(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126749
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】通信システム
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/14 20060101AFI20240912BHJP
H01Q 3/44 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
H01Q3/44
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035348
(22)【出願日】2023-03-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、「アクティブ空間無線リソース制御技術に関する研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000232287
【氏名又は名称】日本電業工作株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149113
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 謹矢
(72)【発明者】
【氏名】丸山 央
(72)【発明者】
【氏名】萩原 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】陸田 裕子
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020DA03
5J021BA01
5J021HA05
(57)【要約】
【課題】メタサーフェスを用いた電波散乱装置により不感地帯の変化や複数の不感地帯に対応することができる通信システムを提供する。
【解決手段】電波を送受信するアクセスポイント20と、電波を散乱させる電波散乱装置10とを備える。電波散乱装置10には、複数の表面電極が配列されたメタサーフェスの電波散乱部であって、散乱角の異なる複数の電波散乱部が並べて設けられている。アクセスポイント20は、ビームフォーミングにより、電波散乱装置10に設けられた複数の電波散乱部の各々に向けて電波の送受信方向を切り替えながら電波を送受信する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の表面電極が配列されたメタサーフェスの電波散乱部であって、散乱角の異なる複数の電波散乱部を並べて設けた反射板と、
ビームフォーミングにより、前記反射板に設けられた前記複数の電波散乱部の各々に向けて電波の送受信方向を切り替えながら電波を送受信する送受信装置と、
を備えることを特徴とする、通信システム。
【請求項2】
前記反射板に設けられる前記複数の電波散乱部の各々は、前記反射板および前記送受信装置の設置位置と、当該反射板および当該送受信装置が設置される場所における障害物の配置とに応じて、相異なる不感地帯に散乱方向が向くように、前記表面電極の配列が選択されることを特徴とする、請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記反射板は、基板と、当該基板の表面側に設けられた表面電極と、当該基板の裏面側に設けられた接地電極と、を備え、
前記基板は、透光性を有する部材で構成され、
前記表面電極および前記接地電極は、透光性を有する導電膜で形成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記反射板の前記表面電極および前記接地電極は、網目状の導電材料で形成されることを特徴とする、請求項3に記載の通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
準ミリ波帯やミリ波帯の電波のように波長が短くなると、電波の直進性が強くなる。このため、ビルなどの電波の透過に対して障壁となる障壁物があると、障壁物で遮られた部分は、電波が届きにくい不感地帯になる。不感地帯の解消には、入射した電波を散乱して電波を不感地帯に照射する電波散乱装置を用いることが有効である。
【0003】
