(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126951
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】基板トレイ及び膜付き基板製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20240912BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C23C14/50 K
H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035738
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】潮田 康隆
(72)【発明者】
【氏名】川村 祐介
【テーマコード(参考)】
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
4K029JA01
4K029KA01
5F131AA02
5F131AA03
5F131AA32
5F131AA33
5F131BA03
5F131BA04
5F131CA17
5F131CA32
5F131EA03
5F131EA15
(57)【要約】
【課題】基板の配置及び取り出しが容易な基板トレイを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様にかかる基板トレイ1は、基板Sを水平に保持し、前記基板Sの裏面の外縁部の全周に亘って連続して当接する当接面3を有する基板トレイ1であって、前記当接面3の一部を構成し、前記基板Sを支持可能な支持面121を有するトレイ本体10と、前記支持面121を補完して前記当接面3を完成させる補助面21、及び前記基板Sが配置されない領域に露出する操作面22を有し、前記補助面21を前記支持面121と面一に配置する標準位置と前記補助面21を前記支持面121よりも下方に配置する後退位置との間で移動するよう前記トレイ本体10に配設される可動体20と、前記可動体20を前記標準位置に向かって付勢し、前記操作面22の押圧により前記可動体20を前記後退位置に向かって移動させ得る付勢部材30と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平に保持し、前記基板の裏面の外縁部の全周に亘って連続して当接する当接面を有する基板トレイであって、
前記当接面の一部を構成し、前記基板を支持可能な支持面を有するトレイ本体と、
前記支持面を補完して前記当接面を完成させる補助面、及び前記基板が配置されない領域に露出する操作面を有し、前記補助面を前記支持面と面一に配置する標準位置と前記補助面を前記支持面よりも下方に配置する後退位置との間で移動するよう前記トレイ本体に配設される可動体と、
前記可動体を前記標準位置に向かって付勢し、前記操作面の押圧により前記可動体を前記後退位置に向かって移動させ得る付勢部材と、
を備える、基板トレイ。
【請求項2】
前記可動体は、前記基板の対向する一対の側縁の互いに正対し合う位置にそれぞれ配設される、請求項1に記載の基板トレイ。
【請求項3】
前記トレイ本体は、ベースプレートと、前記ベースプレートの上面に取り付けられ、前記支持面と、前記可動体を前記標準位置に係止する係止部とが形成された支持部材と、を有し、
前記付勢部材は、前記可動体と前記ベースプレートの間に挟み込まれる、請求項1又は2に記載の基板トレイ。
【請求項4】
単一の前記ベースプレートに複数の前記支持部材が取り付けられ、前記支持部材はそれぞれ単一の前記基板を支持する、請求項3に記載の基板トレイ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の基板トレイにより前記基板を水平に保持した状態で成膜を行う工程を備える、膜付き基板製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板トレイに関する。
【背景技術】
【0002】
基板に成膜を行う製造設備及び膜付き基板製造方法において、基板を保持する基板トレイが用いられる。基板トレイは、板状又はフレーム状の部材に基板を受け容れる凹部を形成した構成とされることが多い。このような基板トレイは、成膜装置への基板の搬入及び搬出のためだけでなく、成膜プロセス中に基板を保持するためにも用いられる。
【0003】
