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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126703
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】塔状構造物の倒壊方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
E04G23/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035274
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】権頭 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】飯田 悠聖
(72)【発明者】
【氏名】澤野 努
(72)【発明者】
【氏名】仲田 直矢
(72)【発明者】
【氏名】渕上 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】菊池 智
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA04
2E176AA07
2E176AA11
2E176DD21
(57)【要約】
【課題】塔状構造物をより安全に倒壊させることができる塔状構造物の倒壊方法を提供する。
【解決手段】塔状構造物の倒壊方法では、塔状構造物の柱のうち少なくとも倒壊側最前列の柱以外の柱(5R)を完全に切断し、かつ、完全切断される当該柱(5R)の少なくとも一部については倒壊側から見てV字形又は逆V字形の切断部が形成されるように切断して切断部上方の切断面が切断部下方の切断面上に乗るようにする。その後、塔状構造物の上部に取り付けられた引き倒しワイヤを引っ張って塔状構造物を倒壊させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔状構造物の倒壊方法であって、
塔状構造物の柱のうち少なくとも倒壊側最前列の柱以外の柱を倒壊起点部で完全に切断し、かつ、完全切断される当該柱の少なくとも一部については倒壊側から見てV字形又は逆V字形の切断部が形成されるように切断して切断部上方の切断面が切断部下方の切断面上に乗るようにし、
前記塔状構造物の上部に取り付けられた引き倒しワイヤを引っ張って前記塔状構造物を倒壊させる、塔状構造物の倒壊方法。
【請求項2】
前記倒壊側最前列の前記柱以外の前記柱の完全切断時に、前記倒壊側最前列の前記柱を、前記塔状構造物の倒壊側に一部切断されない部分を残しつつ前記倒壊起点部で部分切断する、請求項1に記載の塔状構造物の倒壊方法。
【請求項3】
前記倒壊側最前列の前記柱以外の前記柱の切断の前又は後に、前記塔状構造物の前記上部の反倒壊側に支持ワイヤの一端を取り付け、かつ、前記支持ワイヤの他端を下方に延ばして固定しておき、
前記引き倒しワイヤを引っ張って前記塔状構造物を倒壊させる直前に前記支持ワイヤの固定を解除する、請求項2に記載の塔状構造物の倒壊方法。
【請求項4】
前記引き倒しワイヤは、一本のワイヤの両端が前記塔状構造物の前記上部に取り付けられ、かつ、当該ワイヤの中央部が倒壊側に延ばされて滑車が取り付けられて構成されており、
前記引き倒しワイヤを引っ張って前記塔状構造物を倒壊させる際には、前記滑車を介して前記引き倒しワイヤによって前記塔状構造物の前記上部を引っ張る、請求項1又は2に記載の塔状構造物の倒壊方法。
【請求項5】
前記滑車が金属板又は金属棒に取り付けられており、前記引き倒しワイヤを引っ張って前記塔状構造物を倒壊させる際には、前記金属板又は前記金属棒を掴んだ重機車両によって前記引き倒しワイヤを引っ張る、請求項4に記載の塔状構造物の倒壊方法。
【請求項6】
前記倒壊側最前列の前記柱以外の前記柱がH形鉄骨柱であり、当該H形鉄骨柱の一対のフランジをV字形又は逆V字形に切断すると共に、一対の前記フランジの切断部の頂点をつなぐように当該H形鉄骨柱のウェブを水平に切断する、請求項1に記載の塔状構造物の倒壊方法。
【請求項7】
