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特開2024-126847地震情報配信システム及び地震情報配信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126847
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】地震情報配信システム及び地震情報配信方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/28 20060101AFI20240912BHJP
   G01V 1/01 20240101ALI20240912BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20240912BHJP
   G08B 21/10 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01V1/28
G01V1/00 D
G08B31/00 B
G08B21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035555
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】保井 美敏
【テーマコード(参考)】
2G105
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105FF02
2G105FF16
2G105MM01
2G105MM02
5C086AA13
5C086EA13
5C086FA17
5C086FA18
5C087AA10
5C087DD02
5C087EE14
5C087FF01
5C087FF02
5C087GG14
5C087GG35
5C087GG66
5C087GG84
(57)【要約】
【課題】長周期地震動による被害を軽減することが可能な地震情報配信システム等を提供すること。
【解決手段】地震情報配信システムは、気象庁が配信する緊急地震速報を受信する受信部と、地震情報の配信対象となる複数の所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とを記憶する記憶部と、緊急地震速報が受信された場合に、緊急地震速報と所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とに基づいて、所定の場所毎に、所定の場所の固有周期に対応する周期の長周期地震動の予測値と到達時間の予測値とを算出する予測部と、長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、到達時間を含む地震情報を配信する配信部とを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象庁が配信する緊急地震速報を受信する受信部と、
地震情報の配信対象となる複数の所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とを記憶する記憶部と、
前記緊急地震速報が受信された場合に、前記緊急地震速報と前記所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とに基づいて、前記所定の場所毎に、前記所定の場所の固有周期に対応する周期の長周期地震動の予測値と到達時間の予測値とを算出する予測部と、
前記長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、前記到達時間を含む地震情報を配信する配信部とを含むことを特徴とする地震情報配信システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記記憶部は、
地震の規模と震源距離と長周期地震動の継続時間との関係を規定するデータを更に記憶し、
前記予測部は、
前記緊急地震速報と前記所定の場所の位置情報と前記データとに基づいて、前記長周期地震動の継続時間の予測値を求め、
前記配信部は、
前記長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、前記長周期地震動の継続時間を更に含む前記地震情報を配信することを特徴とする地震情報配信システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記配信部は、
前記長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、当該所定の場所における対応内容を更に含む前記地震情報を配信することを特徴とする地震情報配信システム。
【請求項4】
請求項1において、
前記記憶部は、
前記所定の場所の地盤増幅度の情報を更に記憶し、
前記予測部は、
