(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126827
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】炉底冷却設備の冷却能力の改善方法
(51)【国際特許分類】
C21B 7/10 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
C21B7/10 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035496
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】竹下 博喜
(72)【発明者】
【氏名】古田 博之
【テーマコード(参考)】
4K015
【Fターム(参考)】
4K015CA07
(57)【要約】
【課題】本発明は、新規冷却管を配設して、炉底冷却設備の冷却能力を改善する改善作業の容易化を目的とする。
【解決手段】高炉の炉底の下に配置される炉底冷却設備の冷却能力を改善する冷却能力改善方法であって、炉底冷却設備は、互いに平行に延びて高炉の底板を下方から支持する複数の梁材と、隣り合う梁材と底板とで区切られた区画領域に配設された熱伝導充填層と、熱伝導充填層に埋設された既設冷却管と、を備えており、既設冷却管の壁面に開口を形成する開口形成工程と、既設冷却管の内部に、新規冷却管を挿入する冷却管挿入工程と、既設冷却管の内壁及び新規冷却管の外壁の間に形成された隙間に、空気より熱伝導率が高い熱伝導材を充填し、開口を介して熱伝導材を既設冷却管と熱伝導充填層との間のエアーギャップに流入させる熱伝導材充填工程と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の炉底の下に配置される炉底冷却設備の冷却能力を改善する冷却能力改善方法であって、
前記炉底冷却設備は、
互いに平行に延びて高炉の底板を下方から支持する複数の梁材と、
隣り合う前記梁材と前記底板とで区切られた区画領域に配設された熱伝導充填層と、
前記熱伝導充填層に埋設された既設冷却管と、
を備えており、
前記既設冷却管の壁面に開口を形成する開口形成工程と、
前記既設冷却管の内部に、新規冷却管を挿入する冷却管挿入工程と、
前記既設冷却管の内壁及び前記新規冷却管の外壁の間に形成された隙間に、空気より熱伝導率が高い熱伝導材を充填し、前記開口を介して前記熱伝導材を前記既設冷却管と前記熱伝導充填層との間のエアーギャップに流入させる熱伝導材充填工程と、
を備えることを特徴とする、冷却能力改善方法。
【請求項2】
前記新規冷却管は、前記既設冷却管より小径に形成された管本体と、前記管本体の外周面から径方向外側に向かって突出する少なくとも1つの突出部と、を備える
ことを特徴とする、請求項1に記載の冷却能力改善方法。
【請求項3】
前記突出部は、前記新規冷却管の周方向に複数設けられていることを特徴とする、請求項2に記載の冷却能力改善方法。
【請求項4】
前記突出部は、前記新規冷却管の長手方向に複数設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の冷却能力改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉底冷却設備の冷却能力を改善させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の炉底部の内側は、耐火煉瓦によって築炉されている。耐火煉瓦の損耗速度は、高炉自体の寿命に大きく影響することから、耐火煉瓦の損耗を抑制するために、炉底の下に複数の冷却管を備えた炉底冷却設備を設けるとともに、これらの冷却管に対して冷却水を通液させることで、耐火煉瓦の温度上昇を抑制する方法が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐火煉瓦を底部から冷却するための複数の冷却管が配列され、これらの冷却管の周囲に熱伝導材が充填された梁組み構造物が開示されている。この構成によれば、冷却水を冷却管に通液させることで、耐火煉瓦が抜熱され、冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高炉の操業期間が長くなるにつれて、炉底冷却設備の冷却能力が低下し、耐火煉瓦の損耗を十分に抑制できなくなる。炉底冷却設備の冷却能力を改善する方法として、既設冷却管の周辺に配設された熱伝導充填層をボーリングして、直進方向に延びるトンネルを形成するとともに、このトンネルに新規冷却管を挿入する方法が考えられる。
