(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126780
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/14 20060101AFI20240912BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240912BHJP
B60C 3/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B60C5/14 Z
B60C11/00 F
B60C3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035409
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 怜奈
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA08
3D131AA09
3D131AA33
3D131AA34
3D131AA35
3D131AA36
3D131AA39
3D131BA04
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC31
3D131BC39
3D131BC42
3D131CA03
3D131CB11
3D131CB12
3D131CB13
3D131DA02
3D131DA33
3D131DA34
3D131EA09V
(57)【要約】
【課題】転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能の向上を達成できる、タイヤ2の提供。
【解決手段】タイヤ2は、カーカス12とトレッド4とベルト14とインナーライナー16とを備える。カーカス12のカーカスプライ28はカーカスコード30とカーカスゴム32とを備える。インナーライナー16は、ブチルゴム層40と一対の中間ゴム層42とを備える。中間ゴム層42の第一端42fはベルト14の端14eの軸方向内側に位置する。中間ゴム層42の第二端42sは幅基準点PGWの径方向内側に位置する、又は、第二端42sの位置が径方向において幅基準点PGWの位置と一致する。中間ゴム層42は、ブチルゴム層40及びカーカスゴム32の貯蔵弾性率よりも高い貯蔵弾性率を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、径方向において前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、前記カーカスの内側に位置するインナーライナーとを備えるタイヤであって、
前記カーカスがカーカスプライを備え、前記カーカスプライがカーカスコードと前記カーカスコードを覆うカーカスゴムとを備え、
前記カーカスの最大幅位置に対応する、前記タイヤの外面上の位置が、前記タイヤの幅基準点であり、
前記インナーライナーが、前記タイヤの内面を構成するブチルゴム層と、前記ブチルゴム層と前記カーカスとの間に位置する一対の中間ゴム層とを備え、
前記中間ゴム層の第一端が前記ベルトの端の軸方向内側に位置し、
前記中間ゴム層の第二端が前記幅基準点の径方向内側に位置する、又は、前記第二端の位置が径方向において前記幅基準点の位置と一致し、
前記中間ゴム層が、前記ブチルゴム層及び前記カーカスゴムの貯蔵弾性率よりも高い貯蔵弾性率を有する、
タイヤ。
【請求項2】
前記中間ゴム層が前記ブチルゴム層よりも薄く、
前記中間ゴム層の厚さが0.4mm以上1.0mm以下である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ベルトの端から前記中間ゴム層の第一端までの距離が20mm以上である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記カーカスの最大幅位置から前記中間ゴム層の第二端までの距離が10mm以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記中間ゴム層の貯蔵弾性率の、前記ブチルゴム層の貯蔵弾性率に対する比が、1.5以上2.0以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記中間ゴム層の貯蔵弾性率の、前記カーカスゴムの貯蔵弾性率に対する比が、1.5以上2.0以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記トレッドが前記路面と接地するトレッド面を備え、
前記タイヤの子午線断面における前記トレッド面の輪郭線が、軸方向に並ぶ複数の円弧を含み、複数の前記円弧のうち、赤道面上に中心を有する円弧がセンター円弧であり、
前記センター円弧の半径が500mm以上であり、
前記赤道面から前記幅基準点までの軸方向距離が100mm以上である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは内圧保持のためにインナーライナーを備える。インナーライナーは、ブチルゴム層とタイゴム層とを備える。ブチルゴム層は空気の透過を抑制する。タイゴム層はブチルゴム層をカーカスに接合する。
【0003】
タイヤの製造では、インナーライナーを得るために、シート状の部品として、
図5に示されたインナーライナーシートLSが準備される。インナーライナーシートLSは、ブチルゴム層のためのゴム組成物からなるブチルゴムシートBSと、タイゴム層のためのゴム組成物からなるタイゴムシートTSとを貼り合わせて構成される。このインナーライナーシートLSを用いて得られるインナーライナーはその全体が、ブチルゴム層及びタイゴム層の2層構造で構成される。
【0004】
タイヤの製造においてインナーライナーシートLSは、
図6に示されるように、ドラムDに巻かれる。インナーライナーシートLSの第一端と第二端とを接合して筒状に加工される。このようにして形成されたインナーライナーILには、インナーライナーシートLSの接合部が含まれる。この接合部では、ブチルゴム層の第一端B1と第二端B2との間にタイゴム層の第一端T1が位置する。
【0005】
タイゴム層はブチルゴム層よりも空気を透過しやすい。
図6に示された接合部は、タイヤの内部に充填された空気の漏れを促す。内圧保持性能の向上を目指し、インナーライナーの改良が進められている(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
厚いブチルゴム層を採用すれば、内圧保持性能は向上する。しかしこのブチルゴム層は転がり抵抗を増加させる。
ブチルゴム層のためのゴム組成物は、低い気体透過係数を有するブチル系ゴムを含む。ブチル系ゴムの含有量を増やせば、内圧保持性能は向上する。しかしブチル系ゴムの増量はブチルゴム層の損失正接を高める。損失正接の高まりは転がり抵抗の増加を招く。
