(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127039
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電極板の検査方法、蓄電デバイスの製造方法、および電極板の検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20240912BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240912BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20240912BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20240912BHJP
【FI】
G01N21/892 B
H01M4/139
H01M4/04 A
H01G13/00 361Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035877
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517232992
【氏名又は名称】パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】山崎 友道
(72)【発明者】
【氏名】坂井 朋英
(72)【発明者】
【氏名】巣之内 聡裕
(72)【発明者】
【氏名】谷永 朝一
【テーマコード(参考)】
2G051
5E082
5H050
【Fターム(参考)】
2G051AA37
2G051AB07
2G051BB01
2G051BB07
2G051CA04
2G051CA06
2G051CB01
2G051DA06
2G051EC03
5E082AB10
5E082MM04
5E082MM32
5H050AA19
5H050BA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050GA28
(57)【要約】
【課題】電極板の塗工材上の陥没部を正しく検出する。
【解決手段】陥没部を検出する検査は、電極板1の幅方向に延びる線状の光L1を塗工材3の表面に対して斜めに当て、さらに電極板1を長手方向に移動させる工程と、塗工材3による光L1の正反射光L2を取得する工程と、取得した正反射光L2を幅方向に分割処理し、幅方向の複数領域のそれぞれにおいて、長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める工程と、幅方向の複数領域における明度の代表値が同じになるような補正値を幅方向の領域ごとに求める工程と、幅方向の各領域における正反射光L2の明度に補正値を加算する工程と、補正値が加算された後の正反射光L2の明度分布において、予め定められた閾値よりも明度の低い暗部を検出し、検出された暗部を陥没部と判定する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された電極板を検査する方法であって、
前記塗工材の陥没部を検出する検査を含み、
前記陥没部を検出する検査は、
前記電極板の幅方向に延びる線状の光を前記塗工材の表面に対して斜めに当て、さらに、前記電極板を前記光に対して前記幅方向に直交する長手方向に移動させる工程と、
前記塗工材による前記光の正反射光を取得する工程と、
前記取得した正反射光を前記幅方向に分割処理し、前記幅方向の複数領域のそれぞれにおいて、前記長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める工程と、
前記幅方向の複数領域における前記明度の代表値が同じになるような補正値を前記幅方向の領域ごとに求める工程と、
前記幅方向の各領域における前記正反射光の明度に前記補正値を加算する工程と、
前記補正値が加算された後の前記正反射光の明度分布において、予め定められた閾値よりも明度の低い暗部を検出し、検出された前記暗部を陥没部と判定する工程と、を含む、
電極板の検査方法。
【請求項2】
前記明度の代表値は、平均値である、
請求項1に記載の電極板の検査方法。
【請求項3】
前記陥没部を検出する検査は、予め定められた大きさ以上の暗部が予め定められた数以上に検出された場合に前記電極板を不良と判定する工程を含む、
