IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金ステンレス株式会社の特許一覧

特開2024-126842推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム
<>
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図1
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図2
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図3
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図4
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図5
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図6
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図7
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図8
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図9
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図10
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図11
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図12
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図13
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図14
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図15
  • 特開-推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126842
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラム
(51)【国際特許分類】
   G16C 60/00 20190101AFI20240912BHJP
   G01N 33/20 20190101ALI20240912BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240912BHJP
   C22C 30/02 20060101ALN20240912BHJP
   C22C 38/44 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
G16C60/00
G01N33/20 100
C22C38/00 302Z
C22C30/02
C22C38/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035550
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉見 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 優馬
(72)【発明者】
【氏名】平出 信彦
【テーマコード(参考)】
2G055
【Fターム(参考)】
2G055AA03
2G055BA16
2G055CA05
2G055CA06
2G055CA10
2G055CA11
2G055EA08
(57)【要約】
【課題】所定の成分を有する金属材料について特性を推定することが可能となる。
【解決手段】金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定する制御ステップを有する推定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定する制御ステップを有する推定方法。
【請求項2】
前記条件情報は、推定対象の金属材料に含有される耐硫酸腐食性に影響を及ぼす複数の元素の含有量に関する情報を含む、請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記条件情報は、前記複数の元素の含有量として、クロム、ニッケル、モリブデン及び銅それぞれの含有量に関する情報を含む、請求項2に記載の推定方法。
【請求項4】
前記条件情報は、推定対象の金属材料の使用環境に関する情報を含む、請求項2に記載の推定方法。
【請求項5】
前記使用環境に関する情報は、温度、硫酸濃度及び塩化物イオン濃度に関する情報を含む、請求項4に記載の推定方法。
【請求項6】
前記条件情報は、推定対象の金属材料の使用環境に関する情報を含む、請求項3に記載の推定方法。
【請求項7】
前記使用環境に関する情報は、温度、硫酸濃度及び塩化物イオン濃度に関する情報を含む、請求項6に記載の推定方法。
【請求項8】
前記耐硫酸腐食性を示す情報は、硫酸溶液中の腐食速度または不動態化電流密度に関する情報を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の推定方法。
【請求項9】
前記制御ステップにおいて、前記条件情報に含まれる値に対して対数をとり、得られた値を用いて前記金属材料の耐硫酸腐食性を推定する、請求項8に記載の推定方法。
【請求項10】
前記制御ステップにおいて、前記耐硫酸腐食性を示す情報に含まれる値に対して対数をとり、得られた値を用いて前記金属材料の耐硫酸腐食性を推定する、請求項9に記載の推定方法。
【請求項11】
金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定する制御部、
を備える推定装置。
【請求項12】
推定装置と端末装置とを備える推定システムであって、
前記推定装置は、
他の装置と通信する通信部と、
前記通信部を介して前記端末装置から推定対象の条件情報を取得し、金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定し、前記通信部を介して推定結果を前記端末装置に送信する制御部、
を備え、
前記端末装置は、
他の装置と通信する通信部と、
