(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127043
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240912BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0566
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035882
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】前田 将基
(72)【発明者】
【氏名】三宅 雅秀
(72)【発明者】
【氏名】余語 純一
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ03
5H029CJ16
5H029HJ04
5H029HJ07
5H029HJ14
5H029HJ15
(57)【要約】
【課題】二次電池の電池容量を向上させる製造方法を提供すること。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、非水電解液と、が電池ケースに収容された電池組立体を構築する工程と、電池組立体を初期充電する工程と、初期充電工程後の電池組立体を40℃以上の高温で保持する高温保持工程と、高温保持工程の後に、電池組立体を常温で3時間を超えて保持する常温保持工程と、常温保持工程後の電池組立体を、電極体の積層方向に沿って押圧し、解放するガス抜き工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、非水電解液と、が電池ケースに収容された電池組立体を構築する工程と、
前記電池組立体を初期充電する工程と、
前記初期充電工程後の電池組立体を40℃以上の高温で保持する高温保持工程と、
前記高温保持工程の後に、前記電池組立体を常温で3時間を超えて保持する常温保持工程と、
前記常温保持工程後の前記電池組立体を、前記電極体の積層方向に沿って押圧し、解放するガス抜き工程と、
を含む非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記ガス抜き工程では、0.1kN以上5kN以下の圧力で前記電池組立体を前記電極体の積層方向に沿って押圧する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ガス抜き工程では、押圧前の前記電池組立体の積層方向の長さを100%としたときに、前記電池組立体の積層方向の長さが7.5%~10%短くなるように押圧する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記常温保持工程では、前記電池組立体を常温で6時間以上保持する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記高温保持工程および前記常温保持工程の少なくとも一方の工程は、前記電池組立体を、前記電極体の積層方向に沿って押圧する押圧処理をさらに含み、
前記ガス抜き工程における押圧の圧力は、前記押圧処理における押圧の圧力よりも高い圧力で実施される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記正極は、正極集電体と、該正極集電体上に配置された正極活物質層と、を備え、
前記負極は、負極集電体と、該負極集電体上に配置された負極活物質層と、を備え、
前記電極体は、前記正極活物質層と、前記負極活物質層とが前記セパレータを介して対向するように積層されており、
前記ガス抜き工程では、前記電極体において前記正極活物質層が存在する領域の面積を100%としたときに、少なくとも50%以上の領域を積層方向に沿って押圧する、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、様々な分野において広く用いられている。例えば、二次電池は、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車などの車両駆動用電源などに用いられる。この種の二次電池の一形態として、電解質として非水電解液を用いた非水電解液二次電池が挙げられる。一般的に、かかる非水電解液二次電池は、電極体と非水電解液とが電池ケースの内部に収容された電池組立体を用意し、当該電池組立体に初期充電、高温エージングなどを実施することによって製造される。
【0003】
引用文献1および2では、上記したような非水電解液二次電池の製造方法が開示されている。例えば引用文献1では、電極体と電解液とを電池ケースに収容し、予備充電中もしくは予備充電後に減圧処理を実施した後、電池ケースの開口部を封口することが開示されている。また、引用文献2では、電極体と非水電解液とが収容された電池組立体を構築し、当該電池組立体を拘束した後、初期充電することが開示されており、初期充電後に電池組立体への拘束を緩めた後、再度拘束圧を加えるポンピング工程を実施することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-90974号公報
【特許文献2】特開2020-149802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電池組立体を充電した際には、充電に伴って電極体の内部で種々の反応が進む。一例として、非水電解液二次電池では、初期充電の際に非水電解液の一部が還元分解され、負極活物質の表面にSEI膜(Solid Electrolyte Interface)と呼ばれる被膜が形成され得る。このような充電に伴う反応が進むと、電極体内部にガスが発生することがある。かかるガスが電極体の内部に滞留した場合には、電池容量が低下する虞がある。特許文献1に記載の技術では、予備充電の後に減圧処理を実施することでガスを好適に放出することが記載されているが、本発明者らが検討した結果によれば、予備充電の後にガスを放出しただけでは二次電池の容量が低下することを見出した。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、二次電池の電池容量を向上させる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される製造方法は、正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、非水電解液と、が電池ケースに収容された電池組立体を構築する工程と、上記電池組立体を初期充電する工程と、上記初期充電工程後の電池組立体を40℃以上の高温で保持する高温保持工程と、上記高温保持工程の後に、上記電池組立体を常温で3時間を超えて保持する常温保持工程と、上記常温保持工程後の電池組立体を、上記電極体の積層方向に沿って押圧し、解放するガス抜き工程と、を含む。
