(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126837
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】サージ回避制御装置、内燃機関システム、サージ回避制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F02D 17/04 20060101AFI20240912BHJP
F02B 37/00 20060101ALI20240912BHJP
F02B 37/12 20060101ALI20240912BHJP
F02B 37/18 20060101ALI20240912BHJP
F02B 39/16 20060101ALI20240912BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F02D17/04 L
F02B37/00 301G
F02B37/00 500B
F02B37/12 302C
F02B37/18 A
F02B39/16 D
F02B39/16 F
F02D45/00 362
F02D45/00 369
F02D45/00 364G
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035518
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 春樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 章
(72)【発明者】
【氏名】大河原 正穏
【テーマコード(参考)】
3G005
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G005DA02
3G005EA03
3G005EA16
3G005FA12
3G005GA02
3G005GB26
3G005GB27
3G005GD03
3G005HA05
3G005HA19
3G005JA01
3G005JA06
3G005JA24
3G005JA39
3G005JB01
3G005JB02
3G092AA02
3G092BA02
3G092BA03
3G092BB01
3G092DB03
3G092DC01
3G092GA13
3G092GB08
3G092HA17Z
3G092HB01Z
3G092HD09Z
3G092HE01Z
3G384AA03
3G384BA36
3G384CA13
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA11Z
3G384FA14Z
3G384FA47Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】EGR方式を採用しない内燃機関であってもサージを回避することができるサージ回避制御装置、内燃機関システム、サージ回避制御方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】内燃機関本体と、排気タービン過給機とを備える内燃機関に対して、前記排気タービン過給機において発生するサージを回避する制御を行うサージ回避制御装置であって、前記内燃機関本体の状態が、前記排気タービン過給機においてサージが発生すると推定される所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する状態遷移判定部と、前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量が、前記タービンの回転速度を低下させる流量になるようにする流量制御部と、を備えるサージ回避制御装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関本体と、排気タービン過給機とを備える内燃機関に対して、前記排気タービン過給機において発生するサージを回避する制御を行うサージ回避制御装置であって、
前記内燃機関本体の状態が、前記排気タービン過給機においてサージが発生すると推定される所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する状態遷移判定部と、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量が、前記タービンの回転速度を低下させる流量になるようにする流量制御部と、
を備えるサージ回避制御装置。
【請求項2】
前記状態遷移判定部は、
前記内燃機関本体に関わるパラメータを時系列順に順次取得し、所定時間前の前記パラメータが、前記サージが発生する前提条件を示すサージ発生前提条件を満たし、かつ直近の前記パラメータが、前記サージを回避する制御の開始条件を示すサージ回避制御開始条件を満たす場合、前記内燃機関本体の状態が前記所定の減速状態に遷移したと判定する、
請求項1に記載のサージ回避制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関本体に関わるパラメータには、アクセル開度、燃料噴射量、前記内燃機関本体の回転速度のうち、少なくとも1つ以上が含まれる、
請求項2に記載のサージ回避制御装置。
【請求項4】
前記排気タービン過給機は、
前記内燃機関本体から排出される排気ガスによって回転する前記タービンと、前記タービンに連動して回転して前記内燃機関本体に吸気される吸気ガスを圧縮する圧縮機とを備え、
前記内燃機関は、
前記タービンに供給される前記排気ガスの流量を調整する流量調整器と、
前記タービンの下流側に接続される出口側排気通路を通過する前記排気ガスの流量を調整する流量調整器と、
前記内燃機関本体に接続する内燃機関側吸気通路を通過する前記吸気ガスの流量を調整する流量調整器とのうち少なくとも1つ以上の流量調整器を備え、
前記流量制御部は、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記タービンに供給される前記排気ガスの流量が、前記タービンの回転速度を低下させる流量になるように、前記流量調整器に対して流量を調整する指令値を出力する、
請求項1に記載のサージ回避制御装置。
【請求項5】
前記タービンに供給される前記排気ガスの流量を調整する流量調整器は、前記内燃機関本体と前記タービンとを接続する内燃機関側排気通路から分岐して前記タービンをバイパスするバイパス通路に挿入されるバイパスバルブであり、
前記流量制御部は、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記バイパスバルブを開く方向に駆動させる前記指令値を前記バイパスバルブに出力することにより、前記バイパス通路を通過する前記排気ガスの流量を増加させる、
請求項4に記載のサージ回避制御装置。
【請求項6】
前記排気タービン過給機は、
前記内燃機関本体から排出される排気ガスによって回転する第1タービンと、前記第1タービンに連動して回転して前記内燃機関本体に吸気される吸気ガスを圧縮する第1圧縮機とを有する第1排気タービン過給機と、
前記第1タービンから排出される排気ガスによって回転する第2タービンと、前記第2タービンに連動して回転して前記第1圧縮機に圧縮した前記吸気ガスを供給する第2圧縮機とを有する第2排気タービン過給機とを備え、
前記内燃機関は、
前記第1タービンに供給される前記排気ガスの流量を調整する流量調整器と、
前記第2タービンの下流側に接続される出口側排気通路を通過する前記排気ガスの流量を調整する流量調整器と、
前記内燃機関本体に接続する内燃機関側吸気通路を通過する前記吸気ガスの流量を調整する流量調整器とのうち少なくとも1つ以上の流量調整器を備え、
前記流量制御部は、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記第1タービン及び前記第2タービンのいずれか一方のタービンに供給される前記排気ガスの流量が、当該タービンの回転速度を低下させる流量になるように、前記流量調整器に対して流量を調整する指令値を出力する、
請求項1に記載のサージ回避制御装置。
【請求項7】
前記第1タービンに供給される前記排気ガスの流量を調整する流量調整器は、前記内燃機関本体と前記第1タービンとを接続する内燃機関側排気通路から分岐して前記第1タービンをバイパスするバイパス通路に挿入されるバイパスバルブであり、
前記流量制御部は、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記第1タービンにおいて前記サージが発生することが既知であるとき、前記バイパスバルブを開く方向に駆動させる前記指令値を前記バイパスバルブに出力することにより、前記バイパス通路を通過する前記排気ガスの流量を増加させ、前記第2タービンにおいて前記サージが発生することが既知であるとき、前記バイパスバルブを閉じる方向に駆動させる前記指令値を前記バイパスバルブに出力することにより、前記バイパス通路を通過する前記排気ガスの流量を減少させる、
請求項6に記載のサージ回避制御装置。
【請求項8】
前記出口側排気通路を通過する前記排気ガスの流量を調整する流量調整器は、前記出口側排気通路に挿入される排気スロットルバルブであり、
前記流量制御部は、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記排気スロットルバルブを閉じる方向に駆動させる前記指令値を前記排気スロットルバルブに出力することにより、前記出口側排気通路を通過する前記排気ガスの流量を減少させる、
請求項4から請求項7のいずれか一項に記載のサージ回避制御装置。
【請求項9】
前記内燃機関側吸気通路を通過する前記吸気ガスの流量を調整する流量調整器は、前記内燃機関側吸気通路に挿入される吸気スロットルバルブであり、
前記流量制御部は、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記吸気スロットルバルブを閉じる方向に駆動させる前記指令値を前記吸気スロットルバルブに出力することにより、前記内燃機関側吸気通路を通過する前記吸気ガスの流量を減少させる、
請求項4から請求項7のいずれか一項に記載のサージ回避制御装置。
【請求項10】
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記内燃機関本体において噴射される燃料噴射量が、所定量未満になった場合に所定量以上になるように、前記燃料噴射量を調整する燃料噴射量制御部
を備える請求項1に記載のサージ回避制御装置。
【請求項11】
前記状態遷移判定部は、
前記所定の減速状態に遷移したと判定した後、前記サージを回避する制御の終了条件を示すサージ回避制御終了条件を満たすか否かを判定し、
前記流量制御部は、
前記状態遷移判定部が前記サージ回避制御終了条件を満たすと判定した場合、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量に対する制御を通常の制御に切り替える、
請求項1に記載のサージ回避制御装置。
【請求項12】
前記サージ回避制御終了条件は、再加速が行われた否かを示す条件である、
請求項11に記載のサージ回避制御装置。
【請求項13】
前記サージ回避制御終了条件は、所定のサージ回避制御時間が経過したか否かを示す条件であり、
前記流量制御部は、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した後に、前記所定のサージ回避制御時間が経過して前記サージ回避制御終了条件を満たすと判定した場合、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量の制御に対して直前に用いた指令値が前記通常の制御が行われる際の指令値に近づくように、前記直前に用いた指令値を予め定められる変化率で変化させた指令値を、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量の制御に適用する、
請求項11に記載のサージ回避制御装置。
【請求項14】
内燃機関本体と、排気タービン過給機とを備える内燃機関に対して、前記排気タービン過給機において発生するサージを回避する制御を行うサージ回避制御装置であって、
前記内燃機関本体の状態が、前記排気タービン過給機においてサージが発生すると推定される所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する状態遷移判定部と、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記内燃機関本体において噴射される燃料噴射量が、所定量未満になった場合に所定量以上になるように、前記燃料噴射量を調整する燃料噴射量制御部と、
を備えるサージ回避制御装置。
【請求項15】
内燃機関本体と、排気タービン過給機とを有する内燃機関と、
前記排気タービン過給機において発生するサージを回避する制御を行うサージ回避制御装置と、を備える内燃機関システムであって、
前記サージ回避制御装置は、
前記内燃機関本体の状態が、前記排気タービン過給機においてサージが発生すると推定される所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する状態遷移判定部と、
前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量が、前記タービンの回転速度を低下させる流量になるようにする流量制御部と、
を備える内燃機関システム。
【請求項16】
内燃機関本体と、排気タービン過給機とを備える内燃機関に対して、前記排気タービン過給機において発生するサージを回避する制御を行うサージ回避制御方法であって、
前記内燃機関本体の状態が、前記排気タービン過給機においてサージが発生すると推定される所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する状態遷移判定ステップと、