請求項1に記載の電極板の検査方法。
【請求項4】
前記電極板は、負極活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された負極板である、
請求項1に記載の電極板の検査方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載の電極板の検査方法を含む、蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された電極板をその長手方向に搬送する搬送装置と、
前記搬送装置によって搬送されている前記電極板の前記塗工材の表面に対して、前記電極板の幅方向に延びる線状の光を斜めに照射する照明装置と、
前記照明装置によって照射される光の前記塗工材による正反射光の経路上に配置され、前記塗工材の前記長手方向の複数箇所における正反射光を順次取得する取得装置と、
前記塗工材の陥没部の有無を判定する判定装置と、を備え、
前記判定装置は、
前記取得装置によって取得された正反射光を前記幅方向に分割処理し、前記幅方向の複数領域のそれぞれにおいて、前記長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める第1処理部と、
前記幅方向の複数領域における前記明度の代表値が同じになるような補正値を前記幅方向の領域ごとに求める第2処理部と、
前記幅方向の各領域における前記正反射光の明度に前記補正値を加算する第3処理部と、
前記補正値が加算された後の前記正反射光の明度分布において、予め定められた閾値よりも明度の低い暗部を検出し、検出された前記暗部を陥没部と判定する第4処理部と、を備えている、
電極板の検査装置。
【請求項7】
前記第1処理部は、前記明度の代表値として平均値を算出する、
請求項6に記載の電極板の検査装置。
【請求項8】
前記判定装置は、予め定められた大きさ以上の暗部が予め定められた数以上に検出された場合に前記電極板を不良と判定する第5処理部を備えている、
請求項6に記載の電極板の検査装置。
【請求項9】
前記電極板は、負極活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された負極板である、
請求項6に記載の電極板の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極板の検査方法、蓄電デバイスの製造方法、および電極板の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、帯状の金属箔上に活物質合材の層を形成する塗工工程と、加圧により活物質層の密度を高めるプレス工程と、活物質層の異常を検出する検査工程とを含む二次電池の製造方法が開示されている。特許文献1に開示された検査工程では、活物質層の膜厚の異常や活物質層の傷、混入した異物などを異常として検出する。
【0003】
また、例えば特許文献2には、リチウムイオン二次電池の負極合材層の表面に析出したリチウムを検出するリチウム析出検査装置が開示されている。特許文献2に開示された検査装置では、負極合材層に白色光を照射し、その反射光の画像データを取得することにより、析出リチウムを検出する。検査装置は、画像データをRGB形式で取得し、画像データの各画素の情報を色相角度および明度に変換する。特許文献2に開示された検査装置は、リチウム析出がある場合特有の色相角度および明度を示す画素が存在するかどうかを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-069131号公報
【特許文献2】特開2021-021579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗工材の表面に、周囲よりも凹んだ陥没部が発生する場合がある。電極板の検査では、塗工材に陥没部が発生していないかどうかを検査することが好ましい。原理的には、塗工材に光を当て、反射光の明度分布を取得することにより、陥没部を発見することができる。陥没部は正常部分よりも反射光の明度が低いため、これを発見できる。しかしながら、塗工材のプレスには場所によるばらつきがあり、これにより、塗工材の正常部分による反射光の明度にも場所によるばらつきがある。