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特開2024-126669回転電機用ステータ及び回転電機用ステータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126669
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】回転電機用ステータ及び回転電機用ステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H02K3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035223
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 隆久
(72)【発明者】
【氏名】小薮 駿介
(72)【発明者】
【氏名】古賀 清隆
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇史
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA03
5H604CC01
5H604CC05
5H604PB01
(57)【要約】
【課題】加工費等の低減を図りつつ、コイルエンドにおける必要な絶縁性及び放熱性を効率的に確保する。
【解決手段】ステータコアと、ステータコアに巻装される複数相のステータコイルとを含み、複数相のステータコイルは、それぞれ、ステータコアのスロット内に挿入されるスロット挿入部と、ステータコアの軸方向端面よりも軸方向外側に延在するコイルエンドとを有し、複数相のステータコイルを形成する複数のコイル片は、断面矩形の導体部と、1種類の被膜により導体部を覆う絶縁被膜とを備え、複数相のうちの少なくとも1つの相に係るステータコイルは、コイルエンドにおける絶縁被膜が、異相同士が対向又は接触する第1部位において、同相同士が対向する第2部位よりも、厚い、回転電機用ステータが開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアと、
前記ステータコアに巻装される複数相のステータコイルとを含み、
前記複数相のステータコイルは、それぞれ、前記ステータコアのスロット内に挿入されるスロット挿入部と、前記ステータコアの軸方向端面よりも軸方向外側に延在するコイルエンドとを有し、
前記複数相のステータコイルを形成する複数のコイル片は、断面矩形の導体部と、1種類の被膜により前記導体部を覆う絶縁被膜とを備え、
前記複数のコイル片は、前記コイルエンドにおいて、異相同士が、前記導体部の表面に対して垂直な方向で直接的に対向又は接触する第1部位と、同相同士が、前記導体部の表面に対して垂直な方向で直接的に対向する第2部位とを含み、
前記複数相のうちの少なくとも1つの相に係るステータコイルは、前記コイルエンドにおける前記絶縁被膜が、前記第1部位において前記第2部位よりも、厚い、回転電機用ステータ。
【請求項2】
前記複数のコイル片は、前記コイルエンドにおいて、異相同士が直接的に対向又は接触する対の第1表面と、同相同士が直接的に対向する対の第2表面と、前記第1表面及び前記第2表面とは異なる第3表面とを含み、
前記コイルエンドにおけるすべての前記第1表面、前記第2表面、及び前記第3表面のうちの、少なくとも一部において、前記第1表面に係る前記絶縁被膜は、前記第2表面に係る前記絶縁被膜よりも厚く、かつ、前記第3表面に係る前記絶縁被膜よりも厚い、請求項1に記載の回転電機用ステータ。
【請求項3】
前記複数のコイル片は、前記コイルエンドにおいて、前記導体部における前記第1表面側の導体表面同士の離間距離が第1距離となる箇所と、前記離間距離が前記第1距離よりも長い第2距離となる箇所とを有し、
前記第1表面に係る前記絶縁被膜は、前記離間距離が前記第1距離となる箇所において、前記離間距離が前記第2距離となる箇所よりも、厚い、請求項2に記載の回転電機用ステータ。
【請求項4】
前記複数のコイル片は、前記コイルエンドにおいて、前記第1表面側の前記絶縁被膜同士が一体化する箇所を有する、請求項2に記載の回転電機用ステータ。
【請求項5】
ステータコアに、複数相のステータコイルを形成するための断面矩形の導体線が巻装された組立体を準備する工程と、
前記組立体の状態で、前記導体線の表面上に電着塗装により絶縁被膜を形成する電着塗装工程とを含み、
前記複数相のステータコイルは、それぞれ、前記ステータコアのスロット内に挿入されるスロット挿入部と、前記ステータコアの軸方向端面よりも軸方向外側に延在するコイルエンドとを有し、
前記電着塗装工程は、前記コイルエンドが電着槽に浸かる浸漬状態を形成しつつ、前記コイルエンドのうちの、一の相に係る導体線と、他の2相に係る導体線との間に電位差を発生させることで、前記一の相に係る導体線上に塗膜を形成する第1工程を含む、回転電機用ステータの製造方法。
【請求項6】
前記電着塗装工程は、更に、前記浸漬状態を形成しつつ、前記他の2相に係る導体線の間に電位差を発生させることで、前記他の2相に係る導体線のうちの一方の相に係る導体線上に塗膜を形成する第2工程を含む、請求項5に記載の回転電機用ステータの製造方法。
【請求項7】
前記電着塗装工程は、更に、前記浸漬状態を形成しつつ、前記他の2相に係る導体線のうちの他方の相に係る導体線と外部電極との間に電位差を発生させることで、前記他の2相に係る導体線のうちの前記他方の相に係る導体線上に塗膜を形成する第3工程を含む、請求項6に記載の回転電機用ステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ステータ及び回転電機用ステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
