(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127038
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/10 20160101AFI20240912BHJP
H01M 8/1016 20160101ALI20240912BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240912BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240912BHJP
C01B 6/04 20060101ALI20240912BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20240912BHJP
C25B 1/14 20060101ALI20240912BHJP
C25B 1/18 20060101ALI20240912BHJP
C25C 5/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M8/10
H01M8/1016
H01M4/92
H01M4/90 X
H01M4/86 B
H01M4/96 B
H01B1/06 A
C01B6/04
C25B1/02
C25B1/14
C25B1/18
C25C5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035875
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】菅野 了次
(72)【発明者】
【氏名】松井 直喜
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 隆
【テーマコード(参考)】
4K021
4K058
5G301
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
4K058BA02
4K058BA04
4K058DD13
4K058EC04
5G301CD01
5H018AS02
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE10
5H018EE11
5H126AA02
5H126AA03
5H126GG11
(57)【要約】
【課題】燃料電池デバイスとしてだけでなく、水素貯蔵デバイス等としても、実用的に適用することができる、新規なシステムを提供すること。
【解決手段】水素電極、金属電極、および固体ヒドリドイオン伝導体を含んでなり、
前記固体ヒドリドイオン伝導体は、前記水素電極と前記金属電極との間に位置し、
前記水素電極と前記金属電極は、前記固体ヒドリドイオン伝導体を介しヒドリドイオンを交換する構造を有し、
前記水素電極は、分子状水素(H
2)を放出または吸収する、システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素電極、金属電極、および固体ヒドリドイオン伝導体を含んでなり、
前記固体ヒドリドイオン伝導体は、前記水素電極と前記金属電極との間に位置し、
前記水素電極と前記金属電極は、前記固体ヒドリドイオン伝導体を介しヒドリドイオンを交換する構造を有し、
前記水素電極は、分子状水素(H2)を放出または吸収する、システム。
【請求項2】
充電することによって、前記金属電極から前記固体ヒドリドイオン伝導体を介し前記水素電極にヒドリドイオンが移動し、前記分子状水素(H2)を放出する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記分子状水素(H2)を吸収し、前記水素電極から前記固体ヒドリドイオン伝導体を介し前記金属電極にヒドリドイオンが移動することによって、放電する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記分子状水素(H2)が吸収もしくは放出される前記水素電極と前記金属電極の間に生じる電気的信号を感知する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記水素電極で前記分子状水素(H2)を吸収し、前記金属電電極に前記ヒドリドイオンを吸蔵し、電気的信号の入力により前記金属電極に吸蔵された前記ヒドリドイオンを、前記水素電極から前記分子状水素(H2)として放出する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
分子状水素(H2)を貯蔵する請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記固体ヒドリドイオン伝導体は、下記条件1及び条件2を満たす金属水素化合物である、請求項1に記載のシステム。
条件1:組成式が下記式(1)、式(2)または式(3)で表される金属水素化物。
組成式 M1
xM2
(1-x)Hx+1 ・・・(1)
ここで、M1は第2族元素から選ばれる2種以上の金属元素であり、M2は第1族元素から選ばれる1種または2種以上の金属元素であり、0<x<1である。
組成式 M1a’
x’M1b’
(1-x’)H2 ・・・(2)
ここで、M1a’及びM1b’はそれぞれカルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムから選ばれる1種であり、M1a’とM1b’とは異なり、0<x’<1である。
または
組成式 BayM2
(1-y)H(y+1) ・・・(3)
ここで、M2は、式(1)におけるM2と同義であり、0<y<1である。
条件2:前記M1及び前記M2で表される金属原子、M1a’及びM1b’で表される金属原子またはBa及びM2により形成された結晶構造が空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造または空間群Im-3mの少なくとも一つを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造を有する。
【請求項8】
前記M1は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれる2種以上の金属元素である、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記M1が2種の金属元素がM1a及びM1bからなり、前記組成式での原子数比(M1a/M1b)が1/9以上、9/1以下である、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記M2は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選ばれる1種である、請求項7に記載のシステム。
【請求項11】
前記M1a及び前記M1bは、カルシウム、バリウムであり、前記M2は、ナトリウムまたはカリウムである、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記水素電極は、
活物質として分子状水素(H2)を用い、触媒もしくは導電助剤の役割りを担う添加剤としてPt、Pd、TiN、Cのいずれかを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記金属電極は、
金属電極活物質として、Be、B、Mg、Al、Mo、V、Cr、Mn、Re、Cu、Fe、Co、Ni、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Ti、Zr、Hfからなる群から選択される金属元素、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物、の金属水素化物の少なくとも一つを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記金属電極活物質に含まれる金属水素化物は、前記固体ヒドリドイオン伝導体に含まれない、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記金属電極活物質は、
MgH2、LiAlH4、NaAlH4、NaH,TiH2,NaBH4,の少なくとも一つである、請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素電極、金属電極、および固体ヒドリドイオン伝導体を含んでなる、システム、特に水素電極は、分子状水素(H2)を放出または吸収する、システム、に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のクリーンエネルギー社会実現、環境問題解決のキーとして、燃料電池をはじめとする、水素エネルギーデバイスが、注目を集めている。それらの水素エネルギーデバイス、特に燃料電池の固体電解質として、固体内を水素が拡散するイオン伝導体が利用されている。一般的には、そのような固体電解質またはイオン伝導体において、正電荷のプロトン(H+)が電荷輸送を担うことが知られている。
【0003】
