(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126948
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】硬質皮膜除去装置およびそれを用いた硬質皮膜の除去方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/36 20140101AFI20240912BHJP
B23K 26/12 20140101ALI20240912BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035732
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】上田 志津代
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嗣紀
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD00
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】超硬合金や高速度工具の表面を損傷させることなく、これらの超硬合金や高速度工具鋼の表面に被覆されたTiAlNやAlCrNなどAlを含有する種々の硬質皮膜(窒化物)を除去できる硬質皮膜除去装置およびそれを用いた硬質皮膜の除去方法を提供する。
【解決手段】
硬質皮膜除去装置の発明は、硬質皮膜が被覆された被加工物を内部に設置できる加工処理室と、硬質皮膜へ照射するレーザーを出力できるレーザー源と、外部のガスを加工処理室内へ供給するガス供給配管と、から構成する硬質皮膜除去装置とする。また、硬質皮膜の除去方法の発明は、当該装置を用いてガス供給配管を介して加工処理室内へ外部のガスを供給しながら、レーザー源のレーザーを被加工物の硬質皮膜へ照射することで硬質皮膜の除去を行う。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質皮膜が被覆された被加工物を内部に設置できる加工処理室と、前記硬質皮膜へ照射するレーザーを出力できるレーザー源と、外部のガスを前記加工処理室内へ供給するガス供給配管と、を有することを特徴とする硬質皮膜除去装置。
【請求項2】
硬質皮膜が被覆された被加工物を内部に設置できる加工処理室と、前記硬質皮膜へ照射するレーザーを出力できるレーザー源と、前記加工処理室内のガスを外部へ排出するガス排出配管と、を有することを特徴とする硬質皮膜除去装置。
【請求項3】
前記加工処理室には、前記レーザー源からを出力するレーザーを前記加工処理室内へ透過できる窓部を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の硬質皮膜除去装置。
【請求項4】
請求項1に記載の硬質皮膜除去装置を用いた硬質皮膜の除去方法であって、前記ガス供給配管を介して前記加工処理室内へ前記外部のガスを供給しながら、前記レーザー源のレーザーを前記被加工物の硬質皮膜へ照射することを特徴とする硬質皮膜の除去方法。
【請求項5】
前記外部のガスは、アルゴンガスまたは不活性ガスの内のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の硬質皮膜の除去方法。
【請求項6】
請求項2に記載の硬質皮膜除去装置を用いた硬質皮膜の除去方法であって、前記ガス排出配管を介して前記加工処理室内のガスを外部へ排出した後、前記レーザー源のレーザーを前記被加工物の硬質皮膜へ照射することを特徴とする硬質皮膜の除去方法。
【請求項7】
前記硬質皮膜に向けて前記アルゴンガスまたは不活性ガスの内のいずれかを吹き付けながら、前記レーザーを前記被加工物の硬質皮膜へ照射することを特徴とする請求項5に記載の硬質皮膜の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具等の表面に被覆されている硬質皮膜を除去する装置および当該装置を用いた硬質皮膜の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具等の表面に被覆されている硬質皮膜を除去する場合にチタン(Ti)やクロム(Cr)を溶解する薬液に硬質皮膜を浸漬することで、液中における電解反応を利用した除膜方法が特許文献1に開示されている。また、硬質皮膜に対してアルゴンイオンビーム等を照射することで、アルミニウム(Al)などの軽金属をスパッタリングすることで硬質皮膜を除去する方法が特許文献2には開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1に開示されている薬液法では、超硬合金のコバルトが溶出するために、結果として母材の強度が低下するという問題があった。また、特許文献2に開示されているイオンエッチング法では高額な真空装置が必要で処理時間も長いため、処理費用が高いという問題があった。
