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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126873
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】アルミニウム箔
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/68 20060101AFI20240912BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20240912BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C23C22/68
H05K3/38 A
B32B15/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035583
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智香
(72)【発明者】
【氏名】新宮 享
【テーマコード(参考)】
4F100
4K026
5E343
【Fターム(参考)】
4F100AA19A
4F100AB02B
4F100AB10A
4F100AB10B
4F100AB33A
4F100AK01
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DD07A
4F100DE01B
4F100GB43
4F100JA11A
4F100JK06
4F100YY00A
4F100YY00B
4K026AA09
4K026BA01
4K026BA08
4K026BB10
4K026CA11
4K026DA03
4K026EA01
5E343EE32
5E343GG13
(57)【要約】
【課題】表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を樹脂基材表面に付与することができるアルミニウム箔、該アルミニウム箔の製造方法、該アルミニウム箔と樹脂基材との積層体の製造方法、及び樹脂基材の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔は、少なくとも一方の表面に設けられた凹凸構造を有するアルミニウム箔であって、前記表面をAFMで観察したときに、大きさ5μm×5μm、解像度256×256ピクセルの第1矩形視野において、表面粗度Saは15nm以上50nm以下、表面粗度SzJISは150nm以上400nm以下、5μm長さでカウントしたピークの数が25以上であり、前記表面をレーザ顕微鏡で観察したときに、大きさ95μm×71μm、解像度1024×768ピクセルの第2矩形視野において、表面粗度Saは30nm以下であり、表面粗度Szは600nm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面に設けられた凹凸構造を有するアルミニウム箔であって、
前記表面をAFMで観察したときに、大きさ5μm×5μm、解像度256×256ピクセルの第1矩形視野において、
表面粗度Saは15nm以上50nm以下、
表面粗度SzJISは150nm以上400nm以下、
5μm長さでカウントしたピークの数が25以上であり、
前記表面をレーザ顕微鏡で観察したときに、大きさ95μm×71μm、解像度1024×768ピクセルの第2矩形視野において、
表面粗度Saは30nm以下であり、
表面粗度Szは600nm以下である
ことを特徴とするアルミニウム箔。
【請求項2】
請求項1において、
前記アルミニウム箔は、アルミニウムを母相とする基材層と、該基材層の表面に設けられた前記凹凸構造を構成する表面層と、を備えており、
前記基材層の前記表面に存在する第二相粒子の面積率は0.1%以下である
ことを特徴とするアルミニウム箔。
【請求項3】
請求項1において、
前記アルミニウム箔は、アルミニウムを母相とする基材層と、該基材層の表面に設けられた前記凹凸構造を構成する表面層と、を備えており、
前記基材層における前記アルミニウムの含有量は99.90質量%以上であり、
前記基材層におけるFeの含有量は0.050質量%以下である
ことを特徴とするアルミニウム箔。
【請求項4】
請求項1において、
前記凹凸構造は、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなる針状結晶により構成される
ことを特徴とするアルミニウム箔。
【請求項5】
請求項1において、
前記アルミニウム箔は、樹脂基材の表面に凹凸構造を付与するためのものである
ことを特徴とするアルミニウム箔。
【請求項6】
請求項1において、
前記ピークの数は、前記AFMの3つの前記第1矩形視野の各々における3つの幅方向の断面プロファイルの各々においてカウントした閾値0nmを超えるピークの数の平均値である
ことを特徴とするアルミニウム箔。
【請求項7】
請求項1において、
前記アルミニウム箔は、アルミニウムを母相とする基材層と、該基材層の表面に設けられた前記凹凸構造を構成する表面層と、を備えており、
前記基材層の前記表面層が設けられる表面の前記第2矩形視野における表面粗度Saは20nm以下、表面粗度Szは250nm以下である
ことを特徴とするアルミニウム箔。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミニウム箔の製造方法であって、
前記アルミニウム箔は、アルミニウムを母相とする基材層と、該基材層の表面に設けられた前記凹凸構造を構成する表面層と、を備えており、
前記基材層を構成する箔状のアルミニウム基材を準備する準備工程と、
前記アルミニウム基材の表面に前記表面層を形成する表面処理工程と、を備え、
前記アルミニウム基材の表面において、前記第2矩形視野における表面粗度Saは20nm以下、表面粗度Szは250nm以下である
ことを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミニウム箔と樹脂基材との積層体の製造方法であって、
前記アルミニウム箔における前記凹凸構造を有する前記表面に、前記樹脂基材の表面を接触させて、該樹脂基材を構成する樹脂材料の軟化点又はガラス転移点以上の温度下において圧力を加える
ことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミニウム箔における前記凹凸構造を有する前記表面に、樹脂基材の表面を接触させた状態で、該樹脂基材を構成する樹脂材料の軟化点又はガラス転移点以上の温度下で圧力を加えてアルミニウム層と樹脂層よりなる積層体を得る工程と、
