(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126802
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】柱梁接合構造体、柱梁接合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/00 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
B23K9/00 501B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035452
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522130069
【氏名又は名称】株式会社カガヤ
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 勇気
(72)【発明者】
【氏名】有田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 至
(72)【発明者】
【氏名】工藤 哲也
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081YB04
4E081YX02
4E081YX03
4E081YX05
4E081YX09
(57)【要約】
【課題】内ダイアフラムが隅肉溶接、部分溶込み溶接又はそれらの併用によって鋼管の内側に溶接接合された構造体において、内ダイアフラムと鋼管の内壁とのルートギャップが従来の規定値より大きい場合であっても、溶接継目として必要な構造性能を満たすことができる、柱梁接合構造体を提供する。
【解決手段】鋼管の内面に補強板が隅肉溶接、部分溶込み溶接、又はそれらの併用によって溶接接合された柱梁接合構造体であって、鋼管と補強板とのルートギャップg(mm)が3mmより大きい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の内面に補強板が隅肉溶接、部分溶込み溶接又はそれらの併用によって溶接接合された柱梁接合構造体であって、
前記鋼管と前記補強板とのルートギャップg(mm)が3mmより大きい、
柱梁接合構造体。
【請求項2】
前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の幅をW
1(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の余盛高さをe
1(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶込み深さをp
1(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の幅をW
2(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の余盛高さをe
2(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶込み深さをp
2(mm)、前記補強板の板厚をt
d(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)、前記補強板の引張り強さを
dσ
u(N/mm
2)、および、θ
i(rad)を下記(2)から求められる値としたとき、下記式(1)を満たす、請求項1に記載の柱梁接合構造体。
【数1】
【請求項3】
前記補強板の一方の板面側における溶接継目の溶接金属のビッカース硬さを
w1Hv、前記補強板の他方の板面側における溶接継目の溶接金属のビッカース硬さを
w2Hv、前記補強板のビッカース硬さを
dHvとしたとき、前記補強板の一方の板面側における溶接継目の溶接金属の引張強さ
w1σ
u(N/mm
2)、前記補強板の他方の板面側における溶接継目の溶接金属の引張強さ
w2σ
u(N/mm
2)、および前記補強板の引張り強さ
dσ
u(N/mm
2)が下式(3)~式(5)を満たす請求項2に記載の柱梁接合構造体。
【数2】
【請求項4】
前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の幅をW
1(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の余盛高さをe
1(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶込み深さをp
1(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の幅をW
2(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の余盛高さをe
2(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶込み深さをp
2(mm)、前記補強板の板厚をt
d(mm)、およびθ
i(rad)を下記(7)から求められる値としたとき、下記式(6)を満たす、請求項1に記載の柱梁接合構造体。
【数3】
【請求項5】
鋼管の内面に補強板を隅肉溶接、部分溶込み溶接又はそれらの併用によって溶接接合する、溶接工程を有する柱梁接合構造体の製造方法であって、
前記鋼管と前記補強板とのルートギャップg(mm)が3mmより大きい、
柱梁接合構造体の製造方法。
【請求項6】
前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の幅をW
