(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126846
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/12 20060101AFI20240912BHJP
H02J 3/16 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H02J3/12
H02J3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035554
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武尊
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】高階 和行
(72)【発明者】
【氏名】英 洋平
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066DA04
5G066DA08
(57)【要約】
【課題】電力系統の電圧を適切に制御する。
【解決手段】制御システム20は、電力系統における電圧調整装置を制御する。制御システム20は、電力系統における複数のノードの各々における電圧を特定する電圧特定部41と、電圧調整装置における整定値の更新の要否を前記各ノードにおける電圧に応じて判定する要否判定部42と、整定値の更新が必要と判定された場合に整定値を算定する整定値算定部43と、算定された整定値を電圧調整装置に送信する整定値送信部44とを具備する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統における電圧調整装置を制御する制御システムであって、
前記電力系統における複数のノードの各々における電圧を特定する電圧特定部と、
前記電圧調整装置における整定値の更新の要否を前記各ノードにおける電圧に応じて判定する要否判定部と、
前記整定値の更新が必要と判定された場合に整定値を算定する整定値算定部と、
前記算定された整定値を前記電圧調整装置に送信する整定値送信部とを具備し、
前記要否判定部は、
前記複数のノードにおける電圧について基準範囲からの逸脱量の合計値が閾値を上回る場合に、前記整定値の更新が必要であると判定する
制御システム。
【請求項2】
前記複数のノードのうち少なくとも一部のノードにおける電圧が基準範囲から逸脱した状態の継続時間が閾値を上回る場合に、前記整定値の更新が必要であると判定する
請求項1の制御システム。
【請求項3】
前記整定値の更新が必要であると前記要否判定部が判定するたびに、前記整定値算定部による整定値の算定と、前記整定値送信部による整定値の送信とが実行される
請求項1の制御システム。
【請求項4】
前記電力系統は、無効電力補償装置を含み、
前記整定値算定部は、前記電圧調整装置による電圧の調整と、前記無効電力補償装置による無効電力の供給とを停止したと仮定された状態のもとで、前記複数のノードの各々における電圧に応じて前記整定値を算定する
請求項1の制御システム。
【請求項5】
前記整定値算定部は、前記電圧調整装置による送出電圧が目標電圧に近付くように、前記複数のノードの各々における電圧に応じて前記整定値を算定する
請求項1の制御システム。
【請求項6】
電力系統における電圧調整装置を制御する方法であって、
前記電力系統における複数のノードの各々における電圧を特定し、
前記電圧調整装置における整定値の更新の要否を前記各ノードにおける電圧に応じて判定し、
前記整定値の更新が必要と判定された場合に整定値を算定し、
前記算定された整定値を前記電圧調整装置に送信し、
前記判定においては、
前記複数のノードにおける電圧について基準範囲からの逸脱量の合計値が閾値を上回る場合に、前記整定値の更新が必要であると判定する
コンピュータシステムにより実現される制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力系統に設置された電圧調整装置を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電に代表される分散型電源の普及等を背景として、電力系統の各地点における電圧を制御する技術の重要性が増加している。例えば非特許文献1には、配電系統における電圧調整装置(SVR:Step Voltage Regulator)の整定値を電圧集中制御システムにより制御する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】渡部ほか,“電圧集中制御システムを用いたSVR制御パラメータ決定手法に関する初期検討”,令和4年電気学会全国大会,2022年3月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従前の技術のもとでは、電力系統の各地点における電圧を適切に制御する観点から更なる改善の余地がある。例えば、電圧調整装置の整定値を適切な頻度で更新するという観点から、従前の技術には改善の余地がある。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、電力系統の電圧を適切に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る制御システムは、電力系統における電圧調整装置を制御する制御システムであって、前記電力系統における複数のノードの各々における電圧を特定する電圧特定部と、前記電圧調整装置における整定値の更新の要否を前記各ノードにおける電圧に応じて判定する要否判定部と、前記整定値の更新が必要と判定された場合に整定値を算定する整定値算定部と、前記算定された整定値を前記電圧調整装置に送信する整定値送信部とを具備する。
【0006】
