(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127045
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】遮水機能を備えた自立壁および該自立壁の組み立て方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/04 20060101AFI20240912BHJP
E02B 3/06 20060101ALI20240912BHJP
E02B 3/12 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
E02D5/04
E02B3/06
E02B3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035887
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】利根 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤井 豊
(72)【発明者】
【氏名】フェイズッラー グルシェン
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
【テーマコード(参考)】
2D049
2D118
【Fターム(参考)】
2D049EA02
2D049EA03
2D049FB03
2D049FB12
2D049FD08
2D049GB08
2D118AA01
2D118AA20
2D118BA05
2D118CA03
2D118FA06
(57)【要約】
【課題】遮水用鋼材の上端部側の変形量を抑制可能な自立壁を提供する。
【解決手段】掘削側地盤Xと非掘削側地盤Yとのあいだの仕切り面Z部位に設けられる遮水機能を備えた自立壁1において、仕切り面Zに沿って一連状に連結されることで遮水機能を備える状態で設けられる複数の遮水用鋼材2と、該遮水用鋼材2に対して非掘削側地盤Y側に間隙を存した平行状態で、かつ仕切り面に沿って互いに離間した隣接状態で設けられる複数の補強用鋼材3とを備え、該補強用鋼材3の上端部と、補強用鋼材3に対して平行状態で該補強用鋼材3側に向けて折曲された遮水用鋼材2の上端部2dとが一体的に連結された補強部Fが形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削側地盤と非掘削側地盤とのあいだの仕切り面部位に設けられる遮水機能を備えた自立壁において、
仕切り面に沿って一連状に連結されることで遮水機能を備える状態で設けられる複数の遮水用鋼材と、該遮水用鋼材に対して非掘削側地盤側に間隙を存した平行状態で、かつ仕切り面に沿って互いに離間した隣接状態で設けられる複数の補強用鋼材とを備え、
該補強用鋼材の上端部と、補強用鋼材に対して平行状態で該補強用鋼材側に向けて折曲された遮水用鋼材の上端部とが一体的に連結された補強部が形成されていることを特徴とする遮水機能を備えた自立壁。
【請求項2】
遮水用鋼材上端部の補強用鋼材側への前記平行状態の折曲は、遮水用鋼材の掘削側地盤側の上端部に設けた第一補助鋼材が、補強用鋼材の非掘削地面側の上端部に設けた第二補助鋼材に近接するようジャッキ締めされることで折曲されたものであることを特徴とする請求項1記載の遮水機能を備えた自立壁。
【請求項3】
遮水用鋼材上端部の前記平行状態の折曲は、第一、第二補助鋼材が上下に間隙を存してそれぞれ複数配され、各対応する高さの第一、第二補助鋼材間に貫通して設けたネジ棒を、上側のネジ棒からジャッキ締めを伴う締結をすることによる折曲であることを特徴とする請求項2記載の遮水機能を備えた自立壁。
【請求項4】