ユーザーの操作を受け付ける入力部と、
ユーザーに対し情報を出力する出力部と、
前記入力部に対する操作に応じて前記推定対象の条件情報を取得し、前記推定対象の条件情報を前記推定装置に送信し、前記推定装置から前記推定結果を受信すると前記出力部から出力する制御部と、を備える、推定システム。
【請求項13】
金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定する制御部、を備える推定装置としてコンピューターを機能させるためのコンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定方法、推定装置、推定システム及びコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から金属材料の材料的な特性を向上させる研究が進められている。例えば、ステンレス鋼は、合金元素が含有されることにより耐硫酸腐食性が変化する。例えば、ニッケル、モリブデン及び銅の添加量が多い程、ステンレス鋼の耐硫酸腐食性が高くなるとされていた。
【0003】
しかし、単に金属材料の材料的な特性を向上させるのみでは他の問題が生じることがある。例えば、ステンレス鋼に含有される合金元素は、様々な鉱物から精錬された金属がその原料となる。鉱物の価格には、投機的な影響又は政治的な影響を受けて高騰するリスクがある。鉱物の価格高騰の負担は、材料メーカー、流通、消費者が被ることになる。このことから、必要な材料特性を確保しつつ、さらに原料コストを最小化することが求められる。そのため、例えばステンレス鋼などの金属材料に含有される合金元素が材料特性に及ぼす影響を明確化することが重要となる。例えば、合金元素が金属材料の材料的な特性に与える影響に関する文献として、以下に示す特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6297159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術は、合金元素が金属材料の材料的な特性に与える影響を線形で表現することしか達成できていない。そのため、特許文献1に開示された技術では、複数の種類の合金元素が含有された場合における相乗効果を定量化することができない。また、金属材料に含有される合金元素等が金属材料の材料的な特性に与える影響を調査する実験は、膨大な種類の化学組成を有する金属材料各々について行われる必要がある。そのため、実験者に大きな負担が生じてしまうおそれがある。例えば、所定の成分を有する金属材料について特性を推定することができれば、このような負担を軽減することが可能になる。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、所定の成分を有する金属材料について特性を推定することが可能となる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定する制御ステップを有する推定方法である。
【0008】
本発明の一態様は、上記の推定方法であって、前記条件情報は、推定対象の金属材料に含有される耐硫酸腐食性に影響を及ぼす複数の元素の含有量に関する情報を含む。
【0009】
本発明の一態様は、上記の推定方法であって、前記条件情報は、前記複数の元素の含有量として、クロム、ニッケル、モリブデン及び銅それぞれの含有量に関する情報を含む。
【0010】
本発明の一態様は、上記の推定方法であって、前記条件情報は、推定対象の金属材料の使用環境に関する情報を含む。
【0011】
本発明の一態様は、上記の推定方法であって、前記使用環境に関する情報は、温度、硫酸濃度及び塩化物イオン濃度に関する情報を含む。
【0012】
本発明の一態様は、上記の推定方法であって、前記耐硫酸腐食性を示す情報は、硫酸溶液中の腐食速度または不動態化電流密度に関する情報を含む。
【0013】
本発明の一態様は、上記の推定方法であって、前記制御ステップにおいて、前記条件情報に含まれる値に対して対数をとり、得られた値を用いて前記金属材料の耐硫酸腐食性を推定する。
【0014】
本発明の一態様は、上記の推定方法であって、前記制御ステップにおいて、前記耐硫酸腐食性を示す情報に含まれる値に対して対数をとり、得られた値を用いて前記金属材料の耐硫酸腐食性を推定する。
【0015】
本発明の一態様は、金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定する制御部、を備える推定装置である。
【0016】
本発明の一態様は、推定装置と端末装置とを備える推定システムであって、前記推定装置は、他の装置と通信する通信部と、前記通信部を介して前記端末装置から推定対象の条件情報を取得し、金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定し、前記通信部を介して推定結果を前記端末装置に送信する制御部と、を備え、前記端末装置は、他の装置と通信する通信部と、ユーザーの操作を受け付ける入力部と、ユーザーに対し情報を出力する出力部と、前記入力部に対する操作に応じて前記推定対象の条件情報を取得し、前記推定対象の条件情報を前記推定装置に送信し、前記推定装置から前記推定結果を受信すると前記出力部から出力する制御部と、を備える、推定システムである。
【0017】
本発明の一態様は、金属材料に関する条件を示す情報である条件情報と、前記条件情報が示す条件に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を示す情報と、を含む教師データを用いて予め学習処理を行うことによって得られた学習済モデル情報を用いて、推定対象の条件情報に応じた金属材料の耐硫酸腐食性を推定する制御部、を備える推定装置としてコンピューターを機能させるためのコンピュータープログラムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、所定の成分を含有する金属材料について特性を推定することが可能となる。そのため、金属材料の化学組成の決定などにおいて生じる負担を軽減することが可能となる。より具体的には、これまで実際の実験に要していた一部又は全部の負担を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の推定システム100のシステム構成を示す概略ブロック図である。
図2】端末装置10の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。