隣接するコイル片間の電圧差、及びコイル片とこれに対接するコアとの間の電圧差に応じて、絶縁被膜の厚みを異ならせる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-94019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来技術では、2種類の被膜を利用して絶縁被膜の厚みを異ならせるため、1種類の被膜を利用して絶縁被膜を形成する場合に比べて、加工費、設備費、及び材料費が増えやすいという問題となる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、加工費等の低減を図りつつ、コイルエンドにおける必要な絶縁性及び放熱性を効率的に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ステータコアと、
前記ステータコアに巻装される複数相のステータコイルとを含み、
前記複数相のステータコイルは、それぞれ、前記ステータコアのスロット内に挿入されるスロット挿入部と、前記ステータコアの軸方向端面よりも軸方向外側に延在するコイルエンドとを有し、
前記複数相のステータコイルを形成する複数のコイル片は、断面矩形の導体部と、1種類の被膜により前記導体部を覆う絶縁被膜とを備え、
前記複数のコイル片は、前記コイルエンドにおいて、異相同士が、前記導体部の表面に対して垂直な方向で直接的に対向又は接触する第1部位と、同相同士が、前記導体部の表面に対して垂直な方向で直接的に対向する第2部位とを含み、
前記複数相のうちの少なくとも1つの相に係るステータコイルは、前記コイルエンドにおける前記絶縁被膜が、前記第1部位において前記第2部位よりも、厚い、回転電機用ステータが提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、加工費等の低減を図りつつ、コイルエンドにおける必要な絶縁性及び放熱性を効率的に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ステータコアの単品状態の平面図である。
図3】ステータコアに組み付けられる1対のコイル片を模式的に示す図である。
図4】一のコイル片の概略正面図である。
図4A図4のラインA-Aに沿った断面図である。
図5】離間距離の定義の一例の説明図である。
図6】コイルエンドにおける各相のステータコイルの位置関係(離間距離等)の説明図(側面視)である。
図7】コイルエンドにおける各相のステータコイルの位置関係(離間距離等)の説明図(上面視)である。
図8図6のラインB-Bに沿った断面図である。
図8A】他の膜厚プロフィールの説明図である。
図9】ステータの製造方法の一例を示す概略的なフローチャートである。
図10】ワークWと陽極及び陰極(第1陰極)との接続方法の一例を説明する概略図である。
図11】第2陰極の説明図であり、W相塗装工程における第2陰極とワークWの位置関係の一例を概略的に示す断面図である。
図12】電着塗装工程の各工程で得られる塗膜の特徴の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナーロータ型であり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0015】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板から形成される。ロータコア32の磁石孔320には、永久磁石321が挿入される。永久磁石321の数や配列等は任意である。変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0016】
ロータシャフト34は、図1に示すように、中空部34Aを有する。中空部34Aは、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。中空部34Aは、油路として機能してもよい。例えば、中空部34Aには、図1にて矢印R1で示すように、軸方向の一端側から油が供給され、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝って油が流れることで、ロータコア32を径方向内側から冷却できる。また、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝う油は、ロータシャフト34の両端部に形成される油穴341、342を通って径方向外側へと噴出され(矢印R5、R6)、コイルエンド240A、240Bの冷却に供されてもよい。
【0017】
なお、図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、溶接により接合されるステータコイル24(後述)を有する限り、任意である。従って、例えば、ロータシャフト34は、中空部34Aを有さなくてもよいし、中空部34Aよりも有意に内径の小さい中空部を有してもよい。また、図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、中空部34A内に挿入される油導入管が設けられてもよいし、モータハウジング10内の油路から径方向外側からコイルエンド240A、240Bに向けて油が滴下されてもよい。