遮水用鋼材は、仕切り面部に沿うウエブと、該ウエブの両端縁から非掘削側地盤側に向けて拡開状に延出する一対のフランジと、該一対のフランジの先端から仕切り面と平行な状態で延出していて隣接するもの同士が互いに連結される一対のアームとを備えたハット型鋼矢板であり、
補強用鋼材は、仕切り面と平行な一対のフランジと、該一対のフランジ同士の連結をするウエブとを備えたH型鋼材であり、
該補強用鋼材は、掘削側地盤側のフランジが遮水用鋼材のアームに間隙を存して対向する状態で設けられ、
第一補助鋼材は、遮水用鋼材のウエブの外側面に固定され、第二補助鋼材は、補強用鋼材の掘削側地盤側のフランジの外側面に固定されることを特徴とする請求項3記載の遮水機能を備えた自立壁。
【請求項5】
第一補助鋼材は、左右に隣接する複数の遮水用鋼材のウエブ間に亘る状態で設けられ、第二補助鋼材は、左右に隣接する複数の補強用鋼材のフランジに亘る状態で設けられることを特徴とする請求項4記載の遮水機能を備えた自立壁。
【請求項6】
遮水用鋼材と補強用鋼材との上端部に形成される補強部は、第一、第二補助鋼材を含めてセメント硬化物により埋設されていることを特徴とする請求項5記載の遮水機能を備えた自立壁。
【請求項7】
掘削側地盤と非掘削側地盤とのあいだの仕切り面部位に設けられる遮水機能を備えた自立壁において、
仕切り面に沿って一連状に連結されることで遮水機能を備える状態で設けられる複数の遮水用鋼材と、該遮水用鋼材に対して非掘削側地盤側に間隙を存した平行状態で、かつ仕切り面に沿って互いに離間した隣接状態で設けられる複数の補強用鋼材とを備え、
該補強用鋼材の上端部と、該補強用鋼材に対して平行状態で該補強用鋼材側に向けて折曲された遮水用鋼材の上端部とを一体的に連結して補強部が形成された自立壁を組み付けるための組み付け方法として、
遮水用鋼材と補強用鋼材とを間隙を存した平行状態で地盤に打設する打設工程、
遮水用鋼材の上端部を、補強用鋼材に対して平行状態で補強用鋼材に近接させるべく折曲する折曲工程、
折曲された遮水鋼材の上端部と補強用鋼材の上端部とを一体的に連結する連結工程、
の工程が実行されることを特徴とする遮水機能を備えた自立壁の組み立て方法。
【請求項8】
補強部の一体的な連結は、上下複数個所がネジ緊締されることによる連結であり、
折曲工程は、遮水用鋼材に取り付けた第一補助鋼材と補強用鋼材に取り付けた第二補強材とのあいだに貫通状に設けた上下複数のネジ棒を上端側から下方に向けて順次ジャッキ締めすることで平行が維持されるように折曲するものであり、
連結工程は、前記ジャッキ締めされたネジ棒の締結による連結であることを特徴とする請求項7記載の遮水機能を備えた自立壁の組み立て方法。
【請求項9】
第一、第二補強鋼材は、左右に隣接する複数の遮水用鋼材、補強用鋼材に亘る状態で上下に複数取り付けられたものであり、折曲工程、連結工程は、上側の第一、第二補強鋼材から順次実行されることを特徴とする請求項8記載の遮水機能を備えた自立壁の組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸や河川等の遮水(止水)が要求される護岸工事や湾岸工事等の工事現場において採用される遮水機能を備えた自立壁および該自立壁の組み立て方法の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、海岸や河川等の遮水(止水)が要求される護岸工事や湾岸工事等の水が関わる工事現場においては、海水や河川水等の水が浸入しないよう遮水(止水)機能を備えた自立壁を設け、斯かる遮水状態で必要な工事を行うことになるが、このような場合に用いられる自立壁として、上下方向に長い長尺状の鋼矢板を左右方向に一連状に連結させることで遮水機能を有したものが従来から採用されている。しかしながら自立壁を、単純に鋼矢板を連結しただけでは強度的に弱いこともあって、自立高さが高い(深い)ような場合には然るべき補強が必要になる。