【0008】
電池組立体を初期充電および高温保持した後に常温保持することで、電極体の内部において充電に伴って進行する種々の反応を概ね完了させることができ、これによってさらなるガスの発生を抑制することができる。このため、常温保持工程後のタイミングでガス抜き工程を実施することで、電極体の内部に滞留したガスを好適に電極体の外部に放出することができる。そして、電極体の内部におけるガスの滞留が解消されることにより、電池容量が向上する。したがって、かかる構成によれば、電池容量が向上した二次電池の製造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る製造方法を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る電池を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る電池の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る電極体の構成を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、常温保持工程の保持時間と放電容量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、ここで開示される技術の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、ここに開示される技術を特徴付けない電池の一般的な構成および製造プロセス等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と、当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下を意味する。
【0011】
本明細書において「非水電解液二次電池」とは、電解質として非水系の電解液を用いた繰り返し充放電可能な電池一般をいう。かかる非水電解液二次電池の典型例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。このリチウムイオン二次電池は、電解質イオン(電荷担体)としてリチウム(Li)イオンを利用し、正極と負極との間をリチウムイオンが移動することによって充放電を行う二次電池である。また、本明細書において「活物質」とは、電荷担体を可逆的に吸蔵、放出する材料をいう。なお、下記実施形態では、非水電解液二次電池としてリチウムイオン二次電池を用いているが、ここに開示される技術は、リチウムイオン二次電池に限定されず、他の非水電解液二次電池(例えばナトリウムイオン電池など)に適用することもできる。
【0012】
図1は、ここに開示される製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、ここに開示される製造方法は、組立体構築工程S10と、初期充電工程S20と、高温保持工程S30と、常温保持工程S40と、ガス抜き工程S50と、を含んでいる。ここに開示される製造方法では、電池組立体を60℃以上で保持する高温保持工程S30を実施した後、常温で3時間を超えて保持する常温保持工程S40を実施し、常温保持工程S40を実施した後に電極体の積層方向に沿って電池組立体を押圧し、解放するガス抜き工程S50を実施することにより特徴づけられている。したがって、それ以外の製造プロセスは従来と同様であってもよい。また、任意の段階でさらに他の工程を含んでいてもよい。
【0013】
ここに開示される製造方法においては、上記したとおり初期充電工程S20および高温保持工程S30を実施した後に、常温保持工程S40を実施し、その後、ガス抜き工程S50を実施することにより、電極体の内部におけるガスの滞留を好適に解消することができる。ここに開示される技術を限定する意図はないが、かかる効果が得られる理由は、以下のように推測される。電池組立体を初期充電した後、高温にて保持することにより、電極体の内部において充電に伴う種々の反応が促進される。一例として、負極の表面において、SEI膜(Solid Electrolyte Interface)と呼ばれる被膜の形成が促進される。電極体の内部で充電に伴う反応が進むと、これに起因してガスが生じ得る。このようなガスが電極体の内部に滞留すると、内部抵抗が高くなる等によって電池容量(放電容量)が低下し得る。ところで、上記したような反応は、電池組立体を高温保持することにより促進されると考えられていたが、本発明者らの検討によれば、高温保持を終了した後においても、例えば余熱等で反応が促進されている。このため、高温保持工程の後、常温において3時間を超えて保持することにより、電極体内部の反応を概ね完了させることができ、さらなるガスの発生を抑制することができる。そして、常温保持工程が完了したタイミングでガス抜き工程を実施することにより、電極体内部におけるガスの滞留を好適に解消することができる。かかる構成によれば、非水電解液二次電池の電池容量を好適に向上させる製造方法を実現することができる。
以下、ここに開示される製造方法の詳細について図を参照しながら説明する。
【0014】
図2は、ここに開示される製造方法において構築される電池組立体を模式的に示す斜視図である。
図3は、ここに開示される製造方法において構築される電池組立体の内部構造を模式的に示す図である。
図4は、ここに開示される製造方法において構築される電池組立体が備える電極体の構造を模式的に示す図である。以下の説明において、図面中の符号L、R、F、Rr、U、Dは、左、右、前、後、上、下を表し、図面中の符号X、Y、Zは、電池組立体の短辺方向、短辺方向と直交する長辺方向、上下方向を、それぞれ表すものとする。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、電池組立体の設置形態を何ら限定するものではない。
【0015】
