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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127055
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】水性ボールペン用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20240912BHJP
   B43K 7/02 20060101ALI20240912BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/02
B43K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035903
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】須佐見 幸生
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350NA11
4J039AB12
4J039AD03
4J039AD09
4J039AD10
4J039BA14
4J039BC07
4J039BC09
4J039BC14
4J039BC19
4J039BC56
4J039BC60
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE23
4J039CA06
4J039EA42
4J039GA12
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】特定の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物であって、水性ボールペンを構成し高温開放系で水性ボールペンを保管した後に筆記した場合であっても、筆跡のカスレ、線とびの発生が抑制された水性ボールペン用インキ組成物を提供すること。
【解決手段】(A)板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料、(B)ワックスエマルション、(C)水、(D)水溶性有機溶剤、を含み、前記板状光輝性顔料が、板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有するものである、水性ボールペン用インキ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料、
(B)ワックスエマルション、
(C)水、
(D)水溶性有機溶剤、
を含み、
前記板状光輝性顔料が、板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有するものである、
水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
(E)リン酸エステル系界面活性剤を含む、請求項1に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記(A)板状光輝性顔料又は板状白色顔料が、体積平均粒子径0.05μm以上100μm以下、アスペクト比1.05以上90以下及び厚さ5nm以上15μm以下である、請求項1又は2に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された水性ボールペン用インキ組成物を充填した、水性ボールペンレフィル。
【請求項5】
請求項4の水性ボールペンレフィルを装着した、水性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ボールペン用インキ組成物、当該水性ボールペン用インキ組成物を充填した水性ボールペンレフィル、及び当該水性ボールペンレフィルを装着した水性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多種多様な色調の筆跡を形成することができる水性ボールペンが開発されている。これらのうち、筆記時の意匠性を高めるために、光輝性・金属光沢調の筆跡や、隠蔽性が高い白色の筆跡を形成できる水性ボールペンについて開発が進められている。
また、使用者の利便性の観点と近年の流行の観点から、キャップを必要としない出没式の水性ボールペンについての開発が進められている。
光輝性・金属光沢調の筆跡や、隠蔽性が高い白色の筆跡を形成するためには、板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物を用いる必要がある。
しかしながら、板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物を用いた水性ボールペンは、高温開放系で保管した後に筆記すると、筆跡にカスレ、線とびが発生しやすく、改良が求められていた。
【0003】
特許文献1には、少なくとも水と、着色剤と、水溶性有機溶剤とからなるインキ組成物中に、酸化ポリエチレン又は酸化ポリプロピレンから選ばれるワックスエマルションを含有してなり、前記ワックスエマルションの平均粒子径が0.1μm以下であることを特徴とするボールペン用水性インキ組成物が開示されている。
特許文献2には、板状光輝性顔料と、着色顔料と、油性溶媒を内包するマイクロカプセル粒子と、水と、アクリル酸系重合物の塩、若しくはオレフィン系重合物、ウレタン系重合物、アクリル酸系重合物のエマルションから選ばれる1種以上の塩又はエマルションとを含有してなるボールペン用光輝性インキ組成物が開示されている。
特許文献3には、ノンリーフィングタイプアルミニウム顔料と、リーフィングタイプアルミニウム顔料と、エチレン酢酸ビニルエマルションと、水と、顔料を少なくとも含んでなる水性メタリックカラーインキが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-352909号公報
【特許文献2】特開2017-119862号公報
【特許文献3】特開2020-132725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、特定の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物を用いた水性ボールペンを、高温開放系で保管した後に筆記すると、筆跡にカスレ、線とびが発生することについて認識されていない。そして、このような水性ボールペンにおいて、高温開放系で保管した後に筆記した場合に発生する筆跡のカスレ、線とびを抑制することは、特許文献1において何ら考慮されていない。
特許文献2は、特定の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を用いて水性ボールペン用インキ組成物を構成することについて、何ら開示されていない。そして、特定の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物を用いた水性ボールペンにおいて、高温開放系で保管した後に筆記した場合に発生する筆跡のカスレ、線とびを抑制することは、特許文献2において何ら考慮されていない。
特許文献3の水性メタリックカラーインキは、繊維芯を備えた生インキ式マーキングペンに用いるものであり、水性ボールペンに用いるものではない。そして、特定の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物を用いた水性ボールペンにおいて、高温開放系で保管した後に筆記した場合に発生する筆跡のカスレ、線とびを抑制することは、特許文献3において何ら考慮されていない。
