形成されてよい。ただし、変形例では、連結部54においても、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、断面矩形の線状導体60の4面のうちの一部だけに形成されてもよい。例えば、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、コイル片52の生産性を高める観点から、断面矩形の線状導体60の4面のうちの1面又は2面に形成されてもよい。
【0038】
他方、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620は、好ましくは、スロット挿入部56には形成されない。すなわち、コイル片52は、スロット挿入部56において、その全体にわたって図4に示すような略平らな表面を有する。ただし、スロット挿入部56とそれ以外の部分(例えば、連結部54や渡り部58)との境界は、明確であるとは限らない。従って、コイル片52は、スロット挿入部56の端部(軸方向端部)において、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620を表面に有してもよいし、連結部54の端部や渡り部58の端部において、略平らな表面を有してもよい。
【0039】
本実施例によれば、コイル片52は、連結部54や渡り部58において導体凹凸部600及び被覆凹凸部620を表面に有するので、そうでない場合に比べて、コイルエンド220A、220Bにおける表面積を増加させることができる。これにより、コイルエンド220A、220Bの放熱性を効果的に高めることができる。例えば、上述したように油によりコイルエンド220A、220Bが冷却される場合、コイルエンド220A、220Bと油の接触面積が増加し、コイルエンド220A、220Bを効率的に冷却できる。
【0040】
また、本実施例によれば、被覆凹凸部620は、導体凹凸部600に沿う形態を有する。すなわち、被覆凹凸部620の凹部は、導体凹凸部600の凹部で形成され、被覆凹凸部620の凸部は、導体凹凸部600の凸部で形成される。従って、被覆凹凸部620は、導体凹凸部600に起因して厚みが低減されることもない。すなわち、被覆凹凸部620は、導体凹凸部600に被覆するにも拘わらず、必要な絶縁性を確保するための厚みを比較的均一に有することができる。
【0041】
このようにして、本実施例によれば、ステータコイル24の絶縁性を損なうことなく、ステータコイル24の放熱性を高めることが可能となる。
【0042】
ところで、線状導体60の断面積を同じとしたとき、コイル片52は、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620を有する部分では、これらを有さない部分(すなわち略平らな表面を有する部分)よりも、断面視での体格が大きくなる。すなわち、断面視で、コイル片52の断面形状に外接する矩形を想定した場合、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620を有さない部分では、これらを有する部分よりも、(両部分で線状導体60の断面積を同じあったとしても)矩形の面積が小さくなる。
【0043】
この点、本実施例によれば、上述したように、導体凹凸部600及び被覆凹凸部620を有する部分は、コイル片52の連結部54や渡り部58であり、コイルエンド220A、220Bを形成する部分である。また、略平らな表面を有する部分は、ステータコイル24のうちの、ステータコア22のスロット220に挿入されるスロット挿入部56を形成する部分である。従って、本実施例によれば、スロット220内における導体占積率を低減することなく、コイルエンド220A、220Bに導体凹凸部600及び被覆凹凸部620を形成できる。すなわち、本実施例によれば、スロット220内における導体占積率を犠牲にすることなく、コイルエンド220A、220Bの表面積(及びそれに伴う放熱性)を増加できる。
【0044】
図7は、本実施例のステータ21の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【0045】
本製造方法は、まず、コイル片52に係る線状導体60を形成するための線状導体素材を準備する工程(ステップS71)を含む。線状導体素材は、断面が矩形であり、略平らな表面を有する。なお、線状導体素材の長さは、コイル片52の1つ分に相当する長さであってもよいし、2つ以上に相当する長さであってもよい。
【0046】
ついで、本製造方法は、線状導体素材の略平らな表面に、導体凹凸部600を形成する工程(ステップS72)を含む。線状導体素材の表面のうちの、導体凹凸部600を形成する表面領域は、上述したように、コイルエンド220A、220Bを形成する部分の表面領域全体であってよい。導体凹凸部600の形成方法は、任意の導体粗面化方法であってよく、例えば、レーザ照射や、化学エッチング、ショットブラスト等であってよい。この際、導体粗面化は、好ましくは、導体凹凸部600の深さ方向の振幅が0.001mm~0.2mmの範囲内となり、かつ、隣り合う導体凹凸部600のピッチが0.001mm~0.2mmの範囲内となるように、実行されてよい。
【0047】
ついで、本製造方法は、線状導体素材を電着塗装することで、線状導体素材の表面上に絶縁被膜62を形成する電着塗装工程(ステップS73)。この際、電着塗装の各種条件(外部電極の配置等)は、導体凹凸部600に沿う被覆凹凸部620が形成されるように適合される。本工程が終了すると、コイル片52が実質的に出来上がる。
【0048】
図8は、電着塗装工程の概要の説明図である。図8には、上下方向に対応するZ方向と、水平方向に対応するX方向とが図示されている。
【0049】