【0018】
また、図1では、ロータ30がステータ21の内側に配されたインナーロータ型のモータ1であるが、他の形態のモータに適用されてもよい。例えば、ステータ21の外側にロータ30が同心に配されたアウターロータ型のモータや、ステータ21の外側及び内側の双方にロータ30が配されたデュアルロータ型のモータ等に適用されてもよい。
【0019】
次に、図2以降を参照して、ステータ21に関する構成を詳説する。
【0020】
図2は、ステータコア22の単品状態の平面図である。図3は、ステータコア22に組み付けられる1対のコイル片52を模式的に示す図である。図4は、一のコイル片52の概略正面図である。図4Aは、図4のラインA-Aに沿った断面図であり、スロット挿入部56での断面図である。なお、図3では、ステータコア22の径方向内側を展開した状態で、1対のコイル片52とスロット220との関係が示される。また、図3では、ステータコア22が点線で示され、スロット220の一部については図示が省略されている。
【0021】
ステータ21は、ステータコア22と、ステータコイル24(図1参照)とを含む。
【0022】
ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるが、変形例では、ステータコア22は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。なお、ステータコア22は、周方向で分割される分割コアにより形成されてもよいし、周方向で分割されない形態であってもよい。ステータコア22の径方向内側には、ステータコイル24が巻回される複数のスロット220が形成される。具体的には、ステータコア22は、図2に示すように、円環状のバックヨーク22Aと、バックヨーク22Aから径方向内側に向かって延びる複数のティース22Bとを含み、周方向で複数のティース22B間にスロット220が形成される。スロット220の数は任意であるが、本実施例では、一例として、48個である。
【0023】
ステータコイル24は、U相、V相、及びW相の各相のステータコイル24を形成する。各相のステータコイル24の基端は、入力端子(図示せず)に接続されており、各相のステータコイル24の末端は、他の相のステータコイル24の末端に接続されてモータ1の中性点を形成する。すなわち、ステータコイル24は、スター結線される。ただし、ステータコイル24の結線態様は、必要とするモータ特性等に応じて、適宜、変更してもよく、例えば、ステータコイル24は、スター結線に代えて、デルタ結線されてもよい。
【0024】
各相のステータコイル24は、複数のコイル片52を接合して構成される。コイル片52は、各相のステータコイル24を、組み付けやすい単位(例えば2つのスロット220に挿入される単位)で分割したセグメントコイルの形態である。コイル片52は、図4Aに示すように、断面矩形の線状導体(平角線)60を、絶縁被膜62で被覆してなる。本実施例では、線状導体60は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体60は、鉄やアルミのような他の導体材料により形成されてもよい。また、線状導体60の断面形状は、矩形以外であってもよい。
【0025】
コイル片52は、ステータコア22に組み付ける前の段階では、一対の直進部50と、当該一対の直進部50を連結する連結部54と、を有した略U字状に成形されてよい。コイル片52をステータコア22に組み付ける際、一対の直進部50は、それぞれ、スロット220に挿入される(図3参照)。これにより、連結部54は、図3に示すように、ステータコア22の軸方向他端側において、複数のティース22B(及びそれに伴い複数のスロット220)を跨ぐように周方向に延びる。連結部54が跨ぐスロット220の数は、任意であるが、図3では3つである。また、直進部50は、スロット220に挿入された後は、図4において、二点鎖線で示すように、その途中で周方向に屈曲される。これにより、直進部50は、スロット220内において軸方向に延びるスロット挿入部56と、ステータコア22の軸方向一端側において周方向に延びる渡り部58と、になる。この場合、連結部54がコイルエンド240A、240Bの一方を形成し、渡り部58がコイルエンド240A、240Bの他方を形成する。
【0026】
なお、図4では、一対の直進部50は、互いに離れる方向に屈曲するが、これに限られない。例えば、一対の直進部50は、互いに近づく方向に屈曲されてもよい。また、ステータコイル24は、各相のステータコイル24の末端同士を連結して中性点を形成するための中性点用コイル片等も有することがある。
【0027】
一つのスロット220には、図4に示すコイル片52のスロット挿入部56が複数、径方向に並んで挿入される。従って、ステータコア22の軸方向一端側には、周方向に延びる渡り部58が複数、径方向に並ぶ。図3に示すように、一つのスロット220から飛び出て周方向第1側(例えば時計回りの向き)に延びる一のコイル片52の渡り部58は、他のスロット220から飛び出て周方向第2側(例えば反時計回りの向き)に延びる他の一のコイル片52の渡り部58に、接合用部位40(図4参照)同士が接合される。
【0028】
なお、本実施例では、一例として、2つのスロット挿入部56を有するコイル片52が利用されるが、4つ以上のスロット挿入部56を有するコイル片のような他の形態のコイル片にも適用可能である。
【0029】
