(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126799
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法、プログラム、及び過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20240912BHJP
【FI】
F03D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035441
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(71)【出願人】
【識別番号】502444733
【氏名又は名称】日軽金アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】原 豊
(72)【発明者】
【氏名】樋上 博幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 博光
(72)【発明者】
【氏名】小池 洋光
(72)【発明者】
【氏名】小野 猛
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA16
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB08
3H178BB56
3H178CC05
3H178DD54Z
3H178EE05
3H178EE07
3H178EE14
3H178EE27
(57)【要約】
【課題】過回転抑制誘導体を備えた垂直軸風車の特性評価方法、プログラム、及び過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置を提供すること。
【解決手段】本発明の過回転抑制誘導体を備えた垂直軸風車の特性評価方法は、風車本体部分10の回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップと、過回転抑制部分の回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップと、第1回転トルクと第2回転トルクから垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップとを有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車本体部分と、過回転抑制部分とから構成され、
前記風車本体部分は、
発電部を有する基部と、
前記基部に対して垂直軸周りに回転する回転部と、
前記回転部にアームを介して連結されて前記垂直軸周りに回転する複数の風車翼と
を備え、
前記過回転抑制部分は、
前記アームに設けられ、前記回転部と前記風車翼とを結ぶアーム軸の軸周りに回転可能な過回転抑制用の可動部と、
前記可動部に設けられ、前記風車翼の回転時に生じる遠心力、空気力、及び重力の作用によって前記可動部を前記アーム軸周りに傾斜させ、前記風車翼の回転停止時には前記可動部を初期状態に戻す過回転抑制誘導体と
を備える
過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法であって、
前記風車本体部分の前記回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップと、
前記過回転抑制部分の前記回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップと、
前記第1回転トルクと前記第2回転トルクから前記垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップと
を有することを特徴とする過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法。
【請求項2】
前記風車本体部分及び前記過回転抑制部分の翼形状に関する空力データ、前記風車本体部分の構造に関する第1構造データ、及び前記過回転抑制部分の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、
前記第1回転トルク算出ステップで算出される前記第1回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、前記入力ステップでの前記第1構造データを変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法。
【請求項3】
前記風車本体部分及び前記過回転抑制部分の翼形状に関する空力データ、前記風車本体部分の構造に関する第1構造データ、及び前記過回転抑制部分の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、
前記第2回転トルク算出ステップで算出される前記第2回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、前記入力ステップでの前記第2構造データを変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法。
【請求項4】
前記風車本体部分及び前記過回転抑制部分の翼形状に関する空力データ、前記風車本体部分の構造に関する第1構造データ、及び前記過回転抑制部分の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、
前記風車全体回転トルク算出ステップで算出される前記風車全体回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、前記入力ステップでの前記空力データ、前記第1構造データ、及び前記第2構造データの少なくともいずれかを変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法。
【請求項5】
風車本体部分と、過回転抑制部分とから構成され、
前記風車本体部分は、
発電部を有する基部と、
前記基部に対して垂直軸周りに回転する回転部と、
前記回転部にアームを介して連結されて前記垂直軸周りに回転する複数の風車翼と
を備え、
前記過回転抑制部分は、
前記アームに設けられ、前記回転部と前記風車翼とを結ぶアーム軸の軸周りに回転可能な過回転抑制用の可動部と、
前記可動部に設けられ、前記風車翼の回転時に生じる遠心力、空気力、及び重力の作用によって前記可動部を前記アーム軸周りに傾斜させ、前記風車翼の回転停止時には前記可動部を初期状態に戻す過回転抑制誘導体と