前記積層体のアルミニウム層を除去し、前記アルミニウム箔の凹凸構造の形状が前記表面に転写されてなる樹脂基材を得る工程と、を備えた
ことを特徴とする樹脂基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミニウム箔、該アルミニウム箔の製造方法、該アルミニウム箔と樹脂基材との積層体の製造方法、及び樹脂基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子分野では、半導体パッケージ基板及びプリント配線基板の基材として樹脂基材が幅広く使用されている。樹脂基材では、その表面に積層される他の金属や他の樹脂との十分な密着性を得るために、該表面に凹凸構造を設けることが知られている。半導体パッケージ基板及びプリント配線基板の回路形成工法としては、近年高集積化に伴い、例えば、以下の3つの回路形成工法が注目されている。すなわち、(1)極薄銅箔を給電層としてパターン銅めっきを施し、最後に極薄銅層をフラッシュエッチングにより除去し配線形成する回路形成工法、(2)プリプレグやビルドアップフィルムを真空プレス等で硬化させ、その表面を粗面化し、基材面に適切な凹凸を形成させることで、信頼性のある微細配線を形成する回路形成工法、(3)銅箔表面プロファイルを基材表面に転写させ、基材表面に適切な凹凸を形成させることで、信頼性のある微細配線を形成する回路形成工法である。これらの工法は一般的にSAP工法(セミアディティブ工法)と呼ばれる。
【0003】
例えば特許文献1には、上記(3)の銅箔表面のプロファイルを用いたSAP工法の一例が開示されている。表面層表面の面粗さSzが所定範囲に制御された表面処理銅箔を用い、回路を形成する基材上に当該表面処理銅箔を貼り合わせた後、除去することで、微細配線形成性を維持し、且つ、無電解銅めっき皮膜の良好な密着力を実現する銅箔除去後基材面のプロファイル形状を与えることができる表面処理銅箔である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5963824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、半導体パッケージ基板及びプリント配線基板には、更なる高集積化に伴い、例えば幅2μmの配線を形成する等、更なる微細配線化が求められている。
【0006】
また、通信量や通信速度の観点から、より高周波数帯の電磁波を使用する傾向が高まっている。高周波数帯の電磁波の使用は、回路を通る電気信号がより表面付近に集中する表皮効果を伴う。例えば周波数帯が5GHzの場合、銅の導体では、導体表層から約0.9μmの深さの領域で集中的に電流が流れる。一方、周波数帯が20GHzの場合、導体表層から約0.5μmの深さの領域で集中的に電流が流れる。よって、回路が形成される樹脂基材の表面には、回路との十分な密着性を確保しつつ、上記表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を付与する必要がある。
【0007】
そこで本開示では、表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を樹脂基材表面に付与することができるアルミニウム箔、該アルミニウム箔の製造方法、該アルミニウム箔と樹脂基材との積層体の製造方法、及び樹脂基材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、表面に積層される様々な樹脂基材に対して、巨視的には十分な平滑性を有しながら、微視的には樹脂基材と該樹脂基材に積層される材料との間で十分な密着性を確保可能な凹凸構造を該樹脂基材に付与できるアルミニウム箔を発明するに至った。
【0009】
すなわち、ここに開示するアルミニウム箔の一態様は、
少なくとも一方の表面に設けられた凹凸構造を有するアルミニウム箔であって、
前記表面をAFMで観察したときに、大きさ5μm×5μm、解像度256×256ピクセルの第1矩形視野において、
表面粗度Saは15nm以上50nm以下、
表面粗度SzJISは150nm以上400nm以下、
5μm長さでカウントしたピークの数が25以上であり、
前記表面をレーザ顕微鏡で観察したときに、大きさ95μm×71μm、解像度1024×768ピクセルの第2矩形視野において、
表面粗度Saは30nm以下であり、
表面粗度Szは600nm以下である
ことを特徴とする。
【0010】
本構成では、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に凹凸構造が設けられているから、この凹凸構造が表面に転写された樹脂基材は、該表面に積層される他の材料と、十分な物理的密着性を得ることができ、高い剥離強度を有することができる。特に、本構成のアルミニウム箔の凹凸構造は、第1矩形視野において上記範囲の表面粗度Sa、SzJISを備えるから、微視的には上記密着性を十分に担保し得る形状の凹凸構造を有している。一方、本構成のアルミニウム箔の表面は、第2矩形視野では上記範囲の表面粗度Sa、Szを備えるから、巨視的には十分な平滑性を有している。すなわち、本構成のアルミニウム箔によれば、表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を樹脂基材表面に付与することができるから、該樹脂基材と他の材料との間の十分な密着性を確保しつつ、表皮効果に起因する伝送ロスを十分に抑制できる。
【0011】
なお、本明細書において、表面粗度Saは、ISO 25178の面粗さを示す高さのパラメータの1つであり、面の算術平均高さ(線の算術平均高さRaを面に拡張したもの)である。表面粗度Saは、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均値で表される。以下の説明において、表面粗度Saを、単に「Sa」、「面の算術平均高さSa」と称することがある。
【0012】
また、本明細書において、表面粗度Sz(以下、単に「Sz」と称することがある。)は、ISO 25178の面粗さを示す高さのパラメータの1つであり、面の最大高さ(線の最大高さRzを面に拡張したもの)である。表面粗度Szは、表面の最低点の平均面からの高さの絶対値と最高点の平均面からの高さの絶対値との和で表される。以下の説明において、表面粗度Szを、単に「Sz」、「面の最大高さSz」と称することがある。
【0013】
また、本明細書において、AFMで観察したときにおける表面粗度SzJISは、JIS B0601(2001年版)およびISO4287(1997年版)で定義されているRzJIS値を、観察された視野内の表面全体に対して測定された値である。以下の説明において、表面粗度SzJISを、単に「SzJIS」と称することがある。
