(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126942
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電力分配装置、及び断線判定方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/24 20060101AFI20240912BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20240912BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240912BHJP
H02H 7/18 20060101ALI20240912BHJP
H04B 3/54 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H02H3/24 L
B60R16/02 650S
H02J7/00 Q
H02J7/00 302B
H02H7/18
H04B3/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035724
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋
(72)【発明者】
【氏名】金川 信康
(72)【発明者】
【氏名】十文字 賢太郎
【テーマコード(参考)】
5G004
5G053
5G503
5K046
【Fターム(参考)】
5G004AA04
5G004BA05
5G004DC14
5G053AA07
5G053BA01
5G053DA01
5G053EA01
5G053EB08
5G053EC03
5G053FA05
5G503AA04
5G503AA07
5G503BA02
5G503BB01
5G503BB02
5G503CC02
5G503EA09
5G503FA06
5G503GA01
5G503GB03
5G503GD03
5G503GD06
5K046AA03
5K046BA02
5K046BB05
5K046PS31
5K046ZZ11
(57)【要約】
【課題】車両が走行中でも電源供給を遮断せずに車載電力ネットワークの断線を短時間で検出する。
【解決手段】電力幹線による2以上の経路で電力が供給され、車両負荷に電力を供給する電力分配装置であって、前記電力幹線の電流を検出する電流検出素子と、前記車両負荷の動作状態に応じて前記車両負荷以外の経路に流れる電流量を制御する検査電流制御部とを備える。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力幹線による2以上の経路で電力が供給され、車両負荷に電力を供給する電力分配装置であって、
前記電力幹線の電流を検出する電流検出素子と、
前記車両負荷の動作状態に応じて前記車両負荷以外の経路に流れる電流量を制御する検査電流制御部とを備えることを特徴とする電力分配装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力分配装置であって、
前記検査電流制御部は、
前記車両負荷以外の経路に設けられる検査電流負荷を有し、
前記車両負荷の動作状態に応じて前記検査電流負荷に流れる検査電流量を制御することを特徴とする電力分配装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力分配装置であって、
前記検査電流制御部は、前記検査電流負荷への電流経路を開閉するスイッチを有することを特徴とする電力分配装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力分配装置であって、
前記検査電流制御部は、前記車両負荷に流れる電流が所定の閾値より小さい場合に前記車両負荷以外の経路に電流が流れるように制御することを特徴とする電力分配装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力分配装置であって、
前記電力幹線の電流が第1閾値以下となった場合に前記車両負荷以外の経路に所定の検査電流を流し、
さらに、前記電力幹線の電流が、第2閾値より小さい場合に前記電力幹線が断線と判定し、
前記第2閾値は前記第1閾値より小さいことを特徴とする電力分配装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力分配装置であって、
前記検査電流制御部は、前記車両負荷以外の経路に前記所定の検査電流が流れたときに前記第1閾値の値を前記検査電流の値より高く設定し、