本開示のひとつの態様に係る制御方法は、電力系統における電圧調整装置を制御する方法であって、前記電力系統における複数のノードの各々における電圧を特定し、前記電圧調整装置における整定値の更新の要否を前記各ノードにおける電圧に応じて判定し、前記整定値の更新が必要と判定された場合に整定値を算定し、前記算定された整定値を前記電圧調整装置に送信する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力系統の電圧を適切に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態における電力システムの構成を例示するブロック図である。
【
図3】制御システムの構成を例示するブロック図である。
【
図9】制御システムの機能的な構成を例示するブロック図である。
【
図16】第2実施形態における要否判定部の動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0010】
A:第1実施形態
図1は、第1実施形態における電力システム100のブロック図である。第1実施形態の電力システム100は、例えば事業設備または一般家庭等の複数の需要家18に電力を供給するためのシステムであり、電力系統10と制御システム20とを具備する。
【0011】
電力系統10は、例えば火力発電所または原子力発電所等の発電設備(図示略)により生成された電力を各需要家18に配電する配電系統である。電力系統10は、配電線により相互に接続された複数の要素設備を含む。電力系統10を構成する複数の要素設備は、例えば遮断機(FCB:Field-discharge Circuit-Breaker)11、電柱12、計測器13、無効電力補償装置14(SVC:Static Var Compensator)、分散型電源15(PV:Photovoltaic)および電圧調整装置16(SVR:Step Voltage Regulator)を含む。なお、電力系統10には実際には複数の電圧調整装置16が含まれるが、以下の説明では便宜的に1個の電圧調整装置16に着目する。
【0012】
計測器13は、電力系統10のうち当該計測器13が設置された地点における計測値Mを生成する。計測値Mは、例えば計測器13が設置された地点の電圧Mvと電流Miと力率Mfとを含む。第1実施形態の計測器13は、例えば電力の導通/遮断を切替える開閉器(SW:Switch)に搭載される。各電柱12には柱上変圧器が設置される。
【0013】
無効電力補償装置14は、電力系統10における無効電力を補償する。分散型電源15は、発電機(例えば太陽光発電機)および蓄電池等の電源設備である。分散型電源15が電力を発生する結果、電力系統10には、配電経路の下流側(末端側)に向かう順潮流のほか、配電経路の上流側(変電所側)に向かう逆潮流が発生し得る。なお、無効電力補償装置14および分散型電源15は電力系統10から省略されてもよい。
【0014】
電圧調整装置16は、電力系統10の電圧を調整する。具体的には、電圧調整装置16は、電力系統10の下流側に送出する電圧(以下「送出電圧」という)を調整することで、電圧調整装置16からみて下流側に位置する各地点の電圧を制御する。第1実施形態の電圧調整装置16は、整定値Zに応じて送出電圧を制御する。整定値Zは、電圧調整装置16の動作を指示するパラメータである。
【0015】
図2に例示される通り、以上に説明した電力系統10は、複数のノードNと複数のブランチBとで構成されるノードブランチモデルにより近似的に表現される。複数のノードNの各々は、電力系統10の各要素設備に相当し、複数のブランチBの各々は、各要素設備を相互に接続する配電線に相当する。電圧調整装置16は、1次側および2次側の2個のノードNにより表現される。
【0016】
図1の制御システム20は、電圧調整装置16を制御するためのコンピュータシステムである。具体的には、制御システム20は、電力系統10の電圧状態に応じて電圧調整装置16の整定値Zを制御する。制御システム20は、例えば専用線等の通信網30を介して、電圧調整装置16と通信可能である。
【0017】
図3は、制御システム20の構成を例示するブロック図である。
図3に例示される通り、制御システム20は、制御装置21と記憶装置22と通信装置23と操作装置24と表示装置25とを具備する。なお、制御システム20は、単体の装置により実現されるほか、相互に別体で構成された複数の装置でも実現される。
【0018】
制御装置21は、制御システム20の各要素を制御する単数または複数のプロセッサで構成される。具体的には、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の1種類以上のプロセッサにより、制御装置21が構成される。
【0019】
通信装置23は、外部装置との間で有線または無線により通信する。具体的には、通信装置23は、例えば専用線等の通信網30を介して電力系統10の各要素設備と通信する。例えば、通信装置23は、計測値Mを各計測器13から受信する。各計測器13による計測と通信装置23による計測値Mの受信とは、例えば所定の周期で反復される。また、通信装置23は、電圧調整装置16に整定値Zを送信する。整定値Zは、通信網30を介して電圧調整装置16に提供される。なお、制御システム20とは別体の通信装置23が、制御システム20に有線または無線により接続されてもよい。
【0020】
操作装置24は、例えば制御システム20の利用者からの指示を受付ける入力機器である。操作装置24は、例えば、利用者が操作する操作子、または、利用者による接触を検知するタッチパネルである。制御システム20の利用者は、例えば電力事業者の従業者等の管理者である。表示装置25は、制御装置21による制御のもとで画像を表示する。表示装置25は、例えば、液晶表示パネルまたは有機EL(Electroluminescence)パネル等の表示パネルである。なお、制御システム20とは別体の操作装置24または表示装置25が、制御システム20に有線または無線により接続されてもよい。
【0021】
