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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126764
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】揚重装置、及び電気装置設置方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20240912BHJP
   H01F 27/06 20060101ALI20240912BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20240912BHJP
   B66D 3/14 20060101ALI20240912BHJP
   H02B 3/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
H01F27/00 120
H01F27/06
H01F7/02 F
B66D3/14 A
H02B3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035377
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 文吾
(72)【発明者】
【氏名】大久保 実
(72)【発明者】
【氏名】舩木 信人
(72)【発明者】
【氏名】山下 純二
(72)【発明者】
【氏名】堀口 仁史
(72)【発明者】
【氏名】栗本 文良
(72)【発明者】
【氏名】近藤 秀善
(72)【発明者】
【氏名】橋本 良二
【テーマコード(参考)】
5E059
【Fターム(参考)】
5E059KK01
5E059KK13
5E059LL02
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち室内への電気装置の設置を、安全に実施可能とする揚重装置、及び電気装置設置方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の揚重装置100は、室内に設置される電気装置を吊上げるものであり、第1支持脚110と、第2支持脚120、天梁130、巻上手段(張線機140)、滑車151、滑車152、吊治具160を備える。第1支持脚110と第2支持脚120は略鉛直に配置され、天梁130は、第1支持脚110と第2支持脚120の上部に取り付けられて略水平に配置される。張線機140は、第1支持脚110に取り付けられ、吊治具160が、第1支持脚110、第2支持脚120、及び天梁130に囲まれた門型空間に配置され、電気装置の一部に係止可能とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内に設置される変圧器又は発電機といった電気装置を吊上げる装置であって、
鉛直又は略鉛直に配置される柱状の第1支持脚と、
鉛直又は略鉛直に配置される柱状の第2支持脚と、
前記第1支持脚と前記第2支持脚の上部に取り付けられ、水平又は略水平に配置される天梁と、
前記第1支持脚に取り付けられ、主策材を具備する巻上手段と、
前記天梁のうち前記巻上手段の上方に取り付けられる端部滑車と、
前記天梁の中間に取り付けられる中央滑車と、
前記第1支持脚、前記第2支持脚、及び前記天梁に囲まれた門型空間に配置され、前記電気装置の一部に係止可能な吊治具と、を備え、
前記主策材は、前記端部滑車に巻き回されるとともに、前記中央滑車に巻き回されて垂下し、
垂下した前記主策材には、前記吊治具が取り付けられ、
前記電気装置の一部に前記吊治具を係止したうえで、前記巻上手段によって前記主策材を巻き取ると前記門型空間内で該電気装置が吊上げられ、該巻上手段によって該主策材を巻き出すと該門型空間内で該電気装置が吊下げられる、
ことを特徴とする揚重装置。
【請求項2】
前記吊治具に取り付けられる吊治具滑車を、さらに備え、
前記中央滑車に巻き回されて垂下した前記主策材は、前記吊治具滑車に巻き回されて、先端が前記天梁に固定され、
前記電気装置を吊上げ、又は吊下げるとき、前記吊治具滑車は動滑車として機能する、
ことを特徴とする請求項1記載の揚重装置。
【請求項3】
前記天梁は、着脱可能に前記第1支持脚及び前記第2支持脚に取り付けられ、
前記第1支持脚及び/又は前記第2支持脚を前記天梁に取り付ける位置は可変であり、前記門型空間の幅寸法を調整し得る、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の揚重装置。
【請求項4】
前記吊治具は、水平又は略水平に配置される昇降梁と、該昇降梁に取り付けられる2以上の吊荷策材と、を含んで構成され、
垂下した前記主策材には、前記昇降梁が取り付けられ、