前記緊急地震速報と前記所定の場所の位置情報及び地盤増幅度の情報とに基づいて、前記所定の場所毎に、短周期地震動の予測値を算出し、
前記配信部は、
前記短周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、前記短周期地震動の予測値と前記到達時間とを含む地震情報を配信することを特徴とする地震情報配信システム。
【請求項5】
気象庁が配信する緊急地震速報を受信する受信ステップと、
地震情報の配信対象となる複数の所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とを記憶する記憶ステップと、
前記緊急地震速報が受信された場合に、前記緊急地震速報と前記所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とに基づいて、前記所定の場所毎に、前記所定の場所の固有周期に対応する周期の長周期地震動の予測値と到達時間の予測値とを算出する予測ステップと、
前記長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、前記到達時間を含む地震情報を配信する配信ステップとを含むことを特徴とする地震情報配信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震情報配信システム及び地震情報配信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長周期地震動はこれまで、関東地震や東海地震など太平洋沖や新潟などの海溝型のマグニチュードの大きな地震で生じていた。都市部の超高層建築現場では、建設進捗(高層階の建設)とともに作業所の環境は長周期に反応しやすい環境になってくる。長周期地震動では、共振現象により大きな変位が生じるため、作業内容によっては避難行動を適切に行わないと大きな被害を生じることも予想される。
【0003】
従来、緊急地震速報を受信したときに、所定の場所毎に予測震度と予測到達余裕時間を計算し、計算された予測震度が閾値を超えた所定の場所に対して警報信号を送信するシステムが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-37516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の上記システムでは、長周期地震動に特化した情報伝達・対応指導がなされていなかったため、警報信号を出さないケースでもあと揺れの波に共振する長周期特有の現象(例えば、タワークレーンの大きな変形に伴う揺れ、仮設エレベータへの閉じ込め等)に安全に対応できない可能性があった。本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、気象庁が配信する緊急地震速報を受信する受信部と、地震情報の配信対象となる複数の所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とを記憶する記憶部と、前記緊急地震速報が受信された場合に、前記緊急地震速報と前記所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とに基づいて、前記所定の場所毎に、前記所定の場所の固有周期に対応する周期の長周期地震動の予測値と到達時間の予測値とを算出する予測部と、前記長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、前記到達時間を含む地震情報を配信する配信部とを含むことを特徴とする地震情報配信システムに関する。
【0007】
また本発明は、気象庁が配信する緊急地震速報を受信する受信ステップと、地震情報の配信対象となる複数の所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とを記憶する記憶ステップと、前記緊急地震速報が受信された場合に、前記緊急地震速報と前記所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とに基づいて、前記所定の場所毎に、前記所定の場所の固有周期に対応する周期の長周期地震動の予測値と到達時間の予測値とを算出する予測ステップと、前記長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、前記到達時間を含む地震情報を配信する配信ステップとを含むことを特徴とする地震情報配信方法に関する。
【0008】
(2)また本発明に係る地震情報配信システム及び地震情報配信方法では、前記記憶部は(前記記憶ステップでは)、地震の規模と震源距離と長周期地震動の継続時間との関係を規定するデータを更に記憶し、前記予測部は(前記予測ステップでは)、前記緊急地震
速報と前記所定の場所の位置情報と前記データとに基づいて、前記長周期地震動の継続時間の予測値を求め、前記配信部は(前記配信ステップでは)、前記長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、前記長周期地震動の継続時間を更に含む前記地震情報を配信してもよい。