1(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の余盛高さをe
1(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶込み深さをp
1(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の幅をW
2(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の余盛高さをe
2(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶込み深さをp
2(mm)、前記補強板の板厚をt
d(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)、前記補強板の引張り強さを
dσ
u(N/mm
2)、および、θ
i(rad)を下記(2)から求める値としたとき、下記式(1)を満たすように設計して前記溶接工程を行う、請求項5に記載の柱梁接合構造体の製造方法。
【数4】
【請求項7】
前記補強板の一方の板面側における溶接継目の溶接金属のビッカース硬さを
w1Hv、前記補強板の他方の板面側における溶接継目の溶接金属のビッカース硬さを
w2Hv、前記補強板のビッカース硬さを
dHvとしたとき、前記補強板の一方の板面側における溶接継目の溶接金属の引張強さ
w1σ
u(N/mm
2)、前記補強板の他方の板面側における溶接継目の溶接金属の引張強さ
w2σ
u(N/mm
2)、および前記補強板の引張り強さ
dσ
u(N/mm
2)を下式(3)~式(5)から求める請求項6に記載の柱梁接合構造体の製造方法。
【数5】
【請求項8】
前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の幅をW
1(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の余盛高さをe
1(mm)、前記補強板の一方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶込み深さをp
1(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の幅をW
2(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の余盛高さをe
2(mm)、前記補強板の他方の板面側における前記鋼管との溶接継目の溶込み深さをp
2(mm)、前記補強板の板厚をt
d(mm)、およびθ
i(rad)を下記(7)から求める値としたとき、下記式(6)を満たすように設計して前記溶接工程を行う、請求項5に記載の柱梁接合構造体の製造方法。
【数6】
【請求項9】
前記補強板の前記溶接工程の前に、前記補強板が位置する前記鋼管の内面に肉盛り溶接をする、請求項6~8のいずれか1項に記載の柱梁接合部構造体の製造方法。
【請求項10】
前記肉盛り溶接は、該肉盛り溶接を行う前記鋼管の前記内面が水平方向である姿勢で行う、請求項9に記載の柱梁接合部構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、柱梁接合構造体、及びその製造方法に関し、特に内ダイアフラムと呼ばれる補強板を具備する柱梁接合構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造建築物における柱梁接合構造体は、梁から受ける曲げモーメントを柱に伝達させるために、梁フランジの板厚よりも1~2ランク厚い、内ダイアフラムと呼ばれる補強板を柱梁接合構造体に設けることが多い。特に、
図1に示すように、鋼管柱1に接合される複数の梁4、5の梁せいが異なるような場合には、梁せいが大きい梁4の梁フランジ4aの配置高さには通しダイアフラム6と呼ばれる補強板が接合され、梁せいが小さい梁5の片方の梁フランジ5aの配置高さの鋼管柱1の内側に内ダイアフラム2が接合されることがある。このとき、2つの通しダイアフラム6は短尺の鋼管(「サイコロ」と呼ばれることがある。)3の両端のそれぞれに接合され、内ダイアフラム2はサイコロ3の内側に配置されている。
【0003】
この内ダイアフラム2を隅肉溶接、部分溶込み溶接又はそれらの併用によってサイコロ3の内壁に接合することを考える。ここで、隅肉溶接や部分溶込み溶接は基本的に、部材同士を密着させて溶接を行う。ところが、サイコロ3のような閉鎖断面の内側に内ダイアフラム2を隅肉溶接又は部分溶込み溶接によって接合する場合は、サイコロ3内への内ダイアフラム2の挿入性を考えると、サイコロ3と内ダイアフラム2を極力密着させた状態での溶接は難しい。そのため、サイコロ3内への内ダイアフラム2の挿入性を担保しつつ内ダイアフラム2を隅肉溶接又は部分溶込み溶接によって接合するためには、内ダイアフラム2の幅をサイコロ3の内法よりも数mm程度小さくして内ダイアフラム2をサイコロ3内へ挿入すればよい。しかしながら、この場合は内ダイアフラム2とサイコロ3の内壁とが接する4箇所のうち、少なくとも1箇所は内ダイアフラム2とサイコロ3の内壁とが密着しなくなるため、当該箇所を隅肉溶接又は部分溶込み溶接によって接合する際には必然的にルートギャップが存在することになる。ここで、非特許文献1では、隅肉溶接におけるルートギャップgの管理許容値としてg≦2mmが規定されている(限界許容値はg≦3mm)。これは、ルートギャップが大きいほど溶接継目としての構造性能が低下することや溶接施工自体が困難になってしまうことによる安全側の措置である。よって、内ダイアフラム2をサイコロ3の内壁に隅肉溶接や部分溶込み溶接によって接合する場合は、内ダイアフラム2とサイコロ3の内壁とのルートギャップが非特許文献1の許容値を満たすように、内ダイアフラム2の幅を調整してサイコロ3の内壁に溶接すればよい。