記憶装置22は、制御装置21が実行するプログラムと制御装置21が使用するデータとを記憶する単数または複数のメモリである。記憶装置22は、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成される。複数種の記録媒体の組合せにより記憶装置22が構成されてもよい。制御システム20に対して着脱される可搬型の記録媒体が、記憶装置22として利用されてもよい。
【0022】
図3に例示される通り、第1実施形態の記憶装置22は、上限電圧VUと下限電圧VLとを記憶する。上限電圧VUは、電力系統10において許容される電圧の最大値である。下限電圧VLは、電力系統10において許容される電圧の最小値である。上限電圧VUと下限電圧VLとの間の範囲(後述の基準範囲W)内に維持されるように電力系統10の電圧が制御される。また、
図3に例示される通り、記憶装置22は、計測データD1と設備データD2と仕様データD3とノードデータD4とブランチデータD5とを記憶する。
【0023】
図4は、計測データD1の模式図である。計測データD1は、電力系統10の各計測器13の計測値M(電圧Mv,電流Mi,力率Mf)が登録されたデータベースである。各計測器13が生成した計測値Mは、当該計測器13の識別情報(ID)および計測日時(d,t)とともに計測データD1に登録される。計測日時(d,t)は、計測器13が計測値Mを計測した日付d(day)および時刻t(time)で規定される。通信装置23による計測値Mの受信毎に、計測値Mと識別情報と計測日時(d,t)とが計測データD1に追加される。すなわち、計測値Mの時系列が計測器13毎に計測データD1に登録される。
【0024】
図5は、設備データD2の模式図である。設備データD2は、電力系統10の各電柱12に関する情報が登録されたデータベースである。具体的には、識別情報(ID)と契約電力と柱上変圧比とが電柱12毎に登録される。識別情報は、各電柱12を識別するための符号列(例えば電柱名)である。各電柱12の契約電力は、当該電柱12に接続された1以上の需要家18の契約電力の合計値である。柱上変圧比は、電柱12に設置された柱上変圧器の変圧比である。
【0025】
図6は、仕様データD3の模式図である。仕様データD3は、電圧調整装置16の性能または機能に関する情報である。電力系統10に含まれる電圧調整装置16毎に仕様データD3が記憶される。具体的には、仕様データD3は、識別情報D31と定格情報D32と基準情報D33と制御情報D34と制御情報D35とを含む。識別情報D31は、電圧調整装置16を識別するための符号列である。
【0026】
定格情報D32は、電圧調整装置16の電気特性に関する基本的な情報であり、定格電圧と定格容量とタップ幅と素通しタップ位置と不感帯とを含む。タップ幅は、電圧調整装置16による電圧の調整幅であり、素通しタップ位置は、電圧調整装置16が電力系統10の電圧を変化させない状態における電圧調整装置16のタップ位置である。定格情報D32は、例えば操作装置24に対する操作で利用者により指定される。
【0027】
基準情報D33は、電圧調整装置16の基準電圧Vrefに関する情報であり、基準電圧Vrefと、基準電圧Vrefの上限値Vref_Uおよび下限値Vref_Lと、基準電圧Vrefの変動幅とを含む。基準電圧Vrefの上限値Vref_Uおよび下限値Vref_Lと変動幅とは、例えば操作装置24に対する操作で利用者により指定される。
【0028】
制御情報D34は、電圧調整装置16の動作を規定する制御値LDC_Rに関する情報である。具体的には、制御情報D34は、制御値LDC_Rと、制御値LDC_Rの上限値LDC_RUおよび下限値LDC_RLと、制御値LDC_Rの変動幅とを含む。上限値LDC_RUおよび下限値LDC_RLと制御値LDC_Rの変動幅とは、例えば操作装置24に対する操作で利用者により指定される。
【0029】
同様に、制御情報D35は、電圧調整装置16の動作を規定する制御値LDC_Xに関する情報である。具体的には、制御情報D35は、制御値LDC_Xと、制御値LDC_Xの上限値LDC_XUおよび下限値LDC_XLと、制御値LDC_Xの変動幅とを含む。上限値LDC_XUおよび下限値LDC_XLと制御値LDC_Xの変動幅とは、例えば操作装置24に対する操作で利用者により指定される。
【0030】
制御システム20から電圧調整装置16に指示される整定値Zは、基準電圧Vrefと制御値LDC_Rと制御値LDC_Xとを含む。電圧調整装置16は、制御システム20から受信した整定値Zに応じた送出電圧を出力する。
【0031】
図7は、ノードデータD4の模式図である。ノードデータD4は、電力系統10の各ノードNに関する情報が登録されたデータベースである。具体的には、ノードデータD4は、電力系統10の各ノードNについて、ノード番号とノードタイプと有効電力負荷Lpと無効電力負荷Lqと柱上変圧比とを含む。ノード番号は、複数のノードの各々に一意に付与された番号である。ノードタイプは、ノードNに相当する要素設備の種別である。計測器13および電柱12については識別情報がノードタイプとして指定される。したがって、計測データD1の識別情報が表す計測器13と、設備データD2の識別情報が表す電柱12とが、複数のノードNの何れに相当するのかが規定される。柱上変圧比は、電柱12に相当するノードNについて登録される。
【0032】
図8は、ブランチデータD5の模式図である。ブランチデータD5は、電力系統10の各ブランチBに関する情報が登録されたデータベースである。具体的には、ブランチデータD5は、電力系統10の各ブランチBについて、上流端と下流端とブランチタイプと抵抗値(配電線R)とリアクタンス(配電線X)とを含む。上流端は、ブランチBにおける上流側の端部に位置するノードNのノード番号である。下流端は、ブランチBにおける下流側の端部に位置するノードNのノード番号である。
【0033】
図9は、制御システム20の機能的な構成を例示するブロック図である。制御装置21は、記憶装置22に記憶されたプログラムを実行することで、電圧調整装置16の整定値Zを制御するための複数の機能(電圧特定部41,要否判定部42,整定値算定部43,整定値送信部44)を実現する。