前記検査電流の値は前記第2閾値の値より高く設定されることを特徴とする電力分配装置。
【請求項7】
請求項5に記載の電力分配装置であって、
前記検査電流はパルス状の電流であり、
前記検査電流制御部は、前記パルス状の検査電流が流れたときに前記電力幹線の電流が前記第2閾値より小さい場合に、前記電力幹線が断線と判定することを特徴とする電力分配装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電力分配装置であって、
前記検査電流制御部は、車両停車時に前記検査電流をパルス状の電流に切り替えることを特徴とする電力分配装置。
【請求項9】
請求項5に記載の電力分配装置であって、
前記検査電流制御部は、
前記電力幹線の電流が前記第1閾値より大きいときに前記車両負荷以外の経路に所定値の電流を流し、
前記所定値の電流が流れるタイミングにおける前記電流検出素子に流れる幹線電流の変化によって、前記検査電流制御部の故障を診断することを特徴とする電力分配装置。
【請求項10】
電力分配装置における断線判定方法であって、
前記電力分配装置は、
電力幹線による2以上の経路で電力が供給され、前記供給された電力を車両負荷に供給し
前記電力幹線の電流を検出する電流検出素子と、
前記車両負荷の動作状態に応じて前記車両負荷以外の経路に流れる電流量を制御する検査電流制御部とを有し、
前記断線判定方法は
前記検査電流制御部が、前記電力幹線の電流が第1閾値以下となった場合に前記車両負荷以外の経路に所定の検査電流を流し、
前記検査電流制御部が、前記所定の検査電流が流れている間に、前記電力幹線の電流が第2閾値より小さい場合に前記電力幹線が断線と判定することを特徴とする断線判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に搭載する電力分配装置に関し、特に電源供給経路の故障検出に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化や自動運転化の進展により、車載電力ネットワークの高信頼化(冗長化)が求められており、一方で、電力供給のためのワイヤーハーネスの削減や、高効率化が求められている。従来の車載電力ネットワークは、バッテリーの近くにリレーボックスやヒューズボックスを設け、車両のセンサ、アクチュエータ毎に放射状に電源ケーブルを敷設して接続する構成が広く採用されている。このような車載電力ネットワークでは、車載機器の電動化や高信頼化の進展に伴って、センサやアクチュエータの搭載数が増加し、電源供給の冗長化のためにワイヤーハーネスが増大している。
【0003】
本技術分野の背景技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2016-54617号公報)には、電力線が環状接続された環状電力線から電力が供給される、蓄電部の状態を監視する一つ以上の監視装置、および、前記監視装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記環状電力線の一部を構成する第一の電力配線と、電力供給源と前記第一の電力配線とに接続される第二の電力配線と、前記電力供給源から供給される電力の供給と遮断を切り替える切替部と、前記切替部を制御して前記環状電力線の異常あるいは前記監視装置の異常を検知する制御部と、を有し、前記監視装置は、前記環状電力線の一部を構成する第三の電力配線と、前記第三の電力配線に接続される前記監視装置に備えられる負荷に電力を供給する第四の電力配線と、を有する電力供給システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1には、監視装置を環状接続した環状電力網による電力供給システムが記載されているが、電力の供給と遮断を切り替える切替部を備えて環状接続を一時的に切断した状態で、環状電力網に接続された各監視装置から電源供給状態を収集し、環状電力網に断線が生じているかを判定している。特許文献1では、断線診断の際に環状接続が一時的に切断されるため、環状電力網の一部において電力供給が遮断する可能性がある。そのため、特許文献1の電力供給網における断線検出は車両が停止しているときに限られる。
【0006】
車両が走行中に環状電力網の一部が断線すると、電力供給可能な経路の特定の区間に電流経路が集中し、環状電力網の許容電流を超える可能性がある。従って、高信頼化が必要な車載電力ネットワークでは、車両が走行中に短時間で断線を検出し、断線が生じた区間に応じて安全が保てる範囲で車載に搭載された機器の動作を制限し、機器へ供給される電力の制限が必要になる。
【0007】