図3】学習装置20の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。
図4】学習装置20で使用される教師データの具体例に関する情報を示す図である。
図5図4に示す学習装置20で使用される教師データの例をより具体的に示す図である。
図6】学習装置20の処理の具体例を示すフローチャートである。
図7】推定装置30の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。
図8】推定装置30の処理の具体例を示すフローチャートである。
図9】実験的に求められた腐食速度(CR)と、学習装置20によって得られた学習済モデル情報を用いて推定された腐食速度(CR)との関係の一例を示す図である。
図10】推定対象となる金属材料に含まれるクロムの含有量と、推定速度との関係の一例を示す図である。
図11】推定対象となる金属材料に含まれるニッケルの含有量と、推定速度との関係の一例を示す図である。
図12】推定対象となる金属材料に含まれるモリブデンの含有量と、推定速度との関係の一例を示す図である。
図13】推定対象となる金属材料に含まれる銅の含有量と、推定速度との関係の一例を示す図である。
図14】本実施形態に適用される情報処理装置90のハードウェア構成例の概略を示す図である。
図15】推定装置30の変形例を示す図である。
図16】推定装置30の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[概略]
以下、本発明の具体的な構成例について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の推定システム100のシステム構成を示す概略ブロック図である。まず、推定システム100の概略について説明する。推定システム100は、所定の成分を有する金属材料について特性を推定する際に使用される。以下、このような推定を行うための操作をする者をユーザーと呼ぶ。ユーザーは、推定対象となる金属材料に関する条件を示す情報(以下「条件情報」という。)を端末装置10に入力する。このような条件情報の具体例として、推定対象となる金属材料の化学組成に関する情報や、推定対象となる金属材料の特性に影響を及ぼす因子に関する情報がある。条件情報として、さらに推定対象となる金属材料の化学組成に関する情報に加えて、推定対象となる金属が使用される環境に関する情報が用いられてもよい。
【0021】
端末装置10は、入力された条件情報を推定装置30に送信する。推定装置30は、条件情報が示す条件に応じた金属材料の特性を推定する。推定対象となる特性の種別は、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。本実施形態では、推定される特性の具体例として、耐硫酸腐食性がある。耐硫酸腐食性を示す情報の具体例として、硫酸中での腐食速度(CR)がある。耐硫酸腐食性を示す情報の他の具体例として、不動態化電流密度icritがある。推定装置30は、推定された特性を示す情報(特性情報)を端末装置10に送信する。端末装置10は、特性情報を受信すると、受信された特性情報を出力する。このようにして、ユーザーは実際の種々の化学組成を有する金属材料を用いた実験を行わなくとも、推定対象となる組成を有する金属材料の特性について推定結果を容易に取得することが可能となる。
【0022】
[システムの詳細]
次に、推定システム100の詳細について説明する。推定システム100は、端末装置10と学習装置20と推定装置30とを含む。端末装置10と推定装置30とは、ネットワーク70を介して通信可能に接続される。学習装置20と推定装置30とは、ネットワーク70を介して通信可能に接続されもよい。ネットワーク70は、無線通信を用いたネットワークであってもよいし、有線通信を用いたネットワークであってもよい。ネットワーク70は、例えばインターネットを用いて構成されてもよいし、ローカルエリアネットワーク(LAN)を用いて構成されてもよい。ネットワーク70は、複数のネットワークが組み合わされて構成されてもよい。
【0023】
図2は、端末装置10の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。端末装置10は、例えばスマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター、専用機器などの情報機器を用いて構成される。端末装置10は、通信部11、操作部12、出力部13、記憶部14及び制御部15を備える。
【0024】
通信部11は、通信機器である。通信部11は、例えばネットワークインターフェースとして構成されてもよい。通信部11は、制御部15の制御に応じて、ネットワーク70を介して他の装置とデータ通信する。通信部11は、無線通信を行う装置であってもよいし、有線通信を行う装置であってもよい。
【0025】
操作部12は、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、タブレット等)、ボタン、タッチパネル等の既存の入力装置を用いて構成される。操作部12は、ユーザーの指示を端末装置10に入力する際にユーザーによって操作される。操作部12は、入力装置を端末装置10に接続するためのインターフェースであっても良い。この場合、操作部12は、入力装置においてユーザーの入力に応じ生成された入力信号を端末装置10に入力する。操作部12は、マイク及び音声認識装置を用いて構成されてもよい。この場合、操作部12はユーザーによって発話された文言を音声認識し、認識結果の文字列情報を端末装置10に入力する。この場合、操作部12は音声の入力のみを行い、音声認識は制御部15によって実行されてもよい。操作部12は、ユーザーの指示を端末装置10に入力可能な構成であればどのように構成されてもよい。
【0026】
出力部13は、情報をユーザーが認知可能な形で出力する。出力部13は、例えば液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置であってもよい。出力部13は、画像表示装置を端末装置10に接続するためのインターフェースであっても良い。この場合、出力部13は、画像データを表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。出力部13は、スピーカー等の音響を出力する装置であってもよい。出力部13は、スピーカーやヘッドホン等の音響出力装置を端末装置10に接続するためのインターフェースであってもよい。この場合、出力部13は、音響データを再生するための音響信号を生成し、自身に接続されている音響出力装置に音響信号を出力する。