前記倒壊側最前列の前記柱以外の前記柱が鉄筋コンクリート柱であり、当該鉄筋コンクリート柱のコンクリート部分をV字形又は逆V字形に切断すると共に、内部の全ての垂直に延在する鉄筋を切断する、請求項1に記載の塔状構造物の倒壊方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塔状構造物の倒壊方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塔状構造物の解体方法はいくつか考えられる。上部から順に解体して順次地上に降ろす方法は、工期が長くなるという問題がある。あるいは、大型クレーンで塔状構造物全体を持ち上げつつその最下部を切断した後に地上に寝かせる方法でも、塔状構造物を持ち上げられるような大型クレーンを設置できる環境が必要である。一方、塔状構造物を倒壊させて地上で解体する方法もある。倒壊後に地上に横たわった塔状構造物を解体できるため、工期を短縮できるという利点がある。下記特許文献1は、塔状構造物ではないが壁体を倒壊させる方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52-154223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の方法も含めて、構造物の倒壊時には構造物の柱を水平に部分切断又は完全切断して、構造物を倒壊しやすくすることが行われている。しかし、柱を切断するため倒壊させるまで不安定にならないようにする必要がある。特に、塔状構造物は、重心が高く、風などの影響も受けやすいため、倒壊させるまで不安定にならないようにすることは重要である。
【0005】
従って、本発明の目的は、塔状構造物をより安全に倒壊させることのできる塔状構造物の倒壊方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る塔状構造物の倒壊方法では、塔状構造物の柱のうち少なくとも倒壊側最前列の柱以外の柱を完全に切断し、かつ、完全切断される当該柱の少なくとも一部については倒壊側から見てV字形又は逆V字形の切断部が形成されるように切断して切断部上方の切断面が切断部下方の切断面上に乗るようにし、前記塔状構造物の上部に取り付けられた引き倒しワイヤを引っ張って前記塔状構造物を倒壊させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、塔状構造物をより安全に倒壊させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る塔状構造物の倒壊方法を行う建屋の斜視図である。
図2】上記塔状構造物の柱の配置と当該柱へのワイヤの設置状態を示す断面図である。
図3】鉄骨柱(倒壊側最前列以外)の切断形態を示す斜視図である。
図4】鉄骨柱(倒壊側最前列)の切断形態を示す斜視図である。
図5】引き倒しワイヤの保持形態を示す平面図である。
図6】上記実施形態の変形例に係る鉄筋コンクリート柱(倒壊側最前列以外)の切断形態を示す斜視図である。
図7】上記変形例に係る鉄筋コンクリート柱(倒壊側最前列)の切断形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る塔状構造物の倒壊方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1図4に示されるように、本実施形態の塔状構造物1の下部は建屋2の一部として構成されており、その上部が建屋2の屋上から上方に向けて立設されている。ここでは、屋上から上方に突出している塔状構造物1の上部を地上へと倒壊させて地上で解体する。即ち、塔状構造物1の屋上の高さレベルが倒壊起点部3となる。
【0011】
倒壊の前準備として、倒壊された塔状構造物1の地上落下予定範囲に緩衝材として盛り土4を形成する。盛り土4は土砂や砕石によって形成される。次に、塔状構造物1の柱5(5F,5R:図2参照)を倒壊起点部3において倒壊前に予め切断するために、倒壊起点部3の塔状構造物1の外壁を一部取り払って柱5を露出させる。同様に、追って説明する引き倒しワイヤ6や支持ワイヤ7を塔状構造物1の上部の柱5などの構造体に取り付けるために、塔状構造物1の上部のワイヤ取付部8の外壁を一部取り払って構造体を露出させる。
