(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126839
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】シート状食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240912BHJP
【FI】
A23L5/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035521
(22)【出願日】2023-03-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】594142517
【氏名又は名称】田中食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100135356
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】藤中 義治
(72)【発明者】
【氏名】西本 文雄
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE06
4B035LG22
4B035LG23
4B035LG24
4B035LG25
4B035LG27
4B035LG31
4B035LG32
4B035LG42
4B035LP24
4B035LP31
4B035LT20
(57)【要約】
【課題】原料食材の性状および風味を保持し、空隙が形成された状態で一体化された積層体構造にすることで、見掛け上の嵩を大きくし、しかも、高い柔軟性を有するシート状食品を提供すること。
【解決手段】本発明のシート状食品は、原料食材と結着剤を含み、保湿剤を実質的に含まないシート状食品であって、前記原料食材は、複数の薄片に切断されて形成されたものであり、前記シート状食品は、2枚のシートを重ね合わせて一体形成された積層体構造を有し、前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成され、WA/WTが85%以上であり、WA/WBが7.4以上13.5以下であり、水分量が、6.0質量%超10.0質量%以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料食材と結着剤を含み、保湿剤を実質的に含まないシート状食品であって、
前記原料食材は、複数の薄片に切断されて形成されたものであり、
前記シート状食品は、2枚のシートを重ね合わせて一体形成された積層体構造を有し、
前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、
前記シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成され、
前記シート状食品の全乾燥質量(WT)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)が85%以上であり、
前記結着剤の乾燥質量(WB)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が7.4以上13.5以下であり、
前記シート状食品の水分量が、6.0質量%超10.0質量%以下であることを特徴とする、シート状食品。
【請求項2】
前記結着剤の乾燥質量(WB)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が9.0以上11.0以下であることを特徴とする、請求項1に記載のシート状食品。
【請求項3】
前記シート状食品を横断面で見て、前記横断面に占める前記空隙の面積比が、35%以上75%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のシート状食品。
【請求項4】
前記原料食材は、前記薄片の最大長さ寸法が1.0mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載のシート状食品。
【請求項5】
前記シート状食品の水分量が、7.0質量%以上9.0質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のシート状食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海苔に代表されるシート状食品は、海苔巻き、おにぎり等に広く利用されている。しかし、シート状食品は、一般に薄くて破れやすい。そのため、海苔にアルギン酸塩溶液をコーティングし、それを2価以上の陽イオンを含む溶液に浸漬し、海苔の表面にゲル状の膜を形成する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術を用いることにより、破れにくく、嵩(厚さ)のあるシート状食品が得られる。