前記吊荷策材を前記昇降梁に取り付ける位置は可変である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の揚重装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2記載の前記揚重装置を用いて、室内に前記電気装置を設置する方法であって、
室内の所定位置に前記揚重装置を設置し、台車に載置した前記電気装置を前記門型空間に配置された状態とする揚重装置設置工程と、
前記電気装置の一部に前記吊治具を係止したうえで、前記巻上手段によって前記主策材を巻き取ることで該電気装置を吊上げるとともに、前記台車を前記門型空間から移動させる吊上げ工程と、
前記巻上手段によって前記主策材を巻き出すことで前記電気装置を吊下げて床面に接地させるとともに、該電気装置の一部から前記吊治具を取り外す吊下げ工程と、を備えた、
ことを特徴とする電気装置設置方法。
【請求項6】
磁石によって前記電気装置の側面に設置され、防振マットを着脱可能に取り付けるマット設置治具を用い、
前記防振マットを前記マット設置治具に取り付けるマット装着工程と、
前記吊上げ工程の後に、吊上げられた前記電気装置の下方に前記防振マットの一部が配置されるように、該防振マットが取り付けられた前記マット設置治具を前記電気装置の下端に設置する治具設置工程と、
下方に前記防振マットの一部が配置された前記電気装置を床面に載置した後、前記防振マットは残したまま前記防振マットから前記マット設置治具を取り外す治具取外し工程と、をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項5記載の電気装置設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、室内に設置される電気装置(例えば変圧器や発電機)を安全に取り替えるために利用可能な揚重装置に関する技術であり、より具体的には、作業スペースの少ない狭い室内において少人数で安全に電気装置の設置(据付)や撤去を可能とする揚重装置とこれを用いた方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビフェニル(PCB)を利用した製品は、ビルや鉄道車両等の変圧器から蛍光灯の安定器、電子レンジ等の家電用コンデンサーといった各種製品に利用されてきた。しかしPCBは、水に溶けにくく沸点が高いといった難分解性の性質があり、また、人の健康や生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質であることから、現在は、新たな製造や輸入が禁止されている。
【0003】
PCBが使用された代表的な電気機器の中には、高圧変圧器(以下、「変圧器」という。)などの電力の供給に必要な製品も含まれる。そして、この種の製品に対しては、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法に基づき、指定された期間内に適正な処分をすることが求められている。例えば、PCBを利用した変圧器の取り替えが義務づけられており、この法律により取替対象となる多数の変圧器に対して、全数取り替えに向けて日々工事が行われている。
【0004】
取替対象の変圧器を廃棄した後に新たな変圧器を設置する設置作業においては、例えば、図8に示すように、台車Bで変圧器Cを設置位置まで運搬し、変圧器Cの下に角材を差し入れて角材で変圧器Cが支持された状態にしたうえで台車Bを引き抜く。その後、変圧器Cの位置や向きを調整し、変圧器Cを片側ずつ持ち上げて防振マットMを変圧器Cの下面に取り付ける。さらに、アンカー金具Aを変圧器Cの下部に固定して設置作業は完了する。変圧器は、複数人で転倒しないように両側から支えながらでないと片側を持ち上げるのも困難なほど重量があり、作業者の意思疎通が十分でないと変圧器の下に手や足が挟まれるなどの事故が生じる危険性が懸念される。このように変圧器は、重量が嵩むものであるため、例えば特許文献1にはクレーン搬送によって変圧器を吊上げる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-165579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、交換の対象となる変圧器の中には、マンションやオフィスビル、病院などの施設内に設置され、その施設の中でも、小さな専用の供給用変圧器室(いわゆる、借室)に設置されることが多い。このため、作業スペースが少ないために吊上げ式のクレーンを搬入して作業することは難しく、多人数での人力に頼った危険を伴う作業になりやすいという問題点があった。また、この種の問題は、変圧器に限らず、室内に設置される発電機などの他の電気装置にも共通する問題となり得る。