【0004】
そこで、これらの硬質皮膜を除去する方法に替わり、硬質皮膜を除去する方法として、硬質皮膜に対してレーザー照射を行い、照射部分を局所的に加熱することで、蒸発や気化爆発などの化学反応により金属表面の不純物や硬質皮膜を除去する方法がある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2597931号公報
【特許文献2】特許第6198991号公報
【特許文献3】特開2008-62633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3に開示されているレーザー加熱洗浄法では表面の不純物や汚れを除去することができるが、レーザーの出力を上げても硬質皮膜を効率的に除去することはできなかった。その理由は、AlCrNなど黒色の窒化アルミニウムを主体とする窒化物硬質皮膜はレーザー光を吸収するが、酸化すると酸化アルミニウムを主体とする白色の酸化物となり、レーザー光を吸収しなくなって加工が停止するためである。なお、本願では照射するレーザー光の波長に対して吸収率の高い物質の状態を「黒色」、同じ波長に対して吸収率が低く、かつ反射率が高い物質の状態を「白色」と呼ぶ。すなわち、硬質皮膜や母材が赤色や青色であっても、レーザー光を吸収すれば「黒色(の状態)」、(拡散)反射すれば、それを「白色(の状態)」と定義する。
【0007】
ここで、レーザー光L10を用いた硬質皮膜K10(K11,K12)の除去状態の模式図を
図4ないし
図6に示す。
図4に示す超硬合金や工具鋼などの基材W10の表面に被覆された硬質皮膜K10を除去する最初の工程では、黒色の窒化物(硬質皮膜)K10はレーザー光L10に反応するために硬質皮膜K10の除去反応が進行する。超硬合金や工具鋼などの基材W10は表面の色が白色であるので、レーザー光L10とは反応せず除去工程は進行しない。
【0008】
ところが、この除去工程がさらに進むことで、
図5に示す様に基材W11が超硬合金の場合は当初黒色であった窒化物K11の表面に白色の酸化物S11が表れることでレーザー光L10との反応が行われなくなり、硬質皮膜K11の除去工程が停止する。一方、
図6に示す様に基材W12が工具鋼の場合には、
図5に示す場合と同様に当初黒色であった窒化物K12の表面に白色の酸化物S12が表れることでレーザー光L10との反応が行われなくなり、硬質皮膜K12の除去工程が停止する。
【0009】
同時に、基材W12の表面にレーザー光L10を照射することで雰囲気の酸化反応により酸化鉄F12が形成される。そのため、
図5に示す様に基材W11が超硬合金の場合は基材が露出すると加工が停止するが、
図6に示すように基材W12が工具鋼の場合は、その表面が酸化して黒色の酸化鉄F12となるので、レーザー光L10を吸収して基材W12も加工されるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は超硬合金や高速度工具の表面を損傷させることなく、これらの超硬合金や高速度工具鋼の表面に被覆されたTiAlNやAlCrNなどAlを含有する種々の硬質皮膜(窒化物)を除去できる硬質皮膜除去装置およびそれを用いた硬質皮膜の除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の硬質皮膜除去装置は、硬質皮膜が被覆された被加工物を内部に設置できる加工処理室,硬質皮膜へ照射するレーザーを出力できるレーザー源,外部のガスを加工処理室内へ供給するガス供給配管から構成する。または、硬質皮膜が被覆された被加工物を内部に設置できる加工処理室,硬質皮膜へ照射するレーザーを出力できるレーザー源,加工処理室内のガスを外部へ排出するガス排出配管から構成する硬質皮膜除去装置とすることもできる。この加工処理室には、レーザー源からを出力するレーザーを加工処理室内へ透過できる窓部を備えても構わない。
【0012】
また、これらの硬質皮膜除去装置を用いた硬質皮膜の除去方法の発明については、ガス供給配管を介して加工処理室内へ外部のガスを供給しながら、レーザー源のレーザーを被加工物の硬質皮膜へ照射する。この場合、外部のガスは、アルゴンガスまたはその他の希ガスおよび窒素や水素などの非酸化性ガスの内のいずれかを使用することができる。