そこで自立壁を、例えば鋼矢板に変えて強度のある鋼管を左右方向に一連状に配設し、隣接する鋼管間の隙間を、可撓性を有した土留め用部材で封止するようにし、これによって自立高さが高い場合にも採用できるようにしたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが前記鋼管を自立壁として採用した場合、鋼管間の隙間を封止して遮水するため土留め用部材を埋設する必要があるが、このような土留め用部材を鋼管間の隙間を封止するよう密接状態で埋設せしめるには難しい作業が要求されることになって作業性が劣る等の問題があり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、掘削側地盤と非掘削側地盤とのあいだの仕切り面部位に設けられる遮水機能を備えた自立壁において、仕切り面に沿って一連状に連結されることで遮水機能を備える状態で設けられる複数の遮水用鋼材と、該遮水用鋼材に対して非掘削側地盤側に間隙を存した平行状態で、かつ仕切り面に沿って互いに離間した隣接状態で設けられる複数の補強用鋼材とを備え、該補強用鋼材の上端部と、補強用鋼材に対して平行状態で該補強用鋼材側に向けて折曲された遮水用鋼材の上端部とが一体的に連結された補強部が形成されていることを特徴とする遮水機能を備えた自立壁である。
請求項2の発明は、遮水用鋼材上端部の補強用鋼材側への前記平行状態の折曲は、遮水用鋼材の掘削側地盤側の上端部に設けた第一補助鋼材が、補強用鋼材の非掘削地面側の上端部に設けた第二補助鋼材に近接するようジャッキ締めされることで折曲されたものであることを特徴とする請求項1記載の遮水機能を備えた自立壁である。
請求項3の発明は、遮水用鋼材上端部の前記平行状態の折曲は、第一、第二補助鋼材が上下に間隙を存してそれぞれ複数配され、各対応する高さの第一、第二補助鋼材間に貫通して設けたネジ棒を、上側のネジ棒からジャッキ締めを伴う締結をすることによる折曲であることを特徴とする請求項2記載の遮水機能を備えた自立壁である。
請求項4の発明は、遮水用鋼材は、仕切り面部に沿うウエブと、該ウエブの両端縁から非掘削側地盤側に向けて拡開状に延出する一対のフランジと、該一対のフランジの先端から仕切り面と平行な状態で延出していて隣接するもの同士が互いに連結される一対のアームとを備えたハット型鋼矢板であり、補強用鋼材は、仕切り面と平行な一対のフランジと、該一対のフランジ同士の連結をするウエブとを備えたH型鋼材であり、該補強用鋼材は、掘削側地盤側のフランジが遮水用鋼材のアームに間隙を存して対向する状態で設けられ、第一補助鋼材は、遮水用鋼材のウエブの外側面に固定され、第二補助鋼材は、補強用鋼材の掘削側地盤側のフランジの外側面に固定されることを特徴とする請求項3記載の遮水機能を備えた自立壁である。
請求項5の発明は、第一補助鋼材は、左右に隣接する複数の遮水用鋼材のウエブ間に亘る状態で設けられ、第二補助鋼材は、左右に隣接する複数の補強用鋼材のフランジに亘る状態で設けられることを特徴とする請求項4記載の遮水機能を備えた自立壁である。
請求項6の発明は、遮水用鋼材と補強用鋼材との上端部に形成される補強部は、第一、第二補助鋼材を含めてセメント硬化物により埋設されていることを特徴とする請求項5記載の遮水機能を備えた自立壁である。
請求項7の発明は、掘削側地盤と非掘削側地盤とのあいだの仕切り面部位に設けられる遮水機能を備えた自立壁において、仕切り面に沿って一連状に連結されることで遮水機能を備える状態で設けられる複数の遮水用鋼材と、該遮水用鋼材に対して非掘削側地盤側に間隙を存した平行状態で、かつ仕切り面に沿って互いに離間した隣接状態で設けられる複数の補強用鋼材とを備え、該補強用鋼材の上端部と、該補強用鋼材に対して平行状態で該補強用鋼材側に向けて折曲された遮水用鋼材の上端部とを一体的に連結して補強部が形成された自立壁を組み付けるための組み付け方法として、遮水用鋼材と補強用鋼材とを間隙を存した平行状態で地盤に打設する打設工程、遮水用鋼材の上端部を、補強用鋼材に対して平行状態で補強用鋼材に近接させるべく折曲する折曲工程、折曲された遮水鋼材の上端部と補強用鋼材の上端部とを一体的に連結する連結工程、の工程が実行されることを特徴とする遮水機能を備えた自立壁の組み立て方法である。
