(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127026
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】金属水素化物、並びにこれを含むヒドリドイオン伝導体及び電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240912BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240912BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240912BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240912BHJP
C01B 6/24 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/058
H01M4/38 Z
H01M4/46
H01M4/40
H01M4/58
C01B6/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035854
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】菅野 了次
(72)【発明者】
【氏名】松井 直喜
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昂史
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA01
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK11
5H029AL01
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM11
5H029DJ17
5H029HJ02
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA17
5H050CB01
5H050CB11
5H050FA19
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】新規な金属水素化物、並びにこれを含むヒドリドイオン伝導体及び電池を提供すること。
【解決手段】条件1及び条件2を満たす金属水素化合物。
条件1:組成式が式(1)、(2)または(3)の金属水素化物。
M1
xM2
(1-x)Hx+1 ・・・(1)
M1は第2族元素の2種以上で、M2は第1族元素の1種または2種以上で、0<x<1
M1a’
x’M1b’
(1-x’)H2・・・(2)
M1a’及びM1b’はそれぞれCa、Sr、Ba及びRaの1種であり、M1a’とM1b’とは異なり、0<x’<1
または
BayM2
(1-y)H(y+1) ・・・(3)
M2は、式(1)のM2と同義で、0<y<1
条件2:M1及びM2、M1a’及びM1b’またはBa及びM2により形成された結晶構造が空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造または空間群Im-3mの少なくとも一つを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件1及び条件2を満たす金属水素化合物。
条件1:組成式が下記式(1)、式(2)または式(3)で表される金属水素化物。
組成式 M1
xM2
(1-x)Hx+1 ・・・(1)
ここで、M1は第2族元素から選ばれる2種以上の金属元素であり、M2は第1族元素から選ばれる1種または2種以上の金属元素であり、0<x<1である。
組成式 M1a’
x’M1b’
(1-x’)H2 ・・・(2)
ここで、M1a’及びM1b’はそれぞれカルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムから選ばれる1種であり、M1a’とM1b’とは異なり、0<x’<1である。
または
組成式 BayM2
(1-y)H(y+1) ・・・(3)
ここで、M2は、式(1)におけるM2と同義であり、0<y<1である。
条件2:前記M1及び前記M2で表される金属原子、M1a’及びM1b’で表される金属原子またはBa及びM2により形成された結晶構造が空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造または空間群Im-3mの少なくとも一つを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造を有する。
【請求項2】
前記M1は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれる2種以上の金属元素である、請求項1に記載の金属水素化物。
【請求項3】
前記M1が2種の金属元素がM1a及びM1bからなり、前記組成式での原子数比(M1a/M1b)が1/9以上、9/1以下である、請求項1に記載の金属水素化物。
【請求項4】
前記M2は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選ばれる1種である、請求項1に記載の金属水素化物。
【請求項5】
前記M1a及び前記M1bは、カルシウム、バリウムであり、前記M2は、ナトリウムまたはカリウムである、請求項3に記載の金属水素化物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属水素化物を含む、ヒドリドイオン伝導体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属水素化物を含む、電池。
【請求項8】
前記電池がヒドリド電池である、請求項7に記載の電池。
【請求項9】
前記電池が二次電池である、請求項8に記載の電池。
【請求項10】
互いに対向して位置する正極層及び負極層と、固体電解質層を備え、
前記正極層は、正極活物質を含み、
前記負極層は、負極活物質を含み、
前記固体電解質層は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、
前記正極層と前記負極層は、前記固体電解質層を介し、ヒドリドイオンを交換する構造を有する請求項9に記載の電池。
【請求項11】
互いに対向して位置する正極層及び負極層と、固体電解質層を備え、
前記正極層は、正極活物質を含み、
前記負極層は、負極活物質を含み、
前記固体電解質層は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、
放電のときは前記正極層から前記固体電解質層を介し前記負極層にヒドリドイオンが移動し、
充電のときは前記負極層から前記固体電解質層を介し前記正極層にヒドリドイオンが移動する構造を有する
請求項9に記載の電池。
【請求項12】
前記正極活物質は、
正極活物質として、Be、B、Mg、Al、Mo、V、Cr、Mn、Re、Cu、Fe、Co及びNiからなる群から選択される金属単体、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物、または同群から選択される金属元素、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金もしくは同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属間化合物の金属水素化物の少なくとも一つを含み、
前記負極活物質は、
負極活物質として、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Ti、Zr、Hfからなる群から選択される金属元素またはその炭化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物、または、同群から選択される金属元素またはその炭化物、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金もしくは同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属間化合物の金属水素化物の少なくとも一つを含む、請求項11に記載の電池。
【請求項13】
前記正極活物質または前記負極活物質に含まれる金属水素化物は、前記電解質層に含まれない、請求項12に記載の電池。
【請求項14】
前記正極活物質は、
Mg,Mo,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Be,B,Al,MoH、VH、CrH、MnH、FeH、CoH、NiH、CuH、BeH2、MgH2、AlH3、LiAlH4、NaAlH4、Li3AlH6、Na3AlH6、LiBH4、NaBH4、Mg2CuH6、Mg3CuH7、Mg2CuH5、CaMnH9、SrMnH9、BaMnH9、CaReH9、SrReH9、BaReH9、K2MnH9、Rb2MnH9、Cs2MnH9の少なくとも一つであり、
前記負極活物質は、
Li,Na,Sc,Y,La,Ce,Ti,Zr,Hf,Mg,Ca,Sr,Ba,LiH,NaH,ScH3,ScH2,YH3,YH2,LaH3,LaH2,CeH3,CeH2,TiH2,ZrH2,HfH2,CaH2,SrH2,BaH2,LiBH4,NaBH4,Ti2C,Y2C,V2C,Ti2CH2,Ti2CH2,V2CH2の少なくとも一つである、請求項12に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属水素化物、並びにこれを含むヒドリドイオン伝導体及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体内を水素が拡散するイオン伝導体は、燃料電池を始めとした水素エネルギーデバイスの固体電解質として利用されている。一般的には正電荷のプロトン(H+)が電荷輸送を担うことが知られているが、近年、H-も可動イオンになることが明らかとなり、水素の新たな電荷担体として注目を集めている。