【0027】
記憶部14は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部14は、制御部15によって使用されるデータを記憶する。記憶部14は、制御部15が処理を行う際に必要となるデータを記憶する。
【0028】
制御部15は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーとメモリー(主記憶装置)とを用いて構成される。制御部15は、プロセッサーがプログラムを実行することによって機能する。なお、制御部15の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0029】
制御部15は、例えば予め自装(端末装置10)にインストールされたアプリケーションを実行してもよい。このようなアプリケーションの具体例として、推定システム100の専用アプリケーションとして端末装置10に提供されるアプリケーションがある。このようなアプリケーションの他の具体例として、WEBブラウザーのアプリケーションがある。制御部15は、実行中のアプリケーションのプログラムにしたがって動作する。
【0030】
制御部15は、ユーザーの操作や推定装置30から受信される情報に応じて端末装置10を制御する。例えば、制御部15は、ユーザーが操作部12を操作することによって入力された情報を、通信部11を用いることによって推定装置30へ送信する。例えば、制御部15は、推定装置30から送信された情報がネットワーク70を介して通信部11で受信されると、受信された情報に基づいて画面データを生成し、出力部13に画面データを表示させる。このような画面データには、推定装置30から送信された画像や文字が含まれる。例えば、制御部15は、推定装置30から送信された情報がネットワーク70を介して通信部11で受信されると、受信された情報に基づいて音声データを生成し、出力部13から音声データを出力させる。
【0031】
以下、制御部15の動作の具体例について説明する。以下の例では、出力部13の具体例として画像表示装置が用いられる。ただし、上述したように出力部13は画像表示装置を用いて構成される必要はなく、音声出力装置を用いて構成されてもよいし、画像表示装置及び音声出力装置の両方を用いて構成されてもよい。
【0032】
制御部15は、例えばユーザーに対して条件情報を入力することを指示する文字や画像を有した画面データを生成する。制御部15は、生成した画面データを出力部13に表示させる。制御部15は、条件情報として、例えばクロム、ニッケル、モリブデン及び銅に関する情報の入力を指示してもよい。制御部15は、条件情報として、例えばクロム、ニッケル、モリブデン及び銅に関する情報に加えてさらに使用環境の温度及び硫酸濃度に関する情報の入力を指示してもよい。制御部15は、条件情報として、さらに塩化物イオン濃度に関する情報の入力を指示してもよい。
【0033】
ユーザーは、操作部12を操作することによって、条件情報を端末装置10に入力する。制御部15は、入力された条件情報を、通信部11を用いて推定装置30に送信する。制御部15は、推定装置30から、条件情報に応じた推定結果を受信する。制御部15は、推定結果を示す情報を示す画面データを生成する。制御部15は、生成した画面データを出力部13に表示させる。
【0034】
図3は、学習装置20の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。学習装置20は、例えばパーソナルコンピューターやサーバー装置などの情報処理装置を用いて構成される。学習装置20は、通信部21、記憶部22及び制御部23を備える。
【0035】
通信部21は、通信機器である。通信部21は、例えばネットワークインターフェースとして構成されてもよい。通信部21は、制御部23の制御に応じて、ネットワーク70を介して他の装置とデータ通信する。通信部21は、無線通信を行う装置であってもよいし、有線通信を行う装置であってもよい。
【0036】
記憶部22は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部22は、制御部23によって使用されるデータを記憶する。記憶部22は、例えば教師データ記憶部221、前処理済教師データ記憶部222及び学習済モデル情報記憶部223として機能してもよい。
【0037】
教師データ記憶部221は、学習装置20において実行される教師あり学習処理に用いられる教師データを記憶する。教師データ記憶部221が記憶する教師データは、条件情報(説明変数)と、その条件情報に応じた金属材料の特性情報(目的変数)と、を含むデータである。以下、条件情報と特性情報とについてそれぞれ説明する。
【0038】
条件情報は、例えば耐硫酸腐食性を推定する金属材料の化学組成に関する情報であってもよい。金属材料の化学組成に関する情報の具体例として、推定対象となる金属材料に含有される元素(例えばクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、窒素(N)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、マンガン(Mn)等の元素)に関する情報がある。このうち、一部の元素のみに関する情報が用いられてもよい。例えば、推定対象の金属材料に含有される耐硫酸腐食性に影響を及ぼす複数の元素の含有量に関する情報が用いられてもよい。例えば、クロム、ニッケル、モリブデン及び銅それぞれの含有量に関する情報が用いられてもよい。ここで言う含有量の単位は質量パーセントである。
【0039】
また、条件情報として、金属材料の化学組成(合金成分の含有量)に関する情報に加えて、その他の耐硫酸腐食性に影響を及ぼす因子に関する情報(例えば、金属材料に含まれる析出物や介在物に関する情報(種類・大きさ・量(数密度等))等)を含んでもよい。ここで言う金属材料は、例えば、ステンレス鋼等の鉄鋼であるが、金属材料は鉄鋼に限定されず、任意の金属であってもよい。例えば、ニッケル合金等であってもよい。
【0040】
また、条件情報は、さらに推定対象となる金属材料の化学組成に関する情報に加えて、例えば、耐硫酸腐食性を推定する金属材料について想定される使用環境に関する情報を含んでもよい。使用環境を示す情報の具体例として、例えば、温度、硫酸濃度及び塩化物イオン濃度に関する情報がある。例えば、使用環境に関する情報として、温度及び硫酸濃度に関する情報が用いられてもよい。また、使用環境に関する情報として、さらに塩化物イオン濃度に関する情報が用いられてもよい。このような使用環境は、例えば煙突に用いられる金属材料や、石油タンクに用いられる金属材料について特性を推定する場合に用いられてもよい。