前記状態遷移判定ステップによって前記所定の減速状態に遷移したと判定された場合、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量が、前記タービンの回転速度を低下させる流量になるようにする流量制御ステップと、
を含むサージ回避制御方法。
【請求項17】
内燃機関本体と、排気タービン過給機とを備える内燃機関に対して、前記排気タービン過給機において発生するサージを回避する制御を行うコンピュータを、
前記内燃機関本体の状態が、前記排気タービン過給機においてサージが発生すると推定される所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する状態遷移判定手段、
前記状態遷移判定手段が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量が、前記タービンの回転速度を低下させる流量になるようにする流量制御手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サージ回避制御装置、内燃機関システム、サージ回避制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
図22は、排気タービン過給の方式と、排気再循環(以下、EGR(Exhaust Gas Recirculation)という)の方式とを採用した内燃機関であるエンジン200の一例を示す概略ブロック図である。エンジン200において、排気タービン過給機201は、例えば、タービン211の回転に用いる排気ガスの流速を調整する調整ノズルを有するVGT(Variable Geometry Turbo)などのタービン211と、圧縮機213と、タービン211と圧縮機213とを連結してタービン211の回転の駆動力を圧縮機213に伝えるシャフト212とを備える。
【0003】
エンジン本体203から排出される排気ガスが、タービン側排気通路223を通過してタービン211に流入すると、タービン211が回転し、タービン211の回転に連動して圧縮機213が回転する。圧縮機213は、入口側吸気通路221から流入する空気、すなわち吸気ガスを回転によって圧縮し、圧縮した吸気ガスをエンジン本体側吸気通路222に吐出する。エンジン本体側吸気通路222を通過する吸気ガスは、アフタークーラ202によって冷却され、冷却後にエンジン本体203に吸気される。その一方で、エンジン本体203から排出される排気ガスの一部が、EGR側排気通路231に流入する。EGR側排気通路231を通過する排気ガスは、EGRクーラ204によって冷却され、エンジン本体203に吸気される。
【0004】
エンジン200に対して、例えば、急な減速の操作が行われて、エンジン本体203のエンジン回転速度が急激に低下したとする。この場合に、エンジン本体203は、吸気をあまり必要としないにも関わらず、タービン211と、圧縮機213とは、自らの慣性によって高速に回り続けるため、エンジン本体側吸気通路222に存在する吸気ガスの圧力が上昇する。この圧力の上昇のために、圧縮機213を流れる吸気ガスに脈動が発生して、排気タービン過給機201が振動したりする現象、いわゆるサージと呼ばれる現象が発生する。
【0005】
特許文献1では、サージを回避するために、以下のような技術が提案されている。すなわち、特許文献1に開示される技術では、燃料噴射量が0(mg/stroke)になると、EGR側排気通路231に挿入されているEGRバルブ205を全開にすると共に、タービン211の調整ノズルを全開にする。これにより、
図23に示すように、エンジン本体側吸気通路222を通過する吸気ガスの一部が、EGR側排気通路231に流入する。EGR側排気通路231に流入した吸気ガスは、
図22の排気ガスが流れる方向とは逆の方向に、EGR側排気通路231を通過し、タービン側排気通路223を経由してタービン211に流入し、出口側排気通路224に流出する。
【0006】
これにより、エンジン本体側吸気通路222に存在する吸気ガスの圧力が低下して、サージを回避することが可能になる。
図24は、いわゆるブロワマップやコンプレッサーマップと呼ばれる圧縮機213の特性を示すグラフである。
図24において、縦軸は、圧縮機213の圧力比、すなわち圧縮機213の出口圧力/入口圧力の値を示しており、下から上に向かう方向で圧力比が大きくなる。横軸は、単位「kg/s(second(秒))」で表された、正規化された圧縮機213を流れる空気流量、すなわち吸気ガスの流量を示しており、左から右に向かう方向で空気流量が大きくなる。
【0007】
符号300~309で示される10個の曲線の各々は、等回転速度の線であり、圧縮機213の回転速度が、それぞれ異なる一定速度である場合の特性を示している。圧力比の最大値が最大である符号300で示す特性が、圧縮機213の回転速度が最も大きい状態の特性であり、圧力比の最大値が小さくなる順に圧縮機213の回転速度が小さくなっていく。したがって、符号309で示す特性が、圧縮機213の回転速度が最も小さい場合の特性になる。符号400で示される線、すなわち符号300~309の10個の特性の各々の空気流量が最小値である位置を結ぶことによって表される線は、サージラインと呼ばれている。サージライン400の左側の領域、すなわち符号300~309で示される曲線が存在しない領域で、圧縮機213が作動すると、サージが発生する。
【0008】
例えば、圧縮機213が作動している作動点が、符号500で示す位置である場合に、上記したエンジン200に対して急な減速の操作が行われて、エンジン本体203のエンジン回転速度が急激に低下したとする。この場合、圧縮機213の作動点は、作動点500を始点として符号501で示される線上を矢印の方向に向かって移動し、作動点がサージライン400を超えるとサージが発生する。これに対して、作動点がサージライン400を超える前に、特許文献1に開示されている技術が適用されると、EGRバルブ205と、タービン211の調整ノズルとが全開にされるので、圧縮機213の空気流量が増加する。これにより、圧縮機213の作動点が進む方向が、例えば、符号502の矢印の方向に変わり、圧縮機213の作動点がサージライン400を超えなくなるので、サージを回避することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図22及び
図23に示すエンジン200、すなわちEGRの方式を採用する内燃機関の場合、EGR側排気通路231が存在するので、特許文献1に開示されているサージ回避の手段を用いることができる。しかしながら、近年、EGR方式を採用しない内燃機関が用いられるようになってきている。このようなEGR方式を採用しない内燃機関の場合、特許文献1に開示されているサージ回避の手段を用いることができないという課題がある。
【0011】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、EGR方式を採用しない内燃機関であってもサージを回避することができるサージ回避制御装置、内燃機関システム、サージ回避制御方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本開示の一態様は、内燃機関本体と、排気タービン過給機とを備える内燃機関に対して、前記排気タービン過給機において発生するサージを回避する制御を行うサージ回避制御装置であって、前記内燃機関本体の状態が、前記排気タービン過給機においてサージが発生すると推定される所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する状態遷移判定部と、前記状態遷移判定部が前記所定の減速状態に遷移したと判定した場合、前記排気タービン過給機のタービンに供給される排気ガスの流量が、前記タービンの回転速度を低下させる流量になるようにする流量制御部と、を備えるサージ回避制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
本開示の各態様によれば、EGR方式を採用しない内燃機関であってもサージを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る内燃機関システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係るデータテーブルのデータ形式の一例を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係るサージ発生前提条件テーブルのデータ形式の一例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係るサージ回避制御開始条件テーブルのデータ形式の一例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係るサージ回避制御終了条件テーブルのデータ形式の一例を示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る排気スロットルバルブ制御用データ及びバイパスバルブ制御用データの一例を示す図である。
【
図7】第1の実施形態に係るサージ回避制御フラグの一例を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係る変化率適用フラグの一例を示す図である。
【
図9】第1の実施形態に係る状態遷移判定部による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】第1の実施形態に係る流量制御部による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】第1の実施形態に係る圧縮機の特性の一例を示す図である。
【
図12】第1の実施形態に係る内燃機関システムを利用した場合の変化の一例と、一般的な内燃機関システムを利用した場合の変化の一例とを比較したグラフを示す図である。
【
図13】第2の実施形態に係る内燃機関システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図14】第2の実施形態に係る排気スロットルバルブ制御用データ及びバイパスバルブ制御用データの一例を示す図である。
【
図15】第2の実施形態に係る内燃機関システムを利用した場合の変化の一例と、一般的な内燃機関システムを利用した場合の変化の一例とを比較したグラフを示す図である。
【
図16】第2の実施形態に係る内燃機関システムの他の構成例を利用した場合の変化の一例と、一般的な内燃機関システムを利用した場合の変化の一例とを比較したグラフを示す図である。
【
図17】第3の実施形態に係る内燃機関システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図18】第1の実施形態に係る内燃機関システムの作用と、第3の実施形態に係る内燃機関システムの作用との対比を示す図である。
【
図19】第4の実施形態に係る内燃機関システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図20】第4の実施形態に係る燃料噴射量制御部による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図21】第4の実施形態に係る内燃機関システムの作用を示す図である。
【
図22】排気タービン過給の方式と、EGRの方式とを採用した一般的な内燃機関の構成を示す概略ブロック図(その1)である。
【
図23】排気タービン過給の方式と、EGRの方式とを採用した一般的な内燃機関の構成を示す概略ブロック図(その2)である。
【
図24】排気タービン過給の方式と、EGRの方式とを採用した一般的な内燃機関が備える圧縮機の特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0016】
図1は、第1の実施形態に係る内燃機関システム1の構成を示す概略ブロック図である。
図2~
図8は、第1の実施形態に係るサージ回避制御装置10の記憶部11が記憶するデータの形式の一例を示す図である。
図9は、第1の実施形態に係る状態遷移判定部12による処理の流れを示すフローチャートである。
図10は、第1の実施形態に係る流量制御部13による処理の流れを示すフローチャートである。
図11は、第1の実施形態に係る圧縮機43の特性の一例を示す図である。
図13は、第2の実施形態に係る内燃機関システム1aの構成を示す概略ブロック図である。
図14は、第2の実施形態に係る排気スロットルバルブ制御用データ115及びバイパスバルブ制御用データ114aの一例を示す図である。
図12、
図15、
図16は、それぞれ第1及び第2の実施形態に係る内燃機関システム1,1a、及び第2の実施形態に係る内燃機関システム1aの他の構成例の各々を利用した場合の変化の一例と、一般的な内燃機関システムを利用した場合の変化の一例とを比較したグラフを示す図である。
図17は、第3の実施形態に係る内燃機関システム1bの構成を示す概略ブロック図である。
図18は、第1の実施形態に係る内燃機関システム1の作用と、第3の実施形態に係る内燃機関システム1bの作用との対比を示す図である。
図19は、第4の実施形態に係る内燃機関システム1cの構成を示す概略ブロック図である。
図20は、第4の実施形態に係る燃料噴射量制御部14による処理の流れを示すフローチャートである。
図21は、第4の実施形態に係る内燃機関システム1cの作用を示す図である。
【0017】
<第1の実施形態>
(第1の実施形態の全体構成)
図1に示すように、第1の実施形態に係る内燃機関システム1は、エンジン2、エンジンコントローラ3、アクセルペダル4、サージ回避制御装置10、及びセンサ群20を備える。内燃機関システム1は、例えば、ショベルやダンプトラックなどの建設機械に備えられる。アクセルペダル4は、例えば、建設機械の運転席に設置されており、運転者によって操作される。
【0018】