【0003】
H-は、ヒドリドイオンと呼ばれ、水素原子が電子を一つ受け取り、アニオンとなった状態のものであり、イオンヘリウムと同じ電子配置をとり1s軌道内を2つの電子が占有している。そして、H-は、一価、適度なイオン半径、大きな分極率といった高速イオン伝導に適した特徴をもつだけでなく、卑な酸化還元電位(-2.25 V vs.SHE)に基づく強力な還元力を有している。このため、H-のイオン伝導現象を電気化学デバイスに応用することができれば、蓄電においては高エネルギー密度化が、発電や物質変換においては高い反応性をもたらすことが期待でき、応用の観点からH-は魅力的な電荷担体といえる。
【0004】
ただし、物質開発は発展途上の段階にあり、H-を活用した新たな電気化学デバイスを創出するためにはH-伝導体の高性能化が必要不可欠である。これまでに公知となったヒドリド伝導体として、例えば、Sr1-xNaxH2-x及びCa1-xNaxH2-x(非特許文献1)、BaH2(非特許文献2)、Ba1.75LiH2.7O0.9(非特許文献3)、La2-ySryLiH1+yO3-y(x=0,y=0、1及び2)並びにLa2-xSrxLiH1-xO3(y=0、0≦x≦0.2)及びLa1-xSr1+xLiH2-xO2(y=1、0≦x≦0.4)(非特許文献4)が挙げられる。
非特許文献1には、Sr1-xNaxH2-xに比較し、伝導性が優れるSr1-xNaxH2-xでさえも、230℃付近で、バルクの伝導率8×10-5S/cm程度である点が記載されている。非特許文献3には、Ba1.75LiH2.7O0.9が300℃以上で急激にヒドリド導電性が向上するものの、230℃付近以下の温度では10-6Scm-1以下である点が記載されている。非特許文献4には、固体電解質が、電池として実用的なイオン伝導性(ヒドリドイオン伝導性)を得るために、比較的高温(300℃以上)にすることが必要であった点が記載されている。さらに、エネルギーデバイスとしては、高いイオン伝導性に加えて、広い電位窓を持ち、実用的な充放電可能である物質が望まれる。
【0005】
本発明者らは、先に、ペロブスカイト型水素化物に着目し、AELiH3ヒドリドイオン伝導体(ここで、AEはアルカリ土類金属)のヒドリドイオン伝導性について評価した。さらに、ヒドリドイオン伝導性を向上するために、ペロブスカイトのAサイトを異種金属イオンであるNa+で置換することにより、ヒドリドイオン空孔導入すること、及び、Sr0.925Na0.075LiH2.925(空間群Pm-3m)は、室温において、5.0×10-6Scm-1のヒドリドイオン伝導性を有することを報告した。(非特許文献5)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Maarten C. Verbraeken, et al., Journal of Materials Chemistry, 19,2766-2770 (2009)
【非特許文献2】Maarten C. Verbraeken, et al., Nature Materials, 14, 95-100 (2015)
【非特許文献3】Fumitaka Takeiri, et al., Nature Materials, 21, 325-330 (2022)
【非特許文献4】Genki Kobayashi, et al., Science, 351, 1314-1317 (2016)
【非特許文献5】T. Hirose, et al., ACS Applied Energy Materials, 5, 2968-2974 (2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
物質開発は発展途上の段階にあり、ヒドリドイオン(H-)を活用した新たな電気化学デバイスを創出するために、優れたH-伝導性と電気化学的安定性を有する金属水素化物が必要とされている。
【0008】
本発明は、新規な金属水素化物、並びにこれを含むヒドリドイオン伝導体及び電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の発明を提供する。
[1]
下記条件1及び条件2を満たす金属水素化合物。
条件1:組成式が下記式(1)、式(2)または式(3)で表される金属水素化物。
組成式 M1
xM2
(1-x)Hx+1 ・・・(1)
ここで、M1は第2族元素から選ばれる2種以上の金属元素であり、M2は第1族元素から選ばれる1種または2種以上の金属元素であり、0<x<1である。
組成式 M1a’
x’M1b’
(1-x’)H2 ・・・(2)
ここで、M1a’及びM1b’はそれぞれカルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムから選ばれる1種であり、M1a’とM1b’とは異なり、0<x’<1である。
または
組成式 BayM2
(1-y)H(y+1) ・・・(3)
ここで、M2は、式(1)におけるM2と同義であり、0<y<1である。
条件2:前記M1及び前記M2で表される金属原子、M1a’及びM1b’で表される金属原子またはBa及びM2により形成された結晶構造が空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造または空間群Im-3mの少なくとも一つを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造を有する。
[2]
前記M1は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれる2種以上の金属元素である、
[1]に記載の金属水素化物。
[3]
前記M1が2種の金属元素がM1a及びM1bからなり、前記組成式での原子数比(M1a/M1b)が1/9以上、9/1以下である、[1]または[2]に記載の金属水素化物。
[4]
前記M2は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選ばれる1種である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の金属水素化物。
[5]
前記M1a及び前記M1bは、カルシウム、バリウムであり、前記M2は、ナトリウムまたはカリウムである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の金属水素化物。
[6]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の金属水素化物を含む、ヒドリドイオン伝導体。
[7]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の金属水素化物を含む、電池。
[8]
前記電池がヒドリド電池である、[7]に記載の電池。
[9]
前記電池が二次電池である、[7]または[8]に記載の電池。
[10]
互いに対向して位置する正極層及び負極層と、固体電解質層を備え、
前記正極層は、正極活物質を含み、
前記負極層は、負極活物質を含み、
前記固体電解質層は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、
前記正極層と前記負極層は、前記固体電解質層を介し、ヒドリドイオンを交換する構造を有する、[7]~[9]のいずれか1項に記載の電池。
[11]
互いに対向して位置する正極層及び負極層と、固体電解質層を備え、
前記正極層は、正極活物質を含み、
前記負極層は、負極活物質を含み、
前記固体電解質層は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、
放電のときは前記正極層から前記固体電解質層を介し前記負極層にヒドリドイオンが移動し、
充電のときは前記負極層から前記固体電解質層を介し前記正極層にヒドリドイオンが移動する構造を有する、[7]~[10]のいずれか1項に記載の電池。
[12]
前記正極活物質は、
正極活物質として、Be、B、Mg、Al、Mo、V、Cr、Mn、Re、Cu、Fe、Co及びNiからなる群から選択される金属単体、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物、または同群から選択される金属元素、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金もしくは同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属間化合物の金属水素化物の少なくとも一つを含み、
前記負極活物質は、
負極活物質として、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Ti、Zr、Hfからなる群から選択される金属元素またはその炭化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物、または、同群から選択される金属元素またはその炭化物、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金もしくは同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属間化合物の金属水素化物の少なくとも一つを含む、、[10]または[11]に記載の電池。
[13]
前記正極活物質または前記負極活物質に含まれる金属水素化物は、前記電解質層に含まれない、[10]~[12]のいずれか1項に記載の電池。
[14]
前記正極活物質は、