請求項8の発明は、補強部の一体的な連結は、上下複数個所がネジ緊締されることによる連結であり、折曲工程は、遮水用鋼材に取り付けた第一補助鋼材と補強用鋼材に取り付けた第二補強材とのあいだに貫通状に設けた上下複数のネジ棒を上端側から下方に向けて順次ジャッキ締めすることで平行が維持されるように折曲するものであり、連結工程は、前記ジャッキ締めされたネジ棒の締結による連結であることを特徴とする請求項7記載の遮水機能を備えた自立壁の組み立て方法である。
請求項9の発明は、第一、第二補強鋼材は、左右に隣接する複数の遮水用鋼材、補強用鋼材に亘る状態で上下に複数取り付けられたものであり、折曲工程、連結工程は、上側の第一、第二補強鋼材から順次実行されることを特徴とする請求項8記載の遮水機能を備えた自立壁の組み立て方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1または7の発明とすることにより、仕切り面に沿って設けられる遮水用鋼材に対して非掘削側地盤側に間隙を存した平行状態で、かつ仕切り面に沿って互いに離間した隣接状態で設けられる複数の補強用鋼材が備えられ、そして該補強用鋼材の上端部と、補強用鋼材に対して平行状態で該補強用鋼材側に向けて折曲された遮水用鋼材の上端部とが一体的に連結された補強部が形成されている結果、該補強部が、遮水用鋼材の上端部において先行導入されたプレストレスとなって機能し、これによって前記遮水用鋼材が土留めすることで受ける外力を、プレストレスとして先行導入された圧縮応力が加算されたものとして遮水用鋼材2に作用する外力が低減し、遮水用鋼材の上端部側の変形量を抑制できることになる。
請求項2の発明とすることにより、遮水用鋼材上端部の補強用鋼材側への前記平行状態の折曲が、遮水用鋼材の掘削側地盤側の上端部に設けた第一補助鋼材を、補強用鋼材の非掘削地面側の上端部に設けた第二補助鋼材に近接するようジャッキ締めして折曲することで簡単にできることになる。
請求項3または8の発明とすることにより、遮水用鋼材上端部の前記平行状態の折曲が、第一、第二補助鋼材が上下に間隙を存してそれぞれ複数配され、各対応する高さの第一、第二補助鋼材間に貫通して設けたネジ棒を、上側のネジ棒からジャッキ締めを伴う締結をすることによる折曲で、複雑な作業が強いられることなく簡単にできることになる。
請求項4の発明とすることにより、遮水用鋼材を、仕切り面部に沿うウエブと、該ウエブの両端縁から非掘削側地盤側に向けて拡開状に延出する一対のフランジと、該一対のフランジの先端から仕切り面と平行な状態で延出していて隣接するもの同士が互いに連結される一対のアームとを備えたハット型鋼矢板とし、補強用鋼材を、仕切り面と平行な一対のフランジと、該一対のフランジ同士の連結をするウエブとを備えたH型鋼材としたものとし、そして補強用鋼材を、掘削側地盤側のフランジが遮水用鋼材のアームに間隙を存して対向する状態で設け、第一補助鋼材を、遮水用鋼材のウエブの外側面に固定し、第二補助鋼材を、補強用鋼材の非掘削側地盤側のフランジの外側面に固定することでよいことになって、汎用性の高い鋼材を採用して強度のある自立壁が簡単にできることになる。
請求項5または9の発明とすることにより、第一補助鋼材が、左右に隣接する複数の遮水用鋼材のウエブ間に亘る状態で設けられ、第二補助鋼材が、左右に隣接する複数の補強用鋼材のフランジに亘る状態で設けられたものとなる結果、左右に隣接する各複数の遮水用鋼材、補強用鋼材をまとめた状態で補強部を形成できることになって作業性が向上する。
