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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127059
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】水素インジェクタ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20240912BHJP
   H01F 7/18 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240912BHJP
【FI】
F16K31/06 320A
H01F7/18 B
H01M8/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035918
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】山口 雅憲
【テーマコード(参考)】
3H106
5H127
【Fターム(参考)】
3H106DA02
3H106DA22
3H106EE07
3H106FA04
3H106FB08
5H127AB04
5H127AC02
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127BB39
5H127BB40
(57)【要約】
【課題】噴射量制御の精度を向上できる水素インジェクタ制御装置を提供すること。
【解決手段】制御装置100は、コイルの下流に設けられ所定電位に接続されたMOSFET20と、電流モニタ回路40と、CPU10とを備える。電流モニタ回路は、コイルとMOSFETとの間における電流経路に設けられたシャント抵抗41と、シャント抵抗の両端電圧を増幅してコイルに流れる電流値に相関する電圧を出力するオペアンプ42とを含む。CPUは、出力電圧をモニタした入力電圧から電流モニタ値を取得し、電流モニタ値に基づいて、MOSFETのオンオフを制御するPWM信号のパルス幅を変えて電流量を制御する。また、CPUは、入力電圧の前回値と今回値とに誤差があると判定した場合、入力電圧を誤差に応じた補正値で補正して、電流モニタ値を取得するための補正後入力電圧を取得する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素インジェクタのコイルへの電流量によってバルブの開度を制御することで、水素の噴射量を制御する水素インジェクタ制御装置であって、
前記コイルの下流に設けられ、所定電位に接続されたスイッチング素子(20)と、
前記コイルと前記スイッチング素子との間における電流経路に設けられた電流検出抵抗(41)と、前記電流検出抵抗の両端電圧を増幅して前記コイルに流れる電流値に相関する電圧を出力する増幅器(42)と、を含む電流モニタ回路(40)と、
前記増幅器の出力電圧をモニタした入力電圧から電流モニタ値を取得し、前記電流モニタ値に基づいて、前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御信号のパルス幅を変えて前記電流量を制御する処理装置(10)と、を備え、
前記処理装置は、前記入力電圧の前回値と今回値とに誤差があると判定した場合、前記電流モニタ値が前記コイルに流れる実電流値から乖離があるとみなし、前記入力電圧を前記誤差に応じた補正値で補正して、前記電流モニタ値を取得するための補正後入力電圧を取得する水素インジェクタ制御装置。
【請求項2】
前記処理装置は、前記今回値が前記前回値から所定値を超えて増減した場合に、前記誤差があると判定する請求項1に記載の水素インジェクタ制御装置。
【請求項3】
前記処理装置は、前記制御信号に同期して、前記スイッチング素子のオン期間における前記出力電圧の最終値と前記出力電圧の初期値、および前記スイッチング素子のオフ期間における前記出力電圧の最終値と前記出力電圧の初期値を線形補完にて推定し、推定した推定値における推定前回値と推定今回値との乖離を前記誤差に応じた前記補正値とする請求項1または2に記載の水素インジェクタ制御装置。
【請求項4】
水素インジェクタのコイルへの電流量によってバルブの開度を制御することで、水素の噴射量を制御する水素インジェクタ制御装置であって、
前記コイルの下流に設けられ、所定電位に接続されたスイッチング素子(20)と、
前記コイルと前記スイッチング素子との間における電流経路に設けられた電流検出抵抗(41)と、前記電流検出抵抗の両端電圧を増幅して前記コイルに流れる電流値に相関する電圧を出力する増幅器(42)と、を含む電流モニタ回路(40)と、
