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特開2024-126735還元反応装置、及び被処理化合物の還元体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126735
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】還元反応装置、及び被処理化合物の還元体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/08 20060101AFI20240912BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20240912BHJP
   B01J 23/888 20060101ALI20240912BHJP
   B01J 19/24 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B01J19/08 E
C01B32/40
B01J23/888 M
B01J19/24 Z
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035313
(22)【出願日】2023-03-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】520486638
【氏名又は名称】株式会社アビット・テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(74)【代理人】
【識別番号】100201949
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 久美
(74)【代理人】
【識別番号】100227097
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(72)【発明者】
【氏名】中川 清和
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
【テーマコード(参考)】
4G075
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G075AA04
4G075BA06
4G075BD10
4G075BD14
4G075CA47
4G075CA54
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB01
4G075EB44
4G146JA02
4G146JB03
4G146JC01
4G146JC34
4G169AA02
4G169BB02A
4G169BC60B
4G169CB81
4G169CC29
4G169DA06
4G169EA08
4G169FB58
(57)【要約】      (修正有)
【課題】確実かつ簡便な方法により反応系にエネルギーを供給することができ、吸熱反応であっても反応を十分に進行させることが可能な還元反応装置と、この装置を利用する被処理化合物の還元体の製造方法を提供する。
【解決手段】水素ラジカル発生室1と、還元触媒6を備える触媒室5とを有し、還元触媒が、水素ラジカル発生室から流れてくる水素ラジカルを含有するガスと接触するように設置されている、還元反応装置100、及び水素ラジカル発生室にて被処理化合物のガス及び水素ガスを含む混合ガスにマイクロ波を照射して水素ラジカルを発生させるステップと、生成した混合ガスを前記触媒室に誘導して還元触媒に接触させるステップとを有する、被処理化合物の還元体の製造方法であって、水素ラジカルが反応して化学結合が生じる際に放出されるエネルギーを利用して還元触媒の温度を高め、被処理化合物の還元反応を進行させる、還元体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ラジカル発生室と、前記水素ラジカル発生室の下流側に接続された触媒室とを有する還元反応装置であって、
前記水素ラジカル発生室が、
絶縁体からなる筒状の容器と、
前記絶縁体からなる筒状の容器に被処理化合物のガス及び水素ガスを供給する、1又は2以上のガス供給口と、
前記絶縁体からなる筒状の容器の側方に設けられたマイクロ波導入口とを備え、
前記水素ラジカル発生室は、前記絶縁体からなる筒状の容器の内部に水素ラジカルを発生させるものであり、
前記触媒室が、
還元触媒と、
前記触媒室内のガスを排気するガス排出口とを備えるものであり、
前記還元触媒が、前記水素ラジカル発生室から流れてくる被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスと接触するように設置されている還元反応装置。
【請求項2】
前記絶縁体が石英である、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項3】
前記被処理化合物のガスが二酸化炭素ガスである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項4】
前記水素ラジカル発生室が、マイクロ波プラズマを発生させるものである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項5】
前記還元触媒が、周期表第4周期以降の金属元素を1種又は2種以上を含有するものである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項6】
前記還元触媒の形状が、粒子状、繊維状、板状、箔状のいずれかである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項7】
前記マイクロ波導入口と前記還元触媒の間の距離が、下記の要件A又は要件Bを満たすものである、請求項1に記載の還元反応装置。
要件A:マイクロ波導入口の断面の形状が円であるとき、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、マイクロ波導入口の断面の直径の2倍以上である。