【0003】
しかし、特許文献1に記載のシート状食品のように、シート状食品の表面にゲル状の膜を形成した場合、シート状食品が多量のゲル状の膜により補強されることにより、強度が改善され、破れにくくなるが、その一方、曲げた際の柔軟性が低下し、壊れやすくなる傾向がある。また、ゲル状の膜の形成により、素材本来の性状および風味が感じられにくくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、原料食材本来の性状および風味を変えることなく、2枚のシートを重ね合わせて適正な積層体構造にすることで、見掛け上の嵩(厚さ寸法)を大きくし、しかも、積層体構造の有する特性により高い柔軟性を有するシート状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]原料食材と結着剤を含み、保湿剤を実質的に含まないシート状食品であって、
前記原料食材は、複数の薄片に切断されて形成されたものであり、
前記シート状食品は、2枚のシートを重ね合わせて一体形成された積層体構造を有し、
前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、
前記シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成され、
前記シート状食品の全乾燥質量(WT)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)が85%以上であり、
前記結着剤の乾燥質量(WB)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が7.4以上13.5以下であり、
前記シート状食品の水分量が、6.0質量%超10.0質量%以下であることを特徴とする、シート状食品。
[2]前記結着剤の乾燥質量(WB)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が9.0以上11.0以下であることを特徴とする、上記[1]に記載のシート状食品。
[3]前記シート状食品を横断面で見て、前記横断面に占める前記空隙の面積比が、35%以上75%以下であることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載のシート状食品。
[4]前記原料食材は、前記薄片の最大長さ寸法が1.0mm以上であることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれかに記載のシート状食品。
[5]前記シート状食品の水分量が、7.0質量%以上9.0質量%以下であることを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれかに記載のシート状食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原料食材の性状および風味を保持し、また、空隙が形成された状態で一体化された積層体構造にすることで、見掛け上の嵩(厚さ寸法)を大きくし、しかも、該積層体構造の有する特性により高い柔軟性を有するシート状食品を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のシート状食品の積層体構造を模式的に示した断面図である。
【
図2】本発明の玉露のシート状食品の部分断面写真の例である。
【
図3】本発明のちりめんじゃこのシート状食品の部分断面写真の例である。
【
図4】本発明の鮭のシート状食品の部分断面写真の例である。
【
図5】本発明のシート状食品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0010】
[シート状食品]
本発明のシート状食品は、原料食材と結着剤を含み、実質的に保湿剤を含まないシート状食品であって、前記原料食材は、複数の薄片に切断されて形成されたものであり、前記シート状食品は、2枚のシートを重ね合わせて一体形成された積層体構造を有し、前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、前記シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成され、前記シート状食品の全乾燥質量(WT)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)が85%以上であり、前記結着剤の乾燥質量(WB)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が7.4以上13.5以下であり、前記シート状食品の水分量が、6.0質量%超10.0質量%以下であることを特徴とする。