前記増幅器の出力電圧をモニタした入力電圧から前記電流値を取得し、取得した前記電流値である電流モニタ値に基づいて、前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御信号のパルス幅を変えて前記電流量を制御する処理装置(10)と、を備え、
前記処理装置は、前記スイッチング素子のオフ期間における前記入力電圧を用いることなく、前記スイッチング素子のオン期間における前記入力電圧を用いて前記電流量を制御する水素インジェクタ制御装置。
【請求項5】
前記処理装置は、前記制御信号から前記オフ期間と前記オン期間を判定する請求項4に記載の水素インジェクタ制御装置。
【請求項6】
前記処理装置は、前記出力電圧の今回値と前回値との差分が所定値を超えた場合に前記オフ期間と判定し、前記差分が前記所定値を再度超えた場合に前記オン期間と判定する請求項4に記載の水素インジェクタ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素インジェクタ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素インジェクタ制御装置の一例として、特許文献1に開示された水素インジェクタがある。水素インジェクタは、高圧の水素タンクに接続されるソレノイドバルブと、ソレノイドバルブのコイルに電流を供給するコントローラを備えている。コントローラは、第1電流をコイルに供給しながらコイルに流れる電流をモニタする。コントローラは、電流の変化率が増加したら供給する電流を第1電流から第2電流へ下げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-18888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水素インジェクタ制御装置は、バルブの開度で水素の噴射量を制御する構成が考えられる。この場合、水素インジェクタ制御装置は、コイルに流れる電流をモニタし、コイルへの電流量によってバルブの開度を制御する。
【0005】
この場合、水素インジェクタ制御装置は、コイルに流れる電流をモニタするために、コイルと、コイルのローサイド側のスイッチング素子との間の電流経路にシャント抵抗が設けられる。また、スイッチング素子は、ダイオードを介して電源が接続されている。そして、水素インジェクタ制御装置は、コイルに流れる電流によって発生するシャント抵抗の両端電圧をオペアンプで増幅して処理装置に入力し、処理装置で電流をモニタする。
【0006】
水素インジェクタ制御装置は、スイッチング素子がオフのタイミングではシャント抵抗の両端電圧が高くなる。そのため、水素インジェクタ制御装置は、オペアンプの入力電圧が大きくなる。よって、水素インジェクタ制御装置は、入力電圧に誤差が生じた場合、誤差もオペアンプで増幅されるため、スイッチング素子がオンのタイミングに比べてオフのタイミングで誤差が大きくなり、処理装置での電流モニタの精度が低下する。したがって、水素インジェクタ制御装置は、入力電圧に誤差に伴う噴射量制御における精度が低下するという問題がある。
【0007】
開示される一つの目的は、噴射量制御の精度を向上できる水素インジェクタ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示された水素インジェクタ制御装置は、
水素インジェクタのコイルへの電流量によってバルブの開度を制御することで、水素の噴射量を制御する水素インジェクタ制御装置であって、
コイルの下流に設けられ、所定電位に接続されたスイッチング素子(20)と、
コイルとスイッチング素子との間における電流経路に設けられた電流検出抵抗(41)と、電流検出抵抗の両端電圧を増幅してコイルに流れる電流値に相関する電圧を出力する増幅器(42)と、を含む電流モニタ回路(40)と、
増幅器の出力電圧をモニタした入力電圧から電流モニタ値を取得し、電流モニタ値に基づいて、スイッチング素子のオンオフを制御する制御信号のパルス幅を変えて電流量を制御する処理装置(10)と、を備え、
処理装置は、入力電圧の前回値と今回値とに誤差があると判定した場合、電流モニタ値がコイルに流れる実電流値から乖離があるとみなし、入力電圧を誤差に応じた補正値で補正して、電流モニタ値を取得するための補正後入力電圧を取得する。
【0009】
このように、水素インジェクタ制御装置は、電流モニタ値がコイルに流れる実電流値から乖離があるとみなして、誤差に応じた補正値で入力電圧を補正する。よって、水素インジェクタ制御装置は、電流モニタ値の精度を向上できる。このため、水素インジェクタ制御装置は、水素の噴射量制御の精度を向上できる。
【0010】
また、ここに開示された水素インジェクタ制御装置の他の形態は、
水素インジェクタのコイルへの電流量によってバルブの開度を制御することで、水素の噴射量を制御する水素インジェクタ制御装置であって、