【0034】
[電圧特定部41]
電圧特定部41は、電力系統10の複数のノードNの各々における電圧Vを特定する。
図10は、電圧特定部41が各ノードNの電圧Vを特定する処理(以下「電圧特定処理」という)のフローチャートである。
【0035】
電圧特定処理が開始されると、電圧特定部41は、電力系統10の計測器13毎に有効電力Pおよび無効電力Qを算定する(S21)。各計測器13における有効電力Pおよび無効電力Qの算定には、計測データD1に登録された当該計測器13の計測値M(電圧Mv,電流Mi,力率Mf)が使用される。具体的には、電圧特定部41は、以下の数式(1a)および数式(1b)の演算により有効電力Pおよび無効電力Qを算定する。
【数1】
【0036】
電圧特定部41は、各計測器13の有効電力Pに応じて各ノードNの有効電力負荷Lpを算定する(S22)。具体的には、電圧特定部41は、計測器13間の各電柱12における契約電力の比率で各計測器13の有効電力Pを按分することで、各ノードNの有効電力負荷Lpを算定する。
【0037】
同様に、電圧特定部41は、各計測器13の無効電力Qに応じて各ノードNの無効電力負荷Lqを算定する(S23)。具体的には、電圧特定部41は、計測器13間の各電柱12における契約電力の比率で各計測器13の無効電力Qを按分することで、各ノードNの無効電力負荷Lqを算定する。電圧特定部41が算定した有効電力負荷Lpおよび無効電力負荷Lqは、ノードデータD4に登録される。
【0038】
電圧特定部41は、ノードデータD4とブランチデータD5とを適用した潮流計算により、電力系統10の各ノードNの電圧Vを算定する(S24)。潮流計算には、公知の技術が任意に採用される。電圧特定部41が算定した各ノードNの電圧Vは記憶装置22に記憶される。
【0039】
[要否判定部42]
図9の要否判定部42は、電圧調整装置16における整定値Zの更新の要否を判定する。具体的には、要否判定部42は、電圧特定部41が各ノードNについて特定した電圧Vに応じて整定値Zの更新の要否を判定する。
【0040】
図11は、要否判定部42の動作の説明図である。
図11には、電力系統10のうち電圧調整装置16が電圧を管理する区間(以下「管轄区間」という)H内の各ノードNの電圧V(縦軸)が図示されている。
図11の横軸は、電力系統10における各ノードNの位置である。管轄区間Hは、電力系統10のうち電圧調整装置16の下流側の区間である。
【0041】
図11の基準範囲Wは、記憶装置22に記憶された上限電圧VUと下限電圧VLとの間の数値範囲(VL≦V≦VU)である。なお、基準範囲Wは、上限電圧VUおよび下限電圧VLを含まない範囲(VL<V<VU)でもよい。
【0042】
第1実施形態の要否判定部42は、管轄区間H内の複数のノードNのうち少なくとも一部のノードNにおける電圧Vが基準範囲Wから逸脱した場合に、整定値Zの更新が必要であると判定する。具体的には、電圧Vが下限電圧VLを下回るノードNまたは電圧Vが上限電圧VUを上回るノードNが、管轄区間H内に存在する場合、要否判定部42は、整定値Zの更新が必要であると判定する。
図11においては、管轄区間H内の5個の電柱12-1~12-5のうち電柱12-4および電柱12-5における電圧Vが下限電圧VLを下回る状態が例示されている。以上の状態においては、要否判定部42は、整定値Zの更新が必要であると判定する。他方、管轄区間H内の全部のノードNの電圧Vが基準範囲W内の数値である場合、要否判定部42は、整定値Zの更新が不要であると判定する。以上の説明から理解される通り、基準範囲Wは、各ノードNの電圧Vに関する許容範囲である。
【0043】
[整定値算定部43および整定値送信部44]
図9の整定値算定部43は、整定値Zの更新が必要であると要否判定部42が判定した場合に、電圧調整装置16の整定値Zを算定する。具体的には、整定値算定部43は、管轄区間H内の各ノードNの電圧Vが基準範囲W内の数値となるように整定値Zを算定する。整定値送信部44は、整定値算定部43が算定した整定値Zを通信装置23から電圧調整装置16に送信する。
【0044】
図12は、整定値算定部43が整定値Zを算定する処理(以下「整定値算定処理」という)のフローチャートである。整定値算定処理が開始されると、整定値算定部43は、無効電力補償装置14による無効電力の供給と電圧調整装置16による電圧の調整とが停止したと仮定された仮想的な状態のもとで、各ノードNの電圧Vを算定する(S41-S43)。
【0045】
まず、整定値算定部43は、無効電力補償装置14(SVC)に相当する各ノードNについてノードデータD4に登録された無効電力負荷Lqを0に設定する(S41)。すなわち、無効電力補償装置14による無効電力の供給が停止した状態を仮想的に生成する。また、整定値算定部43は、電圧調整装置16に相当するノードNを素通しタップ位置に設定する(S42)。具体的には、整定値算定部43は、電圧調整装置16に相当するノードNについてブランチデータD5に登録された抵抗値およびリアクタンスを、素通しタップ位置に対応する数値に設定する。すなわち、電圧調整装置16による電圧の調整が停止した状態を仮想的に生成する。
【0046】
整定値算定部43は、以上に説明した処理後のノードデータD4とブランチデータD5とを適用した潮流計算により、電力系統10の各ノードNの電圧Vを算定する(S43)。潮流計算には、公知の技術が任意に採用される。整定値算定部43が算定した各ノードNの電圧Vは記憶装置22に記憶される。
【0047】
以上の説明の通り、第1実施形態においては、電圧調整装置16による電圧の調整と無効電力補償装置14による無効電力の供給とが停止した状態が仮定される。したがって、電力系統10の電圧を適切な範囲に維持可能な適切な整定値Zを算定できる。
【0048】
図13は、管轄区間H内の各ノードNについて整定値算定部43が算定した電圧Vの模式図である。