実用化されている燃料電池、例えばリン酸型燃料電池では、プロトン(H+)伝導体が利用されている。そのため、プロトン(H+)伝導体を利用して、電気化学的に水素吸蔵合金に水素を貯蔵することも考えられる。しかしながら、実際に、プロトン(H+)伝導体を水素吸蔵に用いる場合には、多くの課題がある。典型的な、プロトン駆動型水素貯蔵では、電解質はアルカリ性水溶液であり、溶解したプロトンが水素貯蔵材料に出入りする。そのような、電気化学的な水素貯蔵は、ニッケル水素電池の電極反応でも用いられる。しかし、高水素貯蔵容量材料(例えばMgH2)に用いた場合、反応速度が遅い、および、水素貯蔵量が不可逆的であるなどの欠点がある。
【0004】
一方で、近年、固体電解質またはイオン伝導体において、H+ではなく、H-も可動イオンになることが明らかとなり、水素の新たな電荷担体として注目を集めている。
【0005】
H-は、ヒドリドイオンと呼ばれ、水素原子が電子を一つ受け取り、アニオンとなった状態のものであり、イオンヘリウムと同じ電子配置をとり1s軌道内を2つの電子が占有している。そして、H-は、一価、適度なイオン半径、大きな分極率といった高速イオン伝導に適した特徴をもつだけでなく、卑な酸化還元電位(-2.25 V vs.SHE)に基づく強力な還元力を有している。このため、H-のイオン伝導現象を電気化学デバイスに応用することができれば、蓄電においては高エネルギー密度化が、発電や物質変換においては高い反応性をもたらすことが期待でき、応用の観点からH-は魅力的な電荷担体といえる。
【0006】
非特許文献1は、プロトン(H+)ではなくヒドリドイオン(H-)による電気化学的水素貯蔵を提案しており、具体的には、溶存したヒドリドイオン(H-)を含むイオン液体電解質を用いて、ヒドリドイオン(H-)を金属に挿入することを試みている。
【0007】
しかし、非特許文献1の提案する手法は、厳しい動作温度、すなわち、300℃以上であることが必要であり、その後実用化には至っていない。(非特許文献2参照)
【0008】
また、ヒドリドイオン伝導体の物質開発は発展途上の段階にあり、H-を活用した新たな電気化学デバイスの実用化のためにはH-伝導体の高性能化も望まれる。これまでに公知となったヒドリド伝導体として、例えば、Sr1-xNaxH2-x及びCa1-xNaxH2-x(非特許文献3)、BaH2(非特許文献4)、Ba1.75LiH2.7O0.9(非特許文献5)、La2-ySryLiH1+yO3-y(x=0,y=0、1及び2)並びにLa2-xSrxLiH1-xO3(y=0、0≦x≦0.2)及びLa1-xSr1+xLiH2-xO2(y=1、0≦x≦0.4)(非特許文献6)が挙げられる。
非特許文献3には、Sr1-xNaxH2-xに比較し、伝導性が優れるSr1-xNaxH2-xでさえも、230℃付近で、バルクの伝導率8×10-5S/cm程度である点が記載されている。非特許文献5には、Ba1.75LiH2.7O0.9が300℃以上で急激にヒドリド導電性が向上するものの、230℃付近以下の温度では10-6Scm-1以下である点が記載されている。非特許文献6には、固体電解質が、電池として実用的なイオン伝導性(ヒドリドイオン伝導性)を得るために、比較的高温(300℃以上)にすることが必要であった点が記載されている。さらに、エネルギーデバイスとしては、高いイオン伝導性に加えて、広い電位窓を持ち、実用的な充放電可能である物質が望まれる。
【0009】
本発明者らは、先に、ペロブスカイト型水素化物に着目し、AELiH3ヒドリドイオン伝導体(ここで、AEはアルカリ土類金属)のヒドリドイオン伝導性について評価した。さらに、ヒドリドイオン伝導性を向上するために、ペロブスカイトのAサイトを異種金属イオンであるNa+で置換することにより、ヒドリドイオン空孔導入すること、及び、Sr0.925Na0.075LiH2.925(空間群Pm-3m)は、室温において、5.0×10-6Scm-1のヒドリドイオン伝導性を有することを報告した。(非特許文献7)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Luedecke, C. M., Deublein, G. & Huggins, R. A. Electrochemical investigation of hydrogen storage in metal-hydrides. J. Electrochem. Soc. 132, 52-56 (1985)
【非特許文献2】Liaw, B. Y., Deublein, G. & Huggins, R. A. Investigation of thermodynamic properties of the Ti-H system using molten-salt electrolytes containing hydride ions. J. Alloys Compd. 189, 175-186 (1992)
【非特許文献3】Maarten C. Verbraeken, et al., Journal of Materials Chemistry, 19,2766-2770 (2009)
【非特許文献4】Maarten C. Verbraeken, et al., Nature Materials, 14, 95-100 (2015)
【非特許文献5】Fumitaka Takeiri, et al., Nature Materials, 21, 325-330 (2022)
【非特許文献6】Genki Kobayashi, et al., Science, 351, 1314-1317 (2016)
【非特許文献7】T. Hirose, et al., ACS Applied Energy Materials, 5, 2968-2974 (2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
燃料電池デバイスとしてだけでなく、水素貯蔵デバイス等としても、実用的に適用することができる、水素エネルギーデバイスが必要とされている。
【0012】
本発明は、燃料電池デバイスとしてだけでなく、水素貯蔵デバイス等としても、実用的に適用することができる、新規なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ヒドリドイオン伝導体の開発を通じて、固体ヒドリドイオン伝導体を含んでなる新規なシステムが、燃料電池デバイスだけでなく、水素貯蔵デバイス、水素センサーデバイス、水素濃縮デバイス等の種々の用途に実用的に適用できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決することのできる、以下の態様を提供する。
[1]
水素電極、金属電極、および固体ヒドリドイオン伝導体を含んでなり、
前記固体ヒドリドイオン伝導体は、前記水素電極と前記金属電極との間に位置し、
前記水素電極と前記金属電極は、前記固体ヒドリドイオン伝導体を介しヒドリドイオンを交換する構造を有し、
前記水素電極は、分子状水素(H2)を放出または吸収する、システム。
[2]
充電することによって、前記金属電極から前記固体ヒドリドイオン伝導体を介し前記水素電極にヒドリドイオンが移動し、前記分子状水素(H2)を放出する、[1]に記載のシステム。
[3]
前記分子状水素(H2)を吸収し、前記水素電極から前記固体ヒドリドイオン伝導体を介し前記金属電極にヒドリドイオンが移動することによって、放電する、[1]または[2]に記載のシステム。
[4]
前記分子状水素(H2)が吸収もしくは放出される前記水素電極と前記金属電極の間に生じる電気的信号を感知する、[1]~[3]のいずれか1項に記載のシステム。
[5]
前記水素電極で前記分子状水素(H2)を吸収し、前記金属電電極に前記ヒドリドイオンを吸蔵し、(その後)電気的信号の入力により前記金属電極に吸蔵された前記ヒドリドイオンを、前記水素電極から前記分子状水素(H2)として放出する、[1]~[4]のいずれか1項に記載のシステム。
[6]
分子状水素(H2)を貯蔵する[1]~[5]のいずれか1項に記載のシステム。
[7]
前記固体ヒドリドイオン伝導体は、下記条件1及び条件2を満たす金属水素化合物である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のシステム。
条件1:組成式が下記式(1)、式(2)または式(3)で表される金属水素化物。
組成式 M1
xM2
(1-x)Hx+1 ・・・(1)
ここで、M1は第2族元素から選ばれる2種以上の金属元素であり、M2は第1族元素から選ばれる1種または2種以上の金属元素であり、0<x<1である。
組成式 M1a’
x’M1b’
(1-x’)H2 ・・・(2)
ここで、M1a’及びM1b’はそれぞれカルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムから選ばれる1種であり、M1a’とM1b’とは異なり、0<x’<1である。
または
組成式 BayM2
(1-y)H(y+1) ・・・(3)
ここで、M2は、式(1)におけるM2と同義であり、0<y<1である。
条件2:前記M1及び前記M2で表される金属原子、M1a’及びM1b’で表される金属原子またはBa及びM2により形成された結晶構造が空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造または空間群Im-3mの少なくとも一つを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造を有する。
[8]
前記M1は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれる2種以上の金属元素である、[7]に記載のシステム。