特許文献1には、メタサーフェス基板と、メタサーフェス基板に対向して配置される誘電体基板と、メタサーフェス基板と誘電体基板との間の距離を調整する調整部と、を有する電波反射装置が開示されている。また、特許文献1には、誘電体基板を、メタサーフェス基板に対して傾けた状態とすることにより反射波を偏向させることについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移動体通信における基地局および移動体の関係のように相対的な位置が動的に変化する場合、不感地帯の位置も動的に変化するため、電波の散乱角を変化させて不感地帯の変化に対応することが必要となる。また、電波の散乱角を素早く変化させて複数の不感地帯に対応することが必要となる場合がある。
【0006】
本発明は、メタサーフェスを用いた電波散乱装置により不感地帯の変化や複数の不感地帯に対応することができる通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明は、複数の表面電極が配列されたメタサーフェスの電波散乱部であって、散乱角の異なる複数の電波散乱部を並べて設けた反射板と、ビームフォーミングにより、反射板に設けられた複数の電波散乱部の各々に向けて電波の送受信方向を切り替えながら電波を送受信する送受信装置と、を備えることを特徴とする、通信システムである。
より詳細には、反射板に設けられる複数の電波散乱部の各々は、反射板および送受信装置の設置位置と、反射板および送受信装置が設置される場所における障害物の配置とに応じて、相異なる不感地帯に散乱方向が向くように、表面電極の配列が選択される構成としても良い。
また、反射板は、基板と、この基板の表面側に設けられた表面電極と、この基板の裏面側に設けられた接地電極と、を備え、基板は、透光性を有する部材で構成され、表面電極および接地電極は、透光性を有する導電膜で形成される構成としても良い。
さらに、反射板の表面電極および接地電極は、網目状の導電材料で形成される構成としても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メタサーフェスを用いた電波散乱装置により不感地帯の変化や複数の不感地帯に対応することができる通信システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電波散乱装置により不感地帯を解消する概念を説明する図であり、
図1(A)は、障壁物により生じる不感地帯を電波散乱装置により解消する様子を説明する図、
図1(B)は、電波散乱装置による散乱方向を説明する図である。
【
図2】電波散乱装置で散乱させた散乱ビームの一例を示す図であり、
図2(A)は、V(垂直)偏波を示す図、
図2(B)は、H(水平)偏波を示す図、
図2(C)は、
図2(A)、(B)の電波散乱装置を4倍の面積にした電波散乱装置でのV偏波を示す図である。
【
図3】本実施形態の通信システムが適用される場面を模式的に示す図である。
【
図5】電波散乱装置の電波散乱部を構成するセルの一例を説明する図であり、
図5(A)は、平面図、
図5(B)は、断面図、
図5(C)は、パラメータとその値を示す図である。
【
図6】電波散乱部の散乱角を設定する方法を説明する図である。
【
図7】電波散乱装置の散乱角の設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<電波散乱装置の概要>
図1は、電波散乱装置により不感地帯を解消する概念を説明する図である。
図1(A)は、障壁物により生じる不感地帯を電波散乱装置により解消する様子を説明する図、
図1(B)は、電波散乱装置による散乱方向を説明する図である。
【0011】
図1(A)に示すように、地表1上に3つのビル3(区別する場合は、ビル3a、3b、3c)が並列して設けられている場合を考える。ビル3aの屋上に電波を送受信する基地局アンテナ2が設けられている。
図1(A)では、基地局アンテナ2は、地表1に垂直に配置された複数のアンテナ(放射素子)で構成されたアレイアンテナとして図示されている。そして、ビル3cの屋上に電波散乱装置10(区別する場合には、電波散乱装置10a、10b、10c)が設けられている。電波散乱装置10は、基地局アンテナ2が見通せる位置に設けられている。つまり、基地局アンテナ2が、準ミリ波帯やミリ波帯のように波長が短い電波を送受信する場合であっても、基地局アンテナ2からの電波は、直接電波散乱装置10に入射する。
【0012】
まず、ビル3cの屋上に電波散乱装置10が設けられていないとする。基地局アンテナ2が、準ミリ波帯やミリ波帯のように波長が短い電波を送受信する場合、ビル3bが電波の透過に対する障壁物となる。このため、基地局アンテナ2から送信された電波は、直接には、ビル3bとビル3cとの間の地表1上に届かない。つまり、地表1におけるビル3bとビル3cとの間の部分は、不感地帯となる。