Mg,Mo,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Be,B,Al,MoH、VH、CrH、MnH、FeH、CoH、NiH、CuH、BeH2、MgH2、AlH3、LiAlH4、NaAlH4、Li3AlH6、Na3AlH6、LiBH4、NaBH4、Mg2CuH6、Mg3CuH7、Mg2CuH5、CaMnH9、SrMnH9、BaMnH9、CaReH9、SrReH9、BaReH9、K2MnH9、Rb2MnH9、Cs2MnH9の少なくとも一つであり、
前記負極活物質は、
Li,Na,Sc,Y,La,Ce,Ti,Zr,Hf,Mg,Ca,Sr,Ba,LiH,NaH,ScH3,ScH2,YH3,YH2,LaH3,LaH2,CeH3,CeH2,TiH2,ZrH2,HfH2,CaH2,SrH2,BaH2,LiBH4,NaBH4,Ti2C,Y2C,V2C,Ti2CH2,Ti2CH2,V2CH2の少なくとも一つである、[10]~[13]のいずれか1項に記載の電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、これまでに知られているヒドリドイオン伝導体と比較して、異なる組成を有し、優れたヒドリドイオン伝導性及び/または電気化学的安定性を有する金属水素化物を提供し得る。その金属水素化物を含む固体電解質材料及び電池も提供し得る。なお、そのような金属水素化物は、電池のような電気化学デバイスにおけるヒドリドイオン伝導体に限られず、触媒等にも用いることができる。
【0011】
典型的には、優れたヒドリドイオン伝導性及び/または電気化学的安定として、室温域(25±40℃)で、ヒドリドイオン伝導性σに関する指標(logσ/Scm-1)がおおよそ-5以上であり、かつ固体ヒドリドイオン電池(Ti/TiH2電極)の固体電解質として用いたときに、繰り返して充放電可能である金属水素化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】BaH
2-CaH
2-NaHの三元系組成図において、各点の結晶構造を示す図である。
【
図2】BaH
2-CaH
2-NaHの三元系組成図において、各点のヒドリド伝導特性を示す図である。
【
図3】Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85のアレニウスプロットを示す図である。
【
図4】CaH
2、及びCa
1-xNa
xH
2-xのアレニウスプロットを示す図である。
【
図5】BaH
2、従来のヒドリドイオン伝導体のアレニウスプロットを示す図である。
【
図6】従来のヒドリドイオン伝導体のアレニウスプロットを示す図である。
【
図7】従来のヒドリドイオン伝導体のアレニウスプロットを示す図である。
【
図8】本発明の一実施態様の金属水素化物のリニアスイープボルタンメトリーを示す図である。
【
図9】本発明の一実施態様の金属水素化物を用いたセルでの、充放電試験の結果を示す図である。
【
図10】本発明の一実施態様の金属水素化物を用いたセルでの、充放電試験の結果を示す図である。
【
図11】従来のヒドリド(H
-)伝導体(固体電解質)を用いた固体ヒドリドイオン電池の放電特性を示す図である。
【
図12】全固体電池及び金属-水素ヒドリド電池の概略を示す図である。
【
図13】全固体電池と金属-水素ヒドリド電池の活物質ごとの比エネルギーEm、AM)とエネルギー密度Ev、AM)をまとめた図である。
【
図14】Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85のリートベルト解析から求めた結晶構造を示す図である。
【
図15】本発明の一実施態様の金属水素化物のX線回折測定結果を示す図である。
【
図16】見込み電極材料の反応電位の計算結果を示す図である。
【
図17】見込み電極材料の比エネルギー(重量エネルギー密度)と反応電位との関係を示す図である。
【
図18】見込み電極材料のエネルギー密度(体積エネルギー密度)と反応電位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、下記の用語の意味は次のとおりである。
「ヒドリド電池」なる用語は、ヒドリドイオンが正極と負極の間を移動し、放電反応が進行する電池の総称を意味する。したがって、「ヒドリド電池」なる用語は、一次電池及び二次電池を含む用語である。
「ヒドリド二次電池」なる用語は、ヒドリドイオンが正極と負極の間を移動し、充電及び放電反応が進行するヒドリド電池の総称を意味する。
「固体ヒドリド電池」なる用語は、正極と負極の間にあるヒドリドイオンを伝導するための電解質が固体電解質であるヒドリド電池を意味する。
「全固体ヒドリド電池」なる用語は、正極活物質、負極活物質、電子伝導助剤、イオン伝導助剤及び正極と負極の間にあるヒドリドイオンを伝導するための電解質その他の電池の内部構造を構成する成分が全て固体である固体ヒドリド電池を意味する。
「アルカリ土類金属」なる用語は、第2族元素の元素、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムを意味する。
【0014】
[金属水素化物]
(組成)
本発明の一実施態様である、金属水素化物は、下記式(1)で表される金属水素化物を含む。組成式M1
xM2
(1-x)Hx+1 ・・・(1)
ここで、M1は第2族元素から選ばれる2種以上の金属元素であり、M2は第1族元素から選ばれる1種または2種以上の金属元素であり、0<x<1である。
【0015】
M1は、第2族元素から選ばれる金属元素であるので、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれてもよい。
例えば、M1は、マグネシウム及びカルシウムの2種、マグネシウム及びストロンチウムの2種、マグネシウム及びバリウムの2種、マグネシウム及びラジウムの2種、カルシウム及びストロンチウムの2種、カルシウム及びバリウムの2種、カルシウム及びラジウムの2種、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの3種、カルシウム、バリウム及びラジウムの3種、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムの4種、ストロンチウム及びバリウムの2種、ストロンチウム及びラジウムの2種、ストロンチウム、バリウム及びラジウムの3種並びにバリウム及びラジウムの2種を表す。
M1は、好ましくは、カルシウム及びストロンチウムの2種、カルシウム及びバリウムの2種、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの3種であり、より好ましくは、カルシウム及びバリウムの2種、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの3種、ストロンチウム及びバリウムの2種であり、さらに好ましくは、カルシウム及びバリウムの2種、ストロンチウム及びバリウムの2種であり、もっとも好ましくは、カルシウム及びバリウムの2種である。
M1は、2種以上の金属元素であるので、2種の金属元素をM1a及びM1bと称してもよい。
【0016】
また、M2は、第1族元素から選ばれる金属元素であるので、リチウム、ナトリウム及び、カリウム、ルビジウム及び、セシウムからなる群から選ばれてもよい。
例えば、M2は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、リチウム及びナトリウムから選ばれる1種、リチウム及びカリウムの2種、リチウム、ナトリウム及びカリウムの3種、ナトリウム及びカリウムの2種を表す。
M2は、好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウムなる群から選ばれる1種、またはナトリウム及びカリウムの2種であり、より好ましくはナトリウムもしくはカリウムのいずれか1種またはナトリウム及びカリウムの2種であり、さらに好ましくはナトリウムまたはカリウムであり、もっとも好ましくはナトリウムである。
【0017】
xは、0を超え、1未満である。好ましくは、0.5以上0.98以下であり、より好ましくは0.75以上0.96以下であり、さらに好ましくは0.81以上0.93以下であり、もっとも好ましくは0.82以上0.9以下である。
xが0を超え1未満であると、ヒドリドイオン伝導性が向上することから好ましい。
本発明を限定するものではないが、0.98以下であると、結晶構造がヒドリドイオン伝導に適した逆AgI型構造となる、もしくは塩化鉛型構造にヒドリド空孔が導入され、両構造に共通してxが0.75以上でヒドリドイオン伝導に適した単位格子内の水素量が存在し、xが0.9以下であると高いヒドリド伝導性を維持可能であるから好ましい。
【0018】
式(1)で表される金属水素化物は、式(1B)で表される金属水素化物を含む。
M1a
x1M1b
x2M2
{1-(x1+x2)}H(x1+x2+1) ・・・(1B)
(ここで、M1aとM1bは異なり、M1a及びM1bは、それぞれ、第2族元素から選ばれる1種の金属元素でありM2は第1族元素から選ばれる1種または2種以上の金属元素を表し、0<x1<1、0<x2<1、0<x1+x2<1である。)
【0019】
M1aは、好ましくはバリウムまたはストロンチウムであり、より好ましくはバリウムである。
M1aがバリウムであると、ヒドリド伝導性がより向上する。
M1bは、好ましくはカルシウムまたはストロンチウムであり、より好ましくはカルシウムである。
M1bがカルシウムであると、ヒドリド伝導性がより向上する。
【0020】
x1は0を超え、1未満である。x1は、高いほど、イオン伝導率が向上するため、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.4以上である。一方で、x1は、高すぎると、相対的にx2が低くなり、イオン伝導率が低下することがあるため、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.6以下である。