【0007】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち電気装置の設置を安全に実施可能とする揚重装置、及び電気装置設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、作業スペースが制限される狭隘な室内においても、簡易な門型の揚重装置を用いることで少人数かつ安全に電気装置を設置することができる、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0009】
本願発明の揚重装置は、室内に設置される変圧器又は発電機といった電気装置を吊上げるものであり、第1支持脚と、第2支持脚、天梁、巻上手段、端部滑車、中央滑車、吊治具を備えるものである。なお、第1支持脚と第2支持脚は、いずれも鉛直又は略鉛直に配置される柱状のものである。天梁は、第1支持脚と第2支持脚の上部に取り付けられ、略水平(水平を含む)に配置される。巻上手段は、第1支持脚に取り付けられ、主策材を具備する。端部滑車は、天梁のうち巻上手段の上方に取り付けられ、中央滑車が、天梁の中間に取り付けられる。吊治具は、第1支持脚と第2支持脚、天梁に囲まれた門型空間に配置され、電気装置の一部に係止可能なものである。主策材は、端部滑車に巻き回されるとともに、中央滑車に巻き回されて垂下し、垂下した主策材に、吊治具が取り付けられる。そして、電気装置の一部に吊治具を係止したうえで、巻上手段によって主策材を巻き取ると門型空間内で電気装置が吊上げられ、巻上手段によって主策材を巻き出すと門型空間内で電気装置が吊下げられる。
【0010】
本願発明の揚重装置は、吊治具に取り付けられる吊治具滑車を、さらに備えたものとすることもできる。この場合、中央滑車に巻き回されて垂下した主策材は、吊治具滑車に巻き回されて、先端が天梁に固定される。そして、電気装置を吊上げ、又は吊下げるとき、吊治具滑車は動滑車として機能する。
【0011】
本願発明の揚重装置は、天梁が着脱可能に第1支持脚及び第2支持脚に取り付けられたものとすることもできる。この場合、第1支持脚や第2支持脚を天梁に取り付ける位置は可変であり、門型空間の幅寸法を調整し得るものとすることもできる。
【0012】
本願発明の揚重装置は、吊治具が、略水平(水平を含む)に配置される昇降梁と、この昇降梁に取り付けられる2以上の吊荷策材を含んで構成されるものとすることもできる。この場合、垂下した主策材には、昇降梁が取り付けられ、吊荷策材を昇降梁に取り付ける位置は可変である。例えば図3では、昇降梁に複数個所の取付穴を設けており、作業者が吊荷策材の取付位置を選択できる構成としている。
【0013】
本願発明の電気装置設置方法は、本願発明の揚重装置を用いて、室内に電気装置を設置する方法であり、揚重装置設置工程と、吊上げ工程、吊下げ工程を備えた方法である。揚重装置設置工程では、室内の所定位置に、本願発明の揚重装置を設置し、台車に載置した電気装置を門型空間に配置された状態とする。吊上げ工程では、電気装置の一部に吊治具を係止したうえで、巻上手段によって主策材を巻き取ることで電気装置を吊上げるとともに、台車を門型空間から移動させる。吊下げ工程では、巻上手段によって主策材を巻き出すことで電気装置を吊下げて床面に接地させるとともに、電気装置の一部から吊治具を取り外す。
【0014】
本願発明の電気装置設置方法は、マット設置治具を用いる方法とし、マット装着工程と、治具設置工程、治具取外し工程を備えた方法とすることもできる。このマット設置治具は、磁石によって電気装置の側面に設置されるものであって、防振マットを着脱可能に取り付ける治具である。マット装着工程では、防振マットをマット設置治具に取り付ける。治具設置工程では、吊上げ工程の後に、吊上げられた電気装置の下方に防振マットの一部(特に半分)が配置されるように、この防振マットが取り付けられたマット設置治具を電気装置の下端に設置する。取外し工程では、下方に防振マットの一部(特に半分)が配置された電気装置を床面に載置した後、防振マットは残したまま防振マットからマット設置治具を取り外す。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の揚重装置、及び電気装置設置方法には、次のような効果がある。
(1)2つの支持脚と天梁に囲まれた門型空間に、吊治具が設けられ、巻上手段と、端部滑車、中央滑車が支持脚か天梁に設けられる構造のため、門型の形状部分より外側に大きく突出するような構造を必要とせず、狭い室内にも搬入しやすく、少ない作業スペースにも設置可能なサイズの揚重装置とすることができる。このため、設置作業時における電気装置の吊上げと吊下げとのいずれの作業も、巻上手段を操作する1人の作業者で実施可能となり、電気装置の設置作業を安全に実施することができる。
