(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126822
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物、樹脂部材、および金属樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20240912BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240912BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240912BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20240912BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/38
C08K3/22
C08G69/26
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035482
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 悠
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
【テーマコード(参考)】
4F206
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA29
4F206AD03
4F206JA07
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4F206JL02
4J001DA01
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4J002FD160
4J002FD170
4J002FD200
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐トラッキング性が十分に高められたポリアミド樹脂組成物、およびその樹脂部材、ならびに金属樹脂複合体を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリアミド樹脂組成物であって、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)が320℃以上である、ポリアミド樹脂(A)と、前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対する含有量が8質量%以上である、吸熱フィラー(B)と、を含み、前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)と、ジアミンに由来する成分単位(Ab)とを含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、前記芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して90モル%以上100モル%以下であり、前記吸熱フィラー(B)は、ホウ酸金属化合物またはアルミニウム化合物である、ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂組成物であって、
示差走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)が320℃以上である、ポリアミド樹脂(A)と、
前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対する含有量が8質量%以上である、吸熱フィラー(B)と、
を含み、
前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)と、ジアミンに由来する成分単位(Ab)とを含み、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、
前記芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して90モル%以上100モル%以下であり、
前記吸熱フィラー(B)は、ホウ酸金属化合物またはアルミニウム化合物である、
ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して100モル%である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位は、テレフタル酸に由来する成分単位、およびイソフタル酸に由来する成分単位を含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂(A)の総末端基量は、100mmol/kg以上300mmol/kg以下である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂(A)の総末端基量は、150mmol/kg以上250mmol/kg以下である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記吸熱フィラー(B)の含有量は、前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して10質量%以上である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記吸熱フィラー(B)はホウ酸金属化合物である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂(A)は、前記ポリアミド樹脂(A)に含まれる成分単位を構成する炭素原子の総数に対する、芳香環を含む成分単位に含まれる前記芳香環を構成する炭素原子の総数の割合が25%以上50%以下である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む、樹脂部材。
【請求項10】
金属部材と、
前記金属部材に複合化された、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材と、を含む、
金属樹脂複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物、樹脂部材、および金属樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、成形材料として、ポリアミド樹脂組成物が知られている。ポリアミド樹脂組成物は、例えば、自動車用部品、電気・電子用部品などの種々の部品の材料として広く用いられており、成形体の機械的強度に優れることが知られている。
【0003】
ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材が自動車用部品(例えばバスバーなど)、電気・電子用部品に用いられたとき、トラッキングが生じ得る。そのため、ポリアミド樹脂組成物をこれらの用途に用いるとき、樹脂部材の耐トラッキング性を高めることが要求される。
【0004】
例えば、特許文献1には、分子中に複数のスルホニル基を含むポリスルホン樹脂と、ポリアミド樹脂とを含み、上記ポリアミド樹脂の含有率が、ポリスルホン樹脂とポリアミド樹脂の合計質量に対して1質量%以上45質量%以下である電気絶縁性樹脂組成物が開示されている。特許文献1では、上記樹脂組成物は、優れた耐トラッキング性を示したとされている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、熱可塑性ポリアミドと、ジアルキルホスフィン酸塩などの難燃剤とを含むポリアミド樹脂組成物が開示されている。特許文献2では、上記ポリアミド樹脂組成物は、耐トラッキング性が良好であったとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-021115号公報
【特許文献2】特表2019-507227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2に記載されたように、耐トラッキング性を高めたポリアミド樹脂組成物が知られている。その上で、ポリアミド樹脂組成物の耐トラッキング性をより十分に高めたいという要望が存在する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐トラッキング性が十分に高められたポリアミド樹脂組成物、およびその樹脂部材、ならびに金属樹脂複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[1]~[8]のポリアミド樹脂組成物に関する。
[1]ポリアミド樹脂組成物であって、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)が320℃以上である、ポリアミド樹脂(A)と、前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対する含有量が8質量%以上である、吸熱フィラー(B)と、を含み、前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)と、ジアミンに由来する成分単位(Ab)とを含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、前記芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して90モル%以上100モル%以下であり、前記吸熱フィラー(B)は、ホウ酸金属化合物またはアルミニウム化合物である、ポリアミド樹脂組成物。