エンジン2は、いわゆる内燃機関であり、例えば、ディーゼルエンジンである。エンジン2は、エンジン本体5、アフタークーラ6、バイパスバルブ(以下、BPV(By Pass Valve)ともいう)7、排気スロットルバルブ(以下、ETV(Exhaust Throttle Valve)ともいう)8、排気タービン過給機40、及び通路31~35を備える。
【0019】
排気タービン過給機40は、タービン41と、圧縮機43と、タービン41と圧縮機43とを連結し、タービン41の回転の駆動力を圧縮機43に伝えるシャフト42とを備える。タービン41は、タービン側排気通路33を介してエンジン本体5に接続されており、エンジン本体5から排出される排気ガスを受けて回転し、排気ガスを出口側排気通路35に排出する。
【0020】
圧縮機43は、ブロワやコンプレッサとも呼ばれ、タービン41の回転に連動して回転し、入口側吸気通路31から流入する空気、すなわち吸気ガスを圧縮する。圧縮機43は、エンジン本体側吸気通路32を介してエンジン本体5に接続されており、圧縮した吸気ガスをエンジン本体側吸気通路32に吐出する。アフタークーラ6は、エンジン本体側吸気通路32に挿入されており、圧縮機43による圧縮により温度が上昇した吸気ガスを冷却する。エンジン本体5は、エンジン本体側吸気通路32から供給される吸気ガスを吸気する。エンジン本体5は、燃料噴射量指令値61に応じて噴射した燃料と、吸気した吸気ガスとを混合して燃焼させ、回転する駆動力を発生させる。エンジン本体5は、燃焼により生じた排気ガスを、タービン側排気通路33に排出する。
【0021】
バイパス通路34は、タービン41をバイパスするように設けられる通路であり、タービン側排気通路33から分岐して、出口側排気通路35に合流するように設けられる。バイパスバルブ7は、バイパス通路34を通過する排気ガスの流量を調整する流量調整器であり、バイパス通路34に挿入される。バイパスバルブ7の開度を調整することにより、タービン41が取り込む排気ガスの流量が調整され、それにより、過給圧、すなわちブースト圧が調整される。
【0022】
排気スロットルバルブ8は、出口側排気通路35を通過する排気ガスの流量を調整する流量調整器であり、出口側排気通路35に挿入される。排気スロットルバルブ8の開度を調整することにより、出口側排気通路35を通過する排気ガスの流量が調整され、それにより、タービン41が接続する側の端とは逆の出口側排気通路35の端に接続される図示しない後処理装置に流入する排気ガスの温度が調整される。
【0023】
なお、
図1に示すエンジン2において、吸気ガスが通過する通路、すなわち入口側吸気通路31と、エンジン本体側吸気通路32とを、二重線で示し、排気ガスが通過する通路、すなわちタービン側排気通路33、バイパス通路34、出口側排気通路35を実線で示している。以下に示す、
図13、
図17、
図19においても同様に示している。
【0024】
センサ群20は、内燃機関システム1の様々な状態を検出する複数のセンサを含む。
図1では、センサ群20に含まれる複数のセンサの一例として、エンジン回転速度センサ21、ブースト圧センサ23、アクセル開度センサ24を示している。図示していないが、センサ群20には、これらのセンサ21,23,24以外にも、エンジンコントローラ3が、エンジン2に対して行うフィードフォワード制御やフィードバック制御に必要となるセンサデータを検出するセンサが含まれる。
【0025】
エンジン回転速度センサ21は、エンジン本体5のエンジン回転速度に応じた信号を出力し、エンジンコントローラ3は、信号から検出したエンジン回転速度を示すセンサデータと、当該センサデータを検出した時刻を示す検出時刻データとを取得する。ブースト圧センサ23は、エンジン本体側吸気通路32の吸気ガスの圧力、より具体的には、エンジン本体側吸気通路32のエンジン本体5に接続する端の付近の吸気ガスの圧力であるブースト圧を一定の間隔で検出する。ブースト圧センサ23は、検出したブースト圧を示すセンサデータと、当該センサデータを検出した時刻を示す検出時刻データとをエンジンコントローラ3に出力する。
【0026】
アクセル開度センサ24は、アクセルペダル4の開度であるアクセル開度に応じた信号を出力し、エンジンコントローラ3は、信号から検出したアクセル開度を示すセンサデータと、当該センサデータを検出した時刻を示す検出時刻データとを取得する。ここで、アクセル開度は、例えば、パーセントで表され、アクセルペダル4が踏まれていない状態で0%になり、アクセルペダル4が最後まで踏み込まれた状態で100%になる。なお、エンジンコントローラ3は内部に時計などの計時手段を備えており、当該計時手段からセンサデータを取得した際の時刻を取得して検出時刻データとする。
【0027】
エンジンコントローラ3は、センサ群20に含まれる複数のセンサの各々が検出したセンサデータを取り込み、取り込んだセンサデータに基づいて、エンジン2に対する各種の制御を行う。この各種の制御の中には、エンジンコントローラ3が、エンジン2において必要な出力を得るのに要する燃料噴射量の算出、及び算出した燃料噴射量を示す燃料噴射量指令値61をエンジン2に出力する処理が含まれる。エンジンコントローラ3は、自らが行う燃料噴射量指令値61の出力を検出すると、検出した時刻を示す検出時刻データを計時手段から取得し、取得した検出時刻データを、出力した燃料噴射量指令値61が示す燃料噴射量に関連付けて記憶する。ただし、エンジンコントローラ3は、バイパスバルブ7と排気スロットルバルブ8の各々に対しては、制御用の指令値を出力して直接制御せず、各々に対する制御用の指令値をサージ回避制御装置10が備える流量制御部13に出力する。
【0028】
ここで、エンジンコントローラ3が、流量制御部13に対して出力するバイパスバルブ7に対する指令値とは、タービン41の回転速度が大きくなり過ぎないようにする制御において算出する指令値である。タービン41の回転速度が大きくなり過ぎないようにする制御とは、例えば、エンジン本体5のエンジン回転速度、及び燃料噴射量指令値61に基づくマップ制御によるフィードフォワード制御と、ブースト圧センサ23で検出するブースト圧を、目標値のブースト圧にするフィードバック制御とを含む制御である。
【0029】
エンジンコントローラ3が、流量制御部13に対して出力する排気スロットルバルブ8に対する指令値は、後処理装置に蓄積するPM(Particulate Matter)などを燃焼させることができる状態にするために算出する指令値である。後処理装置に蓄積するPMなどを燃焼させることができる状態にする制御とは、例えば、エンジン本体5のエンジン回転速度、及び燃料噴射量指令値61に基づくマップ制御によるフィードフォワード制御と、図示しない追加の燃料噴射によって、図示しない温度センサによって検出する後処理装置に流入する排気ガスの温度を、目標値の温度にするフィードバック制御とを含む制御である。
【0030】
エンジンコントローラ3は、エンジン回転速度センサ21からエンジン回転速度を示すセンサデータと、検出時刻データとを取得すると、取得したセンサデータと、検出時刻データとをサージ回避制御装置10が備える流量制御部13と、状態遷移判定部12とに出力する。エンジンコントローラ3は、燃料噴射量指令値61をエンジン2に出力した際に記憶した燃料噴射量と、検出時刻データとを状態遷移判定部12に出力する。エンジンコントローラ3は、アクセル開度センサ24からアクセル開度を示すセンサデータと、検出時刻データとを取得すると、取得したセンサデータと、検出時刻データとを状態遷移判定部12に出力する。なお、
図1において、センサ群20のセンサの各々が検出するデータおよび燃料噴射量指令値61が伝送される制御線を点線の矢印で示している。以下に示す、
図13、
図17、
図19においても同様に示している。
【0031】
サージ回避制御装置10は、記憶部11、状態遷移判定部12、及び流量制御部13を備える。記憶部11は、データテーブル110、サージ発生前提条件テーブル111、サージ回避制御開始条件テーブル112、サージ回避制御終了条件テーブル113、バイパスバルブ制御用データ114、排気スロットルバルブ制御用データ115、サージ回避制御フラグ116、及び変化率適用フラグ117を記憶する。
【0032】
データテーブル110は、
図2に示すように、「検出時刻」、「アクセル開度」、「燃料噴射量」、「エンジン回転速度」の項目を含むデータ形式のテーブルである。「アクセル開度」の項目には、アクセル開度を示すセンサデータが、単位「%」の数値として表される形式で書き込まれる。「燃料噴射量」の項目には、燃料噴射量を示すデータが、単位「mg/stroke」の数値として表される形式で書き込まれる。「エンジン回転速度」の項目には、エンジン回転速度を示すセンサデータが、単位「rpm(revolutions per minute)」の数値として表される形式で書き込まれる。「検出時刻」の項目には、「アクセル開度」、「燃料噴射量」、「エンジン回転速度」のいずれかの項目に書き込まれるデータに対応する検出時刻データが、単位「時:分:秒:1/100秒」の数値として表される形式で書き込まれる。
【0033】
なお、
図2では、1行目と2行目にレコードが記録されている例を示しており、各々のレコードにおいて、検出時刻、アクセル開度、燃料噴射量、及びエンジン回転速度の全てを示す数値が書き込まれている例を示している。ただし、アクセル開度、燃料噴射量、エンジン回転速度の各々に対応する検出時刻は、同一の時刻なる場合もあるが、燃料噴射量については、燃料噴射が行われるごとに検出されること、アクセル開度とエンジン回転速度の検出間隔は、任意に定められてもよいことから、異なる時刻になる場合もある。そのため、レコードによっては、アクセル開度、燃料噴射量、エンジン回転速度の何れかが含まれない場合もある。また、データテーブル110において、記録されるレコードは、直近のレコードが最上位になる時系列順で書き込まれる。
【0034】
サージ発生前提条件テーブル111は、
図3に示すように、「アクセル開度」、「燃料噴射量」、「エンジン回転速度」の項目を含むデータ形式のテーブルである。「アクセル開度」の項目には、サージが発生する前提条件となるアクセル開度の条件を示す情報が書き込まれる。「燃料噴射量」の項目には、サージが発生する前提条件となる燃料噴射量の条件を示す情報が書き込まれる。「エンジン回転速度」の項目には、サージが発生する前提条件となるエンジン回転速度の条件を示す情報が書き込まれる。
【0035】
なお、サージ発生前提条件テーブル111に示されるサージが発生する前提条件のうちアクセル開度の条件、及び燃料噴射量の条件は、圧縮機43の特性が、例えば、
図24のグラフで示す特性である場合に、圧縮機43の作動点が、
図24のサージライン400よりも右側の領域に位置していると推定されることを示す条件である。サージ発生前提条件テーブル111のうちエンジン回転速度の条件は、
図24のグラフにおいて、横軸の「空気流量」においてどの程度の流量の位置に圧縮機43の作動点が位置しているかを示す条件である。
【0036】
サージは、一般的に、エンジン本体5の状態が高速域、または、高負荷域の状態から急減速をした場合に発生する。そのため、サージ発生前提条件テーブル111に示されるサージが発生する前提条件は、エンジン本体5の状態が高速域、または、高負荷域の状態であると推定される条件になるように予め定められる。当該条件は、言い換えると、圧縮機43の作動点が、
図24のグラフにおいてサージライン400の右側の領域であって、圧力比が大きい領域に存在していると推定される条件ということになる。
【0037】
サージ回避制御開始条件テーブル112は、
図4に示すように、「アクセル開度」、「エンジン回転速度変化量」の項目を含むデータ形式のテーブルである。「アクセル開度」の項目には、サージを回避する制御の開始条件となるアクセル開度の条件を示す情報が書き込まれる。「エンジン回転速度変化量」の項目には、サージを回避する制御の開始条件となるエンジン回転速度の変化量の条件を示す情報が書き込まれる。サージ回避制御開始条件テーブル112に示されるサージを回避する制御の開始条件は、エンジン本体5の状態が低速域、または、低負荷域の状態に遷移し始めたと推定される条件になるように予め定められる。当該条件は、言い換えると、
図24のグラフにおいて、圧縮機43の作動点が、空気流量が減少する方向に移動し始めたと推定される条件ということになる。
【0038】
したがって、サージ発生前提条件テーブル111に示されるサージが発生する前提条件を満たした上で、サージ回避制御開始条件テーブル112に示されるサージを回避する制御の開始条件を満たす状態とは、エンジン本体5の状態が高速域の状態から低速域の状態に遷移し始めたと推定される状態、または、エンジン本体の状態が高負荷域の状態から低負荷域の状態に遷移し始めたと推定される状態であり、以下、この状態を「所定の減速状態」という。
【0039】
サージ回避制御終了条件テーブル113は、
図5に示すように、「時間経過」と「再加速」の項目を含み、「再加速」の項目に、更に、「アクセル開度」と「燃料噴射量」のサブ項目を含むデータ形式のテーブルである。「時間経過」の項目には、サージを回避する制御の終了条件となる時間経過の条件を示す情報が書き込まれる。サージは、一時的に発生する現象であり、一定時間が経過すると、サージが発生しなくなる。そのため、この一定時間を所定のサージ回避制御時間として予め定め、この所定のサージ回避制御時間を「時間経過」の項目に示す時間経過の条件に示しておくことで、サージが発生しない状態に遷移したか否かを判定することが可能になる。
【0040】
「再加速」の「アクセル開度」のサブ項目には、サージを回避する制御の終了条件となるアクセル開度の条件を示す情報が書き込まれる。「再加速」の「燃料噴射量」のサブ項目には、サージを回避する制御の終了条件となる燃料噴射量の条件を示す情報が書き込まれる。再加速が行われると、エンジン本体5が、吸気ガスを吸気するので、サージが発生する状態ではなくなる。そのため、「アクセル開度」と「燃料噴射量」の2つの項目によって再加速の条件を示しておくことで、サージが発生しない状態に遷移したか否かを判定することが可能になる。