組立体構築工程S10では、電池ケース10内に電極体20と図示されない非水電解液とが収容された電池組立体100を構築する。組立体構築工程S10は、例えば、電池ケース10と、電極体20と、非水電解液とを用意する工程と、用意した電極体20を電池ケース10の内部に収容する工程と、電極体20が収容された電池ケース10に非水電解液を注液する工程とを含み得る。
【0016】
組立体構築工程S10では、まず、電池ケース10を用意する。電池ケース10は、ケース本体12と、封口板14と、を備えている。
図2および
図3に示すように、電池ケース10は、ここでは扁平な直方体形状(角型)の外形を有する。電池ケース10の材質は、従来から使用されているものと同じでよく、特に制限はない。電池ケース10(ケース本体12および封口板14)は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、鉄、鉄合金等からなっている。
【0017】
ケース本体12は、電極体20と非水電解液とを収容する筐体である。ケース本体12は、一側面(ここでは上面)に開口12hを有する有底かつ角型の容器である。開口12hは、ここでは略矩形状である。ケース本体12は、
図2に示すように、長辺および短辺を有する矩形状の底面12aと、底面12aの長辺から上方に延び相互に対向する一対の長側壁12bと、底面12aの短辺から上方に延び相互に対向する一対の短側壁12cと、を備えている。
【0018】
封口板14は、ここでは矩形状であり、ケース本体12の開口12hを封口するプレート状の部材である。封口板14は、ケース本体12の底面12aと対向している。
図3に示すように、封口板14は、当該封口板14の厚み方向に貫通する2つの端子装着孔18、19を有する。端子装着孔18、19は、封口板14の長辺方向Yの両端部に1個ずつ設けられている。一方側(
図3の左側)の端子装着孔18は正極用であり、他方側(
図3の右側)の端子装着孔19は負極用である。また、封口板14には、注液孔15と、ガス排出弁17とが設けられている。注液孔15は、ケース本体12に封口板14を組み付けた後、電池ケース10の内部に電解液を注液するための貫通孔である。注液孔15は、電解液の注液後に封止部材16によって封止される。ガス排出弁17は、電池ケース10内の圧力が所定値以上になったときに破断して、電池ケース10内のガスを外部に排出するように構成された薄肉部である。
【0019】
正極端子30および負極端子40は、完成電池において、それぞれ封口板14に固定される部材である。正極端子30は、封口板14の長辺方向Yの一方側(
図2、
図3の左側)に配置されている。かかる正極端子30は、電池ケース10の外側において、板状の正極外部導電部材32と電気的に接続されている。正極端子30は、金属製であることが好ましく、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることがより好ましい。一方、負極端子40は、封口板14の長辺方向Yの他方側(
図2、
図3の右側)に配置されている。かかる負極端子40は、電池ケース10の外側において、板状の負極外部導電部材42と電気的に接続されている。負極端子40は、金属製であることが好ましく、例えば銅または銅合金からなることがより好ましい。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、複数の二次電池を相互に電気的に接続する際に、バスバーが付設される部材である。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、金属製であることが好ましく、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることがより好ましい。ただし、正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。
【0020】
組立体構築工程S10では、正極22と、負極24と、セパレータ26と、を備える電極体20を用意する。電極体20は、ここでは
図4に示すように、帯状の正極22と帯状の負極24とが、2枚の帯状のセパレータ26を介して絶縁された状態で積層され、巻回軸WLを中心として長手方向に巻回されてなる巻回電極体である。ただし、電極体20は、方形状の正極と方形状の負極とが絶縁された状態で積み重ねられてなる積層電極体であってもよい。
【0021】
正極22(以下、「正極シート22」ともいう。)は、
図4に示すように、長尺な帯状の部材である。正極シート22の構成は特に限定されず、従来公知の電池に用いられているものと同様でよい。例えば、正極22は、正極集電体22cと、正極集電体22cの少なくとも一方の表面上に固着された正極活物質層22aおよび正極保護層22pと、を有する。ただし、正極保護層22pは必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。
【0022】
正極集電体22cは、帯状である。正極集電体22cは、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。正極集電体22cは、ここでは金属箔、具体的にはアルミニウム箔である。正極集電体22cの寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体22cの厚みは、例えば、2μm~30μmが好ましく、2μm~20μmがより好ましく、5μm~15μmがさらに好ましい。正極集電体22cの長辺方向Yの一方の端部(
図4の左端部)には、複数の正極タブ22tが設けられている。複数の正極タブ22tは、長辺方向Yの一方側(
図4の左側)に突出している。複数の正極タブ22tは、セパレータ26よりも長辺方向Yに突出している。正極タブ22tは、正極集電体22cの一部であり、金属箔(アルミニウム箔)からなっている。正極タブ22tの少なくとも一部は、正極活物質層22aおよび正極保護層22pが形成されずに、正極集電体22cが露出している。
【0023】
正極活物質層22aは、
図4に示すように、帯状の正極集電体22cの長手方向に沿って設けられている。正極活物質層22aは、正極活物質を含有する。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極活物質を用いてよい。具体的に例えば、正極活物質として、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることができる。正極活物質の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。リチウム複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、例えばリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。これらの正極活物質は、1種単独で用いてよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