[2]前記芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して100モル%である、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3]前記芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位は、テレフタル酸に由来する成分単位、およびイソフタル酸に由来する成分単位を含む、[1]または[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4]前記ポリアミド樹脂(A)の総末端基量は、100mmol/kg以上300mmol/kg以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[5]前記ポリアミド樹脂(A)の総末端基量は、150mmol/kg以上250mmol/kg以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[6]前記吸熱フィラー(B)の含有量は、前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して10質量%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[7]前記吸熱フィラー(B)はホウ酸金属化合物である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[8]前記ポリアミド樹脂(A)は、前記ポリアミド樹脂(A)に含まれる成分単位を構成する炭素原子の総数に対する、芳香環を含む成分単位に含まれる前記芳香環を構成する炭素原子の総数の割合は25%以上35%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【0010】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[9]の樹脂部材に関する。
[9][1]~[8]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含む、樹脂部材。
【0011】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[10]の金属樹脂複合体に関する。
[10]金属部材と、前記金属部材に複合化された、[1]~[8]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材と、を含む、金属樹脂複合体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐トラッキング性が十分に高められたポリアミド樹脂組成物、およびその樹脂部材、ならびに金属樹脂複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0014】
1.ポリアミド樹脂組成物
本実施形態におけるポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対する含有量が8質量%以上である、吸熱フィラー(B)とを含む。
【0015】
ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材(以下、単に「樹脂部材」とも称する)の表面に汚れや水分が付着した状態で樹脂部材の表面方向に電圧が印加されると、トラッキング破壊が生じうることが知られている。
【0016】
樹脂部材の表面に水分などが付着した状態で樹脂部材の表面に平行な方向に電圧が印加されると、水分などを通じて電極間に漏れ電流が流れることでジュール熱が生じ、水分などが蒸発していく。その過程で、乾燥した部分(乾燥帯)が生じると、乾燥した部分は絶縁抵抗が高くなるため、乾燥帯の両端に高い電圧がかかり、シンチレーション放電が生じる。シンチレーション放電が生じると樹脂部材の表面に熱エネルギーが供給されて炭化劣化が生じ、樹脂部材の表面に炭化物が析出する。放電が繰り返されると、樹脂部材の表面に析出した炭化物が起点となって炭化された部分が成長していき、炭化された部分によって電極間が橋絡することで絶縁破壊に至る。
【0017】
特に、ポリアミド樹脂組成物に、融点(Tm)が320℃以上のポリアミド樹脂が含まれるとき、ポリアミド樹脂を構成する成分単位中に多くの芳香環が含まれるため、上記炭化が生じることによるトラッキング破壊が生じやすかった。
【0018】
これに対して、本発明者らは、ポリアミド樹脂(A)に対して、吸熱フィラー(B)としてホウ酸金属化合物またはアルミニウム化合物を添加することで、ポリアミド樹脂組成物および樹脂部材の耐トラッキング性を高められることを見出した。その理由は以下のように考えられる。
【0019】
ホウ酸金属化合物またはアルミニウム化合物は熱を受けて分解され、熱分解時の吸熱量が大きい。そのため、ホウ酸金属化合物またはアルミニウム化合物を吸熱フィラー(B)として添加することで、樹脂部材の表面近傍でシンチレーション放電が生じて樹脂部材の表面に熱エネルギーが供給された際に、その熱エネルギーの大部分を吸熱フィラー(B)によって吸収することができると考えられる。吸熱フィラー(B)によって吸収された熱エネルギーは吸熱フィラー(B)の分解反応で消費されるため、樹脂部材の表面を構成する他の成分、例えばポリアミド樹脂(A)に供給される熱エネルギーの量を低減することができる。この結果、ポリアミド樹脂(A)の炭化劣化を抑制することができ、ポリアミド樹脂組成物および樹脂部材の耐トラッキング性を高めることができると考えられる。
【0020】
さらに、ホウ酸金属化合物またはアルミニウム化合物はポリアミド樹脂(A)よりも熱伝導率が高い。そのため、樹脂部材の表面近傍で放電が生じて樹脂部材の表面に熱エネルギーが供給された際に樹脂部材の表層に存在する吸熱フィラー(B)によって吸収された熱は、当該表層に存在する吸熱フィラー(B)から、その周囲に存在する他の吸熱フィラー(B)へと移動する。このような熱移動が連鎖的に起こることで、樹脂部材の表面に供給された熱エネルギーを樹脂部材の内部などの多方向に分散させて、樹脂部材の表層に存在するポリアミド樹脂(A)に供給される熱エネルギーの量を低減することができると考えられる。この結果、樹脂部材の表面への熱エネルギーの集中を抑制して、ポリアミド樹脂(A)の炭化劣化を抑制することができ、ポリアミド樹脂組成物および樹脂部材の耐トラッキング性を高めることができると考えられる。
【0021】
さらに、本発明者らの検討の結果、上記吸熱フィラー(B)の含有量を、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して8質量%以上とすることで、上記耐トラッキング性を十分に高められることがわかった。吸熱フィラー(B)の含有量をより多くすることで、吸熱フィラー(B)によって吸収できる熱エネルギーの量をより多くするとともに、樹脂部材の表面に熱エネルギーが集中することを抑制することができ、樹脂部材の表面近傍に存在するポリアミド樹脂(A)の炭化を十分に抑制できるためだと考えられる。
【0022】
1-1.ポリアミド樹脂(A)
本実施形態において、ポリアミド樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)が320℃以上である。上記融点(Tm)が320℃以上であることで、樹脂部材表面に電圧が印加された際に生じた熱による樹脂部材表面の溶融を抑制できる。また、上述のように、上記融点が320℃以上であると、樹脂部材のトラッキング破壊が特に生じやすいため、本発明による耐トラッキング性の向上の効果が顕著になる。
【0023】
また、ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)とジアミンに由来する成分単位(Ab)とを含む。
【0024】
(ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa))
本実施形態において、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位を含む。芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して90モル%以上100モル%以下である。
【0025】
芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して95モル%以上100モル%以下であることが好ましく、98モル%以上100モル%以下であることがより好ましく、99モル%以上100モル%以下であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量をジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して90モル%以上と高くすることで、ポリアミド樹脂(A)の耐熱性や、引張強度などの機械強度を高めることができる。
【0026】
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸や、2-メチルテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸などのテレフタル酸およびイソフタル酸以外の芳香族カルボン酸が含まれる。ポリアミド樹脂の結晶性を高める観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)はテレフタル酸に由来する成分単位を含むことが好ましい。また、ポリアミド樹脂の結晶性を適度に高める観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)はテレフタル酸に由来する成分単位とイソフタル酸に由来する成分単位とを含むことがより好ましい。
【0027】
ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対する含有量が、55モル%以上75モル%以下のテレフタル酸に由来する成分単位と、25モル%以上45モル%以下のイソフタル酸に由来する成分単位と、を含むことが好ましく、65モル%以上75モル%以下のテレフタル酸に由来する成分単位と、25モル%以上35モル%以下のイソフタル酸に由来する成分単位と、を含むことがより好ましい。これにより、ポリアミド樹脂(A)の結晶化度を適度に調整して、樹脂部材の引張強度を高めつつ、樹脂部材の柔軟性を高めることができる。