を備える
過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法を行うプログラムであって、
コンピュータに、
前記風車本体部分の前記回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップと、
前記過回転抑制部分の前記回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップと、
前記第1回転トルクと前記第2回転トルクから前記垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップと
を実行させるためのプログラム。
【請求項6】
前記コンピュータに、
前記風車本体部分及び前記過回転抑制部分の翼形状に関する空力データ、前記風車本体部分の構造に関する第1構造データ、及び前記過回転抑制部分の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップ
を実行させ、
前記入力ステップで受け付けた前記空力データ、前記第1構造データ、及び前記第2構造データを用いて、前記第1回転トルク算出ステップ及び前記第2回転トルク算出ステップを実行させるための請求項5に記載のプログラム。
【請求項7】
風車本体部分と、過回転抑制部分とから構成され、
前記風車本体部分は、
発電部を有する基部と、
前記基部に対して垂直軸周りに回転する回転部と、
前記回転部にアームを介して連結されて前記垂直軸周りに回転する複数の風車翼と
を備え、
前記過回転抑制部分は、
前記アームに設けられ、前記回転部と前記風車翼とを結ぶアーム軸の軸周りに回転可能な過回転抑制用の可動部と、
前記可動部に設けられ、前記風車翼の回転時に生じる遠心力、空気力、及び重力の作用によって前記可動部を前記アーム軸周りに傾斜させ、前記風車翼の回転停止時には前記可動部を初期状態に戻す過回転抑制誘導体と
を備える
過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置であって、
前記風車本体部分の前記回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出手段と、
前記過回転抑制部分の前記回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出手段と、
前記第1回転トルクと前記第2回転トルクから前記垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出手段と
を有することを特徴とする過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直軸風車に関するもので、更に詳細には、過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法、この特性評価方法を行うプログラム、及び過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装に関する。
【背景技術】
【0002】
水平軸風車は商業的理由から一般的に大型であり、強風に晒される海岸線、山岳地帯等に設置場所が限定される、一方、小型の垂直軸風車は平均風速3.7m/s程度の風でも発電可能であるため、日本中のほぼ全域で設置可能であり、地元で発電し地元で消費する地産地消型に適し、期待度の高い風車である。
出願人らは、水平軸風車に比べて低風速である垂直軸風車として、発電部を有する基部と、基部に対して垂直軸周りに回転する回転部と、回転部にアームを介して連結されて垂直軸周りに回転する複数の風車翼とを備え、アームは、回転部と風車翼とを結ぶアーム軸の軸周りに回転可能な過回転抑制用の可動部を有し、可動部に、風車の回転時に生じる遠心力、空気力、及び重力の作用によって可動部をアーム軸周りに傾斜させ、風車の回転停止時には可動部を初期状態に戻す過回転抑制誘導体を備えた垂直軸風車を既に提案している(特許文献1)。
なお、特許文献2では、垂直軸風車(主にダリウス形風車)について、ブレードの自重を抑制でき、かつ、ブレードに発生する曲げモーメントがブレードスパン方向に変化しても、曲げ応力σ M A Xをある設定値以下に抑える垂直軸風車のブレード、垂直軸風車、垂直軸風車のブレードの設計装置および方法、並びに垂直軸風車のブレードの設計プログラムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-108917号公報
【特許文献2】特開2004-308643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示している過回転抑制誘導体を備えた垂直軸風車によれば、ばねなどの弾性体を不要にし、耐久性が高く、シンプル構造であり、かつ、強風状態における風車回転数は定格回転数(最大回転数)よりも十分に低い状態に抑制することができる。
しかし、このような過回転抑制誘導体を備えた垂直軸風車の特性を評価する方法を確立する必要がある。
なお、特許文献2では、ブレード及びブレード支持部材を設計対象としており、一つの動作体系である風車本体のみの設計であり、互いに動作体系が異なる部分を有する風車についての設計方法を提案していない。
【0005】
本発明は、過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法、プログラム、及び過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法は、風車本体部分10と、過回転抑制部分20とから構成され、前記風車本体部分10は、発電部を有する基部11と、前記基部11に対して垂直軸Z周りに回転する回転部12と、前記回転部12にアーム13を介して連結されて前記垂直軸Z周りに回転する複数の風車翼14とを備え、前記過回転抑制部分20は、前記アーム13に設けられ、前記回転部12と前記風車翼14とを結ぶアーム軸13aの軸周りに回転可能な過回転抑制用の可動部21と、前記可動部21に設けられ、前記風車翼14の回転時に生じる遠心力、空気力、及び重力の作用によって前記可動部21を前記アーム軸13a周りに傾斜させ、前記風車翼14の回転停止時には前記可動部21を初期状態に戻す過回転抑制誘導体22とを備える過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法であって、前記風車本体部分10の前記回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップと、前