【0006】
本発明者は、(A)板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料、(B)ワックスエマルション、(C)水、(D)水溶性有機溶剤、を含み、前記板状光輝性顔料が、板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有するものである、水性ボールペン用インキ組成物を用いた水性ボールペンが、高温開放系で保管した後に筆記した場合であっても、筆跡のカスレ、線とびを抑制できるとの知見を得た。
【0007】
本発明が解決しようとする課題の一つは、(A)板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料、(B)ワックスエマルション、(C)水、(D)水溶性有機溶剤、を含み、前記板状光輝性顔料が、板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有するものである、水性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
本発明が解決しようとする課題の一つは、特定の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物であって、水性ボールペンを構成し高温開放系で水性ボールペンを保管した後に筆記した場合であっても、筆跡のカスレ、線とびの発生が抑制された水性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
本発明が解決しようとする課題の一つは、前記水性ボールペン用インキ組成物を充填した水性ボールペンレフィル及び当該水性ボールペンレフィルを装着した水性ボールペンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記の水性ボールペン用インキ組成物により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下のとおりである。
[項1]
(A)板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料、
(B)ワックスエマルション、
(C)水、
(D)水溶性有機溶剤、
を含み、
前記板状光輝性顔料が、板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有するものである、
水性ボールペン用インキ組成物。
[項2]
(E)リン酸エステル系界面活性剤を含む、項1に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
[項3]
前記(A)板状光輝性顔料又は板状白色顔料が、体積平均粒子径0.05μm以上100μm以下、アスペクト比1.05以上90以下及び厚さ5nm以上15μm以下である、項1又は2に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
[項4]
項1~3のいずれか1項に記載された水性ボールペン用インキ組成物を充填した、水性ボールペンレフィル。
[項5]
項4の水性ボールペンレフィルを装着した、水性ボールペン。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、(A)板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料、(B)ワックスエマルション、(C)水、(D)水溶性有機溶剤、を含み、前記板状光輝性顔料が、板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有するものである、水性ボールペン用インキ組成物が提供される。
本発明により、特定の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物であって、水性ボールペンを構成し高温開放系で水性ボールペンを保管した後に筆記した場合であっても、筆跡のカスレ、線とびの発生が抑制された水性ボールペン用インキ組成物が提供される。
【0010】
特定の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む水性ボールペン用インキ組成物で水性ボールペンを構成し、高温開放系で水性ボールペンを保管した後に筆記した場合であっても、筆跡のカスレ、線とびの発生が抑制できる機構等は不明であるが、本発明者は、以下の様に推測している。なお、本発明はこの推測に拘束されるものではない。
高温開放条件で水性ボールペンを保存した場合において、水性ボールペン用インキ組成物中の板状光輝性顔料又は板状白色顔料がチップボールとソケットの間に挟まり、形成された隙間から水が蒸発しインキが乾燥するため、筆記時に筆跡にカスレ、線とびが発生する。一方、水性ボールペン用インキ組成物中に含まれるワックスエマルションは、板状光輝性顔料又は板状白色顔料により生じたチップボールとソケットの間の隙間を埋めることができ、水性ボールペン用インキ組成物の乾燥を抑制することができる。さらに、高温開放条件で水性ボールペンを保存した後に筆記した場合であっても、ワックスエマルションの潤滑作用により、カスレや線とびが発生することなく筆記することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水性ボールペン用インキ組成物の構成成分、物性、製造方法及び用途について、以下詳細に説明する。
【0012】
[(A)板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、光輝感及び/又は隠蔽性を付与するために、板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料を含む。本発明において、前記板状光輝性顔料は、板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有するものが用いられる。
【0013】
<板状光輝性顔料>
板状光輝性顔料は、形状が板状(フレーク状・薄片状・鱗片状)であり、水性ボールペン用インキ組成物に光輝性を付与し得る顔料であって、板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有するものである。
板状無機系顔料としては、例えば、板状の金属(アルミニウム、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、ステンレス鋼、真鍮、ニッケル合金、アルミニウム合金等)、ガラス、金属酸化物(酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄、天然マイカ、人工マイカ等)、金属窒化物、オキシ塩化ビスマス(BiOCl)等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらは、削り出し、圧延等の機械的手段により板状としたものでもよく、流延膜、塗膜、蒸着膜等の製膜品を粉砕したものでもよい。本発明においては、蒸着金属膜であることが好ましい。
【0014】
