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特開2024-126675ビトリファイド砥石の製造に用いる砥材、および、ビトリファイド砥石
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126675
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ビトリファイド砥石の製造に用いる砥材、および、ビトリファイド砥石
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20240912BHJP
   B24D 3/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B24D3/00 330D
B24D3/00 320B
B24D3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035234
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063BB02
3C063BB16
3C063BC05
3C063BC09
3C063CC02
3C063CC04
3C063FF23
3C063FF30
(57)【要約】
【課題】ビトリファイド砥石の強度向上に貢献できる砥材を提供する。
【解決手段】ここに開示される砥材10は、ビトリファイド砥石の製造に用いられる砥材である。かかる砥材10は、砥粒12と、砥粒12の表面の少なくとも一部に付着したコート材とを含む。そして、ここに開示される技術におけるコート材は、少なくともAlとBiとを含むAl-Biコート14である。かかるAl-Biコート14が付着した砥材12を使用することによって、製造後のビトリファイド砥石の強度を向上させることができる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビトリファイド砥石の製造に用いられる砥材であって、
砥粒と、
前記砥粒の表面の少なくとも一部に付着したコート材と、
を含み、
前記コート材は、少なくともAlとBiとを含むAl-Biコートである、砥材。
【請求項2】
前記Al-Biコートは、金属酸化物または有機金属化合物である、請求項1に記載の砥材。
【請求項3】
前記Al-Biコートにおける前記Alと前記Biの合計モル数に対する前記Alのモル数の比率(Al/Al+Bi)が0.1以上0.9以下である、請求項1または2に記載の砥材。
【請求項4】
前記砥粒は、ダイヤモンド砥粒および立方晶窒化ホウ素砥粒からなる群から選択される一種を含む、請求項1または2に記載の砥材。
【請求項5】
複数の砥材と、
前記複数の砥材を結合するビトリファイドボンドと、
を含み、
前記砥材は、請求項1に記載の砥材である、ビトリファイド砥石。
【請求項6】
前記ビトリファイドボンドは、前記砥粒の表面近傍に、他の領域よりもAlとBiを多く含むAl-Bi領域を有している、請求項5に記載のビトリファイド砥石。
【請求項7】
断面顕微鏡画像に対してエネルギー分散型X線分析に基づいた元素分析を行った際に、前記Al-Bi領域における金属元素と半金属元素との合計原子数に対する前記Alと前記Biの合計原子数の割合が30%以上である、請求項5または6に記載のビトリファイド砥石。
【請求項8】
前記ビトリファイドボンドは、Biを含むガラス材料である、請求項5または6に記載のビトリファイド砥石。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、ビトリファイド砥石の製造に用いる砥材、および、ビトリファイド砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料等を研削する工具の一例として、ビトリファイド砥石が広く用いられている。このビトリファイド砥石の製造では、砥粒とビトリファイドボンド(ガラス質結合剤)とを含む坏土を焼成する。この焼成処理では、溶融したビトリファイドボンドが複数の砥粒の間隙を流動する。これによって、ビトリファイドボンドを介して複数の砥粒が結合された結合ネットワークが形成される。なお、ビトリファイド砥石に用いられる砥粒として、ダイヤモンド砥粒、立方晶窒化ホウ素(cBN)砥粒などが挙げられる。
【0003】
また、ビトリファイド砥石の分野では、砥粒をコート材で被覆する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載の技術では、砥粒の表面に、酸化物ではないセラミックスからなるコーティング層を形成している。これによって、ビトリファイドボンド中の酸化物と砥粒とが焼成中に反応することを防止できるとされている。また、特許文献2に記載の技術では、cBN砥粒の表面を酸化アルミニウム層や酸化ケイ素層で被覆している。これによって、cBN砥粒とビトリファイドボンドとの密着性を改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-331076号公報
【特許文献2】特開平7-108461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、被加工物の高硬度化に伴って、ビトリファイド砥石のさらなる強度向上が要求されている。ここに開示される技術は、かかる要求を鑑みてなされたものであり、ビトリファイド砥石の強度向上に貢献できる砥材、および、当該砥材を用いたビトリファイド砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、ここに開示される技術によって、以下の構成の砥材が提供される。なお、詳しくは後述するが、本明細書における「砥材」とは、砥粒を主体とする粒子材料のことをいう。
【0007】
ここに開示される砥材は、ビトリファイド砥石の製造に用いられる砥材である。かかる砥材は、砥粒と、砥粒の表面の少なくとも一部に付着したコート材とを含む。そして、ここに開示される技術におけるコート材は、少なくともAlとBiとを含むAl-Biコートである。
【0008】