【0004】
また、サイコロ3のような閉鎖断面であるパイプの内側に内ダイアフラム2のような補強板を溶接接合する際の溶接施工性向上に言及した特許として、特許文献1が挙げられる。特許文献1には補強板をパイプ内に溶接する前に、あらかじめ鋼管内に肉盛り溶接を施しておくことで、従来工法に比べ内ダイアフラムの位置決めが容易になることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本建築学会:建築工事標準仕様書 JASS6 鉄骨工事 第11版、2018.1
【非特許文献2】日本建築センター:2018年版冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル、2018.2
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者が実際にサイコロ3の内側に内ダイアフラム2を挿入する施工試験を行ったところ、内ダイアフラム2とサイコロ3の内壁とのルートギャップgが非特許文献1の限界許容値(g≦3mm)を満たすように内ダイアフラム2の幅をサイコロ3の開口部の内法に対して3mm小さく調整した場合には、内ダイアフラム2がサイコロ3の内壁に干渉してしまい所定の位置まで内ダイアフラム2を挿入できないことが判明した。これは、内ダイアフラム2をサイコロ3の内側に挿入する過程で、サイコロ3の断面がサイコロ3の開口部の断面よりも内側に歪んでいる箇所が存在していたことが主な要因であると考えられる。ここで非特許文献2では、サイコロ3として広く用いられる冷間成形角形鋼管について、鋼管の各平板部における歪みの寸法許容値は「辺の長さの0.5%以下かつ3mm以下」と定められている。すなわち、仮に鋼管の各平板部が2mm内側に歪んでいる断面が存在する場合には、当該鋼管断面の内法は鋼管の開口部の内法に対して最大で4mm(=2mm×2)小さいことになる。このような鋼管の軸方向における歪み現象は、サイコロ3についても同様に見られる。従って、発明者が行った前記施工試験のように、内ダイアフラム2とサイコロ3の内壁とのルートギャップが非特許文献1の限界許容値(g≦3mm)を満たすように内ダイアフラム2の幅サイコロ3の開口部の内法に対して3mm小さく調整した場合であっても、内ダイアフラム2をサイコロ3内の所定の位置まで挿入し終わる前にサイコロ3の断面の歪みによって内ダイアフラム2がサイコロ3の内壁に干渉してしまい、内ダイアフラム2の挿入作業が途中で中断されてしまう可能性は高い。これはすなわち、内ダイアフラム2とサイコロ3の内壁とのルートギャップgが非特許文献1の限界許容値(g≦3mm)を満たす範囲においては、内ダイアフラム2を隅肉溶接や部分溶込み溶接によってサイコロ3の内壁に接合することが困難であることを意味する。
【0008】
従って、内ダイアフラム2を隅肉溶接又は部分溶込み溶接によってサイコロ3の内壁に接合する際に、内ダイアフラム2をサイコロ3内の所定の位置まで挿入するためには、内ダイアフラム2とサイコロ3とのルートギャップを少なくとも3mmより大きくすることが好ましい。しかし一方で、先に述べたように、内ダイアフラム2とサイコロ3とのルートギャップを3mmより大きくすると非特許文献1で規定されているルートギャップの許容値を超えることになり、溶接継目として必要な構造性能が保たれない虞がある。
【0009】
特許文献1についても、サイコロ3のような閉鎖断面であるパイプの内側に内ダイアフラム2のような補強板を溶接接合する場合において、補強板の位置決めは容易になるが、補強板を隅肉溶接又は部分溶込み溶接によってパイプの内壁に接合する際の補強板とパイプとのルートギャップを緩和できるわけではない。
【0010】
以上の問題を鑑み、本発明では、内ダイアフラム等の補強板を隅肉溶接、部分溶込み溶接又はそれらの併用によってサイコロ等の鋼管の内壁に溶接接合した構造体において、補強板と鋼管とのルートギャップが非特許文献1で規定される許容寸法値より大きい場合であっても、溶接継目として必要な構造性能を満たすことができる、柱梁接合構造体を提供することを目的とする。またこのような柱梁接合構造体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]本願は、鋼管の内面に補強板が隅肉溶接、部分溶込み溶接又はそれらの併用によって溶接接合された柱梁接合構造体であって、鋼管と補強板とのルートギャップg(mm)が3mmより大きい、柱梁接合構造体を開示する。
【0012】
[2]上記柱梁接合構造体において、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の幅をW1(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の余盛高さをe1(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶込み深さをp1(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の幅をW2(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の余盛高さをe2(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶込み深さをp2(mm)、補強板の板厚をtd(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さをw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さをw2σu(N/mm2)、補強板の引張り強さをdσu(N/mm2)、および、θi(rad)を下記式(2)から求められる値としたとき、下記式(1)を満たすように構成してもよい。