【0013】
硬質皮膜除去装置にガス排出配管を備えている場合には、ガス排出配管を介して加工処理室内のガスを外部へ排出した後、レーザー源のレーザーを被加工物の硬質皮膜へ照射することで硬質皮膜を除去する方法としても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明の硬質皮膜除去装置は、超硬合金や高速度工具の表面を損傷させることなく、超硬合金製や高速度工具鋼製の工具表面に被覆された硬質皮膜を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の硬質皮膜Kの除去状態(加工初期)を示す模式図である
【
図2】本発明の硬質皮膜K1の除去状態(加工中期)を示す模式図である
【
図3】本発明の硬質皮膜K2の除去状態(加工中期)を示す模式図である
【
図4】従来の硬質皮膜K10の除去状態(加工初期)を示す模式図である
【
図5】従来の硬質皮膜K11の除去状態(加工中期)を示す模式図である
【
図6】従来の硬質皮膜K12の除去状態(加工中期)を示す模式図である
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について、硬質皮膜除去装置を用いた硬質皮膜の除去状態(加工初期および加工中期)を説明する。本発明の硬質皮膜除去装置を用いた硬質皮膜の除去状態(加工初期)を示す模式図を
図1、本発明の硬質皮膜除去装置を用いた硬質皮膜の除去状態(加工中期)を示す模式図を
図2、本発明の硬質皮膜除去装置を用いた硬質皮膜の除去状態(加工中期)を示す模式図を
図3にそれぞれ示す。
【0017】
まず、本発明の硬質皮膜除去装置は、大きく分けて硬質皮膜が被覆された被加工物を内部に設置する加工処理室,硬質皮膜へ照射するレーザーを出力できるレーザー源,外部のガスを加工処理室内へ供給するガス供給配管もしくは加工処理室内のガスを外部へ排出するガス排出配管から構成されている。また、加工処理室にはレーザー源からを出力するレーザーを加工処理室内へ透過できる窓部を備えている。
【0018】
この硬質皮膜除去装置を用いて、表面に硬質皮膜が被覆された基材(超硬合金製または工具鋼製)を加工処理室内に設置する。その後、ガス供給配管を介して加工処理室内へアルゴンガスまたはヘリウムやその他の希ガスなどの不活性ガスの内のいずれかを供給しながら、レーザー源のレーザーを基材表面の硬質皮膜へ照射する。レーザーを照射された基材は、
図1に示す様に基材Wの表面に被覆された窒化物である硬質皮膜Kに対しては除去工程が進行する。一方、超硬合金製や工具鋼製の基材Wに対しては、レーザーと基材の表面は何ら反応しない。特に、窒化物の除去を目的としており、母材が窒化物を生成しないあるいは母材の窒化物が白色である場合には安価な窒素ガスを用いることができる。
【0019】
図1に示す加工工程からレーザーによる反応がさらに進行すると、
図2および
図3に示す様に基材W(W1,W2)の表面の硬質皮膜K(K1,K2)は加工処理室内に酸素が存在しないので、酸化物が形成することなく窒化物から形成される硬質皮膜K(K1,K2)がさらに除去される。また、
図3に示すように基材W2(W)が工具鋼の場合でもその表面に黒色の酸化物が形成されることがないので、硬質皮膜K2が存在しない基材W2の表面はレーザーLと何ら反応することなく、基材W2の表面は損傷され無い。
【0020】
なお、前述した硬質皮膜の除去工程では加工処理室内へアルゴンガスまたは不活性ガスを供給することで加工処理室内に酸素が存在しない状態としているが、加工処理室にガス排出配管が備えられている場合には、加工処理室内のガスを外部へ排出することで減圧雰囲気とした上でレーザー源のレーザーを基材表面の硬質皮膜へ照射しても構わない。
【0021】
さらに、加工処理室へ不活性ガスを供給することと、排気装置により加工処理室を減圧状態にすることは併用してもよい。両者を併用することにより、不活性ガスの使用量を削減し、加工処理室の密閉性がより低い状態でも加工処理室内の酸素濃度を低下させることができる。
【0022】
また、本発明の別の実施形態として、十分な量の不活性ガスをレーザー照射部の周囲に吹き付けることによって、被加工物を容器で覆わずにレーザー照射を行い、硬質皮膜を除去することもできる。
【符号の説明】
【0023】
K(K1,K2) 硬質皮膜
L レーザー
W(W1,W2) 基材