本発明者は、上記目的を実現するために実験と検討を重ねた結果、AlとBiとを含むコート材(Al-Biコート)を砥粒表面に付着させると、製造後のビトリファイド砥石の強度が向上することを発見した。ここに開示される技術を限定することを意図するものではないが、かかる強度向上効果が得られるのは、以下の作用によるものと推測される。まず、ビトリファイド砥石の製造にAl-Biコート付の砥粒を用いると、砥石製造過程において砥粒表面にAl酸化物とBi酸化物を生じさせることができる。これらの酸化物は、ビトリファイドボンドとの濡れが良好であるため、ビトリファイドボンドによる砥粒間の結合ネットワークが好適に形成される。また、これらの酸化物の一部または全部は、砥石製造過程においてビトリファイドボンドに取り込まれ得る。これによって、砥粒の表面近傍に、AlとBiを多く含むガラスが生じる。ここで、砥粒近傍のガラスのAl量とBi量が多くなると、砥石製造工程における軟化流動性が向上し砥粒に対する定着性が向上する。ここに開示される砥材によると、上述の作用によって、焼成中の砥粒とビトリファイドボンドとの濡れ性を改善していると推測される。この結果、製造後のビトリファイド砥石では、ビトリファイドボンドを介した砥粒間の結合ネットワークが強固に形成されるため優れた強度を発揮できる。
【0009】
ここに開示される砥材の好ましい一態様では、Al-Biコートは、金属酸化物または有機金属化合物である。Al-Biコートは、これらの形態の何れであっても、上述した強度向上効果を適切に発揮できる。
【0010】
ここに開示される砥材の好ましい一態様では、Al-Biコートは、AlとBiとの合計モル数に対するAlのモル数の比率(Al/Al+Bi)が0.1以上0.9以下である。これによって、Al-Biコートによる強度向上効果がより好適に発揮される。
【0011】
ここに開示される砥材の好ましい一態様では、砥粒は、ダイヤモンド砥粒および立方晶窒化ホウ素砥粒からなる群から選択される一種を含む。ここに開示される技術は、これらの砥粒に対して特に好適に使用できる。
【0012】
また、ここに開示される技術の他の側面として、ビトリファイド砥石が提供される。かかるビトリファイド砥石は、複数の砥材と、複数の砥材を結合するビトリファイドボンドとを含む。そして、ここに開示されるビトリファイド砥石の砥材は、上記構成の砥材である。かかる構成のビトリファイド砥石は、ビトリファイドボンドを介した結合ネットワークが強固に形成されているため、優れた強度を有している。
【0013】
ここに開示されるビトリファイド砥石の好ましい一態様では、ビトリファイドボンドは、砥粒の表面近傍に、他の領域よりもAlとBiを多く含むAl-Bi領域を有している。ここに開示されるビトリファイド砥石では、砥粒の表面近傍に、Al-Biコートに由来するAl-Bi領域が形成されることがある。
【0014】
ここに開示されるビトリファイド砥石の好ましい一態様では、断面SEM画像に対してエネルギー分散型X線分析に基づいた元素分析を行った際に、Al-Bi領域における金属元素と半金属元素との合計原子数に対するAlとBiの合計原子数の割合が30%以上である。これによって、ビトリファイドボンドを介した結合ネットワークをより強固に形成できる。
【0015】
ここに開示されるビトリファイド砥石の好ましい一態様では、ビトリファイドボンドは、Biを含むガラス材料である。これによって、ビトリファイド砥石の強度を特に好適に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態に係る砥材を模式的に示す図である。
図2図2は、ビトリファイド砥石を製造する手順の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、一実施形態に係るビトリファイド砥石を模式的に示す図である。
図4図4は、コート材AのFE-SEM画像である。
図5図5は、コート材BのFE-SEM画像である。
図6図6は、コート材CのFE-SEM画像である。
図7図7は、コート材DのFE-SEM画像である。
図8図8は、コート材EのFE-SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、ここに開示される技術の一実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、特にことわりの無い限り「A以上B以下」を意味する。なお、図面は模式的に描かれており、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
【0018】
1.砥材
図1は、本実施形態に係る砥材を模式的に示す図である。上述した通り、本明細書における「砥材」とは、砥粒を主体とする粒子材料のことをいう。図1に示すように、本実施形態に係る砥材10は、砥粒12と、Al-Biコート14とを含む。以下、本実施形態に係る砥材10に含まれる各構成について説明する。
【0019】
(1)砥粒
砥粒12は、所定の硬度を有する粒子である。この砥粒12は、製造後のビトリファイド砥石において、被加工物を直接的に研削する機能を有する。なお、砥粒12の種類は、特に限定されず、砥粒として使用され得る従来公知の粒子から、被加工物の性質や使用態様等に応じた適切な粒子を適宜選択することができる。当該砥粒12の成分の一例として、鉱物、金属または半金属の炭化物、酸化物、窒化物等が挙げられる。具体的には、砥粒12は、ダイヤモンド砥粒、立方晶窒化ホウ素(cBN)砥粒、シリカ砥粒、アルミナ砥粒、セリア砥粒等であり得る。なお、ここでのダイヤモンド砥粒は、天然ダイヤモンドでもよいし、人工ダイヤモンドでもよい。これらのなかでもダイヤモンド砥粒とcBN砥粒は、ここに開示される技術を特に好ましく適用できる。具体的には、ダイヤモンド砥粒は、4000以上(典型的には、7000~8000程度)という高いヌープ硬度を有しているため、高硬度の被加工物を容易に加工できる。しかし、ダイヤモンド砥粒を用いたビトリファイド砥石の製造では、砥粒の酸化を抑制するために焼成温度を低温(例えば700℃以下)にする必要がある。これによって、焼成中のビトリファイドボンドの流動性が十分に確保できずに、製造後のビトリファイド砥石で結合ネットワークの形成不良が生じる可能性がある。これに対して、ここに開示される技術によると、後述するAl-Biコート14によって、ビトリファイドボンドと砥粒12との濡れ性を十分に改善できる。これによって、ダイヤモンド砥粒の酸化を防止するための低温焼成を実施した場合でも、強固な結合ネットワークを有するビトリファイド砥石を製造できる。一方、cBN砥粒も、4000以上(4700程度)という高いヌープ硬度を有している。しかし、cBN砥粒は、焼成中にビトリファイドボンドと反応することがある。この場合、cBN砥粒が目減りするため、製造後のビトリファイド砥石の加工能力が低下するおそれがある。これに対して、ここに開示される技術では、砥粒12の表面がAl-Biコート14によって被覆されているため、ビトリファイドボンドとcBN砥粒との反応を抑制できる。