図13の特性G1は、整定値算定部43が各ノードNについて特定した電圧V(d,t)の系列である。すなわち、特性G1は、無効電力補償装置14および電圧調整装置16による電圧調整が実行されていない仮想的な状態における電力系統10の電圧状態を表す。管轄区間Hの起点(左端)に位置するノードNが電圧調整装置16であり、当該ノードNの電圧Vが電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(d,t)である。
【0049】
図13の特性G2は、特性G1の調整により実現されるべき理想的な電圧(以下「目標電圧」という)V(d,t)の系列である。第1実施形態においては、電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(d,t)が目標電圧Vs(d,t)に接近または一致するように、電圧調整装置16の整定値Zが算定される。すなわち、電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(d,t)が調整量ΔV(d,t)だけ変化するように整定値Zが設定される。以上のように整定値Zを更新することで、管轄区間H内の各ノードNの電圧Vが調整量ΔV(d,t)だけ変化し、変化後の各ノードNの電圧V(d,t)は基準範囲W内の数値となる。
【0050】
整定値算定部43は、以上に説明した目標電圧Vs(d,t)を算定する(S44-S46)。まず、整定値算定部43は、潮流計算により算定された複数の電圧V(d,t)から、
図13に例示された以下の数値を抽出する(S44)。
(1) 管轄区間H内における電圧Vの最大値Vmax(d,t)および最小値Vmin(d,t)
(2) 電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(d,t)
【0051】
また、整定値算定部43は、電圧調整装置16の通過有効電力Psvr(d,t)および通過無効電力Qsvr(d,t)を算定する(S45)。通過有効電力Psvr(d,t)は、電圧調整装置16を通過する有効電力Pであり、通過無効電力Qsvr(d,t)は、電圧調整装置16を通過する無効電力Qである。
【0052】
図14に例示される通り、整定値算定部43が算定する以上の数値は記憶装置22に記憶される。なお、ノードデータD4における有効電力負荷Lpおよび無効電力負荷Lqは、相異なる日時について計測データD1に登録された計測値Mに応じて日時毎(日付dと時刻tとの組合せ毎に)に算定される。したがって、潮流計算により各ノードNについて算定される電圧V(d,t)は日時毎の数値である。すなわち、相異なる複数の日時(d,t)の各々について、以上に例示した数値(Vmax(d,t),Vmin(d,t),Vsvr(d,t),Psvr(d,t),Qsvr(d,t))が、記憶装置22に記憶される。
【0053】
整定値算定部43は、電圧調整装置16の目標電圧Vs(d,t)を算定する(S46)。具体的には、整定値算定部43は、各日時(d,t)について記憶装置22に記憶された各数値を適用した以下の数式(2)の演算により、当該日時(d,t)の目標電圧Vs(d,t)を算定する。
【数2】
【0054】
数式(2)から理解される通り、最大値Vmax(d,t)と最小値Vmin(d,t)との平均値が、上限電圧VUと下限電圧VLとの平均値を上回る場合、調整量ΔV(d,t)は負数となる。したがって、調整量ΔV(d,t)は電圧Vsvr(d,t)を減少させるように作用する。他方、最大値Vmax(d,t)と最小値Vmin(d,t)との平均値が、上限電圧VUと下限電圧VLとの平均値を下回る場合、調整量ΔV(d,t)は正数となる。したがって、調整量ΔV(d,t)は電圧Vsvr(d,t)を増加させるように作用する。
【0055】
以上の説明から理解される通り、目標電圧Vs(d,t)は、電圧Vsvr(d,t)と比較して基準範囲W内の数値に接近する。具体的には、
図13における差分ΔVUと差分ΔVLとが近似(理想的には一致)するように、目標電圧Vs(d,t)が設定される。差分ΔVUは、管轄区間H内における目標電圧Vs(d,t)の最大値と上限電圧VUとの差分の絶対値である。他方、差分ΔVLは、管轄区間H内における目標電圧Vs(d,t)の最小値と下限電圧VLとの差分の絶対値である。
【0056】
整定値算定部43は、電圧調整装置16の現実の送出電圧Vs'(d,t)が目標電圧Vs(d,t)に近付くように整定値Zを算定する(S47)。具体的には、整定値算定部43は、数式(3)で表現される目的関数F(Z)が最小化されるように基準電圧Vrefと制御値LDC_Rと制御値LDC_Xとを算定する。
【数3】
数式(3)から理解される通り、目的関数F(Z)は、目標電圧Vs(d,t)と送出電圧Vs'(d,t)との差分の自乗を、複数の日時(d,t)にわたり合計した数値として算定される。すなわち、目的関数F(Z)は、目標電圧Vs(d,t)と送出電圧Vs'(d,t)との誤差の指標である。数式(3)における総和Σは、現在を含む所定長の期間にわたる合計値を意味する。
【0057】
数式(3)の送出電圧Vs'(d,t)は、例えば以下の数式(4)で表現される。数式(4)の記号PTは所定の正数である。
【数4】
【0058】
整定値算定部43は、以下に例示する制約条件のもとで整定値Zを算定する。
【数5】
制約条件の各変数の数値は、仕様データD3に登録された数値である。以上の通り、整定値Zに含まれる基準電圧Vref、制御値LDC_Rおよび制御値LDC_Xは、仕様データD3に指定された範囲内において最適化される。
【0059】
以上の説明から理解される通り、整定値算定部43は、所定の制約条件のもとで目的関数F(Z)が最小化されるように整定値Z(決定変数)を最適化する最適化処理を実行する。最適化処理には公知の技術が任意に採用される。整定値Zの最適化処理としては、例えば厳密解法と近似解法とが想定される。厳密解法は、例えば、全通りの整定値Zについて目的関数F(Z)を算定し、目的関数F(Z)が最小となる整定値Zを選択する処理である。近似解法は、目的関数F(Z)を近似的に最小化する整定値Zを算定する処理である。例えば、遺伝的アルゴリズム等の進化的アルゴリズム、または、粒子群最適化(PSO:Particle Swarm Optimization)等の群知能アルゴリズムが、近似解法として想定される。