【0021】
x2は0を超え、1未満である。x2は高いほど、イオン伝導率が向上するため、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.4以上である。一方で、x2は、高すぎると、相対的にx1が低くなり、イオン伝導率が低下することがあるため、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.6以下である。
【0022】
M1は、第2族元素から選ばれる2種類の金属元素であり、それぞれM1a及びM1bとしたときに、前記組成式での原子数比(M1a/M1b)が1/9以上、9/1以下であってもよい。
【0023】
本発明を限定的に解釈するものではないが、前記組成式(1B)は、2種のM1水素化物と、1種のM2水素化物との擬三元系組成式と捉えることもできる。(2種のM2水素化物を用いる場合は、当該2種のM2水素化物の混合物を三元系の一つと捉えることもできる。)
【0024】
典型的な例で説明すると、
図1に示すような、BaH
2とCaH
2とNaHとの三元系組成物の金属水素化物と捉えることができる。BaH
2とCaH
2はヒドリドイオン伝導体であり、NaHは組成物中の金属あたりの水素量を変化させるために用いることができる。
【0025】
本発明の一実施態様である、金属水素化物は、下記式(2)で表される金属水素化物を含む。
組成式 M1a’
x’M1b’
(1-x’)H2 ・・・(2)
ここで、M1a’及びM1b’はそれぞれカルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムから選ばれる1種であり、M1a’とM1b’とは異なり、0<x’<1である。
【0026】
M1a’としては、バリウム及びストロンチウムからなる群から選択される1種を好ましく用いることができ、より好ましくはバリウムである。
M1b’としては、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される1種を好ましく用いることができ、M1a’とは異なり、より好ましくはカルシウムである。
【0027】
M1a’とM1b’との組み合わせは、バリウムとカルシウムとの組み合わせ、バリウムとストロンチウムとの組み合わせ及びストロンチウムとカルシウムとの組み合わせが好ましく、バリウムとカルシウムとの組み合わせ及びバリウムとストロンチウムとの組み合わせがより好ましく、バリウムとカルシウムとの組み合わせがさらに好ましい。
特に、M1a’がバリウムのとき、M1b’はカルシウムである組み合わせが最も好ましい。
【0028】
x’としては、0を超え1未満であり、好ましくは0.2以上0.8以下であり、より好ましくは0.4以上0.6以下であり、さらに好ましくは0.44以上0.56以下である。
x’が0を超え1未満であると、ヒドリドイオン伝導性に優れる。
【0029】
本発明の一実施態様である、金属水素化物は、下記式(3)で表される金属水素化物を含む。
組成式 BayM2
(1-y)H(y+1) ・・・(3)
ここで、M2は、式(1)におけるM2と同義であり、0<y<1である。
【0030】
yは、0を超え、1未満であり、好ましくは、0.6以上0.99以下であり、より好ましくは0.7以上0.98以下であり、さらに好ましくは0.8以上0.95以下である。
yが0を超え1未満であると、ヒドリドイオン伝導性に優れる。
【0031】
M2は、好ましくは、ナトリウムもしくはカリウムの1種、またはナトリウム及びカリウムの組み合わせであり、より好ましくはカリウムの1種またはナトリウム及びカリウムの組み合わせであり、さらに好ましくはカリウムの1種である。
【0032】
(結晶構造)
本発明の一実施態様である、金属水素化物は、式(1)における前記M1(第2族元素から選ばれる金属元素)及び前記M2(第1族元素から選ばれる金属元素)により形成された結晶構造、式(2)におけるM1a’及びM1b’により形成された形成された結晶構造、または式(3)におけるBa及びM2より形成された結晶構造が、空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造、または空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造の少なくとも一つを有する。
【0033】
本発明の金属水素化物の結晶構造は、例えば、粉末X線解析装置を用いて特定することができる。X線回折測定に加えて、中性子線回折測定が行われてもよい。また、結晶構造解析は、例えば、リートベルト法に基づき実施することが好ましい。公知の手法によりX線回折パターンまたは中性子回折パターンを観察することで、金属水素化物が有する空間群を特定することが可能である。
【0034】
特定の理論に拘束されることは望まないが、本発明の一実施態様である金属水素化物は、式(1)の組成式で表される場合、2種のM1水素化物と、1種または2種のM2水素化物との擬三または疑四元系組成物と捉えることができ、金属水素化物が式(2)の組成式で表される場合、M1a’ 水素化物及びM1b’ 水素化物の擬二元系組成物と捉えることができ、また金属水素化物が式(3)の組成式で表される場合、Ba水素化物及びM2水素化物の擬二元系組成物と捉えることができ、原料となる金属水素化物の固溶体であってもよい。そのため、本発明の一実施態様である金属水素化物は、原料となる金属水素化物の結晶構造に由来する(または実質的に同じ)結晶構造を有してもよい。一方で、三元系組成物または二元系組成物の固溶体となるときに、結晶構造の変化が生じて、原料となる金属水素化物の結晶構造と異なる結晶構造を有してもよい。
【0035】
典型的な例で説明すると、本発明の一実施態様である金属水素化物は、M1水素化物(例えばBaH2とCaH2)のように、空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造を有するか、または、M1水素化物とは異なる、空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造の少なくとも一つを有する。
【0036】
結晶構造は、
図1及び
図2に示されるように、ヒドリドイオン伝導性または電気化学安定性の少なくとも一方と相関があると考えられる。
図1は、BaH
2とCaH
2とNaHとの三元系組成図であり、各組成での結晶構造を示している。(○が空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造であり、△が空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造である。)一方で、
図2は、BaH
2とCaH
2とNaHとの三元系組成図であり、各組成でのヒドリドイオン伝導性を示している。
【0037】
ヒドリドイオン伝導性を高める観点から、空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造であることが好ましい。結晶構造における水素の拡散能力を密度汎関数理論-分子動力学(DFT-MD)シミュレーションによって計算したところ、水素の確率密度は、金属イオンの空間群Im-3m(体心立方格子)の自由空間を透過し、3次元伝導を生じることを発明者らは確認している。
【0038】
空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造、または良好なヒドリドイオン伝導性を得るために、
図1に示すような前記三元組成系でのアニオン/カチオン比(n)が1.625<n<2であってもよい。BaH
2-CaH
2-NaH系では、イオン伝導性が非常に高く、概ね10
-5(logσ@50℃/Scm
-1)である。
図2において、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85の組成が最大のイオン伝導性を有することが確認できる。
【0039】
本発明の実施態様による金属水素化物は、従来のヒドリドイオン伝導体に比べて、極めて優れたヒドリドイオン伝導性を有することができ、特に、室温域(25±40℃)で、伝導性σに関する指標(logσ/Scm-1)が少なくとも-4.75以上になることがあり、おおよそ-5以上とすることができる。
【0040】
ここで、本明細書中における、バルク(bulk)とトータル(total)の伝導性について説明しておく。固体電解質は、粒子を成形して用いることから、粒子内部の伝導性と粒子界面の伝導性が異なる。このため、粒子内部の伝導性に限定した場合には、バルクとして、粒子内部と粒子界面とを合わせた伝導性にした場合には、トータルとして区別する。
【0041】
また、本発明の実施態様による金属水素化物は、電気化学的安定性が向上する。電気化学的安定性の向上は、電位窓の存在等で確認することができる。例えば、従来のヒドリドイオン導電体では、実用的な電位窓を確認できなかった。
【0042】
(製造方法)
本発明の一実施態様である、金属水素化物は、固相反応または液相反応によって製造することができる。固相反応では、例えば、加熱反応またはメカノケミカル反応を用い、製造することができる。加熱反応及びメカノケミカル反応を併用してもよい。
メカノケミカル反応としては、例えば、ボールミル及びビーズミル(小径ボールミル)を用いた製造方法を挙げることができる。
遊星ボールミルを用いた製造例を用いて説明する。原材料は、所望する本発明の金属水素化物に含まれる各金属の水素化物を、所望する本発明の金属水素化物の組成比で混合する。
原材料に用いる各金属の水素化物は、所望する本発明の金属水素化物を構成する各金属元素の水素化物を用いてもよく、本発明の金属水素化物を構成する金属元素を2種以上の含む金属水素化物を用いてもよい。