そのため、正常部分と陥没部とを区別するための明度の閾値を設定しても、正常部分の明度のばらつきにより、陥没部を正しく検出できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで提案される電極板の検査方法は、活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された電極板を検査する方法であって、前記塗工材の陥没部を検出する検査を含む。前記陥没部を検出する検査は、前記電極板の幅方向に延びる線状の光を前記塗工材の表面に対して斜めに当て、さらに、前記電極板を前記光に対して前記幅方向に直交する長手方向に移動させる工程と、前記塗工材による前記光の正反射光を取得する工程と、前記取得した正反射光を前記幅方向に分割処理し、前記幅方向の複数領域のそれぞれにおいて、前記長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める工程と、前記幅方向の複数領域における前記明度の代表値が同じになるような補正値を前記幅方向の領域ごとに求める工程と、前記幅方向の各領域における前記正反射光の明度に前記補正値を加算する工程と、前記補正値が加算された後の前記正反射光の明度分布において、予め定められた閾値よりも明度の低い暗部を検出し、検出された前記暗部を陥没部と判定する工程と、を含んでいる。
【0007】
また、ここで提案される電極板の検査装置は、活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された電極板をその長手方向に搬送する搬送装置と、前記搬送装置によって搬送されている前記電極板の前記塗工材の表面に対して、前記電極板の幅方向に延びる線状の光を斜めに照射する照明装置と、前記照明装置によって照射される光の前記塗工材による正反射光の経路上に配置され、前記塗工材の前記長手方向の複数箇所における正反射光を順次取得する取得装置と、前記塗工材の陥没部の有無を判定する判定装置と、を備える。前記判定装置は、第1処理部、第2処理部、第3処理部、および第4処理部を備えている。前記第1処理部は、前記取得装置によって取得された正反射光を前記幅方向に分割処理し、前記幅方向の複数領域のそれぞれにおいて、前記長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める。前記第2処理部は、前記幅方向の複数領域における前記明度の代表値が同じになるような補正値を前記幅方向の領域ごとに求める。前記第3処理部は、前記幅方向の各領域における前記正反射光の明度に前記補正値を加算する。前記第4処理部は、前記補正値が加算された後の前記正反射光の明度分布において、予め定められた閾値よりも明度の低い暗部を検出し、検出された前記暗部を陥没部と判定する。
【0008】
上記電極板の検査方法および検査装置によれば、塗工材の表面に対して線状の光を斜めに照射して正反射光を取得することにより、例えば拡散照明の場合と比べて正常部分と陥没部との明度の差を大きくし、正常部分と陥没部との区別をしやすくできる。さらに、電極板の幅方向に設定した複数領域のそれぞれにおいて長手方向の複数箇所の明度の代表値を求め、上記代表値が同じになるような補正値を領域ごとに求めることにより、塗工材上の場所による明度のばらつきを補正することができる。これにより補正後の正常部分の明度が揃うため、閾値に基づいて陥没部を正しく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】電極板の検査プロセスを示すフローチャートである。
【
図4】正反射光の明度分布の一例を示すグラフである。
【
図5】補正値の算出方法の一例を示す平均明度のグラフである。
【
図6】補正後の正反射光の明度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、電極板検査装置の一実施形態を説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、各図は、模式図であり、必ずしも実際の実施品が忠実に反映されたものではない。以下では、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0011】
[電極板検査装置の構成]
