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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126781
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】金属薄膜用トップコート塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20240912BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240912BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09D4/02
C09D7/63
C09D133/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035410
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】芳澤 理志
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍
(72)【発明者】
【氏名】川端 修平
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038FA111
4J038JC24
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA03
4J038NA04
4J038NA12
4J038PA17
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】樹脂基材上に直に形成された金属薄膜の表面に対する密着性に優れ、かつ、耐薬品性、耐湿性及び耐衝撃性のバランスがよいトップコート層を形成可能な、金属薄膜用トップコート塗料組成物を提供する。
【解決手段】樹脂基材の表面に直接形成された金属薄膜に塗る用途で使用される金属薄膜用トップコート塗料組成物であり、アクリルモノマーと、リン酸エステルと、アクリルポリマーとを含み、前記アクリルモノマーは分子中にリン酸エステル構造を有さず、前記リン酸エステルは分子中に(メタ)アクリロイル基を有してもよく、(前記アクリルモノマー/前記アクリルポリマー)で表される含有比率は、質量基準で、85/15~50/50であり、前記アクリルモノマーと前記アクリルポリマーの合計の含有量を100質量部としたとき、前記リン酸エステルの含有量は0.03~10.0質量部である、金属薄膜用トップコート塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材の表面に直接形成された金属薄膜に塗る用途で使用される金属薄膜用トップコート塗料組成物であり、
アクリルモノマーと、リン酸エステルと、アクリルポリマーとを含み、
前記アクリルモノマーは分子中にリン酸エステル構造を有さず、
前記リン酸エステルは分子中に(メタ)アクリロイル基を有してもよく、
(前記アクリルモノマー/前記アクリルポリマー)で表される含有比率は、質量基準で、85/15~50/50であり、
前記アクリルモノマーと前記アクリルポリマーの合計の含有量を100質量部としたとき、前記リン酸エステルの含有量は0.03~10.0質量部である、
金属薄膜用トップコート塗料組成物。
【請求項2】
前記アクリルモノマーは2官能以上であり、
前記アクリルポリマーのTgは80℃以上であり、
前記アクリルポリマーの重量平均分子量が1000~80000である、
請求項1に記載の金属薄膜用トップコート塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄膜用トップコート塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用光輝性内装部品には金属薄膜が形成されている。金属薄膜を形成する方法としてはスパッタリングなどの蒸着法やメッキ法が適用される。金属薄膜を形成する基材の表面は平滑であることが望ましいため、基材の表面には予め平滑なベースコートが形成され、続いて金属薄膜を形成した後、その表面を保護する目的でさらにトップコートが形成されることが一般的であった(例えば特許文献1)。
【0003】
しかし近年はベースコートを形成する工程を省略し、基材の表面に直に金属薄膜を形成する工法が望まれるようになった。このため、金属薄膜の表面は従来よりも平滑でない場合があり、このような表面に形成するトップコートには、金属薄膜に対する密着性が高いことが強く求められる。また、トップコートには耐薬品性、耐湿性、耐衝撃性が良好であることも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-76520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、樹脂基材上に直に形成された金属薄膜の表面に対する密着性に優れ、かつ、耐薬品性、耐湿性及び耐衝撃性のバランスがよいトップコート層を形成可能な、金属薄膜用トップコート塗料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 樹脂基材の表面に直接形成された金属薄膜に塗る用途で使用される金属薄膜用トップコート塗料組成物であり、アクリルモノマーと、リン酸エステルと、アクリルポリマーとを含み、前記アクリルモノマーは分子中にリン酸エステル構造を有さず、前記リン酸エステルは分子中に(メタ)アクリロイル基を有してもよく、(前記アクリルモノマー/前記アクリルポリマー)で表される含有比率は、質量基準で、85/15~50/50であり、前記アクリルモノマーと前記アクリルポリマーの合計の含有量を100質量部としたとき、前記リン酸エステルの含有量は0.03~10.0質量部である、金属薄膜用トップコート塗料組成物。