記過回転抑制部分20の前記回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップと、前記第1回転トルクと前記第2回転トルクから前記垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップとを有することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法において、前記風車本体部分10及び前記過回転抑制部分20の翼形状に関する空力データ、前記風車本体部分10の構造に関する第1構造データ、及び前記過回転抑制部分20の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、前記第1回転トルク算出ステップで算出される前記第1回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、前記入力ステップでの前記第1構造データを変更することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法において、前記風車本体部分10及び前記過回転抑制部分20の翼形状に関する空力データ、前記風車本体部分10の構造に関する第1構造データ、及び前記過回転抑制部分20の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、前記第2回転トルク算出ステップで算出される前記第2回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、前記入力ステップでの前記第2構造データを変更することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1に記載の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法において、前記風車本体部分10及び前記過回転抑制部分20の翼形状に関する空力データ、前記風車本体部分10の構造に関する第1構造データ、及び前記過回転抑制部分20の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、前記風車全体回転トルク算出ステップで算出される前記風車全体回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、前記入力ステップでの前記空力データ、前記第1構造データ、及び前記第2構造データの少なくともいずれかを変更することを特徴とする。
請求項5記載の本発明のプログラムは、風車本体部分10と、過回転抑制部分20とから構成され、前記風車本体部分10は、発電部を有する基部11と、前記基部11に対して垂直軸Z周りに回転する回転部12と、前記回転部12にアーム13を介して連結されて前記垂直軸Z周りに回転する複数の風車翼14とを備え、前記過回転抑制部分20は、前記アーム13に設けられ、前記回転部12と前記風車翼14とを結ぶアーム軸13aの軸周りに回転可能な過回転抑制用の可動部21と、前記可動部21に設けられ、前記風車翼14の回転時に生じる遠心力、空気力、及び重力の作用によって前記可動部21を前記アーム軸13a周りに傾斜させ、前記風車翼14の回転停止時には前記可動部21を初期状態に戻す過回転抑制誘導体22とを備える過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法を行うプログラムであって、コンピュータに、前記風車本体部分10の前記回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップと、前記過回転抑制部分20の前記回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップと、前記第1回転トルクと前記第2回転トルクから前記垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法のプログラムにおいて、前記コンピュータに、前記風車本体部分10及び前記過回転抑制部分20の翼形状に関する空力データ、前記風車本体部分10の構造に関する第1構造データ、及び前記過回転抑制部分20の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを実行させ、前記入力ステップで受け付けた前記空力データ、前記第1構造データ、及び前記第2構造データを用いて、前記第1回転トルク算出ステップ及び前記第2回転トルク算出ステップを実行させることを特徴とする。
請求項7記載の本発明の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置は、風車本体部分10と、過回転抑制部分20とから構成され、前記風車本体部分10は、発電部を有する基部11と、前記基部11に対して垂直軸Z周りに回転する回転部12と、前記回転部12にアーム13を介して連結されて前記垂直軸Z周りに回転する複数の風車翼14とを備え、前記過回転抑制部分20は、前記アーム13に設けられ、前記回転部12と前記風車翼14とを結ぶアーム軸13aの軸周りに回転可能な過回転抑制用の可動部21と、前記可動部21に設けられ、前記風車翼14の回転時に生じる遠心力、空気力、及び重力の作用によって前記可動部21を前記アーム軸13a周りに傾斜させ、前記風車翼14の回転停止時には前記可動部21を初期状態に戻す過回転抑制誘導体22とを備える過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置であって、前記風車本体部分10の前記回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出手段と、前記過回転抑制部分20の前記回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出手段と、前記第1回転トルクと前記第2回転トルクから前記垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、風車本体部分の慣性モーメントと、過回転抑制部分の慣性モーメントとを、それぞれの運動方程式を使用して、風車本体部分の回転速度変化と過回転抑制部分の回転速度変化を、分離して求めるに際し、風車本体部分のトルクと過回転抑制部分のトルクとを分けて解析しているので、過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の挙動を解析するシミュレーション解析を極めて簡単に行うことができる。このため、シミュレーション結果に基づく風車設計や風車の実測値に基づく風車設計を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の全体構成図