【0011】
<シート状食品の組成>
本発明のシート状食品は原料食材と結着剤を含み、実質的に保湿剤を含まないことを特徴とする。
【0012】
(原料食材)
本発明のシート状食品は、原料食材として、複数の薄片に形成された食材(以下「薄片状食材」ともいう。)を含む。原料食材としては、一般には、食材に、必要に応じて調味料、着色料を加え、加工したものが用いられる。調味料、加工方法は、所望するシート状食品の原料食材の素材感(食材本来の性状および風味)の程度、調味の程度に応じて選択される。
【0013】
本発明においては、食材の形状として微細な粉末状の食材ではなく、薄片状食材を用いることにより、喫食した際に十分な食材の素材感(食材本来の性状および風味)が得ることができる。
【0014】
また、原料食材に含まれる食材の形状は、シート状食品の構造にも影響を与え、食材として微細な粉末状の食材を用いた場合は、シート状食品のシートの重ね合わせ面の凹凸が小さくなるため、結果としてシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸の形状に応じて形成される空隙も小さくなり、大きな空隙が形成され難い。本発明においては、食材として薄片状食材を用いることにより、シート状食品の重ね合わせ面の凹凸が大きくなるため、シートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じて形成される空隙を大きくすることができる。本発明のシート状食品は、シートの重ね合わせ面同士の間に形成される空隙が大きいため、見掛け上の嵩(厚さ寸法)を大きくすることができ、さらにシート間の空隙に屈曲に伴い加わる力を逃すことができるため、高い柔軟性を有する。本発明においては、薄片状食材は、通常、食材を厚み方向に所定の厚さに圧延またはスライスしたものが用いられる。
【0015】
薄片状食材のサイズは、特に制限されないが、薄片状食材における最大長さが1.0mm以上であることが好ましい。これにより、シートの重ね合わせ面の凹凸をより大きくすることができ、シートの重ね合わせ面同士の間の空隙をより大きくすることができる。凹凸をさらに大きくして空隙をさらに大きくする観点から、最大長さの下限値は1.5mm以上であることがより好ましい。空隙をより大きくすることにより、見かけ上の嵩をより大きくし、さらに柔軟性をより向上することができる。最大長さの上限値は、シート状への成形しやすさの観点から、5.0mm以下であることが好ましい。シート状食品に含まれる薄片状食材の最大長さは、具体的には、シート成型前(前処理工程後)の原料食材から無作為に抽出した20個の薄片状食材の最大長さをマイクロゲージ等で測定し、これらの平均値を求めることにより算出することができる。
【0016】
本発明においては、薄片状食材は、上記したように、通常、食材を厚み方向に所定の厚さに圧延またはスライスしたものが用いられる。薄片状食材の厚さは、100μm以下であることが好ましい。これにより、柔軟性を向上することができる。また、シート状食品に含まれる薄片状食材の個数を多くすることができるため、シート状食品としての構造維持性が向上する。薄片状食材の厚さの上限値は、構造維持性の向上の観点から、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは60μm以下である。一方、下限値は、物理的強度を維持し形状維持性を向上する観点からの観点から、好ましくは5μm以上である。薄片状食材の厚さは、圧延、スライスの条件により調整することができる。シート状食品に含まれる薄片状食材の厚さは、具体的には、シート成型前(前処理工程後)の原料食材から無作為に抽出した20個の薄片状食材の厚さをマイクロゲージ等で測定し、これらの平均値を求めることにより算出することができる。
【0017】
シート状食品の原料食材に含まれる食材の種類としては、特に制限されないが、野菜、魚介、海藻、茶葉、豆などが挙げられる。これらの食材は、シート状食品の用途に応じて選択される。
【0018】
食材として用いられる野菜としては、主に葉物野菜、根菜が用いられる。葉物野菜としては、特に制限されないが、紫蘇、大根菜、ほうれん草、小松菜、野沢菜、高菜、広島菜、白菜、京菜、キャベツ、明日葉、チンゲン菜、バジル、モロヘイヤなどが挙げられる。根菜としては、人参、かぶ、ごぼう、じゃがいも、さつまいも、さといも、山芋、れんこん、生姜などが挙げられる。
【0019】
食材として用いられる魚介としては、特に制限されないが、小魚、小エビ、剥き身、魚卵が用いられる。小魚としては、特に制限されないが、ちりめんじゃこ(しらす)が用いられる。ちりめんじゃこは、カタクチイワシなどの稚魚を含む食品である。小エビとしては、特に制限されないが、アミエビなどが用いられる。剥き身としては、特に制限されないが、鮭、鰹、鯛、まぐろ、さば、たら、あじ、いわし、いか、えび、かに、ほたて、あさり、かき、うになどが挙げられる。魚卵としては、特に制限されないが、例えば、たらこなどが挙げられる。