要件B:マイクロ波導入口の断面の形状が円以外の形状であるとき、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、マイクロ波導入口の断面を内包する最小の円の直径の2倍以上である。
【請求項8】
前記触媒室が、前記還元触媒を外部から加熱する手段を備えていないものである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項9】
前記水素ラジカル発生室と前記触媒室との組み合わせを2組以上有する還元反応装置であって、2組以上の水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせが、直列及び/又は並列に接続されている、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項10】
さらに金属容器を備える還元反応装置であって、前記金属容器は、前記水素ラジカル発生室を収容し、マイクロ波を閉じ込めるものである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項11】
前記水素ラジカル発生室と前記触媒室との組み合わせを2組以上有する還元反応装置であって、2組以上の水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせが、直列及び/又は並列に接続され、複数の水素ラジカル発生室が前記金属容器に収容されている、請求項10に記載の還元反応装置。
【請求項12】
被処理化合物のガス及び水素ガスを含む混合ガスにマイクロ波を照射して水素ラジカルを発生させるステップ(ステップA)と、
ステップAで生成した被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスを、還元触媒に接触させるステップ(ステップB)を有する、被処理化合物の還元体の製造方法であって、
水素ラジカルが反応して化学結合が生じる際に放出されるエネルギーを利用して前記還元触媒の温度を高め、被処理化合物の還元反応を進行させる、被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項13】
前記被処理化合物の還元反応が吸熱反応である、請求項12に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項14】
被処理化合物の還元反応の進行中の還元触媒の温度が、200~800℃である、請求項12に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項15】
被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガス中に含まれるラジカルの密度が、前記還元触媒上において、1×1014個/cm以上である、請求項12に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の還元反応装置を使用する、請求項12に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項17】
触媒室のガス排出口から排出されたガスを、水素ラジカル発生室のガス供給口から再度還元反応装置内に導入し、ステップAとステップBを繰り返し行う、請求項16に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元反応装置、及び被処理化合物の還元体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種化学反応を進行させる際にプラズマを使用することが行われている。
例えば、特許文献1には、減圧した反応管内にマイクロ波を照射し、前記反応管内に供給する窒素と水素の混合ガスからアンモニアを合成する装置が記載されている。
特許文献1には、反応管内に触媒を設けた実施形態も記載されている。その記載によれば、触媒はマイクロ波が照射され、プラズマが発生する位置に設置されている。
【0003】
特許文献2には、触媒にプラズマを照射して被処理ガスを改質し生成ガスを製造するガス製造システムが記載されている。
特許文献2のガス製造システムにおいては、被処理ガスとして、炭化水素系のガス及び酸化剤ガスを使用し、水素含有ガス(生成ガス)を得ている。
特許文献2に開示されている装置においても、触媒はプラズマが発生する位置に設置されている。
【0004】
ところで、近年、地球温暖化問題等の観点から、二酸化炭素の排出量の削減に関する技術や二酸化炭素の再利用に関する技術が注目されている。二酸化炭素の再利用に関する技術としては、二酸化炭素を還元して一酸化炭素やメタノールを合成する方法が知られている。
特許文献3には、二酸化炭素と水素および/または水蒸気からなる原料ガスを10Pa以下の低圧力でマイクロ波プラズマ発生手段を備える反応チャンバーに連続的に導入し、原料ガスから発生したラジカルを、反応チャンバー内に固定して配置された触媒に接触させた後、少なくとも一酸化炭素を含む可燃性ガスを反応チャンバー外部へ連続的に取出すことを特徴とする二酸化炭素を可燃性ガスへ転化する方法が記載されている。
【0005】
特許文献4には、二酸化炭素と水素の混合ガスを触媒を充填した反応管に導入し、該触媒にマイクロ波を照射することにより、導入した二酸化炭素を接触水素還元してメタノールを合成する二酸化炭素からのメタノール合成方法において、前記反応管に水素の割合(体積比)が90%以上である二酸化炭素と水素の混合ガスを空間速度(混合ガス基準)が1,700~30,000h-1になるように導入することを特徴とする二酸化炭素からのメタノール合成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-190746号公報
【特許文献2】特許第6621573号公報
【特許文献3】特開2003-27241号公報