【0008】
図示されないが、タイヤのカーカスは、シート状の部品(以下、カーカスシート)を用いて形成される。タイヤの製造では、カーカスシートをドラムに巻いて筒状に加工した後、その形状が整えられる。これにより、カーカスが構成される。
カーカスシートは並列した多数のカーカスコードを含む。形状を整える際にカーカスシートに生じる張力の作用により、特に、バットレス付近において、カーカスコードの間隔が広がる傾向にある。
【0009】
加硫工程においてインナーライナーは、膨張したブラダーによってカーカスに押し付けられる。カーカスコードの間隔が広いと、ブチルゴム層のためのゴム組成物がカーカスコード間に入り込む恐れがある。カーカスコード間へのブチルゴム層の流入は、耐久性低下の要因の一つである。ブチルゴム層の流入を防止できるように、ブチルゴム層とカーカスとの間に位置するタイゴム層の厚さが設定される。
インナーライナーに含まれるタイゴム層の量を減らせば、内圧保持性能が向上する。しかしその一方で、耐久性が損なわれる恐れがある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされている。本発明の目的は、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能の向上を達成できる、タイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るタイヤは、一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、径方向において前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、前記カーカスの内側に位置するインナーライナーとを備える。前記カーカスはカーカスプライを備え、前記カーカスプライがカーカスコードと前記カーカスコードを覆うカーカスゴムとを備える。前記カーカスの最大幅位置に対応する、前記タイヤの外面上の位置が、前記タイヤの幅基準点である。前記インナーライナーは、前記タイヤの内面を構成するブチルゴム層と、前記ブチルゴム層と前記カーカスとの間に位置する一対の中間ゴム層とを備える。前記中間ゴム層の第一端は前記ベルトの端の軸方向内側に位置する。前記中間ゴム層の第二端は前記幅基準点の径方向内側に位置する、又は、前記第二端の位置が径方向において前記幅基準点の位置と一致する。前記中間ゴム層は、前記ブチルゴム層及び前記カーカスゴムの貯蔵弾性率よりも高い貯蔵弾性率を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能の向上を達成できる、タイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
【
図2】タイヤの外面及びタイヤの構成要素の輪郭線を説明する断面図である。
【
図5】従来のインナーライナーシートを示す斜視図である。
【
図6】
図5のインナーライナーシートを用いたインナーライナーの形成を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0015】
本発明のタイヤはリムに組まれる。タイヤの内部には空気が充填され、タイヤの内圧が調整される。本発明において、リムに組まれたタイヤはタイヤ-リム組立体とも称される。タイヤ-リム組立体は、リムと、このリムに組まれたタイヤとを備える。
【0016】
本発明において、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と称される。
【0017】
本発明においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できない、タイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの切断面において、測定される。この測定では、左右のビード間の距離は、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致するようにセットされる。なお、正規リムにタイヤを組んだ状態で確認できないタイヤの構成は、前述の切断面において確認される。
【0018】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0019】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0020】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0021】
本発明において、「断面幅の呼び」及び「偏平比の呼び」は、JIS D4202「自動車用タイヤ-呼び方及び諸元」に規定された「タイヤの呼び」に含まれる「断面幅の呼び」及び「偏平比の呼び」である。
【0022】
本発明において、タイヤのトレッド部とは、路面と接地する、タイヤの部位である。ビード部とは、リムに嵌め合わされる、タイヤの部位である。サイドウォール部とは、トレッド部とビード部との間を架け渡す、タイヤの部位である。タイヤは、部位として、トレッド部、一対のビード部及び一対のサイドウォール部を備える。トレッド部の中央部分はクラウン部分とも称される。トレッド部の端の部分はショルダー部分とも称される。トレッド部とサイドウォール部との境界部分はバットレスとも称される。
【0023】
本発明において、架橋ゴムとは、ゴム組成物を加圧及び加熱して得られる、ゴム組成物の架橋物である。ゴム組成物は、バンバリーミキサー等の混錬機において、基材ゴム及び薬品を混合することにより得られる材料である。架橋ゴムは加硫ゴムとも称され、ゴム組成物は未加硫ゴムとも称される。
【0024】
基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)及びブチルゴム(IIR)が例示される。薬品としては、カーボンブラックやシリカのような補強剤、アロマチックオイル等のような可塑剤、酸化亜鉛等のような充填剤、ステアリン酸のような滑剤、老化防止剤、加工助剤、硫黄及び加硫促進剤が例示される。基材ゴム及び薬品の選定、選定した薬品の含有量等は、ゴム組成物が適用される、トレッド、サイドウォール等の各要素の仕様に応じて、適宜決められる。本発明においては、特に言及がない限り、タイヤを構成する各要素には、タイヤにおいて一般的に使用されるゴム組成物が用いられる。
【0025】
本発明において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の貯蔵弾性率は、JIS K6394の規定に準拠して測定される。測定条件は以下の通りである。
初期歪み=10%
動歪み=±1%
周波数=10Hz
モード=伸長モード
温度=70℃