そこで、車両が走行中でも電源供給を遮断せずに車載電力ネットワークの断線を短時間で検出する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、電力幹線による2以上の経路で電力が供給され、車両負荷に電力を供給する電力分配装置であって、前記電力幹線の電流を検出する電流検出素子と、前記車両負荷の動作状態に応じて前記車両負荷以外の経路に流れる電流量を制御する検査電流制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、車両が走行中でも電源供給を遮断せずに車載電力ネットワークの断線を短時間で検出できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の実施例の車載電力ネットワークの一例を示す図である。
【
図1B】本発明の実施例の車載電力ネットワークの一例を示す図である。
【
図1C】本発明の実施例の車載電力ネットワークの一例を示す図である。
【
図2】第1実施例の電力分配装置1aの構成を示す図である。
【
図3A】第1実施例の判定部の動作による電力分配装置内部の電流経路及び電力幹線の電流変化を示す図である。
【
図3B】第1実施例の判定部の動作による電力分配装置内部の電流経路及び電力幹線の電流変化を示す図である。
【
図4】第1実施例における負荷電流IL、検査電流ID、幹線電流IMのタイムチャートである。
【
図5】第2実施例における負荷電流IL、検査電流ID、幹線電流IMのタイムチャートである。
【
図7】第4実施例の電力分配装置1aの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0012】
(第1実施例)
図1A、
図1B、
図1Cは、本実施例の車載電力ネットワークの一例を示す図である。
【0013】
図1Aに示す車載電力ネットワークは、複数の電力分配装置1a~1dを有する。電力分配装置1a~1dは車両の前方、右側、左側、後方などの各ゾーンに設置され、各ゾーンにある車両負荷2a~2dに電力を供給する電源ハブである。電力分配装置1a~1dは、電力幹線3a、3b、3c、3d、3e、3fによってリング状に接続されており、電力分配装置1a~1dの各々には複数の電力幹線から電力が供給される。リング状に接続された電力幹線3a、3bには、第1の電力源である12Vのバッテリー4が接続される。バッテリー4としては、鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などを使用できる。また、電力幹線3e、3fには第2の電力源であるDC/DCコンバータ5が接続される。DC/DCコンバータ5は、図示を省略する高電圧バッテリー(例えば400Vバッテリー)の電圧を12Vに降圧して電力幹線3e、3fに供給する。高電圧バッテリーは、電気自動車やハイブリッド自動車において車輪を駆動するための走行用モータに電力を供給するバッテリーである。また、DC/DCコンバータ5に代えて、車両のエンジンの駆動力で発電するオルタネータを電力幹線3e、3fに接続してもよい。つまり、第1の電力源と第2の電力源は、異なるエネルギー源から供給されるものであれば、適宜選定されるとよい。
【0014】
図1Aに示す車載電力ネットワークは、電力幹線がリング状に接続されるので、全ての電力分配装置1aから1dが2系統で電力供給を受けられ、電力幹線のいずれかが断線した場合でも、別ルートから電力分配装置1a~1dへの電力供給を継続できる。例えば、
図1Aにおいて電力幹線3aが断線すると、バッテリー4から電力幹線3b、3d、3f、3e、3cを介して電力分配装置1aに電力を供給できる。また、バッテリー4の残量が少ない場合は、DC/DCコンバータ5から電力幹線3e、3cを介して電力分配装置1aに電力を供給できる。
【0015】
また、
図1Bに示す車載電力ネットワークは、バッテリー4からの電力幹線3a、3cによる電力系統が電力分配装置1a、1cに接続され、DC/DCコンバータ5からの電力幹線3b、3dによる電力系統が電力分配装置1b、1dに接続される。電力分配装置1aと電力分配装置1dは電力幹線3gによって接続され、電力分配装置1cと電力分配装置1bは電力幹線3hによって接続される。このように、バッテリー4からの電力系統とDC/DCコンバータ5からの電力系統が電力幹線3g及び電力幹線3hによってたすき掛けで接続されるので、全ての電力分配装置1a~1dが2系統で電力供給を受けられ、電力幹線のいずれかが断線した場合でも、別ルートから電力分配装置1a~1dへの電力供給を継続できる。例えば、
図1Bにおいて電力幹線3cが断線すると、電力分配装置1cへのバッテリー4からの電力供給は途絶するが、DC/DCコンバータ5から電力幹線3b、3hを介して電力を供給できる。
【0016】
また、