コイルの下流に設けられ、所定電位に接続されたスイッチング素子(20)と、
コイルとスイッチング素子との間における電流経路に設けられた電流検出抵抗(41)と、電流検出抵抗の両端電圧を増幅してコイルに流れる電流値に相関する電圧を出力する増幅器(42)と、を含む電流モニタ回路(40)と、
増幅器の出力電圧をモニタした入力電圧から電流値を取得し、取得した電流値である電流モニタ値に基づいて、スイッチング素子のオンオフを制御する制御信号のパルス幅を変えて電流量を制御する処理装置(10)と、を備え、
処理装置は、スイッチング素子のオフ期間における入力電圧を用いることなく、スイッチング素子のオン期間における入力電圧を用いて電流量を制御する。
【0011】
このように、水素インジェクタ制御装置は、オン期間における出力電圧を用いて電流量を制御するため水素の噴射量制御の精度を向上できる。
【0012】
この明細書において開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】制御装置の概略構成を示す回路図である。
図3】制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
図4】制御装置の処理動作を示すタイミングチャートである。
図5】変形例の制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
図6】変形例の制御装置の処理動作を示すタイミングチャートである。
図7】第2実施形態の制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態の制御装置の処理動作を示すタイミングチャートである。
図9】変形例の制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
図10】変形例の制御装置の処理動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、図面を参照しながら、本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において、先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において、構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を参照し適用することができる。
【0015】
(第1実施形態)
図1図4を用いて、本実施形態の制御装置100に関して説明する。本実施形態では、水素インジェクタ制御装置を制御装置100に適用する。制御装置100は、燃料電池自動車に搭載可能に構成されている。
【0016】
<燃料電池システム構成>
図1に示すように、制御装置100は、燃料電池システムの一部である。燃料電池システムは、燃料電池スタック300の発電のために、燃料電池スタック300に水素(水素ガス)と酸素を供給するシステムである。燃料電池システムは、制御装置100に加えて、水素インジェクタ200、複数の弁体201~204、燃料電池スタック300、エアコンプレッサ400、水素タンク500などを備える。なお、図1では、制御装置をECU、燃料電池スタックをFCS、水素タンクをHDTと略称で記載している。
【0017】
燃料電池スタック300は、水素と酸素の電気化学反応によって発電するセルの積層体である。各セルは、電解質膜を挟んで水素極と酸素極とを配置した構成となっている。なお、水素極は、アノードと称されることもある。酸素極は、カソードと称されることもある。
【0018】
燃料電池スタック300は、複数の配管が接続されている。カソードは、酸素供給管を介してエアコンプレッサ400が接続されている。酸素供給管には、供給弁201が設けられている。カソードは、供給弁201を介してエアコンプレッサ400で圧縮された酸素が供給される。また、カソードには、酸素を含有したガスとして圧縮空気が供給されるともいえる。酸素は、カソードで起電反応に用いられる。また、カソードで起電反応に用いられなかった酸素は、酸素排気管から排出される。酸素排気管には、調圧弁202が設けられている。供給弁201および調圧弁202は、制御装置100によって開閉制御される。
【0019】
アノードは、水素供給管を介して水素タンク500が接続されている。水素供給管には、水素インジェクタ200が設けられている。水素タンク500は、タンク主止弁204を介して水素供給管が接続されている。アノードは、水素インジェクタ200を介して水素タンク500から水素が供給される。水素は、アノードで起電反応に用いられる。アノードで起電反応に用いられなかった水素は、水素排気管から排出される。水素排気管には、排出経路開閉弁203が設けられている。なお、水素排気管には、起電反応に用いられなかった水素ともに水(水蒸気)なども排出される。水素インジェクタ200、排出経路開閉弁203、およびタンク主止弁204は、制御装置100によって開閉制御される。