請求項6の発明とすることにより、遮水用鋼材と補強用鋼材との上端部に形成される補強部が、第一、第二補助鋼材を含めてセメント硬化物により埋設されたものになる結果、より補強されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】折曲前と折曲後の遮水用鋼材を示す自立壁の側面図である。
【
図6】自立壁の上端部位を掘削側地盤側から視た斜視図である。
【
図7】自立壁の上端部位を非掘削側地盤側から視た斜視図である。
【
図8】(A)(B)(C)は自立壁の前半の施工工程を示す説明図である。
【
図9】(A)(B)(C)は自立壁の中半の施工工程を示す説明図である。
【
図10】(A)(B)(C)は自立壁の後半の施工工程を示す説明図である。
【
図11】(A)(B)(C)は遮水用鋼材の折曲工程及び連結工程の詳細手順を示す説明図である。
【
図13】自立壁に作用する曲げモーメントの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。図面において、1は掘削側地盤Xと非掘削側地盤Yとのあいだの仕切り面Zに沿って左右方向に設けられる遮水機能を備えた自立壁であって、該自立壁1は、仕切り面Zに沿って左右一連状に連結される複数の遮水用鋼材2と、該遮水用鋼材2に対して非掘削側地盤Y側に間隙(ここでは芯-芯間の間隙とする)Sを存して配される複数の補強用鋼材3とを用いて構成されるが、該補強用鋼材3の左右に隣接するもの同士は、遮水用鋼材2の左右配設間隔と等間隔となる状態で互いに間隙を存して離間する状態で配設されている。
尚、最終的には、掘削側地盤Xの掘削後の地表面となる床付け面Xaと非掘削側地盤Yの地表面Yaとのあいだの縦面は、遮水用鋼材2が覆蓋される状態で化粧処理された化粧壁面Hの施工がなされたものとなる。
【0009】
この場合に遮水用鋼材2は、仕切り面Zに沿うウエブ2aと、該ウエブ2aの左右両端縁から非掘削側地盤Y側に向けて拡開状に延出する一対のフランジ2bと、該一対のフランジ2bの左右方向先端から仕切り面Zと平行な状態で延出する一対のアーム2cとを備えた汎用のハット型鋼矢板であって、該遮水用鋼材2は、仕切り面Zに沿う状態で該仕切り面Z部位の地盤に埋設されるが、この場合に遮水用鋼材2の複数が、アーム2cの先端縁に形成される、例えば雄雌嵌合することで遮水機能が発揮される連結部2ca、2cb同士を連結することで、遮水機能を備えた状態で左右方向に一連状に連結される。
因みに遮水用鋼材2として本実施の形態ではハット型鋼材を採用しているが、これに限定されないものであることは勿論であって、一連状に連結されることで遮水機能を備えたものであれはよく、例えば平板状の鋼材(I型鋼)であっても採用することができる。
【0010】
これに対し補強用鋼材3は、仕切り面Zと平行で、掘削地面X側(仕切り面Z側)と非掘削地面Y側とに配される一対の第一、第二フランジ3a、3bと、該一対のフランジ3a、3bの幅方向中央部同士間を連結するウエブ3cとを備えた汎用のH型鋼であって、該補強用鋼材3は、仕切り面Z側の第一フランジ3aが遮水用鋼材2のアーム2cに対して間隙Saを存して平行状態で対向するものが、仕切り面Zに沿ってアーム2cの左右配設ピッチに対応して互いに離間する隣接状態で非掘削側地盤Yに埋設される。この場合に、補強用鋼材3と仕切り用鋼材2とのあいだは地山となって土壌が存在している。
因みに補強用鋼材3としては、H形鋼に限定されないものであることは勿論であって、補強機能を備えたものであればよく、例えば円筒状の鋼材であっても採用することができる。
【0011】
そしてこれら遮水用鋼材2、補強用鋼材3は、施工地盤に打設する場合に掘削側地盤Xの掘削目標である床付け面Xaよりも深い所定深さまで埋設する(
図8(A)(B)参照)。この場合、遮水用鋼材2、補強用鋼材3の埋設深さは、施工後において必要な強度が確保できるものであれば、同じであっても、どちらか一方が深いものであってもよい。