【特許文献4】特開2010-37229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、二酸化炭素を還元して一酸化炭素やメタノールを合成する方法は既に知られている。
しかしながら、例えば二酸化炭素を水素ガスで還元して一酸化炭素と水を生成させる反応においては、この反応が吸熱反応であるために、反応が進行すればするほど反応系にエネルギーを供給し続ける必要があった。
このため、従来、マイクロ波が照射される位置に触媒を設置してマイクロ波加熱により触媒温度を高めたり、触媒付近にヒーター等を設置して触媒温度を高めたりする必要があった。
【0008】
しかしながら、マイクロ波加熱により触媒を加熱する場合、触媒が金属のときはマイクロ波が反射され、触媒を効率よく加熱できないという問題があった。また、触媒付近にヒーター等の熱供給手段を設けると装置が複雑になるという問題があった。
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、確実かつ簡便な方法により反応系にエネルギーを供給することができ、吸熱反応であっても反応を十分に進行させることが可能な還元反応装置と、このエネルギー供給方法を利用する被処理化合物の還元体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、水素ガスを還元剤として用いる還元反応用の装置について鋭意検討を重ねた。
その結果、水素ラジカルが反応して化学結合が生じる際に放出されるエネルギーを反応系に供給することで、吸熱反応であっても反応を十分に進行させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔11〕の還元反応装置、及び〔12〕~〔17〕の被処理化合物の還元体の製造方法が提供される。
〔1〕水素ラジカル発生室と、前記水素ラジカル発生室の下流側に接続された触媒室とを有する還元反応装置であって、前記水素ラジカル発生室が、絶縁体からなる筒状の容器と、前記絶縁体からなる筒状の容器に被処理化合物のガス及び水素ガスを供給する、1又は2以上のガス供給口と、前記絶縁体からなる筒状の容器の側方に設けられたマイクロ波導入口とを備え、前記水素ラジカル発生室は、前記絶縁体からなる筒状の容器の内部に水素ラジカルを発生させるものであり、前記触媒室が、還元触媒と、前記触媒室内のガスを排気するガス排出口とを備えるものであり、前記還元触媒が、前記水素ラジカル発生室から流れてくる被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスと接触するように設置されている還元反応装置。
〔2〕前記絶縁体が石英である、〔1〕に記載の還元反応装置。
〔3〕前記被処理化合物のガスが二酸化炭素ガスである、〔1〕に記載の還元反応装置。
〔4〕前記水素ラジカル発生室が、マイクロ波プラズマを発生させるものである、〔1〕に記載の還元反応装置。
〔5〕前記還元触媒が、周期表第4周期以降の金属元素を1種又は2種以上を含有するものである、〔1〕に記載の還元反応装置。
〔6〕前記還元触媒の形状が、粒子状、繊維状、板状、箔状のいずれかである、〔1〕に記載の還元反応装置。
〔7〕前記マイクロ波導入口と前記還元触媒の間の距離が、下記の要件A又は要件Bを満たすものである、〔1〕に記載の還元反応装置。
要件A:マイクロ波導入口の断面の形状が円であるとき、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、マイクロ波導入口の断面の直径の2倍以上である。
要件B:マイクロ波導入口の断面の形状が円以外の形状であるとき、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、マイクロ波導入口の断面を内包する最小の円の直径の2倍以上である。
〔8〕前記触媒室が、前記還元触媒を外部から加熱する手段を備えていないものである、〔1〕に記載の還元反応装置。
〔9〕前記水素ラジカル発生室と前記触媒室との組み合わせを2組以上有する還元反応装置であって、2組以上の水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせが、直列及び/又は並列に接続されている、〔1〕に記載の還元反応装置。
〔10〕さらに金属容器を備える還元反応装置であって、前記金属容器は、前記水素ラジカル発生室を収容し、マイクロ波を閉じ込めるものである、〔1〕に記載の還元反応装置。
〔11〕前記水素ラジカル発生室と前記触媒室との組み合わせを2組以上有する還元反応装置であって、2組以上の水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせが、直列及び/又は並列に接続され、複数の水素ラジカル発生室が前記金属容器に収容されている、〔10〕に記載の還元反応装置。
〔12〕被処理化合物のガス及び水素ガスを含む混合ガスにマイクロ波を照射して水素ラジカルを発生させるステップ(ステップA)と、ステップAで生成した被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスを、還元触媒に接触させるステップ(ステップB)を有する、被処理化合物の還元体の製造方法であって、水素ラジカルが反応して化学結合が生じる際に放出されるエネルギーを利用して前記還元触媒の温度を高め、被処理化合物の還元反応を進行させる、被処理化合物の還元体の製造方法。
〔13〕前記被処理化合物の還元反応が吸熱反応である、〔12〕に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
〔14〕被処理化合物の還元反応の進行中の還元触媒の温度が、200~800℃である、〔12〕に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
〔15〕被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガス中に含まれるラジカルの密度が、前記還元触媒上において、1×1014個/cm以上である、〔12〕に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