【0020】
食材として用いられる海藻としては、特に制限されないが、若布、ひじき、昆布、めかぶ、赤とさか、青とさか、ふのり、アサクサノリ、アオサ等が挙げられる。ただし、本発明は、アサクサノリ、アオサ等のいわゆる海苔以外の海藻を原料食材とする場合に好ましく適用される。
【0021】
食材として用いられる茶葉としては、特に制限されないが、玉露、緑茶、煎茶、碾茶、紅茶などが挙げられる。
【0022】
原料食材に含まれる調味料としては、塩、砂糖、ぶどう糖、乳糖、醤油、みりん、醸造酢、みそ、出汁(昆布、鰹、椎茸)、魚介エキス、クエン酸、リンゴ酸、グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。また、原料食材に含まれる着色料としては、カロチン色素、紅麹色素、パブリカ色素、クチナシ色素等が挙げられる。これらの調味料および着色料は、食材や、シート状食品の用途に応じて選択される。
【0023】
原料食材中の調味料および着色料が多過ぎると食材の素材感(食材本来の性状および風味)を感じにくくなることから、原料食材における、薄片状食材の乾燥質量(WA1)に対する調味料の乾燥質量(WA2)および着色料の乾燥質量(WA3)の合計(WA2+WA3)の質量比{(WA2+WA3)/WA1}が1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明のシート状食品の全乾燥質量(WT)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)は85%以上である。上記したように原料食材として薄片状食材を用いて、さらに全乾燥質量(WT)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)を85%以上とすることにより、本発明のシート状食品は、優れた食材の素材感(食材本来の性状および風味)を有することができる。質量比(WA/WT)は、食材の素材感(食材本来の性状および風味)をより向上する観点から、88%以上であることがより好ましい。一方、結着剤を十分に配合し、シート状食品に形状維持性を持たせる観点から、質量比(WA/WT)は94%以下であることが好ましい。ここで形状維持性でとは、本発明のシート状食品としての構造を維持するための性能を意味する。
【0025】
(結着剤)
結着剤は、シート状食品の形状維持性を高めるために用いられる。結着剤は、特に制限されないが、例えば、増粘多糖類を含む結着剤が用いられる。増粘多糖類を含む結着剤としては、こんにゃく(例えば、こんにゃく精粉、清水化学株式会社製)、ペクチン(例えば、ペクチンHR-450、オルガノフードテック株式会社製)、タマリンドガム(例えば、グリロイド3S、大日本住友製薬株式会社製)、寒天、カラギーナン、アルギン酸、グアーガム、キサンタンガム等が挙げられ、これらを一種または二種以上混合したものが用いられる。
【0026】
シート状食品において、結着剤の乾燥質量(WB)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)は、7.4以上13.5以下である。質量比(WA/WB)が13.5を超えると、結着剤が不足し、シート状食品としての形状維持性を確保することが難しくなる。その結果、シートの重ね合わせ面に空隙を有する構造を維持することが困難となり、柔軟性についても低下する。一方、質量比(WA/WB)が7.4よりも小さいと、結着剤の混合時に膨潤した結着剤がゲル状の網目構造を形成し、所定の体積当たりに含まれる原料食品の質量が少ない状態となり、続く成形工程においてゲル状の結着剤が乾燥され、収縮するため、結果として、表面層の隙間が多いシート状食品となる。このため質量比(WA/WB)が7.4未満になると、シート状食品の食材の素材感(食材本来の性状および風味)が大きく低下する。
【0027】
質量比(WA/WB)は、シート食品としての形状維持性および柔軟性と、食材の素材感(食材本来の性状および風味)の維持とをバランスよく満足させる観点から、9.0以上11.0以下の範囲にすることが好ましい。
【0028】
乾燥質量は、シート状食品に含まれる原料食材または結着剤の質量(測定対象物の全質量)から日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルに記載の常圧加熱乾燥法に準じた方法により測定された測定対象物の水分量を除いた質量である。具体的には加熱乾燥式水分計MX-50(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した測定対象物の水分量を測定対象物の全質量から差し引くことにより求めることができる。
