(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127074
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】前庭電気刺激装置および該前庭電気刺激装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240912BHJP
A63J 99/00 20090101ALI20240912BHJP
A63G 31/16 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61N1/36
A63J99/00 Z
A63G31/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035938
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 和輝
(72)【発明者】
【氏名】ラン ケン
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
4C053JJ13
4C053JJ15
4C053JJ40
(57)【要約】
【課題】ユーザに与えられる皮膚痛覚を弱めつつ、疑似的な加速度感覚が小さくなってしまうことを抑制できる。
【解決手段】前庭電気刺激装置は、ユーザの前庭に電気刺激を与える第1電極および第2電極と、第1電極および第2電極に印加する電流の目標値を受け付ける入力部と、第1電極および第2電極に印加する電流を制御する制御回路とを備える。第1電極は、ユーザの頭部の第1領域にN個の第1サブ電極を有する。第2電極は、第1領域と異なる第2領域にN個の第2サブ電極を有する。制御回路は、N組の第1サブ電極および第2サブ電極のそれぞれに印加される電流値の合計が目標値となるように電流値を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの前庭に電気刺激を与える第1電極および第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に印加する電流の目標値を受け付ける入力部と、
前記第1電極および前記第2電極に印加する電流を制御する制御回路とを備え、
前記第1電極は、ユーザの頭部の第1領域にN個(Nは2以上の自然数)の第1サブ電極を有し、
前記第2電極は、前記第1領域と異なる第2領域にN個の第2サブ電極を有し、
前記制御回路は、N組の前記第1サブ電極および前記第2サブ電極のそれぞれに印加される電流値の合計が前記目標値となるように電流値を制御する、前庭電気刺激装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記N組のうち1組の前記第1サブ電極と前記第2サブ電極に印加される電流値が前記目標値をNで除算した数値となるように電流値を制御する、請求項1に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記N組の前記第1サブ電極および前記第2サブ電極のそれぞれに印加される電流値の合計の最大値が予め定められた上限閾値未満となるように制御する、請求項1または請求項2に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記N組の前記第1サブ電極および前記第2電極のうちの1組に印加される電流値が決定されたことに基づいて、前記N組の前記第1サブ電極および前記第2電極のうちの他の組に印加される電流値の各々を決定する、請求項1または請求項2に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項5】
ユーザの頭部に固定される固定具をさらに備え、
前記固定具には、前記第1サブ電極および前記第2サブ電極の各々が取り付けられている、請求項1または請求項2に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項6】
前記第1領域は、ユーザの左側頭部にあり、
前記第2領域は、ユーザの右側頭部にあり、
前記第1サブ電極および前記第2サブ電極は、ユーザの身体を左右に分ける第1線に対して対称に配置される、請求項1または請求項2に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項7】
前記第1領域は、ユーザの左耳の外耳道から5.0cm以内の範囲であり、
前記第2領域は、ユーザの右耳の外耳道から5.0cm以内の範囲である、請求項6に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項8】
前記第1領域は、ユーザの前頭部にあり、
前記第2領域は、ユーザの側頭部にある、請求項1または請求項2に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項9】
前記第1サブ電極および前記第2サブ電極の各々は、有毛部ではない皮膚上に直接配置される、請求項1または請求項2に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項10】
前庭電気刺激装置の制御方法であって、
前記前庭電気刺激装置は、
ユーザの前庭に電気刺激を与える第1電極および第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に印加する電流の目標値を受け付ける入力部と、
前記第1電極および前記第2電極に印加する電流を制御する制御回路とを備え、
前記第1電極は、ユーザの頭部の第1領域にN個(Nは2以上の自然数)の第1サブ電極を有し、
前記第2電極は、前記第1領域と異なる第2領域にN個の第2サブ電極を有し、
前記制御方法は、
前記目標値を受け付けるステップと、