【0020】
なお、砥粒12の大きさは、ここに開示される技術を限定するものではなく、使用目的や使用態様に応じて適宜変更できる。例えば、砥粒12の平均粒径は、0.05μm以上でもよく、0.1μm以上でもよく、0.5μm以上でもよく、1μm以上でもよい。また、砥粒12の平均粒径は、1000μm以下でもよく、500μm以下でもよく、100μm以下でもよく、50μm以下でもよく、25μm以下でもよい。なお、本明細書における「平均粒径」は、電子顕微鏡等で観察された100個以上の粒子の円相当径の算術平均値である。
【0021】
また、砥粒12の形状も、特に限定されず、従来公知の形状から適宜選択できる。例えば、砥粒12は、球状、板状、不定形状(金平糖形状など)等であってもよい。また、砥粒12の平均アスペクト比は、1以上2以下でもよく、1.1以上1.8以下でもよい。なお、本明細書における「アスペクト比」は、電子顕微鏡画像において砥粒に外接する矩形を描き、当該矩形の短辺の長さ(a)と長辺の長さ(b)との比率(b/a)を計算することによって求めることができる。そして、「平均アスペクト比」は、100個以上の粒子のアスペクト比の算術平均値である。
【0022】
また、砥粒12は、BET比表面積が一定以下であることが好ましい。BET比表面積が低い砥粒12を使用することによって、後述するAl-Biコート14の形成が容易になる傾向がある。具体的には、砥粒12のBET比表面積は、100m/g以下が好ましく、80m/g以下がより好ましく、40m/g以下がさらに好ましく、10m/g以下が特に好ましい。一方、砥粒12のBET比表面積の下限値は、特に限定されず、0.01m/g以上でもよく、0.1m/g以上でもよく、0.5m/g以上でもよく、1m/g以上でもよい。なお、本明細書における「BET比表面積」は、吸着質として窒素(N)ガスを用いたガス吸着法によって測定された吸着等温線をBET法で解析した値をいう。
【0023】
(2)Al-Biコート
Al-Biコート14は、砥粒12の表面に付着したコート材である。このAl-Biコート14は、少なくともアルミニウム(Al)とビスマス(Bi)とを含む。詳しくは後述するが、Al-Biコート14を砥粒12に付着させると、焼成中の砥粒12とビトリファイドボンドとの濡れ性を大幅に改善できる。この結果、ビトリファイドボンドを介した砥粒間の結合ネットワークが強固に形成されるため、優れた強度を有するビトリファイド砥石を製造できる。
【0024】
なお、Al-Biコート14は、金属酸化物でもよいし、有機金属化合物(レジネート)でもよい。詳しくは後述するが、Al-Biコート14は、焼成中の砥材12表面に、Al酸化物(Alなど)とBi酸化物(Biなど)を生じさせることによって、砥粒12とビトリファイドボンドとの濡れ性を改善すると解される。これに対して、Al-Biコート14が金属酸化物である場合には、Al酸化物とBi酸化物が砥粒12の表面に予め存在しているため、濡れ性を改善する効果が容易に発揮される。一方、Al-Biコート14が有機金属化合物である場合には、焼成処理の初期において有機金属化合物が分解されて、Al酸化物とBi酸化物が砥粒12の表面に生成される。このような場合でも、焼成中の砥粒12とビトリファイドボンドとの濡れ性を改善できる。なお、Al-Biコート14が金属酸化物である場合、当該Al-Biコート14は、微細なAl酸化物とBi酸化物とが混合された混合物でもよいし、Al元素とBi元素を含む複合酸化物でもよい。
【0025】
Al-Biコート14は、AlとBiとの合計モル数に対するAlのモル数の比率(Al/Al+Bi)が所定の範囲内であることが好ましい。これによって、製造後のビトリファイド砥石の強度をより好適に向上できる。具体的には、上記Al/Al+Biは、0.1以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましく、0.25以上が特に好ましい。これによって、Al-Biコート14に十分なAlが含まれるため、焼成中の砥粒12近傍のビトリファイドボンドの定着性がより好適に向上する。一方、上記Al/Al+Biは、0.9以下が好ましく、0.85以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましく、0.75以下が特に好ましい。これによって、Al-Biコート14に十分なBiが含まれるため、焼成中の砥粒12近傍のビトリファイドボンドの流動性がより好適に向上する。なお、Al-Biコート14に含まれる「金属元素のモル数」は、砥材10のAl-Biコート14のEDXによる元素分析を行うことによって測定することができる。
【0026】
なお、Al-Biコート14は、AlとBiを主要元素として構成されていることが好ましい。具体的には、Al-Biコート14は、上記EDXによる元素分析で確認された金属元素と半金属元素との合計モル数の過半数がAlとBiで占められていることが好ましい。例えば、Al-Biコート14中の金属元素の総モル数を100mol%としたとき、AlとBiの合計モル数の割合は、50mol%以上(好適には60mol%以上、より好適には70mol%以上、さらに好適には80mol%以上、特に好適には90mol%以上)であるとよい。これによって、上述した強度向上効果をより好適に発揮できる。一方、AlとBiの合計モル数の割合の上限は、特に限定されず、100mol%以下でもよく、99mol%以下でもよく、95mol%以下でもよい。なお、Al-Biコート14に含まれ得る他の金属元素としては、Na、Mg、Zn、K、Ca、Ti、Fe、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Ba、Liなどが挙げられる。また、半金属元素としては、Si、B、Sb、Teが挙げられる。
