IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝メディカルシステムズ株式会社の特許一覧 ▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特開2024-126980ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム
<>
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図1
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図2
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図3
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図4
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図5
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図6
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図7
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図8
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図9
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図10
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図11
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図12
  • 特開-ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126980
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240912BHJP
   C12N 5/078 20100101ALN20240912BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20240912BHJP
   C12N 7/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/078
C12N5/0789
C12N7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035787
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 健太
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC05
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065BC46
4B065BC47
4B065BD05
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】ゲルに封入された加工済みの細胞を簡易且つ高品質に製造すること。
【解決手段】 実施形態に係るゲル封入細胞製造装置は、第1液滴生成部、第2液滴生成部及びゲル封入細胞生成部を有する。第1液滴生成部は、加工された細胞を封入した第1の液滴を生成する。第2液滴生成部は、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する。ゲル封入細胞生成部は、第1液滴生成部と第2液滴生成部とに流路を介して接続され、第1の液滴と第2の液滴とを融合し、ゲル化剤に由来するゲルに封入した細胞であるゲル封入細胞を生成する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工された細胞を封入した第1の液滴を生成する第1液滴生成部と、
ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する第2液滴生成部と、
前記第1液滴生成部と前記第2液滴生成部とに流路を介して接続され、前記第1の液滴と前記第2の液滴とを融合し、前記ゲル化剤に由来するゲルに封入した前記細胞であるゲル封入細胞を生成するゲル封入細胞生成部と、
を具備するゲル封入細胞製造装置。
【請求項2】
前記第1液滴生成部は、前記細胞と前記細胞を加工するための加工試薬とを混合して前記第1の液滴を生成する、請求項1記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項3】
前記第1液滴生成部は、
前記細胞が流通する第1流路と、
前記加工試薬が流通する第2流路と、
第1のオイルが流通する第3流路と、
前記第1流路、前記第2流路及び前記第3流路を合流し、前記第1のオイルにより、前記細胞と前記加工試薬とを封入した第3の液滴を生成する生成部と、
前記第3の液滴の内部における前記加工試薬による前記細胞の加工を促進し、前記第1の液滴を生成する促進部と、を有する、
請求項2記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項4】
前記促進部は、前記第3の液滴を保留するための容器であり、温度調節器により至適温度に調整される加工促進容器を有する、請求項3記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項5】
前記促進部は、前記第3の液滴の粒径に比して幅の狭い流路を有する、請求項3記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項6】
前記第2液滴生成部は、
前記ゲル化剤が流通する第5流路と、
第2のオイルが流通する第6流路と、
前記第5流路及び前記第6流路が合流し、前記第2のオイルにより、前記ゲル化剤を封入した前記第2の液滴を生成する第7流路と、を有する、
請求項5記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項7】
前記ゲル封入細胞生成部は、
前記第1の液滴と前記第2の液滴とを融合して融合液滴を生成する融合部と、
前記ゲル封入細胞を生成するために、前記融合液滴に、前記ゲル化剤による前記細胞のゲル化を誘導するための刺激を与える刺激導入部と、を有する、
請求項1記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項8】
前記融合部は、
前記第1の液滴と前記第2の液滴とを保留するための保留容器と、
前記保留容器に保留している前記第1の液滴と前記第2の液滴とに、融合を誘発するための電場を印加するための電極とを有する、
請求項7記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項9】