基板トレイへの基板の配置、及び、基板トレイからの基板の取り出しは、基板の側縁部の下面を支持する爪を有する複数の指状部材(フィンガー)を、基板の側方に差し込むことによって行われる。このため、上方から指状部材を基板の側方に挿入することが可能となるよう、基板トレイの基板を受け容れる凹部を局所的に拡大した構造とすることも提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、例えば基板上面のみに成膜を行い、基板の裏面の全面又は外縁部には成膜しないようにしたい場合がある。このような場合、基板トレイは、基板の裏面の外縁部の全周に亘って当接し、成膜ガスが裏側に入り込まないようする必要がある。このような成膜ガスの遮断を確実にするために、基板トレイの凹部の外縁部に基板との密着性が高いマスクを配置することも提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-131232号公報
【特許文献2】特開2005-54244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、指状部材の挿入を可能にするよう基板トレイの凹部を局所的に拡大すると、この部分から成膜ガスが基板の裏面側に入り込んで意図しない部位に成膜されてしまう。しかしながら、特許文献2のように基板トレイが基板の裏面の外縁部の全周に亘って当接する構成とすると、基板トレイへの基板の配置及び基板トレイからの基板の取り出しが煩雑となり、作業性が低下する。
【0007】
このため、本発明は、基板の裏面側への成膜ガス回り込みを防止でき、且つ基板の配置及び取り出しが容易な基板トレイ及び膜付き基板製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発の一態様に係る基板トレイは、基板を水平に保持し、前記基板の裏面の外縁部の全周に亘って連続して当接する当接面を有する基板トレイであって、前記当接面の一部を構成し、前記基板を支持可能な支持面を有するトレイ本体と、前記支持面を補完して前記当接面を完成させる補助面、及び前記基板が配置されない領域に露出する操作面を有し、前記補助面を前記支持面と面一に配置する標準位置と前記補助面を前記支持面よりも下方に配置する後退位置との間で移動するよう前記トレイ本体に配設される可動体と、前記可動体を前記標準位置に向かって付勢し、前記操作面の押圧により前記可動体を前記後退位置に向かって移動させ得る付勢部材と、を備える。
【0009】
上述の基板トレイにおいて、前記可動体は、前記基板の対向する一対の側縁の互いに正対し合う位置にそれぞれ配設されてもよい。
【0010】
上述の基板トレイにおいて、前記トレイ本体は、ベースプレートと、前記ベースプレートの上面に取り付けられ、前記支持面と、前記可動体を前記標準位置に係止する係止部とが形成された支持部材と、を有し、前記付勢部材は、前記可動体と前記ベースプレートの間に挟み込まれてもよい。
【0011】
上述の基板トレイにおいて、単一の前記ベースプレートに複数の前記支持部材が取り付けられ、前記支持部材はそれぞれ単一の前記基板を支持してもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る膜付き基板製造方法は、上述の基板トレイにより前記基板を水平に保持した状態で成膜を行う工程を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る基板トレイ及び膜付き基板製造方法は、基板の裏面側への成膜ガス回り込みを防止でき、且つ基板の配置及び取り出しが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る基板トレイの平面図である。
【
図2】
図1の基板トレイのX-X線断面部分拡大図である。
【
図3】
図1の基板トレイの通常状態を示すY-Y線断面部分拡大図である。
【
図4】
図1の基板トレイの可動体を押し下げた状態を示すY-Y線断面部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、便宜上、見やすいように調整されている。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る基板トレイ1の平面図である。また、
図2は、
図1のX-X線断面部分拡大図であり、
図3,4は、
図1のY-Y線断面部分拡大図である。基板トレイ1は、基板Sの搬送及び成膜を行う際に複数の基板Sを保持する。基板トレイ1は、基板Sのハンドリングを容易にすると共に、成膜時には、成膜ガスが基板Sの裏面側(基板トレイ1上に載置されている状態における下面側)に回り込んで裏面に意図しない膜が形成されることを防止する。また、基板トレイ1は、本発明の一実施形態に係る膜付き基板製造方法に用いられる。