この測定では、試験片(長さ20mm×幅4mm×厚さ1mm)はタイヤからサンプリングされる。試験片の長さ方向は、タイヤの周方向と一致させる。タイヤから試験片をサンプリングできない場合には、測定対象の要素の形成に用いられるゴム組成物を170℃の温度で12分間加圧及び加熱して得られる、シート状の架橋ゴム(以下、ゴムシートとも称される。)から試験片がサンプリングされる。
本発明において貯蔵弾性率は、70℃での貯蔵弾性率で表される。
【0026】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るタイヤは、一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、径方向において前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、前記カーカスの内側に位置するインナーライナーとを備えるタイヤであって、前記カーカスがカーカスプライを備え、前記カーカスプライがカーカスコードと前記カーカスコードを覆うカーカスゴムとを備え、前記カーカスの最大幅位置に対応する、前記タイヤの外面上の位置が、前記タイヤの幅基準点であり、前記インナーライナーが、前記タイヤの内面を構成するブチルゴム層と、前記ブチルゴム層と前記カーカスとの間に位置する一対の中間ゴム層とを備え、前記中間ゴム層の第一端が前記ベルトの端の軸方向内側に位置し、前記中間ゴム層の第二端が前記幅基準点の径方向内側に位置する、又は、前記第二端の位置が径方向において前記幅基準点の位置と一致し、前記中間ゴム層が、前記ブチルゴム層及び前記カーカスゴムの貯蔵弾性率よりも高い貯蔵弾性率を有する。
【0027】
このようにタイヤを整えることにより、インナーライナーは、ブチルゴム層のみからなる部分と、ブチルゴム層及び中間ゴム層からなる部分とで構成される。このインナーライナーは、全体がブチルゴム層及び中間ゴム層の2層構造で構成された従来構造のインナーライナーよりも軽い。このインナーライナーでは、従来構造のインナーライナーに比べて、空気の漏れが抑えられる。転がり抵抗の低減及び内圧保持性能の向上にこのインナーライナーは貢献できる。内圧保持性能の向上のために、厚いブチルゴム層の採用や、ブチルゴム層に含まれるブチル系ゴムの増量を検討する必要がない。このタイヤでは、転がり抵抗の増大を伴うことなく、内圧保持性能の向上が達成される。しかもこのタイヤでは、加硫工程においてカーカスコードの間隔が広がる傾向にある部分の内側に、高い貯蔵弾性率を有する中間ゴム層が位置する。加硫工程において、インナーライナーがカーカスに押し付けられても、カーカスコード間へのブチルゴム層の流入が抑制される。このタイヤでは、良好な耐久性を維持しながら、内圧保持性能の向上が達成される。この中間ゴム層はバットレスにおけるタイヤの変形を抑制するので、バットレスにおけるタイヤの発熱も抑制される。発熱の抑制は転がり抵抗の低減に貢献する。
このタイヤは、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能の向上を図ることができる。
【0028】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載のタイヤにおいて、前記中間ゴム層が前記ブチルゴム層よりも薄く、前記中間ゴム層の厚さが0.4mm以上1.0mm以下である。
このようにタイヤを整えることにより、このタイヤは、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、空気保持性能の向上を図ることができる。
【0029】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は[構成2]に記載のタイヤにおいて、前記ベルトの端から前記中間ゴム層の第一端までの距離が20mm以上である。
このようにタイヤを整えることにより、中間ゴム層がカーカスコード間へのブチルゴム層の流入を効果的に抑制できる。しかもこの中間ゴム層はバットレスにおけるタイヤの変形も効果的に抑制できる。このタイヤは、良好な耐久性を維持しながら、転がり抵抗を効果的に低減できる。
【0030】
[構成4]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成3]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記カーカスの最大幅位置から前記中間ゴム層の第二端までの距離が10mm以下である。
このようにタイヤを整えることにより、中間ゴム層による質量への影響が抑えられる。中間ゴム層による質量への影響が抑えられることと、中間ゴム層によるバットレスの変形抑制効果とが互いに作用しあい、このタイヤでは、転がり抵抗が効果的に低減される。
【0031】
[構成5]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成4]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記中間ゴム層の貯蔵弾性率の、前記ブチルゴム層の貯蔵弾性率に対する比が、1.5以上2.0以下である。
このようにタイヤを整えることにより、タイヤは、良好な耐久性を維持しながら、転がり抵抗を効果的に低減できる。
【0032】
[構成6]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成5]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記中間ゴム層の貯蔵弾性率の、前記カーカスゴムの貯蔵弾性率に対する比が、1.5以上2.0以下である。
このようにタイヤを整えることにより、タイヤは、良好な耐久性を維持しながら、転がり抵抗を効果的に低減できる。
【0033】
[構成7]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成6]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記トレッドが前記路面と接地するトレッド面を備え、前記タイヤの子午線断面における前記トレッド面の輪郭線が、軸方向に並ぶ複数の円弧を含み、複数の前記円弧のうち、赤道面上に中心を有する円弧がセンター円弧であり、前記センター円弧の半径が500mm以上であり、前記赤道面から前記幅基準点までの軸方向距離が100mm以上である。
このようにタイヤを整えることにより、中間ゴム層が転がり抵抗の低減に効果的に貢献できる。このタイヤのインナーライナーは、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能を向上させることに効果的に貢献できる。
【0034】
[本発明の実施形態の詳細]
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、乗用車用空気入りタイヤである。