【0009】
(3)また本発明に係る地震情報配信システム及び地震情報配信方法では、前記配信部は(前記配信ステップでは)、前記長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、当該所定の場所における対応内容を更に含む前記地震情報を配信してもよい。
【0010】
(4)また本発明に係る地震情報配信システム及び地震情報配信方法では、前記記憶部は(前記記憶ステップでは)、前記所定の場所の地盤増幅度の情報を更に記憶し、前記予測部は(前記予測ステップでは)、前記緊急地震速報が受信された場合に、前記緊急地震速報と前記所定の場所の位置情報及び地盤増幅度の情報とに基づいて、前記所定の場所毎に、短周期地震動の予測値を算出し、前記配信部は(前記配信ステップでは)、前記短周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末に対して、前記短周期地震動の予測値と前記到達時間とを含む地震情報を配信してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の地震情報配信システムの構成の一例を示す図。
図2】サーバの機能ブロック図の一例を示す図。
図3】地震の規模と震源距離と長周期地震動の継続時間との関係を規定するデータを示す図。
図4】本実施形態の地震情報配信システムの処理の流れを示すフローチャート。
図5】作業場所の施工階数と施工エリアの組み合わせ毎の固有周期を格納するデータを示す図。
図6】施工エリア及び作業員種別毎の対応内容を格納するデータを示す図。
図7】最大値Svgと最大値Svbの大きい方の値の範囲と配信するコメントとの関係を示す図。
図8】端末に配信されディスプレイに表示される地震情報の例を示す図。
図9】端末に配信されディスプレイに表示される地震情報の例を示す図。
図10】端末に配信されディスプレイに表示される地震情報の例を示す図。
図11】端末に配信されディスプレイに表示される地震情報の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必要構成要件であるとは限らない。
【0013】
1.構成
図1は、本実施形態の地震情報配信システムの構成の一例を示す図である。地震情報配信システム1は、サーバ10と、複数の端末20とを含む。
【0014】
サーバ10は、気象庁からの緊急地震速報を配信する配信業者2(例えば、(財)気象業務支援センター)のサーバに専用線3を介して接続され、配信業者2のサーバから配信された緊急地震速報のデータを受信し、長周期地震動や短周期地震動(通常の地震動、震源由来震度)、地震動の到達時間や継続時間を予測して、端末20に対してネットワーク4(インターネットなど)を介して地震情報を配信する。
【0015】
端末20は、複数の所定の場所(建設現場の作業場所、休憩所、事務所など)にある端
末であり、例えば、所定の場所にいる作業員が身に着けているスマートウォッチ等のウェアラブル端末や、当該作業員が携帯しているスマートフォン等の携帯端末、所定の場所に配置されているPC等である。端末20は、サーバ10から配信された地震情報を受信して、地震情報に含まれる情報を表示部(ディスプレイ)に表示させる。
【0016】
図2は、サーバ10の機能ブロック図の一例である。サーバ10は、処理部100と、通信部110と、記憶部120を含む。
【0017】
通信部110は、端末20や配信業者2のサーバと通信を行うための各種制御を行うものであり、その機能は、各種プロセッサ又は通信用ASICなどのハードウェアや、プログラムなどにより実現できる。
【0018】
記憶部120は、処理部100の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データを記憶するとともに、処理部100のワーク領域として機能し、その機能はハードディスク、メモリなどにより実現できる。記憶部120は、複数の所定の場所の位置情報(緯度及び経度)、当該所定の場所の固有周期と地盤増幅度の情報、地震の規模と震源距離と長周期地震動の継続時間との関係を規定する表データを記憶する。なお、所定の場所の地盤増幅度としては、防災科学技術研究所の500mメッシュ地形分類データの当該場所の地点を含む領域に係る地盤増幅度を用いたり、地表から地下30mまでの平均S波速度に基づき推定される地盤増幅度を用いる。その際の平均S波速度は、原位置で計測されたPS検層結果や、微地形区分、標高、主要河川からの距離などに基づいて推定される松岡・翠川の式の結果を用いる。
【0019】
処理部100は記憶部120をワーク領域として各種処理を行う。処理部100の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアやプログラムにより実現できる。処理部100は、受信部101と、予測部102と、配信部103を含む。