[9]
前記M1が2種の金属元素がM1a及びM1bからなり、前記組成式での原子数比(M1a/M1b)が1/9以上、9/1以下である、[7]または[8]に記載のシステム。
[10]
前記M2は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選ばれる1種である、[7]から[9]のいずれか1項に記載のシステム。
[11]
前記M1a及び前記M1bは、カルシウム、バリウムであり、前記M2は、ナトリウムまたはカリウムである、[7]から[10]のいずれか1項に記載のシステム。
[12]
前記水素電極は、
活物質として分子状水素(H2)を用い、触媒もしくは導電助剤の役割りを担う添加剤としてPt、Pd、TiN、Cのいずれかを含む、[1]から[11]のいずれか1項に記載のシステム。
[13]
前記金属電極は、
金属電極活物質として、Be、B、Mg、Al、Mo、V、Cr、Mn、Re、Cu、Fe、Co、Ni、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Ti、Zr、Hfからなる群から選択される金属元素、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物、の金属水素化物の少なくとも一つを含む、[1]から[12]のいずれか1項に記載のシステム。
[14]
前記金属電極活物質に含まれる金属水素化物は、前記固体ヒドリドイオン伝導体に含まれない、[13]に記載のシステム。
[15]
前記金属電極活物質は、
MgH2、LiAlH4、NaAlH4、NaH,TiH2,NaBH4,の少なくとも一つである、[13]または[14]に記載のシステム。
【発明の効果】
【0015】
本発明による、固体ヒドリドイオン伝導体を含んでなる新規なシステムは、燃料電池デバイスとして実用的に作動することに加えて、水素貯蔵デバイス、水素センサーデバイス、水素濃縮デバイス等の種々の用途にも実用的に適用できる。実用的とは、日常生活などの場で実際に役立つことであり、特殊な作動条件を要さない、典型的には、作動するために高温(例えば300℃程度またはそれ以上)を要さないこと、作動するために高圧(例えば数MPa程度またはそれ以上)を要さないこと等を指す。
【0016】
典型的には、優れたヒドリドイオン伝導性及び/または電気化学的安定として、室温域(25±40℃)で、ヒドリドイオン伝導性σに関する指標(logσ/Scm-1)がおおよそ-5以上であり、かつ固体ヒドリドイオン電池(Ti/TiH2電極)の固体電解質として用いたときに、繰り返して充放電可能である金属水素化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】充電時のシステムの挙動を模式的に示す図である。
【
図2】水素吸収時(または放電時)のシステムの挙動を模式的に示す図である。
【
図3】BaH
2-CaH
2-NaHの三元系組成図において、各点の結晶構造を示す図である。
【
図4】BaH
2-CaH
2-NaHの三元系組成図において、各点のヒドリド伝導特性を示す図である。
【
図5】Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85のアレニウスプロットを示す図である。
【
図6】CaH
2、及びCa
1-xNa
xH
2-xのアレニウスプロットを示す図である。
【
図7】BaH
2、従来のヒドリドイオン伝導体のアレニウスプロットを示す図である。
【
図8】従来のヒドリドイオン伝導体のアレニウスプロットを示す図である。
【
図9】従来のヒドリドイオン伝導体のアレニウスプロットを示す図である。
【
図10】本発明の一実施態様の金属水素化物のリニアスイープボルタンメトリーを示す図である。
【
図11】本発明の一実施態様の金属水素化物を用いた非対称セルにおいて、定電流酸化反応中の、電圧及び質量分析計によるH
2シグナル、を示す図である。
【
図12】Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85のリートベルト解析から求めた結晶構造を示す図である。
【
図13】本発明の一実施態様の金属水素化物のX線回折測定結果を示す図である。
【
図14】本発明の一実施態様の金属水素化物を用いた非対称セルにおいて、定電流還元反応中の、放電容量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(システムの基本構成)
本発明の一実施態様である、システムは、
水素電極、金属電極、および固体ヒドリドイオン伝導体を含んでなり、
前記固体ヒドリドイオン伝導体は、前記水素電極と前記金属電極との間に位置し、
前記水素電極と前記金属電極は、前記固体ヒドリドイオン伝導体を介しヒドリドイオンを交換する構造を有し、
前記水素電極は、分子状水素(H2)を放出または吸収する。
【0019】
システムの製造方法の一例を説明する。はじめに、固体ヒドリド伝導体(電解質層)を作製する。後段で詳述する方法により金属水素化物を作製し、これを含むリヒドリドイオン伝導体を構成してもよい。
また、別途、金属電極及び水素電極を作製する。正極活物質と、必要によりイオン伝導性電解質と、電子伝導助剤等とを所定の割合で混合し、所定の圧力で加圧成形したり、バインダー(結着剤ともいう)を添加してシート状に成形したりすることにより金属電極を作製する。また、水素電極については、導電性材料と、必要によりイオン伝導性電解質と、電子伝導助剤等とを所定の割合で混合し、所定の圧力で加圧成形したり、バインダーを添加してシート状に成形したりすることにより水素電極を作製する。
次に、金属電極と、固体ヒドリドイオン伝導体と、水素電極をこの順に積層して加圧することにより一体化する。以上の工程により、上述した構成のシステムが製造される。
【0020】
本システムを充電することにより、分子状水素(H2)を放出することができる。また、本システムに分子状水素(H2)を吸収させることにより、本システムから放電することができる。以下で詳細に説明するとおり、
本システムは、燃料電池デバイスとして作動することに加えて、水素貯蔵デバイス、水素センサーデバイス、水素濃縮デバイス等の種々の用途にも適用できる。
【0021】
(水素放出の態様)
本発明の一実施態様である、システムは、充電することによって、金属電極から固体ヒドリドイオン伝導体を介し水素電極にヒドリドイオンが移動し、前記分子状水素(H2)を放出する。
本システムを充電するために、本システムは、充電機能を備えてもよく、当該充電機能により本システムを充電してもよい。なお、他で説明するとおり、本システムは水素放出の態様のみに限定的に解釈されるものではない。
【0022】
図1は、充電時のシステムの挙動を模式的に示した図である。
本システムを充電することにより、分子状水素(H
2)を放出することができる。
【0023】
本システムを放電するときに作用する金属電極(活物質)は、電子を受容してヒドリドイオンの供与体として作用する。
金属電極での反応は、例えば、活物質に金属水素化物(MHm)を用いた場合には、次のとおりである。
(充電のとき) MHm + ne- → MH(m-n) + nH-
ここで、mは0を超え、金属Mの最高酸化数以下の実数であり、nはm以下の正の実数である。また、m=nのときにおけるMH0は、Mを示す。
【0024】
金属電極から放出されたヒドリドイオンは、ヒドリドイオン伝導体を介して、水素電極に移動する。水素電極は、ヒドリドイオンを受容し、分子状水素(H2)を放出する。
水素電極での反応は、次のとおりである。
(充電のとき) 2nH- → nH2+2ne-
【0025】
(水素吸収の態様)
本発明の一実施態様である、システムは、分子状水素(H2)を吸収し、水素電極から前記固体ヒドリドイオン伝導体を介し金属電極にヒドリドイオンが移動することによって、放電する。
本システムに水素を供給するために、本システムは、水素供給機能を備えてもよく、当該機能により本システムに水素を供給してもよい。
【0026】
図2は、水素吸収時(または放電時)のシステムの挙動を模式的に示した図である。
本システムに水素を供給することにより、本システムから電子を放出すること、すなわち放電することができる。また、供給された水素は、本システムに貯蔵することもできる。すなわち、本システムは、二次燃料電池デバイスとして作動することもでき、あるいは水素貯蔵デバイスとして作動することもできる。なお、他で説明するとおり、本システムは水素吸収の態様のみに限定的に解釈されるものではない。
【0027】
本システムに水素を供給するときに作用する水素電極では、水素が活物質として作用し、電子を受容してヒドリドイオンの供与体として作用する。
水素電極での反応は、次のとおりである。
(水素供給または放電のとき) nH2+2ne-→ 2nH-
【0028】
水素電極から放出されたヒドリドイオンは、ヒドリドイオン伝導体を介して、金属電極に移動する。金属電極は、ヒドリドイオンを受容し、金属水素化物を生成する。
金属電極での反応は、例えば、活物質に金属(M)または金属水素化物(MHm)を用いた場合には、次のとおりである。
(水素供給または放電のとき MH(m-n) + nH- → MHm + ne-
ここで、mは0を超え、金属Mの最高酸化数以下の実数であり、nはm以下の正の実数である。また、m=nのときにおけるMH0は、Mを示す。
【0029】
(水素感知の態様)