図1は、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面(以下、子午線断面)の一部を示す。
図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表す。
図1においてタイヤ2はリムR(正規リム)に組まれている。タイヤ2の内部には空気が充填され、タイヤ2の内圧が調整される。
【0035】
図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。ビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0036】
図1において符号PTで示される位置はタイヤ2のトゥである。トゥPTは、タイヤ2の外面2Gと内面2Nとの境界である。
【0037】
図1において符号HSで示される長さは、ビードベースラインから後述する赤道PCまでの径方向距離である。正規状態のタイヤ2において得られる径方向距離HSがこのタイヤ2の断面高さ(JATMA等参照)である。
【0038】
図1において符号PDで示される位置はタイヤ2の外面2G上の位置である。符号HDで示される長さは、赤道PCから位置PDまでの径方向距離である。このタイヤ2では、径方向距離HDは断面高さHSの0.23倍である。符号PDで示される位置は、赤道PCからの径方向距離HDがタイヤ2の断面高さHSの0.23倍を示す位置である。
【0039】
詳述しないが、タイヤは、生タイヤをモールド内で加圧及び加熱することで得られる。モールドが割モールドである場合、このモールドは、トレッド部を形づけるトレッドリングと、サイドウォール部を形づける一対のサイドプレートと、ビード部を形づける一対のビードリングとを備える。トレッドリングは、周方向に並ぶ複数のセグメントで構成される。
【0040】
前述の位置PDは、このタイヤ2のモールド(図示されず)のキャビティ面におけるセグメントとサイドプレートとの境界位置に対応する。本発明において位置PDは、バットレス基準位置とも称される。
【0041】
図2は、
図1のII-II線に沿った、タイヤ2(詳細には、サイドウォール部)の断面を示す。
図1においてII-II線は、バットレス基準位置PDを通る、タイヤ2の内面2Nの法線である。
【0042】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14及びインナーライナー16を備える。
【0043】
トレッド4はカーカス12の径方向外側に位置する。トレッド4は、トレッド面18において路面と接地する。トレッド4は路面と接地するトレッド面18を備える。トレッド4には溝20が刻まれる。これにより、トレッドパターンが構成される。
トレッド面18にはサイド面22が連なる。タイヤ2の外面2Gは、トレッド面18と、一対のサイド面22とを備える。
【0044】
図1において符号PCで示される位置は、トレッド面18と赤道面との交点である。交点PCはタイヤ2の赤道である。このタイヤ2のように赤道面上に溝20が位置する場合、溝20がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて赤道PCは特定される。
【0045】
トレッド4は架橋ゴムからなる。図示されないが、このトレッド4はキャップ層とベース層とを備える。キャップ層はトレッド面18を含み、グリップ性能を考慮した架橋ゴムからなる。ベース層はキャップ層で覆われ、低発熱性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0046】
それぞれのサイドウォール6はトレッド4の径方向内側に位置する。サイドウォール6はカーカス12の軸方向外側に位置する。サイドウォール6は、耐カット性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0047】
それぞれのクリンチ8は、径方向においてサイドウォール6の内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は耐摩耗性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0048】
それぞれのビード10は、軸方向においてクリンチ8の内側に位置する。ビード10はサイドウォール6の径方向内側に位置する。
ビード10は、コア24と、エイペックス26とを備える。コア24はリング状であり、スチール製のワイヤ(図示されず)を含む。エイペックス26はコア24の径方向外側に位置する。エイペックス26は外向きに先細りである。エイペックス26は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。
【0049】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は、一対のビード10の間、つまり、第一のビード10と第二のビード10との間を架け渡す。カーカス12は少なくとも1枚のカーカスプライ28を含む。このタイヤ2のカーカス12は1枚のカーカスプライ28で構成される。
カーカスプライ28は、プライ本体28aと、一対の折り返し部28bとを含む。プライ本体28aは、一対のビード10の間を架け渡す。それぞれの折り返し部28bは、プライ本体28aに連なる。折り返し部28bはそれぞれのビード10で軸方向内側から外側に向かって折り返される。
【0050】
カーカスプライ28は並列した複数のカーカスコード30を含む。図示されないが、これらカーカスコード30は赤道面と交差する。このタイヤ2のカーカス12はラジアル構造を有する。
カーカスコード30は有機繊維からなるコードである。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0051】
図2に示されるように、カーカスコード30はカーカスゴム32で覆われる。カーカスプライ28は、複数のカーカスコード30と、これらカーカスコード30を覆うカーカスゴム32とからなる。カーカスゴム32は架橋ゴムからなる。カーカスゴム32には、通常、5.0MPa以上7.0MPa以下の貯蔵弾性率E’cを有する架橋ゴムが用いられる。言い換えれば、カーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cは、5.0MPa以上7.0MPa以下である。
【0052】
図1において符号PCWで示される位置は、カーカス12が最大幅を示す位置、すなわち、カーカス12の最大幅位置である。折り返し部28bの端28beは、カーカス12の最大幅位置PCWの径方向外側に位置する。折り返し部28bの端28beが最大幅位置PCWの径方向内側に位置していてもよい。
【0053】
図1において実線LWは、カーカス12の最大幅位置PCWを通り、軸方向にのびる直線である。符号PGWは、直線LWとタイヤ2の外面2Gとの交点である。本発明においては、交点PGWが、カーカス12の最大幅位置PCWに対応する、タイヤ2の外面2G上の位置であり、この位置PGWがタイヤ2の幅基準点である。
