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特開2024-126997運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126997
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/46 20060101AFI20240912BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H02J3/46
H02J3/38 120
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035812
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100153040
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 謙一
(72)【発明者】
【氏名】稲村 彰信
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066HA15
5G066HB02
5G066HB06
5G066HB09
5G066JB03
(57)【要約】
【課題】再生可能エネルギーの発電設備において余剰電力が発生することを防止する。
【解決手段】負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置であって、負荷装置は、運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、運転支援装置は、エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、負荷装置の運転準備の開始判定をする判定部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置であって、
前記負荷装置は、
運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、
再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、前記発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、
前記運転支援装置は、
前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、前記負荷装置の運転準備の開始判定をする判定部、
を備える運転支援装置。
【請求項2】
前記履歴情報は、現在以前の一時点である第1の時点の前記エネルギー貯蔵量を表す第1の値、及び、前記第1の時点より前の少なくとも一時点における前記エネルギー貯蔵量を表す第2の値を含む、
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記発電装置及び前記エネルギー貯蔵装置を少なくとも含む一定範囲の電力網において余剰電力が発生することが予測される所定状態に前記履歴情報が該当する場合に、前記開始判定をする、
請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記エネルギー貯蔵装置のエネルギー貯蔵量が所与の第1の閾値を超えることが予測される所定状態に前記履歴情報が該当する場合に、前記開始判定をする、
請求項3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記判定部は、
前記第1の時点における前記エネルギー貯蔵量が所与の第2の閾値以上である場合、又は、前記第1の時点における前記エネルギー貯蔵量が所与の第3の閾値以上であり且つ前記第1の時点から所与の時間を溯った時点である第2の時点と比べた前記第1の時点における前記エネルギー貯蔵量の増加が所定の程度以上である場合に、前記開始判定をする、
請求項4に記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記第1の時点から所与の時間を溯った時点である第2の時点から前記第1の時点までの時間における前記エネルギー貯蔵量の遷移が、前記エネルギー貯蔵量が前記第1の閾値を超えるエネルギー貯蔵量の遷移パターンとして予め設定された少なくとも一つの余剰電力発生パターンに該当する場合に、前記開始判定をする、
請求項4に記載の運転支援装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の遷移に関する実績情報に基づいて構築された所定の予測モデルを用いて、前記履歴情報に基づいて、現在時刻以後における前記エネルギー貯蔵量の予測値を時系列に算出し、現在時刻以後の所与の予測対象期間内における前記予測値が、前記第1の閾値を超える場合に、前記開始判定をする、
請求項4に記載の運転支援装置。
【請求項8】
前記判定部は、前記負荷装置の運転が開始されていないときに判定を実施する、
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項9】
前記開始判定を示す情報を所定の態様で出力する出力部、を更に備える、
請求項1の運転支援装置。
【請求項10】
前記出力部は、前記開始判定を示す情報を、前記負荷装置に運転準備を開始させるための運転準備開始情報として前記負荷装置に送信する、
請求項9に記載の運転支援装置。
【請求項11】
前記出力部は、人による認識が可能な表示及び音のうちの少なくとも一つの態様により、前記開始判定を示す情報を出力する、
請求項9に記載の運転支援装置。
【請求項12】
負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置における運転支援方法であって、
前記負荷装置は、
運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、
再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、前記発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、
前記運転支援方法は、
前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、前記負荷装置の運転準備の開始判定をする判定ステップ、
を有する運転支援方法。
【請求項13】
コンピュータを、負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置として機能させるための運転支援プログラムであって、
前記負荷装置は、
運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、
再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、前記発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、
前記運転支援プログラムは、
前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、前記負荷装置の運転準備の開始判定をする判定機能、
を実現させる運転支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの排出量削減のために、合成メタンの製造技術(メタネーション)が注目されている。合成メタンは、二酸化炭素と水素とを反応させることにより製造される。メタネーションは、工場等で排出された二酸化炭素を用いて製造された合成メタンを工場等で使用したり、製造された合成メタンを都市ガス導管で送ることができたりする等、いわゆるカーボンニュートラルの実現に向けた重要な技術として認識されている。メタネーションにより製造された合成メタンがカーボンニュートラルであるためには、製造に用いられる電力が風力発電及び太陽光発電等の再生可能エネルギーに由来する電力であることが望ましい。
【0003】