N組の前記第1サブ電極および前記第2サブ電極のそれぞれに印加される電流値の合計が前記目標値となるように電流値を決定するステップとを備える、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前庭電気刺激装置および該前庭電気刺激装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユーザの前庭に電気刺激を与えることによって、ユーザに疑似的な加速度を体験させる前庭電気刺激装置が開発されている。このような前庭電気刺激(GVS:Galvanic Vestibular Stimulation)は、ゲームまたは映画等のアミューズメント分野、自動車運転等の特定の状況下の感覚をユーザに体験させるシミュレーション分野、および動揺病の治療、予防等の医療分野など多種多様な分野への活用が期待されている。
【0003】
特開2006-288623号公報(特許文献1)には、ユーザの両耳の後部に装着した一対の皮膚表面電極に対して電流を印加することにより、ユーザの前庭を刺激する前庭電気刺激装置が記載されている。このような前庭電気刺激装置では、電極に電流を印加することによってユーザに皮膚痛覚を与えてしまうことがある。特許文献1には、目標の電流値に達するまでの時間変化量を一定値以下とすることによって、ユーザに皮膚痛覚を与えることを抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極に印加される電流値の時間変化量を小さくさせたり、電流値自体を小さくしたりすることで皮膚痛覚を弱めることができる一方で、ユーザに与えられる疑似的な加速度感覚も小さくなってしまう場合がある。そのため、ユーザに与えられる皮膚痛覚を弱めつつ、疑似的な加速度感覚が小さくならない前庭電気刺激装置が望まれている。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ユーザに与えられる皮膚痛覚を弱めつつ、疑似的な加速度感覚が小さくなってしまうことを抑制可能な前庭電気刺激装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る前庭電気刺激装置は、ユーザの前庭に電気刺激を与える第1電極および第2電極と、第1電極および第2電極に印加する電流の目標値を受け付ける入力部と、第1電極および第2電極に印加する電流を制御する制御回路とを備える。第1電極は、ユーザの頭部の第1領域にN個の第1サブ電極を有する。第2電極は、第1領域と異なる第2領域にN個の第2サブ電極を有する。制御回路は、N組の第1サブ電極および第2サブ電極のそれぞれに印加される電流値の合計が目標値となるように電流値を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1電極と第2電極とに電流を印加して前庭を刺激する前庭電気刺激装置において、第1電極および第2電極がN個の第1サブ電極およびN個の第2サブ電極をそれぞれ有することで、ユーザに与えられる皮膚痛覚を弱めつつ、疑似的な加速度感覚が小さくなってしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】前庭電気刺激装置を有する実施の形態1の制御システムを示す図である。
【
図2】電極に電流が印加される一例を示す図である。
【
図3】電極に電流が印加される比較例を示す図である。
【
図4】実施の形態1における頭部の左側面を示す図である。
【
図5】実施の形態1における頭部の右側面を示す図である。
【
図6】電極が取り付けられる固定具を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1における前庭電気刺激装置で実行されるフローチャートである。
【
図8】実施の形態2における電極に電流が印加される一例を示す図である。
【
図9】実施の形態2における頭部の左側面を示す図である。
【
図10】実施の形態2における頭部の右側面を示す図である。
【
図11】実施の形態3における電極に電流が印加される第1例を示す図である。
【
図12】実施の形態3における頭部の左側面を示す図である。
【
図13】実施の形態3における頭部の右側面を示す図である。
【
図14】実施の形態3における電極に電流が印加される第2例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
[実施の形態1]
<制御システムの概要>
図1は、前庭電気刺激装置100を有する実施の形態1の制御システム1000を示す図である。実施の形態1の制御システム1000は、ユーザUr1に映像を見せ、映像に合わせた電気刺激をユーザUr1の前庭に与えるシステムである。実施の形態1における制御システム1000は、たとえば、遊園地などのアトラクションまたは映画館などのアミューズメント施設で用いられ得る。制御システム1000では、映像の表示による視覚情報に加えて、ユーザの視覚認識に合わせた加速度感覚をユーザUr1に与えることにより、ユーザUr1の没入感を高めることができる。
【0012】
図1に示されるように、制御システム1000は、前庭電気刺激装置100と、映像装置200と、表示装置S1とを備える。
図1には、電極E1,E2が装着されたユーザUr1が示されている。より具体的には、
図1には、ユーザUr1を上部から見下ろしたときのユーザUr1の頭部H1、左耳Er1、右耳Er2および鼻N1が示されている。すなわち、
図1には、ユーザUr1の頭頂部が示されている。
【0013】
図1において頭部H1の左下近傍に、実空間における3軸方向を表すXYZ軸が示されている。実空間とは、ユーザUr1が存在する現実世界における空間である。この実空間のXYZ軸において「Z軸方向」は、ユーザが配置されている床面の鉛直方向である。
図1に示されるように、Z軸方向に垂直な方向を「Y軸方向」とし、さらにY軸方向およびZ軸方向に垂直な方向を「X軸方向」とする。以下では、Z軸の正方向を上側、Z軸の負方向を下側と称し、Y軸の正方向を前側、Y軸の負方向を後側、X軸の正方向を右側、X軸の負方向を左側と称する場合がある。
図1の例では、ユーザUr1の視線は、Y軸の正方向に向いている。
【0014】
図1に示されている表示装置S1は、ユーザUr1に対して映像を表示する装置である。表示装置S1は、たとえば、映画鑑賞用のスクリーン、液晶ディスプレイ、または有機ELディスプレイなどである。
図1の例では、図示の便宜上、表示装置S1が実空間のZ軸の正方向側に向けて映像を表示しているが、実際はユーザUr1の視線に合わせて映像を表示するため、実空間のY軸の負方向側に向かって映像を表示する。