【0020】
なお、燃料電池スタック300に接続された配管、弁体201~204の構成は、上記に限定されない。よって、燃料電池システムは、上記以外の構成要素を備えていてもよい。
【0021】
水素インジェクタ200は、リニアソレノイドバルブを備えている。リニアソレノイドバルブは、コイル210やプランジャなどを備えている。リニアソレノイドバルブは、コイル210に電流が供給されると、コイル210の磁力によって流路が開く方向、すなわちバルブが開く方向にプランジャが移動する。リニアソレノイドバルブは、バルブが開くことで水素を噴射する。水素インジェクタ200は、バルブの開度で水素噴射量が制御される。そして、バルブの開度は、コイル210に流れる電流量(電流値I)によって制御される。
【0022】
なお、リニアソレノイドバルブは、コイル210への電流量が所定値に達しない状態では流路が閉じている。流路は、燃料電池スタック300に繋がっている。コイル210は、一端がバッテリ600に接続され、他端が制御装置100の端子50に接続されている。
【0023】
<制御装置の構成>
図2に示すように、制御装置100は、CPU10、MOSFET20、内部電源30、電流モニタ回路40などを備えている。制御装置100は、水素インジェクタ200のコイル210への電流量によってバルブの開度を制御する。それによって、制御装置100は、水素インジェクタ200の水素噴射量を制御するものである。言い換えると、制御装置100は、燃料電池スタック300に対する水素の供給量を制御する。
【0024】
CPU10は、メモリ11を備えた演算処理装置である。つまり、CPU10は、演算処理を実行する演算部と、各種データなどが記憶されたメモリ11とを備えている。なお、メモリ11は、CPU10の外部に設けられていてもよい。CPU10は、処理装置に相当する。
【0025】
CPU10は、所定の演算処理を実行する。CPU10(演算部)は、メモリ11に記憶された情報を参照可能に構成されている。CPU10は、オペアンプ42から出力された出力電圧Voutが入力される。つまり、CPU10は、出力電圧Voutを入力電圧Vinとしてモニタする。CPU10は、入力電圧Vinから電流値Iを取得(算出)する。取得した電流値Iは、電流モニタ値に相当する。
【0026】
さらに、CPU10は、電流モニタ値を算出するための入力電圧Vinを補正値Vcoで補正する機能も備えている。よって、CPU10は、入力電圧Vinを補正した補正後入力電圧Vin1を取得することができる。この場合、CPU10は、補正後入力電圧Vin1から電流モニタ値を算出する。なお、補正に関しては、後ほど詳しく説明する。
【0027】
CPU10は、電流モニタ値に基づいて、MOSFET20のオンオフを制御する制御信号としてPWM信号を生成する。CPU10は、PWM信号のパルス幅を変えて、コイル210への電流量を制御する。つまり、CPU10は、PWM信号を出力することでコイル210(水素インジェクタ200)の電流制御を行う。なお、メモリ11には、後ほど説明する補正値Vco、閾値Vth、変数X1、X2などの情報が記憶される。
【0028】
MOSFET20は、コイル210の下流に設けられている。よって、MOSFET30は、ローサイドMOSやローサイドスイッチング素子ともいえる。MOSFET20のドレイン端子は、コイル210と接続されている。また、MOSFET20のドレイン端子は、ダイオードを介して内部電源30に接続されている。よって、MOSFET20は、所定電位に接続されているといえる。MOSFET20のゲート端子は、CPU10と接続されている。ゲート端子には、PWM信号が入力される。MOSFET20のソース端子は、たとえばグランドに接続されている。MOSFET20は、スイッチング素子に相当する。なお、以下では、オンと記載されている箇所はMOSFET20のオンを示しており、オフと記載されている箇所はMOSFET20のオフを示している。
【0029】
電流モニタ回路40は、シャント抵抗41とオペアンプ42とを備えている。シャント抵抗41は、コイル210とMOSFET20との間における電流経路に設けられている。オペアンプ42は、シャント抵抗41の両端電圧(電位差V2-V1)を増幅してコイル210に流れる電流値Iに相関する出力電圧Voutを出力する。なお、電位差V2-V1は、第2端子V2の電圧値と第1端子V1の電圧値の差である。シャント抵抗41の抵抗値はR1とする。オペアンプ42は、増幅器に相当する。
【0030】