[2] 前記アクリルモノマーは2官能以上であり、前記アクリルポリマーのTgは80℃以上であり、前記アクリルポリマーの重量平均分子量が1000~80000である、[1]に記載の金属薄膜用トップコート塗料組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属薄膜用トップコート塗料組成物によれば、樹脂基材上に直に形成された金属薄膜の表面に対する密着性に優れ、かつ、耐薬品性、耐湿性及び耐衝撃性のバランスがよいトップコート層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルの両方を示し、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示す。
【0009】
≪金属薄膜用トップコート塗料組成物≫
本発明の第一態様は、樹脂基材の表面に直接形成された金属薄膜に塗る用途で使用され、アクリルモノマーと、リン酸エステルと、アクリルポリマーとを含む、金属薄膜用トップコート塗料組成物である。以下、単に「塗料組成物」ということがある。
【0010】
本態様の塗料組成物において、アクリルモノマーとリン酸エステルを明確に区別するために、アクリルモノマーはその分子中にリン酸エステル構造を有しない分子に限定される。
一方、リン酸エステルは分子中に(メタ)アクリロイル基を有してもよいし、有していなくてもよいが、いかなるリン酸エステルもアクリルモノマーには分類しない。
なお、リン酸エステルは、有機リン化合物であり、リン酸とアルコールが脱水縮合したエステルをいう。リン酸エステル構造とは、リン酸(O=P(OH))が有する3個の水素原子の少なくとも一部が任意の有機基で置換された構造である。
【0011】
前記樹脂基材を構成する材料は、ダイレクトスパッタリング等の工法によって金属薄膜を形成し得る材料であれば特に制限されず、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル共重合体(ASA樹脂)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)等が挙げられる。
【0012】
前記樹脂基材の形状は特に制限されず、フィルム状、任意の立体状のいずれでもよい。
【0013】
前記金属薄膜を構成する金属の種類は特に制限されず、例えば、例えばアルミニウム、コバルト、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、スズ、ニッケル、クロム、銀、亜鉛、インジウム、これらの酸化物、およびこれらの合金等が挙げられる。なかでも、金属の耐腐食性や本態様の金属スパッタ用トップコートの密着性を高める観点から、ステンレスが好ましい。
【0014】
前記金属薄膜の厚さは特に制限されず、例えば、10nm~500nmが好ましく、50nm~200nmがより好ましい。
金属薄膜の厚さが10nm以上であれば、光輝製部品の用途において光線の反射が十分に得られる。500nm以下であれば、樹脂基材に対する密着性が高まる。
樹脂基材表面に直に形成された金属薄膜の表面をなるべく平滑にする観点から、金属薄膜の厚さは10~100nmが好ましい。
【0015】
本態様の塗料組成物において、(アクリルモノマー/アクリルポリマー)で表される含有比率は、質量基準で、85/15~50/50が好ましく、85/15~51/49がより好ましく、85/15~55/45がさらに好ましい。
アクリルモノマーの比率が85/15よりも高い場合、形成されるトップコート層の初期の外観及び密着性、耐日焼け止め剤性における外観及び密着性、耐ハンドクリーム性における外観及び密着性、耐湿性における外観及び密着性、耐衝撃性における外観のバランスが悪化する。
アクリルモノマーの比率が50/50よりも低い場合、形成されるトップコート層の初期の外観及び密着性、耐ハンドクリーム性における外観、耐湿性における外観及び密着性が悪化する。
【0016】
本態様の塗料組成物において、アクリルモノマーとアクリルポリマーの合計の含有量を100質量部としたとき、リン酸エステルの含有量は、0.03~10.0質量部が好ましく、0.3~8.0質量部がより好ましく、0.7~10.0質量部がさらに好ましく、1.0~10.0質量部が特に好ましく、1.1~10.0質量部が最も好ましい。
リン酸エステルの含有量が0.03質量部よりも少ない場合、形成されるトップコート層の金属薄膜に対する初期の密着性が悪い。
リン酸エステルの含有量が10.0質量部よりも多い場合、形成されるトップコート層の耐日焼け止め剤性における密着性、耐湿性における密着性が悪化する。
【0017】
本態様のアクリルモノマーは、(メタ)アクリロイル基、好ましくは(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性モノマー分子である。アクリルモノマーは紫外線等の活性エネルギー線によって硬化し得るものが好ましい。
【0018】
本態様のアクリルモノマーは分子中に(メタ)アクリロイル基を、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上、さらに好ましくは4つ以上、最も好ましくは5~10有する多官能モノマーであることが好ましい。
2官能以上であると、形成されるトップコート層の耐ハンドクリーム性における外観及び密着性、耐日焼け止め剤性における外観及び密着性、耐湿性における外観及び密着性が向上する。
3官能以上であると、形成されるトップコート層の耐ハンドクリーム性における外観がより一層向上する。
【0019】