【0006】
しかしながら、この方法では、そもそも新規冷却管を設ける設置スペースが確保できないおそれがある。また、仮に新規冷却管を設ける設置スペースが確保できたとしても、ボーリング距離が長い(25m程度)ため、ボーリング中にトンネルが曲がってしまい、新規冷却管を挿入できない恐れがある。さらに、設置スペースを空ける工事が必要となるため、工事費用が増大する。
【0007】
本発明は、新規冷却管を配設して、炉底冷却設備の冷却能力を改善する改善作業の容易化及び低コスト化を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明に係る冷却能力改善方法は、(1)高炉の炉底の下に配置される炉底冷却設備の冷却能力を改善する冷却能力改善方法であって、前記炉底冷却設備は、互いに平行に延びて高炉の底板を下方から支持する複数の梁材と、隣り合う前記梁材と前記底板とで区切られた区画領域に配設された熱伝導充填層と、前記熱伝導充填層に埋設された既設冷却管と、を備えており、前記既設冷却管の壁面に開口を形成する開口形成工程と、前記既設冷却管の内部に、新規冷却管を挿入する冷却管挿入工程と、前記既設冷却管の内壁及び前記新規冷却管の外壁の間に形成された隙間に、空気より熱伝導率が高い熱伝導材を充填し、前記開口を介して前記熱伝導材を前記既設冷却管と前記熱伝導充填層との間のエアーギャップに流入させる熱伝導材充填工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
(2)前記新規冷却管は、前記既設冷却管より小径に形成された管本体と、前記管本体の外周面から径方向外側に向かって突出する少なくとも1つの突出部と、を備える
ことを特徴とする、上記(1)に記載の冷却能力改善方法。
【0010】
(3)前記突出部は、前記新規冷却管の周方向に複数設けられていることを特徴とする、上記(2)に記載の冷却能力改善方法。
【0011】
(4)前記突出部は、前記新規冷却管の長手方向に複数設けられていることを特徴とする、上記(3)に記載の冷却能力改善方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規冷却管を配設して炉底冷却設備の冷却能力を改善する改善作業を容易に行うことができる。また、本発明によれば、既設冷却管の内部を新規冷却管の設置スペースとして活用しているため、当該設置スペースを熱伝導充填層に新設する工事が不要となり、炉底冷却設備の冷却能力を安価に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図1における炉底冷却設備のA-A矢視図である。
【
図4】
図2におけるC-C矢視図である(エアーギャップが解消される前)。
【
図5】本実施形態の冷却能力改善方法の工程を示すフローチャートである。
【
図6】
図5に示すフローチャートにおける工程S1の説明図である。
【
図7】
図5に示すフローチャートにおける工程S2及びS3の説明図である。
【
図8】
図2におけるC-C矢視図である(エアーギャップが解消された後)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<炉底冷却設備の構成>
図1は、高炉の概略断面図である。
図2は、
図1における炉底冷却設備のA-A矢視図である。
図3は、
図2におけるB-B矢視図である。
図4は、
図2におけるC-C矢視図である。
【0015】
図1を参照して、高炉1の下部には炉底マンテル11が設けられており、この炉底マンテル11の内壁には、耐火煉瓦12が設けられている。炉底マンテル11の下方には、耐火煉瓦12を冷却するための炉底冷却設備2が設けられている。
図2を参照して、炉底冷却設備2は、複数の梁材21と、複数の冷却管22と、冷却ヘッダ23と、を備える。冷却ヘッダ23は、冷却管22の両端に配設されており、冷却管22の長手方向に対して直交する方向に延びている。冷却管22としては、例えば炭素鋼管やステンレスパイプを用いることができる。
【0016】
図3及び
図4を参照して、複数の梁材21は、互いに平行に延びており、炉底マンテル11の底面である底板13を下方から支持している。梁材21にはH型鋼材を用いることができる。底板13の周縁には、炉底マンテル11(高炉1)の外郭を構成する鉄皮14が立設されている。
【0017】