【0014】
好ましくは、前記アルミニウム箔は、アルミニウムを母相とする基材層と、該基材層の表面に設けられた前記凹凸構造を構成する表面層と、を備えており、
前記基材層の前記表面に存在する第二相粒子の面積率は0.1%以下である。
【0015】
アルミニウム箔の基材層には、例えばFe等のAl以外の元素が合金添加元素として添加され得る。そして、このような元素は、母相のアルミニウム金属と例えばAlFe、AlFe等の金属間化合物を形成し、母相中に第二相粒子として点在する。第二相粒子は、アルミニウム金属の母相とは化学組成が異なるため、凹凸構造を形成する際に、均一な凹凸構造の形成の妨げとなる。特に、凹凸構造を後述する水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなる針状結晶により構成する場合、第二相粒子とその周辺部には針状結晶が形成されないか、又は針状結晶が異常成長する。この場合、表面に存在する第二相粒子の面積率が0.1%を超えると、凹凸構造の均一性が損なわれ、特に第2矩形視野において、上述の表面粗度Sa、Szが得られなくなり、十分な平滑性が確保できないおそれがある。本構成によれば、基材層の表面に形成される凹凸構造の十分な均一性を確保し、特に巨視的な平滑性を十分に確保できる。
【0016】
好ましくは、前記アルミニウム箔は、アルミニウムを母相とする基材層と、該基材層の表面に設けられた前記凹凸構造を構成する表面層と、を備えており、
前記基材層における前記アルミニウムの含有量は99.90質量%以上であり、
前記基材層におけるFeの含有量は0.050質量%以下である。
【0017】
基材層のアルミニウムが99.9質量%よりも低い場合は、上述の第二相粒子の面積率が増加するから、凹凸構造の均一性が低下するおそれがある。例えば、合金添加元素の1つであるFeは、アルミニウムに固溶した状態では、第二相粒子を形成しない。そして、Feのアルミニウムへの固溶度は、0.05質量%以下であることが一般的に知られている。このため、Feの含有量が0.05質量%を超えると、特に基材層の鋳造凝固時にアルミニウムとFeの間でAlFeに代表されるAl-Fe系第二相粒子が生成し、第二相粒子の面積率が増加する。基材層におけるアルミニウム及びFeの含有量を上記範囲とすることにより、第二相粒子の生成を抑制して、凹凸構造の十分な均一性を確保できる。
【0018】
好ましくは、前記凹凸構造は、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなる針状結晶により構成される。
【0019】
例えばアルミニウム箔の表面を沸騰水等に浸漬するベーマイト処理を行うことにより、アルミニウム箔表面には針状の凹凸形状を有するベーマイト結晶構造の水酸化アルミニウムが生成される。水酸化アルミニウムの針状結晶は、脱水反応を経て酸化アルミニウムの針状結晶としても存在し得る。凹凸構造が水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなる針状結晶により構成されることにより、当該針状結晶は微細且つ均一な針状の凹凸形状を有することから、上述の表面粗度Sa、Szを容易に達成できる。
【0020】
好ましくは、前記アルミニウム箔は、樹脂基材の表面に凹凸構造を付与するためのものである。
【0021】
本構成のアルミニウム箔を用いて樹脂基材の表面に凹凸構造を付与することにより、表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を備えた樹脂基材を得ることができる。
【0022】
好ましくは、前記ピークの数は、前記AFMの3つの前記第1矩形視野の各々における3つの幅方向の断面プロファイルの各々においてカウントした閾値0nmを超えるピークの数の平均値である。
【0023】
本構成により、十分に微細且つ均一な凹凸構造が得られる。
【0024】
好ましくは、前記アルミニウム箔は、アルミニウムを母相とする基材層と、該基材層の表面に設けられた前記凹凸構造を構成する表面層と、を備えており、
前記基材層の前記表面層が設けられる表面の前記第2矩形視野における表面粗度Saは20nm以下、表面粗度Szは250nm以下である。
【0025】
基材層の表面における第2矩形視野の表面粗度Sa、Szを上記範囲とすることにより、基材層表面の巨視的な平滑性を十分確保できるから、表面層の巨視的な平滑性も十分に確保できる。
【0026】
ここに開示するアルミニウム箔の製造方法の一態様は、
上述のアルミニウム箔の製造方法であって、
前記アルミニウム箔は、アルミニウムを母相とする基材層と、該基材層の表面に設けられた前記凹凸構造を構成する表面層と、を備えており、
前記基材層を構成する箔状のアルミニウム基材を準備する準備工程と、
前記アルミニウム基材の表面に前記表面層を形成する表面処理工程と、を備え、
前記アルミニウム基材の表面において、前記第2矩形視野における表面粗度Saは20nm以下、表面粗度Szは250nm以下である
ことを特徴とする。
【0027】
本構成によれば、巨視的な平滑性を十分に確保しつつ、微視的には十分な密着性を付与可能な凹凸構造を有するアルミニウム箔を得ることができる。
【0028】
ここに開示する積層体の製造方法の一態様は、
上述のアルミニウム箔と樹脂基材との積層体の製造方法であって、
前記アルミニウム箔における前記凹凸構造を有する前記表面に、前記樹脂基材の表面を接触させて、該樹脂基材を構成する樹脂材料の軟化点又はガラス転移点以上の温度下において圧力を加える
ことを特徴とする。
【0029】
本構成によれば、上記のようにして得られた積層体では、アルミニウム箔と樹脂基材との界面においてアルミニウム箔表面の凹凸構造に樹脂基材の樹脂材料が入り込んだ状態となる。これにより、樹脂基材の表面に、アルミニウム箔表面の凹凸構造の反転形状である凹凸構造が形成される。
【0030】
ここに開示する樹脂基材の製造方法の一態様は、
上述のアルミニウム箔における前記凹凸構造を有する前記表面に、樹脂基材の表面を接触させた状態で、該樹脂基材を構成する樹脂材料の軟化点又はガラス転移点以上の温度下で圧力を加えてアルミニウム層と樹脂層よりなる積層体を得る工程と、
前記積層体のアルミニウム層を除去し、前記アルミニウム箔の凹凸構造の形状が前記表面に転写されてなる樹脂基材を得る工程と、を備えた
ことを特徴とする。
【0031】
本構成によれば、アルミニウム箔の凹凸構造の反転形状である凹凸構造を表面に備えた樹脂基材が得られる。これにより、樹脂基材表面に他の材料を積層させた場合、両者間に高い密着性を確保することができる。また、樹脂基材の表面は巨視的には十分な平滑性を有しているから、樹脂基材表面に配線を施した場合も、表皮効果に伴う伝送ロスを効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0032】