【0043】
原料化合物として、第2族の金属水素化物では、例えば、1種の金属元素を含む水素化物として、BeH2、MgH2、CaH2、SrH2、BaH2またはRaH2が挙げられる。
また、第2族を2種以上含む水素化物として、例えば、Ba0.5Ca0.5H2、Ba0.6Ca0.4H2、Sr0.5Ca0.5H2等を用いてもよい。
同様に、第1族の金属水素化物では、例えば、1種の金属元素を含む水素化物として、LiH,NaH,KH,RbH,CsHまたはFrHが挙げられる。
さらに、第1族金属を1種または2種以上含み、かつ第2族金属を1種または2種以上含む水素化物を用いてもよい。例えば、BaNaH3、BaKH3などが挙げられる。
これらの原料化合物の仕込み比は、目的とする組成比に応じて調整されるが、たとえば、Liと混合容器の構成金属材料(例えばボールミルに含まれることのあるZr等)との合金化による組成ずれの回避、合成時の水素分圧の制御等のために、随時微調整され得る。
【0044】
所望する本発明の金属水素化物の組成比を有する原料混合物は、ボールの入った容器内で反応させる。容器を回転等させ、ボールに運動エネルギーを与え、ボールと混合物との衝突によって、反応させる。
ボール及び容器の材質は、原材料及び本発明の金属水素化物と反応しなければ、特に限定されない。ボール及び容器の材質は、例えば、金属、金属酸化物及び高分子を挙げることができる。ボール及び容器の材質としては化学的安定性が優れ、硬く運動エネルギーを反応物に伝えやすいジルコニア製が好ましく、用いることができる。
【0045】
反応雰囲気は、金属水素化物が水(水分)と反応することから、乾燥ガスの雰囲気下で行うことが必要である。乾燥ガスは、不活性ガス(アルゴン、窒素等)、水素またはそれらの混合ガスであることが好しく、アルゴン雰囲気であることが、より好ましい。副反応による不純物の生成を抑制できるためである。
【0046】
メカノケミカル反応における反応温度も特に限定されないが、10℃以上100℃以下が好ましい。
メカノケミカル反応では、運動エネルギーを用いた反応のため、例えば、遊星ボールミルではボールの運動エネルギーに影響するボールの質量、大きさ、混合物の容器に占める割合、回転数、回転半径等によって反応時間は大きく異なる。このため、メカノケミカル反応では、反応条件により、好適な反応時間を適宜選択する必要がある。
【0047】
加熱反応では、メカノケミカル反応に用いる原料混合物と同様の混合物を用いることができる。
原料混合物は、加熱反応前に原料混合物の各成分が均一に混合された状態で加熱されることが好ましい。
混合方法としては、各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、ニーダー、2軸ニーダー、気流粉砕機等を用いて混合することができる。
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
原料混合物は、粉体の混合物をそのまま用いてよく、粉体混合物を圧縮成形し、加熱反応に用いてもよい。
加熱反応では、通常100~1000℃で行われてもよい。好適には100~300℃である。加圧する場合、圧力は、例えば、1Pa以上10GPa以下であってもよい。好適には300MPa以上900MPa以下の加圧であってもよい。加圧下での加熱に際して、反応器は、特に制限されないが、Au、Ptまたは岩塩カプセル内に所定仕込み比で原料化合物を封入して高圧反応を行うのが好適である。反応時間は、反応条件に依存するが、通常、30分~24時間程度から選ばれる。
加熱反応においても、メカノケミカル反応と同様に乾燥ガス雰囲気下で行う必要がある。
乾燥ガスとしては、不活性ガス(アルゴン、窒素等)、水素及びそれらの混合ガスが好ましく使用でき、より好ましくは水素ガスである。
【0048】
また、本発明の一実施態様による金属水素化物は、固相反応に用いられる、通常の電気炉内で100~1100℃程度の温度で製造され得、その焼成は、水素気流中ないし不活性ガス(例えばアルゴンや窒素)気流中で低圧ないし常圧下で、1~24時間程度で行われるのが好適である。
【0049】
本発明の一実施態様による金属水素化物の製造には、メカノケミカル反応と加熱反応を併用してもよい。メカノケミカル反応させた後、加熱反応を行ってもよく、加熱反応をさせた後、メカノケミカル反応を行ってよい。
【0050】
(用途)
上記のとおり、本発明の実施態様による金属水素化物は、優れたヒドリドイオン伝導性及び電気化学的安定性を、特に室温域でも、有することができる。その特性を利用して、本発明の一実施態様の金属水素化物を含む、ヒドリドイオン伝導体、固体電解質材料、または電池等に用いることができる。電池は、ヒドリドイオン電池であってもよく、二次電池であってもよい。本発明の一実施態様の金属水素化物は、電池のような電気化学デバイスにおけるヒドリドイオン伝導体に限られず、触媒等にも用いることができる。
【0051】
[ヒドリドイオン伝導体]
本発明の実施態様による金属水素化物を含むヒドリドイオン伝導体が提供される。当該ヒドリドイオン伝導体は、本発明の実施態様による金属水素化物を含む。当該金属水素化物が優れたヒドリドイオン伝導性及び電気化学的安定性を、特に室温域でも、有することができるので、これを含むヒドリドイオン伝導体は、優れたヒドリドイオン伝導性及び電気化学的安定性を、特に室温域でも、有する。ヒドリドイオン伝導体は、ヒドリドイオンを伝導する電解質、特に固体電解質として作用することもできる。
【0052】
[電池]
(電池の基本構成)
本発明の実施態様による金属水素化物を含む電池が提供される。典型的に、電池は互いに対向して位置する正極層及び負極層と、前記正極層と前記負極層との間に位置する電解質層を備える。正極層は、正極活物質を含み、負極層は、負極活物質を含む。正極層及び負極層を、まとめて電極層と称することもある。
【0053】
電池は、本発明の実施態様による金属水素化物を、含んでもよい。当該金属水素化物は、電解質層または電極層に含まれてもよい。当該金属水素化物を含むことにより、優れたヒドリドイオン伝導性及び電気化学的安定性を、特に室温域でも、有することができる。
【0054】
本発明の一実施態様による電池は、ヒドリド電池であってもよい。ヒドリド電池とは、ヒドリドイオンが正極と負極の間を移動し、放電反応が進行する電池である。当該ヒドリド電池は、本発明の実施態様による金属水素化物を含むことにより、優れたヒドリドイオン伝導性及び電気化学的安定性を、特に室温域でも、有することができる。
【0055】
本発明の一実施態様による電池は、二次電池であってもよい。二次電池とは、ヒドリドイオン等のキャリアが正極と負極の間を移動し、放電反応が進行する電池である。当該二次電池は、本発明の実施態様による金属水素化物を含むことにより、優れたヒドリドイオン伝導性及び電気化学的安定性を、特に室温域でも、有することができる。
【0056】
本発明の一実施態様による電池は、固体電池であってもよい。固体電池とは、電解質が固体で構成された電池を指す。
【0057】
本発明の一実施態様による電池は、全固体電池であってもよい。全固体電池とは、電池要素がすべて固体で構成された電池を指す。なお、電池要素がすべて固体で構成されているとは、すべての電池要素の骨格が固体で構成されていることを指し、例えば該骨格中に液体が含侵した形態等を排除するものではない。
【0058】
(電池の製造方法)
電池の製造方法の一例を説明する。はじめに、電解質層を作製する。上述した方法により金属水素化物を作製し、これを含むリヒドリドイオン伝導体によって電解質層を構成する。
また、別途、正極層及び負極層を作製する。正極活物質と、必要によりイオン伝導性電解質と、電子伝導助剤等とを所定の割合で混合し、所定の圧力で加圧成形したり、バインダー(結着剤ともいう)を添加してシート状に成形したりすることにより正極層を作製する。また、負極活物質と、必要によりイオン伝導性電解質と、電子伝導助剤等とを所定の割合で混合し、所定の圧力で加圧成形したり、バインダーを添加してシート状に成形したりすることにより負極層を作製する。
次に、正極層と、電解質層と、負極層と、とをこの順に積層して加圧することにより一体化する。以上の工程により、上述した構成の電池が製造される。
【0059】
[固体ヒドリド電池]
本発明の一実施態様である、電池は、
互いに対向して位置する正極層及び負極層と、固体電解質層を備え、
前記正極層は、正極活物質を含み、
前記負極層は、負極活物質を含み、
前記固体電解質層は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、
前記正極層と前記負極層は、前記固体電解質層を介し、ヒドリドイオンを交換する構造を有する。
【0060】
別の態様による、電池は、
互いに対向して位置する正極層及び負極層と、固体電解質層を備え、
前記正極層は、正極活物質を含み、
前記負極層は、負極活物質を含み、
前記固体電解質層は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、
放電のときは前記正極層から前記固体電解質層を介し前記負極層にヒドリドイオンが移動し、
充電のときは前記負極層から前記固体電解質層を介し前記正極層にヒドリドイオンが移動する構造を有する。
【0061】
(正極層)
正極層は、正極材を少なくとも含み、層状に形成される。
正極材は、正極活物質を少なくとも含む。また、正極材は、ヒドリドイオン伝導性を向上させるため、イオン伝導助剤を含むことができる。さらに、正極材には、その他に、電子伝導助剤、結着材等を含有させてもよい。
正極活物質は、充電のときに水素化され、放電のときに脱水素化する。
【0062】
充電のときに作用する正極活物質は、ヒドリドイオンの受容体として働き、電子を放出する。
正極での充電のときの反応は、例えば、活物質に金属担体(M)を用いた場合には次のとおりである。
(充電のとき) M + nH- → MHn + ne-