本態様の塗料組成物に含まれるアクリルモノマーは1種でもよいし、2種以上でもよい。
前記アクリルモノマーは、分子中にウレタン結合を有するウレタン系アクリレートであってもよいし、分子中にウレタン結合を有しない非ウレタン系アクリレートであってもよいし、これらを併用してもよい。
【0020】
本態様の塗料組成物に含まれるアクリルポリマーは、(メタ)アクリロイル基、好ましくは(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性モノマーが少なくとも5つ以上重合してなるポリマーである。
本態様の塗料組成物に含まれるアクリルポリマーは1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0021】
アクリルポリマーのガラス転移温度Tgは80℃以上が好ましい。ここでアクリルポリマーのTgはJIS K7121に準拠して測定された値である。
Tgが80℃以上であると、形成されるトップコート層の耐ハンドクリーム性における密着性が向上する。
【0022】
本態様の塗料組成物にTgが互いに異なる2種以上のアクリルポリマーが含まれる場合、アクリルポリマーの総質量に対して、Tgが80℃以上のアクリルポリマーの含有量は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0023】
アクリルポリマーの重量平均分子量は、1000~80000が好ましく、10000~80000がより好ましい。ここでアクリルポリマーの重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定された、標準ポリスチレン換算値である。
【0024】
本態様のアクリルモノマーの具体例としては、後述する実施例で用いたアクリルモノマーとともに、例えば下記が挙げられる。
【0025】
分子内に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3プロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、1,3ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
分子内に少なくとも3個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えばトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
分子内に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
本態様のアクリルポリマーの具体例としては、後述する実施例で用いたアクリルポリマーとともに、例えば、上述のアクリルモノマーの重合体が挙げられる。
【0029】
本態様のアクリルポリマーの酸価は特に制限されず、例えば0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以上が挙げられる。
ここでアクリルポリマーの酸価とは、アクリルポリマー1g中に含まれる酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数のことであり、JIS K 2501:2003に準拠して測定される。
【0030】
本態様のリン酸エステルの具体例としては、後述する実施例で用いたリン酸エステルとともに、例えば、トリアミルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェートが挙げられる。
【0031】
本態様のリン酸エステルとしては、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステルが好ましく、下記式(p1)もしくは(p2)で表されるリン酸エステルがより好ましい。
R1-L1-O-POH(=O)-O-L2-R2 ・・・式(P1)
R1-L1-O-P(OH)(=O) ・・・・・・・・式(P2)
式中、R1及びR2はそれぞれ独立に(メタ)アクリロイル基を表し、L1及びL2はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキレン基を表す。前記アルキレン基を構成する任意のアルキレン基は、酸素原子同士が隣接しない限り、酸素原子(-O-)やエステル基によって置換されていてもよい。
本態様の塗料組成物が上記の好ましいリン酸エステルを含むと、形成されるトップコート層の初期の密着性を向上させることができる。
【0032】
<光重合開始剤>
本態様の塗料組成物は、アクリルモノマーを容易に重合させることが可能である観点から、公知の光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤は、分子内開裂型光重合開始剤と、水素引き抜き型光重合開始剤とに分類することがあり、何れであってもよい。
分子内開裂型光重合開始剤は、それ自身が開裂して2つのラジカルを生させる光重合開始剤である。一方、水素引き抜き型光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって励起することにより、他の成分の水素を引き抜き、ラジカルを発生させる光重合開始剤である。
【0033】
<その他の任意成分>
(溶剤)
本態様の塗料組成物は、必要に応じて各種溶剤を含有してもよい。
溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン系溶剤;エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール系溶剤などが挙げられる。
溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
(他のモノマー、他の樹脂)
本態様の塗料組成物は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、上述したアクリルモノマー以外の重合性モノマー(他のモノマー)、及びアクリルポリマー以外の樹脂(他の樹脂)を含んでいても構わない。ただし、本発明の趣旨に照らして、他のモノマー及び他の樹脂の合計の含有量は、アクリルモノマー及びアクリルポリマーの合計の質量100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましく、3質量部以下が最も好ましい。
【0035】
(他の添加剤)
本態様の塗料組成物は、レベリング剤(表面調整剤)、耐候性付与剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、可塑剤、顔料沈降防止剤など、一般的な樹脂含有塗料に含まれる添加剤や、艶消し剤、染料、顔料を適量含んでいてもよい。適量としては、例えば、アクリルモノマー及びアクリルポリマーの合計の質量100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0036】
<塗料組成物の製造方法>
塗料組成物は、上述したアクリルモノマーと、リン酸エステルと、アクリルポリマーと、必要に応じて、光重合開始剤、溶剤、その他の任意成分とを、所定の割合にて混合することにより調製できる。
【実施例0037】
<試験片の準備>
スパッタリング装置(芝浦メカトロニクス株式会社製、「CFS-4EP-LL」)に、樹脂基材として5cm×13.5cmのABS樹脂製の板をセットし、常法に従い、樹脂基材の表面に直にステンレス(SUS316L)スパッタ膜(膜厚40nm)を形成し、試験片を得た。
【0038】
<塗料組成物の調製>
各実施例及び各比較例について、後述の表に示す固形分比率(質量比)で、紫外線硬化性アクリルモノマーであるウレタン系アクリレート及び/又は非ウレタン系アクリレートと、アクリルポリマーと、リン酸エステルと、レベリング材と、光重合開始剤と、耐候性付与剤と、溶剤とを混合して、液状の塗料組成物を調製した。
【0039】
<トップコート層の形成>
上記で得た試験片のステンレススパッタ膜に対して、硬化後の膜厚が表に記載の膜厚になるように各実施例及び各比較例の塗料組成物をエアスプレーで塗装し、60℃で5分間乾燥した。その後、高圧水銀灯により100mW/cm、1000mJ/cmで紫外線を照射し、トップコート層を形成した。これにより、樹脂基材、金属薄膜、トップコート層の順に積層された塗装体を得た。
得られた塗装体について以下に示す条件にて外観と密着性を評価した。その結果を表に示す。
【0040】
<初期の外観評価>
初期の塗装体の外観を以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:滑らかで美しい外観である。
4:問題のない外観である。
3:ゆず肌、または、タマリが見られた。
2:割れが少し見られた。
1:割れが多く見られた。
【0041】
<初期の密着性評価>
初期の塗装体のトップコート層上に、2mm幅で10×10の碁盤目状にカッターナイフで切れ目を入れ、碁盤目状のマス部分に粘着テープを貼着した後、急速に剥がす操作を行い、以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:トップコート層に剥離は全く見られなかった。
4:カット目以外の箇所にわずかなカケが見られた。
3:カット目に多数のカケが見られた。
2:カット目に大きな剥離が見られた。
1:樹脂基材と金属薄膜の間、または、金属薄膜とトップコート層の間で剥離が生じた。
【0042】
<耐ハンドクリーム性の外観評価>
初期の塗装体のトップコート層の表面に、ハンドクリーム(ニベア花王株式会社製、「商品名:アトリックス 尿素10%クリーム)を2.0g/100cmの量で均一に塗布した。この塗装体を80℃の恒温槽内で7日間放置した。その後、少量の中性洗剤を用いてハンドクリームを十分に洗浄し、乾燥した。乾燥後の塗装体のトップコート層の表面状態を目視にて観察し、以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:ハンドクリームによる跡は見られず、滑らかで美しい外観である。
4:ハンドクリームによる跡が見られた。
3:ハンドクリームによる跡と変色が見られた。
2:ハンドクリームによる跡と変色とチヂミが見られた。
1:ハンドクリームによる著しい劣化が見られ、割れが発生する場合もあった。
【0043】
<耐ハンドクリーム性の密着性評価>
耐ハンドクリーム性の外観評価を行った塗装体のトップコート層上に、2mm幅で10×10の碁盤目状にカッターナイフで切れ目を入れ、碁盤目状のマス部分に粘着テープを貼着した後、急速に剥がす操作を行い、以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:トップコート層に剥離は全く見られなかった。
4:カット目以外の箇所にわずかなカケが見られた。
3:カット目に多数のカケが見られた。
2:カット目に大きな剥離が見られ、その剥離は基材と金属薄膜の間で生じた。
1:カット目に関わらず大きな剥離が見られ、その剥離は基材と金属薄膜の間で生じた。
【0044】
<耐日焼け止め剤性の外観評価>
初期の塗装体のトップコート層の表面に、日焼け止め剤(株式会社資生堂製、「ANESSAパーフェクトUVサンスクリーンAA」)を0.5g/100cmの量で均一に塗布した。日焼け止め剤を塗布した塗装体を強制対流のない電気炉内(炉内温度55℃)で4時間放置した。その後、少量の中性洗剤を用いて塗膜の表面を十分に洗浄し、乾燥した。乾燥後の塗装体のトップコート層の表面状態を目視にて観察し、以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:日焼け止め剤による跡は見られず、滑らかで美しい外観である。
