(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126843
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】水力機械およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
F03B 15/04 20060101AFI20240912BHJP
F03B 11/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F03B15/04 A
F03B15/04 H
F03B11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035551
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(74)【代理人】
【識別番号】100234305
【弁理士】
【氏名又は名称】合瀬 恵
(72)【発明者】
【氏名】三谷 潤
(72)【発明者】
【氏名】榎本 保之
(72)【発明者】
【氏名】中村 康平
【テーマコード(参考)】
3H072
3H073
【Fターム(参考)】
3H072AA07
3H072BB20
3H072CC23
3H072CC81
3H073AA08
3H073BB03
3H073BB23
3H073BB39
3H073CC02
3H073CD02
3H073CD18
3H073CE01
3H073CE09
3H073CE27
(57)【要約】
【課題】起動時に振動や騒音を抑制できる水力機械およびその制御方法を提供することである。
【解決手段】実施形態の水力機械は、ランナに流入する水の流量を測定する流量計と、前記ランナの下流側に設けられた吸出し管に空気を供給する給気管へ、前記空気を供給または遮断する給気弁の開閉を、前記流量に基づき判定する制御装置と、を備え、前記制御装置は、運転停止から通常運転に移行するまでの過渡運転において、前記流量が第1基準値以上であると判定した場合に前記給気弁を開くよう制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランナに流入する水の流量を測定する流量計と、
前記ランナの下流側に設けられた吸出し管に空気を供給する給気管へ、前記空気を供給または遮断する給気弁の開閉を、前記流量に基づき判定する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、運転停止から通常運転に移行するまでの過渡運転において、前記流量が第1基準値以上であると判定した場合に前記給気弁を開くよう制御する水力機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記運転停止において前記ランナの上流側に設けられたガイドベーンを開くよう制御する請求項1に記載の水力機械。
【請求項3】
前記制御装置は、前記通常運転において前記流量が前記第1基準値よりも大きい第2基準値以上であると判定した場合に前記給気弁を閉じるよう制御する請求項1に記載の水力機械。
【請求項4】
ランナに流入する水の流量を測定するステップと、
運転停止から通常運転に移行するまでの過渡運転において、前記流量が第1基準値以上と判定した場合に前記ランナの下流側に設けられた吸出し管への給気を開始するステップと、を備える水力機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水力機械およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なフランシス水車をはじめとする水力機械は、ランナの上流側に設けられたガイドベーンの開度を制御することで流路面積を変化させ、上池側からランナへ流れる水の流量を調整する。水力機械を部分負荷で運転させる場合には、ガイドベーンを定格運転時よりも小さい開度に設定するため、ランナの回転によって吸出し管下流側からランナ方向へ水が逆流し、振動や騒音が発生する可能性がある。このような振動や騒音を防ぐために、給気管から吸出し管内に給気することでランナ出口の軸中心部に空洞を発生させて、キャビテーションや逆流を抑制することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-272478号公報
【特許文献2】特開平2-67467号公報
【特許文献3】特開平6-185039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水車のランナは定格運転や部分負荷運転を含む通常運転時の流量に合わせて設計されているが、運転停止から通常運転に移行するまでの起動時においては、水車を流れる水の流量が通常運転時と比較して極端に小さい。つまり、起動時にはランナの設計に適合しない程度の少ない流量の水が水車を流れるため、ランナの回転に伴うキャビテーションや逆流がより発生しやすく、通常運転時と比べてより振動や騒音を生じる可能性がある。キャビテーションや逆流による振動・騒音が発生するとランナに負荷がかかり、ランナの故障につながる可能性がある。また、水車の起動時は水の流量変化が大きく、上池および下池の水位変動によっても水の流量は大きく変化するので、起動時に適切なタイミングで吸出し管へ空気を供給することが困難な可能性がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、起動時に振動や騒音を抑制できる水力機械およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、実施形態の水力機械は、ランナに流入する水の流量を測定する流量計と、前記ランナの下流側に設けられた吸出し管に空気を供給する給気管へ、前記空気を供給または遮断する給気弁の開閉を、前記流量に基づき判定する制御装置と、を備え、前記制御装置は、運転停止から通常運転に移行するまでの過渡運転において、前記流量が第1基準値以上であると判定した場合に前記給気弁を開くよう制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る水力機械の構成を示す断面図。