【0012】
なお、ワイヤ取付部8での断面図である図2に示されるように、本実施形態の柱5は、H形鉄骨柱である。本実施形態の塔状構造物1は、平面図で長方形をしており、その周縁に計六本の柱5を有している。この柱5のうち、倒壊側(図2中下側)最前列の柱5をそれ以外の柱5と区別するために柱5Fとする。倒壊側最前列の柱5F以外の柱5を柱5Rとする。追って詳しく説明するが、本実施形態では、倒壊起点部3における柱5の切断形態が柱5Fと柱5Rとで異なる。
【0013】
倒壊起点部3における柱5の切断の前に、引き倒しワイヤ6及び支持ワイヤ7を取り付ける。塔状構造物1を倒壊させる前に柱5を予め切断(完全切断又は部分切断)するが、倒壊起点部3で柱5を切断すると塔状構造物1は切断前に比べれば不安定となる。このため、安全のために、柱5の切断に先んじて、まず、支持ワイヤ7が取り付けられる。倒壊側とは反対側(以下、反倒壊側という)の二本の柱5Rのそれぞれに、ワイヤ取付部8において支持ワイヤ7が取り付けられる。
【0014】
各支持ワイヤ7の上端にはワイヤクリップが取り付けられており、支持ワイヤ7を柱5Rに巻き付けた後にワイヤクリップが支持ワイヤ7に引っ掛けられる。このとき、支持ワイヤ7が、柱5Rに加えて梁やブレースにも巻き付けられるようにしてもよい。各支持ワイヤ7の下端は、反倒壊側の下方に延ばされて、建屋2の屋上に設けられているパラペットリングに固定される。支持ワイヤ7は、張力を発生するように取り付けられる。
【0015】
なお、支持ワイヤ7は柱5の切断に先んじて設けられるのが好ましい。なお、支持ワイヤ7は塔状構造物1を倒壊させるまでの安全確保のために設置され、塔状構造物1を倒壊させる直前にパラペットリングへの固定が解除される。支持ワイヤ7は、塔状構造物1の起立状態を維持するために設けられる。支持ワイヤ7に前後して、塔状構造物1の倒壊側最前列の柱5Fにも、ワイヤ取付部8において引き倒しワイヤ6が取り付けられる。引き倒しワイヤ6も柱5の切断に先んじて設けられるのが好ましい。引き倒しワイヤ6については、この時点では弛んだ状態である。引き倒しワイヤ6の上端にもワイヤクリップが取り付けられており、支持ワイヤ7の上端の柱5Rへの取り付けと同様に、引き倒しワイヤ6の上端が柱5Fに取り付けられる。
【0016】
引き倒しワイヤ6及び支持ワイヤ7の取り付け後に、倒壊起点部3において柱5が切断される。次に、倒壊起点部3での柱5の切断について詳しく説明する。上述したように、本実施形態の柱5はH形鉄骨柱であり、倒壊側最前列の柱5Fとそれ以外の柱5Rとで切断形態が異なる。なお、切断は、本実施形態では溶断で行われるが、カッターによる切断でもよく、公知の方法で切断される。まず、図3を参照しつつ倒壊側最前列以外の柱5Rの切断形態を説明する。各柱5Rは、倒壊側から見てV字形の切断部が形成されるように切断される。より詳しくは、柱5Rのウェブ5wの表面が倒壊方向に平行となるように柱5Rが配向されており、柱5Rの一対のフランジ5fは倒壊側から見てV字形にそれぞれ切断される。また、一対のフランジ5fのV字形の下部頂点をつなぐようにウェブ5wも水平に切断されている。
【0017】
このように切断部が上下に凹凸となるように切断して切断部上方の切断面が切断部下方の切断面上に乗っかるような切断形態を「乗せ切り」と呼ぶこととする。塔状構造物1の柱5は鉄骨であったり、後述するように鉄筋コンクリートであったりするため、その切断は容易ではない。このため、「乗せ切り」を行う場合であっても、本実施形態のようにその切断面が単純なV字形となるように切断するのが作業性がよい。そして、このようなV字形の「乗せ切り」とすることで、切断部上方が切断部下方に対して図3中横方向にずれるのを防止でき、塔状構造物1を倒壊させるまで安定させることができる。
【0018】
なお、柱5Rを倒壊側から見て逆V字形の切断部が形成されるように「乗せ切り」してもよい。ただし、倒壊起点部3は塔状構造物1の下部に設けられるため、塔状構造物1の重心は倒壊起点部3よりも上部に位置し、切断部下方に対して切断部上方がぐらつきやすい。このため、逆V字形の切断部では、V字形の切断部に比べて、切断部上方の切断面が切断部下方の逆V字形の頂点を乗り越えやすくなる。このため、より安定するV字形の切断部の方が好ましい。V字形の切断部によれば、切断部上方の重量によって、切断部上方のV字形の頂点が切断部下方のV字形切断面中央の谷部に食い込むので、逆V字形の切断部よりも安定する。ただし、逆V字形の切断部でも安定させる効果はある。