〔16〕前記〔1〕に記載の還元反応装置を使用する、〔12〕に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
〔17〕触媒室のガス排出口から排出されたガスを、水素ラジカル発生室のガス供給口から再度還元反応装置内に導入し、ステップAとステップBを繰り返し行う、〔16〕に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、確実かつ簡便な方法により反応系にエネルギーを供給することができ、吸熱反応であっても反応を十分に進行させることが可能な還元反応装置と、このエネルギー供給方法を利用する被処理化合物の還元体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)本発明の還元反応装置の一例を示す模式断面図である。(b)図1(a)のA-A断面図である。
図2】(a)本発明の還元反応装置の他の一例を示す模式断面図である。(b)図2(a)の還元反応装置における水素ラジカル発生室と触媒室との境界を説明する模式図である。
図3】本発明の還元反応装置の他の一例を示す模式断面図である。
図4】本発明の還元反応装置の他の一例を示す模式断面図である。
図5】本発明の還元反応装置が、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせを2組以上有する場合の、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせの配列を模式的に表した図である。
図6】本発明の還元反応装置の他の一例を示す模式図である。
図7】本発明の還元反応装置が、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせを2組以上有し、さらに金属容器を有する場合の、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせの配列を模式的に表した図である。
図8】(a)実施例で用いた装置を模式的に表した図である。(b)金属容器とタングステン箔の距離が5cmのときの実験を表した写真である。(c)金属容器とタングステン箔の距離が10cmのときの実験を表した写真である。(d)金属容器とタングステン箔の距離が20cmのときの実験を表した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、1)還元反応装置、及び、2)被処理化合物の還元体の製造方法、に項分けして詳細に説明する。
【0014】
1)還元反応装置
本発明の還元反応装置は、水素ラジカル発生室と、前記水素ラジカル発生室の下流側に接続された触媒室とを有する還元反応装置であって、前記水素ラジカル発生室が、絶縁体からなる筒状の容器と、前記絶縁体からなる筒状の容器に被処理化合物のガス(以下、「被処理ガス」と記載することがある)及び水素ガスを供給する、1又は2以上のガス供給口と、前記絶縁体からなる筒状の容器の側方に設けられたマイクロ波導入口とを備え、前記水素ラジカル発生室は、前記絶縁体からなる筒状の容器の内部に水素ラジカルを発生させるものであり、前記触媒室が、還元触媒と、前記触媒室内のガスを排気するガス排出口とを備えるものであり、前記還元触媒が、前記水素ラジカル発生室から流れてくる被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスと接触するように設置されている還元反応装置である。
【0015】
以下、本発明の還元反応装置について、図1~7を参照しながら説明する。
図1は、本発明の還元反応装置の実施の形態の一例を示す図である。図1(a)は、還元反応装置100の模式断面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A断面を上方から見た図である。
【0016】
還元反応装置100を構成する水素ラジカル発生室1は、絶縁体からなる筒状の容器2を備えるものである。
絶縁体からなる筒状の容器2の長さ(図1(a)中、縦方向の長さ)は、特に限定されないが、通常5~100cmであり、10~50cmが好ましい。
絶縁体からなる筒状の容器2の直径は、特に限定されないが、通常1~50cmであり、5~20cmが好ましい。
【0017】
絶縁体としては、石英、アルミナ(Al)、イットリア(Y)、ハフニア(HfO)、ジルコニア(ZrO)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化アルミニウム(AlN)等が挙げられる。
これらの中でも、絶縁体からなる筒状の容器の作製が容易であること、及び、表面が滑らかであるため、絶縁体からなる筒状の容器の表面積が小さくなり、水素ラジカルの接触が低減化され、失活を抑制できることから、絶縁体としては石英が好ましい。
【0018】
水素ラジカル発生室1は、前記絶縁体からなる筒状の容器2内に被処理ガス及び水素ガスを供給するガス供給口3を備える。
還元反応装置100は2つのガス供給口3を備える。ただし、本発明の還元反応装置においては、ガス供給口の数は特に限定されない。例えば、水素ラジカル発生室には、被処理ガス及び水素ガスで構成された混合ガスを1つのガス供給口から導入してもよいし、被処理ガスと水素ガスをそれぞれの別のガス供給口から導入してもよい。
【0019】
被処理ガスとしては、水素ガスで還元される被処理化合物のガスであれば特に限定されない。例えば、二酸化炭素ガス、窒素ガス、二酸化窒素ガス等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の還元反応装置は、確実かつ簡便な方法により反応系にエネルギーを供給することができ、吸熱反応でも反応を十分に進行させることができること、及び、近年、地球温暖化問題等の観点から二酸化炭素の再利用が重要視されていること等の理由により、被処理ガスとしては二酸化炭素ガスが好ましい。
【0020】
水素ラジカル発生室1は、前記絶縁体からなる筒状の容器2の側方に設けられたマイクロ波導入口4を備える。