【0017】
基板トレイ1は、それぞれ基板Sを水平に保持する複数の支持部2を備える。支持部2は、基板Sの裏面の外縁部の全周に亘って連続して当接する当接面3をそれぞれ有する。当接面3は、基板Sの裏面全体に当接してもよいが、基板Sの外縁部に対する密着性を向上するために、一定の幅で基板Sの外縁部を支持する座を提供する階段状に形成されることが好ましい。
【0018】
基板トレイ1は、単一のトレイ本体10と、トレイ本体10に昇降可能に配設される複数の可動体20と、可動体20を上向きに付勢する複数の付勢部材30と、を備える。可動体20は、それぞれの支持部2に1つ以上設けられる。また、それぞれの可動体20に対して、1つ以上の付勢部材30が設けられる。
【0019】
トレイ本体10は、ベースプレート11と、ベースプレート11の上面に取り付けられ、それぞれ支持部2を構成する複数の支持部材12と、を有する構成とされ得る。この場合、付勢部材30は、可動体20とベースプレート11の間に挟み込まれ、可動体20は、支持部材12によって上方への移動を制限されるよう配設され得る。つまり、トレイ本体10をベースプレート11と支持部材12によって構成することにより、可動体20及び付勢部材30を容易に取り付けられる。
【0020】
ベースプレート11は、基板トレイ1の全体の強度を担保する構造部材である。ベースプレート11は、例えばステンレス鋼板、アルミニウム板等の金属板から形成することができる。
【0021】
支持部材12は、支持部2を主として構成する。つまり、支持部材12は、支持部2を構成する加工が施されたベースプレート11に比して複雑な形状を有する部材である。複数の支持部材12が、それぞれ単一の支持部2を構成するよう比較的小さい部材として形成されることにより、支持部2の加工精度担保することが容易になる。支持部材12は、金属から形成されてもよく、樹脂から形成されてもよい。
【0022】
単一の支持部2を複数の支持部材12よって構成してもよいが、それぞれの支持部2を単一の支持部材12によって構成することで、当接面3の精度を向上して基板Sに対する密着性を向上できる。つまり、単一のベースプレート11に、それぞれ単一の基板Sを支持する複数の支持部材12が取り付けられることが好ましい。もちろん、単一のベースプレート11に、それぞれ複数の基板Sを支持する1又は複数の支持部材12が取り付けられてもよい。
【0023】
支持部材12は、当接面3の一部を構成し、基板Sを支持可能な支持面121を有する。また、支持部材12は、可動体20を最も上昇した位置である標準位置に係止する係止部122と、可動体20を案内する案内構造123と、を有してもよい。
【0024】
支持面121は、可動体20がなくても基板Sを支持可能に形成される。また、支持面121は、当接面3の過半を構成することが好ましく、当接面3の80%以上を構成することがより好ましく、当接面3の90%以上を構成することが特に好ましい。当接面3における支持面121の構成比率を大きくすることにより、当接面3と基板Sとの密着性を向上し、基板Sの裏面側への成膜ガスの回り込みを確実に抑制できる。また、支持面121は、基板Sとの密着性を向上するよう、支持部材12の本体と異なる材料で形成されてもよい。
【0025】
支持部材12に係止部122を設けることにより、可動体20を正確な位置に配置することができるので、基板Sと可動体20と隙間をなくして基板Sの裏面側への成膜ガスの回り込みを抑制できる。また、支持部材12に案内構造123を設けることによって、基板Sと可動体20と隙間をなくして基板Sの裏面側への成膜ガスの回り込みを抑制できる。図示する実施形態において、案内構造123は案内溝であり、係止部122は案内溝の上端を閉止する天壁である。もちろん、案内構造123は、図示する形態に限定されず、例えばレール、シャフト等、任意の構成とされ得る。
【0026】
可動体20は、可動範囲の上端である標準位置(
図3参照)と、標準位置よりも下方の後退位置(
図4参照)との間で可動に配設される。可動体20は、標準位置から下降することによって、基板トレイ1に基板Sを配置する際及び基板トレイ1から基板Sを取り出す際に基板Sの側縁を把持する部材(例として
図4に二点鎖線で図示する指状部材F)を基板Sの側方に挿入し得る空間を形成する。このため、可動体20は、基板Sの対向する一対の側縁の互いに正対し合う位置にそれぞれ配設されることが好ましい。
【0027】
可動体20は、支持面121を補完して当接面3を完成させる補助面21と、基板Sが配置されない領域に露出する操作面22と、を有する。また、可動体20は、案内構造123等に案内される摺動部23を有してもよく、付勢部材30と係合する係合構造24を有してもよい。