図4を参照して、隣り合う梁材21と、底板13とで区切られた区画領域Uが形成されている。区画領域Uには、梁材21及び底板13に接する熱伝導充填層24が配設されている。熱伝導充填層24は、区画領域Uに熱伝導材を充填することによって、形成することができる。熱伝導材は、可塑性及び流動性を有し、所定時間経過後に固化する熱伝導材であってもよい。冷却管22は、熱伝導充填層24に埋設されている。
冷却ヘッダ23から冷却管22に対して冷却水を送液すると、耐火煉瓦12の熱が、底板13、熱伝導充填層24、冷却管22の順に伝熱して、耐火煉瓦12を冷却することができる。これにより、耐火煉瓦12の損耗を抑制することができる。
【0018】
熱伝導充填層24は、スタンプ及びキャスタブルを併用した構成であってもよい。この場合、スタンプ材(例えば、高熱伝導スタンプ材)とキャスタブル材とを別々に用意し、それぞれを区画領域Uの充填予定領域に圧入材として充填することで、スタンプ及びキャスタブルを構成することができる。スタンプとキャスタブルの配置は、高炉の仕様に応じて適宜設定することができる。ただし、熱伝導充填層24は、スタンプまたはキャスタブルのいずれか一方で構成してもよい。
【0019】
(本発明に至った経緯)
上述の通り、高炉1の操業期間が長くなるにつれて、炉底冷却設備2の冷却能力が低下し、耐火煉瓦12の損耗を十分に抑制できなくなる。そこで、本発明者らは、炉底冷却設備2の冷却能力が低下する理由について詳細な検討を行った。
その結果、(A)高炉1の底板13と熱伝導充填層24との間にエアーギャップAG1が生じること、(B)冷却管22と熱伝導充填層24との間にエアーギャップが生じることが、炉底冷却設備2の冷却能力を低下させる原因であると考えた。冷却管22と熱伝導充填層24との間に生じるエアーギャップには、冷却管22の外周に沿って形成されるエアーギャップAG2と、冷却管22の外周近傍に部分的に形成され、冷却管22に対して略垂直方向に延びるエアーギャップAG3が含まれる。
図4は、これらのエアーギャップが形成された状態を図示する。以下、エアーギャップAG1~AG3を特に区別する必要がない場合には、これらを纏めてエアーギャップAGと称するものとする。
エアーギャップAGは、冷却管22による冷却能力が一定でないことが原因で生じるものと考えられる。具体的には、冷却管22に供給される冷却水の温度が季節や時間帯によって変化したり、冷却水の供給が一時的に中断されるなどの理由で、冷却管22による冷却能力が変動する。
ここで、冷却管22による冷却能力が不足している場合には、高炉の操業中に生じた熱を底板13が受熱することで、底板13が熱膨張し、底板13の下部に位置する熱伝導充填層24が押し下げられる。その後、冷却管22による冷却能力が改善すると、底板13は冷やされて収縮する。この際、熱伝導充填層24は、形状が復元せず、上記(A)のエアーギャップAG1が生じる。
また、高炉の操業を安定させるために、冷却管22の冷却能力を故意に遮断する場合がある。その場合、高炉の操業中に生じた熱を冷却管22が受熱することで、冷却管22が熱膨張して、冷却管22の周囲に配設された熱伝導充填層24が押し広げられる。その後、冷却管22による冷却能力を再び発揮させるために通水させると、冷却管22は収縮するが、熱伝導充填層24は形状が復元せずに、上記(B)のエアーギャップAG2,AG3が生じる。すなわち、かかる熱膨張及び熱収縮を伴う温度サイクルによって、エアーギャップAGが発生する。
【0020】
通常、熱伝導充填層24に用いられる熱伝導材の熱伝導率は通常材料では1[W/m・K]以上5[W/m・K]以下、熱伝導を高めたものは5[W/m・K]超10[W/m・K]以下であるのに対し、エアーギャップAG(すなわち空気)の熱伝導率は僅か0.025 [W/m K]程度と断熱性が高いため、耐火煉瓦12に対する冷却管22の抜熱効果が低下して、耐火煉瓦12の損耗を十分に抑制できなくなる。
【0021】
本発明者らは、上記(A)(B)のエアーギャップAGによる冷却能力の低下を改善する方法について鋭意検討を行い、本発明を創作するに至った。以下、本発明の一実施形態である炉底冷却設備2の冷却能力を改善する方法について説明する。
【0022】
(冷却能力改善方法の内容)
図5は、本実施形態の冷却能力改善方法の工程を示したフローチャートである。
図6は工程S1の説明図であり、
図7は工程S2及びS3の説明図である。なお、以下の説明において、