前記ゲル封入細胞生成部は、前記融合部と前記刺激導入部との間に設けられ、前記融合液滴の内部において前記ゲル化剤と前記細胞とを撹拌するための撹拌流路を有する撹拌部を更に備える、請求項7記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項10】
前記刺激は、前記ゲル化剤に応じた架橋剤、酸又はイオンを含む試薬であり、
前記刺激導入部は、前記撹拌流路に接続され、前記融合液滴と前記試薬を含む第3のオイルとを保留するための保留容器とを有する、
請求項9記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項11】
前記刺激は、温度又は外部物理刺激であり、
前記刺激導入部は、前記保留容器に前記温度又は前記外部物理刺激を与える、
請求項9記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項12】
前記細胞は、PBMC、造血幹細胞、臍帯血細胞、皮膚細胞又は線維芽細胞であり、
前記細胞を加工するための加工試薬は、センダイウイルスと、リポフェクション試薬及びベクタの組合せとの何れか一方であり、
前記ゲル化剤は、アルギン酸及びCa-NTAの組合せと、ヒアルロン酸ナトリウムとの何れか一方である、
請求項1記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項13】
前記第1液滴生成部と前記第2液滴生成部と前記ゲル封入細胞生成部とが形成される基盤を更に備える、請求項1記載のゲル封入細胞製造装置。
【請求項14】
加工された細胞を封入した第1の液滴を生成する第1液滴生成部と、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する第2液滴生成部と、前記第1液滴生成部と前記第2液滴生成部とに流路を介して接続され、前記第1の液滴と前記第2の液滴とを融合し、前記ゲル化剤に由来するゲルに封入した前記細胞であるゲル封入細胞を生成するゲル封入細胞生成部と、を有するゲル封入細胞製造装置と、
前記ゲルに封入した前記細胞を培養する培養部と、
を具備する細胞培養システム。
【請求項15】
前記培養部の前段に設けられ、前記ゲルに封入された前記細胞を洗浄する洗浄部を更に備え、
前記第1液滴生成部は、前記細胞と前記細胞を加工するための加工試薬とに第1のオイルを作用させて前記第1の液滴を生成し、
前記第2液滴生成部は、前記ゲル化剤に第2のオイルを作用させて前記第2の液滴を生成し、
前記ゲル封入細胞生成部は、前記第1の液滴と前記第2の液滴との融合液滴に含有される加工済み細胞に、ゲル化誘導剤を含有する第3のオイルを作用させ、前記細胞を前記ゲルに封入したゲル封入細胞を生成し、
前記洗浄部は、前記ゲル封入細胞を解乳化して前記第1のオイル、前記第2のオイル及び/又は前記第3のオイルを取り除き、
前記培養部は、前記第1のオイル、前記第2のオイル及び/又は前記第3のオイルが取り除かれた前記ゲルに封入された前記細胞を培養する、
請求項14記載の細胞培養システム。
【請求項16】
前記培養された細胞の中から特定の細胞を選別する選別部を更に備える、請求項14記載の細胞培養システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、ゲル封入細胞製造装置及び細胞製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞に核酸等を導入するトランスフェクション等の細胞加工が行われている。トランスフェクションの手法としてリポプレックス等があるが、浮遊細胞では導入効率が低いことが知られている。マイクロ流体技術を用いて液滴の微小空間内に細胞とトランフェクション試薬とを封入することで、バルクでのトランスフェクションよりも効率が高くなる技術(以下、技術1)が知られている。また、マイクロ流路を利用して1細胞を液滴内に封入してからゲル化し培養する技術(以下、技術2)が知られている。例えば、アルギン酸がCa2+によってゲル化する現象を利用し、Ca2+をキレートしているCa-NTA(Nitrilotriacetic acid)を液滴内に共封入し、Ca-NTAが低pH環境下でCa2+を放出する性質を利用して、酸が含まれたオイルを液滴に反応させることで液滴内のゲル化を促進させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/066306号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fangyuan Chen等、”Chemical Transfection of Cells in Picoliter Aqueous Droplets in Fluorocarbon Oil”、Anal. Chem、2011年,83巻,22号,p.8816-8820
【非特許文献2】Xuan Li等、”Lipoplex-Mediated Single-Cell Transfection via Droplet Microfluidics”、Small、2018年9月10日、Vol.14、Issue 40
【非特許文献3】Fei Shao等、”Microfluidic Encapsulation of Single Cells by Alginate Microgels Using a Trigger-Gellified Strategy”、Frontiers in Bioengineering and Biotechnology、2020年10月14日、Vol.8、Article 583065
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液滴内でのトランスフェクション後に細胞を1細胞ずつ培養する方法として、技術1及び技術2を組み合わせることが考えられる。しかしながら、リポフェクションの様な正電荷を有する脂質と負電荷を有する核酸等の物質とで複合体を形成して細胞に導入する手法では、一般的にゲル化に用いられるアルギン酸ナトリウムやヒアルロン酸ナトリウムといった材料の静電特性により、細胞への導入効率が減少する虞がある。また、ゲル化剤は、粘度が高いため、液滴内での撹拌の効率が悪く、細胞に導入する物質との衝突回数が減り、導入効率が落ちる虞がある。
【0006】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、ゲルに封入された加工済みの細胞を簡易且つ高品質に製造することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係るゲル封入細胞製造装置は、基盤と、前記基盤に設けられ、加工された細胞を封入した第1の液滴を生成する第1液滴生成部と、前記基盤に設けられ、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する第2液滴生成部と、前記基盤に設けられ、前記第1液滴生成部と前記第2液滴生成部とに流路を介して接続され、前記第1の液滴と前記第2の液滴とを融合し、前記ゲル化剤に由来するゲルに封入した前記細胞であるゲル封入細胞を生成するゲル封入細胞生成部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係るゲル封入細胞製造システムの構成例を示す図である。