【
図3】同垂直軸風車の特性評価方法を示すフローチャート
【
図6】風車本体部分の計算条件設定ステップの説明図
【
図11】過回転抑制部分が存在しない場合の出力係数(Cp)(Without MA)と、過回転抑制部分が存在する場合の出力係数(Cp)(With MA)の比較を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法は、風車本体部分の回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップと、過回転抑制部分の回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップと、第1回転トルクと第2回転トルクから垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップとを有するものである。
本実施の形態によれば、風車本体部分のトルクと過回転抑制部分のトルクとを分けて解析しているので、過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の挙動を解析するシミュレーション解析を極めて簡単に行うことができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法において、風車本体部分及び過回転抑制部分の翼形状に関する空力データ、風車本体部分の構造に関する第1構造データ、及び過回転抑制部分の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、第1回転トルク算出ステップで算出される第1回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、入力ステップでの第1構造データを変更するものである。
本実施の形態によれば、風車本体部分の最適設計を行いやすい。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法において、風車本体部分及び過回転抑制部分の翼形状に関する空力データ、風車本体部分の構造に関する第1構造データ、及び過回転抑制部分の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、第2回転トルク算出ステップで算出される第2回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、入力ステップでの第2構造データを変更するものである。
本実施の形態によれば、過回転抑制部分の最適設計を行いやすい。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法において、風車本体部分及び過回転抑制部分の翼形状に関する空力データ、風車本体部分の構造に関する第1構造データ、及び過回転抑制部分の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを有し、風車全体回転トルク算出ステップで算出される風車全体回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、入力ステップでの空力データ、第1構造データ、及び第2構造データの少なくともいずれかを変更するものである。
本実施の形態によれば、風車本体部分や過回転抑制部分の最適設計を行いやすい。
【0013】
本発明の第5の実施の形態による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法を行うプログラムは、コンピュータに、風車本体部分の回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップと、過回転抑制部分の回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップと、第1回転トルクと第2回転トルクから垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップとを実行させるものである。
本実施の形態によれば、風車本体部分のトルクと過回転抑制部分のトルクとを分けて解析しているので、過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の挙動を解析するシミュレーション解析を極めて簡単に行うことができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法を行うプログラムにおいて、コンピュータに、風車本体部分及び過回転抑制部分の翼形状に関する空力データ、風車本体部分の構造に関する第1構造データ、及び過回転抑制部分の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを実行させ、入力ステップで受け付けた空力データ、第1構造データ、及び第2構造データを用いて、第1回転トルク算出ステップ及び第2回転トルク算出ステップを実行させるものである。
本実施の形態によれば、風車本体部分の最適設計を行いやすい。
【0015】
本発明の第7の実施の形態による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置は、風車本体部分の回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出手段と、過回転抑制部分の回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出手段と、第1回転トルクと第2回転トルクから垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出手段とを有するものである。
本実施の形態によれば、風車本体部分のトルクと過回転抑制部分のトルクとを分けて解析しているので、過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の挙動を解析するシミュレーション解析を極めて簡単に行うことができる。
【実施例0016】
以下本発明の一実施例による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法について説明する。
図1は本実施例による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の全体構成図、