本発明の一実施態様である、システムは、分子状水素(H2)が吸収もしくは放出される水素電極と金属電極の間に生じる電気的信号を感知する。
【0030】
本システムは、分子状水素(H2)が吸収もしくは放出される際に、ヒドリドイオンとともに電子の関与する反応が生じ、当該電子が水素電極と金属電極の間で移動するので、この電子の移動を電気的信号として感知することができる。本システムは、電気的信号を感知するための機能、典型的には電流計等、を備えてもよい。本態様のシステムで電気的信号を感知することにより、水素の存在を感知することができる。すなわち、本システムは、水素センサーデバイスとして作動することもできる。なお、他で説明するとおり、本システムは水素感知の態様のみに限定的に解釈されるものではない。
【0031】
(水素濃縮の態様)
本発明の一実施態様である、システムは、水素電極で分子状水素(H2)を低濃度の状態で吸収し、金属電極に前記ヒドリドイオンを吸蔵し、(その後)電気的信号の入力により金属電極に吸蔵されたヒドリドイオンを、水素電極から相対的に高濃度な状態で前記分子状水素(H2)を放出する。
【0032】
本システムでは、水素電極に分子状水素(H2)を供給することにより、供給された水素は、ヒドリドイオンとしてヒドリドイオン伝導体を介して金属電極に移動し、金属電極に貯蔵することができる。金属電極に貯蔵された水素について、本システムに電気的信号を入力することにより、典型的には金属電極に電子を入力することにより、金属電極からヒドリドイオンが発生し、ヒドリドイオン伝導体を介して、水素電極から分子状水素(H2)として放出することができる。はじめに、供給する分子状水素(H2)は相対的に低濃度であってもよい。貯蔵できる水素の量は、概して、供給される水素濃度よりも、金属電極の水素貯蔵容量(水素吸蔵容量)に応じて決まる。そのため、金属電極に吸蔵されたヒドリドイオンを、水素電極から相対的に高濃度な状態で前記分子状水素(H2)を放出することができる。典型的には、低濃度の水素を長時間で貯蔵した後に、高濃度の水素を短時間で放出することができる。すなわち、本システムは、水素濃縮デバイスとして作動することもできる。なお、他で説明するとおり、本システムは水素濃縮の態様のみに限定的に解釈されるものではない。
【0033】
(水素貯蔵の態様)
本発明の一実施態様である、システムは、分子状水素(H2)を貯蔵する。
【0034】
本システムでは、供給された分子状水素(H2)を水素電極でヒドリドイオンとし、当該ヒドリドイオンをヒドリドイオン伝導体を介して金属電極に移動し、ヒドリドイオンを受容した金属電極で金属水素化物として貯蔵することもできる。また、本システムが、分子状水素(H2)貯蔵機能、典型的には水素タンク等を備えてもよい。金属電極に貯蔵された水素については、本システムに電気的信号を入力することにより、金属電極からヒドリドイオンを発生させ、ヒドリドイオン伝導体を介して、水素電極から分子状水素(H2)として放出することもできるので、水素電極から放出された分子状水素(H2)を、分子状水素(H2)貯蔵機能によって貯蔵することもできる。なお、他で説明するとおり、本システムは水素貯蔵の態様のみに限定的に解釈されるものではない。
【0035】
(固体ヒドリドイオン伝導体)
本発明の一実施態様である、システムでは、固体ヒドリドイオン伝導体は、下記条件1及び条件2を満たす金属水素化合物である。
【0036】
(条件1:組成)
条件1:本発明の一実施態様で用いられる、金属水素化合物は、組成式下記式(1)、式(2)または式(3)で表される金属水素化物である。以下、式(1)、式(2)、および式(3)について順次説明する。
【0037】
本発明の一実施態様で用いられる、金属水素化物は、下記式(1)で表される金属水素化物を含む。組成式M1
xM2
(1-x)Hx+1 ・・・(1)
ここで、M1は第2族元素から選ばれる2種以上の金属元素であり、M2は第1族元素から選ばれる1種または2種以上の金属元素であり、0<x<1である。
【0038】
M1は、第2族元素から選ばれる金属元素であるので、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれてもよい。
例えば、M1は、マグネシウム及びカルシウムの2種、マグネシウム及びストロンチウムの2種、マグネシウム及びバリウムの2種、マグネシウム及びラジウムの2種、カルシウム及びストロンチウムの2種、カルシウム及びバリウムの2種、カルシウム及びラジウムの2種、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの3種、カルシウム、バリウム及びラジウムの3種、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムの4種、ストロンチウム及びバリウムの2種、ストロンチウム及びラジウムの2種、ストロンチウム、バリウム及びラジウムの3種並びにバリウム及びラジウムの2種を表す。
M1は、好ましくは、カルシウム及びストロンチウムの2種、カルシウム及びバリウムの2種、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの3種であり、より好ましくは、カルシウム及びバリウムの2種、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの3種、ストロンチウム及びバリウムの2種であり、さらに好ましくは、カルシウム及びバリウムの2種、ストロンチウム及びバリウムの2種であり、もっとも好ましくは、カルシウム及びバリウムの2種である。
M1は、2種以上の金属元素であるので、2種の金属元素をM1a及びM1bと称してもよい。
【0039】
また、M2は、第1族元素から選ばれる金属元素であるので、リチウム、ナトリウム及び、カリウム、ルビジウム及び、セシウムからなる群から選ばれてもよい。
例えば、M2は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、リチウム及びナトリウムから選ばれる1種、リチウム及びカリウムの2種、リチウム、ナトリウム及びカリウムの3種、ナトリウム及びカリウムの2種を表す。
M2は、好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウムなる群から選ばれる1種、またはナトリウム及びカリウムの2種であり、より好ましくはナトリウムもしくはカリウムのいずれか1種またはナトリウム及びカリウムの2種であり、さらに好ましくはナトリウムまたはカリウムであり、もっとも好ましくはナトリウムである。
【0040】
xは、0を超え、1未満である。好ましくは、0.5以上0.98以下であり、より好ましくは0.75以上0.96以下であり、さらに好ましくは0.81以上0.93以下であり、もっとも好ましくは0.82以上0.9以下である。
xが0を超え1未満であると、ヒドリドイオン伝導性が向上することから好ましい。
本発明を限定するものではないが、0.98以下であると、結晶構造がヒドリドイオン伝導に適した逆AgI型構造となる、もしくは塩化鉛型構造にヒドリド空孔が導入され、両構造に共通してxが0.75以上でヒドリドイオン伝導に適した単位格子内の水素量が存在し、xが0.9以下であると高いヒドリド伝導性を維持可能であるから好ましい。
【0041】
式(1)で表される金属水素化物は、式(1B)で表される金属水素化物を含む。
M1a
x1M1b
x2M2
{1-(x1+x2)}H(x1+x2+1) ・・・(1B)
(ここで、M1aとM1bは異なり、M1a及びM1bは、それぞれ、第2族元素から選ばれる1種の金属元素でありM2は第1族元素から選ばれる1種または2種以上の金属元素を表し、0<x1<1、0<x2<1、0<x1+x2<1である。)
【0042】
M1aは、好ましくはバリウムまたはストロンチウムであり、より好ましくはバリウムである。
M1aがバリウムであると、ヒドリド伝導性がより向上する。
M1bは、好ましくはカルシウムまたはストロンチウムであり、より好ましくはカルシウムである。
M1bがカルシウムであると、ヒドリド伝導性がより向上する。
【0043】
x1は0を超え、1未満である。x1は、高いほど、イオン伝導率が向上するため、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.4以上である。一方で、x1は、高すぎると、相対的にx2が低くなり、イオン伝導率が低下することがあるため、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.6以下である。
【0044】
x2は0を超え、1未満である。x2は高いほど、イオン伝導率が向上するため、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.4以上である。一方で、x2は、高すぎると、相対的にx1が低くなり、イオン伝導率が低下することがあるため、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.6以下である。
【0045】
M1は、第2族元素から選ばれる2種類の金属元素であり、それぞれM1a及びM1bとしたときに、前記組成式での原子数比(M1a/M1b)が1/9以上、9/1以下であってもよい。
【0046】