【0020】
受信部101は、配信業者2のサーバから配信された緊急地震速報のデータを受信する。緊急地震速報のデータは、地震の発生時刻、震源の位置(緯度、経度及び深さ)及び地震の規模(気象庁マグニチュード)を含む。
【0021】
予測部102は、緊急地震速報が受信された場合に、受信された緊急地震速報のデータと記憶部120に記憶された所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とに基づいて、所定の場所毎に、所定の場所の固有周期に対応する周期の長周期地震動の予測値を算出する。所定の場所の固有周期に対応する周期は、所定の場所の固有周期自体であってもよいし、当該固有周期周辺の周期であってもよいし、所定の場所が建物内の場所である場合、当該建物が建つ地盤の固有周期や当該地盤の固有周期周辺の周期であってもよい。また、予測部102は、受信された緊急地震速報のデータと記憶部120に記憶された所定の場所の位置情報とに基づいて、所定の場所毎に、地震動の到達時間の予測値を算出する。また、予測部102は、受信された緊急地震速報のデータと記憶部120に記憶された所定の場所の位置情報及び表データとに基づいて、所定の場所毎に、長周期地震動の継続時間の予測値を更に求めてもよい。また、予測部102は、受信された緊急地震速報のデータと記憶部120に記憶された所定の場所の位置情報及び地盤増幅度とに基づいて、所定の場所毎に、短周期地震動の予測値(予測震度)を算出する。
【0022】
配信部103は、長周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末20に対して地震情報を配信する。当該地震情報は、例えば、地震動の到達時間と長周期地震動の継続時間、当該所定の場所における対応内容を含む。また、配信部103は、短周期地震動の予測値が閾値を超えた所定の場所にある端末20に対して地震情報を配信する。当該地震情報は、例えば、短周期地震動の予測値と地震動の到達時間、当該所定の場所におけ
る対応内容を含む。
【0023】
2.予測方法
次に、短周期地震動の震度、地震動の到達時間、長周期地震動の大きさ、及び、長周期地震動の継続時間を予測する方法について説明する。
【0024】
2-1.短周期地震動
以下、短周期地震動の予測方法について説明する。まず、断層最短距離X(km)を、次式により求める。
【0025】
X=S0-L/2
【0026】
但し、Xの最小値は3kmとする。ここで、Sは、予測の対象とする地点(所定の場所)から震源までの距離(震源距離)であり、緊急地震速報に含まれる震源の位置(緯度、経度及び深さ)と所定の場所の位置(緯度及び経度)から求めることができる。また、Lは、断層長であり、モーメントマグニチュードMwから、次式により求めることができる。
【0027】
logL=0.5Mw-1.85
【0028】
緊急地震速報に含まれる気象庁マグニチュードMjからモーメントマグニチュードMwへは、次式により変換することができる。
【0029】
Mw=Mj-0.171
【0030】
次に、所定の場所におけるS波の最大速度振幅PGV(cm/s)を、次式により求める。
【0031】
PGV=ARV600×PGV600
【0032】
ここで、ARV600は、所定の場所における地盤増幅度であり、次式により求めることができる。
【0033】
log(ARV600)=1.83-0.66log(AVS)±σ (100<AVS<1500)
【0034】
ここで、AVSは、地表から地下30mまでの平均S波速度である(AVSが100m/s未満の場合は、平均S波速度100m/sで評価する)。σは、計算では使用しない。なお、AVSについては、予想の対象とする地点のPS検層結果がある場合はその結果を用い、PS検層結果がない場合は、次式により推定する。
【0035】
Log(AVS)=a+b・log(H)+c・log(D)±δ
【0036】
ここで、Hは、標高であり、Dは、主要河川からの距離(km)である。δは、計算では使用しない。また、a,b,cは、表1に示す、微地形区分に応じた係数である。
【0037】
【表1】
平均S波速度AVSについてPS検層結果や推定式を用いることができない場合は、防災科学技術研究所の500mメッシュ地形分類データから地盤増幅度ARV600を求める。
【0038】
PGV600は、所定の場所において、S波の伝播速度が600m/sに相当する硬質地盤上における地震動の最大速度振幅(cm/s)であり、次式により求めることができる。
【0039】
Log(PGV600)=0.58Mw+0.0038d-1.29-log(X+0.0028×100.50Mw)-0.002X
【0040】
ここで、dは、緊急地震速報に含まれる震源の深さ(km)である。所定の場所における短周期地震動の震度I(予測値)は、次式により求めることができる。
【0041】
