(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126752
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】軌条車両
(51)【国際特許分類】
B61D 17/18 20060101AFI20240912BHJP
B61D 17/08 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B61D17/18
B61D17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035353
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眺野 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】杉井 義朗
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 陸翔
(72)【発明者】
【氏名】角田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】今駒 龍太郎
(57)【要約】
【課題】膜体を側膜や天井膜に備えて軌条車両の軽量化を促進できることに加えて、広い車内空間を確保するとともに、汚損や摩擦痕等の発生を抑制できる軌条車両を提供する。
【解決手段】床部を備えた台枠と、前記台枠の幅方向の両端部に側構体の長手方向に沿って立設されるとともに窓部を有する側構体と、前記側構体の車内側の面に沿って備えられる側膜と、を有する軌条車両において、前記側膜は、前記窓部に対応する部位に窓開口部を有し、前記窓開口部の周縁部を前記側構体に向けて押圧する窓キセ部が設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床部を備えた台枠と、
前記台枠の幅方向の両端部に長手方向に沿って立設されるとともに窓部を有する側構体と、
前記側構体の車内側の面に沿って備えられる側膜と、
を有する軌条車両において、
前記側膜は、前記窓部に対応する部位に窓開口部を有し、
前記窓開口部の周縁部を前記側構体に向けて押圧する窓キセ部が設けられること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項2】
請求項1に記載の軌条車両において、
前記床部に載置されるとともに肘掛部を有する座席をさらに有し、
前記側膜は、前記肘掛部に対応する部位に肘掛開口部を有し、
前記肘掛開口部の周縁部を前記側構体に向けて押圧する肘掛キセ部が設けられること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項3】
請求項2に記載の軌条車両において、
前記肘掛部の上面と、前記肘掛キセ部の下部の面とが、ほぼ連続すること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項4】
請求項3に記載の軌条車両において、
前記側構体の長手方向に交差する断面形状が前記軌条車両の車内側から車外側に膨らむ形態であること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項5】
請求項4に記載の軌条車両において、
前記側膜の上端縁が前記側構体の上端部に固定されるとともに、前記側膜の下端縁が前記側構体の下端部に固定されること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項6】
請求項5に記載の軌条車両において、
前記側膜の前記上端縁または前記下端縁のいずれか一方は、弾性体を介して前記側構体に接続されるとともに前記側膜に張力が付加されること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項7】
請求項6に記載の軌条車両において、
前記側膜の上端部が、前記側構体の上部に固定される荷棚に接続されること、
を特徴とする軌条車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌条車両に関する。
【背景技術】
【0002】
敷設された軌道に沿って運行される軌条車両は、一般的に、床面をなす台枠と、台枠の長手方向の両端部に立設される妻構体と、台枠の幅方向の両端部に立設される側構体と、妻構体および屋根構体の上端部に載置される屋根構体からなる6面体の軌条車両構体を有する。台枠の上面には上床が備えられ、この上床の上面に座席等が備えられる。側構体および屋根構体の車内側には、断熱材や遮音材が備えられ、これら断熱材や遮音材を覆う態様でそれぞれ側材と天井材などの内装材が備えられ、快適な車内環境を提供している。