【0041】
バイパスバルブ制御用データ114と排気スロットルバルブ制御用データ115の各々は、例えば、
図6に示すグラフの特性を有するデータである。ただし、
図6は、バイパスバルブ制御用データ114と排気スロットルバルブ制御用データ115の各々の特性がどのようなものであるかをグラフによって示した図である。実際には、バイパスバルブ制御用データ114は、複数の異なるエンジン回転速度の各々と、各々に対して予め関連付けられているバイパスバルブ7に対する指令値とを含むマップ制御用のテーブル形式のデータである。また、排気スロットルバルブ制御用データ115も同様に、複数の異なるエンジン回転速度の各々と、各々に対して予め関連付けられている排気スロットルバルブ8に対する指令値とを含むマップ制御用のテーブル形式のデータである。なお、バイパスバルブ7に対する指令値になるバイパスバルブ7の開度と、排気スロットルバルブ8に対する指令値になる排気スロットルバルブ8の開度とは、共に、0%で全開を示し、100%で全閉を示す。
【0042】
サージ回避制御フラグ116には、
図7に示すように、サージ回避制御を行うことを示す「ON」と、サージ回避制御を行わないことを示す「OFF」の何れか一方がフラグ値として書き込まれる。変化率適用フラグ117には、
図8に示すように、変化率を適用することを示す「TRUE」と、変化率を適用しないことを示す「FALSE」の何れか一方がフラグ値として書き込まれる。
【0043】
状態遷移判定部12は、エンジン本体5の状態が、排気タービン過給機40においてサージが発生すると推定される所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する。流量制御部13は、状態遷移判定部12が所定の減速状態に遷移したと判定した場合、排気タービン過給機40のタービン41に供給される排気ガスの流量が、タービン41の回転速度を減少させる流量になるように、バイパスバルブ7と、排気スロットルバルブ8とに対して指令値を出力する。なお、
図1において、エンジン2に対して制御を行う際に用いられる指令値などのデータが伝送される制御線を一点鎖線の矢印で示している。以下に示す、
図13、
図17、
図19においても同様に示している。
【0044】
(第1の実施形態のサージ回避制御装置による処理)
図9は、状態遷移判定部12による処理の流れを示すフローチャートであり、
図10は、流量制御部13による処理の流れを示すフローチャートである。
図9と
図10の処理は、並列に行われる処理である。
図9と
図10の処理と並列に、エンジン回転速度センサ21、ブースト圧センサ23、アクセル開度センサ24などのセンサによる処理と、エンジンコントローラ3による燃料噴射量を算出して燃料噴射量指令値61を出力する処理を含むエンジン2に対する制御処理も行われる。
【0045】
図9と
図10の処理が行われる前に、記憶部11において、サージ発生前提条件テーブル111と、サージ回避制御開始条件テーブル112と、サージ回避制御終了条件テーブル113とに対して、それぞれ
図3、
図4、
図5に示した情報が予め書き込まれている。また、記憶部11には、更に、
図6に示す特性のバイパスバルブ制御用データ114と、排気スロットルバルブ制御用データ115とが予め記憶されている。
【0046】
(第1の実施形態の状態遷移判定部による処理)
例えば、内燃機関システム1を備える建設機械の電源がONにされると、サージ回避制御装置10の状態遷移判定部12は、起動して、
図9のフローチャートの処理を開始する。状態遷移判定部12は、サージ回避制御フラグ116に「OFF」を書き込んで初期化すると共に、変化率適用フラグ117に「FALSE」を書き込んで初期化する。状態遷移判定部12は、更に、データテーブル110を初期化して、レコードが存在しない状態にする(Sa1)。
【0047】
状態遷移判定部12は、エンジンコントローラ3の出力を待機する。状態遷移判定部12は、エンジンコントローラ3がアクセル開度を示すセンサデータと、当該センサデータに対応する検出時刻データとの組み合わせ、燃料噴射量を示すデータと、当該データに対応する検出時刻データとの組み合わせ、エンジン回転速度を示すセンサデータと、当該センサデータに対応する検出時刻データとの組み合わせの何れかの組み合わせを出力すると、出力されたデータを取り込んでデータテーブル110に記録する(Sa2)。
【0048】
状態遷移判定部12は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値を参照して、フラグ値が「ON」であるか「OFF」であるかを判定する(Sa3)。状態遷移判定部12は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「ON」であると判定した場合(Sa3、ON)、次にSa5の処理を行う。
【0049】
一方、状態遷移判定部12は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「OFF」であると判定した場合(Sa3、OFF)、所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する。すなわち、状態遷移判定部12は、サージ発生前提条件テーブル111に示されるサージが発生する前提条件を満たし、かつサージ回避制御開始条件テーブル112に示されるサージを回避する制御の開始条件を満たしているか否かを判定する(Sa4)。より詳細には、状態遷移判定部12は、Sa4の処理として、以下に示す処理を行う。ただし、以下では、データテーブル110に記憶されているレコードの各々に、
図2に示すように、検出時刻、アクセル開度、燃料噴射量、エンジン回転速度の全てが含まれているものとして説明する。
【0050】
状態遷移判定部12は、データテーブル110における直近のレコード、すなわちデータテーブル110の最上位のレコードを参照し、参照したレコードの「検出時刻」の項目に記録されている検出時刻を検出して基準時刻とする。状態遷移判定部12は、基準時刻よりも予め定められる所定時間前のレコードをデータテーブル110から検出し、検出したレコードの「アクセル開度」、「燃料噴射量」、「エンジン回転速度」の項目の各々に記録されているアクセル開度と、燃料噴射量と、エンジン回転速度とを読み出す。ここで、所定時間とは、例えば、0.5秒である。
【0051】
状態遷移判定部12は、読み出したアクセル開度と、燃料噴射量と、エンジン回転速度とが、サージ発生前提条件テーブル111に示されるサージが発生する前提条件、すなわち、アクセル開度が「80%以上」であるという条件と、燃料噴射量が「100mg/stroke以上」であるという条件と、エンジン回転速度が「1800rpm以上」であるという条件という3つの条件の全てを満たしているか否かを判定する。状態遷移判定部12は、当該3つの条件を全て満たしていると判定した場合、サージが発生する前提条件を満たしていると判定し、当該3つの条件を全て満たしていないと判定した場合、サージが発生する前提条件を満たしていないと判定する。
【0052】
状態遷移判定部12は、サージが発生する前提条件を満たしていると判定した場合、データテーブル110の直近のレコード、すなわち基準時刻に対応する「アクセル開度」、「エンジン回転速度」の項目の各々に記録されているアクセル開度と、エンジン回転速度とを読み出す。状態遷移判定部12は、基準時刻に対応するエンジン回転速度から、基準時刻の所定時間前のエンジン回転速度を減算することにより、エンジン回転速度変化量を算出する。状態遷移判定部12は、基準時刻に対応するアクセル開度と、算出したエンジン回転速度変化量とが、サージ回避制御開始条件テーブル112に示されるサージを回避する制御の開始条件、すなわちアクセル開度が「40%以下」であるという条件と、エンジン回転速度変化量が「-50rpm以下」であるという条件という2つの条件の両方を満たしているか否かを判定する。状態遷移判定部12は、当該2つの条件の両方を満たしていると判定した場合、サージを回避する制御の開始条件を満たしていると判定し、当該2つの条件の両方を満たしていないと判定した場合、サージを回避する制御の開始条件を満たしていないと判定する。
【0053】
状態遷移判定部12は、Sa4の処理において、サージが発生する前提条件を満たしていないと判定した場合、及び、サージが発生する前提条件を満たしていると判定したが、サージを回避する制御の開始条件を満たしていないと判定した場合、所定の減速状態に状態遷移していないと判定し(Sa4、No)、再びSa2の処理を行う。一方、状態遷移判定部12は、Sa4の処理において、サージが発生する前提条件を満たしていると判定し、かつサージを回避する制御の開始条件を満たしていると判定した場合、所定の減速状態に状態遷移したと判定し(Sa4、Yes)、次にSa5の処理を行う。
【0054】
状態遷移判定部12は、サージ回避制御開始条件テーブル112に示されるサージを回避する制御の終了条件を満たしているか否かを判定する(Sa5)。ここでは、状態遷移判定部12が、サージを回避する制御の終了条件を満たしていないという判定、すなわちSa5の処理において「No」の判定をしたものとして、その後に行われる処理について説明する。状態遷移判定部12は、変化率適用フラグ117のフラグ値を参照し、フラグ値が「TRUE」の場合、フラグ値を「FALSE」に書き換え、変化率適用フラグ117のフラグ値が「FALSE」の場合、その状態を維持する(Sa6)。したがって、Sa6の処理の後、変化率適用フラグ117のフラグ値は、「FALSE」になる。
【0055】
状態遷移判定部12は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値を参照し、フラグ値が「OFF」の場合、フラグ値を「ON」に書き換え、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「ON」の場合、その状態を維持する(Sa7)。したがって、Sa7の処理の後、サージ回避制御フラグ116のフラグ値は、「ON」になる。状態遷移判定部12は、内部に備えられている制御時間計測タイマが、起動していない場合、制御時間計測タイマを初期化して起動する。なお、制御時間計測タイマは、初期化されて起動されると、「0秒」を起点として、例えば、1秒単位で経過時間を計測する。これに対して、状態遷移判定部12は、制御時間計測タイマが既に起動している場合、その状態を維持する(Sa8)。Sa8の処理の後、状態遷移判定部12は、再びSa2の処理を行い、Sa2の処理の後、再びSa3の処理を行う。
【0056】
ここでは、サージ回避制御フラグ116のフラグ値は「ON」になっている。そのため、状態遷移判定部12は、Sa3の処理において「ON」の判定を行い(Sa3、ON)、再び、Sa5の処理を行う。状態遷移判定部12は、データテーブル110の直近のレコードを参照し、当該レコードの「アクセル開度」の項目に記録されている直近のアクセル開度と、「燃料噴射量」の項目に記録されている直近の燃料噴射量とを読み出す。
【0057】
状態遷移判定部12は、制御時間計測タイマのタイマ値を参照し、参照したタイマ値の秒数が、サージ回避制御終了条件テーブル113の「時間経過」の項目に示されている「A秒以上」という条件を満たしているか否かを判定する第1終了条件判定処理を行う。状態遷移判定部12は、読み出した直近のアクセル開度が、サージ回避制御終了条件テーブル113の「再加速」の項目の「アクセル開度」のサブ項目に示されている「B%以上」という条件を満たすか否かを判定する第2終了条件判定処理を行う。状態遷移判定部12は、読み出した直近の燃料噴射量が、サージ回避制御終了条件テーブル113の「再加速」の項目の「燃料噴射量」のサブ項目に示されている「C mg/stroke以上」という条件を満たすか否かを判定する第3終了条件判定処理を行う。
【0058】
状態遷移判定部12は、第1終了条件判定処理、第2終了条件判定処理、及び第3終了条件判定処理のいずれか1つの終了条件処理において、条件を満たしていると判定した場合、サージを回避する制御の終了条件を満たしていると判定する。これに対して、状態遷移判定部12は、第1終了条件判定処理、第2終了条件判定処理、及び第3終了条件判定処理の全ての終了条件判定処理において、条件を満たしていないと判定した場合、サージを回避する制御の終了条件を満たしていないと判定する(Sa5)。なお、制御時間計測タイマが、起動していない場合、状態遷移判定部12は、第1終了条件判定処理において、条件を満たしていないと判定する。
【0059】
上記したように、状態遷移判定部12は、サージを回避する制御の終了条件を満たしていないと判定した場合(Sa5、No)、次にSa6の処理を行う。一方、状態遷移判定部12は、サージを回避する制御の終了条件を満たしていると判定した場合(Sa5、Yes)、次にSa9の処理を行う。
【0060】
状態遷移判定部12は、Sa5の処理において、第1終了条件判定処理、第2終了条件判定処理、第3終了条件判定処理の判定結果を、内部の記憶領域に書き込んで記憶させている。状態遷移判定部12は、第1終了条件判定処理において、条件を満たしていると判定し、第2及び第3終了条件判定処理において、条件を満たしていないと判定した場合、「時間経過」の終了条件を満たしたと判定する。これに対して、状態遷移判定部12は、第1終了条件判定処理において、条件を満たしていないと判定し、第2及び第3終了条件判定処理のいずれか一方において、条件を満たしていると判定した場合、「再加速」の終了条件を満たしたと判定する。なお、状態遷移判定部12は、第1終了条件判定処理において、条件を満たしていると判定すると共に、第2及び第3終了条件判定処理のいずれか一方において、条件を満たしていると判定した場合、「時間経過」よりも「再加速」の方を優先して「再加速」の終了条件を満たしたと判定する(Sa9)。
【0061】