本発明を限定的に解釈するものではないが、前記組成式(1B)は、2種のM1水素化物と、1種のM2水素化物との擬三元系組成式と捉えることもできる。(2種のM2水素化物を用いる場合は、当該2種のM2水素化物の混合物を三元系の一つと捉えることもできる。)
【0047】
典型的な例で説明すると、
図3に示すような、BaH
2とCaH
2とNaHとの三元系組成物の金属水素化物と捉えることができる。BaH
2とCaH
2はヒドリドイオン伝導体であり、NaHは組成物中の金属あたりの水素量を変化させるために用いることができる。
【0048】
本発明の一実施態様で用いられる、金属水素化物は、下記式(2)で表される金属水素化物を含む。
組成式 M1a’
x’M1b’
(1-x’)H2 ・・・(2)
ここで、M1a’及びM1b’はそれぞれカルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムから選ばれる1種であり、M1a’とM1b’とは異なり、0<x’<1である。
【0049】
M1a’としては、バリウム及びストロンチウムからなる群から選択される1種を好ましく用いることができ、より好ましくはバリウムである。
M1b’としては、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される1種を好ましく用いることができ、M1a’とは異なり、より好ましくはカルシウムである。
【0050】
M1a’とM1b’との組み合わせは、バリウムとカルシウムとの組み合わせ、バリウムとストロンチウムとの組み合わせ及びストロンチウムとカルシウムとの組み合わせが好ましく、バリウムとカルシウムとの組み合わせ及びバリウムとストロンチウムとの組み合わせがより好ましく、バリウムとカルシウムとの組み合わせがさらに好ましい。
特に、M1a’がバリウムのとき、M1b’はカルシウムである組み合わせが最も好ましい。
【0051】
x’としては、0を超え1未満であり、好ましくは0.2以上0.8以下であり、より好ましくは0.4以上0.6以下であり、さらに好ましくは0.44以上0.56以下である。
x’が0を超え1未満であると、ヒドリドイオン伝導性に優れる。
【0052】
本発明の一実施態様で用いられる、金属水素化物は、下記式(3)で表される金属水素化物を含む。
組成式 BayM2
(1-y)H(y+1) ・・・(3)
ここで、M2は、式(1)におけるM2と同義であり、0<y<1である。
【0053】
yは、0を超え、1未満であり、好ましくは、0.6以上0.99以下であり、より好ましくは0.7以上0.98以下であり、さらに好ましくは0.8以上0.95以下である。
yが0を超え1未満であると、ヒドリドイオン伝導性に優れる。
【0054】
M2は、好ましくは、ナトリウムもしくはカリウムの1種、またはナトリウム及びカリウムの組み合わせであり、より好ましくはカリウムの1種またはナトリウム及びカリウムの組み合わせであり、さらに好ましくはカリウムの1種である。
【0055】
(条件2:結晶構造)
本発明の一実施態様で用いられる、金属水素化物は、式(1)における前記M1(第2族元素から選ばれる金属元素)及び前記M2(第1族元素から選ばれる金属元素)により形成された結晶構造、式(2)におけるM1a’及びM1b’により形成された形成された結晶構造、または式(3)におけるBa及びM2より形成された結晶構造が、空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造、または空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造の少なくとも一つを有する。
【0056】
当該金属水素化物の結晶構造は、例えば、粉末X線解析装置を用いて特定することができる。X線回折測定に加えて、中性子線回折測定が行われてもよい。また、結晶構造解析は、例えば、リートベルト法に基づき実施することが好ましい。公知の手法によりX線回折パターンまたは中性子回折パターンを観察することで、金属水素化物が有する空間群を特定することが可能である。
【0057】
特定の理論に拘束されることは望まないが、本発明の一実施態様で用いられる金属水素化物は、式(1)の組成式で表される場合、2種のM1水素化物と、1種または2種のM2水素化物との擬三または疑四元系組成物と捉えることができ、金属水素化物が式(2)の組成式で表される場合、M1a’ 水素化物及びM1b’ 水素化物の擬二元系組成物と捉えることができ、また金属水素化物が式(3)の組成式で表される場合、Ba水素化物及びM2水素化物の擬二元系組成物と捉えることができ、原料となる金属水素化物の固溶体であってもよい。そのため、本発明の一実施態様である金属水素化物は、原料となる金属水素化物の結晶構造に由来する(または実質的に同じ)結晶構造を有してもよい。一方で、三元系組成物または二元系組成物の固溶体となるときに、結晶構造の変化が生じて、原料となる金属水素化物の結晶構造と異なる結晶構造を有してもよい。
【0058】
典型的な例で説明すると、本発明の一実施態様である金属水素化物は、M1水素化物(例えばBaH2とCaH2)のように、空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造を有するか、または、M1水素化物とは異なる、空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造の少なくとも一つを有する。
【0059】
結晶構造は、
図3及び
図4に示されるように、ヒドリドイオン伝導性または電気化学安定性の少なくとも一方と相関があると考えられる。
図3は、BaH
2とCaH
2とNaHとの三元系組成図であり、各組成での結晶構造を示している。(○が空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造であり、△が空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造である。)一方で、
図4は、BaH
2とCaH
2とNaHとの三元系組成図であり、各組成でのヒドリドイオン伝導性を示している。
【0060】
ヒドリドイオン伝導性を高める観点から、空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造であることが好ましい。結晶構造における水素の拡散能力を密度汎関数理論-分子動力学(DFT-MD)シミュレーションによって計算したところ、水素の確率密度は、金属イオンの空間群Im-3m(体心立方格子)の自由空間を透過し、3次元伝導を生じることを発明者らは確認している。
【0061】
空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造、または良好なヒドリドイオン伝導性を得るために、
図3に示すような前記三元組成系でのアニオン/カチオン比(n)が1.625<n<2であってもよい。BaH
2-CaH
2-NaH系では、イオン伝導性が非常に高く、概ね10
-5(logσ@50℃/Scm
-1)である。
図4において、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85の組成が最大のイオン伝導性を有することが確認できる。
【0062】
当該金属水素化物は、従来のヒドリドイオン伝導体に比べて、極めて優れたヒドリドイオン伝導性を有することができ、特に、室温域(25±40℃)で、伝導性σに関する指標(logσ/Scm-1)が少なくとも-4.75以上になることがあり、おおよそ-5以上とすることができる。
【0063】
ここで、本明細書中における、バルク(bulk)とトータル(total)の伝導性について説明しておく。固体電解質は、粒子を成形して用いることから、粒子内部の伝導性と粒子界面の伝導性が異なる。このため、粒子内部の伝導性に限定した場合には、バルクとして、粒子内部と粒子界面とを合わせた伝導性にした場合には、トータルとして区別する。
【0064】
また、当該金属水素化物は、電気化学的安定性が向上する。電気化学的安定性の向上は、電位窓の存在等で確認することができる。例えば、従来のヒドリドイオン導電体では、実用的な電位窓を確認できなかった。
【0065】
(金属水素化物の製造方法)
本発明の一実施態様で用いられる、金属水素化物は、固相反応または液相反応によって製造することができる。固相反応では、例えば、加熱反応またはメカノケミカル反応を用い、製造することができる。加熱反応及びメカノケミカル反応を併用してもよい。
メカノケミカル反応としては、例えば、ボールミル及びビーズミル(小径ボールミル)を用いた製造方法を挙げることができる。
遊星ボールミルを用いた製造例を用いて説明する。原材料は、所望する金属水素化物に含まれる各金属の水素化物を、所望する組成比で混合する。
原材料に用いる各金属の水素化物は、所望する金属水素化物を構成する各金属元素の水素化物を用いてもよく、金属水素化物を構成する金属元素を2種以上の含む金属水素化物を用いてもよい。
【0066】
原料化合物として、第2族の金属水素化物では、例えば、1種の金属元素を含む水素化物として、BeH2、MgH2、CaH2、SrH2、BaH2またはRaH2が挙げられる。
また、第2族を2種以上含む水素化物として、例えば、Ba0.5Ca0.5H2、Ba0.6Ca0.4H2、Sr0.5Ca0.5H2等を用いてもよい。
同様に、第1族の金属水素化物では、例えば、1種の金属元素を含む水素化物として、LiH,NaH,KH,RbH,CsHまたはFrHが挙げられる。