【0028】
ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量が上記の割合を満たす限りにおいて、脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位、炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位などを含むことができる。
【0029】
脂肪族ジカルボン酸は、炭素原子数が6~12であることが好ましい。そのような脂肪族ジカルボン酸の例には、アジピン酸、アゼライン酸およびセバシン酸が含まれる。これらの中でも、アジピン酸およびセバシン酸が好ましい。
【0030】
上記脂環式ジカルボン酸の例には、シクロヘキサンジカルボン酸およびそのエステルが含まれる。
【0031】
(ジアミンに由来する成分単位(Ab))
ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、例えば、炭素原子数4~18の脂肪族ジアミンに由来する成分単位、炭素数4~20の脂環式ジアミンに由来する成分単位、および芳香族ジアミンなどを含むことができる。これらのうち、ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、炭素原子数4~18の脂肪族ジアミンに由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0032】
上記脂肪族ジアミンは、炭素原子数4~18の脂肪族ジアミンであり、上記炭素原子数は4~15であることが好ましい。そのような脂肪族ジアミンの例には、炭素原子数4~18の直鎖状アルキレンジアミン、および炭素原子数4~18の分岐状アルキレンジアミン(側鎖を有するアルキレンジアミン)などが含まれる。
【0033】
上記直鎖状アルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどが含まれる。これらの中でも、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミンおよび1,10-ジアミノデカンが好ましい。直鎖状アルキレンジアミンは、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0034】
上記直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、40モル%以上100モル%以下であることが好ましく、40モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。
【0035】
上記分岐状アルキレンジアミンの例には、1-ブチル-1,2-ジアミノエタン、2,2-ジメチルジアミノプロパン、1,1-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1-エチル-1,4-ジアミノブタン、1,2-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1,3-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1,4-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、2,3-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2,5-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、3,3-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,2-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4-ジエチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,3-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,4-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,5-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,2-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-4-エチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-エチル-4-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,2,5,5-テトラメチル-1,7-ジアミノヘプタン、3-イソプロピル-1,7-ジアミノヘプタン、3-イソオクチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、1,3-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、1,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、4,5-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,2-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,3-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、4,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,3,5-トリメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,4-ジエチル-1,8-ジアミノオクタン、および5-メチル-1,9-ジアミノノナンなどが含まれる。これらの中でも、2-メチル-1,5-ジアミノペンタンがより好ましい。
【0036】
上記分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、0モル%以上60モル%以下であることが好ましく、20モル%以上60モル%以下であることがより好ましい。
【0037】
ジアミンに由来する成分単位(Ab)が、直鎖状および分岐状のアルキレンジアミンに由来する成分単位を上記のような量で含有するとき、ポリアミド樹脂(A)の融点を、成形時にポリアミド樹脂組成物がガス焼けを引き起こさない程度にまで低下させることができる。また、成形時のポリアミド樹脂組成物の溶融流動性をより高めたり、樹脂部材の高温下でのクリープ耐性を高めたりすることができる。
【0038】
ジアミンに由来する成分単位(Ab)が、炭素原子数4~18の直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位、および炭素原子数4~18の分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位の両方を含む場合、上記直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位の含有量が、両者の合計モル数に対して99モル%以下であると、成形時の溶融流動性をより高めることができる。また、上記分岐状アルキレンジアミンに由来する成分単位の含有量が、上記合計モル数に対して50モル%以下であると、ポリアミド樹脂(A)の結晶化速度が遅くなりにくく、耐熱性が十分になりやすい。
【0039】
炭素原子数4~18の脂肪族ジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、40モル%以上100モル%以下であることが好ましく、70モル%以上100モル%以下であることがより好ましい。
【0040】
炭素原子数4~20の脂環式ジアミンの例には、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5-ビスアミノメチルノルボルナンおよび2,6-ビスアミノメチルノルボルナンなどが含まれる。芳香族ジアミンの例には、メタキシリレンジアミンなどが含まれる。
【0041】
炭素原子数4~20の脂環式ジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、0モル%以上75モル%以下とすることができ、35モル%以上65モル%以下であることが好ましい。
【0042】
芳香族ジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、0モル%以上50モル%以下とすることができ、0モル%以上30モル%以下であることが好ましい。
【0043】
ポリアミド樹脂(A)の各構成単位およびその比率は、ポリアミド樹脂(A1)の調製時の仕込み比から算出するか、または、NMR法で測定することができる。
【0044】
1H-NMR測定の場合、例えば、核磁気共鳴装置(日本電子(株)製 ECX400型)を用い、溶媒は重水素化オルトジクロロベンゼンとし、試料濃度は20mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核は1H(400MHz)、シーケンスはシングルパルス、パルス幅は5.12μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は7.0秒、積算回数は500回以上とする条件である。基準のケミカルシフトは、テトラメチルシランの水素を0ppmとするが、他にも、重水素化オルトジクロロベンゼンの残存水素由来のピークを7.10ppmとしてケミカルシフトの基準値とすることでも同様の結果を得ることができる。官能基含有化合物由来の1Hなどのピークは、常法によりアサインしうる。