状態遷移判定部12は、「再加速」の終了条件を満たしたと判定した場合(Sa9、再加速)、変化率適用フラグ117のフラグ値を参照し、フラグ値が「TRUE」の場合、フラグ値を「FALSE」に書き換え、変化率適用フラグ117のフラグ値が「FALSE」の場合、その状態を維持する(Sa10)。したがって、Sa10の処理の後、変化率適用フラグ117のフラグ値は、「FALSE」になる。Sa10の処理の後、状態遷移判定部12は、Sa12の処理を行う。
【0062】
一方、状態遷移判定部12は、「時間経過」の終了条件を満たしたと判定した場合(Sa9、時間経過)、変化率適用フラグ117のフラグ値を参照し、フラグ値が「FALSE」の場合、フラグ値を「TRUE」に書き換え、変化率適用フラグ117のフラグ値が「TRUE」の場合、その状態を維持する(Sa11)。したがって、Sa11の処理の後、変化率適用フラグ117のフラグ値は、「TRUE」になる。
【0063】
状態遷移判定部12は、Sa10,Sa11の処理の後、サージ回避制御フラグ116のフラグ値を参照し、フラグ値が「ON」の場合、フラグ値を「OFF」に書き換え、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「OFF」の場合、その状態を維持する(Sa12)。したがって、Sa12の処理の後、サージ回避制御フラグ116のフラグ値は、「OFF」になる。状態遷移判定部12は、制御時間計測タイマを停止させ(Sa13)、再びSa2の処理を行う。
【0064】
図9に示す処理は、建設機械の電源がONの間、繰り返し行われ、建設機械の電源がOFFにされると終了する。
図9の処理のSa4,Sa5の処理において、状態遷移判定部12は、データテーブル110の直近のレコードを参照する際に、最上位のレコードを参照するようにしている。これに対して、状態遷移判定部12は、データテーブル110の直近のレコードを参照することに替えて、データテーブル110の「アクセル開度」、「燃料噴射量」、「エンジン回転速度」の各々の項目の直近のセンサデータを参照するようにしてもよい。
【0065】
例えば、データテーブル110の最上位のレコードにアクセル開度、エンジン回転速度が含まれているが、燃料噴射量が含まれていないとする。この場合、状態遷移判定部12は、データテーブル110において、燃料噴射量が含まれている直近のレコードを検出し、検出したレコードに含まれている燃料噴射量を直近の燃料噴射量とし、最上位のレコードに含まれているアクセル開度と、エンジン回転速度とを直近のアクセル開度と、直近のエンジン回転速度とするようにしてもよい。ただし、このようにした場合、状態遷移判定部12は、基準時刻とする検出時刻が2通り存在することになる。そのため、状態遷移判定部12は、いずれか一方の検出時刻を基準時刻としてもよいし、2つの検出時刻の平均値を基準時刻とするようにしてもよい。また、2つの検出時刻のうち、アクセル開度とエンジン回転速度に対応する検出時刻を、アクセル開度とエンジン回転速度に対応する基準時刻とし、燃料噴射量に対応する検出時刻を、燃料噴射量に対応する基準時刻とするようにしてもよい。この場合、Sa4の処理において必要となる基準時刻の所定時間前のレコードは、アクセル開度とエンジン回転速度の組み合わせと、燃料噴射量とにおいて異なることになる。
【0066】
図9の処理において、所定時間は、例えば、0.5秒であるとしているが、0.5秒に限られず、他の任意の時間を定めるようにしてもよい。また、データテーブル110において、基準時刻の所定時間前のレコードが存在しない場合、状態遷移判定部12は、基準時刻の所定時刻以前のレコードの中の最上位のレコードを参照してもよい。更に、当該レコードに読み出し対象となるアクセル開度、燃料噴射量、及びエンジン回転速度の中のいずれかの読み出し対象が含まれていない場合、含まれていない読み出し対象については、状態遷移判定部12は、当該読み出し対象を含む基準時刻の所定時刻以前のレコードの中の最上位のレコードから、当該読み出し対象のセンサデータを読み出すようにしてもよい。
【0067】
上記の
図9の処理において、Sa6,Sa7,Sa8の処理は、記載の順に行われてもよいし、順番を任意に入れ替えた順で行われてもよいし、並列に行われてもよい。
図9の処理において、Sa12,Sa13の処理は、記載の順に行われてもよいし、逆の順で行われてもよいし、並列に行われてもよい。
図9のSa5の処理において、状態遷移判定部12によって「Yes」の判定がされた場合に、Sa9の処理が行われる前に、Sa12,Sa13の処理が、任意の順番で行われてもよいし、並列に行われてもよい。
図9のSa5の処理において、状態遷移判定部12によって「Yes」の判定がされた場合に、Sa12,Sa13の処理の何れか一方がSa9の処理が行われる前に行われ、他方がSa10、または、Sa11の処理の後に行われるようにしてもよい。
【0068】
(第1の実施形態の流量制御部による処理)
例えば、内燃機関システム1を備える建設機械の電源がONにされると、サージ回避制御装置10の流量制御部13は、起動して、
図10のフローチャートの処理を開始する。流量制御部13は、エンジンコントローラ3の出力を待機する。流量制御部13は、エンジンコントローラ3がエンジン回転速度を示すセンサデータと、バイパスバルブ7と排気スロットルバルブ8の各々に対する通常制御時の指令値のデータとを出力すると、出力されたデータを取り込み、取り込んだデータを内部の記憶領域に直近のデータとして書き込んで記憶させる(Sb1)。
【0069】
ここで、バイパスバルブ7と排気スロットルバルブ8の各々に対する通常制御時の指令値とは、エンジンコントローラ3が、センサ群20に含まれるセンサから取得するセンサデータを用いて、上記した、タービン41の回転速度が大きくなり過ぎないようにする制御や、後処理装置に蓄積するPM(Particulate Matter)などを燃焼させることができる状態にするために算出する指令値である。以下、バイパスバルブ7に対する指令値をBVP指令値ともいい、排気スロットルバルブ8に対する指令値をETV指令値ともいう。
【0070】
流量制御部13は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値を参照して、フラグ値が「ON」であるか「OFF」であるかを判定する(Sb2)。流量制御部13は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「ON」であると判定したとする(Sb2、ON)。この場合、流量制御部13は、内部の記憶領域に記憶されている直近のエンジン回転速度に対応するBPV指令値と、ETV指令値とを、それぞれバイパスバルブ制御用データ114と、排気スロットルバルブ制御用データ115とから検出する。流量制御部13は、検出したBPV指令値、及びETV指令値を、それぞれ出力指令値とする(Sb3)。Sb3の処理の後、流量制御部13は、Sb4の処理を行う。
【0071】
一方、流量制御部13は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「OFF」であると判定した場合(Sb2、OFF)、変化率適用フラグ117のフラグ値を参照し、フラグ値が「TRUE」であるか「FALSE」であるかを判定する(Sb5)。流量制御部13は、変化率適用フラグ117のフラグ値が「TRUE」であると判定したとする(Sb5、TRUE)。この場合、流量制御部13は、内部の記憶領域に記憶されている前回の出力指令値のBPV指令値、及びETV指令値を読み出す。
【0072】
流量制御部13は、読み出した前回のBPV指令値と、内部の記憶領域に記憶されている直近の通常制御時のBPV指令値と、予め定められている変化率とに基づいて、出力指令値とするBPV指令値を算出する。例えば、流量制御部13において、予め定められている変化率が「1/2」であるとする。この場合、流量制御部13は、直近の通常制御時のBPV指令値から前回のBPV指令値を減算した減算値に、変化率である「1/2」を乗算して得られる乗算値を、前回のBPV指令値に加算して、新たなBPV指令値を算出する。流量制御部13は、算出した新たなBPV指令値を出力指令値とする。
【0073】
同様に、流量制御部13は、直近の通常制御時のETV指令値から前回のETV指令値を減算した減算値に、変化率である「1/2」を乗算して得られる乗算値を、前回のETV指令値に加算して、新たなETV指令値を算出する。流量制御部13は、算出した新たなETV指令値を出力指令値とする。なお、内部の記憶領域に、前回のBPV指令値と、前回のETV指令値とが記憶されていない場合、流量制御部13は、内部の記憶領域に記憶されている直近の通常制御時のBPV指令値と、直近の通常制御時のETV指令値とを、それぞれ出力指令値とする(Sb6)。Sb6の処理の後、流量制御部13は、Sb4の処理を行う。
【0074】
一方、流量制御部13は、Sb5の処理において、変化率適用フラグ117のフラグ値が「FALSE」であると判定した場合(Sb5、FALSE)、内部の記憶領域に記憶されている直近の通常制御時のBPV指令値と、直近の通常制御時のETV指令値とを、それぞれ出力指令値とする(Sb7)。Sb7の処理の後、流量制御部13は、Sb4の処理を行う。
【0075】
Sb3,Sb6,Sb7の処理の後、流量制御部13は、内部の記憶領域に記憶されている前回のBPV指令値を、出力指令値としたBPV指令値に書き換え、前回のETV指令値を、出力指令値としたETV指令値に書き換える。なお、内部の記憶領域に前回のBPV指令値と、前回のETV指令値とが記憶されていない場合、出力指令値とした、BPV指令値と、ETV指令値とを、それぞれ前回のBPV指令値、前回のETV指令値として内部の記憶領域に書き込む。流量制御部13は、出力指令値としたBPV指令値をバイパスバルブ7に出力し、出力指令値としたETV指令値を排気スロットルバルブ8に出力する。流量制御部13は、BPV指令値とETV指令値の出力後に、内部の記憶領域に記憶されている直近のデータ、すなわちSb1の処理で取り込んだエンジン回転速度を示すセンサデータと、バイパスバルブ7と排気スロットルバルブ8の各々に対する通常制御時の指令値のデータとを消去する(Sb4)。Sb4の処理の後、流量制御部13は、再びSb1の処理を行う。
【0076】
図10に示す処理は、建設機械の電源がONの間、繰り返し行われ、建設機械の電源がOFFにされると終了する。上記したSb1の処理において、エンジンコントローラ3がエンジン回転速度を示すセンサデータと、通常制御時のバイパスバルブ7と排気スロットルバルブ8の各々に対する指令値のデータとを出力すると説明した。これに対して、エンジンコントローラ3が、エンジン回転速度を示すセンサデータと、通常制御時のBPV指令値のデータと、通常制御時のETV指令値のデータとを同じタイミングで流量制御部13に出力するのではなく、それぞれを異なるタイミングで流量制御部13に出力しているとする。この場合、Sb1の処理では、流量制御部13は、エンジンコントローラ3が出力するエンジン回転速度を示すセンサデータのみを取り込み、取り込んだセンサデータを内部の記憶領域に直近のデータとして書き込んで記憶させた後に、Sb2の処理を行うようにする。
【0077】
通常制御時のBPV指令値、及び通常制御時のETV指令値の各々については、流量制御部13は、
図10に示すフローチャートの処理とは別の処理を並列に行うようにする。すなわち、流量制御部13は、エンジンコントローラ3が通常制御時のBPV指令値のデータ、及び通常制御時のETV指令値のデータのいずれか一方データを出力するのを待機する。流量制御部13は、エンジンコントローラ3が、いずれか一方のデータを出力した場合、出力されたデータを取り込んで、内部の記憶領域に直近のデータとして書き込んで記憶させた後、再び、エンジンコントローラ3が通常制御時のBPV指令値のデータ、及び通常制御時のETV指令値のデータのいずれか一方のデータを出力するのを待機するという処理を繰り返し行う。
【0078】
(第1の実施形態の作用・効果)
図11は、
図24に示す図の一部を再掲した図であり、ここでは、
図11は、第1の実施形態の圧縮機43の特性を示す図であるとする。
図9に示すSa4の処理において、サージ発生前提条件テーブル111に示されるサージが発生する前提条件を満たしていると判定される状態とは、
図11において、圧縮機43の作動点が、サージライン400の右側の領域に含まれる位置であって、かつエンジン回転速度が「1800rpm以上」の位置に存在していると推定される状態である。この位置が、例えば、符号500で示す位置であるとする。Sa4の処理において、サージ回避制御開始条件テーブル112に示されるサージを回避する制御の開始条件を満たしていると判定される状態とは、圧縮機43の作動点が、符号500の位置から符号501で示される線上を矢印の方向に向かって動き始めたと推定される状態を示している。したがって、Sa4の処理において、状態遷移判定部12が所定の減速状態に状態遷移したと判定した場合、圧縮機43の作動点が、符号501で示される線上の位置であって、サージライン400の右側に位置している状態になっていると推定される。
【0079】
この状態において、状態遷移判定部12は、Sa5の処理においてサージ回避制御終了条件テーブル113に示されるサージを回避する制御の終了条件を満たしていないと判定した場合、Sa7の処理において、サージ回避制御フラグ116のフラグ値を「ON」に書き換える。この書き換えが行われると、流量制御部13は、
図10のSb3の処理において、当該処理を行う直前にSb1の処理において取得したエンジン回転速度に対応するBPV指令値と、ETV指令値とを、それぞれバイパスバルブ制御用データ114と、排気スロットルバルブ制御用データ115とから検出する。流量制御部13は、Sb4の処理において、検出したBPV指令値及びETV指令値を、それぞれバイパスバルブ7と、排気スロットルバルブ8とに出力する。
【0080】