還元反応装置100を使用する際は、マイクロ波導入口4からマイクロ波(M)を照射し、絶縁体からなる筒状の容器2の内部にマイクロ波プラズマを発生させる。
マイクロ波の発生は、通常、マイクロ波電源、マイクロ波発振器、アイソレータ、方向性結合器、整合器等を備えるマイクロ波発生部(図示を省略)で行われ、発生したマイクロ波は導波管(図示を省略)によりマイクロ波導入口4に伝えられる。
マイクロ波プラズマの発生方法に関しては、マイクロ波表面波プラズマに関する公知技術を利用することができる。
【0021】
絶縁体からなる筒状の容器2の内部に発生したマイクロ波プラズマは、通常、水素ラジカル、水素イオン、電子等を含む。後述するように、本発明の還元反応装置においては、反応系にエネルギーを供給する際に水素ラジカルを利用する。
【0022】
還元反応装置100を構成する触媒室5は、水素ラジカル発生室1の下流側に接続されている。したがって、水素ラジカル発生室1で発生したマイクロ波プラズマ(被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガス)は触媒室5に流れていく。なお、本明細書において「マイクロ波プラズマ」と「被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガス」を明確に区別してはいないが、機能面から、水素ラジカル発生室内のものを「マイクロ波プラズマ」と記載し、触媒室内のものを「被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガス」と記載することが多い。
【0023】
触媒室5は、還元触媒6を備える。
還元触媒6は、被処理化合物の還元反応を触媒するものであれば特に限定されない。
被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスが還元触媒に接触したときに破壊されにくいことから、還元触媒6は、周期表第4周期以降の金属元素を1種又は2種以上を含有するものが好ましい。
周期表第4周期以降の金属元素としては、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、タンタル、タングステン、白金、金、ガドリニウム等が挙げられる。
【0024】
還元触媒6の形状は特に限定されない。
還元触媒6の形状としては、粒子状、繊維状、板状、箔状等が挙げられる。
還元触媒6は、水素ラジカル発生室1から流れてくる被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスと接触するように設置されている。
【0025】
触媒室5は、触媒室5内のガスを排気するガス排出口7を備える。
ガス排出口7から、被処理化合物の還元体を含むガスを取り出すことができる。
【0026】
還元反応装置100が稼働している状態においては、水素ラジカルが反応して化学結合が生じる際にエネルギーが放出される。このエネルギーを吸収することで還元触媒6の温度が十分に高くなるため、還元反応が吸熱反応であっても反応を十分に進行させることができる。
したがって、触媒室5は、還元触媒6を外部から加熱する手段(ヒーター等)を備えていなくてもよい。
【0027】
図2は、本発明の還元反応装置の実施の形態の他の例を示す図である。図2(a)は、還元反応装置200の模式断面図であり、図2(b)は、図2(a)の還元反応装置における水素ラジカル発生室と触媒室との境界を説明する模式図である。
【0028】
還元反応装置200は、絶縁体からなる筒状の容器8と、前記絶縁体からなる筒状の容器8に被処理ガス及び水素ガスを供給するガス供給口9と、前記絶縁体からなる筒状の容器8の側方に設けられたマイクロ波導入口10とを備え、さらに、触媒台11の上に設置された還元触媒12と、ガス排出口13とを備える。
【0029】
還元反応装置200は、以下の特徴1、2を有する。
(特徴1)絶縁体からなる筒状の容器8は、還元反応装置200の上流部の側壁だけでなく、下流部の側壁(すなわち、還元触媒12の周囲の側壁)も構成している。このため、絶縁体からなる筒状の容器8として石英管を用いた場合、水素ラジカルが側壁に衝突しても失活し難く、水素ラジカルを還元触媒12により確実に接触させることができる。
(特徴2)還元触媒12が触媒台11の上に設置されている。触媒台11は上下に可動な状態で設けられており、マイクロ波導入口10と還元触媒12の距離を調節することができる。水素ラジカルは、時間の経過とともに消滅したり、水素イオンと電子の反応により発生したりするため、マイクロ波導入口10と還元触媒12の距離を調節することにより、水素ラジカルが還元触媒12に接触する量を変化させ、還元触媒の表面温度を調節することができる。
【0030】
還元反応装置200のように、水素ラジカル発生室と触媒室の境界が明確でない場合、各室の機能に基づき、水素ラジカル発生室と触媒室を区分けすることができる。
すなわち、水素ラジカル発生室は、マイクロ波が十分に到達し、マイクロ波プラズマが発生する場所である。一方、その下流に位置し、マイクロ波が到達しない場所が触媒室である。
マイクロ波は、マイクロ波導入口から球面状に広がり、その強度は距離の2乗で低下する。したがって、マイクロ波導入口10の断面の形状が円であり、その直径がDのとき、絶縁体からなる筒状の容器8表面における前記円の中心14の位置から下流に(2×D)の位置を、水素ラジカル発生室と触媒室の境界15とし、境界15より上流側を水素ラジカル発生室16とし、境界15より下流側を触媒室17とすることができる。
【0031】
また、マイクロ波導入口の断面の形状が円以外の形状であるときは、マイクロ波導入口の断面を内包する最小の円を仮定し、その円を用いて上記と同様の方法により、水素ラジカル発生室と触媒室とを区別することができる。
【0032】
上記の理由により、本発明の還元反応装置においては、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、下記の要件A又は要件Bを満たすものが好ましい。