再生可能エネルギーによる電力供給は、天候及び時間帯等に応じた影響により不安定となる場合がある。発電された電力は、発電装置が属するマイクログリッドに構成される蓄電システムに蓄電させることができるが、蓄電システムのSoC(State of Charge)が運用上限を超えた場合には、余剰電力が発生することとなる。余剰電力が発生した場合には、外部の電力系統に送電したり、発電を抑制したりしなければならなくなってしまうので、メタネーション装置等の負荷装置を稼働させることにより電力を消費することが好ましい。下記特許文献1には、再生可能エネルギーによる発電電力の予測値と電力需要の予測値との差分に基づく余剰電力の予測値に基づき電力の託送計画を策定し、蓄電池のSoCが設定値を超える場合に水素製造を行うシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-54085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、メタネーション装置等の負荷装置は、起動指示を受けても直ちに電力消費可能な状態で稼働することはできず、起動指示に基づく運転準備の開始時から電力消費可能となる運転開始時までの準備時間を要する。特許文献1に記載されたシステムでは、水素製造を行う設備が起動指示後に直ちに電力消費が可能となることを前提としており、準備時間が考慮されていないため、余剰電力の発生を防げない場合があった。
【0006】
そこで、本開示の一側面は、再生可能エネルギーの発電設備において余剰電力が発生することを防止することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一側面に係る運転支援装置は、負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置であって、負荷装置は、運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、運転支援装置は、エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、負荷装置の運転準備の開始判定をする判定部、を備える。
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一側面に係る運転支援方法は、負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置における運転支援方法であって、負荷装置は、運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、運転支援方法は、エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、負荷装置の運転準備の開始判定をする判定ステップ、を有する。
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一側面に係る運転支援プログラムは、コンピュータを、負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置として機能させるための運転支援プログラムであって、負荷装置は、運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、運転支援プログラムは、エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、負荷装置の運転準備の開始判定をする判定機能、を実現させる。
【0010】
上記の側面によれば、エネルギー貯蔵量の履歴情報が所定状態に該当する場合に、電力の消費が可能な運転状態となるまでに準備時間を要する負荷装置の運転準備の開始判定がされる。従って、運転準備の開始の判定処理を適宜のタイミングで前もって実施することにより、負荷装置を所望のタイミングにおいて電力消費が可能な運転状態にすることが可能となる。
【0011】
他の側面に係る運転支援装置では、履歴情報は、現在以前の一時点である第1の時点のエネルギー貯蔵量を表す第1の値、及び、第1の時点より前の少なくとも一時点におけるエネルギー貯蔵量を表す第2の値を含むこととしてもよい。
【0012】
上記の側面によれば、エネルギー貯蔵量のある一時点の値だけではなく、その一時点以前のエネルギー貯蔵量の値が、運転準備の開始判定に用いられるので、エネルギー貯蔵量の遷移の傾向が考慮されることとなる。従って、運転準備の開始判定を精度よく実施することが可能となる。
【0013】
他の側面に係る運転支援装置では、判定部は、発電装置及びエネルギー貯蔵装置を少なくとも含む一定範囲の電力網において余剰電力が発生することが予測される所定状態に履歴情報が該当する場合に、開始判定をすることとしてもよい。
【0014】
上記の側面によれば、余剰電力の発生が予測される場合に、前もって負荷装置の運転準備の開始判定がされるので、余剰電力の発生が防止される。
【0015】
他の側面に係る運転支援装置では、判定部は、エネルギー貯蔵装置のエネルギー貯蔵量が所与の第1の閾値を超えることが予測される所定状態に履歴情報が該当する場合に、開始判定をすることとしてもよい。
【0016】
上記の側面によれば、エネルギー貯蔵量が第1の閾値を超えることが予測されるか否かにより判定が行われるので、余剰電力の発生の予測が精度良く実施される。
【0017】
他の側面に係る運転支援装置では、判定部は、第1の時点におけるエネルギー貯蔵量が所与の第2の閾値以上である場合、又は、第1の時点におけるエネルギー貯蔵量が所与の第3の閾値以上であり且つ第1の時点から所与の時間を溯った時点である第2の時点と比べた第1の時点におけるエネルギー貯蔵量の増加が所定の程度以上である場合に、開始判定をすることとしてもよい。
【0018】
上記の側面によれば、第1の時点におけるエネルギー貯蔵量が所定値以上である場合、又は、第1の時点に至る所定期間におけるエネルギー貯蔵量の増加率が所定程度以上である場合に開始判定がされる。即ち、ある一時点のエネルギー貯蔵量の値だけではなく、エネルギー貯蔵量の増加の傾向も考慮されるので、余剰電力が発生することが予測される状態であるか否かが適切に判定される。
【0019】
他の側面に係る運転支援装置では、判定部は、第1の時点から所与の時間を溯った時点である第2の時点から第1の時点までの時間におけるエネルギー貯蔵量の遷移が、エネルギー貯蔵量が第1の閾値を超えるエネルギー貯蔵量の遷移パターンとして予め設定された少なくとも一つの余剰電力発生パターンに該当する場合に、開始判定をすることとしてもよい。
【0020】
上記の側面によれば、第1の時点に至る所定期間のエネルギー貯蔵量の遷移が、所与のエネルギー貯蔵量の遷移パターンに該当するか否かにより判定処理が実施されるので、余剰電力の発生が予測されること及び運転準備の開始判定が容易である。
【0021】
他の側面に係る運転支援装置では、判定部は、エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の遷移に関する実績情報に基づいて構築された所定の予測モデルを用いて、履歴情報に基づいて、現在時刻以後におけるエネルギー貯蔵量の予測値を時系列に算出し、現在時刻以後の所与の予測対象期間内における予測値が、第1の閾値を超える場合に、開始判定をすることとしてもよい。
【0022】
上記の側面によれば、エネルギー貯蔵量の遷移を予測するための予測モデルを用いて現在時刻以後のエネルギー貯蔵量の遷移が予測され、予測対象期間内の予測値が所定の閾値を超える場合に運転準備の開始判定がされる。余剰電力の発生の予測及び運転準備の開始判定を簡便に実施できる。
【0023】
他の側面に係る運転支援装置では、判定部は、負荷装置の運転が開始されていないときに判定を実施することとしてもよい。
【0024】
上記の側面によれば、既に負荷装置が運転状態にある場合には運転開始の判定処理が実施されない。従って、運転準備の開始判定処理の不要な実施が防止される。
【0025】
他の側面に係る運転支援装置では、開始判定を示す情報を所定の態様で出力する出力部、を更に備えることとしてもよい。
【0026】
上記の側面によれば、運転準備の開始判定の結果を、負荷装置の起動のために供することができる。
【0027】
他の側面に係る運転支援装置では、出力部は、開始判定を示す情報を、負荷装置に運転準備を開始させるための運転準備開始情報として負荷装置に送信することとしてもよい。
【0028】
上記の側面によれば、運転準備開始情報が負荷装置に送信されることにより、直ちに負荷装置を起動できる。
【0029】
他の側面に係る運転支援装置では、出力部は、人による認識が可能な表示及び音のうちの少なくとも一つの態様により、開始判定を示す情報を出力することとしてもよい。
【0030】
上記の側面によれば、表示及び音等の態様により開始判定を示す情報が出力されるので、負荷装置の操作者に対して起動の判断を促すことができる。