しかる後、遮水用鋼材2、補強用鋼材3の両上端部部位が露出するよう掘削側地盤X、非掘削側地盤Yの表面部位を開削する(
図8(C)参照)。
【0012】
このようにして露出した遮水用鋼材2、補強用鋼材3の上端部には、
図1~
図7に示すように、上下に間隙を存した状態で第一、第二補助鋼材4、5がそれぞれ取り付けられる。
前記第一、第二補助鋼材4、5は、何れも凵字形をした上下一対の溝形鋼を上下背反状に配したものを用いて構成されたものであり、そのうちの第一補助鋼材4は、遮水用鋼材2のウエブ2aの掘削側地盤X側の面(外面)に当接する状態で、ウエブ2aの非掘削側地盤Y側の面(内面)に配設した当て板(補強板)4aとともにボルト4bを介して緊締される。
一方、第二補助鋼材5は、補強用鋼材3の第二フランジ3bの非掘削側地盤Y側の面(外面)に当接する状態で、第二フランジ3bの掘削側地盤X側の面(内面)に配設した当て板(補強板)5aとともにボルト5bを介して締結される。
因みに第一、第二補助鋼材4、5の遮水用鋼材2、補強用鋼材3への取り付け固定の手段として、本実施の形態ではボルト締結を採用しているが、溶着、リベット等、必要において適宜の取り付け固定手段を採用することができる。
また本実施の形態では、第一、第二補助鋼材4、5は、上下に間隙を存して二段(一対)が設けられたものとなっているが、必要において三段以上の複数設けてもよいことは勿論である。
【0013】
次いで遮水用鋼材2の上端部を、補強用鋼材3に対する平行状態が維持される状態で該補強用鋼材3側に向けて折曲することになるが、この折曲をするにあたり、まず第一、第二補助鋼材4、5同士のあいだに鋼棒6を貫通配設する(
図9(A)(B)参照)。そして本実施の形態では、鋼棒6は長尺状のネジ棒で構成されるがボルトであってもよく、該鋼棒6は、遮水用鋼材2側の第一補助鋼材4と補強用鋼材3側の第二補助鋼材5とを貫通する状態で配設される。
【0014】
そして
図11(B)(C)に示すように、前記配設された鋼棒6を、補強用鋼材3側の端縁部にナット6aが螺合された状態で、遮水用鋼材2側の端縁部をジャッキ7で絞め込んでいくことで、遮水用鋼材2の上端部が補強用鋼材3側に向けて湾曲(折曲)し、必要量だけ湾曲変形した段階でナット6bを螺合締結することになるが、このジャッキ7を用いた締め込みによる変形が上側の鋼棒6だけである場合には、遮水用鋼材2の上端部が補強用鋼材3側に向けて湾曲状に変形するだけ(
図11(B)参照)となり、この状態では本発明を実施するためには変形として不十分である。
尚、第1補助鋼材4及び第二補助鋼材5における鋼棒6の貫通外端部位には、鋼棒6の貫通孔を有した座板4c、5cが設けられており、ナット6a、6bは、座板4c、5cを介して遮水用鋼材2及び補強用鋼材3を両側から締め込む。
【0015】
そこで次に本発明を実施するため、前記上側の鋼棒6によるジャッキ締めがなされた状態のものについて、さらに下側の鋼棒6を、前記同様にしてジャッキ締めして遮水用鋼材2を補強用鋼材3側に向けて折曲変形せしめることで、遮水用鋼材2の上端部2dは、上下方向に幅(高さ)を存する状態で補強用鋼材3と略平行で幅εだけ補強鋼材3側に変形したことになり、これによって該遮水用鋼材2の上端部は、補強用鋼材3に対して前記埋設当初の間隔Saよりも近接した間隔Sb(Sa>Sb)だけ離間した状態になり(
図9(C)、
図11(C)参照)、この変形状態で、鋼棒6の先端部をナット6bにより締結することで、遮水用鋼材2の上端部2dが略平行状態で補強用鋼材3側に偏倚したものが一体的に取り付け固定されたものとなって本発明が実施された補強部Fが形成されることになり、このようにして本発明が実施された自立壁1が組み付けられる。
【0016】