さらに、第1族金属を1種または2種以上含み、かつ第2族金属を1種または2種以上含む水素化物を用いてもよい。例えば、BaNaH3、BaKH3などが挙げられる。
これらの原料化合物の仕込み比は、目的とする組成比に応じて調整されるが、たとえば、Liと混合容器の構成金属材料(例えばボールミルに含まれることのあるZr等)との合金化による組成ずれの回避、合成時の水素分圧の制御等のために、随時微調整され得る。
【0067】
所望する金属水素化物の組成比を有する原料混合物は、ボールの入った容器内で反応させる。容器を回転等させ、ボールに運動エネルギーを与え、ボールと混合物との衝突によって、反応させる。
ボール及び容器の材質は、原材料及び金属水素化物と反応しなければ、特に限定されない。ボール及び容器の材質は、例えば、金属、金属酸化物及び高分子を挙げることができる。ボール及び容器の材質としては化学的安定性が優れ、硬く運動エネルギーを反応物に伝えやすいジルコニア製が好ましく、用いることができる。
【0068】
反応雰囲気は、金属水素化物が水(水分)と反応することから、乾燥ガスの雰囲気下で行うことが必要である。乾燥ガスは、不活性ガス(アルゴン、窒素等)、水素またはそれらの混合ガスであることが好しく、アルゴン雰囲気であることが、より好ましい。副反応による不純物の生成を抑制できるためである。
【0069】
メカノケミカル反応における反応温度も特に限定されないが、10℃以上100℃以下が好ましい。
メカノケミカル反応では、運動エネルギーを用いた反応のため、例えば、遊星ボールミルではボールの運動エネルギーに影響するボールの質量、大きさ、混合物の容器に占める割合、回転数、回転半径等によって反応時間は大きく異なる。このため、メカノケミカル反応では、反応条件により、好適な反応時間を適宜選択する必要がある。
【0070】
加熱反応では、メカノケミカル反応に用いる原料混合物と同様の混合物を用いることができる。
原料混合物は、加熱反応前に原料混合物の各成分が均一に混合された状態で加熱されることが好ましい。
混合方法としては、各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、ニーダー、2軸ニーダー、気流粉砕機等を用いて混合することができる。
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
原料混合物は、粉体の混合物をそのまま用いてよく、粉体混合物を圧縮成形し、加熱反応に用いてもよい。
加熱反応では、通常100~1000℃で行われてもよい。好適には100~300℃である。加圧する場合、圧力は、例えば、1Pa以上10GPa以下であってもよい。好適には300MPa以上900MPa以下の加圧であってもよい。加圧下での加熱に際して、反応器は、特に制限されないが、Au、Ptまたは岩塩カプセル内に所定仕込み比で原料化合物を封入して高圧反応を行うのが好適である。反応時間は、反応条件に依存するが、通常、30分~24時間程度から選ばれる。
加熱反応においても、メカノケミカル反応と同様に乾燥ガス雰囲気下で行う必要がある。
乾燥ガスとしては、不活性ガス(アルゴン、窒素等)、水素及びそれらの混合ガスが好ましく使用でき、より好ましくは水素ガスである。
【0071】
また、本発明の一実施態様に用いられる金属水素化物は、固相反応に用いられる、通常の電気炉内で100~1100℃程度の温度で製造され得、その焼成は、水素気流中ないし不活性ガス(例えばアルゴンや窒素)気流中で低圧ないし常圧下で、1~24時間程度で行われるのが好適である。
【0072】
本発明の一実施態様に用いられる金属水素化物の製造には、メカノケミカル反応と加熱反応を併用してもよい。メカノケミカル反応させた後、加熱反応を行ってもよく、加熱反応をさせた後、メカノケミカル反応を行ってよい。
【0073】
上記のとおり、本発明の実施態様に用いられる金属水素化物は、優れたヒドリドイオン伝導性及び電気化学的安定性を、特に室温域でも、有することができる。その特性を利用して、本発明の一実施態様のシステムでは、当該金属水素化物を、ヒドリドイオン伝導体、固体電解質材料、または電極の少なくとも一部等に用いることができる。
【0074】
(水素電極)
本発明の一実施態様では、水素電極は、活物質として分子状水素(H2)を用いるものである。水素電極では、システムに充電するときに水素が放出され、システムから放電するときに水素を吸収する。電極として作用するため、少なくとも導電性材料を含み、必要に応じて触媒、導電助剤、結着剤等を含んでもよい。
【0075】
システムに充電するときに作用する水素電極活物質は、ヒドリドイオンであり、電子の供与体として働き、分子状水素(H2)を生成する。
システムに充電するときの水素電極での反応は、次のとおりである。
(充電のとき) 2nH- → nH2+2ne-
【0076】
システムから放電するときに作用する水素電極活物質は、分子状水素(H2)であり、電子の受容体として働き、ヒドリドイオンの供与体として作用する。
システムから放電するときの水素電極での反応は、次のとおりである。
(放電のとき) ) nH2+2ne-→ 2nH-
【0077】
導電性材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばカーボンブラックやメソポーラスカーボン等の炭素材料等が挙げられる。
【0078】
水素電極は、反応を促進させる触媒または導電助剤を含有していてもよい。前記触媒または導電助剤としては、Pt、Pd、TiN、C等を含んでもよい。水素電極における触媒および導電助剤の合計含有量は、反応場の減少及びシステム容量の低下を抑制する等の観点から、例えば1重量%~90重量%の範囲内、で適宜選択することが好ましい。
【0079】
水素電極は、ヒドリドイオン伝導性を向上させるため、イオン伝導助剤を含むことができる。
【0080】
水素電極での集電を行うために集電体を備えてもよく、集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、チタン及びカーボン等が挙げられる。水素の反応場を効率的に提供するために、集電体の形状としては、例えばメッシュ(グリッド)状等にしてもよい。
【0081】
水素電極は、導電性材料を固定化する結着材を含有していてもよい。前記結着材としては、特に限定されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
【0082】
(金属電極)
本発明の一実施態様では、金属電極は、ヒドリドイオンを吸蔵放出できる金属活物質を含むものであれば特に限定されるものではなく、層状に形成されてもよい。
金属電極は、ヒドリドイオン伝導性を向上させるため、イオン伝導助剤を含むことができる。さらに、金属電極には、その他に、電子伝導助剤、結着材等を含有させてもよい。
金属電極活物質は、システムから放電するときに水素化され、システムに充電するときに脱水素化する。
【0083】
システムに充電するときに作用する金属電極活物質は、ヒドリドイオンの供与体として働き、電子を受容する。
システムに充電するときの金属電極での反応は、例えば、活物質に金属水素化物(MHm)を用いた場合には次のとおりである。
(充電のとき) MHm + ne- → MH(m-n) + nH-
ここで、mは0を超え、金属Mの最高酸化数以下の実数であり、nはm以下の正の実数である。また、m=nのときにおけるMH0は、Mを示す。
【0084】
システムに充電するときに作用する金属電極活物質としては、例えば、半金属元素、典型金属元素または遷移金属元素の単体、水素化物を形成する合金、水素化物を形成する金属元素を1種または2種以上含む金属化合物(金属間化合物を含む)、またはより高次に水素化されたものを形成する金属元素を含む水素化物が挙げられる。これらは、金属電極活物質として1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
システムに充電するときに作用する金属電極活物質として、具体的には、例えば、Be及びB等の半金属単体、Mg及びAl等の典型金属単体、Mo、V、Cr、Mn、Re、Fe、Co、Ni及びCu等の遷移金属単体、これらの金属元素の金属合金、これらの金属元素の金属間化合物、またはこれらの金属元素、合金もしくは金属間化合物の金属水素化物が挙げられる。
システムに充電するときに作用する金属電極活物質として、Be、B、Mg、Al、Mo、V、Cr、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Ti、Zr、及びHfからなる群から選択される金属単体、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物、または同群から選択される金属元素、同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属合金もしくは同群から選択される金属元素を少なくとも1つを含む二元または三元の金属間化合物の金属水素化物を好ましく用いることができる。
システムに充電するときに作用する金属電極活物質として、MoH、VH、CrH、MnH、FeH、CoH、NiH、CuH、BeH2、MgH2、AlH3、LiAlH4、NaAlH4、Li3AlH6、Na3AlH6、LiBH4、NaBH4、Mg2CuH6、Mg3CuH7、Mg2CuH5、CaMnH9、SrMnH9、BaMnH9、CaReH9、SrReH9、BaReH9、K2MnH9、Rb2MnH9、Cs2MnH9を好ましく用いることができる。また、活物質として、LiH、NaH、ScH3、ScH2、YH3、YH2、LaH3、LaH2、CeH3、CeH2、TiH2、ZrH2、HfH2、CaH2、SrH2、BaH2、LiBH4、NaBH4、を好ましく用いることができる。
