(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126807
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】チャック方法および回転チャック装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/16 20060101AFI20240912BHJP
B23B 31/165 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B23B31/16 G
B23B31/165
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035460
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】末兼 勇汰
(72)【発明者】
【氏名】九曜 富士夫
【テーマコード(参考)】
3C032
【Fターム(参考)】
3C032FF14
3C032HH11
3C032HH15
(57)【要約】
【課題】脆性材料や、弾性の大きな大型回転体を、旋盤等の回転主軸に装着してチャックできるチャック方法を提供する。
【解決手段】爪送りモータ46を消磁し、自在に回転可能な状態にある原動カプラ47を従動カプラ49に挿入して、原動カプラ47と従動カプラ49を接続し、爪送りモータ46を励磁し、爪送りモータ46を回転して、原動カプラ47と従動カプラ49を介して、複数の爪63を連動して移動して、ワーク3をチャック及びアンチャックし、原動カプラ47を従動カプラ49から引き抜いて、原動カプラ47と従動カプラ49とを離間する、チャック方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪送りモータを消磁し、
自在に回転可能な状態にある原動カプラを従動カプラに挿入して、前記原動カプラと前記従動カプラを接続し、
前記爪送りモータを励磁し、
前記爪送りモータを回転して、前記原動カプラと前記従動カプラを介して、複数の爪を連動して移動して、ワークをチャック及びアンチャックし、
前記原動カプラを前記従動カプラから引き抜いて、前記原動カプラと前記従動カプラとを離間する、
チャック方法。
【請求項2】
前記ワークをチャックする際、前記爪送りモータの回転速度が上限速度以下となるように前記爪送りモータを回転して、前記爪送りモータのトルクがクランプ完了閾値以上になるまで前記爪を送る、
請求項1に記載のチャック方法。
【請求項3】
前記ワークをチャックする際、前記爪送りモータのトルクが上限トルク以下となるように前記爪送りモータを回転する、
請求項2に記載のチャック方法。
【請求項4】
前記トルクが前記クランプ完了閾値以上となる時間が、予め規定された時間閾値に到達するときに、前記爪送りモータを停止して、チャックを完了する、
請求項2又は3に記載のチャック方法。
【請求項5】
前記原動カプラを前記従動カプラに挿入する直前に、前記爪送りモータを消磁する、
請求項1~4のいずれかに記載のチャック方法。
【請求項6】
前記原動カプラを前記従動カプラに挿入するとき以外は、前記爪送りモータを励磁する、
請求項1~5のいずれかに記載のチャック方法。
【請求項7】
回転軸を中心に回転可能に支持される回転フレームと、
前記回転フレーム内に前記回転軸を中心に回転可能に支持される中心傘歯車と、
前記中心傘歯車と接続される従動カプラと、
前記回転フレームの径方向に進退する原動カプラであって、前記回転軸方向に前進したときに前記従動カプラと接続し、前記回転軸から後退したときに前記従動カプラと分離する、原動カプラと、
前記原動カプラに接続される爪送りモータと、
前記回転軸に対して回転対称に、前記回転フレームに配置される複数の爪ユニットであって、前記爪ユニットのそれぞれが、
爪台を有し、前記回転フレームの径方向に往復するスライダと、
前記中心傘歯車と噛み合う従動傘歯車を有し、前記回転フレームの径方向に沿って延び、前記スライダを送る送りねじと、
を有し、
制御装置であって、
前記爪送りモータの回転速度の上限である上限速度と、前記爪送りモータのトルクの上限よりも小さいクランプ完了閾値と、を格納する記憶装置と、
前記原動カプラを前進させて前記従動カプラと接続するときに、前記爪送りモータを消磁する電源制御手段と、
チャックするときにおいて、前記爪台を送るときに、前記爪送りモータの回転速度を前記上限速度以下に保ち、前記爪送りモータのトルクが前記クランプ完了閾値以上になったときに、前記爪送りモータを停止するように、前記爪送りモータを制御する爪送り制御手段と、