【0029】
(保湿剤)
本発明のシート状食品においては、保湿剤は実質的に含まれない。これにより、食材の素材感(食材本来の性状および風味)が保湿剤の風味(例えば甘味など)により低下することを抑制することができる。本明細書における保湿剤とは、食品の技術分野で一般的に用いられる保湿剤のことをいい、例えば還元水あめ(例えば、アマミン500MC、MCフードスペシャリティーズ株式会社製)、ソルビット(例えば、ソルビトールF、物産フードサイエンス株式会社製)、マンニトール、マルチトール、エリスリトールなどのことをいう。
【0030】
なお、実質的に含まれないとは、シート状食品の全乾燥質量(WT)に対する保湿剤の乾燥質量(WC)の質量比(WC/WT)で1%以下であることをいう。食材の素材感を向上する観点から、WC/WTは好ましくは0.1%以下であり、より好ましくは0.0%(保湿剤が含まれない)である。
【0031】
(水分量)
本発明のシート状食品における水分量は6.0質量%超10.0質量%以下である。水分量が6.0質量%以下であるとシート状食品の柔軟性が大きく低下する。一方、10.0質量%超えであると、構造維持性が低下する。柔軟性と構造維持性の観点から、シート状食品の水分量は7.0質量%以上9.0質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
シート状食品の水分量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルに記載の常圧加熱乾燥法に準じた測定法で測定することができ、具体的には、加熱乾燥式水分計MX-50(エー・アンド・デイ社製)を用いて、シート状食品サンプル5gを用いて測定することができる。
【0033】
(その他の成分)
本発明のシート状食品は、上記した原料食材と結着剤以外の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に制限されないが、油脂、食物繊維などが挙げられる。
【0034】
<シート状食品の構造>
本発明のシート状食品は、原料食材と前記結着剤とを含む混合材からシート状に成形された2枚のシートを重ね合わせた一体積層体構造を有し、前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、シート状食品は、2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸の形状に応じた空隙が形成されていることを特徴とする。
図1の本発明のシート状食品の模式断面図に示すように、本発明のシート状食品10は、2枚のシート(第一層1、第二層2)を重ね合わせて一体形成された積層体構造を有しており、いずれも重ね合わせ面に凹凸(凸部3、凹部4)を有している。
図1に示すように、第一層1の凹凸を有する面と、第二層2の凹凸を有する面とが、重ね合わせられることにより重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸の形状に応じた空隙5が形成されている。なお、二枚のシートの重ね合わせ面同士の間に形成される「空隙5」とは、
図1に示すように第一層と第二層が凸部の頂点同士で接続されることにより、大きな空隙5が形成されたものだけでなく、第一層の凸部と第二層の凸部の頂点同士の相対位置がずれた状態、例えば、第一層と第二層が凸部3に対して凹部4、または凸部3に対して凸部3と凹部4の中間部で接続されることにより形成された積層体構造に応じた空隙5が形成されたものも含む。
図2~
図4はそれぞれの食材を用いた本発明のシート状食品の部分断面写真の例である。
図2は玉露、
図3はちりめんじゃこ、
図4は鮭を食材として用いている。
【0035】
このように、シート状食品の重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸の形状に応じた空隙が形成されることにより、見掛け上の嵩(厚さ寸法)を大きくすることができ、さらにシート間の空隙に屈曲に伴い加わる力を逃すことができるため、高い柔軟性を有する。
【0036】
シート状食品の厚さは、喫食時に十分な満足感を得られる嵩とする観点から、好ましくは150μm以上800μm以下であり、より好ましくは200μm以上600μm以下である。
【0037】
シート状食品の横断面に占める空隙の割合は、柔軟性の向上の観点から、35%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましい。一方、形状維持性の観点から、75%以下であることが好ましく、65%以下であることが好ましい。なお、横断面に占める空隙の割合は、シート状食品を5か所で切断して各々の横断面の写真を取得し、横断面の面積に占める空隙の面積の割合を画像分析により算出し、平均することにより算出することができる。