板状無機系顔料表面に設けられる樹脂層としては、例えば、アクリル系樹脂、塩ビ・酢ビ共重合体樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリシロキサン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、セルロースアセテート系樹脂、ニトロセルロース樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、シェラック樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、カルボキシメチルセルロース系樹脂、カゼイン、でん粉、高級脂肪酸ソーダ塩等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
板状無機系顔料表面に設けられる酸化物層としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(酸化ケイ素)、雲母、酸化チタン及び/又は酸化鉄からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
板状光輝性顔料は、これらの中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
板状無機系顔料表面に、樹脂層及び/又は酸化物層が設けられた構造を有する板状光輝性顔料としては、例えば、エルジーneoシリーズ(各カラーの#500、#325、#200等;尾池工業社製)、ダイヤモンドピースシリーズ(ダイヤ工業社製)、メタシャインシリーズ(日本板硝子社製)、フレンドカラーシリーズ(東洋アルミニウム社製)、Paliocromシリーズ(サンケミカル社製)等として市販されているものを用いることができる。
本発明においては、蒸着金属膜、特に、蒸着アルミニウムの表面に、樹脂層が設けられ、樹脂層が必要に応じて着色されている板状光輝性顔料を用いることが好ましい。
【0016】
<板状白色顔料>
板状白色顔料は、水性ボールペン用インキ組成物に隠蔽性を付与するとともに白色の色調を付与することができる板状白色顔料であれば、特に限定されない。例えば、板状酸化チタン系顔料、板状酸化アルミニウム系顔料、板状酸化亜鉛系顔料、板状窒化ホウ素系顔料、板状無機系顔料の表面に白色無機顔料を被覆した白色顔料被覆板状無機系顔料、これらの板状白色顔料の表面に被覆を設けた板状白色顔料等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。ここで、白色顔料被覆板状無機系顔料としては、例えば、タルク、セリサイト、マイカ、ガラスフレーク等からなる群より選ばれる1種以上を、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素等からなる群より選ばれる1種以上の白色無機顔料で被覆したものが挙げられる。また、板状白色顔料の表面に設けられる被覆としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の各種顔料からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0017】
板状白色顔料としては、市販品を用いることができる。例えば、Silkiaシリーズ(石原産業社製)、カバーリーフシリーズ(日揮触媒化成社製)、Iriodinシリーズ(メルクジャパン社製)、セラフシリーズ(YKK社製)、テラセスシリーズ(河合石灰工業社製)、デンカボロンナイトライドシリーズ(デンカ社製)、ショウビーエヌシリーズ(昭和電工社製)等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0018】
<板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料の形状>
板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料の形状は、板状であり、水性ボールペン用インキ組成物に添加して使用し得る形状であれば、特に限定されない。
体積平均粒子径については、例えば0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上とすることができ、例えば100μm以下、好ましくは70μm以下、より好ましくは50μm以下とすることができる。
アスペクト比については、例えば1.05以上、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.3以上とすることができ、例えば90以下、好ましくは80以下、より好ましくは70以下とすることができる。
厚さについては、例えば5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上とすることができ、例えば15μm以下、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下とすることができる。
【0019】
このうち、板状光輝性顔料については、
(i)体積平均粒子径を、例えば5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは25μm以上とすることができ、例えば100μm以下、好ましくは70μm以下、より好ましくは50μm以下とすることができ、
(ii)アスペクト比を、例えば1.05以上、好ましくは1.1以上とすることができ、例えば20以下、好ましくは10以下、より好ましくは5以下とすることができ、
(iii)厚さを、例えば0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上とすることができ、例えば15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下とすることができる。
【0020】
このうち、板状白色顔料については、
(i)体積平均粒子径を、例えば0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上とすることができ、例えば30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下とすることができ、
(ii)アスペクト比を、例えば10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上とすることができ、例えば90以下、好ましくは80以下、より好ましくは70以下とすることができ、
(iii)厚さを、例えば5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上とすることができ、例えば5μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下とすることができる。
【0021】
<板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料の含有量>