また、電流モニタ回路40は、シャント抵抗41の両端電圧の倍率を決めるための複数の抵抗43~48を備えている。第1抵抗43、第2抵抗44、第3抵抗45は、第2端子V2とオペアンプ42の+端子とに接続されている。第4抵抗46、第5抵抗47、第6抵抗48は、第1端子V1とオペアンプ42の-端子とに接続されている。シャント抵抗41は、電流検出抵抗に相当する。
【0031】
上記のように、水素インジェクタ200は、リニアソレノイドバルブを備えている。このため、水素インジェクタ200は、オンオフバルブを備えたインジェクタとは異なる。インジェクタは、バルブが開いている時間で水素噴射量を制御する。よって、インジェクタに対する電流精度要求は、オン状態とオフ状態との間で遷移できる程度である。
【0032】
これに対して、水素インジェクタ200は、上記のように、コイル210に流れる電流値Iによって水素噴射量を制御する。つまり、水素インジェクタ200は、コイル210に流れる電流値Iが水素噴射量に直結する。このため、制御装置100は、電流値Iを精度よく検出(モニタ)する必要がある。
【0033】
電流モニタ回路40は、オフのタイミングで第1端子V1の電圧値が+B+Vfまで持ち上がる。第2端子V2の電圧値は、第1端子V1の電圧値が基準となる。このため、電流モニタ回路40は、第2端子V2の電圧値も高くなる。なお、第1端子V1の電圧値は、オンのとき0[V]、オフのとき+B+Vf[V]となる。第2端子V2の電圧値は、オンのときI×R1[V]、オフのとき(+B+Vf)+I×R1[V]となる。このため、オペアンプ42の+端子と-端子への入力電圧は、コイル210に流れている実電流値に対応する電圧に対して誤差が生じる。
【0034】
また、オペアンプ42への入力電圧誤差は、抵抗43~48の比率で効いてくる。このため、第1端子V1と第2端子V2に印加される電圧が高くなると、誤差の絶対値としては大きくなる。入力電圧誤差は、オペアンプ42にて増幅されてCPU10へ入力される。よって、電流モニタ回路40は、オンのときに比べてオフのときの誤差が大きくなる。つまり、出力電圧Voutから算出した電流値Iは、オンのときに比べてオフのときの方が、コイル210に流れている実電流値から乖離する。CPU10は、その乖離を減らすために補正後入力電圧Vin1を算出する。このため、CPU10は、オフの期間に限って、入力電圧Vinを補正値Vcoで補正してもよい。
【0035】
<制御装置の処理動作>
ここで、図3図4を用いて、制御装置100の処理動作を説明する。
【0036】
CPU10は、電源の供給が開始されると所定周期で図3のフローチャートに示す処理を実行する。また、CPU10は、コイル210に対する電流制御が必要なタイミングで図3のフローチャートに示す処理を実行してもよい。図4には、電流制御時の制御装置100における波形を示している。
【0037】
なお、図4では、出力電圧Voutの波形として、実線でオペアンプ42の入力電圧誤差に伴う出力電圧Voutを示し、一点鎖線でコイル210に流れている実電流値に対応する出力電圧Voutを示している。また、補正後入力電圧Vin1の波形として、実線で補正したVin1を示し、二点鎖線でコイル210に流れている実電流値に対応する入力電圧Vinを示している。
【0038】
さらに、図4の出力電圧Voutに関しては、二つのパターンを図示している。一つ目のパターンは、出力電圧Voutを出力電圧Vout1と記載している。二つ目のパターンは、出力電圧Voutを出力電圧Vout2と記載している。一つ目のパターンは、実電流値に対して上側に乖離が生じている場合である。二つ目のパターンは、実電流値に対して下側に乖離が生じている場合である。
【0039】
CPU10は、ステップS10で入力電圧Vinをモニタして変数X1に保存する。変数X1は、入力電圧Vinの今回値ともいえる。なお、CPU10は、変数X1をメモリ11に保存する。既に変数1が保存されている場合、CPU10は、ステップS10でモニタしたX1を上書き保存する。
【0040】
CPU10は、ステップS12で変数X2>0であるか否かを判定する。CPU10は、変数X2>0であると判定するとステップS14へ進み、変数X2>0であると判定しないとステップS24へ進む。変数X2は、入力電圧Vinの前回値ともいえる。
【0041】
CPU10は、ステップS14で|X1-X2|>Vthであるか否かを判定する。Vthは、補正が必要か否かを判断するための閾値である。閾値Vthは、所定値に相当する。CPU10は、ステップS14によって補正が必要か否かを判定する。また、CPU10は、ステップS14によって、入力電圧Vinの前回値と今回値との誤差があるか否かを判定するともいえる。なお、前回値と今回値との誤差は、コイル210に流れている実電流値に対応する電圧と、オペアンプ42への入力電圧との誤差とみなすこともできる。
【0042】