【0085】
システムから放電するときに作用する金属電極活物質は、ヒドリドイオンの受容体と作用し、電子を供与する。
システムから放電するとき金属電極での反応は、例えば、活物質に金属(M)または金属水素化物(MHm)を用いた場合には、次のとおりである。
(放電のとき) MH(m-n) + nH- →) MHm + ne-
ここで、mは0を超え、金属Mの最高酸化数以下の実数であり、nはm以下の正の実数である。また、m=nのときにおけるMH0は、Mを示す。
【0086】
システムから放電するときに作用する金属電極活物質としては、例えば、半金属、典型金属または遷移金属の単体の水素化物、合金の水素化物、金属間化合物の水素化物が挙げられる。これらは、正極活物質として1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
放電のときに作用する金属電極活物質として、具体的には、例えば、Be、B、Mg、Al、Mo、V、Cr、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Ti、Zr、及びHfからなる群から選択される金属単体の金属水素化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属合金の金属水素化物、同群から選択される金属元素の少なくとも1つを含む二元もしくは三元の金属間化合物の金属水素化物が挙げられる。
システムから放電するときに作用する金属電極活物質として、Mo、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Be、Mg、Al、LiHとAlの混合物、NaHとAlの混合物、LiHとBの混合物、NaHとBの混合物、MgH2とCuの混合物、CaH2とMnの混合物、SrH2とMnの混合物、BaH2とMnの混合物、CaH2とReの混合物、SrH2とReの混合物、BaH2とReの混合物、KHとMnの混合物、KHとReの混合物、RbHとReの混合物、CsHとReの混合物を好ましく用いることができる。
【0087】
充電のときに作用する金属電極活物質1種または2種以上と、放電のときに作用する金属電極活物質1種または2種以上とを併用してもよい。
また、充電のときに作用する金属電極活物質と放電のときに作用する金属電極活物質とが併存することによって、充放電の回数を経ることによる放電容量の悪化等のシステム性能の低下を抑制することができる。
【0088】
金属電極における金属電極活物質の含有割合は、高いほど、システムのエネルギー密度を高めることができる。このため、金属電極活物質のヒドリドイオン伝導性及び電子伝導性、必要に応じて結着性を考慮して適宜決められる。例えば、金属電極全体に対し、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がもっとも好ましい。ここで、金属電極における金属電極活物質の含有割合は、充電のときに作用する金属電極活物質と放電のときに作用する金属電極活物質とを併用した場合には、それらの合計量に基づき算出される。
【0089】
(イオン伝導助剤)
イオン伝導助剤は、ヒドリドイオンの伝導性を向上させるために用いることができる。
また、例えば、所望の温度で、活物質のヒドリドイオン導電性が低い場合、または、活物質のヒドリドイオン導電性が脱水素化反応によって、低下する場合に、必要に応じて、イオン伝導助剤を併用することができる。
イオン伝導助剤として、例えば、Ba0.5Ca0.35Na0.15H1.85、BaH2、CaH2等、ヒドリドイオン伝導性を有する金属水素化物を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
イオン伝導助剤として、Ba0.5Ca0.35Na0.15H1.85を好ましく使用することができる。室温付近においても、高いヒドリドイオン伝導性を有することから、従来のヒドリドイオン伝導体に比較し、充放電性に優れる電池とすることができる。
金属電極におけるイオン伝導助剤の含有割合は、イオン伝導助剤粒子同士が接触、または連続層を形成し、イオンを固体ヒドリドイオン伝導体との間で伝導し得る量であれば、特に限定されない。例えば、連続層を形成させる観点では、金属電極全体に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が最も好ましい。また、エネルギー密度を高くする観点からは、金属電極全体に対し、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましい。
【0090】
(電子伝導助剤)
電子伝導助剤は、電子の伝導性を向上させるために用いることができる。
金属電極での水素化反応によって、金属電極活物質の電子伝導性が低下する場合がある。このため、必要に応じて、電子伝導助剤を併用することができる。具体的には、例えば、金属単体を用いた場合に、金属単体が電子伝導性に優れるものであったとしても、水素化されると電子伝導性が低下する場合がある。このため、電子伝導助剤を併用することが好ましい。
電子伝導助剤として、例えば、導電性カーボン等が挙げられる。導電性カーボンとして、具体的には、例えば、黒鉛、繊維状黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャネルブラック、サーマルブラック)、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ及びカーボンナノホーン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
金属電極における電子伝導助剤の含有割合は、電子伝導助剤粒子同士が接触、または連続層を形成し、電子を外部回路との間で伝導し得る量であれば、特に限定されない。例えば、エネルギー密度を高くする観点では、金属電極全体に対し、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が最も好ましい。また、例えば、電子伝導性を向上させる観点では、金属電極全体に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。
【0091】
金属電極に用いた金属水素化物と同一の金属水素化物を固体ヒドリドイオン伝導体が含む場合には、固体ヒドリドイオン伝導体の金属水素化物についても固体ヒドリドイオン伝導体と金属電極との境界付近等で水素化または脱水素化反応が生じるおそれがある。水素化または脱水素化反応した金属水素化物は結晶構造または組成が変化し、ヒドリドイオン伝導性が低下または喪失するおそれがある。
このため、システムの性能が低下するおそれがある。
したがって、金属電極活物質に含まれる金属水素化物は、前記固体ヒドリドイオン伝導体に含まないことが好ましい。あるいは、固体ヒドリドイオン伝導体に金属水素化物を用いた場合には、この金属水素化物と同一の金属水素化物を金属電極に含まないことが好ましい。
例えば、具体的には、本発明の式(1)、式(2)または式(3)で表され、かつ空間群Pnmaを有する塩化鉛型結晶構造または空間群Im-3mを有する逆α-ヨウ化銀型結晶構造の少なくとも一つを有する金属水素化物を固体ヒドリドイオン伝導体に用いた場合には、金属電極活物質として、当該金属水素化物を除くことが好ましい。
【0092】
金属電極材及び水素電極材は、各成分が均一に混合されていればよく、製造方法は限定されない。一般的な製造方法としては、例えば、活物質成分、その他必要に応じて、イオン伝導性助剤、電子伝導助剤及び結着材等の原材料を合わせた後、混合する方法が挙げられる。混合方法としては、例えば、ロール転導ミル、ボールミル、ビーズミル(小径ボールミル)、媒体撹拌ミル、ジェットミル、乳鉢等を用いた方法が挙げられる。正極材または負極材の各成分を混合する順番も特に限定されない。例えば、金属電極材または水素電極材に使用する各成分を一度に合わせた後、混合してもよいし、金属電極材または水素電極材における各成分を任意に順次、混ぜ合わせてもよく、金属電極材または水素電極材における任意の成分の混合物と、金属電極材または水素電極材における他の成分の混合物とを合わせ、混ぜ合わせてもよい。
【実施例0093】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例によって限定して解釈されるものではない。
【0094】
(金属水素化物の製造)
(1)金属水素化物の製造には、遊星ボールミル装置(フリッチュ社製P7クラシックライン)を用いた。
(2)出発物質には、LiH(AlfaAesar社製、99.4%)、NaH(Sigma-Aldrich社製、>99%)、KH(Sigma-Aldrich社製、純度未記載)、CaH2(Sigma-Aldrich社製、98%)、BaH2(三津和化学薬品株式会社、99.5%)を用いた。
(3)表2に示す組成比になるように、秤量を行った。秤量は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。出発物質を所望の組成となるように秤量し、ジルコニア製の直径10mmのボールが18個入ったジルコニア製のポット(内容量45mL)内で混合した。このポットに蓋をし、さらにオーバーポットに入れ、密閉した。そして、ボールミルを600rpmで48時間行った。