図1は、電極板検査装置10の模式的な側面図である。電極板検査装置10による検査対象である電極板1は、蓄電デバイス、例えばリチウムイオイン二次電池の電極板である。本明細書において「蓄電デバイス」とは、繰り返し充放電が可能なデバイス全般を指す用語であって、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等のような化学電池と電気二重層キャパシタ等のような物理電池とを含む概念である。
【0012】
図1に示すように、電極板1は、活物質を含む塗工材3が集電板2に塗工されたものであり、帯状に形成されている。電極板検査装置10は、塗工材3の表面に陥没部5(
図2参照)があるかどうかを検査する。陥没部5は、周囲の正常部分4(
図2参照)よりも凹んだ欠陥である。電極板検査装置10は、塗工材3が集電板2に塗工され圧延された後の(プレス工程を経た後の)電極板1に対して陥没部5の検査を行う。
【0013】
本実施形態では、電極板検査装置10は、負極活物質を含む塗工材3が負極集電板2に塗工された負極板1を検査する。負極板1の塗工材3の欠陥には、正イオンが析出しやすい。そのため、負極板1における陥没部5の検査は、正極板におけるそれよりも重要である。ただし、電極板検査装置10は、正極板の陥没部の有無を検査するために用いられてもよい。
【0014】
図1に示すように、電極板検査装置10は、搬送装置20と、照明装置30と、反射光の取得装置40と、陥没部5(
図2参照)の有無を判定する判定装置50と、を備えている。
【0015】
搬送装置20は、電極板1をその長手方向に搬送する。電極板1の長手方向は、電極板1の幅方向に直交する方向である。
図1に示すように、搬送装置20は、電極板1の塗工材3が塗工された面の裏面に接し、電極板1を搬送する搬送ローラ21を備えている。
【0016】
照明装置30は、搬送装置20によって搬送されている電極板1の塗工材3の表面に対して、電極板1の幅方向に延びる線状の光L1(以下、検査光L1とも呼ぶ)を斜めに照射する。照明装置30は、図示しない光源と、線状の検査光L1を生成するスリット31と、を備えている。
【0017】
取得装置40は、照明装置30によって照射される検査光L1の塗工材3による正反射光L2の経路上に配置されている。ここで、「正反射光L2の経路上」とは、実質的に正反射光L2を受け得る位置のことを意味し、例えば、計算上の経路中心から若干ずれた位置であってもよい。取得装置40は、塗工材3による正反射光L2を取得するように構成されている。取得装置40は、例えばカメラである。取得装置40は、搬送装置20によって電極板1が長手方向に搬送されるのに伴い、塗工材3の長手方向の複数箇所における正反射光L2を順次取得する。取得装置40は、例えば、予め定められたサンプリング周期毎に正反射光L2を取得する。取得装置40によって取得される正反射光L2は、電極板1の幅方向に沿って分布するとともに、長手方向について順次取得することにより、長手方向にも分布している。すなわち、取得装置40は、電極板1の表面に沿った正反射光L2の面分布を取得する。
【0018】
図2は、陥没部5付近を撮像した画像の模式図である。かかる画像は、取得装置40によって取得される電極板1の表面に沿った正反射光L2の面分布を画像化することによって得られる。
図2に示すように、陥没部5は、周囲の正常部分4よりも明度の低い暗部6として認識される(
図2ではハッチングにて表現)。なお、取得装置40は陥没部5に対して斜めに照射された検査光L1の正反射光L2を取得しているため、画像の陥没部5は電極板1の長手方向が圧縮され、楕円状となっている。本願発明者の知見によれば、正常部分4と陥没部5との明度差は、例えば照明装置30から拡散光を照射して反射光を取得する条件よりも、照明装置30からスリット31による非拡散光を照射して正反射光を取得する条件において大きい。そのため、正反射光L2を利用することにより、陥没部5を検出しやすい。
【0019】
本願発明者の知見によれば、陥没部5は、主として、プレス工程の前に塗工材3内の気泡が逃げることにより生成される。プレス工程では、気泡が逃げる際に盛り上がった陥没部5の周縁部7が特に強く圧延され、平滑になる。そのため、周縁部7は検査光L1を正反射させやすく(以下、正反射率が高いとも言う)、画像では特に明度が高い。一方、陥没部5はプレス工程において圧延されず、平坦化しない。そのため、陥没部5は検査光L1を乱反射させやすく(以下、正反射率が低いとも言う)、画像では明度が低い。
【0020】
判定装置50は、取得装置40に接続され、塗工材3の陥没部5の有無を判定する。