以上述べたように、本開示によると、表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を樹脂基材表面に付与することができるアルミニウム箔、該アルミニウム箔の製造方法、該アルミニウム箔と樹脂基材との積層体の製造方法、及び樹脂基材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施形態に係るアルミニウム箔の模式的な断面図である。
図2】アルミニウム箔の製造方法の一例を示すフロー図である。
図3】表面処理工程の一例を示す図である。
図4】積層体の製造方法、樹脂基材の製造方法、及び樹脂基材への他の材料の積層方法を示すフロー図である。
図5】実施例2のアルミニウム箔の表面のSEM像である。
図6】実施例2のアルミニウム箔の表面層と基材層との界面の断面SEM像である。
図7】第二相粒子の面積率の算出に使用した反射電子像の一例である。
図8】実施例1のアルミニウム箔の表面層の第1矩形視野の例(AFM像)と、該AFM像の符号P1~P3で示す個所の断面プロファイルの例である。
図9】実施例2のアルミニウム箔の第2矩形視野(レーザ顕微鏡像)の例である。
図10】銅メッキ付き積層板の断面SEM像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0035】
<アルミニウム箔>
図1に示すように、本実施形態に係るアルミニウム箔10は、アルミニウムを母相とする基材層11と、該基材層11の少なくとも一方の表面11aに設けられた表面層12と、を備えている。表面層12は、凹凸構造を構成する。表面層12は、基材層11のもう一方の表面11bにも設けられていてもよい。
【0036】
なお、本明細書において、「アルミニウム箔」という用語は、純アルミニウム箔だけでなく、アルミニウム合金箔も含む意味で用いられる。
【0037】
[基材層]
基材層11は、後述するように、表面層12を形成する前のアルミニウム基材からなる。
【0038】
アルミウム基材には、例えば鉄(Fe)等のAl以外の元素が合金添加元素として添加され得る。そして、このような元素は、母相の金属アルミニウムと例えばAlFe、AlFe等の金属間化合物を形成し、母相中に第二相粒子として点在する。第二相粒子は、アルミニウム金属の母相とは化学組成が異なるため、凹凸構造を形成する際に、均一な凹凸構造の形成の妨げとなる。特に、凹凸構造を後述する水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなる針状結晶により構成する場合、第二相粒子とその周辺部には針状結晶が形成されないか、又は針状結晶が異常成長する。この場合、表面に存在する第二相粒子の面積率が0.1%を超えると、凹凸構造の均一性が損なわれ、特に第2矩形視野において、上述の表面粗度Sa、Szが得られなくなり、十分な平滑性が確保できないおそれがある。
【0039】
基材層11、すなわちアルミニウム基材の表面11aに存在する第二相粒子の面積率は0.1%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることが特に好ましい。これにより、基材層の表面に形成される凹凸構造の十分な均一性を確保し、特に巨視的な平滑性を十分に確保できる。
【0040】
基材層11におけるアルミニウムの含有量は99.90質量%以上であることが好ましい。また、基材層11におけるFeの含有量は0.050質量%以下であることが好ましい。
【0041】
基材層のアルミニウムが99.9質量%よりも低い場合は、上述の第二相粒子の面積率が増加するから、凹凸構造の均一性が低下するおそれがある。例えば、合金添加元素の1つであるFeは、アルミニウムに固溶した状態では、第二相粒子を形成しない。そして、Feのアルミニウムへの固溶度は、0.05質量%以下であることが一般的に知られている。このため、Feの含有量が0.05質量%を超えると、特に基材層の鋳造凝固時にアルミニウムとFeの間でAlFeに代表されるAl-Fe系第二相粒子が生成し、第二相粒子の面積率が増加する。基材層11におけるアルミニウム及びFeの含有量を上記範囲とすることにより、第二相粒子の生成を抑制して、凹凸構造の十分な均一性を確保できる。
【0042】
なお、アルミニウム基材におけるAl、Fe以外の残部は、不純物からなる。該不純物は、例えば不可避不純物であるが、不可避不純物の他に、微量の不純物を含んでいてもよい。上記不純物は、例えばシリコン(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、ナトリウム(Na)、及びジルコニウム(Zr)等からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。各不純物元素は、個々の含有量が0.01質量%以下、合計量が0.10質量%以下である。
【0043】
基材層11の厚さは、限定する意図ではないが、例えば5μm以上300μm以下とすることができ、30μm以上60μm以下とすることが好ましい。基材層11の厚さが上限値を超えると、樹脂基材からアルミニウム層を除去する際に長時間を要すおそれがある。また、基材層11の厚さが下限値未満では、基材層11のコシが足りず、樹脂基材への凹凸構造の付与が難しくなるおそれがある。
【0044】
基材層11の表面層12が設けられる表面、すなわちアルミニウム基材の表面の、後述する第2矩形視野における表面粗度Saは20nm以下であることが好ましく、5nm以上10nm以下であることがより好ましい。また、アルミニウム基材の表面の第2矩形視野における表面粗度Szは250nm以下であることが好ましく、50nm以上200nm以下であることがより好ましく、50nm以上150nm以下であることが特に好ましい。
【0045】
アルミニウム基材の表面における第2矩形視野の表面粗度Sa、Szを上記範囲とすることにより、基材層表面の巨視的な平滑性を十分確保できるから、表面層12の巨視的な平滑性も十分に確保できる。
【0046】
なお、限定する意図ではないが、アルミニウム基材の表面の後述する第1矩形視野における表面粗度Saは10nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることがより好ましく、1nm以上3nm以下であることが特に好ましい。アルミニウム基材の表面の表面粗度SzJISは100nm以下であることが好ましく、30nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0047】