電着塗装工程は、図8に示すように、線状導体素材のワークWを電着槽70に浸漬することを含む。電着槽70には、塗料が満たされている。なお、図8には、電着槽70に満たされた塗料がハッチング領域72で模式的に示されている。なお、塗料は、絶縁被膜62の材料であり、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂等を含む絶縁塗料であってよい。
【0050】
第1電極74と第2電極76との間の電位差が発生すると、塗料を介して直流電流が発生し(塗膜成分が電気泳動し)、電着槽70内に浸漬されたワークWの表面には、塗料の膜(塗膜)が析出(電着)される。このようにして形成される塗料の膜が、絶縁被膜62となる。なお、第1電極74は、ワークWに直接的に導通され、第2電極76は、電着槽70内に配置され、第1電極74と第2電極76との間には、直流電源(整流器)78が電気的に接続される。また、電着塗装工程中、電着槽70内の塗料は、流れを有する。例えば、電着塗装工程中、電着槽70には、供給側の配管(図示せず)から塗料が供給され、排出側から排出される。この場合、塗料は電着槽70を介して循環される。
【0051】
なお、図8では、第2電極76は概略的に示されているが、第1電極74との間に電位差を発生させる第2電極76に係る各種の電極構成は、例えば図9に示すとおりであってよい。
【0052】
図9は、電着槽70内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す正面図である。
【0053】
図9に示す例では、第2電極76は、スロット収容部用の電極761と、コイルエンド用の電極762とを有する。スロット収容部用の電極761と、コイルエンド用の電極762とは、互いに対して離間し、導通しない関係である。
【0054】
スロット収容部用の電極761は、スロット挿入部56を形成する部位W2(以下、「平坦表面部位W2」とも称する)まわりに設けられる。スロット収容部用の電極761は、例えば、ワークWのX方向両側に配置されてよい。それぞれのスロット収容部用の電極761は、X方向に視て、ワークWのうちの、平坦表面部位W2のZ方向全体を覆うように配置されてよい。スロット収容部用の電極761は、平坦表面部位W2からX方向で一定の所定距離d2離れて対向してよい。
【0055】
コイルエンド用の電極762は、コイルエンド220A、220Bを形成する部位(以下、「凹凸表面部位W1」とも称する)まわりに設けられる。コイルエンド用の電極762は、凹凸表面部位W1に対して、凹凸表面部位W1の表面に対して垂直方向で所定距離d1離れる態様で、対向してよい。
【0056】
図9に示す例では、スロット収容部用の電極761とコイルエンド用の電極762には、それぞれ異なる電圧が印加可能である。従って、この場合、所定距離d1、d2及び各電圧を適合することで、凹凸表面部位W1において凹凸部(すなわち導体凹凸部600)に沿う塗膜(被覆凹凸部620)の形成が容易となる。なお、所定距離d1、d2及び各電圧を適合することで、凹凸表面部位W1に付与される塗膜の膜厚を、平坦表面部位W2に付与される塗膜の膜厚よりも有意に厚くしてもよい。
【0057】
図7に戻り、ついで、本製造方法は、ステータコア22にコイル片52を組み付けることで、ステータコア22にステータコイル24を巻装する工程(ステップS74)を含む。
【0058】
このようにして、本製造方法によれば、導体凹凸部600に沿う被覆凹凸部620を有する線状導体60を電着塗装により形成できる。従って、絶縁被膜62に対して粗面化処理を別途行う必要がなく、絶縁被膜62に粗面化処理に起因したダメージ(絶縁性を低下させるようなダメージ)を与えるおそれもない。すなわち、絶縁被膜62に対してレーザ照射等により粗面化処理を別途行うと、絶縁被膜62の絶縁性が低下するおそれがあるが、本製造方法では、かかる粗面化処理を必要とすることなく、絶縁被膜62の表面積を増加できる。
【0059】
特に、本製造方法では、粗面化処理は、上述したようにコイルエンド220A、220Bを形成する部分全体に対して実行される。コイルエンド220A、220Bは、異なる相間のコイル間の距離が近づくため、スロット挿入部56においてよりも、絶縁性を高める必要がある(粗面化処理に起因した絶縁性の低下を確実に防止する必要性が高い)。本製造方法による粗面化処理は、上述したように、被覆凹凸部620に対して直接的に実行するものでないため、コイルエンド220A、220Bを形成する部分全体に対して実行される場合でも、絶縁性の局所的な低下等も生じがたい。
【0060】
このようにして、本製造方法によれば、ステータコイル24の絶縁性を損なうことなく、ステータコイル24の放熱性を高めることができる。すなわち、絶縁性及び放熱性がともに良好なステータコイル24を備えるステータ21を製造できる。
【0061】
なお、本製造方法では、導体凹凸部600に沿う被覆凹凸部620を形成するために電着塗装を利用しているが、導体凹凸部600に沿う被覆凹凸部620を形成可能な方法は多様であり、他の方法が利用されてもよい。
【0062】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0063】
例えば、上述した実施例は、ステータコイル24用のコイル片52に対する適用例であるが、これに限られない。例えば、巻線界磁型の回転電機においては、ロータコアに巻回されるコイルにも適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
21・・・ステータ(回転電機)、24・・・ステータコイル、54・・・連結部(第2部位)、56・・・スロット挿入部(第1部位)、58・・・渡り部(第2部位)、22・・・ステータコア(鉄心)、52・・・コイル片(回転電機用コイル片)、60・・・線状導体(導体部)、600・・・導体凹凸部(第1凹凸部)、62・・・絶縁被膜、620・・・被覆凹凸部(第2凹凸部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9