図2図2は、図1に示すゲル封入細胞製造装置の構成例を模式的に示す図である。
図3図3は、図2に示す第1液滴生成部の構造例を模式的に示す図である。
図4図4は、図2に示す第2液滴生成部の構造例を模式的に示す図である。
図5図5は、図2に示すゲル封入細胞生成部の構造例を模式的に示す図である。
図6図6は、図1に示すゲル封入細胞製造システムの制御装置の構成例を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係るゲル封入細胞製造システムによるゲル封入細胞の製造処理の処理手順を示す図である。
図8図8は、図7に示す第1の液滴の生成過程(SA2)を模式的に示す図である。
図9図9は、図7に示す第2の液滴の生成過程(SA5)を模式的に示す図である。
図10図10は、図7に示すゲル封入細胞の生成過程(SA6~SA8)を模式的に示す図である。
図11図11は、変形例2に係る狭窄流路によるメカノポレーションを模式的に示す図である。
図12図12は、第2実施形態に係る細胞培養システムの構成例を示す図である。
図13図13は、第2実施形態に係る細胞培養システムによるゲル封入細胞の培養処理の処理手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係るゲル封入細胞製造装置及び細胞培養システムについて詳細に説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るゲル封入細胞製造システム100の構成例を示す図である。図1に示すように、ゲル封入細胞製造システム100は、ゲルに封入された細胞加工済の細胞(以下、ゲル封入細胞)を製造する機械システムである。ゲル封入細胞製造システム100は、ゲル封入細胞製造装置200と制御装置300とを含む。ゲル封入細胞製造装置200は、ゲル封入細胞を製造するための各種構造が形成された基盤状の装置である。制御装置300は、ゲル封入細胞製造装置200に対する各種物質の吐出及び回収、各種機器の制御等を行う機械装置である。
【0011】
図2は、ゲル封入細胞製造装置200の構成例を模式的に示す図である。ゲル封入細胞製造装置200は、細胞集団を1細胞ずつ加工し、細胞をそのままゲルに封入する一連の構造を有するマイクロ流路チップにより実現される。具体的には、ゲル封入細胞製造装置200は、図2に示すように、基盤210、第1液滴生成部220、第2液滴生成部230及びゲル封入細胞生成部240を有する。
【0012】
基盤210は、ガラス、シリコン及び/又は樹脂等を材料に含む板形状を有する構造体である。本実施形態では、基盤210は、一例として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂又はシリコン樹脂により形成されるものとする。更に具体的には、PDMC(ジメチルポリシロキサン)やCOP(シクロオレフィンポリマー)が使用されるとよい。基盤210には、フォトリソグラフィを応用した微細加工により、第1液滴生成部220、第2液滴生成部230及びゲル封入細胞生成部240が形成されている。
【0013】
第1液滴生成部220は、基盤210に設けられ、加工された細胞を封入した第1の液滴を生成する。一例として、第1液滴生成部220は、細胞と当該細胞を加工するための加工試薬とを混合して第1の液滴を生成する。「細胞」は、加工及び培養する対象である。細胞の種類は特に限定されず、目的に応じて如何なる種類の細胞を使用することが可能である。「加工」は、遺伝子導入やゲノム編集等の形質転換(トランスフェクション)を意味する。遺伝子導入は、当該細胞に外来物質を導入して当該細胞の一部形質を当該外来物質が備える形質に転換する。ゲノム編集は、当該細胞に外来物質の一つであるゲノム編集タンパク(CRISPR-Cas9等)、mRNA、gRNAを導入して当該細胞の一部形質に突然変異を生じさせる。
【0014】
導入される外来物質としては、一例として、ウイルスベクタ、プラスミドベクタ、リポフェクション、リポソーム(リポフェクタミン等)、タンパク質、RNA(mRNA、miRNA,siRNA等)、低分子化合物、ナノ粒子、カチオン性ポリマ、ゲノム編集タンパク(CRISPR-Cas9)及びgRNAの組合せ等が利用可能である。トランスフェクションとしては、生物学的手法、化学的手法及び物理的手法等が利用可能である。生物学的手法としては、ウイルスベクタを使用した方法が可能である。化学的手法としては、ポリプレックスやリポプレックス等の手法が可能である。物理的手法としては、ソノポレーションやエレクトロポレーション、メカノポレーション、マグネトフェクション等の手法が可能である。加工試薬は、細胞にトランスフェクションを生じさせるための上記外来物質を含む試薬である。
【0015】
第1液滴生成部220は、細胞入力部221、加工試薬入力部222、第1オイル入力部223、細胞流路224、加工試薬流路225、第1オイル流路226、液滴生成部227及び促進部228を有する。細胞入力部221は、細胞が滴下される場である。加工試薬入力部222は、加工試薬が滴下される場である。第1オイル入力部223は、第1のオイルが滴下される場である。第1のオイルとして、オイル又は界面活性剤が用いられる。フッ素系オイルやミネラルオイル等の細胞に毒性を与えない有機系オイルが使用されるとよい。細胞流路224は、細胞入力部221に送液された細胞が通過通過する流路である。加工試薬流路225は、加工試薬222に滴下された加工試薬が通過通過する流路である。第1オイル流路226は、第1オイル入力部223に滴下された第1のオイルが通過する流路である。
【0016】
液滴生成部227は、細胞流路224、加工試薬流路225及び第1オイル流路226を合流し、第1のオイルにより細胞と加工試薬とを封入して第3の液滴を生成する。具体的には、液滴生成部227は、細胞流路224、加工試薬流路225及び第1オイル流路226の合流路により実現される。細胞流路224、加工試薬流路225及び第1オイル流路226の三種の流路が一箇所で合流してもよいし、細胞流路224と加工試薬流路225とが合流し、当該合流路と第1オイル流路226とが合流してもよい。促進部228は、第3の液滴の内部における加工試薬による細胞の加工を促進するための構造及び/又は機器を有する。
【0017】
図3は、第1液滴生成部220の構造例を模式的に示す図である。図3に示すように、細胞入力部221に細胞流路224が接続され、加工試薬入力部222に加工試薬流路225が接続されている。細胞流路224と加工試薬流路225とが合流して第1合流路2271を形成する。第1オイル入力部223に第1オイル流路226が接続され、第1オイル流路226が、細胞入力部221、加工試薬入力部222、細胞流路224、加工試薬流路225及び第1合流路2271を囲むように二股に分岐して第1合流路2271に合流して第2合流路2272を形成する。各種流路224、225、226,2271及び2272の幅や深さ、長さ、形状等は任意に設計可能である。