(2)2つの支持脚と天梁を基本構造とするシンプルな構造であるため、軽量化しやすいことから運搬作業を行いやすく、また小型の作業車(例えば、台車など)でも工事現場へ搬送しやすい揚重装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願発明の揚重装置の一例を示す正面図。
図2】揚重装置の左側面図。
図3】吊治具の一例を示す斜視図。
図4】揚重装置を用いた変圧器の設置工程を示すステップ図。
図5】(a)はマット設置治具の一例を示す正面図、(b)はマット設置治具を正面斜め上側から見た斜視図、(c)はマット設置治具を正面斜め下側から見た斜視図。
図6】(a)はマット設置治具に緩衝材を取り付けた一例を示す斜視図、(b)はマット設置治具に幅狭の防振マットを付着した状態を示す斜視図、(c)はマット設置治具に幅広の防振マットを付着した状態を示す斜視図。
図7】(a)は防振マットが付着されたマット設置治具が変圧器に取り付けられた状態を示す部分正面図、(b)は変圧器と防振マットからマット設置治具が取り外された状態を示す部分正面図。
図8】従来の変圧器の設置工程を例示したステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
はじめに、本願発明の概要について説明する。本願発明は、室内への電気装置を安全に設置することができる装置に関するものである。より詳しくは、狭い室内への電気装置の設置に適した「揚重装置」と、電気装置と床面との間に防振マットを安全に設置可能とする「マット設置治具」とを使用することで、電気装置を安全に設置することができる技術である。以下、実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0018】
1.揚重装置
本願発明の揚重装置について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の電気装置設置方法は、本願発明の揚重装置やマット設置治具を用いて電気装置を設置する方法である。したがってまずは本願発明の揚重装置について説明し、その後に本願発明の揚重装置を用いた電気装置設置方法について説明し、さらにその後、揚重装置とマット設置治具を用いた電気装置設置方法について、詳しく説明することとする。
【0019】
図1及び図2は、本願発明の揚重装置100の全体を示した図である。揚重装置100は、室内に設置される電気装置を吊上げる装置である。本願発明は、種々の電気装置を対象とすることができるが、便宜上ここでは電気装置として変圧器Cを吊上げる場合を例示して説明する。揚重装置100は、第1支持脚110と、第2支持脚120、天梁130、巻上手段としての張線機140、滑車(端部滑車151と上部中央滑車152a、下部中央滑車152b、吊治具滑車153)、吊治具160を含んで構成される。以下、本願発明の揚重装置100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。なお便宜上ここでは、天梁130が配置される軸方向(図1では左右方向)のことを「左右方向」と、左右方向に直交する水平方向(図2では左右方向)のことを「前後方向」ということとする。また揚重装置100は、電気装置の設置に限らず、電気装置の撤去にも利用することができるが、便宜上ここでは電気装置を設置する例で説明する。
【0020】
(2つの支持脚と天梁)
2つの支持脚(第1支持脚110と第2支持脚120)は、いずれも略鉛直(鉛直を含む)に配置され、それらの上部に天梁130が取り付けられることで、門型に構成されたフレーム本体を構成する。第1支持脚110と、第2支持脚120、天梁130は、いずれも相当の強度を有する材料(例えば、金属や樹脂など)を用いて形成するとよい。図に示す天梁130は、略水平(水平を含む)に配置されたうえで第1支持脚110と第2支持脚120によって支持され、また上方側から差し込まれる固定ボルト131を用いて第1支持脚110と第2支持脚120に固定される(一体化される)例を示している。あるいは、固定ボルト131を上方側から差し込む仕様に加えて(あるいは、代えて)、天梁130の下方側から固定ボルト131を差し込む仕様とすることもできる。
【0021】
天梁130を、第1支持脚110と、第2支持脚120に固定する構造は、上記に限らず、前後方向に差し込まれるネジやロックピンを用いるなど、別の構造であってもよい。ただし、作業時に容易に組み立てて使用でき、作業後には容易に分解可能とすることが好ましく、分解作業は特殊な工具を必要としないいわば手操作で実施できる構造とすることが好ましい。また、第1支持脚110と第2支持脚120の少なくとも一方は、天梁130への取付位置を複数個所から選択できる(つまり、取付位置を可変とする)構成とし、門型空間の幅寸法(図1の左右方向の寸法)を調整可能とすることが好ましい。例えば、複数箇所にボルト穴を設けておき、差込位置によって取付位置を可変としてもよいし、水平方向に連続する長穴形状のボルト穴を設けて無段階に位置調整を可能としてもよい。