【0027】
また、Al-Biコート14は、砥粒12の表面の少なくとも一部に付着していればよく、砥粒12の表面全体を完全に被覆していなくてもよい。例えば、砥粒12の重量(100wt%)に対するAl-Biコート14の付着量は、0.1wt%以上(好適には0.2wt%以上、より好適には0.3wt%以上、特に好適には0.5wt%以上)であればよい。これによって、Al-Biコート14による強度向上効果を充分に発揮できる。一方、Al-Biコート14の付着量の上限値は、50wt%以下でもよく、30wt%以下でもよい。但し、Al-Biコート14の付着量が多くなりすぎると、製造後のビトリファイド砥粒において、ビトリファイドボンドに取り込まれずに残留したAl-Biコートを起点として、砥粒12とビトリファイドボンドとの界面が剥離する可能性がある。かかる観点から、Al-Biコート14の付着量の上限値は、20wt%以下が好ましく、10wt%以下がより好ましく、5wt%以下がさらに好ましく、3wt%以下が特に好ましい。なお、本明細書における「Al-Biコートの含有量」は、所定の溶媒にAl-Biコートを溶解除去し、ICP発光分析等によってその溶液中に含まれるAl、Bi成分を定量し、それぞれをAlとBiに換算することにより求めることができる。
【0028】
(3)粉体材料
なお、上記構成の砥材10は、当該砥材10を主体とする粉体材料(微粒子の集団(particles))の状態で使用され得る。ここでの「砥材を主体とする」とは、粉体材料に含まれる微粒子のうち、重量基準で最も多く含まれる微粒子が、上記構成の砥材(すなわち、Al-Biコートが付着した砥粒)であることを意味する。より具体的には、砥材の粉体材料は、Al-Biコートが付着した砥粒を50重量%以上(好適には60重量%以上、より好適には70重量%以上、さらに好適には80重量%以上、特に好適には90重量%以上)含んでいることが好ましい。なお、この粉体材料は、ここに開示される技術による強度向上効果を著しく損なわない限りにおいて、上記構成の砥材以外の微粒子を含んでいてもよい。このような副成分としては、Al-Biコートが付着していない砥粒や、シリカ粒子、アルミナ粒子、セリア粒子、有機バインダ粒子などが挙げられる。
【0029】
2.ビトリファイド砥石の製造方法
次に、上記構成の砥材10を用いたビトリファイド砥石の製造方法の一例を説明する。図2は、ビトリファイド砥石を製造する手順の一例を示すフローチャートである。図2に示すように、このビトリファイド砥石の製造方法は、準備工程S10と、調製工程S20と、成形工程S30と、焼成工程S40とを含む。以下、各工程について説明する。
【0030】
(1)準備工程S10
本工程では、Al-Biコート14付の砥粒12を含む砥材10(図1参照)を準備する。例えば、準備工程S10では、砥粒12にAl-Biコート14を付着させる付着処理を実施して砥材10を生成してもよい。かかる付着処理の一例として、以下の手順が挙げられる。
【0031】
まず、Al-Biコート14の前駆物質を液状媒体に溶解させる。これによって、コート用溶液が調製される。このときの前駆物質としては、Alを含む有機金属化合物(Alレジネート)と、Biを含む有機金属化合物(Biレジネート)が挙げられる。また、液状媒体としては、これらのレジネートを溶解できる有機溶媒(アルコールなど)が挙げられる。次に、このコート用溶液に砥粒12を分散させる。そして、乾燥処理を実施して有機溶媒を除去する。これによって、有機金属化合物の状態のAl-Biコート14が砥粒12の表面に付着する。なお、このときの乾燥温度は、50℃~100℃程度が好ましい。また、乾燥時間は、30分~4時間程度が好ましい。
【0032】
一方、金属酸化物の状態のAl-Biコート14を形成する場合には、上記有機金属化合物が付着した砥粒12を焼成するとよい。これによって、有機金属化合物が分解され、AlとBiの各々が酸化される。この結果、金属酸化物の状態のAl-Biコート14が砥粒12の表面に付着する。このときの焼成温度は、400℃~700℃程度が好ましい。また、焼成時間は、15分~2時間程度が好ましい。
【0033】
なお、準備工程S10では、所望の砥材10を準備することができればよく、上述の付着処理を実施する態様に限定されない。例えば、Al-Biコート14は、物理蒸着(PVD:physical vapor deposition)を用いて砥粒12表面に付着させてもよい。
【0034】
(2)調製工程S20
本工程では、砥材10とビトリファイドボンドとを含む坏土を調製する。なお、ここでの坏土の粘度は、特に限定されない。例えば、坏土は、粘土状であってもよいし、ペースト状であってもよい。以下、坏土の成分について説明する。
【0035】
(2-1)砥材
砥材10の構成は、既に説明したため、重複する説明を省略する。なお、坏土中の砥材10とビトリファイドボンドの合計重量(100wt%)に対する砥材10の添加量は、10wt%以上が好ましく、20wt%以上がより好ましく、30wt%以上が特に好ましい。坏土中の砥材10の含有比率が多くなるに従って、製造後のビトリファイド砥石の強度が向上する傾向がある。一方、砥材10の添加量の添加量は、70wt%以下が好ましく、60wt%以下がより好ましく、50wt%以下が特に好ましい。これによって、加工持続性が確保できる。
【0036】
(2-2)ビトリファイドボンド
ビトリファイドボンドは、製造後のビトリファイド砥石中で砥粒12同士を結合するガラス質結合剤である。ビトリファイドボンドの種類は、特に限定されず、ビトリファイドボンドとして使用され得る従来公知のガラス材料から、被加工物の性質や使用態様等に応じた適切な材料を適宜選択できる。かかるガラス材料の一例としては、Bi―ZnO-B-SiO系ガラス、SiO-RO(Rは、例えばMg、Ca、Zn、Ba、Srを表す。以下同じ。)系ガラス、SiO-R’O(R’は、例えばLi、K、Naを表す。以下同じ。)系ガラス、SiO-RO-Al系ガラス、SiO-RO-Bi系ガラス、SiO-RO-Y系ガラス、SiO-RO-B系ガラス、SiO-Al系ガラス、SiO-ZnO系ガラス、SiO-ZrO系ガラス、RO-R’O系ガラス、RO系ガラス、鉛系ガラス、鉛リチウム系ガラス、ホウケイ酸系ガラス等が挙げられる。なお、ビトリファイドボンドは、複数のガラス材料を混合したものであってもよい。