図2~4に示した冷却管22を、既設冷却管22と称するものとする。「既設冷却管」とは、本実施形態の冷却能力改善方法を実施する前に予め配設されている冷却管を指す。なお、
図6(a)及び
図7(a)は、既設冷却管22の断面図である。
図6(b)は、
図6(a)のD-D矢視図である。
図7(b)は、
図7(a)のE-E矢視図である。
図6及び
図7において、既設冷却管22及び新規冷却管4の断面部分をそれぞれ異なるハッチングで示す。
【0023】
図5及び6を参照して、まず、既設冷却管22の内側に開口用治具3を配設し、配設後に開口用治具3を作動させることにより、既設冷却管22の壁面に開口220を形成する(S1)。この工程は、請求項1における「開口形成工程」に相当する。開口用治具3は、油圧シリンダー31と、油圧シリンダー31に取り付けられたドリル32と、ドリル32の動力を生成するチェーン33と、を備える。既設冷却管22から冷却ヘッダ23を外して既設冷却管22の端部を開放した後、開口用治具3を、既設冷却管22の内部における所定の位置まで挿入する。その後、油圧シリンダー31を伸長しながら、チェーン33を回動させると、既設冷却管22の内壁面に当接したドリル32の掘削作用により、既設冷却管22の壁面が削られる。油圧シリンダー31を伸長しながら、ドリル32を更に回転させると、ドリル32が既設冷却管22の壁面を貫通して、開口220が形成される。かかる開口形成工程は、開口位置を変えながら、複数の位置で実施することが望ましい。
【0024】
開口220の形成位置は、特に限定されないが、開口220が、既設冷却管22の長手方向に沿って一直線上に並ぶことがなく、かつ、既設冷却管22の周方向に沿って並ぶこともないように、配設することが望ましい。これにより、既設冷却管22の剛性低下が防止され、既設冷却管22が変形しにくくなるため、既設冷却管22と熱伝導充填層24との間のエアーギャップAG2,AG3の体積を縮小することができる。
なお、開口形成工程の実施後に、既設冷却管22の管路外に開口用治具3を退避させる工程が実施される。
【0025】
次に、既設冷却管22の内部に、新規冷却管4を挿入する(S2)。この工程は、請求項1における「冷却管挿入工程」に相当する。「新規冷却管」とは、本実施形態の冷却能力改善方法において新たに挿入される冷却管を指す。新規冷却管4の管本体41を既設冷却管22より小径に形成することにより、既設冷却管22の内壁と管本体41の外壁との間に、隙間Tが形成される。
【0026】
新規冷却管4の管本体41の外径の下限値は特に限定されないが、例えば既設冷却管22の内径の1/3程度に設定することができる。
【0027】
新規冷却管4の管本体41の外径の上限値は、特に限定しない。
ここで、新規冷却管4の管本体41の外径及び既設冷却管22の内径のクリアランス(つまり、隙間Tのサイズ)は、3mm以上に設定することが好ましい。その理由は、以下の通りである。
後述の通り、既設冷却管22の内壁と管本体41の外壁との間の隙間Tには、熱伝導材が充填される。この熱伝導材は、熱伝導率向上の観点から、粒径の大きな骨材を含有する場合がある。通常、骨材の径は2~3mm程度であるから、隙間Tに骨材が行き渡るよう、クリアランスを骨材の径よりも大きく設定することが好ましい。以上の理由から、前述のクリアランスは、3mm以上が好ましい。
【0028】
新規冷却管4の構成材料は、底板13の熱を冷却水に伝熱するのに十分な熱伝導性を有していれば、特に限定されないが、例えば、ステンレスパイプを用いることが望ましい。
【0029】
管本体41の外周面には、径方向外側に向かって突出する複数の突出部42を設けることができる。突出部42は、管本体41の長手方向及び周方向に沿って複数設けられている。ただし、突出部42の数は複数に限るものではなく、単数であってもよい。突出部42が既設冷却管22の内壁に接触することによって、管本体41が既設冷却管22の内部に固定される。そのため、突出部42の突出長さを適宜設定することによって、新規冷却管4の管本体41及び既設冷却管22の間のクリアランスを微調整することができる。また、突出部42が設けられることにより、既設冷却管22の内壁に沿って新規冷却管4を挿入する際に、突出部42をガイド材として用いることができるため、新規冷却管4の配設作業をより容易に行うことができる。
【0030】
周方向に並ぶ突出部42の間隔は、等間隔とすることが好ましい。周方向に突出部42を等間隔に配置することによって、周方向における隙間Tのバラつきが抑制される。これにより、熱伝導材が周方向により均一に充填されるため、耐火煉瓦12の全体をより均一に冷却することができる。