【0003】
特許文献1に、部品点数を削減するとともに、側構体および屋根構体と内装材との位置決め作業に係わる製作工数を低減でき、軽量な内装材を有する軌条車両が開示されている。かかる軌条車両は、台枠と、台枠の上面に備えられるとともに床部をなす上床と、台枠の幅方向の端部に立設される側構体と、側構体の上端部に載置される屋根構体と、を有し、側構体の車内側に備えられる側膜と、屋根構体の車内側に備えられる天井膜と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記軌条車両によれば、側構体の車内側に備えられる内装材としての機能を備える側膜と、屋根構体の車内側に備えられる内装材としての機能を備える天井膜と、を備えることにより、部品点数の削減および軽量化に寄与することができる。
【0006】
しかしながら、一般的に側構体のレール方向に交差する断面形状は、車内側から車外側に少し膨らむ形態である。このため、側構体の上部に側膜の上端縁を固定して、側構体の下部にその下端縁を固定した場合、側膜の高さ方向の中央部は側構体の車内側の面に沿わないで、軌条車両の車内の幅方向の中央部に向かってせり出すことにより、利用可能な車内空間が小さくなるという懸念がある。さらに、軽量化に優れる膜体は、不燃性や通気性や柔軟性を備え軽量性に優れるものの、乗客等が頻繁に触れると汚損したり摩擦痕が付いたりしやすい傾向がある。
【0007】
本発明は、膜体を側膜や天井膜に備えて軌条車両の軽量化を促進できることに加えて、広い車内空間を確保するとともに、汚損や摩擦痕等の発生を抑制できる軌条車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、代表的な本発明の軌条車両の一つは、
床部を備えた台枠と、
前記台枠の幅方向の両端部に長手方向に沿って立設されるとともに窓部を有する側構体と、
前記側構体の車内側の面に沿って備えられる側膜と、
を有する軌条車両において、
前記側膜は、前記窓部に対応する部位に窓開口部を有し、
前記窓開口部の周縁部を前記側構体に向けて押圧する窓キセ部が設けられることにより達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、膜体を側膜や天井膜に備えて軌条車両の軽量化を促進できることに加えて、広い車内空間を確保するとともに、汚損や摩擦痕等の発生を抑制できる軌条車両を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、鉄道車両の長手方向に交差する断面図(
図1のA-A断面図)である。
【
図3】
図3は、鉄道車両の側構体と側内装部、及び座席の長手方向に交差する断面図(
図2のB部の拡大図)である。
【
図4】
図4は、鉄道車両の幅方向の中央部の中心線Fから鉄道車両の側構体の車内側の面を見た図(
図2、3のC矢視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明による軌条車両に係わる実施の形態を説明する。まず、軌条車両の構成を説明するために、各方向を定義する。軌条車両の長手方向をx方向、軌条車両の幅方向をy方向、軌条車両の高さ方向をz方向とする。以下、単に、x方向、y方向、z方向と記すことがある。
【0012】
軌条車両とは、敷設された軌道に沿って運行される車両であり、鉄道車両、モノレール車両、新交通システム車両、路面電車等を示す。以下、軌条車両の代表例として鉄道車両を例に挙げて説明する。
【0013】
図1は鉄道車両の側面図であり、
図2は鉄道車両の長手方向に交差する断面図(
図1のA-A断面図)である。鉄道車両1は、床部をなす台枠10と、台枠10のy方向の両端部に立設される側構体20と、台枠10のx方向の端部に立設される妻構体30(先頭構体を含む)と、側構体20と妻構体30との上端部に載置される屋根構体40とから構成される6面体の鉄道車両構体と、この鉄道車両構体のx方向の両端部の下面を支持する一対の台車と、からなる。台車は、鉄道車両構体を支持するとともに軌道5に沿って移動する。
【0014】