を有する制御装置と、
を有する、回転チャック装置。
【請求項8】
前記記憶装置は、前記爪送りモータのトルクの上限である上限トルクを記憶し、
前記爪送り制御手段は、チャックするときにおいて、前記爪台を送るときに、前記爪送りモータのトルクを前記上限トルク以下に保つ、
請求項7に記載の回転チャック装置。
【請求項9】
前記記憶装置は、前記爪送りモータのトルクが前記上限トルク以上となる時間の閾値である時間閾値を格納し、
前記爪送り制御手段は、チャックするときにおいて、前記爪送りモータのトルクが前記クランプ完了閾値以上になる時間が前記時間閾値を超えるときに、前記爪送りモータを停止させるタイマーをさらに有する、
請求項7又は8に記載の回転チャック装置。
【請求項10】
前記電源制御手段は、前記原動カプラを前進させて前記従動カプラと接続するときを除き、前記爪送りモータを励磁する、
請求項7~9のいずれかに記載の回転チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャック方法および回転チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テーブルと、テーブル上に配置され、薄肉円筒物の内径側に配置される3個以上の内側チャックを放射状に同一進度で移動して当接する第1のねじ送り装置と、円筒物の外周側から内側チャックに対向して外側チャックを押圧する第2のねじ送り装置と、有する薄肉円筒物の固定装置が知られている(特開昭57-163003号公報。以下、特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の固定装置は、回転しない。また、脆性材料や、弾性の大きな大型回転体を固定するときに、回転体が脆性破壊したり、変形したりする場合がある。
本発明は、脆性材料や、弾性の大きな大型回転体を、旋盤等の回転主軸に装着してチャックできるチャック方法及び回転チャック装置を提供する。
【課題を解決する手段】
【0004】
本発明の第1の観点は、
爪送りモータを消磁し、
自在に回転可能な状態にある原動カプラを従動カプラに挿入して、前記原動カプラと前記従動カプラを接続し、
前記爪送りモータを励磁し、
前記爪送りモータを回転して、前記原動カプラと前記従動カプラを介して、複数の爪を連動して移動して、ワークをチャック及びアンチャックし、
前記原動カプラを前記従動カプラから引き抜いて、前記原動カプラと前記従動カプラとを離間する、
チャック方法である。
【0005】
本発明の第2の観点は、
回転軸を中心に回転可能に支持される回転フレームと、
前記回転フレーム内に前記回転軸を中心に回転可能に支持される中心傘歯車と、
前記中心傘歯車と接続される従動カプラと、
前記回転フレームの径方向に進退する原動カプラであって、前記回転軸方向に前進したときに前記従動カプラと接続し、前記回転軸から後退したときに前記従動カプラと分離する、原動カプラと、
前記原動カプラに接続される爪送りモータと、
前記回転軸に対して回転対称に、前記回転フレームに配置される複数の爪ユニットであって、前記爪ユニットのそれぞれが、
爪台を有し、前記回転フレームの径方向に往復するスライダと、
前記中心傘歯車と噛み合う従動傘歯車を有し、前記回転フレームの径方向に沿って延び、前記スライダを送る送りねじと、
を有し、
制御装置であって、
前記爪送りモータの回転速度の上限である上限速度と、前記爪送りモータのトルクの上限よりも小さいクランプ完了閾値と、を格納する記憶装置と、
前記原動カプラを前進させて前記従動カプラと接続するときに、前記爪送りモータを消磁する電源制御手段と、
チャックするときにおいて、前記爪台を送るときに、前記爪送りモータの回転速度を前記上限速度以下に保ち、前記爪送りモータのトルクが前記クランプ完了閾値以上になったときに、前記爪送りモータを停止するように、前記爪送りモータを制御する爪送り制御手段と、
を有する制御装置と、
を有する、回転チャック装置である。
【0006】
回転チャック装置は、回転フレーム内にメインシャフトと同軸に配置され、回転フレームに対して回転可能に支持されるサブシャフトと、メインシャフトに締結される中心傘歯車と、を有しても良い。
【0007】