【0060】
以上の説明から理解される通り、第1実施形態の整定値算定部43は、電圧調整装置16による送出電圧Vs'(d,t)が目標電圧Vs(d,t)に近付くように、複数のノードNの各々における電圧Vに応じて整定値Zを算定する。すなわち、複数のノードNの各々における電圧Vが、整定値Zの更新に関する要否の判定と整定値Zの算定とに兼用される。したがって、更新の要否の判定と整定値Zの算定とが相互に独立の情報に基づいて実行される形態と比較して、整定値Zの制御に必要な処理負荷を軽減できる。ただし、整定値Zの更新に関する要否の判定と整定値Zの算定との双方に、各ノードNの電圧Vを適用することは、本開示において必須ではない。
【0061】
図15は、制御装置21が実行する処理(以下「電圧制御処理」という)の具体的な手順を例示するフローチャートである。例えば、操作装置24に対する利用者からの指示を契機として電圧制御処理が開始される。電圧制御処理は、「制御方法」の一例である。
【0062】
電圧制御処理が開始されると、制御装置21は、整定値Zの制御に必要なデータ(D1~D5)の読込を実行する(S1)。制御装置21(電圧特定部41)は、
図10に例示した電圧特定処理を実行することで、電力系統10の各ノードNにおける電圧Vを特定する(S2)。制御装置21(要否判定部42)は、各ノードNについて特定した電圧Vに応じて整定値Zの更新の要否を判定する(S3)。
【0063】
整定値Zの更新が必要であると判定した場合(S3:YES)、制御装置21(整定値算定部43)は、
図12に例示した整定値算定処理を実行することで整定値Zを算定する(S4)。制御装置21(整定値送信部44)は、整定値Zを通信装置23から電圧調整装置16に送信する(S5)。他方、整定値Zの更新が不要であると判定した場合(S3:NO)、整定値Zの算定(S4)および送信(S5)は実行されない。
【0064】
制御装置21は、所定の終了条件が成立したか否かを判定する(S6)。終了条件は、例えば、操作装置24に対する利用者からの操作により電圧制御処理の終了が指示されたことである。終了条件が成立しない場合(S6:NO)、制御装置21は、処理をステップS1に移行する。すなわち、各ノードNの電圧Vの特定(S1,S2)と整定値Zの更新の要否の判定(S3)とが周期的に反復される。そして、整定値Zの更新が必要であると判定されるたびに、整定値Zの算定(S4)および送信(S5)が実行される。
【0065】
以上の説明の通り、第1実施形態においては、電力系統10の複数のノードNの各々における電圧Vに応じて整定値Zの更新の要否が判定され、整定値Zの更新が必要と判定された場合に整定値Zの算定および送信が実行される。したがって、例えば電圧調整装置16の整定値Zが周期的にのみ更新される形態と比較して、整定値Zの更新の過不足が低減され、結果的に電力系統10の電圧を適切に維持できる。また、整定値Zの更新が不要と判定された場合には整定値Zの算定および送信が実行されないから、例えば整定値Zが周期的にのみ更新される形態と比較して、制御システム20の処理負荷および電圧調整装置16との間の通信量を削減できる。第1実施形態においては特に、整定値Zの更新が必要であると判定されるたびに整定値Zの更新が反復される。したがって、電力系統10の電圧の変動に迅速に対応可能である。
【0066】
また、第1実施形態においては、複数のノードNのうち少なくとも一部のノードNにおける電圧Vが基準範囲Wから逸脱した場合に、整定値Zの更新が必要であると判定される。したがって、整定値Zの更新の要否を判定するための構成および処理を簡素化できる。
【0067】
B:第2実施形態
本開示の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各態様において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明と同様の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0068】
第1実施形態の要否判定部42は、複数のノードNのうち少なくとも一部のノードNにおける電圧Vが基準範囲Wから逸脱した場合に、整定値Zの更新が必要であると判定する。第2実施形態は、要否判定部42が整定値Zの更新の要否を判定する方法が、第1実施形態とは相違する。要否判定部42以外の構成および動作は第1実施形態と同様である。
【0069】
図16は、第2実施形態における要否判定部42の動作の説明図である。
図16には、前述の
図11と同様に、管轄区間H内の各ノードNの電圧Vが図示されている。
【0070】
図16においては、基準範囲Wの外側の各電圧Vについて逸脱量Eが図示されている。逸脱量Eは、各ノードNの電圧Vが基準範囲Wから逸脱した度合の指標である。具体的には、基準範囲Wの端点の電圧(VU,VL)と各ノードNの電圧Vとの差分の絶対値が逸脱量Eとして算定される。例えば、要否判定部42は、上限電圧VUを上回る各電圧Vについて、電圧Vと上限電圧VUとの差分を逸脱量E(E=V-VU)として算定する。また、要否判定部42は、下限電圧VLを下回る電圧Vについて、下限電圧VLと電圧Vとの差分を逸脱量E(E=VL-V)として算定する。なお、基準範囲W内の電圧Vについては逸脱量Eの算定が省略され、または逸脱量Eが0に設定される。
【0071】
第2実施形態の要否判定部42は、管轄区間H内の複数のノードNにおける電圧Vについて逸脱量Eを合計した数値(以下「合計値」という)Esumに応じて、整定値Zの更新の要否を判定する(S3)。合計値Esumは、例えば複数の電圧Vの総和である。