次に、図6以降を参照して、コイル片52を更に説明する。以下の説明において、コイルエンド240とは、コイルエンド240A、240Bのいずれか任意の一方を指す。ただし、以下の構成は、コイルエンド240A、240Bのいずれか一方だけに適用されてもよい。また、上述したようにコイルエンド240は、3相のステータコイル24により形成される。以下の説明において、一の相のコイルエンド240とは、3相のステータコイル24により形成されるコイルエンド240のうちの、当該一の相が形成するコイルエンド部分を指す。
【0030】
図6から図7は、コイルエンド240における各相のステータコイル24の位置関係(離間距離等)の説明図であり、図6は、側面視(軸方向に垂直に視たビュー)でコイルエンド240の一部を示し、図7は、上面視(軸方向に視たビュー)でコイルエンド240の一部を示す。図6及び図7において、理解しやすさのため、各相のコイルエンド240は、相ごとに異なるハッチングが付与され、U相のコイルエンド240には、符号240(U)、V相のコイルエンド240には、符号240(V)、W相のコイルエンド240には、符号240(W)が、それぞれ付されている。図8は、図6のラインB-Bに沿った断面図である。
【0031】
本実施例では、絶縁被膜62は、1種類の被膜により形成される。すなわち、絶縁被膜62は、1種類の被膜により導体線600を覆う。ここで、1種類の被膜とは、例えば、互いに異なる層を形成するような2種類以上の被膜とは異なり、単一層を形成する。このようにして本実施例によれば、1種類の被膜により絶縁被膜62を形成することで、2種類以上の被膜により絶縁被膜を形成する場合に生じる不都合(加工費、設備費、及び材料費の増加)を低減できる。
【0032】
また、本実施例では、3相のうちの少なくとも1つの相のステータコイル24のコイルエンド240における絶縁被膜62は、異相同士が対向又は近接する少なくとも一部(「第1部位」の一例)において、同相同士が対向する部分(「第2部位」の一例)よりも、厚い。ここで、本明細書中の説明において、用語「近接」とは、典型的には、接触であるが、非常にわずかに隙間を有する関係を除外しない。また、本明細書中の説明において、用語「対向」とは、直接的な対向を指し、他の部材(例えば、他のコイル片52、ロータ30など)を介した対向は含まない。コイルエンド240におけるコイル片52同士の対向は、典型的には、線状導体60の表面に垂直な方向(面直方向)の対向であるが、組み付け誤差や成形加工等に起因して、面直方向に対してわずかに傾斜した方向の対向をも含んでよい。コイルエンド240におけるコイル片52同士の対向は、典型的には、軸方向に平行な方向に視て重なる態様の軸方向の対向と、軸方向に垂直な径方向に視て重なる態様の径方向の対向とがある。いずれの態様の対向についても、対向する方向に視て、重なる範囲が、以下の説明における“対向する表面”になる。
【0033】
例えば、U相のコイルエンド240における絶縁被膜62は、U相とV相が対向又は近接する少なくとも一部において、又は、U相とW相が対向又は近接する少なくとも一部において、U相同士が対向する部分よりも、膜厚t(図4A参照)が厚くてもよい。同様に、V相のコイルエンド240における絶縁被膜62は、V相とW相が対向又は近接する少なくとも一部において、V相同士が対向する部分よりも、膜厚t(図4A参照)が厚くてもよい。
【0034】
以下では、このようにコイルエンド240において異相同士が対向又は近接する対の表面(「対の第1表面」の一例)を、単に「異相対向表面対」と称し、同相同士が対向する対の表面(「対の第2表面」の一例)を、単に「同相対向表面対」と称する。異相対向表面対(同相対向表面対についても同様)は、2つのコイル片52を一単位として形成される。従って、以下の説明において、一の異相対向表面対とは、2つのコイル片52が形成する当該異相対向表面対を指す。
【0035】
各コイル片52のうちの、異相対向表面対を形成する表面は、異相同士が径方向で対向又は近接する表面や、異相同士が軸方向に対向又は近接する表面等を含む。すなわち、対向又は近接する面は、図4Aに示したコイル片52の矩形断面の4辺に係る4面のうちの、いずれであってもよい。これは、同相対向表面対についても同様である。
【0036】
また、本実施例では、複数の異相対向表面対の少なくとも一部において、好ましくは、離間距離に応じて、絶縁被膜62の膜厚t(図4A参照)が異なる。例えば、一の異相対向表面対を形成する2つのコイル片52について、互いの離間距離が一定でなく、位置に応じて異なる場合がある。以下では、異相対向表面対に係る離間距離とは、当該異相対向表面対を形成する2表面間の距離であって、導体線600の線状導体60に係る表面間の距離を指す。この際、異相対向表面対に係る離間距離は、例えば最短距離であってもよいし、面直方向の距離であってもよい。
【0037】
なお、離間距離の定義は、以下の通りであってもよい。図5に模式的に示すように、線状導体60の表面上の1点(図5のP5参照)に注目したとき、当該一点を中心とした半径rの球を想定する。半径rの値を徐々に大きくすると、周辺のコイル片52の線状導体60に球の表面が最初に接触する半径rの値が発生する。注目した当該一点に係る離間距離は、このときの半径rの値とすることができる。この際、注目した当該一点がU相のコイル片52であるとすると、当該球が最初に当たる線状導体60のコイル片52がV相又はW相であるとき、異相対向表面対に係る離間距離となる。他方、当該球が最初に当たる線状導体60のコイル片52がU相であるとき、同相対向表面対に係る離間距離となる。なお、半径rの値を徐々に大きくして、ある閾値を超えても、他のコイル片52に球が当たらない場合は、当該一点に係る離間距離は、計測不能とされてよい。この場合、離間距離を計測できる線状導体60の表面上の点の集合が、上述した異相対向表面対や同相対向表面対に係る表面を形成する一方、離間距離を計測不能な線状導体60の表面上の点の集合が、異相対向表面対及び同相対向表面対のいずれにも該当しない表面(後述する「非対向表面」)を形成してよい。この場合、閾値は、任意であるが、例えばコイル片52の断面サイズ(例えば線状導体60の矩形断面の長手方向の寸法)程度であってもよい。