【0045】
13C-NMR測定の場合、例えば、測定装置として核磁気共鳴装置(日本電子(株)製ECP500型)を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シングルパルスプロトンデカップリング、45°パルス、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値とする条件である。各種シグナルのアサインは常法を基にして行い、シグナル強度の積算値を基に定量を行うことができる。
【0046】
ポリアミド樹脂(A)の具体例には、ポリアミド6T6I(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー)、ポリアミド6TDT(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー)、ポリアミド9T(ポリノナメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド10T(ポリデカメチレンテレフタルアミド)などが含まれる。
【0047】
なお、ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、バイオマス由来のジカルボン酸に由来する成分単位を含んでもよいし、ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、バイオマス由来のジアミンに由来する成分単位を含んでもよい。また、ポリアミド樹脂(A)は、バイオマス由来の原料を含む原料群を重合してなる、バイオマス由来のポリアミド樹脂(A)であってもよい。
【0048】
本実施形態において、ポリアミド樹脂(A)の総末端基量(末端アミノ基量および末端カルボキシル基量の総量)は、100mmol/kg以上300mmol/kg以下であることが好ましく、100mmol/kg以上250mmol/kg以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の総末端基量が300mmol/kg以下であることで、ポリアミド樹脂組成物を溶融混錬などによって調整する際やポリアミド樹脂組成物を成形する際などに、ジカルボン酸とジアミンとのさらなる重合反応(後重合)が生じた場合であっても、ポリアミド樹脂(A)の粘度上昇が抑制できる。ポリアミド樹脂(A)の粘度が上昇しすぎると、ポリアミド樹脂組成物の調整時に吸熱フィラー(B)のポリアミド樹脂組成物中での分散性が低下してしまい、より十分な量の吸熱フィラー(B)を添加することが困難となる。一方、ポリアミド樹脂(A)の総末端基量を300mmol/kg以下とすることで、吸熱フィラー(B)の分散性を高めるとともに、吸熱フィラー(B)の添加量をより十分に増やすことができる。この結果、耐トラッキング性をより十分に高めることができる。また、上記総末端基量が100mmol/kg以上であることで、末端アミノ基や末端カルボキシ基の量が十分であるため、これらの基と比較的親和性の良い添加剤やガラス繊維の分散不良を一層抑制できる。
【0049】
ポリアミド樹脂(A)の総末端基量は、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量および末端カルボキシル基量を合計することで求めることができる。
【0050】
ポリアミド樹脂(A)の末端カルボキシル基量および末端アミノ基量は、NMR法を用いて測定することができる。測定方法は、例えば、ポリアミド樹脂30mgを重水素化ヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)0.5mLに溶解し、NMR測定用サンプルを準備する。準備したサンプルについて、核磁気共鳴装置(ECA-500型、日本電子株式会社製)でNMR測定を行い、得られたスペクトル中の、ポリアミド樹脂を構成する各成分の水素由来のピーク面積からポリアミド樹脂の分子量を算出し、末端カルボキシル基および末端アミノ基特有の水素由来のピーク面積と分子量の値を用い、末端カルボキシル基量([COOH]、単位:mmol/kg)および末端アミノ基量([NH2]、単位mmmol/kg)を算出する。
【0051】
ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基量および末端カルボキシル基量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の含有量およびジアミンに由来する成分単位(Ab)の含有量を調整するか、ポリアミド樹脂の合成時に末端封止剤を用いることによって調整することができる。
【0052】
末端封止剤は、例えば分子末端がカルボキシル基の場合は、モノアミンであることが好ましく、分子末端がアミノ基である場合は、モノカルボン酸であることが好ましい。
【0053】
モノアミンの例には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、およびブチルアミンなどを含む脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、およびジシクロヘキシルアミンなどを含む脂環式モノアミン、ならびに、アニリン、およびトルイジンなどを含む芳香族モノアミンなどが含まれる。モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびリノ-ル酸などを含む炭素原子数2以上30以下の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸およびフェニル酢酸などを含む芳香族モノカルボン酸、ならびにシクロヘキサンカルボン酸などを含む脂環式モノカルボン酸が含まれる。芳香族モノカルボン酸および脂環式モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基を有していてもよい。
【0054】
ポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、25質量%以上55質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましく、35質量%以上53質量%以下であることが好ましい。
【0055】
(ポリアミド樹脂(A)の物性)
本実施形態におけるポリアミド樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)は320℃以上であり、320℃以上340℃以下であることが好ましく、320℃以上335℃以下であることがより好ましい。上記融点が340℃以下であると、成形温度を過剰に高くせずに、ポリアミド樹脂組成物を成形しやすくすることができ、成形加工性をより良好にすることができる。
【0056】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)は、ポリアミド樹脂(A)の組成を調整することによって、上記範囲にすることができる。例えば、ポリアミド樹脂(A)中の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有比率を多くすることによって、上記融点(Tm)を高めることができる。
【0057】
また、ポリアミド樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)が、70℃以上145℃以下であることが好ましく、80℃以上145℃以下であることがより好ましい。上記ガラス転移温度(Tg)が90℃以上であると、高温環境下における分子の運動性が活発になる温度が高くなるため、分子の運動性を抑制してポリアミド樹脂組成物および成形体の耐熱性をより高めることができる。また、上記ガラス転移温度(Tg)が145℃以下であると、成形加工時に金型温度を過剰に高めずとも樹脂組成物の流動性を維持しやすくでき、成形加工性を向上させることができる。
【0058】
ポリアミド樹脂(A)の示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、5J/g以上130J/g以下であることが好ましく、20J/g以上100J/g以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の融解熱量(ΔH)が5J/g以上であると、結晶化度が高まるため、樹脂部材の耐熱性が高まりやすい。また、100J/g以下であると、ポリアミド樹脂(A)の結晶化度を適度に低くすることができるため、樹脂部材の柔軟性をより高めることができる。
【0059】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)および融解熱量(ΔH)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定することができる。
【0060】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、1度目の昇温過程での融解時の吸熱ピークの面積から求める。
【0061】
ポリアミド樹脂(A)の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.6dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が0.6dl/g以上であると、成形体の機械的強度(引張強度など)を十分に高めやすく、1.5dl/g以下であると、樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]は、同様の観点から、0.8dl/g以上1.2dl/g以下であることがより好ましい。極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂(A)の末端封止量などによって調整することができる。
【0062】
ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]は、以下のようにして測定することができる。ポリアミド樹脂(A)0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させて、試料溶液とする。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、下記式に基づき算出する。
[η]=ηSP/(C*(1+0.205ηSP))
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t0)/t0
【0063】
(製造方法)
ポリアミド樹脂(A)は、公知のポリアミド樹脂と同様の方法で製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0064】
(その他)
本実施形態において、ポリアミド樹脂(A)は、芳香環を有する成分単位を含み、ポリアミド樹脂(A)に含まれる成分単位を構成する炭素原子の総数に対する、上記芳香環を構成する炭素原子の総数の割合は25%以上50%以下であることが好ましく、35%以上50%以下であることがより好ましく、35%以上45%以下であることがさらに好ましい。上記芳香環を構成する炭素原子の総数の割合が25%以上であることで、樹脂部材、およびポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材の引張強度をより高めることができる。また、上記芳香環を構成する炭素原子の総数の割合が50%以下であることで、樹脂部材に電圧が印加されたとき、ポリアミド樹脂(A)の分子鎖中の芳香環の割合を低くして、より樹脂部材表面および内部の炭化を生じにくくすることができる。これにより、ポリアミド樹脂組成物および樹脂部材の耐トラッキング性をより高めることができる。上記炭素原子数の割合は、ポリアミド樹脂(A)の調整に用いるジカルボン酸およびジアミンの組み合わせ、ならびに芳香族ジカルボン酸および芳香族ジアミンの含有比率によって調整することができる。また、上記炭素原子数の割合は、仕込み比から算出するか、NMR法によって測定することができる。NMR法については、上述したものと同様とすることができる。
【0065】
1-2.吸熱フィラー(B)
本実施形態において、吸熱フィラー(B)は、ホウ酸金属化合物またはアルミニウム化合物である。
【0066】
本明細書において、ホウ酸金属化合物とは、以下の式(1)を満たす化合物のことをいう。
【0067】
【0068】
式(1)において、Mは金属元素であり、a,b,c,d>0、およびe≧0を満たす。
【0069】
ホウ酸金属化合物の例には、ホウ酸亜鉛化合物、ホウ酸マグネシウム化合物、ホウ酸カルシウム化合物、ホウ酸アルミニウム化合物などが含まれる。これらのうち、ホウ酸亜鉛化合物(M=Zn、b=1、c=1)が好ましい。なお、本実施形態において、ホウ酸アルミニウムは、式(1)を満たす化合物であるため、ホウ酸金属化合物に該当する。
【0070】
上記ホウ酸亜鉛化合物は、ポリアミドとの馴染みを良くする(親和性を高める)観点から、式(1)において、(a,d,e)=(2,3,3.5)、(4,1,1)、および(2,3,0)を満たすことが好ましい。また、上記ホウ酸亜鉛化合物は、式(1)において、(a,d,e)=(2,3,0)を満たすこと(無水ホウ酸亜鉛であること)がより好ましい。ホウ酸亜鉛化合物が無水ホウ酸亜鉛であることで、脱水反応によって水が放出されることがなくなるため、ポリアミド樹脂(A)の劣化を抑制することができる。
【0071】
吸熱フィラー(B)がホウ酸金属化合物であるとき、吸熱フィラー(B)の表面は、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤などの表面処理剤で処理されていてもよい。これにより、ポリアミドとの界面強度を向上し、組成物の強度を向上することができる。
【0072】
アルミニウム化合物の例には、酸化アルミニウム(アルミナ)、遷移アルミナ、ベーマイト(酸化アルミニウム・1水和物)、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが含まれる。これらのうち、高吸熱量の観点から、ベーマイトおよび水酸化アルミニウムが好ましく、ベーマイトがより好ましい。
【0073】
樹脂部材の引張強度の低下を抑制する観点から、吸熱フィラー(B)はホウ酸金属化合物であることが好ましい。ホウ酸金属化合物は、分解開始温度がより高いため、ポリアミド樹脂組成物の溶融混錬時の加熱温度では熱分解されにくい。ポリアミド樹脂組成物を溶融混錬する際などに分解生成物が発生するとポリアミド樹脂(A)の劣化が生じうるが、吸熱フィラー(B)をホウ酸金属化合物とすることでこれをより抑制することができる。そのため、樹脂部材の引張強度をより高めることができると考えられる。
【0074】
吸熱フィラー(B)の形状の例には、球状、板状、鱗片状、直方体状、針状などが含まれる。これらのうち、板状および直方体状が好ましい。
【0075】
吸熱フィラー(B)がホウ酸金属化合物であるとき、上記体積基準の粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)は、0.1μm以上30.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上15.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上7.0μm以下であることがさらに好ましい。
【0076】
吸熱フィラー(B)がアルミニウム化合物であるとき、上記体積基準の粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)は、0.1μm以上15.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上10.0μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上5.0μm以下であることがさらに好ましく、1.0μm以上3.0μm以下であることが特に好ましい。
【0077】
上記粒径(d50)は、レーザー回折法により測定することができる。
【0078】
吸熱フィラー(B)のアスペクト比(長軸径/短軸径)は、ポリアミド樹脂組成物における吸熱フィラー(B)の分散性を高める観点から、1以上50以下であることが好ましく、1以上15以下であることがより好ましく、1以上5以下であることがさらに好ましい。上記アスペクト比は、電子顕微鏡観察等によって得られた吸熱フィラー(二次粒子)の平面視像(例えば二次電子像)において、吸熱フィラーの相当楕円を求め、この相当楕円の長軸の長さと短軸の長さとの比によって算出することができる
【0079】
吸熱フィラー(B)の吸熱量は450J/g以上であることが好ましく、500J/g以上であることがより好ましい。450J/g以上であることで、吸熱フィラー(B)が、樹脂部材に電圧が印加された際に生じる熱をより吸収しやすくなり、樹脂部材表面および内部が炭化しにくくなる。これにより、ポリアミド樹脂組成物および樹脂部材の耐トラッキング性をより十分に高めることができる。上記吸熱量の上限値は、特に限定されないが、例えば、2200J/gである。上記吸熱量は、熱重量示差熱分析測定装置(TG-DTA)によって測定することができる。具体的には、熱重量示差熱分析測定装置(TG/DTA6200、セイコーインスツル株式会社製)を使用し、窒素雰囲気中で、室温から昇温速度10℃/minで加熱を行う。得られたDTA曲線から吸熱量(凹部の面積)を求める。
【0080】
吸熱フィラー(B)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、8質量%以上であり、10質量%以上であることがより好ましい。上記含有量が10質量%以上であることで、樹脂部材に電圧が印加された際に生じる熱による樹脂部材表面および内部の炭化をより抑制して、ポリアミド樹脂組成物および樹脂部材の耐トラッキング性をより十分に高めることができる。上記含有量の上限値は、ポリアミド樹脂(A)の含有量をより多くして、樹脂部材の引張強度をより高める観点から、15質量%であることが好ましい。
【0081】
1-3.その他の成分
ポリアミド樹脂組成物は、公知の他の成分を含んでもよい。
【0082】
他の成分の例には、核剤、滑剤、着色剤、強化材、他のポリアミド樹脂、耐熱安定剤、耐腐食性向上剤、ドリップ防止剤、イオン捕捉剤、エラストマー(ゴム)、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類およびリン類など)、上記以外の耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類およびオギザニリド類など)、他の重合体(ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびLCPなど)などが含まれる。
【0083】
1-3-1.核剤
核剤は、ポリアミド樹脂(A)の結晶化を促進し得る。そのため、樹脂部材の引張強度および弾性率をより高めることができる。
【0084】
核剤の例には、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム、トリス(p-t-ブチル安息香酸)アルミニウム、およびステアリン酸塩などを含む金属塩系化合物、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、およびビス(4-エチルベンジリデン)ソルビトールなどを含むソルビトール系化合物、ならびに、タルク、炭酸カルシウム、およびハイドロタルサイトなどを含む無機物などが含まれる。これらのうち、樹脂部材の結晶化度をより高める観点から、タルクが好ましい。これらの核剤は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