【0031】
管本体41の長手方向に並ぶ突出部42の間隔は、等間隔とすることが好ましい。長手方向に突出部42を等間隔に配置することによって、長手方向における隙間Tのバラつきが抑制される。これにより、熱伝導材が長手方向により均一に充填されるため、耐火煉瓦12の全体をより均一に冷却することができる。
【0032】
既設冷却管22の開放された端部側から、隙間Tに対して、熱伝導材TCMを充填する(S3)。この工程は、請求項1における「熱伝導材充填工程」に相当する。S3で充填する熱伝導材TCMは、流動性を有しかつ空気より熱伝導率が高いものであれば、特に限定されない。例えば、熱伝導率を向上させた熱伝導材TCMとして、黒鉛系の圧入材や、骨材として銅粉を含有させた圧入材などが望ましい。なお、S3で充填する熱伝導材TCMは、所定時間経過後に固化するものが好ましい。
【0033】
充填される熱伝導材TCMの熱伝導率は、新規冷却管4の熱伝導率以上であることが好ましい。これにより、耐火煉瓦12に対する抜熱効果をより高めることができる。
【0034】
充填される熱伝導材TCMは、既設の熱伝導充填層24を構成する熱伝導材と同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、S3において充填される熱伝導材TCMの熱伝導率は、熱伝導充填層24を構成する熱伝導材よりも高いことが好ましい。これにより、耐火煉瓦12に対する抜熱効果をより高めることができる。
【0035】
ここで、S3において、新規冷却管4の内部に冷却水を通液しながら、熱伝導材TCMを隙間T内に充填してもよい。この方法によれば、冷却水によって新規冷却管4が冷やされて縮径するため、隙間Tをより広く確保できる。すなわち熱伝導材TCMをより多く隙間T内に充填することができる。
【0036】
本実施形態の冷却能力改善方法によれば、S3で隙間T内に充填された熱伝導材TCMが、S1で形成した開口220を介して既設冷却管22の外部に流出し、既設冷却管22と熱伝導充填層24との間に生じたエアーギャップAG2, AG3に流入させることができる。S3で充填した熱伝導材TCMは空気より熱伝導率が高いため、エアーギャップのある場合と比較して、耐火煉瓦12に対する抜熱効果を高めることができる。また、既設冷却管22と熱伝導充填層24との間に生じたエアーギャップAG2, AG3に熱伝導材TCMが流入することによって、熱伝導充填層24が上方に押圧されるため、熱伝導充填層24と高炉1の底板13とのエアーギャップAG1も縮小又は無くすことができる。したがって、耐火煉瓦12の抜熱効果をより改善することができる。区画領域Uにおいて、エアーギャップAGが解消された直後の状態を
図8に図示する。
【0037】
さらに、本実施形態の改善方法は、既設冷却管22の中に新規冷却管4を挿入する方法であるため、既設冷却管22の周辺に新規冷却管4の配設スペースがあるかどうかを考慮する必要がない。また、新規冷却管4を、直管形状に形成された既設冷却管22の内壁に沿って挿入できるため、新規冷却管4の配設作業を容易に行うことができる。
また、本実施形態の改善方法は、既設冷却管22の内部を、新規冷却管4の設置スペースとして有効活用する方法であり、当該設置スペースを熱伝導充填層24に新設する工事(熱伝導充填層24の掘削工事等)が不要となるため、炉底冷却設備2の冷却能力を安価に改善できる。
【0038】
ここで、炉底冷却設備2の冷却能力を改善する方法として、炉底冷却設備2自体を交換する方法も考えられる(比較例)。しかしながら、この方法では、炉底より上部に位置する高炉設備を一旦撤去する必要があるため、改善工程が非常に煩雑となる。また、高炉1による銑鉄の製造を長期間停止する必要があるため、経済面でも好ましくない。
【0039】
これに対し、本実施形態の冷却能力改善方法によれば、炉底より上部に位置する高炉設備を撤去する必要がないため、改善工程を簡素化することができる。また、既設冷却管22毎に改善工程が実施できるため、改善工程が実施されていない既設冷却管22や、改善工程実施済の新規冷却管4に冷却水を通液させながら、高炉操業を継続することができる。そのため、高炉1による銑鉄の製造を停止する必要がなく、経済面でも好ましい。
【符号の説明】
【0040】
1 高炉 2 炉底冷却設備 4 新規冷却管 13 底板 21 梁材 22 既設冷却管 24 熱伝導充填層 41 管本体 42 突出部
220 開口 AG(AG1~AG3) エアーギャップ TCM 熱伝導材