【0019】
次に、図4を参照しつつ倒壊側最前列の柱5Fの切断形態を説明する。柱5Fも、そのウェブ5wの表面が倒壊方向に平行となるように配向されており、その反倒壊側のフランジ5fが倒壊側から見てV字形に切断される。そして、このウェブ5wのV字形の下部頂点から下方に向けて傾斜してウェブ5wが切断されている。この上部切断部5xは、ウェブ5wと倒壊側のフランジ5fとの接合部でさらに下方へと延ばされている。
【0020】
上述した上部切断部5xに加えて、下部切断部5yも形成されている。下部切断部5yは、上部切断部5xに対して下方にやや離隔されて形成されており、ウェブ5wと倒壊側のフランジ5fとの接合部において水平なT字形の切断線となるように形成されている。より詳しくは、倒壊側のフランジ5fは水平に切断されるが、その切断線はフランジ5fの両側縁にまで達することはなく、敢えて部分切断とされる。このフランジ5fの水平な切断線に接続するようにウェブ5wも水平に切断されるが、その切断線も反倒壊側のフランジ5fにまで達することはなく、敢えて部分切断とされる。
【0021】
塔状構造物1を倒壊させる際には、この倒壊側最前列の柱5Fの倒壊起点部3の切断部がヒンジのように倒壊の起点となる。その際には、上部切断部5xでは切断部上方と切断部下方とは容易に分離し、上部切断部5xの下端から下部切断部5yに向けてウェブ5wと倒壊側のフランジ5fとを引き剥がすように切断部が下方へと伸展する。この伸展する切断部は、下部切断部5yにおいて下方への伸展が止まり、その後は、下部切断部5yの両側端から倒壊側のフランジ5fの両側縁へと倒壊側のフランジ5fを完全に切断するように伸展する。
【0022】
このように倒壊時に切断が進展するため、倒壊側最前列の柱5Fの切断部をヒンジのように機能させて、塔状構造物1の倒壊形態を制御することができる。例えば、塔状構造物1が倒壊時に倒壊起点部3から大きく離れるように倒壊することを抑止できるし、倒壊方向も制御できる。また、倒壊側最前列の柱5Fを完全切断せずに部分切断とすることには、次のような効果もある。
【0023】
まず、倒壊側最前列の柱5Fを部分切断とすることで、切断部上方が切断部下方に対して図4中横方向にずれるのを防止できると共に、奥行き方向にずれるのも防止でき、塔状構造物1を倒壊させるまで安定させることができる。横方向のずれは上述した倒壊側最前列以外の柱5Rの「乗せ切り」によっても防止されるが、倒壊側最前列の柱5Fを部分切断とすることで奥行き方向のずれも防止できる。
【0024】
さらに、倒壊側最前列の柱5Fを部分切断とし、かつ、上述した支持ワイヤ7により塔状構造物1を反倒壊側下方に向けて支持することで、塔状構造物1を倒壊させるまでより確実に安定させることができる。倒壊側最前列の柱5Fを部分切断とすることで、塔状構造物1は倒壊側では柱5Fによって切断部上方と切断部下方との分離が抑止される。これに加えて、反倒壊側を支持ワイヤ7で支持することで、倒壊側最前列以外の完全切断された柱5Rの「乗せ切り」の切断面をより確実に機能させることができる。より具体的には、倒壊側最前列の柱5Fが部分切断であるため、塔状構造物1の反倒壊側を支持ワイヤ7の張力によって斜め下方に引っ張ることで、柱5RのV字形の切断部上方の切断面を切断面下方の切断面に押し付けることができる。この結果、柱5Rの「乗せ切り」の切断面をより確実に機能させることができる。
【0025】
倒壊前の引き倒しワイヤ6や支持ワイヤ7の設置、及び、柱5の切断形態について説明した。次に、塔状構造物1の倒壊作業について説明する。上述したように、倒壊作業直前に支持ワイヤ7のパラペットリングへの固定が解除される。各支持ワイヤ7は、塔状構造物1の倒壊の邪魔とならないようにワイヤ取付部8から塔状構造物1の内部に引き入れられて垂れ下げられ、各下端はそれぞれ柱5Rに固定される。引き倒しワイヤ6の引き倒し側の先端には、図5に示す構成が形成されている。本実施形態では、一本の引き倒しワイヤ6の両端が、ワイヤ取付部8において、倒壊側最前列の柱5F又はこの柱5Fに結合されている梁などの構造体に取り付けられている。