そして本実施の形態においては、さらに前記組み立てられた自立壁1の補強部Fが形成された上端部を、第一、第二補助鋼材5、6も含めてセメント硬化物(RCコーピング)8によって埋設したものとなって更なる強度アップが図られ(
図10(B))、さらにその後、セメント硬化物8の掘削側地盤側端縁8aを非掘削側地盤Yの端縁となるよう土壌で埋設することで自立壁1の建て付け作業が終了する。
尚、本実施形態のセメント硬化物8は、
図10(A)に示すように、補強部Fの周囲に鉄筋T及び型枠Kを設置した後、型枠K内に流動可能状態のセメント硬化物材料を流し込み、セメント硬化物材料が硬化した後、型枠Kを外すことにより形成されるものであって、例えばコンクリートやモルタル等の、セメントに砂や砂利等の各種の添加物の中から選択されたものを混合させて水等の硬化剤で硬化させるものである。
【0017】
そしてこのようにして自立壁1が組み付けられた状態で、掘削側地盤Xの掘削が行われ、該掘削側地盤Xの底面(掘削底面)を床付け面Xaとしてビル等の構築物の施工工事が実行されることになる。
【0018】
前述した構成の自立壁1とした場合の該自立壁1の変形抑制効果について検討するにあたり、いま、自立壁1の掘削側地盤X側への変位量をδとしたときに、該変位量δは、
図12に示すように、掘削底面での変位量をδ
1、掘削底面での撓み角θによる変位量をδ
2、掘削底面以上の片待ち梁の撓み量をδ
3を合算したものとなる。つまり、
δ=δ
1+δ
2+δ
3
として算出される。ここで、
δ:自立壁上端部の変位量(m(cm))
δ
1:掘削底面での変位量(m(cm))
δ
2:掘削底面での撓み角θによる変位量(m(cm))
δ
3:掘削底面以上の片待ち梁の撓み量(m(cm))
として定義され、各δ
1、δ
2、δ
3は、
δ
1=P・(1+β・h
0)/2・E・I・β
3
δ
2=P・H・(1+2・β・h
0)/2・E・I・β
2
δ
3=p’
2・H
4/30・E・I
として算出される。ここで
β:特性値(m
-1)
E:ヤング係数(kN/m
2)
I:断面二次モーメント(m
-4)
h
0:水平力の作用位置(掘削面からの作用高さ)(m)
H:掘削底面での撓み角による照査位置(m)
p’
2:6ΣM/H
2 等価三角形分布の底面負荷強度(kN・m/本)
M:側圧による掘削底面周りのモーメント(kN・m)
である。
そして上記自立壁1の上端部の変位量δにおいて、一般に、掘削底面での撓み角θによる変位量δ
2の割合が大きいことが知られており、これを小さくすること、即ち自立壁1の掘削底面位置における曲げモーメントを低減させることで自立壁1の変形抑制効果が高められると判断される。
【0019】
そして遮水用鋼材2には、非掘削側地盤Yを土留めすることで外力(土圧、水圧)を受けることとなって、掘削側地盤X側に変形しようとする曲げモーメントが働くことになるが、本発明が実施されたものでは、遮水用鋼材2の上端部を、補強用鋼材3に対して平行状態を維持する状態で該補強用鋼材3側に折曲した状態で該補強用鋼材3に一体的に連結して補強部Fを形成しておくことで、該補強部Fが、遮水用鋼材2にとって、予め圧縮応力が先行導入されたプレストレスとなって機能することになり、これによって遮水用鋼材2が土留めすることで受ける曲げモーメントを、プレストレスとして先行導入された圧縮応力が加算された(足し合わされた)ものとし、これにより遮水用鋼材2の掘削底面位置に作用する曲げモーメントを低減し、遮水用鋼材2の上端部側の変形量を抑制できるようにしている(
図13参照)。
【0020】
また遮水用鋼材2が受ける変位量δとしては、前記式において特にδ2の値が最も大きいものであり、このδ2において「h0・P」項が外力に相当するが、この「h0・P」項が、補強部Fにおいて先行導入されたプレストレスにより低減することになり、これによって本発明が実施された自立壁1の補強がなされることになる。因みに「h0・P」項は、式δ1にも存在し、ここにおいても自立壁1の補強に寄与することになる。