図2は同垂直軸風車の要部斜視図である。
本実施例による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車は、風車本体部分10と、過回転抑制部分20とから構成されている。
風車本体部分10は、発電部(図示せず)を有する基部11と、基部11に対して垂直軸Z周りに回転する回転部12と、回転部12にアーム13を介して連結されて垂直軸Z周りに回転する複数の風車翼14とを備えている。本実施例では、風車翼14を3枚としている。
基部11は、同垂直軸風車の土台となる部分である。基部11は、所定の高さに形成される脚部11aと、発電部を収容する収容部11bとを備えている。風車翼14は、脚部11aによって設置面から所定の高さに配置される。
風車翼14は、垂直軸Zから離れるにつれて互いの間隔が広くなるように回転部12から延びる一対の斜翼14bと、垂直軸Zに平行な方向に沿って延びる主翼14aとを有する。風車翼14は、側面視で、水平軸Xに対して対称に略三角形状に形成されている。なお、ここでいう略三角形状とは、風車翼14の全体形状が三角形に近い形状であることをいい、三角形の角部が湾曲したものや、三辺のいずれかが湾曲したものを含む。風車翼14は、前縁が湾曲し後縁が尖った流線形の翼断面で形成している。
【0017】
過回転抑制部分20は、過回転抑制用の可動部21と、過回転抑制誘導体22とを備えている。
可動部21は、アーム13の一部に設けられている。可動部21は、回転部12と風車翼14とを結ぶアーム軸13aの軸周りに回転可能である。
過回転抑制誘導体22は、可動部21に設けられている。過回転抑制誘導体22は、風車翼14の回転時に生じる遠心力、空気力、及び重力の作用によって可動部21をアーム軸13a周りに傾斜させ、風車翼14の回転停止時には可動部21を初期状態に戻す。
本実施例では、可動部21及び過回転抑制誘導体22は、風車翼14と同一形状とした翼断面で形成しているが、風車翼14と異なる形状とした翼断面で形成してもよい。
【0018】
図2(a)は過回転抑制を行っていない状態での同垂直軸風車の要部斜視図、
図2(b)は過回転抑制を行っている状態での同垂直軸風車の要部斜視図である。
風速が高くなり、風車翼14が高回転数状態になってくると、過回転抑制誘導体22に働く遠心力の回転方向成分F1が大きくなり、過回転抑制誘導体22に働く遠心力の回転方向成分F1による頭上げのモーメントが大きくなれば、傾斜角θ
2は増加する。
傾斜角θ
2が増加することで、可動部21の風車回転方向から見た投影面積が大きくなり、可動部21には、空気力による大きな制動力F2が作用し、風車の過回転を抑制する。強風状態では、低い回転数状態においても、大きな制動力を生み出す。その結果として、強風状態では、風車翼14は低い回転数に抑制される。
【0019】
図3は本実施例による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法を示すフローチャートである。
本実施例による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法では、風車本体部分10の回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップ30と、過回転抑制部分20の回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップ40と、第1回転トルクと第2回転トルクから垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップ50とからなる。
第1回転トルク算出ステップ30は、風車本体部分10の翼形状に関する空力データを準備し(S31)、風車本体部分10の構造に関する第1構造データが入力され(S32)、風車本体部分10の計算条件が設定されることで(S33)、風車本体部分10の回転部周りの第1回転トルクを算出する。
第2回転トルク算出ステップ40は、過回転抑制部分20の構造に関する第2構造データが入力されることで(S41)、過回転抑制部分20の回転部周りの第2回転トルクを算出する。なお、本実施例では、可動部21及び過回転抑制誘導体22を、風車翼14と同一形状とした翼断面で形成しているため、空力データ準備ステップ31での空力データを、第2回転トルク算出ステップ40で用いることができる。
第1回転トルク算出ステップ30で算出される第1回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、第1構造データ入力ステップ32での構造データを変更する。
第2回転トルク算出ステップ40で算出される第2回転トルクが所定の回転トルクとならない場合には、第2構造データ入力ステップ41での構造データを変更する。
【0020】
コンピュータは、第1回転トルク算出ステップ30と、第2回転トルク算出ステップ40と、風車全体回転トルク算出ステップ50とを実行する。
また、コンピュータは、風車本体部分10及び過回転抑制部分20の翼形状に関する空力データ、風車本体部分10の構造に関する第1構造データ、及び過回転抑制部分20の構造に関する第2構造データの入力を受け付け、受け付けた空力データ、第1構造データ、及び第2構造データを用いて、第1回転トルク算出ステップ30及び第2回転トルク算出ステップ40を実行する。
本実施例によるプログラムは、コンピュータに、風車本体部分10の回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出ステップ30と、過回転抑制部分20の回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出ステップ40と、第1回転トルクと第2回転トルクから垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出ステップ50とを実行させる。
また、本実施例によるプログラムは、コンピュータに、風車本体部分10及び過回転抑制部分20の翼形状に関する空力データ、風車本体部分10の構造に関する第1構造データ、及び過回転抑制部分20の構造に関する第2構造データの入力を受け付ける入力ステップを実行させ、入力ステップで受け付けた空力データ、第1構造データ、及び第2構造データを用いて、第1回転トルク算出ステップ30及び第2回転トルク算出ステップ40を実行させる。
【0021】
なお、コンピュータは、第1回転トルク算出ステップ30で算出される第1回転トルクが、あらかじめ設定した設定回転トルクとならないと判断した場合には、入力ステップでの第1構造データを変更することを促すこともできる。