【0013】
ここで、
図1(A)のようにビル3cの屋上に電波散乱装置10を設けると、基地局アンテナ2からの電波は、電波散乱装置10により散乱され、散乱ビームがビル3bとビル3cとの間の不感地帯に照射される。電波散乱装置10を設けることで、電波散乱装置10が設けられない場合に発生するビル3bとビル3cとの間の不感地帯が解消される。
【0014】
図1(B)では、基地局アンテナ2は、放射素子がマトリクス状に配列されたアレイアンテナとして示されている。ここでは、基地局アンテナ2と携帯端末4との間で電波を送受信する。
図1(B)に示すように、基地局アンテナ2と携帯端末4との間には、電波の透過に対して障壁となるビル3が存在する。このため、基地局アンテナ2から携帯端末4の方向に直線的に入射するように進む入射ビーム11aは、ビル3が障壁物となって、携帯端末4に届かない(図では、届かないことをバツ印「×」で示している)。
【0015】
一方、基地局アンテナ2から入射する入射ビーム11bが電波散乱装置10で散乱されると、散乱によって生成された散乱ビーム12aが携帯端末4に届く。ここでは、電波散乱装置10には入射ビーム11bが入射角αで入射し、入射角αと異なる散乱角θで散乱ビーム12aが出射する(α≠θ)。なお、電波散乱装置10が鏡面反射する場合には、散乱ビーム12bは、散乱角αで出射する。
図1(B)に示す例において、電波散乱装置10が鏡面反射すると、図中の破線の矢印で示す方向に散乱ビーム12bが生じる。このため、電波は、携帯端末4に届かない。このように、電波散乱装置10が入射角αと異なる散乱角θで電波を散乱するように設定すると、電波散乱装置10の設計が容易になる。
【0016】
本明細書では、電波を散乱させて出射することから、電波散乱装置と表記するが、電波を反射させて出射するとして、電波反射装置としても良い。また、電波散乱装置により散乱されることから散乱ビームと表記するが、反射ビームとしても良い。また、電波散乱装置の垂線方向に対する散乱ビームが出射する角度を散乱角、又は散乱角度と表記するが、反射角、又は反射角度としても良い。
【0017】
図2は、電波散乱装置10で散乱させた散乱ビーム12の一例を示す図である。
図2(A)は、V(垂直)偏波を示す図、
図2(B)は、H(水平)偏波を示す図、
図2(C)は、
図2(A)、(B)の電波散乱装置10を4倍の面積にした電波散乱装置10′でのV偏波を示す図である。なお、
図2(A)、(B)、(C)では、紙面の上側に斜視図を示し、紙面の下側に散乱ビーム12の強度を極座標で示す。斜視図において、図示するようにx方向、y方向およびz方向を設定する。極座標において、紙面に対して、右方向が-x方向、左方向が+x方向、上方向が+z方向である。なお、散乱ビームの強度は、シミュレーションによって求めた。
【0018】
ここでは、電波散乱装置10は、平面形状が長手方向と短手方向とを有する四角形であって、後述するセル#がマトリクス状に配列されたメタサーフェスである。ここで、四角形の長手方向をx方向とし、短手方向をy方向とし、四角形の面に垂直な方向をz方向とする。図示するように、z軸からx軸に向かう角度をη、z軸からy軸に向かう角度をζとする。ここでは、電波散乱装置10に入射する入射ビーム(
図1(B)における入射ビーム11bに相当)は、角度ηを0度、角度ζを20度に設定されている。つまり、入射ビームは、yz面にあって、z軸からy軸側に20度傾いている。一方、散乱ビーム12は、角度ηを45度、角度ζを0度に設定に設定されている。つまり、散乱ビーム12は、xz面において、z軸からx軸側に45度傾いている。また、電波は、28GHzである。なお、V偏波は、y方向に電界が振動する偏波であり、H偏波は、x方向に電界が振動する偏波である。
【0019】
図2(A)に示すように、V偏波は、xz面において45度(角度η=45度、角度ζ=0度)方向に散乱ビーム12が発生している。そして、散乱ビーム幅は、8度である。同様に、
図2(B)に示すように、H偏波は、xz面において45度(角度η=45度、角度ζ=0度)方向に散乱ビーム12が発生している。そして、散乱ビーム幅は、8度である。つまり、電波散乱装置10は、V偏波とH偏波とに対して同様な散乱特性を有している。ここでの散乱ビーム幅は、-3dBにおける幅である。
【0020】
図2(C)に示す電波散乱装置10′は、
