(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126755
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】多孔質高分子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
C08F2/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035360
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】永 直文
(72)【発明者】
【氏名】グリゴリ・オーエル
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011PA03
4J011PA04
4J011PA13
4J011PA34
4J011PA52
4J011PB15
4J011QA01
4J011QA03
4J011QA11
4J011QA21
4J011QA43
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡略なプロセスでの製造が可能な多孔質高分子であって、複合材料が共有結合によって包含された新規多孔質高分子を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子と、を重合させてなる多孔質高分子に関する。また、本発明は、(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子とを、水又は有機溶媒中で混合し、相分離を伴う重合反応をさせることを含む、多孔質高分子の製造方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子と、を重合させてなる多孔質高分子。
【請求項2】
前記(A)有機系低分子化合物が、ラジカル重合性官能基を有し、
前記(B)微粒子が、ラジカル重合性官能基を有する微粒子であって、
前記(B)微粒子が、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、量子ドット、メソポーラス材料、ナノクレイ、カーボンナノ材料、デンドリマー、有機系高分子及びシルセスキオキサンよりなる群から選択される少なくとも1種から構成される、請求項1に記載の多孔質高分子。
【請求項3】
前記多孔質高分子が、水又は有機溶媒中で相分離を伴う重合反応によって形成されるものである、請求項1に記載の多孔質高分子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質高分子を含む、工業材料。
【請求項5】
(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子とを、水又は有機溶媒中で混合し、相分離を伴う重合反応をさせることを含む、多孔質高分子の製造方法。
【請求項6】
前記(A)有機系低分子化合物が、ラジカル重合性化合物である、請求項5に記載の多孔質高分子の製造方法。
【請求項7】
前記(B)微粒子が、ラジカル重合性官能基を有する微粒子であって、
前記(B)微粒子が、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、量子ドット、メソポーラス材料、ナノクレイ、カーボンナノ材料、デンドリマー、有機系高分子及びシルセスキオキサンよりなる群から選択される少なくとも1種から構成される、請求項5に記載の多孔質高分子の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が炭化水素系溶媒及び芳香族炭化水素系溶媒から選択される少なくとも1種を含む、請求項5に記載の多孔質高分子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡略なプロセスでの製造可能な多孔質高分子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの微粒子がポリマーマトリックス中に分散している高分子ナノコンポジット材料は、ナノコンポジット化による力学特性、熱変形温度等の物性の向上に加えて、光学特性、導電性、ガスバリア性、難燃性等の機能の向上が期待されることから、種々の用途へ用いることが検討されている(非特許文献1)。
【0003】
高分子ナノコンポジットについては、近年、構造部位と空間部位が共存した構造を有する多孔質高分子ナノコンポジットの製造が検討されている。「多孔質高分子ナノコンポジット」は「高分子多孔質材料」と「高分子系ナノコンポジット」の双方の特徴を有することが期待されることから、次世代の高機能、高性能分子複合材料の一つとして期待される。
【0004】
多孔質高分子ナノコンポジットを志向した高分子材料の開発例としては、高圧酸化炭素を用いたポリイミド―シリカナノコンポジット多孔体がある。例えば、特許文献1には、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下のマクロ孔と、平均孔径が0.1~500nmのメソ孔とを有することを特徴とするポリイミド系樹脂多孔体が開示されており、特許文献2には、平均孔径が0.51~200μmのマクロ孔と平均孔径が200nmを超え500nm以下のメソ孔とを有する多孔質ポリイミドに、平均粒径が10nm以下のシリカ粒子が分散してなり、シリカ成分を0.1~50質量%含むことを特徴とするポリイミド-シリカ複合多孔体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-199844号公報
【特許文献2】特開2015-199845号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高分子系ナノコンポジット材料の開発と応用、粉砕、2013年、56巻、p.48-51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や2に記載された方法では、3MPa以上の高圧二酸化炭素を用いるため、耐圧反応容器が必要となる。また、多孔質構造が反応系で形成される二酸化炭素+溶媒の液滴構造の除去により、物理的に構築されるため独立孔となることから、重合(反応)誘起相分離で形成されるような共連続構造(モノリス)の形成は不可能である。なお、三次元的に連続した空間と高分子骨格が共存することにより形成される共連続構造は、低い気体,液体送圧、高い気孔率,比表面積を有することから、特に分離媒体やリアクター用担体に用いる材料の構造として極めて有用である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、簡略なプロセスでの製造が可能な多孔質高分子であって、複合材料が共有結合によって包含された新規多孔質高分子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