【0028】
補助面21は、可動体20が標準位置に位置するときに支持面121と面一になるよう形成される。換言すると、可動体20は、補助面21を支持面121と面一に配置する標準位置と補助面21を支持面121よりも下方に配置する後退位置との間で移動するよう配設される。
【0029】
補助面21は、可動体20が標準位置に位置するときに、支持面121を補完して当接面3を完成させるが、支持面121との間に実質的に成膜ガスの流路とならない程度の微小な隙間を形成してもよい。これにより、可動体20のスムーズな昇降が可能となる。基板Sの端縁に垂直な方向の補助面21の幅は、基板Sと密着して成膜ガスの進入を防止できればよく、支持面121の幅と同一でなくてもよい。また、支持部材12も、可動体20の本体と異なる材料で形成されてもよい。
【0030】
操作面22は、平面視で基板Sが配置される領域の外側でトレイ本体10に覆われることなく露出する。可動体20は、摺動部23を押下することによって、付勢部材30の付勢力に抗して、後退位置に向かって移動させられ得る。このため、操作面22は、付勢部材30の直上に設けられることが好ましい。また、操作面22は、
図4に示すように、基板Sの側縁を把持する指状部材F等によって押下できるような十分な大きさを有することが好ましい。また、操作面22は、指状部材F等が操作面22を押し下げた状態で基板Sを保持するために水平方向に移動、つまり操作面22上で摺動できるよう、平滑な平面とされることが好ましい。
【0031】
摺動部23は、案内構造123等の可動体20を案内するガイドに沿って摺動する部分である。本実施形態の摺動部23は、溝状の案内構造123に嵌合する突起である。また、本実施形態の摺動部23は、係止部122によって係止され、可動体20を標準位置に制止させる機能も果たす。もちろん、摺動部23の形態は、案内構造123等の構成に応じて適宜選択され得る。
【0032】
係合構造24は、付勢部材30の脱離を防止する。ベースプレート11に付勢部材30を保持する構造を設けたり、付勢部材30をベースプレート11又は支持部材12に接着することも可能であるが、可動体20に係合構造24を設けることにより、比較的容易に付勢部材30の脱離を防止できる。図示する実施形態において、係合構造24は付勢部材30の端部が嵌合する凹部である。
【0033】
付勢部材30は、可動体20を標準位置に向かって付勢し、操作面22の押圧により可動体20を後退位置に向かって移動させ得る。付勢部材30は、弾性力により可動体20を付勢する構成とすることができ、図示する実施形態ではつる巻きばねが企図されている。付勢部材30の付勢力は、可動体20を標準位置まで確実に押し上げられることができればよく、可動体20を容易に押下できるよう大き過ぎないことが好ましい。
【0034】
以上の基板トレイ1は、標準位置と後退位置との間で可動に配設され、標準位置においてトレイ本体10の支持面121を補完して基板Sの外縁部の全周に亘って連続して当接する当接面3を完成させる補助面21を有し、後退位置において基板Sの配置及び取り出しを行う部材を挿入可能な空間を形成する可動体20を備える。このため、基板トレイ1は、成膜ガスの裏面側への回り込みを防止でき、且つ基板Sの配置及び取り出しが容易である。
【0035】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態に係る膜付き基板製造方法は、基板トレイ1により基板Sを水平に保持した状態で成膜を行う工程を備える。この膜付き基板製造方法によれば、基板Sの外縁部の全周に亘って連続して当接する当接面3により基板Sの裏側への成膜ガスの回り込みを防止し、表面に選択的に成膜を行うことができる。また、基板トレイ1を用いる基板製造方法は、可動体20を押し下げることで容易に基板Sを配置及び取り出しできるので、製造効率に優れる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更及び変形が可能である。例として、トレイ本体は、単一の部材に支持面を含む支持部の構造、並びに可動体及び付勢部材を取り付ける構造を形成したものであってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 基板トレイ
2 支持部
3 当接面
10 トレイ本体
11 ベースプレート
12 支持部材
121 支持面
122 係止部
123 案内構造
20 可動体
21 補助面
22 操作面
23 摺動部
24 係合構造
30 付勢部材
S 基板