また、コンピュータは、第2回転トルク算出ステップ40で算出される第2回転トルクが、あらかじめ設定した設定回転トルクとならないと判断した場合には、入力ステップでの第2構造データを変更することを促すこともできる。
また、コンピュータは、風車全体回転トルク算出ステップ50で算出される風車全体回転トルクが、あらかじめ設定した設定回転トルクとならないと判断した場合には、入力ステップでの空力データ、第1構造データ、及び第2構造データの少なくともいずれかを変更することを促すこともできる。
【0022】
また、本実施例によるプログラムは、コンピュータに、第1回転トルク算出ステップ30で算出される第1回転トルクがあらかじめ設定した設定回転トルクを満たすか否かを判断させ、コンピュータが、算出される第1回転トルクがあらかじめ設定した設定回転トルクとならないと判断した場合には、入力ステップでの第1構造データの変更を促すことをコンピュータに実行させる。
また、本実施例によるプログラムは、コンピュータに、第2回転トルク算出ステップ40で算出される第2回転トルクがあらかじめ設定した設定回転トルクを満たすか否かを判断させ、コンピュータが、算出される第2回転トルクがあらかじめ設定した設定回転トルクとならないと判断した場合には、入力ステップでの第2構造データの変更を促すことをコンピュータに実行させる。
また、本実施例によるプログラムは、コンピュータに、風車全体回転トルク算出ステップ50で算出される風車全体回転トルクがあらかじめ設定した設定回転トルクを満たすか否かを判断させ、コンピュータが、算出される風車全体回転トルクがあらかじめ設定した設定回転トルクとならないと判断した場合には、入力ステップでの空力データ、第1構造データ、及び第2構造データの少なくともいずれかの変更を促すことをコンピュータに実行させる。
なお、このようなプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して用いられる他、コンピュータに記録されて、又はクラウドサーバからダウンロードして用いることができる。
【0023】
本実施例による過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置は、風車本体部分10の回転部周りの第1回転トルクを算出する第1回転トルク算出手段と、過回転抑制部分20の回転部周りの第2回転トルクを算出する第2回転トルク算出手段と、第1回転トルクと第2回転トルクから垂直軸風車の風車全体回転トルクを算出する風車全体回転トルク算出手段とを有する。
【0024】
図4は、空力データ準備ステップの説明図である。
空力データ準備ステップ31では、風車翼14の任意の迎角α(-180度~+180度)での、レイノルズ数Re毎の揚力係数Cl、抗力係数Cd、モーメント係数Cmを準備する。
風車翼14の空力データについては、NACA0018などの公開データを用いるか、計算で得たデータを用いることができる。
【0025】
図5は、風車本体部分の第1構造データ入力ステップの説明図である。ここで、同図(a)は風車本体部分10の断面形状を示し、同図(b)は風車本体部分の全体を示す図である。
風車本体部分の構造データ入力ステップ32では、設計データとして、風車翼14の翼弦長c、垂直軸Zを中心として回転する風車翼14の直径φd、及び風車翼14のスパンとなる高さhを入力する。
【0026】
図6は、風車本体部分の計算条件設定ステップの説明図である。ここで、同図(a)は風車本体部分10の風車翼14を長さ方向に単位長さ(翼素長さ)dlに分割(翼素解析)する状態を示し、同図(b)は各翼素dlにおける入力の風速V
0と風車翼14との関係を模式図的に示す図である。
風車本体部分の計算条件設定ステップ33の実施例では、3枚の風車翼14を有するが、1枚の風車翼14の単位長さ(翼素長さ)dlについて、この翼素長さdlが、ある微小なアジマスΨ(方位角)の範囲(ΔΨ=1度と設定)にある場合の、抗力Dと揚力Lを計算し、翼素長さdlを360°にわたって計算し、合算(積分)して、さらに、風車翼14の高さ方向(スパン方向)にわたって合算(積分)して、1枚の風車翼14が発生する第1回転トルクQ
1の平均値を求め、それに翼枚数Z(本実施例では3)を乗じて、風車翼14による第1回転トルクQ
10を算出する。なお、アジマスΨ(方位角)、抗力Dと揚力Lの関係については
図8及び対応の部分で説明する。
計算条件設定ステップ33では、風速をV
0、回転数をN、先端周速比をλとすると、
λ=Rω
1/V
0
N=30ω
1/π
と設定する。なお、Rは垂直軸Zから風車翼14の翼素までの距離(回転半径)、ω
1は風車翼14の翼素の角速度である。
【0027】
図7は、第1回転トルク算出ステップ30に用いる式である。
主翼14aによる垂直軸Z周りのトルクをQ
1a(Ψ)、斜翼14bによる垂直軸Z周りのトルクをQ
1b(Ψ)、アームによる垂直軸Z周りのトルクをQ
1c(Ψ)とすると、1枚の風車翼14についての第1回転トルクQ
1(Ψ)は次式で表される。
Q
1(Ψ)=Q
1a(Ψ)+Q
1b(Ψ)+Q
1c(Ψ)
【0028】
主翼14aによる垂直軸Z周りのトルク:Q1a(Ψ)
主翼14aのj番目の要素の翼断面内において、翼弦方向に作用する力をdF_cd(j)、これに垂直な方向の力をdF_nd(j)と定義し、この翼素断面に作用する揚力をdL、抗力をdD、迎角をαとすれば、翼要素断面内の力dF_cd(j)とdF_nd(j)は、それぞれ式(1)と(2)で表される。
【0029】
主翼14aのj番目の要素の翼断面内に作用する空気力の主流方向成分をdF1(j)、主流と垂直で水平方向の成分をdF2(j)と定義すると、翼の取付角(ピッチ角)を0°とした場合には、dF1(j)とdF2(j)はアジマスΨの関数として、それぞれ式(3)と(4)で表される。
主翼14aのj番目の要素に働く軌道円の接線方向の力をdFY(j)と定義すると式(5)で表される。ただし、回転方向をプラスとする。
式(5)に式(3)と(4)を代入して整理すると次のように、接線方向の力dFY(j)は翼弦方向に作用する力dF_cd(j)と同じであることがわかる(式(6))。(翼の取付角を0°としている。)
【0030】
垂直軸Zから主翼14aのj番目の要素までの距離をR1(j)とすれば、主翼14aのj番目の要素が、垂直軸Z周りに発生する回転トルクdQ1a(j)は式(7)で表される。
あるいは、式(1)を用いると式(8)となる。
【0031】
主翼14aの長手方向にあるすべての要素について、式(8)で与えられる回転トルクを足し合わせると、アジマスΨにおける主翼14aの垂直軸Z周りのトルクQ1(Ψ)が式(9)のように求まる。