【0037】
また、ビトリファイドボンド粉体の平均粒子径は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましく、1μm以下が特に好ましい。微小なビトリファイドボンド粉体を坏土中で適切に分散できると、焼成後のビトリファイド砥石中にビトリファイドボンドが好適に分布するため、ビトリファイド砥石の強度がさらに向上する。一方、ビトリファイドボンドは、通常、微細な粉体材料の状態で他の材料と混合される。ここに開示される技術を限定することを意図したものではないが、ビトリファイドボンド粉体の平均粒子径は、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましく、1.0μm以上が特に好ましい。ビトリファイドボンド粉体が大きくなるにつれて、坏土中でビトリファイドボンド粉体を分散させることが容易になる。
【0038】
なお、本実施形態に係る砥材10を用いてビトリファイド砥石を製造する場合には、ビトリファイドボンドとして、Biを含むガラス材料を使用することが特に好ましい。このBi系ボンドは、Bi元素がAl-Biコート14と共通しているため。Al-Biコート14に対して好適な親和性を有している。このため、製造後のビトリファイド砥石中により強固な結合ネットワークを形成することができる。例えば、このBi系ボンドは、全体のモル数を100mol%としたときのBi含有量(%)が5mol%以上(好適には10mol%以上、より好適には15mol%以上、さらに好適には20mol%以上、特に好適には25mol%以上)であるとよい。なお、焼成後のボンドの強度を考慮すると、ビトリファイドボンド中のBi含有量の上限は、70mol%以下が好ましく、60mol%以下がより好ましく、50mol%以下がさらに好ましく、40mol%以下が特に好ましい。なお、上述の「Bi含有量(mol%)」は、次の手順に従って測定されたものである。まず、ビトリファイドボンドを対象とした蛍光X線分析(XRF:X‐ray Fluorescence)を実施することによって、測定対象中の金属元素と半金属元素の存在比率を検出できる。しかし、XRFは、ホウ素(B)とリチウム(Li)の定量性が低いという問題を有している。このため、ホウ素(B)をICP-AES(ICP発光分光分析法)で定量化し、リチウム(Li)を原子吸光法で定量化する。そして、測定された原子(Bi、B、Na、Mg、Al、Si、Zn、K、Ca、Ti、Fe、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Ba、Li)中のBiの割合を算出することによって、「Bi含有量(mol%)」を測定できる。
【0039】
また、上記Bi系ボンドは、酸化物換算の重量比でのBi含有量が10wt%以上(好適には20wt%以上、より好適には30wt%以上、さらに好適には40wt%以上、特に好適には50wt%以上)であるとよい。これによって、Al-Biコート14に対してより好適な親和性を発揮できる。一方、酸化物換算の重量比でのBi含有量の上限値は、90wt%以下でもよく、80wt%以下でもよく、70wt%以下でもよく、60wt%以下でもよい。
【0040】
なお、また、坏土中の砥材とビトリファイドボンドとの合計重量(100wt%)に対するビトリファイドボンドの添加量は、10wt%以上が好ましく、20wt%以上がより好ましく、30wt%以上が特に好ましい。坏土中のビトリファイドボンドの含有量が多くなるに従って、製造後のビトリファイド砥石の強度が向上する傾向がある。一方、ビトリファイドボンドの添加量は、70wt%以下が好ましく、60wt%以下がより好ましく、50wt%以下が特に好ましい。これによって、他の成分(特に砥材10)の含有量を十分に確保できる。
【0041】
(2-2)他の添加剤
また、坏土は、砥材とビトリファイドボンド以外の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤の一例として、バインダ、造孔剤などが挙げられる。
【0042】
バインダは、焼成前の坏土において、砥粒12やビトリファイドボンドなどの粉体材料を結着させる樹脂材料である。バインダを用いることによって、後述の成形工程S30における成形体の成形が容易になる。かかるバインダの一例として、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ロジンやマレイン化ロジン等のロジン系樹脂等が挙げられる。なお、バインダは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、坏土の総重量(100wt%)に対するバインダの添加量は、1wt%~30wt%(より好適には10wt%~20wt%)が好ましい。これによって、好適な成形性を有する坏土を調製できる。
【0043】
また、造孔剤は、焼成によって焼失する固形分である。かかる造孔剤の一例として、澱粉、カーボン粉末、活性炭、高分子有機材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、メラミン樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂)などが挙げられる。これらの造孔剤を坏土に添加することによって、焼成後のビトリファイド砥石に空隙30(図3参照)を容易に形成することができる。この空隙30は、被加工物を研削した際の研削屑を一時的に貯留する空間として機能する。なお、造孔剤の平均粒径は、0.1μm~1000μmが好ましく、1μm~100μmがより好ましい。これによって、好適なサイズの空隙を均一に形成できる。また、坏土の総重量(100wt%)に対する造孔剤の添加量は、1wt%~20wt%(より好適には5wt%~15wt%)が好ましい。これによって、好適な気孔率を有するビトリファイド砥石を製造できる。
【0044】
また、添加剤の他の例として、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、レオロジー調整剤等が挙げられる。これらの添加剤は、ここに開示される技術による強度向上効果を著しく損なわない限りにおいて、従来公知の材料を特に制限なく使用することができる。