水性ボールペン用インキ組成物中の板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料の含有量は、特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、板状光輝性顔料及び板状白色顔料の合計量として、例えば0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上とすることができ、例えば10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下とすることができる。板状光輝性顔料又は板状白色顔料をそれぞれ単独で使用する場合は、それぞれの含有量は、前記合計量の範囲内とすることができる。板状光輝性顔料及び/又は板状白色顔料の含有量が10質量%を超えると、ペン先でのつまり、保存時の沈降発生、水性ボールペン用インキ組成物の増粘等のおそれがあり、0.05質量%未満であると、光輝感や隠蔽性が低下するおそれがある。
【0022】
[(B)ワックスエマルション]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、ワックスエマルションを含む。ワックスエマルションを含むことにより、高温開放系での保管(例えば、50℃で4週間で保管)後であっても、カスレや線とび等の筆記不良の発生を抑制することができる。
【0023】
ワックスエマルションに含まれるワックスとしては、例えば、パラフィン系ワックス、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、エチレン・αオレフィンコポリマー系ワックス、エチレン酢酸ビニル系ワックス、ポリエチレン系コポリマーワックス、酸化ポリエチレン系ワックス、酸化ポリプロピレン系ワックス、カルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、ジルコニウムワックス、モンタンワックス、みつろう、木ろう、キャンデリラワックス、ライスワックス、これらの変性物等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。ワックスとしては、融点が例えば50℃以上、好ましくは80℃以上であり、例えば160℃以下、好ましくは140℃以下のものが好ましい。
【0024】
本発明においては、パラフィン系ワックス、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、エチレン・αオレフィンコポリマー系ワックス、エチレン酢酸ビニル系ワックス、これらの変性物からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、変性ポリプロピレン系ワックス又は変性エチレン酢酸ビニル系ワックスであることがより好ましく、変性エチレン酢酸ビニル系ワックスであることがさらに好ましい。
これらのワックスの数平均分子量は、例えば500以上であり、例えば15,000以下とすることができる。
【0025】
ワックスエマルションは、これらのワックスの1種以上を、各種界面活性剤等の乳化剤を用いて水系溶媒に分散したものである。
ワックスエマルションにおけるワックスの含有量は、特に限定されない。例えば0.1質量%以上とすることができ、例えば10質量%以下とすることができる。
ワックスエマルションにおけるワックスの平均分散粒子径(動的光散乱法)は、特に限定されない。例えば5μm以下、好ましくは1μm以下であり、例えば0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上とすることができる。
【0026】
本発明において、ワックスエマルションは、変性ワックスエマルションであることが好ましい。変性ワックスエマルションとしては、例えば、アニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤の配合や、ワックス分子中に酸性基(例えば、カルボキシル基、スルホン基等)又は塩基性基(例えば、アミノ基等)を導入することで変性された変性ワックスエマルションであって、アニオン系、カチオン系又はノニオン系の変性ワックスエマルションが挙げられる。変性ワックスエマルション、特に、アニオン系の変性ワックスエマルション又はノニオン系の変性ワックスエマルションは、エマルション中におけるワックスの分散安定性が向上されており、ワックスエマルションの製造も容易になることから、本発明において用いることが好ましい。アニオン系の変性ワックスエマルション又はノニオン系のワックスエマルションを用いることで、水性ボールペン用インキ組成物中での変性ワックスを含む各成分の凝集を抑制することができ、特に、高温保存時にボールチップ付近でワックス成分が析出してペン先でつまりが発生することを抑制することが可能であり、さらに、高温保存後の筆記時のカスレや線とびの発生を良好に抑制することができる。
本発明においては、アニオン系の変性エチレン酢酸ビニル系ワックスエマルションを用いることが、さらに好ましい。
【0027】
水性ボールペン用インキ組成物中のワックスエマルションの含有量は、特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、ワックスエマルション中のワックスが、例えば0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上とすることができ、例えば15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下とすることができる。
【0028】
[(C)水]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、構成成分を分散及び/又は溶解させるため、分散媒及び/又は溶剤として機能する水を含む。水としては、例えば、水道水、工業用水、精製水、蒸留水、イオン交換水、限外ろ過水、純水等を使用することができる。好ましくは、イオン交換水及び蒸留水等が使用される。
水の含有量は特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物中の各成分の含有量、粘度等に応じて適宜調整することができる。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、例えば90質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。水の含有量が90質量%を超えると、十分な発色効果が得られない(色が薄い)等の問題が生じるおそれがあり、20質量%未満であると、筆記時のカスレ発生や保存性低下等の問題が生じるおそれがある。
【0029】
[(D)水溶性有機溶剤]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、(i)構成成分を分散及び/又は溶解させるための分散媒及び/又は溶剤、(ii)乾燥性等の調整のための湿潤剤、(iii)粘度の調製のための粘性調整剤等の機能を有する水溶性有機溶剤を含む。水溶性有機溶剤は、水への溶解性が優れているものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、25℃の水に対する溶解度が20g/L以上、好ましくは50g/L以上のものを用いることができる。
水溶性有機溶剤としては、例えば、
メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のモノアルコール;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2,4-ブタントリオール、イソペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサン-1,2,6-トリオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-ヘプタンジオール、1,4-ヘプタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘプタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1,2-ノナンジオール、1,9-ノナンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,2-デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、アセチレングリコール等の多価アルコール;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル;
テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;
γ-ブチロラクトン等の環状エステル;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;
2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルピロリジン-2-オン等のラクタム;
1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の環式尿素;
アセトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン、エチレンカーボネート等のケトン、ケトアルコール、又はカーボネート;
等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテルからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0030】
水性ボールペン用インキ組成物中の水溶性有機溶剤の含有量は、特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば5質量%以上、好ましくは10質量%以上であり、例えば40質量%以下、好ましくは25質量%以下の範囲とすることができる。
【0031】
[(E)リン酸エステル系界面活性剤]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、(i)構成成分を分散及び/又は溶解させるための分散剤、(ii)チップボールとチップボールを抱持するソケットの間の潤滑性を向上させるための潤滑剤、等の機能を有する(E)リン酸エステル系界面活性剤を含んでいてもよい。リン酸エステル系界面活性剤は、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。リン酸エステル系界面活性剤のHLB値は、特に限定されないが、例えば9.0以上、好ましくは9.7以上であり、例えば17.0以下、好ましくは15.0以下である。HLBは、川上法〔HLB=7+11.7log(MW/MO)、MW:親水部分の式量の総和、MO:親油部分の式量の総和〕により算出できる。また、実験等により求めたものでもよい。
【0032】
リン酸エステル系界面活性剤としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物の1種以上が挙げられる。
【化1】
(式中:nは0~20の整数である。Rは炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数6以上のアルキルアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。RはM又は-(CHCHO)-Rである。Rは炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数6以上のアルキルアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかである。Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【0033】
このようなリン酸エステル系界面活性剤としては、市販のものを用いることができる。例えば、東邦化学工業社製のフォスファノールシリーズ(RS-710、RS-610、RS-410、RA-600、ML-200、ML-220、ML-240、PE-510、SM-172、ED-200、GF-339等)、第一工業製薬社製のプライサーフシリーズ(A219B等)、それらの塩からなる群より選ばれる1種以上を用いることが得きる。
【0034】
リン酸エステル系界面活性剤の含有量は、特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下とすることができる。リン酸エステル系界面活性剤の含有量が0.01質量%未満であると、潤滑性が低下し、摩擦が大きくなるためソケットの口内径削れ量が多くなるおそれがあり、5.0質量%を超えると、逆流止めと混ざりやすくなり、経時安定性等の点で問題が生じるおそれがある。
【0035】
[(F)分散・定着剤]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、含有する着色剤等の顔料の分散を安定化させ、分散後の顔料を安定化させることにより顔料の沈殿を防止する作用を有し、同時にインキ組成物の塗膜を形成するためのビヒクル・定着剤としても機能する(F)分散・定着剤を含んでいてもよい。分散・定着剤としては、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであって、前記ワックスエマルション以外のものであれば、特に限定されない。例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系樹脂(エマルション)、スチレン-マレイン酸系樹脂(エマルション)、スチレン-マレイン酸エステル系樹脂(エマルション)、(メタ)アクリル系樹脂(エマルション)、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂(エマルション)、酢酸ビニル系樹脂(エマルション)、塩化ビニル系樹脂(エマルション)、ウレタン系樹脂(エマルション)、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系化合物等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0036】
分散・定着剤の含有量は、特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば10.0質量%以下、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下の範囲とすることができる。分散・定着剤の含有量が10.0質量%を超えると、分散・定着剤が凝集剤として働き、顔料成分の凝集を引き起こすおそれがあり、含有量が0.1質量%未満であると、顔料成分の分散が十分に行えず顔料成分の凝集を引き起こすおそれがある。顔料成分の凝集が起こると、インキ中で顔料成分の沈降が発生し、水性ボールペンレフィルからのインキ流出性が悪化するおそれもある。
【0037】