図1Cに示す車載電力ネットワークは、バッテリー4からの電力幹線3aによる電力系統が電力分配装置1aに接続され、DC/DCコンバータ5からの電力幹線3eによる電力系統が電力分配装置1cに接続され、電力分配装置1aと電力分配装置1cは電力幹線3cによって接続される。このように、バッテリー4からの電力系統とDC/DCコンバータ5からの電力系統が電力幹線3cによって接続されるので、全ての電力分配装置1a、1cが2系統で電力供給を受けられ、電力幹線のいずれかが断線した場合でも、別ルートから電力分配装置1a、1cへの電力供給を継続できる。例えば、
図1Cにおいて電力幹線3cが断線すると、電力分配装置1aへのDC/DCコンバータ5からの電力供給は途絶するが、バッテリー4から電力幹線3aを介して電力を供給できる。また、電力分配装置1cへのバッテリー4からの電力供給は途絶するが、DC/DCコンバータ5から電力幹線3eを介して電力を供給できる。
【0017】
図2は、本実施例の電力分配装置1aの構成を示す図である。
図2を参照して電力分配装置1aの構成例を説明するが、他の電力分配装置1b、1c、1dも同じ構成でよい。
【0018】
電力分配装置1aは、電力幹線3aと電力幹線3cに接続される。電力分配装置1aは、電力幹線3aに流れる電流を検出する電流検出素子6aと、電力幹線3cの電流を検出する電流検出素子6bを有する。電流検出素子6a、6bは、シャント抵抗器やホール素子などを使用できる。電力幹線3aと電力幹線3cは遮断素子7a、7bを介して接続される。遮断素子7aの一端は電力幹線3aに接続され、他端は遮断素子7bに接続される。遮断素子7bの一端は遮断素子7aに接続され、他端は電力幹線3cに接続される。遮断素子7aと遮断素子7bの接続点には、保護回路8が接続され、保護回路8を介して車両負荷2aに電力が供給される。保護回路8は、車両負荷2aの各々への電流を制御して導通、遮断を切り替えて動作する他、車両負荷2aの各々ごとに過電流や過電圧を検知すると電力供給を遮断する保護機能を有する。遮断素子7a、7bは、好ましくはパワーMOSFETがよく、リレーなどの機械的スイッチでもよい。
【0019】
前述した構成において、電流検出素子6aと遮断素子7bの間には検査電流制御部としての検査電流負荷9aと検査電流スイッチ10aが接続されている。検査電流負荷9aは、抵抗器などを用いてアースへ流す電流量を調整できる素子を選定するとよい。また、検査電流スイッチ10aは、半導体スイッチ(例えばMOS-FET)など回路に流れる電流を導通、遮断を切り替えて動作する素子を使用できる。
【0020】
電流検出素子6aとしてシャント抵抗を用いる場合、電力分配装置1aは、電流検出部11aと判定部12aを有する。電流検出部11aは、電流検出素子6aの両端電圧から電力幹線3aに流れる電流を検出する。判定部12aは、電流検出部11aで検出した電流値に基づいて検査電流スイッチ10a及び遮断素子7aの開閉を制御する。判定部12は、コンパレータを用いて所定の閾値と比較する方法や、電流検出部11aでデジタル変換された電流値をマイコンを用いて判定する方法を採用できる。
【0021】
電力幹線3c側も前述と同様な構成であり、電力分配装置1aは、検査電流負荷9b、検査電流スイッチ10b、電流検出部11b、及び判定部12bを有する。判定部12bは、電力幹線3cに流れる電流に従って、遮断素子7b及び検査電流スイッチ10bの開閉を制御する。
【0022】
図3A、
図3Bは、判定部12aの動作による電力分配装置1a内部の電流経路及び電力幹線3aの電流変化を示す図である。
【0023】
図3Aは、電力分配装置1aに接続された車両負荷2aに、電力幹線3a側から電力が供給される場合の電流経路を示す。車両負荷2aが動作しており、電流を消費しているときは、車両負荷2aへの負荷電流ILが流れる。電力幹線3a側から電源供給している場合、電力幹線3aの幹線電流IMは負荷電流ILとほぼ一致する。この時、電力幹線3aにおいて断線が生じると、電流検出素子6aが検出する電流がゼロとなり、判定部12aが電力幹線3aの断線を判定し、遮断素子7aを遮断して電力幹線3aを切り離す。
【0024】
しかし、前述のように車両負荷2aにおいて電流が消費されている場合、電力幹線3aに流れる電流から断線を判定できるが、車両負荷2aが動作していない場合や、車両負荷2aがスタンバイ状態であり、負荷電流ILが微小である場合、誤判定が生じる可能性がある。つまり、幹線電流IMが微小の場合、車両負荷2aが停止しているか、電力幹線3aが断線しているかの判定が困難である。
【0025】
そこで、