【0045】
(3)成形工程S30
本工程では、調製後の坏土を所望の形状に成形する。本工程で作成される成形体の形状は、特に限定されず、製造後のビトリファイド砥石の目的や用途に応じて適切な形状を適宜採用することができる。かかる成形体(製造後のビトリファイド砥石)の形状の一例として、円板状(ドーナツ状を含む)、三角錐状、球形状、円柱状などが挙げられる。また、成形体は、上述の形状を任意に分割したチップ状であってもよい。なお、坏土を成形する手段は、特に限定されず、プレス成形などの従来公知の手段を特に制限なく採用できる。
【0046】
(4)焼成工程S40
本工程では、成形体を焼成する。これによって、成形体中の有機成分(バインダ、造孔剤等)が焼失すると共に、ガラス材料であるビトリファイドボンドが溶融する。そして、溶融したビトリファイドボンドは、複数の砥粒12の間隙を流動し、成形体の全体に拡散する。そして、ビトリファイドボンドは、焼成後に固化することによって、複数の砥粒12を結合する結合ネットワークを形成する。
【0047】
ここで、本実施形態では、砥粒12にAl-Biコート14が付着しているため、焼成中の砥粒12の表面にAl酸化物とBi酸化物とを生じさせることができる。これらの酸化物は、ビトリファイドボンドとの濡れが良好であるため、砥粒12間のビトリファイドボンドのネットワークが好適に形成される。また、これらの酸化物の一部または全部は、焼成中にビトリファイドボンドに取り込まれることがある。これによって、砥粒12の表面近傍に、AlとBiを多く含むガラスが生じる。ここで、砥粒12近傍のガラスのAl量とBi量が多くなると、焼成中の軟化流動性が向上し砥粒12に対するビトリファイドボンドの定着性が向上する。これによって、焼成後のビトリファイド砥石に強固な結合ネットワークが形成されるため、ビトリファイド砥石の強度が向上すると推測される。
【0048】
なお、焼成工程S40における焼成条件は、砥粒12やビトリファイドボンドの種類に応じて適宜調節することが好ましい。例えば、焼成温度は、ビトリファイドボンドの軟化点以上であり、かつ、砥粒12の変質を抑制できる温度であることが好ましい。焼成温度の具体例は、300℃~1000℃が好ましく、400℃~800℃がより好ましく、450℃~700℃が特に好ましい。また、焼成時間の具体例は、1時間~10時間が好ましい。また、焼成温度が700℃以下の場合には、焼成雰囲気を酸化雰囲気や大気雰囲気にすることが好ましい。これによって、焼成中の砥粒12表面にAl酸化物とBi酸化物を適切に生じさせることができる。一方、焼成温度が700℃を超える場合には、非酸化雰囲気にすることが好ましい。これによって、砥粒(ダイヤモンドなど)の酸化を防止できる。
【0049】
3.ビトリファイド砥石
次に、製造後のビトリファイド砥石100について説明する。図3は、本実施形態に係るビトリファイド砥石を模式的に示す図である。
【0050】
図3に示すビトリファイド砥石100は、複数の砥材10(砥粒12およびAl-Biコート14)と、複数の砥材10を結合するビトリファイドボンド20とを含んでいる。具体的には、ビトリファイド砥石100には、ビトリファイドボンド20を介して複数の砥粒12が結合された結合ネットワークが形成されている。なお、ビトリファイド砥石100は、複数の空隙30を有する多孔質体であり得る。上述した通り、空隙30は、被加工物を研削した際の研削屑を一時的に貯留する空間として機能する。
【0051】
ここで、本実施形態におけるビトリファイド砥石100は、Al-Biコート14を有する砥材10を含むため、製造過程において砥粒12表面にAl酸化物とBi酸化物が生じる。これらの酸化物は、ビトリファイドボンド20との濡れが良好であるため、砥粒12間のビトリファイドボンド20のネットワークが好適に形成される。これによって、ビトリファイド砥石100は、優れた強度を発揮することができる。
【0052】
また、Al-Biコート14に由来する酸化物の一部または全部は、砥石製造過程においてビトリファイドボンド20に取り込まれることがある。これによって、砥粒12の表面近傍に、他の領域(中間領域24)よりもAlとBiを多く含むAl-Bi領域22が生じることがある。このAl-Bi領域22は、砥材10のAl-Biコート12に由来する酸化物を取り込んだガラスが固化することによって形成される。かかる構成のビトリファイド砥石100は、Al-Bi領域22を介して砥粒12と中間領域24とが強固に結合されているため、より優れた強度を有している。なお、このAl-Bi領域22が形成されてることは、ここに開示されるビトリファイド砥粒の必須構成要件ではない。例えば、図3に示すように、製造後のビトリファイド砥粒100において、Al-Biコート14が残留することもあり得る。上述の通り、Al-Biコート14は、ビトリファイドボンド20(ガラス)中に取り込まれない場合でも、砥材10とビトリファイドボンド20との濡れ性を改善できるため、ビトリファイド砥石100の強度向上に貢献できる。
【0053】
なお、Al-Bi領域22の厚みは、0.005μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましく、0.5μm以上が特に好ましい。このような十分な厚みのAl-Bi領域22を形成することによって、上述した強度向上効果を適切に発揮できる。一方、Al-Bi領域22の厚みは、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、1μm以下が特に好ましい。これによって、Al-Biコート12由来の酸化物が広範囲に拡散することによる強度向上効果の低減を抑制できる。
【0054】
また、このAl-Bi領域22における金属元素と半金属元素との合計原子数に対するAlとBiの合計原子数の割合(以下、「Al-Bi領域22のAl-Bi含有率X」ともいう)は、30%以上(好適には30%~90%、より好適には40%~80%、特に好適には50%~70%)となり得る。このようなAl元素とBi元素を多く含むビトリファイドボンド20(Al-Bi領域22)は、砥粒12と強固に結合するため、ビトリファイド砥石100の強度をより好適に向上できる。なお、Al-Bi領域の構成元素は、ビトリファイド砥石の断面SEM画像(又はTEM画像)から任意の砥粒を選択し、当該砥粒の表面から0.1μmまでの領域に存在するビトリファイドボンドをエネルギー分散型X線分析(EDX分析)用いて分析することによって測定することができる。また、上記「Al-Bi領域のAl-Bi含有率X」は、100個の砥粒を対象とした平均値である。