[(G)pH調整剤]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、そのpHを調整するために、pH調整剤を含んでいてもよい。pH調整剤としては、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン、トリエチルアミン等のアミン;アンモニア(水);塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸;等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
水性ボールペン用インキ組成物におけるpH調整剤の含有量は、特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば0質量%以上、好ましくは0.01質量%以上であり、2.00質量%以下、好ましくは1.00質量%以下の範囲とすることができる。
【0038】
[(H)防腐防黴剤]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、腐敗や黴発生を抑制するために、防腐防黴剤を含んでいてもよい。防腐防黴剤としては、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、イソチアゾリン系、ペンタクロロフェノール系、クレゾール系、プロピレングリコール系、有機ヨウ素系等の防腐防黴剤等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。例えば、クロロアセトアミド、2-ピリジンチオール-1-オキサイド・ナトリウム塩、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメイト、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3(2H)-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンチアベンダゾール、フェノキシエタノール、フッ化ナトリウム、4-(2-ニトロブチル)モルホリン、1,3-ジモルホリノ-2-エチル-2-ニトロプロパン等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
水性ボールペン用インキ組成物における防腐防黴剤の含有量は、特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば0質量%以上、好ましくは0.01質量%以上であり、2.00質量%以下、好ましくは1.00質量%以下の範囲とすることができる。
【0039】
[(I)粘性調整剤]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、粘度の調整等のために粘性調整剤を含んでいてもよい。粘性調整剤としては、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン(レオザン)、ダイユータンガム、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体等の多糖類及びその誘導体、セルロース系高分子、架橋性アクリル酸重合体、アルカリ増粘型アクリル系樹脂、ウレタン会合型増粘剤、N-ビニルアセトアミド系樹脂、無機質微粒子等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
水性ボールペン用インキ組成物における粘性調整剤の含有量は、特に限定されない。水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば0質量%以上、好ましくは0.1質量%以上であり、例えば10.0質量%以下、好ましくは8.0質量%以下の範囲とすることができる。
【0040】
[(J)着色剤]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、美感を有し所望の色調の筆跡とするために、本発明の効果を阻害しない範囲で、「(A)板状光輝性顔料又は板状白色顔料」以外の着色剤を含んでいてもよい。このような着色剤は、カスレ等の発生がなく筆記性が良好であり、乾燥性、沈降安定性、保存安定性等が優れているものであれば、特に制限なく用いることができる。
着色剤は、水性ボールペン用インキ組成物の着色に用いられるものであれば特に限定されない。任意の色調を呈する無機顔料、有機顔料、着色樹脂球、染料等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0041】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、群青、紺青、アルミニウム粉やブロンズ粉等の金属粉、蛍光顔料、ガラスフレーク、パール顔料、光輝性顔料等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
有機顔料としては、例えば、フタロシアニン系、アゾ系、キナクドリン系、アンスラキノン系、ジオキサン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、インドレノン系、アゾメチン系等の公知の着色顔料、蛍光顔料からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
着色樹脂球としては、球状、不定形、中空、扁平状等の樹脂球を、任意の色調を呈する無機顔料、有機顔料又は染料の1種以上で着色したものである。着色樹脂球を形成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリメタクリレート、ベンゾグアナミン、メラミン樹脂、ナイロン等が挙げられる
染料としては、水溶性のものが好ましく、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも使用できる。例えば、アントラキノン系、メチン系、カルボニウム系、金属錯塩系等の着色染料・蛍光染料からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0042】
本発明の水性ボールペン用インキ組成物が着色剤を含有する場合、所望の色調となるように適宜調整すればよい。着色剤を含有する場合、水性ボールペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.07質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、例えば20.0質量%以下、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下含有させることができる。着色剤の含有量が20.0質量%を超えると、固形分が増加してしまい、流動性、粘度、取扱性、沈降安定性、筆跡のカスレ、製造コスト等で悪影響が生じることがある。なお、着色剤の含有量は、これらの範囲に限定されず、使用する着色剤の種類に応じて、適宜選択してよい。
【0043】
[(K)その他の添加剤]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、必要に応じて、前記(A)~(J)成分以外の成分(以下、「その他の添加剤」という場合がある。)を含有していてもよい。
その他の添加剤としては、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、尿素類、消泡剤、レベリング剤、凝集防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらは、所望の特性等を付与するため適宜の量で用いることができる。