【
図2】第1実施形態に係る水力機械を運転停止から定格運転に向けて起動する処理例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
第1実施形態について、
図1から
図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る水力機械の子午面断面図である。ここでは、水力機械としてフランシス水車を一例に説明する。フランシス水車1は、鉄管10と、ケーシング12と、ステーベーン14と、ガイドベーン16と、ランナ18と、主軸20と、発電機22と、吸出し管24と、給気管26と、給気弁28と、流量計30と、制御装置32と、を備える。フランシス水車1は、電力系統(図示省略)と電気的に接続している。この電気的な接続は、フランシス水車1および電力系統の間に設けられる遮断器(図示省略)によって開閉される。なお、以降の説明において発電機22側を回転軸線C上方向、吸出し管24側を回転軸線C下方向とする。
【0009】
鉄管10は、その内部を水が流れる流路であり、上池(図示省略)と後述するケーシング12とを接続する。鉄管10は、閉状態となることで上池側とケーシング12側との間の水の流れを止める入口弁(図示省略)と、後述する流量計30とを備える。
【0010】
ケーシング12は、後述するランナ18の外周側に渦巻き状に設けられ、上池から鉄管10を通り流入した作動流体である水を、ステーベーン14およびガイドベーン16(共に後述する)を介してランナ18に供給する。なお、ケーシング12は通常、巻き始め(上池側)から巻き終わり(ランナ18側)にかけてその断面直径が徐々に小さくなるように形成されている。
【0011】
ステーベーン14は、ケーシング12よりも内周側、かつ後述する主軸20の回転軸線Cに対する周方向(以下、周方向と呼称する)に所定の間隔をあけて複数配置される。隣り合うステーベーン14の間には、水が流れる流路が形成されている。
【0012】
ガイドベーン16は、ステーベーン14の内周側かつランナ18の外周側に、周方向に所定の間隔をあけて複数配置される。ガイドベーン16は、各々が回転可能であり、その開度を制御することにより、隣り合うガイドベーン16の間に形成される流路の流路面積を変化させることができる。したがって、ガイドベーン16はその開度を制御することにより、後述のランナ18に流入する水の流量を調整することができる。
【0013】
ランナ18は、ガイドベーン16の内周側に、回転軸線Cを中心として回転可能に配置され、主軸20を介して発電機22と連結している。主軸20は、ランナ18の回転軸であり、発電機22が連結されている。水車運転においては、ランナ18の回転エネルギーが主軸20を介して発電機22に伝達されると、発電機22が発電する。
【0014】
なお、発電機22は、電動機としての機能も備え、電力が供給されることによりランナ18を回転駆動するように構成されても良い。この場合には、後述する吸出し管24を介して下池(図示省略)の水を吸い上げて上池に放出させることができ、フランシス水車1をポンプ水車としてポンプ運転することが可能になる。
【0015】
吸出し管24は、ランナ18の下流側(回転軸線C下方向)に設けられ、ランナ18から流入した水を下池(図示省略)に供給する。
【0016】
給気管26は、吸出し管24に空気を供給する流路であり、閉状態で給気管26から吸出し管24への空気の供給を遮断する給気弁28を備える。なお、給気管26が吸出し管24に供給する空気は大気圧空気でも良いし、コンプレッサ等によって昇圧された高圧空気でも良い。
【0017】
流量計30は、鉄管10に設けられ、鉄管10からケーシング12に流れる水の流量を測定する。なお、流量計30はランナ18に流入する水の流量を測定できれば良く、その設置場所は鉄管10に限られず例えばケーシング12等でも良い。
【0018】
制御装置32は、ガイドベーン16と、給気弁28と、流量計30とに接続されている。制御装置32は、水の流量に関する流量測定信号を流量計30から受信する。ガイドベーン16および給気弁28を制御する場合には、制御信号を駆動装置(図示省略)に送信し、駆動装置はその信号に従ってガイドベーン16および給気弁28を開閉駆動する。また、制御装置32は、ガイドベーン16および給気弁28に設けられてこれらの開閉を検出する開度検出装置(図示省略)に接続している。制御装置32は、この開度検出装置から送られる開度検出信号に基づいて、ガイドベーン16および給気弁28の開閉状態を判定することができる。なお、制御装置32は、ガイドベーン16、給気弁28、および流量計30とケーブル等を利用して有線で接続しても良いし、通信等を利用して無線で接続しても良い。
【0019】
このようなフランシス水車1における通常運転時の水の流れを説明する。このとき、ガイドベーン16は開状態であり、給気弁28は全閉状態である。まず、上池からの水が鉄管10、入口弁、ケーシング12、ステーベーン14、およびガイドベーン16を順次通過してランナ18に供給される。この水の仕事を受けてランナ18が回転すると、その回転エネルギーが主軸20を介して発電機22に伝達されて発電する。ランナ18で仕事をした後の水は、吸出し管24を流れ下池(図示省略)に供給される。