図2(A)、(B)に示した電波散乱装置10を4個配列して構成されている。つまり、面積が4倍となっている。なお、電波散乱装置10′を構成する4個の電波散乱装置10間においては、後述する位相の補正を行っていない。
図2(C)に示す電波散乱装置10′では、散乱ビーム12′におけるV偏波のピーク強度は、
図2(A)に示した電波散乱装置10の散乱ビーム12のピーク強度より大きい。しかし、散乱ビーム12′の散乱ビーム幅は、4度であって、
図2(A)に示した電波散乱装置10の散乱ビーム12の散乱ビーム幅(8度)に比べ狭くなっている。つまり、電波散乱装置10の面積を大きくすると、散乱ビーム幅は逆に狭くなる。
【0021】
以上説明したように、電波散乱装置10は、電波散乱装置10′のように面積を広げても、散乱ビーム幅は広くならない。よって、より広く不感地帯を解消しようとすると、
図1(A)に示したように、散乱ビーム幅が狭くならない間隔で複数の電波散乱装置10を配置されている。
【0022】
<適用場面>
本実施形態では、電波を送受信する送受信装置と、電波散乱装置10とを用い、電波散乱装置10における電波の散乱角を切り替えながら電波を送受信する。これにより、移動体通信のように電波の送受信の対象である端末装置が移動するために不感地帯が変化する場合や、複数の不感地帯が存在する場合に、これらの不感地帯に対する電波の照射を実現する。
【0023】
図3は、本実施形態の通信システムが適用される場面を模式的に示す図である。
図3に示す例では、通信システム1は、電波散乱装置10と、電波の送受信装置の一例としてのアクセスポイント20とを備える。電波散乱装置10は、設置領域30の一つの壁に設けられている。アクセスポイント20は、電波散乱装置10へ向かって電波を照射する位置に設けられている。設置領域30には、複数の柱31が存在し、これが障害物となって複数の不感地帯D1~D4が発生している。
【0024】
電波散乱装置10は、入射した電波を散乱させ、入射角とは異なる散乱角で出射する電波散乱部(後述)を有する。電波散乱装置10は、相異なる散乱角を有する複数の電波散乱部を有する。電波散乱部の散乱角は、そえぞれ、アクセスポイント20の電波を設置領域30の複数の不感地帯D1~D4へ照射する角度となるように調整されている。電波散乱装置10は、反射板の一例である。
【0025】
アクセスポイント20は、無線通信により端末装置と接続する機器であり、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の規格に応じた電波を用い、端末装置との間で信号の送受信を行う。ここで、端末装置は、ノートパソコンやスマートフォン等の無線通信機能を有する情報処理装置である。また、端末装置は、ユーザが所持して移動可能な携帯型の装置であっても良い。
【0026】
アクセスポイント20は、電波散乱装置10に設けられた複数の電波散乱部の各々に向けて電波の送受信方向を切り替えながら、電波を送受信する。電波の送受信方向の切り替えは、例えば、ビームフォーミングにより行われる。
【0027】
<電波散乱装置の構成>
次に、電波散乱装置10の構成について説明する。電波散乱装置10は、アクセスポイント20から照射される電波を様々な方向へ散乱させる装置である。電波散乱装置10は、散乱角の異なる複数の電波散乱部を有している。
【0028】
図4は、電波散乱装置10の構成例を示す図である。電波散乱装置10は、シート状の基材11と、基材上に設けられた複数の電波散乱部100(100a~100f)とを備える。
図4において、紙面の右方向をx方向、紙面の上方向をy方向、紙面の表方向をz方向とする。したがって、
図4に示す構成例では、基材11上に、x方向に沿って3行、y方向に沿って2列の合計6つの電波散乱部100a~100fが設けられている。以下、個々の電波散乱部100a~100fを区別する必要がない場合は電波散乱部100と記載し、区別する場合は添え字を付した符号100a~100fを用いて記載する。
【0029】
基材11は、電気絶縁性材料で構成された板状部材である。基材11は、可視光の透光性が高い部材で構成しても良い。基材11の材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル、PET(Poly Ethylene Terephthalate)樹脂等を用い得る。また、基材11は、可撓性(柔軟性)を有しても良い。
【0030】