第一の幅基準点PGWと第二の幅基準点PGW(図示されず)とを結ぶ線分はその中心において赤道面と交差する。
図1において符号WXで示される長さは、赤道面から幅基準点PGWまでの軸方向距離である。本発明においては、軸方向距離WXがタイヤ2の最大幅として用いられる。
図1において符号HWで示される長さは、ビードベースラインから幅基準点PGWまでの径方向距離である。このタイヤ2では、径方向距離HWの、断面高さHSに対する比率(HW/HS)は40%以上60%以下である。
【0054】
図2において符号tcで示される長さはカーカスプライ28の厚さである。このタイヤ2では、カーカスプライ28の厚さtcは0.8mm以上1.2mm以下である。
【0055】
ベルト14は径方向においてトレッド4とカーカス12との間に位置する。ベルト14はカーカス12に積層される。
【0056】
ベルト14は、径方向に積層された少なくとも2つの層34で構成される。このタイヤ2のベルト14は、径方向に積層された2つの層34からなる。2つの層34のうち、内側に位置する層34が内側層36であり、外側に位置する層34が外側層38である。
【0057】
図示されないが、内側層36及び外側層38はそれぞれ、並列した多数のベルトコードを含む。これらベルトコードは架橋ゴムで覆われる。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードの材質はスチールである。
【0058】
図1に示されるように、内側層36は外側層38よりも幅広い。外側層38の端38eから内側層36の端36eまでの長さは3mm以上10mm以下である。このタイヤ2では、内側層36の端36eがベルト14の端14eである。
【0059】
ベルト14の第一の端14eとその第二の端14e(図示されず)とを結ぶ線分はその中心において赤道面と交差する。
図1において符号WBで示される長さは、赤道面からベルト14の端14eまでの軸方向距離である。本発明においては、軸方向距離WBがベルト14の幅として用いられる。
このタイヤ2では、ベルト14の幅WBの、タイヤ2の最大幅WXに対する比率(WB/WX)は65%以上85%以下である。
【0060】
インナーライナー16はカーカス12の内側に位置する。インナーライナー16はタイヤ2の内面2Nを構成する。インナーライナー16は、ブチルゴム層40と一対の中間ゴム層42とを備える。
【0061】
ブチルゴム層40は、カーカス12の内側において一対のビード10の間を架け渡す。
図1に示されるようにブチルゴム層40は、その端40eが軸方向においてビード10と重複するように配置される。ブチルゴム層40はタイヤ2の内面2Nを構成する。
【0062】
ブチルゴム層40はゴム組成物の架橋物である。ブチルゴム層40のためのゴム組成物(以下、第一ゴム組成物)は基材ゴムとして、低い気体透過係数を有するゴムとして知られるブチル系ゴムを含む。ブチル系ゴムとしては、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴムが例示される。ハロゲン化ブチルゴムとしては、クロロブチルゴム及びブロモブチルゴムが例示される。
【0063】
第一ゴム組成物の基材ゴムの主成分はブチル系ゴムである。ブチルゴム層40は気体透過係数が低い架橋ゴムからなる。タイヤ2の内部に充填された空気はブチルゴム層40を透過しにくい。ブチルゴム層40はタイヤ2の内圧保持に貢献する。
【0064】
本発明において、基材ゴムの主成分がブチル系ゴムであるとは、基材ゴムに含まれるブチル系ゴムの量が、基材ゴム全量の50質量%以上であることを意味する。
【0065】
タイヤ2の内圧保持の観点から、基材ゴムに含まれるブチル系ゴムの量は、基材ゴム全量の70質量%以上であることが好ましい。転がり抵抗の増加を抑える観点から、ブチル系ゴムの量は95質量%以下であることが好ましい。
【0066】
このタイヤ2では、内圧保持と転がり抵抗への影響とが考慮されていれば、第一ゴム組成物の構成に特に制限はない。内圧保持のために設けられる要素のためのゴム組成物として一般的に用いられるゴム組成物が第一ゴム組成物として用いられる。
このタイヤ2では、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bは、3.5MPa以上5.5MPa以下である。ブチルゴム層40は、カーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cよりも低い貯蔵弾性率E’bを有する。
【0067】
図2において符号tbで示される長さはブチルゴム層40の厚さである。このブチルゴム層40の厚さtbは、0.8mm以上1.6mm以下である。ブチルゴム層40は、カーカスプライ28の厚さtcと同じ厚さtbを有する、又は、カーカスプライ28よりも厚い。
【0068】
一対の中間ゴム層42はブチルゴム層40とカーカス12との間に位置する。第一の中間ゴム層42と第二の中間ゴム層42(図示されず)とは、軸方向に離して配置される。第一の中間ゴム層42の第一端42fと、第二の中間ゴム層42の第一端42fとは、赤道面を挟んで相対するように配置される。中間ゴム層42の第二端42sはブチルゴム層40の端40eの径方向外側に位置する。このタイヤ2では、ブチルゴム層40の端40eがインナーライナー16の端16eである。
【0069】
中間ゴム層42はゴム組成物の架橋物である。中間ゴム層42のためのゴム組成物(以下、第二ゴム組成物)は基材ゴムとして天然ゴムを含む。
【0070】
第二ゴム組成物の基材ゴムの主成分は天然ゴムである。中間ゴム層42は接着性が考慮された架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、第二ゴム組成物の基材ゴムにブチル系ゴムは含まれない。この意味において、中間ゴム層42は非ブチルゴム層とも称される。
このタイヤ2では、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nは6.0MPa以上15MPa以下の範囲で設定される。
【0071】
本発明において、基材ゴムの主成分が天然ゴムであるとは、基材ゴムに含まれる天然ゴムの量が、基材ゴム全量の50質量%以上であることを意味する。
【0072】
良好な接着性を有する中間ゴム層42が構成される観点から、基材ゴムに含まれる天然ゴムの量は、基材ゴム全量の70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。基材ゴムの全量が天然ゴムであってもよい。
【0073】