【0044】
[粘度]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物の25℃における粘度は、特に限定されない。筆記性、筆跡安定性(垂れ防止、カスレ防止、滲み防止、インキボテ防止、裏抜け防止、濃度安定・均一性等)、流出性、乾燥時書出し性、漏れ防止、逆流防止、顔料沈降防止、成分分離防止、製造コスト等の観点から適宜設定することができる。例えば1mPa・s以上、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは1,000mPa・s以上であり、例えば50,000mPa・s以下、好ましくは20,000mPa・s以下、より好ましくは10,000mPa・s以下である。
水性ボールペン用インキ組成物の粘度について、1mPa・s未満であると、筆記具先端からのインキの流出性(筆記時に水性ボールペン用インキ組成物が過剰に流出し的確に筆跡を形成できない)、沈降安定性等の問題が生じるおそれがあり、50,000mPa・sを超えると、粘度が高くなりすぎ、筆記具先端からのインキの流出性(インキが流出しない)、インキの取扱性、沈降安定性、筆跡のカスレ、製造コスト等の問題が生じるおそれがある。
本発明の水性ボールペン用インキ組成物の粘度は、例えば、E型回転粘度計(例えば、東機産業(株)製、TVE型粘度計、3゜R14コーン、0.5rpm)を用い、20℃で測定して得ることができる。
【0045】
[pH値]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物のpH値は、特に限定されない。安定性、発色性、筆記性、成分分離防止等の観点から、適宜設定することができる。例えば、pH値6.0以上、好ましくはpH値6.5以上、より好ましくは7.0以上であり、よりさらに好ましくは7.0超であり、例えばpH値10.0以下、好ましくはpH値9.0以下とすることができる。
水性ボールペン用インキ組成物のpH値について、pH値が6.0未満の酸性側に近づくと、インキ組成物の経時安定性の低下、インキ組成物が接触する金属部材の腐食発生等の問題が生じるおそれがあり、pH値が10.0を超え強アルカリ側に近づくと、褪色や変色の発生による筆跡等の問題が生じるおそれがある。
本発明の水性ボールペン用インキ組成物のpH値は、例えば、市販のpHメーターを用いて、20℃で測定して得ることができる。
【0046】
[製造方法]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物の製造方法は、特に限定されない。従来公知の水性ボールペン用インキ組成物の作製方法を、いずれも用いることができる。
例えば、すべての成分を容器に投入し、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー、ホモミキサー、ターボミキサー、プロペラ撹拌機、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ニーダー、ディゾルバー等の撹拌装置により混合・撹拌して各構成成分を分散させ、水性ボールペン用インキ組成物を作製することができる。
例えば、水、カーボンブラック、アルミナ等のうちの一部の成分を容器に投入し、前記装置により混合・撹拌して分散させることにより分散液を製造した後に、その余の成分を投入し混合・撹拌して各構成成分を分散させ、インキを作製することができる。
水性ボールペン用インキ組成物の作製に際しては、濾過、遠心分離、脱泡等の操作を行い粗大粒子、気体、気泡を除くことができる。水性ボールペン用インキ組成物の作製時に加熱、冷却、加圧、減圧、不活性ガス置換等の手段を単独で又は複数を並行して行うこともできる。さらに、水性ボールペン用インキ組成物作製後にエージング工程を行ってもよい。
【0047】
[用途]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、チップボールを備える水性ボールペンに用いられる。具体的には、チップボールを回転自在に抱持したソケットが、先端部に直接又は接続部材を介して装着されて形成されてなるインキ収容筒に、本発明の水性ボールペン用インキ組成物を充填して水性ボールペンレフィルを構成し、当該レフィルを水性ボールペンの軸筒内に配設することで水性ボールペンを構成して用いられる。
筆記時には水性ボールペン用インキ組成物が前記インキ収納管から流出し、前記チップボールの表面に付着し、チップボールの回転によって筆記面に転写されることで、筆記が行われる。
【0048】
水性ボールペン本体の構造、形状は特に限定されず、適宜の形式とすることができる。
水性ボールペンとしては、ノック式、回転式、スライド式等、軸筒内にペン先を収容可能な出没式ボールペンで、単色式、2色以上の多色式等のもの、ボールペン以外の筆記具と組み合わせた多機能式とすることができる。また、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式ボールペンであってもよい。ボールペンの軸筒等の部材としては、公知の部材を用いることができる。本発明においては、出没式ボールペンとすることが好ましい。
【0049】
チップボールの表面の算術平均粗さRaは、JIS B 0601によるものである。本発明においては、5nm以上、好ましくは5.3nm以上、より好ましくは6nm以上であり、例えば25nm以下、好ましくは20nm以下である。チップボールの表面の算術平均粗さRaが5nm未満である場合には、筆跡にカスレや線とびが発生してしまう。本発明の水性ボールペン用インキ組成物を用いた場合には、チップボールの表面の算術平均粗さRaの上限を25nmとすると、筆跡にカスレや線とびが発生することなく、滑らかな筆感を得ることができるので好ましい。チップボールの表面の算術平均粗さRaが25nmを超えると、手脂の付着した筆記面においての筆記性については向上するものの、チップボールとソケットとの間の摩擦抵抗が大きくなり、筆感に問題が生じるおそれがある。
【0050】
チップボールの材質は、特に限定されない。例えば、金属、超硬合金、セラミックスが挙げられ、例えば、ステンレス鋼、タングステン、タングステンカーバイド(WC)、炭化ケイ素(SiC)、窒化チタン(TiN)、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(Al)等からなる群より選ばれる1種以上からなるものが好ましい。本発明においては、タングステンカーバイド系のチップボールが好ましく、具体的には、タングステンカーバイドや、タングステンカーバイドと、炭化ケイ素、窒化チタン、ジルコニア、アルミナ等からなる群より選ばれる1種以上からなるチップボール等が挙げられる。
チップボールのビッカース硬さ(HV)は、例えば700以上、好ましくは1000以上であり、例えば2000以下である。
チップボールの直径は、特に限定されない。例えば0.05mm以上、好ましくは0.1mm以上とすることができ、例えば3.0mm以下、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下とすることができる。
【0051】