【0010】
[1](A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子と、を重合させてなる多孔質高分子。
[2]前記(A)有機系低分子化合物が、ラジカル重合性官能基を有し、
前記(B)微粒子が、ラジカル重合性官能基を有する微粒子であって、
前記(B)微粒子が、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、量子ドット、メソポーラス材料、ナノクレイ、カーボンナノ材料、デンドリマー、有機系高分子及びシルセスキオキサンよりなる群から選択される少なくとも1種から構成される、[1]に記載の多孔質高分子。
[3]前記多孔質高分子が、水又は有機溶媒中で相分離を伴う重合反応によって形成されるものである、[1]又は[2]に記載の多孔質高分子。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の多孔質高分子を含む、工業材料。
[5](A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子とを、水又は有機溶媒中で混合し、相分離を伴う重合反応をさせることを含む、多孔質高分子の製造方法。
[6]前記(A)有機系低分子化合物が、ラジカル重合性化合物である、[5]に記載の多孔質高分子の製造方法。
[7]前記(B)微粒子が、ラジカル重合性官能基を有する微粒子であって、
前記(B)微粒子が、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、量子ドット、メソポーラス材料、ナノクレイ、カーボンナノ材料、デンドリマー、有機系高分子及びシルセスキオキサンよりなる群から選択される少なくとも1種から構成される、[5]又は[6]に記載の多孔質高分子の製造方法。
[8]前記有機溶媒が炭化水素系溶媒及び芳香族炭化水素系溶媒から選択される少なくとも1種を含む、[5]~[7]のいずれかに記載の多孔質高分子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、簡略なプロセスでの製造が可能な多孔質高分子であって、複合材料が共有結合によって包含された新規多孔質高分子を得ることができる。また、本発明では、多孔質高分子を用いた断熱材、梱包材、緩衝材、分離材、吸着材、貯蔵材、触媒担体、電解質セパレーター等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】MB:20wt%/エタノール:80wt%の反応系で合成した多孔質高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【
図2】MB:30wt%/エタノール:63wt%、ジメチルホルムアミド:7wt%の反応系で合成した多孔質高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【
図3】MB:50wt%/エタノール:40wt%、ジメチルホルムアミド:10wt%の反応系で合成した多孔質高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【
図4】MB:10wt%/エタノール:81wt%、ジメチルホルムアミド:9wt%の反応系で合成した多孔質高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【
図5】MB:20wt%/エタノール:72wt%、ジメチルホルムアミド:8wt%の反応系で合成した多孔質高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【
図6】MB:40wt%/エタノール:54wt%、ジメチルホルムアミド:6wt%の反応系で合成した多孔質高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【
図7】MB:50wt%/エタノール:45wt%、ジメチルホルムアミド:5wt%の反応系で合成した多孔質高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【
図8】MB:60wt%/エタノール:36wt%、ジメチルホルムアミド:4wt%の反応系で合成した多孔質高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【
図9】MB:100wt%の反応系で合成した高分子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(多孔質高分子)
本実施形態は、(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子と、を重合させてなる多孔質高分子に関する。本明細書において、多孔質高分子は、多数の細孔を有する高分子である。本実施形態に係る多孔質高分子は、(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子と、の存在下で、相分離を伴う重合反応によって形成される。本実施形態の多孔質高分子においては、複合材料である(B)の微粒子が(A)の有機系低分子化合物からな高分子に共有結合によって組み込まれている。本実施形態においては、複合材料である微粒子が高分子に供給結合によって組み込まれることにより、多孔質構造が形成されており、また強靭な多孔質高分子構造が形成されているものと考えられる。また、本実施形態の多孔質高分子は、共連続構造(モノリス)を有している。言い換えれば、本実施形態の多孔質高分子は、高分子網目構造を有している。
【0015】