図3Bに示すように、幹線電流IMが所定の電流値を下回ると、検査電流スイッチ10aを導通して、検査電流IDを流して、幹線電流IMを増加させる。つまり、幹線電流IMの状態の監視結果による車両負荷2aの動作状態に応じて、検査電流IDを流すことができる。これにより、電力幹線3aが正常であれば、検査電流ID以上の幹線電流IMが流れる。この状態で、電力幹線3aが断線すると、電流検出素子6aによる検出電流がゼロになり、判定部12aが電力幹線3aの断線を判定し、遮断素子7aを遮断して、電力幹線3aを切り離し、遮断素子7bを導通して、電力幹線3cからの電源供給に切り替えられる。
【0026】
また、前述の構成によれば、電力分配装置1aが検出した断線情報を上位システムへ通知し、車両負荷2aの動作を安全上最低限必要な負荷に制限したり、車両負荷2aの優先度や電流容量に応じて動作の順番や同時に動作させる負荷を制限できる。これにより、リング状に接続された電力幹線のうち故障していない電力幹線に流れる過大電流を防止し、電力幹線を構成するケーブルの発熱による損傷を防止できる。また、このような制限機能によって、故障時においても電力幹線に流れる電流を抑制できるので、ワースト状態を想定した電源ケーブルの設計が不要になり、電源ケーブルのコストや重量を抑制できる。
【0027】
図4は、負荷電流IL、検査電流ID、幹線電流IMのタイムチャートである。
【0028】
判定部12aは、負荷電流ILが減少し、幹線電流IMが第1の閾値Ith1(=I1)より小さくなると、検査電流スイッチ10aが導通し、検査電流IDが流れる。幹線電流IMは負荷電流ILと検査電流IDを加算した値となる。検査電流スイッチ10aが導通すると、判定部12aは、第1の閾値Ith1をI1にIDを加算した値(I1+ID)に更新する。つまり、検査電流負荷9aに検査電流IDが流れたときに、第1の閾値Ith1は検査電流IDより高くなるように設定される。これにより、検査電流のON/OFFにより検査電流スイッチ10aが繰り返し開閉する発振を抑制できる。その後、負荷電流ILが増加して、幹線電流IMが再設定した第1の閾値Ith1(=I1+ID)を超えると、検査電流スイッチ10aをOFFにして検査電流を止める。このとき、第1の閾値Ith1より小さく、かつ検査電流IDより小さい第2の閾値Ith2を設け、幹線電流IMが第2の閾値Ith2より小さいときに断線と判定し、遮断素子7aを開にして電力幹線3aを遮断する。つまり、検査電流IDは断線判定の閾値となる第2の閾値Ith2より大きい値に設定される。この閾値設定によって断線を的確に判定できる。なお、検査電流スイッチ10a、10bは別タイミングで閉となるように、判定部12aと判定部12bは、検査電流スイッチ10a、10bの動作タイミングを調整する。
【0029】
前述した実施例によれば、従来のようにリング接続状態を切り離すための切替動作による電源供給の遮断を回避できる。また、電力幹線の電流を監視する断線検出方法において、車両負荷2aのON/OFF状態や高負荷状態/低負荷状態に影響されずに断線状態を迅速かつ的確に検出できる。
【0030】
また、本実施例によれば、検査電流を常時流す必要がなく、車両負荷2aを低減でき、幹線電流が減少した時のみ検査電流を流すので、断線検出のための電力消費を抑制できる。
【0031】
また、車載電力ネットワークの断線だけでなく、断線箇所も判定できる。
【0032】
本実施例では、検査電流負荷9aと検査電流スイッチ10aからなる検査電流制御部を設けたが、検査電流制御部はこのような構成に限定されない。例えば、検査電流制御部を半導体素子によるスイッチングや定電流回路を用いた電流制御によって構成したり、マイコンやICなどの演算素子を負荷として接続して、当該演算素子が実行する処理によって電流量を制御する構成としてもよい。
【0033】
(第2実施例)
第2実施例では、電流消費の抑制にさらに好適な検査電流の制御方法を示す。
【0034】
図5は、負荷電流IL、検査電流ID、幹線電流IMのタイムチャートである。
【0035】
判定部12aは、負荷電流ILが減少し、幹線電流IMが第1の閾値Ith1(=I1)より小さくなると、検査電流スイッチ10aがON/OFFを繰り返し切り替える動作をし、パルス状の検査電流IDが流れる。幹線電流IMは負荷電流ILとパルス状の検査電流IDを加算した値となる。検査電流スイッチ10aの導通時に、判定部12aは、幹線電流IMが第2の閾値Ith2より小さいときに断線と判定する。その後、負荷電流ILが増加して、幹線電流IMが第1の閾値Ith1より大きくなると、検査電流スイッチ10aのON/OFF動作を停止する。この構成においても、検査電流IDより小さい第2の閾値Ith2を設け、幹線電流IMが第2の閾値Ith2より小さいときに断線と判定する。つまり、検査電流IDは断線判定の閾値となる第2の閾値Ith2より大きい値に設定される。この閾値設定によって断線を的確に判定できる。