【発明の効果】
【0031】
本開示の一側面によれば、再生可能エネルギーの発電設備において余剰電力が発生することを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】一実施形態に係る電力供給システムの概略図である。
図2】EMSの機能構成を示すブロック図である。
図3】EMSのハードウェア構成を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る運転支援方法の判定処理を示すフローチャートである。
図5】運転準備の開始判定がされる場合のSoCの遷移の例を示す図である。
図6】運転準備の開始判定がされない場合のSoCの遷移の例を示す図である。
図7】第2の実施形態に係るEMSの機能構成を示すブロック図である。
図8】第2の実施形態の判定処理を概略的に示す図である。
図9図9(a)は、エネルギー貯蔵量の遷移パターンのうちの余剰電力非発生パターンの例を示す図である。図9(b)は、エネルギー貯蔵量の遷移パターンのうちの余剰電力発生パターンの例を示す図である。
図10】第2の実施形態に係る運転支援方法の判定処理を示すフローチャートである。
図11】遷移パターンに対する余剰電力の発生に関するラベリングを説明する図である。
図12】第3の実施形態に係るEMSの機能構成を示すブロック図である。
図13】第3の実施形態の判定処理を概略的に示す図である。
図14】自己回帰モデルによるエネルギー貯蔵量の予測値の算出を説明する図である。
図15】第3の実施形態に係る運転支援方法の判定処理を示すフローチャートである。
図16】電力供給システムの別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0034】
図1は、一実施形態に係る電力供給システム1の概略構成図である。図1に示すように、電力供給システム1は、マイクログリッド2及びエネルギーマネジメントシステム3(運転支援装置)を備える。以下、「エネルギーマネジメントシステム」を「EMS」という。マイクログリッドは、一般的には、エネルギー供給源と消費施設を一定の範囲でまとめた小規模電力網であって、本実施形態のマイクログリッド2は、太陽光発電設備21、メタネーション装置22(負荷装置)、蓄電システム23、接続部24、受電電力測定部25及び送電電力測定部26を含む。また、マイクログリッド2は、外部の電力系統90と接続していて、電力系統90との間で電力を送電及び受電することができる。
【0035】
太陽光発電設備21は、再生可能エネルギーによる発電装置の一例である。太陽光発電設備21は、太陽光(Photovoltaic:PV)による発電を行うシステムであり、太陽光パネル21a及び図示しないパワーコンディショナ(Power Conditioning System:PCS)を含む。パワーコンディショナはPV-PCSと呼ぶ場合もある。PV-PCSは直流を交流に変換する。
【0036】
なお、本開示において、再生可能エネルギーによる発電設備の種類は、太陽光発電に限定されない。例えば、再生可能エネルギーによる発電設備は、風力発電システム、地熱発電システム、バイオマス発電システム及びごみ発電システムであってもよい。太陽光発電の設備では、気象条件(日射、温度、降雪等)の影響により、発電量が変動する。また、風力発電の設備では、風速の影響により発電量が変動する。また、バイオマス発電及びごみ発電では、原料となるバイオマス及びごみ(廃棄物や汚泥等)の性状が一般には安定ではなく、さらに、一時的な焼却不適物の混入等により、出力が安定しない。したがって、上記の各種の発電方法は、太陽光発電と同様に本開示で説明する手法が効果的に適用される方法である。
【0037】
メタネーション装置22は、負荷装置の一例である。メタネーション装置22は、合成メタンを製造する装置であって、二酸化炭素と水素とを反応させることにより、合成メタンを製造する。メタネーション装置22は、太陽光発電設備21の発電電力、及び、太陽光発電設備21による発電電力を充電可能な蓄電システム23の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費する。
本実施形態のメタネーション装置22は、運転準備の開始時から、電力消費が可能となる運転開始時までに準備時間を要する。触媒を利用したメタネーション反応は発熱反応ではあるが、反応を開始させるためには、ある温度(250℃から450℃)まで昇温させる必要があるため、装置の停止状態(常温・常圧)から瞬時的にメタン製造を開始することは難しい。そのため、メタネーション装置22は、製造を開始する前に昇温を行う必要がある。この昇温に要する時間は加熱方式(電気ヒータ式、蒸気加熱式)、装置の規模及び昇温開始時の装置温度によっても異なるが、例えば15分から5時間は必要とする。また、メタネーション装置22の準備時間は、5分以上であってもよい。
【0038】
なお、マイクログリッド2における負荷装置は、メタネーション装置22に限定されず、他の負荷装置であってもよい。本実施形態においてマイクログリッド2に適用される負荷装置は、運転準備の開始時から、電力消費が可能となる運転開始時までに準備時間を要する装置である。
【0039】
蓄電システム23は、エネルギー貯蔵装置の一例である。蓄電システム23は、太陽光発電設備21により発電された電力の貯蔵、メタネーション装置22への電力の供給等を行う。蓄電システム23は蓄電池を含んで構成される。
【0040】
本実施形態の蓄電システム23は、日中に太陽光発電の余剰電力を充電し、夜間に放電して需要家(図示せず)に対して電力供給を行う。このような蓄電システムの使い方は、電力のピークシフト又はエネルギーシフトとよばれ、蓄電池を導入している工場、公共施設及びビル等において、購入電力量の削減を目的に広く実施されている。充放電指令は蓄電システム23内で作成されていてもよいし、EMS3により作成されてもよい。
【0041】
蓄電池は、電力を貯蔵及び供給する機能を備える機器の総称である。例えば、蓄電池は、鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池、全固体電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池又はコバルトチタンリチウム二次電池等の一般型の蓄電池であってもよい。蓄電池は、レドックス・フロー電池、亜鉛・塩素電池又は亜鉛・臭素電池等の液循環型の蓄電池であってもよい。蓄電池は、アルミニウム・空気電池、空気亜鉛電池又は空気・鉄電池等のメカニカルチャージ型の蓄電池であってもよい。蓄電池は、ナトリウム・硫黄電池、リチウム・硫化鉄電池、電子トラップ型又は半導体二次電池等の高温動作型の蓄電池であってもよい。また、蓄電池(二次電池)は、電力の充電及び/又は放電が可能な機器の総称である。蓄電システム23の直流を交流に変換する蓄電池PCS及び蓄電池残量の監視装置も、蓄電システム23に含まれるとする。蓄電池は、同様な機能を持つコンデンサー、フライホイール、圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)設備、揚水発電設備、及び、電気を一時的に熱として蓄えて必要な時に熱から電気に再変換する蓄熱発電設備等のエネルギー貯蔵装置に置き換えられてもよい。
【0042】
接続部24は、外部の電力系統90を含む各部に対して電力を配分する機能を有する。接続部24は、例えば分電盤である。接続部24は、例えば、EMS3からの指示に基づいて各部へ電力を配分する。受電電力測定部25及び送電電力測定部26は、それぞれ外部の電力系統90との受電電力・送電電力を測定する。
【0043】
図2は、本実施形態に係るEMS3の機能構成を示すブロック図である。EMS3は、負荷装置であるメタネーション装置22の運転準備の開始判定をする運転支援装置として機能する。また、EMS3は、マイクログリッド2における電力の移動・授受を監視する装置である。図2では、EMS3の各種機能のうち、本開示における運転支援装置の機能に関連する機能部のみを表している。EMS3は、図2に示す以外の機能として、例えば、トレンドデータの保存機能、デマンド監視機能等を有しているが、これらの機能部については省略されている。
【0044】
図2に示されるように、EMS3は、取得部31、判定部32及び出力部33を備える。また、EMS3は、履歴情報DB41を更に備えてもよい。
【0045】