本実施形態の多孔質高分子は、簡略なプロセスで製造が可能である。従来技術においては、高圧二酸化炭素を用いて多孔質高分子の製造が行われていたため、製造にあたり耐圧反応容器が必要とされていた。そこで、本発明者らは簡略なプロセスでの製造が可能な多孔質高分子の製造方法の開発を検討してきた。その結果、本発明者らは重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、表面に重合性官能基を有するナノメートルサイズの微粒子を、特定の溶媒中での相分離を伴う付加反応によって、複合材料である(B)の微粒子が(A)の有機系低分子化合物からな高分子に共有結合することにより、効率よく多孔質高分子が得られることを見出した。すなわち、本実施形態の多孔質高分子は、特定の溶媒中で相分離を伴う重合反応によって形成されるものである。なお、溶媒としては、後述する水又は有機溶媒を挙げることができる。
【0016】
また、本実施形態の多孔質高分子は、連続構造(モノリス)を有しているため、力学特性、耐熱性、通気性、通液性に優れている。このため、本実施形態の多孔質高分子は、種々の工業材料として有用であり、例えば、断熱材、梱包材、緩衝材、分離材、吸着材、貯蔵材、触媒担体、電解質セパレーター等に好ましく用いられる。
【0017】
<(A)有機系低分子化合物>
(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物としては、重合性官能基が直接もしくは接合基を介して有機系低分子に結合した有機系低分子化合物を挙げることができる。このような有機系低分子化合物としては、下記式(1)で表される化合物を例示することができる。下記式(1)において、Xは重合性官能基を表し、Rは有機系低分子(有機系置換基)を表し、mは1~20の整数を表す。
【0018】
Xm-R (1)
【0019】
式(1)中のXで表される重合性官能基としてはアクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、ビニル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、ビニル基、エチニル基、アジド基、シロール基、アルデヒド基、ケトン基、アセチルアセトン基、エポキシ基、アジリジン基などが挙げられる。中でも、式(1)中のXで表される重合性官能基はラジカル重合性官能基であることが好ましく、メタアクリレート基あるいはアクリレート基であることが特に好ましい。
【0020】
式(1)中のmは重合性官能基の数を表す。式(1)中のmについて、好ましくは、1~20の整数であり、特に好ましくは、1~6の整数である。なお、mが2以上の場合、複数あるXは同一のものであってもよく、異種のものであってもよい。
【0021】
式(1)中のRは有機系低分子(有機系置換基)を表し、このような置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シラン基、シロキシ基およびこれらの誘導体、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、インダセニル基、アセナフチレニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、フェナントレニル基、アントラセニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、ピセニル基、ペリレニル基、ペンタフェニル基、ペンタセニル基などの芳香族基、およびこれらの誘導体を挙げることができる。中でも、Rはアルキル基であることが好ましい。
【0022】
Rは上記置換基に加えて、Xとの連結基をさらに含む基であってもよい。また、Rで表される置換基はさらに置換基を有するものであってもよい。連結基としては、例えば、2価の炭化水素基と、-O-、-C(=O)-、-NR-(但し、Rは、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す)を1つ以上組み合わせてなる基を挙げることができる。また、さらなる置換基としては、上述した置換基に加えて、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等を例示することができる。
【0023】
<(B)微粒子>
(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子としては、重合性官能基が直接もしくは接合基を介して微粒子に結合したものを挙げることができる。このような微粒子としては、下記式(2)で表される微粒子を例示することができる。下記式(2)において、Xは重合性官能基を表し、NPは直径が1~500nmの微粒子を表し、nは2以上の整数を表す。
【0024】
Xn-(NP) (2)
【0025】
式(2)中のXで表される重合性官能基としては、式(1)中のXで表される重合性官能基と同様のものを例示することができる。中でも、式(2)中のXで表される重合性官能基はラジカル重合性官能基であることが好ましく、メタアクリレート基あるいはアクリレート基であることが特に好ましい。
【0026】
式(2)中のnは重合性官能基の数を表す。式(2)中のnは、2以上の整数であることが好ましく、より好ましくは、2~3000の整数であり、特に好ましくは、2~2000の整数である。なお、nが2以上の場合、複数あるXは同一のものであってもよく、異種のものであってもよい。このように、本実施形態においては、nは、2以上であり、微粒子には重合性官能基が2個以上含まれることが好ましい。重合性官能基の導入数を2個以上とすることにより、目的とする多孔質高分子が得られやすくなる。
【0027】
式(2)中のNPとしては、ナノメートルサイズの金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、量子ドット、メソポーラス材料、ナノクレイ、カーボンナノ材料、デンドリマー、有機系高分子、シルセスキオキサン等の微粒子が挙げられる。中でも、NPは、金属、合金、金属酸化物及び金属窒化物よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、金属酸化物であることがさらに好ましく、シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアよりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0028】