【0026】
従って、引き倒しワイヤ6の引き倒し側の先端はU字形の折り返し部となり、この部分に滑車9が取り付けられている。引き倒しワイヤ6はこの滑車9を介して引っ張られるので、滑車9から塔状構造物1へと延びる二つの引張経路で塔状構造物1を均等に引っ張ることができる。滑車9は、シャックル10を介して鉄板11(金属板)と接続されている。滑車9と鉄板11とはシャックル10でなくワイヤ等で接続されてもよい。
【0027】
塔状構造物1の倒壊時には、この鉄板11を圧砕機12(図1参照)のフォークやグラップと呼ばれる挟み機12aで掴んで圧砕機12自体を移動させることで塔状構造物1を引っ張る。挟み機12aで引っ張りやすくするために、鉄板11の表面に凹凸が設けられてもよい。なお、本実施形態では、鉄板11(金属板)が用いられたが、圧砕機12等の重機車両によって掴むことができる金属棒などに滑車9が接続されてもよい。倒壊作業中に何らかの理由により引き倒しワイヤ6と圧砕機12との接続を解除したい場合は、たとえ圧砕機12が走行中であっても挟み機12aを開く操作だけですぐに解除を行うことができる。
【0028】
圧砕機12によって引っ張られた塔状構造物1は、倒壊起点部3の倒壊側最前列の柱5Fを起点として折れ曲がるように倒壊される。このとき、倒壊側最前列の柱5Fは倒壊起点部3で破断して、塔状構造物1は盛り土4上に落下する。なお、倒壊側最前列の柱5Fは、倒壊起点部3で完全破断することを想定しているが、必ずしも完全破断しなくても構わない。完全破断しなかった場合、塔状構造物1は吊り下がった状態となる可能性があるが、その場合は完全破断しなかった柱5Fを倒壊起点部3等で切断してやればよい。
【0029】
なお、上記実施形態では、倒壊側最前列以外の柱5Rの全てを「乗せ切り」としたが、倒壊側最前列以外の柱5Rの少なくとも一部が「乗せ切り」とされれば塔状構造物1を倒壊させるまで安定させることができる。例えば、倒壊側最前列の柱5Fと倒壊側最後列(即ち、反倒壊側最前列)の柱5Rとの間の中間に位置する柱5Rは単純に水平に完全切断してもよい。中間位置に位置する柱5Rのウェブ5wの表面が倒壊方向に直角となるように当該柱5Rが配向されている場合は「乗せ切り」は困難であるので、単純に水平に完全切断するだけでもよい。
【0030】
上記実施形態の柱5はH形鉄骨柱であった。次に、柱5が鉄筋コンクリート柱である場合の変形例について、図6及び図7を参照しつつ説明する。図7は、倒壊起点部3で部分切断される倒壊側最前列以外の柱5Rを示している(図3相当図)。図7は、倒壊起点部3で部分切断される倒壊側最前列の柱5Fを示している(図4相当図)。なお、図6及び図7では、垂直に配される鉄筋5rを環状に囲むように水平に配される鉄筋等の図示は省略されている。また、鉄筋5rを見やすくするためにコンクリート部分5cの外形が二点鎖線で示されている。本変形例の柱5以外の構成については、上記実施形態と同じである。
【0031】
図6に示されるように、本変形例における倒壊側最前列以外の完全切断される柱5Rでは、その内部の全ての鉄筋5rが切断されている。そして、複数の鉄筋5rの切断面はやはり倒壊側から見てV字形となっている。また、鉄筋5rを切断するために、コンクリート部分5cにもV字形の切断(破壊)部が形成される。即ち、柱5Rは、鉄筋5r及びコンクリート部分5cに関して倒壊側から見てV字形の切断部が形成され、上述した「乗せ切り」による切断部が形成される。このため、切断部上方の切断面が切断部下方の切断面上に乗る形となり、塔状構造物1を倒壊させるまで安定させることができる。
【0032】
一方、図7に示されるように、本変形例における倒壊側最前列の部分切断される柱5Fでは、その内部の最も倒壊側に位置する鉄筋5rのみが切断されずに残されており、柱5Fは部分切断されている。即ち、当該倒壊側最前列の柱5Fの内部において、最も倒壊側に位置する鉄筋5r以外の鉄筋5rは切断されている。最も倒壊側に位置する鉄筋5r以外の鉄筋5rの切断面はやはり倒壊側から見てV字形となっている。また、鉄筋5rを切断するために、コンクリート部分5cにもV字形の切断(破壊)部が形成される。