【0015】
表示装置S1には、走行する車Cr1の後部が表示されている。
図1に示されるように表示装置S1内においてもxyz軸が示されている。表示装置S1内に表示されているxyz軸は、映像内における3軸方向を表す。表示装置S1内のxyz軸は、車Cr1が存在する空間の3軸方向を表す。車Cr1は、y軸の正方向側に向かって直進している。
【0016】
以下では、映像内の3軸方向においても、実空間と同様にz軸の正方向を上側、z軸の負方向を下側と称し、y軸の正方向を前側、y軸の負方向を後側、x軸の正方向を右側、x軸の負方向を左側と称する場合がある。
【0017】
映像装置200は、制御部210と、記憶部220と、出力インターフェース230とを備える。制御部210は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro-Processing Unit)などのプロセッサおよびRAM(Random Access Memory)などのメモリを含んで構成される。なお、制御部210は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードワイヤード回路であってもよい。
【0018】
記憶部220は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリなどの書き換え可能な不揮発性メモリ、磁気ディスク等によって実現される。記憶部220には、
図1に示されている車Cr1を含む映像データが記憶されている。制御部210は、当該映像データに基づいて、表示装置S1に車Cr1を含む映像を表示させる。具体的には、制御部210は、出力インターフェース230を介して表示装置S1に映像データを送信する。
【0019】
記憶部220に記憶されている映像データには、映像内の所定のタイミングに対して電気刺激データが紐付けられている。電気刺激データとは、電流の極性と電流値の目標値とを示す情報である。極性は、電流の流れる方向を意味する。
【0020】
たとえば、映像データには、映像内において車Cr1が停止する期間には電気刺激を与えない、という電気刺激データが紐付けられている。また、映像データには、映像内において車Cr1が急旋回する期間には、所定の極性および目標値でユーザUr1に電気刺激を与える、という電気刺激データが紐付けられている。
【0021】
実施の形態1における映像装置200は、映像データを表示させる期間において、電気刺激を与えるべきタイミングに達したとき、当該電気刺激の電流の極性と電流値の目標値との情報を電気刺激データとして前庭電気刺激装置100に送信する。すなわち、出力インターフェース230は、電気刺激データを前庭電気刺激装置100に出力する。
【0022】
<前庭電気刺激装置の構成>
以下では、前庭電気刺激装置100について説明する。前庭電気刺激装置100は、ユーザUr1の前庭に電気刺激を与えることによって、ユーザUr1に疑似的な加速度感覚を与える装置である。前庭は、三半規管および耳石器内にある卵形嚢、球形嚢中の有毛細胞によって構成されている。三半規管は3軸の回転角加速度を受容し、卵形嚢および球形嚢は直線加速度を受容する。前庭電気刺激装置100では、ユーザUr1の前庭に対して電気刺激を与えることにより加速度感覚を与えることができる。前庭に流れる電流値が大きいとユーザUr1が知覚する加速度感覚の大きさは大きくなり、前庭に流れる電流値が小さいとユーザUr1が知覚する加速度感覚の大きさは小さくなる。
【0023】
前庭電気刺激装置100は、制御回路110、出力インターフェース130、入力インターフェース140、および電極E1,E2を備える。制御回路110は、たとえば、ASIC、FPGAなどのハードワイヤード回路である。なお、制御回路110は、たとえば、CPU等のまたはMPUなどのプロセッサ、およびRAM等のメモリを含んで構成されてもよい。
【0024】
前庭電気刺激装置100には、入力インターフェース140を介して電気刺激データが入力される。制御回路110は、入力された電気刺激データを用いて、電極E1,E2に電流を印加する。上述したように、電気刺激データには、電流の極性と、電気値の目標値を示す情報が含まれている。前庭電気刺激装置100は、出力インターフェース130を介して、電極E1,E2に対して電気刺激データに基づく電流を印加する。なお、入力インターフェース140は、本開示における「入力部」に対応し得る。
【0025】
図1に示されるように、電極E1,E2の各々は、N個以上(Nは2以上の自然数)のサブ電極を含む。これにより、サブ電極とユーザUr1の皮膚との接触面積あたりにおける電流値を小さくすることができる。実施の形態1において、Nは2である。
図1に示されるように、電極E1は、サブ電極E11とサブ電極E12とを有する。電極E2は、サブ電極E21とサブ電極E22とを有する。
【0026】
なお、電極E1、電極E2は、本開示における「第1電極」、「第2電極」にそれぞれ対応し得る。サブ電極E11とサブ電極E12とは、本開示における「N個の第1サブ電極」に対応し、サブ電極E21とサブ電極E22とは、本開示における「N個の第2サブ電極」に対応し得る。
【0027】
図1に示されるように、サブ電極E11は、ユーザUr1の左耳Er1の後ろ側に装着されている。サブ電極E12は、ユーザUr1の左耳Er1の前側に装着されている。サブ電極E21は、ユーザUr1の右耳Er2の後ろ側に装着されている。サブ電極E22は、ユーザUr1の右耳Er2の前側に装着されている。
【0028】
サブ電極E11,E21は、左側の乳様突起および右側の乳様突起とそれぞれ接するように配置されている。サブ電極E11,E12,E21,E22は、ユーザUr1の皮膚に直接触れるように配置される。サブ電極E11,E12,E21,E22の各々は、ユーザUr1の有毛部ではない皮膚上に直接配置されることが望ましい。
図2の例では、サブ電極E11,E12,E21,E22の各々がユーザUr1の皮膚と接触する面積は、全て同一の面積である。すなわち、サブ電極E11,E12,E21,E22の各々は同一のサイズを有する。
【0029】