爪は、ワークに接触するまでは、上限速度に関連する大きな送り速度で送られる。大きな送り速度とは、爪がワークに接触したときに、ワークが変形を起こさず、ワークが破損しない程度の送り速度である。このとき、爪送りモータのトルクは、爪を送る駆動部の抵抗に関連した小さいトルクである。小さいトルクとは、爪がワークに接触した後のトルクに比較して小さいことをいう。爪がワークに接触すると、爪の速度が徐々に小さくなる。爪の速度は、0に近づく。また、爪がワークに接触すると、爪送りモータのトルクは徐々に増加する。爪送りモータのトルクは、上限トルクに到達する。
【0008】
回転チャック装置は、爪台に配置され、弾性体で構成された当接部を有する爪を有しても良い。
【0009】
中心傘歯車と噛み合う原動傘歯車を有し、従動カプラに接続され、回転フレーム内に回転可能に配置される原動軸を更に有しても良い。
【0010】
回転チャック装置は、原動傘歯車と従動カプラとを有する原動軸を有しても良い。原動軸は、径方向に延びる。原動軸は、回転フレームに回転可能に支持される。原動傘歯車は、中心傘歯車と噛み合う。原動傘歯車は、原動軸の径方向内側に配置される。従動カプラは、原動軸の径方向外側に配置される。
【0011】
爪ユニットは、直動ガイドと、爪台を有し、直動ガイドに案内されて、径方向に往復するスライダと、を有しても良い。
直動ガイドは、例えば、直線ガイド、ボールスプラインである。直動ガイドは、ガイドシャフトとガイドナットとの組合せであっても良い。直動ガイドは、回転フレームに配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脆性材料や、弾性の大きな大型回転体を、旋盤等の回転主軸に装着してチャックできるチャック方法及び回転チャック装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図5】実施形態のチャック方法を示すフローチャート
【
図6】実施形態のチャック動作における時間対回転速度およびトルク線図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の回転チャック装置10は、フレーム11と、回転モータ21と、シャフトブラケット13と、メインシャフト17と、メイン軸受18と、回転フレーム27と、サブシャフト29と、中心傘歯車31と、爪ユニット50と、爪送りモータ46と、原動カプラ47と、従動カプラ49と、を有する。回転チャック装置10は、原動プーリ23と、従動プーリ19と、無端ベルト25と、軸受台35と、サブ軸受30と、原動軸受36と、原動軸39と、カバー65と、原動傘歯車48と、モータガイド43(
図2参照)と、モータブラケット45(
図2参照)と、シリンダ44(
図2参照)と、爪63と、シール67と、を有しても良い。
【0015】
ここで、
図1は、
図2のI-I線断面図である。便宜上、
図1の右方向を+X、
図1の上方向を+Z、
図2の上方向を+Y方向とする。+Z方向は、鉛直上向きである。
なお、
図1~
図3では、回転軸1を鉛直方向に配置しているが、設置向きは問わない。例えば、回転軸1を水平方向に配置しても良い。
便宜上、
図1は、爪送りモータ46が結合位置5にある状態を示す。
図2は、爪送りモータ46が離間位置6にある状態を示す。
【0016】
フレーム11は、例えば、Z方向に沿って上下に移動する。
回転モータ21は、フレーム11に配置される。回転モータ21は、例えば、サーボモータ、ステッピングモータである。
シャフトブラケット13は、中空円筒状である。シャフトブラケット13は、フレーム11に配置される。
【0017】
メインシャフト17は、メイン軸受18を介して、シャフトブラケット13に支持される。メインシャフト17は鉛直方向(Z方向)に延びる。
原動プーリ23は、回転モータ21に接続される。従動プーリ19は、メインシャフト17に接続される。無端ベルト25は、原動プーリ23と従動プーリ19との間に掛けられる。
【0018】
図1及び
図2に示すように、回転フレーム27は、基端プレート27aと、先端プレート27bと、連結柱27cとを有する。回転フレーム27は、かご型である。回転フレーム27は、メインシャフト17の下端部に締結される。基端プレート27aは、円形であり、回転軸1を中心に水平に配置される。基端プレート27aは、先端プレート27bよりも小径でよい。基端プレート27aは、複数の貫通穴27eを有する。貫通穴27eは、例えば、円周方向に延びて、大きく開口する。先端プレート27bは、円形であり、回転軸1を中心に配置される。先端プレート27bと基端プレート27aは、離間する。先端プレート27bは、複数の貫通穴27fと、複数(