【0055】
また、本実施形態に係るビトリファイド砥石100は、Al-Bi領域22のAl-Bi含有率Xと、中間領域24のAl-Bi含有率Yとの比率(X/Y)が1.1以上(好適には1.2~5、特に好適には1.5~3)であることが好ましい。かかる条件を満たすビトリファイド砥石100は、焼成中にAl酸化物やBi酸化物の拡散が抑制され、流動性と定着性に優れたガラスが砥粒12の近傍に留まっているため、特に優れた強度を有している。なお、中間領域の構成元素は、ビトリファイド砥石の断面SEM画像(又はTEM画像)において、砥粒の表面から5μm以上離れた1μm角の領域を任意に選択し、当該領域の構成元素をエネルギー分散型X線分析(EDX分析)用いて分析することによって測定することができる。また、上記「中間領域のAl-Bi含有率Y」は、100個の測定領域の平均値である。
【0056】
そして、本実施形態に係るビトリファイド砥石100は、様々な材質や形状の被加工物の研削に使用することができる。被加工物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属材料、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス材料;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の半導体基板材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された被加工物であってもよい。なかでも、金属材料や半導体材料からなる被加工物の研削等に好適である。ここに開示されるビトリファイド砥石は、砥粒保持力が高く耐久性が向上していることから、例えば超高速研削等の高負荷研削に好適に用いることができる。
【0057】
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。但し、上述の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。すなわち、ここに開示される技術は、上述した実施形態に対して種々の変更を行ったものを包含し得る。
【0058】
[試験例]
次に、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、ここに開示される技術は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0059】
<第1の試験>
本試験では、予備試験として、5種類の砥粒用コート材(コート材A~E)を形成し、各々のコート材のビトリファイドボンドに対する濡れ性を評価した。
【0060】
1.コート材の準備
(1)コート材A
まず、Alレジネート(川研ファインケミカル製 アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート:ALCH, Al換算:18.4wt%)と、Biレジネート(Bi換算:13.1wt%)とを20mlのエタノールに溶解した。このとき、AlレジネートとBiレジネートの添加量は、焼成後のAlとBiの合計量が酸化物換算で0.1gとなるように調節した。また、コート材Aでは、Al/(Al+Bi)が0.2になるように、AlレジネートとBiレジネートとの比率を調節した。そして、このコート材をアルミナ基板に塗布して乾燥処理を行った後に、大気中で焼成処理(500℃、0.5時間)を実施した。これによって、アルミナ基板の表面に、Al-Biコートを形成した。
【0061】
(2)コート材B
コート材Bの形成では、Al/(Al+Bi)を0.5に変更した点を除いてコート材Aと同じ手順に従って、アルミナ基板の表面にAl-Biコートを形成した。
【0062】
(3)コート材C
コート材Cの形成では、Al/(Al+Bi)を0.8に変更した点を除いてコート材Aと同じ手順に従って、アルミナ基板の表面にAl-Biコートを形成した。
【0063】
(4)コート材D
コート材Dの形成では、Alレジネートのみを使用した(Al/(Al+Bi)=1)点を除いてコート材Aと同じ手順に従って、アルミナ基板の表面にAlコートを形成した。
【0064】
(5)コート材E
コート材Eの形成では、Biレジネートのみを使用した(Al/(Al+Bi)=0)点を除いてコート材Aと同じ手順に従って、アルミナ基板の表面にBiコートを形成した。
【0065】
2.評価試験
本試験では、ビトリファイドボンド粉末(TOMATEC(株) TMX-501F Bi-ZnO-B-SiO系ガラス)をアルコールに分散させた分散液を調製した。そして、当該分散剤をコート材の上に滴下して乾燥させた後に大気中で焼成処理(570℃、2時間)を実施した。そして、焼成後のコート材の表面をFE-SEMで観察した。コート材A~EのFE-SEM写真を図4図8に示す。
【0066】
まず、図7及び図8に示すように、コート材D、Eでは、焼成後のビトリファイドボンドの大部分がコート材上で球状に存在していた。このことから、AlコートやBiコートのみでは、焼成中のビトリファイドボンドに対する濡れ性が十分ではないことが分かった。一方、図4図6に示すように、コート材A~Cでは、コート材D、Eと比べて、ビトリファイドボンドが濡れ広がっていた。このことから、AlとBiの両方を含むAl-Biコートは、焼成中のビトリファイドボンドに対する濡れ性を改善する性能に優れていることが分かった。特に、コート材B、Cは、球状にはじかれたビトリファイドボンドが殆ど確認されなかった。
【0067】
<第2の試験>
次に、本試験では、コート材A~Eが付着した砥粒を用いて、ビトリファイド砥石を製造した。
【0068】
1.サンプルの準備
(1)試験例1