4:日焼け止め剤による跡が見られた。
3:日焼け止め剤による跡と変色が見られた。
2:日焼け止め剤による跡と変色とチヂミと、割れが少し見られた。
1:日焼け止め剤による著しい変化と、割れが多数見られた。
【0045】
<耐日焼け止め剤性の密着性評価>
耐日焼け止め剤の外観評価を行った塗装体のトップコート層上に、2mm幅で10×10の碁盤目状にカッターナイフで切れ目を入れ、碁盤目状のマス部分に粘着テープを貼着した後、急速に剥がす操作を行い、以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:トップコート層に剥離は全く見られなかった。
4:カット目以外の箇所にわずかなカケが見られた。
3:カット目に多数のカケが見られた。
2:カット目に大きな剥離が見られ、その剥離は基材と金属薄膜の間で生じた。
1:カット目に関わらず大きな剥離が見られ、その剥離は基材と金属薄膜の間で生じた。
【0046】
(耐湿性の外観評価)
初期の塗装体を50℃、95%RHの環境下に240時間放置した。その後、塗装体の外観を以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:変化はなく、初期の外観を維持した。
4:ほとんど変化はなかった。
3:僅かに白化が見られた。
2:明らかに白化が見られた。
1:広範囲の明らかな白化と、トップコート層の端の剥離が見られた。
【0047】
<耐湿性の密着性評価>
耐湿性の外観評価を行った塗装体のトップコート層上に、2mm幅で10×10の碁盤目状にカッターナイフで切れ目を入れ、碁盤目状のマス部分に粘着テープを貼着した後、急速に剥がす操作を行い、以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:トップコート層に剥離は全く見られなかった。
4:カット目以外の箇所にわずかなカケが見られた。
3:カット目に多数のカケが見られた。
2:カット目に大きな剥離が見られ、その剥離は基材と金属薄膜の間で生じた。
1:カット目に関わらず大きな剥離が見られ、その剥離は基材と金属薄膜の間で生じた。
【0048】
<耐衝撃性の外観評価>
初期の塗装体にデュポン式衝撃試験の方法で重さ、高さを変え、衝撃を与えた。その後、塗装体の外観を以下の評価基準(5が最も良く、1に向けて順に悪くなる。)にて評価した。
5:500g×50cmでワレ、剥がれが全く見られなかった。
4:300g×50cmでワレ、剥がれが全く見られなかったが、500g×50cmでワレ又は剥がれが見られた。
3:300g×20cmでワレ、剥がれが全く見られなかったが、300g×50cmでワレ又は剥がれが見られた。
2:300g×20cmで小さなワレが見られた。
1:300g×20cmで大きなワレ、剥がれが見られた。
【0049】
【表1A】
【0050】
【表1B】
【0051】
【表1C】
【0052】
【表1D】
【0053】
各表の略号は下記化合物を意味する。
<アクリルモノマー>
・IRR679:UV硬化性ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、溶剤=酢酸ブチル、含有量=30質量%、官能基数=2、粘度@25℃=1600mPa・s、密度@25℃=1.00g/cm
・KRM8528:UV硬化性ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、溶剤=酢酸エチル、含有量=20質量%、官能基数=4、粘度@25℃=4000mPa・s)
・KRM8200:UV硬化性ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、官能基数=6、粘度@60℃=1000mPa・s)
・KRM8452:UV硬化性ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、官能基数=10、粘度@60℃=1700mPa・s)
・IBOA-B:UV硬化性非ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、イソボルニルアクリレート、CAS登録番号:5888-33-5、官能基数=1)
・EBECRYL 130:UV硬化性非ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(TCDDA)、CAS登録番号:42594-17-2、官能基数=2)
・PETRA:UV硬化性非ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート、CAS登録番号:3524-68-3/4986-89-4、官能基数=3,4、酸価1mgKOH/g、OH価115mgKOH/g)
・DPHA:UV硬化性非ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、CAS登録番号:29570-58-9、官能基数=6)
【0054】
<アクリルポリマー>
(A-1)の合成;表2の質量割合で混合した重合性単量体の合計100重量部に対して、酢酸エチルを100質量部、アゾビスイソブチロニトリルを4.0質量部、三口の反応容器に入れた。ついで、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換し、窒素雰囲気中、攪拌下で、反応容器内の反応溶液を75℃まで昇温し、8時間反応させた。反応後、反応容器内の液を酢酸エチルで希釈し、固形分40質量%に調整し、質量平均分子量28000のアクリル系共重合体(A-1)の溶液を得た。