【0041】
特性情報は、耐硫酸腐食性を示す情報である。このような特性情報の具体例として、腐食速度(CR)またはJIS G0579「ステンレス鋼のアノード分極曲線測定方法」で測定した不動態化電流密度(icrit)がある。
このような条件情報及び特性情報を有する教師データは、例えば実際に条件情報に応じた金属材料を用いて特性情報を測定する実験を行うことによって得られてもよい。具体的には、テスト材として条件情報に応じた金属材料を製造し、その製造されたテスト材の特性情報を測定する実験により得られてもよいし、テスト材に替えて又はテスト材に加えて、実際の製品材からサンプルを切り出して特性情報を測定する実験により得られてもよい。例えば、特性情報として耐硫酸腐食性を示す情報である腐食速度を教師データとして用いる場合において、腐食速度は、このようなテスト材又はサンプルを用いて腐食試験を行い、腐食試験前後におけるテスト材又はサンプルの重量差から腐食速度を算出することによって得られてもよい。より具体的には、研磨(例えば#600湿式研磨)したテスト材又はサンプルを硫酸水溶液に3~24時間ほど浸漬し、腐食試験前後におけるテスト材又はサンプルの重量を求め、腐食試験前後の重量差を時間で除することにより、腐食速度が得られてもよい。また、教師データは、特性情報の推定対象となる金属材料の化学組成に比較的近い化学組成を有する金属材料に関する実験結果を使用して作成されたデータであることが好ましい。
【0042】
前処理済教師データ記憶部222は、教師データに対して前処理制御部232による前処理が実行されることによって得られる前処理済教師データを記憶する。
学習済モデル情報記憶部223は、学習制御部233による学習処理が実行されることによって得られる学習済モデル情報を記憶する。
【0043】
制御部23は、CPU等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成される。制御部23は、プロセッサーがプログラムを実行することによって、情報制御部231、前処理制御部232及び学習制御部233として機能する。なお、制御部23の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されても良い。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0044】
情報制御部231は、情報の入出力を制御する。例えば、情報制御部231は、他の機器(情報処理装置や記憶媒体)から教師データを取得し、教師データ記憶部221に記録する。例えば、情報制御部231は、学習済モデル情報記憶部223に記憶されている学習済モデル情報を、他の装置(例えば推定装置30)に対して送信する。
【0045】
前処理制御部232は、教師データに対して所定の前処理を実行することによって、前処理済教師データを生成する。前処理制御部232は、例えば教師データに含まれる数値に対して対数をとる処理(対数変換処理)を行ってもよい。より具体的には、条件情報(例えば金属材料の化学組成を示す情報)に含まれる値に対して対数をとる処理が行われてもよい。さらに具体的には、条件情報に含まれる複数(例えば全て)の元素の含有量(質量パーセント)について対数をとる処理が行われてもよい。また、例えば、条件情報として、さらに使用環境を示す情報が含まれる場合において、使用環境を示す情報に含まれる値(例えば温度、硫酸濃度及び塩化物イオン濃度)について対数をとる処理が行われてもよい。また、例えば、特性情報である耐硫酸腐食性を示す情報に含まれる値(例えば腐食速度)について対数をとる処理が行われてもよい。このような前処理が行われることによって、例えば、各元素の含有量が大きく異なる(例えば桁数が1桁、数桁、10桁前後異なるなど)場合にも、それぞれの元素の含有量を表す数値を近づけることで、より精度の高い推定処理を行うことが可能となる。
【0046】
前処理制御部232は、教師データに含まれる説明変数に対してスケーリングを行ってもよい。このようなスケーリングの具体例として、標準化が行われてもよいし、正規化が行われてもよい。このような標準化の処理の具体例として、データの平均値からの偏差を標準偏差で割る、という処理が行われてもよい。
【0047】
前処理制御部232は、前処理が終了すると、前処理によって変換された教師データを前処理済教師データとして前処理済教師データ記憶部222に記録する。
【0048】
学習制御部233は、前処理済教師データ記憶部222に記憶されている前処理済教師データを用いて教師有り学習処理を実行する。このような学習処理の具体例として、例えば、サポートベクトル回帰(SVR:Support Vector Regression)が用いられてもよいし、ニューラルネットワークやディープラーニング等の他の学習技術が用いられてもよい。サポートベクトル回帰は、複雑なモデルであり、モデル解釈性が低いものの、線形の回帰及び非線形の回帰の両方が可能であり、ディープラーニングよりも少ない教師データで高い推定精度を実現可能であるという利点を有する。学習制御部233は、学習処理の実行によって得られた学習済モデル情報を学習済モデル情報記憶部223に記録する。このような学習制御部233によって得られた学習済モデル情報は、推定装置30に対して送信され、推定装置30の学習済モデル情報記憶部321に記録されてもよい。このような学習済モデル情報は、入力として条件情報を与えることによって、出力として特性情報の推定値を得ることが可能である。
【0049】
図4は、学習装置20で使用される教師データの具体例に関する情報を示す図である。図4において、条件情報は、推定対象の金属材料に含有されている複数の元素の含有量に関する情報と、推定対象の金属材料の使用環境に関する情報である。複数の元素の含有量に関する情報は、クロム(Cu)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)及び銅(Cu)それぞれの含有量(質量パーセント)である。使用環境に関する情報は、温度、硫酸濃度及び塩化物イオン濃度である。
【0050】