正極活物質層22aは、正極活物質以外の成分、例えば、導電材、バインダ等を含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0025】
正極活物質層22a中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層22aの全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上97質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以上96質量%以下である。正極活物質層22a中の導電材の含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上13質量%以下がより好ましい。正極活物質層22a中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。正極活物質層22aの厚みは特に限定されず、例えば10μm以上200μm以下であることが好ましく、50μm以上100μm以下であってもよい。
【0026】
正極保護層22pは、
図4に示すように、長辺方向Yにおいて正極集電体22cと正極活物質層22aとの境界部分に設けられている。正極保護層22pは、ここでは正極集電体22cの長辺方向Yの一方の端部(
図4の左端部)に設けられている。ただし、正極保護層22pは、長辺方向Yの両端部に設けられていてもよい。正極保護層22pは、正極活物質層22aに沿って、帯状に設けられている。正極保護層22pは、無機フィラー(例えば、アルミナ)を含んでいる。正極保護層22pの固形分全体を100質量%としたときに、無機フィラーは、概ね50質量%以上、典型的には70質量%以上、例えば80質量%以上を占めていてもよい。正極保護層22pは、無機フィラー以外の任意成分、例えば、導電材、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。
【0027】
正極シート22は、公知方法に従い準備することができる、例えば、正極活物質および任意成分を含有する正極ペーストを作製し、当該正極ペーストを正極集電体22cに塗工し、乾燥し、必要に応じてプレス処理することにより、正極シート22を準備することができる。なお、本明細書において「ペースト」との用語は、「スラリー」、「インク」と呼ばれる形態のものも包含する用語として用いられている。
【0028】
負極24(以下、「負極シート24」ともいう。)は、
図4に示すように、長尺な帯状の部材である。負極シート24の構成は特に限定されず、従来公知の電池に用いられているものと同様でよい。例えば、負極24は、負極集電体24cと、負極集電体24cの少なくとも一方の表面上に固着された負極活物質層24aと、を有する。
【0029】
負極集電体24cは、帯状である。負極集電体24cは、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。負極集電体24cは、ここでは金属箔、具体的には銅箔である。負極集電体24cの寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体24cの厚みは、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。負極集電体24cの長辺方向Yの一方の端部(
図4の右端部)には、複数の負極タブ24tが設けられている。複数の負極タブ24tは、セパレータ26よりも長辺方向Yに突出している。複数の負極タブ24tは、負極24の長手方向に沿って間隔を置いて(間欠的に)設けられている。負極タブ24tは、長辺方向Yの一方側(
図4の右側)に突出している。負極タブ24tは、負極集電体24cの一部であり、金属箔(銅箔)からなっている。負極タブ24tの一部には、負極活物質層24aが形成されている。負極タブ24tの少なくとも一部には、負極活物質層24aが形成されずに、負極集電体24cが露出している。
【0030】
負極活物質層24aは、
図4に示すように、帯状の負極集電体24cの長手方向に沿って設けられている。負極活物質層24aは負極活物質を含有する。当該負極活物質としては、特に限定されないが、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0031】
負極活物質層24aは、負極活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0032】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99.9質量%以下がより好ましい。負極活物質層中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。負極活物質層24aの厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上200μm以下であり、好ましくは50μm以上100μm以下であってもよい。
【0033】
負極24は、公知方法に従い準備することができる、例えば、負極活物質および任意成分を含有する負極ペーストを作製し、当該負極ペーストを負極集電体24cに塗工し、乾燥し、必要に応じてプレス処理することにより、負極24を準備することができる。
【0034】
セパレータ26は、電荷担体が通過し得る微細な貫通孔が複数形成された絶縁性の樹脂シートである。セパレータ26の構成は特に限定されず、従来公知の電池に用いられているものと同様でよい。セパレータ26としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。セパレータ26の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0035】