なお、サブ電極E11,E12,E21,E22の各々がユーザUr1の皮膚と接触する面積は、同一でなくてもよく、異なっていてもよい。この場合、サブ電極E11,E12,E21,E22の各々は、互いに異なるサイズを有する。たとえば、サブ電極E11,E12,E21,E22の各々は、頭部H1上において貼り付けられる位置が予め定められており、当該予め定められた位置に応じて、サブ電極E11,E12,E21,E22のサイズが決められてもよい。たとえば、乳様突起に貼り付けられるサブ電極は、乳様突起に貼り付けやすいサイズ、形状を有していてもよい。対称的に装着されるサブ電極E12およびサブ電極E22のサイズは同一であり、サブ電極E11およびサブ電極E21のサイズが同一であり得る。
【0030】
前庭電気刺激装置100から電流が印加されることによって、電極E1と電極E2との間に電流が流れる。より具体的には、サブ電極E11とサブ電極E21との間に電流が流れる。また、サブ電極E12とサブ電極E22との間に電流が流れる。
【0031】
図2は、電極E1,E2に電流が印加される一例を示す図である。
図2では、y軸の正方向側に直進する車Cr1が右方向Dr1(x軸の正方向)に急旋回する映像をユーザUr1に表示することに合わせて、疑似的なロール方向の加速度Ac1の感覚をユーザに与える例を説明する。
【0032】
図2に示されるように、電気刺激によって、疑似的なロール方向の加速度Ac1がユーザUr1に与えられる。これにより、ユーザUr1は、ロール方向に右回転するような感覚を有する。
図2の例では、電極E2(サブ電極E21,E22)を陽極とする極性で、目標値が1.0mAである電気刺激データが映像装置200から前庭電気刺激装置100へと送信された場合の例を説明する。
【0033】
図2の例において、前庭電気刺激装置100は、受信した電気刺激データに含まれる極性に基づき、電極E2(サブ電極E21,E22)を陽極とし、電極E1(サブ電極E11,E12)を陰極として電流を印加する。すなわち、電流は、ユーザUr1の頭部H1の右側(X軸の正方向)から左側(X軸の負方向)へ向かって流れる。
【0034】
これにより、前庭電気刺激装置100は、疑似的なロール方向の加速度Ac1が生じたような感覚をユーザUr1に与えることができる。
図2の例では、前庭電気刺激装置100は、ユーザUr1のロール方向に疑似的な加速度を与えている。
【0035】
このようにユーザUr1の前庭に電気刺激を与えることによって、ユーザUr1は、車Cr1が右方向Dr1に急旋回するという視覚情報に合わせた加速度Ac1を知覚することができる。制御システム1000では、映像に合わせた疑似的な加速度感覚をユーザUr1に与えることで、映像だけを視聴させる場合と比較して、ユーザUr1の映像への没入感を高めることができる。
【0036】
このとき、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E11およびサブ電極E21に印加する電流値と、サブ電極E21およびサブ電極E22に印加する電流値との合計が目標値(1.0mA)となるように電極E1および電極E2に電流を印加する。各電流は、ユーザUr1の外耳道を通過して電極E2から電極E1へと流れ、ユーザUr1の前庭を刺激する。
【0037】
より具体的には、実施の形態1では、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E11とサブ電極E21との間に0.5mAの電流を印加し、サブ電極E12とサブ電極E22との間にも0.5mAの電流を印加する。すなわち、実施の形態1の例では、目標値の電流が2つに分散されて、ユーザUr1の前庭に電気刺激を与えている。
【0038】
図3は、電極E1Z,E2Zに電流が印加される比較例を示す図である。
図3の比較例では、一対の電極E1Z,E2Zだけが備えられている。
図3の比較例においても、
図2の例と同様の電気刺激データが映像装置200から前庭電気刺激装置100へと送信されている。すなわち、
図3の比較例における電気刺激データは、電極E2Zを陽極とする極性であり、目標値が1.0mAであるという情報を含む。
【0039】
比較例の前庭電気刺激装置は、電極E1Zと電極E2Zとの間に流れる電流値が目標値(1.0mA)となるように電流を印加する。すなわち、比較例では、一対の電極E1Z,E2Zに対して集中的に電流が印加される。電極E1Z,E2Zは、
図2にて説明したサブ電極E12,E12,E22,E22と同じ接触面積でユーザUr1の皮膚と接触する。すなわち、電極E1Z,E2Zのサイズは、
図2にて説明したサブ電極E12,E12,E22,E22と同じサイズである。このため、比較例では、接触面積あたりにおける電流値が大きくなり、電荷集中による皮膚痛覚が生じやすくなる。
【0040】
一方で、実施の形態1の前庭電気刺激装置100は、電極E1および電極E2の各々がN個のサブ電極を有している。実施の形態1では、ユーザUr1の皮膚と1つの電極との間に流れる電流値を分散でき、皮膚とサブ電極との接触面積あたりにおける電流値を抑制することができる。すなわち、実施の形態1では、皮膚痛覚の発生を抑制できる。
【0041】
また、実施の形態1では、サブ電極E11,E21の間の電流値とサブ電極E21,E22の間の電流値との合計が目標値であるため、ユーザUr1の前庭に印加される電流値は、比較例において前庭に印加される電流値と同様の値となり、ユーザUr1に与えられる疑似的な加速度感覚が小さくなってしまうことも抑制できる。
【0042】
安全上の観点から、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E11,E12とサブ電極E21,E22との間にそれぞれ流れる電流値の合計の最大値が予め定められた上限閾値となるように構成されている。予め定められた上限閾値は、たとえば、5.0mAであって、前庭電気刺激装置100の製造時に決定され得る。これにより、実施の形態1ではユーザUr1の頭部H1に過度な電流が流れてしまうことを抑制できる。
【0043】
また、実施の形態1の例では、目標値(1.0mA)を電極対の数(N)で除算した電流値(0.5mA)を、各サブ電極による電極対に印加している。すなわち、前庭電気刺激装置100は、目標値の電流を均等に各電極対に印加している。さらに換言すれば、分流比は1:1である。目標値の電流を均等に分散させることによって、ユーザUr1の皮膚と電極との接触面積あたりの電流値の最大値を低減できるため、皮膚痛覚の発生を抑制できる。