タルクは、一般的に、含水ケイ酸マグネシウムを主成分とする。タルクの平均粒子径は、特に制限されないが、1~15μmであることが好ましい。タルクの平均粒子径が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性を損なうことなく、タルクをポリアミド樹脂(A)中に分散させやすい。同様の観点から、タルクの平均粒子径は、1~7.5μmであることがより好ましい。タルクの平均粒子径は、レーザー回折法、例えば、株式会社島津製作所製の島津粒度分布測定器(SALD-2000A型)を用いたレーザー回折法により測定できる。
【0086】
核剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.10質量部以上5.00質量部以下であることが好ましく、0.10質量部以上3.00質量部以下であることがより好ましい。核剤の含有量が上記範囲内であると、樹脂部材の結晶化度を十分に高めやすく、十分な機械的強度が得られやすい。
【0087】
1-3-2.滑剤
滑剤は、ポリアミド樹脂組成物の射出流動性を高め、かつ、得られる樹脂部材の外観を良好にする。滑剤は、オキシカルボン酸金属塩および高級脂肪酸金属塩などの脂肪酸金属塩とすることができる。
【0088】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成するオキシカルボン酸は、脂肪族オキシカルボン酸であってもよく、芳香族オキシカルボン酸であってもよい。上記脂肪族オキシカルボン酸の例には、α-ヒドロキシミリスチン酸、α-ヒドロキシパルミチン酸、α-ヒドロキシステアリン酸、α-ヒドロキシエイコサン酸、α-ヒドロキシドコサン酸、α-ヒドロキシテトラエイコサン酸、α-ヒドロキシヘキサエイコサン酸、α-ヒドロキシオクタエイコサン酸、α-ヒドロキシトリアコンタン酸、β-ヒドロキシミリスチン酸、10-ヒドロキシデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびリシノール酸などの炭素原子数10以上30以下の脂肪族のオキシカルボン酸が含まれる。上記芳香族オキシカルボン酸の例には、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、およびトロバ酸などが含まれる。
【0089】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成する金属の例には、リチウムなどのアルカリ金属、ならびにマグネシウム、カルシウムおよびバリウムなどのアルカリ土類金属が含まれる。
【0090】
これらのうち、上記オキシカルボン酸金属塩は、12-ヒドロキシステアリン酸の金属塩であることが好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムおよび12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0091】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸の例は、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ベヘン酸、およびモンタン酸などの炭素原子数15以上30以下の高級脂肪酸が含まれる。
【0092】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する金属の例には、カルシウム、マグネシウム、バリウム、リチウム、アルミニウム、亜鉛、ナトリウム、およびカリウムなどが含まれる。
【0093】
これらのうち、上記高級脂肪酸金属塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、およびモンタン酸カルシウムであることが好ましい。
【0094】
滑剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.01質量%以上1.30質量%以下であることが好ましい。滑剤の含有量が0.01質量%以上であると、成形時の流動性が高まりやすく、得られる成形品の外観性が高まりやすい。滑剤の含有量が1.30質量%以下であると、滑剤の分解によるガスが成形時に発生し難く、製品の外観が良好になりやすい。
【0095】
1-3-3.着色剤
着色剤は、樹脂部材に所望の色調を付与する。着色剤は、特に制限されないが、顔料でありうる。顔料の例には、カーボンブラック、アルミナ、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどの無機顔料や、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、インダンスレン系顔料などの有機顔料が含まれる。
【0096】
着色剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。
【0097】
1-3-4.強化材
強化材は、ポリアミド樹脂組成物に高い機械的強度を付与しうる。強化材は、無機フィラーであってもよい。強化材の例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバーおよびカットファイバーなどの繊維状強化材、ならびに粒状強化材が含まれる。これらのうち、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、樹脂部材の機械的強度を高めやすいことなどから、ワラストナイト、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカーが好ましく、ワラストナイトまたはガラス繊維がより好ましい。
【0098】
繊維状強化材の平均繊維長は、ポリアミド樹脂組成物の成形性、および得られる樹脂部材の機械的強度や耐熱性の観点から、例えば1μm以上20mm以下、好ましくは5μm以上10mm以下としうる。また、繊維状強化材のアスペクト比は、例えば5以上2000以下、好ましくは30以上600以下としうる。
【0099】
繊維状強化材の平均繊維長と平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。
1)ポリアミド樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)上記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの繊維長(Li)と繊維径(di)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これを繊維状強化材の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li2)/(Σqi×Li)
同様に、繊維径がDiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(Dw)を算出し、これを繊維状強化材の平均繊維径とする。
重量平均径(Dw)=(Σri×Di2)/(Σri×Di)
【0100】
強化材の含有量は、特に制限されないが、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、例えば15質量%以上70質量%以下とすることができる。なお、強化材の添加によりポリアミド樹脂組成物が流動性や弾性率することによる、初期の気密性および冷熱衝撃を繰り返し与えた後の気密性の維持率の低下を抑制する観点からは、強化材の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して15質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0101】
1-3-5.他のポリアミド樹脂
本実施形態において、ポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリアミド樹脂(A)以外の他のポリアミド樹脂(具体的には、融点(Tm)が320℃未満のポリアミド樹脂、または融点(Tm)が実質的に測定されないポリアミド樹脂)を含んでもよい。
【0102】
他のポリアミド樹脂の具体例には、ポリアミド6T66、ポリアミド6TDT、ポリアミド9T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6I6Tなどが含まれる。
【0103】
他のポリアミド樹脂の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%以上1質量%以下であることが特に好ましい。
【0104】
1-4.製造方法
ポリアミド樹脂組成物は、前述のポリアミド樹脂、および必要に応じて他の成分を、公知の樹脂混練方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、またはタンブラーブレンダーで混合する方法、あるいは混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、またはバンバリーミキサーで溶融混練した後、造粒または粉砕する方法で製造することができる。
【0105】
2.樹脂部材
本実施形態に係る樹脂部材は、上述のポリアミド樹脂組成物を含む。
【0106】
すなわち、上記のようにして調製したポリアミド樹脂組成物を用いて、通常の溶融成形法、例えば圧縮成形法、射出成形法または押し出し成形法などにより、所望の形状の樹脂部材を製造することができる。
【0107】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて製造される樹脂部材の形状は、特に制限はなく、目的に応じて種々の形状をとりうる。
【0108】
樹脂部材の用途の例には、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、医療機器、などが含まれる。
【0109】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物の樹脂部材の耐トラッキング性は、比較トラッキング指数(CTI)を測定することで評価することができる。樹脂部材の比較トラッキング指数は、700V以上が好ましく、720V以上がより好ましく、725V以上がさらに好ましい。上記比較トラッキング指数(CTI)は、IEC 60112(2020)に準拠して測定することができる。