【0018】
第1合流路2271では細胞流路224からの細胞と加工試薬流路225からの加工試薬とが合流する。第2合流路2272では細胞と加工試薬と第1のオイルとが合流し、細胞と加工試薬とを封入する第3の液滴が第1のオイルにより生成される。第2合流路2272には、促進部228として第3の液滴を保留するための容器(以下、加工促進容器)2281が接続される。加工促進容器2281の温度は、図示しない温度調節器により、加工試薬による細胞の加工を促進する温度に調節される。第3の液滴の内部で細胞が加工試薬により加工されることにより第1の液滴が生成される。加工促進容器2281の幅や深さ、容積、形状等は任意に設計可能である。
【0019】
図2に示すように、第2液滴生成部230は、基盤210に設けられ、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する。ゲル化剤は、アルギン酸、ヒアルロン酸、ゼラチン、アガロース、PNIPAAm、PEG、PVA、Chitosan、上記誘導体、Lamininモチーフを含む上記誘導体、架橋剤の添加、光、熱などの刺激によりゲル化する機能の側鎖を有する上記誘導体等を使用可能である。使用するゲル化剤は、使用する細胞や細胞加工方法に応じて上記の中から任意に選択可能である。
【0020】
第2液滴生成部230は、ゲル化剤入力部231、第2オイル入力部232、ゲル化剤流路233、第2オイル流路234及び液滴生成部235を有する。ゲル化剤入力部231は、ゲル化剤が送液される場である。第2オイル入力部232は、第2のオイルが送液される場である。ゲル化剤流路233は、ゲル化剤入力部231に送液されたゲル化剤が通過する流路である。第2オイル流路234は、第2オイル入力部232に滴下された第2のオイルが通過する流路である。液滴生成部235は、ゲル化剤流路233及び第2オイル流路234を合流し、第2のオイルにより、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する。具体的には、液滴生成部235は、ゲル化剤流路233及び第2オイル流路234の合流路により実現される。
【0021】
図4は、第2液滴生成部230の構造例を模式的に示す図である。図4に示すように、ゲル化剤入力部231にゲル化剤流路233が接続され、第2オイル入力部232に第2オイル流路234が接続され、第2オイル流路234が、ゲル化剤入力部231及びゲル化剤流路233を囲むように二股に分岐してゲル化剤流路233に合流して合流路235を形成する。第2のオイルは、第1のオイルと同様の組成を有するものが使用されればよい。合流路235では、第2のオイルにより、ゲル化剤を封入した第2の液滴が生成される。各種流路233、234及び235の幅や深さ、長さ、形状等は任意に設計可能である。
【0022】
図2に示すように、ゲル封入細胞生成部240は、基盤210に設けられ、第1液滴生成部220と第2液滴生成部230とに流路を介して接続され、第1の液滴と第2の液滴とを融合し、ゲル化剤に由来するゲルに封入した細胞であるゲル封入細胞を生成する。具体的には、ゲル封入細胞生成部240は、融合部241、撹拌部242及び刺激導入部243を有する。
【0023】
融合部241は、第1液滴生成部220から送液される第1の液滴と第2液滴生成部230から送液される第2の液滴とを融合する。融合後の液滴を融合液滴と呼ぶ。すなわち、融合部241は、融合液滴を生成する。具体的には、融合部241は、合流部244、保留容器245及び電極246を有する。合流部244は、第1の液滴が流通する流路と第2の液滴が流通する流路とが合流する流路を有する。保留容器245は、合流部244に接続され、第1の液滴と第2の液滴とを保留するための容器である。保留容器245において第1の液滴と第2の液滴とが近接して保持される。電極246は、保留容器245に保留された第1の液滴と第2の液滴とに、融合を誘発するための電場を印加する。電極246の材料は、特に限定されないが、一例として、チタン(Ti)や金(Au)等が使用される。
【0024】
撹拌部242は、融合液滴の内部においてゲル化剤と加工済み細胞とを撹拌するための構造及び/又は機器を有する。刺激導入部243は、ゲル封入細胞を生成するために、融合液滴に、ゲル化剤による細胞のゲル化を誘導するための刺激を与えるための構造及び/又は機器を有する。ゲル化を誘導するための刺激としては、ゲル化剤に依存する試薬であるとする。当該試薬としては、一例として、架橋剤、酸又はイオンを含む。当該試薬は、オイルに融解して提供される。
【0025】
図5は、ゲル封入細胞生成部240の構造例を模式的に示す図である。図5に示すように、合流部244は、第1液滴生成部220から送液される第1の液滴が流通する流路2441、第2液滴生成部230から送液される第2の液滴が流通する流路2442及び流路2441と流路2442とが合流する合流路2443を有する。合流路2443は保留容器245に接続される。保留容器245では第1の液滴と第2の液滴とが互いに近接して保持される。保留容器245には、保留容器245に保留する第1の液滴と第2の液滴とに電場を印加するための複数の電極246が設けられている。電極246は、保留容器245に保留する第1の液滴と第2の液滴とに電場を印加可能であれば、如何なる場所に設けられてもよい。電場の印加により第1の液滴と第2の液滴とが融合し、融合液滴が生成される。
【0026】
図5に示すように、撹拌部242は、融合液滴の内部において加工済み細胞とゲル化剤とを撹拌するための流路(以下、撹拌流路)2421を有する。撹拌流路2421の流入口は保留容器245に接続される。撹拌流路2421は、流入口から流出口にかけて直線状ではなく蛇行している。撹拌流路2421が蛇行することにより、加工済み細胞とゲル化剤とを融合液滴の内部で撹拌することが可能になる。
【0027】
図5に示すように、刺激導入部243は、合流路2431、保留容器2432、第3オイル入力部2433、第3オイル流路2434及びゲル封入細胞回収点2435を有する。合流路2431は、撹拌流路2421と第3オイル流路2434とが合流する流路である。保留容器2432は、合流路2431に接続され、融合液滴と第3のオイルとを保留するための容器である。第3オイル入力部2433は、第3のオイルが滴下される場である。第3のオイルは、ゲル化剤による加工済み細胞のゲル化を誘導するための試薬が融解されたオイルである。第3オイル流路2434は、第3オイル入力部2433に滴下された第3のオイルが流通する流路である。第3オイル流路2434は、第3オイル入力部2433から二股に分岐して合流路2431に接続する。第3のオイルは、第3オイル流路2434を流通して合流路2431に送液される。保留容器2432において、第3のオイルにより、融合液滴に含有されるゲル化剤による加工済み細胞のゲル化が誘導される。具体的には、ゲル化剤により、融合液体に含有される水がゲル化剤により硬化し、ゲルに変化し、加工済み細胞が当該ゲルに包まれる。これによりゲル封入細胞が生成される。ゲル封入細胞回収点2435は、保留容器2432に接続された、ゲル封入細胞を回収する場である。