要件A:マイクロ波導入口の断面の形状が円であるとき、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、マイクロ波導入口の断面の直径の2倍以上である。
要件B:マイクロ波導入口の断面の形状が円以外の形状であるとき、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、マイクロ波導入口の断面を内包する最小の円の直径の2倍以上である。
【0033】
図3は、本発明の還元反応装置の実施の形態の他の例である還元反応装置300の模式断面図である。
還元反応装置300は、被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスが、水平方向(図中、横方向)に流れるように設置されている。還元反応装置300は、絶縁体からなる筒状の容器18と、前記絶縁体からなる筒状の容器18に被処理ガス及び水素ガスを供給するガス供給口19と、前記絶縁体からなる筒状の容器18の側方に設けられたマイクロ波導入口20とを備え、さらに、還元触媒21と、ガス排出口22とを備える。
また、上記の方法により、境界23、水素ラジカル発生室24、及び触媒室25が決定される。
【0034】
図4は、本発明の還元反応装置の実施の形態の他の例である還元反応装置400の模式断面図である。
還元反応装置400は、マイクロ波導波管27で接続されたマイクロ波導入口26を2つ備えている点で、還元反応装置300とは異なっている。
還元反応装置400のように複数のマイクロ波導入口を有する場合は、最も下流側に位置するマイクロ波導入口26に基づき、境界28、水素ラジカル発生室29、及び触媒室30が決定される。
【0035】
本発明の還元反応装置は、還元反応装置100、200、300、400のように、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせを1組有するものであってもよいし、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせを2組以上有するものであってもよい。
【0036】
本発明の還元反応装置が、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせを2組以上有するときの、2組以上の水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせの配列例を図5に示す。
図5(a)に記載の配列例で表される還元反応装置は、水素ラジカル発生室と触媒室の組み合わせを2組有するものであり(マイクロ波導入口31を有する水素ラジカル発生室32と触媒室33の組み合わせと、マイクロ波導入口34を有する水素ラジカル発生室35と触媒室36の組み合わせ)、これらの組み合わせが直列に接続されている。
なお、図5において、矢印はガスが流れる方向を表し、ガス供給口、ガス排出口、及び還元触媒は省略している。
【0037】
図5(b)に記載の配列例で表される還元反応装置は、水素ラジカル発生室と触媒室の組み合わせを2組有するものであり、これらの組み合わせが並列に接続されている。
図5(c)に記載の配列例で表される還元反応装置は、水素ラジカル発生室と触媒室の組み合わせを4組有するものであり、これらの組み合わせが直列及び並列に接続されている。
【0038】
図6は、本発明の還元反応装置の実施の形態の他の例である還元反応装置500の模式図である。
還元反応装置500は、絶縁体からなる筒状の容器37を有する。絶縁体からなる筒状の容器37は、水素ラジカル発生室38と触媒室39の側壁を構成している。水素ラジカル発生室38の部分の絶縁体からなる筒状の容器37の側方にはマイクロ波導入口40が設けられている。
還元反応装置500は、さらに、水素ラジカル発生室38を収容する金属容器41を有する。金属容器41は、発生したマイクロ波を金属容器41内に閉じ込めることができるため、還元反応を安全に行うことができる。また、マイクロ波プラズマを効率よく発生させることができる。
なお、図6において、ガス供給口、ガス排出口、及び還元触媒は省略している。
【0039】
マイクロ波を閉じ込めることができる限り、金属容器の材質は特に限定されない。金属容器の材質としては、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。
【0040】
本発明の還元反応装置が、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせを2組以上有し、さらに、水素ラジカル発生室を収容する金属容器を有するとき、金属容器は複数の水素ラジカル発生室を収容していてもよい。
【0041】
本発明の還元反応装置が、水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせを2組以上有し、さらに、複数の水素ラジカル発生室を収容する金属容器を有するときの、2組以上の水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせの配列例を図7に示す。
図7(a)に記載の配列例で表される還元反応装置は、水素ラジカル発生室と触媒室の組み合わせを2組有するものであり(マイクロ波導入口42を有する水素ラジカル発生室43と触媒室44の組み合わせと、マイクロ波導入口45を有する水素ラジカル発生室46と触媒室47の組み合わせ)、これらの組み合わせが直列に接続されている。さらに、2つの水素ラジカル発生室(水素ラジカル発生室43、46)は、金属容器48に収容されている。
なお、図7において、矢印はガスが流れる方向を表し、ガス供給口、ガス排出口、及び還元触媒は省略している。
【0042】
図7(b)に記載の配列例で表される還元反応装置は、水素ラジカル発生室と触媒室の組み合わせを2組有するものであり、これらの組み合わせが並列に接続されている。さらに、2つの水素ラジカル発生室は、金属容器に収容されている。
図7(c)に記載の配列例で表される還元反応装置は、水素ラジカル発生室と触媒室の組み合わせを4組有するものであり、これらの組み合わせが直列及び並列に接続されている。さらに、4つの水素ラジカル発生室は、金属容器に収容されている。