アルミニウム基材の表面における第1矩形視野の表面粗度Sa、SzJISを上記範囲とすることにより、基材層表面は微視的にも平滑性を有しているから、表面層12を形成ししたときに凹凸構造の十分な均一性が確保できる。
【0048】
[表面層]
表面層12の凹凸構造は、以下の特徴を有する。
【0049】
すなわち、表面層12の表面をAFMで観察したときに、大きさ5μm×5μm、解像度256×256ピクセルの第1矩形視野において、表面粗度Saは15nm以上50nm以下であり、好ましくは16nm以上41nm以下、より好ましくは20nm以上41nm以下である。
【0050】
また、第1矩形視野の表面粗度SzJISは150nm以上400nm以下であり、好ましくは150nm以上350nm以下である。
【0051】
さらに、第1矩形視野の5μm長さでカウントしたピークの数が25以上であり、好ましくは25以上60以下である。
【0052】
また、表面層12の表面をレーザ顕微鏡で観察したときに、大きさ95μm×71μm、解像度1024×768ピクセルの第2矩形視野において、表面粗度Saは30nm以下であり、好ましくは5nm以上25nm以下、より好ましくは10nm以上21nm以下である。
【0053】
また、第2矩形視野の表面粗度Szは600nm以下であり、好ましくは550nm以下、より好ましくは100nm以上510nm以下である。
【0054】
なお、第1矩形視野のAFM観察は、微視的な視野における凹凸構造の観察を意味している。また、第2矩形視野のレーザ顕微鏡観察は、巨視的な視野における凹凸構造の観察を意味している。
【0055】
本構成では、アルミニウム箔10の少なくとも一方の表面に凹凸構造が設けられているから、この凹凸構造が表面に転写された樹脂基材は、該表面に積層される他の材料と、十分な物理的密着性を得ることができ、高い剥離強度を有することができる。特に、本構成のアルミニウム箔の凹凸構造は、第1矩形視野において上記範囲の表面粗度Sa、SzJISを備えるから、微視的には上記密着性を十分に担保し得る形状の凹凸構造を有している。一方、本構成のアルミニウム箔10の表面は、第2矩形視野では上記範囲の表面粗度Sa、Szを備えるから、巨視的には十分な平滑性を有している。すなわち、本構成のアルミニウム箔10によれば、表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を樹脂基材表面に付与することができるから、該樹脂基材と他の材料との間の十分な密着性を確保しつつ、表皮効果に起因する伝送ロスを十分に抑制できる。
【0056】
微視的な第1矩形視野においてSaが上記下限値未満又はSzJISが上記下限値未満の場合、アルミニウム箔の凹凸構造が樹脂基材に転写されたときに、樹脂基材と他の材料との間の十分な物理的密着性を得ることができないおそれがある。一方、第1矩形視野においてSaが上記上限値を超える又はSzJISが上記上限値を超える場合、上記物理的密着性を十分に得ることはできるものの、凹凸構造の高さが大きすぎて、電気特性への影響が少なく且つ細い回路導体に適した表面平滑性を得ることが難しくなるおそれがある。また、第1矩形視野において、5μm長さでカウントしたピークの数が上記下限値未満では、上述の物理的密着性が不十分となり、樹脂基材と該樹脂基材に積層される材料との間の十分な剥離強度が得られないおそれがある。
【0057】
また、巨視的な第2矩形視野において、Saが上記上限値を超える又はSzが上記上限値を超える場合、均一な表面平滑性が得られず、表皮効果に起因する電気特性への影響が大きくなるおそれがある。
【0058】
表面層12の凹凸構造の形状は、上記表面粗度を満たしていれば、特に限定されず、ランダムな粒状、針状、毛状等の形状であってもよい。また、凹凸の配列についても、上記表面粗度を満たしていれば、特に限定されず、ランダムな凹凸であってもよいし、規則正しいパターン化された凹凸であってもよい。
【0059】
表面層12が上述の凹凸構造を構成することができれば、表面層12の材質は、特に限定されない。具体的には例えば、基材層11と同一の純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる層であってもよいし、水酸化アルミニウム被膜及び酸化アルミニウム被膜等の基材層11と異なる材質の層であってもよい。
【0060】
なお、好ましいのは、凹凸構造が、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなる針状結晶により構成されることである。
【0061】
後述するように、例えばアルミニウム箔の表面を沸騰水等に浸漬するベーマイト処理を行うことにより、アルミニウム箔表面には針状の凹凸形状を有するベーマイト結晶構造の水酸化アルミニウムが生成される。水酸化アルミニウムの針状結晶は、脱水反応を経て酸化アルミニウムの針状結晶としても存在し得る。凹凸構造が水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなる針状結晶により構成されることにより、当該針状結晶は微細且つ均一な針状の凹凸形状を有することから、上述の表面層12の表面粗度Sa、Sz、SzJISを容易に達成できる。
【0062】
表面層12の厚さは、凹凸構造が上記表面粗度及びピーク数を満たしていれば、特に限定されないが、例えば100nm以上1000nm以下とすることができる。
【0063】
[用途]
本実施形態に係るアルミニウム箔は、巨視的には十分な平滑性を有しながらも他の材料との密着性に優れた樹脂基材表面を得るために使用する工程紙として最適である。
【0064】
具体的に、本実施形態に係るアルミニウム箔は、例えば半導体パッケージ基板及びプリント配線基板の基材として用いられる樹脂基材の表面に凹凸構造を付与するために用いられることが好ましい。
【0065】
本実施形態に係るアルミニウム箔10を用いて樹脂基材の表面に凹凸構造を付与することにより、表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を備えた樹脂基材を得ることができる。
【0066】
なお、樹脂基材の形状は特に限定されず、フィルム状、板状、ブロック状等が挙げられる。
【0067】
また、樹脂基材を構成する樹脂材料としては、特に限定されるものではなく、例えば半導体パッケージ基板及びプリント配線基板の基材として用いられる材料であれば、一般的に公知の材料を用いることができる。樹脂材料は、具体的には例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。なお、樹脂基材としては、半硬化状態(Bステージ状態)の樹脂基材を採用してもよい。
【0068】
<アルミニウム箔の製造方法>
次に、アルミニウム箔10の製造方法の一例について説明する。