【0020】
なお、本実施形態における以降の説明では、フランシス水車1の運転状態をランナ18の回転数を基準に区分して説明することとする。具体的には、回転数がゼロである運転状態を運転停止、回転数が基準回転数未満である運転状態を過渡運転、回転数が基準回転数以上である運転状態を通常運転とそれぞれ呼称する。特に、通常運転のうち、フランシス水車1の最大出力に設定されたランナ18の回転数である定格回転数で運転される状態を定格運転と呼称する。運転停止および過渡運転ではフランシス水車1と電力系統とが電気的に遮断されている。一方、通常運転ではフランシス水車1と電力系統とが電気的に接続され、上述のように発電した電力がフランシス水車1から電力系統に供給される。
【0021】
なお、前後の運転状態によっては、運転停止においてランナ18の回転数がゼロではなく、ランナ18が空転している場合もある。
【0022】
なお、ランナ18の回転数は例えばランナ18に流入する水の流量に依存するので、ガイドベーン16の開度を調整することでフランシス水車1の運転状態を制御可能である。
【0023】
なお、フランシス水車1の運転状態を例えば水の流量を基準に区分しても良い。
【0024】
次に、運転停止から定格運転に向けてフランシス水車1を起動する場合の制御例について
図2を参照して説明する。ここで、フランシス水車1を起動する指令が入力される時点では、ガイドベーン16、および給気弁28は全閉とした状態とする。
【0025】
まず、管理者が、運転停止であるフランシス水車1の制御装置32に定格運転指令を入力する(S100)。
【0026】
次に、制御装置32は、ガイドベーン16を開く制御信号を送信し、ガイドベーン16を開き始める(ステップS102)。ガイドベーン16が開き始めると、ガイドベーン16を通過した水がランナ18に流入し、ランナ18が回転し始めて過渡運転状態になる。
【0027】
次に、制御装置32は、ランナ18に流入する水の流量を流量計30から受信して、流量が第1基準値以上か否かを判定する(ステップS104)。なお、第1基準値はフランシス水車1が過渡運転になる程度の流量であり、ステップS104およびS106はフランシス水車1が電力系統に接続されない過渡運転において実行される。
【0028】
制御装置32が流量は第1基準値以上であると判定した場合(ステップS104のYES)、制御装置32は、給気弁28を全開する制御信号を駆動装置に出力して給気弁28を開く(ステップS106)。一方、制御装置32が流量は第1基準値未満であると判定した場合(ステップS104のNO)は、流量が第1基準値以上となるまで制御装置32による流量の判定を継続する。
【0029】
ステップS106の後に、制御装置32は、ランナ18に流入する水の流量を流量計30から受信して、流量が第2基準値以上か否かを判定する(ステップS108)。なお、第2基準値はフランシス水車1が通常運転になる程度の流量であり、ステップS108およびS110はフランシス水車1が電力系統に接続される通常運転において実行される。
【0030】
制御装置32流量は第2基準値以上であると判定した場合(ステップS108のYES)、制御装置32は、給気弁28を全閉する制御信号を駆動装置に出力して給気弁28を閉じて定格運転に移行する(ステップS110)。一方、制御装置32が流量は第2基準値未満である判定した場合(ステップS108のNO)は、流量が第2基準値以上となるまで制御装置32による流量の判定を継続する。
【0031】
なお、ステップS102からS110にかけてガイドベーン16は開動作を続けても良いし、例えばステップS106およびS110において給気弁28を制御する間は開動作を停止して制御が終わるまで一定開度としても良い。
【0032】
なお、ステップS108における第2基準値は、給気を停止しても振動・騒音が許容範囲に収まる程度の流量に設定すれば良く、定格運転に該当するか否かには限定されない。
【0033】
水車の起動時における水の流量が小さい過渡運転では、通常運転に生じないような、ランナ18の回転に伴うキャビテーションや逆流による振動・騒音が生じる可能性がある。したがって、上述のように、第1基準値以上の水が流れる場合には給気弁28を開けて給気し、ランナ18の故障を防ぐために振動・騒音を抑制する。一方で水の流量が十分大きい通常運転では、このような振動・騒音は生じにくいので、第2基準値以上の水が流れる場合に給気弁28を閉じて給気を停止する。
【0034】
このように、フランシス水車1の起動時にランナ18の回転に伴うキャビテーションや逆流を防ぐように制御することで、通常運転だけでなく、起動時の過渡運転においても振動・騒音を抑制し、ランナ18が故障する可能性を一層低減できる。特に、通常運転の流量を基準に設計されたランナ18は、水の流量が通常運転よりも小さい過渡運転においてより振動・騒音が起こる可能性があり、過渡運転での振動・騒音を抑制することでランナ18が故障する可能性をより低減できる。また、過渡運転では流量の時間変化が大きいことに加えて、上池および下池の落差変化に伴って、例えば同じガイドベーン16の開度でも流量が異なる場合があり、その変動は通常運転よりも大きい。したがって、流量計30で測定した流量を基準にすることで、適切なタイミングで給気弁28を制御することができ、振動・騒音をより効果的に抑制することができる。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1…フランシス水車、10…鉄管、12…ケーシング、14…ステーベーン、16…ガイドベーン、18…ランナ、20…主軸、22…発電機、24…吸出し管、26…給気管、28…給気弁、30…流量計、32…制御装置。