まず、ダイヤモンド砥粒(株式会社グローバルダイヤモンド社製、FRM4-6)を9.9g秤量した。そして、コート材A(Al/(Al+Bi)=0.2)を含むコート用溶液(溶剤:エタノール)に砥粒を分散させた。そして、80℃のホットプレート上に設置したフィルム上に、コート用溶液を滴下して乾燥粉を得た。次に、この乾燥粉を乳鉢で解砕した後に、大気雰囲気で焼成した(温度:600℃、昇温速度:10℃/min、時間:30分)。これによって、砥粒の表面に、金属酸化物のAl-Biコートが付着した砥材を得た。
【0069】
(2)試験例2
試験例2では、コート材をコート材B(Al/(Al+Bi)=0.5)に変更した点を除いて試験例1と同じ手順で砥材を得た。
【0070】
(3)試験例3
試験例3では、コート材をコート材C(Al/(Al+Bi)=0.8)に変更した点を除いて試験例1と同じ手順で砥材を得た。
【0071】
(4)試験例4
試験例4では、解砕後の乾燥粉に焼成処理を行わなかった点を除いて、試験例2と同じ手順で砥材を得た。すなわち、試験例4では、砥粒の表面に、有機金属化合物(レジネート)のAl-Biコートが付着した砥材を作製した。
【0072】
(5)試験例5
試験例5では、コート材をコート材D(Alコート:Al/(Al+Bi)=1)に変更した点を除いて試験例1と同じ手順で砥材を得た。
【0073】
(6)試験例6
試験例6では、コート材をコート材E(Biコート:Al/(Al+Bi)=0)に変更した点を除いて試験例1と同じ手順で砥材を得た。
【0074】
(7)試験例7
試験例6では、コート材を含まないエタノールに砥粒を分散させた点を除いて、試験例1と同じ手順で砥材を得た。すなわち、試験例7では、砥粒の表面にコート材を付着させなかった。
【0075】
2.評価試験
(1)ビトリファイド砥石の作製
砥材(試験例1~7)と、ビトリファイドボンド粉末(TOMATEC(株) TMX-501F Bi-ZnO-B-SiO系ガラス)と、気孔形成剤(積水化成品工業株式会社製のテクノポリマー、MB30X-8Y)と、バインダ(共栄社科学株式会社製のオリコックス、#2435E)とを混合することによって坏土を調製した。なお、砥材の添加量は8.12gに設定し、ビトリファイドボンドの添加量は7.89gに設定した。また、気孔形成剤の添加量は1.97gに設定し、バインダの添加量は3.03gに設定した。なお、坏土の調製では、撹拌機(あわとり錬太郎、AR-550L-2)を用いて各材料をペースト状になるまで混合した。そして、この坏土を100℃で4時間乾燥し、乳鉢を用いて解砕して砥石坏土を得た。次に、この砥石坏土3.0gをプレス成形して成形体(長さ:55mm、幅:6.5mm、厚み:4mm)を作製した。この成形体を大気雰囲気で焼成することによって、試験用のビトリファイド砥石を作製した。なお、焼成条件は、5時間かけて400℃まで昇温して400℃で2時間保持した後に、1時間40分かけて570℃まで昇温して570℃で2時間保持するという条件に設定した。そして、焼成後の成形体は、4時間以上冷却した。
【0076】
(1)3点曲げ強度の測定
各例の試験用砥石に対して、株式会社島津製作所製のEZ-testを用いて3点曲げ強度試験を行った。当該試験では、砥石試験片を固定する支持具の支点間距離Lを30mmに設定した。また、試験中の加圧速度は0.5mm/minに設定した。結果を表1に示す。なお、表1中の3点曲げ強度(MPa)は、5個の試験用砥石の3点曲げ強度の算術平均値である。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、試験例1~4は、試験例5~7と比較して3点曲げ強度が顕著に向上していた。これは、焼成後のビトリファイド砥石に強固な結合ネットワークが形成されたためと推測される。また、試験例2と試験例4とでは、3点曲げ強度が殆ど変化しなかった。このことから、Al-Biコートは、金属酸化物と有機金属化合物(レジネート)の何れの形態でも、好適な強度向上効果を発揮することが分かった。これは、有機金属化合物のAl-Biコートは、焼成処理の初期でAl酸化物とBi酸化物に変化し、金属酸化物のAl-Biコートと同じ状態になるためと推測される。
【0079】
以上、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。すなわち、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目7に記載の形態を包含する。
【0080】
<項目1>
ビトリファイド砥石の製造に用いられる砥材であって、
砥粒と、
前記砥粒の表面の少なくとも一部に付着したコート材と、
を含み、
前記コート材は、少なくともAlとBiとを含むAl-Biコートである、砥材。
【0081】
<項目2>
前記Al-Biコートは、金属酸化物または有機金属化合物である、項目1に記載の砥材。
【0082】
<項目3>
前記Al-Biコートにおける前記Alと前記Biの合計モル数に対する前記Alのモル数の比率(Al/Al+Bi)が0.1以上0.9以下である、項目1または2に記載の砥材。
【0083】
<項目4>
前記砥粒は、ダイヤモンド砥粒および立方晶窒化ホウ素砥粒からなる群から選択される一種を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の砥材。
【0084】
<項目5>
複数の砥材と、
前記複数の砥材を結合するビトリファイドボンドと、
を含み、
前記砥材は、項目1~4の何れか一項に記載の砥材である、ビトリファイド砥石。
【0085】
<項目6>
前記ビトリファイドボンドは、前記砥粒の表面近傍に、他の領域よりもAlとBiを多く含むAl-Bi領域を有している、項目5に記載のビトリファイド砥石。
【0086】
<項目7>
断面顕微鏡画像に対してエネルギー分散型X線分析に基づいた元素分析を行った際に、前記Al-Bi領域における金属元素と半金属元素との合計原子数に対する前記Alと前記Biの合計原子数の割合が30%以上である、項目5または6に記載のビトリファイド砥石。
【0087】
<項目8>
前記ビトリファイドボンドは、Biを含むガラス材料である、項目5~7の何れか一項に記載のビトリファイド砥石。
【符号の説明】
【0088】
10 砥材
12 砥粒
14 Al-Biコート
20 ビトリファイドボンド
22 Al-Bi領域
24 中間領域
30 空隙
100 ビトリファイド砥石

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8