本実施形態においては式(2)を満たす構造であれば、複数種の微粒子を混合して使用することも可能である。
【0029】
微粒子の直径は、1~500nmであることが好ましく、1~300nmであることがより好ましく、1~100nmであることがさらに好ましい。
【0030】
(多孔質高分子の製造方法)
本実施形態は、(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と、(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子とを、水又は有機溶媒中で混合し、相分離を伴う重合反応をさせることを含む、多孔質高分子の製造方法に関する。
【0031】
上記多孔質高分子の製造時における(A)重合性官能基を有する有機系低分子化合物と(B)表面に重合性官能基を有し、かつ直径が1~500nmの微粒子の混合比率は特に制限されるものではないが、多孔質高分子の高分子網目構造の形性を考慮した場合、(B)の重量分率(B/(A+B)*100)は、好ましくは1~100重量%であり、特に好ましくは1~50重量%の範囲である。
【0032】
上記(A)と(B)の共存下での重合反応としては、種々の反応を採用することができる。重合反応として好ましくは、メタアクリレート、アクリレート、アクリレート、種々オレフィンの付加重合、チオール‐エン反応、マイケル付加反応、ヒドロシリル化反応、アジド‐アルキン反応やイソシアネート、エポキシ、チオール、ヒドロキシ、カルボキシ、アミノ、メタアクリレート、アクリレート間の種々の重付加反応等が挙げられる。
【0033】
上記(A)と(B)の共存下での重合反応では、相分離を伴う重合反応が進行している。本実施形態の重合反応では、スピノーダル分解型の相分離を伴う重合反応が進行しているものと考えられる。
【0034】
多孔質高分子の合成には、水又は有機溶媒が用いられることが好ましい。水又は有機溶媒は、反応系に相分離構造を誘発するために用いられる。多孔質高分子の合成に有機溶媒が用いられる場合、有機溶媒は、特に限定されるものではないが、上記(A)と(B)の重合反応を阻害しない溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジモチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、塩化メチレンのような炭化水素系溶媒や、ベンゼン、トルエン、キシレン、ハロゲン化ベンゼンのような芳香族炭化水素系溶媒およびこれらの誘導体などが挙げられる。また、複数種の溶媒を混合して使用することも可能である。
【0035】
上記(A)と(B)の重合反応における上記溶媒(水又は有機溶媒)の使用量は特に制限されるものではないが、溶媒の使用量は、好ましくは反応系全重量の1~95重量%、さらに好ましくは20~90重量%である。
【0036】
上記(A)と(B)の重合反応には種々の開始剤や触媒を用いることができる。開始剤や触媒としては、具体的には、ラジカル開始剤、酸、塩基触媒のほか、遷移金属触媒が挙げられる。
【0037】
上記(A)と(B)の重合反応に使用する開始剤及び触媒の合計使用濃度は特に制限されるものではないが、効率的な多孔質高分子の形成、製造コストを考慮した場合、好ましくは0.001mol/L~10mol/L、特に好ましくは0.002mol/L~0.1mol/Lの範囲である。
【0038】
上記(A)と(B)の重合反応時の反応温度は、通常-30℃~300℃であることが好ましく、より好ましくは0~200℃、さらに好ましくは20~150℃である。反応時間は一般的に使用するジョイント分子、リンカー分子、触媒の種類や濃度、溶媒の種類により適宜決定されるが、1分から240時間であることが好ましい。
【0039】
重合反応の後には、得られた多孔質高分子を洗浄する工程や乾燥する工程を設けてもよい。
【0040】
本実施形態は、多孔質高分子含有物であってもよく、多孔質高分子含有物は、固体状であっても、ゲル状であっても、液体状であってもよい。また、多孔質高分子含有物には、本発明の効果が阻害されない範囲において、必要に応じて、添加剤、例えば、酸化防止剤、分散剤などを配合してもよい。なお、上記添加剤は、上記(A)と(B)の重合反応に使用する水又は有機溶媒中に添加されてもよい。
【0041】
(用途)
本実施形態の多孔質高分子の用途は、特に制限されるものではなく、様々なものに適用可能である。例えば、本実施形態の多孔質高分子は、様々な工業材料に好ましく用いられる。工業材料としては、具体的には、断熱材、梱包材、緩衝材、分離材、吸着材、貯蔵材、触媒担体、電解質セパレーター等が挙げられる。これらの工業材料への加工方法は特に制限されるものではなく、種々の方法を用いることができる。具体的には、製品の形状の型の中で多孔質高分子を製造する方法や、多孔質高分子を別途合成した後、切断、剪裁する方法などが挙げられる。また、必要に応じて、種々の材料と併用することも可能である。
【0042】
本実施形態は、上記多孔質高分子を含む断熱材であってもよく、上記多孔質高分子を含む梱包材であってもよく、上記多孔質高分子を含む緩衝材であってもよく、上記多孔質高分子を含む分離材であってもよく、上記多孔質高分子を含む吸着材であってもよく、上記多孔質高分子を含む触媒担体であってもよく、上記多孔質高分子を含む電解質セパレーターであってもよい。
【実施例0043】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。尚、以下の実施例で得られた多孔質高分子、および比較例の評価は以下の方法にて行った。
【0044】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察
観察には日本分光社製のJSM-7400Fを使用した。
【0045】
実施例1