鉄道車両1は、台枠10の上面に上床12を有しており、上床12の上面には座席14が備えられる。屋根構体40の車内側には、屋根構体40の車内側の面から順に、断熱材(吸音材)70と天井膜44が備えられる。一般に、断熱材70は断熱性に加えて吸音性も備える。同様に、側構体20の車内側の面から順に、断熱材70と側膜24が備えられる。天井膜44と側膜24とが交わる部位(側構体20のz方向の上部)には、荷物等を載置する荷棚22が備えられる。
【0015】
天井膜44と、側膜24とは、単位面積当たりの質量が化粧板のそれに比較して小さく軽量性に優れる反面、低剛性のため自律的に形状を保持できない。このため、これら天井膜44や側膜24の一方の端縁を屋根構体40や側構体20等に固定し、これら膜の他方の端縁を弾性体を介して屋根構体40や側構体20等に固定等に固定する。
【0016】
このとき、弾性体の引張力がこれら天井膜44や側膜24に張力を常時付与するので、これら膜がたるんだり、膜にしわが生じたりすることを抑制することができる。なお、これら膜の一方、または他方の端部を、屋根構体40のy方向の端部と側構体20のz方向端部との接続部に配置される荷棚22に接続しても良い。
【0017】
鉄道車両の天井膜44や側膜24に供される膜体は、汚れが付きにくい汚損防止性や、予想される火災の発生および延焼を防ぐことができる不燃性や、車内騒音が膜体を通過する過程で減衰して車内騒音の低減に寄与する通気性や、乗客等が触れても問題なく、さらに膜体の表面での音の反射を抑制して車内騒音を減衰させる柔軟性を備える。
【0018】
図3は鉄道車両の側構体と側内装部、及び座席の長手方向に交差する断面図(
図2のB部の拡大図)であり、
図4は鉄道車両の幅方向の中央部の中心線Fから鉄道車両の側構体の車内側の面を見た図(
図2、3のC矢視図)である。
【0019】
側構体20は、軽量のアルミ合金製押し出し形材などから構成されており、上床12から座席14に着座した乗客80の頭の高さに、窓部29を有する。側構体20のx方向に交差する断面形状は、そのz方向の略中央部が鉄道車両1の車外側に向かって膨らむ形状を有する(
図2参照)。
【0020】
側構体20の車内側の面には断熱材70が備えられ、この断熱材70を覆う態様で、側構体20の上部に備えられる荷棚22の下部から側構体20の下部の上床12の近傍部まで側膜24が備えられる。
【0021】
鉄道車両1の車内の上床12の上面には、乗客等の頭を保持するヘッドレスト14aや、乗客等の肘を置く肘掛部14bを有する座席14が備えられる。
【0022】
側膜24は、窓部29に対応するとともに座席14のヘッドレスト14aとほぼ同じ高さに位置する窓開口部24aと、座席14の肘掛部14bとほぼ同じ高さに位置する肘掛開口部24bと、を有する。窓開口部24aは、窓キセ部26の外縁形状より小さく、肘掛開口部24bは、肘掛キセ部28の外縁形状に小さいと好ましい。
【0023】
ヘッドレスト14aと同じ高さに備えられる側膜24の窓開口部24aの周縁部は、窓キセ部(窓枠ともいう)26を側構体20の窓部29に固定する過程において、窓キセ部26の周縁近傍と断熱材70との間に挟持されつつ、窓キセ部26によって側構体20(車内側の面)に向かって変位させられる(押圧される)。同様に、肘掛部14bと同じ高さに備えられる側膜24の肘掛開口部24bの周縁部は、肘掛キセ部(肘掛枠ともいう)28を側構体20の側に固定する過程で、肘掛キセ部28の周縁近傍と断熱材70との間に挟持されつつ、肘掛キセ部28によって側構体20の車内側の面に向かって変位させられる(押圧される)。これにより、湾曲する断熱材70の内側面に沿うようにして側膜24が張り付けられる。
【0024】
肘掛キセ部28は、側膜24の窓開口部24aの周縁を押圧する鍔部と、この鍔部を周縁に有するとともに側構体20の側に突出する凹部27と、を有する。この凹部27は、乗客80等の肘の一部を収容できるよう、凹部27のz方向の上部よりも凹部27のz方向の下部の方が側構体20に近接する形状となっている。x方向に交差する凹部27の断面は、乗客80の腕の形状に合わせて滑らかな円弧を描いていると好ましい。この凹部27のz方向の下部の底部(底面)である肘掛キセ部の下部28aは、座席14の肘掛部14bの上面に、ほぼ連続する面28bを有する。ここで、「ほぼ連続する」とは、z方向における両面の最近接部位の高低差が10mm以内であることを言う。
【0025】
座席14の肘掛部14bと、肘掛キセ部の下部28aの面28bは、ほぼ同じ高さに揃えてあるので、乗客80等は肘掛部14bから肘掛キセ部の下部28a至る広い範囲を肘の可動域とすることができ、そのため窮屈さを感じにくい。
【0026】
<効果>
側構体20は、