【0013】
【0014】
[3]ここで、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属のビッカース硬さをw1Hv、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属のビッカース硬さをw2Hv、補強板のビッカース硬さをdHvとしたとき、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さw2σu(N/mm2)、および補強板の引張り強さdσu(N/mm2)を下式(3)~式(5)を満たすようにしてもよい。
【0015】
【0016】
[4]上記柱梁接合構造体において、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の幅をW1(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の余盛高さをe1(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶込み深さをp1(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の幅をW2(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の余盛高さをe2(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶込み深さをp2(mm)、補強板の板厚をtd(mm)、およびθi(rad)を下記(7)から求められる値としたとき、下記式(6)を満たすように構成してもよい。
【0017】
【0018】
[5]本願は、鋼管の内面に補強板を隅肉溶接、部分溶込み溶接又はそれらの併用によって溶接接合を行う溶接工程を有する柱梁接合構造体の製造方法であって、鋼管と補強板とのルートギャップg(mm)が3mmより大きい、柱梁接合構造体の製造方法を開示する。
【0019】
[6]上記柱梁接合構造体の製造方法において、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の幅をW1(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の余盛高さをe1(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶込み深さをp1(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の幅をW2(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の余盛高さをe2(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶込み深さをp2(mm)、補強板の板厚をtd(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さをw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さをw2σu(N/mm2)、補強板の引張り強さをdσu(N/mm2)、および、θi(rad)を下記(2)から求める値としたとき、下記式(1)を満たすように設計して溶接工程を行ってもよい。
【0020】
【0021】
[7]ここで、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属のビッカース硬さをw1Hv、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属のビッカース硬さをw2Hv、補強板のビッカース硬さをdHvとしたとき、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さw2σu(N/mm2)、および補強板の引張り強さdσu(N/mm2)を下式(3)~式(5)から求めてもよい。
【0022】
【0023】
[8]上記柱梁接合構造体の製造方法において、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の幅をW1(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の余盛高さをe1(mm)、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶込み深さをp1(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の幅をW2(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の余盛高さをe2(mm)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶込み深さをp2(mm)、補強板の板厚をtd(mm)、およびθi(rad)を下記(7)から求める値としたとき、下記式(6)を満たすように設計して溶接工程を行ってもよい。
【0024】
【0025】
[9]また補強板の溶接工程の前に、補強板が位置する鋼管の内面に肉盛り溶接をする工程を含んでもよい。
【0026】