【0022】
第1支持脚110と、第2支持脚120の下端部分は、図1及び図2に示すように、前後方向(図2の左右方向)に長く、揚重装置100が前後に倒れないように構成される。なお図1には、第1支持脚110が棒状(あるいは管状)の第1主柱111とこの第1主柱に上下に並んで配置され複数箇所で第1主柱111に接続される第1補強柱112を組み合わせたものとされ、同様に、第2支持脚120が棒状(あるいは管状)の第2主柱121と第2補強柱122を組み合わせたものを例示しているが、吊上げの対象となる電気装置の最大の重量によっては1本の棒状部材で構成するなど、他の構造としてもよい。また、第1支持脚110と第2支持脚120は、天梁130を取り付ける前でも、自立可能に構成することが好ましく、例えば、図1に示すように、前側から見て左右方向に突出する右自立用部材113と左自立用部材123を取付可能とすることが好ましい。
【0023】
(巻上手段)
張線機140は、主策材141としての可撓性を有する線状体(例えば、複数の金属製のワイヤを束にしたワイヤーハーネス)を巻き上げることが可能な巻上手段であり、第1支持脚110に取り付けられている。張線機140には、主策材141の一端側が巻かれる回動体142と、回動体142を回動させる操作部143と、ラチェット機構と、クラッチ機構とが設けられる。例えば図1及び図2に示す操作部143は、操作レバーと作業者が把持するハンドル144を含んで構成され、操作レバーの一端が回動体142に取り付けられ、操作レバーの他端にハンドル144が設けられている。ラチェット機構は、操作部143を、一定範囲(例えば、図1の実線位置から一点鎖線で示した位置までの動作範囲)で揺動するように動作させることでいずれか一方の回転方向に限定して回転力を伝達させる機構である。クラッチ機構は、回動体142の回転を、主策材141が巻き取られる方向にのみ可能とするロック状態と、回動体142を逆方向に回動可能として主策材141が巻き出される解除状態とを切り替える機構である。なお、張線機140の構成は、上記に限らず、他の構成を用いてもよく、例えば、張線機140の位置及び向きは、図1に示す前後方向を中心に回動可能とする構成に限らず、別方向(例えば、左右方向)を中心軸として回動するようにしてもよい。
【0024】
(滑車)
揚重装置100には、複数の滑車(端部滑車151と上部中央滑車152a、下部中央滑車152b、吊治具滑車153)に主策材141が巻き回されて構成される。具体的には、張線機140の主策材141は、天梁130のうち張線機140の上方に取り付けられる端部滑車151と、天梁130の中間に取り付けられる中央滑車(上部中央滑車152a)とに巻き回され、天梁130の下に形成される門型空間内へと垂下する。垂下した主策材141には、吊治具160が取り付けられる。
【0025】
(吊治具)
吊治具160は、変圧器Cの一部に係止可能に構成され、変圧器Cが上方側から吊り上げられた状態とすることを可能とする治具である。吊治具160は、第1支持脚110と、第2支持脚120、天梁130に囲まれた門型空間に配置され、張線機140によって張線機140の主策材141を巻き取る(すなわち、引っ張る)ことにより吊治具160が上昇し、主策材141を巻き出す(すなわち、緩める)ことで吊治具160が下降する。
【0026】
吊治具160には、吊治具滑車153を取り付けることもできる。この場合、上部中央滑車152aに巻き回されて垂下した主策材141は、吊治具滑車153に巻き回されたうえで上方へ向かい、主策材141の先端が天梁130に固定されている。変圧器Cを吊上げ、又は吊下げるとき、吊治具滑車153は動滑車として機能するので、小さな操作力で変圧器Cを吊上げることができて好ましい。
【0027】
変圧器Cを吊上げる操作力を更に軽減したい場合、下部中央滑車152bを用いた二段滑車として利用することもできる。この場合、図1に細線で示すように吊治具滑車153に巻き回されたうえで上方に向かう主策材141を天梁130に固定することなく、下部中央滑車152bにさらに巻き回して垂下させ、その先端を吊治具160に固定するとよい。
【0028】
図3は、吊治具160の一例を示す斜視図であり、図1図2に簡略化して示した吊治具160を具体的に示す図である。吊治具160は、略水平(水平を含む)に配置される昇降梁161と、昇降梁161に取り付けられる2つの吊荷策材162を含んで構成される。また昇降梁161の上方には支持体163が取り付けられており、垂下した主策材141はこの支持体163に支持される吊治具滑車153に巻き回され、つまり昇降梁161は支持体163(吊治具滑車153)を介して主策材141に取り付けられている。なお図3では、支持体163に対して昇降梁161が略鉛直(鉛直を含む)軸周りに回動可能に連結される「ヒンジ結合」の例を示しているが、これに限らず、例えば、垂下した主策材141に対して昇降梁161を直接取り付けてもよいし、昇降梁161に吊治具滑車153を取り付けてもよい。