図6に示すように、バイパスバルブ制御用データ114は、いずれのエンジン回転速度であっても、BPV指令値が0%であるため、Sb3の処理を経て、Sb4の処理が行われると、バイパスバルブ7は全開になる。これに対して、排気スロットルバルブ制御用データ115は、エンジン回転速度が大きくなると、若干、ETV指令値の値が小さくなる傾向を示しているが、ETV指令値の値は、いずれのエンジン回転速度であっても、80%~95%程度の値になる。そのため、Sb3の処理を経て、Sb4の処理が行われると、排気スロットルバルブ8は、ほぼ閉じられた状態になる。なお、排気スロットルバルブ8を全閉にすると、タービン41に圧力がかかりすぎる状態になるため、排気スロットルバルブ制御用データ115では、全てのエンジン回転速度において、全閉の状態にならないようにしている。
【0081】
バイパスバルブ7が、全開になると、エンジン本体5から排出される排気ガスの多くが、バイパスバルブ7を通過するため、タービン41に供給される排気ガスの流量が減少する。言い換えると、タービン41が受ける排気ガスの量が減少することになるので、タービン41の回転速度が低下する。これに加えて、排気スロットルバルブ8が、ほぼ閉じられた状態になると、排気スロットルバルブ8と、タービン41との間の出口側排気通路35の圧力、言い換えると、タービン41の出口圧力が上昇する。そのため、タービン41から排出される排気ガスに対する抵抗が大きくなり、タービン41を通過する排気ガスの流量及び流速が低下して、タービン41の回転速度が低下する。タービン41の回転速度が低下すると、圧縮機43の回転速度も減少するため、
図11において、圧縮機43の作動点が移動する方向が、符号503で示す矢印の方向に変化するので、サージを回避することが可能になる。
【0082】
図12は、第1の実施形態の内燃機関システム1を利用した場合の変化の一例と、一般的な内燃機関システムを利用した場合の変化の一例とを比較したグラフである。ここで、一般的な内燃機関システムとは、内燃機関システム1からサージ回避制御装置10を取り除いて、エンジンコントローラ3が、バイパスバルブ7と、排気スロットルバルブ8に対して、通常制御時の指令値を直接出力するようにしたシステムである。
【0083】
図12(a)は、エンジン回転速度センサ21が検出するエンジン回転速度の変化を示すグラフ、及び、燃料噴射量指令値61が示す燃料噴射量の変化を示すグラフである。
図12(a)において、左側の縦軸は、単位「rpm」で表したエンジン回転速度の大きさを示しており、右側の縦軸は、単位「mg/stroke」で表した燃料噴射量の大きさを示している。
【0084】
図12(b)は、ブースト圧センサ23が検出するブースト圧の変化を示すグラフであり、縦軸は、単位「kPa」で表したブースト圧の大きさを示している。
図12(c)は、排気スロットルバルブ8の開度の変化を示すグラフであり、縦軸は、単位「%」で表した排気スロットルバルブ8の開度を示している。
図12(d)は、バイパスバルブ7の開度の変化を示すグラフであり、縦軸は、単位「%」で表したバイパスバルブ7の開度を示している。
図12(a)~(d)において、横軸は、いずれも単位「秒」で表した時間の大きさを示している。
【0085】
図12において、符号120で示す縦線は、減速が開始されたタイミングを示している。符号121で示す縦線は、第1の実施形態の内燃機関システム1において、サージを回避する制御が開始されたタイミング、すなわち、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「OFF」から「ON」に書き換えられたタイミングである。符号122で示す縦線は、第1の実施形態の内燃機関システム1において、サージを回避する制御が終了したタイミング、すなわち、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「ON」から「OFF」に書き換えられたタイミングである。
【0086】
図12(a)において、符号130が第1の実施形態の内燃機関システム1が適用された場合のエンジン回転速度の変化を示すグラフであり、符号131が一般的な内燃機関システムが適用された場合のエンジン回転速度の変化を示すグラフである。
図12(a)に示されるように、この2つのグラフには違いはない。符号120で示す減速が開始されたタイミングで、エンジン回転速度は、減少し始め、31秒以降は、ローアイドル状態のエンジン回転速度である「700rpm」程度の回転速度を維持する。ここで、ローアイドル状態とは、無負荷状態で、エンジン本体5を停止させないように、エンジン本体5を動かしておく状態のことをいう。
【0087】
図12(a)において、符号140が第1の実施形態の内燃機関システム1が適用された場合の燃料噴射量の変化を示すグラフであり、符号141が一般的な内燃機関システムが適用された場合の燃料噴射量の変化を示すグラフである。
図12(b)に示されるように、この2つのグラフには違いがない。符号120で示す減速が開始されたタイミングで、燃料噴射量は、減少し始め、一度、「0mg/stroke」になるが、その後、増加して、ローアイドル状態の燃料噴射量である「50mg/stroke」を維持する。
【0088】
図12(c)において、符号160が第1の実施形態の内燃機関システム1が適用された場合の排気スロットルバルブ8の開度の変化を示すグラフであり、符号161が一般的な内燃機関システムが適用された場合の排気スロットルバルブ8の開度の変化を示すグラフである。符号160のグラフが示すように、第1の実施形態の内燃機関システム1が適用される場合、符号121で示すサージを回避する制御が開始されたタイミングで、排気スロットルバルブ8は、閉じられていき、95%程度の値になると、この状態が、符号122で示すサージを回避する制御が終了するタイミングまでの間、維持される。これに対して、符号161のグラフが示すように、一般的な内燃機関システムが適用される場合、排気スロットルバルブ8は、全開の状態が維持される。
【0089】
図12(d)において、符号170が第1の実施形態の内燃機関システム1が適用された場合のバイパスバルブ7の開度の変化を示すグラフであり、符号171が一般的な内燃機関システムが適用された場合のバイパスバルブ7の開度の変化を示すグラフである。符号170のグラフが示すように、符号121で示すサージを回避する制御が開始されたタイミングで、バイパスバルブ7は、開かれていき、全開の状態になると、この状態が、符号122で示すサージを回避する制御が終了するタイミングまでの間、維持される。これに対して、符号171のグラフが示すように、一般的な内燃機関システムが適用される場合、バイパスバルブ7は、全開の状態が維持される。
【0090】
図12(b)において、符号150が第1の実施形態の内燃機関システム1が適用された場合のブースト圧の変化を示すグラフであり、符号151が一般的な内燃機関システムが適用された場合のブースト圧の変化を示すグラフである。一般的な内燃機関システムの場合、符号151のグラフに示されるように、31.5秒~33秒付近において、ブースト圧に脈動するような変化が現れており、サージが発生していることが分かる。これに対して、第1の実施形態の内燃機関システム1の場合、符号150のグラフで示されるように、バイパスバルブ7と、排気スロットルバルブ8とにおいて、
図12(c),(d)に示す制御が行われることにより、ブースト圧は、緩やかに減少する変化を示しており、サージが発生していないことが分かる。したがって、第1の実施形態の内燃機関システム1を用いることにより、EGR方式を採用しない内燃機関であってもサージを回避することが可能になる。
【0091】
ここで、第1の実施形態の状態遷移判定部12が、
図9のSa4の所定の減速状態に状態遷移したか否かを判定する処理に替えて、特許文献1に開示されている燃料噴射量が「0mg/stroke」になったか否かを判定する処理を採用したとする。この場合、サージを回避する制御が開始されるタイミングを示す符号121の縦線の位置が、
図12(a)において、燃料噴射量が「0mg/stroke」になる30.5秒付近の位置に変わることになる。
図12(c),(d)に示すように、ETV開度は、即時に、95%程度にはならず、また、BPV開度も、即時に0%にならず、サージを回避する制御の効果が現れるまでのタイムラグが存在する。そのため、燃料噴射量が「0mg/stroke」になるタイミングを、サージを回避する制御を開始するタイミングにすると、サージを回避する制御の効果が現れる前に、サージが発生してしまう可能性がある。これに対して、第1の実施形態の状態遷移判定部12では、上記したように、サージ発生前提条件テーブル111に示されるサージが発生する前提条件を満たし、かつサージ回避制御開始条件テーブル112に示されるサージを回避する制御の開始条件を満たすと判定した場合に、サージが発生すると推定される所定の減速状態に遷移したとして、サージを回避する制御を開始するようにしている。これにより、特許文献1に開示される技術よりも、余裕をもって、より早いタイミングでサージを回避する制御を開始することができるので、より確実にサージを回避することが可能になる。
【0092】
第1の実施形態の内燃機関システム1が行うサージを回避する制御は、一般的な内燃機関に備えられているバイパスバルブ7と、排気スロットルバルブ8とを用いて行う制御であり、ブローオフバルブなどの追加デバイスを用いずに行うことができる制御である。そのため、第1の実施形態の内燃機関システム1が行うサージを回避する制御は、追加デバイスを用いてサージを回避する制御を利用する場合に比べて、コスト的な利点があり、また、
図22及び
図23において示したEGRの方式を採用する内燃機関に対しても適用することができる。
【0093】
第1の実施形態の内燃機関システム1では、状態遷移判定部12が、所定の減速状態に遷移した場合にのみ、サージを回避する制御をバイパスバルブ7と、排気スロットルバルブ8とに対して行うようにしている。すなわち、バイパスバルブ7及び排気スロットルバルブ8のロバスト性の担保を配慮した構成としている。
【0094】
第1の実施形態の内燃機関システム1において、サージを回避する制御を開始する際、すなわち、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「OFF」から「ON」に書き換えられる場合、サージという異常な状態を回避するために、即時にサージを回避する制御を開始する必要がある。これに対して、サージを回避する制御を終了する際、すなわち、サージ回避制御フラグが「ON」から「OFF」に書き換えられる場合、再加速に起因する場合と、時間経過に起因する場合との違いによって、以下のような点を考慮する必要がある。すなわち、再加速に起因して、サージを回避する制御を終了するときには、加速を必要とする状態であることから、即時にサージを回避する制御を終了して通常制御に切り替える必要がある。これに対して、時間経過に起因して、サージを回避する制御を終了するときには、即時に通常制御に切り替える必要性は低く、即時に通常制御に切り替えるよりも、緩やかに通常制御に切り替える方が、エンジン2に対して負荷をかけないようにすることができる利点がある。これを実現するため、第1の実施形態のサージ回避制御装置10は、上記した変化率適用フラグ117を用いた処理を行っている。
【0095】
より具体的には、状態遷移判定部12は、
図9のSa5の処理において、サージ回避制御終了条件テーブル113に示されるサージを回避する制御の終了条件を満たしたと判定した場合、更に、Sa9の処理において、満たした終了条件が、再加速であるか、時間経過であるかを判定するようにしている。そして、状態遷移判定部12は、満たした終了条件が、再加速であると判定した場合、変化率適用フラグ117のフラグ値を「FALSE」とし、満たした終了条件が、時間経過であると判定した場合、変化率適用フラグ117のフラグ値を「TRUE」とするようにしている。流量制御部13は、
図10のSb5の処理において、変化率適用フラグ117のフラグ値が「TRUE」である場合、通常制御時のBPV指令値及びETV指令値に即時に切り替えずに、Sb6の処理を行うようにしている。Sb6の処理において、流量制御部13は、変化率を適用して、直前にバイパスバルブ7に適用したBPV指令値、すなわち前回のBPV指令値から緩やかに通常制御時のBPV指令値に変化していくようにしている。同様に、流量制御部13は、変化率を適用して、直前に排気スロットルバルブ8に適用したETV指令値、すなわち前回のETV指令値から緩やかに通常制御時のETV指令値に変化していくようにしている。
【0096】
<第2の実施形態>
(第2の実施形態の全体構成)
図13に示すように、第2の実施形態に係る内燃機関システム1aは、エンジン2a、エンジンコントローラ3a、アクセルペダル4、サージ回避制御装置10a、及びセンサ群20を備える。なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付している。
【0097】
エンジン2aは、エンジン本体5、アフタークーラ6、バイパスバルブ7、排気スロットルバルブ8、排気タービン過給機40、排気タービン過給機50及び通路31~37を備える。
図13のように、2つの排気タービン過給機40,50を直列に接続する場合、高圧段の排気タービン過給機40のサイズよりも、低圧段の排気タービン過給機50のサイズを大きくするのが一般的である。そのため、第2の実施形態においても、排気タービン過給機40,50のサイズは、低圧段の方が、高圧段よりも大きいサイズであるものとする。なお、以下では、排気タービン過給機40を、高圧段排気タービン過給機40といい、排気タービン過給機50を低圧段排気タービン過給機50という。高圧段排気タービン過給機40の名称の読み替えに伴い、第2の実施形態では、タービン41、圧縮機43を、それぞれ高圧段タービン41、高圧段圧縮機43という。
【0098】
高圧段タービン41は、第1の実施形態と異なり、排気ガスを排出する側において、出口側排気通路35に替えて、接続用排気通路37に接続し、接続用排気通路37に排気ガスを排出する。高圧段圧縮機43は、第1の実施形態と異なり、吸気ガスを取り込む側において、入口側吸気通路31に替えて、接続用吸気通路36に接続する。