CPU10は、|X1-X2|>Vthであると判定すると、今回値が前回値から所定値を超えて増減しているとみなす。この場合、CPU10は、誤差があるため補正が必要とみなしてステップS16へ進む。言い換えると、CPU10は、補正が必要な程度の誤差が生じていると判定する。また、CPU10は、入力電圧Vinの前回値と今回値とに誤差があると判定した場合、電流モニタ値がコイル210に流れる実電流値から乖離があると判定するともいえる。
【0043】
一方、CPU10は、|X1-X2|>Vthであると判定しないと、今回値が前回値から所定値を超えて増減していないとみなす。この場合、CPU10は、誤差がないため補正が必要ないとみなしてステップS22へ進む。言い換えると、CPU10は、補正が必要な程度の誤差は生じていないと判定する。また、CPU10は、入力電圧Vinの前回値と今回値とに誤差があると判定しない場合、電流モニタ値がコイル210に流れる実電流値から乖離がないと判定するともいえる。なお、CPU10は、|X1-X2|≧Vthの場合に補正が必要と判定し、|X1-X2|≧Vthでない場合に補正が必要ないと判定してもよい。
【0044】
CPU10は、ステップS22で補正値Vco=0とする。つまり、CPU10は、補正値Vcoとして0を設定する。CPU10は、補正値Vcoをメモリ11に保存する。なお、既に補正値Vcoが保存されている場合、CPU10は、補正値Vcoとして0を上書き保存する。なお、補正値Vco=0とは、補正値Vcoが設定されていないことを示す。
【0045】
CPU10は、ステップS16でVco=0であるか否かを判定する。つまり、CPU10は、補正値Vcoが設定されているか否かを判定する。CPU10は、Vco=0であると判定すると、補正値Vcoが設定されていないとみなしてステップS18へ進む。CPU10は、Vco=0であると判定しないと、補正値Vcoが設定されているとみなしてステップS20へ進む。
【0046】
CPU10は、ステップS18でVco=X1-X2を実行する。つまり、CPU10は、補正値VcoとしてX1-X2の演算結果を設定する。図4に示すように、補正値Vcoは、オペアンプ42の入力電圧誤差に伴う出力電圧Voutと、コイル210に流れている実電流値に対応する出力電圧Voutとの差分となる。
【0047】
また、上記のように、CPU10は、ステップS16で補正値Vcoが設定されていないとみなした場合に限ってステップS18を行う。これによって、CPU10は、補正値Vcoを設定するための処理負荷を減らすことができる。しかしながら、本開示は、これに限定されない。CPU10は、ステップS16を省略してもよい。なお、CPU10は、ステップS18で設定した補正値Vcoをメモリ11に上書き保存する。
【0048】
CPU10は、ステップS20でX1=X1-Vcoを実行する。つまり、CPU10は、変数X1として変数X1-Vcoの演算結果を設定する。CPU10は、ステップS10で保存した変数X1から補正値Vcoを減算した値を補正後の変数X1として設定する。補正後の変数X1は、補正後入力電圧Vin1に相当する。つまり、CPU10は、入力電圧Vinの前回値と今回値とに誤差があると判定した場合、入力電圧Vinを誤差に応じた補正値Vcoで補正して電流モニタ値を取得するための補正後入力電圧Vin1を取得するといえる。
【0049】
このように、CPU10は、入力電圧Vinを補正値Vcoで補正する。CPU10は、図4に示すように、ステップS18、S20によって正負どちらにも補正できる。なお、CPU10は、ステップS20で変数X1(補正後入力電圧Vin1)を設定すると、その変数X1を用いて電流制御を行う。つまり、CPU10は、入力電圧Vinの前回値と今回値との乖離が閾値Vthを超えて増減した場合、その乖離を実電流値からの乖離として補正して制御に使用するともいえる。また、CPU10は、オフ期間のサンプリング値(Vin)をVcoで補正して電流制御を行うともいえる。
【0050】
CPU10は、ステップS24でX2=X1を実行する。CPU10は、ステップS20で設定した変数X1を変数X2に設定する。そして、CPU10は、その変数X2をメモリ11に上書き保存する。これによって、ステップS20で設定した変数X1が前回値となる。
【0051】
CPU10は、ステップS26で電流制御終了か否かを判定する。CPU10は、電流制御終了と判定すると図3のフローチャートを終了し、電流制御終了と判定しないとステップS10へ戻る。なお、CPU10は、たとえば、水素インジェクタ200のバルブ閉を示す信号が入力されると電流制御終了と判定する。バルブ閉を示す信号は、他の制御装置などから入力される。なお、CPU10は、MOSFET20がオフの間は補正を継続して行うことになる。言い換えると、CPU10は、MOSFET20がオフの間、補正値Vcoを修正しながら噴射制御を行う。
【0052】