【0038】
[シート状食品の製造方法]
続いて、シート状食品の製造方法について、
図5を用いて説明する。
図5は、シート状食品の製造工程の一例を示すフローチャートである。
図5に示すように、シート状食品の製造工程は、例えば、下処理工程ST1と、前処理工程ST2と、調整工程ST3と、成形工程ST4とを含む。なお、原料食材の種類と鮮度等にもよるが、下処理工程ST1と、前処理工程ST2とを省略して原料食材をそのまま加工(調整、成形)できる場合がある。以下に、代表的な食材である茶葉、ちりめんじゃこ、鮭、葉物野菜の例を挙げ、本発明のシート状食品の製造方法について説明する。
【0039】
<下処理工程>
下処理工程ST1は、食材ごとに特有な工程であり、食材の種類によって異なる。食材が玉露などの茶葉である場合、下処理工程ST1には、生の茶葉からお茶に加工する下処理工程(生茶→荒茶→整形・分別→火入れ→仕上げ茶)が行われる。より具体的には、(1)摘採、(2)送風・加湿、(3)蒸熱、(4)冷却、(5)葉打ち、(6)粗揉、(7)揉捻、(8)中揉、(9)精揉、(10)乾燥、(11)整形・分別、(12)火入れ、(13)仕上げ茶の順に処理が行われる。
【0040】
食材に鮭(魚介)である場合、下処理工程ST1には、(1)鮭から頭部・エラ・
内臓などを取り除き、(2)ドレスされた鮭を蒸煮し、(3)鮭をむき身にする(鮭から皮、骨を取り除く)工程等が含まれる。さらに、むき身を冷凍してもよい。
【0041】
食材がちりめんじゃこである場合、下処理工程ST1には、(1)ちりめんじゃこを洗浄し、(2)ちりめんじゃこを茹でる、(3)ちりめんじゃこを乾燥する、(4)ちりめんじゃこを選別する、(5)ちりめんじゃこを冷凍保管する工程等が含まれる。
【0042】
食材が大根菜(葉物野菜)である場合、下処理工程ST1には、(1)大根菜を洗浄・殺菌し、(2)大根菜を裁断し、(3)大根菜をブランチングし、(4)大根菜を塩、ブドウ糖等の調味料で調味し、(5)大根菜を乾燥する工程等が含まれる。これらの下処理によりいわゆる調味乾燥野菜が得られる。なお、(4)、(5)の工程に替えてブランチングされた野菜(大根菜)をそのまま冷凍保管して冷凍野菜としてもよいし、ブランチングされた野菜を脱水し、冷凍保管し、冷凍圧搾塩蔵野菜としてもよい。食材に人参(根菜)が含まれる場合にも、下処理工程ST1には、大根菜(葉物野菜)が含まれる場合と同様の工程が含まれる。
【0043】
<前処理工程>
前処理工程ST2は、食材ごとに特有な工程であり、食材の種類によって異なる。食材がお茶である玉露の場合、前処理工程ST2には、(1)下処理工程ST1によって乾燥された玉露を整粒(例えば大きさ1~3mm)し、(2)整粒した玉露に水を加えて(例えば2倍量の水)膨潤し、(3)膨潤した玉露を圧延またはスライスし、(4)塩、砂糖等を添加する工程等が含まれる。下処理工程ST1および前処理工程ST2により、玉露は、所定の大きさの薄片状に加工される。
【0044】
食材に鮭(魚介)が含まれる場合、前処理工程ST2には、(1)むき身にされた鮭(魚介)を圧延またはスライスし、(2)鮭に鮭エキス、塩、砂糖等の調味料や、着色料を添加する工程等が含まれる。下処理工程ST1および前処理工程ST2により、鮭(魚介)は所定の大きさの薄片状に加工される。
【0045】
食材がちりめんじゃこである場合、前処理工程ST2には、(1)ちりめんじゃこを圧延またはスライスし、(2)ちりめんじゃこに塩、砂糖等を添加する工程等が含まれる。下処理工程ST1および前処理工程ST2により、ちりめんじゃこは所定の大きさの薄片状に加工される。
【0046】
食材に大根菜(葉物野菜)である場合、前処理工程ST2には、(1)下処理工程
ST1によって乾燥された大根菜を多量の水(例えば10倍量の水)で塩抜きし、(2)
大根菜を脱水し、(3)大根菜を圧延またはスライスする工程等が含まれる。食材が人参(根菜)である場合にも、前処理工程ST2には、食材が大根菜(葉物野菜)である場合と同様の工程が含まれる。下処理工程ST1及び前処理工程ST2により、大根菜(葉物野菜)または人参(根菜)は、所定の大きさの薄片状に加工される。
【0047】
以上の下処理工程ST1および前処理工程ST2によって、適切な大きさや形状に食材を加工することで、より柔軟性が向上したシート状食品を製造することができる。
【0048】
<調整工程>
調整工程ST3は、基本的には食材の種類に依らず共通する処理の工程である。調整工程ST3には、原料食材に、結着剤を加える工程である。結着剤の乾燥質量(WB)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が7.4以上13.5以下となるように、原料食材に結着剤が加えられ、混合される。