【0099】
低圧段排気タービン過給機50は、低圧段タービン51と、低圧段圧縮機53と、低圧段タービン51と低圧段圧縮機53とを連結し、低圧段タービン51の回転の駆動力を低圧段圧縮機53に伝えるシャフト52とを備える。低圧段タービン51は、接続用排気通路37を介して高圧段タービン41に接続されており、高圧段タービン41から排出される排気ガスを受けて回転し、排気ガスを出口側排気通路35に排出する。
【0100】
低圧段圧縮機53は、高圧段圧縮機43と同様にブロワやコンプレッサとも呼ばれ、低圧段タービン51の回転に連動して回転し、入口側吸気通路31から流入する空気、すなわち吸気ガスを圧縮する。低圧段圧縮機53は、接続用吸気通路36を介して高圧段圧縮機43に接続されており、圧縮した吸気ガスを接続用吸気通路36に吐出する。高圧段圧縮機43は、接続用吸気通路36から流入する吸気ガスを圧縮して、エンジン本体側吸気通路32に吐出するので、入口側吸気通路31から流入する吸気ガスは、低圧段圧縮機53と、高圧段圧縮機43とによって、2段階に圧縮される。そのため、エンジン本体5は、第1の実施形態よりも、高圧の吸気ガスを吸気することになる。
【0101】
エンジンコントローラ3aは、第1の実施形態のエンジンコントローラ3が備える構成に加えて、制御対象がエンジン2からエンジン2aに置き換えられたことに伴って追加されるフィードフォワード制御やフィードバック制御を行う。
【0102】
サージ回避制御装置10aは、記憶部11a、状態遷移判定部12、及び流量制御部13を備える。記憶部11aは、第1の実施形態の記憶部11と同様に、データテーブル110、サージ発生前提条件テーブル111、サージ回避制御開始条件テーブル112、サージ回避制御終了条件テーブル113、排気スロットルバルブ制御用データ115、サージ回避制御フラグ116、及び変化率適用フラグ117を記憶する。記憶部11aは、更に、
図6に示す特性を有するバイパスバルブ制御用データ114に替えて、
図14に示す特性を有するバイパスバルブ制御用データ114aを記憶する。
【0103】
高圧段排気タービン過給機40のサイズよりも低圧段排気タービン過給機50のサイズの方が大きい場合、低圧段排気タービン過給機50の方が高圧段排気タービン過給機40よりも慣性が大きくなる。そのため、低圧段排気タービン過給機50の方が高圧段排気タービン過給機40よりもサージが発生し易くなる。そのため、ここでは、エンジン2aにおいて、高圧段排気タービン過給機40にサージが発生し難く、低圧段排気タービン過給機50にサージが発生し易い構成になっていることを前提とする。
【0104】
この前提にしたがって、第2の実施形態では、バイパスバルブ制御用データ114に替えて、バイパスバルブ制御用データ114aを用いるようにしている。
図14に示すように、バイパスバルブ制御用データ114aは、いずれのエンジン回転速度であっても、BPV指令値が100%になる特性を有するデータである。なお、第1の実施形態のバイパスバルブ制御用データ114と同様に、バイパスバルブ制御用データ114aは、複数の異なるエンジン回転速度の各々と、各々に対応するバイパスバルブ7に対する指令値とが関連付けられているマップ制御用のテーブル形式のデータである。
【0105】
(第2の実施形態のサージ回避制御装置による処理)
第2の実施形態において、状態遷移判定部12は、第1の実施形態の
図9に示す処理であって、エンジンコントローラ3を、エンジンコントローラ3aに読み替えた処理を行う。流量制御部13は、第1の実施形態の
図10に示す処理であって、バイパスバルブ制御用データ114を、バイパスバルブ制御用データ114aに読み替えた処理を行う。
【0106】
(第2の実施形態の作用・効果)
バイパスバルブ制御用データ114aは、いずれのエンジン回転速度であっても、BPV指令値が100%であるため、
図10において、Sb3の処理を経て、Sb4の処理が行われると、バイパスバルブ7は全閉の状態になり、排気スロットルバルブ8は、第1の実施形態と同様に、ほぼ閉じられた状態になる。バイパスバルブ7が全閉の状態になると、エンジン本体5から排出される排気ガスの全てが、高圧段タービン41に供給されることになる。これにより、高圧段タービン41によって排気ガスのエネルギ、言い換えると、排気ガスの流量や流速の大きさに応じて生じるタービンを回転させる力のエネルギが、高圧段タービン41によって消費されるので、低圧段タービン51が受ける排気ガスのエネルギが減少する。そのため、低圧段タービン51の回転速度が低下する。
【0107】
これに加えて、第1の実施形態と同様に、排気スロットルバルブ8が、ほぼ閉じられた状態になるので、排気スロットルバルブ8と、低圧段タービン51との間の出口側排気通路35の圧力、言い換えると、低圧段タービン51の出口圧力が上昇する。そのため、低圧段タービン51から排出される排気ガスに対する抵抗が大きくなり、低圧段タービン51を通過する排気ガスの流量及び流速が低下して、低圧段タービン51の回転速度が低下する。低圧段タービン51の回転速度が低下すると、低圧段圧縮機53の回転速度も減少するため、低圧段排気タービン過給機50において生じるサージを回避することができる。
【0108】
図15は、第2の実施形態の内燃機関システム1aを適用した場合の変化の一例と、一般的な内燃機関システムを適用した場合の変化の一例とを比較したグラフである。ここで、一般的な内燃機関システムとは、内燃機関システム1aからサージ回避制御装置10aを取り除いて、エンジンコントローラ3aが、バイパスバルブ7と、排気スロットルバルブ8に対して、通常制御時の指令値を出力するようにしたシステムである。
【0109】
図15(a)~(d)の縦軸と横軸の単位は、それぞれ
図12(a)~(d)の縦軸と横軸の単位と同一であり、
図12(a)~(d)と同一の変化を示すグラフには、
図12(a)~(d)のグラフに付した符号と同一の符号を付している。符号120,121,122で示す縦線が示すタイミングも、第1の実施形態と同様であり、符号120が、減速が開始されたタイミングを示しており、符号121が、サージを回避する制御が開始されたタイミングを示しており、符号122が、サージを回避する制御が終了したタイミングを示している。
【0110】
第1の実施形態と異なるのは、
図15(d)において符号170aで示す第2の実施形態の内燃機関システム1aが適用された場合のバイパスバルブ7の開度の変化を示すグラフである。第2の実施形態では、
図14に示す特性を有するバイパスバルブ制御用データ114aが用いられるため、符号121で示すサージを回避する制御が開始されたタイミングで、バイパスバルブ7は、閉じられていき、全閉の状態になると、この状態が、符号122で示すサージを回避する制御が終了するタイミングまでの間、維持される。
【0111】
これにより、
図15(b)において、符号150で示すように、第2の実施形態の内燃機関システム1aが適用された場合のブースト圧の変化は、緩やかに減少してサージが発生しない変化になる。したがって、第2の実施形態の内燃機関システム1aを用いることにより、EGR方式を採用しない内燃機関であってもサージを回避することが可能になる。
【0112】
(第2の実施形態の他の構成例)
上記した第2の実施形態では、高圧段排気タービン過給機40のサイズよりも、低圧段排気タービン過給機50のサイズの方が大きいことから、エンジン2aにおいて、高圧段排気タービン過給機40にサージが発生し難く、低圧段排気タービン過給機50にサージが発生し易い構成になっていることを前提としていた。これに対して、例えば、逆に、低圧段排気タービン過給機50のサイズよりも大きいサイズの高圧段排気タービン過給機40が適用される場合、エンジン2aにおいて、高圧段排気タービン過給機40にサージが発生し易く、低圧段排気タービン過給機50にサージが発生し難くなる。
【0113】
この場合、記憶部11aにおいて、
図14に示す特性のバイパスバルブ制御用データ114aに替えて、第1の実施形態において用いた
図6に示す特性のバイパスバルブ制御用データ114を適用する。バイパスバルブ制御用データ114が適用された内燃機関システム1aは、
図16のグラフで表される変化を示すことになる。なお、
図16に示すグラフの変化は、第1の実施形態の
図12に示すグラフと同一の変化であるため、
図12と同一の符号を付して示している。すなわち、符号170のグラフが示すように、符号121で示すサージを回避する制御が開始されたタイミングで、バイパスバルブ7は、開かれていき、全開の状態になると、この状態が、符号122で示すサージを回避する制御が終了するタイミングまでの間、維持される。
【0114】
これにより、エンジン本体5から排出される排気ガスの多くが、バイパスバルブ7を通過するため、高圧段タービン41に供給される排気ガスの量が減少して、高圧段タービン41の回転速度が低下する。これに加えて、排気スロットルバルブ8が、ほぼ閉じられた状態になると、高圧段タービン41の出口圧力が上昇する。言い換えると、排気スロットルバルブ8と低圧段タービン51の間の出口側排気通路35の部分から低圧段タービン51を経て接続用排気通路37に至る部分に存在する排気ガスの圧力が上昇する。そのため、高圧段タービン41から排出される排気ガスに対する抵抗が大きくなり、高圧段タービン41を通過する排気ガスの流量及び流速が低下して、高圧段タービン41の回転速度が低下する。高圧段タービン41の回転速度が低下すると、高圧段圧縮機43の回転速度も減少するため、高圧段排気タービン過給機40において生じるサージを回避することができる。
【0115】
したがって、第2の実施形態の内燃機関システム1aの場合、記憶部11aに記憶させるバイパスバルブ制御用データ114,114aを、高圧段排気タービン過給機40と、低圧段排気タービン過給機50とのサイズの関係に応じて入れ替えることにより、低圧段タービン51と高圧段タービン41のうち回転速度を低下させて、サージを回避させたいタービンを選択することが可能になる。
【0116】
<第3の実施形態>
(第3の実施形態の全体構成)
図17に示すように、第3の実施形態に係る内燃機関システム1bは、エンジン2b、エンジンコントローラ3b、アクセルペダル4、サージ回避制御装置10b、及びセンサ群20を備える。なお、第3の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付している。
【0117】
エンジン2bは、エンジン本体5、アフタークーラ6、バイパスバルブ7、吸気スロットルバルブ(以下、ITV(Intake Throttle Valve)ともいう)9、排気タービン過給機40、及び通路31~35を備える。
【0118】
吸気スロットルバルブ9は、エンジン本体側吸気通路32を通過する吸気ガスの流量を調整する流量調整器であり、エンジン本体側吸気通路32に挿入される。吸気スロットルバルブ9の開度を調整することにより、エンジン本体側吸気通路32を通過する吸気ガスの流量が調整され、それにより、エンジン本体5が吸気する吸気ガスの量が調整される。
【0119】
エンジンコントローラ3bは、第1の実施形態のエンジンコントローラ3が備える構成において、制御対象がエンジン2からエンジン2bに置き換えられたことに伴って追加及び除外されるフィードフォワード制御やフィードバック制御を行う。エンジンコントローラ3bにおいて、追加される制御は、吸気スロットルバルブ9に対する制御であり、除外される制御は、排気スロットルバルブ8に対する制御である。また、エンジンコントローラ3bは、バイパスバルブ7と吸気スロットルバルブ9の各々に対しては、制御用の指令値を出力して直接制御せず、各々に対する制御用の指令値をサージ回避制御装置10bが備える流量制御部13aに出力する。
【0120】
サージ回避制御装置10bは、記憶部11b、状態遷移判定部12、及び流量制御部13aを備える。記憶部11bは、第1の実施形態の記憶部11と同様に、データテーブル110、サージ発生前提条件テーブル111、サージ回避制御開始条件テーブル112、サージ回避制御終了条件テーブル113、バイパスバルブ制御用データ114、サージ回避制御フラグ116、及び変化率適用フラグ117を記憶し、
図6に示す特性を有する排気スロットルバルブ制御用データ115に替えて、吸気スロットルバルブ制御用データを記憶する。なお、ここでは、吸気スロットルバルブ制御用データが示す特性は、排気スロットルバルブ制御用データ115が示す特性と同一であるものとする。したがって、吸気スロットルバルブ制御用データに基づいて、吸気スロットルバルブ9に対する指令値(以下、ITV指令値ともいう)を検出すると、いずれのエンジン回転速度であっても、80%~95%程度の値になる。なお、吸気スロットルバルブ9に対する指令値になる吸気スロットルバルブ9の開度は、バイパスバルブ7、及び排気スロットルバルブ8と同様に、0%で全開を示し、100%で全閉を示す。また、排気スロットルバルブ制御用データ115と同様に、吸気スロットルバルブ制御用データは、複数の異なるエンジン回転速度の各々と、各々に対応する吸気スロットルバルブ9に対する指令値とが関連付けられているマップ制御用のテーブル形式のデータである。
【0121】
流量制御部13aは、状態遷移判定部12が所定の減速状態に遷移したと判定した場合、排気タービン過給機40のタービン41に供給される排気ガスの流量が、タービン41の回転速度を減少させる流量になるように、バイパスバルブ7と、吸気スロットルバルブ9とに対して指令値を出力する。
【0122】
(第3の実施形態のサージ回避制御装置による処理)
第3の実施形態において、状態遷移判定部12は、第1の実施形態の
図9に示す処理であって、エンジンコントローラ3を、エンジンコントローラ3bに読み替えた処理を行う。流量制御部13aは、第1の実施形態の