【0038】
例えば図6には、側面視にて、U相のコイルエンド240に関して、異相対向表面対Q1、Q2(異相同士が軸方向に対向する表面対)と、同相対向表面対Q3(同相同士が軸方向に対向する表面対)が、模式的に示されている。また、離間距離Δ1、Δ2等が、模式的に示されている。この場合、異相対向表面対Q1に係る離間距離Δ1(「第1距離」の一例)は、異相対向表面対Q2に係る離間距離Δ2(「第2距離」の一例)よりも、小さい。なお、異相対向表面対Q1に係る離間距離Δ1は、同相対向表面対Q3に係る離間距離Δ3と略同じである。この場合、U相のコイルエンド240の絶縁被膜62の膜厚tは、異相対向表面対Q1においては、異相対向表面対Q2よりも、厚く設定されてよい。
【0039】
より具体的には、コイルエンド240は、第1部位241と、第2部位242とを含む。第1部位241は、スロット挿入部56から連続し、ステータコア22の軸方向端面から軸方向に延在する。第2部位242は、第1部位241よりも軸方向外側に延在し、周方向に延在する。なお、第2部位242は、周方向の一端が一の第1部位241に連続し、他端が他の第1部位241に連続する。そして、異相対向表面対Q1を形成する第2部位242の少なくとも一部は、異相対向表面対Q2を形成する第1部位241よりも、絶縁被膜62が厚い。
【0040】
ただし、この場合も、U相のコイルエンド240の絶縁被膜62の膜厚tは、異相対向表面対Q2においては、同相対向表面対Q3よりも、厚く設定されてよい。あるいは、離間距離Δ2が有意に大きい場合、U相のコイルエンド240の絶縁被膜62の膜厚tは、異相対向表面対Q2においては、同相対向表面対Q3と同じであってもよい。
【0041】
また、図7には、上面視にて、V相のコイルエンド240に関して、異相対向表面対Q4(異相同士が径方向に対向する表面対)と、同相対向表面対Q5(同相同士が径方向に対向する表面対)が、模式的に示されている。この場合、異相対向表面対Q4に係る離間距離Δ4は、異相対向表面対Q5に係る離間距離Δ5と略同じである。この場合、V相のコイルエンド240の絶縁被膜62の膜厚tは、異相対向表面対Q4においては、同相対向表面対Q5よりも、厚く設定されてよい。
【0042】
なお、本実施例において、コイルエンド240のうちの、異相対向表面対及び同相対向表面対のいずれにも該当しない表面(以下、「非対向表面」とも称する)(「第3表面」の一例)には、通常的な膜厚t(例えば、同相対向表面対と同様の膜厚t)が付与されてよい。非対向表面は、例えば、コイルエンド240のうちの、最内径のコイル片52の径方向内側の表面や、コイルエンド240のうちの、最外径のコイル片52の径方向外側の表面、コイルエンド240のうちの、軸方向で最も外側に位置する部分の軸方向外側の表面等である。
【0043】
ところで、コイル片52は、コイルエンド240においては、異なる相間での絶縁性を高める観点(すなわち部分放電の開始電圧を高める観点)から、絶縁被膜62の膜厚t(図4A参照)が比較的大きいほうが望ましい。他方、コイルエンド240において、各コイル片52の絶縁被膜62の膜厚tを一律に比較的大きくすることは、塗料コストや重量増加、電着塗装工程時間の増加等の観点から不利である。また、コイルエンド240において、絶縁被膜62の膜厚tが過大となると、放熱性が悪化する不都合がある。特にコイルエンド240は、導体線600が高温化しやすい箇所である。
【0044】
この点、本実施例によれば、コイルエンド240において、上述したように、異相対向表面対と、同相対向表面対とで、絶縁被膜62の膜厚tを異ならせることで、異なる相間での絶縁性を高めつつ、塗料コストや重量の低減を図ることができる。また、本実施例によれば、コイルエンド240において、上述したように、異相対向表面対においても、離間距離に応じて絶縁被膜62の膜厚tを異ならせることで、異なる相間での必要な絶縁性を確保しつつ、塗料コストや重量等の低減を図ることができる。また、比較的低い絶縁性でよい箇所(例えば同相対向表面対や非対向表面)では絶縁被膜62の膜厚tを比較的薄くすることで、放熱性を高めることもできる。このようにして、本実施例によれば、コイルエンド240において、必要な絶縁性を効率的に確保しつつ、放熱性を高めることができる。
【0045】
ここで、本実施例において、異相対向表面対は、それぞれに係る絶縁被膜62同士が一体化する箇所を有してもよい。これは、離間距離が比較的小さい場合に好適である。例えば、異相対向表面対は、非常に小さい離間距離となる箇所で、それぞれに係る絶縁被膜62同士が一体化してもよい。この場合、異相対向表面対の間の絶縁性を最大限確保できるとともに、異相対向表面対間の離間距離(コイル片52同士の位置関係)の固定化を図ることができる。すなわち、絶縁被膜62は、異相対向表面対の間の絶縁性を高めつつ、コイル片52同士の固定を兼ねることができる。
【0046】