【0069】
アルミニウム箔の製造方法は、図2に示すように、例えば、準備工程S11と、任意の前処理工程S12と、表面処理工程S13と、を備える。
【0070】
[準備工程]
準備工程S11は、基材層11を構成するアルミニウム基材を準備する工程である。
【0071】
準備工程S11は、例えば、アルミニウムの鋳塊を準備する工程、鋳塊に均質化処理を行う工程、鋳塊を熱間圧延する工程、熱間圧延により得られた熱延材を冷間圧延する工程、冷間圧延により得られた冷延材を最終仕上げとして冷間圧延(以下、最終仕上げ冷間圧延という)してアルミニウム基材を形成する工程を備える。
【0072】
まず、アルミニウム鋳塊を準備する。具体的には、所定の組成のアルミニウムの溶湯を調製し、アルミニウムの溶湯を凝固させることにより鋳塊を鋳造(例えば半連続鋳造)する。溶湯中のFeの含有量は上記数値範囲となるように制御されている。
【0073】
そして、得られた鋳塊に均質化熱処理を行う。均質化熱処理は、一般的な操業条件の範囲内であればよいが、例えば加熱温度を400℃以上630℃以下、加熱時間を1時間以上20時間以下とする条件で行われる。
【0074】
次に、鋳塊を熱間圧延する。本工程により、所定の厚みを有する熱延材が得られる。熱間圧延は、1回又は複数回行われてもよい。なお、連続鋳造によって薄板のアルミニウム鋳塊を製造する場合には、当該薄板状の鋳塊は本工程を介さずに冷間圧延されてもよい。
【0075】
そして、熱間圧延により得られた熱延材を冷間圧延する。本工程により、所定の厚みを有する冷延材(最終仕上げ冷間圧延工程における被圧延材)が得られる。本工程において、冷間圧延は例えば中間焼鈍工程を挟んで複数回行われ得る。例えば、まず熱延材に対し第1冷間圧延工程を実施して熱延材の厚みよりも薄く冷延材の厚みよりも厚い圧延材を形成する。次に、得られた圧延材に対し中間焼鈍工程を施す。中間焼鈍は、一般的な操業条件の範囲内であればよいが、例えば焼鈍温度を50℃以上500℃以下、焼鈍時間を1秒以上20時間以下とする条件で行われる。そして、焼鈍後の圧延材に対し第2冷間圧延工程を実施する。このようにして、必要回数の冷間圧延と中間焼鈍とを繰り返し、冷延材を得る。
【0076】
最後に、得られた冷延材を最終仕上げ冷間圧延する。本工程では、圧延ロールを用いて被圧延材を最終仕上げ冷間圧延する。圧延ロールは被圧延材と接触して圧延するロール面を有している。被圧延材を挟んで配置される一対の圧延ロールのうち、少なくとも一方の圧延ロールのロール面の表面粗さRaが50nm以下であることが好ましい。表面粗さRaが50nmより大きい圧延ロールを用いて被圧延材を圧延すると、得られるアルミニウム基材の表面粗度Sa、Sz、SzJISが上述の数値範囲を満たさなくなるおそれがある。本工程で使用する圧延ロールの表面粗さRaは、できるだけ小さいことが好ましく、より好ましくは40nm以下である。このようにして、箔状のアルミニウム基材が準備される。
【0077】
[前処理工程]
前処理工程S12は、上述のごとく得られたアルミニウム基材の少なくとも一方の表面を洗浄し、表面に付着している圧延油分や、圧延で生じたアルミニウム微粉を除去する工程である。
【0078】
洗浄方法は、特に限定されるものではなく、一般的に公知の方法を採用できる。具体的には例えば、メチレンクロライド等の金属洗浄剤を接触させてもよいし、水酸化ナトリウムや炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等を含有したアルカリ性水溶液、又は、リン酸やフッ化水素酸等の酸性水溶液に接触させてもよい。洗浄工程でアルカリ性もしくは酸性の水溶液をアルミニウム基材表面に接触させる場合、アルミニウム基材表面の粗さが大きくならないよう、例えば0.5~1.5質量%程度の低濃度に希釈した水溶液を使用することが好ましい。
【0079】
前処理工程S12は、任意の工程であるが、表面処理工程S13において形成される凹凸構造の均一性を確保する観点から、設けることが好ましい。
【0080】
[表面処理工程]
表面処理工程S13は、アルミニウム基材の表面に表面層12を形成する工程である。
【0081】
表面処理工程S13の表面処理方法は、上述の表面粗度Sa、Sz、SzJISを満たす凹凸構造を形成することができれば、特に限定されない。表面処理方法は、具体的には例えば、アルミニウム基材を酸性又はアルカリ性の溶液に浸漬する、アルミニウム基材の表面をベーマイト処理する等の湿式法、アルミニウム基材の表面をブラスト処理する、圧延ロール表面に形成された凹凸構造を転写させる等の乾式法等により行うことができる。
【0082】
表面処理の方法として好ましいのは、アルミニウム基材の表面をベーマイト処理する方法である。ベーマイト処理により、アルミニウム基材の表面に水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方の針状結晶からなる凹凸構造が形成される。ベーマイト処理は、例えば、50℃~100℃の温水、沸騰水、及び水蒸気のうちのいずれかと、アルミニウム基材とを接触させることにより行われる。ベーマイト処理に使用する水は、不純物の濃度を低下させる観点から、電気伝導率が1μS/cm以下であることが好ましい。より好ましいのは、電気伝導率が0.5μS/cm以下のイオン交換水、蒸留水等の純水である。電気伝導率が高くなると、不純物の濃度が高くなり、ベーマイト針状結晶の均一性が低下するおそれがある。具体的には例えば、水にSiやCaが含まれている場合、ベーマイト処理においてSiOやCaCOなどの化合物がアルミニウム基材の表面に析出する。特にSiOはアルミニウム基材の表面に吸着し、アルミニウム基材と水との反応を妨げ、ベーマイト針状結晶の成長を抑制する。
【0083】
なお、このような低電気伝導率の水に、例えば0.1質量%以上1質量%以下のトリエタノールアミンを添加してもよい。トリエタノールアミンを添加することにより、溶液中の水酸化物イオンが増加し、ベーマイト針状結晶の生成が促進され得る。
【0084】
ベーマイト処理は、例えば図3に示すように、基材層11を構成するアルミニウム基材を、ロール搬送で、温水21を貯留する温水浴に連続的に浸漬させるようにして行ってもよい。この場合、浸漬時間は、搬送速度との関係で設定できる。
【0085】
<積層体の製造方法>
アルミニウム箔10と樹脂基材との積層体を製造する方法の一例を説明する。
【0086】
図4は、積層体を製造する方法、後述する樹脂基材の製造方法及び樹脂基材に他の材料を積層させる方法の一例を示すフロー図である。
【0087】
図4に示すように、積層体は、例えばアルミニウム箔10と樹脂基材とを熱圧着させる(工程S21)ことにより製造できる。
【0088】