【0029】
吊荷策材162は、帯状のベルトを環状にして構成され、水平方向に離間した2箇所に設けられる例を示している。吊荷策材162を昇降梁161に取り付ける位置は、1箇所に固定される仕様とすることもできるし、左右方向に可変にする仕様とすることもできる。例えば図3には、昇降梁161の連続する左右方向に、取付穴164が2箇所ずつ点在するようにして設けられ、作業者が吊荷策材162の取付位置を選択してロックピン165を差し込んで固定可能とした例を示している。
【0030】
なお、昇降梁161と吊荷策材162は、設置対象の電気装置の種類や形、大きさに応じて適宜設定すればよく、また、2種以上のものを準備し、取り替えて利用してもよい。例えば、吊荷策材162の数は、2つに限らず3以上設けてもよい。また、昇降梁161が1本の棒状体で構成されず、2以上の棒状体を組み合わせて構成してもよく、上方側から見て略三角形状や長方形状となるようにいわば平面状の昇降梁161を構成してもよい。
【0031】
2.揚重装置を用いた電気装置設置方法
続いて、揚重装置100を用いた電気装置設置方法について、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の電気装置設置方法は、ここまで説明した揚重装置100を用いて電気装置を設置する方法である。したがって揚重装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の揚重装置100に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.揚重装置」で説明したものと同様である。
【0032】
図4は、変圧器Cを設置する工程を示した図である。変圧器Cを設置する場合には、まず、変圧器Cを台車Bに乗せて設置位置まで搬送し、図4(a)に示すように、その設置位置にて変圧器Cを囲うように、揚重装置100を設置する。その後、揚重装置100の吊治具160(吊荷策材162)の高さ位置を調整して吊治具160を変圧器Cの上部に係止することで、変圧器Cを吊上げ可能な状態となる。なお、揚重装置100の設置は、変圧器Cを台車Bに乗せて設置位置まで搬送するより前に実施してもよい。
【0033】
変圧器Cを吊上げ可能な状態としたら、図4(b)に示すように、張線機140を操作して変圧器Cを上昇させ、変圧器Cを支えていた台車Bを引き抜く。その後、図4(c)に示すように、変圧器Cの向きを調整し、また、変圧器Cの下端に、防振マットMと一体化されたマット設置治具200を取り付ける。マット設置治具200の詳細については、後述する。
【0034】
マット設置治具200を取り付けたら、張線機140を操作して変圧器Cを下降させ、図4(d)に示すように、床面に防振マットMが設置して変圧器Cが床面に支持された状態とする。これにより、揚重装置100は使用済みとなるため撤去する。防振マットMは変圧器Cの重みで変圧器Cの下に挟まれた状態とされ、図4(e)に示すようにその防振マットMからマット設置治具200を分離して取り外す。最後に、変圧器Cを床面に固定するためのアンカー金具Aを変圧器Cの下部に取り付けて変圧器Cの設置が完了する。
【0035】
以上説明したように、揚重装置100を用いた電気装置設置方法によれば、変圧器Cの設置作業時における変圧器Cの吊上げと吊下げとのいずれの作業も張線機140を操作するだけでよく、変圧器Cを1人の作業者でも設置することができる。このため、作業者のスキルに依存することなく、変圧器Cの設置作業を安全に実施することができる。
【0036】
また、揚重装置100は、図1等に示したように、2つの支持脚(第1支持脚110と第2支持脚120)と天梁130に囲まれた門型空間に、吊治具160が設けられ、巻上手段としての張線機140、端部滑車151、上部中央滑車152a、下部中央滑車152bは、第1支持脚110または天梁130に設けられる構造としている。このため、門型の形状部分より外側に大きく突出するような構造を必要としない。したがって、変圧器Cと壁とが近く、作業スペースとしての隙間部分が少ない狭い室内であっても、その隙間部分に門型の揚重装置100を設置することができる。
【0037】
さらに揚重装置100は、2つの支持脚(第1支持脚110と第2支持脚120)と天梁130とを基本構造とするシンプルな構造であり、組立てや分解もしやすい構造とすることができ、例えば、電気装置のサイズに対応させた門型空間の寸法を調整することができる。また、軽量化しやすいことから運搬作業も行いやすく、小型の作業車でも工事現場へ搬送しやすい揚重装置100とすることができる。
【0038】
3.マット設置治具