図1に示すように、判定装置50は、第1処理部51と、第2処理部52と、第3処理部53と、第4処理部54と、第5処理部55と、を備えている。判定装置50の構成は特に限定されない。判定装置50は、電極板検査装置10に内蔵されていてもよく、電極板検査装置10に接続されたコンピュータ等でによって構成されていてもよい。判定装置50は、記憶装置(メモリなど)と、演算装置(CPUなど)とを備えていてもよく、各機能は、物理的な構成要素と、予め定められたプログラムに沿って行われた演算結果に基づく制御との協働によって適宜に具現化されうる。
【0021】
第1処理部51は、取得装置40によって取得された正反射光L2を電極板1の幅方向に分割処理し、幅方向の複数領域R1~Rm(
図4参照)のそれぞれにおいて、長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める。本実施形態では、第1処理部51は、明度の代表値として平均値を算出する。ただし、複数箇所の明度の代表値は平均値には限定されず、例えば、中央値等であってもよい。
【0022】
後で例示するが、プレス工程における塗工材3のプレスは幅方向の中央部で強く、端部で弱い傾向にある。そのため、塗工材3の幅方向の中央部は平滑度が高く、正反射率が高い。一方、塗工材3の幅方向の端部は中央部よりも平滑度が低く、正反射率が低い。そのため、正反射光L2の明度は、幅方向の複数領域R1~Rmによってばらついている。第1処理部51で求める明度の代表値は、幅方向の複数領域R1~Rmのうち、中央部の領域で大きく、端部でそれより小さい傾向にある。
【0023】
第2処理部52は、幅方向の複数領域R1~Rmにおける明度の代表値が同じになるような補正値を幅方向の領域R1~Rmごとに求める。第3処理部53は、幅方向の各領域R1~Rmにおける正反射光の明度に、第2処理部52で求めた補正値を加算する。かかる処理により、複数領域R1~Rmにおける正反射光L2の補正後の明度差は縮小する。
【0024】
第4処理部54は、補正値が加算された後の正反射光L2の明度分布において、予め定められた閾値T1(
図6参照)よりも明度の低い暗部を検出し、検出された暗部を陥没部5と判定する。第5処理部55は、予め定められた大きさ以上の暗部6(
図2参照)が予め定められた数以上に検出された場合に電極板1を不良と判定する。
【0025】
[電極板の検査プロセス]
図3は、電極板1の検査プロセスを示すフローチャートである。電極板1の検査では、陥没部5の検出、および、それに基づく電極板1の良否判定を行う。
図3に示すように、電極板1の検査のステップS01では、電極板1の幅方向に延びる線状の検査光L1を塗工材3の表面に対して斜めに照射する。ステップS01では、さらに、電極板1を検査光L1に対して電極板1の長手方向に移動させる。本実施形態では、検査光L1は不動であり電極板1が搬送装置20によって搬送されるが、検査光L1が移動されてもよい。
【0026】
ステップS02では、塗工材3による検査光L1の正反射光L2を、取得装置40により取得する。正反射光L2は、電極板1の幅方向の複数箇所で同時に取得され、かつ、電極板1が検査光L1に対して電極板1の長手方向に移動することにより、長手方向に関しても複数箇所で取得される。本実施形態では、電極板1が長手方向に連続的に移動される間に、長手方向の複数箇所の正反射光L2が取得される。ただし、正反射光L2の分布の取得方法はこれに限定されない。正反射光L2の分布は、例えば、電極板1が間欠的に搬送される間に取得されてもよい。
【0027】
図4は、正反射光L2の明度分布の一例を示すグラフである。
図4のグラフG1は、長手方向の一位置における正反射光L2の明度分布を示すグラフである。
図4の横軸は電極板1の幅方向の位置であり、縦軸は明度である。グラフG1の上の図は、グラフG1に対応する箇所の電極板1を示す模式図である。
【0028】
グラフG1に示すように、正反射光L2の明度は、塗工材3の中央部で大きく、端部で小さい。ただし、プレス工程によっては、上記したのとは異なる傾向で正反射光L2の明度がばらつくこともあり得る。塗工材3上の場所による正反射光L2の明度のばらつきの態様は特に定まってるものではない。なお、
図4に示すように、塗工材3が塗工されていない集電板2の未塗工部2aによる正反射光L2の明度は、塗工材3による正反射光L2の明度よりも大きい。