【0044】
なお、前庭電気刺激装置100は、目標値の電流を均等に分散させずに分流比を変更してもよい。目標値の電流を均等に分散させる場合、サブ電極の配置によっては前庭に十分に電流が印加されない場合がある。たとえば、サブ電極E22と右耳Er2との距離が、サブ電極E21と右耳Er2との距離よりも長い場合、サブ電極E22に印加される電流は、サブ電極E21に印加される電流よりも前庭を通過しづらくなる場合がある。そのため、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E22に印加する電流の分流比を高くしてもよい。
【0045】
前庭電気刺激装置100は、たとえば、サブ電極E22とサブ電極E12との間に0.7mAの電流が流れるように印加し、サブ電極E21とサブ電極E11との間に0.3mAの電流が流れるように印加してもよい。サブ電極E22とサブ電極E12との間に流れる電流値と、サブ電極E21とサブ電極E11との間に流れる電流値の合計値が目標値となれば、1:1以外の比率に変更してもよい。
【0046】
たとえば、前庭電気刺激装置100では、サブ電極E21とサブ電極E11とに印加する電流値と、サブ電極E22とサブ電極E12とに印加する電流値との分流比が予め定められている。たとえば、分流比が1:4であることが定められており、目標値として5.0mAが入力されたとき、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E21とサブ電極E11とに印加する電流値を1.0mAに決定する。その後、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E22とサブ電極E12とに印加する電流値を4.0mAに決定する。このように、前庭電気刺激装置100は、1組の電極間に印加する電流値を決定し、その後、もう一方に印加する電流値を決定する。
【0047】
また、電気刺激データには、目標値に加えて、特定の電極間に流す電流値の情報が含まれていてもよい。たとえば、電気刺激データは、目標値が3.0mAであって、サブ電極E21とサブ電極E11とには1.0mAの電流を印加するという情報が含まれ得る。この場合、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E22とサブ電極E12との間に2.0mAの電流を印加することを決定する。
【0048】
<サブ電極の配置について>
図4は、実施の形態1における頭部H1の左側面を示す図である。以下では、
図4を用いて、サブ電極E11とサブ電極E12との配置について説明する。
図4には、サブ電極E11とサブ電極E12と左耳Er1とが示されている。
【0049】
サブ電極E11およびサブ電極E12は、領域Rg1の範囲内に装着される。領域Rg1は、ユーザUr1の左側頭部にあり、左耳Er1を基準として定められる範囲である。より具体的には、領域Rg1は、ユーザUr1が一般的な成人男性である場合、左耳Er1の外耳道He1から5.0cm以内の範囲となる。すなわち、
図4に示される長さD1は、5.0cmである。なお、領域Rg1の大きさは、ユーザUr1の年齢、性別、および頭部H1の大きさによって変化し得る。
【0050】
実施の形態1におけるサブ電極E11,E12は、正方形の矩形形状を有する。すなわち、サブ電極E11およびサブ電極E12の各々がユーザUr1の皮膚と接触する面積の形状は、矩形形状となる。
図4に示されるサブ電極E11の一辺の長さD2は、たとえば、5mm以上であって50mm未満の長さである。なお、ある局面では、サブ電極E11,E12の形状は、正方形ではない矩形形状および三角形などを含む多角形形状、円形状、および楕円形状のいずれかであってもよい。円形状である場合、直径の長さは、5mm以上であって50mm未満であることが望ましい。
【0051】
サブ電極E11の端部とサブ電極E12の端部との間の距離は、長さD3である。長さD3は5mm以上であって100mm未満であることが望ましい。領域Rg1は、本開示における「第1領域」に対応し得る。
【0052】
図5は、実施の形態1における頭部H1の右側面を示す図である。以下では、
図5を用いて、サブ電極E21とサブ電極E22との配置について説明する。
図5には、サブ電極E21とサブ電極E22と右耳Er2とが示されている。
【0053】
サブ電極E21およびサブ電極E22は、領域Rg2の範囲内に装着される。領域Rg2は、ユーザUr1の右側頭部にあり、ユーザUr1の右耳Er2を基準として定められる範囲である。より具体的には、領域Rg2は、ユーザUr1が一般的な成人男性である場合、右耳Er2の外耳道He2から5.0cm以内の範囲となる。すなわち、領域Rg2は、領域Rg1と同様の大きさを有する。
【0054】
サブ電極E21,E22は、上述したサブ電極E11,E12と同様の形状を有する。すなわち、実施の形態1においてサブ電極E21,E22は、サブ電極E11,E12と同様に矩形形状を有する。なお、サブ電極E21,E22の配置について、領域Rg2の範囲内にサブ電極E21,E22の一部分が配置されていればよい。領域Rg2は、本開示における「第2領域」に対応し得る。
【0055】
図2に戻り、サブ電極E11とサブ電極E21とは、線Ln1に対して対称に配置されている。また、サブ電極E12とサブ電極E22とは、線Ln1に対して対称に配置されている。線Ln1は、ユーザUr1の身体を左右に分ける線であって、鼻N1を通過する線である。すなわち、サブ電極E11,E12とサブ電極E21,22とは、頭部H1において左右対称となる位置にそれぞれ装着されている。なお、線Ln1は、本開示における「第1線」に対応し得る。サブ電極E11,E12,E21,E22の配置は、髪の毛、髭などの有毛部ではない箇所に配置されることが望ましい。
【0056】
図2、
図3、
図4で説明したように、実施の形態1のサブ電極E11,E12とサブ電極E21,22とは、電流が通過する外耳道He1,He2の周囲であって、かつ、頭部H1において左右対称となる位置に装着されている。このようにサブ電極E11,E12とサブ電極E21,22とが配置されることによって、実施の形態1の前庭電気刺激装置100では、サブ電極E11とサブ電極E21との間、およびサブ電極E12とサブ電極E22との間の各々に電流を印加する。