図2では3つ)のスライド穴27dとを有する。貫通穴27fは、円周方向に延びて、大きく開口する。スライド穴27dは、爪ユニット50に沿って配置される。スライド穴27dは、径方向に延びる。連結柱27cは、基端プレート27aと先端プレート27bを接続する。例えば、連結柱27cは、回転軸1を中心に回転対称に配置される。
【0019】
サブシャフト29は、メインシャフト17の先端部に、回転軸1に沿って配置される。サブシャフト29は、サブ軸受30を介して、メインシャフト17と先端プレート27bとの間に支持される。中心傘歯車31は、サブシャフト29に締結される。
【0020】
軸受台35は、先端プレート27bに配置される。軸受台35は、原動軸受36を有する。原動軸39は、X方向に延びて、原動軸受36に支持される。原動軸39は、従動カプラ49と、原動傘歯車48とを有する。原動軸39は、基端プレート27aと先端プレート27bの間に配置される。
原動傘歯車48は、原動軸39の径方向内側の端部に配置される。原動傘歯車48は、中心傘歯車31に噛み合う。
従動カプラ49は、原動軸39の径方向外側の端部に配置される。従動カプラ49は、先端プレート27bの外周から突出しても良い。従動カプラ49は、原動軸39の径方向外側の端面に配置される複数の突起49aを有する(
図2参照)。
【0021】
モータガイド43は、X方向に延び、フレーム11に配置される。モータガイド43は、直動ガイドである。モータガイド43は、例えば、直線ガイドである。
モータブラケット45は、モータガイド43に配置される。モータブラケット45は、モータガイド43に案内されて、結合位置5と離間位置6との間を往復する。
【0022】
シリンダ44は、フレーム11に配置される。シリンダ44は、モータブラケット45を径方向(
図1のX方向)に往復させる。シリンダ44は、エア源(不図示)や方向制御弁(不図示)を介して、モータブラケット45を進退させる。シリンダ44は、例えば、エアシリンダ、電動シリンダである。
【0023】
爪送りモータ46は、モータブラケット45に配置される。爪送りモータ46は、例えば、サーボモータ、ステッピングモータである。爪送りモータ46は、角度検知センサを有しても良い。角度検知センサは、アブソリュート方式と、インクリメンタル方式のいずれでも良い。
【0024】
原動カプラ47は、円筒状である。原動カプラ47は、爪送りモータ46に接続される。例えば、原動カプラ47は、爪送りモータ46の出力軸に直接接続される。原動カプラ47の中心軸は、回転軸1を通る。原動カプラ47は、回転軸1に対して径方向内側の端面に配置される複数の突起47aを有する。原動カプラ47は、爪送りモータ46やモータブラケット45と共に、X方向に往復する。原動カプラ47は、結合位置5において、従動カプラ49に接続される。このとき、突起47aと突起49aが噛み合う。結合位置5は、例えば、原動カプラ47の、回転軸1についての径方向内側のストローク端である。原動カプラ47は、離間位置6において、従動カプラ49と離間される。原動カプラ47が離間位置6にあるときに、回転フレーム27は、自在に回転できる。
【0025】
爪ユニット50は、回転軸1を中心にn回対称(
図2では、n=3)に配置される。以下、
図1の右側(+X側)に配置された爪ユニット50について説明する。
図1及び
図2に示すように、爪ユニット50は、送りねじ55と、従動傘歯車57と、スライドブラケット51と、ボールスプライン(直動ガイド)56と、従動軸受52と、スライダ59と、爪台60と、当接部64と、爪穴65aと、シール67とを有する。
【0026】
送りねじ55は、ねじ軸55aと、送りナット55bとを有する。送りねじ55は、例えば、三角ねじ、台形ねじである。ねじ軸55aは、径に沿って延びる。従動傘歯車57は、送りねじ55の径方向内側の端部に配置される。従動傘歯車57は、中心傘歯車31と噛み合う。ねじ軸55aの両端部は、従動軸受52を介して、スライドブラケット51に支持される。送りナット55bは、スライダ59に締結される。
【0027】
一対のスライドブラケット51が、回転軸1についての径方向に配置される。各スライドブラケット51は、垂直(XZ面)に延びる。スライドブラケット51は、先端プレート27bの上方で、基端プレート27aの下方に配置される。一対のボールスプライン56は、ねじ軸55aの両側に、ねじ軸55aに平行に延びる。一対のボールスプライン56とねじ軸55aとの間隔は、同一である。ボールスプライン56は、スライドシャフト56aと、スライドナット56bとを有する。スライドシャフト56aの両端は、一対のスライドブラケット51に支持される。一対のスライドシャフト56aは、スライドブラケット51の両端部に配置される。一対のスライドナット56bは、スライダ59にそれぞれ締結される。