【0049】
<成形工程>
成形工程ST4は、基本的には食材の種類に依らず共通する処理の工程である。なお、食材ごとに例えば後述するドラムの加熱温度、回転速度等は異なっていてもよい。成形工程において、ドラム上での乾燥時間を所定の時間に調整することにより水分量6.0質量%超10.0質量%以下のシート状食品を得ることができる。
【0050】
成形工程ST4において、先ず、結着剤が加えられた原料食材を、例えば110℃以上に加熱されたドラムに流し込む。また、ドラムを回転することにより、一面が乾燥した第一層を形成する。この段階では、第一層の乾燥した一面と反対側の面は、完全には乾燥しておらず、含まれる薄片状食材により凹凸を有する状態である。同様に、一面が乾燥した第二層を形成する。この段階では、第二層の乾燥した一面と反対側の面は、完全には乾燥しておらず含まれる薄片状食材により凹凸を有する状態である。
【0051】
続いて、第一層1の凹凸を有する面と、第二層2の凹凸を有する面とを重ね合わせる。これにより、
図1に示すように、重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸(凸部3、凹部4)の形状に応じた空隙5が形成される。そしてさらに加熱することで、または表面層の余熱により乾燥し、空隙5の大きさはより大きくなる。なお、本明細書における「空隙」とは、少数の凹凸同士で接続されることにより、重ね合わせ面同士の間に大きな層状の空隙が形成されたものだけでなく、多数の凹凸同士で接続されることにより、重ね合わせ面同士の間に凹凸の間に空隙が形成されたものの両方を含む。
【0052】
これらの工程により、原料食材と結着剤とを含む混合材からシート状に成形された2枚のシートを重ね合わせた一体積層体構造を有し、前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成されたシートが製造される。なお、製造方法は、上記した製造方法以外に、例えばドラムを複数用いることにより、本発明の2枚のシートを重ね合わせた空隙を有する一体積層体構造を有するシート状食品を一体的に形成してもよい。
【0053】
<調味工程>
成形工程ST4で製造したシート状食品は、さらに調味工程を行ってもよい。調味工程においては、調味液、粉体調味料を用いることができる。調味工程は、例えばロータリーミキサーにシート状食品を入れ、回転させながら調味液を噴霧して、表面を調味液でコーティングする方法、または粉体調味料でシート状食品に付着させる方法を用いることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0055】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
1.実験1 シート状食品の製造と評価
実験1では食材として茶葉(玉露)を用いて以下に示す手順で実施例1~5、比較例1~5のシート状食品を製造し、評価した。なお、水分量については、製造したシート状食品を加熱乾燥式水分計MX-50(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値を示す。
【0057】
(実施例1~4)
実施例1~4は、上記製造方法と同様に、お茶である玉露を使用し、前処理工程ST2は、玉露を整粒し、玉露を圧延した。続いて玉露を調味し、表1の薄片状食材を製造し、調整工程で用いた。
【0058】
次に調整工程で、この圧延、調味した玉露を原料食材として使用し、結着剤を乾燥重量の質量比(WA/WB)が表1に示す質量比となるように加え、混合した後、上記製造方法の記載と同様に成形工程を行いシート状に成形し、実施例1~4のシート状食品を製造した。
【0059】
(比較例1~3)
表1に示す素材を用いて実施例1~4の製造方法と同様の製造方法で、結着剤を乾燥重量の質量比(WA/WB)が表1に示す質量比となるように加え、成形工程で成形し、表1に示す比較例1~4のシート状食品を製造した。
【0060】
(実施例5、比較例4)
表1に示す素材を用い、実施例5においてはシート状食品の全乾燥質量中に5%の食物繊維を、比較例4においては8%の食物繊維を使用した以外は実施例1~4の製造方法と同様の製造方法で、表1に示す実施例5と比較例4のシート状食品を製造した。
【0061】
(比較例5)
表1に示す素材を用いて、成形工程以外は実施例1~4と同じ手順で行い、成形工程において、2枚のシートの積層を行わずに一枚のシートの両面を乾燥し、一層構造の比較例5のシート状食品を製造した。
【0062】
<評価方法>
製造した実施例1~5、比較例1~5のシート状食品について以下の方法で評価した。評価の結果を表1に示す。
【0063】
[1]柔軟性の評価