【0057】
上述したように、前庭電気刺激装置100によって印加される電流は、ユーザUr1の外耳道He1,He2を通過して流れることにより、ユーザUr1の前庭を刺激する。
図4、
図5に示されるように、各サブ電極が外耳道の周囲に装着されていることによって、実施の形態1の前庭電気刺激装置100では、印加される電流が外耳道を通過することを促すことができる。
【0058】
また、仮にサブ電極E11,E12,E21,E22の位置が頭部H1において対称的に装着されない場合、ユーザUr1の右側の前庭に印加される電流値と左側の前庭に印加される電流値との差が大きくなる場合がある。実施の形態1の前庭電気刺激装置100では、頭部H1において左右対称にサブ電極を配置することにより、ユーザUr1の右の前庭と左の前庭の各々に印加される電流値の差を小さくする。なお、上述では、各電極が線対称に配置される例を説明したが、
図2に示される頭部H1内の点P1を中心として点対称に配置されてもよい。
【0059】
図1~
図5の例では、ユーザUr1に表示装置S1が表示される例について説明したが、表示装置S1はスクリーンに限られず、表示装置S1は、たとえば、VR用のゴーグルを用いて実現されてもよい。以下では、表示装置S1がVR用のゴーグルによって実現される場合であって当該VR用のゴーグル自体に電極が取り付けられる例を説明する。
【0060】
図6は、電極が取り付けられる固定具を説明するための図である。
図6には、ゴーグルVG1が示されている。ゴーグルVG1は、いわゆるヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mounted Display)であって、支持部Ef1,Ef2と、表示装置S1とを含む。ユーザUr1は、支持部Ef1を左耳に装着し、支持部Ef2を右耳に装着し、表示装置S1が両目を覆い被さるように、ゴーグルVG1を頭部H1に固定する。
【0061】
図6に示されているように、サブ電極E11,E12は、
図4に示される位置でユーザUr1の皮膚と接触するように支持部Ef1に取り付けられている。同様に、サブ電極E21,E22は、
図5に示される位置でユーザUr1の皮膚と接触するように支持部Ef2に取り付けられている。ゴーグルVG1は、本開示における「固定具」に対応し得る。
【0062】
なお、サブ電極E11,E12,E21,E22が取り付けられる固定具は、VRゴーグル以外の固定具であってもよく、たとえば、表示装置S1を備えないイヤーマフであってもよい。この場合、表示装置S1は、
図1にて説明したスクリーンとしてが設けられ得る。また、サブ電極E11,E12,E21,E22が取り付けられる固定具は、レンズを有するメガネであってもよい。また、サブ電極E11,E12,E21,E22は、固定具に取り付けられなくともよい。たとえば、サブ電極E11,E12,E21,E22はゲルなどの粘着力を有する接着部材を有し、当該接着部材によってユーザUr1の皮膚に接着されてもよいし、粘着テープ等によってユーザUr1の皮膚に貼り付けられてもよい。
【0063】
実施の形態1の前庭電気刺激装置100では、ユーザUr1の頭部H1に固定される固定具に各サブ電極が予め取り付けられることによって、各サブ電極をユーザUr1に取り付ける作業を簡便にすることができる。
【0064】
図6に示されるようなゴーグルVG1は、内部に前庭電気刺激装置100、映像装置200、表示装置S1の全てを含み得る。この場合、前庭電気刺激装置100は、たとえば、ユーザUr1によって操作されるゲーム用のコントローラに入力された情報に基づいて、前庭に印加する電流の態様を定める。すなわち、前庭電気刺激装置100の入力インターフェース140は、ゲーム用のコントローラに入力された情報を目標値として受け付け、各電極に印加する電流値を決定する。なお、ゲーム用のコントローラに入力された操作情報を目標値へと変換する処理は、ゲーム用のコントローラ内または当該ゲームを制御する制御機器内で行われてもよいし、前庭電気刺激装置100内で行われてもよい。
【0065】
<制御フロー>
図7は、実施の形態1における前庭電気刺激装置100で実行されるフローチャートである。前庭電気刺激装置100は、電気刺激データを映像装置200から受け付けたか否かを判断する(ステップS100)。電気刺激データを受け付けていない場合(ステップS100でNO)、前庭電気刺激装置100は、ステップS100の処理を繰り返す。
【0066】
電気刺激データを受け付けた場合(ステップS100でYES)、前庭電気刺激装置100は、受け付けた電気刺激データに含まれている目標値に基づいて、電流値I1と電流値I2とを決定する(ステップS110)。電流値I1は、サブ電極E11およびサブ電極E21に印加する電流値である。電流値I2は、サブ電極E12およびサブ電極E22に印加する電流値である。
【0067】
実施の形態1では、目標値をN(=2)で除することによって、電流値I1と電流値I2とを決定する。前庭電気刺激装置100は、電流値I1の電流をサブ電極E11とサブ電極E21との間に印加し、電流値I2の電流をサブ電極E12とサブ電極E22との間に印加する(ステップS120)。
【0068】
[実施の形態2]
実施の形態1においては、電極E1,E2の各々が2個のサブ電極を有する構成について説明した。実施の形態2では、電極E1,E2の各々が5個のサブ電極を有する構成について説明する。なお、実施の形態2において、実施の形態1の前庭電気刺激装置100と重複する構成の説明は繰り返さない。
【0069】
図8は、実施の形態2における電極E1,E2に電流が印加される一例を示す図である。実施の形態2の電極E1は、5つのサブ電極E11~E15を有する。実施の形態2の電極E2は、5つのサブ電極E21~E25を有する。
図8において、サブ電極E11~E15と、サブ電極E21~E25との各々の図示は簡略化されている。実施の形態2の例では、サブ電極E11~E15、E21~E25の各々がユーザUr1の皮膚と接触する面積は、全て同一の面積であって、実施の形態1のサブ電極E11と同一のサイズを有する。なお、サブ電極E11~E15、E21~E25の各々がユーザUr1の皮膚と接触する面積は、全て同一でなくてもよく、異なっていてもよい。この場合、サブ電極E11~E15、E21~E25の各々は、互いに異なるサイズを有する。