【0033】
そして、最も倒壊側に位置する鉄筋5rの周囲のコンクリート部分5cは、倒壊側に広がるように楔状に切断(破壊)部が形成されている。最も倒壊側に位置する切断されない鉄筋5rは、この楔状の切欠部分の内部で露出されている。引き倒しワイヤ6で塔状構造物1を引っ張った際に、円滑に塔状構造物1を倒壊させることができるように、図7に示されるような倒壊側に広がるような楔状の切欠部分をコンクリート部分5cに形成するのが好ましい。
【0034】
コンクリート部分5cの倒壊側に上述した楔状の切欠部分を形成することで、引き倒しワイヤ6で塔状構造物1を引っ張った際に、塔状構造物1を傾きやすくすることができ、円滑に倒壊させることができる。なお、図7(及び図6)では、コンクリート部分5cは模式的に平面的に示されているが、実際はコンクリート部分5cは砕かれるためきれいな平面ではない。図7の楔状の切欠部分の奥側はV字形に切断面に連通しており、楔状の切欠部分の手前側は水平に切り欠かれている。コンクリート部分5cは、このような切欠部分となるように切断(破壊)される。従って、上記実施形態で説明した倒壊側最前列の柱5Fを部分切断とすることによる効果は、本変形例においても得られる。また、上記実施形態でもたらされる既に説明したその他の利点も、本変形例によってもたらされる(図5の構成による利点等)。
【0035】
なお、鉄筋コンクリート柱である柱5Rの完全切断とは、その内部の垂直な全ての鉄筋5rを切断することを言う。鉄筋5rの切断のためにコンクリート部分5cも切断(破壊)されるが、柱5Rの水平断面中心に鉄筋5rが存在しない場合、この中心のコンクリート部分5cが切断(破壊)されずに残る場合もある。このように垂直な全ての鉄筋5rの切断面の上下をつなぐコンクリート部分5cが一部残されたとしても、この残されたコンクリート部分5cは、塔状構造物1の倒壊時に作用する引張力で容易に破断する。
【0036】
また、上述した実施形態及び変形例では、倒壊側最前列の柱5Fを部分切断とした。倒壊側最前列の柱5Fを部分切断とすることの利点は上述したとおりである。しかし、倒壊側最前列の柱5Fも完全切断してもよい。その場合は「乗せ切り」とするのが好ましい。
【0037】
上記実施形態(変形例を含む、以下同じ)に係る倒壊方法によれば、塔状構造物1の柱5のうち少なくとも倒壊側最前列の柱5F以外の柱5Rを倒壊起点部3で完全に切断する。完全切断される当該柱5Rの少なくとも一部については倒壊側から見てV字形(又は逆V字形)の切断部が形成されるように切断して切断部上方の切断面が切断部下方の切断面上に乗るようにされる。その後、塔状構造物1の上部(ワイヤ取付部8)に取り付けられた引き倒しワイヤ6を引っ張って塔状構造物1を倒壊させる。倒壊に先んじて柱5Rを完全切断するため、容易に塔状構造物1を倒壊させることができる。ここで、完全切断される柱5Rについては倒壊側から見てV字形(又は逆V字形)の切断部が形成されて切断部上方の切断面が切断部下方の切断面上に乗る。このため、重心が高く風の影響も受けやすい塔状構造物1の倒壊起点部3でのずれを防止して、倒壊させるまで塔状構造物1を安定させておくことができる。
【0038】
本実施形態に係る倒壊方法によれば、倒壊側最前列の柱5F以外の柱5Rの完全切断時に、倒壊側最前列の柱5Fも、塔状構造物1の倒壊側に一部切断されない部分を残しつつ倒壊起点部3で部分切断する。このため、部分切断された、即ち、一部上下に繋がっている倒壊側最前列の柱5Fによって、塔状構造物1の倒壊起点部3でのずれをより確実に防止して、倒壊させるまで塔状構造物1をより安定させておくことができる。
【0039】
ここで、倒壊側最前列の柱5F以外の柱5Rの切断の前又は後に、塔状構造物1の上部(ワイヤ取付部8)の反倒壊側に支持ワイヤ7の一端を取り付け、かつ、支持ワイヤ7の他端を下方に延ばして固定してする。引き倒しワイヤ6を引っ張って塔状構造物1を倒壊させる直前に支持ワイヤ7の固定が解除される。まず、支持ワイヤ7自体によって、重心が高く風の影響も受けやすい塔状構造物1の上部(ワイヤ取付部8)の振れを抑止して、倒壊させるまで塔状構造物1をより安定させておくことができる。さらに、倒壊側最前列の柱5Fの部分切断と支持ワイヤ7とによって、倒壊側最前列以外の柱5RにおけるV字形(又は逆V字形)の切断面を確実に係合させることができるため、倒壊させるまで塔状構造物1をより確実に安定させておくことができる。