【0029】
図4の上の図に示すように、ここに示す例では、塗工材3には複数の陥没部5が発生しているものとする。各陥没部5の明度は、それぞれの周囲の正常部分4の明度よりも小さい。グラフG1において、明度が低い谷部Gaは、陥没部5を示している。陥没部5は、周囲の正常部分4との明度差により判別できる。しかし、正常部分4の明度が複数領域R1~Rmの間で異なるため、正常部分4と陥没部5とを区別するための共通の閾値を設定しても、陥没部5を正しく検出できないことがあり得る。例えば、
図4に示すように、閾値T0であったとすると、複数領域R1~Rmの中央部では陥没部5を検出できる。しかし、端部では、正常部分4までが明度が閾値T0未満の箇所となり、陥没部5を正しく検出できない。本実施形態では、続くステップにおいてこれを解決する。
【0030】
ステップS03では、ステップS02で取得した正反射光L2を電極板1の幅方向に分割処理し、幅方向の複数領域R1~Rmのそれぞれにおいて、長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める。本実施形態では、所定の距離(例えば1m)を処理単位として設定し、上記所定距離だけ電極板1が長手方向に搬送される間に取得された複数の明度データから代表値を求める。すなわち、長手方向の所定距離ごとに代表値が算出される。ここでは、代表値として平均値を求める。幅方向の複数領域R1~Rmは、取得装置40の検出解像度の下で可能な限りにおいて任意に設定されてよい。長手方向の複数箇所の明度の代表値を求めることにより、各領域R1~Rmの正常部分4の標準的な明度を求めることができる。領域内に陥没部5が存在したとしても、正常部分4の面積に対する陥没部5の面積は僅かであるため、陥没部5の存在が明度の代表値に与える影響はほとんどない。
【0031】
ステップS04では、幅方向の複数領域R1~Rmにおける明度の代表値が同じになるような補正値を幅方向の領域R1~Rmごとに求める。これらの補正値は、幅方向の複数領域R1~Rmにおける明度の代表値の間の差を解消するような補正値である。幅方向の複数領域R1~Rmにおける明度の代表値にこれらの補正値をそれぞれ付加することにより、補正値を付加後の明度の代表値が複数領域R1~Rmの間で同じとなる。
図5は、補正値の算出方法の一例を示す平均明度のグラフである。
図5のグラフG2は、ステップS03で求めた平均明度のグラフである。グラフG3は、ステップS04で求めた各補正値をグラフG2に加算したものである。
図5に示す方法では、グラフG2において平均明度が最も高い領域Rmaxに他の領域の明度を合わせるように補正値が決定される。
図5に示すように、例えば、領域R1には補正値C1が設定され、領域Rmには補正値Cmが設定される。これにより、グラフG3に示すように、幅方向の複数領域R1~Rmが示す平均明度が揃う。この補正された平均明度をB1とする。
【0032】
ただし、
図5に示した方法は一例であり、補正値の算出方法は上記に限定されない。例えば、各補正値は、補正後の各領域R1~Rmの明度が予め定められた明度と等しくなるように決定されてもよい。その場合、補正値の一部または全部はマイナスの値であってもよい。
【0033】
ステップS05では、幅方向の各領域R1~Rmにおける正反射光L2の明度に補正値を加算する。
図6は、補正後の正反射光L2の明度分布を示すグラフである。
図6のグラフG4に示すように、正常部分4による正反射光L2の補正後の明度は、塗工材3の幅方向の位置によらず概ね揃っている。かつ、正常部分4による正反射光L2の補正後の明度は、補正後の平均明度B1(
図5参照)に近い。陥没部5の補正後の明度は、正常部分4の補正後の明度よりも低い。
【0034】
ステップS06では、補正値が加算された後の正反射光L2の明度分布において、予め定められた閾値T1よりも明度の低い暗部Gbを検出し、検出された暗部Gbを陥没部5と判定する。グラフG4の暗部Gbは、
図2の画像の暗部6に対応する。正常部分4の補正後の明度は、ステップS05により、塗工材3の幅方向の位置によらず概ね揃っている。そのため、
図6に示すように、塗工材3上の位置による正反射光L2の明度のばらつきの影響を抑制し、予め定めた閾値T1に基づいて、陥没部5を正しく検出することができる。
【0035】