【0021】
叙述のごとく構成された本発明の実施の形態において、仕切り面Zに沿って設けられる遮水用鋼材2に対して非掘削側地盤Y側に間隙を存した平行状態で、かつ仕切り面Zに沿って互いに離間した隣接状態で設けられる複数の補強用鋼材3が備えられ、そして該補強用鋼材3の上端部と、補強用鋼材3に対して平行状態で該補強用鋼材3側に向けて折曲された遮水用鋼材2の上端部とが一体的に連結された補強部Fが形成されているので、該補強部Fが、遮水用鋼材2の上端部において先行導入されたプレストレスとなって機能し、これによって遮水用鋼材2が土留めすることで受ける外力を、プレストレスとして先行導入された圧縮応力が加算されたものとして遮水用鋼材2に作用する外力が低減し、遮水用鋼材2の上端部側の変形量δを抑制できることになる。
【0022】
また、遮水用鋼材2の上端部の補強用鋼材3側への平行状態の折曲は、遮水用鋼材2の掘削側地盤X側の上端部に設けた第一補助鋼材4を、補強用鋼材3の非掘削側地盤Y側の上端部に設けた第二補助鋼材5に近接するようジャッキ締めして折曲することで、簡単に形成できる。
【0023】
また、遮水用鋼材2の上端部の平行状態の折曲は、第一、第二補助鋼材4、5が上下に間隙を存してそれぞれ複数配され、各対応する高さの第一、第二補助鋼材4、5間に貫通して設けた鋼棒6を、上側の鋼棒6からジャッキ締めを伴う締結をすることで形成されるので、複雑な作業が強いられることなく簡単に形成できる。
【0024】
また、遮水用鋼材2は、仕切り面Zに沿うウエブ2aと、該ウエブ2aの両端縁から非掘削側地盤Y側に向けて拡開状に延出する一対のフランジ2bと、該一対のフランジ2bの先端から仕切り面Zと平行な状態で延出していて隣接するもの同士が互いに連結される一対のアーム2cとを備えたハット型鋼矢板とし、補強用鋼材3は、仕切り面Zと平行な一対のフランジ3a、3bと、該一対のフランジ3a、3b同士の連結をするウエブ3cとを備えたH型鋼材とし、そして補強用鋼材3を、掘削側地盤X側の第1フランジ3aが遮水用鋼材2のアーム2cに間隙を存して対向する状態で設け、第一補助鋼材4を、遮水用鋼材2のウエブ2aの外側面に固定し、第二補助鋼材5を、補強用鋼材3の非掘削側地盤Y側のフランジ3bの外側面に固定するので、汎用性の高い鋼材を採用して強度のある自立壁1を簡単に構成できる。
【0025】
また、第一補助鋼材4は、左右に隣接する複数の遮水用鋼材2のウエブ2a間に亘る状態で設けられ、第二補助鋼材5は、左右に隣接する複数の補強用鋼材3の第二フランジ3bに亘る状態で設けられるので、左右に隣接する各複数の遮水用鋼材2、補強用鋼材3をまとめた状態で補強部Fを形成できることになって、作業性の向上が可能となる。
【0026】
また、遮水用鋼材2と補強用鋼材3との上端部に形成される補強部Fは、第一、第二補助鋼材4、5を含めてセメント硬化物8により埋設されるので、より補強されたものとできる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、海岸や河川等の遮水(止水)が要求される護岸工事や湾岸工事等の工事現場において採用される遮水機能を備えた自立壁および該自立壁の組み立て方法に利用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 自立壁
2 遮水用鋼材
2a ウエブ
2b フランジ
2c アーム
2d 上端部
3 補強用鋼材
3a 第一フランジ
3b 第二フランジ
3c ウエブ
4 第一補助鋼材
4a 当て板
4b ボルト
4c 座板
5 第二補助鋼材
5a 当て板
5b ボルト
5c 座板
6 鋼棒
6a ナット
6b ナット
7 ジャッキ
8 セメント硬化物
8a 掘削側地盤側端縁
F 補強部
X 掘削側地盤
Y 非掘削側地盤
Z 仕切り面