I=2.68+1.72log(PGV)
【0042】
2-2.地震動の到達時間
以下、地震動の到達時間(到達時刻)の予測方法について説明する。まず、緊急地震速報に含まれる震源の位置(緯度及び経度)と予測の対象とする地点(所定の場所)の位置(緯度及び経度)から、震央距離l(km)を求める。次に、求めた震央距離lと緊急地震速報に含まれる震源の深さdから、これに最も近い震央距離、震源の深さにおける走時を、気象庁が提供するJMA2001走時表より求める。走時表で与えられる走時はメッシュ状の値であるため、震央距離、震源の深さの両方向について補完し、l、dに対応した走時を求める。求めた走時を、緊急地震速報に含まれる地震の発生時刻に加算して、所定の場所における到達時刻とする。
【0043】
2-3.長周期地震動
以下、長周期地震動の予測方法について説明する。長周期地震動の予測値としては、予測の対象とする地点(所定の場所)における予測の対象とする周期Tの絶対速度応答スペクトルSva(T)を、次式により求める。予測の対象とする周期Tは、所定の場所の固有周期に対応する周期である。
【0044】
Log10Sva(T)=c(T)+a(T)Mj-log10R-b(T)R+siteFactor(T)
【0045】
ここで、Mjは、緊急地震速報に含まれる気象庁マグニチュードである。また、Rは、所定の場所から震源までの距離(震源距離)であり、緊急地震速報に含まれる震源の位置(緯度、経度及び深さ)と所定の場所の位置(緯度及び経度)から求めることができる。また、c(T)、a(T)、b(T)は、周期Tに応じた定数或いは係数である。なお、周期Tは、例えば1.6秒から7.8秒まで0.2秒間隔の値である。また、siteFactor(T)は、予測の対象とする地点毎の周期Tに応じた補正値であり、当該補正値としては、観測記録による補正値(各観測点の実際の観測値から統計的に得られた補正値)や、深部地盤構造による補正値(J-SHIS深部地盤構造モデルのS波速度1.4km/s層上面深さから算出する補正値)を用いることができる。
【0046】
2-4.長周期地震動の継続時間
以下、長周期地震動の継続時間の予測方法について説明する。事前に、代表的な海溝型地震について深部地盤構造、震源位置、地震の規模を仮定してモデル化し、図3に示すような、地震の規模(気象庁マグニチュード)と震源距離と長周期地震動の継続時間との関係を規定する表データ200を算定しておく。地震動の継続時間は、速度波形で閾値(例えば、1cm/sの振幅)以下となるまでの時間とする。詳細にする場合は、深部地盤を有限要素法や差分法で詳細にモデル化し、震源も断層モデルとする。簡易にする場合は、深部地盤を平行成層として波数積分法や薄膜要素法にてモデル化してもよい。この場合、震源を断層モデルとする他、更に簡易にするには点震源としてもよい。震源モデルの候補は、南海地震、東南海地震、東海地震、3連動地震、大正関東地震、元禄関東地震、中越沖地震、十勝沖地震、太平洋東北沖地震など過去に発生した地震のうち、長周期地震動が記録されていたり、被害を生じた記録がある地震で、断層諸元が公表されているものをメインとする。
【0047】
代表的な地震の計算となり震源特性が種々となるため、結果のばらつきを考慮し、マグニチュードと震源距離の範囲により継続時間の大きさで平均±1σと平均で確認を行う。その際、平均と平均±1σで例えば2分以上の差が生じる場合は、第一にマグニチュードの範囲の再区分けを行い、それでもばらつく場合は震源距離の範囲の再区分けを行う。そして、修正後の表を同様にまとめ直す。
【0048】
予測時には、緊急地震速報に含まれる気象庁マグニチュードと、緊急地震速報に含まれる震源の位置(緯度、経度及び深さ)と所定の場所の位置(緯度及び経度)から求めた震源距離とに対応する継続時間を表データ200から求め、求めた継続時間から、発震から現時点までの経過時間を引いた残り時間を、長周期地震動の継続時間の予想値とする。また、震源について十分な精度が確保できない場合が想定されるため、継続時間の予想値を例えば30秒単位で求めるようにしてもよい。
【0049】
3.処理
次に、本実施形態の地震情報配信システム(サーバ10)の処理の一例について図4のフローチャートを用いて説明する。
【0050】
まず、受信部101は、配信業者2のサーバから配信された緊急地震速報のデータを受信する(ステップS10)。次に、予測部102は、受信部101で受信された緊急地震速報のデータと記憶部120に記憶された所定の場所の位置情報及び地盤増幅度の情報とに基づいて、上述した方法により、所定の場所毎に、短周期地震動の震度Iを予測する(ステップS11)。次に、予測部102は、受信された緊急地震速報のデータと記憶部120に記憶された所定の場所の位置情報と走時表とに基づいて、上述した方法により、所
定の場所毎に、地震動の到達時間を予測する(ステップS12)。
【0051】