このタイヤ2では、インナーライナー16の一部はブチルゴム層40のみで構成され、その他の一部はブチルゴム層40及び中間ゴム層42で構成される。具体的には、インナーライナー16のうち、第一の中間ゴム層42の第一端42fと、第二の中間ゴム層42の第一端42fとの間の部分(以下、センター部C)、そして、中間ゴム層42の第二端42sとブチルゴム層40の端40e(すなわち、インナーライナー16の端16e)との間の部分(以下、エッジ部E)は、ブチルゴム層40のみで構成される。センター部Cとエッジ部Eとの間の部分(以下、ミドル部M)は、ブチルゴム層40及び中間ゴム層42で構成される。
【0074】
図1に示されるように、中間ゴム層42の第一端42fはベルト14の端14eの軸方向内側に位置し、その第二端42sは幅基準点PGWの径方向内側に位置する。この中間ゴム層42の第二端42sに関しては、その位置が径方向において幅基準点PGWの位置と一致していてもよい。
このタイヤ2では、中間ゴム層42を含むミドル部Mは、ベルト14の端14eと幅基準点PGWとの間のゾーンに位置する。
【0075】
インナーライナー16のセンター部C及びエッジ部Eでは、ブチルゴム層40が直接カーカス12に接合される。ミドル部Mのブチルゴム層40は中間ゴム層42を介してカーカス12に接合される。
ブチルゴム層40は中間ゴム層42に比べて接着性に劣る。しかしミドル部Mにおいて、接着性が考慮された中間ゴム層42が、ブチルゴム層40及びカーカス12と十分に接合する。ブチルゴム層40の剥がれが防止されるので、ブチルゴム層40はタイヤ2においてその機能を十分に発揮できる。
【0076】
このタイヤ2では、センター部C及びエッジ部Eはブチルゴム層40のみで構成され、中間ゴム層42を含まない。言い換えれば、インナーライナー16は、ブチルゴム層40のみからなる部分と、ブチルゴム層40及び中間ゴム層42からなる部分とで構成される。このインナーライナー16は、その全体がブチルゴム層40及び中間ゴム層42の2層構造で構成された従来構造のインナーライナー(以下、従来インナーライナー)よりも軽い。このインナーライナー16は転がり抵抗の低減に貢献できる。
【0077】
図6に示されたインナーライナーILと同じように、このタイヤ2のインナーライナー16をインナーライナーシート(図示されず)を用いて形成した場合、このインナーライナー16にもインナーライナーシートの接合部が含まれる。
詳述しないが、中間ゴム層42は、タイゴム層と同様、ブチルゴム層40よりも空気を透過しやすい。タイヤ2の内部に充填された空気は、接合部に含まれる中間ゴム層42を通じてタイヤ2の外部に漏れ出ることが懸念される。
【0078】
しかし前述したように、このインナーライナー16のセンター部C及びエッジ部Eはブチルゴム層40のみで構成され、中間ゴム層42を含まない。インナーライナー16における中間ゴム層42の体積割合は、従来インナーライナーにおけるそれよりも小さい。そのため、接合部における中間ゴム層42の体積割合も、従来インナーライナーにおけるそれよりも小さい。このインナーライナー16では、従来インナーライナーに比べて、空気の漏れが抑えられる。このインナーライナー16は内圧保持性能の向上に貢献できる。内圧保持性能の向上のために、厚いブチルゴム層40の採用や、ブチルゴム層40に含まれるブチル系ゴムの増量を検討する必要がない。このタイヤ2では、転がり抵抗の増大を伴うことなく、内圧保持性能の向上が達成される。
【0079】
詳述しないが、タイヤ2の製造では、その成形工程において、タイヤ2の構成要素を組み合わせて生タイヤ(図示されず)が準備される。図示されないが、この成形工程では、カーカス12の部品であるカーカスシートをドラムに巻いて筒状に加工した後、その形状が整えられる。これによりカーカス12が構成される。前述したように、カーカスシートの形状を整える際に、バットレス付近、具体的には、ベルト14の端14eから幅基準点PGWまでのゾーンに対応する部分において、カーカスコード30の間隔が広がる傾向にある。
加硫工程において、インナーライナー16は膨張したブラダー(図示されず)によってカーカス12に押し付けられる。そのため、カーカスコード30の間隔が広いと、ブチルゴム層40のためのゴム組成物がカーカスコード30間に入り込む恐れがある。
【0080】
図2において、実線PLはカーカスコード30のブチルゴム層40側の端を繋ぐ線である。本発明においては、この実線PLよりもサイドウォール6側にブチルゴム層40が位置する状態が、ブチルゴム層40のためのゴム組成物がカーカスコード30間に入り込んだ状態である。図示されないが、この実線PLからカーカスコード30間に入り込んだブチルゴム層40の先端までの距離が入り込み量として用いられる。
【0081】
カーカスコード30間にブチルゴム層40が入り込むと、その程度によっては、タイヤ2の耐久性が低下する。カーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入は、耐久性低下の要因の一つである。
【0082】
しかしこのタイヤ2では、前述したように、中間ゴム層42の第一端42fがベルト14の端14eの軸方向内側に位置し、その第二端42sが幅基準点PGWの径方向内側に位置する、又は、第二端42sの位置が径方向において幅基準点PGWの位置と一致する。このタイヤ2では、ベルト14の端14eと幅基準点PGWとの間のゾーン、言い換えれば、加硫工程においてカーカスコードの間隔が広がる傾向にある部分の内側に、中間ゴム層42が位置する。
そしてこのタイヤ2では、中間ゴム層42は、ブチルゴム層40及びカーカスゴム32の貯蔵弾性率よりも高い貯蔵弾性率を有する。すなわち、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nは、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bよりも高く、カーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cよりも高い。
このタイヤ2では、加硫工程において、インナーライナー16がカーカス12に押し付けられても、高い貯蔵弾性率を有する中間ゴム層42が、カーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入を抑制する。このタイヤ2では、良好な耐久性を維持しながら、内圧保持性能の向上が達成される。さらにこの中間ゴム層42は、バットレスにおけるタイヤ2の変形を抑制する。このタイヤ2では、バットレスにおける発熱が抑制される。発熱の抑制は転がり抵抗の低減に貢献する。
【0083】
このタイヤ2は、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能の向上を達成できる。
【0084】
図2において符号tnで示される長さは中間ゴム層42の厚さである。