また、本実施例によれば、一のコイル片52の同じ箇所であったとしても、その4面のそれぞれに係る絶縁被膜62の膜厚tは、当該表面の属性(異相対向表面対の一方を形成する表面、同相対向表面対の一方を形成する表面、又は、非対向表面の3つ属性のいずれか)に応じて異なりうる。例えば、図8に示す断面の箇所では、4面のうちの、異相対向表面対の一方を形成する表面に係る絶縁被膜62-1は、膜厚tが比較的大きく、例えば非対向表面に係る絶縁被膜62を膜厚t=t1としたとき、t1よりも大きい膜厚t=t2(>t1)である。また、4面のうちの、他の異相対向表面対の一方を形成する表面に係る絶縁被膜62-2は、膜厚tが比較的大きく、膜厚t=t3(>t1)である。この際、絶縁被膜62-1に係る異相対向表面対の離間距離が、絶縁被膜62-2に係る異相対向表面対の離間距離がよりも小さい場合、t2>t3とされてもよい。このようにして、本実施例によれば、同じコイル片52の部位であっても面ごとに絶縁被膜62を適合するので、コイル片52の部位ごとに絶縁被膜62を適合する場合に比べて、絶縁被膜62の膜厚tの最適化を効果的に図ることができる。
【0047】
なお、図8では、4面のそれぞれの面では、膜厚tが一定に図示されているが、同じ箇所の同じ面内においても、膜厚tが有意に変化してもよい。例えば図8Aに示す例では、2つの面の角部に係る箇所において、絶縁被膜62-4は、膜厚(t=t4)が比較的大きく設定されている。このような構成は、角部で異相同士が近接する配置の場合(すなわち、角部に係る2面が、異相対向表面対の一方を形成する場合)に好適である。
【0048】
次に、図9から図12を参照して、本実施例のステータコイル24を備えるステータ21の製造方法について説明する。
【0049】
図9は、ステータ21の製造方法の一例を示す概略的なフローチャートである。図9は、電着塗装工程の概要の説明図である。図10には、Z軸が定義されており、また、Z軸に関して、Z方向に沿ったZ1側及びZ2側が定義されている。Z方向は、上下方向に対応し、Z1側及びZ2側は、それぞれ、上側と下側に対応する。図10は、ワークWと陽極74及び陰極76(第1陰極761)との接続方法の一例を説明する概略図である。図11は、第2陰極762の説明図であり、W相塗装工程(後述)における第2陰極762とワークWの位置関係の一例を概略的に示す断面図である。図11には、径方向に平行なL方向が定義され、L1側は径方向内側に対応し、L2側は径方向外側に対応する。図12は、電着塗装工程の各工程で得られる塗膜の特徴の説明図である。
【0050】
本製造方法は、まず、ステータコア22にステータコイル24用の導体線600を組み付けた組立体(以下、「ワークW」とも称する)を準備する準備工程(S2)を含む。ステータコイル24用の導体線600は、絶縁被膜62が付与されていない状態のコイル片52(すなわち図4Aに示す線状導体60が露出した状態のコイル片52)に対応してよい。
【0051】
以下では、ステータコイル24用の導体線600のうちの、各相を区別する場合、U相に係る導体線600を、U相導体線600Uとも称し、V相に係る導体線600を、V相導体線600Vとも称し、W相に係る導体線600を、W相導体線600Wとも称する。
【0052】
ついで、本製造方法は、ステータコイル24用の導体線600に絶縁被膜62に係る塗膜を電着塗装により付与する電着塗装工程(S3)を含む。
【0053】
本製造方法では、電着塗装工程は、図10に示すように、ワークWのコイルエンド240(軸方向一方側のコイルエンド240)を電着槽701に浸漬した状態で実行される。なお、ここでは、軸方向一方側のコイルエンド240に対する電着塗装工程を説明するが、軸方向他方側のコイルエンド240に対しても同様の電着塗装工程が実行されてもよい。
【0054】
電着槽701には、絶縁被膜62を形成するための塗料が満たされている。なお、図10には、電着槽701に満たされた塗料がハッチング領域721で模式的に示されている。なお、塗料は、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂等を含む絶縁塗料や、エポキシ樹脂等を含む絶縁塗料であってよい。また、塗料は、部分放電に対する絶縁被膜62の耐性を高める機能を有するフィラーを含んでもよい。かかるフィラーは、放電耐性を持つ材料であってよく、例えば、鱗片状マイカ粒子や、鱗片状シリカ粒子又はその類であってよい。
【0055】
図10には、陽極74と、第1陰極761と、第2陰極762とが模式的に図示されている。本実施例では、一例としてアニオン型の電着塗装が実行され、ワークWのうちの被塗物は、陽極74に電気的に接続される。第1陰極761及び第2陰極762は、選択的にいずれか一方が利用される態様で、陰極76を形成する。第1陰極761は、電着槽701の塗料に浸からない態様で配置され、後述するように、ワークWの一部(導体線600)に電気的に接続される。この場合、実質的には、第1陰極761に電気的に接続されるワークWの一部が、外部電極として機能する。第2陰極762は、電着槽701の塗料に浸かる態様で、かつ、電着槽701内にワークWから離れる態様で、配置される。この場合、第2陰極762は、自身が外部電極として機能する。図10では、第2陰極762は、電着槽701内に概念的に図示されているが、ワークWに対して適切に位置付けられてよい(図11参照)。なお、変形例では、アニオン型の電着塗装に代えて、カチオン型の電着塗装が実行されてもよい。
【0056】
以下、特に区別しない場合は、第1陰極761及び第2陰極762は、陰極76と称される。なお、陽極74と陰極76との間には、直流電源(整流器)781が電気的に接続され、電位差が発生可能である。なお、以下で説明する電位差は、制御装置78による制御下で生成されてよい。
【0057】