ここで、nは0を超え、金属Mの最高酸化数以下の実数である。
【0063】
充電のときに作用する正極活物質としては、例えば、半金属元素、典型金属元素または遷移金属元素の単体、水素化物を形成する合金、水素化物を形成する金属元素を1種または2種以上含む金属化合物(金属間化合物を含む)、またはより高次に水素化されたものを形成する金属元素を含む水素化物が挙げられる。これらは、正極活物質として1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
充電のときに作用する正極活物質として、具体的には、例えば、Be及びB等の半金属単体、Mg及びAl等の典型金属単体、Mo、V、Cr、Mn、Re、Fe、Co、Ni及びCu等の遷移金属単体、これらの金属元素の金属合金、これらの金属元素の金属間化合物、またはこれらの金属元素、合金もしくは金属間化合物の金属水素化物が挙げられる。
充電のときに作用する正極活物質として、Be、B、Mg、Al、Mo、V、Cr、Mn、Re、Fe、Co及びNiからなる群から選択される金属単体、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物、または同群から選択される金属元素、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金もしくは同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属間化合物の金属水素化物を好ましく用いることができる。
充電のときに作用する正極活物質として、Mo、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Be、Mg、Al、LiHとAlの混合物、NaHとAlの混合物、LiHとBの混合物、NaHとBの混合物、MgH2とCuの混合物、CaH2とMnの混合物、SrH2とMnの混合物、BaH2とMnの混合物、CaH2とReの混合物、SrH2とReの混合物、BaH2とReの混合物、KHとMnの混合物、KHとReの混合物、RbHとReの混合物、CsHとReの混合物を好ましく用いることができる。
【0064】
放電のときに作用する正極活物質は、ヒドリドイオンの供与体と作用し、電子を受容する。
正極での放電のときの反応は、例えば、活物質に金属水素化物(MHm)を用いた場合には、次のとおりである。
(放電のとき) MHm + ne- → MH(m-n) + nH-
ここで、mは0を超え、金属Mの最高酸化数以下の実数であり、nはm以下の正の実数である。また、m=nのときにおけるMH0は、Mを示す。
【0065】
放電のときに作用する正極活物質としては、例えば、半金属、典型金属または遷移金属の単体の水素化物、合金の水素化物、金属間化合物の水素化物が挙げられる。これらは、正極活物質として1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
放電のときに作用する正極活物質として、具体的には、例えば、Be、B、Mg、Al、Mo、V、Cr、Mn、Re、Fe、Co及びNiからなる群から選択される金属単体の金属水素化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属合金の金属水素化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物の金属水素化物が挙げられる。
放電のときに作用する正極活物質として、MoH、VH、CrH、MnH、FeH、CoH、NiH、CuH、BeH2、MgH2、AlH3、LiAlH4、NaAlH4、Li3AlH6、Na3AlH6、LiBH4、NaBH4、Mg2CuH6、Mg3CuH7、Mg2CuH5、CaMnH9、SrMnH9、BaMnH9、CaReH9、SrReH9、BaReH9、K2MnH9、Rb2MnH9、Cs2MnH9を好ましく用いることができる。
【0066】
充電のときに作用する正極活物質1種または2種以上と、放電のときに作用する正極活物質1種または2種以上とを併用してもよい。
また、充電のときに作用する正極活物質と放電のときに作用する正極活物質とが併存することによって、充放電の回数を経ることによる放電容量の悪化等の電池性能の低下を抑制することができる。
【0067】
正極材における正極活物質の含有割合は、高いほど、電池のエネルギー密度を高めることができる。このため、正極活物質のヒドリドイオン伝導性及び電子伝導性、必要に応じて結着性を考慮して適宜決められる。例えば、正極材全体に対し、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がもっとも好ましい。ここで、正極材における正極活物質の含有割合は、充電のときに作用する正極活物質と放電のときに作用する正極活物質とを併用した場合には、それらの合計量に基づき算出される。
【0068】
(イオン伝導助剤)
イオン伝導助剤は、ヒドリドイオンの伝導性を向上させるために用いることができる。
また、例えば、所望の温度で、活物質のヒドリドイオン導電性が低い場合、または、活物質のヒドリドイオン導電性が脱水素化反応によって、低下する場合に、必要に応じて、イオン伝導助剤を併用することができる。
イオン伝導助剤として、例えば、Ba0.5Ca0.35Na0.15H1.85、BaH2、CaH2等、ヒドリドイオン伝導性を有する金属水素化物を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
イオン伝導助剤として、Ba0.5Ca0.35Na0.15H1.85を好ましく使用することができる。室温付近においても、高いヒドリドイオン伝導性を有することから、従来のヒドリドイオン伝導体に比較し、充放電性に優れる電池とすることができる。
正極材におけるイオン伝導助剤の含有割合は、イオン伝導助剤粒子同士が接触、または連続層を形成し、イオンを電解質層との間で伝導し得る量であれば、特に限定されない。例えば、連続層を形成させる観点では、正極材全体に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が最も好ましい。また、エネルギー密度を高くする観点からは、正極材全体に対し、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましい。
【0069】
(電子伝導助剤)
電子伝導助剤は、電子の伝導性を向上させるために用いることができる。
正極での水素化反応によって、正極活物質の電子伝導性が低下する場合がある。このため、必要に応じて、電子伝導助剤を併用することができる。具体的には、例えば、金属単体を用いた場合に、金属単体が電子伝導性に優れるものであったとしても、水素化されると電子伝導性が低下する場合がある。このため、電子伝導助剤を併用することが好ましい。
電子伝導助剤として、例えば、導電性カーボン等が挙げられる。導電性カーボンとして、具体的には、例えば、黒鉛、繊維状黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャネルブラック、サーマルブラック)、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ及びカーボンナノホーン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
正極材における電子伝導助剤の含有割合は、電子伝導助剤粒子同士が接触、または連続層を形成し、電子を外部回路との間で伝導し得る量であれば、特に限定されない。例えば、エネルギー密度を高くする観点では、正極材全体に対し、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が最も好ましい。また、例えば、電子伝導性を向上させる観点では、正極材全体に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。
【0070】
(負極層)
負極層は、負極材を少なくとも含み、層状に形成される。
負極材は、負極活物質を少なくとも含む。また、負極材は、ヒドリドイオン伝導性を向上させるため、イオン伝導助剤を含むことができる。さらに、負極材には、その他に、電子伝導助剤、結着材等の添加剤を含有させてもよい。
【0071】
負極における充電のときの反応は、正極における放電のときの反応と同様である。
このため、充電のときに作用する負極活物質は、放電のときに作用する正極活物質が使用できる。具体的には、例えば、半金属、典型金属または遷移金属の単体またはその炭化物の水素化物、合金の水素化物、金属間化合物の水素化物が挙げられる。これらは、負極活物質として1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
より具体的には、例えば、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Ti、Zr、Hfからなる群から選択される金属元素またはその炭化物の水素化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属合金の水素化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物の水素化物が挙げられる。
充電のときに作用する負極活物質として、LiH、NaH、ScH3、ScH2、YH3、YH2、LaH3、LaH2、CeH3、CeH2、TiH2、ZrH2、HfH2、CaH2、SrH2、BaH2、LiBH4、NaBH4、Ti2CH2、Ti2CH2、V2CH2を好ましく用いることができる。
【0072】
負極における放電のときの反応は、正極における充電のときの反応と同様である。