チップボールを抱持するソケットを構成する材料は、耐摩耗性を有し加工可能なものであれば特に限定されない。金属(ステンレス鋼、黄銅や洋白等の銅合金等)、樹脂(ポリオキシメチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ナイロン、ポリフェニレンエーテル、ポリアクリレート等)が挙げられる。筆記時の耐摩耗性やインキの耐食性の面からステンレス鋼が好ましく、一般的にはオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、フェライト系ステンレス鋼であるSUS430が用いられる。加工性とボールペンチップ先端部の変形等を抑制等の観点から、ビッカース硬さ(HV)を150以上300以下とすることが好ましい。また、環境への影響から、鉛を含まないものが好ましい。加工性等の点から、鉛の代替成分として、ビスマス(元素記号:Bi)を用いることが好ましい。
【0052】
インキ収容筒を構成する材料は、特に限定されない。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の樹脂や、ニッケルクロム合金鋼(SUS304系ステンレス鋼)、クロム合金鋼(SUS430系ステンレス鋼)、オーステナイト系ステンレス鋼、快削ステンレス鋼、真鍮、アルミニウム、洋白及びリン青銅合金等の金属が挙げられる。好ましくは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ニッケルクロム合金鋼(SUS304系ステンレス鋼)、クロム合金鋼(SUS430系ステンレス鋼)、オーステナイト系ステンレス鋼、真鍮、洋白が用いられる。
【0053】
水性ボールペンレフィルにおけるインキ流出量は、適宜調整することができる。これにより、筆跡のカスレを抑制でき良好な筆跡を得ることができる。
また、ボールペンチップ中のボールの縦軸方向の移動可能量(クリアランス)は、インキ流出量に応じて適宜調整でき、例えば、20μm~50μmとすることができる。
【0054】
水性ボールペンレフィルは、先端にボールペンチップを備えるインキ収容筒に水性ボールペン用インキ組成物が収容されており、インキ収容筒の後端に逆流止めとしてインキ追従体を充填したものである。
インキ追従体は、インキ収容筒内に充填された水性ボールペン用インキ組成物と相溶性がなく、かつ、インキ組成物に対して比重が小さい物質であり、例えば、基油、基油に増粘剤等を含有させたものを用いることができる。インキ追従体に用いる基油としては、水に不溶もしくは難溶の、例えば、ポリブテン、鉱油、シリコーンオイル等から選ばれる1種以上を用いることができる。インキ追従体に用いることができる増粘剤としては、例えば、微粒子シリカ、リン酸エステルのカルシウム塩、熱可塑性エラストマー等から選ばれる1種以上が挙げられる。インキ追従体は、さらに、必要に応じて、増粘助剤(粘土増粘剤、金属石鹸等)、インキ追従体の追従性向上剤(界面活性剤等)、酸化防止剤等からなる群より選ばれる1種以上を含んでいてもよい。インキ追従体としては、例えば、ポリブテン又は鉱油と金属石鹸の混合物、シリコーンオイルとシリカの混合物等が挙げられる。インキ追従体の粘度は、例えば、1,000mPa・s以上10,000mPa・s以下とすることができる。
【実施例0055】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は質量部を意味する。
【0056】
[水性ボールペン用インキ組成物構成成分]
水性ボールペン用インキ組成物構成成分として以下のものを用意した。
板状光輝性顔料:アルミニウム蒸着樹脂フィルム
(体積平均粒子径35μm、厚さ2μm、アスペクト比1.4)
ワックスエマルション1:アニオン系の変性エチレン酢酸ビニル系ワックスエマルション
ワックスエマルション2:ノニオン系の変性ポリプロピレン系ワックスエマルション
有機溶剤1:プロピレングリコール
有機溶剤2:グリセリン
有機溶剤3:エチレングリコール
有機溶剤4:エチレングリコールモノブチルエーテル
界面活性剤:ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸
分散・定着剤1:スチレン-アクリル酸樹脂
分散・定着剤2:アクリル酸エステル系樹脂エマルション
pH調整剤:水酸化ナトリウム
防腐防黴剤1:安息香酸ナトリウム
防腐防黴剤2:ベンゾイソチアゾリン系防腐剤
防腐防黴剤3:有機ヨウ素系防黴剤
粘性調整剤1:キサンタンガム
粘性調整剤2:カルボキシビニルポリマー
粘性調整剤3:デキストリン
着色剤1:フタロシアニンブルー
着色剤2:カルバゾールバイオレット
着色剤3:PIGMENT RED 268
着色剤4:PIGMENT RED 122
【0057】
[実施例1~7、比較例1~3]
<水性ボールペン用インキ組成物の作製>
容器内に、板状光輝性顔料、着色剤1~4及びイオン交換水を、それぞれ表1に示す量投入し、撹拌機を用いて撹拌混合し、顔料ベースを得た。
得られた顔料ベースに、表1に示される顔料ベース構成成分以外の各成分をそれぞれ表1に示す量加え、撹拌機を用いて撹拌混合し、メッシュによりろ過し、脱泡を行って水性ボールペン用インキ組成物を作製した。
【0058】
<水性ボールペンレフィル/水性ボールペンの作製>
タングステンカーバイド系チップボール及びステンレス鋼(SUS)系ソケットを備えるチップを一端に取り付けたポリプロピレン製インキ収容管を10本用意し、各インキ収容管に作製した水性ボールペン用インキ組成物を一定量充填した後に、ポリブテン系インキ逆流止めを充填して水性ボールペンレフィルを作製した。作製した水性ボールペンレフィルを遠心分離機にセットし、インキ収容管中の空気を除去した後にボールペン本体にセットして10本の水性ボールペンを作製した。
【0059】
<評価>
(50℃保存後筆記性評価)
得られた各水性ボールペンを用い、上質紙に、手書きで直径15mmの丸を一筆書きで10個筆記した後に、各水性ボールペンをそのまま50℃恒温槽内に横置き保存した。
4週間経過後、恒温槽から各水性ボールペンを取り出し、常温に戻した。各水性ボールペンを用い、上質紙に、手書きで直径15mmの丸を一筆書きで10個筆記し、カスレ及び/又は線とびがない筆跡の場合に正常に筆記できたとして、以下の基準で評価を行った。本発明においては、Cが不合格である。
S:正常に筆記できたのが9本以上
A:正常に筆記できたのが8本
B:正常に筆記できたのが6本又は7本
C:正常に筆記できたのが5本以下
【0060】
(光輝感評価)
PHOケント紙に、作製した水性ボールペン用インキ組成物をのせ、バーコーターを用いて膜厚6.86μmのウエット塗膜を作製して乾燥させ乾燥塗膜を得た。
乾燥塗膜を、多角度分光光度計(ゴニオ分光光度計 CE-740GL;サカタインクス社製)を用い、L色空間におけるL値を下記の条件;
光源:D65Xeフラッシュランプ
測定角度:15°
視野:10°
モード:反射
色差式:CIE L
データ変換方法:Reflectance
で測定し、以下の基準で評価を行った。本発明においては、Cが不合格である。
A:L値≧85.0
B:85>L値≧83
C:83>L
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1~7の結果から、(A)板状光輝性顔料又は板状白色顔料、(B)ワックスエマルション、(C)水及び(D)水溶性有機溶剤を含む水性ボールペン用インキ組成物は、50℃保存後筆記性評価及び光輝感評価の両者が優れていることがわかる。一方で、ワックスエマルションを含まない比較例1~3は、50℃保存後筆記性評価がC評価で不合格であり、さらに、定着剤(ワックスエマルションではない樹脂エマルション)を大量に用いた比較例3は、光輝感評価においても不合格であった。