【0032】
斜翼14bの垂直軸Z周りのトルク:Q1b(Ψ)
斜翼14bのj番目の要素の翼断面内において、翼弦方向に作用する力をdF_cd(j)、これに垂直な方向の力をdF_nd(j)と定義し、この翼素断面に作用する揚力をdL、抗力をdD、迎角をαとすれば、翼要素断面内の力dF_cd(j)とdF_nd(j)は、それぞれ式(10)と(11)で表される。
【0033】
斜翼14bの鉛直方向からの傾き角をγとする。バタフライ風車の場合、上半分の斜翼14bの傾き角は翼要素に依らず一定であり、それを正の値を取る傾き角γとすれば、ロータが上下対称であるため、下半分の傾き角は-γとなる。しかし、傾き角の余弦は傾き角の正負によらずcosγは一定の正の定数となる。
このとき、斜翼14bのj番目の要素の翼断面内に作用する空気力の主流方向成分をdF1(j)、主流と垂直で水平方向の成分をdF2(j)と定義すると、翼の取付角(ピッチ角)を0°とした場合には、dF1(j)とdF2(j)はアジマスΨの関数として、それぞれ式(12)と(13)で表される。
斜翼14bのj番目の要素に働く軌道円の接線方向の力をdFY(j)と定義すると式(14)で表される。ただし、回転方向をプラスとする。
【0034】
式(14)に式(12)と(13)を代入して整理すると式(15)のように、接線方向の力dFY(j)は翼弦方向に作用する力dF_cd(j)と同じであることがわかる。(翼の取付角を0°としているため。)
【0035】
垂直軸Zから斜翼14bのj番目の要素までの距離をR2(j)とすれば、斜翼14bのj番目の要素が、垂直軸Z周りに発生する回転トルクdQ1b(j)は式(16)で表される。
あるいは、式(10)を用いると式(17)となる。
【0036】
斜翼14bの長手方向にあるすべての要素について、式(16)で与えられる回転トルクを足し合わせると、アジマスΨにおける斜翼14bの垂直軸Z周りのトルクQ1b(Ψ)が式(18)のように求まる。
【0037】
アーム13の風車回転軸周りのトルク:Q1c(Ψ)
アーム13のj番目の要素に作用する抗力(水平方向でロータ回転と逆方向をプラスとする)をdD3(j)、風車回転軸からアーム13のj番目の要素までの距離をR3(j)とすれば、アーム13のj番目の要素が、風車回転軸周りに発生する回転トルクdQ1c(j)は式(19)で表される。
なお、アーム13の抗力dD3(j)は、可動部21の傾斜角θ2とその角速度ω2に依存せず、風車の回転角速度ω1には依存する。しかし、それは可動部21や過回転抑制誘導体22の抗力でも同様であり、明らかであることと表式が煩雑になることを避けるため、ω1への依存は明示していない。
アーム13の長手方向にあるすべての要素について、式(19)で与えられる回転トルクを足し合わせると、アジマスΨにおけるアーム13の風車回転軸周りのトルクQ1c(Ψ)が式(20)のように求まる。
【0038】
図8は、第1回転トルク算出ステップの説明図である。なお、ここでは主翼14aによる垂直軸Z周りのトルクQ
1aの算出について説明する。
第1回転トルク算出ステップ30では、翼素運動量複合理論(BEM)より、回転翼の風速uを算出し、算出した風速uと空力データからロータの回転トルクQ
1aを求める。
翼素運動量複合理論(BEM)は、未知の風速uを求めるために、誘導速度係数aを適当に想定して、運動量理論で求まるスラスト係数C
Tmと、翼素理論で求まるスラスト係数C
Tbの差がほぼ0になるまで、少しずつ誘導速度係数aを変えて繰り返し計算を行い、スラスト係数C
Tmとスラスト係数C
Tbとが同じ値となった場合の誘導速度係数aの値、すなわちu=(1-a)V∞の値を決定する方法である。
なお、翼素理論は、空力係数から空気力を求めるもので、翼素に流入する風速uの値が1つ与えられた場合に、揚力係数や抗力係数から、その翼素に働く力(スラスト係数C
Tbと出力係数C
Pb)が求まる方法である。
【0039】
式(21)は、風車ロータの運動方程式である。
本実施例における特性予測は、定常状態(回転数一定)の予測であるため、式(21)に示す風車ロータの運動方程式(21)では左辺の加速度項は0となる。なお、式(21)に示すI
1は風車ロータの回転軸まわりの慣性モーメント、Q
totalは風車全体回転トルク、Q
Lは負荷トルク(発電機トルク)、ω
1は風車ロータの回転角速度である。
各流管の中にあって、任意のアジマス方向にある翼素を通過する風速uが、
図8(b)に示すように、翼素運動量複合理論(BEM)の結果として決まったならば、仮定している一定回転数に相当する角速度ω
1とロータ半径R
1の積で与えられる移動速度と反対の相対風速R
1ω
1と風速uのベクトル的合成によって、翼素が見る相対風速V
relが決まる。
また、相対風速V
relから、翼弦長cに基づくレイノルズ数Re=V
rel×u/(μ/ρ)が決まる(ここでμは流体[空気]の粘性係数)。
従って、空力データ準備ステップ31で準備している翼型の空力係数データを、
図8(b)の翼素における揚力係数CL(α, Re)と抗力係数CD(α, Re)とに用いることで、補間計算によって算出できる(簡単にするため、モーメント係数は省略)。
【0040】
風車翼14を高さ方向にN分割して、各翼素のスパン長をdlとするならば、式(22)式(23)から翼素に作用する揚力Lと抗力Dが求められる。
図8(c)に示すように、この揚力Lと抗力Dを2辺とする長方形の対角線が合成された空気力となる。さらに、この合成空気力の接線方向の成分が、翼素をロータ回転方向に駆動させる回転力Ftとなる。
従って、この回転力Ftにロータ半径R
1を掛け合わせると、それが、1つの翼素に作用する回転トルクdQ
1ai(Ψ)となる式(24)。アジマス範囲Ψ~Ψ+dΨにある翼素に作用する回転トルクは、アジマスΨの関数であり、1つの翼素がアジマス範囲Ψ~Ψ+dΨにある確率(時間的滞在率)は、dΨ/2πとなる。
【0041】
風車翼14を高さ方向にN分割した場合のi番目の翼素の回転トルクを下付きの添字iをつけて表し、高さ方向のN個の翼素を合算して得られる1枚の翼の回転トルクをdQ1a(Ψ)とすれば、アジマス範囲Ψ~Ψ+dΨにある1枚の翼に作用するトルクは式(25)で表される。
【0042】
1枚の風車翼14がアジマス範囲Ψ~Ψ+dΨにある確率(時間的滞在率)は、先に翼素について述べたことと同様に、dΨ/2πとなり、1つの風車翼14が回転軸まわりに1回転する間のトルクの平均値(期待値)は、式(25)に確率をかけて、1回転にわたって積分することで求まる。この1つの風車翼14のトルクの平均値をQ1aとするならば、式(26)で算出できる。