【0028】
スライダ59は、一対のボールスプライン56に案内されて、径方向(X方向)に往復する。スライダ59は、中央部に、柱部59aを有する。柱部59aは、下方に突出して、スライド穴27dを貫通する。
【0029】
爪台60は、柱部59aの下方に接続される。爪台60は、径方向に延びる。爪台60は、水平面(XY平面)に配置される。爪台60は、先端プレート27bの下方に配置される。爪台60は、スライダ59と一体になって径方向に往復する。
【0030】
爪63は、爪台60に装着される。爪63は、当接部64を有して良い。爪63は、円柱状であり、回転軸1の方向(Z方向)に延びる。爪63は、爪台60の下方に配置される。当接部64は、爪63の先端部に配置される。当接部64は、合成ゴムなどの弾性体でである。当接部64は、ワーク3に当接する。
【0031】
図1及び
図3に示すように、カバー65は、薄肉の段付き円柱状である。カバー65の下方部は、上方部よりも大径である。カバー65は、サブシャフト29と、中心傘歯車31と、爪ユニット50と、原動軸39と、原動傘歯車48とを覆う。カバー65は、爪穴65aを有する。爪63は、爪穴65aを貫通する。従動カプラ49は、カバー65の側面を貫通する。
【0032】
シール67は、爪穴65aと爪63との間を覆う。シール67は、例えば、一対のブラシ671である。
図3に示すように、ブラシ671は、植毛台67aと、毛材67bとを有する。植毛台67aは、爪穴65aの周方向の両端部に配置される。植毛台67aは、径方向に延びる。毛材67bは、爪穴65aの中心に向かって延びる。毛丈は、爪穴65aの幅の約半分である。シール67は、洗浄液や切りくずの流入を抑制する。
なお、シール67は、伸縮カバーでも良い。伸縮カバーは、例えば、ロールカバー、テレスコピックカバー、蛇腹である。
【0033】
図4に示すように、制御装置71は、シーケンス制御手段73と、記憶手段81と、爪送り制御手段75と、回転モータ制御手段89と、シリンダ制御手段91と、入出力手段93とを有する。
シーケンス制御手段73は、処理シーケンスに従って、爪送り制御手段75と、回転モータ制御手段89と、シリンダ制御手段91と、入出力手段93とを統括する。
【0034】
記憶手段81は、チャック径d0と、チャックオフセット量d1と、上限速度n0と、早送り速度n1と、上限トルクTr0と、クランプ完了閾値Tr1と、時間閾値t0と、回転速度n2とを格納する。
ここで、チャック径d0は、ワーク3をチャックするときの爪63の径である。チャックオフセット量d1は、ワーク3をチャックするときの爪63の早送り終点からチャック径d0までの距離である。チャックオフセット量d1は、ワーク3の径のばらつきや、回転軸1と各爪63との距離差や、ワーク3の回転軸1からの偏心量の和よりも若干大きい。上限速度n0は、ワーク3をチャックするときの爪送りモータ46の回転速度nの上限である。早送り速度n1は、爪送りモータ46の早送り速度である。
【0035】
上限トルクTr0は、ワーク3をチャックするときの爪送りモータ46のトルクTrの上限である。ここで、上限トルクTr0は、爪送りモータ46が爪63を送ったときに、爪63の送り抵抗によって容易に到達しない程度の値である。クランプ完了閾値Tr1は、クランプが完了するときのトルクTrの閾値である。クランプ完了閾値Tr1は、上限トルクTr0よりもわずかに小さく設定される。例えば、クランプ完了閾値Tr1は、上限トルクTr0の90~95%の値である。
時間閾値t0は、トルクTrがクランプ完了閾値Tr1以上となる時間の閾値である。例えば、時間閾値t0は、0.2~0.6sである。回転速度n2は、回転モータ21の回転速度である。
【0036】
チャック径d0と、チャックオフセット量d1と、上限速度n0と、早送り速度n1と、上限トルクTr0と、クランプ完了閾値Tr1と、時間閾値t0と、回転速度n2は、入出力手段93を介して記憶手段81に入力又は転送される。
ここで、上限速度n0と、早送り速度n1と、上限トルクTr0は、省いても良い。
【0037】
なお、爪送りモータ46の角度検知センサがインクリメント方式であるときには、チャック径d0と、チャックオフセット量d1を省いても良い。このときに、チャック時において、爪63の早送り停止位置におけるスライダ59の位置を検出するリミットスイッチ(不図示)を回転フレーム27に配置しても良い。