[10]このとき肉盛り溶接は、該肉盛り溶接を行う鋼管の内面が水平方向である姿勢で行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
上記[1]および[5]によれば、従来の補強板(例えば内ダイアフラム)を隅肉溶接、部分溶込み溶接又はそれらの併用によって溶接接合する工法に比べ、鋼管と補強板とのルートギャップを大きくすることができ、補強板の挿入性の向上が期待でき、作業効率を高めることができる。
【0028】
上記[2]および[6]によれば、鋼管と補強板とのルートギャップが比較的大きい場合であっても、溶接継目が補強板に先行して破壊することを防ぐことができ、溶接継目として必要な構造性能をより確実に担保することができる。
【0029】
上記[3]および[7]によれば、ビッカース硬さから材料の引張強さを推定することができる。
【0030】
上記[4]および[8]によれば、材料強度を計測することなく溶接継目の形状のみを計測することで、その溶接継目が必要な構造性能を有しているかを判断することができる。
【0031】
上記[9]によれば、鋼管と補強板との間の見かけ上のルートギャップを小さくでき、溶接工程において溶接金属が溶け落ち難くなる。
【0032】
上記[10]によれば、肉盛り溶接する部位が水平となるため、肉盛り溶接を安定的に形成することができ、さらに鋼管と補強板との間の見かけ上のルートギャップを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】柱梁接合構造体の1つの例を説明する図である。
【
図5】溶接継目13の周辺に注目した断面図である。
【
図6】他の例にかかる溶接継目13の周辺に注目した断面図である。
【
図10】有限要素解析のモデルを説明する図である。
【
図12】柱梁接合構造体10の製造方法について説明する図である。
【
図13】柱梁接合構造体10の製造方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.柱梁接合構造体の構成
図2~
図4には1つの形態例にかかる柱梁接合構造体10の外観を模式的に表した斜視図である。
図2は外観斜視図、
図3は平面図(
図2の矢印IIIから見た図)、
図4はIV-IV断面図(鋼管11の管軸に沿った方向の断面図)である。
【0035】
図2~
図4よりわかるように、柱梁接合構造体10は、角形鋼管である鋼管11、補強板である内ダイアフラム12、および、鋼管11の内面と内ダイアフラム12の外周端部とを溶接接合している溶接継目13を有して構成されている。すなわち、柱梁接合構造体10では、鋼管11の内側に補強板である内ダイアフラム12が配置されるとともに、鋼管11の内面と内ダイアフラム12との外周端部とが溶接継目13により接合されている。
【0036】
1.1.鋼管(サイコロ)
鋼管11は四角形の断面形状を有する角形鋼管の1つの態様であり公知の通りである。ただし、鋼管は四角形断面であることに限定されることはなく、円形、楕円形、三角形、五角以上の多角形、および、不定形であってもよい。
【0037】
1.2.内ダイアフラム(補強板)
内ダイアフラム12は鋼管11の内側に配置される補強板として機能する四辺を有する板状の部材である。
図3からわかるように、内ダイアフラム12は平面視でその四隅に切り欠き12aが設けられている。これにより鋼管11の内面における入隅部と干渉による内ダイアフラム12の配置の不具合を解消している。
【0038】
また、内ダイアフラム12は鋼管11の内側に溶接継目13により接合されているため、その四辺に必要に応じて溶接のための開先を具備している。開先の要否および形態については溶接継目13を説明する際に併せて説明する。
【0039】
1.3.溶接継目
本開示で溶接継目13は、部分溶込み溶接による溶接継目、隅肉溶接による溶接継目又はそれらの溶接方法の併用による溶接継目である。溶接継目13が部分溶込み溶接による溶接継目であること、又は、隅肉溶接による溶接継目であることは、内ダイアフラムの開先の有無や形状、溶接継目の形状、および、裏当て金が配置されていないこと等により当業者によれば区別することができる。
また、溶接継目13は内ダイアフラム12の一方の板面側のみに設けられてもよく、内ダイアフラム12の表裏側の両面に設けられてもよい。
以下により具体的に説明する。
【0040】
図5には
図4にVで示した部位の拡大図で溶接継目13の周辺に注目した図である。また、
図6には
図4で示した溶接継目13とは異なる例にかかる溶接継目13を表した。
図5に示した溶接継目13は片面側の部分溶込み溶接の形態であり、
図6(a)は両面側の部分溶込み溶接の形態であり、
図6(b)は両面側の隅肉溶接の形態である。
【0041】
これら溶接継目13では、それぞれ次の寸法形状を具備している。
・内ダイアフラムの板厚(mm):td
・内ダイアフラムの開先角度(°):α(α1、α2)
・内ダイアフラムの端面と鋼管の内壁とのルートギャップ(mm):g
・溶接継目の幅(mm):w(w1、w2)
・溶接継目の溶込み深さ(mm):p(p1、p2)
・溶接継目の余盛高さ(mm):e(e1、e2)
【0042】
本開示ではルートギャップgが3mmより大きく形成されることで従来の補強板を隅肉溶接又は部分溶込み溶接する工法に比べ、鋼管と補強板とのルートギャップを大きくすることができ、補強板の挿入性の向上が期待でき、作業効率を高めることができる。
【0043】
また、本形態では溶接継目13の寸法が所定の関係を有していることが好ましい。これにより、鋼管と補強板とのルートギャップgを3mmより大きくしても、溶接継目が補強板に先行して破壊することをより確実に防ぐことができ、溶接継目として必要な構造性能を担保することができる。具体的な寸法の関係及びその考え方を以下に説明する。