続いて、図3を参照して、EMS3のハードウェア構成について説明する。図3は、EMS3のハードウェア構成の一例を示す図である。EMS3は、1又は複数のコンピュータ100を含む。コンピュータ100は、プロセッサ101と、主記憶部102と、補助記憶部103と、通信制御部104と、入力装置105と、出力装置106とを有する。EMS3は、これらのハードウェアと、プログラム等のソフトウェアとにより構成された1又は複数のコンピュータ100によって構成される。
【0046】
EMS3が複数のコンピュータ100によって構成される場合には、これらのコンピュータ100はローカルで接続されてもよいし、インターネット又はイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続されてもよい。この接続によって、論理的に1つのEMS3が構築される。
【0047】
プロセッサ101は、オペレーティングシステム及びアプリケーション・プログラムなどを実行する。主記憶部102は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)により構成される。補助記憶部103は、ハードディスクおよびフラッシュメモリなどにより構成される記憶媒体である。補助記憶部103は、一般的に主記憶部102よりも大量のデータを記憶する。通信制御部104は、ネットワークカード又は無線通信モジュールにより構成される。EMS3における他の装置との通信機能の少なくとも一部は、通信制御部104によって実現されてもよい。入力装置105は、キーボード、マウス、タッチパネル、および、音声入力用マイクなどにより構成される。出力装置106は、ディスプレイおよびプリンタなどにより構成される。
【0048】
補助記憶部103は、予め、プログラム110および処理に必要なデータを格納している。プログラム110は、EMS3の各機能要素をコンピュータ100に実行させる。EMS3が有する各機能部31~33は、プロセッサ101にプログラム110(運転支援プログラム)が読み込まれて、そのプログラムが実行されることにより実現される。なお、本実施形態では、各機能部31~33が、EMS3に構成されることとしているが、複数のコンピュータに分散して構成されることとしてもよい。
【0049】
プログラム110によって、例えば、運転支援装置としてのEMS3による運転支援方法に係る処理がコンピュータ100において実行される。例えば、プログラム110は、プロセッサ101又は主記憶部102によって読み込まれ、プロセッサ101、主記憶部102、補助記憶部103、通信制御部104、入力装置105、および出力装置106の少なくとも1つを動作させる。例えば、プログラム110は、主記憶部102および補助記憶部103におけるデータの読み出しおよび書き込みを行う。
【0050】
プログラム110は、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記憶媒体に記録された上で提供されてもよい。プログラム110は、データ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0051】
再び図2を参照して、EMS3の各機能部を説明する。取得部31は、蓄電システム23から蓄電池のエネルギー貯蔵量を示すSoCを定期的に取得する。取得部31は、蓄電システム23における時系列のSoCを、履歴情報として履歴情報DB41に蓄積させる。なお、本実施形態では、蓄電システムにおけるエネルギー貯蔵量をSoCで表すが、電力量(単位:KWh)であってもよい。
【0052】
判定部32は、エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、負荷装置の運転準備の開始判定をする。本実施形態では、判定部32は、蓄電システム23におけるSoCの履歴を示す履歴情報が所定状態に該当する場合に、メタネーション装置22の運転準備の開始判定をする。判定部32は、履歴情報DB41に蓄積された履歴情報を参照して判定処理を実施する。
【0053】
判定の対象とする履歴情報は、現在以前の一時点である第1の時点のエネルギー貯蔵量を表す第1の値、及び、第1の時点より前の少なくとも一時点におけるエネルギー貯蔵量を表す第2の値を少なくとも含む。
【0054】
具体的には、第1の時点は、判定実施時における現在の時点であってもよいし、現在以前の時点であってもよい。即ち、履歴情報は、現在または現在以前の時点である第1の時点のSoCの値、及び、第1の時点より前の過去の少なくとも一時点におけるSoCの値を含んでもよい。
【0055】
このように、エネルギー貯蔵量のある一時点の値だけではなく、その一時点以前のエネルギー貯蔵量の値が、運転準備の開始判定に用いられるので、エネルギー貯蔵量の遷移の傾向が考慮されることとなる。従って、運転準備の開始判定を精度よく実施することが可能となる。
【0056】
判定部32は、発電装置及びエネルギー貯蔵装置を少なくとも含む一定範囲の電力網において余剰電力が発生することが予測される所定状態に履歴情報が該当する場合に、開始判定をしてもよい。
【0057】
具体的には、本実施形態では、判定部32は、太陽光発電設備21及び蓄電システム23を含むマイクログリッド2において余剰電力が発生することが予測される所定状態に履歴情報が該当する場合に開始判定をしてもよい。
【0058】
このように、余剰電力の発生が予測される場合に、前もって負荷装置の運転準備の開始判定がされるので、余剰電力の発生が防止される。
【0059】
判定部32は、エネルギー貯蔵装置のエネルギー貯蔵量が所与の第1の閾値を超えることが予測される所定状態に履歴情報が該当する場合に開始判定をしてもよい。具体的には、本実施形態では、判定部32は、蓄電システム23のSoCが運用上限値を超えることが予測される所定状態に履歴情報が該当する場合に開始判定をしてもよい。
【0060】
このように、エネルギー貯蔵量が第1の閾値を超えることが予測されるか否かにより判定が行われるので、余剰電力の発生の予測が精度良く実施される。
【0061】
出力部33は、開始判定を示す情報を所定の態様で出力する。一例として、出力部33は、開始判定を示す情報を、負荷装置に運転準備を開始させるための運転準備開始情報として負荷装置に送信してもよい。
【0062】
具体的には、本実施形態では、出力部33は、判定部32により開始判定がされた場合に、メタネーション装置22に運転準備開始情報を送信する。メタネーション装置22は、運転準備開始情報の受信を契機として運転準備を開始する。運転準備は、例えば、装置の昇温等である。これにより、メタネーション装置22は、運転準備の開始の後の一定時間が経過したときに、太陽光発電設備21の発電電力又は蓄電システム23の放電電力の消費を伴う運転を開始できる。
【0063】
また、出力部33は、人による認識が可能な表示及び音のうちの少なくとも一つの態様により、開始判定を示す情報を出力してもよい。具体的には、本実施形態では、出力部33は、メタネーション装置22の操作者が視認可能なモニター表示、ランプの点灯及びメール等による通知並びにアラーム音等により、操作者に対してメタネーション装置22の運転準備の開始操作を促してもよい。このように、表示及び音等の態様により開始判定を示す情報が出力されるので、負荷装置の操作者に対して起動の判断を促すことができる。
【0064】
図4図6を参照して、第1の実施形態に係る判定部32による判定処理について説明する。第1の実施形態では、判定部32は、第1の時点におけるエネルギー貯蔵量が所与の第2の閾値以上である場合、又は、第1の時点におけるエネルギー貯蔵量が所与の第3の閾値以上であり且つ第1の時点から所与の時間を溯った時点である第2の時点と比べた第1の時点におけるエネルギー貯蔵量の増加が所定の程度以上である場合に開始判定をする。
【0065】
図4は、第1の実施形態に係る運転支援方法の判定処理を示すフローチャートである。図4に示される判定処理は、1日のうちの所定時刻(例えば10時)に実施されることとしてもよい。例えば再生可能エネルギーのうちの太陽光発電では、発電電力量は、日の出の時から上昇し始め、日中にピークとなり、日没にかけて減少する。このような発電電力量の増減に伴うSoCの変化を考慮して、発電電力量のピーク時に蓄電システム23におけるSoCが運用上限を超えないように、ピーク時より前の所定時刻に運転開始の判定処理を実施する。
【0066】