なお、複数のワーク3が混流する場合がある。爪送りモータ46の角度検知センサがインクリメント方式であり、かつ、複数のワーク3が混流する場合には、複数のリミットスイッチ(不図示)を設けても良い。リミットスイッチは、回転フレーム27に配置され、早送りを終了する位置にある爪台60又はスライダ59を検出する。この場合、混流する最大ワークに対応する一つのリミットスイッチを設けても良い。
【0038】
爪送り制御手段75は、電源制御手段76と、速度制御手段77と、トルク監視手段78と、タイマー79とを有する。
電源制御手段76は、爪送りモータ46を励磁し、消磁する。
【0039】
速度制御手段77は、チャックするときに、回転軸1から爪63までの距離dがd0+d1に到達するまで(d0+d1<dのとき)は、爪送りモータ46を早送りする。すなわち、速度制御手段77は、爪送りモータ46の回転速度nを早送り速度n1にする。
速度制御手段77は、チャックするときに、爪63の回転軸1からの距離dがd0+d1以下になったとき(d<d0+d1のとき)は、爪送りモータ46の回転速度nを、上限速度n0以下に保つ。速度制御手段77は、このときに、爪送りモータ46のトルクTrを、上限トルクTr0以下に保ってもよい。
速度制御手段77は、アンチャックするときに、爪送りモータ46を早送りする。すなわち、速度制御手段77は、爪送りモータ46の回転速度nを早送り速度n1にする。停止信号を受信すると、速度制御手段77は、爪送りモータ46を停止する。
【0040】
トルク監視手段78は、爪送りモータ46のトルクTrを監視する。
タイマー79は、トルク監視手段78と連動して、トルクTrがクランプ完了閾値Tr1以上となる時間tを測定する。例えば、時間tが時間閾値t0を超過すると、タイマー79は、停止信号を発信する。速度制御手段77は、タイマー79からの停止信号を受信する。時間tが時間閾値t0を超過すると、速度制御手段77は、爪送りモータ46を停止する。
【0041】
回転モータ制御手段89は、回転モータ21を回転し、停止させる。回転モータ制御手段89は、回転フレーム27を予め定められた原位置9に停止させる。ここで、回転フレーム27が原位置9にあるときに、従動カプラ49と原動カプラ47の回転位相が一致する。
シリンダ制御手段91は、シリンダ44を進退させる。
【0042】
入出力手段93は、I/Oポートや、入出力装置を有する。入出力手段93は、爪送りモータ46や、回転モータ21や、エア源(不図示)や、方向制御弁(不図示)と制御信号を通信する。また、入出力手段93は、記憶手段81へ各データを格納し、消去する。
【0043】
図5に従って、本実施形態のチャック及びアンチャック方法を説明する。ここで、ステップS1~ステップS9はチャック工程を示す。ステップS10は、加工工程における制御を示す。ステップS11~ステップS15は、アンチャック工程を示す。
まず、爪送りモータ46を消磁する(ステップS1)。次いで、原動カプラ47と従動カプラ49を結合する(ステップS2)。次に、爪送りモータ46を励磁する(ステップS3)。次に、爪を送る(ステップS5~S8)。次に、原動カプラ47と従動カプラ49を離間する(ステップS9)。次に、回転フレーム27を回転して、加工を行う。そして、回転フレーム27の回転を停止する(ステップS10)。加工後、爪送りモータ46を消磁する(ステップS11)。次いで、原動カプラ47と従動カプラ49を結合する(ステップS12)。次に、爪送りモータ46を励磁する(ステップS13)。次に、爪を送る(ステップS14)。最後に、原動カプラ47と従動カプラ49を離間する(ステップS15)。
【0044】
ここで、ステップS1とステップS11は、同一である。ステップS2とステップS12は、同一である。ステップS3とステップS13は、同一である。ステップS9とステップS15は、同一である。
以下、各ステップについて、詳細に説明する。
【0045】
ステップS1において、電源制御手段76は、爪送りモータ46を消磁する。すると、原動カプラ47が、原動カプラ47の中心軸(X軸)に対して自在に回転可能になる。
ステップS2において、シリンダ制御手段91は、シリンダ44を伸ばし、原動カプラ47を結合位置5に移動させる。すると、原動カプラ47と従動カプラ49が接続される。このとき、原動カプラ47が回転自在であるため、原動カプラ47と従動カプラ49の位相がわずかにずれていた場合であっても、原動カプラ47は、従動カプラ49に倣い、スムーズに挿入される。