【0070】
図9は、実施の形態2における頭部H1の左側面を示す図である。
図9に示されているように、サブ電極E11~E15の全ては、領域Rg1内に配置されている。
図10は、実施の形態2における頭部H1の右側面を示す図である。
図10に示されているように、サブ電極E21~E25の全ては、領域Rg2内に配置されている。
【0071】
実施の形態2において、サブ電極E11~E15とサブ電極E21~E25とは、線Ln1に対して対称に配置されている。すなわち、サブ電極E11~E15とサブ電極E21~E25とは、頭部H1において左右対称となる位置にそれぞれ装着されている。これにより、実施の形態2の前庭電気刺激装置100においても、サブ電極E11~E15とサブ電極E21~E25との間にそれぞれの電流を印加することができる。
【0072】
また、サブ電極E11~E15は、領域Rg1の範囲内に配置されており、サブ電極E21~E25は、領域Rg2の範囲内に配置されている。これにより、実施の形態2の前庭電気刺激装置100においても、印加される電流が外耳道を通過することを促すことができる。
【0073】
実施の形態2においても、前庭電気刺激装置100は、映像装置200から目標値が1.0mAである電気刺激データを受け付ける。実施の形態2では、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E11とサブ電極E21との間、サブ電極E12とサブ電極E22との間、サブ電極E13とサブ電極E23との間、サブ電極E14とサブ電極E24との間、サブ電極E15とサブ電極E25との間の各々に0.2mAの電流を印加する。
【0074】
つまり、前庭電気刺激装置100はサブ電極E11とサブ電極E21との間に0.2mAの電流を印加する。前庭電気刺激装置100はサブ電極E12とサブ電極E22との間に0.2mAの電流を印加する。前庭電気刺激装置100はサブ電極E13とサブ電極E23との間に0.2mAの電流を印加する。前庭電気刺激装置100はサブ電極E14とサブ電極E24との間に0.2mAの電流を印加する。前庭電気刺激装置100はサブ電極E15とサブ電極E25との間に0.2mAの電流を印加する。
【0075】
すなわち、実施の形態2の例では、目標値の電流が5つに分散され、ユーザUr1の前庭に電気刺激を与えている。実施の形態2においても、目標値の電流を分散させることによって、ユーザUr1の皮膚上に集中的に流れる電流値の最大値が低減されるため、皮膚痛覚の発生が抑制される。また、実施の形態2では、実施の形態1よりも、接触面積あたりにおける電流値の大きさをさらに低減することができる。
【0076】
なお、本実施の形態において、電極E1,E2の各々が有するサブ電極の個数(N)は、2個または5個に限られず、3個、10個、50個などの他の数であってもよい。実施の形態2に示されるように、各サブ電極間に印加される電流値は、0.5mAより小さい電流であってユーザUr1が知覚できない不感電流であってもよい。
【0077】
[実施の形態3]
実施の形態1,2においては、右耳Er2付近に配置された電極と、左耳Er1付近に配置された電極との間で電流を流してロール方向の疑似的な加速度を与える構成について説明した。実施の形態3では、ピッチ方向およびヨー方向の疑似的な加速度をユーザUr1に与える構成について説明する。なお、実施の形態3において、実施の形態1,2の前庭電気刺激装置100と重複する構成の説明は繰り返さない。
【0078】
図11は、実施の形態3における電極E1L,E1R,E2L,E2Rに電流が印加される第1例を示す図である。実施の形態3には、右耳から右眼窩を通過することで右の前庭を刺激する電流と、左耳から左眼窩を通過することで左の前庭を刺激する電流との2つの電流を流す例を説明する。
【0079】
左耳から左眼窩を通過する電流は、電極E1Lと電極E2Lとの間を流れる。電極E1Lは、サブ電極E11,E12を有する。電極E2Lは、サブ電極E21,E22を有する。右耳から右眼窩を通過する電流は、電極E1Rと電極E2Rとの間を流れる。電極E1Rは、サブ電極E13,E14を有する。電極E2Rは、サブ電極E23,E24を有する。
【0080】
図11に示されているように、サブ電極E11,E12は、左耳Er1の後方に装着されている。サブ電極E13,E14は、右耳Er2の後方に装着されている。すなわち、サブ電極E11~E14は、ユーザUr1の頭部H1における側頭部に配置されている。サブ電極E21,E22は、左眼窩部の上部に装着されている。サブ電極E23,E24は、右眼窩部の上部に装着されている。すなわち、サブ電極E21~E24は、ユーザUr1の頭部H1における前頭部に配置されている。
【0081】
実施の形態3において前庭電気刺激装置100は、サブ電極E11とサブ電極E21との間に電流を印加する。前庭電気刺激装置100は、サブ電極E12とサブ電極E22との間に電流を印加する。前庭電気刺激装置100は、サブ電極E13とサブ電極E23との間に電流を印加する。前庭電気刺激装置100は、サブ電極E14とサブ電極E24との間に電流を印加する。
【0082】
実施の形態3において、前庭電気刺激装置100は、サブ電極E11,E12,E13,E14が陽極となるように電流を印加する。このような方向で電流を印加することで、前庭電気刺激装置100は、疑似的なピッチ方向の加速度Ac2が生じたような感覚をユーザUr1に与えることができる。
【0083】
前庭電気刺激装置100は、サブ電極E21,E22,E23,E24が陽極となるように電流を印加することにより、加速度Ac2と逆向きのピッチ方向における疑似的な加速度をユーザUr1に与えることができる。
【0084】
図12は、実施の形態3における頭部H1の左側面を示す図である。以下では、
図12に示されているように、サブ電極E11,E12は、左耳Er1の後ろ側に配置されている。サブ電極E11,E12は、
図4にて示した領域Rg1の範囲内に配置されている。
【0085】