(B)表面に重合性官能基を有する微粒子として、EVONIK社 NANOCRYL XP 21 5235(メタクリル酸メチル(MMA):70wt%、シリカナノ粒子(NP):30wt%、4-メトキシフェノール(MEHQ):1000ppm、比重:1.15g/mL)を用いた。このシリカナノ粒子(NP)は(メタ)アクリレート基を有し、直径は20nmである。シリカナノ粒子(NP)にラジカル開始剤の2,2,-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)を加え、ADVN含量が0.02mol/Lのマスターバッチ(MB)を調製した。MB:20wt%にエタノール:80wt%を加えて反応溶液を調製し、アンプル管に封入した後、70℃で22時間反応して多孔質高分子を合成した。得られた多孔質高分子は、約10倍量のメタノールで3回洗浄した後、室温で風乾し、さらに減圧乾燥した。得られた多孔質高分子(M20(E100D0))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図1に示す。
図1に示されるように、約0.5μmの微粒子が連結した構造(共連続構造)が観察された。得られた多孔質高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解せずに膨潤することが確認された。
【0046】
実施例2
MB:30wt%、エタノール:63wt%、ジメチルホルムアミド:7wt%の組成で反応溶液を調製した以外は全て実施例1と同様の方法で多孔質高分子を合成した。得られた多孔質高分子(M30(E90D10))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図2に示す。
図2に示されるように、約1μmの空孔を有する共連続構造が観察された。得られた多孔質高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解せずに膨潤することが確認された。
【0047】
実施例3
MB:50wt%、エタノール:40wt%、ジメチルホルムアミド:10wt%の組成で反応溶液を調製した以外は全て実施例1と同様の方法で多孔質高分子を合成した。得られた多孔質高分子(M50(E80D20))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図3に示す。
図3に示されるように、約0.5μmの空孔を有する共連続構造が観察された。得られた多孔質高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解せずに膨潤することが確認された。
【0048】
実施例4
MB:10wt%、エタノール:81wt%、ジメチルホルムアミド:9wt%の組成で反応溶液を調製した以外は全て実施例1と同様の方法で多孔質高分子を合成した。得られた多孔質高分子(M10(E90D10))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図4に示す。
図4に示されるように、約0.1~1μmの微粒子が凝集した構造(共連続構造)が観察された。得られた多孔質高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解せずに膨潤することが確認された。
【0049】
実施例5
MB:20wt%、エタノール:72wt%、ジメチルホルムアミド:8wt%の組成で反応溶液を調製した以外は全て実施例1と同様の方法で多孔質高分子を合成した。得られた多孔質高分子(M20(E90D10))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図5に示す。
図5に示されるように、約1μmの微粒子が連結した構造(共連続構造)が観察された。得られた多孔質高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解せずに膨潤することが確認された。
【0050】
実施例6
MB:40wt%、エタノール:54wt%、ジメチルホルムアミド:8wt%の組成で反応溶液を調製した以外は全て実施例1と同様の方法で多孔質高分子を合成した。得られた多孔質高分子(M40(E90D10))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図6に示す。
図6に示されるように、約3μmの空孔を有する共連続構造が観察された。得られた多孔質高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解せずに膨潤することが確認された。
【0051】
実施例7
MB:50wt%、エタノール:45wt%、ジメチルホルムアミド:5wt%の組成で反応溶液を調製した以外は全て実施例1と同様の方法で多孔質高分子を合成した。得られた多孔質高分子(M50(E90D10))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図7に示す。
図7に示されるように、約0.5μmの空孔を有する共連続構造が観察された。得られた多孔質高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解せずに膨潤することが確認された。
【0052】
実施例8
MB:60wt%、エタノール:36wt%、ジメチルホルムアミド:4wt%の組成で反応溶液を調製した以外は全て実施例1と同様の方法で多孔質高分子を合成した。得られた多孔質高分子(M60(E90D10))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図8に示す。
図8に示されるように、約0.1~0.5μmの空孔を有する共連続構造が観察された。得られた多孔質高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解せずに膨潤することが確認された。
【0053】
比較例1
MBのみで反応系を調製した以外は全て実施例1と同様の方法で高分子を合成した。得られた高分子(M100(E0D0))の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図9に示す。
図9に示されるように、多孔質構造は観察されなかった。得られた高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、溶解しないが膨潤もしないことが確認された。
【0054】
比較例2
EVONIK社 NANOCRYL XP 21 5235の代わりに通常のメタクリル酸メチルで反応系を調製した以外は全て比較例1と同様の方法で高分子(ポリメタクリル酸メチル)を合成した。得られた高分子をジメチルホルムアミド中に浸漬したところ、完全に溶解した。