【0044】
2.本形態における寸法の関係
本形態では、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目13の溶接金属の引張強さをw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目13の溶接金属の引張強さをw2σu(N/mm2)、内ダイアフラムの引張り強さをdσu(N/mm2)、および、内ダイアフラムの板厚方向と角度θi(rad)をなす破壊機構をさらに用いたとき、下記式(1)を満たすように構成することが好ましい。ここで、θiは下記式(2)を満たす。
【0045】
【0046】
ここで、
図5に示した片側のみの部分溶込み溶接では式(1)においてi=1のみとし、i=2のときは考慮しなくてよい。
図6(a)に示した両側の部分溶け込み溶接では、式(1)において一方側をi=1、他方側をi=2として算出してその和をとる。
図6(b)に示した両側隅肉溶接でも、式(1)において一方側をi=1、他方側をi=2として算出してその和をとればよいが、溶込み深さp
1、p
2は0(ゼロ)とみなす。
【0047】
これにより、鋼管と補強板とのルートギャップgが3mmより大きくなっても、溶接継目が補強板に先行して破壊することを防ぐことができ、溶接継目として必要な構造性能をより確実に担保することができる。
【0048】
溶接金属の引張強さw1σu(N/mm2)、w2σu(N/mm2)、および補強板の引張り強さdσu(N/mm2)は引張試験によりに求めておいた値を適用することができるが、ビッカース硬さに基づいて算出してもよい。具体的には、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属のビッカース硬さをw1Hv、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属のビッカース硬さをw2Hv、補強板のビッカース硬さをdHvとしたとき、補強板の一方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における補強板と鋼管との溶接継目の溶接金属の引張強さw2σu(N/mm2)、及び補強板の引張り強さdσu(N/mm2)を下式(3)~式(5)を満たすようにしてもよい。
【0049】
【0050】
これによれば、より簡易な試験であるビッカース硬さから材料の引張強さを推定することができる。
式(3)~式(5)は、文献(SAE International,SAE J 417、1983)のビッカース硬さHvと引張強さの換算表をもとに、Hvと引張強さの関係を近似式で表わしたものである。ビッカース硬さの測定は、JIS Z2244:2009に基づいて溶接継目13の溶接金属の外側表面から深さ2mmの位置で測定した値を用いることができる。
【0051】
また、溶接継目に用いられる溶接金属と内ダイアフラムに用いられる金属材料において、より安全側(内ダイアフラムよりも溶接継目が先に破壊することがないこと)に構成するためには、式(1)においてwiσu=dσuとして求めた式(6)、式(7)を満たせばよい。ここで、式(7)は式(2)と同じ数式である。
【0052】
【0053】
これによれば、材料強度(引張強さ)を計測することなく溶接継目の形状のみから、その溶接継目が必要な構造性能を有しているかを判断することができる。
【0054】
3.関係式の導出
次に、式(1)、式(2)の根拠について説明する。ここでは、溶接継目で破壊することなく、内ダイアフラムで破壊するための各部が備えるべき強度を極限解析により求めた。以下に詳しく説明する。
【0055】
図7(a)に解析のためのモデルを示した。これは
図5の片側の部分溶込み溶接の形態をモデル化し、溶接継目を四角形断面としたものである。モデルであるためハッチングは省略する。
【0056】
3.1.溶接継目の破壊耐力
wF
uの導出
当該断面において内ダイアフラム12の表裏面に平行な方向に作用する引張外力によって溶接継目13が破壊する場合を想定し、破壊機構Aを
図7(b)のように仮定する。ただし、
図7(b)の破壊機構Aにおける外力作用方向の塑性変形増分をu
1とし、破壊機構Aが生じる角度θを鋼管11の軸方向に対して0°≦tanθ≦(w-g)/p)とする。
【0057】
図7(b)の破壊機構Aにおいては以下の条件(A)~(D)が成り立つと仮定する。
(A)溶接継目13における溶接金属の材料強度は、断面内で均一である。
(B)溶接継目13に作用する外力は内ダイアフラム12の表裏面に平行な方向の引張力のみを考慮し、内ダイアフラム12の板厚中心線と、溶接継目13の図心とのずれによる付加曲げは考慮しない。
(C)溶接継目13の破壊時には、破壊機構Aの任意の点でVon Misesの降伏条件における材料の降伏点を引張強さに置換した下記条件式(11)が成り立つものとする。
【0058】
【0059】
ここでσ
n、σ
t、σ
wはnーtーw座標系におけるn軸、t軸、w軸方向の垂直応力(N/mm
2)、τ
nt、τ
tw、τ
wnはnーtーw座標系におけるn-t平面、t-w平面、w-n平面内のせん断応力[N/mm
2]、
wσ
nは溶接金属の引張強さ[N/mm
2]である。n-t-w座標系は、
図8に示したように破壊機構Aと直交する方向をn軸、破壊機構Aに沿う方向をt軸、溶接線方向に平行な方向をw軸とする直交座標系である。
【0060】