熱圧着工程S21は、具体的には例えば、アルミニウム箔における凹凸構造を有する表面に、樹脂基材の表面を接触させて、該樹脂基材を構成する樹脂材料の軟化点又はガラス転移点以上の温度下において例えば10kN以上20kN以下の圧力を加えることにより行われる。
【0089】
熱圧着の条件は特に限定されるものではなく、樹脂材料の種類等に応じて適宜変更され得る。
【0090】
本構成によれば、上記のようにして得られた積層体では、アルミニウム箔と樹脂基材との界面においてアルミニウム箔表面の凹凸構造に樹脂基材の樹脂材料が入り込んだ状態となる。これにより、樹脂基材の表面に、アルミニウム箔表面の凹凸構造の反転形状である凹凸構造が形成される。
【0091】
なお、積層体の製造方法は、上記に限られるものではなく、例えば射出成形法等を用いて、アルミニウム箔の表面に溶融樹脂を流し込んで成形してもよい。
【0092】
<樹脂基材の製造方法>
アルミニウム箔10を用いて、表面に凹凸構造を有する樹脂基材を製造する方法の一例を説明する。
【0093】
本実施形態に係る樹脂基材の製造方法は、図4に示すように、上述の積層体を得る工程S21と、該積層体のアルミニウム層を除去する工程S22と、を含む。
【0094】
積層体のアルミニウム層を除去する方法は、特に限定されるものではなく一般的に公知の方法であってよい。具体的には例えば、30~70℃程度に加温した5~20質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液に所定時間浸漬することによりアルミニウム層を溶解除去できる。浸漬時間はアルミニウム層の厚さにもよるが例えば30秒~30分程度とすることができる。
【0095】
また、アルミニウム箔の表面層12が基材層11と異なる成分により構成されている場合は、表面層12の除去作業も必要になる。具体的には、例えば表面層12が水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなる場合、水酸化ナトリウム水溶液では除去できない。このため、アルミニウム層除去後の樹脂基材を例えば30~70℃程度に加温した5~15質量%程度のリン酸水溶液に30秒~30分程度浸漬して樹脂基材の表面に残っている水酸化アルミニウム層及び酸化アルミニウム層を溶解除去することができる。
【0096】
このようにして、アルミニウム箔の凹凸構造の形状が表面に転写されてなる樹脂基材を得ることができる。
【0097】
本構成によれば、樹脂基材の表面には、アルミニウム箔の凹凸構造の反転形状である凹凸構造が形成されているから、樹脂基材表面に他の材料を積層させた場合、両者間に高い密着性を確保することができる。また、樹脂基材の表面は巨視的には十分な平滑性を有しているから、樹脂基材表面に配線を施した場合も、表皮効果に伴う伝送ロスを効果的に抑制できる。
【0098】
なお、得られた樹脂基材の表面の凹凸構造は、アルミニウム箔の凹凸構造の反転形状であるから、上述の表面層12の表面粗度及びピーク数の条件を満たすことが好ましい。
【0099】
<樹脂基材と他の材料との密着性>
図4に示すように、樹脂基材の表面に、例えば触媒を付与する工程S23を施した後、無電解銅メッキ等を施すことができる(工程S24)。
【0100】
樹脂基材の凹凸構造が形成された表面に銅メッキを施した場合、両者間の十分な密着性を確保する観点から、後述する実施例の剥離強度評価の項目に記載した試験条件で測定した剥離強度は、0.5N/10mm以上であることが好ましく、0.6N/10mm以上5N/10mm以下であることがより好ましい。
【実施例0101】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0102】
以下に説明するように、本開示の実施例と比較例のアルミニウム箔の試料を作製した。
【0103】
<アルミニウム基材:製造例A~J>
表1、表2に示すように、各種化学組成のアルミニウムを鋳造し、製造例A~Jのアルミニウム基材を作製した。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
準備工程S11としての製箔工程は、以下の手順で行った。まず、鋳造によって得られたアルミニウムの鋳塊を加熱炉に搬入し、表2に示す所定の温度と時間で均質化熱処理を施した。その後、厚みが約6.5mmになるまで熱間圧延を行った。得られた熱間圧延材を用いて複数回の冷間圧延を行った。なお、必要に応じて、冷間圧延の途中で所定の温度と時間で中間焼鈍を実施し、厚みが所定の値になるまで最終冷間圧延を行い、アルミニウム基材を作製した。
【0107】
<アルミニウム箔:実施例1~5及び比較例1~12>
次に、得られたアルミニウム基材に表3に示す前処理及び表面処理を施して実施例1~5及び比較例1~12のアルミニウム箔を得た。
【0108】
【表3】
【0109】
具体的には、最終冷間圧延後、表3に示す通り、前処理として35℃で1質量%の水酸化ナトリウム溶液に所定時浸漬した。
【0110】
その後、実施例1~3、5、比較例1~7、10~12では、アルミニウム基材を100℃のイオン交換水に表3に示す所定の時間浸漬してベーマイト処理を施した。ベーマイト処理は、図3に示す装置で行った。
【0111】
また、実施例4では、100℃のイオン交換水に添加剤として1mMの硝酸を加えた処理液に、アルミニウム基材を表3に示す時間浸漬してベーマイト処理を施した。
【0112】
比較例8では、アルミニウム基材を35℃で2質量%の塩酸水溶液に浸漬させ、塩酸エッチングを行った。
【0113】
なお、比較例9は、製造例Aのアルミニウム基材について、前処理のみ行い、温水処理及び塩酸エッチングのいずれも施していない例である。
【0114】
図5及び図6に、実施例2のアルミニウム箔の凹凸構造のSEM像及び断面SEM像を示す。図5及び図6に示すように、約473nm厚さの水酸化アルミニウムの針状結晶が形成されていることが判る。
【0115】
<基材層における第二相粒子の面積率>
得られたアルミニウム基材の各試料について、上記前処理を施した後、上記表面処理を行う前の表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、第二相粒子の面積率を測定した。
【0116】
具体的に、SEMによる第二相粒子の観察は、日本電子株式会社製JSM-7200F(加速電圧10kV)を用いて以下の手順で行った。まず、各試料表面の反射電子像を、無作為に選ばれた10個の矩形視野で観察した。各矩形視野は2673.43μmの矩形視野(59.78μm×44.72μm)とした。反射電子像の例を図7に示す。図7の上側が製造例D(比較例4)、下側が製造例A(実施例1等)のアルミニウム基材表面の反射電子像である。黒い部分が母相のアルミニウム、白い部分が第二相粒子である。製造例D(比較例4)では第二相粒子の数が多いのに対し、製造例A(実施例1等)では、ほとんど第二相粒子が観察できないことが判る。