【0040】
また、本実施形態に係る倒壊方法によれば、一本のワイヤの両端が塔状構造物1の上部(ワイヤ取付部8)に取り付けられ、かつ、当該ワイヤの中央部が倒壊側に延ばされて滑車9が取り付けられることで、引き倒しワイヤ6が構成されている。引き倒しワイヤ6を引っ張って塔状構造物を倒壊させる際には、滑車9を介して引き倒しワイヤ6によって塔状構造物1の上部(ワイヤ取付部8)を引っ張る。滑車9を設けることで、滑車9から塔状構造物1へと延びる引き倒しワイヤ6の二つの引張経路で塔状構造物1を均等に引っ張ることができるので、より安定的に塔状構造物1を倒壊させることができる。
【0041】
ここで、滑車9は鉄板11(金属板)に取り付けられており、引き倒しワイヤ6を引っ張って塔状構造物1を倒壊させる際には、鉄板11(金属板)を掴んだ重機車両(圧砕機12)によって前記引き倒しワイヤを引っ張る。なお、金属板は金属棒でもよい。倒壊作業中に何らかの理由により引き倒しワイヤ6と重機車両との接続を解除したい場合は、たとえ重機車両が走行中であっても、金属板を掴んでいるそのアタッチメント(挟み機12a)の解除操作だけですぐに接続を解除することができ、安全である。
【0042】
また、上記実施径形態では、倒壊側最前列の柱5F以外の柱5RがH形鉄骨柱である(倒壊側最前列の柱5FもH形鉄骨柱)。そして、完全切断される当該H形鉄骨柱(5R)の一対のフランジ5fはV字形(又は逆V字形)に切断され、かつ、一対のフランジ5fの切断部の頂点をつなぐように当該H形鉄骨柱(5R)のウェブ5wは水平に切断される。完全切断される柱5RがH形鉄骨柱である場合は、このように切断部を形成することで、切断部上方の切断面を切断部下方の切断面上により確実に乗せることができる。また、一対のフランジ5f及びウェブ5wが上下に完全に切断されるため、塔状構造物1を倒壊させる際には柱5Rを切断部から上下に確実に分離させることができる。
【0043】
一方、上記変形例では、倒壊側最前列の柱5F以外の柱5Rは鉄筋コンクリート柱である(倒壊側最前列の柱5Fも鉄筋コンクリート柱)。完全切断される当該鉄筋コンクリート柱(5R)のコンクリート部分5cはV字形(又は逆V字形)に切断され、かつ、内部の全ての垂直延在する鉄筋5rが切断される。完全切断される柱5Rが鉄筋コンクリート柱である場合は、このように切断部を形成することで、切断部上方のコンクリート部分5cの切断面を切断部下方のコンクリート部分5cの切断面上により確実に乗せることができる。また、全ての垂直に延在する鉄筋5rが切断されるため、塔状構造物1を倒壊させる際には柱5Rを切断部から上下に確実に分離させることができる。
【0044】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0045】
例えば、上記実施形態の塔状構造物1は建屋の屋上から上方に立設されていた。しかし、本発明方法は、地面から立設されている塔状構造物に対して適用することも可能である。また、上記実施形態の塔状構造物1は、平面図において四角形の形状であった。しかし、塔状構造物は、平面図において、他の多角形(三角形、五角形等)や丸形や楕円形、これらの複合形状を有していてもよい。もちろん、塔状構造物の平面図が高さ方向で変化していても構わない。いずれにしても、上記実施形態のように、倒壊側最前列の部分切断する柱を複数にして直線状に配置すれば倒壊方向を制御できるため、このようにするのが好ましい。
【符号の説明】
【0046】
1 塔状構造物
3 倒壊起点部
5 柱
5F (倒壊側最前列の)柱
5R (柱5F以外の)柱
5f (H形鉄骨柱5の)フランジ
5w (H形鉄骨柱5の)ウェブ
5c (鉄筋コンクリート柱5の)コンクリート部分
5r (鉄筋コンクリート柱5の)鉄筋
6 引き倒しワイヤ
7 支持ワイヤ
8 ワイヤ取付部(塔状構造物1の上部)
9 滑車
11 鉄板(金属板)
12 圧砕機(重機車両)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7