図2に示すように、そのx方向に交差する断面において、そのz方向の中央部が鉄道車両1の車内側から車外側に大きな曲率半径で膨らむ形態である。このため、側膜24のz方向の上端縁を側構体20のz方向の上部(または、荷棚22の下部)に固定し、側膜24のz方向の下端部縁を側構体20のz方向の下部に固定すると、側膜24のz方向の中央部が、側構体20の車内側の面から離れて、鉄道車両1のx方向の中心線Fの方に寄ってしまい、利用可能な客室空間のy方向寸法が小さくなる恐れがある。
【0027】
これに対し、本実施形態の構成によれば、側膜24のz方向の中央部の上部の窓開口部24aを窓キセ部26で側構体20側に押圧するとともに、側膜24のz方向の中央部の下部の肘掛開口部24bを肘掛キセ部28で側構体20側に押圧している。このため、側膜24が側構体20の車内側の面(または断熱材70)から離れて鉄道車両1のy方向の中央部の側に寄ることを抑制できる。これにより、鉄道車両1の車内の利用可能なy方向最大寸法Wを大きく確保できるので、余裕のある客室空間により乗客等の快適性を向上できる。
【0028】
また、座席14の肘掛部14bの上面と、肘掛キセ部28の下部28aの面28bとが、ほぼ連続する面を構成する。このため、乗客80等は、肘を広い範囲で動かすことができるので快適性にすぐれた車内環境を提供できる。
【0029】
また、側膜24(天井膜44)は、不燃性や通気性や柔軟性を備える膜体であり、軽量性に優れるものの、乗客80等が頻繁に触れると汚損したり摩擦痕が付いたりしやすい。窓際に着座する乗客80等の肘部は、側膜24に高い頻度で触れる可能性が高い。乗客80等の肘が頻繁に触れる可能性が高い部位の側膜24に、肘掛キセ部28を備えることによって、乗客80等の肘が側膜24に直接当接することを抑制するため、側膜24の汚損や摩擦痕の発生を抑制できる。また、例えば凹部27や肘掛キセ部28を比較的硬い樹脂製とすることで、清掃も容易になる。
【0030】
したがって、本発明によれば、膜体を側膜や天井膜に備えて軌条車両の軽量化を促進できることに加えて、広い車内空間を確保するとともに、汚損や摩擦痕等の発生を抑制できる鉄道車両を提供することができる。
【0031】
本明細書は、以下の発明の開示を含む。
(第1の形態)
床部を備えた台枠と、
前記台枠の幅方向の両端部に長手方向に沿って立設されるとともに窓部を有する側構体と、
前記側構体の車内側の面に沿って備えられる側膜と、
を有する軌条車両において、
前記側膜は、前記窓部に対応する部位に窓開口部を有し、
前記窓開口部の周縁部を前記側構体に向けて押圧する窓キセ部が設けられること、
を特徴とする軌条車両。
【0032】
(第2の形態)
第1の形態の軌条車両において、
前記床部に載置されるとともに肘掛部を有する座席をさらに有し、
前記側膜は、前記肘掛部に対応する部位に肘掛開口部を有し、
前記肘掛開口部の周縁部を前記側構体に向けて押圧する肘掛キセ部が設けられること、
を特徴とする軌条車両。
【0033】
(第3の形態)
第2の形態の軌条車両において、
前記肘掛部の上面と、前記肘掛キセ部の下部の面とが、ほぼ連続すること、
を特徴とする軌条車両。
【0034】
(第4の形態)
第3の形態の軌条車両において、
前記側構体の長手方向に交差する断面形状が前記軌条車両の車内側から車外側に膨らむ形態であること、
を特徴とする軌条車両。
【0035】
(第5の形態)
第4の形態の軌条車両において、
前記側膜の上端縁が前記側構体の上端部に固定されるとともに、前記側膜の下端縁が前記側構体の下端部に固定されること、
を特徴とする軌条車両。
【0036】
(第6の形態)
第5の形態の軌条車両において、
前記側膜の前記上端縁または前記下端縁のいずれか一方は、弾性体を介して前記側構体に接続されるとともに前記側膜に張力が付加されること、
を特徴とする軌条車両。
【0037】
(第7の形態)
第1の形態~第6の形態のいずれかの軌条車両において、
前記側膜の上端部が、前記側構体の上部に固定される荷棚に接続されること、
を特徴とする軌条車両。
【符号の説明】
【0038】
1…鉄道車両、 5…軌道、
10…台枠、 12…上床、
14…座席、 14a…ヘッドレスト、
14b…肘掛部、 20…側構体、
22…荷棚、 24…側膜、
24a…窓開口部、 24b…肘掛開口部、
26…窓キセ部、 27…凹部
28…肘掛キセ部、 28a…肘掛キセの下部、
28b…面、 29…窓部、
30…妻構体、 40…屋根構体、
44…天井膜、 70…断熱材(吸音材)、
80…乗客、 x…レール(長手)方向、
y…枕木(幅)方向、 z…高さ方向、
F…中心線(部)、 W…肘掛部間の幅方向寸法