【0095】
【0096】
(X線回折測定)
得られた金属水素化物について、X線回折測定を行った。
(1)粉末X線回折装置
株式会社リガク製のMiniflex300(CuKα、管電流10mA、管電圧30kV)を用いた。測定は、2θが10°~60°の範囲で、ステップ幅0.01°で行った。回折結果の一部を
図13に示す。
(2)リートベルト解析結果
放射光X線回折パターンを、SPring-8のBL02B2ビームラインで記録した。デバイ シェラー回折カメラを用い、2θが2~75°の範囲で回折データを収集した。なお、水素は検出が難しいため、重水素に置換した。中性子粉末回折により平均構造を調べた。重水素化物試料780mgを外径6.0mm、厚さ0.1mmのV-Ni中性子散乱試料容器に封入した。測定は、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の300kW核破砕中性子源に接続した入射飛行経路15m、散乱飛行経路1.0-1.4m及び後方散乱検出バンク(0.06≦d≦5.2Å)の中性子全散乱分光器(ビームラインBL21、NOVA)で実施した。室温(298K)での中性子回折のために、格子間隔0.1~5.2Aの範囲で散乱データを記録した。結晶構造は、Z-Rietveldソフトウェアを用いたRietveld解析により精密化し、VESTAプログラムにより可視化した。得られた、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15D
1.85のデータを用いたリートベルト解析の結果を表2に示し、
図12に当該リートベルト解析を通じて明らかになった結晶構造を示す。併せて、確認された空間群を表2に示す。
【0097】
【0098】
(イオン伝導性の測定)
(1)イオン伝導性は、電極を両端に有する金属水素化物を成形し、交流インピーダンス法を用い、次式よりイオン伝導性σを算出した。
σ=L/(R・S)
ここで、Rは抵抗値(Ω)、Lは金属水素化物成形物であるイオン伝導体の電極間距離(cm)及びSは電極と電解質(金属水素化物)界面の面積(cm2)を表す。
(2)測定試料の成形には、内径6mmのダイ、上パンチ及び下パンチからなるペレッターを用いた。
下パンチにダイを嵌め、固体電解質(金属水素化物)粉末50mgまたは100mgを入れ、上パンチを嵌めた後、圧粉成形した。
次に、固体電解質(金属水素化物)成形体の厚さを測定した。
そして、上パンチを外し、金粉約30mgを入れ、再び上パンチを嵌め、下パンチ側についても同様に行った。その後、再び、加圧し、電極層を形成し、測定試料を調製した。
(3)測定にはインピーダンスアナライザー(Bio-Logic、VSP-300)を用いた。印加電圧は10~200mV、測定周波数範囲は0.5Hz~7MHz、測定温度範囲は50~200℃で行った。
測定結果の解析には、Z-view(AMETEK)を用い、等価回路でフィッティングし、粒内(バルク)及び粒界を含むトータルのイオン伝導度を求めた。結果を表2に示す。
【0099】
(アレニウスプロット)
図5は、本発明の一実施態様で用いられる金属水素化合物の一例であるBa
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85のアレニウスプロットであり、これからバルク及びトータルの伝導性が詳細に確認できる。トータルでの伝導性は、140℃付近(1000/T=2.4)で伝導性σに関する指標が約-2.5(logσ/Scm
-1)であり、30℃付近(1000/T=3.3)でさえも同約-4.75である。
【0100】
比較例として、従来知られている組成物のアレニウスプロットを示す。
図6は、非特許文献3に開示されており、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85の原料である、ドープされていないCaH
2、及びCaH
2とNaHとの固溶体と考えられるCa
1-xNa
xH
2-xのアレニウスプロットである。また、
図7は、非特許文献4に開示されており、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85の原料であるBaH
2、及び種々のイオン伝導体のアレニウスプロットである。
図8は、非特許文献5に開示されており、Ba
1.75LiH
2.7O
0.9及び種々のイオン伝導体のアレニウスプロットである。
図9は、非特許文献6に開示されており、La
2-x-ySr
x+yLiH
1-x+yO
3-y’のイオン伝導体のアレニウスプロットである。これらの図から、本発明の一実施態様で用いられる金属水素化物の原料や従来知られていたヒドリドイオン伝導体では、伝導性σに関する指標が約-2.5(logσ/Scm
-1)になるためには、いずれも数百℃の高温が必要である。
【0101】
(システム)
表1で示された、本発明の一実施態様で用いられる金属水素化物を固体ヒドリドイオン伝導体(固体電解質)として用いてセルを組み立て、充放電操作が可能であることを確認した。
(1)セルの組み立て
典型的なセルの組み立てについて説明する。確認する事項に応じて、固体ヒドリドイオン伝導体、金属電極材、水素電極材等は適宜調整される。
セルは、絶縁体(マコール(R))からなるダイ、金属製の上パンチ及び下パンチ並びに上パンチと下パンチとを固定する3本のボルトを用い、組み立てた。
具体的には、ダイに金属製の下パンチを嵌め、固体ヒドリドイオン伝導体の粉末を入れ、上パンチを嵌めた後、加圧した。
次に、水素電極側のパンチを外し、モリブデンの箔(株式会社ニラコ社製、0.01mm)を入れ、正極側のパンチを嵌め、加圧した。
そして、金属電極側のパンチを外し、金属電極合材(TiH2:Ti:固体電解質:アセチレンブラック(デンカ株式会社製、HS-100)=8:12:75:5(重量比率))50mgを入れ、固体電解質層の表面全面に均一な厚さの層となるように平にした後、パンチを嵌め、加圧する。再び、負極側のパンチを外し、モリブデンの箔(株式会社ニラコ社製社製、0.01mm)を入れ、正極側のパンチを嵌め、加圧した。
上下のパンチを固定する3本のボルトを締め付け固定した。
【0102】
(2)ボルタモグラム
図10は、本発明の一実施態様で用いられる金属水素化物である、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85を固体ヒドリドイオン伝導体(固体電解質)として用い、水素電極合材を用いずに非対称セルを作製した場合の、リニアスイープボルタンメトリー[(-)Mo|Ti+TiH
2+アセチレンブラック|Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85|Mo(+)セル@60℃]であり、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85の電位窓は-0.13から0.58V vs Ti/TiH
2の範囲にあった。これまで、ヒドリドイオン伝導体についての電位窓の測定はほとんど行われていなかった。本発明の一実施態様で用いられる金属水素化物は、還元されにくい電位窓(下限-0.13V)を示している。これは、当該金属水素化物が、第2族元素(典型的にはBaやCa等)を含み、それらはLa(従来のヒドリドイオン伝導体に含まれることがある)に比べて比較的還元されにくいためであると考えられる。また、水素発生(酸化)反応は、質量分析計によるH
2シグナルをin-situ観察し、0,7V vs Ti/TiH
2以上で進行したため、
図10の電位窓の外で生じることが確認されている。
【0103】
(3)水素発生反応
図11は、本発明の一実施態様で用いられる金属水素化物である、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85を固体ヒドリドイオン伝導体(固体電解質)として用い、金属電極合材を用い、非対称セルを作成した場合の、定電流酸化反応中[(-)Mo|TiH
2+アセチレンブラック+Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85|Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85|Mo(+)セル@60℃]の、電圧(下段)及び質量分析計によるH
2シグナル(上段)、を示した図である。本システム(セル)に充電することにより、分子状水素(H
2)が放出されることが確認された。
【0104】
(4)水素吸蔵反応
図14は、本発明の一実施態様で用いられる金属水素化物である、Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85を固体ヒドリドイオン伝導体(固体電解質)として用い、金属電極合材を用い、水素電極合剤を用い、非対称セルを作成した場合の、定電流還元反応中[(-)Mo|Ti+アセチレンブラック+Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85|Ba
0.5Ca
0.35Na
0.15H
1.85|Pd(+)セル@60℃]の、放電容量を示した図である。本システム(セル)を放電することにより、Tiの水素吸蔵反応に相当する放電容量が確認された。