【0043】
2)被処理化合物の還元体の製造方法
本発明の被処理化合物の還元体の製造方法は、被処理化合物のガス及び水素ガスを含む混合ガスにマイクロ波を照射して水素ラジカルを発生させるステップ(ステップA)と、ステップAで生成した被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスを、還元触媒に接触させるステップ(ステップB)を有する、被処理化合物の還元体の製造方法であって、水素ラジカルが反応して化学結合が生じる際に放出されるエネルギーを利用して前記還元触媒の温度を高め、被処理化合物の還元反応を進行させるものである。
【0044】
ステップAは、被処理化合物のガス及び水素ガスを含む混合ガスにマイクロ波を照射して水素ラジカルを発生させるステップである。
ステップAを行うことで、被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスが生成する。
マイクロ波は、通常、周波数が2.45GHzであり、照射出力が、通常50~3000W、好ましくは100~2000W、より好ましくは200~1000Wである。
被処理化合物のガスとしては、還元反応装置の発明の中で例示したものが挙げられる。
【0045】
ステップBは、ステップAで生成した被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスを、還元触媒に接触させるステップである。
還元触媒としては、還元反応装置の発明の中で例示したものが挙げられる。
ステップBを行うことで、被処理化合物の還元反応が進行し、被処理化合物の還元体が生成する。
【0046】
被処理化合物の還元反応が吸熱反応の場合、反応系に熱を供給し続ける必要がある。本発明の被処理化合物の還元体の製造方法は、水素ラジカルが反応して化学結合が生じる際に放出されるエネルギーを利用して前記還元触媒の温度を高め、被処理化合物の還元反応を進行させるものである。
【0047】
このように、本発明の被処理化合物の還元体の製造方法においては、水素ラジカルは還元剤として利用するだけでなく、エネルギー供給源としても利用する。これにより、還元反応が吸熱反応であっても、外部から熱を供給することなく、反応を十分に進行させることができる。
【0048】
被処理化合物の還元反応の進行中の還元触媒の温度は、200~800℃が好ましい。
還元触媒の温度は、マイクロ波の出力の調整、被処理ガスと水素ガスの混合割合の調整、還元反応装置内の圧力の調整、マイクロ波導入口と触媒の距離の調整等により制御することができる。
【0049】
被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガス中に含まれるラジカルの密度は、還元触媒上において、1×1014個/cm以上であることが好ましい。
ラジカルの密度は、公知の手法によって決定することができる(例えば、T.Arai et al.Journal of Materials Science and Chemical Engineering,2016,4,29-33)。
【0050】
本発明の被処理化合物の還元体の製造方法は、先に説明した本発明の還元反応装置を使用することで効率よく行うことができる。
【0051】
本発明の還元反応装置を使用する場合、水素ラジカル発生室、及び触媒室は減圧状態に保たれている。
水素ラジカル発生室、及び触媒室の内部の圧力は、通常0.5~500Pa、好ましくは2~200Pa、より好ましくは5~50Paである。
本発明の還元反応装置を使用する場合、水素ラジカル発生室に備えられたガス供給口から、被処理ガス及び水素ガスを供給する。
被処理ガスの供給量は、通常1~100sccm、好ましくは1~10sccmである。
水素ガスの供給量は、通常2~1000sccm、好ましくは5~100sccmである。
水素ガスの供給量は、被処理ガスの供給量の2~1000倍であることが好ましく、5~100倍であることがより好ましい。
【0052】
本発明の還元反応装置を使用する場合、被処理ガス及び水素ガスを本発明の還元反応装置に供給しながらマイクロ波導入口からマイクロ波を照射してステップAを行う。
次いで、触媒室においてステップBを行い、触媒室のガス排出口から被処理化合物の還元体を含むガスを取り出すことができる。
なお、反応の効率を上げるために、触媒室のガス排出口から排出されたガスを、水素ラジカル発生室のガス供給口から再度還元反応装置内に導入し、ステップAとステップBを繰り返し行ってもよい。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
図6に示した還元反応装置と構造が類似する装置(図8(a))を用いて以下の実験を行なった。
なお、使用した装置の水素ラジカル発生室は、直径5cm、長さ15cm、肉厚2mmの石英管で構成され、触媒室は、直径2cm、長さ25cm、肉厚2mmの石英管で構成されている。触媒室は、その内部に厚さ50μmのタングステン箔を収容している。
【0055】
水素ガス流量10sccm、圧力20Pa、マイクロ波出力450Wの条件で、水素ラジカル発生室内にマイクロ波プラズマ(水素ラジカルを含有するガス)を発生させた。発生した水素ラジカルを含有するガスを触媒室内のタングステン箔に接触させたところ、水素ラジカルの反応によりタングステン箔の温度が上昇した。装置を稼働してから約1分後に温度が一定になり、このときの温度を記録した。
なお、実験は、水素ラジカル発生室を収容する金属容器からタングステン箔までの距離を5cm(図8(b))、10cm(図8(c))、20cm(図8(d))と変えて行ない、距離と温度との関係を調べた。
その結果、金属容器からタングステン箔までの距離が5cmでは856℃、10cmでは790℃、20cmでは766℃であった。
この実験では、距離と共に水素ラジカル濃度が減少し、温度が低下することが分かる。
【符号の説明】
【0056】
1、16、24、29、32、35、38、43、46・・・水素ラジカル発生室
2、8、18、37・・・絶縁体からなる筒状の容器