電極体20は、公知方法に従って作製することができる。図示例のように電極体20が巻回電極体である場合、かかる巻回電極体は、例えば次のようにして準備することができる。まず、帯状の正極22と帯状の負極24とを、2枚の帯状のセパレータ26によって絶縁された状態となるように積層する。このとき、
図4に示すように、正極シート22の正極タブ22tと負極シート24の負極タブ24tとが、2枚のセパレータ26の長辺方向Yの端部から、それぞれ反対方向にはみ出すように重ね合わせる。次いで、用意した積層体を、巻回軸WLを中心として長手方向に巻回する。このとき、正極タブ22tは長辺方向Yの一方側において複数積層され、正極タブ群23(
図3参照)を構成している。また、負極タブ24tは長辺方向Yの一方側において複数積層され、負極タブ群25(
図3参照)を構成している。積層体の巻回は、公知方法に従って実施することができる。巻回した積層体をプレス処理して、扁平形状の巻回電極体を作製する。このプレス処理は、一般的な扁平形状の巻回電極体の製造に用いられる公知のプレス装置を用いて実施すればよく、特に限定されない。このようにして、電極体20を用意することができる。
【0036】
さらに、組立体構築工程S10では、非水電解液を用意する。非水電解液は特に限定されず、従来公知の電池に用いられているものと同様でよい。非水電解液は、非水溶媒と電解質塩(支持塩)とを含んでいる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を用いることができる。また、支持塩としては、種々のリチウム塩を用いることができ、なかでもLiPF6、LiBF4等のリチウム塩が好適である。
【0037】
非水電解液は、例えば、被膜形成剤、ガス発生剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。被膜形成剤としては、具体的に、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、クロロエチレンカーボネート、メチルフェニルカーボネートなどのカーボネート化合物;リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiFOB)、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート(LPFO)などのオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩;等が挙げられる。
【0038】
組立体構築工程S10では、上記用意した電極体20を電池ケース10内に収容する。まず、電極体20に正極集電部50、負極集電部60および封口板14が取り付けられた合体部材を用意する。正極集電部50は、
図3に示すように、封口板14の内側面に沿って長辺方向Yに延びる板状の導電部材である正極第1集電部51と、上下方向Zに沿って延びる板状の導電部材である正極第2集電部52とを備えた部材である。また、負極集電部60は、
図3に示すように、封口板14の内側面に沿って長辺方向Yに延びる板状の導電部材である負極第1集電部61と、上下方向Zに沿って延びる板状の導電部材である負極第2集電部62とを備えた部材である。
【0039】
具体的に、まず、電極体20の正極タブ群23に正極第2集電部52を接合し、負極タブ群25に負極第2集電部62を接合する。次いで、電極体20の上方に封口板14を配置し、正極第2集電部52と電極体20の一方(
図3の左側)の側面とが対向するように、電極体20の正極タブ群23を折り曲げる。これによって、正極第1集電部51と正極第2集電部52とが接続される。同様に、各負極第2集電部62と電極体20の他方(
図3の右側)の側面とが対向するように、電極体20の負極タブ群25を折り曲げる。これによって、負極第1集電部61と負極第2集電部62とが接続される。この結果、正極集電部50および負極集電部60を介して、封口板14に電極体20が取り付けられる。
【0040】
次に、封口板14に取り付けられた電極体20を、電極体ホルダ29(
図3参照)に収容する。電極体ホルダ29は、例えば、ポリエチレン(PE)等の樹脂材料からなる絶縁性の樹脂シートを、袋状または箱状に折り曲げることにより用意することができる。かかる電極体ホルダ29で覆われた電極体20を、電池ケース10に挿入する。このとき、巻回軸WLが底面12aに沿った向き(すなわち、巻回軸WLが長辺方向Yと平行になる向き)で電池ケース10の内部に配置されるように、挿入するとよい。これにより、後述するガス抜き工程S50において効率よく電極体20の内部からガスを排出することができる。そして、電池ケース10の開口12hの縁部に封口板14を接合して、開口12hを封止する。電池ケース10と封口板14とは、例えば、溶接接合されることによって封止されることが好ましい。電池ケース10と封口板14との溶接接合は、例えば、レーザ溶接等で行うことができる。これにより、電極体20を電池ケース10内に配置することができる。
【0041】
なお、この電池組立体100では、電極体20と電池ケース10との導通を防止する種々の絶縁部材が取り付けられている。具体的には、正極外部導電部材32(負極外部導電部材42)と封口板14の外側面との間には、外部絶縁部材92が介在している(
図2および
図3参照)。また、封口板14の端子装着孔18、19の各々にはガスケット90が装着されている(
図3参照)。また、後述する正極第1集電部51(または負極第1集電部61)と封口板14の内側面との間には、内部絶縁部材94が配置されている。なお、上述した各々の絶縁部材の材料は、所定の絶縁性を有していれば特に限定されない。一例として、ポリオレフィン系樹脂(例、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE))、フッ素系樹脂(例、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))等の合成樹脂材料を使用できる。
【0042】
そして、組立体構築工程S10では、電極体20が収容された電池ケース10に上記用意した非水電解液を注液する。非水電解液の注液は、大気圧雰囲気で実施されてもよいし、減圧雰囲気で実施されてもよい。好ましくは、減圧雰囲気で実施されるとよい。これにより、電解液をより早く注液することができる。注液される非水電解液の量は、電極体20の全体にいきわたる分量となるよう適宜調整され得る。非水電解液の注液は、従来公知の電解液注液装置を適宜利用することができる。非水電解液の注液後、電池組立体の封口板14の注液孔15を封止する。注液孔15の封止は、当該注液孔15に適合した形状の封止部材16を組み付けることによって実施することができる。これにより、電池組立体100を構築することができる。