主翼14aの回転トルクQ1aと同様に、斜翼14bによる垂直軸Z周りのトルクQ1bと、アームによる垂直軸Z周りのトルクQ1cを算出し、翼数がZであれば、主翼14aの回転トルクQ1a、斜翼14bによる垂直軸Z周りのトルクQ1b、及びアームによる垂直軸Z周りのトルクQ1cをZ倍すれば求まる。
従って、翼数がZである風車翼14による第1回転トルクQ10は、式(27)で求まる。
【0043】
図9は、第2構造データ入力ステップの説明図である。
第2構造データ入力ステップ41では、設計データとして、可動部21の可動部長さL
21、及び過回転抑制誘導体22の過回転抑制誘導体長さL
22を入力する。
可動部21の風車回転軸周りのトルクをQ
21(Ψ)、過回転抑制誘導体22の風車回転軸周りのトルクをQ
22(Ψ) とすると、1つの過回転抑制誘導体22についての第2回転トルクQ
2(Ψ)は次式で表される。
Q
2(Ψ)=Q
21(Ψ)+Q
22(Ψ)
【0044】
図10は第2回転トルク算出ステップに用いる式である。
可動部21による垂直軸Z周りのトルク:Q
21(Ψ)
可動部21のj番目の要素に作用する抗力(水平方向でロータ回転と逆方向をプラスとする)をdD
21(j, θ
2, ω
2)、風車回転軸から可動部21のj番目の要素までの距離をR
21(j)とすれば、可動部21のj番目の要素が、風車回転軸周りに発生する回転トルクdQ
21(j)は式(28)で表される。
抗力dD
21(j, θ
2, ω
2)は、可動部21の傾斜角θ
2とその角速度ω
2に依存する。
可動部21の長手方向にあるすべての要素について、式(28)で与えられる回転トルクを足し合わせると、アジマスΨにおける可動部21の風車回転軸周りのトルクQ
21(Ψ)が式(29)のように求まる。
【0045】
過回転抑制誘導体22の風車回転軸周りのトルク:Q22(Ψ)
過回転抑制誘導体22のj番目の要素に作用する抗力(水平方向でロータ回転と逆方向をプラスとする)をdD22(j, θ2, ω2)、風車回転軸から過回転抑制誘導体22までの距離をR22とすれば(この距離R22は過回転抑制誘導体22要素jに依存しなく共通)、過回転抑制誘導体22のj番目の要素が、風車回転軸周りに発生する回転トルクdQ22(j)は式(30)で表される。
なお、式(30)では、過回転抑制誘導体22のj番目の要素の空力中心(過回転抑制誘導体22前縁から過回転抑制誘導体22の翼弦長の1/4の位置)まわりの空力に起因するモーメントの効果dM22 (j, θ2, ω2)を加えている。
抗力dD22 (j, θ2, ω2)は、過回転抑制誘導体22の傾斜角θ2とその角速度ω2に依存する。なお、モーメントの効果dM22 (j, θ2, ω2)も過回転抑制誘導体22の傾斜角θ2とその角速度ω2に依存する。抗力と同様に、モーメントを算出する際に用いる相対風速の計算に傾斜角θ2とその角速度ω2が関係しているためであり詳細は省略する。
過回転抑制誘導体22の長手方向にあるすべての要素について、式(30)で与えられる回転トルクを足し合わせると、アジマスΨにおける過回転抑制誘導体22の風車回転軸周りのトルクQ22 (Ψ)が式(31)のように求まる。
過回転抑制部分20の個数がZであれば、1つの過回転抑制部分20の第2回転トルクQ2をZ倍すれば求まる。
従って、過回転抑制部分20の個数がZである場合、第2回転トルクQ20は、式(32)で求まる。
【0046】
風車全体回転トルク算出ステップ50では、式(27)で示す翼数がZの風車翼14の第1回転トルクQ10と、式(32)に示す過回転抑制部分20がZである第2回転トルクQ20から垂直軸風車の風車全体回転トルクQtotalを算出する。
Qtotal=Q10+Q20
【0047】
なお、風車全体回転トルクQtotalは下記の方法でも求まる。
今注目しているアジマス角Ψにおける1つの風車翼14(1つの過回転抑制部分20も含む)が発生する回転軸周りのトルクQtは、式(33)となり、トルクQtの平均トルクは、式(34)に示すように全アジマスにわたって平均すれば得られる。従って、風車翼14(1つの過回転抑制部分20も含む)がZ枚である風車全体回転トルクQtotalは、式(34)をZ倍して、式(35)で求まる。
【0048】
図11は過回転抑制部分が存在しない場合の出力係数(Cp)(Without MA)と、過回転抑制部分が存在する場合の出力係数(Cp)(With MA)の比較を示すグラフである。風速はV∞= 8 m/sとしている。
グラフの縦軸は出力係数(Cp)、グラフの横軸は先端周速比(λ)である。
なお、出力係数(Cp)は、式(36)で表される。
ここで、風車ロータのトルクをQ、風車翼14の回転角速度をω
1、風速をV∞、風車の受風面積をAとしている。
先端周速比(λ)は、Rω
1/V∞であり、Rはロータ回転軸(Z)から主翼14aまでの距離(
図5では風車翼14の半径φd/2)、ω
1は風車翼14の回転角速度、V∞は風速である。
過回転抑制部分が存在しない場合(Without MA)の出力係数(Cp)では、風車翼14のトルクQを第1回転トルクQ
10とし、過回転抑制部分が存在する場合(With MA)の出力係数(Cp)では、風車翼14のトルクQを風車全体回転トルクQ
totalとしている。
【0049】
図11の過回転抑制部分が存在しない場合(Without MA)に示すように、可動部21が存在しない場合には,最大先端周速比λ
MAXは8以上が予測される。
しかし、
図11の過回転抑制部分が存在する場合(With MA)に示すように、先端周速比(λ)が3.3に達すると、可動部21が傾斜を始め、先端周速比(λ)が増加すると、可動部21の傾斜角θ
2が大きくなり、可動部21の空力抵抗が大きくなり、出力係数は大きく減少し、最大先端周速比λ
MAXは4以下となることが予想される。
なお、計算プログラムにおいては、計算条件として設定された特定の先端周速比(λ)の条件下で、可動部21と過回転抑制誘導体22を一体とした場合の運動方程式を数値積分することによって、各アジマス角における傾斜角θ
2とその角速度ω
2の値を算出し、その状態における空気力や遠心力から風車特性を算出した。
本発明の過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価方法、プログラム、及び過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の特性評価装置によれば、過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の性能評価を行えるとともに、過回転抑制機構を備えた垂直軸風車の最適設計に利用することができる。