(D)内ダイアフラム12の溶接長さは溶接継目13の幅wに比べ十分大きいため、溶接継目13は内ダイアフラム12の表裏面に平行な方向の引張力に対し、溶接線方向に伸縮しないものとする。すなわち、溶接線方向の歪を0とする平面歪状態が成り立つものとする。
【0061】
以上の(A)~(D)の仮定に基づいて以下のように考える。
t軸方向の垂直応力σtは0とみなされるから、式(11)にσt=0を代入して下式(12)が得られる。
【0062】
【0063】
条件(D)より、w軸方向の垂直歪εw、t-w平面内のせん断歪γtw、およびw-n平面内のせん断歪γwnはそれぞれ0であるので、式(12)および塑性流れの法線則から、式(13)に示す関係がそれぞれ成立する。
【0064】
【0065】
式(13)を式(12)に代入して式(14)を得る。
【0066】
【0067】
次に、破壊機構Aにおける、溶接線方向の単位長さ当たりの内力仕事Winおよび外力仕事Wexをそれぞれ求める。内力仕事Winは下式(15)で表わされる。
【0068】
【0069】
式(15)におけるlcrは破壊機構Aの長さであり、幾何学的に下式(16)で求まる。
【0070】
【0071】
式(15)におけるσnおよびτntは破壊条件である式(14)を満たすので、塑性流れの法線則から、u1・cosθおよびu1・sinθは下式(17)に示す関係が成立する。
【0072】
【0073】
式(17)より、σnおよびτntは下式(18)の関係が成り立つ。
【0074】
【0075】
式(18)の関係を式(14)に代入することで、σnおよびτntはそれぞれθおよびwσuを用いて下式(19)のように表わすことができる。
【0076】
【0077】
式(15)、式(16)、及び式(19)より、内力仕事Winは下式(20)で表わすことができる。
【0078】
【0079】
一方、外力仕事Wexは、溶接線単位長さあたりの溶接継目耐力をwFu[N/mm2]とすると、下式(21)で表わすことができる。
【0080】
【0081】
仮想仕事の原理より、内部仕事Winと外部仕事式Wexが等しいとすると、式(20)および式(21)より、wFuは下式(22)で表わすことができる。
【0082】
【0083】
式(22)の右辺が0°≦tanθ≦(w-g)/pの範囲で最小の値をとるときが、破壊機構Aにおける真の破壊耐力wFuである。よって、式(22)におけるθは、式(22)をθで偏微分して∂wFu/∂θ=0とおいて解いたθ'=tan-1(4e/w)と、tan-1(w-g)/pのうち小さい方の値をとることから、式(23)によりθが求められる。
【0084】
【0085】
式(23)を式(22)代入することで、溶接継目耐力wFuを評価することができる。
【0086】
ここで式(22)、式(23)は上記したように
図5のような片側の部分溶込み溶接をモデル化して得たものである。これに対して、
図6(a)に示したように両側の部分溶込み溶接では表裏のそれぞれについて上記式を適用して和をとればよい。従って、式(22)、式(23)は次の式(24)、式(2)のように表すことができる。
【0087】
【0088】
上記したように式(24)、式(2)では、
図5に示したような片側のみの部分溶込み溶接では式(24)、式(2)においてi=1のみとし、i=2のときは考慮しなくてよい。
図6(a)に示した両側の部分溶込み溶接では、式(24)、式(2)において一方側をi=1、他方側をi=2として算出すればよい。
図6(b)に示した両側隅肉溶接でも、式(24)、式(2)において一方側をi=1、他方側をi=2として算出すればよいが、溶込み深さp(p
1、p
2)は0とみなす。
【0089】
3.2.内ダイアフラムの破壊耐力
dF
uの導出
溶接継目13の破壊耐力
wF
uの導出同様に内ダイアフラム12の板面に平行な方向に作用する引張外力によって内ダイアフラム12が破壊する場合を想定し、破壊機構Bを
図9(a)のように仮定する。ただし、破壊機構Bにおける外力作用方向の塑性変形増分をu
2とし、破壊機構Bが生じる角度λを鋼管11の軸方向に対して0°≦tanλ≦90°とする。
【0090】
破壊機構Bにおいては以下の条件(E)~(H)が成り立つと仮定する。
(E)内ダイアフラム12の材料強度は、断面内で均一であるとする。
(F)作用する外力としては内ダイアフラム12の表裏面に平行方向の引張力のみを考慮する。
(G)内ダイアフラム12の破壊時には、破壊機構上の任意の点でVon Misesの降伏条件における材料の降伏点を引張強さに置換した下記条件式(26)が成り立つものとする。
【0091】
【0092】
ここで、σ
n、σ
t、σ
wはn-t-w座標系におけるn軸、t軸、w軸方向の垂直応力(N/mm
2)、τ
nt、τ
tw、τ
wnはn-t-w座標系におけるn-t平面、t-w平面、w-n平面内のせん断応力(N/mm
2)、
dσ
uは内ダイアフラムの引張強さ(N/mm
2)である。n-t-w座標系は、
図9(b)に示したように破壊機構Bに直交する方向をn軸、破壊機構Bに沿う方向をt軸、溶接線方向に平行な方向をw軸とする直交座標系である。
【0093】
(H)内ダイアフラム12の表裏面に平行な方向の引張力に対し、内ダイアフラムの溶接継目13の溶接線方向に伸縮しないものとする。すなわち、内ダイアフラムの溶接継目13の溶接線方向の歪を0とする平面歪状態が成り立つものとする。
【0094】
以上の(E)~(H)の仮定に基づいて以下のように考える。
t軸方向の垂直応力σtは0とみなされるから、式(26)にσt=0を代入して下式(27)が得られる。
【0095】
【0096】
条件(H)より、w軸方向の垂直歪εw、t-w平面内のせん断歪γtw、およびw-n平面内のせん断歪γwnはそれぞれ0であるので、式(27)および塑性流れの法線則から、式(28)に示す関係がそれぞれ成立する。