【0110】
3.金属樹脂複合体
本実施形態に係る金属樹脂複合体は、金属部材と、上記金属部材と複合化された、上述のポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材と、を含む。なお、本実施形態に係る金属樹脂複合体においては、金属部材と樹脂部材とが結合されて一体となっていればよく、その結合の態様は特に限定はされない。金属樹脂複合体は、例えば、金属部材と樹脂部材との接触界面において金属部材の表面に設けられた凹部に樹脂部材の一部が入り込み、アンカー効果による接合力が発揮された金属樹脂接合体であってもよい。すなわち、金属部材と樹脂部材とが直接接合によって結合していてもよい。以下、金属樹脂複合体が金属樹脂接合体である場合について説明する。
【0111】
3-1.金属部材
金属部材は、金属製の部材であれば、その材料および形状は特に限定されない。たとえば、金属部材の材料は、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、およびマンガンや、ステンレス、真鍮、およびリン青銅などの合金とすることができる。
【0112】
これらの材料は、金属樹脂複合体の用途に応じて選択することができる。たとえば、熱伝導性が要求されるときは、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅および銅合金が好ましく、銅および銅合金がより好ましい。また、軽量化および強度確保が要求されるときは、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、およびマグネシウム合金が好ましく、高圧用途向けでは銅および銅合金が好ましい。
【0113】
上記金属部材は、表面が粗面化処理されていることが好ましい。粗面化処理の方法は特に限定されず、塩基または酸を含む処理液への浸漬やエッチングなどの化学的な処理や、レーザーまたはブラストなどの物理的な処理により、表面が粗面化されればよい。
【0114】
粗面化された金属部材の表面は、粗面化処理により形成された複数の凸部の中心間距離(ピッチ)が、5nm以上500μm以下であることが好ましい。複数の凸部の中心間距離が5nm以上であると、凸部同士の間の凹部が適度に大きいため、接合時に樹脂部材を当該凹部に十分に浸入させやすく、金属部材と樹脂部材との接合強度をより向上させることができる。また、複数の凸部の中心間距離が500μm以下であると、当該凹部が大きくなりすぎないため、金属樹脂複合体の金属-樹脂界面に隙間が生じるのをより抑制し、気密性をより高めることができる。同様の観点から、複数の凸部の中心間距離は、5μm以上250μm以下であることがより好ましい。複数の凸部の中心間距離は、一の凸部の中心とそれと隣接する凸部の中心との間の距離の平均値である。
【0115】
複数の凸部の中心間距離は、金属樹脂複合体から樹脂部材を機械的剥離、溶剤洗浄などにより除去し、露出した金属部材の表面を、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡観察、あるいは表面粗さ測定装置を用いて観察して測定することができる。
【0116】
具体的には、複数の凸部の中心間距離が0.5μm未満であるときは、電子顕微鏡により観察することが可能であり、複数の凸部の中心間距離が0.5μm以上であるときは、レーザー顕微鏡または表面粗さ測定装置により観察することができる。例えば、金属部材の表面を電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真において、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部の中心間距離をそれぞれ測定する。そして、凸部の中心間距離の全ての測定値を積算した後、50で除したもの(平均したもの)を「複数の凸部の中心間距離」とする。
【0117】
金属部材の粗面化処理された表面の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値は、特に制限されないが、2μmを超えることが好ましく、2μmより大きく50μm以下であることがより好ましく、2.5μmより大きく45μm以下であることがさらに好ましい。
【0118】
十点平均粗さ(Rz)の平均値は、JIS B0601(ISO 4287)に準拠して測定することができる。具体的には、互いに平行な任意の3つの直線部と、それらと直交する任意の3つの直線部の合計6つの直線部上の十点平均粗さ(Rz)を測定し、これらの平均値をRzの平均値とする。
【0119】
金属部材の粗面化処理された表面の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)は、0.5μm以上500μm以下であることが好ましい。特に、接合強度をより高める観点からは、複数の凸部の中心間距離が0.5μm未満であり、かつ、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下であることが好ましい。粗さ曲線要素の平均長さも、前述と同様、JIS B0601(ISO 4287)により測定することができる。
【0120】
3-2.樹脂部材
樹脂部材は、上述したポリアミド樹脂組成物を含む。樹脂部材の全質量に対し上記ポリアミド樹脂組成物が占める割合は、50.00質量%以上であることが好ましく、60.00質量%以上であることがより好ましく、70.00質量%以上であることがさらに好ましい。樹脂部材の全質量に対し上記ポリアミド樹脂組成物が占める割合の上限は特に限定されないが、100.00質量%以下とすることができ、90.00質量%以下であってもよく、80.00質量%以下であってもよい。
【0121】
3-3.金属樹脂複合体の製造方法
上述した金属樹脂複合体は、例えば、インサート成形法により製造することができる。具体的には、例えば、(1)金属部材を用意する工程と、(2)上記金属部材を金型内に設置し、溶融したポリアミド樹脂組成物を金型内に射出充填する工程と、(3)ポリアミド樹脂組成物を冷却する工程と、を有する製造方法により、金属樹脂複合体を製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0122】
3-3-1.金属部材の用意
まず、上述した金属部材を用意する。このとき、金属部材の少なくとも一部の表面を粗面化処理してもよいし、少なくとも一部の表面に凹凸構造を有する金属部材を用意してもよい。
【0123】
金属部材の表面を粗面化処理する方法は、特に制限されない。たとえば、レーザー加工を用いる方法、NaOH等の無機塩基水溶液またはHClもしくはHNO3などの無機酸水溶液に金属部材を浸漬する方法、陽極酸化法により金属部材を処理する方法、酸系エッチング剤(好ましくは、無機酸、第二鉄イオン、第二銅イオンおよび必要に応じてマンガンイオンや塩化アルミニウム六水和物、塩化ナトリウムなどを含む酸系エッチング剤水溶液)によってエッチングする置換晶析法、水和ヒドラジン、アンモニアおよび水溶性アミン化合物などの水溶液に金属部材を浸漬する方法、ならびに、温水処理法などを用いることができる。
【0124】
なお、本工程は、金属部材の表面を粗面化処理する工程を含んでいてもよい。
【0125】
3-3-2.金属部材の設置および樹脂組成物の射出充填
次に、金属部材を金型内に設置し、溶融したポリアミド樹脂組成物を金型内に射出充填する。これにより、軟化または溶融したポリアミド樹脂組成物と、上記用意された金属部材とを複合化させる。
【0126】
具体的には、まず、上記用意された金属部材を、射出成型金型内のキャビティ部(空間部)に配置する。そして、上記ポリアミド樹脂組成物の少なくとも一部が、金属部材接するように、金型のキャビティ部にポリアミド樹脂組成物を射出充填する。これにより、射出された溶融しているポリアミド樹脂組成物が、金属部材の表面に接触する。このときの射出成形金型の温度は、ポリアミド樹脂組成物を射出成形に適した状態に溶融させうる温度であればよく、特に制限されないが、例えば100~200℃としうる。
【0127】
金型としては、公知の射出成形金型、例えば高速ヒートサイクル成形(RHCM、ヒート&クール成形)用金型や発泡成形用コアバック金型を用いることができる。
【0128】
3-3-3.冷却
その後、金属部材の表面に接触したポリアミド樹脂組成物を冷却させて固化させることで、ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材が金属部材に複合化された金属樹脂複合体を得ることができる。
【0129】
3-4.用途
本実施形態に係る金属樹脂複合体の用途の例には、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、医療機器、などが含まれる。
【0130】
より具体的には、上記用途の例には、車両関係では、インスツルメントパネル、コンソールボックス、ドアノブ、ドアトリム、シフトレバー、ペダル類、グローブボックス、バンパー、ボンネット、フェンダー、トランク、ドア、ルーフ、ピラー、座席シート、ステアリングホイール、バスバー、端子、端子台、高電圧コネクタ、モータ、電力変換装置(インバータ、コンバータ)、ECUボックス、電装部品、エンジン周辺部品、駆動系・ギア周辺部品、吸気・排気系部品、および冷却系部品などが含まれる。金属樹脂複合体は、これらのうち、特に、バスバー、端子、端子台、高電圧コネクタ、モータ、電力変換装置(インバータ、コンバータ)、ECUボックス、電装部品、エンジン周辺部品、駆動系・ギア周辺部品、吸気・排気系部品、および冷却系部品に好適に用いることができる。また、精密電子部品類として、コネクタ、リレー、ギアなどが含まれる。
【実施例0131】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0132】