電着槽701において、陽極74と陰極76との間の電位差が発生すると、塗料を介して直流電流が発生し(塗膜成分が電気泳動し)、電着槽701内に浸漬されたワークWのうちの、陽極74に電気的に接続される部位(後述)の表面には、塗料の膜(塗膜)が析出(電着)される。このようにして形成される塗料の膜が、絶縁被膜62となる。また、電着塗装工程中、電着槽701における塗料は、流れを有する。例えば、電着塗装工程中、電着槽701には、供給側の配管(図示せず)から塗料が供給され、排出側から排出される。この場合、塗料は電着槽701を介して循環されてよい。
【0058】
本製造方法では、電着塗装工程は、U相導体線600Uに塗膜を付与するU相塗装工程(S31)(「第1工程」の一例)を含む。具体的には、U相塗装工程は、U相導体線600Uを陽極74に接続し、かつ、V相導体線600V及びW相導体線600Wを第1陰極761に接続した状態において、陽極74と第1陰極761との間に電位差を発生させることを含む。この場合、陽極74は、U相導体線600Uの端部(図示せず)に接続されてよい。また、第1陰極761は、V相導体線600Vの端部及びW相導体線600Wの端部に接続されてよい。なお、各端部は、例えば、ステータコイル24の動力線や中性線を形成する端部であってもよい。あるいは、各相の導体線600の各端部は、電着塗装用の端部であってもよく、電着塗装工程後に切除されてもよい。
【0059】
陽極74と第1陰極761との間に電位差を発生させると、陽極74に接続されるU相導体線600Uに、絶縁被膜62に係る塗膜が形成される。
【0060】
ところで、電着塗装工程においては、ワークWのU相導体線600Uのうちの、電束密度の比較的高い部位において電束密度の比較的低い部位よりも塗料が電着されやすく、それ故に、塗料の膜厚が大きくなる傾向がある。
【0061】
ここで、ワークWのU相導体線600Uのうちの、一の対象部位に係る電束密度は、第1陰極761に係る電位を有する部位(すなわちV相導体線600V及びW相導体線600W)と当該一の対象部位との間の最短距離に相関する。すなわち、ワークWのU相導体線600Uのうちの、一の対象部位に係る電束密度は、当該最短距離が短くなるほど高くなる傾向がある。
【0062】
従って、U相導体線600Uのうちの、一の対象部位が、上述した異相対向表面対に係る表面を有する場合、当該表面には、比較的厚い塗膜を付与できる。また、同じ異相対向表面対に係る表面であっても、上述した離間距離の相違に応じて、離間距離が小さいほど厚い塗膜を付与できる。また、一の対象部位が、上述した同相対向表面対に係る表面を有する場合、当該表面には、比較的薄い塗膜を付与できる。
【0063】
このようにして、U相塗装工程(S31)によれば、図12に示すように、U相導体線600Uの各表面のうち、V相及びW相を相手側として異相対向表面対を形成する表面には、比較的膜厚が大きい塗膜が付与される。この際、離間距離に応じた膜厚が形成される。また、同相対向表面対を形成する表面及び非対向表面には、比較的膜厚が小さい塗膜が付与される。
【0064】
ついで、電着塗装工程は、V相導体線600Vに塗膜を付与するV相塗装工程(S32)(「第2工程」の一例)を含む。具体的には、V相塗装工程は、V相導体線600Vを陽極74に接続し、かつ、W相導体線600Wを第1陰極761に接続した状態において、陽極74と第1陰極761との間に電位差を発生させることを含む。この場合、陽極74は、V相導体線600Vの端部(例えばステータコイル24の動力線や中性線を形成する端部)に接続されてよい。また、第1陰極761は、W相導体線600Wに接続されてよい。
【0065】
陽極74と第1陰極761との間に電位差を発生させると、陽極74に接続されるV相導体線600Vに、絶縁被膜62に係る塗膜が形成される。
【0066】
同様に、ワークWのV相導体線600Vのうちの、一の対象部位に係る電束密度は、第1陰極761に係る電位を有する部位(すなわちW相導体線600W)と当該一の対象部位との間の最短距離に相関する。
【0067】
従って、同様に、V相導体線600Vのうちの、一の対象部位が、W相を相手側として上述した異相対向表面対に係る表面を有する場合、当該表面には、比較的厚い塗膜を付与できる。また、同じ異相対向表面対に係る表面であっても、上述した離間距離の相違に応じて、離間距離が小さいほど厚い塗膜を付与できる。また、一の対象部位が、上述した同相対向表面対に係る表面を有する場合、当該表面には、比較的薄い塗膜を付与できる。
【0068】
このようにして、V相塗装工程(S32)によれば、図12に示すように、V相導体線600Vの各表面のうち、W相を相手側として異相対向表面対を形成する表面には、比較的膜厚が大きい塗膜が付与される。この際、離間距離に応じた膜厚が形成される。また、同相対向表面対を形成する表面及び非対向表面には、比較的膜厚が小さい塗膜が付与される。
【0069】
なお、V相塗装工程(S32)では、U相導体線600UとV相導体線600Vとの間には有意な電位差が発生しないため、V相導体線600Vの各表面のうち、U相を相手側として異相対向表面対を形成する表面には、比較的膜厚が小さい塗膜が付与されうる。しかしながら、この点は、異相対向表面対の間での絶縁性確保の観点からは実質的に問題とならない。これは、上述したU相塗装工程(S31)において、U相導体線600Uの各表面のうち、V相を相手側として異相対向表面対を形成する表面には、比較的膜厚が大きい塗膜が既に付与されているためである。なお、変形例では、V相塗装工程(S32)において、U相導体線600Uにも第1陰極761が電気的に接続されてもよい。すなわち、U相導体線600Uに付与された塗膜の状態(例えば多孔質状態等)によっては、U相導体線600UとV相導体線600Vとの間に電位差が生じるため、かかる電位差に応じた塗膜がV相導体線600V上に形成されてもよい。