図16に例示された状況においては、電柱12-4に対応する逸脱量Eと電柱12-5に対応する逸脱量Eとの加算により、合計値Esumが算定される。ただし、ノードN毎の加重値を適用した加重和が合計値Esumとして算定されてもよい。加重和は、例えば各ノードNの種類(ノードタイプ)に応じた数値に設定される。
【0072】
具体的には、要否判定部42は、逸脱量Eの合計値Esumが所定の閾値Ethを上回るか否かに応じて整定値Zの更新の要否を判定する。例えば、要否判定部42は、合計値Esumが閾値Ethを上回る場合(Esum>Eth)に整定値Zの更新が必要であると判定し、合計値Esumが閾値Ethを下回る場合(Esum<Eth)に整定値Zの更新が不要であると判定する。なお、合計値Esumが閾値Ethに一致する場合、判定の結果は肯定および否定の何れでもよい。閾値Ethは、適切な正数に設定される。なお、操作装置24に対する利用者からの操作に応じて閾値Ethが可変に設定されてもよい。
【0073】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態においては、複数のノードNにおける電圧Vについて基準範囲Wからの逸脱量Eの合計値Esumが閾値Ethを上回る場合に、整定値Zの更新が必要であると判定される。したがって、例えば複数のノードNのうち少なくとも一部のノードNにおける電圧Vが基準範囲Wから逸脱した場合に整定値Zの更新が必要であると判定する形態と比較して、整定値Zの更新の頻度が低減される。すなわち、整定値Zの更新が過剰な頻度で反復される可能性を低減できる。
【0074】
C:第3実施形態
第3実施形態においても、要否判定部42が整定値Zの更新の要否を判定する方法が、第1実施形態とは相違する。要否判定部42以外の構成および動作は第1実施形態と同様である。
【0075】
第3実施形態の要否判定部42は、管轄区間H内の複数のノードNのうち少なくとも一部のノードNの電圧Vが基準範囲Wから逸脱した状態(以下「逸脱状態」という)の継続時間Uに応じて、整定値Zの更新の要否を判定する(S3)。継続時間Uは、逸脱状態が継続する時間長である。なお、逸脱状態の「継続」は、特定のノードNの電圧Vについて逸脱状態が連続する場合のほか、電圧Vが逸脱状態となるノードNが順次に変化しながら管轄区間H内の全体のなかで逸脱状態が連続する場合も含む。
【0076】
具体的には、要否判定部42は、逸脱状態の継続時間Uが所定の閾値Uthを上回るか否かに応じて整定値Zの更新の要否を判定する。例えば、要否判定部42は、継続時間Uが閾値Uthを上回る場合(U>Uth)に整定値Zの更新が必要であると判定し、継続時間Uが閾値Uthを下回る場合(U<Uth)に整定値Zの更新が不要であると判定する。なお、継続時間Uが閾値Uthに一致する場合、判定の結果は肯定および否定の何れでもよい。閾値Uthは、適切な正数に設定される。なお、操作装置24に対する利用者からの操作に応じて閾値Uthが可変に設定されてもよい。
【0077】
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態においては、電力系統10の少なくとも一部のノードNにおける電圧Vが基準範囲Wから逸脱した状態の継続時間Uが閾値Uthを下回る場合には、整定値Zの更新が実行されない。したがって、整定値Zの更新が過剰な頻度で反復される可能性を低減できる。
【0078】
なお、第2実施形態に例示した条件と第3実施形態に例示した条件との双方の成立を、整定値Zの更新の条件として採用してもよい。具体的には、要否判定部42は、逸脱量Eの合計値Esumが所定の閾値Ethを上回り、かつ、逸脱状態の継続時間Uが閾値Uthを上回る場合に、整定値Zの更新が必要であると判定する。他方、逸脱量Eの合計値Esumが所定の閾値Ethを下回る場合、または、逸脱状態の継続時間Uが閾値Uthを下回る場合、整定値Zの更新が不要であると判定する。また、第2実施形態に例示した条件と第3実施形態に例示した条件との少なくとも一方の成立を、整定値Zの更新の条件として採用してもよい。
【0079】
D:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0080】
(1)整定値Zの更新の要否を判定する条件は、前述の各形態における例示に限定されない。以下に例示される通り、管轄区間H内の各ノードNの電圧Vに応じた各種の指標が、整定値Zの更新の要否を判定するために利用される。
【0081】
管轄区間H内の相異なるノードNに対応する複数の電圧Vのうち基準範囲Wの外側の電圧Vの点数(以下「逸脱数」という)に応じて、要否判定部42が整定値Zの更新の要否を判定してもよい。例えば、要否判定部42は、逸脱数が所定の閾値を上回る場合に整定値Zの更新が必要であると判定し、逸脱数が閾値を下回る場合に整定値Zの更新が不要であると判定する。
【0082】
また、管轄区間H内の電圧Vの総点数に対する基準範囲Wの外側の電圧Vの点数の比率(以下「逸脱率」という)に応じて、要否判定部42が整定値Zの更新の要否を判定してもよい。例えば、要否判定部42は、逸脱率が所定の閾値を上回る場合に整定値Zの更新が必要であると判定し、逸脱率が閾値を下回る場合に整定値Zの更新が不要であると判定する。
【0083】
以上の通り、本開示の具体的な態様における要否判定部42は、管轄区間H内の各ノードNの電圧Vが基準範囲Wから逸脱する度合の指標に応じて、整定値Zの更新の要否を判定する。第2実施形態における逸脱量Eの合計値Esumと、第3実施形態における逸脱状態の継続時間Uと、本変形例における逸脱数または逸脱率とは、整定値Zの更新の要否の基準となる指標の一例である。
【0084】
(2)前述の各形態においては、電力系統10に1個の電圧調整装置16が設置された形態を例示したが、複数の電圧調整装置16が電力系統10に設置されてもよい。電圧調整装置16-1と下流側の電圧調整装置16-2とを電力系統10が含む形態を想定すると、電圧調整装置16-1と電圧調整装置16-2との間の区間が、電圧調整装置16-1の管轄区間Hとして画定される。