図12に示されるように、サブ電極E21,E22は、ユーザUr1の左眼窩の近傍に配置されている。サブ電極E21,E22は、左眼球を基準とした範囲に配置されており、たとえば、サブ電極E21,E22と左眼球との間の距離が5.0cm以内となる位置に配置されている。サブ電極E21は、サブ電極E22よりもX軸の負方向側に配置されている。
【0086】
図13は、実施の形態3における頭部H1の右側面を示す図である。以下では、
図13に示されているように、サブ電極E13,E14は、右耳Er2の後ろ側に配置されている。サブ電極E13,E14は、
図5にて示した領域Rg2の範囲内に配置されている。
【0087】
図13に示されるように、サブ電極E23,E24は、ユーザUr1の右眼窩の近傍に配置されている。サブ電極E23,E24は、右眼球を基準とした範囲に配置されており、たとえば、サブ電極E23,E24と右眼球との間の距離が5.0cm以内となる位置に配置されている。サブ電極E23は、サブ電極E24よりもX軸の正方向側に配置されている。サブ電極E11,E12,E21,E22とサブ電極E13,E14,E23,E24とは、頭部H1において左右対称となる位置にそれぞれ装着されている。
【0088】
図14は、実施の形態3における電極E1L,E1R,E2L,E2Rに電流が印加される第2例を示す図である。
図13ではピッチ方向の加速度感覚をユーザに与える例を説明した。以下では、
図14を用いて、ヨー方向の加速度感覚をユーザに与える例を説明する。
【0089】
前庭電気刺激装置100は、サブ電極E11,E12,E23,E24が陽極となるように電流を印加する。このような方向で電流を印加することで、前庭電気刺激装置100は、疑似的なヨー方向の加速度Ac3が生じたような感覚をユーザUr1に与えることができる。
【0090】
具体的には、ユーザUr1は、頭部H1が左回転するような感覚を有する。前庭電気刺激装置100は、サブ電極E21,E22,E13,E14が陽極となるように電流を印加することにより、加速度Ac3と逆向きのヨー方向における疑似的な加速度をユーザUr1に与えることができる。この場合、ユーザUr1は、頭部H1が右回転するような感覚を有する。
【0091】
実施の形態3においても、電極E1L,E1R,E2L,E2Rの各々は、2個のサブ電極を有する。これにより、実施の形態3においても、目標値の電流を分散させ、ユーザUr1の皮膚上に集中的に流れる電流値の最大値を抑制でき、皮膚痛覚の発生を抑制できる。
【0092】
<付記1>
ユーザの前庭に電気刺激を与える第1電極および第2電極と、
第1電極および第2電極に印加する電流の目標値を受け付ける入力部と、
第1電極および第2電極に印加する電流を制御する制御回路とを備え、
第1電極は、ユーザの頭部の第1領域にN個(Nは2以上の自然数)の第1サブ電極を有し、
第2電極は、第1領域と異なる第2領域にN個の第2サブ電極を有し、
制御回路は、N組の第1サブ電極および第2サブ電極のそれぞれに印加される電流値の合計が目標値となるように電流値を制御する、前庭電気刺激装置。
【0093】
<付記2>
制御回路は、N組のうち1組の第1サブ電極と第2サブ電極に印加される電流値が目標値をNで除算した数値となるように電流値を制御する、付記1に記載の前庭電気刺激装置。
【0094】
<付記3>
制御回路は、N組の第1サブ電極および第2サブ電極のそれぞれに印加される電流値の合計の最大値が予め定められた上限閾値未満となるように制御する、付記1または付記2に記載の前庭電気刺激装置。
【0095】
<付記4>
制御回路は、N組の第1サブ電極および第2電極のうちの1組に印加される電流値が決定されたことに基づいて、N組の第1サブ電極および第2電極のうちの他の組に印加される電流値の各々を決定する、付記1~付記3のいずれかに記載の前庭電気刺激装置。
【0096】
<付記5>
ユーザの頭部に固定される固定具をさらに備え、
固定具には、第1サブ電極および第2サブ電極の各々が取り付けられている、付記1~付記4のいずれかに記載の前庭電気刺激装置。
【0097】
<付記6>
第1領域は、ユーザの左側頭部にあり、
第2領域は、ユーザの右側頭部にあり、
第1サブ電極および第2サブ電極は、ユーザの身体を左右に分ける第1線に対して対称に配置される、付記1~付記5のいずれかに記載の前庭電気刺激装置。
【0098】
<付記7>
第1領域は、ユーザの左耳の外耳道から5.0cm以内の範囲であり、
第2領域は、ユーザの右耳の外耳道から5.0cm以内の範囲である、付記6に記載の前庭電気刺激装置。
【0099】
<付記8>
第1領域は、ユーザの前頭部にあり、
第2領域は、ユーザの側頭部にある、付記1~付記5のいずれかに記載の前庭電気刺激装置。
【0100】
<付記9>
第1サブ電極および第2サブ電極の各々は、有毛部ではない皮膚上に直接配置される、付記1~付記8のいずれかに記載の前庭電気刺激装置。
【0101】
<付記10>
前庭電気刺激装置の制御方法であって、
前庭電気刺激装置は、
ユーザの前庭に電気刺激を与える第1電極および第2電極と、
第1電極および第2電極に印加する電流の目標値を受け付ける入力部と、
第1電極および第2電極に印加する電流を制御する制御回路とを備え、
第1電極は、ユーザの頭部の第1領域にN個(Nは2以上の自然数)の第1サブ電極を有し、
第2電極は、第1領域と異なる第2領域にN個の第2サブ電極を有し、
制御方法は、
目標値を受け付けるステップと、
N組の第1サブ電極および第2サブ電極のそれぞれに印加される電流値の合計が目標値となるように電流値を決定するステップとを備える、制御方法。
【0102】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0103】
E1,E2,E1L,E1R,E2L,E2R 電極、E11~E15,E21~E25 サブ電極、100 前庭電気刺激装置、110 制御回路、130,230 出力インターフェース、140 入力インターフェース、200 映像装置、210 制御部、220 記憶部、1000 制御システム、Ac1~Ac3 加速度、Cr1 車、D1~D3 長さ、Dr1 右方向、Ef1,Ef2 支持部、Er1 左耳、Er2 右耳、H1 頭部、He1,He2 外耳道、I1,I2 電流値、Ln1 線、N1 鼻、Rg1,Rg2 領域、S1 表示装置、Ur1 ユーザ、VG1 ゴーグル。