【0028】
各種流路2441、2442、2443、2421、2431及び2434の幅や深さ、長さ、形状等は任意に設計可能である。各種容器245及び2432の幅や深さ、容積、形状等は任意に設計可能である。なお、撹拌流路2421を設けることなく加工済み細胞をゲル化可能であれば、撹拌流路2421が設けられなくてもよい。
【0029】
図6は、ゲル封入細胞製造システム100の制御装置300の構成例を示す図である。図6に示すように、制御装置300は、流路制御回路310、細胞吐出器311、加工試薬吐出器312、第1オイル吐出器313、ゲル化剤吐出器314、第2オイル吐出器315、第3オイル吐出器316、温度制御回路320、温度調節器321及び電場制御回路330を有する。
【0030】
流路制御回路310、細胞吐出器311、加工試薬吐出器312、第1オイル吐出器313、ゲル化剤吐出器314、第2オイル吐出器315及び第3オイル吐出器316は、送液システムを構成する。流路制御回路310は、細胞吐出器311、加工試薬吐出器312、第1オイル吐出器313、ゲル化剤吐出器314、第2オイル吐出器315及び第3オイル吐出器316を同期的に制御する制御回路である。細胞吐出器311は、細胞入力部221に着脱可能に設けられ、細胞を細胞入力部221に吐出するための機械装置である。加工試薬吐出器312は、加工試薬入力部222に着脱可能に設けられ、加工試薬を加工試薬入力部222に吐出するための機械装置である。第1オイル吐出器313は、第1オイル入力部223に着脱可能に設けられ、第1のオイルを第1オイル入力部223に吐出するための機械装置である。ゲル化剤吐出器314は、ゲル化剤入力部231に着脱可能に設けられ、ゲル化剤をゲル化剤入力部231に吐出するための機械装置である。第2オイル吐出器315は、第2オイル入力部232に着脱可能に設けられ、第2のオイルを第2オイル入力部232に吐出するための機械装置である。第3オイル吐出器316は、第3オイル入力部2433に着脱可能に設けられ、第3のオイルを第3オイル入力部2433に吐出するための機械装置である。
【0031】
細胞吐出器311、加工試薬吐出器312、第1オイル吐出器313、ゲル化剤吐出器314、第2オイル吐出器315及び第3オイル吐出器316各々の機械装置は、溶液を収容及び吐出可能な形状を有する容器である注射器と、当該注射器を作動して当該溶液を送液するポンプとを有する。ポンプは、流路制御回路310による制御のもと注射器を作動する。流路制御回路310は、ポンプの動作を調整することにより、注射器から送液される溶液の圧力及び流量を制御可能である。ポンプとしては、マイクロポンプやシリンジポンプ等が使用可能である。マイクロポンプとしては、圧電式や光駆動式、ナノモータ式、毛細管現象式等が使用可能である。
【0032】
温度制御回路320は、温度調節器321に動作信号を送り温度を制御する。温度制御回路320は、電子サーモスタットや機械式サーモスタット等が使用される。温度調節器321は、温度制御回路320による制御のもと、加工促進容器2281内の温度を、加工試薬による細胞の加工を促進する温度に調節する。一例として、温度調節器321としては、加温器や冷却器が用いられる。
【0033】
電場制御回路330は、電極246を介して、保留容器245に電場を印加する。電場制御回路330は、電源回路と制御回路とを有する。電源回路は、直流又は交流の電圧を発生する。制御回路は、電源回路により発生された電圧を所定の電圧値に昇圧又は降圧して電極246に印加する。
【0034】
次に、図7を参照しながら、ゲル封入細胞製造システム100によるゲル封入細胞の製造処理について説明する。なお、図7に示す実施例に係るトランスフェクションとしてリポフェクションが実施されるものとする。
【0035】
図7は、ゲル封入細胞製造システム100によるゲル封入細胞の製造処理の処理手順を示す図である。図7に示すように、流路制御回路310は、細胞吐出器311を作動して細胞を細胞入力部221に吐出し、加工試薬吐出器312を作動して加工試薬を加工試薬入力部222に吐出し、第1オイル吐出器313を作動して第1のオイルを第1オイル入力部223に吐出する(ステップSA1)。ステップSA1が行われると、促進部228において、細胞と加工試薬とを封入した第1の液滴が生成される(ステップSA2)。
【0036】
図8は、第1の液滴の生成過程(SA2)を模式的に示す図である。図8に示すように、細胞流路224に細胞81を含有する液体である細胞液80が送液され、加工試薬流路225に加工試薬であるトランスフェクション試薬82が送液され、第1オイル流路226に第1のオイル83が送液される。一例として、トランスフェクション試薬82として、遺伝子導入試薬であるLipofectamine(登録商標)+プラスミドベクタ等が用いられる。Lipofectamine(登録商標)と導入物質とは、一例として、事前にボルテックス等で混合して加工試薬入力部222に吐出される。他の例として、加工試薬流路225の一部に蛇行する流路を設け、当該流路で撹拌及び混合してもよい。
【0037】
第1のオイル83は第1の液滴84を生成する際の連続相として使用される。一例として、第1のオイル83としては、HFE(ハイドロフルオロエーテル)のようなフッ素オイルに、dSURF(登録商標)(Fluigent社)やpicoSURF(登録商標)(Sphere Fluidics社)等の界面活性剤を添加したものが使用可能である。また、ミネラルオイルやシリコンオイル等を使用する場合は、第1のオイル83に適合する界面活性剤を使用可能である。
【0038】
図8に示すように、細胞81を含有する細胞液80とトランスフェクション試薬82とが合流路2271において混ざり合う。合流路2271に対して互いに直交する2方向から第1オイル流路226が合流し合流路2272が形成される。合流路2271と第1オイル流路226との合流地点において、第1のオイル83が二方向から均等に送液される第1のオイル83により、細胞81とトランスフェクション試薬82との混合液が一定間隔で分断される。これにより、第1の液滴84が生成される。第1の液滴84には、細胞液80に含まれる細胞81と水等の液体とが含まれる。生成される第1の液滴84の粒径は、1個の細胞81を含むことが可能であれば特に限定されないが、数μmから数mm程度が想定される。第1の液滴84は、促進部228に送液される。
【0039】
第1の液滴84の粒径や送液周期(生成時間間隔)は、流路制御回路310による細胞液80、トランスフェクション試薬82及び/又は第1のオイル83の送液圧力及び/又は流量の制御により任意に調整可能である。細胞81は、典型的には、1個ずつ一定の時間間隔で細胞吐出器311により細胞流路224に送液される。第1のオイル83は、第1の液滴84内に細胞81が1個だけ含まれるように、送液圧力及び/又は流量が調整される。あるいは、第1の液滴84内に1個だけ細胞81が含まれるようにポアソン分布に基づき細胞液80の濃度が調整されてもよい。あるいは、細胞81が1個ずつ整列するような機構が細胞流路224に設けられてもよい。