【0085】
(3)前述の各形態に係る制御システム20の機能は、前述の通り、制御装置21を構成する単数または複数のプロセッサと、記憶装置22に記憶されたプログラムとの協働により実現される。以上に例示したプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体(光ディスク)が好例であるが、半導体記録媒体または磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体も包含される。なお、非一過性の記録媒体とは、一過性の伝搬信号(transitory, propagating signal)を除く任意の記録媒体を含み、揮発性の記録媒体も除外されない。また、配信装置が通信網を介してプログラムを配信する構成では、当該配信装置においてプログラムを記憶する記録媒体が、前述の非一過性の記録媒体に相当する。
【0086】
E:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0087】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る制御システムは、電力系統における電圧調整装置を制御する制御システムであって、前記電力系統における複数のノードの各々における電圧を特定する電圧特定部と、前記電圧調整装置における整定値の更新の要否を前記各ノードにおける電圧に応じて判定する要否判定部と、前記整定値の更新が必要と判定された場合に整定値を算定する整定値算定部と、前記算定された整定値を前記電圧調整装置に送信する整定値送信部とを具備する。以上の態様においては、電力系統の複数のノードの各々における電圧に応じて整定値の更新の要否が判定され、整定値の更新が必要と判定された場合に整定値の算定と電圧調整装置に対する送信とが実行される。したがって、例えば電圧調整装置の整定値が周期的にのみ更新される形態と比較して、整定値の更新の過不足が低減され、結果的に電力系統の電圧を適切に維持できる。
【0088】
態様1の具体例(態様2)において、前記要否判定部は、前記複数のノードのうち少なくとも一部のノードにおける電圧が基準範囲から逸脱した場合に、前記整定値の更新が必要であると判定する。以上の態様においては、複数のノードのうち少なくとも一部のノードにおける電圧が基準範囲から逸脱した場合に、整定値の更新が必要であると判定される。したがって、整定値の更新の要否を判定するための構成および処理を簡素化できる。
【0089】
態様1の具体例(態様3)において、前記要否判定部は、前記複数のノードにおける電圧について基準範囲からの逸脱量の合計値が閾値を上回る場合に、前記整定値の更新が必要であると判定する。以上の態様においては、複数のノードにおける電圧について基準範囲からの逸脱量の合計値が閾値を上回る場合に、整定値の更新が必要であると判定される。したがって、例えば複数のノードのうち少なくとも一部のノードにおける電圧が基準範囲から逸脱した場合に整定値の更新が必要であると判定する形態と比較して、整定値の更新の頻度が低減される。すなわち、整定値の更新が過剰な頻度で更新される可能性を低減できる。
【0090】
態様1から態様3の何れかの具体例(態様4)において、前記複数のノードのうち少なくとも一部のノードにおける電圧が基準範囲から逸脱した状態の継続時間が閾値を上回る場合に、前記整定値の更新が必要であると判定する。以上の態様においては、電力系統の少なくとも一部のノードにおける電圧が基準範囲から逸脱した状態の継続時間が閾値を下回る場合には、整定値の更新が実行されない。したがって、整定値の更新が過剰な頻度で反復される可能性を低減できる。
【0091】
態様1から態様4の何れかの具体例(態様5)において、前記整定値の更新が必要であると前記要否判定部が判定するたびに、前記整定値算定部による整定値の算定と、前記整定値送信部による整定値の送信とが実行される。以上の態様においては、整定値の更新が必要であると判定されるたびに整定値の更新が反復される。したがって、電力系統の電圧の変動に迅速に対応可能である。
【0092】
態様1から態様5の何れかの具体例(態様6)において、前記電力系統は、無効電力補償装置を含み、前記整定値算定部は、前記電圧調整装置による電圧の調整と、前記無効電力補償装置による無効電力の供給とを停止したと仮定された状態のもとで、前記複数のノードの各々における電圧に応じて前記整定値を算定する。以上の態様においては、電圧調整装置による電圧の調整と無効電力補償装置による無効電力の供給とが停止した状態が仮定される。したがって、電力系統の電圧を適切な範囲に維持可能な適切な整定値を算定できる。
【0093】
態様1から態様6の何れかの具体例(態様7)において、前記整定値算定部は、前記電圧調整装置による送出電圧が目標電圧に近付くように、前記複数のノードの各々における電圧に応じて前記整定値を算定する。以上の態様においては、複数のノードの各々における電圧が、整定値の更新に関する要否の判定と整定値の算定とに兼用される。したがって、更新の要否の判定と整定値の算定とが相互に独立の情報に基づいて実行される形態と比較して、整定値の制御に必要な処理負荷を軽減できる。
【0094】
本開示のひとつの態様(態様8)に係る制御方法は、電力系統における電圧調整装置を制御する方法であって、前記電力系統における複数のノードの各々における電圧を特定し、前記電圧調整装置における整定値の更新の要否を前記各ノードにおける電圧に応じて判定し、前記整定値の更新が必要と判定された場合に整定値を算定し、前記算定された整定値を前記電圧調整装置に送信する。
【符号の説明】
【0095】
100…電力システム、10…電力系統、11…遮断機、12…電柱、13…計測器、14…無効電力補償装置、15…分散型電源、16…電圧調整装置、18…需要家、20…制御システム、21…制御装置、22…記憶装置、23…通信装置、24…操作装置、25…表示装置、30…通信網、41…電圧特定部、42…要否判定部、43…整定値算定部、44…整定値送信部。