続いて、変圧器Cの設置作業において利用可能なマット設置治具200について、図5図6を参照しながら詳しく説明する。マット設置治具200は、室内に設置される変圧器Cなどの変圧器Cの下方に、防振マットMを設置するための治具である。なお便宜上ここでは、マット設置治具200が変圧器Cに取り付けられた状態で、マット設置治具200のうち変圧器Cに近い方を「内側」と、その反対側を「外側」ということとする。
【0039】
マット設置治具200は、本体220と、第1磁石211、第2磁石212を含んで構成される。この本体220は、合成樹脂(例えば、合成ゴム)などによって形成され、そのうちの上側部分に本体壁221が形成され、また下側部分(本体壁221の下側)に下側壁222を形成することもできる。また本体壁221の側面には、中央側が凹むように湾曲した内面221aが形成されており、本体壁221の内面221a(変圧器Cと接触する面)には2つの第1磁石211が設けられる。外面が磁性体で形成された変圧器Cの側面に本体壁221の内面221aを当接させることで、第1磁石211の磁力によって本体壁221の内面221aは変圧器Cに付着(吸着)される。その結果、変圧器Cにマット設置治具200を設置する(取り付ける)ことができる。
【0040】
第2磁石212は、防振マットMを着脱可能に取り付ける装着手段として機能する。そのため、防振マットMは、磁性体が含まれる材料(例えば、磁性粉末を含有したゴム材料)にて成形したものを使用してもよいし、磁性体としての金属板などを防振マットMの表面に付着させたものを使用してもよい。第2磁石212は、図5(c)に示すように本体壁221の底面221bに設けられており、本体壁221の下側に防振マットMの上面の一部を付着させることで、防振マットMとマット設置治具200とを一体化することができる。
【0041】
防振マットMとマット設置治具200とが一体化した状態において、防振マットMは、本体壁221より内側(図6(b)及び(c)の紙面手前側)に突出する大きさ(好ましくは、防振マットMの上面の半分程度が突出する大きさ)に設定される。これにより、変圧器Cの下方(特に、底面)に防振マットMの一部(例えば、半分)を付着させて配置した状態とすることができる。なお、装着手段としての第2磁石212は、ネオジウム磁石を利用することができるが、防振マットMを着脱可能な粘着シートなど他の装着手段を利用することもできる。
【0042】
図5には、本体壁221の下側に下側壁222が設けられ、下側壁222に第3磁石213が1つ設けられる例を示している。下側壁222は、本体壁221の底面221bを除いた外側に配置され、本体壁221の外側面と下側壁222の外側面は連続するように1つの外側面が形成される。下側壁222と第3磁石213は必須の構成ではないが、図6(b)と図6(c)に示すように、防振マットMを本体壁221の下側に設置したとき、第3磁石213によって下側壁222と防振マットMが接触(付着)した状態となり、防振マットMの位置決めとして利用することができ、しかも第3磁石213によって防振マットMを安定して支持することができる。なお、図6(b)と図6(c)には、マット設置治具200を用いて設置する防振マットMの大きさが異なる例を示している。このようにサイズの異なる防振マットMを利用する場合であっても、下側壁222を平板状に形成した効果で、共通のマット設置治具200を利用することができる。
【0043】
本体壁221の内面221aは、図6(a)に示すように、薄板状の緩衝材230を貼り付けて被覆した例を示している。緩衝材230は、例えば、不織布を利用でき、両面テープで内面221aに貼り付けて構成してもよい。これにより、変圧器Cと本体壁221との間に緩衝材230が介在した状態で、本体壁221を変圧器Cに設置(磁着)でき、本体壁221の角部分や第1磁石211が擦れることによって変圧器Cが傷付くことを防止できる。また、緩衝材230の厚みや枚数を調整することで、第1磁石211の磁力を調整することができる。また緩衝材230は、磁性体を含む材料で構成してもよく、これにより、磁力の作用する範囲を拡大したマット設置治具200とすることもできる。
【0044】
本体壁221には、マット設置治具200を作業者が把持する際に利用可能な凹部221cが設けられている。具体的には、凹部221cは、本体壁221の左右両側(図5の左右方向における両側)に形成され、指を挿入し得る程度の深さ(例えば、1cm以上の深さ)に設定される。これにより、凹部221cを指先で把持することができ、マット設置治具200の持ち運びがより容易になる。
【0045】
本体壁221の中央付近に他の部分より肉厚が薄い部分(以下、「薄板部」という。)を形成し、さらに薄板部(特に上方)に貫通穴221dを設けることもできる。この場合、薄板部をペンチでつまんだり、あるいは鉤状の工具を貫通穴221dに係止したりすることでマット設置治具200を持ち運ぶこともできる。これにより、壁との隙間が狭い箇所に設置されたマット設置治具200でも上方側へ取り外しやすくなる。