【0040】
ステップSA2が行われると、促進部228は、第1の液滴の内部で加工試薬により細胞を加工(トランスフェクション)する(ステップSA3)。ステップSA2において生成された第1の液滴は、図3に示す加工促進容器2281に滞留している。加工促進容器2281において第1の液滴の内部で加工試薬により細胞がトランスフェクションされる。
【0041】
トランスフェクションとしてウイルスベクタ又はリポフェクションが使用される場合、トランスフェクションを促進するため、加工促進容器2281内の温度が温度制御回路320により調節される。一例として、ウイルスベクタとしてセンダイウイルスが使用される場合、37度が至適温度であるため、加工促進容器2281の内部が37度に維持される。加工促進容器2281は、第1の液滴の内部において細胞とトランスフェクション試薬とを撹拌するため、蛇行する流路を有していてもよい。細胞とトランスフェクション試薬とが撹拌されることによりセンダイウイルスによるトランスフェクションが促進される。
【0042】
ステップSA3が行われると、流路制御回路310は、ゲル化剤吐出器314を作動してゲル化剤をゲル化剤入力部231に吐出し、第2オイル吐出器315を作動して第2のオイルを第2オイル入力部232に吐出する(ステップSA4)。ステップSA4が行われると、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する(ステップSA5)。
【0043】
図9は、第2の液滴の生成過程(SA5)を模式的に示す図である。図9に示すように、ゲル化剤流路233にゲル化剤が送液され、第2オイル流路234に第2のオイルが送液される。ゲル化剤流路233に対して互いに直交する2方向から第2オイル流路234が合流し合流路236が形成される。ゲル化剤流路233と第2オイル流路234との合流地点において第2のオイルが一定の送液圧力及び/又は流量で送液され、第2のオイルによりゲル化剤を一定間隔で分断することにより、第2の液滴87が生成される。流路制御回路310は、第2の液滴87の送液周期が第1の液滴84の送液周期に一致するように、ゲル化剤吐出器314からのゲル化剤85及び第2オイル吐出器315からの第2のオイル86の送液圧力及び流量を調整する。第2の液滴87は、ゲル封入細胞生成部240に送液される。第2の液滴87の粒径は、第1の液滴の粒径に一致してもよいし一致していなくてもよい。
【0044】
ステップSA5が行われると、電場制御回路330は、第1の液滴と第2の液滴とに電場を印加する(ステップSA6)。ステップSA6が行われると、融合液滴の内部でゲル化剤と細胞とを撹拌する(ステップSA7)。ステップSA7が行われると、融合液滴に刺激を与える(ステップSA8)。
【0045】
図10は、ゲル封入細胞の生成過程(SA6~SA8)を模式的に示す図である。図10に示すように、ステップSA6において、第1液滴生成部220からの第1の液滴84と第2液滴生成部230からの第2の液滴87とが互いに近接して保留容器245に滞留している。第1の液滴84には加工済み細胞が含有され、第2の液滴87にはゲル化剤が含有されている。電場制御回路330は、電極246を介して第1の液滴84と第2の液滴87とに電場を印加する。電場の印加により第1の液滴84と第2の液滴87とが融合して融合液滴88が生成される。融合液滴88の生成直後においては、融合液滴88の内部において加工済み細胞とゲル化剤とは互いに分離していると想定される。融合液滴88は撹拌流路2421に送液される。
【0046】
撹拌流路2421は蛇行しているので、融合液滴88が撹拌流路2421を通過することにより、融合液滴88の内部において加工済み細胞とゲル化剤とが撹拌する。撹拌流路2421には第3オイル流路2434が合流している。撹拌流路2421と第3オイル流路2434との合流地点において融合液滴88に第3のオイルが添加される。これにより融合液滴88の内部において加工済み細胞のゲル化が促進される。ゲルにより加工済み細胞が封入されることによりゲル封入細胞89が生成される。
【0047】
一例として、イオンによりゲル化が開始する材料を使用する場合、当該イオンを含有する第3のオイルが送液される。このようなイオンとしては、例えば、アルギン酸を使用可能である。あるいは、ゲル化剤にCa-EDTAやCa-NTAのようなイオンを有するキレート剤と共に液滴に封入し、酸によりイオンをキレート剤から放出させることで、ゲル化を促進してもよい。例えば、HTEに酢酸等の有機酸を加えたものを液滴に接触させることでゲル化させることが可能である。
【0048】
融合液滴は合流路2431を介して保留容器2432に送液される。保留容器2432では所定時間に亘り融合液滴が滞留し、ゲル化反応が進行する。これによりゲル封入細胞が生成されることとなる。その後、ゲル封入細胞はゲル封入細胞回収点2435に送液され、任意の手段により回収される。
【0049】
以上により、図7に示すゲル封入細胞の製造処理の説明を終了する。なお、図7に示すゲル封入細胞の製造処理の流れは一例であり、本実施形態はこれに限定されず、第1の液滴と第2の液滴とからゲル封入細胞を製造することが可能であれば、種々の変更が可能である。
【0050】
(変形例1)
上記実施形態に係るトランスフェクションはリポフェクションにより行われるものとしたが、変形例1に係るトランスフェクションとしてウイルスベクタにより行われてもよい。ウイルスベクタによるトランスフェクションは、リポフェクションと同様に実施することが可能である。具体的には、加工試薬として、任意の感染価のウイルスベクタを使用すればよい。
【0051】
(変形例2)
上記実施形態に係るトランスフェクションはリポフェクションにより行われるものとしたが、変形例2に係るトランスフェクションとしてメカノポレーションにより行われてもよい。この場合、加工試薬としては、特に制限がないが、タンパク質や核酸、ナノ粒子、低分子化合物、ペプチド等の中分子化合物が用いられるとよい。変形例2に係る加工促進容器2281は、メカノポレーションを実現する流路で構成される。一例として、加工促進容器2281は、狭窄流路により実現される。
【0052】
図11は、狭窄流路2282によるメカノポレーションを模式的に示す図である。図11に示すように、狭窄流路2282は、第1の液滴84の直径D1に比して狭い幅D2を有する区間2283を有している。第1の液滴84が区間2283に入り込むことにより第1の液滴84は圧迫され細胞81に孔が生じる。その後、第1の液滴84は、区間2283を通過し、ゲル封入細胞生成部240に送液される。細胞81に生じた孔を介してトランスフェクション試薬82が細胞81の内部に入り込む。これによりメカノポレーションが達成される。
【0053】
(変形例3)
上記実施形態において第1液滴生成部220は、細胞を液滴に封入した後に当該細胞を加工するものとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。変形例3に係る第1液滴生成部220は、加工済み細胞を液滴に封入してもよい。具体的には、変形例3に係る第1液滴生成部220は、加工試薬で細胞を加工し、当該加工済み細胞を第1のオイルにより液滴に封入することにより第1の液滴を生成する。