電波散乱部100は、基材11の表面に導電膜による電極を形成して構成される。詳しくは後述するが、電波散乱部100において、基材11の一面側には表面電極が形成され、他面側には接地電極が形成される。導電膜による電極は、例えば、基材11上に形成された銅(Cu)膜や銀(Ag)膜などの導電体材料をエッチングして製造される。電極を構成する導電膜は、透光性を有しても良い。この場合、電極を構成する導電膜として、網目状の導電体材料を用いても良い。
【0031】
複数の電波散乱部100(
図4の例では電波散乱部100a~100f)の各々は、それぞれ異なる散乱角を有し、設置領域30において、複数の不感地帯に散乱した電波を照射するように構成される。アクセスポイント20は、ビームフォーミングにより、各電波散乱部100a~100fに対して順に電波を照射する。これにより、各電波散乱部100a~100fがそれぞれ対応する不感地帯に対し、順に電波が届くことになる。アクセスポイント20のビームフォーミングにおける照射方向の切り替えは、1ms(ミリ秒)以下の時間で行われる。したがって、電波散乱装置10による各不感地帯への電波の照射は、1ms以下の時間で順次切り替えて行われる。
【0032】
<電波散乱部のセルの構成>
電波散乱装置10の電波散乱部100の構成について、さらに説明する。電波散乱部100は、セル#がマトリクス状に配列されたメタサーフェスにより構成される。以下、セル♯の構成について説明する。
【0033】
図5は、電波散乱装置10の電波散乱部100を構成するセル#の一例を説明する図である。
図5(A)は、平面図、
図5(B)は、断面図、
図5(C)は、パラメータとその値である。
図5(A)において、紙面の右方向をx方向、紙面の上方向をy方向、紙面の表方向をz方向とする。
図5(B)において、紙面の右方向をx方向、紙面の上方向をz方向、紙面の裏方向をy方向とする。
【0034】
図5(A)に示す例において、セル#は、平面形状が一辺長Dの正方形である。セル#は、一辺長Dをピッチとしてx方向およびy方向に配列されている。以下では、セル#は、ピッチDで配列されているとして説明する。例えば、
図5(C)に示すように、周波数28GHzにおいて、一辺長D(ピッチD)は、5mmに設定されている。5mmは、周波数28GHzの波長λの0.467倍に対応する(0.467λ)。なお、一辺長D(ピッチD)の具体的な値は、周波数などに応じて設定されれば良く、他の値であっても良い。一例として、Dの選択基準を、
D/λ<1/(1+sinθ)
としても良い。ここで、θは散乱角度である。
【0035】
図5(B)に示すように、セル#は、基板101と、基板101の表面側(+z方向側)に設けられた十字ダイポールの表面電極102と、基板101の裏面側(-z方向側)に配置された接地電極103とを備えている。接地電極103は、接地電位(GND)に設定される。
【0036】
基板101は、誘電体基板である。
図4を参照して説明した基材11が、セル♯において基板101となる。
図5(C)に示す例では、比誘電率ε
rが3.0、厚さtが1.3mmである。比誘電率ε
rおよび厚さtは、他の値であっても良い。表面電極102および接地電極103は、上述したように、銅や銀などの導電膜で構成される。
【0037】
表面電極102は、V偏波およびH偏波にそれぞれ対応する十字ダイポールである。この十字ダイポールは、全体の長さがl、十字部分の幅がwである。
図5(C)に示す例では、幅wは、1mmである。隣接する十字ダイポールにおいて、長さlを異ならせることにより、セル♯どうしの間に位相差φが生じる。長さlが1.0mmから5.0mmの範囲において、278°の位相差φが得られる。なお、幅Wは、他の値であっても良い。また、ここでは、幅Wを固定して、長さlを異ならせて位相差φを得る場合について説明したが、長さlを固定して、幅Wを異ならせて位相差φを得ても良い。位相差を位相と表記することがある。
【0038】
図6は、電波散乱部100の散乱角θを設定する方法を説明する図である。
図6において、紙面の右方向がx方向、紙面の上方向がz方向である。
図6では、マトリクス状に並ぶセル#の配列における1列分(x方向)のセル#を示している。
【0039】
セル#(1,1~j)は、x方向にピッチDで配列されている。そして、セル#の配列に対して垂直方向(-z方向)から電波が入射し、xz面内において散乱ビーム22がz軸からx軸側に向かって角度θ傾いた方向に散乱されるとする。
図2(A)に示したz軸からx軸に向かう角度ηが角度θの場合に相当する。なお、散乱ビーム22の角度θを散乱角θと表記する。この場合、各セル#間の位相差がφになるように設定すれば良い。つまり、セル#(1,1)の位相が0、セル#(1,2)の位相が-φ、セル#(1,3)の位相が-2φ、セル#(1,4)の位相が-3φ、セル#(1,j)の位相が-(j-1)φとなるようにすれば良い。