<効果>
以上のように、制御装置100は、電流モニタ値がコイル210に流れる実電流値から乖離があるとみなして、誤差に応じた補正値Vcoで入力電圧Vinを補正する。よって、制御装置100は、電流モニタ値の精度を向上できる。このため、制御装置100は、電流制御の精度を向上できる。よって、制御装置100は、水素の噴射量制御の精度を向上できる。つまり、制御装置100は、誤差が生じやすいMOSFET20のオフ期間であっても、水素の噴射量制御の精度を向上できる。
【0053】
また、制御装置100は、MOSFET20のオフ期間の入力電圧Vinであっても補正して噴射量制御に用いることができる。このため、制御装置100は、平均化した際のノイズの影響を低減できる。
【0054】
さらに、水素インジェクタ200は、燃料電池自動車に搭載された状態であっても入力電圧Vinを補正して電流モニタ値の精度を向上できる。水素インジェクタ200は、誤差が工場出荷時からずれたとしても、噴射量制御の精度を向上できる。
【0055】
<変形例>
ここで、図5図6を用いて、第1実施形態の制御装置100の変形例に関して説明する。変形例では、主に上記実施形態と異なる箇所に関して説明する。変形例は、処理動作が上記実施形態と異なる。図5では、図3と同じ処理に、図3と同じステップ番号を用いている。
【0056】
図6は、図4に相当する図面である。図6では、オン期間最終値をONFV、オン期間初期値をONIV、オフ期間最終値をOFFFV、オフ期間初期値をOFFIVと記載している。オン期間最終値ONFVは、MOSFET20のオン期間における出力電圧Voutの最終値である。オン期間初期値ONIVは、MOSFET20のオン期間における出力電圧Voutの初期値である。オフ期間最終値OFFFVは、MOSFET20のオフ期間における出力電圧Voutの最終値である。オフ期間初期値OFFIVは、MOSFET20のオフ期間における出力電圧Voutの初期値である。また、図6では、白丸でサンプリングタイミング、黒丸で線形補完後の値を示している。
【0057】
CPU10は、ステップS16でYES判定した場合、ステップS17へ進む。CPU10は、ステップS17で線形補完(X11、X12)を行う。CPU10は、図6に示すように、PWM信号に同期して、出力電圧Voutのオン期間最終値ONFV、オン期間初期値ONIV、オフ期間最終値OFFFV、オフ期間初期値OFFIVを線形補完にて推定する。
【0058】
そして、CPU10は、その線形補完によって推定した、線形補完後の推定今回値X11と線形補完後の推定前回値X12を取得する。制御上、最終値および初期値は、実電流値と乖離する。このため、CPU10は、一つ前のデータ含めて線形補完して数値(X11、X12)を決める。なお、変形例では、線形補完によって得られた推定今回値X11と推定前回値X12を真値とする。
【0059】
CPU10は、ステップS18aでVco=X11-X12を実行する。CPU10は、推定した推定値における推定前回値X12と推定今回値X11との乖離を誤差に応じた補正値Vcoとする。
【0060】
なお、CPU10は、オン期間最終値ONFVとオン期間初期値ONIVをPWM信号のタイミングと同期して判断し、線形補完した数値を真値と判断する。そして、CPU10は、真値とオフ期間の実電流値との乖離を補正値Vcoとして制御に使用するともいえる。
【0061】
このように、変形例の制御装置100は、線形補完した値で補正値Vcoを決める。そのため、制御装置100は、補正の精度を上げることができる。
【0062】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明した。しかしながら、本開示は、上記実施形態に何ら制限されることはなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。以下に、本開示のその他の形態として、第2実施形態に関して説明する。上記実施形態および第2実施形態は、それぞれ単独で実施することも可能であるが、適宜組み合わせて実施することも可能である。本開示は、実施形態において示された組み合わせに限定されることなく、種々の組み合わせによって実施可能である。
【0063】
(第2実施形態)
図7図8を用いて、第2実施形態の制御装置100に関して説明する。本実施形態の制御装置100は、上記実施形態の制御装置100と同様の構成を備えている。本実施形態は、処理動作が上記実施形態と異なる。図7では、図3と同じ処理に、図3と同じステップ番号を用いている。図8は、図4に相当する図面である。図8では、出力電圧Voutを電流制御に用いない期間にハッチングを施している。
【0064】
CPU10は、電源の供給が開始されると所定周期で図7のフローチャートに示す処理を実行する。また、CPU10は、コイル210に対する電流制御が必要なタイミングで図7のフローチャートに示す処理を実行してもよい。