【0046】
本体壁221の内側には、上下方向に連続する溝部221eを設けることもできる。変圧器Cの側面には溶接個所(溶接跡)が残ることもあり、この場合、例えば溶接ビードが障壁となってマット設置治具200が変圧器Cの側面に完全に密着しないこともある。一方、本体壁221の内側に溝部221eが設けられていると、この溝部221eに溶接ビードなどを収容することができ、すなわち変圧器Cに溶接個所が残っていたとしてもその側面にマット設置治具200を密着させて取り付けることができる。
【0047】
4.マット設置治具を用いた電気装置設置方法
続いて、マット設置治具200を用いた電気装置設置方法について、図を参照しながら詳しく説明する。なお、電気装置設置方法として、揚重装置100を用いて説明した内容と重複する説明は避け、マット設置治具200を用いる場合に特有の内容のみ説明することとする。
【0048】
変圧器Cの設置に際しては、まず、装着手段としての第2磁石212によって防振マットMをマット設置治具200に取り付ける(図6(b)や図6(c))。そして、変圧器Cを揚重装置100によって吊上げて、変圧器Cの下方に隙間ができた状況としたうえで、防振マットMが取り付けられたマット設置治具200を変圧器Cの下端に設置する(図7(a))。このとき、マット設置治具200の本体壁221(特に、凹部221c)を把持することで変圧器Cの側方からマット設置治具200を変圧器Cに取り付けることができ、取付位置の微調整もできる。また、防振マットMの一部は、本体壁221より内側(変圧器C側)に突出しており、その突出部分が吊上げられた変圧器Cの下方に配置されるようにマット設置治具200を設置する。
【0049】
防振マットMの一部(例えば、半分)を変圧器Cの下方に配置したうえで、変圧器Cを吊降して床面に載置する。その後、防振マットMは変圧器Cと床面との間に残したまま、変圧器Cや防振マットMからマット設置治具200を取り外す(図7(b))。マット設置治具200を取り外す際にも、マット設置治具200の本体壁221を把持することで変圧器Cの側方からマット設置治具200のみ取り外すことができる。
【0050】
このように、変圧器Cなどの電気装置を設置する場合においてマット設置治具200を用いることで、作業者は、電気装置の下方に手を差し入れることなく、防振マットMを電気装置と床面との間に設置することができる。このため、防振マットMを取り付ける場合に電気装置と床面との間に手が挟まれるといった危険な作業を回避することができ、安全に、防振マットMに支持された状態で電気装置を設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本願発明の揚重装置、及び電気装置設置方法は、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法に基づいた多数の変圧器の取替施工をする場合において特に好適に利用することができる。本願発明によれば、作業者のスキルに依存することなく、安全に電気装置の設置作業が可能となり、作業を担当可能な作業者の制限を少なくすることで変圧器の取替施工を迅速に実施でき、ひいては人の健康や生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質を利用した電気装置を新たな電気装置に切り替えることができる。このため、施設の利用者が安心して施設を継続利用できることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0052】
100 本願発明の揚重装置
110 (揚重装置の)第1支持脚
111 (第1支持脚の)第1主柱
112 (第1支持脚の)第1補強柱
113 (第1支持脚の)右自立用部材
120 (揚重装置の)第2支持脚
121 (第2支持脚の)第2主柱
122 (第2支持脚の)第2補強柱
123 (第2支持脚の)左自立用部材
130 (揚重装置の)天梁
140 (揚重装置の)張線機
141 (張線機の)主策材
151 (揚重装置の)端部滑車
152a (揚重装置の)上部中央滑車
152b (揚重装置の)下部中央滑車
153 (揚重装置の)吊治具滑車
160 (揚重装置の)吊治具
161 (吊治具の)昇降梁
162 (吊治具の)吊荷策材
200 マット設置治具
211 (マット設置治具の)第1磁石
212 (マット設置治具の)第2磁石
213 (マット設置治具の)第3磁石
221 (マット設置治具の)本体壁
221a (本体壁の)内面
221b (本体壁の)底面
221c (本体壁の)凹部
221d (本体壁の)貫通穴
222 (マット設置治具の)下側壁
230 (マット設置治具の)緩衝材
A :アンカー金具
B :台車
C :変圧器
M :防振マット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8