実施例と比較例のシート状食品を、柔軟性の試験用のサンプルとした。試験は、製造したシート状食品を直径10cm、5cm、3cmの試験用円筒に対してそれぞれ10回の巻き付け試験を行い下記基準で評価した。なお、5cmの直径の円筒は一般的な太巻き(巻き寿司)の寸法に相当し、割れを生じることなくシート状食品を5cmの円筒に巻き付け可能であることは、巻き寿司、おにぎりなど一般的な食品を包む際に当該シート状食品を十分に使用可能であることを示す。
【0064】
(評価基準)
5:10cm、5cm、3cmの試験用円筒で全てのサンプルに割れが見られなかった。
4:10cm、5cmの試験用円筒ではサンプルに割れは確認できなかったが、3cmの試験用円筒では3以下のサンプルに割れが確認された。
3:10cm、5cmの試験用円筒ではサンプルに割れは確認できなかったが、3cmの試験用円筒では4以上10以下のサンプルに割れが確認された。
2:10cmの試験用円筒ではサンプルに割れは確認できなかったが、5cm、3cmの試験用円筒の両方において1以上のサンプルに割れが確認された。
1:10cmの試験用円筒で1以上のサンプルに割れが確認された。
【0065】
[2]食材の素材感(食材本来の性状および風味)の評価
実施例と比較例のシート状食品を、試験用のサンプルとした。10人のモニターがサンプルを食して感じた食材である玉露、ちりめんじゃこ、鮭の素材感(食材本来の性状および風味)をそれぞれ下記の評価基準で評価し、その平均値を四捨五入して表1に示した。なお、食材の素材感(食材本来の性状および風味)の評価基準値が3以上であれば、十分に食材の素材感が感じられるとした。
【0066】
(評価基準)
5:特に良好な食材本来の性状および風味が感じられる。
4:良好な食材本来の性状および風味が感じられる。
3:十分な食材本来の性状および風味が感じられる。
2:食材本来の性状および風味が不十分である。
1:食材本来の性状および風味が感じられない。
【0067】
[3]積層体構造の有無の評価
実施例と比較例のシート状食品を、試験用のサンプルとし、光学顕微鏡でサンプルの断面を観察し、本発明に特徴的な2枚のシートを重ね合わせた一体積層体構造(積層体構造)の有無を評価した。積層体構造を有するものを「有り」、有しないものを「無し」と評価した。
【0068】
[4]横断面に占める空隙の割合
シート状食品の横断面に占める空隙の割合は、シート状食品を5か所で切断して各々の横断面の写真を取得し、横断面の面積に占める空隙の面積の割合を画像分析により算出し、5か所の空隙の割合を平均することにより算出した。
【0069】
【0070】
表1に示すように、WA/WBが7.4以上13.5以下、WA/WTが85%以上、水分量が6.0質量%超10.0質量%以下であり、積層体構造を有している実施例1~5のシート状食品においては、食材の素材感(食材本来の性状および風味)、柔軟性の両方において良好であった。
【0071】
一方、WA/WBが7.4未満の比較例1においては素材感が劣っており、WA/WBが13.5を超える比較例2においては、柔軟性が劣っており、また、評価における取り扱いの際にシート状食品が壊れやすく、形状維持性が劣っていた。また水分量が6.0質量%以下である比較例3においては柔軟性が劣っていた。また、WA/WTが84%である比較例4においては食材の素材感(食材本来の性状および風味)が大きく劣っていた。
【0072】
また、一層構造である比較例5においては、空隙がないため嵩が十分でなく、さらに柔軟性が大きく劣っていた。また、一層構造のため、素材感も劣っていた。
【0073】
2.実験2 薄片状食材の形状の影響についての評価
表2に示す薄片状食材の形状と組成の原料を用いて、実験1の実施例1~4の製造方法と同様の製造方法で実施例6~11のシート状食品を製造し、評価した。評価の結果を表2に示す。
【0074】
【0075】
表1、表2に示すように、薄片状食材の最大長さを1.0mm以上とすることにより、空隙の割合が増加し、その結果、柔軟性がより向上することが示された。また、薄片状食材の厚さを100μm以下とすることにより、シート状食品の柔軟性がより向上することが示された。
【0076】
3.実験3 他の食材(ちりめんじゃこ、鮭)からなるシートの評価
食材としてちりめんじゃこ(表3には「ちりめん」と記載。)、鮭の剥き身を用いて、表3に示す組成と薄片状食材の形状で、上記した製造方法と同様の製造方法で実施例12~19のシート状食品を製造し、実験1と同様に評価した。評価の結果を表3に示す。
【0077】
【0078】
表3の結果に示すように、食材の物性により若干の空隙の割合の違いはあるものの、食材としてちりめんじゃこ、鮭を使用し、WA/WBが7.4以上13.5以下、WA/WTが85%以上、水分量が6.0質量%超10.0質量%以下であり、積層体構造を有している実施例12~19のシート状食品においても、十分な食材の素材感(食材本来の性状および風味)、柔軟性が得られることが確認された。