ステップS1において、判定部32は、メタネーション装置22との通信によりメタネーション装置22の稼働状態を示す情報を取得し、メタネーション装置22が起動済みであるか否かを判定する。メタネーション装置22が起動済みであると判定された場合には、メタネーション装置の運転準備の開始判定をする必要がないので、処理はステップS4に進む。メタネーション装置22が起動済みであると判定されなかった場合には、処理はステップS2に進む。
【0067】
ステップS2において、判定部32は、この判定処理の例の実施時である10時(現在時刻、「第1の時点」の一例)における蓄電システム23のSoCが70%(第2の閾値の一例)以上であるか否かを判定する。即ち、マイクログリッド2における発電電力がピークを迎える前の時点において、SoCが既にある程度の高い状態であるか否かが判定される。なお、ここで判定に用いられる第2の閾値は、70%には限定されない。SoCが70%以上であると判定された場合には、処理はステップS5に進む。一方、SoCが70%以上であると判定されなかった場合には、処理はステップS3に進む。
【0068】
ステップS3において、判定部32は、10時(第1の時点)におけるSoCが35%(第3の閾値の一例)以上であり且つ10時におけるSoCは9時(第2の時点)と比べて5%(所定の程度)以上増加しているか否かを判定する。即ち、マイクログリッド2における発電電力がピークを迎える前の時点において、SoCが一定程度より高い状態であって、一定程度以上の増加傾向であるか否かが判定される。なお、ここで判定に用いられる第3の閾値、第2の時点及び増加の程度はそれぞれ、35%、9時及び5%には限定されない。
【0069】
10時におけるSoCが35%以上であって且つ9時におけるSoCと比べて5%以上増していると判定された場合には、処理はステップS5に進む。一方、10時におけるSoCが35%以上であって且つ9時におけるSoCと比べて5%以上増していると判定されなかった場合には、処理はステップS5に進む。
【0070】
図5及び図6は、SoCの遷移の例を示す図である。10時の時点では、図5及び図6に示されるSoCの遷移のうち、実線部分が履歴情報として履歴情報DB41に蓄積されている。図5に示される例では、10時の時点における履歴情報により示されるSoCの遷移は、10時において50%程度であり、9時における40%程度の値と比較して5%以上増加しているので、判定部32は、処理をステップS5に進めることを判定する。
【0071】
図6に示される例では、10時の時点における履歴情報により示されるSoCの遷移は、10時において30%程度であるので、判定部32は、処理をステップS4に進めることを判定する。
【0072】
ステップS4において、判定部32は、開始判定をしない。一方、ステップS5において、判定部32は、開始判定をする。
【0073】
このように、第1の実施形態では、第1の時点におけるSoCが第2の閾値以上である場合、又は、第1の時点のSoCが第3の閾値以上であって且つ第1の時点に至る所定期間におけるSoCの増加率が所定程度以上である場合に開始判定がされる。即ち、ある一時点のエネルギー貯蔵量の値だけではなく、エネルギー貯蔵量の増加の傾向も考慮されるので、余剰電力が発生することが予測される状態であるか否かが適切に判定される。
【0074】
図7図11を参照して、第2の実施形態に係る判定部32による判定処理について説明する。図7は、第2の実施形態に係るEMSの機能ブロック図である。EMS3Aは、図2に示したEMS3と比べて、判定部32に代えて判定部32Aを備え、判定パターンDB42を更に備える。
【0075】
第2の実施形態では、判定部32Aは、第1の時点から所与の時間を溯った時点である第2の時点から第1の時点までの時間におけるエネルギー貯蔵量の遷移が、エネルギー貯蔵量が第1の閾値を超えるエネルギー貯蔵量の遷移パターンとして予め設定された少なくとも一つの余剰電力発生パターンに該当する場合に、開始判定をする。判定パターンDB42は、エネルギー貯蔵量の遷移パターンを予め記憶しているデータベースである。
【0076】
図8は、第2の実施形態の判定処理を概略的に示す図である。判定パターンDB42は、起点時刻(第2の時点の一例)から判定時刻(第1の時点の一例、例えば現在時刻であってもよい)に至るSoCの遷移を規定した遷移パターンtpを予め記憶している。符号pd1に示されるように、判定部32Aは、履歴情報に示される、起点時刻から現在時刻に至るSoCの遷移と遷移パターンtpとのマッチング判定を実施する。そして、符号dt1に示されるように、判定部32Aは、マッチング判定の結果に基づいて、第1の時点から、メタネーション装置22の準備時間が経過した時以後に、マイクログリッド2において余剰電力が発生するか否かを判定する。
【0077】
図9は、遷移パターンtpの生成の例を示す図である。図9(a)に示されるSoCの遷移カーブstaは、X年Y月Z0日のSoCの遷移の実績を示している。遷移カーブstaでは、ピーク時においてもSoCが運用上限値を超えていない。そこで、遷移カーブstaのうちの起点時刻から判定時刻に至る部分を、余剰電力が発生しない遷移パターンである余剰電力非発生パターンtpaとして、余剰電力非発生であることを示すラベルlbaを関連付けて、判定パターンDB42に予め記憶させる。
【0078】
図9(b)に示されるSoCの遷移カーブstbは、X年Y月Z1日のSoCの遷移の実績を示している。遷移カーブstbでは、ピーク時においてSoCが運用上限値を超えている。そこで、遷移カーブstbのうちの起点時刻から判定時刻に至る部分を、余剰電力が発生しない遷移パターンである余剰電力発生パターンtpbとして、余剰電力発生であることを示すラベルlbbを関連付けて、判定パターンDB42に予め記憶させる。
【0079】
なお、判定時刻から、遷移カーブstbにおけるSoCが運用上限値に達する時点までの時間は、本実施形態のEMS3Aが適用されるメタネーション装置22の準備時間以上の長さを有することが必要である。
【0080】
図10は、第2の実施形態に係る運転支援方法の判定処理を示すフローチャートである。図10に示される判定処理は、1日のうちの所定時刻に実施されてもよいし、所与の時間間隔で随時実施されてもよい。
【0081】
ステップS11において、判定部32Aは、メタネーション装置22との通信によりメタネーション装置22の稼働状態を示す情報を取得し、メタネーション装置22が起動済みであるか否かを判定する。メタネーション装置22が起動済みであると判定された場合には、メタネーション装置の運転準備の開始判定をする必要がないので、処理はステップS14に進む。メタネーション装置22が起動済みであると判定されなかった場合には、処理はステップS12に進む。
【0082】
ステップS12において、判定部32Aは、履歴情報に示される起点時刻から判定時刻に至るSoCの遷移と遷移パターンtpとのマッチング判定を実施する。具体的には、判定部32Aは、履歴情報に示される起点時刻から判定時刻に至るSoCの各値と、遷移パターンtpの対応する各時刻における値との差分をユークリッド距離としたK近傍法を用いてマッチングしてもよい。
【0083】
前述のとおり、判定パターンDB42は、余剰電力非発生のラベルlbaが関連付けられた余剰電力非発生パターンtpa及び余剰電力発生のラベルlbbが関連付けられた余剰電力発生パターンtpbのいずれかである遷移パターンtpを複数記憶しているので、判定部32Aは、履歴情報に示される遷移に類似する遷移パターンtpをパターンマッチングにより複数抽出し、抽出した遷移パターンtpに関連付けられたラベルlba及びラベルlbbのそれぞれの数を集計する。
【0084】
ステップS13において、判定部32Aは、余剰電力が発生するか否かを判定する。具体的には、ステップS12において集計されたラベルにおいて、余剰電力非発生のラベルlbaより余剰電力発生のラベルlbbが多かった場合に、判定部32Aは、余剰電力が発生すると判定してもよい。余剰電力が発生すると判定されなかった場合には、処理はステップS14に進む。一方、余剰電力が発生すると判定された場合には、処理はステップS15に進む。
【0085】
ステップS14において、判定部32Aは、開始判定をしない。一方、ステップS15において、判定部32Aは、開始判定をする。
【0086】