次に、予測部102は、受信された緊急地震速報のデータと記憶部120に記憶された所定の場所の位置情報及び固有周期の情報とに基づいて、上述した方法により、所定の場所毎に、所定の場所の固有周期に対応する周期Tの長周期地震動(絶対速度応答スペクトルSva(T))を予測する(ステップS13)。ここでは、所定の場所が、建設中の建物内の作業場所であり、当該建物が建つ地盤の固有周期をTgとし、当該作業場所の固有周期をTbiとしたとき、当該地盤の固有周期Tg周辺の周期T(0.8Tg<T<1.2Tg)の絶対速度応答スペクトルSva(T)の最大値Svgと、当該作業場所の固有周期Tbi周辺の周期T(0.8Tbi<T<1.2Tbi)の絶対速度応答スペクトルSva(T)の最大値Svbをそれぞれ算出する。例えば、Tg(或いは、Tbi)=2.0である場合、T=1.6、1.8、2.0、2.2、2.4としたそれぞれの場合のSva(T)を算出し、算出した値の最大値をSvg(或いは、Svb)とする。各作業場所の固有周期Tbiについては、例えば図5に示すような、施工階数と施工エリア(施工エリアA、施工エリアB、タワークレーン、仮設エレベータ)の組み合わせ毎の固有周期を格納する表データ300を記憶部120に記憶しておき、予測の対象とする作業場所の施工階数と施工エリアに対応する固有周期を表データ300から求めて当該作業場所の固有周期Tbiとする。地盤の固有周期Tgについても、建設中の各建物が建つ地盤の固有周期を格納するデータを記憶しておき、予想の対象とする作業場所がある建物の地盤の固有周期を当該データから求めてTgとする。
【0052】
次に、予測部102は、受信された緊急地震速報のデータと記憶部120に記憶された所定の場所の位置情報及び表データ200とに基づいて、上述した方法により、所定の場所毎に、長周期地震動の継続時間を予測する(ステップS14)。なお、ステップS11~S14の処理の順番は任意であり、これらの処理を並列に実行してもよい。
【0053】
次に、配信部103は、予測対象である複数の所定の場所のうち、配信条件(条件A、B)を満たす所定の場所があるか否かを判断する(ステップS15)。ここでは、所定の場所についてステップS11で予測した短周期地震動の震度Iが4以上の場合に、当該所定の場所が条件Aを満たすと判断し、所定の場所についてステップS13で算出したSva(T)の最大値Svgと最大値Svbのいずれかが30cm/s以上である場合に、当該所定の場所が条件Bを満たすと判断する。
【0054】
条件Aのみを満たす所定の場所がある場合、配信部103は、当該条件を満たす所定の場所にある端末20に対して、当該所定の場所についてステップS11で予測した震度IとステップS12で予測した到達時間、及び、当該所定の場所における対応内容を含む地震情報を配信する(ステップS16)。端末20が移動端末である場合、測位機能を備える各端末20から取得した位置情報に基づいて、配信条件を満たす所定の場所にある端末20を特定するようにしてもよいし、作業員の作業予定のデータ(各作業員の作業予定時間と作業予定場所、作業予定内容に関するデータ、及び、各作業員が持つ端末20の端末ID)を参照して、配信条件を満たす所定の場所にある端末20を特定してもよい。また、地震動の到達時間(到達時刻)に加えて(或いは、代えて)、到達時刻と現在時刻の差(余裕時間)を配信するようにしてもよい。所定の場所における対応内容については、図6に示すような、施工エリア及び作業員種別毎の対応内容を格納するデータを記憶部120に記憶しておき、地震情報を配信する端末20がある施工エリアと当該端末20を持つ作業員の種別とに対応する対応内容を当該データから読み出して地震情報を生成する。当該データは、対応内容として、条件Aを満たした場合(短周期地震の場合)の対応内容と、条件Bを満たした場合(長周期地震の場合)の対応内容とを格納する。また、当該データは、施工エリア毎の避難区域や具体的な対応内容(火器使用時、危険物使用時等の対応内容)も格納し、予測した到達時間までに余裕がある場合や、配信条件を満たす所定の場
所において火器や危険物等の使用があることが分かっている場合には、これらの内容も含めた地震情報を配信するようにしてもよい。所定の場所において火器や危険物等の使用があるかどうかは、作業員の作業予定のデータ等を参照して判断する。
【0055】
条件Bのみを満たす所定の場所がある場合、配信部103は、当該条件を満たす所定の場所にある端末20に対して、当該所定の場所についてステップS12で予測した到達時間とステップS14で予測した継続時間、及び、当該所定の場所における対応内容を含む地震情報を配信する(ステップS17)。
【0056】
条件Aと条件Bの両方を満たす所定の場所がある場合、配信部103は、当該条件を満たす所定の場所にある端末20に対して、当該所定の場所についてステップS11で予測した震度IとステップS12で予測した到達時間とステップS14で予測した継続時間、及び、当該所定の場所における対応内容を含む地震情報を配信する(ステップS18)。
【0057】