【0054】
(変形例4)
上記実施形態において製造されるゲル封入細胞の種類は特に限定されないものとした。本実施形態は、一例として、ゲル封入細胞として、ゲルに封入したiPS細胞の製造に応用することが可能である。この場合、細胞流路224に通過する「細胞」としては、PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cells)、造血幹細胞、臍帯血細胞、皮膚細胞又は線維芽細胞が使用される。なお、PBMCは、末梢血から分離される単核細胞であり、T細胞、B細胞、NK細胞、単球及び樹状細胞等のリンパ球を含む。加工試薬流路2225に通過する「加工試薬」としては、センダイウイルスと、リポフェクション試薬及びベクタの組合せとの何れか一方が使用される。センダイウイルスとしては、Cytotune(IDファーマ社)やSRV(ときわバイオ社)等を使用可能である。リポフェクション試薬としては、Lipofectamine3000(Thermo Fisher SCIENTIFIC社)を使用可能である。ベクタとしては、Epi5エピソームiPSCリプログラミングキット(Thermo Fisher SCIENTIFIC社)を使用可能である。ゲル化剤流路233を通過する「ゲル化剤」としては、アルギン酸及びCa-NTAの組合せと、ヒアルロン酸ナトリウムとの何れか一方を使用可能である。
【0055】
(変形例5)
上記の実施形態において第1液滴生成部220、第2液滴生成部230及びゲル封入細胞生成部240は、一枚の基盤210に形成されることを前提とした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。例えば、第1液滴生成部220、第2液滴生成部230及びゲル封入細胞生成部240各々が別個の基盤に形成され、当該3個の基盤が繋ぎ合わされて基盤210を構成するものとしてもよい。なお、他の構成要素毎に基盤が形成されてもよい。
【0056】
(変形例6)
上記の実施形態において刺激導入部243は、ゲル化を誘導するための刺激は、ゲル化剤に依存する試薬であるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。変形例6に係る刺激は、温度又は外部物理刺激であってもよい。この場合、刺激導入部243には、保留容器2432に温度又は外部物理刺激を与える機器が設けられるとい。温度を与える機器としては温度調節器が使用可能である。外部物理刺激は、ゲル化剤に応じて、光、電場、磁場、衝撃、温度等の中から適宜選択されればよい。
【0057】
(総括)
上記の第1実施形態によれば、ゲル封入細胞製造装置200は、第1液滴生成部220、第2液滴生成部230及びゲル封入細胞生成部240を有する。第1液滴生成部220は、加工された細胞を封入した第1の液滴を生成する。第2液滴生成部230は、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する。ゲル封入細胞生成部240は、第1液滴生成部220と第2液滴生成部230とに流路を介して接続され、第1の液滴と第2の液滴とを融合し、ゲルに封入した細胞であるゲル封入細胞を生成する。
【0058】
上記の構成によれば、細胞を加工し終えてから加工済みの細胞をゲル化することが可能になる。これによりゲル化剤により細胞の加工が阻害されることなく、ゲル封入細胞を生成することが可能になる。また、所定個数(典型的には1個)の細胞を1個の液滴に封入して細胞を加工及びゲル化することが可能になるので高効率で細胞を加工及びゲル化することが可能になる。
【0059】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る細胞培養システムについて説明する。なお以下の説明において、第1実施形態と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0060】
図12は、第2実施形態に係る細胞培養システム400の構成例を示す図である。細胞培養システム400は、ゲル封入細胞を製造し、ゲル封入細胞を培養する機械システムである。具体的には、細胞培養システム400は、ゲル封入細胞製造装置200、制御装置300、解乳化/洗浄装置500、廃液装置600、培養装置700及び選別装置800を有する。一例として、ゲル封入細胞製造装置200、解乳化/洗浄装置500、培養装置700及び選別装置800は、直列的に流路等を介して接続されている。解乳化/洗浄装置500には廃液装置600が流路等を介して分岐接続されている。
【0061】
ゲル封入細胞製造装置200は、加工された細胞を封入した第1の液滴を生成する第1液滴生成部220と、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する第2液滴生成部230と、第1液滴生成部220と第2液滴生成部230とに流路を介して接続され、第1の液滴と第2の液滴とを融合し、細胞をゲルに封入するゲル封入細胞生成部240と、を有する。第1液滴生成部220は、細胞と当該細胞を加工するための加工試薬とに第1のオイルを作用させて第1の液滴を生成する。第2液滴生成部230は、ゲル化剤に第2のオイルを作用させて第2の液滴を生成する。ゲル封入細胞生成部240は、第1の液滴と第2の液滴との融合液滴に含有される加工済み細胞に、ゲル化誘導剤を含有する第3のオイルを作用させ、細胞をゲルに封入したゲル封入細胞を生成する。
【0062】
制御装置300は、ゲル封入細胞製造装置200に対する各種物質の吐出及び回収、機器の制御等を行う機械装置である。
【0063】
解乳化/洗浄装置500は、培養装置700の前段に設けられる機械装置である。解乳化/洗浄装置500は、ゲル封入細胞においてゲルに封入された加工済み細胞を洗浄する。具体的には、解乳化/洗浄装置500は、ゲル封入細胞を解乳化して第1のオイル、第2のオイル及び/又は第3のオイルを取り除く。解乳化/洗浄装置500は、解乳化の前段及び/又は後段において細胞を、水系溶液、非水系溶液、超音波等により洗浄する。
【0064】
廃液装置600は、解乳化/洗浄装置500により取り除かされた第1のオイル、第2のオイル及び/又は第3のオイルを廃棄する機械装置である。廃液装置600は、オイルを吸引する器具と吸引したオイルを収容するタンクとを有している。
【0065】
培養装置700は、ゲル封入細胞においてゲルに封入された加工済み細胞を培養する機械装置である。培養装置700は、一例として、ゲル封入細胞が収容される培養容器、培養容器を密閉する密閉容器、培地を貯留する培地タンク、培地タンクから培養容器に培地を供給する供給装置、密閉容器の内部の温度を調節する温度調節器、及び密閉容器の内部の各種空気成分濃度を調節する空気調節器等を有している。培養容器としては、市販のプレートやマイクロウェルが使用である。あるいは、細胞培養可能な構成を備えたマイクロ流路のチャンバやゲル粒子が封入可能なマイクロ流路チップを培養容器として使用してもよい。