前述したように、中間ゴム層42は、ブチルゴム層40及びカーカスゴム32の貯蔵弾性率よりも高い貯蔵弾性率を有する。したがって、薄い中間ゴム層42の採用が可能である。具体的には、このタイヤ2では、中間ゴム層42はブチルゴム層40よりも薄く、中間ゴム層42の厚さtnは0.4mm以上1.0mm以下であるのが好ましい。
中間ゴム層42の厚さtnが1.0mm以下に設定されることにより、より軽いインナーライナー16が構成される。このインナーライナー16は転がり抵抗の低減に貢献できる。薄い中間ゴム層42は、この中間ゴム層42を通じた空気の漏れを低減できる。このタイヤ2は、内圧保持性能の向上を図ることができる。この観点から、厚さtnは0.8mm以下であるのがより好ましい。
中間ゴム層42の厚さtnが0.4mm以上に設定されることにより、中間ゴム層42がカーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入を抑制する。この中間ゴム層42は、バットレスにおけるタイヤ2の変形も抑制する。このタイヤ2は、転がり抵抗への影響を抑えながら、耐久性の向上を図ることができる。この観点から、厚さtnは0.5mm以上であるのがより好ましい。
【0085】
前述したように、ブチルゴム層40は、カーカスプライ28の厚さtcと同じ厚さtbを有する、又は、カーカスプライ28よりも厚い。中間ゴム層42はブチルゴム層40よりも薄い。そして、中間ゴム層42はカーカスプライ28よりも薄い。
【0086】
前述したように、このタイヤ2では、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nは、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bよりも高い。具体的には、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nの、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bに対する比(E’n/E’b)は、1.5以上2.0以下であるのが好ましい。
比(E’n/E’b)が1.5以上に設定されることにより、中間ゴム層42がカーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入を抑制する。この中間ゴム層42はバットレスにおけるタイヤ2の変形も抑制する。このタイヤ2では、薄い中間ゴム層42の採用も可能である。このタイヤ2は、良好な耐久性を維持しながら、転がり抵抗を効果的に低減できる。この観点から、比(E’n/E’b)は1.6以上であるのがより好ましく、1.7以上であるのがさらに好ましい。
比(E’n/E’b)が2.0以下に設定されることにより、バットレスの剛性が適切に維持される。このタイヤ2では、中間ゴム層42による乗り心地への影響が効果的に抑制される。
【0087】
前述したように、このタイヤ2では、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nは、カーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cよりも高い。具体的には、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nの、カーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cに対する比(E’n/E’c)は、1.5以上2.0以下であるのが好ましい。
比(E’n/E’c)が1.5以上に設定されることにより、中間ゴム層42がカーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入を抑制する。この中間ゴム層42はバットレスにおけるタイヤ2の変形も抑制する。このタイヤ2では、薄い中間ゴム層42の採用も可能である。このタイヤ2は、良好な耐久性を維持しながら、転がり抵抗を効果的に低減できる。この観点から、比(E’n/E’c)は1.6以上であるのがより好ましい。
比(E’n/E’c)が2.0以下に設定されることにより、バットレスの剛性が適切に維持される。このタイヤ2では、中間ゴム層42による乗り心地への影響が効果的に抑えられる。この観点から、比(E’n/E’c)は1.9以下であるのがより好ましく、1.8以下であるのがさらに好ましい。
【0088】
乗り心地への影響を抑えながら、転がり抵抗の低減及び耐久性の向上が図れる観点から、比(E’n/E’b)が1.5以上2.0以下であり、比(E’n/E’c)が1.5以上2.0以下であるのがより好ましい。転がり抵抗の低減及び耐久性の向上を図りながら、内圧保持性能のさらなる向上を達成できる観点から、中間ゴム層42はブチルゴム層40よりも薄く、中間ゴム層42の厚さtnが0.4mm以上1.0mm以下であり、比(E’n/E’b)が1.5以上2.0以下であり、比(E’n/E’c)が1.5以上2.0以下であるのがさらに好ましい。
【0089】
前述したように、このタイヤ2では、中間ゴム層42は、ブチルゴム層40及びカーカスゴム32の貯蔵弾性率よりも高い貯蔵弾性率を有する。中間ゴム層42が、カーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入を効果的に抑制できる観点から、カーカスゴム32が、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bよりも高い、貯蔵弾性率E’cを有するのが好ましい。具体的には、カーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cの、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bに対する比(E’c/E’b)は、1.1以上1.4以下であるのが好ましい。
【0090】
図3は、
図1に示された子午線断面の一部を示す。この
図3には、中間ゴム層42が設けられている部分が示される。
【0091】
図3において実線LBは、ベルト14の端14eを通る、タイヤ2の内面2Nの法線である。符号PAで示される位置は、ブチルゴム層40と中間ゴム層42との境界と、法線LBとの交点である。符号Daで示される長さは、交点PAと中間ゴム層42の第一端42fとを結ぶ線分の長さである。本発明においては、この長さDaが、ベルト14の端14eから中間ゴム層42の第一端42fまでの距離として用いられる。この長さDaが0mmであるとは、軸方向において、中間ゴム層42の第一端42fの位置が、ベルト14の端14eの位置に一致していることを意味する。
【0092】
図3において符号PBで示される位置は、ブチルゴム層40と中間ゴム層42との境界と、前述の直線LWとの交点である。符号Dbで示される長さは、交点PBと中間ゴム層42の第二端42sとを結ぶ線分の長さである。本発明においては、この長さDbが、カーカス12の最大幅位置PCWから中間ゴム層42の第二端42sまでの距離として用いられる。この長さDbが0mmであるとは、径方向において、中間ゴム層42の第二端42sの位置が、カーカス12の最大幅位置PCWの位置に一致していることを意味する。