【0036】
第2実施例では、負荷電流ILが減少した時の断線診断のタイミングが検査電流スイッチ10aのON/OFF動作の周期に依存する。つまり、タイミングが検査電流スイッチ10aのON/OFF動作の2分の1周期分、断線検出が遅れる可能性がある。従って、例えば、イグニッションキーOFF中など車両が停車した状態で、断線検出タイミングの要求が緩和される車両状態において、バッテリー4に充電された電力消費を抑制するために有効である。
【0037】
第2実施例によれば、検査電流がパルス状に印加されるので、断線診断のための電力消費を抑制できる。
【0038】
(第3実施例)
第3実施例では、断線検出の確実性を向上させる構成を示す。第3実施例における断線検出機能は、検査電流負荷9a、検査電流スイッチ10a、及び判定部12aによって構成される。
【0039】
【0040】
車両負荷2aが動作し幹線電流IMが第1の閾値Ith1(=I1)以上であるとき、検査電流スイッチ10aを開閉して検査電流負荷9aに所定の検査電流IDを繰り返し(例えば所定の時間間隔で)流し、電流検出素子6aが幹線電流IMの変化を検出しているかを判定する。これにより、検査電流負荷9a及び検査電流スイッチ10aの故障を診断できる。
【0041】
第3実施例の構成によれば、検査電流スイッチ10aを開閉しても幹線電流IMの変化を確認できないときは、断線検出を構成するいずれかの部位が故障していると判定して、電力幹線3aからの電源供給を禁止する。これにより、断線検出機能の故障による不検知状態を回避でき、電源供給の遮断を抑制できる。
【0042】
なお、第3実施例の検査電流負荷9a及び検査電流スイッチ10aの故障を診断は、第1実施例に適用するだけで無く、第2実施例にも適用できる。
【0043】
(第4実施例)
図7は、第4実施例の電力分配装置1aの構成例を示す図である。第4実施例は、車両負荷2aの動作情報や遮断素子7a、7bの状態に基づいて検査電流スイッチ10aの開閉が制御される点で前述した実施例と異なる。
【0044】
保護回路8は、車両負荷2aのON/OFF動作の制御するスイッチや、各負荷に流れる電流を検出する電流センサによって、車両負荷2aの各負荷A~Eが動作中であるかを示す動作情報を取得する。保護回路8が取得した動作情報を用いると負荷電流を推定できる。例えば、
図8に示す車両のフロントゾーンの負荷A~Eの最低電流を電力分配装置1aのスイッチ制御装置13に記憶し、動作中の車両負荷の最低負荷電流を合算した値が、第1の閾値Ith1以下であるかによって検査電流スイッチ10aを開閉する。また、遮断素子7aが導通しており、電力幹線3aから負荷電流が供給されていることを判定する。スイッチ制御装置13は、マイクロコンピュータなどによって構成できる。
【0045】
例えば、断線判定の電流閾値を100mAとすると、ドライブレコーダだけが動作している場合は、検査電流を流さないと断線と判定されるので、検査電流スイッチ10aを閉にして、検査電流負荷9aに検査電流を流す。
【0046】
第4実施例によれば、電力幹線3aが正常であれば常に所定値以上の幹線電流IMを流すことができ、電流検出素子6aの検出電流の監視によって断線を判定できる。つまり、車両負荷2aの動作状態に応じて検査電流を制御するので、負荷の動作状態にかかわらず電流検出素子6a、6bの検出電流を監視すれば断線を判定できる。
【0047】
以上に説明したように、本実施例の電力分配装置によると、接続された電力幹線に流れる電流がゼロ又は所定の閾値以下になると断線と判定できるため、走行中においても電源供給を遮断せずに車載電力ネットワークの断線を短時間で検出し、さらに、断線箇所も特定できる。
【0048】
また、車両負荷2aの動作状態に応じて検査電流スイッチ10a、10bを制御するので、検査電流による電流消費を抑制できる。
【0049】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0050】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0051】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0052】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0053】
1a~1d…電力分配装置
2…車両負荷
3a~3f…電力幹線
4…バッテリー
5…DC/DCコンバータ
6a、6b…電流検出素子
7a、7b…遮断素子
8…保護回路
9a、9b…検査電流負荷
10a、10b…検査電流スイッチ
11a…電流検出部
12a…判定部
13…スイッチ制御部