【0097】
【0098】
よって、式(28)を式(27)に代入することで式(29)が得られる。
【0099】
【0100】
次に、破壊機構Bにおける、溶接線方向の単位長さ当たりの内力仕事Winおよび外力仕事Wexをそれぞれ求める。内力仕事Winは下式(30)で表わせる。
【0101】
【0102】
式(30)におけるσnおよびτntは破壊条件である式(29)を満たすので、塑性流れの法線則から、u2・cosλおよびu2・sinλは式(31)に示す関係が成立する。
【0103】
【0104】
式(31)より、σnおよびτntは式(32)の関係が成り立つ。
【0105】
【0106】
式(32)の関係を式(29)に代入することで、σnおよびτntはそれぞれλおよびdσuを用いて下式(33)のように表わすことができる。
【0107】
【0108】
式(30)および式(33)より、内力仕事Winは下式(34)で表わされる。
【0109】
【0110】
一方、外力仕事Wexは式(35)で表わすことができる。
【0111】
【0112】
仮想仕事の原理より、内部仕事Winと外部仕事Wexが等しいとすると、式(34)および式(35)より、dFu(N/mm2)は式(36)で表わすことができる。
【0113】
【0114】
式(36)の右辺が0°≦tanλ≦90°の範囲で最小の値をとるときが、破壊機構Bにおける真の破壊耐力dFuであるが、その時のλは式(36)から明らかなように、λ=0である。よって、式(36)にλ=0を代入すると、真の破壊耐力として式(37)が得られる。
【0115】
【0116】
3.3.溶接継目としての必要性能を満足する条件式の導出
以上より、本形態の条件である式(1)は、wFu≧dFuを解くことにより導かれる。したがって、式(24)および式(27)より、式(1)を得る。
【0117】
【0118】
また、溶接継目に用いられる溶接金属と内ダイアフラムに用いられる金属材料において、より安全側に構成するためには、式(1)においてwiσu=dσuとして求めた式(6)、式(7)を満たせばよい。
【0119】
3.4.試験例
式(1)の式の妥当性を有限要素解析(FEM)により試験した。
解析モデルの形状を
図10に示す。解析モデルは柱梁接合構造体における鋼管(サイコロ)と内ダイアフラムの溶接部を模擬したT字形継手であり、板厚t
dが13mmの内ダイアフラムの両面が60度開先の部分溶込み溶接(異形隅肉溶接とも呼ばれる)によって接合されているものである。両面のそれぞれの溶接継目の形状は同じとした。
解析モデルは合計3例(No.1~No.3)であり、鋼管(サイコロ)と内ダイアフラムとのルートギャップg、溶接継目の幅w、余盛高さeを変えている。具体的な値は表1に示した。なお、解析モデルは二次元の四角形要素によって構成されており、鋼管(サイコロ)と内ダイアフラムと間は摩擦を伝えない接触条件とした。
【0120】
鋼管(サイコロ)、内ダイアフラム、および、溶接金属の材料特性はすべて統一し、降伏点を325(N/mm2)、ヤング係数を205000(N/mm2)、降伏後の二次剛性を2050(N/mm2)とするバイリニア型の等方弾塑性体とした。解析は紙面方向に歪が生じない平面歪状態で行い、鋼管(サイコロ)の左端(内ダイアフラムが固定される側とは反対側)の変位を拘束して内ダイアフラムの右端に内ダイアフラム長手方向の強制変位を与えた。
【0121】
表1には各解析モデルについて、式(1)においてwiσu=dσuとしたときの左辺の計算値を併記した。No.1およびNo.3は式(1)の条件を満たし母材である内ダイアフラムが溶接継目よりも先に破壊するように設計されたモデルであり、No.2は式(1)の条件を満たさず溶接継目が内ダイアフラムよりも先に破壊するように設計されたモデルである。
【0122】
【0123】
本解析から得られた各解析モデルの相当塑性歪コンターを
図11に示す。
図11(a)がNo.1、
図11(b)がNo.2、および、
図11(c)がNo.3である。各図において色の濃い箇所が最終的に塑性化した領域を表している。この図より、式(1)の条件を満たすNo.1およびNo.3は母材である内ダイアフラムで先行破壊しているのに対し、式(1)の条件を満たさないNo.2は溶接継目で先行破壊していることがわかる。このことから、式(1)の条件を満たすことで溶接継目よりも先に母材で破壊させることができる。すなわち、鋼管(サイコロ)と内ダイアフラムとのルートギャップが3mmよりも大きい場合であっても、式(1)の条件を満たすことで溶接継目としての必要な構造性能を担保することができる。
【0124】
4.柱梁接合構造体の製造方法
本形態の柱梁接合構造体の製造方法では、上記柱梁接合構造体の構成となるように鋼管の内側に補強板を配置し、溶接継目を形成する溶接工程を具備するように溶接すればよい。
【0125】
ただし、当該溶接工程の前に、
図12(a)に示したように、ルートギャップgを形成する部位における鋼管11の内面に肉盛り溶接14を溶接する工程を含んでもよい。これによれば鋼管11と補強板12との間の見かけ上のルートギャップを小さくでき、
図12(b)に示したように溶接工程において溶接金属が溶け落ち難くなる。
【0126】
このとき肉盛り溶接14は、
図13に示したように該肉盛り溶接14を行う鋼管11の内面が水平方向である姿勢で行うことができる。これによれば、肉盛り溶接14を行う部位が水平となるため、肉盛り溶接14を安定的に形成することができ、さらに鋼管11と補強板12との間の見かけ上のルートギャップを小さくすることができる。
【符号の説明】
【0127】
10 柱梁接合構造体
11 鋼管(サイコロ)
12 内ダイアフラム
13 溶接継目