【0043】
初期充電工程S20では、上記用意した電池組立体100に対して、初期充電を実施する。初期充電は、製造後の非水電解液二次電池が使用される電圧領域にわたって充電を行う処理である。初期充電工程S20を実施することにより、電池組立体100を電気化学的に活性化させることができる。初期充電の条件は従来と同様であってよい。特に限定されないが、初期充電は、常温環境(例えば25℃)において、SOC(State of Charge)が20%~90%程度となるまで0.05C~10C程度の電流で充電することで実施できる。
【0044】
特に限定されないが、組立体構築工程S10において、非水電解液注液後から注液孔15を封止する前のタイミングにて、予備充電工程を実施してもよい。かかる予備充電工程は、特開2000-90974号公報に記載されるように、充放電にて発生するガスを電池ケース10の外へ排出することで、注液孔15を封止した後に発生するガス量を低減し、封止後に電極体20内にガスが滞留するのを予防することを目的に実施され得る。予備充電は、25℃の環境下において、10%~80%程度となるまで0.05C~10C程度の電流で充電することで実施できる。
【0045】
予備充電工程が実施されると、電極体20の内部において充電に伴う反応が進行し得る。予備充電工程を実施する場合において、予備充電工程が完了してから初期充電工程を開始するまでの期間が長すぎると、SEI膜の形成が過剰になり、電池の容量が低下する傾向にあるため好ましくない。かかる観点から予備充電工程が完了してから初期充電工程S20を開始するまでの期間は、例えば10日以内であることが好ましく、3日以内であることがより好ましい。
【0046】
高温保持工程S30では、初期充電工程S20後の電池組立体100を40℃以上の高温で所定時間保持する。40℃以上の高温で高温保持工程S30を実施することにより、例えば、負極の表面においてSEI膜の形成が好適に促進され得る。高温保持工程S30は、所定の温度を維持するように設定された恒温槽等に電池組立体100を静置することによって実施され得る。高温保持工程S30は、上記した初期充電工程S20を実施後、その充電状態のままで所定時間、高温保持されるものであってもよい。
【0047】
高温保持工程S30の保持温度は、低すぎる場合にはSEI膜の形成が十分に促進されないため好ましくない。かかる観点から高温保持工程S30の保持温度は、例えば40℃以上であって、50℃以上であってもよく、60℃以上であってもよい。一方で、高温保持工程S30の保持温度は、高すぎる場合にはSEI膜の形成が急速に進行して、過剰な量のSEI膜が形成されることや、均質なSEI膜が形成され難くなることがあるため好ましくない。かかる観点から高温保持工程S30の保持温度は、85℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。
【0048】
高温保持工程S30の保持時間は、設定温度や電池の大きさ等にもよるため一概には言えないが、例えば、6時間~36時間程度であるとよく、例えば12時間~24時間程度を目安に設定することができる。一例として、高温保持工程S30は、保持温度を50℃~80℃とし、保持時間を6時間~24時間に設定することで好ましく実施することができる。
【0049】
常温保持工程S40では、高温保持工程S30後の電池組立体100を、常温環境下で3時間を超えて保持する。常温保持工程S40は、例えば常温(25℃±10℃)に設定された恒温槽に静置することにより、実施することができる。上記したとおり、高温保持工程S30の後に常温保持工程S40を実施することにより、充電に伴う反応を概ね完了させることができる。これにより、電極体20の内部でガスがさらに発生することを抑制することができる。このため、後述するガス抜き工程S50を実施することの効果をより好適に発揮させることができる。
【0050】
常温保持工程S40は、常温、具体的には、15℃以上35℃以下(好ましくは、20℃以上30℃以下)で実施される。また、常温保持工程S40の保持時間は、二次電池の容量を増加させる観点から、3時間を超えて実施される。当該保持時間は、3時間を超えていれば特に限定されず、例えば6時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましく、24時間以上であってもよく、48時間以上であってもよい。常温保持工程S40における保持時間の上限は、製造プロセスの効率化の観点から、例えば72時間以下であることが好ましく、60時間以下であってもよい。常温保持工程S40は、例えば常温(15℃以上35℃以下)の環境下において、24時間以上72時間以下実施されることが好ましい。
【0051】
特に限定されないが、高温保持工程S30および常温保持工程S40の少なくとも一方の工程は、電池組立体100を押圧する押圧処理を含んでいてもよい。すなわち、高温保持工程S30および常温保持工程S40の少なくとも一方の工程は、電池組立体100を押圧(拘束)した状態で実施してもよい。このとき、電池組立体100は、収容される電極体20の積層方向に沿って押圧(拘束)され得る。これにより、電極体20の正極22と負極24との極間距離が狭まり、高温保持工程S30および常温保持工程S40で発生するガスが電極体20内に滞留する量を低減できる。押圧(拘束)の方法は、特に限定されず、従来の非水電解液二次電池の製造において採用されている一般的な手順を採用できる。例えば、電池組立体100の一対の長側壁12bを拘束板で挟み込み、当該拘束板を架橋部材で接続することによって電池組立体100を押圧(拘束)することができる。
【0052】
高温保持工程S30および常温保持工程S40の少なくとも一方の工程において電池組立体100を押圧する場合、その圧力は、電池組立体100のサイズや電極体20の巻回等に応じて適宜調整されればよく、特に限定されない。高温保持工程S30および常温保持工程S40の少なくとも一方の工程において電池組立体100を押圧する際の圧力は、後述するガス抜き工程S50における押圧の圧力よりも低い圧力に設定することが好ましい。例えば、高温保持工程S30および常温保持工程S40の少なくとも一方の工程では、押圧前の電池組立体100の積層方向の長さL1(