なお、「予め定められた」閾値T1は、補正後の平均明度B1(または他の代表明度)に対して予め定められた閾値であってもよい。例えば、閾値T1は、補正後の平均明度B1からの差分として定められていてもよい。閾値T1は明度の絶対値として予め定められていてもよい。例えば、補正後の平均明度B1が予め定められた明度となるように補正値を算出する場合には、閾値T1は明度の絶対値であってもよい。または、プレス工程の品質が安定している場合には、補正値の算出方法によらず、閾値T1を明度の絶対値として定めることも可能である。
【0036】
ステップS07では、予め定められた大きさ以上の暗部6が予め定められた数以上に検出されたかどうかを判定する。
図3に示すように、予め定められた大きさ以上の暗部6(
図3では、単に「暗部」と記載する)が予め定められた数よりも少ない場合(ステップS07の結果がYESの場合)、ステップS08において、電極板1は、陥没部5に関して良品と判定される。予め定められた大きさ以上の暗部6が予め定められた数以上に検出された場合(ステップS07の結果がNOの場合)には、ステップS09において、電極板1を不良と判定する。本実施形態では、予め定められた大きさよりも小さい暗部6が検出されても、電極板1の良否判定には使用されない。暗部6の大きさは、ここでは、画像上の暗部6(
図2参照)の電極板1の幅方向に関する長さにより表される。ただし、暗部6の大きさは、他の基準(例えば、暗部6の面積)によって表されてもよい。上記予め定められた暗部6の数は1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0037】
[実施形態の作用効果]
以下に、本実施形態に係る電極板検査装置10、および、これを使用した検査方法によって奏することのできる作用効果について説明する。
【0038】
本実施形態に係る電極板検査装置10は、搬送装置20によって搬送されている電極板1の塗工材3の表面に対して電極板1の幅方向に延びる線状の検査光L1を斜めに照射する照明装置30と、照明装置30によって照射される検査光L1の塗工材3による正反射光L2の経路上に配置され、塗工材3の長手方向の複数箇所における正反射光L2を順次取得する取得装置40と、塗工材3の陥没部5の有無を判定する判定装置50と、を備えている。判定装置50は、第1処理部51~第4処理部54を備えている。第1処理部51は、取得装置40によって取得された正反射光L2を電極板1の幅方向に分割処理し、幅方向の複数領域R1~Rmのそれぞれにおいて、電極板1の長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める。第2処理部52は、幅方向の複数領域R1~Rmにおける明度の代表値が同じになるような補正値を幅方向の領域R1~Rmごとに求める。第3処理部53は、幅方向の各領域R1~Rmにおける正反射光L2の明度に補正値を加算する。第4処理部54は、補正値が加算された後の正反射光L2の明度分布において、予め定められた閾値T1よりも明度の低い暗部Gbを検出し、検出された暗部Gbを陥没部5と判定する。かかる電極板検査装置10によれば、前述した理由により、塗工材3上の位置による正反射光L2の明度のばらつきによらず、陥没部5を正しく検出することができる。
【0039】
本実施形態では、第1処理部51は、明度の代表値として平均値を算出するように構成されている。本実施形態の場合、電極板1の長手方向の複数箇所の明度に大きな偏りはないと考えられる。そのため、平均値は、複数の値の代表値として信頼性が高い。
【0040】
本実施形態では、判定装置50は、予め定められた大きさ以上の暗部6が予め定められた数以上に検出された場合に電極板1を不良と判定する第5処理部55を備えている。かかる構成によれば、予め定められた大きさよりも小さい暗部6は、電極板1の良否判定には利用されない。そのため、過剰品質による電極板1の不良率増加を防止できる。
【0041】
本実施形態では、電極板1は、負極活物質を含む塗工材3が集電板2に塗工され圧延された負極板である。負極板1の塗工材3の欠陥には、正イオンが析出しやすい。そのため、陥没部5の検査は、負極板1において特に重要である。
【0042】
以上、ここで提案される電極板検査装置の一実施形態について説明した。しかし、上記実施形態は一例に過ぎず、他の態様で実施することもできる。上記した実施形態は、特に言及された場合を除いて本発明を限定しない。また、ここで開示される技術は、種々変更でき、特段の問題が生じない限りにおいて、各構成要素やここで言及された各処理は適宜に省略され、または、適宜に組み合わされ得る。