なお、予め生成し判定パターンDB42に記憶させる遷移パターンtpのためのSoCの実績値は、起点時刻から終点時刻までのSoCのデータである必要はなく、例えば、起点時刻から所定の判定時刻までのSoCの実績値であってもよい。また判定に用いられる遷移パターンtpは、起点時刻から判定時刻までの全てのSoCの実績値を連続的に含むことは要さず、例えば、起点時刻と判定時刻とそれらの中間の時刻との3点の時刻におけるSoCの実績値を含んでいてもよい。また、判定に用いられる遷移パターンtpは、第1の実施形態のように、例えば9時及び10時の2点の実績値からなることとしてもよい。また、また判定に用いられる遷移パターンtpは、SoCの実績値からなることは要さず、SoCの実績値が加工された値により構成されてもよく、判定時刻と起点時刻との間のSoCの実績値の差分値と、判定時刻のSoCの実績値により構成されてもよい。
い。
【0087】
次に、図11を参照して、遷移パターンtpに対する自動でのラベリングについて説明する。遷移パターンtpの生成のためのSoCの遷移の実績値を含む実績情報は、例えば、太陽光発電設備21の稼働時間における所定の起点時刻t1から終点時刻t2にまでの実績値を含み、起点時刻t1から判定時刻t3までの実績値が、遷移パターンtpを構成し、パターンマッチングに用いられ、判定時刻t3以後の実績値が、当該遷移パターンtpが余剰電力発生パターンに該当するか否かの判定に用いられる。
【0088】
メタネーション装置22等の負荷装置における準備時間T1(例えば2時間)が予め設定され、判定時刻t3から準備時間T1が経過した時刻t4から、終点時刻t2までの時間が、判定時刻t3において負荷装置の運転準備を開始させた場合における運転可能時間T2である。そこで、遷移パターンtpに対する自動でのラベリングでは、運転可能時間T2内にSoCの実績値が(SoC運用上限値-δ)以上となる時間の合計が、所与の時間(例えば3時間)以上となる場合に、当該遷移パターンtpに余剰電力発生のラベルを関連付け、所与の時間未満であれば余剰電力非発生のラベルを関連付けることとしてもよい(δは、例えば1%といった設定パラメータである)。このようにラベリングされることにより、負荷装置に運転準備を開始させて運転開始をさせたものの、余剰電力の発生が少ないことにより、負荷装置の運転をすぐに休止させるといった無駄な運用を防止できる。なお、遷移パターンに対するラベリングは、プログラムにより自動的に行われてもよいし、マイクログリッドの運用者等の人により行われてもよい。
【0089】
図12図15を参照して、第3の実施形態に係る判定部による判定処理について説明する。図12は、第3の実施形態に係るEMSの機能ブロック図である。EMS3Bは、図2に示したEMS3と比べて、判定部32に代えて判定部32Bを備え、自己回帰モデル記憶部43を更に備える。
【0090】
第3の実施形態では、判定部32Bは、エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の遷移に関する実績情報に基づいて構築された所定の予測モデルを用いて、履歴情報に基づいて、現在時刻以後におけるエネルギー貯蔵量の予測値を時系列に算出し、現在時刻以後の所与の予測対象期間内における予測値が第1の閾値を超える場合に、開始判定をする。予測モデルは、一例として、所定の自己回帰モデルであってもよい。本実施形態では、判定部32Bは、自己回帰モデルを用いて、開始判定を実施する。自己回帰モデル記憶部43は、学習及び構築済みの自己回帰モデルを予め記憶している記憶手段である。
【0091】
図13は、第3の実施形態の判定処理を概略的に示す図である。第3の実施形態では、符号pd2に示されるように、判定部32Bは、一定時間前の過去(例えば起点時刻、5時間前)から判定時刻(例えば現在時刻)までのSoCの実績値の値を用いて、蓄電システム23の蓄電池の将来の予測対象期間のSoCの値の推移を時系列解析的に予測する。第3の実施形態では、一例として、ARモデル(autoregressive model、自己回帰モデル)が用いられる。
【0092】
なお、予測対象期間が運転装置の準備時間より短い場合には、余剰電力が発生する前に負荷装置の運転準備を完了させることが不可能であるので、予測対象期間は、少なくとも、負荷装置の準備時間より長い時間であることが必要である。
【0093】
そして、符号dt2に示されるように、判定部32Bは、予測対象期間におけるSoCの予測値が第1の閾値(例えばSoCの運用上限値)を超える場合に、余剰電力が発生することを判定する。
【0094】
図14は、自己回帰モデルによるエネルギー貯蔵量の予測値の算出を説明する図である。ARモデルは、蓄電池のSoCの遷移に関する実績情報に基づいて生成される。ARモデルmdの生成について、以下に説明する。
【0095】
時系列のSoCの実績値からなる時系列データ{y}(i=1,・・・,N)が与えられたとき、ARモデルmdは時系列データyを次式で表現する。
【数1】
【0096】
ただし、mは自己回帰の次数、aは係数、vは平均0及び分散σの正規分布に従う白色雑音である。
【0097】
本実施形態では、学習段階において実績値{y}(i=1,・・・,N)に対して、AIC(Akaike Information Criteria:赤池情報量規準)が最小となるように、ARモデルの次数m及び係数a(i=1,2,・・・,m)が決定される。AICは、統計量の一種であり、AICが小さいほど「モデルの複雑さとデータとの適合度とのバランスがとれたモデル」であると解釈できる。次数mのARモデルmdのAICは次式で表される。
AIC=-2(最大対数尤度)+2(m+1)
学習済みのARモデルmdは、例えば、自己回帰モデル記憶部43に記憶される。
【0098】
予測段階において、判定部32Bは、得られたARモデルmdを用いて、予測対象期間のSoCを予測する。上記ARモデルmdのvは、通常ではゼロとして扱われる。例えば、判定部32Bは、次時刻の予測値
【数2】

を、実績値{y}(i=1,・・・,N)を用いて、以下の式により算出する。
【数3】

更に、判定部32Bは、その次時刻の予測値
【数4】

を以下の式により算出する。
【数5】
【0099】
判定部32Bは、前時刻の予測値を用いて、繰り返して予測値を時系列に算出する。なお、ARモデルmdにより算出される予測値が過大又は過少になることを防止するために、最終的な予測値がユーザにより指定された最大値及び最小値の範囲内に制限されてもよい。
【0100】
判定部32Bは、予測対象期間におけるSoCの予測値が第1の閾値を超える場合に、余剰電力が発生するとして、開始判定をする。なお、判定部32Bは、SoCの予測値が閾値を超えることが予測される時刻を、ARモデルにより併せて取得し、出力部33は、取得した時刻をユーザに提示するために出力してもよい。
【0101】
また、判定部32Bは、SoCの予測値が閾値を超えることによる余剰電力が発生する時間の開始時刻と終了時刻とをARモデルmdにより取得してもよい。出力部33は、余剰電力発生の開始時刻及び終了時刻をユーザに提示するために出力してもよい。
【0102】
図15は、第3の実施形態に係る運転支援方法の判定処理を示すフローチャートである。図15に示される判定処理は、1日のうちの所定時刻に実施されてもよいし、所与の時間間隔で随時実施されてもよい。
【0103】
ステップS21において、判定部32Bは、メタネーション装置22との通信によりメタネーション装置22の稼働状態を示す情報を取得し、メタネーション装置22が起動済みであるか否かを判定する。メタネーション装置22が起動済みであると判定された場合には、メタネーション装置の運転準備の開始判定をする必要がないので、処理はステップS24に進む。メタネーション装置22が起動済みであると判定されなかった場合には、処理はステップS22に進む。
【0104】
ステップS22において、判定部32Bは、自己回帰モデルmdを用いて、予測対象期間におけるSoCの予測値を算出する。前述のとおり、予測対象期間は、メタネーション装置22の準備時間より長い時間に設定される。
【0105】
ステップS23において、判定部32Bは、余剰電力が発生するか否かを判定する。即ち、予測値が所与の第1の閾値(例えばSoCの運用上限値)を超える場合に、判定部32Bは、余剰電力が発生することを判定する。余剰電力が発生すると判定されなかった場合には、処理はステップS24に進む。一方、余剰電力が発生すると判定された場合には、処理はステップS25に進む。
【0106】
ステップS24において、判定部32Bは、開始判定をしない。一方、ステップS25において、判定部32Bは、開始判定をする。
【0107】
このように、SoCの遷移を予測するための自己回帰モデルmdを用いて判定時刻(例えば現在時刻)以後のSoCの遷移が予測され、予測対象期間内のSoCの予測値が所定の閾値を超える場合に運転準備の開始判定がされる。これにより、余剰電力の発生の予測及び運転準備の開始判定を簡便に実施できる。