教師データは、図4に示す条件情報に応じた金属材料、具体的には図4に示す合金元素を含有する金属材料を製造し、その製造した金属材料の腐食速度を測定することにより作成した。また、図4に示す教師データを得るために製造した金属材料の残部は、鉄(Fe)及び不純物である。不純物は、金属材料を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分である。なお、教師データを得るために用いる金属材料としては、教師データに含まれる合金元素(クロム、ニッケル、モリブデン、銅)並びに鉄及び不純物以外の元素を微量含んでもよい。具体的には、炭素(C)、窒素(N)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、マンガン(Mn)等の合金元素を微量含有する金属材料を用いてもよい。
【0051】
図4において、特性情報は、腐食速度(CR)であり、その単位はg・m-2・h-1で示されている。図4は、各値の最小値、平均値及び最大値を示す。学習装置20で使用される教師データの各値は、例えば図4に示した統計値を満たすように分布していてもよい。なお、図4(及び後述の図5)に記載の塩化物イオン濃度:0.10ppmは、塩化物を添加していない例、つまり塩化物イオン濃度0(ゼロ)の例を示すものである。前処理として対数変処理を実行する具体例であることから、便宜上、0.10としている。また、図4に記載の温度(℃)は硫酸溶液の温度である。
【0052】
図5は、図4に示す学習装置20で使用される教師データの例をより具体的に示す図である。図5では、教師データとして主にステンレス鋼に関する情報が示されている。図5において、特性情報は図4と同じく腐食速度である。
【0053】
図5(A)は、教師データの具体例であり、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)及び銅(Cu)それぞれの含有量(質量パーセント)が示されている。また、図5(A)の“T(℃)”は硫酸溶液の温度、“Cl-(ppm)”は塩化物イオン濃度の値を表す。図5(B)は、前処理が行われた後の教師データの値を示す。前処理では、教師データに含まれる各数値について、対数変換処理(常用対数を算出する処理)が行われている。学習装置20では、このようにして得られた図5(B)に示されるような教師データを用いた学習処理が行われても良い。この場合、推定装置30においても、同様の前処理が実行されることが望ましい。なお、図5(B)の“T”は硫酸溶液の温度、“CT”は硫酸濃度、“Cl”は塩化物イオン濃度、“CR”は腐食速度を表す。
【0054】
図6は、学習装置20の処理の具体例を示すフローチャートである。まず、情報制御部231は教師データを取得する(ステップS101)。教師データは、例えばユーザーによって入力されてもよいし、他の情報機器から通信によって取得されてもよいし、学習装置20に接続された記録媒体から取得されてもよい。前処理制御部232は、教師データに対して所定の前処理を実行する(ステップS102)。学習制御部233は、前処理済教師データを用いて学習処理を実行し、学習済モデル情報を学習済モデル情報記憶部223に記録する(ステップS103)。
【0055】
図7は、推定装置30の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。推定装置30は、例えばパーソナルコンピューターやサーバー装置などの情報処理装置を用いて構成される。推定装置30は、通信部31、記憶部32及び制御部33を備える。
【0056】
通信部31は、通信機器である。通信部31は、例えばネットワークインターフェースとして構成されてもよい。通信部31は、制御部33の制御に応じて、ネットワーク70を介して他の装置とデータ通信する。通信部31は、無線通信を行う装置であってもよいし、有線通信を行う装置であってもよい。
【0057】
記憶部32は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部32は、制御部33によって使用されるデータを記憶する。記憶部32は、例えば学習済モデル情報記憶部321として機能してもよい。
【0058】
学習済モデル情報記憶部321は、予め学習処理によって生成された学習済モデルの情報を記憶する。このような学習処理は、例えば他の装置(例えば学習装置20)によって実行されてもよいし、自装置(推定装置30)によって実行されてもよい。
【0059】
制御部33は、CPU等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成される。制御部33は、プロセッサーがプログラムを実行することによって、情報制御部331及び推定部332として機能する。なお、制御部33の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されても良い。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0060】
情報制御部331は、端末装置10等の他の装置から情報を取得する。取得される情報の具体例として、例えば端末装置10に入力された条件情報がある。情報制御部331は、取得された情報をメモリー等の記憶装置に記録する。情報制御部331は、端末装置10等の他の装置に対して情報を送信する。送信される情報の具体例として、例えば推定部332によって推定された特性情報がある。このような情報制御部331による他の装置との間の情報のやりとりは、例えば通信部31による通信によって行われてもよい。
【0061】
推定部332は、ユーザーから得られた条件情報に応じた特性情報を推定する。この推定処理は、学習済モデル情報記憶部321に記憶されている学習済モデル情報を用いて行われる。推定部332は、学習済モデル情報と、ユーザーから得られた条件情報と、を用いて推論処理を実行することで、条件情報が示す条件に応じた金属材料の特性情報を推定する。
【0062】
図8は、推定装置30の処理の具体例を示すフローチャートである。まず、情報制御部331は条件情報を取得する(ステップS201)。条件情報は、例えばユーザーによって端末装置10に入力されたものがネットワーク70を介して取得されてもよい。推定部332は、入力された条件情報に対し所定の前処理を実行する(ステップS202)。推定部332が実行する前処理は、学習済モデル情報が取得される際に教師データに対して実行された前処理と同じ処理である。例えば、推定部332が実行する前処理は、学習装置20の前処理制御部232によって教師データに含まれる条件情報に対して行われる前処理と同じ処理である。推定部332は、前処理が行われた条件情報と学習済モデル情報とを用いて推定処理を実行する(ステップS203)。推定部332は、推定処理の実行により、推定結果として特性情報を取得する。情報制御部331は、取得された特性情報を出力する。例えば、情報制御部331は、取得された特性情報を端末装置10に送信する(ステップS204)。