1.測定
以下に述べる、ポリアミドの樹脂(A)および吸熱フィラー(B)の物性は、以下の方法により測定した。
【0133】
<融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)>
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)、およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、示差走査熱量測定にセットした。そして、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。当該樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0134】
<融解熱量(ΔH)>
ポリアミド樹脂(A)の融解熱量(ΔH)は、JIS K 7122(2012年)に準じて、1回目の昇温過程での結晶化の発熱ピークの面積から求めた。
【0135】
<極限粘度[η]>
ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させ、得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、「数式:[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」に基づき算出した。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t0)/t0
【0136】
<末端アミノ基量および末端カルボキシル基量>
ポリアミド樹脂の末端アミノ基の量及び末端カルボキシ基の量は、NMR法で測定した。具体的には、以下の方法で測定した。
【0137】
ポリアミド樹脂30mgを重水素化ヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)0.5mLに溶解し、NMR測定用サンプルとした。サンプルについて、ECA-500型核磁気共鳴装置(500MHz-NMR、日本電子株式会社製)でNMR測定を行い、得られたスペクトル中の、末端カルボキシル基に隣接するメチレン基水素のピーク面積と、アミド構造に隣接するメチレン基水素のピーク面積との比率から、末端カルボキシル基(μeq/g)を、ポリアミド樹脂質量部あたりの数値で得た。末端アミノ基の定量は、末端アミノ基に由来するピーク面積と、アミド構造を構成するカルボン酸成分のメチレン基水素のピーク面積から、末端アミノ基量(μeq/g)を、ポリアミド樹脂質量部あたりの数値で得た。最後に、得られた末端カルボキシル基量および末端アミノ基量の値をmmol/kgに換算した。
【0138】
<粒径>
吸熱フィラー(B)の体積基準の粒度分布における累積値が50%となる粒径(d50)はレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-300、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
【0139】
<吸熱量>
吸熱フィラー(B)の吸熱量は、熱重量示差熱分析測定機(TG/DTA6200、セイコーインスツル社製)を使用し、窒素雰囲気中で、室温から昇温速度10℃/minで加熱を行う。得られたDTA曲線から吸熱量(凹部の面積)を求めた。
【0140】
<アスペクト比>
吸熱フィラー(B)のアスペクト比は、走査電子顕微鏡(S-3000N、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、吸熱フィラー(B)を観察し、得られたフィラーの平面視画像を、画像解析ソフト(Image-Pro、株式会社日本ローバー製)で解析して求めた。
【0141】
2.材料の合成/用意
2-1.ポリアミド樹脂(A)の合成
<ポリアミド樹脂(A)(6T6I)の調製>
1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g(5.4×10-2モル)、分子量調整剤として安息香酸36.6g(0.30モル)、および蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。その後、低次縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。得られた低次縮合物の水分量は4100ppm、極限粘度[η]が0.15dl/gであった。
【0142】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応させて、室温まで降温させた。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は、0.20dl/gであった。
【0143】
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(A)を得た。
【0144】
得られたポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]は0.90dl/g、融点(Tm)は330℃、ガラス転移温度(Tg)は125℃、融解熱量(ΔH)は50J/gであった。また、得られたポリアミド樹脂(A)の組成は、ジカルボン酸に由来する成分単位中のテレフタル酸に由来する成分単位の含有量は70モル%、イソフタル酸に由来する成分単位の含有量は30モル%であり、ジアミンに由来する成分単位中の1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位の含有量は100モル%であった。
【0145】
なお、ポリアミド樹脂(A)に含まれる成分単位を構成する炭素原子の総数に対する、芳香環を構成する炭素原子の総数の割合は42.86%であった。
【0146】
また、ポリアミド樹脂(A)に含まれる成分単位を構成する炭素原子の総数に対する、芳香環を構成する炭素原子の総数の割合は42.86%であり、末端アミノ基量は30mmоl/kg、末端カルボキシル基量は150mmоl/kgであった。
【0147】
2-2.吸熱フィラー(B)
(吸熱フィラー(B-1))
無水ホウ酸亜鉛粒子(板状、粒径(d50)5μm)を用いた。吸熱フィラー(B-1)の吸熱量は600J/gであった。
【0148】
(吸熱フィラー(B-2))
べーマイト(酸化アルミニウム・1水和物)粒子(直方体状、粒径(d50)1μm、アスペクト比2)を用いた。吸熱フィラー(B-2)の吸熱量は2000J/gであった。
【0149】
2-3.その他の成分
2-3-1.核剤
タルク(平均粒子径6μm)を核剤として用いた。
【0150】
2-3-2.滑剤
モンタン酸ナトリウムを滑剤として使用した。
【0151】
2-3-3.着色剤
顔料を含むマスターバッチを着色剤として用いた。
【0152】
2-3-4.強化材
ガラス繊維(FT2A、オーウィングコーニング社製)を強化材として用いた。
【0153】
3.ポリアミド樹脂組成物の調製
上記の材料を、表1に示す組成比(単位は質量部)でタンブラーブレンダーにて混合し、30mmφのベント式二軸スクリュー押出機を用いて335℃のシリンダー温度条件で溶融混練した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド樹脂組成物1~4を得た。
【0154】
4.評価
(引張強度)
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の射出成形機を用いて、下記成形条件で成形して、厚み3.2mmのASTMダンベル型試験片Type Iを得た。
成形機: EC75N-2A(東芝機械株式会社製)
シリンダー温度: 335℃
金型温度: 160℃
射出設定速度: 100mm/sec
【0155】
得られた試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下でASTMD638に準拠して、引張試験を行い、引張破断強度(引張強度)(MPa)を測定した。
【0156】
(比較トラッキング指数(CTI))
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の射出成形機を用いて、下記成形条件で成形し、200mm×130mm×3mmの試験片を得た。
成形機: 東芝機械株式会社製 EC75N-2A
シリンダー温度: 335℃
金型温度: 160℃
射出設定速度: 100mm/sec
【0157】
得られた試験片に対して、下記条件で、IEC 60112に準拠して、耐トラッキング性の指標である比較トラッキング指数(CTI)を測定した。
試験液: 塩化アンモニウム(濃度0.1%)水溶液
試験機: YST-1000V(ヤマヨ試験器有限会社製)
試験室温度:23℃
【0158】
表1に各ポリアミド樹脂組成物の組成、評価結果を示した。
【0159】
【0160】
吸熱フィラー(B)として、ホウ酸亜鉛粒子およびベーマイト粒子8質量%以上含むポリアミド樹脂組成物1およびポリアミド樹脂組成物2では、これらを含まないポリアミド樹脂組成物3および吸熱フィラー(B)の含有量が8質量%未満であるポリアミド樹脂組成物4よりも耐トラッキング性が良好であった。これは、ホウ酸亜鉛粒子およびベーマイト粒子が一定以上ポリアミド樹脂組成物に含まれることで、成形体(樹脂部材)に電圧が印加された際に、樹脂部材表面で生じた熱をホウ酸亜鉛粒子およびベーマイト粒子が吸収し、外部へ放出することができたためであると考えられる。これにより、成形体(樹脂部材)表面および内部の炭化が生じにくくなり、耐トラッキング性が高まったと考えられる。
【0161】
また、吸熱フィラー(B)としてホウ酸亜鉛粒子を用いたときの方が、成形体(樹脂部材)の引張強度が高かった。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐トラッキング性を十分に高めることができる。そのため、上記ポリアミド樹脂組成物を用いた樹脂部材は、例えば、自動車部品などに有用である。