【0108】
以上説明した本実施形態のEMS3,3A,3B(運転支援装置)、運転支援方法及び運転支援プログラムによれば、SoCの履歴情報が所定状態に該当する場合に、電力の消費が可能な運転状態となるまでに準備時間を要するメタネーション装置22(負荷装置)の運転準備の開始判定がされる。従って、運転準備の開始の判定処理を適宜のタイミングで前もって実施することにより、負荷装置を所望のタイミングにおいて電力消費が可能な運転状態にすることが可能となる。
また、本実施形態の運転支援装置では、太陽光発電等の再生可能エネルギーの発電電力の予測値、及び、電力需要の予測値を開始判定の判定処理のために必要としない。発電電力及び電力需要の予測値を用いる場合には、その予測が外れた場合に、発電設備及び負荷装置の運転計画が不適切なものになる。本実施形態の運転支援装置では、これらの予測値の精度に起因して運転計画が不適切なものになることが防止される。
また、発電電力及び電力需要の予測値を用いるためには、多くのコストが発生する。例えば、太陽光発電の発電電力の予測のためには、日射量等を含む気象予報データが必要であり、気象予報データの提供は、有料のサービスである場合が多い。また、発電電力及び電力需要の予測のための計算資源及び通信設備の初期コスト及び維持コストが必要になる。本実施形態の運転支援装置では、これらのコストが発生しない。
【0109】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0110】
第2及び第3の実施形態では、判定部32A,32Bは、所与の時間間隔Δtごとに判定処理を実施してもよい。この場合において、余剰電力が発生することが予測される時刻が、現在時刻から、(負荷装置の運転の準備時間+Δt)の時間が経過した時以降である場合には、判定部32A,32Bは、開始判定をしなくてもよい。この場合には、余剰電力の発生が予測される時刻が現在時刻から遠い将来であることに起因して、予測の精度が低い可能性があるため、低精度な予測に基づく運転開始判定を防止できる。また、この時点での開始判定を見送った場合であっても、現在時刻から時間Δtが経過したあとに実施される次回の判定に基づいて開始判定を実施することにより、余剰電力の発生時までに負荷装置の運転準備を完了できる。
【0111】
また、本実施形態では、負荷装置の一例としてメタネーション装置22を例示したが、負荷装置はメタネーション装置22に限定されない。例えば、負荷装置は、水電解によって水素を製造する水素製造システムでもよい。一般に水電解は、温度が高いほど理論電解電圧が低くなるので高効率となる。高温水蒸気を水電解する水蒸気水電解など一部の水素製造システムは、運転準備に時間を必要とする。さらには、水素及びメタンに限らず、負荷装置は、樹脂及びプラスチックの原料となるオレフィン類(エチレン、プロピレン)の製造装置であってもよい。また、負荷装置は電気ボイラであってもよい。また、負荷装置は、スクラップ鉄を融解する電気炉であってもよいし、鉄鉱石から粗鉄を作る電解・電気精錬装置でもよい。さらに、負荷装置は、その他の化学プロセス装置や、圧延などの塑性加工装置、食品加工装置、蒸留装置、表面熱処理などの熱処理炉でもよい。これらの熱エネルギーを必要とする装置は、昇温及び昇圧等の運転準備時間を必要とする装置である場合が多い。蒸気等の配管でウォーターハンマーを発生させないように暖管が必要な場合は、その時間も準備時間に含めてもよい。負荷装置が、運転開始前にタンク内の有毒ガスを窒素や空気で置換するためのパージ作業が必要な装置である場合には、その作業のための時間も準備時間に含まれてもよい。負荷装置が、起動前に給水作業が必要な装置である場合には、その給水のための時間も準備時間に含まれてもよい。負荷装置が、保安上・法令上の理由から起動時に作業員が現場で監視する必要がある装置である場合には、作業員の移動時間が準備時間に含まれてもよい。装置の運転前に実施される始業点検(残圧の確認及びコック等の開閉操作確認、水漏れが発生していないことの目視点検並びに水位計の確認)及び記録といった作業も、準備時間に含まれることとしてもよい。装置の冷却及び降圧の時間も準備時間に含めてもよい。負荷装置のそのものではなく、補機、例えば負荷装置が製造する製品の貯蔵装置の運転準備にかかる時間も準備時間に含めてもよい。
【0112】
上記実施形態において、負荷装置の準備時間はユーザにより設定されることとしていたが、他の手段により設定されてもよい。例えば、準備時間は、運転準備の開始前の負荷装置の温度及び外気温等の情報を用いて、所望の温度に到達するまでの時間を数式、テーブル、関数及び事前に作成した統計モデル等によってEMSにより自動的に算出されてもよい。
【0113】
上記実施形態では、マイクログリッド2が一つの蓄電システム23及び蓄電池を含むこととしたが、蓄電システム23は複数であってもよい。この場合には、複数の蓄電システム23の全体を一つの蓄電池とみなしてSoCの総計が算出されてもよい。また、複数の蓄電システム23及び蓄電池にうちの故障中又は運転停止中の蓄電池を除外して、SoCの総計が算出されることとしてもよい。負荷装置及び蓄電システム23が同数存在する場合には、一つの蓄電システム23に対して一つの負荷装置が割り当てられてもよい。
【0114】
また、本実施形態では、図1に示されるように、一つのマイクログリッド2の中に、太陽光発電設備21(再生可能エネルギーによる発電施設)、蓄電システム23及びメタネーション装置22(負荷装置)の全てが存在したが、このような態様に限定されない。図16は、電力供給システムの別の例を示す概略図である。本実施形態の運転支援装置3,3A,3Bが適用されるシステムは、図16に示されるような、一般送配電事業者が所有する電力系統を介したバーチャルな接続を各設備が有する電力供給システム1Bであってもよい。即ち、図16に示されるような接続形態のデバイス群を仮想的なマイクログリッドとみなして、運転支援装置3,3A,3Bが適用されてもよい。電力供給システム1Bは、発電事業者Aが所有する太陽光発電システム21Bと、事業者Bが所有するプロセス装置22B(負荷装置の一例)と、事業者Cが所有する蓄電システム23Bとを含む。これらの太陽光発電システム21B、プロセス装置22B及び蓄電システム23Bは、電力系統9Bを介して接続されている。つまり、各システムを所有する事業者は異なっていてもよい。この場合における各事業者間の契約は、電力市場を介した取引であっても、相対取引であってもよい。
【0115】
再生可能エネルギーは太陽光発電に限定されない。太陽光発電の場合には、SoCの履歴情報及び実績情報等は、1日のうちの日の出以前(起点時刻)から日没後(終点時刻)までの時間の情報とすることができる。これに対して、風力発電である場合には、太陽光発電のように1日といった単位に限定されない。SoCの継続的な遷移を示す情報からなる実績情報に基づいて、例えば、起点時刻と終点時刻との間隔を所定時間(例えば5時間)とするような、起点時刻から終点時刻に至るまでのSoCの実績値群のセットに対して、判定時刻の所定時間前(例えば1時間前)を起点時刻とすることにより、判定時刻の所定時間後(4時間)以内に余剰電力の発生を予測することができる。このように、第2の実施形態に示される遷移パターンの例を、太陽光発電だけではなく、風力発電等にも適用できる。
【0116】
第2の実施形態におけるK近傍法では、履歴情報に示されるSoCの遷移と遷移パターンとの差分のユークリッド距離でそれらの類似度を定義したが、別の情報を用いて類似度を計算してもよい。各遷移パターンに、例えば、平日(稼働日)の実績値に基づくパターンである場合には1、休日及び祝日(非稼働日)の実績値に基づくパターンである場合には0とするフラグを関連付けておき、ユークリッド距離の算出において、遷移パターンのフラグと、判定対象の履歴情報の属性フラグ(判定時が平日であるか否かを示すフラグ)との差分を含めてもよい。また、ユークリッド距離の他に、例えばL1ノルムといった距離計算法が適用されてもよい。
【0117】
第2の実施形態では一例としてK近傍法が用いられることとしたが、他のアルゴリズムが用いられてもよい。例えば、線形分別分析、ロジスティック回帰、単純ベイズ分類器、決定木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシンといった別の統計的手法でもよい。
【0118】