このため、放電のときに作用する負極活物質は、充電のときに作用する正極活物質を使用できる。具体的には、例えば、半金属元素、典型金属元素または遷移金属元素の単体、水素化物を形成する合金、水素化物を形成する金属元素を1種または2種以上含む金属化合物(金属間化合物を含む)、またはより高次に水素化されたものを形成する金属元素を含む水素化物が挙げられる。これらは、正極活物質として1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
より具体的には、例えば、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Ti、Zr、Hfからなる群から選択される金属元素またはその炭化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の負極用金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の負極用金属間化合物が挙げられる。
放電のときに作用する負極活物質として、Li、Na、Sc、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti2C、Y2C、V2Cを好ましく用いることができる。
【0073】
充電のときに作用する負極活物質1種または2種以上と、放電のときに作用する負極活物質1種または2種以上とを併用してもよい。
また、充電のときに作用する負極活物質と放電のときに作用する負極活物質とが併存することによって、充放電の回数を経ることによる放電容量の悪化等の電池性能の低下を抑制することができる。
【0074】
負極材における負極活物質の含有割合は、高いほど、電池のエネルギー密度(体積エネルギー密度)を高めることができる。このため、負極活物質のヒドリドイオン伝導性及び電子伝導性、必要に応じて結着性を考慮して適宜決められる。例えば、負極材全体に対し、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がもっとも好ましい。ここで、負極材における負極活物質の含有割合は、充電のときに作用する負極活物質と放電のときに作用する負極活物質とを併用した場合には、それらの合計量に基づき算出される。
【0075】
イオン伝導助剤及び電子伝導助剤は、正極材と同様の理由で、必要に応じて、負極材に含有してもよい。イオン伝導助剤または電子伝導助剤の含有割合は、正極材において例示した含有割合と同様である。
【0076】
(正極材と負極材との組み合わせ)
上記の正極活物質及び負極活物質は、随意に組み合わせることができる。好ましくは、正極材と負極材との組み合わせは、起電力、充放電容量、電解質層に用いたヒドリドイオン伝導体を考慮して適宜選択される。
例えば、電解質層に用いた金属水素化物と同一の金属水素化物を正極活物質または負極活物質として用いた場合には、電解質層の金属水素化物についても電解質層と他層との境界付近等で水素化または脱水素化反応が生じるおそれがある。水素化または脱水素化反応した金属水素化物は結晶構造または組成が変化し、イオン伝導性が低下または喪失するおそれがある。
このため、電池の性能が低下するおそれがある。
したがって、電解質層に金属水素化物を用いた場合には、この金属水素化物と同一の金属水素化物を正極活物質または負極活物質として用いないことが好ましい。
よって、全固体ヒドリド電池では、正極活物質の選択肢の範囲または負極活物質の選択肢の範囲から、電解質層に用いた金属水素化物と同一の金属水素化物を除くことが好ましい。
例えば、具体的には、本発明の式(1)、式(2)または式(3)で表され、かつ空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造または空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造の少なくとも一つを有する金属水素化物を電解質層に用いた場合には、正極活物質または負極活物質として、当該金属水素化物を除くことが好ましい。
【0077】
本発明者らは、電極活物質及びその組み合わせについて、複数の金属種について検討を行った。この結果、従来技術に比較し、起電力または電気容量に優れるものを見出した。以下、詳細に説明をする。なお、当然のことながら、電極活物質及びその組み合わせ自体は、電解質による制限を受けるものではない。すなわち、その電極活物質及びその組み合わせを用いた電池等のデバイスにおいて、本発明の一実施態様である金属水素化物を含む電解質以外の電解質を用いることもできる。
【0078】
108種類の見込み電極材料を用いて反応電位と理論容量を計算した。計算は第一原理計算によった。第一原理計算とは、経験的なパラメータ(すなわち実験データ)を用いることなく、量子力学に基づいて物質の物性を計算する手法をいう。第一原理計算の具体的な手法は限定されない。本発明では、PAW擬ポテンシャル法と平面波基底を用いた第一原理計算パッケージであるVienna Ab initio Simulation Package(VASP)を用いた。第一原理計算により求められたGibbsエネルギーを元に反応電位を算出した。標準電極の反応はTi/TiH
2を用いており、目的の電極活物質の電池反応は以下の通り記述される。
MH
n + n/2 Ti → M + n/2 TiH
2
電池反応のGibbsエネルギー変化ΔGを用いて、以下のネルンスト式により反応電位を算出した。
E=-ΔG/(nF)
計算結果を表1、
図16、
図17及び
図18に示した。表1及び
図16の反応電位(V)は、活物質の欄における ‘/’で区切られた左辺から右辺に反応するときの反応電位をTi/TiH
2を基準とした反応電位(V)で示した。
具体的には、‘Al
3/Al’を例にすると、
AlH
3 + 3/2Ti → Al + 3/2TiH
2
のときの反応電位(V)を示す。
図17は、比エネルギー(重量エネルギー密度)と反応電位との関係を示した。
図18は、エネルギー密度(体積エネルギー密度)と反応電位との関係を示した。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
第一原理計算より得られた活物質について、それらの108種類の電極(正極、負極)材料のすべての組み合わせ(
108C
2)に対応する5,778個の全固体ヒドリド電池の起電力、比エネルギー(重量エネルギー密度)、エネルギー密度(体積エネルギー密度)を求めた。
図13は、全固体電池の活物質ごとの比エネルギーEm、AM)とエネルギー密度Ev、AM)をまとめたものである。
【0083】
正極活物質と負極活物質との組み合わせは、正極-負極の順に、Be-LiH、Al-ScH2、Mo-ScH2、Al-LiH、Al-TiH2、Al-YH2、NaAlH4-Ti、MgH2-Tiが好ましい。
【0084】
Be-LiHでは~1600Whkg-1という非常に高い比エネルギーが得られ、Al-ScH2、Mo-ScH2ではそれぞれ約2350、及び約2970WhL-1という非常に高いエネルギー密度が達成される。低コストで無毒な実用的な組み合わせでは、Al-LiH、Al-TiH2、Al-YH2、NaAlH4-Ti、MgH2-Tiがそれぞれ約1280、約570、約510、約380、約330Whkg-1を示しており、これらは公知のリチウムイオンバッテリー(LIB)と同等以上の比エネルギーである。
【0085】
図13の挿入図は、ヒドリド電池のセルあたりの比エネルギー(Em)とエネルギー密度(Ev)を他の電池システムと比較したもので、ヒドリド電池は、現在のLIB、Li金属負極を用いた先進的LIB、全固体LIB(最新のフッ化物電池よりも高い比エネルギーを持っていることを特徴とする)よりもはるかに高い比エネルギーとエネルギー密度を示す。一方で、Li-S、Li-air、Zn-air電池はヒドリド電池より高い理論比エネルギーを示すが、正極(Li
2O
2やLi
2S)の大きな過電圧や金属負極(LiやZn)のデンドライト形成などの欠点を有している。
【0086】
正極材及び負極材は、各成分が均一に混合されていればよく、製造方法は限定されない。一般的な製造方法としては、例えば、活物質成分、その他必要に応じて、イオン伝導性助剤、電子伝導助剤及び結着材等の原材料を合わせた後、混合する方法が挙げられる。混合方法としては、例えば、ロール転導ミル、ボールミル、ビーズミル(小径ボールミル)、媒体撹拌ミル、ジェットミル、乳鉢等を用いた方法が挙げられる。正極材または負極材の各成分を混合する順番も特に限定されない。例えば、正極材または負極材に使用する各成分を一度に合わせた後、混合してもよいし、正極材または負極材における各成分を任意に順次、混ぜ合わせてもよく、正極材または負極材における任意の成分の混合物と、正極材または負極材における他の成分の混合物とを合わせ、混ぜ合わせてもよい。
【実施例0087】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例によって限定して解釈されるものではない。
【0088】
(金属水素化物の製造)
(1)金属水素化物の製造には、遊星ボールミル装置(フリッチュ社製P7クラシックライン)を用いた。
(2)出発物質には、LiH(AlfaAesar社製、99.4%)、NaH(Sigma-Aldrich社製、>99%)、KH(Sigma-Aldrich社製、純度未記載)、CaH2(Sigma-Aldrich社製、98%)、BaH2(三津和化学薬品株式会社、99.5%)を用いた。
(3)表2に示す組成比になるように、秤量を行った。秤量は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。出発物質を所望の組成となるように秤量し、ジルコニア製の直径10mmのボールが18個入ったジルコニア製のポット(内容量45mL)内で混合した。このポットに蓋をし、さらにオーバーポットに入れ、密閉した。そして、ボールミルを600rpmで48時間行った。
【0089】
【0090】
(X線回折測定)