【0093】
このタイヤ2では、ベルト14の端14eから中間ゴム層42の第一端42fまでの距離Daは20mm以上であるのが好ましい。これにより、中間ゴム層42がカーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入を効果的に抑制できる。しかもこの中間ゴム層42はバットレスにおけるタイヤ2の変形も効果的に抑制できる。このタイヤ2は、良好な耐久性を維持しながら、転がり抵抗を効果的に低減できる。この観点から、距離Daは25mm以上であるのがより好ましく、30mm以上であるのがさらに好ましい。中間ゴム層42による質量及び内圧保持性能への影響が効果的に抑えられる観点から、距離Daは40mm以下であるのがより好ましい。
【0094】
このタイヤ2では、カーカス12の最大幅位置PCWから中間ゴム層42の第二端42sまでの距離Dbは10mm以下であるのが好ましい。これにより、中間ゴム層42による質量への影響が抑えられる。中間ゴム層42による質量への影響が抑えられることと、この中間ゴム層42によるバットレスの変形抑制効果とが互いに作用しあい、このタイヤ2では、転がり抵抗が効果的に低減される。この観点から、距離Dbは7mm以下であるのがより好ましく、5mm以下であるのがさらに好ましい。中間ゴム層42がカーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入を抑制できる観点から、距離Dbは0mm以上であるのが好ましい。
【0095】
図4は、
図1に示された子午線断面における外面2Gの輪郭線の一部を示す。本発明において、外面2Gの輪郭線は、溝、模様や文字等の装飾がないと仮定して得られる仮想外面により表される。
詳述しないが、外面2Gの輪郭線は、例えば変位センサーを用いて、正規状態のタイヤ2の外面形状を計測することで得られる。
【0096】
子午線断面においてトレッド面18の輪郭線は、軸方向に並ぶ複数の円弧を含む。複数の円弧のうち、赤道面上に中心を有する円弧がセンター円弧である。
図4において、符号Rcで示される矢印はセンター円弧の半径である。
【0097】
本発明においては、センター円弧の半径が明らかでない場合は、赤道面上に中心を有し、赤道PCを含む円弧のうち、トレッド面18の輪郭線との重複長さが最大となる円弧がセンター円弧として特定され、この円弧の半径がセンター円弧の半径Rcとして用いられてもよい。
【0098】
前述したように、高い貯蔵弾性率を有する中間ゴム層42は転がり抵抗の低減に貢献できる。この中間ゴム層42は、タイヤ2が大きな最大幅WXを有する場合に、転がり抵抗低減効果を効果的に発揮できる。この観点から、タイヤ2の最大幅WXは110mm以上であるのが好ましく、120mm以上であるのがより好ましい。
タイヤ2が大きな最大幅WXを有していても、センター円弧が小さな半径Rcを有する場合、タイヤ2に占める中間ゴム層42の体積割合が増加し、タイヤ2の転がり抵抗が増加することが懸念される。中間ゴム層42が転がり抵抗の低減に効果的に貢献できる観点から、タイヤ2が110mm以上の大きな最大幅WXを有する場合、センター円弧の半径Rcは500mm以上であるのが好ましく、680mm以上であるのがさらに好ましい。
このタイヤ2のインナーライナー16、具体的には中間ゴム層42は、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能を向上させることに効果的に貢献できる。
【0099】
このタイヤ2は、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nが、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bよりも高く、そしてカーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cよりも高いことに加え、中間ゴム層42がブチルゴム層40よりも薄く、中間ゴム層42の厚さtnが0.4mm以上1.0mm以下であることで、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、空気保持性能の向上を図ることができる。この場合、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nの、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bに対する比(E’n/E’b)が、1.5以上2.0以下であり、中間ゴム層42の貯蔵弾性率E’nの、カーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cに対する比(E’n/E’c)が、1.5以上2.0以下であることで、このタイヤ2は、乗り心地への影響を抑えながら、転がり抵抗の低減及び耐久性の向上を図ることができる。そしてカーカスゴム32が、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bよりも高い貯蔵弾性率E’cを有することで、中間ゴム層42が、カーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入を効果的に抑制できる。この場合、カーカスゴム32の貯蔵弾性率E’cの、ブチルゴム層40の貯蔵弾性率E’bに対する比(E’c/E’b)が、1.1以上1.4以下であることで、カーカスコード30間へのブチルゴム層40の流入がより効果的に抑制される。
このタイヤ2は、転がり抵抗及び耐久性への影響を効果的に抑えながら、空気保持性能の一層の向上を図ることができる。
【0100】
以上説明したように、本発明によれば、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能の向上を達成できる、タイヤが得られる。本発明は、最大幅WXが100mm以上であり、センター円弧の半径Rcが100mm以上である、タイヤにおいて顕著な効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明された、転がり抵抗及び耐久性への影響を抑えながら、内圧保持性能の向上を図るための技術は種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0102】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
10・・・ビード
12・・・カーカス
14・・・ベルト
16・・・インナーライナー
28・・・カーカスプライ
30・・・カーカスコード
32・・・カーカスゴム
40・・・ブチルゴム層
42・・・中間ゴム層(非ブチルゴム層)