【0043】
本明細書は、以下の各項に記載の開示を含んでいる。
【0044】
項1:
活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された電極板を検査する方法であって、
前記塗工材の陥没部を検出する検査を含み、
前記陥没部を検出する検査は、
前記電極板の幅方向に延びる線状の光を前記塗工材の表面に対して斜めに当て、さらに、前記電極板を前記光に対して前記幅方向に直交する長手方向に移動させる工程と、
前記塗工材による前記光の正反射光を取得する工程と、
前記取得した正反射光を前記幅方向に分割処理し、前記幅方向の複数領域のそれぞれにおいて、前記長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める工程と、
前記幅方向の複数領域における前記明度の代表値が同じになるような補正値を前記幅方向の領域ごとに求める工程と、
前記幅方向の各領域における前記正反射光の明度に前記補正値を加算する工程と、
前記補正値が加算された後の前記正反射光の明度分布において、予め定められた閾値よりも明度の低い暗部を検出し、検出された前記暗部を陥没部と判定する工程と、を含む、
電極板の検査方法。
【0045】
項2:
前記明度の代表値は、平均値である、
項1に記載の電極板の検査方法。
【0046】
項3:
前記陥没部を検出する検査は、予め定められた大きさ以上の暗部が予め定められた数以上に検出された場合に前記電極板を不良と判定する工程を含む、
項1または2に記載の電極板の検査方法。
【0047】
項4:
前記電極板は、負極活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された負極板である、
項1~3のいずれか一つに記載の電極板の検査方法。
【0048】
項5:
項1~4のいずれか一つに記載の電極板の検査方法を含む、蓄電デバイスの製造方法。
【0049】
項6:
活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された電極板をその長手方向に搬送する搬送装置と、
前記搬送装置によって搬送されている前記電極板の前記塗工材の表面に対して、前記電極板の幅方向に延びる線状の光を斜めに照射する照明装置と、
前記照明装置によって照射される光の前記塗工材による正反射光の経路上に配置され、前記塗工材の前記長手方向の複数箇所における正反射光を順次取得する取得装置と、
前記塗工材の陥没部の有無を判定する判定装置と、を備え、
前記判定装置は、
前記取得装置によって取得された正反射光を前記幅方向に分割処理し、前記幅方向の複数領域のそれぞれにおいて、前記長手方向の複数箇所の明度の代表値を求める第1処理部と、
前記幅方向の複数領域における前記明度の代表値が同じになるような補正値を前記幅方向の領域ごとに求める第2処理部と、
前記幅方向の各領域における前記正反射光の明度に前記補正値を加算する第3処理部と、
前記補正値が加算された後の前記正反射光の明度分布において、予め定められた閾値よりも明度の低い暗部を検出し、検出された前記暗部を陥没部と判定する第4処理部と、を備えている、
電極板の検査装置。
【0050】
項7:
前記第1処理部は、前記明度の代表値として平均値を算出する、
項6に記載の電極板の検査装置。
【0051】
項8:
前記判定装置は、予め定められた大きさ以上の暗部が予め定められた数以上に検出された場合に前記電極板を不良と判定する第5処理部を備えている、
項6または7に記載の電極板の検査装置。
【0052】
項9:
前記電極板は、負極活物質を含む塗工材が集電板に塗工され圧延された負極板である、
項6~8のいずれか一項に記載の電極板の検査装置。
【符号の説明】
【0053】
1 電極板
2 集電板
2a 未塗工部
3 塗工材
4 正常部分
5 陥没部
6 暗部(画像)
7 周縁部
10 電極板検査装置
20 搬送装置
21 搬送ローラ
30 照明装置
31 スリット
40 取得装置
50 判定装置
51 第1処理部
52 第2処理部
53 第3処理部
54 第4処理部
55 第5処理部
L1 検査光(光)
L2 正反射光
R1~Rm 幅方向の領域
B1 補正後の平均明度
C1、Cm 補正値
T1 閾値
Gb 暗部(データ)