【0065】
CPU10は、ステップS1でPWMオンか否かを判定する。CPU10は、PWM信号からMOSFET20のオフ期間とオン期間を判定する。CPU10は、PWM信号がPWMオンと判定した場合、MOSFET20のオン期間とみなしてステップS10へ進む。CPU10は、ステップS10で保存した変数X1(モニタした入力電圧Vin)を用いて電流制御を行う。
【0066】
一方、CPU10は、PWM信号がPWMオンと判定しなかった場合、MOSFET20のオン期間とみなさずステップS26へ進む。つまり、CPU10は、PWM信号がPWMオンと判定しなかった場合、ステップS10へ進むことなくステップS26へ進む。
【0067】
よって、図8でハッチングを施した期間に示すように、CPU10は、MOSFET20のオフ期間における入力電圧Vinを用いない。つまり、CPU10は、MOSFET20のオン期間における入力電圧Vinのみを用いて電流制御を行う。
【0068】
上記のように、制御装置100は、オペアンプ42を用いた電流モニタ回路40において、MOSFET20がオフ時に第1端子V1と第2端子V2の電圧が増加し、比例してオペアンプ42の出力誤差が増加する。このため、制御装置100は、出力誤差分が大きいオフ期間の入力電圧Vinを用いることなく電流制御を行う。よって、制御装置100は、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。また、制御装置100は、上記実施形態よりも、CPU10の処理動作を簡素化できる。
【0069】
<変形例>
ここで、図9図10を用いて、第2実施形態の制御装置100の変形例に関して説明する。変形例は、処理動作が第2実施形態と異なる。変形例では、主に第2実施形態と異なる箇所に関して説明する。図9では、図1図3と同じ処理に、図1図3と同じステップ番号を用いている。図10は、図8に相当する図面である。
【0070】
CPU10は、ステップS14で|X1-X2|>Vthであると判定するとオフ期間とみなす。すなわち、図10のD1に示すように、CPU10は、出力電圧Voutの今回値と前回値との差分が閾値Vthを超えた場合にオフ期間と判定する。
【0071】
CPU10は、ステップS14でYES判定するとステップS151へ進む。CPU10は、ステップS151でX2=X1を実行する。CPU10は、ステップS10で保存した変数X1を変数X2に設定する。そして、CPU10は、その変数X2をメモリ11に上書き保存する。これによって、ステップS10で保存した変数X1が前回値となる。
【0072】
CPU10は、ステップS152で入力電圧Vinを再度モニタして変数X1に保存する。CPU10は、変数X1をメモリ11に上書き保存する。
【0073】
CPU10は、ステップS152で|X1-X2|>Vthであるか否かを再度判定する。CPU10は、|X1-X2|>Vthであると判定しないとオフ期間が継続しているとみなしてステップS151へ戻る。
【0074】
また、CPU10は、|X1-X2|>Vthであると判定するとオン期間とみなしてステップS24へ進む。すなわち、図10のD2に示すように、CPU10は、オフ期間と判定した後に、出力電圧Voutの今回値と前回値との差分が閾値Vthを超えた場合にオン期間と判定する。また、CPU10は、オフ期間と判定した後に、差分が閾値Vthを再度超えた場合に、オフ期間からオン期間に切り替わったと判定する、といえる。
【0075】
CPU10は、ステップS153でYES判定すると、ステップS152で保存した変数X1を用いて電流制御を行う。よって、図10でハッチングを施した期間に示すように、CPU10は、MOSFET20のオフ期間における入力電圧Vinを用いない。つまり、CPU10は、MOSFET20のオン期間における入力電圧Vinのみを用いて電流制御を行う。
【0076】
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態が本開示に示されているが、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0077】
10…CPU、11…メモリ、20…MOSFET、30…内部電源、40…電流モニタ回路、41…シャント抵抗、42…オペアンプ、43…第1抵抗、44…第2抵抗、45…第3抵抗、46…第4抵抗、47…第5抵抗、48…第6抵抗、50…端子、100…制御装置、200…水素インジェクタ、300…燃料電池スタック、400…エアコンプレッサ、500…水素タンク、600…バッテリ
図1
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図10