【0117】
各矩形視野の反射電子像を三谷商事株式会社製画像処理ソフトWinRoof2021によって2値化処理することにより、第二相粒子を抽出した。反射電子像の観察条件は、矩形視野画像内に存在する圧延筋、オイルピット及び表面形成後のディンプル形状等の第二相粒子以外の要素が2値化処理前にルックアップテーブル変換の輝度抽出で0以上100~255以下の範囲に収まるように明るさ、コントラスト及び電子線の電圧電流値を設定した。2値化処理による抽出は具体的には以下の方法で行った。まず得られた矩形視野画像内に存在する圧延筋、オイルピット及び表面形成後のディンプル形状等の第二相粒子以外の要素を除去するため、ルックアップテーブル変換の輝度抽出を、上限値を255、下限値を254に固定して行った。さらに円相当径のしきい値を0.1以下として抽出された粒子に対してその面積を計測し、視野全体の面積に対する表面積率を割り出した。
【0118】
<基材層の表面粗度>
また、アルミニウム基材の各試料について、上記前処理を施した後、上記表面処理を行う前の表面状態を、後述する表面層の観察と同様に、レーザ顕微鏡にて観察し、第2矩形視野の観察像から、基材層のSa及びSzを算出した。
【0119】
<表面層の構成及び表面粗度>
実施例1~5及び比較例1~12の表面層の構成と、表面粗度及びピーク数(PC)を表4に示す。
【0120】
【表4】
【0121】
[表面層の第1矩形視野における表面粗度及びピーク数]
AFMによる表面粗度の測定は、株式会社日立ハイテク製原子間力顕微鏡AFM5000IIを用いて行った。各試料表面を0.83Hzの走査周波数、5μm×5μmの走査範囲、256×256ピクセルの解像度で観察し、無作為に選ばれた3つの第1矩形視野を得た。各第1矩形視野をSPMイメージ補正で傾き補正し、面粗さ解析処理でSa及びSzJISを算出した。さらに線粗さ解析処理で各矩形視野から無作為に3か所断面プロファイル抽出し、λc以下をカットしたのち、閾値0nmを超えるピークの数をカウントした。そうして、AFMの3つの第1矩形視野の各々における3つの幅方向の断面プロファイルの各々においてカウントした閾値0nmを超えるピークの数の平均値を、5μm長さでカウントしたピークの数とした。
【0122】
具体的に、実施例1のアルミニウム箔の表面層の第1矩形視野の例(AFM像)と、該AFM像の符号P1~P3で示す個所の断面プロファイルの例を図8に示す。例えば、P1~P3の断面プロファイルの各々について閾値0nmを超えるピークの数をカウントし、この作業を他の2つの第1矩形視野でも行い、9個の断面プロファイルにおいてカウントしたピーク数の平均値をピーク数とした。
【0123】
[表面層の第2矩形視野における表面粗度]
レーザ顕微鏡による表面凹凸の観察は、株式会社キーエンス製のレーザマイクロスコープVK-X3000を用いて、レーザコンフォーカルによる形状測定を95μm×71μmの第2矩形視野で行った。実施例2のアルミニウム箔の第2矩形視野の例を図9に示す。
【0124】
得られた観察結果に対して、株式会社キーエンス製のVK-X3000マルチファイル解析アプリケーションを使用して面の算術平均高さSa、面の最大高さSzを計測した。まず、得られた形状データに対してカットオフ値0.1mmでうねり除去の面形状補正を行い、続いてレーザ光反射のノイズ成分を除去すべく、カットレベル50で高さカットレベル補正を実施し、最後に得られている補正画像に対して凹凸平均に相当する高さを基準面として設定した。面の算術平均高さSa、面の最大高さSzはISO25178に準じて株式会社キーエンス製のVK-X3000マルチファイル解析アプリケーションを使用して計測値を得た。
【0125】
<樹脂基材表面の凹凸構造の評価>
作製したアルミニウム箔に、ミカドテクノス株式会社製熱加圧装置MKP-1000D-STを用いて、ISOLA GROUP社製HR370樹脂を、17.5kN、182℃で熱圧着した。
【0126】
その後、60℃で10質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、アルミニウム層を溶解した。
【0127】
さらに、10質量%リン酸水溶液に浸漬して樹脂の表面に残っている水酸化アルミニウム層を溶解除去し、水酸化アルミニウムの針状結晶からなる凹凸構造の反転形状が形成された表面を有する樹脂基材を得た。
【0128】
得られた樹脂基材について、表面の凹凸構造を評価するためレーザ顕微鏡及び原子間力顕微鏡(AFM)による観察から得られた凹凸観察像から、Sa、Sz、SzJISを計測した。計測方法はアルミニウム箔と同じ方法とした。結果を表4に示す。
【0129】
<剥離強度評価>
上述のごとく得られた樹脂基材の表面に、無電解銅を析出させるための触媒付与、及び、上村工業株式会社製のスルカップPEA-V4を使用した無電解銅メッキを実施した。得られた無電解銅メッキの厚みは約0.5μmであった。
【0130】
次に、無電解銅メッキ上に、さらに硫酸銅電解液を使用して電解銅メッキを施した。銅厚み(無電解銅メッキ及び電解銅メッキの総厚み)は約35μmであった。
【0131】
このようにして作製した銅メッキ付き積層板の断面SEM像の一例を図10に示す。樹脂基材と無電化銅メッキとの間の界面に微細な凹凸構造が形成されていることが判る。
【0132】
この銅メッキ付き積層板を10mm幅に切り出し、剥離強度評価用の試料を作製した。JIS C 6481に準拠し、この試料の銅を90度で剥離したときの強度を測定し、剥離強度とした。
【0133】
<評価結果>
実施例1~5については、十分微細な表面凹凸がアルミニウム箔に備わっており、プレス後に得られる樹脂基材の表面凹凸が微細でかつ銅めっき層と高い剥離強度が得られている。
【0134】
一方、比較例については、得られる樹脂基材の表面凹凸が粗いか、もしくは樹脂基材の表面凹凸が微細であったとしても銅めっき層との剥離強度が低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本開示は、表皮効果が得られる深さよりも小さい高さの凹凸構造を樹脂基材表面に付与することができるアルミニウム箔、該アルミニウム箔の製造方法、該アルミニウム箔と樹脂基材との積層体の製造方法、及び樹脂基材の製造方法を提供できるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0136】
10 アルミニウム箔
11 基材層
12 表面層
21 温水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10