第3の実施形態では、ARモデルを用いて予測を行ったが、予測に適用されるモデルは、ARモデルに限定されない。第2の実施形態で用いたK近傍法で近傍データを抽出し、近傍データ(判定時刻~終点時刻)の平均値及び中央値を使って将来の予測値を算出してもよい。さらに、MA(Moving Average)モデル、ARMA(Auto Regressive Moving Average)モデル、ARIMA(autoregressive integrated moving average)モデル、Holt-Wintersモデル、GBDT(Gradient Boosting Decision Tree)モデル、LSTM(Long short-term memory)モデル、GRU (gated recurrent unit)モデルといった別の数理モデル(機械学習モデル、深層学習モデル)が用いられてもよい。またAIC最小モデルを用いた推定・予測手法ではなく、別の手法、例えばカルマンフィルタを用いた推定・予測手法が用いられてもよい。
【0119】
なお、EMSを構成するコンピュータが設けられる場所は、マイクログリッド2内、マイクログリッド2の近傍に限定されず、遠隔であってもよいし、いわゆるクラウドであってもよい。
【0120】
本実施形態では、発電装置及びエネルギー貯蔵装置を含む一定範囲の電力網としてマイクログリッド2を想定しているが、その態様は例えば単一の工場・事業場等に限定されず、たとえば複数の工場を束ねた工場団地等であってもよい。
【0121】
なお、本実施形態では、負荷装置の運転準備のための運転動作を行っても、蓄電システムの貯蔵量に与える影響は軽微、すなわち、負荷装置の定格が蓄電池の容量に対して小さい場合を前提としている。しかし、負荷装置の運転準備が蓄電システムの貯蔵量に無視できないほどの影響を与える場合には、第2実施形態における、遷移パターンに関連付ける余剰電力発生または余剰電力非発生のラベルの与え方を工夫することができる。具体的には、判定時刻から終点時刻において、負荷装置の運転を行った場合と行っていない場合とで、余剰電力の発生を予測するための閾値を二つ設定する。即ち、負荷装置の運転を行っていない場合には、閾値をSoCの運用上限値に設定し、負荷装置の運転を行った場合には閾値をそれよりも低い値(例えばSoC運用上限値-10%)とする。このように設定することにより、負荷装置の運転そのものの影響を考慮して余剰電力の発生の有無を表すラベリングを実施できる。
【0122】
[付記]
本発明は、再生可能エネルギーの余剰電力を有効活用して生産設備を稼働させる技術に関する。そのため、本発明は、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の以下の目標に貢献するものである。
・目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」
・目標9「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」
【0123】
以下、本発明の要旨を示す。
[1]
負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置であって、
前記負荷装置は、
運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、
再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、前記発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、
前記運転支援装置は、
前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、前記負荷装置の運転準備の開始判定をする判定部、
を備える運転支援装置。
[2]
前記履歴情報は、現在以前の一時点である第1の時点の前記エネルギー貯蔵量を表す第1の値、及び、前記第1の時点より前の少なくとも一時点における前記エネルギー貯蔵量を表す第2の値を含む、
[1]に記載の運転支援装置。
[3]
前記判定部は、前記発電装置及び前記エネルギー貯蔵装置を少なくとも含む一定範囲の電力網において余剰電力が発生することが予測される所定状態に前記履歴情報が該当する場合に、前記開始判定をする、
[2]に記載の運転支援装置。
[4]
前記判定部は、前記エネルギー貯蔵装置のエネルギー貯蔵量が所与の第1の閾値を超えることが予測される所定状態に前記履歴情報が該当する場合に、前記開始判定をする、
[3]に記載の運転支援装置。
[5]
前記判定部は、
前記第1の時点における前記エネルギー貯蔵量が所与の第2の閾値以上である場合、又は、前記第1の時点における前記エネルギー貯蔵量が所与の第3の閾値以上であり且つ前記第1の時点から所与の時間を溯った時点である第2の時点と比べた前記第1の時点における前記エネルギー貯蔵量の増加が所定の程度以上である場合に、前記開始判定をする、
[4]に記載の運転支援装置。
[6]
前記判定部は、前記第1の時点から所与の時間を溯った時点である第2の時点から前記第1の時点までの時間における前記エネルギー貯蔵量の遷移が、前記エネルギー貯蔵量が前記第1の閾値を超えるエネルギー貯蔵量の遷移パターンとして予め設定された少なくとも一つの余剰電力発生パターンに該当する場合に、前記開始判定をする、
[4]に記載の運転支援装置。
[7]
前記判定部は、前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の遷移に関する実績情報に基づいて構築された所定の予測モデルを用いて、前記履歴情報に基づいて、現在時刻以後における前記エネルギー貯蔵量の予測値を時系列に算出し、現在時刻以後の所与の予測対象期間内における前記予測値が、前記第1の閾値を超える場合に、前記開始判定をする、
[4]に記載の運転支援装置。
[8]
前記判定部は、前記負荷装置の運転が開始されていないときに判定を実施する、
[1]~[7]のいずれか一項に記載の運転支援装置。
[9]
前記開始判定を示す情報を所定の態様で出力する出力部、を更に備える、
[1]~[8]に記載の運転支援装置。
[10]
前記出力部は、前記開始判定を示す情報を、前記負荷装置に運転準備を開始させるための運転準備開始情報として前記負荷装置に送信する、
[9]に記載の運転支援装置。
[11]
前記出力部は、人による認識が可能な表示及び音のうちの少なくとも一つの態様により、前記開始判定を示す情報を出力する、
[9]に記載の運転支援装置。
[12]
負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置における運転支援方法であって、
前記負荷装置は、
運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、
再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、前記発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、
前記運転支援方法は、
前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、前記負荷装置の運転準備の開始判定をする判定ステップ、
を有する運転支援プログラム。
[13]
コンピュータを、負荷装置の運転準備の開始判定をする運転支援装置として機能させるための運転支援プログラムであって、
前記負荷装置は、
運転準備の開始時から運転開始時までに準備時間を要する装置であり、
再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力、及び、前記発電装置による発電電力を充電可能なエネルギー貯蔵装置の放電電力の少なくともいずれか一方を運転時に消費可能であり、
前記運転支援プログラムは、
前記エネルギー貯蔵装置におけるエネルギー貯蔵量の履歴を表す履歴情報が所定状態に該当する場合に、前記負荷装置の運転準備の開始判定をする判定機能、
を実現させる運転支援プログラム。
【符号の説明】
【0124】
1 電力供給システム
2 マイクログリッド
3 エネルギーマネジメントシステム(EMS)
21 太陽光発電設備
21a 太陽光パネル
22 メタネーション装置
23 蓄電システム
24 接続部
25 受電電力測定部
26 送電電力測定部
31 取得部
32,32A,32B 判定部
33 出力部
41 履歴情報DB
42 判定パターンDB
43 自己回帰モデル記憶部
90 電力系統
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