【0040】
散乱角θを得るために設定される各セル#間の位相差φは、
φ=k・D・sinθ (1)
で表される。なお、kは、波数で2π/λである。ここで、λは、波長である。つまり、隣接するセル#間において、式(1)で設定される位相差φが生じるようにセル#を設定する。
【0041】
なお、
図6では、x方向に配列されたセル#で説明したが、y方向に配列されたセル#に対しても同様にして位相差を設定することができる。また、x方向とy方向とでセル#間の位相差を設定すると、xz面以外の方向に散乱角θを設定できる。ここでは、セル#の配列に対して、垂直に電波が入射する場合を説明したが、セル#の配列に斜めに電波が入射する場合についても、同様な方法により位相差φを設定すれば良い。このように、予め設定された位相差でセル#を配列して散乱角θを設定した電波散乱部100は、リフレクトアレイと呼ばれることがある。
【0042】
本実施形態の電波散乱装置10は、設置領域30の不感地帯に応じて散乱角の異なる複数の電波散乱部100を備える。したがって、電波散乱部100を構成するセル♯において、各電波散乱部100に設定される散乱角に応じて、表面電極102の形状および配列が選択される。
【0043】
<散乱角の設定例>
図7は、電波散乱装置10の散乱角の設定例を示す図である。
図7では、電波散乱部100a~100fの各々について、「No」、「入射偏波」、「反射角度θ」、「反射角度φ」の各項目の内容が示されている。「No」は、電波散乱部100a~100fの識別番号であり、図では、符号の添え字であるa~fのみが表示されている。したがって、例えば「No」=aは、電波散乱部100aを示す。「入射偏波」は、入射する電波におけるV偏波とH偏波の別を示す。
【0044】
反射角度θは、
図4に示した電波散乱装置10における紙面のy方向の散乱角を示す。
図7に示す例では、全ての電波散乱部100a~100f、V偏波およびH偏波の両方において、反射角度θは0度となっている。したがって、この電波散乱装置10は、入射角のy方向成分を変化させずに電波を出射する。
【0045】
反射角度φは、
図4に示した電波散乱装置10における紙面のx方向の散乱角を示す。
図7に示す例では、電波散乱部100a~100fの各々において、異なる反射角度φが設定されている。なお、各電波散乱部100a~100fにおいて、V偏波の反射角度φとH偏波の反射角度φとはそれぞれ同じ値となっている。
【0046】
図7に示す例では、反射角度φが負の値であれば、入射角に対し、
図4に示したx軸の負の方向(左方向)へ散乱角が変化する。反対に、反射角度φが正の値であれば、入射角に対し、
図4に示したx軸の正の方向(右方向)へ散乱角が変化する。また、どちらの場合も値が大きいほど、散乱角の変化の程度が大きい。したがって、電波散乱部100a~100cは、入射角に対して散乱角が左方へ変化する。変化の程度は、電波散乱部100a、100b、100cの順に10度ずつ大きくなっている。一方、電波散乱部100d~100fは、入射角に対して散乱角が左方へ変化する。変化の程度は、電波散乱部100d、100e、100fの順に10度ずつ大きくなっている。
【0047】
なお、
図7に示す反射角度θおよび反射角度φは例示に過ぎず、図示の設定には限定されない。
図7に示す例では反射角度φが負の値である電波散乱部100a、100b、100cと、反射角度φが正の値である電波散乱部100d、100e、100fとが並ぶように設定されているが、このような並びとする必要もない。実際には、電波散乱装置10とアクセスポイント20との位置関係、設置領域30における障害物の配置等に応じて個別に各電波散乱部100の反射角度θおよび反射角度φが設定される。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態には限定されない。例えば、上記の実施形態では、電波散乱装置10が6つ(3行×2列)の電波散乱部100を有する構成としたが、電波散乱部100の数および配置は、設置領域30のレイアウトや不感地帯の状態に応じて設定し得る。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
10…電波散乱装置、11…基材、20…アクセスポイント、30…設置領域、100…電波散乱部、101…基板、102…表面電極、103…接地電極