【0046】
ステップS3において、電源制御手段76は、爪送りモータ46を励磁する。
ステップS4において、速度制御手段77は、距離dがd
0+d
1になるまで、爪63を径方向内側へ送る。ここで、速度制御手段77は、爪63を早送りする。爪送りモータ46は、早送り速度n
1で回転する。ステップS4は、
図6のt=t
2~t
3の期間に行われる。ここで、
図6において、破線は、爪送りモータ46の回転速度nの時間変化を示す。
図6において、右の縦軸は、爪送りモータ46の回転速度nを示し、左の縦軸は、爪送りモータ46のトルクTrを示し、横軸は時間を示す。ステップS4終了時において、ワーク3と爪63は、離れている。
【0047】
次に、ワーク3に爪63が接する状態の爪送り(ステップS5~ステップS8)について説明する。
ステップS5において、速度制御手段77は、爪送りモータ46の回転速度nが上限速度n
0以下を保つように、爪63を送る。好ましくは、速度制御手段77は、爪送りモータ46のトルクTrが上限トルクTr
0を超えないように、爪63を送る。ステップS6において、トルク監視手段78は、爪送りモータ46のトルクTrを監視する。ステップS6は、ステップS5と同時に開始される。ステップS6は、
図6のt=t
3~t
4の期間に行われる。
【0048】
図6に示すように、爪63がワーク3に接触するまでは、爪送りモータ46は、上限速度n
0で回転する。このとき、トルクTrは、送りねじ55の回転抵抗とスライダ59の抵抗の和に相当する低い値を保つ。爪63がワーク3に接触すると、トルクTrが急激に上昇する。そして、爪送りモータ46の回転速度nは、0に向かって下降する。トルクTrがクランプ完了閾値Tr
1以上となると(ステップS6でYes)、ステップS7へ進む。それ以外の場合、速度制御手段77は、継続して爪送りモータ46を回転する(ステップS5)。
ステップS7において、タイマー79は、トルクTrがクランプ完了閾値Tr
1以上となる時間tを計測する。時間tが時間閾値t
0を超過したときに(ステップS7でYes)、ステップS8へ進む。それ以外の場合、速度制御手段77は、継続して爪送りモータ46を回転する(ステップS5)。
ステップS8において、速度制御手段77は、爪送りモータ46を停止させる。このとき、回転速度nは、実質的に0となる。また、トルクTrも実質的に0となる。
【0049】
ステップS9において、シリンダ制御手段91は、シリンダ44を後退させる。爪送りモータ46と原動カプラ47は、離間位置6に移動する。原動カプラ47は、従動カプラ49から離間する。回転フレーム27は、回転可能になる。このとき、ねじ軸55aは、送りナット55bとの抵抗により回転しない。
【0050】
ステップS10において、回転モータ制御手段89は、回転モータ21を回転させる。ここで、ワーク3が加工や洗浄される。その後、回転モータ制御手段89は、回転モータ21を停止する。このとき、回転フレーム27は、原位置9で停止する。
【0051】
ステップS14において、速度制御手段77は、爪送りモータ46を回転して、爪63を径方向外側に移動させる。ここで、速度制御手段77は、早送りで爪63を送って良い。
【0052】
本実施形態の回転チャック装置10によれば、爪63は、弾性体である当接部64を有する。そのため、ステップS5において、爪63がワーク3に接触したときに、時間tに対してトルクTrが直線的に上昇する。そして、トルクTrがクランプ完了閾値Tr1以上を示した時間tが時間閾値t0を超過したときに、回転チャック装置10は、チャックを完了させる。
【0053】
爪63は、回転軸1について対称に移動する。さらに、爪63は、上限速度n0に対応する速度でワーク3に近接する。上限速度n0や上限トルクTr0が比較的低く設定されていれば、回転チャック装置10は、柔らかくワーク3をチャックできる。そして、ワーク3は、自動的に芯出しされる。
回転チャック装置10は、送りねじ55を介して、爪台60を移動させる。そのため、チャック径を大きく設定できる。
上述の作用効果により、回転チャック装置10は、弾性を有し、大径のワーク3を、歪みを抑制しながら、中心位置にチャックできる。また、回転チャック装置10は、脆性体の大径のワーク3の芯出しチャックにも適合する。
【0054】
本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
3 ワーク
10 回転チャック装置
45 原動カプラ
46 爪送りモータ
49 従動カプラ
63 爪