図10に示す処理であって、流量制御部13を、流量制御部13aに読み替え、エンジンコントローラ3を、エンジンコントローラ3bに読み替え、排気スロットルバルブ制御用データ115を、吸気スロットルバルブ制御用データに読み替え、ETV指令値を、ITV指令値に読み替え、排気スロットルバルブ8を、吸気スロットルバルブ9に読み替えた処理を行う。
【0123】
(第3の実施形態の作用・効果)
図18は、第1の実施形態の内燃機関システム1において、排気スロットルバルブ8に対してサージを回避する制御を行った場合の作用と、第3の実施形態の内燃機関システム1bにおいて、吸気スロットルバルブ9に対してサージを回避する制御を行った場合の作用との対比を示す図である。
図18(a)が、排気スロットルバルブ8に対応する図であり、
図18(b)が、吸気スロットルバルブ9に対応する図である。第1の実施形態において説明したように、サージを回避する制御が開始されると、
図18(a)に示すように、排気スロットルバルブ8は、閉じる方向に制御される。上記したように、排気スロットルバルブ制御用データ115と、吸気スロットルバルブ制御用データとは、同一の特性を示すデータである。そのため、第3の実施形態の場合も、
図18(b)に示すように、吸気スロットルバルブ9は、閉じる方向に制御される。
【0124】
これにより、第1の実施形態では、上記したように、タービン41の出口圧力が上昇する。そのため、タービン41から排出される排気ガスに対する抵抗が大きくなり、タービン41を通過する排気ガスの流量及び流速が低下して、タービン41の回転速度が低下する。これに対して、第3の実施形態では、吸気スロットルバルブ9が、ほぼ閉じられた状態になると、エンジン本体5が吸気する吸気ガスの量が減少するので、エンジン本体5が排出する排気ガスの量も減少する。そのため、タービン側排気通路33の圧力が低下する。そのため、タービン41の出口側の排気ガスの圧力に対するタービン41の入口側の排気ガスの圧力の比、すなわち「タービン41の入口側の排気ガスの圧力/タービン41の出口側の排気ガスの圧力」が小さくなる。したがって、第1の実施形態において、排気スロットルバルブ8に対してサージを回避する制御を行った場合と同様に、タービン41を通過する排気ガスの流量及び流速が低下するので、タービン41の回転速度が低下し、サージを回避することができる。
【0125】
<第4の実施形態>
(第4の実施形態の全体構成)
図19に示すように、第4の実施形態に係る内燃機関システム1cは、エンジン2、エンジンコントローラ3c、アクセルペダル4、サージ回避制御装置10c、及びセンサ群20を備える。なお、第4の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付している。
【0126】
エンジンコントローラ3cは、第1の実施形態のエンジンコントローラ3と同様に、バイパスバルブ7と排気スロットルバルブ8の各々に対しては、制御用の指令値を出力して直接制御せず、各々に対する制御用の指令値をサージ回避制御装置10cが備える流量制御部13に出力する。エンジンコントローラ3cは、更に、エンジン本体5に対して、燃料噴射量指令値61を出力して直接制御せず、燃料噴射量指令値61をサージ回避制御装置10cが備える燃料噴射量制御部14に出力する。
【0127】
サージ回避制御装置10cは、記憶部11、状態遷移判定部12、流量制御部13、及び燃料噴射量制御部14を備える。燃料噴射量制御部14は、状態遷移判定部12が所定の減速状態に遷移したと判定した際に、エンジン本体5において噴射される燃料噴射量が、所定量未満になった場合に所定量以上になるようして、エンジン本体5に対して燃料噴射量指令値61aを出力する。ここで、所定量とは、例えば、ローアイドル状態の燃料噴射量の50%~100%の量である。
【0128】
(第4の実施形態のサージ回避制御装置による処理)
第4の実施形態において、状態遷移判定部12は、第1の実施形態の
図9に示す処理であって、エンジンコントローラ3を、エンジンコントローラ3cに読み替えた処理を行う。流量制御部13は、第1の実施形態の
図10に示す処理であって、エンジンコントローラ3を、エンジンコントローラ3cに読み替えた処理を行う。
【0129】
(第4の実施形態の燃料噴射量制御部による処理)
燃料噴射量制御部14は、
図20に示す処理を行う。なお、
図20に示す処理は、
図9及び
図10に示す処理と、並列に行われる処理である。例えば、内燃機関システム1cを備える建設機械の電源がONにされると、サージ回避制御装置10cの燃料噴射量制御部14は、起動して、
図20のフローチャートの処理を開始する。燃料噴射量制御部14は、エンジンコントローラ3cの出力を待機する。燃料噴射量制御部14は、エンジンコントローラ3cが通常制御時の燃料噴射量指令値61を出力すると、出力された燃料噴射量指令値61を取り込む(Sc1)。
【0130】
燃料噴射量制御部14は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値を参照して、フラグ値が「ON」であるか「OFF」であるかを判定する(Sb2)。燃料噴射量制御部14は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「OFF」であると判定した場合(Sb2、OFF)、Sc1の処理において取り込んだ燃料噴射量指令値61を出力指令値として(Sc3)、次にSc6の処理を行う。
【0131】
一方、燃料噴射量制御部14は、サージ回避制御フラグ116のフラグ値が「ON」であると判定した場合(Sb2、ON)、取り込んだ燃料噴射量指令値61が示す燃料噴射量が、予め定められる所定量以上であるか否かを判定する(Sc4)。燃料噴射量制御部14は、取り込んだ燃料噴射量指令値61が示す燃料噴射量が、予め定められる所定量以上であると判定した場合(Sc4、Yes)、次にSc3の処理を行う。
【0132】
一方、燃料噴射量制御部14は、取り込んだ燃料噴射量指令値61が示す燃料噴射量が、予め定められる所定量以上でないと判定した場合(Sc4、No)、予め定められる所定量を出力指令値として(Sc5)、次にSc6の処理を行う。燃料噴射量制御部14は、Sc3,Sc5の処理の後、出力指令値を燃料噴射量指令値61aとしてエンジン本体5に出力し(Sc6)、再び、Sc1の処理を行う。
【0133】
(第4の実施形態の作用・効果)
図21は、第4の実施形態の内燃機関システム1cにおいて、状態遷移判定部12が所定の減速状態に遷移したと判定した場合に、燃料噴射量制御部14が、
図20に示す処理を行った場合の作用を示す図である。
図20に示す処理を行わない場合、
図12(a)の符号140のグラフにおいて示されるように、符号120で示す減速が開始されたタイミングの後、燃料噴射量は、減少して30.5秒の付近で「0mg/stroke」に到達する。これに対して、燃料噴射量制御部14が、
図20に示す処理を行った場合、以下のようになる。ここでは、例えば、予め定められる所定量が、ローアイドル時の100%の量であるとすると、燃料噴射量は、ローアイドル時の燃料噴射量の「50mg/stroke」まで減少すると、それ以上、減少しなくなる。
【0134】
これにより、エンジン本体5が動作し続けることになり、
図21に示すように、エンジン回転速度の低下が緩やかになる。より具体的には、
図12(a)の符号130,131で示すエンジン回転速度の変化における約30秒~約31秒の間の低下の傾きが緩やかになる。エンジン本体5が動作し続けると、エンジン本体5がエンジン本体側吸気通路32の吸気ガスを吸気することになる。そのため、圧縮機43が慣性によって回転し続けたとしても、エンジン本体側吸気通路32に存在する吸気ガスの圧力が上昇する度合いも緩やかになる。したがって、例えば、
図11において、状態遷移判定部12が所定の減速状態に遷移したと判定した際の圧縮機43の作動点が、符号500で示す位置である場合、圧縮機43の空気流量の低下が緩やかになり、サージライン400に到達するまでに要する時間が長くなる。サージライン400に到達するまでに要する時間が長くなると、その分、圧縮機43の慣性による回転の速度は低下する。更に、サージライン400に到達するまでに要する時間が長くなった分だけ、第1の実施形態において説明した流量制御部13が行うサージを回避する制御による効果が十分に現れることになる。そのため、第4の実施形態では、第1の実施形態よりも、より確実に、サージを回避することが可能になる。
【0135】
なお、上記した所定量を、ローアイドル状態の燃料噴射量の50%~100%の量とするのは一例であり、エンジン本体5の回転速度が、圧縮機43の慣性による回転に追随するようにできるのであれば、どのような量であってもよい。
【0136】
(各実施形態の他の構成例)
上記した第1及び第2の実施形態に示したバイパスバルブ7に対するサージを回避する制御と、排気スロットルバルブ8に対するサージを回避する制御と、第3の実施形態に示した吸気スロットルバルブ9に対するサージを回避する制御と、第4の実施形態に示したエンジン本体5の燃料噴射量に対するサージを回避する制御という4つのサージを回避する制御は、いずれもサージを回避するという効果を奏する制御である。そのため、4つのサージを回避する制御の各々を、第1、第3及び第4の実施形態において示した1つの排気タービン過給機40を備える構成と、第2の実施形態において示した2つの排気タービン過給機40,50を備える構成とに対して、単独で利用する構成としてもよい。また、第1から第4の実施形態において示した4つのサージを回避する制御の幾つかを組み合わせる構成に含まれていない、4つのサージを回避する制御を任意に組み合わせる構成を、第1、第3及び第4の実施形態において示した1つの排気タービン過給機40を備える構成と、第2の実施形態において示した2つの排気タービン過給機40,50を備える構成とに対して適用するようにしてもよい。
【0137】
図3から
図5に示すサージ発生前提条件テーブル111、サージ回避制御開始条件テーブル112、及びサージ回避制御終了条件テーブル113に示される各条件の数値を、内燃機関システム1,1a,1b,1cを適用する建設機械の種類や使用される環境などに応じて、適宜、変更するようにしてもよい。
【0138】
図9のSb4の処理において、状態遷移判定部12が参照するサージ発生前提条件テーブル111に示されるサージが発生する前提条件は、
図3に示す条件に限られず、例えば、圧縮機43の作動点が、サージライン400の右側に存在し、かつ所望のエンジン回転速度、または、所望の圧力比になっていることを示す条件であれば、どのような条件を適用するようにしてもよい。
【0139】
図9のSb4の処理において、状態遷移判定部12が参照するサージ回避制御開始条件テーブル112に示されるサージを回避する制御の開始条件は、
図4に示す条件に限られず、例えば、圧縮機43の作動点が、
図11において空気流量が減少する方向に移動していることを示す条件であれば、どのような条件を適用するようにしてもよい。
【0140】
図9のSb5の処理において、状態遷移判定部12が参照するサージ回避制御終了条件テーブル113に示されるサージを回避する制御の終了条件のうち再加速に関する条件は、
図5に示す条件に限られず、再加速している状態を示す条件であれば、どのような条件を適用するようにしてもよい。
【0141】
上記した各実施形態に係るサージ回避制御装置10,10a,10b,10cは、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)等のコンピュータと、コンピュータの周辺回路や周辺装置等のハードウェアを用いて構成することができる。そして、サージ回避制御装置10,10a,10b,10cは、ハードウェアと、コンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、記憶部11,11a,11b、状態遷移判定部12、流量制御部13,13a、燃料噴射量制御部14を備える。
【0142】
なお、サージ回避制御装置10,10a,10b,10cは、PLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて構成されていてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0143】
上記した各実施形態でコンピュータが実行するプログラムの一部または全部は、コンピュータ読取可能な記録媒体や通信回線を介して頒布することができる。
【0144】
上記の各実施形態に係るサージ回避制御装置10,10a,10b,10cの各々は、各々に対応するエンジンコントローラ3,3a,3b,3cの各々の内部の一機能部として備えられていてもよい。
【0145】
上記の各実施形態に係るタービン41、バイパス通路34、及びバイパスバルブ7の部分に替えて、上記したVGTなどの調整ノズルを有するタービンを適用するようにしてもよい。この場合、当該タービンに備えられる調整ノズルが、流量調整器になる。
【0146】
上記した各実施形態に係るエンジン2は、例えば、ディーゼルエンジンであるとしており、エンジン2a,2bについても、ディーゼルエンジンであるという前提で説明をしているが、エンジン2,2a,2bは、ディーゼルエンジン以外の内燃機関であってもよい。
【0147】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0148】
1…内燃機関システム 2…エンジン(内燃機関) 3…エンジンコントローラ 4…アクセルペダル 5…エンジン本体(内燃機関本体) 6…アフタークーラ 7…バイパスバルブ 8…排気スロットルバルブ 10…サージ回避制御装置 11…記憶部 12…状態遷移判定部 13…流量制御部 20…センサ群 21…エンジン回転速度センサ 23…ブースト圧センサ 24…アクセル開度センサ 31…入口側吸気通路 32…エンジン本体側吸気通路(内燃機関本体側通路) 33…タービン側排気通路 34…バイパス通路 35…出口側排気通路 40…排気タービン過給機 41…タービン 42…シャフト 43…圧縮機 61…燃料噴射量指令値