図2参照)を100%としたときに、電池組立体100の積層方向の長さL1が7.5%~10%短くなるように押圧することが好ましく、7.5%~8.6%短くなるように押圧することがより好ましい。あるいは、高温保持工程S30および常温保持工程S40の少なくとも一方の工程では、0.05kN以上4kN以下(より好ましくは0.05kN以上0.15kN未満)の圧力で電池組立体100を電極体20の積層方向に沿って押圧するとよい。
【0053】
ガス抜き工程S50では、常温保持工程S40を実施した後の電池組立体100を、電極体20の積層方向に沿って少なくとも1回押圧し、その後解放する。常温保持工程S40の実施後のタイミングで、かかるガス抜き工程を実施することにより、電極体20の内部から外部にガスを排出することができ、電極体内部のガスの滞留が好適に解消される。
【0054】
ここに開示される製造方法では、常温保持工程後のタイミングでガス抜き工程S50を実施することにより、比較的小さい圧力で押圧を実施しても電極体内部のガスの滞留を好適に解消することができる。このため、電極体20に過剰な圧力がかかって活物質層が薄くなることを抑制できる。また、押圧するための設備の簡略化することもできる。したがって、かかる構成の製造方法によれば、電池容量が向上した非水電解液二次電池を製造することができることに加えて、設備の簡略化も実現される。特に限定されないが、ガス抜き工程S50では、押圧前の電池組立体100の積層方向の長さL1を100%としたときに、電池組立体100の積層方向の長さL1が7.5%~10%短くなるように押圧することが好ましく、8.6%~10%短くなるように押圧することがより好ましく、8.8%~10%短くなるように押圧することがさらに好ましい。あるいは、ガス抜き工程S50では、0.1kN以上5kN以下(より好ましくは0.15kN以上1kN以下)の圧力で電池組立体100を電極体20の積層方向に沿って押圧するとよい。
【0055】
上記した高温保持工程S30および常温保持工程S40の少なくとも一方の工程において押圧処理を実施する場合には、ガス抜き工程S50における押圧の圧力は、高温保持工程S30および常温保持工程S40での押圧処理における圧力よりも高い圧力に設定することが好ましい。これにより、電極体20の内部に滞留したガスをより好適に電極体20の外部へ排出することができる。
【0056】
ガス抜き工程S50では、電池組立体100を電極体20の積層方向に沿って押圧する。
図2に示す例では、電池組立体100の一対の長側壁12bを短辺方向Xに沿って両側から押圧するとよい。このとき、電極体20の正極活物質層22aが存在する領域の面積を100%としたときに、少なくとも50%以上の領域を押圧することが好ましい。これにより、電極体20の内部で進行した反応によって発生したガスを、電極体20の外部に好適に押し出すことができる。ガス抜き工程S50において実施される押圧は、電極体20の正極活物質層22aが存在する領域の面積を100%としたときに、例えば55%以上の領域を押圧するように実施されることがより好ましく、75%以上であってもよく、90%以上であってもよく、例えば100%(すなわち、正極活物質層22aが存在する領域の全て)を押圧するように実施されてもよい。
【0057】
ガス抜き工程S50において、電池組立体100は少なくとも一回押圧されればよく、その回数は特に限定されない。例えば押圧回数は、1回であってもよいし、複数回(すなわち2回以上)であってもよい。また、ガス抜き工程S50における押圧の維持時間は特に限定されない。本発明者らの知見によれば、例えば上記したような圧力で、1秒程度押圧することによって、十分にガスの滞留を解消できる。ガス抜き工程S50の押圧の維持時間は少なくとも1秒以上であることが好ましく、10秒以上であってもよく、1分以上であってもよい。製造効率の観点からは、例えば押圧の維持時間は24時間以下であることが好ましく、12時間以下であることがより好ましい。ガス抜き工程S50は、押圧前の電池組立体100の積層方向の長さL1を100%としたときに、電池組立体100の積層方向の長さL1が8.6%~10%短くなるように、1秒以上押圧することが好ましい。
【0058】
ガス抜き工程S50では、電池組立体100を押圧した後、解放する。ここで、「電池組立体を解放する」とは、電池組立体100を拘束部材等から完全に取り外すことだけでなく、押圧の圧力を小さくすることも含み得る。具体的には、ガス抜き工程S50において0.1~5kNの圧力で押圧し、その後、ガス抜き工程S50において押圧した圧力未満の圧力となるように解放すればよい。
【0059】
ここに開示される製造方法によって得られる非水電解液二次電池は各種用途に利用可能であるが、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。ここに開示される製造方法によって得られる非水電解液二次電池は、組電池の構築においても好適に用いることができる。
【0060】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0061】
まず、正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのPVdFとを、用意した。これらを、NCM:AB:PVdF=87:10:3の質量割合となるように、溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)中で混合し、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、長尺状のアルミニウム箔の両面に帯状に塗布して乾燥し、正極シートを作製した。
次いで、負極活物質としての黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを用意した。これらを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量割合となるように、溶媒としてのイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、長尺状の銅箔の両面に帯状に塗布して乾燥し、負極シートを作製した。
【0062】