【0063】
図9は、実験的に求められた腐食速度(CR)と、学習装置20によって得られた学習済モデル情報を用いて推定された腐食速度(CR)との関係の一例を示す図である。図9の横軸は、実験的に求められた腐食速度(CR)を示している。図9の縦軸は、推定装置30によって得られた腐食速度(CR)を示している。図9には、図4及び図5で示された教師データ(616データ)が白丸として示されている。図9に示した黒丸(ハッチングされた丸)は、教師データとは別のテストデータである。
【0064】
図9に示した白丸及び黒丸は、いずれも略線形に分布している。このため、図9は、学習装置20によって得られた学習済モデル情報が精度よく得られ、信頼性が高い腐食速度(CR)を示す耐硫酸腐食性データを出力し得ることを示している。すなわち、学習装置20によって得られた学習済モデル情報を用いることによって、条件情報から精度よく特性情報を得ることができることがわかる。このように、図9に示される実験結果によって、条件情報と特性情報との間に相関関係があることがわかる。
【0065】
図10は、推定対象となる金属材料に含まれるクロムの含有量と、学習装置20によって得られた学習済モデル情報を用いて推定装置30によって推定された腐食速度(以下「推定速度」という。)との関係の一例を示す図である。図10の横軸は、推定対象となる金属材料に含有されているクロムの含有量(質量パーセント)を示している。図10の縦軸は、推定速度を示している。図10では、クロムの含有量と推定速度との関係として、ステンレス鋼における関係が示されている。
【0066】
図10では、クロムの含有量と推定速度との関係として、所定成分(推定対象の金属材料の化学組成)及び所定環境(推定対象の金属材料の使用環境)における関係が示されている。図10において、クロム以外の成分(耐硫酸腐食性に影響を及ぼす元素及びその含有量)は、ニッケル:8質量%、モリブデン:0.1質量%、銅:0.1質量%である。クロムの含有量は、図10のプロットに示される通り、18~27質量%の範囲で変化させている。所定環境は、硫酸溶液の温度:70℃、硫酸濃度:50%、塩化物イオン濃度:0.1ppm(上述の通り、ここでは塩化物を添加していない例であることを意味する。)である。所定環境は腐食速度の評価条件に相当する。上述したような所定成分の金属材料についてクロムの含有量(質量パーセント)を変化させて得られた所定環境下での推定速度が図10の推定速度として示されている。
【0067】
図10に示される推定結果のグラフは、クロムの含有量が18~20質量%では、腐食速度はあまり変化せず、クロムの含有量が20質量%を超えると腐食速度が変化し、クロムの含有量が高い程、高い耐硫酸腐食性が得られることを示している。つまり、クロムの含有量に応じて、腐食速度がどのように変化するのかが分かる。このような特性の傾向についての情報を、実際に金属材料を生成して実験結果を得る場合に比べてコストや時間を抑えて取得することができる。
【0068】
図11は、推定対象となる金属材料に含まれるニッケルの含有量と、学習装置20によって得られた学習済モデル情報を用いて推定装置30によって推定された腐食速度(推定速度)との関係の一例を示す図である。図11の横軸は、推定対象となる金属材料に含有されているニッケルの含有量(質量パーセント)を示している。図11の縦軸は、推定速度を示している。図11では、ニッケルの含有量と推定速度との関係として、ステンレス鋼における関係が示されている。
【0069】
図11では、ニッケルの含有量と推定速度との関係として、所定成分(推定対象の金属材料の化学組成)及び所定環境(推定対象の金属材料の使用環境)における関係が示されている。図11において、ニッケル以外の成分(耐硫酸腐食性に影響を及ぼす元素及びその含有量)は、クロム:18質量%、モリブデン:0.1質量%、銅:0.1質量%である。ニッケルの含有量は、図11のプロットに示される通り、10~45質量%の範囲で変化させている。このような所定成分の金属材料についてニッケルの含有量(質量パーセント)を変化させて得られた所定環境下での推定速度が図11の推定速度として示されている。なお、図11の所定環境は図10と同様である。
【0070】
図11に示される推定結果のグラフは、ニッケルの含有量が10~15質量%では、腐食速度はあまり変化せず、ニッケルの含有量が15質量%を超えると腐食速度が変化し、ニッケルの含有量が高い程、高い耐硫酸腐食性が得られることを示している。つまり、ニッケルの含有量に応じて、腐食速度がどのように変化するのかが分かる。このような特性の傾向についての情報を、実際に金属材料を生成して実験結果を得る場合に比べてコストや時間を抑えて取得することができる。
【0071】
図12は、推定対象となる金属材料に含まれるモリブデンの含有量と、学習装置20によって得られた学習済モデル情報を用いて推定装置30によって推定された腐食速度(推定速度)との関係の一例を示す図である。図12の横軸は、推定対象となる金属材料に含有されているモリブデンの含有量(質量パーセント)を示している。図12の縦軸は、推定速度を示している。図12では、モリブデンの含有量と推定速度との関係として、オーステナイト系ステンレス鋼における関係が示されている。
【0072】
図12では、モリブデンの含有量と推定速度との関係として、所定成分(推定対象の金属材料の化学組成)及び所定環境(推定対象の金属材料の使用環境)における関係が示されている。図12において、モリブデン以外の成分(耐硫酸腐食性に影響を及ぼす元素及びその含有量)は、クロム:18質量%、ニッケル:8質量%、銅:0.1質量%である。モリブデンの含有量は、図12のプロットに示される通り、0~6質量%の範囲で変化させている。このような所定成分の金属材料についてモリブデンの含有量(質量パーセント)を変化させて得られた所定環境下での推定速度が図12の推定速度として示されている。なお、図12の所定環境は図10と同様である。
【0073】