ステップS16~S18では、配信条件を満たす所定の場所にある端末20のうち、ウェアラブル端末に対しては、最小限の注意メッセージのみを地震情報として配信し、携帯端末やPCに対しては、震度Iや到達時間、継続時間及び対応内容を含む詳細な地震情報を配信するようにしてもよい。また、到達時刻と現在時刻の差(余裕時間)が閾値以下(例えば、30秒以内)である場所の端末20に対しては、最優先の事項のみを含む地震情報を配信し、余裕時間が閾値より大きい場所の端末20に対しては、詳細な地震情報を配信するようにしてもよい。また、ステップS17、S18において、条件Bを満たす場所にある端末20に対して、ステップS13で算出した最大値Svgと最大値Svbの大きい方の値に応じて長周期地震動の変位の大きさを示すコメントを地震情報として配信するようにしてもよい。図7に、最大値Svgと最大値Svbの大きい方の値の範囲と配信するコメントとの関係を示す。
【0058】
4.地震情報の表示例
図8図11に、端末20に配信されディスプレイに表示される地震情報の例を示す。図8は、条件Aのみを満たした(短周期地震動の予測震度Iが4以上である)作業場所(施工エリアA,B)にいる一般作業員の端末20に表示される地震情報の例を示す図である。この例では、緊急地震速報(短周期地震動)が発報され、予測震度が5強であり、到達時刻が10時30分29秒であり、余裕時間が16秒であることが通知され、更に、作業の中止と避難等を促す対応内容が提示されている。
【0059】
図9は、条件Aと条件Bを満たした(短周期地震動の予測震度Iが4以上であり且つ長周期地震動のSva(T)の最大値Svgと最大値Svbのいずれかが30cm/s以上である)作業場所(施工エリアA,B)であって高所作業車の使用が予定されている場所にいる作業員の端末20に表示される地震情報の例を示す図である。この例では、緊急地震速報(短周期地震動、長周期地震動)が発報され、予測震度が5強であり、長周期地震動の変位がやや大きい(最大値Svgと最大値Svbのいずれかが50cm/s以上75cm/s未満である)こと、到達時刻が10時30分29秒であり、余裕時間が36秒であり、長周期地震動の継続時間が2分であることが通知され、更に、高所作業車の荷台を降ろして避難することを促し、長周期の揺れへの対応を促す対応内容が提示されている。
【0060】
図10は、条件Bのみを満たした(長周期地震動のSva(T)の最大値Svgと最大値Svbのいずれかが30cm/s以上である)作業場所(タワークレーン)にいる作業員の端末20に表示される地震情報の例を示す図である。この例では、緊急地震速報(長周期地震動)が発報され、長周期地震動の変位が大きい(最大値Svgと最大値Svbのいずれかが75cm/s以上100cm/s未満である)こと、到達時刻が10時30分29秒であり、余裕時間が1分20秒であり、長周期地震動の継続時間が3分であること
が通知され、更に、吊り荷をおろして重機から離れるように周りに指示することを促し、クレーン内での長周期の揺れへの対応を促す対応内容が提示されている。
【0061】
図11は、条件Bのみを満たした(長周期地震動のSva(T)の最大値Svgと最大値Svbのいずれかが30cm/s以上である)作業場所(施工エリアA,B)であって火器の使用が予定されている場所にいる作業員の端末20に表示される地震情報の例を示す図である。この例では、緊急地震速報(長周期地震動)が発報され、長周期地震動の変位が中くらいである(最大値Svgと最大値Svbのいずれかが30cm/s以上50cm/s未満である)こと、到達時刻が10時30分29秒であり、余裕時間が1分20秒であり、長周期地震動の継続時間が3分であることが通知され、更に、火器使用の中止と避難を促し、長周期の揺れへの対応を促す対応内容が提示されている。
【0062】
本実施形態の地震情報配信システムによれば、緊急地震速報が発報された場合に、所定の場所の位置情報と固有周期等に基づいて、所定の場所毎に、長周期地震動の大きさを予測し、予測値が閾値を超えた場所にいる作業員の端末に対して、地震動の到達時間や継続時間、当該場所における対応内容を含む地震情報を配信することで、作業員が長周期地震動特有の現象に安全に対応することを可能にし、長周期地震動による被害を軽減することができる。
【0063】
本発明は、上記実施形態で説明したものに限らず、種々の変形実施が可能である。例えば、明細書又は図面中の記載において広義や同義な用語として引用された用語は、明細書又は図面中の他の記載においても広義や同義な用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0064】
1…地震情報配信システム、2…配信業者、3…専用線、4…ネットワーク、10…サーバ、20…端末、100…処理部、101…受信部、102…予測部、103…配信部、110…通信部、120…記憶部
図1
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図11