【0070】
ついで、電着塗装工程は、W相導体線600Wに塗膜を付与するW相塗装工程(S33)(「第3工程」の一例)を含む。具体的には、W相塗装工程は、W相導体線600Wを陽極74に接続した状態において、陽極74と第2陰極762(外部電極)との間に電位差を発生させることを含む。この場合、陽極74は、W相導体線600Wの端部(例えばステータコイル24の動力線や中性線を形成する端部)に接続されてよい。第2陰極762は、例えば、図11に示すように、断面視(回転軸12に対応する軸を通る断面視)でZ1側が開口したC状の形態であってよく、全周にわたって設けられてもよい。
【0071】
陽極74と第2陰極762との間に電位差を発生させると、陽極74に接続されるW相導体線600Wに、絶縁被膜62に係る塗膜が形成される。
【0072】
同様に、ワークWのW相導体線600Wのうちの、一の対象部位に係る電束密度は、第2陰極762と当該一の対象部位との間の最短距離に相関する。
【0073】
従って、W相塗装工程(S33)によれば、第2陰極762の構成に応じて、W相導体線600Wに、最短距離に応じた膜厚tの塗膜を付与できる。例えば、図12に示すように、W相導体線600Wの各表面のうち、同相対向表面対を形成する表面及び非対向表面には、比較的膜厚が小さい塗膜が付与されてもよい。
【0074】
なお、W相塗装工程(S33)では、W相導体線600WとU相導体線600U及びV相導体線600Vとの間には有意な電位差が発生しない。この場合、W相導体線600Wの各表面のうち、U相又はV相を相手側として異相対向表面対を形成する表面には、比較的膜厚が小さい塗膜が付与されうる。しかしながら、かかる比較的薄い膜厚は、異相対向表面対の間での絶縁性確保の観点からは実質的に問題とならない。これは、上述したU相塗装工程(S31)において、U相導体線600Uの各表面のうち、W相を相手側として異相対向表面対を形成する表面には、比較的膜厚が大きい塗膜が既に付与されているためである。また、上述したV相塗装工程(S32)において、V相導体線600Vの各表面のうち、W相を相手側として異相対向表面対を形成する表面には、比較的膜厚が大きい塗膜が既に付与されているためである。なお、変形例では、W相塗装工程(S33)において、U相導体線600U及び/又はV相導体線600Vにも第1陰極761が電気的に接続されてもよい。すなわち、U相導体線600U及び/又はV相導体線600Vに付与された塗膜の状態(例えば多孔質状態等)によっては、W相導体線600WとU相導体線600U及びV相導体線600Vとの間に電位差が生じるため、かかる電位差に応じた塗膜がW相導体線600W上に形成されてもよい。また、この場合、U相導体線600U及びV相導体線600Vの各表面のうち、同相対向表面対を形成する表面及び非対向表面には、比較的膜厚が小さい塗膜が付与されてもよい。
【0075】
このようにして本製造方法によれば、ステータコイル24用の導体線600をステータコア22に組み付けた状態のワークWを用いるので、導体線600単体で電着塗装する場合に比べて、効率的に電着塗装を実現できる。また、U相塗装工程、V相塗装工程、及びW相塗装工程により各相に係る絶縁被膜62を効率的に形成できる。
【0076】
また、本製造方法によれば、ステータコイル24用の導体線600をステータコア22に組み付けた状態のワークWを用いるので、実際の離間距離(電位差)に応じた膜厚tを有する絶縁被膜62を形成できる。従って、個体ごとに離間距離が異なりうる場合でも、個体ごとの離間距離(電位差)に適合した絶縁被膜62を形成できる。
【0077】
なお、本製造方法では、U相塗装工程、V相塗装工程、及びW相塗装工程の順に実行されるが、塗装順序は任意である。例えば、V相、U相、及びW相の順に塗装する場合、上述したU相塗装工程、V相塗装工程、及びW相塗装工程の説明において、「U」と「V」を読み替えることで、同様の製造方法を実現できる。
【0078】
また、本製造方法において、電着塗装工程の3つの工程(すなわち、U相塗装工程、V相塗装工程、及びW相塗装工程)は、同じ電着槽701で実現されてもよい。この場合、3つの工程は、ワークWが電着槽701から引き上げられることなく、ワークWに対して連続的に実行されてもよい。この場合、各相の導体線600の各端部に接続される各電極端子の電位を制御装置78により制御することで、各電極端子を陽極74又は第1陰極761として機能させることとしてよい。あるいは、3つの工程間で、ワークWが電着槽701から引き上げられてもよい。また、3つの工程は、それぞれ別々の電着槽701で実現されてもよい。
【0079】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0080】
10・・・ステータ(回転電機用ステータ)、22・・・ステータコア、220・・・スロット、114・・・ステータコイル、52・・・コイル片、56・・・スロット挿入部、240(240A、240B)・・・コイルエンド、60・・・線状導体(導体部)、62・・・絶縁被膜、600U・・・U相導体線(導体線)、600V・・・V相導体線(導体線)、600W・・・W相導体線(導体線)、762・・・第2陰極(外部電極)、W・・・ワーク(組立体)
図1
図2
図3
図4
図4A
図5
図6
図7
図8
図8A
図9
図10
図11
図12