得られた金属水素化物について、X線回折測定を行った。
(1)粉末X線回折装置
株式会社リガク製のMiniflex300(CuKα、管電流10mA、管電圧30kV)を用いた。測定は、2θが10°~60°の範囲で、ステップ幅0.01°で行った。回折結果の一部を
図15に示す。
(2)リートベルト解析結果
放射光X線回折パターンを、SPring-8のBL02B2ビームラインで記録した。デバイ シェラー回折カメラを用い、2θが2~75°の範囲で回折データを収集した。なお、水素は検出が難しいため、重水素に置換した。中性子粉末回折により平均構造を調べた。重水素化物試料780mgを外径6.0mm、厚さ0.1mmのV-Ni中性子散乱試料容器に封入した。測定は、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の300kW核破砕中性子源に接続した入射飛行経路15m、散乱飛行経路1.0-1.4m及び後方散乱検出バンク(0.06≦d≦5.2Å)の中性子全散乱分光器(ビームラインBL21、NOVA)で実施した。室温(298K)での中性子回折のために、格子間隔0.1~5.2Aの範囲で散乱データを記録した。結晶構造は、Z-Rietveldソフトウェアを用いたRietveld解析により精密化し、VESTAプログラムにより可視化した。得られた、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15D
1.85のデータを用いたリートベルト解析の結果を表3に示し、
図14に当該リートベルト解析を通じて明らかになった結晶構造を示す。併せて、確認された空間群を表2に示す。
【0091】
【0092】
(イオン伝導性の測定)
(1)イオン伝導性は、電極を両端に有する金属水素化物を成形し、交流インピーダンス法を用い、次式よりイオン伝導性σを算出した。
σ=L/(R・S)
ここで、Rは抵抗値(Ω)、Lは金属水素化物成形物であるイオン伝導体の電極間距離(cm)及びSは電極と電解質(金属水素化物)界面の面積(cm2)を表す。
(2)測定試料の成形には、内径6mmのダイ、上パンチ及び下パンチからなるペレッターを用いた。
下パンチにダイを嵌め、固体電解質(金属水素化物)粉末50mgまたは100mgを入れ、上パンチを嵌めた後、圧粉成形した。
次に、固体電解質(金属水素化物)成形体の厚さを測定した。
そして、上パンチを外し、金粉約30mgを入れ、再び上パンチを嵌め、下パンチ側についても同様に行った。その後、再び、加圧し、電極層を形成し、測定試料を調製した。
(3)測定にはインピーダンスアナライザー(Bio-Logic、VSP-300)を用いた。印加電圧は10~200mV、測定周波数範囲は0.5Hz~7MHz、測定温度範囲は50~200℃で行った。
測定結果の解析には、Z-view(AMETEK)を用い、等価回路でフィッティングし、粒内(バルク)及び粒界を含むトータルのイオン伝導度を求めた。結果を表2に示す。
【0093】
(アレニウスプロット)
図3は、本発明例の一つであるBa
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85のアレニウスプロットであり、これからバルク及びトータルの伝導性が詳細に確認できる。トータルでの伝導性は、140℃付近(1000/T=2.4)で伝導性σに関する指標が約-2.5(logσ/Scm
-1)であり、30℃付近(1000/T=3.3)でさえも同約-4.75である。
【0094】
比較例として、従来知られている組成物のアレニウスプロットを示す。
図4は、非特許文献1に開示されており、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85の原料である、ドープされていないCaH
2、及びCaH
2とNaHとの固溶体と考えられるCa
1-xNa
xH
2-xのアレニウスプロットである。また、
図5は、非特許文献2に開示されており、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85の原料であるBaH
2、及び種々のイオン伝導体のアレニウスプロットである。
図6は、非特許文献3に開示されており、Ba
1.75LiH
2.7O
0.9及び種々のイオン伝導体のアレニウスプロットである。
図7は、非特許文献4に開示されており、La
2-x-ySr
x+yLiH
1-x+yO
3-y’のイオン伝導体のアレニウスプロットである。これらの図から、本発明の金属水素化物の原料や従来知られていたヒドリドイオン伝導体では、伝導性σに関する指標が約-2.5(logσ/Scm
-1)になるためには、いずれも数百℃の高温が必要である。
【0095】
(電池)
表2で示された、本発明例の金属水素化物を固体電解質として用いてセルを組み立て、充放電操作が可能であることを確認した。
(1)セルの組み立て
典型的なセルの組み立てについて説明する。確認する事項に応じて、固体電解質、正極合材、負極合材等は適宜調整される。
セルは、絶縁体(マコール(R))からなるダイ、金属製の上パンチ及び下パンチ並びに上パンチと下パンチとを固定する3本のボルトを用い、組み立てた。
具体的には、ダイに金属製の下パンチを嵌め、固体電解質の粉末を入れ、上パンチを嵌めた後、加圧した。
次に、正極側のパンチを外し、正極合材(正極活物質:固体電解質:アセチレンブラック(デンカ株式会社製、HS-100)=20:75:5(重量比率))を10mg入れ、固体電解質層100mgの表面全面に均一な厚さの層となるように平にした後、パンチを嵌め、加圧する。再び、正極側のパンチを外し、モリブデンの箔(株式会社ニラコ社製、0.01mm)を入れ、正極側のパンチを嵌め、加圧した。
そして、負極側のパンチを外し、負極合材(TiH2:Ti:固体電解質:アセチレンブラック(デンカ株式会社製、HS-100)=8:12:75:5(重量比率))50mgを入れ、固体電解質層の表面全面に均一な厚さの層となるように平にした後、パンチを嵌め、加圧する。再び、負極側のパンチを外し、モリブデンの箔(株式会社ニラコ社製社製、0.01mm)を入れ、正極側のパンチを嵌め、加圧した。
上下のパンチを固定する3本のボルトを締め付け固定した。
【0096】
(2)ボルタモグラム
図8は、本発明例の金属水素化物である、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85を固体電解質として用い、負極合材を用いずに非対象セルを作製した場合の、リニアスイープボルタンメトリー[(-)Mo|Ti+TiH
2+アセチレンブラック|Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85|Mo(+)セル@60℃]であり、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85の電位窓は-0.13から0.58V vs Ti/TiH
2の範囲にあった。これまで、ヒドリドイオン伝導体についての電位窓の測定はほとんど行われていなかった。本発明例の金属水素化物は、還元されにくい電位窓(下限-0.13V)を示している。これは、本発明例の金属水素化物が、第2族元素(典型的にはBaやCa等)を含み、それらはLa(従来のヒドリドイオン伝導体に含まれることがある)に比べて比較的還元されにくいためであると考えられる。また、水素発生(酸化)反応は、質量分析計によるH
2シグナルをin-situ観察し、0,7V vs Ti/TiH
2以上で進行したため、
図8の電位窓の外で生じることが確認されている。
【0097】
(3)充放電試験
本発明例の一つである金属水素化物(Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85)の電位窓-0.13から0.58V vs Ti/TiH
2の範囲に適合する、いくつかの有望な電極材料(TiH
2またはMgH
2)を負極材料として選択し、正極(標準電極)としてTiを用いて、セルを作製し、充放電試験(25℃、20μA/cm
2)を行った。
図9に、充放電試験の結果を示す。
【0098】
図10の左は、負極材料として種々の電極材料(NaAIH
4、LiAIH
4、MgH
2、TiH
2、LaHx、NaH、NaBH4、))を選択し、正極(標準電極)としてTiを用いて、セルを作製し、初回の放電試験(NaAIH
4では90℃、他の電極では60℃、50μA/cm
2)を行った結果である。
図10の右は、電極材料(TiH
2)を負極材料として選択し、正極(標準電極)としてTiを用いて、60℃で10サイクルにわたって充放電試験を行った結果である。
【0099】
表4は金属水素化物の放電特性をまとめたものである。TiH2-Ti、NaAIH4-Ti及び、MgH2-Tiセルでは、実験的に理論値に非常に近い放電容量が得られている。特に、TiH2-Tiセルでは、60℃、10サイクルで、1070mAhg-1の理論容量で可逆的に充放電反応が進行することが確認された。また、MgH2-Tiセルでは、MgH2電極は、60℃で、2020mAhg-1の高い理論容量(60℃)を示した。
【0100】
【表6】
理論反応電位(Theoretical reaction potential)は、以下の反応について得られる。
a:MA1H
4/1/3M
3AlH
6+2/3Al(M= Li, Na),
b:LaH
3/LaH
2, c:LaH
2/La, 及び d: NaBH
4/NaH+B.
【0101】
このことから、本発明での一実施態様の電池は、充放電が可能であることを初めて具体的に確認された。実際には、非特許文献4に開示されているように(
図11参照)、従来のヒドリド(H
-)伝導物質(固体電解質 La
2LiHO
3)を用い、公知となった固体ヒドリドイオン電池は、動作温度が300℃で、0.5μA/cm
2での放電の記載があるのみであった。また、電極活物質も金属Tiとその水素化物(TiH
2)のみであった。