他のアクリルポリマーについても(A-1)と同様にして、ただし重合性単量体を表2の内容で変更し、アゾビスイソブチロニトリルの量と、反応時間を変化させて、アクリル系共重合体(A-2)~(A-6)を合成した。
【0055】
アクリル系共重合体のガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量計(島津製作所社製、「DSC-60A」)を用い測定した。
アクリル系共重合体の質量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエションクロマトグラフィ)により測定した。
【0056】
【表2】
【0057】
表2中の略号は以下のものを示す。
・MMA:メチルメタクリレート
・n-BMA:n-ブチルメタクリレート
・IBX-MA:イソボニルメタクリレート
・BA:ブチルアクリレート
・AIBN:2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)
【0058】
<リン酸エステル>
・Kayamaer PM-2(日本火薬株式会社製、りん酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル])
【0059】
<レベリング剤>
・KP-341:ポリエーテル型表面改質剤(信越シリコーン株式会社製、ポリエーテル変性タイプ)
【0060】
<光開始剤>
・Omnirad 184(IGM Resins B.V.製、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)
・Omnirad TPO (IGM Resins B.V.製、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド)
・Omnirad 754(IGM Resins B.V.製、オキシ-フェニル-アセチック-アシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステルとオキシ-フェニル-アセチック-アシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステルの混合物
【0061】
<耐候性付与剤>
・Tinuvin 1130:5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルベンゼンプロパン酸メチル
・Tinuvin 400:2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[3-(ドデシルオキシ)-2―ヒドロキシプロポキシ]フェノール)
・Tinuvin 123:デカン二酸ビス[2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル]
【0062】
<考察>
各実施例の塗料組成物は、樹脂基材上に直に形成された金属薄膜の表面に対する密着性に優れたトップコート層を形成することができた。また、形成直後の初期の外観及び密着性、耐ハンドクリーム性における外観及び密着性、耐日焼け止め剤性における外観及び密着性、耐湿性における外観及び密着性、耐衝撃性における外観の各評価のバランスに優れていた。
逆にバランスに優れない場合とは、初期の密着性の評価値が「2」又は「1」である場合、或いは、初期の密着性の評価が「3」以下であり、かつ、初期の密着性以外の他の8項目の5段階評価において、2つ以上の項目で「2」又は「1」の評価値がある場合をいう。
【0063】
各実施例の中では、実施例6はアクリルモノマーの含有量及びリン酸エステルの含有量が他の実施例よりも相対的に少ないので、初期の外観及び密着性、耐ハンドクリーム性における外観及び密着性、耐湿性における外観及び密着性の点で、他の実施例よりも劣っていた。
【0064】
各実施例の中では、実施例26の塗料組成物は含有するアクリルポリマーのTgが80℃未満であるので、耐ハンドクリーム性における密着性の点で、他の実施例よりも著しく劣っていた。
各実施例の中では、実施例27の塗料組成物は含有するアクリルポリマーのTgが80℃未満であるので、耐ハンドクリーム性における密着性の点で、他の実施例よりも著しく劣っていた。
各実施例の中では、実施例28の塗料組成物はTgが異なる2種のアクリルポリマーを含み、Tgが80℃未満のアクリルポリマーの方を多く含むので、耐ハンドクリーム性における密着性の点で、他の実施例よりも著しく劣っていた。
【0065】
各実施例の中では、実施例29の塗料組成物は含有するアクリルモノマーが1官能であるので、耐ハンドクリーム性における外観、耐日焼け止め剤性における外観、耐湿性における外観及び密着性の点で、他の実施例よりも劣っていた。
【0066】
比較例1の塗料組成物はアクリルポリマーを含まないので、初期の密着性が悪かった。また、耐ハンドクリーム性における外観及び密着性、耐日焼け止め剤性における外観及び密着性、耐湿性における外観及び密着性、耐衝撃性における外観の評価値が全て「2」又は「1」であった。
【0067】
比較例2の塗料組成物は、アクリルモノマーに対するアクリルポリマーの含有比率が高過ぎるので、初期の外観、耐ハンドクリーム性における外観及び密着性、耐日焼け止め剤性における外観、耐湿性における外観及び密着性、耐衝撃性における外観の評価値が全て「2」又は「1」であった。
【0068】
比較例3の塗料組成物は、リン酸エステルを含まないので、初期の密着性が悪かった。このため、他の評価は行わなかった。
比較例4の塗料組成物は、リン酸エステルの含有比率が高過ぎるので、耐日焼け止め剤性における密着性と、耐湿性における密着性の評価値が「2」であった。