図12に示される推定結果のグラフは、モリブデンの含有量が0~0.7質量%では、モリブデンの含有量が高くなるほど腐食速度の値は大きくなり、モリブデンの含有量が0.8~1質量%では、腐食速度はあまり変化せず、モリブデンを少量含有させるだけでは、耐硫酸腐食性は向上しないことを示している。モリブデンの含有量が1質量%を超えると、腐食速度の値は次第に小さくなり、モリブデンをおよそ2.4質量%以上含有させると耐硫酸腐食性が向上し、モリブデンの含有量が高い程、高い耐硫酸腐食性が得られることを示している。つまり、モリブデンの含有量に応じて、腐食速度がどのように変化するのかが分かる。このような特性の傾向についての情報を、実際に金属材料を生成して実験結果を得る場合に比べてコストや時間を抑えて取得することができる。
【0074】
図13は、推定対象となる金属材料に含まれる銅の含有量と、学習装置20によって得られた学習済モデル情報を用いて推定装置30によって推定された腐食速度(推定速度)との関係の一例を示す図である。図13の横軸は、推定対象となる金属材料に添加されている銅の含有量(質量パーセント)を示している。図13の縦軸は、推定速度を示している。図13では、銅の含有量と推定速度との関係として、オーステナイト系ステンレス鋼における関係が示されている。
【0075】
図13では、銅の含有量と推定速度との関係として、所定成分(推定対象の金属材料の化学組成)及び所定環境(推定対象の金属材料の使用環境)における関係が示されている。図13において、銅以外の成分(耐硫酸腐食性に影響を及ぼす元素及びその含有量)は、クロム:18質量%、ニッケル:8質量%、モリブデン:0.1質量%である。銅の含有量は、図13のプロットに示される通り、0.1~3質量%の範囲で変化させている。このような所定成分の金属材料について銅の含有量(質量パーセント)を変化させて得られた所定環境下での推定速度が図13の推定速度として示されている。なお、図13の所定環境は図10と同様である。
【0076】
図13に示される推定結果のグラフは、銅の含有量が0.1~1質量%では、腐食速度が大きく変化し、銅の含有量が高い程、高い耐硫酸腐食性が得られるが、銅の含有量が1%を超えると、腐食速度の変化量は小さくなることを示している。つまり、銅の含有量に応じて、腐食速度がどのように変化するのかが分かる。このような特性の傾向についての情報を、実際に金属材料を生成して実験結果を得る場合に比べてコストや時間を抑えて取得することができる。
【0077】
推定装置30によって耐硫酸腐食性が推定された金属材料は、工業製品として市場に提供される。また、推定装置30によって耐硫酸腐食性が推定された金属材料により少なくとも一部が形成されている構造物は、工業製品として市場に提供される。
【0078】
図14は、本実施形態に適用される情報処理装置90のハードウェア構成例の概略を示す図である。情報処理装置90は、プロセッサー91、主記憶装置92、通信インターフェース93、補助記憶装置94、入出力インターフェース95及び内部バス96を備える。プロセッサー91、主記憶装置92、通信インターフェース93、補助記憶装置94及び入出力インターフェース95は、内部バス96を介して互いに通信可能に接続される。情報処理装置90は、例えば学習装置20及び推定装置30に適用されてもよい。この場合、例えば通信部21及び通信部31は通信インターフェース93を用いて構成されてもよい。例えば記憶部22及び記憶部32は補助記憶装置94を用いて構成されてもよい。また、制御部23及び制御部33は、プロセッサー91及び主記憶装置92を用いて構成されてもよい。
【0079】
本実施形態の推定システム100では、所定の成分を有する金属材料について特性を推定することが可能となる。そのため、金属材料の化学組成の決定などにおいて生じる負担を軽減することが可能となる。より具体的には、これまで実際の実験に要していた一部又は全部の負担を削減することが可能となる。
【0080】
(変形例)
本実施形態では、端末装置10と推定装置30とが異なる装置として構成されているが、一体の装置として構成されてもよい。図15は、このように構成された推定装置30の変形例を示す図である。図15に示される推定装置30は、操作部34及び出力部35を備える。図15に示される推定装置30の操作部34及び出力部35は、それぞれ端末装置10の操作部12及び出力部13と同様に機能する。制御部33は、操作部34に対する操作に応じて動作し、出力部35を用いて情報を出力する。
【0081】
本実施形態では、学習装置20と推定装置30とが異なる装置として構成されているが、一体の装置として構成されてもよい。図16は、このように構成された推定装置30の変形例を示す図である。図16に示される推定装置30の記憶部32は、教師データ記憶部322及び前処理済教師データ記憶部323としても機能する。図16に示される推定装置30の制御部33は、前処理制御部333及び学習制御部334としても機能する。教師データ記憶部322及び前処理済教師データ記憶部323は、それぞれ学習装置20の教師データ記憶部221及び前処理済教師データ記憶部222と同様に機能する。前処理制御部333及び学習制御部334は、それぞれ学習装置20の前処理制御部232及び学習制御部233と同様に機能する。
【0082】
学習装置20は、複数の情報処理装置を用いて実装されてもよい。例えば、クラウド等の装置を用いて学習装置20が実装されてもよい。例えば、学習装置20において、記憶部22と制御部23とがそれぞれ異なる情報処理装置に実装されてもよい。例えば、学習装置20の記憶部22が複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。推定装置30は、複数の情報処理装置を用いて実装されてもよい。例えば、クラウド等の装置を用いて推定装置30が実装されてもよい。例えば、推定装置30において、記憶部32と制御部33とがそれぞれ異なる情報処理装置に実装されてもよい。例えば、推定装置30の記憶部32が複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。
【0083】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0084】
100…推定システム, 10…端末装置, 11…通信部, 12…操作部, 13…出力部, 14…記憶部, 15…制御部, 20…学習装置, 21…通信部, 22…記憶部, 221…教師データ記憶部, 222…前処理済教師データ記憶部, 223…学習済モデル情報記憶部, 23…制御部, 231…情報制御部, 232…前処理制御部, 233…学習制御部, 30…推定装置, 31…通信部, 32…記憶部, 321…学習済モデル情報記憶部, 33…制御部, 331…情報制御部, 332…推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16