3、9、19・・・ガス供給口
4、10、20、26、31、34、40、42、45・・・マイクロ波導入口
5、17、25、30、33、36、39、44、47、50・・・触媒室
6、12、21・・・還元触媒
7、13、22・・・ガス排出口
11・・・触媒台
14・・・マイクロ波導入口の断面(円)の中心
15、23、28・・・水素ラジカル発生室と触媒室の境界
27・・・マイクロ波導波管
41、48、49・・・金属容器
51・・・ロータリーポンプ
52・・・金属容器からの距離が5cmのときのタングステン箔
53・・・金属容器からの距離が10cmのときのタングステン箔
54・・・金属容器からの距離が20cmのときのタングステン箔
100、200、300、400、500・・・還元反応装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ラジカル発生室と、前記水素ラジカル発生室の下流側に接続された触媒室とを有する還元反応装置であって、
前記水素ラジカル発生室が、
絶縁体からなる筒状の容器と、
前記絶縁体からなる筒状の容器に被処理化合物のガス及び水素ガスを供給する、1又は2以上のガス供給口と、
前記絶縁体からなる筒状の容器の側方に設けられたマイクロ波導入口とを備え、
前記水素ラジカル発生室は、前記絶縁体からなる筒状の容器の内部に水素ラジカルを発生させるものであり、
前記触媒室が、
還元触媒と、
前記触媒室内のガスを排気するガス排出口とを備えるものであり、
前記還元触媒が、前記水素ラジカル発生室から流れてくる被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスと接触するように設置されている還元反応装置。
【請求項2】
前記絶縁体が石英である、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項3】
前記被処理化合物のガスが二酸化炭素ガスである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項4】
前記水素ラジカル発生室が、マイクロ波プラズマを発生させるものである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項5】
前記還元触媒が、周期表第4周期以降の金属元素を1種又は2種以上を含有するものである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項6】
前記還元触媒の形状が、粒子状、繊維状、板状、箔状のいずれかである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項7】
前記マイクロ波導入口と前記還元触媒の間の距離が、下記の要件A又は要件Bを満たすものである、請求項1に記載の還元反応装置。
要件A:マイクロ波導入口の断面の形状が円であるとき、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、マイクロ波導入口の断面の直径の2倍以上である。
要件B:マイクロ波導入口の断面の形状が円以外の形状であるとき、マイクロ波導入口と還元触媒の間の距離が、マイクロ波導入口の断面を内包する最小の円の直径の2倍以上である。
【請求項8】
前記触媒室が、前記還元触媒を外部から加熱する手段を備えていないものである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項9】
前記水素ラジカル発生室と前記触媒室との組み合わせを2組以上有する還元反応装置であって、2組以上の水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせが、直列及び/又は並列に接続されている、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項10】
さらに金属容器を備える還元反応装置であって、前記金属容器は、前記水素ラジカル発生室を収容し、マイクロ波を閉じ込めるものである、請求項1に記載の還元反応装置。
【請求項11】
前記水素ラジカル発生室と前記触媒室との組み合わせを2組以上有する還元反応装置であって、2組以上の水素ラジカル発生室と触媒室との組み合わせが、直列及び/又は並列に接続され、複数の水素ラジカル発生室が前記金属容器に収容されている、請求項10に記載の還元反応装置。
【請求項12】
被処理化合物のガス及び水素ガスを含む混合ガスにマイクロ波を照射して水素ラジカルを発生させるステップ(ステップA)と、
ステップAで生成した被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガスを、還元触媒に接触させるステップ(ステップB)を有し、
請求項1に記載の還元反応装置を使用する、被処理化合物の還元体の製造方法であって、
水素ラジカルが反応して化学結合が生じる際に放出されるエネルギーを利用して前記還元触媒の温度を高め、被処理化合物の還元反応を進行させる、被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項13】
前記被処理化合物の還元反応が吸熱反応である、請求項12に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項14】
被処理化合物の還元反応の進行中の還元触媒の温度が、200~800℃である、請求項12に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項15】
被処理化合物及び水素ラジカルを含有する混合ガス中に含まれるラジカルの密度が、前記還元触媒上において、1×1014個/cm以上である、請求項12に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。
【請求項16】
触媒室のガス排出口から排出されたガスを、水素ラジカル発生室のガス供給口から再度還元反応装置内に導入し、ステップAとステップBを繰り返し行う、請求項1に記載の被処理化合物の還元体の製造方法。