そして、セパレータとシートしては、PE製の基材部の表面に、アルミナとPVdFとを含む耐熱層を備えたものを2枚用意した。作製した正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して対向させて積層し、巻回して電極体を作製した。非水電解液としては、ECとEMCとDMCとを、1:1:1の体積比で混合した混合溶媒に、LiPF6を1.0モル/Lの濃度で溶解させたものを用意した。そして、上記作製した巻回電極体と非水電解液とを電池ケースに収容して、直方体形状の電池組立体を構築した。
【0063】
実施例1の電池組立体に対して、25℃の温度環境下において、1.0CでSOC5%まで充電する予備充電を行った。予備充電を実施した後、常温で7日間放置した。次いで、1.0Cの電流値でSOC50%まで充電したあと当該SOCを維持することによって、初期充電を実施した。初期充電後の電池組立体に対して、保持温度65℃、保持時間13時間の条件で高温保持工程を実施した。高温保持工程の後、常温(25℃)で3時間保持する常温保持工程を実施した。高温保持工程および常温保持工程は、電池組立体を電極体の積層方向に沿って押圧した状態で実施した。高温保持工程および常温保持工程は、押圧前の電池組立体の積層方向の長さを100%としたときに8.6%短くなるように電池組立体を押圧した状態で実施した。常温保持工程の後、ガス抜き工程を実施した。ガス抜き工程は、押圧前の電池組立体の積層方向の長さを100%としたときに8.8%短くなるように電池組立体を電極体の積層方向に押圧し、その後解放した。このときの押圧の維持時間は1秒間であった。このようにして、実施例1の評価用二次電池を作製した。
【0064】
<実施例2~5>
実施例2の評価用二次電池は、常温保持工程の保持時間を6時間としたこと以外は実施例1と同様にして作製した。
実施例3の評価用二次電池は、常温保持工程の保持時間を12時間としたこと以外は実施例1と同様にして作製した。
実施例4の評価用二次電池は、常温保持工程の保持時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様にして作製した。
実施例5の評価用二次電池は、常温保持工程の保持時間を48時間としたこと以外は実施例1と同様にして作製した。
【0065】
<比較例1>
比較例1の評価用二次電池は、高温保持工程の後、常温保持工程およびガス抜き工程を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして作製した。
【0066】
<放電容量の評価>
上記用意した各例の評価用二次電池を、25℃の環境下において、満充電および満放電を行い放電時に測定された放電容量(mAh)を各例の評価二次電池の放電容量(mAh)とした。結果を
図5に示す。なお、
図5では、比較例1の放電容量を1としたときの各例の放電容量比と、常温保持工程の実施時間との関係を示している。かかる放電容量比は値が大きいほど、電池容量が大きいと言える。
【0067】
図5に示すように、常温保持工程およびガス抜き工程を実施した実施例1~実施例5の評価用二次電池は、比較例1の評価用二次電池と比較して、放電容量が向上していることがわかる。これは、高温保持工程の後、常温保持工程を実施することにより電極体の内部で反応が十分に進行し、それ以降のさらなるガスの発生が抑制される。そして、常温保持工程後のタイミングでガス抜き工程を実施することにより、常温保持工程の間に生じたガスを、電極体内部から好適に押し出すことができ、評価用二次電池の放電容量が増加したものと推測される。
【0068】
また、実施例1~実施例5を比較すると、常温保持工程を6時間以上実施した実施例2~実施例5では顕著に評価用二次電池の放電容量が増加している。これは、常温保持工程を6時間以上実施することで充電に伴う反応がほとんど完了しており、さらなるガスの発生が抑制されたタイミングで、ガス抜き工程を実施することができるためと推測される。すなわち、常温保持工程の保持時間を6時間以上とすることにより、電極体内部におけるガスの滞留量が減少しやすくなり、評価用二次電池の放電容量が向上したものと推測される。したがって、常温保持工程は、3時間を超えて常温で保持することが好ましく、6時間以上常温で保持することがより好ましいことがわかる。
【0069】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0070】
以上のとおり、ここに開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、非水電解液と、が電池ケースに収容された電池組立体を構築する工程と、上記電池組立体を初期充電する工程と、上記初期充電工程後の電池組立体を40℃以上の高温で保持する高温保持工程と、上記高温保持工程の後に、上記電池組立体を常温で3時間を超えて保持する常温保持工程と、上記常温保持工程後の電池組立体を、上記電極体の積層方向に沿って押圧し、解放するガス抜き工程と、を含む非水電解液二次電池の製造方法。
項2:上記ガス抜き工程では、0.1kN以上5kN以下の圧力で上記電池組立体を上記電極体の積層方向に沿って押圧する、項1に記載の製造方法。
項3:上記ガス抜き工程では、押圧前の電池組立体の積層方向の長さを100%としたとき、上記電池組立体の積層方向の長さが7.5%~10%短くなるように押圧する、項1または2に記載の製造方法。
項4:上記常温保持工程では、上記電池組立体を常温で6時間以上保持する、項1~3のいずれか一つに記載の製造方法。
項5:上記高温保持工程および上記常温保持工程の少なくとも一方の工程は、上記電池組立体を、上記電極体の積層方向に沿って押圧する押圧処理をさらに含みガス抜き工程における押圧の圧力は、上記押圧処理における押圧の圧力よりも高い圧力で実施される、項1~4のいずれか一つに記載の製造方法。
項6: 上記正極は、正極集電体と、該正極集電体上に配置された正極活物質層と、を備え、上記負極は、負極集電体と、該負極集電体上に配置された負極活物質層と、を備え、上記電極体は、上記正極活物質層と、上記負極活物質層とが上記セパレータを介して対向するように積層されており、上記ガス抜き工程では、上記電極体において上記正極活物質層が存在する領域の面積を100%としたときに、少なくとも50%以上の領域を積層方向に沿って押圧する、項1~5のいずれか一つに記載の製造方法。
【符号の説明】
【0071】
10 電池ケース
12 ケース本体
12a 底面
12b 長側壁
12c 短側壁
12h 開口
14 封口板
20 電極体
22 正極(正極シート)
24 負極(負極シート)
26 セパレータ
30 正極端子
40 負極端子
50 正極集電部
60 負極集電部
100 電池組立体