【0066】
選別装置800は、培養されたゲル封入細胞の中から特定のゲル封入細胞を選別する機械装置である。選別装置800としては、一例として、磁気やレーザにより細胞を選別するセルソータを利用可能である。あるいは、選別装置800として、粒径等によりゲル封入細胞を選別可能なマイクロ流路チップが使用されてもよい。
【0067】
次に、図13を参照しながら、細胞培養システム400によるゲル封入細胞の培養処理について説明する。図13は、細胞培養システム400によるゲル封入細胞の培養処理の処理手順を示す図である。図13に示すように、ゲル封入細胞製造装置200は、ゲル封入細胞を生成する(ステップSB1)。ゲル封入細胞は、第1実施形態に示す手順に従い生成されればよい。
【0068】
ステップSB1が行われると解乳化/洗浄装置500は、ステップSB1において生成されたゲル封入細胞を解乳化する(ステップSB2)。ゲル封入細胞の解乳化により、ゲル封入細胞のうちの加工済み細胞と第1、第2及び/又は第3のオイルとが分離する。ゲル封入細胞製造装置200と解乳化/洗浄装置500とが流路を介して接続されており、ゲル封入細胞がゲル封入細胞製造装置200から解乳化/洗浄装置500に自動的に供給されるとよい。なお、操作者がゲル封入細胞製造装置200からゲル封入細胞を取り出して解乳化/洗浄装置500に設置してもよい。
【0069】
ステップSB2が行われると解乳化/洗浄装置500は、ステップSB2において解乳化されたゲル封入細胞から、第1、第2及び/又は第3のオイルを除去する(ステップSB3)。第1、第2及び/又は第3のオイルは、廃液装置600により除去される。
【0070】
ステップSB3が行われると培養装置700は、ステップSB3においてオイルが除去されたゲル封入細胞を培養する(ステップSB4)。解乳化/洗浄装置500と培養装置700とが流路を介して接続されており、ゲル封入細胞が解乳化/洗浄装置500から培養装置700に自動的に供給されているとよい。なお、操作者が解乳化/洗浄装置500からゲル封入細胞を取り出して培養装置700に移動させてもよい。
【0071】
ステップSB4において培養装置700は、ゲル封入細胞を播種し、所定の培養条件のもとで培養する。加工済み細胞がゲルに封入されているので、周りの細胞や環境の影響が低減されるので、細胞を均一に成育させることが可能になる。ゲルは足場としての機能も有すると期待される。また、ステップSB3においてゲル封入細胞は、第1、第2及び/又は第3のオイルが除去されている。これら要因により、培養の効率の向上が期待される。培養により、1個のゲル粒子には、複数の細胞が封入されることとなる。
【0072】
ステップSB4が行われると、ステップSB4における培養後のゲル封入細胞が回収される(ステップSB5)。ゲル封入細胞は任意の回収装置により回収されてもよいし、操作者により回収されてもよい。
【0073】
ステップSB5が行われると選別装置800は、ステップSB5において回収されたゲル封入細胞の中から特定のゲル封入細胞を選別する(ステップSB6)。細胞がゲルに封入されているので、選別装置800は、細胞単位で選別を行うことが可能になる。ゲル封入細胞単位で異なる細胞を培養したり培養条件を変えて培養したりする場合、同一細胞/同一培養条件の細胞を簡易に選別することが可能になる。
【0074】
なお、特定のゲル封入細胞の選別は、選別装置800に依らず操作者の人手を介して実施されてもよい。一例として、操作者が顕微鏡でゲル封入細胞を観察し、特定のゲル封入細胞を選別してもよい。他の例として、操作者がゲル封入細胞に標識試薬を添加し、その信号に応じて特定のゲル封入細胞を選別してもよい。
【0075】
ステップSB6が行われると、選別されたゲル封入細胞が回収される(ステップSB7)。ゲル封入細胞は任意の回収装置により回収されてもよいし、操作者により回収されてもよい。
【0076】
以上により、図13に示すゲル封入細胞の培養処理の説明を終了する。なお、図13に示すゲル封入細胞の培養処理の流れは一例であり、本実施形態はこれに限定されず、ゲル封入細胞を培養することが可能であれば、種々の変更が可能である。
【0077】
(変形例7)
細胞培養システム400は、ゲル封入細胞製造装置200、制御装置300、解乳化/洗浄装置500、廃液装置600、培養装置700及び選別装置800を有するものとしたが、本実施形態はこれに限定されない。変形例7に係る細胞培養システム400は、例えば、第1、第2及び第3のオイルを除去する必要がない場合、解乳化/洗浄装置500及び廃液装置600を装備しなくてもよい。他の例として、変形例7に係る細胞培養システム400は、ゲル封入細胞を選別する必要がない場合、選別装置800を装備しなくてもよい。
【0078】
(総括)
上記の第2実施形態によれば、細胞培養システム400は、ゲル封入細胞製造装置200と培養装置700とを有する。ゲル封入細胞製造装置200は、第1液滴生成部220、第2液滴生成部230及びゲル封入細胞生成部240を有する。第1液滴生成部220は、加工された細胞を封入した第1の液滴を生成する。第2液滴生成部230は、ゲル化剤を封入した第2の液滴を生成する。ゲル封入細胞生成部240は、第1液滴生成部220と第2液滴生成部230とに流路を介して接続され、第1の液滴と第2の液滴とを融合し、ゲルに封入した細胞であるゲル封入細胞を生成する。培養装置700は、ゲルに封入された細胞を培養する。
【0079】
上記の構成によれば、加工済みの細胞を液滴毎に培養することが可能である。1個の液滴に1個の加工済み細胞を含める場合、1細胞毎に培養することが可能になる。また、細胞培養システム400に選別装置800を搭載することにより、ゲルに含まれる単一細胞集団のコロニーを簡便に選別することが可能になる。また、第2実施形態によれば、これらの工程を1個の機械システムにて一貫して行えるため、手技によるばらつきを抑え、簡便に細胞を処理することが可能になる。
【0080】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、ゲルに封入された加工済みの細胞を簡易且つ高品質に製造することができる。
【0081】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0082】
100 ゲル封入細胞製造システム
200 ゲル封入細胞製造装置
210 基盤
220 第1液滴生成部
221 細胞入力部
222 加工試薬入力部
223 第1オイル入力部
224 細胞流路
225 加工試薬流路
226 第1オイル流路
227 液滴生成部
228 促進部
230 第2液滴生成部
231 ゲル化剤入力部
232 第2オイル入力部
233 ゲル化剤流路
234 第2オイル流路
235 液滴生成部
240 ゲル封入細胞生成部
241 融合部
242 撹拌部
243 刺激導入部
300 制御装置
400 細胞培養システム
500 解乳化/洗浄装置
600 廃液装置
700 培養装置
800 選別装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13